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特許7286946脱酸素剤の製造方法、脱酸素剤、脱酸素剤包装体、及び食品包装体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】脱酸素剤の製造方法、脱酸素剤、脱酸素剤包装体、及び食品包装体
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/30 20060101AFI20230530BHJP
   B01D 53/14 20060101ALI20230530BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20230530BHJP
   A23L 3/3436 20060101ALI20230530BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20230530BHJP
   B65D 81/26 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
B01J20/30
B01D53/14 311
B01J20/28 Z
A23L3/3436
B01J20/22 A
B65D81/26 S
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018209005
(22)【出願日】2018-11-06
(65)【公開番号】P2020075207
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】植木 達也
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-268326(JP,A)
【文献】特開昭56-130223(JP,A)
【文献】特開2003-144113(JP,A)
【文献】特許第4821692(JP,B2)
【文献】特開2017-104845(JP,A)
【文献】特許第3541859(JP,B2)
【文献】国際公開第2006/095641(WO,A1)
【文献】特開2017-159248(JP,A)
【文献】特開2011-152503(JP,A)
【文献】特開平09-308825(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28,20/30-20/34
B65D 67/00-79/02,81/18-81/30,81/38,85/88
B01D 53/14-53/18
A23L 3/00-3/3598
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質の担持体及び液状の酸素吸収組成物を混合して混合物を得る粉液混合工程と、
前記混合物を造粒して造粒物を得る造粒工程と、
前記造粒物の表面に無機微粒子を付着させて複合粒子を得る付着工程と、を備え、
前記酸素吸収組成物が、酸素吸収物質及びアルカリ性化合物を含み、
前記多孔質の担持体を構成する粒子の平均一次粒子径が200nm以上であり、前記アルカリ性化合物を構成する粒子の平均一次粒子径が200nm以上1000nm以下であ
前記アルカリ性化合物が水酸化カルシウムを含み、
前記無機微粒子の量が、前記造粒物の質量100質量部に対して0.1質量部以上30質量部以下である、脱酸素剤の製造方法。
【請求項2】
前記酸素吸収物質の量が、前記造粒物の全質量を基準として20~30質量%である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ性化合物の量が、前記担持体の質量100質量部に対して100~300質量部である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
多孔質の担持体及び液状の酸素吸収組成物を含む造粒物と、前記造粒物の表面に付着した無機微粒子と、を備える複合粒子を含み、
前記酸素吸収組成物が、酸素吸収物質及びアルカリ性化合物を含み、
前記多孔質の担持体を構成する粒子の平均一次粒子径が200nm以上であり、前記アルカリ性化合物を構成する粒子の平均一次粒子径が200nm以上1000nm以下であ
前記アルカリ性化合物が水酸化カルシウムを含み、
前記無機微粒子の量が、前記造粒物の質量100質量部に対して0.1質量部以上30質量部以下である、脱酸素剤。
【請求項5】
前記酸素吸収物質の量が、前記造粒物の全質量を基準として20~30質量%である、請求項4に記載の脱酸素剤。
【請求項6】
