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特許7286947脱酸素剤の製造方法、脱酸素剤、脱酸素剤包装体、及び食品包装体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】脱酸素剤の製造方法、脱酸素剤、脱酸素剤包装体、及び食品包装体
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/30 20060101AFI20230530BHJP
   B01D 53/14 20060101ALI20230530BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20230530BHJP
   A23L 3/3436 20060101ALI20230530BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20230530BHJP
   B65D 81/26 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
B01J20/30
B01D53/14 311
B01J20/28 Z
A23L3/3436
B01J20/22 A
B65D81/26 S
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018209010
(22)【出願日】2018-11-06
(65)【公開番号】P2020075208
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】松島 農
(72)【発明者】
【氏名】植木 達也
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-225953(JP,A)
【文献】特許第3541859(JP,B2)
【文献】特開2017-225952(JP,A)
【文献】特開昭59-032945(JP,A)
【文献】特開平09-262465(JP,A)
【文献】特開2000-248111(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0461284(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28,20/30-20/34
B65D 67/00-79/02,81/18-81/30,81/38,85/88
B01D 53/14-53/18
A23L 3/00-3/3598
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質の担持体、並びに酸素吸収物質及びアルカリ性化合物を含む液状の酸素吸収組成物、を含む造粒物を得る造粒工程と、
前記造粒物の表面に、アルカリ性化合物を含む第一粒子を付着させて第一粒子層を形成する第一の付着工程と、前記第一粒子層の表面に、アルカリ性化合物以外の無機微粒子である第二粒子を付着させて第二粒子層を形成し複合粒子を得る第二の付着工程と、を備え、
前記アルカリ性化合物が水酸化カルシウムを含む、脱酸素剤の製造方法。
【請求項2】
前記第一粒子が前記アルカリ性化合物からなる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
多孔質の担持体、並びに酸素吸収物質及びアルカリ性化合物を含む液状の酸素吸収組成物を含む造粒物と、
前記造粒物の表面に付着したアルカリ性化合物を含む第一粒子を含む第一粒子層と、前記第一粒子層の表面に付着したアルカリ性化合物以外の無機微粒子である第二粒子を含む第二粒子層と、を備える複合粒子を含み、
前記アルカリ性化合物が水酸化カルシウムを含む、脱酸素剤。
【請求項4】
前記第一粒子が前記アルカリ性化合物からなる、請求項3に記載の脱酸素剤。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の脱酸素剤と、該脱酸素剤を収容した通気性包材とを備える、脱酸素剤包装体。
【請求項6】
請求項に記載の脱酸素剤包装体と、該脱酸素剤包装体が封入された食品包装容器とを備える、食品包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱酸素剤の製造方法、脱酸素剤、脱酸素剤包装体、及び食品包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の長期保存のために、食品包装容器内に脱酸素剤が封入されることがある。従来の一般的な脱酸素剤として、液状の酸素吸収物質が担持体とともに造粒された粒状物が知られている(例えば、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4821692号公報
