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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】制動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 7/12 20060101AFI20230530BHJP
【FI】
B60T7/12 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019021465
(22)【出願日】2019-02-08
(65)【公開番号】P2020128148
(43)【公開日】2020-08-27
【審査請求日】2022-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】寺川 浩史
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-071790(JP,A)
【文献】特開2009-262766(JP,A)
【文献】特開2007-246051(JP,A)
【文献】特開2018-122698(JP,A)
【文献】特開2006-232094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
B60T 8/32-8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータの作動によって車両に制動力を付与する制動装置に適用され、
前記車両が登坂路で停止しているときに、前記アクチュエータの作動によって前記車両に制動力を付与することで当該登坂路での前記車両の停止を保持する車両保持制御を実施する制動制御装置であって、
前記車両保持制御の実施中にアクセル操作が開始されたか否かを判定するアクセル操作判定部と、
前記アクセル操作判定部によってアクセル操作が開始されたと判定されたアクセル操作開始時点から規定時間が経過した時点から、前記車両保持制御により付与されている制動力を低下させる制動力低下制御を実施する制動制御部と、を備え
前記アクセル操作判定部は、アクセル操作による前記車両の駆動力の増加によって当該駆動力が規定の駆動判定値以上になったときに、アクセル操作が開始されたと判定し、
前記アクセル操作開始時点から前記規定時間が経過するまでの間において前記駆動力が前記駆動判定値よりも小さい値である駆動下限値よりも小さくなった場合に、前記制動制御部による前記制動力低下制御を制限する制限部を備える
制動制御装置。
【請求項2】
前記制動制御部は、前記車両保持制御の実施中のアクセル操作による前記車両の駆動力の増加速度が大きいほど、前記制動力低下制御における前記制動力の低下速度を大きくする
請求項に記載の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
坂路を登る車両が停止したとき、坂路で車両が停止している状態を保持する車両保持制御を実施する制動制御装置が知られている。車両保持制御によれば、車両の運転者によってブレーキ操作が解消されても車両への制動力の付与によって当該車両が坂路で停止する状態を保持することができる。たとえば特許文献1に開示されている制動制御装置では、車両保持制御の実施によって、坂路の勾配に応じた車両の後退力と車両の駆動力とに基づいて、車両の後退を抑制できるように制動力が車両に付与される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-69102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
運転者のアクセル操作によって車両を発進させる際には、車両保持制御を終了させて車両の制動力が減少される。この際、車両保持制御を終了させるタイミングが遅れると、車両の発進を妨げる力として制動力が作用してしまう。この場合、駆動力が入力される車輪と一体回転するブレーキディスクなどの回転体、及び回転体に押し付けられているパッドなどの摩擦材への負荷が大きくなる虞があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための制動制御装置は、アクチュエータの作動によって車両に制動力を付与する制動装置に適用され、前記車両が登坂路で停止しているときに、前記アクチュエータの作動によって前記車両に制動力を付与することで当該登坂路での前記車両の停止を保持する車両保持制御を実施する制動制御装置であって、前記車両保持制御の実施中にアクセル操作が開始されたか否かを判定するアクセル操作判定部と、前記アクセル操作判定部によってアクセル操作が開始されたと判定されたアクセル操作開始時点から規定時間が経過した時点から、前記車両保持制御により付与されている制動力を低下させる制動力低下制御を実施する制動制御部と、を備えることをその要旨とする。