前記アルカリ性化合物の量が、前記担持体の質量100質量部に対して100~300質量部である、請求項4又は5に記載の脱酸素剤。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか一項に記載の脱酸素剤と、該脱酸素剤を収容した通気性包材と、を備える、脱酸素剤包装体。
【請求項8】
請求項に記載の脱酸素剤包装体と、該脱酸素剤包装体が封入された食品包装容器と、を備える、食品包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱酸素剤の製造方法、脱酸素剤、脱酸素剤包装体、及び食品包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の長期保存のために、食品包装容器内に脱酸素剤が封入されることがある。従来の一般的な脱酸素剤として、液状の酸素吸収物質が担持体とともに造粒された粒状物が知られている(例えば、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4821692号公報
【文献】特開2003-144112号公報
【文献】特許第3541859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の製造方法に従い脱酸素剤を製造しようとすると、粉液混合装置及び造粒装置の連続運転が困難になる場合があり、その結果生産性が低下する虞がある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、生産性に優れる脱酸素剤の製造方法を提供することを目的とする。本発明はまた、当該製造方法により製造される脱酸素剤、脱酸素剤包装体、及び食品包装体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、多孔質の担持体及び液状の酸素吸収組成物を混合して混合物を得る粉液混合工程と、混合物を造粒して造粒物を得る造粒工程と、造粒物の表面に無機微粒子を付着させて複合粒子を得る付着工程と、を備え、酸素吸収組成物が、酸素吸収物質及びアルカリ性化合物を含み、多孔質の担持体を構成する粒子及びアルカリ性化合物を構成する粒子の平均一次粒子径が200nm以上である、脱酸素剤の製造方法を提供する。
【0007】
本発明の一側面は、多孔質の担持体及び液状の酸素吸収組成物を含む造粒物と、造粒物の表面に付着した無機微粒子と、を備える複合粒子を含み、酸素吸収組成物が、酸素吸収物質及びアルカリ性化合物を含み、多孔質の担持体を構成する粒子及びアルカリ性化合物を構成する粒子の平均一次粒子径が200nm以上である、脱酸素剤を提供する。
【0008】
本発明において、酸素吸収物質の量は、造粒物の全質量を基準として20~30質量%であることが好ましい。
【0009】
本発明において、アルカリ性化合物の量は、担持体の質量100質量部に対して100~300質量部であることが好ましい。
【0010】
本発明において、アルカリ性化合物は水酸化カルシウムを含むことが好ましい。
【0011】
本発明の一側面は、上記の脱酸素剤と、該脱酸素剤を収容した通気性包材と、を備える、脱酸素剤包装体を提供する。
【0012】
本発明の一側面は、上記の脱酸素剤包装体と、該脱酸素剤包装体が封入された食品包装容器と、を備える、食品包装体を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、生産性に優れる脱酸素剤の製造方法を提供することができる。本発明によれば、粉液混合時及び造粒時に原料の固着が抑制されるため、粉液混合装置及び造粒装置の連続運転が可能となり、生産性を向上させることができる。また、本発明によれば、当該製造方法により製造される脱酸素剤、脱酸素剤包装体、及び食品包装体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
[脱酸素剤]
一実施形態に係る脱酸素剤は、多孔質の担持体及び液状の酸素吸収組成物を含む造粒物と、造粒物の表面に付着した無機微粒子と、を備える複合粒子を含む。より具体的には、脱酸素剤は、多孔質の担持体、及び担持体に担持された液状の酸素吸収組成物を含む、造粒物と、造粒物の表面に付着している無機微粒子とから主として構成される複数の複合粒子を含む。脱酸素剤は粉体であってもよい。ここで「粉体」とは、多数の微粒子から構成され、全体として流動性を維持している集合体を意味するものであって、全体として微粒子同士が互いに結着した打錠体のような態様とは異なる。ただし、粉体を打錠した錠剤が本実施形態の脱酸素剤から排除されるものではない。本実施形態に係る脱酸素剤に含まれる複合粒子の数は、例えば、脱酸素剤1g当たり、10個以上10000個以下であってもよい。
