(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸、タンパク質、及び液状油脂を含有する液状栄養組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20230530BHJP
A23L 33/115 20160101ALI20230530BHJP
A23L 33/17 20160101ALI20230530BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
A23L33/10
A23L33/115
A23L33/17
A23L2/52
(21)【出願番号】P 2018247146
(22)【出願日】2018-12-28
【審査請求日】2021-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】平野 春香
【審査官】山村 周平
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-533509(JP,A)
【文献】特表2017-510629(JP,A)
【文献】特表2007-530542(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0250258(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00-35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)~(C)成分を含有する液状栄養組成物であって、(A)成分をHMB遊離酸として0.1~1.0質量%、(B)成分を2.0~12.0質量%
、(C)成分を10~15質量%含有し、
粘度が
30mPa・s
以下、
60℃3日保存後の粘度が28mPa・s以下、pHが5.0~7.0であり、1.0kcal/g以上であることを特徴とする、液状栄養組成物。
(A)HMB、HMBのナトリウム塩、又はHMBのカリウム塩
(B)タンパク質
(C)液状油脂
【請求項2】
液状油脂が、炭素原子数8又は10の中鎖脂肪酸を含む液状油脂であることを特徴とする、請求項1に記載の液状栄養組成物。
【請求項3】
粘度が
30mPa・s
以下、60℃3日保存後の粘度が28mPa・s以下であり、1.0kcal/g以上である液状栄養組成物の製造方法であって、
(A)HMB、HMBのナトリウム塩、又はHMBのカリウム塩をHMB遊離酸として0.1~1.0質量%、(B)タンパク質を2.0~12.0質量%、(C)液状油脂を
10~15質量%含む混合物に対して、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを添加し、pHを5.0~7.0とすることを特徴とする、液状栄養組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸、タンパク質、及び液状油脂を含み、pHが中性領域の液状栄養組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の健康志向によるスポーツ分野の活性化や、高齢化が進む中でロコモティブシンドローム対策が叫ばれる中、筋肉の増強や分解の予防のため、筋肉の原料となるタンパク質の配合を強化した食品が増加傾向にある。こうした食品の中でも摂取の簡便さから液体状の栄養組成物は有用性が高いといえる。
【0003】
β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸(HMB)は、ロイシンの代謝産物である。ロイシンは体内へ供給されると、筋肉の分解抑制及び合成促進因子として働くが、これはHMBの作用であることが知られている。しかしながらロイシンは体内の約5%しかHMBに変換されないため、近年ではロイシンの代替品としてHMBが注目されている。
【0004】
HMB類は、通常カルシウム塩(HMB-Ca)等の塩の形態又は酸性液(HMB)の形態で流通しているが、これら2つの形態は性状が大きく異なる。HMB-Caは粉末状で水に溶解した場合、弱アルカリ性を示し、HMBは液状で強酸性である。また、どちらも香りはその構造から短鎖脂肪酸の好ましくない香りを持ち、HMB-Caの味は強い渋みや苦味があり、HMBの味は強い酸味がある。