【0006】
車両保持制御の実施によって登坂路で車両が停止している状態が保持されているときにアクセル操作が開始された場合、運転者には車両を発進させる意図があると推定できる。上記構成によれば、アクセル操作が開始された場合、車両を発進させる意図が運転者にあると判断できるため、アクセル操作が開始されてから規定時間の経過をもって制動力低下制御が実施される。制動力低下制御の実施によって、車両保持制御により付与されている制動力が低下される。これによって、車両を発進させる意図が運転者にあるときには、車両への制動力の付与の解消が遅れることを抑制できる。つまり、車両の発進を妨げる力として制動力が作用する事象が生じにくくなる。その結果、駆動力が入力される車輪と一体回転する回転体、及び回転体に押し付けられる摩擦材に大きな負荷が加わることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】制動制御装置の一実施形態と同制動制御装置が制御する制動装置を示す模式図。
図2】車両保持制御を開始させる際に同制動制御装置で実行される処理の流れを示すフローチャート。
図3】車両保持制御の実行中にアクセル操作が開始されたか否かを判定する際に同制動制御装置で実行される処理の流れを示すフローチャート。
図4】車両保持制御を終了して制動力低下制御を開始する際に同制動制御装置で実行される処理の流れを示すフローチャート。
図5】同制動制御装置が実行する制動力低下制御に関して、アクセル開度と圧抜き速度との関係を示す図。
図6】同制動制御装置において、車両保持制御及び制動力低下制御が実行される場合のタイミングチャート。
図7】制動制御装置の変更例において、車両保持制御を終了して制動力低下制御を開始する際における処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、制動制御装置の一実施形態である制御装置10について、図1図6を参照して説明する。
図1に示すように、車両に搭載される制御装置10は、車両の制動装置20を制御対象としている。制動装置20は、車両の運転者が操作するブレーキペダルを通じて入力される制動操作力に基づいて、車両に設けられている複数の車輪41に制動力を付与する。図1には、車輪41のうちの一つを示している。制動装置20は、制動操作力が入力されるマスタシリンダと、マスタシリンダからブレーキ液が供給されるアクチュエータ21と、を備えている。マスタシリンダは、制動操作力に応じた液圧を発生させる。アクチュエータ21は、各車輪41に設けられているホイールシリンダ22に接続されており、各ホイールシリンダ22にブレーキ液を供給する。ホイールシリンダ22内の液圧である液圧BPを利用することによって、車輪41と一体回転する回転体に摩擦材が押し付けられる。そのため、制動装置20では、液圧BPが高いほど大きな制動力を車輪41に付与することができる。
【0009】
また、本実施形態の車両は、車両の駆動源である内燃機関と、変速機と、内燃機関と変速機との間に配置されているクラッチと、運転者によって操作されるクラッチペダルと、を備えている。クラッチペダルが操作されていないためにクラッチが係合されているときには、駆動源から変速機にクラッチを通じて駆動力が伝達される。一方で、クラッチペダルが操作されているためにクラッチが離間しているときには、駆動源から変速機への駆動力の伝達がクラッチによって遮断される。
【0010】
制御装置10には、車両が備えるセンサ及び外部装置からの信号が入力される。図1には、センサ及び外部装置として、車輪速度センサ31とアクセル開度センサ32とブレーキスイッチ33と前後加速度センサ34と車重推定装置35とを示している。
【0011】
制御装置10は、車輪速度センサ31からの検出信号に基づいて車両の各車輪41について車輪速度を算出する。制御装置10は、車輪速度に基づいて車速VSを算出する。
制御装置10は、アクセル開度センサ32からの検出信号に基づいて、アクセルペダルの操作量としてアクセル開度Accを算出する。制御装置10は、アクセル開度Accに基づいて駆動力Gを算出する。制御装置10は、車両の駆動源を制御するための要求値として駆動力Gを用いる。
【0012】
