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特許7287004共重合体の水分散体、グラフト共重合体、熱可塑樹脂組成物およびその成形品
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  • 特許-共重合体の水分散体、グラフト共重合体、熱可塑樹脂組成物およびその成形品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】共重合体の水分散体、グラフト共重合体、熱可塑樹脂組成物およびその成形品
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/26 20060101AFI20230530BHJP
   C08F 265/06 20060101ALI20230530BHJP
   C08L 51/00 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
C08F220/26
C08F265/06
C08L51/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019036243
(22)【出願日】2019-02-28
(65)【公開番号】P2020139079
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】396021575
【氏名又は名称】テクノUMG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】岩永 崇
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/073294(WO,A1)
【文献】特開2004-107445(JP,A)
【文献】特開昭62-027410(JP,A)
【文献】特開昭62-048715(JP,A)
【文献】特開平05-238796(JP,A)
【文献】特開2018-178071(JP,A)
【文献】特開2012-017360(JP,A)
【文献】特開2011-202114(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 220/26
C08F 265/06
C08L 51/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン系不飽和モノマー(a)と、
グリセリン骨格と、エチレングリコール単位を含む連続する10個以上の繰り返し単位からなるポリエチレングリコール単位(b1)と、2つ以上のエチレン系不飽和結合(b2)とを有する親水性の架橋剤(b)
とを共重合してなる共重合体(A)の水分散体
【請求項2】
前記親水性の架橋剤(b)の数平均分子量が600以上である請求項1に記載の共重合体(A)の水分散体
【請求項3】
エチレン系不飽和モノマー(a)と親水性の架橋剤(b)と必要に応じて用いられるその他の架橋剤(c)とを共重合してなり、エチレン系不飽和モノマー(a)、親水性の架橋剤(b)およびその他の架橋剤(c)の合計100質量部中のエチレン系不飽和モノマー(a)の割合が1~99.9質量部、親水性の架橋剤(b)の割合が0.01~10質量部であり、その他の架橋剤(c)の割合が0~30質量部である請求項1又は2に記載の共重合体(A)の水分散体
【請求項4】
水分散体中の前記共重合体(A)の体積平均粒子径が10~1000nmである請求項1ないし3のいずれかに記載の水分散体。
【請求項5】
エチレン系不飽和モノマー(a)と、
グリセリン骨格と、エチレングリコール単位を含む連続する10個以上の繰り返し単位からなるポリエチレングリコール単位(b1)と、2つ以上のエチレン系不飽和結合(b2)とを有する親水性の架橋剤(b)
とを共重合してなる共重合体(A)に、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル、およびシアン化ビニルよりなる群から選ばれる少なくとも1種のエチレン系不飽和モノマーをグラフト重合してなるグラフト共重合体(B)。
【請求項6】
前記共重合体(A)10~90質量%に対して前記エチレン系不飽和モノマーを90~10質量%をグラフト重合してなり(ただし、共重合体(A)とエチレン系不飽和モノマーの合計を100質量%とする。)、該エチレン系不飽和モノマー100質量%中の芳香族ビニルの割合が50~90質量%でシアン化ビニルの割合が10~50質量%である請求項に記載のグラフト共重合体(B)。
【請求項7】
前記親水性の架橋剤(b)の数平均分子量が600以上である請求項5又は6に記載のグラフト共重合体(B)。
【請求項8】
前記共重合体(A)が、エチレン系不飽和モノマー(a)と親水性の架橋剤(b)と必要に応じて用いられるその他の架橋剤(c)とを共重合してなり、エチレン系不飽和モノマー(a)、親水性の架橋剤(b)およびその他の架橋剤(c)の合計100質量部中のエチレン系不飽和モノマー(a)の割合が1~99.9質量部、親水性の架橋剤(b)の割合が0.01~10質量部であり、その他の架橋剤(c)の割合が0~30質量部である共重合体(A)である請求項5~7のいずれかに記載のグラフト共重合体(B)。
【請求項9】
請求項5~8のいずれかに記載のグラフト共重合体(B)を含む熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