【文献】特開2003-144112号公報
【文献】特許第3541859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
食品をより安定して保存するために、脱酸素剤の酸素吸収性能をさらに向上させるための知見が求められている。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、酸素吸収性能に優れる脱酸素剤の製造方法を提供することを目的とする。本発明はまた、当該製造方法により製造される脱酸素剤、脱酸素剤包装体、及び食品包装体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、多孔質の担持体、並びに酸素吸収物質及びアルカリ性化合物を含む液状の酸素吸収組成物、を含む造粒物を得る造粒工程と、造粒物の表面に、アルカリ性化合物を含む粒子を付着させて複合粒子を得る付着工程と、を備える、脱酸素剤の製造方法を提供する。
【0007】
本発明の製造方法において、付着工程が、造粒物の表面に、アルカリ性化合物を含む第一粒子を付着させて第一粒子層を形成する第一の付着工程と、第一粒子層の表面に、アルカリ性化合物以外の無機微粒子である第二粒子を付着させて第二粒子層を形成し複合粒子を得る第二の付着工程と、を備えていてもよい。
【0008】
本発明の一側面は、多孔質の担持体、並びに酸素吸収物質及びアルカリ性化合物を含む液状の酸素吸収組成物を含む造粒物と、造粒物の表面に付着したアルカリ性化合物を含む粒子と、を備える複合粒子を含む、脱酸素剤を提供する。
【0009】
本発明の脱酸素剤において、複合粒子が、造粒物と、造粒物の表面に付着したアルカリ性化合物を含む第一粒子を含む第一粒子層と、第一粒子層の表面に付着したアルカリ性化合物以外の無機微粒子である第二粒子を含む第二粒子層を備えていてもよい。
【0010】
本発明において、粒子の量は、造粒物の質量100質量部に対して5~33質量部であることが好ましい。
【0011】
本発明において、造粒工程及び付着工程におけるアルカリ性化合物の総量、あるいは造粒物及び粒子に含まれるアルカリ性化合物の総量は、酸素吸収物質の質量100質量部に対して100質量部以上であることが好ましい。
【0012】
本発明において、粒子はアルカリ性化合物からなるものであってもよく、アルカリ性化合物以外の無機微粒子をさらに含んでいてもよい。
【0013】
本発明の一側面は、上記の脱酸素剤と、該脱酸素剤を収容した通気性包材と、を備える、脱酸素剤包装体を提供する。
【0014】
本発明の一側面は、上記の脱酸素剤包装体と、該脱酸素剤包装体が封入された食品包装容器と、を備える、食品包装体を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、酸素吸収性能に優れる脱酸素剤の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、当該製造方法により製造される脱酸素剤、脱酸素剤包装体、及び食品包装体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
[脱酸素剤]
一実施形態に係る脱酸素剤は、多孔質の担持体及び液状の酸素吸収組成物を含む造粒物と、造粒物の表面に付着したアルカリ性化合物を含む粒子と、を備える複合粒子を含む。より具体的には、脱酸素剤は、多孔質の担持体、及び担持体に担持された液状の酸素吸収組成物を含む、造粒物と、造粒物の表面に付着しているアルカリ性化合物を含む粒子とから主として構成される複数の複合粒子を含む。脱酸素剤は粉体であってもよい。ここで「粉体」とは、多数の微粒子から構成され、全体として流動性を維持している集合体を意味するものであって、全体として微粒子同士が互いに結着した打錠体のような態様とは異なる。ただし、粉体を打錠した錠剤が本実施形態の脱酸素剤から排除されるものではない。本実施形態に係る脱酸素剤に含まれる複合粒子の数は、例えば、脱酸素剤1g当たり、10個以上10000個以下であってもよい。
【0018】
複合粒子の質量は、複合粒子1個当たり0.3mg以上、又は0.5mg以上であってもよく、10.0mg以下、又は7.0mg以下であってもよい。複合粒子がこのように微小であると、より高い酸素吸収能力が得られる傾向がある。
【0019】