制御装置10は、ブレーキスイッチ33からの検出信号に基づいてブレーキペダルが操作されているか否かを判定する。ブレーキスイッチ33は、ブレーキペダルが操作されているときにオンの信号を出力する。
【0013】
制御装置10は、前後加速度センサ34からの検出信号に基づいて、車両に作用している前後方向の加速度を検出する。車両が停止している場合、前後方向の加速度は、車両が停止している路面の勾配に応じた値となる。そのため、制御装置10は、車両が停止している場合、前後方向の加速度に基づいて、車両が停止している路面の勾配を坂路勾配θとして算出する。坂路勾配θは、路面が水平であれば「0」として、路面が登坂路であれば正の値として、路面が降坂路であれば負の値として算出される。
【0014】
車重推定装置35は、車両の総重量Wを推定する装置である。車両の総重量Wとは、車体の重量と、車両の乗員の重量の合計と、車両に積載されている荷物の重量との総和のことである。車重推定装置35は、たとえば、車両の座席が備える着座センサや車室の状態を確認するカメラによって構成されている。車重推定装置35は、車両への乗員の乗り降り及び荷物の積載を検知することによって車両の総重量Wを推定し、制御装置10に車両の総重量Wを出力する。
【0015】
制御装置10は、機能部として制動制御部11とアクセル操作判定部12とを備えている。
制動制御部11は、制動装置20のアクチュエータ21を制御して車両に付与する制動力を調整する。さらに、制動制御部11は、実行条件が成立しているか否かを判定し、実行条件の成立をもって車両保持制御の実施を開始する。車両保持制御は、坂路を登る車両が停止したとき、車両に付与される制動力を確保して登坂路で車両が停止している状態を保持する制御である。車両保持制御の実行条件及び車両保持制御の詳細については後述する。また、制動制御部11は、車両保持制御を終了すると、制動力低下制御又は保持解消制御を実施することによって制動力の保持を解消して、車両保持制御によって制動力が保持されているときよりも制動力を小さくする。制動力低下制御及び保持解消制御の詳細については後述する。
【0016】
なお、車両保持制御及び制動力低下制御及び保持解消制御の実施中においてブレーキペダルの操作が検出されると、制動制御部11は、実施中の制御を終了する。そして、制動制御部11は、制動操作力に対応した制動力が車両に付与されるようにアクチュエータ21を制御する。
【0017】
アクセル操作判定部12は、車両保持制御の実施中においてアクセル操作が開始されたか否かを判定する。具体的には、運転者のアクセル操作による駆動力Gの増加によって駆動力Gが駆動判定値G0以上になったときにアクセル操作が開始されたと判定する。すなわち、アクセルペダルが操作されていても駆動力Gが駆動判定値G0よりも小さいときには、アクセル操作が開始されたと判定されない。駆動判定値G0は、車両保持制御の実施中において車両の運転者に車両を発進させる意図があるか否かを判定するための値として予め設定されている。駆動判定値G0は、アクセルペダルが操作され始めたばかりであり駆動力Gに基づいて駆動源から出力される駆動力が未だ小さい場合にアクセル操作が開始されていないと判定できるような値に設定されている。
【0018】
図2図4を参照して、制御装置10で実行される車両保持制御に関する処理ルーチンについて説明する。
図2に示す処理の流れは、車両保持制御が未だ開始されていない場合に、所定周期毎に制動制御部11によって繰り返し実行される。本処理ルーチンが実行されると、まずステップS101において、車両保持制御の実行条件が成立しているか否かが判定される。ここでは、坂路勾配θが正の値であること、及び車速VSが「0」であり車両が停止していると判定できることの双方が成立しているときに、ブレーキ操作がオンからオフにされた場合に実行条件が成立したと判定される。実行条件が成立していない場合(S101:NO)、本処理ルーチンが一旦終了される。一方、実行条件が成立している場合(S101:YES)、処理がステップS102に移行される。
【0019】
ステップS102では、制動制御部11によって、液圧BPの目標値として第1保持圧BPT1が設定される。制動制御部11は、アクチュエータ21の作動によってホイールシリンダ22の液圧BPを第1保持圧BPT1に保持する。第1保持圧BPT1としては、たとえば、ブレーキ操作がオンからオフにされた時点での液圧BPの値が用いられる。そのため、液圧BPが第1保持圧BPT1で保持される場合、登坂路で車両が停止している状態を保持できる。すなわち、ステップS102において制動制御部11は、車両保持制御の実施を開始する。その後、処理がステップS103に移行される。