【0016】
複合粒子の質量は、複合粒子1個当たり0.3mg以上、又は0.5mg以上であってもよく、10.0mg以下、又は7.0mg以下であってもよい。複合粒子がこのように微小であると、より高い酸素吸収能力が得られる傾向がある。
【0017】
担持体は、酸素吸収組成物を担持できる多孔質粒子であればよい。通常、担持体に液状の酸素吸収組成物が含浸することで、組成物中の酸素吸収物質等が担持体に担持される。担持体は、例えば、ベントナイト粒子、活性白土及び珪藻土などの天然鉱物由来の多孔質物質や、活性アルミナ粒子及び酸化ジルコニウム粒子のような金属酸化物由来の多孔質物質であってもよい。また、担持体は、ケイ酸カルシウム粒子、多孔質シリカ粒子(メソポーラスシリカ粒子)、ゼオライト粒子及び活性炭などの無機物からなる多孔質物質であってもよいし、多孔質ナイロン粒子やセルロース粒子などの有機物からなる多孔質物質であってもよい。
【0018】
酸素吸収組成物は、少なくとも酸素吸収物質及びアルカリ性化合物を含有する。
【0019】
酸素吸収物質は、常温(例えば5~35℃)で液状であってもよいし、固形状であってもよい。固形状である場合は、所定の溶媒に溶解して用いることができる。酸素吸収物質は、酸素吸収組成物の主剤であり、酸素を吸収する物質である。酸素吸収物質は、例えば、それ自身が酸化されることによって酸素を消費し、酸素を吸収する化合物であってもよい。本実施形態では、常温で液状、又は溶媒へ溶解した状態の酸素吸収物質を用いることができる。酸素吸収物質としては多価アルコールが挙げられ、具体的には、例えば、グリセリン、1,2-グリコール、及び糖アルコールが挙げられる。1,2-グリコールの具体例としては、エチレングリコール、及びプロピレングリコールが挙げられる。糖アルコールの具体例としては、エリスリトール、アラビトール、キシリトール、アドニトール、マンニトール、及びソルビトールが挙げられる。酸素吸収物質が固形状であるとき、酸素吸収物質が溶解する溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、第2級ブタノール、第3級ブタノール及び第3級アミルアルコール等の低級脂肪族アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール及びトリメチレングリコール等のグリコール;並びにフェノールが挙げられる。これらの酸素吸収物質は単独で、又は複数組み合わせて用いることができる。
【0020】
酸素吸収物質の量は、担持体の質量100質量部に対して、通常80~200質量部であり、100~180質量部であってもよい。また、酸素吸収物質の量は、造粒物の全質量を基準として通常20~30質量%であり、22~28質量%であってもよい。酸素吸収物質の量がこれらの範囲内にあると、適切な酸素吸収能力を有する脱酸素剤が得られ易い傾向がある。
【0021】
酸素吸収物質は、酸素を吸収する反応に水を必要とする場合がある。このため、酸素吸収物質自身が常温で液体であっても、必要に応じて水を酸素吸収組成物に添加する。必要に応じて添加される水の量は、酸素吸収物質100質量部に対して、通常0~80質量部であり、20~60質量部であってもよい。水の量は、担持体100質量部に対して、通常0~90質量部であり、20~70質量部であってもよい。
【0022】
アルカリ性化合物は、水に溶解したときにアルカリ性の水溶液を形成する化合物である。アルカリ性化合物は粒子状(すなわちアルカリ性化合物粒子)であってもよい。酸素吸収物質が水酸基を持つ場合、水酸基をアルカリ性化合物がイオン化させることで、酸素吸収反応が活性化されると考えられる。アルカリ性化合物は、その一部が液状の酸素吸収組成物中に溶解していてもよい。アルカリ性化合物は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、第三リン酸塩、又は第二リン酸塩であってもよい。アルカリ性化合物は、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化ラジウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素リチウム、第三リン酸ナトリウム、第三リン酸カリウム、第二リン酸ナトリウム、及び第二リン酸カリウムからなる群より選ばれる1種以上の化合物であってもよい。
【0023】
アルカリ性化合物の量は、担持体の質量100質量部に対して、通常100~300質量部であり、150~250質量部であってもよい。また、アルカリ性化合物の量は、造粒物の全質量を基準として通常10~50質量%であり、20~40質量%であってもよい。アルカリ性化合物の量がこれらの範囲内にあると、適切な酸素吸収能力を有する脱酸素剤が得られ易い傾向がある。