【0005】
タンパク質とHMB類はその効能より同時摂取すると筋組織の分解抑制や増強に相乗効果をもたらす。しかしタンパク質とHMB-Caを含む飲料はより高い粘度や、タンパク質の凝集をもたらす傾向にある。一方でHMBは飲料に添加すると強烈な臭いと強い酸味をもたらしてしまう。
【0006】
このようなタンパク質飲料を提供するために、従来さまざまな工夫がなされてきた。例えば、特許文献1にはHMB-Caとタンパク質を含有する液状栄養製品に関する技術が開示されている。HMB-Caを文献に記載の配合率で添加すると、HMB-Caが溶解しきらず沈殿物が生じてしまうという問題や、タンパク質の凝集が起こりざらつきのある食感となってしまうという問題がある。
【0007】
特許文献2にはHMBと可溶化タンパク質を含有する飲料に関する技術が開示されている。これらの配合はHMBの好ましくない風味及び低pHのため酸味を強く感じてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2015-533509号公報
【文献】特表2017-510629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上より、タンパク質及びHMB類を含有する飲食物には、HMB類の好ましくない風味を抑制しつつ、低粘度でかつタンパク質の凝集等の状態変化が生じないものが求められているのである。
そこで本発明の課題は、タンパク質及びHMB類を含有し、HMB類の好ましくない風味を感じず、低粘度でかつタンパク質の凝集等の状態変化が生じない液状栄養組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、HMB、HMBのナトリウム塩、又はHMBのカリウム塩と、タンパク質、液状油脂を特定量含有させることで、低粘度でかつタンパク質の凝集等の状態変化が生じない液状栄養組成物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の[1]~[4]である。
【0011】
[1]下記(A)~(C)成分を含有する液状栄養組成物であって、(A)成分をHMB遊離酸として0.1~1.0質量%、(B)成分を2.0~12.0質量%含有し、粘度が50MPa・s未満、pHが5.0~7.0であり、1.0kcal/g以上であることを特徴とする、液状栄養組成物。
(A)HMB、HMBのナトリウム塩、又はHMBのカリウム塩
(B)タンパク質
(C)液状油脂
[2]液状油脂が、炭素原子数8又は10の中鎖脂肪酸を含む液状油脂であることを特徴とする、[1]に記載の液状栄養組成物。
[3]粘度が50MPa・s未満であり、1.0kcal/g以上である液状栄養組成物の製造方法であって、(A)HMB、HMBのナトリウム塩、又はHMBのカリウム塩をHMB遊離酸として0.1~1.0質量%、(B)タンパク質を2.0~12.0質量%、(C)液状油脂を含む混合物に対して、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを添加し、pHを5.0~7.0とすることを特徴とする、液状栄養組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、タンパク質及びHMB類を含有し、HMB類の好ましくない風味を感じず、低粘度でかつタンパク質の凝集等の状態変化が生じない液状栄養組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[液状栄養組成物]
本発明の液状栄養組成物は、下記(A)~(C)成分を含有する液状栄養組成物であり、粘度が50MPa・s未満、pHが5.0~7.0であり、1.0kcal/g以上であることを特徴とする。
(A)HMB、HMBのナトリウム塩、又はHMBのカリウム塩
(B)タンパク質
(C)液状油脂
【0014】
<粘度>
本発明の液状栄養組成物は、粘度が50mPa・s未満であることを特徴とする。下限値としては、好ましくは1mPa・s以上であり、より好ましくは2mPa・s以上であ