【0020】
ステップS103では、車両保持制御が開始されてからの経過時間である保持時間TI1のカウントが開始される。保持時間TI1の初期値は「0」である。保持時間TI1は、車両保持制御の終了時に初期化される。保持時間TI1のカウントが開始されると、本処理ルーチンが終了される。
【0021】
図3に示す処理の流れは、液圧BPの目標値として第1保持圧BPT1が設定されているときに制御装置10によって繰り返し実行される。本処理ルーチンが実行されると、まずステップS201において、アクセル操作判定部12によって、駆動力Gが駆動判定値G0以上であるか否かが判定される。すなわち、アクセル操作判定部12は、駆動力Gと駆動判定値G0とを比較することによって、車両保持制御の実施中においてアクセル操作が開始されたか否かを判定する。駆動力Gが駆動判定値G0よりも小さい場合(S201:NO)、アクセル操作が開始されていないと判断できるため、処理がステップS204に移行される。
【0022】
ステップS204では、保持時間TI1が制限時間Tth1以上であるか否かが判定される。制限時間Tth1は、車両保持制御の実行条件が成立して車両保持制御が開始されてから、液圧BPを第1保持圧BPT1で保持する状態を継続する時間の最大値として予め設定されている。制限時間Tth1は、たとえば2秒に設定されている。制限時間Tth1の長さは、規定の値で固定してもよいし、可変させてもよい。保持時間TI1が制限時間Tth1よりも短い場合(S204:NO)、本処理ルーチンが一旦終了される。一方、保持時間TI1が制限時間Tth1以上である場合(S204:YES)、処理がステップS205に移行される。ステップS205では、制動制御部11によって車両保持制御が終了される。そして、制動制御部11は、液圧BPを低下させて制動力を低下させる保持解消制御の実施を開始する。たとえば、保持解消制御では、液圧BPを予め設定されている所定速度で低下させる。その後、本処理ルーチンが終了される。
【0023】
一方、ステップS201の処理において駆動力Gが駆動判定値G0以上である場合(S201:YES)、アクセル操作が開始されたと判断できるため、処理がステップS202に移行される。ステップS202では、アクセル操作が開始されたと判定された時点からの経過時間である待機時間TI2のカウントが開始される。待機時間TI2の初期値は「0」である。待機時間TI2は、車両保持制御の終了時に初期化される。待機時間TI2のカウントが開始されると、処理がステップS203に移行される。ステップS203では、制動制御部11によって、液圧BPの目標値が第2保持圧BPT2に変更される。制動制御部11は、第1保持圧BPT1よりも小さく保持閾値BPthよりも大きい値として第2保持圧BPT2を算出する。保持閾値BPthは、坂路勾配θの坂路に車両が停止しているときにおける車両の後退力と釣り合う制動力に対応する液圧BPとして制動制御部11によって算出される。保持閾値BPthは、坂路勾配θが大きい、すなわち登坂路が急勾配であるほど大きい値として算出される。そのため、液圧BPが保持閾値BPth以上である場合には車両が登坂路に停止している状態を保持することができる。制動制御部11は、車両の総重量Wが重いほど第2保持圧BPT2と保持閾値BPthとの差分が大きくなるように、第2保持圧BPT2を算出する。液圧BPの目標値として第2保持圧BPT2が設定されると、本処理ルーチンが終了される。
【0024】
図4に示す処理の流れは、液圧BPの目標値として第2保持圧BPT2が設定されているときに制動制御部11によって繰り返し実行される。本処理ルーチンが実行されると、まずステップS301において、駆動力Gが駆動閾値Gth以上であるか否かが判定される。駆動閾値Gthは、坂路勾配θの坂路に車両が停止しているときにおける車両の後退力の反力として算出される。駆動閾値Gthは、上記の駆動判定値G0よりも大きい値である。駆動閾値Gthは、坂路勾配θが大きいほど、すなわち登坂路が急勾配であるほど大きい値として算出される。クラッチが係合されており、且つ駆動源から出力される駆動力が駆動閾値Gthと等しい場合には、車両の制動力が「0」であっても車両が登坂路に停止している状態の保持が可能である。すなわち、駆動閾値Gthは、当該後退力と釣り合う駆動力に相当する。駆動力Gが駆動閾値Gthよりも小さい場合(S301:NO)、処理がステップS303に移行される。一方、駆動力Gが駆動閾値Gth以上である場合(S301:YES)、処理がステップS302に移行される。
