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特許7286892樹脂皮膜及びそれを積層してなる繊維布帛及び繊維製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】樹脂皮膜及びそれを積層してなる繊維布帛及び繊維製品
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/564 20060101AFI20230530BHJP
   D06M 13/395 20060101ALI20230530BHJP
   D06M 15/53 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
D06M15/564
D06M13/395
D06M15/53
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018189495
(22)【出願日】2018-10-04
(65)【公開番号】P2020059928
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】391034938
【氏名又は名称】大原パラヂウム化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】脇浩一
(72)【発明者】
【氏名】今井和也
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-201675(JP,A)
【文献】特開2005-154947(JP,A)
【文献】特開2007-332482(JP,A)
【文献】特開2008-188808(JP,A)
【文献】特開2002-194679(JP,A)
【文献】特開2009-235639(JP,A)
【文献】国際公開第2016/052189(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 15/564
D06M 13/395
D06M 15/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性基を含む架橋剤(A)及び水分散樹脂(B)の固形分比が(A):(B)=2:1~1:5であることを特徴とする樹脂皮膜及びそれを積層してなる繊維布帛及び繊維製品。(1)親水性基を含む架橋剤(A)は、固形分中のエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド、もしくはエチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドを10~93%含有し、エチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドの分子量が3000以下である。
(2)水分散樹脂(B)は、固形分中のエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド、もしくはエチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドを5~40%含有し、エチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドの分子量が3000以下である。
【請求項2】
請求項1に記載の親水性基を含む架橋剤(A)の、架橋部位がグリシジル基、またはイソシアネート基であり、さらにその架橋部位の付加数が2以上である架橋剤。
【請求項3】
請求項1~に記載の樹脂皮膜を10g/m2以上で積層してなる繊維布帛及び繊維製品の耐水性が300mmH2O以上かつ、透湿性(A-1法)で2000g/(m2・24h)以上かつ、透湿性(B-1法)で10000g/(m2・24h)以上の性能が得られる樹脂皮膜及びそれを積層してなる繊維布帛及び繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性基を含む架橋剤及び水分散樹脂からなる、耐水性と透湿性を兼ね備えた樹脂皮膜及びそれを積層してなる繊維布帛及び繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水系もしくは溶剤系の樹脂は、機械的強度及び弾性を有することからコーティング材、成形材料、塗料、光学フィルムなど、様々な分野で応用されている。
【0003】