る。上限値として、より好ましくは40mPa・s以下であり、さらに好ましくは30mPa・s以下であり、特に好ましくは20mPa・s以下である。粘度が50mPa・sより高いと喉越しの悪い口当たりとなってしまうため本発明の液状栄養組成物は、粘度が50mPa・s未満とする必要がある。
なお、粘度の測定は、殺菌後の液状栄養組成物を、20℃においてブルックフィールドエンジニアリングラボラトリーズ社製B型粘度計を使用し、BLローターの回転数30rpm、1分間の条件で行う。
【0015】
<pH>
本発明の液状栄養組成物のpHは、5.0~7.0とすることを特徴とする。下限値としては、好ましくは5.5以上であり、より好ましくは6.0以上である。pHが5.0より小さいとタンパク質が酸により凝集を起こし粘度が高くなってしまい、経口として不適であり、また遊離体のHMB様の違和感のある酸味や好ましくない風味を感じやすくなる。また、pHが7.0より大きいとpH調整のため塩濃度が高くなり、タンパク質が塩により凝集を起こし粘度が高くなってしまい、飲みづらい口当たりとなる。本発明の液状栄養組成物のpHは、5.0~7.0とすることで、HMB特有の好ましくない風味を感じず、粘度の高くない飲料等に用いることができる。
【0016】
<熱量>
本発明の液状栄養組成物は、熱量として1.0kcal/g以上であることを特徴とする。熱量はタンパク質1gあたり4kcal、脂質(液状油脂)1gあたり9kcal、炭水化物1gあたり4kcalと定義されており、それらの含有量から計算することができる。
【0017】
<(A)HMB、HMBのナトリウム塩又はHMBのカリウム塩>
本発明の液状栄養組成物はHMB、HMBのナトリウム塩又はHMBのカリウム塩を含有することを特徴とする。これらはいずれも水に溶解することによりHMB遊離酸となる。すなわちHMBから水素原子が、HMBのナトリウム塩からナトリウム原子が、HMBのカリウム塩からはカリウム原子が乖離してHMB遊離酸となる。
HMB、HMBのナトリウム塩又はHMBのナトリウム塩を2価の塩基で中和した場合、中性の組成物中で負に帯電したHMB遊離酸と正に帯電した2価の塩基にイオン化するが、イオン化した2価の塩基は、異なるタンパク質粒子の負の電荷と静電相互作用するため、タンパク質粒子同士が近づいた状態となり、結果的にタンパク質の凝集をもたらす。一方でHMB、HMBのナトリウム塩又はHMBのナトリウム塩を1価の塩基で中和したものであれば、中性の組成物中で正に帯電した1価の塩基となるが、2価の塩基のような異なるタンパク質粒子を近づける作用は弱く、結果としてタンパク質の凝集を抑制することができる。
【0018】
本発明の液状栄養組成物おいて、HMB、HMBのナトリウム塩、又はHMBのカリウム塩は、HMB遊離酸として0.1~1.0質量%含有することを特徴とする。上限値としては、好ましくは0.8質量%以下であり、より好ましくは0.6質量%以下である。
本発明の液状栄養組成物おいて、HMB遊離酸の含有量が0.1質量%を下回ると栄養素としての価値が低くなり、1.0質量%より多いとHMB特有の風味が強く出てしまい、また、液状栄養組成物中のイオン濃度が上昇するためタンパク質凝集を起こし増粘してしまう。
【0019】
<(B)タンパク質>
本発明の液状栄養組成物はタンパク質を含有することを特徴とする。本発明に用いるタンパク質は、特に限定されないが、好ましくは中性域に等電点がないものであって、好ましくは、乳タンパク質、コラーゲンペプチド、カゼイン加水分解物、加水分解コラーゲン等が挙げられる。
一般的に、タンパク質は製造工程中でタンパク質分子の分解を行っていない分子量の大きいものと、分解し分子量を小さくしたものが販売されている。分子量の大きいタンパク質は水への溶解度が小さく風味が良好であるものが多いが、液状栄養組成物の粘度が高くなる傾向にある。一方、分子量の小さいタンパク質は、水への溶解度が高いため風味は良好でないものが多いが、液状栄養組成物中に添加しても比較的粘度は低い。本発明はこれらのどちらも用いることができるが、粘度が高くなく風味が良好とするためには、分子量の大きいタンパク質と、分子量の小さいタンパク質の併用がより好ましい。
分子量の大きいタンパク質と、分子量の小さいタンパク質を併用する場合は、両者を質量比で1:10~10:1の割合となるように配合することが好ましく、1:1の割合となるように配合することがより好ましい。
【0020】