担持体は、酸素吸収組成物を担持できる多孔質粒子であればよい。通常、担持体に液状の酸素吸収組成物が含浸することで、組成物中の酸素吸収物質等が担持体に担持される。担持体は、例えば、ベントナイト粒子、活性白土及び珪藻土などの天然鉱物由来の多孔質物質や、活性アルミナ粒子及び酸化ジルコニウム粒子のような金属酸化物由来の多孔質物質であってもよい。また、担持体は、ケイ酸カルシウム粒子、多孔質シリカ粒子(メソポーラスシリカ粒子)、ゼオライト粒子及び活性炭などの無機物からなる多孔質物質であってもよいし、多孔質ナイロン粒子やセルロース粒子などの有機物からなる多孔質物質であってもよい。
【0020】
酸素吸収組成物は、少なくとも酸素吸収物質及びアルカリ性化合物を含有する。
【0021】
酸素吸収物質は、常温(例えば5~35℃)で液状であってもよいし、固形状であってもよい。固形状である場合は、所定の溶媒に溶解して用いることができる。酸素吸収物質は、酸素吸収組成物の主剤であり、酸素を吸収する物質である。酸素吸収物質は、例えば、それ自身が酸化されることによって酸素を消費し、酸素を吸収する化合物であってもよい。本実施形態では、常温で液状、又は溶媒へ溶解した状態の酸素吸収物質を用いることができる。酸素吸収物質としては多価アルコールが挙げられ、具体的には、例えば、グリセリン、1,2-グリコール、及び糖アルコールが挙げられる。1,2-グリコールの具体例としては、エチレングリコール、及びプロピレングリコールが挙げられる。糖アルコールの具体例としては、エリスリトール、アラビトール、キシリトール、アドニトール、マンニトール、及びソルビトールが挙げられる。酸素吸収物質が固形状であるとき、酸素吸収物質が溶解する溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、第2級ブタノール、第3級ブタノール及び第3級アミルアルコール等の低級脂肪族アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール及びトリメチレングリコール等のグリコール;並びにフェノールが挙げられる。これらの酸素吸収物質は単独で、又は複数組み合わせて用いることができる。
【0022】
酸素吸収物質の量は、担持体の質量100質量部に対して、通常80~200質量部であり、100~180質量部であってもよい。また、酸素吸収物質の量は、造粒物の全質量を基準として通常20~40質量%であり、25~30質量%であってもよい。酸素吸収物質の量がこれらの範囲内にあると、適切な酸素吸収能力を有する脱酸素剤が得られ易い傾向がある。
【0023】
酸素吸収物質は、酸素を吸収する反応に水を必要とする場合がある。このため、酸素吸収物質自身が常温で液体であっても、必要に応じて水を酸素吸収組成物に添加する。必要に応じて添加される水の量は、酸素吸収物質100質量部に対して、通常0~80質量部であり、20~60質量部であってもよい。水の量は、担持体100質量部に対して、通常0~90質量部であり、20~70質量部であってもよい。
【0024】
アルカリ性化合物は、水に溶解したときにアルカリ性の水溶液を形成する化合物である。アルカリ性化合物は粒子状(すなわちアルカリ性化合物粒子)であってもよい。酸素吸収物質が水酸基を持つ場合、水酸基をアルカリ性化合物がイオン化させることで、酸素吸収反応が活性化されると考えられる。アルカリ性化合物は、その一部が液状の酸素吸収組成物中に溶解していてもよい。アルカリ性化合物は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、第三リン酸塩、又は第二リン酸塩であってもよい。アルカリ性化合物は、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化ラジウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素リチウム、第三リン酸ナトリウム、第三リン酸カリウム、第二リン酸ナトリウム、及び第二リン酸カリウムからなる群より選ばれる1種以上の化合物であってもよい。
【0025】
アルカリ性化合物の中には、材料の粒子同士を結着させる機能も有しているものもある。その意味で、アルカリ性化合物は造粒物を造粒する際の補助剤として用いられると言うこともできる。造粒性を向上させる補助剤としてアルカリ性化合物を利用する場合、アルカリ性化合物を造粒物中に含有させる必要がある。補助剤として機能しうるアルカリ性化合物としては、アルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、第三リン酸塩、第二リン酸塩等が挙げられる。
【0026】