樹脂皮膜は耐水性、伸縮性などの機能があるが、樹脂皮膜を積層した繊維布帛は透湿性に劣るという欠点があり、この欠点を解決する手法として、樹脂皮膜を積層後に、湿式法により多孔質化させる方法が提案されている(特許文献1、2、3)。ここで湿式法とは、溶剤系では水中で溶剤を溶出し、水系では水中で水溶性物質を溶出する方法である。しかしながら溶剤系の場合、排水及び排気時に溶剤を排出する為、有機溶剤の排水及び排気設備の整った工場で行わなければならない。また水系に関しては、水溶性物質を溶出する為の洗浄工程が必要になる。溶剤系及び水系共に設備投資、加工工程の追加により高コストになる問題がある。
【0004】
低コストの水系のコーティング方法としては、洗浄工程の無い、乾式コーティングのみでできる、親水性ウレタン樹脂が提案されている(特許文献4)。しかしながら、親水性ウレタン樹脂は水を含み、皮膜が膨潤することで強度が弱くなり、洗濯で剥離する問題がある為、洗濯耐久性が必要とされる繊維布帛及び繊維製品への実用性が困難であった。
【0005】
そこで通常のコーティング設備で、環境に対して問題が無い、水系の透湿防水技術ならびに、該技術で製造した繊維布帛及び繊維製品が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-30863
【文献】特開2008-81877
【文献】特開2010-215918
【文献】特開2005-264152
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は現状に鑑み、耐水性と透湿性を兼ね備えた親水性基を含む架橋剤(A)及び水分散樹脂(B)からなる樹脂皮膜及びそれを積層してなる繊維布帛及び繊維製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、親水性基を含む架橋剤(A)及び水分散樹脂(B)を用いることにより上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。上記課題を解決する為に、本発明は以下の構成を採用した。親水性基を含む架橋剤(A)及び水分散樹脂(B)からなる樹脂皮膜の固形分比が(A):(B)=2:1~1:5であり、それを積層してなる繊維布帛及び繊維製品である。
【0009】
以下、「質量%」は「%」、「質量部」は「部」と表記する。
【0010】
親水性基を含む架橋剤(A)は、ポリエチレンオキサイド(以下、「EO」と表記する)及びポリプロピレンオキサイド(以下、「PO」と表記する)、もしくはEOまたはPOを10~93%含有し、架橋部位がグリシジル基、イソシアネート基またはカルボジイミド基であり、さらにその架橋部位の付加数が2以上である。
【0011】
水分散樹脂(B)は、固形分中のEO及びPO、もしくはEOまたはPOを5~40%含有するポリウレタン樹脂である。
【0012】
親水性基を含む架橋剤(A)及び水分散樹脂(B)からなる樹脂皮膜を10g/m2以上で積層することで、耐水性は300mmH2O以上かつ、透湿性(A‐1法)は2000g/(m2・24H)以上かつ、透湿性(B‐1法)は10000g/(m2・24H)以上の性能が得られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、親水性基を含む架橋剤(A)及び水分散樹脂(B)からなる、耐水性と透湿性を兼ね備えた樹脂皮膜及びそれを積層してなる繊維布帛及び繊維製品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の親水性基を含む架橋剤(A)及び水分散樹脂(B)の固形分比は、(A):(B)=2:1~1:5であることが望ましい。この割合を外れた時、例えば(A):(B)=2:1より(A)の割合が多い場合、樹脂皮膜の親水成分が多く、水を含み皮膜が膨潤する為に強度が弱くなり、洗濯時に皮膜が剥離する。一方で(A):(B)=1:5より(A)の割合が少ない場合、樹脂皮膜の親水成分が少ない為、目的の透湿性が得られない。従って(A):(B)=2:1~1:5の割合が必須である。
【0015】
親水性基を含む架橋剤(A)は1種または2種以上併用してもよい。
【0016】
親水性基を含む架橋剤(A)は親水性部位と架橋部位からなる。
【0017】
親水性基を含む架橋剤(A)の親水性部位とは、例えば、EO、PO、EO‐POブロック共重合物、テトラヒドロフランのEO付加物、テトラヒドロフランのPO付加物、テトラヒドロフランのEO‐POブロック共重合付加物、グリセリンのEO付加物、グリセリンのPO付加物、グリセリンのEO‐POブロック共重合付加物、トリメチロールプロパンのEO付加物、トリメチロールプロパンのPO付加物、及びトリメチロールプロパンのEO‐POブロック共重合付加物などが挙げられる。これらは1種または2種以上併用してもよい。
【0018】