【0024】
多孔質の担持体を構成する粒子及びアルカリ性化合物を構成する粒子の平均一次粒子径は、いずれも200nm以上である。後述のとおり、脱酸素剤の製造において敢えて平均一次粒子径の大きな多孔質の担持体及びアルカリ性化合物を用いることで、脱酸素剤の生産性を向上することができる。その結果得られる脱酸素剤は、構成粒子の平均一次粒子径がそれぞれ200nm以上の多孔質の担持体及びアルカリ性化合物を含む。多孔質の担持体を構成する粒子及びアルカリ性化合物を構成する粒子の平均一次粒子径は、250nm以上であってもよく、300nm以上であってもよく、350nm以上であってもよく、400nm以上であってもよく、500nm以上であってもよい。平均一次粒子径の上限は特に限定されないが、一次粒子径が大き過ぎると酸素吸収性能が低下する傾向があるという観点から、1000nm以下とすることができる。なお、多孔質の担持体を構成する粒子の種類次第では、この上限を超える場合がある。例えば活性炭は、一次粒子径が50μm程にもなり得、また他の多孔質体やアルカリ性化合物と異なり、一般的に凝集体として二次粒子を形成しない。ここでの平均一次粒子径は、造粒物をSEM観察することにより測定することができる。
【0025】
酸素吸収組成物は、さらに遷移金属化合物を含むことができる。遷移金属化合物は、遷移金属元素を含む化合物であり、酸素吸収物質の酸素吸収反応を促進するために添加される。遷移金属化合物は粒子状(すなわち遷移金属化合物粒子)であってもよい。遷移金属化合物は、液状の酸素吸収組成物中に溶解していてもよい。遷移金属元素の具体例としては、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、及びマンガンが挙げられる。遷移金属化合物は、例えば、遷移金属のハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、有機酸塩、酸化物、水酸化物、又はキレート化合物であってもよい。遷移金属化合物は、遷移金属元素を含む複塩であってもよい。遷移金属化合物は、塩化銅(I)、塩化銅(II)、硫酸銅(II)、水酸化銅(II)、酸化銅(I)、酸化銅(II)、塩化マンガン、硝酸マンガン、炭酸マンガン、及び塩化ニッケルからなる群より選ばれる1種以上の化合物であってもよい。
【0026】
遷移金属化合物の量は、担持体の質量100質量部に対して、通常10~70質量部であり、30~50質量部であってもよい。また、遷移金属化合物の量は、造粒物の全質量を基準として通常1~20質量%であり、1~10質量%であってもよい。遷移金属化合物の量がこれらの範囲内にあると、適切な酸素吸収能力を有する脱酸素剤が得られ易い傾向がある。
【0027】
酸素吸収組成物は、造粒物が容易に形成できるように、バインダーを更に含有していてもよい。バインダーの具体例としては、アラビアゴム、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン及びセルロースが挙げられる。バインダーの量は、担持体の質量100質量部に対して、通常0~30質量部であり、10~20質量部であってもよい。
【0028】
酸素吸収組成物は、必要によりその他の物質を更に含有していてもよい。その他の物質としては、例えば、カテコール等のフェノール系化合物、キノン系化合物、アミン系化合物などが挙げられる。その他の物質の量は、担持体の質量100質量部に対して、通常、30質量部以下程度である。
【0029】
無機微粒子が付着する前の造粒物の粒径(最大幅)は、特に制限されないが、例えば0.3mm以上であってもよく、8.0mm以下、4.5mm以下、1.8mm以下、又は1.5mm以下であってもよい。造粒物の粒径又はサイズが小さいと、より高い酸素吸収能力が得られる傾向がある。
【0030】
造粒物の形状は、特に限定されないが、例えば円柱状であってもよい。円柱状の造粒物の場合、底面の直径は0.3mm以上であってもよく、4.5mm以下、又は1.8mm以下であってもよい。高さは0.3mm以上であってもよく、10mm以下、又は5mm以下であってもよい。
【0031】