【0025】
ステップS303では、上記の待機時間TI2が猶予時間Tth2以上であるか否かが判定される。猶予時間Tth2は、規定時間の一例である。猶予時間Tth2は、車両保持制御の実施中においてアクセル操作が開始されたと判定された時点から液圧BPを第2保持圧BPT2に保持した状態の解消を開始するまで待機する時間の最大値として予め設定されている。
【0026】
なお、制御装置10を搭載する車両は、運転者によるクラッチペダルの操作によって、駆動源から変速機への動力伝達を許可したり遮断したりすることのできる、いわゆるMT車である。そのため、車両を発進させる場合、運転者は、クラッチペダルを操作しつつ、アクセルペダルを操作することとなる。このため、当該車両では、クラッチペダルを備えていない車両の発進時と比較して、アクセル操作が開始されてから車両を発進させるまでに要する時間が長くなりやすい。本実施形態では、猶予時間Tth2は、MT車においてアクセル操作が開始されてから車両を発進させるまでに要する時間に相当する値に設定されている。猶予時間Tth2は、たとえば2秒に設定されている。猶予時間Tth2の長さは、規定の値で固定してもよいし、可変させてもよい。猶予時間Tth2を可変とする場合、たとえば、坂路勾配θに基づいて猶予時間Tth2を可変させてもよい。
【0027】
ステップS303において、待機時間TI2が猶予時間Tth2よりも短い場合(S303:NO)、本処理ルーチンが一旦終了される。この場合、車両保持制御の実施が継続される。一方、待機時間TI2が猶予時間Tth2以上である場合(S303:YES)、処理がステップS302に移行される。
【0028】
ステップS302では、制動制御部11によって車両保持制御が終了される。そして、制動制御部11は、液圧BPを低下させて、車両保持制御によって付与された制動力を低下させる制動力低下制御の実施を開始する。制動力低下制御では、アクセル開度Accが大きいほど制動力の低下速度が大きくされる。このときの制動力の低下速度は、圧抜き速度DSによって制御される。圧抜き速度DSは、アクセル開度Accと圧抜き速度DSとの関係が記憶されているマップに基づいて設定される。このマップは、制動制御部11に記憶されている。図5には、アクセル開度Accと圧抜き速度DSとの関係の一例を示している。圧抜き速度DSは、アクセル開度Accが「0」であるときの「S1」を最低値として、アクセル開度Accが大きいほど大きく設定される。制動制御部11は、設定した圧抜き速度DSに基づいて、圧抜き速度DSが大きいほど制動力の低下速度が大きくなるように液圧BPを早く減少させる。すなわち、駆動力Gの増大速度が大きいほど制動力の低下速度が大きくされる。
【0029】
ステップS302において制動力低下制御の実施が開始されると、本処理ルーチンが終了される。
本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0030】
図6を参照して、制御装置10による処理が実行された場合の車両の状態について説明する。図6に示す例では、タイミングt1よりも前の期間において、運転者によるブレーキペダルの操作に対応した制動力が車両に付与されており、車両は登坂路に停止している。図6に示す期間において路面の坂路勾配θは、一定の勾配θ1である。
【0031】
タイミングt1においてブレーキペダルの操作が解消されると、車両保持制御の実行条件が成立するため、車両保持制御が開始される(S102)。これによって、液圧BPの目標値が第1保持圧BPT1に設定され、実線で示すように液圧BPが保持される。
【0032】
タイミングt2では、運転者がアクセルペダルを操作し始める。これに伴って駆動力Gの増加が開始される。タイミングt2からタイミングt3までの期間では、駆動力Gが駆動判定値G0よりも小さいため、アクセル操作が開始されたとは判定されない。タイミングt3において駆動力Gが駆動判定値G0に達すると、アクセル操作が開始されたと判定されるため、液圧BPの目標値が第2保持圧BPT2に変更される(S203)。なお、タイミングt1からタイミングt3までの期間は、制限時間Tth1よりも短い。
【0033】
図6に示す例では、第2保持圧BPT2は、第1保持圧BPT1よりも低い値である。そのため、タイミングt3で液圧BPの目標値が第1保持圧BPT1から第2保持圧BPT2に変更されると、実線で示すように液圧BPが低下を始める。そして、タイミングt4において液圧BPが第2保持圧BPT2まで低下すると、タイミングt4以降では液圧BPが保持される。