請求項に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造安定性、せん断安定性、貯蔵安定性に優れた水分散体を提供し得る共重合体およびその水分散体と、この共重合体を用いたグラフト共重合体、このグラフト共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物およびその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ジエン系ゴム状重合体やアクリルゴム状重合体などを含有する樹脂は、従来、塗料や接着剤用途だけでなく、その優れた耐薬品性および耐候性からABS樹脂またはAAS樹脂等の用途にも使用されている。
【0003】
ジエン系ゴム状重合体やアクリルゴム状重合体の工業的製法は乳化重合法が最も一般的であり、これらは水分散体として製造される。このようなジエン系ゴム状重合体やアクリルゴム状重合体を樹脂用途として使用するには、例えば酸凝固工程等を経て固体化する必要がある。しかし、軟質のゴム状態のものをそのまま固体化することは困難であるため、例えばアクリルゴム状重合体にスチレンやアクリロニトリルなどの硬質成分をグラフト共重合した後に酸凝固工程等を経て固体化することが行われている(特許文献1)。
【0004】
しかし、特にアクリルゴム状重合体の水分散体は機械的安定性が悪く、そのため水分散体をポンプで配管移送するときの圧力や濾過時の圧力等により、乳化破壊を起こし易く、これがもとで配管等を閉塞させてしまうことがある。
【0005】
アクリルゴム状重合体の水分散体の機械的安定性を改良する方法として、乳化剤を多量に使用する方法もあるが、乳化剤を多量に使用すると泡立ちが激しくなり、アクリルゴム状重合体の水分散体の取り扱いが困難になり、またそれを用いた熱可塑性樹脂組成物を連続成形する際に、乳化剤由来の残留物に起因して発生したガスが金型を汚染するなどの不都合が生じる。成形時に発生するガスが金型に脂状に堆積すると、この堆積物が成形品側に移行して、成形品の外観を悪化させるため、定期的に金型に付着した脂状の堆積物をクリーニング除去する必要があり、連続成形を行えなくなる。
【0006】
アクリルゴムとジエン系ゴムを混合することにより、水分散体の安定性を向上させる方法もある(特許文献2)。しかし、2種以上の水分散体を混合する場合、事前にそれぞれの水分散体を用意しておく必要があり製造上の手間が多くなる。また、ジエン系ゴムが混合されることにより、アクリルゴムの特長である耐候性が大きく損なわれることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平4-170460号公報
【文献】特開平9-216969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、製造安定性、せん断安定性、貯蔵安定性に優れるゴム状重合体の水分散体を提供することを目的とする。本発明はまた、この共重合体を用いて、成形性、連続成形性が良好で、耐衝撃性等の物性に優れる熱可塑性樹脂成形品を提供し得るグラフト共重合体、およびこのグラフト共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物およびその成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、エチレン系不飽和モノマーと、特定の架橋剤を共重合させることにより、上記課題を解決し得る共重合体を得ることができることを見出した。
【0010】
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0011】
[1] エチレン系不飽和モノマー(a)と、低分子量ポリオール単位を含む連続する10個以上の繰り返し単位からなるポリオール単位(b1)と、2つ以上のエチレン系不飽和結合(b2)とを有する親水性の架橋剤(b)とを共重合してなる共重合体(A)。
【0012】
[2] 前記低分子量ポリオールが炭素数1~30のジオール類より選ばれる[1]に記載の共重合体(A)。
【0013】
[3] 前記親水性の架橋剤(b)の数平均分子量が600以上である[1]又は[2]に記載の共重合体(A)。
【0014】
[4] 前記親水性の架橋剤(b)がグリセリン骨格を有する[1]ないし[3]のいずれかに記載の共重合体(A)。
【0015】
[5] エチレン系不飽和モノマー(a)と親水性の架橋剤(b)と必要に応じて用いられるその他の架橋剤(c)とを共重合してなり、エチレン系不飽和モノマー(a)、親水性の架橋剤(b)およびその他の架橋剤(c)の合計100質量部中のエチレン系不飽和モノマー(a)の割合が1~99.9質量部、親水性の架橋剤(b)の割合が0.01~10質量部であり、その他の架橋剤(c)の割合が0~30質量部である[1]ないし[4]のいずれかに記載の共重合体(A)。
【0016】
[6] [1]ないし[5]のいずれかに記載の共重合体(A)の水分散体。
【0017】
[7] 水分散体中の前記共重合体(A)の体積平均粒子径が10~1000nmである[6]に記載の水分散体。
【0018】
[8] [1]ないし[5]のいずれかに記載の共重合体(A)に、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル、およびシアン化ビニルよりなる群から選ばれる少なくとも1種のエチレン系不飽和モノマーをグラフト重合してなるグラフト共重合体(B)。
【0019】