分子量の大きいタンパク質の重量平均分子量としては、好ましくは15000~150000である。下限値としては、より好ましくは17000以上であり、さらに好ましくは20000以上である。上限値としては、より好ましくは120000以下であり、より好ましくは100000以下である。
分子量の大きいタンパク質としては、特に限定されないが、好ましくは乳タンパク質である。
【0021】
分子量の小さいタンパク質の重量平均分子量としては、好ましくは200~15000である。下限値としては、より好ましくは200以上であり、さらに好ましくは500以上である。上限値としては、より好ましくは13000以下であり、より好ましくは12000以下である。
分子量の小さいタンパク質としては、特に限定されないが、好ましくはコラーゲンを酵素処理で分解し、低分子化したコラーゲンペプチドである。
【0022】
本発明の液状栄養組成物においてタンパク質は、2.0~12.0質量%含有することを特徴とする。上限値としては、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは8質量%以下である。
液状栄養組成物においてタンパク質の含有量が、2質量%を下回ると栄養素としての価値が低くなり、12質量%より多いとタンパク質特有の風味が強く出てしまい、また、粘度も高くなってしまう。
【0023】
<(C)液状油脂>
本発明の液状栄養組成物は液状油脂を含有することを特徴とする。本発明に用いる液状油脂は、食用に用いることができる油脂であれば特に限定されないが、好ましくは、MCT(中鎖脂肪酸油)、大豆油、菜種油、コーン油、紅花油、食用ひまわり油、ごま油、綿実油、こめ油、オリーブ油、やし油、パーム油、えごま油、しそ油、牛脂、豚脂、魚油等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を選択して用いることができる。ここで、液状油脂とは、融点が20℃以下の油脂である。なお融点は、基準油脂分析試験法「2.2.4.2 融点(上昇融点)」に準じて測定した。
液状油脂を添加することで液状栄養組成物のコクを向上させることができる。さらに乳化性のあるタンパク質を用いた場合、液状油脂とタンパク質とで乳化させることにより、液状栄養組成物中にタンパク質を安定的に分散することができる。
また、油脂等の脂質は体内で消化されると9kcal/gのエネルギーに変換されるため、4kcal/gのエネルギーとなる炭水化物やタンパク質と比較して、エネルギー摂取効率の高い栄養素とすることができる。
【0024】
さらに、本発明の液状栄養組成物は液状油脂の中でも、MCTを含有させることがより好ましい。
MCTは体内で水溶性の中鎖脂肪酸に分解された後、小腸で吸収され、門脈系から直接肝臓に移行し代謝される。よって、MCTは長鎖脂肪酸油脂と比較し、速やかにエネルギーへ変換されるため、本発明の液状栄養組成物において、よりエネルギー変換効率に優れた液状栄養組成物とすることができる。
さらに、MCTの中でも、炭素原子数8又は10の中鎖脂肪酸を含むMCTを用いることがより好ましい。
【0025】
本発明の液状栄養組成物において液状油脂の含有量は、特に限定されないが、例えば、1~30質量%である。上限値としては、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下である。液状油脂の含有量をこの範囲とすることにより、乳化安定性に優れた液状栄養組成物を得ることができる。また、本発明の液状栄養組成物に液状油脂を含有させることで、液状栄養組成物を長期保管する際におけるタンパク質の沈殿を抑制することができる。
【0026】
<その他の原材料>
本発明の液状栄養組成物は、上記の必須成分以外に、必要に応じて油脂、乳化剤、炭水化物、増粘多糖類、ミネラル、ビタミン、果汁、香料、色素等を、更に含むことができる。
【0027】
<乳化剤>
本発明の液状栄養組成物には乳化剤を用いることができる。本発明で使用できる乳化剤は食用に用いることができる乳化剤であれば特に限定はされない。例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステル、モノグリセリド、有機酸モノグリセリド、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタンエステル、プロピレングリコールエステル、レシチンなどが挙げられ、これらを1種又は2種以上、自由に選択して用いることができる。乳化剤は、乳化性のあるタンパク質と共に乳化を安定化する作用を有し、タンパク質と相乗的に乳化を安定化するという観点から、好ましくは、レシチンである。