親水性基を含む架橋剤(A)の架橋部位とは、グリシジル基、イソシアネート基またはカルボジイミド基が挙げられ、架橋部位の付加数が2以上である。例えば、親水性部位にエピクロロヒドリンを反応させたグリシジル系架橋剤、親水性部位に有機イソシアネートを反応させたイソシアネート系架橋剤、及び親水性部位に有機イソシアネート末端カルボジイミドを反応させたカルボジイミド系架橋剤などが挙げられる。これらは1種または2種以上併用してもよい。
【0019】
有機イソシアネートとは、従来からよく用いられる芳香族、脂肪族、及び脂環族のポリイソシアネートである。例えば、キシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,3‐ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボランジイソシアネート、ビウレットタイプヘキサメチレントリイソシアネート、及びイソシアヌレートタイプヘキサメチレントリイソシアネートなどが挙げられる。これらは1種または2種以上併用してもよい。またイソシアネート系架橋剤は、ブロック剤で反応してもよい。ブロック剤としてはメタノール、エタノールなどの低級アルコール、エチルメルカプタンなどの脂肪族メルカプタン、β‐チオナフトールなどの芳香族メルカプタン、メチルエチルケトオキシムなどのオキシム類、ジメチルピラゾールなどのピラゾール類、フェノール、及び重亜硫酸塩などが挙げられ、これらは1種または2種以上併用してもよい。
【0020】
親水性基を含む架橋剤(A)は、固形分中のEO及びPO、もしくはEOまたはPOを10~93%含有し、EOまたはPOの分子量は3000以下である。固形分中のEO及びPO、もしくはEOまたはPOが10%未満の場合、親水成分が少ない為、目的の透湿性が得られず、一方で93%を超える場合、架橋部位との比率から存在しない。EOの分子量が3000を超える場合、融点が高く吸湿性が低くなる為、目的の透湿性が得られない。POの分子量が3000を超える場合、親水性が無くなる為、目的の透湿性が得られない。従って親水性基を含む架橋剤(A)は、固形分中のEO及びPO、もしくはEOまたはPOを10~93%含有し、EOまたはPOの分子量は3000以下であることが必須である。
【0021】
親水性基を含む架橋剤(A)は、固形分中のEO及びPO、もしくはEOまたはPOを10~93%含有する場合、100gの水(20℃)への溶解度が10%以上であることで証明できる。
【0022】
水分散樹脂(B)は、1種または2種以上併用してもよい。
【0023】
水分散樹脂(B)は疎水性ポリオール、親水性ポリオール、有機イソシアネート及び鎖伸長剤からなる。
【0024】
疎水性ポリオールとは、ポリエステルポリオール類、ポリカーボネートジオール類、及びポリエーテルポリオール類が挙げられ、これらは1種または2種以上併用してもよい。
【0025】
ポリエステルポリオール類とは、二塩基酸成分と二価アルコール成分とを反応させることにより得られるのが一般的である。二塩基酸成分としては、アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4‐ナフタレンジカルボン酸、2,6‐ナフタレンジカルボン酸、及び6‐ヒドロキシアジピン酸などが挙げられる。二価アルコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4‐ブタンジオール、1,5‐ペンタンジオール、1,6‐ヘキサンジオール、及び3‐メチル-1,5‐ペンタンジオールなどの脂肪族グリコール、シクロヘキサンジオールなどの脂環式グリコール、及びビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物のような芳香族グリコールなどが挙げられ、これらは1種または2種以上併用してもよい。
【0026】
ポリカーボネートポリオール類とは、カーボネート結合を介して連結される高分子鎖を形成するものであり、該高分子鎖に水酸基を有するものである。ポリカーボネートポリオール類は、アルキレングリコールと炭酸エステルのエステル交換反応、あるいはホスゲンまたはクロル蟻酸エステルとアルキレングリコールとの反応などによって得られる。アルキレングリコールとしては、例えばエチレングリコール、1,4‐ブタンジオール、1,5‐ペンタンジオール、1,6‐ヘキサンジオール、1,9‐ノナンジオール、1,10‐デカンジオールなどの直鎖アルキレングリコールやネオペンチルグリコール、3‐メチル‐1,5‐ペンタンジオール、2‐メチル‐1,8‐オクタンジオールなどの分岐アルキレングリコールなどが挙げられる。エステル交換反応に用いられる炭酸エステルとしては、例えばジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネートなどが挙げられ、これらは1種または2種以上併用してもよい。
【0027】