[9] 前記共重合体(A)10~90質量%に対して前記エチレン系不飽和モノマーを90~10質量%をグラフト重合してなり(ただし、共重合体(A)とエチレン系不飽和モノマーの合計を100質量%とする。)、該エチレン系不飽和モノマー100質量%中の芳香族ビニルの割合が50~90質量%でシアン化ビニルの割合が10~50質量%である[8]に記載のグラフト共重合体(B)。
【0020】
[10] [8]又は[9]に記載のグラフト共重合体(B)を含む熱可塑性樹脂組成物。
【0021】
[11] [10]に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、製造安定性、せん断安定性、貯蔵安定性に優れる共重合体(A)の水分散体を提供することができ、この共重合体(A)を用いて成形性、連続成形性が良好で、耐衝撃性等の物性に優れる熱可塑性樹脂成形品を提供し得るグラフト共重合体、およびこのグラフト共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物とその成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施例におけるガス発生・付着量試験に用いた金型を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
なお、本明細書において「単位」とは、重合前の単量体化合物(モノマー)に由来する構造部分をさし、例えば、「(メタ)アクリル酸エステル単位」とは「(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造部分」をさす。重合体中の各単量体単位の含有割合は、当該重合体の製造に用いた単量体混合物中の該単量体の含有割合に該当する。
また、「(メタ)アクリル酸」は「アクリル酸」と「メタクリル酸」の一方または双方を意味する。「(メタ)アクリレート」についても同様である。
また、「成形品」とは、熱可塑性樹脂組成物を成形してなるものを意味する。
【0025】
[共重合体(A)]
本発明の共重合体(A)は、エチレン系不飽和モノマー(a)と、低分子量ポリオール単位を含む連続する10個以上の繰り返し単位からなるポリオール単位(b1)と、2つ以上のエチレン系不飽和結合(b2)とを有する親水性の架橋剤(b)とを共重合してなるものである。
【0026】
<エチレン系不飽和モノマー(a)>
本発明におけるエチレン系不飽和モノマー(a)とはラジカル重合可能な炭素-炭素二重結合を持つ化合物であればよく、特に制限はないが、エチレン系不飽和モノマー(a)としては単官能化合物を用いることが好ましい。
【0027】
エチレン系不飽和モノマー(a)としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、(メタ)アクリル酸エステル類、共役ジエン類、芳香族ビニル類、シアン化ビニル類、N-置換マレイミド類、ジカルボン酸誘導体類、フッ素化ビニル類、(メタ)アクリル酸類、(メタ)アクリルアミド類が挙げられる。
【0028】
エチレン系不飽和モノマー(a)としてはより具体的には、
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸i-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸i-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸エステル類;
ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類;
スチレン、α-メチルスチレン、o-,m-もしくはp-メチルスチレン、ビニルキシレン、p-t-ブチルスチレン、エチルスチレン等の芳香族ビニル類;
アクリロニトリル、メタクロニトリル等のシアン化ビニル類;
N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド等のN-置換マレイミド類;
無水マレイン酸等のジカルボン酸誘導体類;
テトラフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン等のフッ素化ビニル類;
(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸塩等の(メタ)アクリル酸類;
N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、イソプロピル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類
などの単官能化合物が挙げられる。
【0029】
エチレン系不飽和モノマー(a)としては、これらのうちの1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
これらの中でも、得られる共重合体(A)のガラス転移温度が室温以下となるものが好ましく、また、疎水性のものの方が所望の粒子径を持った水分散体を得られやすいことから、特に共役ジエン類、(メタ)アクリル酸エステル類が好ましい。
【0031】
エチレン系不飽和モノマー(a)は、エチレン系不飽和モノマー(a)と後述する親水性の架橋剤(b)と必要に応じて用いられる後述のその他の架橋剤(c)の合計100質量部に対して1~99.9質量部、特に50~99.5質量部、とりわけ70~99質量部用いることが好ましい。エチレン系不飽和モノマー(a)の使用量が上記範囲内であれば、得られる共重合体(A)を用いたグラフト共重合体(B)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物が耐衝撃性に優れたものとなる。