【0034】
タイミングt5では、タイミングt2以降において増加し続ける駆動力Gが駆動閾値Gthに達する。駆動力Gが駆動閾値Gth以上であると判定されると、車両保持制御が終了されて制動力低下制御の実施が開始される(S302)。アクセル開度Accに応じて設定される圧抜き速度DSに基づいて液圧BPが低下され、タイミングt7において液圧BPが「0」となる。なお、タイミングt3からタイミングt5までの期間は、猶予時間Tth2よりも短い。
【0035】
このように、制御装置10によれば、車両保持制御の実施中においてアクセル操作が開始されたと判定されてから駆動力Gが駆動閾値Gthに達するまでの期間では、液圧BPの目標値が第2保持圧BPT2に保持される。車両のクラッチが係合して駆動源から変速機に駆動力が伝達されるようになるまで液圧BPを第2保持圧BPT2に保持することができるため、クラッチが係合する前に車両が後退してしまうことを抑制できる。
【0036】
また、制御装置10では、制動力低下制御において、アクセル開度Accが大きいほど圧抜き速度DSが大きくされる。すなわち、駆動力Gの増加速度が大きいほど制動力の低下速度が大きくされる。アクセル開度Accの増加速度が大きく駆動力Gの増加速度が大きい場合には、運転者が速やかな車両の発進を望んでいると推定できる。そして、アクセル操作が開始された以降では、制動力の低下速度が大きいほど、制動力によって車両の発進が妨げられにくくなる。つまり、アクセルペダルを操作する運転者の意図を汲んで制動力を低下させることができ、車両をなめらかに発進させることができる。
【0037】
さらに、制御装置10によれば、アクセル操作が開始されたと判定されるアクセル操作開始時点であるタイミングt3から猶予時間Tth2が経過しても駆動力Gが駆動閾値Gthよりも小さい場合には、ステップS303の処理によって、開始時点から猶予時間Tth2が経過した時点において、制動力低下制御の実施が開始される。
【0038】
車両保持制御の実施によって登坂路で車両が停止している状態が保持されているときにアクセル操作が開始された場合、運転者には車両を発進させる意図があると推定できる。制御装置10によれば、アクセル操作が開始されたと判定された場合、運転者に車両を発進させる意図があると判断できるため、アクセル操作が開始された時点から猶予時間Tth2の経過をもって車両保持制御が終了される。そして、制動力低下制御の実施によって車両の制動力が解消される。これによって、車両を発進させる意図が運転者にあるときには、車両への制動力の付与の解消が遅れることを抑制できる。つまり、車両の発進を妨げる力として制動力が作用する事象が生じにくくなる。その結果、駆動力が入力される車輪41と一体回転する回転体、及び回転体に押し付けられる摩擦材に大きな負荷が加わることを抑制できる。また、車両への制動力の付与の解消の遅延を抑制することによって、車両の発進時に運転者に与えうる引きずり感を軽減することができる。
【0039】
なお、本実施形態によれば、以下に示す効果をさらに得ることができる。
制御装置10が搭載される車両はいわゆるMT車である。そのため、上述したようにアクセル操作が開始されてから車両を発進させるまでに要する時間が長くなりやすい。本実施形態では、当該時間に応じた値に猶予時間Tth2が設定されている。その結果、駆動源である内燃機関が失火を起こすことなく内燃機関から出力される駆動力Gを変速機に伝えることができるように、アクセルペダル及びクラッチペダルを運転者が操作している間に、車両の制動力の低下が開始されることを抑制できる。したがって、運転者にアクセルペダル及びクラッチペダルの操作を落ち着いて行わせることができる。
【0040】
さらに、アクセル操作が開始されたと判定された時点から猶予時間Tth2が経過するまでの間に、運転者のアクセル操作によって駆動力Gが駆動閾値Gth以上になる場合においては、駆動力Gが駆動閾値Gthに達した時点から制動力の減少が開始される。その結果、車両の発進時に運転者に与えうる引きずり感を低減することができる。
【0041】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態では、制動力低下制御において、アクセル開度Accに応じて設定される圧抜き速度DSに基づいて液圧BPを低下させた。制動力低下制御では、制動力低下制御の実施を開始した時点での液圧BPの値と保持閾値BPthとの差分に基づいて液圧BPの低下速度を変更してもよい。以下、具体的に説明する。
【0042】