無機微粒子は、無機物質を主成分として含む。無機微粒子は、非水溶性の粒子であってもよく、微溶性の粒子であってもよい。無機微粒子は親水性(すなわち親水性無機微粒子)であってもよい。無機微粒子は、その全質量を基準として、通常、50質量%以上の無機物質を含む。無機微粒子は、実質的に無機物質からなるものであってもよい。無機物質としては、例えば、親水性二酸化ケイ素、ケイ酸カルシウム水和物、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ケイ酸アルミニウム、及び炭(活性炭)からなる群より選ばれる少なくとも1種であってもよい。無機微粒子は、親水性無機微粒子(例えば、親水性二酸化ケイ素粒子)であってもよい。
【0032】
無機微粒子の平均粒径は、150μm以下であってもよい。無機微粒子の平均粒径が150μm以下であることにより、脱酸素剤の酸素吸収能力を改善することができる。造粒物の表面には、通常、微細な凹凸が形成されており、小さい粒径の無機微粒子は、造粒物表面の凹部に入り込み易い。このことが結果的に造粒物の表面積を大幅に増加させることになり、酸素吸収能力向上に寄与すると考えられる。同様の観点から、無機微粒子の平均粒径は、100μm以下、又は50μm以下であってもよい。平均粒径の下限は、特に制限されないが、ナノサイズの微粒子は高価であることと、取扱が難しくなることから、例えば、0.1μm以上であってもよい。ここでの平均粒径は、レーザー回析法により測定される二次粒子径の値である。
【0033】
無機微粒子の細孔容積は、0.5mL/g以上であってもよい。無機微粒子の細孔容積が0.5mL/g以上であることにより、脱酸素剤の酸素吸収能力を改善することができる。大きな細孔容積を有する無機微粒子は、造粒物表面近傍の酸素吸収組成物を吸収し易いと考えられる。酸素吸収組成物(特に酸素吸収物質)が無機微粒子に吸収されると、酸素吸収物質が環境下の酸素と接触する機会が増え、その結果、酸素吸収能力が向上すると推察される。同様の観点から、無機微粒子の細孔容積は、0.8mL/g以上、又は1.2mL/g以上であってもよい。細孔容積の上限は、特に制限されないが、例えば、10mL/g以下であってもよい。ここでの細孔容積は、窒素吸着法又は水銀圧入法により測定される値である。窒素吸着法又は水銀圧入法のうち少なくともいずれか一方の方法で測定される細孔容積が上記数値範囲内であればよい。
【0034】
無機微粒子の比表面積は、50~1000m/g、又は100~400m/gであってもよい。無機微粒子の比表面積がこれら数値範囲内にあることにより、脱酸素剤の酸素吸収能力をより一層改善することができる傾向がある。ここでの比表面積は、窒素吸着法又は水源圧入法により測定される値である。窒素吸着法又は水源圧入法のうち少なくともいずれか一方の方法で測定される比表面積が上記数値範囲内であればよい。
【0035】
無機微粒子が酸素吸収組成物を吸収し易い性質を有することが、脱酸素剤の酸素吸収能力向上に寄与し得る。無機微粒子が酸素吸収組成物を吸収する程度は、無機微粒子の吸液量によって評価することができる。この吸液量は、酸素吸収物質及び遷移金属化合物を含む液状の組成物を試験液として用い、これを無機微粒子の粉末に吸液させる方法により、測定される。吸液量測定用の試験液は、脱酸素剤の製造に供される液状の酸素吸収組成物と同じ質量比の酸素吸収物質及び遷移金属化合物を含む。この方法で測定される吸液量(無機微粒子1g当たりの、吸液された試験液の質量)が、2.0g/g以上であると、高い酸素吸収能力が得られる傾向がある。同様の観点から、この吸液量は2.5g/g以上、又は3.0g/g以上であってもよい。吸液量の上限は、特に制限されないが、例えば20g/g以下であってもよい。
【0036】
無機微粒子の吸液量は、以下の手順で測定することができる。
(1)グリセリン、硫酸銅(II)及び水を50:15:20の質量比で混合して、試験液を準備する。
(2)所定量の無機微粒子に対して試験液を少量ずつ滴下しながら、無機微粒子を薬さじでこねる。粉末状の無機微粒子が試験液を吸収しながら1つの塊となる限界までに滴下した試験液の量(限界量)を記録する。試験液の滴下量が無機微粒子の限界量を超えると、無機微粒子が試験液を吸収できなくなり、1つの塊が崩れてスラリー状になる。
(3)以下の式により、吸液量を計算する。
吸液量[g/g]=試験液の限界量[g]/無機微粒子の質量[g]
【0037】
無機微粒子の吸液量がQで、無機微粒子の平均粒径がdであるとき、Q/dが0.3[μm-1]以上であってもよい。酸素吸収能力と、Q/dの値とは相関関係が認められ、Q/dの値が大きくなると、酸素吸収能力が高くなる傾向がある。同様の観点から、Q/dは0.5以上であってもよい。Q/dの上限は、特に制限はないが、例えば10以下であってもよい。
【0038】
以上例示した平均粒径、細孔容積、比表面積及び吸液量を有する無機微粒子は、周知の方法によって製造することが可能であり、市販品の中から適宜選択して入手することもできる。
【0039】