【0032】
<親水性の架橋剤(b)>
本発明における親水性の架橋剤(b)は、低分子量ポリオール単位を含む連続する10個以上の繰り返し単位からなるポリオール単位(b1)と、2つ以上のエチレン系不飽和結合(b2)とを有するものである。
【0033】
(ポリオール単位(b1))
ポリオール単位(b1)とは、水酸基を2個以上有する化合物に由来する単位であり、本発明において、ポリオール単位(b1)は、低分子量ポリオール単位を含む連続する10個以上の繰り返し単位からなる。
このポリオール単位(b1)としては、低分子量ポリオールに由来する10個以上の繰り返し単位(b1-1)、および重合度10以上の、ポリエステルポリオール単位(b1-2)、ポリアミドポリオール単位(b1-3)、ポリカーボネートポリオール単位(b1-4)、その他のポリオール単位(b1-5)などが挙げられる。
【0034】
ポリオール単位(b1)を構成する低分子量ポリオールとしては、好ましくは炭素数1~30或いは分子量500以下の公知のジオールを用いることができ、その具体例としては、例えば、以下のようなものが挙げられる。
エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-ブチル-3-エチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、3,3’-ジメチロールヘプタン、1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,4-テトラコサンジオール、1,6-テトラコサンジオール、1,4-ヘキサコサンジオール、1,6-オクタコサンジオール等の脂肪族ジオール類;
1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール,トリシクロデカンジエタノール、シクロペンタジエンジメタノール、2,5-ノルボルナンジオール、1,3-アダマンタンジオール、ダイマージオール等の脂環族ジオール類;
o-,m-,およびp-ジヒドロキシベンゼン、1,2-インダンジオール、ベンゼン-1,2-ジメタノール(別名:フタリルアルコール)、ベンゼン-1,3-ジメタノール(別名:イソフタリルアルコール)、ベンゼン-1,4-ジメタノール(別名:テレフタリルアルコール)、1,3-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,2-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、(3,4-ジヒドロキシフェニル)メタノール(別名:プロトカテクイルアルコール)、(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)メタノール(別名:バニリルアルコール)、2-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)エタン-1-オール(別名:ホモバニリルアルコール)、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロパ-2-エン-1-オール(別名:コニフェリルアルコール)、3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジメトキシフェニル)プロパ-2-エン-1-オール(別名:シナピルアルコール)、1,2-ジフェニルエタン-1,2-ジオール(別名:ヒドロベンゾイン)、ハイドロキノン、レゾルシン、4-クロロレゾルシン、4-メチルレゾルシン、5-メチルベンゼン-1,3-ジオール(別名:オルシノール)、2-メチルベンゼン-1,4-ジオール(別名:トルヒドロキノン)、2,3-ジメチルベンゼン-1,4-ジオール(別名:o-キシロヒドロキノン)、2,6-ジメチルベンゼン-1,4-ジオール(別名:m-キシロヒドロキノン)、2,5-ジメチルベンゼン-1,4-ジオール(別名:p-キシロヒドロキノン)、2,3,5-トリメチルベンゼン-1,4-ジオール(別名:プソイドクモヒドロキノン)、2-イソプロピル-5-メチルベンゼン-1,4-ジオール(別名:チモヒドロキノン)、2,3,5,6-テトラメチルベンゼン-1,4-ジオール(別名:ジュロヒドロキノン)、5-ペンチルベンゼン-1,3-ジオール(別名:オリベトール)、4,4’-メチレンジフェノール(別名:p,p-ビスフェノールF)、4,4’-(2-ノルボルニリデン)ジフェノール、4,4’-ジヒドロキシメチルビフェニル、4,4’-ビフェニルジオール、2,3-ジヒドロキシブフェニル、テトラニトロビフェニルジオール、5,5’-ジプロピル-ビフェニル-2,2’-ジオール、3,3’-ジアミノビフェニル-4,4’-ジオール、5,5’-テトラメチルビフェニル-4,4’-ジオール、ジフェニルシランジオール、(E)-4,4’-(ヘキサ-3-エン-3,4-ジイル)ジフェノール(別名:ジエチルスチルベストロール)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン(別名:ビスフェノールS)、4,4’-イソプロピリデンフェノール、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル(別名:4,4’-オキシジフェノール)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(別名:ビスフェノールA)、1,3-ナフタレンジオール、1,5-ナフタレンジオール、1,7-ナフタレンジオール、1,7-ジヒドロキシメチルナフタレン、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフタレンスルホン酸アンモニウム、9,9’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9’-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)フルオレン1,4-ジヒドロ-9,10-アントラセンジオール等の芳香族ジオール類:
【0035】
ポリオール単位(b1)において、上記低分子量ポリオール単位を含む繰り返し単位は10個以上であり、好ましくは11~200個、さらに好ましくは12~50個である。繰り返し単位が10個を下回ると、親水性が不十分となり、得られる共重合体(A)の水分散体の貯蔵安定性、せん断安定性に劣るものとなる。繰り返し単位が多くなると、粘度の上昇や結晶化する傾向にある。
【0036】
低分子量ポリオールの繰り返し単位(b1-1)において、上記低分子量ポリオールは1種のみが含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0037】
ポリエステルポリオール単位(b1-2)としては上記低分子量ポリオールと低分子量ポリカルボン酸の反応生成物に由来する単位が挙げられる。
【0038】
ポリアミドポリオール単位(b1-3)としては、例えば、低分子量ポリカルボン酸、低分子量ポリアミンの縮合反応により形成したポリアミドの分子末端に低分子量ポリオールと縮合反応させた反応生成物に由来する単位が挙げられる。
【0039】
ポリカーボネートポリオール単位(b1-4)としては、例えば、上記低分子量ポリオールと炭酸エステルの反応生成物に由来する単位が挙げられる。
【0040】
その他のポリオール単位(b1-5)としては、例えば、上記低分子量ポリオールと低分子量ポリイソシアネートの反応生成物に由来するポリウレタン単位などが挙げられる。
【0041】
ポリオール単位(b1)には、上記ポリオール単位(b1-1)~(b1-5)の1種のみが含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0042】
これらの中でも、酸素原子が多いほど親水性の架橋剤(b)の水との親和性が高くなるため、低分子量ポリオールとしては脂肪族ジオール類が好ましく、より好ましくはエチレングリコールである。
特に、ポリオール単位(b1)はポリエチレングリコール単位(b1-1)であることが好ましい。
親水性の架橋剤(b)の親水性が高いと、得られる共重合体(A)の水分散体の製造安定性、貯蔵安定性、せん断安定性、共重合体(A)を用いたグラフト共重合体(B)の製造安定性と紛体特性(分散性)に優れるものとなり、好ましい。
【0043】
(エチレン系不飽和結合(b2))
本発明のエチレン系不飽和結合(b2)としては、特に制限はないが、前述のエチレン系不飽和モノマー(a)に由来して親水性の架橋剤(b)に導入されるものであることが好ましく、より好ましくは(メタ)アクリル酸エステル類やジカルボン酸誘導体類、(メタ)アクリル酸類、(メタ)アクリルアミド類に由来して親水性の架橋剤(b)に導入されるものであり、さらに好ましくは(メタ)アクリル酸エステル類や(メタ)アクリル酸類に由来して親水性の架橋剤(b)に導入されるものである。
【0044】
親水性の架橋剤(b)は、エチレン系不飽和結合(b2)を2つ以上、例えば2~100個有するものであるが、親水性の架橋剤(b)のエチレン系不飽和結合(b2)の数は不飽和結合間の分子鎖長の観点から2~20個、特に2~10個であることが好ましい。
【0045】
(親水性の架橋剤(b)の製造方法)
ポリオール単位(b1)とエチレン系不飽和結合(b2)を有する親水性の架橋剤(b)は、ポリオール単位(b1)を誘導するポリオールとエチレン系不飽和結合(b2)を誘導するエチレン系不飽和モノマーを反応させることにより製造することができる。その際の反応は、公知の方法で行うことができ、例えば、ポリオールの末端水酸基に(メタ)アクリル酸を反応させて生成水を系外に抜き出しながらエステル化物を得る脱水エステル化法、ポリオールの末端水酸基に低級アルコールの(メタ)アクリル酸エステルを反応させて生成した低級アルコールを系外に抜き出しながらエステル化物を得るエステル交換法や、ポリオールの末端水酸基とイソシアネート基やエポキシ基などを有するエチレン系不飽和モノマーとを直接反応させる方法などが挙げられる。
【0046】
(グリセリン骨格)
親水性の架橋剤(b)がグリセリン骨格を有していると、ポリオール単位(b1)の結晶化を抑制できるため取り扱いがより容易となり、さらに、より柔軟な共重合体(A)を得ることができることから好ましい。
【0047】
この場合、親水性の架橋剤(b)に含まれるグリセリン骨格は、水酸基価から算出される平均重合度が好ましくは2~20、より好ましくは4~20のポリグリセリンに由来するものが好ましい。
本明細書において水酸基価から算出される平均重合度(n)とは、末端分析法によって算出される値であり、下記式(1)および式(2)から算出される。
分子量=74n+18 ・・・ (1)
水酸基価=56110(n+2)/分子量・・・ (2)
上記水酸基価とは、化合物中に含まれる水酸基数の大小の指標となる数値であり、1gの化合物に含まれる遊離のヒドロキシ基をアセチル化するために必要な酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数をいい、水酸化カリウムのミリグラム数は、社団法人日本油化学会編纂、「日本油化学会制定、基準油脂分析試験法、2013年度版」に準じて算出される。