【0028】
本発明の液状栄養組成物における乳化剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.01~3質量%である。下限値としては、好ましくは0.03質量%以上であり、より好ましくは0.05質量%以上である。上限値としては、好ましくは2質量%以下であり、より好ましくは2質量%以下であり、更に好ましくは1質量%以下である。乳化剤の含有量を増加すると、乳化安定性が向上し、乳化剤の含有量を低下すると、風味を向上するという効果がある。
【0029】
<糖質>
本発明の液状栄養組成物には炭水化物を用いることができる。本発明で使用できる炭水化物は食用に用いることができるものであれば特に限定はされない。例えばセルロース、澱粉、デキストリン、砂糖、ぶどう糖、果糖、乳糖、ソルビトール、マルチトール、還元水飴、アスパルテーム、アセスルファムK、スクラロース、ステビア、ネオテーム、ソーマチン、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、大麦βグルカン等が挙げられ、これらを1種又は2種以上、自由に選択して用いることができる。本発明では高エネルギー化のためには、甘味の弱いデキストリン、及び甘味付けのために高甘味度甘味料を使用することが望ましく、高甘味度甘味料は味質の種類よりスクラロースがさらに望ましい。
【0030】
<pH調整剤>
本発明の液状栄養組成物にはpH調整剤として塩基を用いることができる。本発明で使用できる塩基は食用に用いることができるものであれば特に限定はされない。例えば、炭酸カリウム類、炭酸ナトリウム類、リン酸カリウム類、リン酸ナトリウム類、クエン酸カリウム、クエン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられ、これらを1種又は2種以上、自由に選択して用いることができる。本発明では少量で中和できることから水酸化カリウム、水酸化ナトリウムを用いることが望ましい。
【0031】
本発明の液状栄養組成物におけるpH調整剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.01~3質量%である。下限値としては、好ましくは0.02質量%以上である。上限値としては、好ましくは2質量%以下であり、より好ましくは1質量%以下であり、更に好ましくは0.8質量%以下であり、特に好ましくは0.5質量%以下である。この範囲とすることにより、HMB類特有の風味やタンパク質の渋みを抑制し、かつ、爽やかな酸味を有する液状栄養組成物を得ることができる。
【0032】
<増粘多糖類>
本発明の液状栄養組成物には増粘多糖類を用いることができる。本発明で使用できる増粘多糖類は食用に用いることができるものであれば特に限定はされない。例えば、カラギナン、寒天、アルギン酸、ペクチン、ローカストビーンガム、タマリンドガム、サイリウムシードガム、アラビアガム、グルコマンナン、ゼラチン、キサンタンガム、ジェランガム、カードラン、プルラン、スクシノグリカン、セルロース、MC、CMC、HPMC等が挙げられ、これらを1種又は2種以上、自由に選択して用いることができる。本発明では、水に不溶性の原料を配合した場合に、その粒子の分散のために使用され、配合量に対し粘度が上昇しにくいセルロース、CMCが好ましい。
【0033】
本発明の液状栄養組成物における増粘多糖類の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.01~3質量%である。下限値としては、好ましくは0.03質量%以上である。上限値としては、好ましくは2質量%以下であり、より好ましくは1質量%以下であり、更に好ましくは0.7質量%以下であり、特に好ましくは0.5質量%以下である。この範囲とすることにより、不溶性粒子を安定的に分散させることができる。
【0034】
<用途>
本発明の液状栄養組成物は、粉末状の形態として食品に用いることや、そのまま飲料として使用することができる。