制動力低下制御の実施を開始した時点での液圧BPの目標値である第2保持圧BPT2は、車両の総重量Wが重いほど大きい値として算出される。図6には、タイミングt4からタイミングt5までの期間において、液圧BPが第2保持圧BPT2よりも大きい第2保持圧BPT2´に保持されている例を二点鎖線で示している。第2保持圧BPT2´と保持閾値BPthとの差分は、第2保持圧BPT2と保持閾値BPthとの差分よりも大きい。この二点鎖線で示す例では、タイミングt5からタイミングt6までの期間に示すように、液圧BPの低下速度を実線で示す上記実施形態の例よりも大きくしている。このように、制動制御部11は、図5に例示するようなマップから設定される圧抜き速度DSを基準として、制動力低下制御の実施を開始した時点での液圧BPと保持閾値BPthとの差分が大きいほど制動力の低下速度が大きくなるようにアクチュエータ21を作動させることもできる。これによって、車両の総重量Wが重く第2保持圧と保持閾値BPthとの差分が大きい場合であっても、早期に液圧BPを保持閾値BPthよりも低くすることができる。すなわち、制動力の解消を早めて車両を速やかに発進させることができる。
【0043】
なお、図6の二点鎖線においてタイミングt6以降に示しているように、駆動力Gの増加が緩やかになった時点から制動力の低下速度を小さく変更してもよい。また、制動力低下制御の実施を開始した時点から所定時間が経過したことに基づいて制動力の低下速度を小さく変更してもよい。車両が発進した以降において制動力の低下速度を小さくすることによって、車速VSの急激な変化を抑制することができる。
【0044】
・上記実施形態では、液圧BPを第2保持圧BPT2に保持した状態から車両保持制御を終了して制動力低下制御の実施を開始する処理の流れとして、図4に示す処理ルーチンを例示した。制動力低下制御の実施を開始する処理の流れとしては、図4に示す処理ルーチンに替えて図7に示す処理ルーチンを実行してもよい。
【0045】
図7に示す処理の流れは、液圧BPの目標値として第2保持圧BPT2が設定されているときに制動制御部11によって繰り返し実行される。本処理ルーチンが実行されると、まずステップS311において、駆動力Gが駆動閾値Gth以上であるか否かが判定される。駆動力Gが駆動閾値Gthよりも小さい場合(S311:NO)、処理がステップS314に移行される。一方、駆動力Gが駆動閾値Gth以上である場合(S311:YES)、処理がステップS312に移行される。
【0046】
ステップS314では、駆動力Gが駆動下限値GL以上であるか否かが判定される。駆動下限値GLは、駆動判定値G0よりも小さい値が設定されている。このため、駆動力Gが駆動判定値G0以上になってから駆動力Gが駆動下限値GLよりも小さくなった場合、発進の意図をもって開始されたアクセル操作中に発進の意図が撤回されたと判定することができる。駆動力Gが駆動下限値GLよりも小さい場合(S314:NO)、本処理ルーチンが一旦終了される。すなわち、制動力低下制御が実施されず、車両保持制御が継続されることとなる。換言すれば、制動制御部11は、このとき、制動力低下制御の実施を禁止する。一方、駆動力Gが駆動下限値GL以上である場合(S314:YES)、処理がステップS313に移行される。
【0047】
ステップS313では、待機時間TI2が猶予時間Tth2以上であるか否かが判定される。待機時間TI2が猶予時間Tth2よりも短い場合(S313:NO)、本処理ルーチンが一旦終了される。一方、待機時間TI2が猶予時間Tth2以上である場合(S313:YES)、処理がステップS312に移行される。
【0048】
ステップS312では、制動制御部11によって車両保持制御が終了される。そして、制動制御部11は、液圧BPを低下させて制動力を低下させる制動力低下制御の実施を開始する。その後、本処理ルーチンが終了される。
【0049】
上記構成では、「アクセル操作開始時点から前記規定時間が経過するまでの間において前記駆動力が前記駆動判定値よりも小さい値である駆動下限値よりも小さくなった場合に、前記制動制御部による前記制動力低下制御を制限する制限部」は、制動制御部11によって構成される。
【0050】
上記構成によれば、車両保持制御の実施中において、アクセル操作が開始されてから発進の意図が撤回されたと判定できるとき、処理ルーチンが終了される。このためアクセル操作が開始されたと判定されてから発進の意図が撤回されたと判定できるときには、車両保持制御は終了されず制動力低下制御の実施は開始されない。これによって、液圧BPが第2保持圧BPT2に保持された状態が継続される。すなわち、駆動力Gが駆動下限値GLよりも小さくなった場合には、制動力の付与を継続して登坂路で車両が停止している状態を保持することができる。