ポリエーテルポリオール類とは、例えば、ポリテトラメチレングリコール、ポリネオペンチルグリコールなどが挙げられ、これらは1種または2種以上併用してもよい。
【0028】
親水性ポリオールとは、例えば、EO、PO、EO‐POブロック共重合物、テトラヒドロフランのEO付加物、テトラヒドロフランのPO付加物、テトラヒドロフランのEO‐POブロック共重合付加物、グリセリンのEO付加物、グリセリンのPO付加物、グリセリンのEO‐POブロック共重合付加物、トリメチロールプロパンのEO付加物、トリメチロールプロパンのPO付加物、及びトリメチロールプロパンのEO‐POブロック共重合付加物などが挙げられる。これらは1種または2種以上併用してもよい。
【0029】
水分散樹脂(B)で使用する有機イソシアネートは、親水性基を含む架橋剤(A)で使用する有機イソシアネートと同様のものである。
【0030】
鎖伸長剤とは、低分子ポリオールならびに低分子ポリアミンを用いることができ、例えば低分子ポリオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4‐ブタンジオール、1,6‐ヘキサンジオール、3‐メチル1,5‐ペンタンジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。低分子ポリアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヒドラジン、ピペラジン、イソホロンジアミン、ノルボランジアミン、ジアノジフェニルメタン、トリレンジアミン、キシレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、イミノビスプロピルアミンなどが挙げられる。これら低分子ポリオールならびに低分子ポリアミンは1種または2種以上併用してもよい。
【0031】
水分散樹脂(B)は、固形分中のEO及びPO、もしくはEOまたはPOを5~40%含有し、EOまたはPOの分子量が3000以下のウレタン樹脂である。EO及びPO、もしくはEOまたはPOが5%未満の場合、親水成分が少ない為、目的の透湿性が得られず、一方で40%を超える場合、樹脂の親水成分が多く、水を含み皮膜が膨潤する為、洗濯時に皮膜が剥離する。EOの分子量が3000を超える場合、融点が高く吸湿性が低くなる為、目的の透湿性が得られない。POの分子量が3000を超える場合、親水性が無くなる為、目的の透湿性が得られない。従って水分散樹脂(B)は、固形分中のEO及びPO、もしくはEOまたはPOを5~40%含有し、EOまたはPOの分子量が3000以下であることが必須である。
【0032】
水分散樹脂(B)の合成方法は、ワンショット法やプレポリマー法などがある。ワンショット法とは、ポリイソシアネート、高分子ポリオール及び鎖伸長剤を同時に仕込み、反応させ、ポリマー化する方法である。プレポリマー法とは高分子ポリオールとポリイソシアネートを反応後に、鎖伸長成分を反応させ、ポリマー化する方法または、ポリイソシアネートの一部と高分子ポリオールを反応後、残りのポリイソシアネートと鎖伸長剤を反応させ、ポリマー化する方法である。また、鎖伸長剤の一部もしくは全部をアニオン成分もしくはカチオン成分に置換することによりウレタンエマルジョンが得られる。
【0033】
本発明の樹脂皮膜は、親水性基を含む架橋剤(A)及び水分散樹脂(B)が必須成分であり、必要に応じて添加剤を併用してもよい。
【0034】
添加剤とは、ポリイソシアネート系架橋剤、ブロックタイプイソシアネート系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、グリシジル系架橋剤、エチレンイミン系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、増粘性多糖類、顔料、難燃剤、可塑剤、軟化剤、安定剤、ワックス、消泡剤、分散剤、浸透剤、タック消し剤、界面活性剤、フィラー、抗菌剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐候安定剤、蛍光増白剤、及び増粘剤などが挙げられ、これらは1種または2種以上併用してもよい。
【0035】
親水性基を含む架橋剤(A)及び水分散樹脂(B)からなる樹脂皮膜及びそれを積層して得られる繊維布帛を作成する方法について説明する。
【0036】
本発明に使用する繊維布帛は、天然繊維、再生繊維または合成繊維及び、それらを混紡、公撚、混編したもの、及び不織布など、どの種類の繊維にも加工できる。
【0037】
これら繊維布帛は、樹脂皮膜を積層する前に、スプレー撥水法による撥水性(JIS L-1092)が4級以上になるように前撥水処理を行うことが望ましい。前撥水処理を行う撥水剤としては、フッ素系撥水剤または非フッ素系撥水剤を用いることができる。ただし、シリコン系撥水剤の場合、皮膜が剥離する為、適切でない。