造粒物の表面に付着している無機微粒子の量(付着量)は、造粒物の質量100質量部に対して、0.1質量部以上、0.5質量部以上、1質量部以上、2質量部以上又は3質量部以上であってもよい。無機微粒子の量がこれらの範囲内にあると、脱酸素剤の適切な酸素吸収能力が得られ易い。造粒物の表面に付着している無機微粒子の量の上限は、特に制限されないが、造粒性や脱落抑制等の観点から、30質量部以下、15質量部以下、10質量部以下又は8質量部以下であってもよい。造粒物に付着していない単独の無機微粒子が脱酸素剤中に含まれ得るが、付着していない単独の無機微粒子の量は上記付着量に含まれない。
【0040】
造粒物表面に付着した無機微粒子は、造粒物の表面を連続的に又は断続的に被覆している。無機微粒子は比較的薄い層を形成しており、その層厚は、例えば1mm以下、又は0.7mm以下である。無機微粒子の層が薄いことは、複合粒子の表面をエネルギー分散型X線分析(EDX分析)によって元素分析したときに、造粒物を構成する材料(酸素吸収物質、アルカリ性化合物又は遷移金属化合物)に含まれる元素が検出されることから、確認することもできる。一般に、本実施形態に係る脱酸素剤の場合、造粒物を構成する材料に含まれる少なくとも1種の元素が、0.05原子数%以上、又は0.1原子数%以上の濃度で検出され得る。
【0041】
なお、本実施形態の脱酸素剤は、例えば内実部の周囲に打錠成形によって外殻部が形成されたような錠剤とは異なる。打錠成形により形成された外殻部は必然的にある程度の厚さを有しているため、内実部を構成する材料の元素がEDX分析によって実質的に検出されることはない。
【0042】
[脱酸素剤包装体]
一実施形態に係る脱酸素剤包装体は、上記の実施形態に係る脱酸素剤と、この脱酸素剤を収容した通気性包材とから主として構成され得る。通気性包材は、当該技術分野で通常用いられるものから適宜選択することができる。通気性包材の具体例としては、有孔プラスチックフィルム、不織布、マイクロポーラスフィルム、紙又はこれらの組み合わせからなる基材よって形成された袋体が挙げられる。この脱酸素剤包装体は、例えば、各種の食品包装容器の中に収容して、食品の鮮度維持等の目的で使用することができる。
【0043】
[食品包装体]
一実施形態に係る食品包装体は、上記脱酸素剤包装体と、この脱酸素剤包装体が封入された食品包装容器とを備える。食品包装容器は、食品包装の分野で通常用いられるものから適宜選択することができ、密封可能な容器が好適である。食品包装容器としては、袋体、深絞り包装体、トレイ包装体、ストレッチ包装体等が挙げられる。
【0044】
[脱酸素剤の製造方法]
一実施形態に係る脱酸素剤の製造方法は、多孔質の担持体及び液状の酸素吸収組成物を混合して混合物を得る粉液混合工程と、混合物を造粒して造粒物を得る造粒工程と、造粒物の表面に無機微粒子を付着させて複合粒子を得る付着工程と、を備える。
【0045】
粉液混合工程では、例えば少なくとも担持体及びアルカリ性化合物を含む粉剤と、少なくとも酸素吸収物質を含む液剤とを混合し、混合物(粉液混合物)を得る。各成分は一度に混合してもよいし、成分ごとに何度かに分けて混合してもよい。混合機は特に限定されるものではなく、例えば、円筒型、V型等の容器回転型混合機であってもよいし、リボン型、水平スクリュー型、バドル型、遊星運動型等の容器固定型混合機であってもよい。
【0046】
造粒工程では、得られた混合物を造粒して、多孔質の担持体及び液状の酸素吸収組成物を含む造粒物を得る。造粒は造粒装置を用いて実施することができ、例えば所定の開孔を有するスクリーンを用いた押出し造粒法によって行うことができる。
【0047】
多孔質の担持体及びアルカリ性化合物としては、それぞれを構成する粒子の平均一次粒子径が200nm以上であるものを用いる。脱酸素剤の製造において敢えて平均一次粒子径の大きな多孔質の担持体及びアルカリ性化合物を用いることで、脱酸素剤の生産性を向上することができる。これは、特に粉液混合工程及び造粒工程における粉液混合装置及び造粒装置へのこれらの粒子の固着が抑制され、その結果装置の連続運転が可能となるためである。この観点から、多孔質の担持体を構成する粒子及びアルカリ性化合物を構成する粒子の平均一次粒子径は、250nm以上であってもよく、300nm以上であってもよく、350nm以上であってもよく、400nm以上であってもよく、500nm以上であってもよい。平均一次粒子径の上限は特に限定されないが、一次粒子径が大き過ぎると酸素吸収性能が低下する傾向があるという観点から、1000nm以下とすることができる。なお、多孔質の担持体を構成する粒子の種類次第では、この上限を超える場合がある。例えば活性炭は、一次粒子径が50μm程にもなり得、また他の多孔質体やアルカリ性化合物と異なり、一般的に凝集体として二次粒子を形成しない。ここでの平均一次粒子径は、比表面積及び密度を用いて下記式から換算される値である。