【0051】
さらに、アクセル操作が開始されたと判定されてから発進の意図が撤回されたと判定できるときにはステップS313の処理が実行されないため、待機時間TI2が猶予時間Tth2以上であるとしても車両保持制御は終了されず制動力低下制御の実施は開始されない。すなわち、車両保持制御の実施中においてアクセル操作が開始されてから駆動力Gが駆動下限値GLよりも小さくなった場合、車両保持制御の終了が禁止され、制動力低下制御の開始が禁止される。
【0052】
なお、上記構成に関して、車両保持制御の実施中においてアクセル操作が開始されてから駆動力Gが駆動下限値GLよりも一度でも小さくなった場合に、駆動力Gの大きさ及び待機時間TI2の長さに関わらず制動力の解消を禁止するように構成してもよい。こうした制動力の解消を禁止する状態は、ブレーキペダルが操作された場合に解除するとよい。
【0053】
図7を用いて説明した上記変更例では、開始時点から猶予時間Tth2が経過するまでの間において駆動力Gが駆動下限値GLよりも小さくなった場合に、制動力低下制御を禁止することによって制動力低下制御を制限した。制動力低下制御を制限する構成は、これに限られるものではない。たとえば、開始時点から猶予時間Tth2が経過するまでの間において駆動力Gが駆動下限値GLよりも小さくなった場合に、駆動力Gが駆動下限値GLよりも小さくなっていない場合と比較して制動力低下制御における制動力の低下速度を小さくすることによって制動力低下制御を制限することもできる。
【0054】
図7を用いて説明した上記変更例では、駆動力Gが駆動下限値GLよりも小さくなったことをもって、車両を発進させる意図が撤回されたと判断できるため、車両保持制御の終了を禁止するようにしている。車両を発進させる意図が撤回されたか否かは、駆動力Gとは別のパラメータを用いて判断することもできる。たとえば、アクセルペダルの操作がオンからオフになったときに、車両を発進させる意図が撤回されたと判断し、車両保持制御の終了を禁止するようにしてもよい。
【0055】
・上記実施形態では、車両の駆動源を制御するための要求値である駆動力Gを用いて、アクセル操作が開始されたか否かの判定と、制動力低下制御を開始するか否かの判定と、を行っている。これに替えて、車両の駆動源からの実際の出力値に基づいて各判定を行うこともできる。
【0056】
・上記実施形態では、制動力低下制御において、アクセル開度Accが大きいほど圧抜き速度DSを大きくすることによって、駆動力Gの増加速度が大きいほど制動力の低下速度を大きくしている。このときのアクセル開度Accについては、アクセル操作が開始されたと判定されてからのアクセル開度Accであればよい。すなわち、車両保持制御の実施中のアクセル開度Accに基づいて圧抜き速度DSを設定してもよいし、制動力低下制御の実施中のアクセル開度Accに基づいて圧抜き速度DSを設定してもよい。
【0057】
・上記実施形態では、クラッチペダルによって操作されるクラッチを備える車両の制動装置20を制御装置10の制御対象としているが、自動変速機や無段変速機を備える車両の制動装置を制御装置10の制御対象とすることもできる。自動変速機や無段変速機を備える車両では、MT車と比較して、アクセル操作が開始されてから車両が実際に発進するまでに要する時間が短くなりやすい。このため、自動変速機や無段変速機を備える車両に制御装置10を適用する場合には、上記実施形態の場合と比較して猶予時間Tth2を短くしてもよい。
【0058】
・上記実施形態では、駆動源として内燃機関を搭載する車両の制動装置20を制御装置10の制御対象としているが、駆動源としてモータを搭載する車両の制動装置を制御装置10の制御対象とすることもできる。
【0059】
・上記実施形態では、ブレーキ液を用いる制動装置20を制御装置10の制御対象としているが、モータから出力される駆動力によって車輪に対する制動力を調整する電動制動装置を制御装置10の制御対象としてもよい。この場合、モータがアクチュエータに対応する。
【符号の説明】
【0060】
10…制御装置、11…制動制御部、12…アクセル操作判定部、20…制動装置、21…アクチュエータ、22…ホイールシリンダ、31…車輪速度センサ、32…アクセル開度センサ、33…ブレーキスイッチ、34…前後加速度センサ、35…車重推定装置、41…車輪。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7