【0038】
樹脂皮膜を繊維布帛に積層する方法としては、例えばナイフコーター、ナイフオーバーロールコーター、バーコーター、リバースコーター、グラビアコーター、またはスプレーノズルを用いて、繊維布帛の片面に樹脂を塗布する方法がある。樹脂皮膜を塗布後の乾燥工程としては特に限定されるものではないが、90~130℃で1~5分程度行えばよく、乾燥後に熱処理を行ってもよく、その条件として例えば、140~200℃で1~5分程度行えばよい。
【0039】
親水性基を含む架橋剤(A)及び水分散樹脂(B)からなる樹脂皮膜及びそれを積層してなる繊維布帛及び繊維製品の耐水性(JIS L‐1092)は、300mmH2O以上が必須である。耐水性が300mmH2O以上あれば、該繊維布帛を雨傘用やレインコート用の素材として用いることで雨が侵入することを抑え、日常で使用される繊維製品の防水素材として用いることができる。
【0040】
親水性基を含む架橋剤(A)及び水分散樹脂(B)からなる樹脂皮膜及びそれを積層してなる繊維布帛及び繊維製品の透湿性は、A‐1法(JIS L‐1099)で2000g/(m2・24H)以上かつ、B‐1法(JIS L‐1099)で10000g/(m2・24H)以上が必須である。A‐1法で2000g/(m2・24H)以上かつ、B‐1法で10000g/(m2・24H)以上あれば、衣服内の蒸れを解消することができる。
【実施例
【0041】
以下に実施例及び比較例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における各評価項目における各種物性などの測定及び評価は、次の方法で行う。
[耐水性] JIS L‐1092 耐水性試験(静水圧法、高水圧法)に準じて行う。
[透湿性] JIS L‐1099 A-1法(塩化カルシウム法)、JIS L‐1099 B‐1法(酢酸カリウム法)に準じて行う。
[洗濯処理] JIS L‐1930 C4M法に準じて洗濯処理を10回行う。乾燥はタンブラー乾燥機を用いる。以下、「L10」と表記する。
[皮膜剥離性] 上記洗濯処理10回を行った後、塗布面の剥離性を目視にて観察する。皮膜の変化が無いものを合格とし、皮膜剥離または皮膜が白化するものを不合格とする。合格を「○」、不合格を「×」と表記する。
[水への溶解度] 50℃の蒸留水に、親水性基を含む架橋剤(A)を10%になるように投入し15分間撹拌し、25℃になるまで静置後、透明で析出の無いものを合格とし、不溶物があるものを不合格とする。合格を「○」、不合格を「×」と表記する。
【0042】
(合成例1)
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹込み管を備えた4つ口フラスコに、PEG‐1000(EO、分子量1000、三洋化成工業(株)製、以下同様のものを使用)を149部投入し60~80℃で溶解後、デスモジュールI(イソホロンジイソシアネート、住友化学(株)製、以下同様のものを使用)を66.6部投入し、100℃にて攪拌して120分間反応することで、ウレタンプレポリマーを得た。このプレポリマーを35℃以下に冷却後、メチルエチルケトオキシム(宇部興産(株)製、以下同様のものを使用)を26.5部添加し、80℃にて攪拌して60分間反応し、不揮発分100%の親水性基を含む架橋剤を250g得た。
【0043】
(合成例2~6)
PEG‐1000、PEG‐2000(EO、分子量2000、三洋化成工業(株)製、以下同様のものを使用)、PTG‐1000SN(ポリテトラメチレングリコール、分子量1000、保土谷化学工業(株)製、以下同様のものを使用)、ニューポールPE‐62(EO‐POブロック共重合物、分子量2400、三洋化成工業(株)製、以下同様のものを使用)、サンニックスFA‐103(グリセリンのEO‐POブロック共重合物、EO分子量960、PO分子量2200、三洋化成工業(株)製、以下同様のものを使用)、デスモジュールI、デュラネート24A‐100(ビウレットタイプヘキサメチレントリイソシアネート、旭化成(株)製、以下同様のものを使用)及びメチルエチルケトオキシムを表1の配合で使用すること以外は合成例1と同様の合成方法にて反応を行い、親水性基を含む架橋剤をそれぞれ250gずつ得た。
【0044】
(比較合成例1、2)
PEG‐1000、PTG‐1000SN、PEG‐4000(EO、分子量3300、三洋化成工業(株)製、以下同様のものを使用)、デスモジュールI、メチルエチルケトオキシムを表1の配合で使用すること以外は合成例1と同様の合成方法にて反応を行い、親水性基を含む架橋剤をそれぞれ250gずつ得た。
【表1】
【0045】
(合成例7)