平均一次粒子径[nm]=6/(比表面積[m/g]×密度[g/cm])×1000
【0048】
多孔質の担持体を構成する粒子及びアルカリ性化合物を構成する粒子の比表面積は、16m/g以下である。脱酸素剤の製造において敢えて比表面積の小さな多孔質の担持体及びアルカリ性化合物を用いることで、脱酸素剤の生産性を向上することができる。多孔質の担持体を構成する粒子及びアルカリ性化合物を構成する粒子の比表面積は、12m/g以下であってもよい。比表面積の下限は特に限定されないが、比表面積が小さくなり過ぎると酸素吸収性能が低下するという観点から、1m/g以上とすることができる。ここでの比表面積は、窒素吸着法又は水源圧入法により測定される値である。窒素吸着法又は水源圧入法のうち少なくともいずれか一方の方法で測定される比表面積が上記数値範囲内であればよい。
【0049】
付着工程では、造粒工程にて得られた造粒物と、無機微粒子とを混ぜ合わせる。これにより、造粒物の表面に無機微粒子を付着させて複合粒子(脱酸素剤を構成する粒子)を得ることができる。例えば、造粒物と、無機微粒子とを混合し、得られた混合物を振とうすることにより、造粒物に無機微粒子を付着させることができる。
【0050】
担持体、酸素吸収組成物、無機微粒子等に関するその他の事項は、脱酸素剤の項にて説明したとおりである。
【実施例
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0052】
1.評価サンプルの作製
表1に示す原料のうち、水酸化カルシウムのみ表2に示すものに変更させて密封状態で均一に混合して、実施例1~4及び比較例1~3の酸素吸収組成物を含有する混合物を得た。
【0053】
なお、活性炭の平均一次粒子径は株式会社島津製作所の「レーザー回折式粒子径分布測定装置SALD-2300」に代表される、レーザー回折式の測定装置を用いて測定し、その結果は47μmであった。
【0054】
水酸化カルシウムの平均一次粒子径は、株式会社島津製作所の「フローソーブIII2310」に代表される、ガス吸着法による測定装置を用いて比表面積を測定し、以下の算出式により算出した。
平均一次粒子径[nm]=6/(比表面積[m/g]×密度[g/cm])×1000
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
2.固着性の評価
固着性の評価方法として、乳鉢を用いた混練試験を実施し、試験後に乳鉢に固着した混合物の重量で評価した。評価手順の詳細は以下の通りである。
(1)乳鉢及び乳棒の重量を測定した。
(2)実施例及び比較例の各サンプルを5.0g測りとり、乳鉢に投入した。
(3)乳鉢内のサンプルを一定の速度及び力にて2分間乳棒を用いて混練した。
(4)混練後、乳鉢及び乳棒を一定の力で指でなぞり、付着したサンプルを除去した。
(5)サンプル除去後の乳鉢及び乳棒の重量を測定した。
(6)((5)の重量)-((1)の重量)をサンプルの固着量とした。
上記、(1)~(6)をサンプル毎に5回繰り返し実施し、その際の固着量の平均値を評価値とした。結果を表3に示す。実施例においては固着量が少ないことが確認された。
【0058】
【表3】
【0059】
3.製造設備(粉液混合機)の連続運転適性評価
実施例1~4及び比較例1~3と同組成になるよう粉剤と液剤を別途用意して造粒物を製造しながら、製造設備の連続運転適正を確認した。具体的には、粉液混合機に粉剤と液剤を同時に一定速度で投入し続け、30分間での粉液混合機の電流値をモニタリングした。その時の初期電流値(運転時間:1分~2分の電流値の平均値)に対する終期電流値(運転時間:29分~30分の電流値の平均値)の上昇率を「電流値上昇率」として評価した。結果を表4に示す。実施例のサンプルは製造設備における連続運転適性が良好であることが確認された。
【0060】
【表4】
【0061】
4.脱酸素剤の製造
上記の3.にて得られた実施例の造粒物と、無機微粒子とをV型混合機内に入れて振とうした。無機微粒子としては、親水性多孔質シリカ(平均粒子径:3.84μm、吸液量4.05g/g)を用いた。無機微粒子は、造粒物の質量100質量部に対して5質量部使用した。これにより、造粒物と、造粒物の表面に付着した無機微粒子と、を備える複合粒子(脱酸素剤)を製造した。得られた複合粒子からは、原料として使用した活性炭及び水酸化カルシウムの平均一次粒子径に実質的に対応する粒子径がそれぞれSEMにより観察された。