【0048】
グリセリン骨格は、ポリグリセリンとポリオール単位(b1)を誘導するためのポリオールとの付加反応により親水性の架橋剤(b)に導入することができる。この付加反応の方法は特に制限はなく、例えば、ポリグリセリンに対して前述の低分子量ポリオールを付加重合させればよい。
【0049】
(数平均分子量)
親水性の架橋剤(b)の数平均分子量は、好ましくは600以上であり、より好ましくは800~30000であり、さらに好ましくは1000~10000である。親水性の架橋剤(b)の数平均分子量が上記範囲内であれば、得られる共重合体(A)の水分散体の安定性に優れ、この共重合体(A)を用いたグラフト共重合体(B)の水分散体の安定性、粉体特性にも優れたものとなり、更にグラフト共重合体(B)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物も耐衝撃性等の物性に優れたものとなる。親水性の架橋剤(b)の数平均分子量が大きすぎると、粘度の上昇や結晶化により取り扱いが困難となる傾向にある。
ここで、親水性の架橋剤(b)の数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されたポリエチレングリコール換算の値である。
【0050】
親水性の架橋剤(b)は、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
(使用量)
親水性の架橋剤(b)は、エチレン系不飽和モノマー(a)と親水性の架橋剤(b)と必要に応じて用いられる後述のその他の架橋剤(c)の合計100質量部に対して0.01~10質量部、好ましくは0.1~5.0質量部、さらに好ましくは0.5~3.0質量部用いることが好ましい。親水性の架橋剤(b)の使用量が上記範囲内であれば、得られる共重合体(A)の水分散体の安定性に優れ、この共重合体(A)を用いたグラフト共重合体(B)の粉体特性にも優れたものとなる。
【0052】
<その他の架橋剤(c)>
本発明の共重合体(A)の製造には、親水性の架橋剤(b)以外にその他の架橋剤(c)を用いて共重合体(A)に架橋構造を導入してもよい。その他の架橋剤(c)を用いて架橋構造を導入した架橋共重合体(A)であれば、その架橋部分が後述するグラフト共重合体(B)の製造の際に用いる後述のエチレン系不飽和モノマーとグラフト結合するためのグラフト交叉点としても機能する。
【0053】
その他の架橋剤(c)としては、例えば、ジビニルベンゼン、(メタ)アクリル酸アリル、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレンジ(メタ)アクリレート、1,4-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらのその他の架橋剤(c)は、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
その他の架橋剤(c)の使用量には特に制限はないが、エチレン系不飽和モノマー(a)と親水性の架橋剤(b)と必要に応じて用いられるその他の架橋剤(c)の合計100質量部に対して、通常0~30質量部、好ましくは0.01~10.0質量部、さらに好ましくは0.1~5.0質量部である。その他の架橋剤(c)の使用量が上記範囲内であれば、得られる共重合体(A)を用いたグラフト共重合体(B)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物が耐衝撃性等の物性に優れたものとなる。
【0055】
[共重合体(A)の合成方法]
共重合体(A)の合成方法としては、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、溶液重合の任意の方法を用いることができ、好ましくは乳化重合であり、さらに好ましくはミニエマルション重合である。
【0056】
<ミニエマルション重合>
本発明の共重合体(A)を製造するミニエマルション重合は、これに限定されるものではないが、例えば、エチレン系不飽和モノマー(a)と親水性の架橋剤(b)、その他の架橋剤(c)のほか、疎水性物質、および乳化剤、好ましくは更に開始剤、水を混合する工程、得られた混合物に剪断力を付与してプレエマルション(ミニエマルション)を調製する工程、ならびにこのプレエマルションを重合開始温度まで加熱して重合させる工程を含む。
【0057】
ミニエマルション化の工程では、重合用モノマーと乳化剤とを混合した後、例えば、超音波照射による剪断工程を実施することにより、前記剪断力によりモノマーが引きちぎられ、乳化剤に覆われたモノマー微小油滴が形成される。その後、開始剤の重合開始温度まで加熱することにより、モノマー微小油滴をそのまま重合し、高分子微粒子が得られる。
【0058】
ミニエマルションを形成させるための剪断力を加える方法は公知の任意の方法を用いることができる。ミニエマルションを形成できる高剪断装置としては、これらに限定されるものではないが、例えば、高圧ポンプおよび相互作用チャンバーからなる乳化装置、超音波エネルギーや高周波によりミニエマルションを形成させる装置等がある。高圧ポンプおよび相互作用チャンバーからなる乳化装置としては、例えば、SPX Corporation APV社製「圧力式ホモジナイザー」、三和エンジニアリング(株)製「ホモゲナイザー」、三丸機械工業(株)製「高圧式ホモジナイザー」、イズミフードマシナリー(株)製「ホモゲナイザー」、(株)パウレック製「マイクロフルイダイザー」等が挙げられる。超音波エネルギーや高周波によりミニエマルションを形成させる装置としては、例えば、Fisher Scient製「ソニックディスメンブレーター」や(株)日本精機製作所製「ULTRASONIC HOMOGENIZER」等が挙げられる。