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹込み管を備えた4つ口フラスコに、クラレポリオールC‐2090(ポリカーボネートジオール、分子量2000、クラレ(株)製、以下同様のものを使用)を85部、PTMG‐2000(ポリテトラメチレングリコール、分子量2000、三菱ケミカル(株)製、以下同様のものを使用)を22部、PEG‐2000を8.5部、及びジメチロールブタン酸(ハイケム(株)製、以下同様のものを使用)を2.2部投入し、60~80℃で溶解して攪拌後、デスモジュールIを17.9部添加し、100℃にて攪拌して180分間反応後、ウレタンプレポリマーを得た。このプレポリマーを35℃以下に冷却後、トリエチルアミン(ナカライテスク(株)製、以下同様のものを使用)を1.5部添加し、均一に攪拌後、水を徐々に加えて乳化分散させ、これにベスタミンIPD(イソホロンジアミン、エボニックジャパン(株)製)の10%水溶液を23部添加後、60分間撹拌し、不揮発分35%で固形分中のEO‐POの割合が6.1%の安定な水分散樹脂を500g得た。
【0046】
(比較例3~5)
PEG‐2000及びPEG‐4000を表3の配合で使用すること以外は合成例7と同様の合成方法にて反応を行い、水分散樹脂をそれぞれ500gずつ得た。
【表2】
【表3】
【0047】
以下、実施例で使用する素材はナイロンタフタまたはナイロンニットを使用する。樹脂皮膜を積層する前撥水処理として、ナイロンタフタまたはナイロンニットにパラガードAF‐900(フッ素系撥水剤、大原パラヂウム化学(株)製)を蒸留水で50g/Lに希釈し、100gに調液し、パディング法にて生地を加工液に浸した後に、加圧マングルを用いて、絞り率95%で脱水処理し、ピンテンターにて100℃で2分間乾燥後、170℃で2分間熱処理を行い、撥水性が4級得られた撥水処理布(以下、「ナイロンタフタ撥水処理布」または「ナイロンニット撥水処理布」と表記する)を使用した。
【0048】
(実施例1)
合成例1の親水性基を含む架橋剤を10部、合成例7の水分散樹脂を90部、及びパラキャットPGW‐4(ブロックイソシアネート系架橋剤、大原パラヂウム化学(株)製)を5部、均一に混合後、パラゾールV‐20(増粘剤、大原パラヂウム化学(株)製)を2部、混合撹拌することで粘度20000mPa・sのコーティング液を得た。このコーティング液を、ナイロンタフタ撥水処理布にナイフコーティングにて積層し、ピンテンターにて100℃で4分間乾燥後、170℃で2分間熱処理を行い、樹脂皮膜を10g/m2で積層した繊維製品(以下、「加工布」と表記する)を得た。この時の親水性基を含む架橋剤(A)及び水分散樹脂(B)の固形分比は、(A):(B)=1:2.9である。
【0049】
(実施例2~6)
合成例1の親水性基を含む架橋剤の代わりに、合成例2~6の親水性基を含む架橋剤を使用すること以外は実施例1と同様の操作を行い、実施例2~6の加工布を得た。この時の親水性基を含む架橋剤(A)及び水分散樹脂(B)の固形分比は、(A):(B)=1:2.9である。
【0050】
(実施例7~11)
合成例7の水分散樹脂の代わりに、合成例8~12の水分散樹脂を使用すること以外は実施例1と同様の操作を行い、実施例7~11の加工布を得た。この時の親水性基を含む架橋剤(A)及び水分散樹脂(B)の固形分比は、(A):(B)=1:2.9である。
【0051】
(実施例12)
合成例1の親水性基を含む架橋剤の代わりに、デナコールEX‐830(EOジグリシジルエーテル、官能基数2、EO分子量400、ナガセケムテックス(株)製)を使用すること以外は実施例1と同様の操作を行い、実施例12の加工布を得た。この時の親水性基を含む架橋剤(A)及び水分散樹脂(B)の固形分比は、(A):(B)=1:2.9である。
【0052】
(実施例13)
合成例1の親水性基を含む架橋剤の代わりに、デナコールEX‐861(EOジグリシジルエーテル、官能基数2、EO分子量1000、ナガセケムテックス(株)製)を使用すること以外は実施例1と同様の操作を行い、実施例13の加工布を得た。この時の親水性基を含む架橋剤(A)及び水分散樹脂(B)の固形分比は、(A):(B)=1:2.9である。
【0053】
(実施例14)
合成例1の親水性基を含む架橋剤の代わりに、デナコールEX‐920(POジグリシジルエーテル、官能基数2、PO分子量836、ナガセケムテックス(株)製)を使用すること以外は実施例1と同様の操作を行い、実施例14の加工布を得た。この時の親水性基を含む架橋剤(A)及び水分散樹脂(B)の固形分比は、(A):(B)=1:2.9である。
【0054】
(比較例1~2)