造粒物中のアルカリ性化合物の量は、担持体の質量100質量部に対して、通常100~300質量部であり、150~250質量部であってもよい。また、造粒物中のアルカリ性化合物の量は、造粒物の全質量を基準として通常10~50質量%であり、20~40質量%であってもよい。アルカリ性化合物の量がこれらの範囲内にあると、適切な酸素吸収能力を有する脱酸素剤が得られ易い傾向がある。
【0027】
酸素吸収組成物は、さらに遷移金属化合物を含むことができる。遷移金属化合物は、遷移金属元素を含む化合物であり、酸素吸収物質の酸素吸収反応を促進するために添加される。遷移金属化合物は粒子状(すなわち遷移金属化合物粒子)であってもよい。遷移金属化合物は、液状の酸素吸収組成物中に溶解していてもよい。遷移金属元素の具体例としては、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、及びマンガンが挙げられる。遷移金属化合物は、例えば、遷移金属のハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、有機酸塩、酸化物、水酸化物、又はキレート化合物であってもよい。遷移金属化合物は、遷移金属元素を含む複塩であってもよい。遷移金属化合物は、塩化銅(I)、塩化銅(II)、硫酸銅(II)、水酸化銅(II)、酸化銅(I)、酸化銅(II)、塩化マンガン、硝酸マンガン、炭酸マンガン、及び塩化ニッケルからなる群より選ばれる1種以上の化合物であってもよい。
【0028】
遷移金属化合物の量は、担持体の質量100質量部に対して、通常10~70質量部であり、15~50質量部であってもよい。また、遷移金属化合物の量は、造粒物の全質量を基準として通常1~20質量%であり、1~15質量%であってもよい。遷移金属化合物の量がこれらの範囲内にあると、適切な酸素吸収能力を有する脱酸素剤が得られ易い傾向がある。
【0029】
酸素吸収組成物は、造粒物が容易に形成できるように、バインダーを更に含有していてもよい。バインダーの具体例としては、アラビアゴム、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン及びセルロースが挙げられる。バインダーの量は、担持体の質量100質量部に対して、通常0~30質量部であり、10~20質量部であってもよい。
【0030】
酸素吸収組成物は、必要によりその他の物質を更に含有していてもよい。その他の物質としては、例えば、カテコール等のフェノール系化合物、キノン系化合物、アミン系化合物などが挙げられる。その他の物質の量は、担持体の質量100質量部に対して、通常、30質量部以下程度である。
【0031】
アルカリ性化合物を含む粒子が付着する前の造粒物の粒径(最大幅)は、特に制限されないが、例えば0.3mm以上であってもよく、8.0mm以下、4.5mm以下、1.8mm以下、又は1.5mm以下であってもよい。造粒物の粒径又はサイズが小さいと、より高い酸素吸収能力が得られる傾向がある。
【0032】
造粒物の形状は、特に限定されないが、例えば円柱状であってもよい。円柱状の造粒物の場合、底面の直径は0.3mm以上であってもよく、4.5mm以下、又は1.8mm以下であってもよい。高さは0.3mm以上であってもよく、10mm以下、又は5mm以下であってもよい。
【0033】
造粒物の表面には、アルカリ性化合物を含む粒子が付着している。付着物(造粒物に付着した粒子)の量(付着量)は、造粒物の質量100質量部に対して、通常5~33質量部であり、10~25質量部であってもよい。付着物の量がこれらの範囲内にあると、形成した付着物が脱落しにくい傾向にある。
【0034】
アルカリ性化合物としては前述の化合物が挙げられる。アルカリ性化合物は、前述のとおり造粒物中と、付着物中とにそれぞれ含有される。造粒物と付着物とに含まれるアルカリ性化合物は、同一種類のものであることが望ましいが、異なる種類のものであってもよい。また、他の成分がアルカリ性化合物と反応し得る場合は、造粒物中と付着物中のアルカリ性化合物が異なっていてもよい。
【0035】
造粒物及び付着物(粒子)に含まれるアルカリ性化合物の総量は、酸素吸収物質の質量100質量部に対して、100質量部以上であり、100~300質量部であってもよく、100~200質量部であってもよく、140~200質量部であってもよい。アルカリ性化合物の総量がこれらの範囲内にあると、適切な酸素吸収能力を有する脱酸素剤組成物が得られ易い傾向がある。
【0036】
アルカリ性化合物を含む粒子は、アルカリ性化合物からなるものであってもよく、アルカリ性化合物以外の無機微粒子をさらに含むものであってもよい。すなわち、アルカリ性化合物を含む粒子は、アルカリ性化合物から構成される粒子のみを含んでいてもよく、アルカリ性化合物から構成される粒子に加えてアルカリ性化合物以外の化合物から構成される無機微粒子をさらに含んでいてもよい。