【0059】
<水>
ミニエマルション化の際の水溶媒の使用量は、作業性、安定性、製造性等の観点から、重合後の反応系の固形分濃度が5~58質量%程度となるように、水以外の混合物100質量部に対して75~1900質量部程度とすることが好ましい。この水の使用量はより好ましくは80~1000質量部程度、さらに好ましくは90~500質量部程度である。
【0060】
<疎水性物質>
ミニエマルションを形成させる際に、炭素数12以上のアルキル基、アルケニル基およびシクロアルキル基から選ばれる炭化水素基を有する疎水性物質を用いることが好ましい。この特定の疎水性炭化水素基を有する疎水性物質を用いることで、ミニエマルションの製造安定性を向上させることができる。
【0061】
本発明で用いる疎水性物質の疎水性の程度は、1-オクタノールに対する濃度〔c1〕と水に対する濃度〔c2〕の比〔c1/c2〕で表される分配係数〔P〕の対数〔logP〕値で表すことができ、本発明で用いる疎水性物質の分配係数〔P〕の対数〔logP〕値は6.0以上、特に7.0以上あることが好ましい。
【0062】
分配係数〔P〕の対数〔logP〕値が6以上ある疎水性物質としては、重合不可能な疎水性化合物として、例えば炭素数12以上の炭化水素類、炭素数12以上のアルコール類、疎水性モノマーとして、例えば、炭素数14~30のアルコールのビニルエステル、炭素数14~30のアルコールのビニルエーテル、炭素数15~30(好ましくは炭素数15~22)のカルボン酸ビニルエステル、炭素数20~40のp-アルキルスチレン、疎水性の連鎖移動剤等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0063】
本発明で用いる疎水性物質としては、具体的には、テトラデカン(logP:6.3)、ペンタデカン(logP:7.7)、ヘキサデカン(logP:8.3)、ヘプタデカン(logP:8.8)、オクタデカン(logP:9.3)、イコサン(logP:10.4)、流動パラフィン(logP>6.0)、流動イソパラフィン(logP>6.0)、パラフィンワックス(logP>6.0)、ポリエチレンワックス(logP>6.0)、オリーブ油(logP>6.0)、セチルアルコール(logP:6.7)、ステアリルアルコール(logP:8.2)、アクリル酸ステアリル(logP:7.7)、メタクリル酸ステアリル(logP:9.6)等が挙げられる。
【0064】
これらの疎水性物質を用いることにより、オストワルド熟成による粒径の不均一性の増大を抑制し、単分散な共重合体(A)を合成することが可能となる。
【0065】
疎水性物質の添加量は、エチレン系不飽和モノマー(a)と親水性の架橋剤(b)と必要に応じて用いられるその他の架橋剤(c)の合計100質量部に対して0.1~10質量部が好ましく、さらに好ましくは1~3質量部である。
【0066】
<乳化剤>
本発明の共重合体(A)を製造する際に用いる乳化剤としては、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ロジン酸のアルカリ金属塩、アルケニルコハク酸のアルカリ金属塩等で例示されるカルボン酸系の乳化剤、アルキル硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウムなどの中から選ばれるアニオン系乳化剤等、公知の乳化剤を単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0067】
乳化剤の添加量は、エチレン系不飽和モノマー(a)と親水性の架橋剤(b)と必要に応じて用いられるその他の架橋剤(c)の合計100質量部に対して0.01~1.0質量部が好ましく、さらに好ましくは0.05~0.5質量部である。
【0068】
<開始剤>
開始剤とは、前述のエチレン系不飽和モノマー(a)と親水性の架橋剤(b)と必要に応じて用いられるその他の架橋剤(c)がラジカル重合するためのラジカル重合開始剤であり、例えば、アゾ重合開始剤、光重合開始剤、無機過酸化物、有機過酸化物、有機過酸化物と遷移金属と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤等が挙げられる。これらのうち、加熱により重合を開始できるアゾ重合開始剤、無機過酸化物、有機過酸化物、レドックス系開始剤が好ましい。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
アゾ重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、1-[(1-シアノ-1-メチルエチル)アゾ]フォルムアミド、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリックアシッド)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、ジメチル1,1’-アゾビス(1-シクヘキサンカルボキシレート)、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(N-シクロヘキシル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)等が挙げられる。
【0070】