合成例1の親水性基を含む架橋剤の代わりに、比較合成例1~2の親水性基を含む架橋剤を使用すること以外は実施例1と同様の操作を行い、比較例1~2の加工布を得た。この時の親水性基を含む架橋剤(A)及び水分散樹脂(B)の固形分比は、(A):(B)=1:2.9である。
【0055】
(比較例3~5)
合成例7の水分散樹脂の代わりに、比較合成例3~5の水分散樹脂を使用すること以外は実施例1と同様の操作を行い、比較例3~5の加工布を得た。この時の親水性基を含む架橋剤(A)及び水分散樹脂(B)の固形分比は、(A):(B)=1:2.9である。
【0056】
(実施例15)
合成例1の親水性基を含む架橋剤を6部、合成例7の水分散樹脂を94部で行うこと以外は実施例1と同様の操作を行い、実施例15の加工布を得た。この時の親水性基を含む架橋剤(A)及び水分散樹脂(B)の固形分比は、(A):(B)=1:5である。
【0057】
(実施例16)
合成例1の親水性基を含む架橋剤を39部、合成例7の水分散樹脂を61部で行うこと以外は実施例1と同様の操作を行い、実施例16の加工布を得た。この時の親水性基を含む架橋剤(A)及び水分散樹脂(B)の固形分比は、(A):(B)=2:1である。
【0058】
(比較例6)
合成例1の親水性基を含む架橋剤を45部、合成例7の水分散樹脂を55部で行うこと以外は実施例1と同様の操作を行い、比較例6の加工布を得た。この時の親水性基を含む架橋剤(A)及び水分散樹脂(B)の固形分比は、(A):(B)=2.5:1である。
【0059】
(比較例7)
合成例1の親水性基を含む架橋剤を5部、合成例7の水分散樹脂を95部で行うこと以外は実施例1と同様の操作を行い、比較例7の加工布を得た。この時の親水性基を含む架橋剤(A)及び水分散樹脂(B)の固形分比は、(A):(B)=1:6である。
【0060】
(実施例17~32)
使用する前撥水処理布がナイロンタフタ撥水処理布の代わりにナイロンニット撥水処理布で行うこと以外は実施例1~16と同様の操作を行い、実施例17~32の加工布を得た。
【0061】
実施例1~32及び比較例1~7の加工布の耐水性、透湿性及び皮膜剥離性の測定結果を表4~7に示す。
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【0062】
実施例1~32の結果より目的の性能である、耐水性が300mmH2O以上かつ、透湿性(A-1法)で2000g/(m2・24h)以上かつ、透湿性(B-1法)で10000g/(m2・24h)以上の性能が得られることが分かる。
【0063】
具体的には、実施例1~6、12~14、17~22、28~30の結果より、目的の性能は得られることが確認でき、比較例1の結果より、親水性基を含む架橋剤(A)の固形分中の親水性部位の割合が10%未満の為、高い耐水性は得られるが目的の透湿性が得られない。また比較例2の結果より、親水性基を含む架橋剤(A)のEOの分子量が3000を超える為、目的の透湿性が得られない。よって親水性基を含む架橋剤(A)は、固形分中のEO及びPO、もしくはEOまたはPOを10~93%含有し、EOまたはPOの分子量が3000以下であることが必須であるといえる。
【0064】
実施例7~11、及び23~27の結果より、目的の性能が得られることが確認でき、比較例3の結果より、水分散樹脂(B)の固形分中の水性部位の割合が5%未満の為、高い耐水性は得られるが目的の透湿性が得られない。また比較例4の結果より、水分散樹脂(B)の固形分中の親水性部位の割合が40%を超える為、高い透湿性は得られるが、樹脂皮膜の親水成分が多く、水を含み皮膜が膨潤する為に強度が弱くなり、洗濯時に皮膜が剥離する。また比較例5の結果より、EOの分子量が3000を超える為、目的の透湿性が得られない。よって水分散樹脂(B)は、固形分中のEO及びPO、もしくはEOまたはPOを5~40%含有し、EOまたはPOの分子量が3000以下であることが必須であるといえる。
【0065】
実施例15~16の結果より、目的の性能が得られるが、比較例6の結果より、(A):(B)=2:1より(A)の割合が多い為、高い透湿性は得られるが、樹脂皮膜の親水成分が多く、水を含み皮膜が膨潤する為に強度が弱くなり、洗濯時に皮膜が剥離する。また比較例7の結果より(A):(B)=1:5より(A)の割合が少ない為、高い耐水性は得られるが、目的の透湿性は得られない。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、優れた耐水性と透湿性を兼ね備えた、水系の樹脂皮膜及びそれを積層してなる繊維布帛及び繊維製品であり、雨の時に水の浸入を防ぎ、衣服内の蒸れを解消でき、さらに洗濯時に皮膜が剥離しない衣料を提供することができる。また溶剤を含まない為、環境に対して問題が無く、通常のコーティング設備で、乾式コーティングのみで行え、コストも軽減できる加工方法である。