【0037】
無機微粒子は、アルカリ性化合物以外の無機物質を主成分として含む粉体である。無機微粒子は親水性(すなわち親水性無機微粒子)であってもよい。無機物質としては、例えば、二酸化ケイ素、ケイ酸カルシウム水和物、酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、及びステアリン酸カルシウムが挙げられる。無機微粒子が付着物に含まれる事で脱酸素剤の表面積が増加し、酸素吸収反応が起こる反応場を拡張させる事ができる。それ以外にも、無機微粒子は、脱酸素剤の流動性を向上させ、包装体に対する充填適性を向上させる役割も担っている。
【0038】
無機微粒子の平均粒径は、造粒物の粒径より小さいことが望ましく、20μm以下、又は5μm以下であってもよい。平均粒径の下限は、特に制限されないが、ナノサイズの微粒子は高価であることと、取扱が難しくなることから、例えば、0.1μm以上であってもよい。ここでの平均粒径は、レーザー回析法により測定される二次粒子径の値である。
【0039】
造粒物に付着したアルカリ性化合物を含む粒子は、造粒物表面に一次粒子として存在していてもよく、粒径が数μm~数十μmの二次粒子として存在していてもよい。また、当該粒子は、造粒物を連続的に被覆していてもよく(層状)、断続的に被覆していてもよい。なお、アルカリ性化合物を含む粒子は、互いに独立した状態で、脱酸素剤の表面に存在していてもよい。「互いに独立した状態」とは、当該粒子が造粒物に含まれる多孔質の担持体と混和せず、脱酸素剤の表面に付着している状態を指す。
【0040】
付着物は、積層構造を有していてもよい。具体的には、脱酸素剤に含まれる複合粒子は、造粒物と、造粒物の表面に付着したアルカリ性化合物を含む第一粒子を含む第一粒子層と、第一粒子層の表面に付着したアルカリ性化合物以外の無機微粒子である第二粒子を含む第二粒子層と、を備えていてもよい。このような積層構造を採用することにより、酸素吸収能力により優れる脱酸素剤が得られ易い傾向がある。この観点から、第一粒子層はアルカリ性化合物からなる粒子の層であり、第二粒子層はアルカリ性化合物以外の無機微粒子からなる粒子の層であることが好ましい。
【0041】
この場合、付着物(造粒物に付着した第一粒子及び第二粒子)の量は、造粒物の質量100質量部に対して、通常5~33質量部であり、10~25質量部であってもよい。付着物の量がこれらの範囲内にあると、形成した付着物が脱落しにくい傾向にある。
【0042】
[脱酸素剤包装体]
一実施形態に係る脱酸素剤包装体は、上記の実施形態に係る脱酸素剤と、この脱酸素剤を収容した通気性包材とから主として構成され得る。通気性包材は、当該技術分野で通常用いられるものから適宜選択することができる。通気性包材の具体例としては、有孔プラスチックフィルム、不織布、マイクロポーラスフィルム、紙又はこれらの組み合わせからなる基材よって形成された袋体が挙げられる。この脱酸素剤包装体は、例えば、各種の食品包装容器の中に収容して、食品の鮮度維持等の目的で使用することができる。
【0043】
[食品包装体]
一実施形態に係る食品包装体は、上記脱酸素剤包装体と、この脱酸素剤包装体が封入された食品包装容器とを備える。食品包装容器は、食品包装の分野で通常用いられるものから適宜選択することができ、密封可能な容器が好適である。食品包装容器としては、袋体、深絞り包装体、トレイ包装体、ストレッチ包装体等が挙げられる。
【0044】
[脱酸素剤の製造方法]
一実施形態に係る脱酸素剤の製造方法は、多孔質の担持体、並びに酸素吸収物質及びアルカリ性化合物を含む液状の酸素吸収組成物、を含む造粒物を得る造粒工程と、造粒物の表面に、アルカリ性化合物を含む粒子を付着させて複合粒子を得る付着工程と、を備える。アルカリ性化合物を造粒物内と造粒物外(造粒物の表面)とに適切に配分することで、造粒性を維持しつつ酸素吸収性能を向上させることができる。なお、造粒物中に含めることとされていたアルカリ性化合物の一部を造粒物表面に付着させることで、アルカリ性化合物の総量を変えずに、酸素吸収性能を向上できる。これは予期せぬ結果である。
【0045】
造粒工程では、担持体と、液状の酸素吸収組成物を構成する成分とを含む混合物を造粒する。各成分は一度に混合してもよいし、成分ごとに何度かに分けて混合してもよい。混合機は特に限定されるものではなく、例えば、円筒型、V型等の容器回転型混合機であってもよいし、リボン型、水平スクリュー型、バドル型、遊星運動型等の容器固定型混合機であってもよい。造粒は造粒装置を用いて実施することができ、例えば所定の開孔を有するスクリーンを用いた押出し造粒法によって行うことができる。
【0046】