【0035】
[液状栄養組成物の製造方法]
本発明の液状栄養組成物は、調合工程、充填工程を行うことにより製造することができる。必要に応じて調合工程の後に均質化工程、殺菌工程を行っても良い。
【0036】
<調合工程>
調合工程は水にそれぞれの原材料を溶解する工程であり、タンクの上部から原材料を投入しプロペラ攪拌により溶解させるか、溶けにくい原材料の場合は高速攪拌機もしくはパウブレンダーのような溶解ポンプで溶解させる。このときの水温は25~80℃が好ましく、より好ましくは40~70℃、最も好ましくは40~60℃である。水温を高めると原材料を効率的に溶解することができる。さらにそのあとの均質化工程を行う場合において、送液する際に加温すると、均質化機で乳化粒子を効率的に微細化することができる。一方、水温を低くすると、ビタミンや魚油などの熱分解しやすい成分に劣化を抑制し、栄養成分などの品質を向上することができる。
この調合工程において、調合液(混合物)のpHが5.0~7.0の範囲内になるように、HMB、HMBのナトリウム塩又はHMBのカリウム塩を溶解した水溶液を予め1価の塩基で中和する。
【0037】
<均質化工程>
均質化工程は乳化粒子の微細化を行うために、高速ホモミキサー、ゴーリン式ホモジナイザー(低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー)、マイクロフルイダイザーなどの均質化機が用いられるが、均質化能力や処理能力や製造コストから、高圧ホモジナイザーが好ましく用いられる。均質化圧力は0.5~150MPaが好ましく、より好ましくは1~100MPa、最も好ましくは10~80MPaである。
【0038】
<殺菌工程>
殺菌工程は、ボイル殺菌、レトルト殺菌、UHT殺菌などの加熱殺菌が用いられるが、風味や栄養成分の劣化を考慮するとUHT殺菌が好ましい。UHT殺菌には直接方式と間接方式があり、間接方式にはプレート式とチューブラー式がある。直接方式は風味や栄養成分の劣化に対し特に効果を発揮するため最も好ましい。また、油脂を添加する場合には、乳化粒子の粗大化を抑制し、乳化安定性を向上するという観点から、間接方式が好ましい。UHT殺菌では、140℃1~10秒の処理をすることが望ましい。
【0039】
<充填工程>
充填工程は、ボイル殺菌やレトルト殺菌の場合は殺菌前に密封容器に充填し、UHT殺菌の場合は殺菌後に無菌的に密封容器に充填する。密封容器は、ボイル殺菌やレトルト殺菌の場合は、缶やアルミパウチやソフトバッグ容器などの軟包材が挙げられ、UHT殺菌の場合は飲料用紙製容器などが挙げられる。本発明の液状栄養組成物の酸化を抑制するために、ソフトバッグ容器などの軟包材の場合は、ポリ塩化ビニリデンコートや酸化アルミ(アルミナ)系透明蒸着やシリカ系透明蒸着フィルムが好ましい。また飲料用紙製容器の場合はストリップテープからの酸素透過があるため、MPMストリップテープよりもMSEストリップテープが好ましい。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
まず、各例における評価法を示す。
(pH)
実施例及び比較例において、液状栄養組成物のpHは、液状栄養組成物の製造時のpH調整に際して、株式会社堀場製作所pHメーターM-13により測定した。
(性状)
本発明の液状栄養組成物の性状は、殺菌後及び60℃3日保存後(室温6ヶ月に相当)に目視にて確認を行った。完全に液体状のものは「液状」、一部でも凝集を起こしたものは「凝集」、一部でもタンパク質の沈殿が発生したものは「沈殿」とし、「凝集」を液状栄養組成物に適さないものとして不可とした。
【0041】
(官能試験)
本発明の液状栄養組成物の官能試験は、殺菌後及び60℃3日保存後(室温6ヶ月に相当)に20~50歳のパネラーA~Fの6名によって行い、6名の評価の平均値をスコアとした。官能試験の評価項目は、「HMB類特有の風味」、「苦味」とし、以下のとおりに評価した。なお、殺菌後にタンパク質の凝集や沈殿が生じた試験例については評価しなかった。
【0042】
<HMB類特有の風味の評価>
HMB類特有の風味について、以下の基準により評価した。
基準:
HMB類特有の好ましくない臭味や後味が全く感じられないものは「1」、ややHMB類特有の好ましくない臭味や後味を感じられるものは「2」、口に入れた直後に好ましくない臭味や後味を顕著に感じられるものは「3」の3段階評価とし、スコアが「2.6以上」の場合を液状栄養組成物に適さないものとして不可とした。
【0043】
<苦味の評価>
苦味について、以下の基準により評価した。
基準:
全く苦味が感じられないものは「1」、やや苦味を感じられるものは「2」、口に入れた直後に顕著に苦味を感じるものは「3」の3段階評価とし、スコアが「2.6以上」の場合を液状栄養組成物に適さないものとして不可とした。
【0044】
(粘度)
液状栄養組成物の粘度は、殺菌後及び60℃3日保存後に、ブルックフィールドエンジニアリングラボラトリーズ社製B型粘度計を使用し、BLローターの回転数30rpm、1分間の条件で行った。その結果、100mPa・sを超えるものは不可とした。なお、凝集や分離が生じた試験例については評価しなかった。
【0045】
<実施例1~16>
表1に示す配合及び表3に示す製造条件に従って、液状栄養組成物を調製した。また、各パネラー6名の評価の平均値をスコアとして、表1に示す。
具体的には、実施例1~15では、HMB、タンパク質として、乳タンパク質及びコラーゲンペプチド、MCT、レシチン、スクラロース、バナナフレーバーを総重量2000gとなるように50℃の温水に溶解させた。その際、実施例1~14、16では、水酸化ナトリウムを含有させ、実施例15では、水酸化カリウムを含有させてpHが5.0~7.0の範囲内になるようにした。これを50℃に保持したまま、均質化圧60MPaで2回処理した。常温まで冷却させたのちに100gずつアルミパウチに密封充填し、122℃6分でボイル殺菌した。(製造条件(A))
また、実施例16では、実施例7と同様の配合にて、ボイル殺菌に代えて、140℃2秒でUHT殺菌(間接方式)を行った。(製造条件(B))
【0046】
【0047】
実施例1~16の液状栄養組成物の結果から、(A)HMB遊離酸を0.10~1.0質量%、(B)タンパク質を2.00~12.00質量%、(C)液状油脂を含有し、pHを5.0~7.0に調整することにより、HMB類を含有するにもかかわらず、HMB類の好ましくない風味を感じない液状栄養組成物が得られた。また、(B)タンパク質として、乳タンパク質とコラーゲンペプチドを併用することでタンパク質を高濃度に含有しながら、より低粘度であり、風味にタンパク質特有の苦味を感じにくくする効果があることが分かった。
また、60℃3日保存後にも、状態がほとんど変わらず、安定性に優れることが分かった。さらに、実施例7と16を対比すると、ボイル殺菌、UHT殺菌のいずれの殺菌方法でもほとんど変わらない液状栄養組成物となることから、いずれの殺菌方法も使用できるという効果も認められた。
【0048】
<比較例1~7>
表1~7に示す配合及び表3に示す製造条件に従って、液状栄養組成物を調製した。比較例1~7における製造条件は、実施例1~16と同様、(A)の製造条件で行った。また、各パネラー6名の評価の平均値をスコアとして、表2に示す。
【0049】
【0050】
表2の結果より、比較例1では、実施例1より乳タンパク質の含有量を増加させた。その結果、タンパク質の含有量が12.0質量%を超えるため、60℃3日保存後に増粘してしまい、液状栄養組成物としては使用不可であった。比較例2においては、実施例4よりコラーゲンペプチドの含有量を増加させたところ、タンパク質特有の苦味を強く感じ使用不可であった。
比較例3では、実施例7よりHMBの含有量を増加させたところ、遊離酸としてのHMBの含有量が1.0質量%を超えるため、HMB類特有の風味を強く感じ使用不可であった。また、粘度も高くなる傾向にあった。また、比較例3よりさらに遊離酸としてのHMBの含有量を増加させ、pHが7.0以上である比較例4では、殺菌後に凝集してしまい使用不可であった。
比較例5においては、pH調整剤としての水酸化ナトリウム等を添加しなかったためpHが5.0未満となり、殺菌後にタンパク質が等電点凝集してしまい使用不可であった。また、比較例6においては、HMB類としてHMBのカルシウム塩(HMB-Ca)を用いたところ、殺菌後にタンパク質が凝集してしまい使用不可であった。さらに比較例7は、(C)液状油脂を添加しない例であるが、60℃3日後にタンパク質の沈殿が発生してしまい長期保管出来ないことがわかった。
【0051】