付着工程では、造粒工程にて得られた造粒物と、アルカリ性化合物を含む粒子とを混合する。これにより、造粒物の表面にアルカリ性化合物を含む粒子を付着させて複合粒子(脱酸素剤を構成する粒子)を得ることができる。粒子中にアルカリ性化合物以外の粒子が含まれている場合は、粒子同士を予め混合しておいて造粒物と混合してもよく、各種粒子ごとに何度かに分けて造粒物と混合してもよい。混合するための装置は、特に限定されるものではなく、例えば、円筒型、V型等の容器回転型混合機であってもよいし、リボン型、水平スクリュー型、バドル型、遊星運動型等の容器固定型混合機であってもよい。
【0047】
粒子は二段階に分けて造粒物に付着させてもよい。すなわち、付着工程は、造粒物の表面に、アルカリ性化合物を含む粒子を付着させて第一粒子層を形成する第一の付着工程と、第一粒子層の表面に、アルカリ性化合物以外の無機微粒子を付着させて第二粒子層を形成し複合粒子を得る第二の付着工程と、を備えていてもよい。第一及び第二の付着工程は、上述の付着工程に準じて実施すればよい。
【0048】
担持体、酸素吸収組成物、アルカリ性化合物、無機微粒子等に関するその他の事項は、脱酸素剤の項にて説明したとおりである。
【実施例
【0049】
以下、実施例(ただし、実施例1~3は参考例)を挙げて本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0050】
1.酸素吸収物質を含む造粒物の作製
造粒物の原料を粉液混合機にて均一に混合して、グリセリン、活性炭、水酸化カルシウム、セルロース、硫酸銅(II)5水和物及び水が混合された混合物を得た。得られた混合物を、スクリーン孔径1.0mmφ、開孔率22.6%のスクリーンを設けた押出し造粒機により造粒し、酸素吸収物質を含む造粒物を得た。原料の配合割合は表に示すとおりとした。
【0051】
2.付着物の付与
無機微粒子としてシリカ粒子(平均粒径 3.9μm)を、アルカリ性化合物として水酸化カルシウム(平均粒径5.2μm)を準備した。準備したシリカ粒子と水酸化カルシウムとを、密封状態で均一に混合し、粉末原料を得た。次に、造粒物と粉末原料を密封状態で均一に混合し、造粒物の表面に粉末原料を付着させて複合粒子を形成し、脱酸素剤を得た。粒子の付着量は表に示すとおりとした。比較例では水酸化カルシウムを付着させなかった。
【0052】
3.酸素吸収性能の評価方法
脱酸素剤3.0gを、有孔包材によって形成された袋(縦60mm、横60mm)に収納し、脱酸素剤包装体を作製した。有孔包材として、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン/紙/ポリエチレンから構成される積層材料を用いた。脱酸素剤包装体を、ショ糖44%水溶液を浸した脱脂綿(水分活性0.95)とともに、ガスバリア性の袋の中に入れた。袋を密封し、その中に空気500mLを注入してから、袋を25℃の雰囲気に放置した。24時間後の袋内の酸素濃度を酸素濃度計を用いて測定した。酸素濃度が低いことは、酸素吸収性能が高いことを意味する。
【0053】
4.結果
表1は、酸素吸収物質を含む造粒物と付着物の原料配合比と、それぞれの配合比における酸素吸収性能の評価結果を表している。表1中における原料の配合量は、酸素吸収物質であるグリセリンの質量を100質量部として表している。
【0054】
【表1】
【0055】
表2には、水酸化カルシウムの総含有量を126質量部(表1の検証時)から103質量部に減量させた場合の評価結果を示した。
【0056】
【表2】
【0057】
表3には、付着物としてシリカ粒子のみを用いた場合と水酸化カルシウムのみを用いた場合の評価結果を示した。
【0058】
【表3】
【0059】
5.付着物A及び付着物Bの付与
更なる検証として、付着物を、水酸化カルシウムからなる付着物A(第一粒子層)とシリカ粒子からなる付着物B(第二粒子層)の積層構造とした場合の酸素吸収性能を確認した。
【0060】
無機微粒子としてシリカ粒子(平均粒径 3.9μm)を、アルカリ性化合物として水酸化カルシウム(平均粒径5.2μm)を準備した。次に、酸素吸収物質を含む造粒物と水酸化カルシウムを密封状態で均一に混合し、造粒物の周囲に水酸化カルシウム粉末を付着させる事で付着物Aを形成した。次に、付着物Aを付与した造粒物とシリカ粒子を密封状態で均一に混合し、付着物Aの周囲にシリカ粒子を付着させる事で付着物Bを形成した。これにより、付着物が積層構造である脱酸素剤を得た。
【0061】
6.結果
表4は、造粒物と付着物A及び付着物Bの原料配合比と、酸素吸収性能の評価結果を表している。また、原料の配合量は、表1と同様に酸素吸収物質であるグリセリンの質量を100質量部として表している。
【0062】
【表4】