無機過酸化物としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等が挙げられる。
【0071】
有機過酸化物としては、例えばペルオキシエステル化合物が挙げられ、その具体例としては、α,α’-ビス(ネオデカノイルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルペルオキシネオデカノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルペルオキシネオデカノエート、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルペルオキシネオデカノエート、t-ヘキシルペルオキシネオデカノエート、t-ブチルペルオキシネオデカノエート、t-ヘキシルペルオキシピバレート、t-ブチルペルオキシピバレート、1,1,3,3-テトラメチルブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(2-エチルヘキサノイルペルオキシ)ヘキサン、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ヘキシルペルオキシ2-ヘキシルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシ2-ヘキシルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシイソブチレート、t-ヘキシルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルペルオキシマレイックアシッド、t-ブチルペルオキシ3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシラウレート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(m-トルオイルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルペルオキシ2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ヘキシルペルオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルペルオキシアセテート、t-ブチルペルオキシ-m-トルオイルベンゾエート、t-ブチルペルオキシベンゾエート、ビス(t-ブチルペルオキシ)イソフタレート、1,1-ビス(t-ヘキシルペルオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロドデカン、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレレート、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、α,α’-ビス(t-ブチルペルオキシド)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルクミルペルオキシド、ジ-t-ブチルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、ジラウロイルペルオキシド、ジイソノナノイルペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、ジメチルビス(t-ブチルペルオキシ)-3-ヘキシン、ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ビス(t-ブチルペルオキシ)トリメチルシクロヘキサン、ブチル-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレラート、2-エチルヘキサンペルオキシ酸t-ブチル、ジベンゾイルペルオキシド、パラメンタンハイドロペルオキシドおよびt-ブチルペルオキシベンゾエート等が挙げられる。
【0072】
レドックス系開始剤としては、有機過酸化物と硫酸第一鉄、キレート剤および還元剤を組み合わせたものが好ましい。例えば、クメンヒドロペルオキシド、硫酸第一鉄、ピロリン酸ナトリウム、およびデキストロースからなるものや、t-ブチルヒドロペルオキシド、ナトリウムホルムアルデヒトスルホキシレート(ロンガリット)、硫酸第一鉄、およびエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムを組み合わせたもの等が挙げられる。
【0073】
開始剤としては、これらのうち、特に有機過酸化物が好ましい。
【0074】
開始剤の添加量は、エチレン系不飽和モノマー(a)と親水性の架橋剤(b)と必要に応じて用いられるその他の架橋剤(c)の合計100質量部に対して通常5質量部以下、好ましくは3質量部以下、例えば0.001~3質量部である。
【0075】
なお、開始剤の添加はミニエマルションを形成させる前後のいずれでもよく、添加方法は、一括、分割、連続のいずれでもよい。
【0076】
<ゴム成分>
本発明の共重合体(A)の製造に際して、プレエマルションを作製する工程に他のゴム成分が存在する複合ゴムからなる共重合体(A)を所望の性能を損なわない程度で製造してもよい。この場合、他のゴム成分としては、ポリブタジエン等のジエン系ゴム、ポリオルガノシロキサンなどが挙げられる。これらのゴム成分の存在下でエチレン系不飽和モノマー(a)と親水性の架橋剤(b)を重合することで、例えばポリブタジエン等のジエン系ゴムなどを複合してなる共重合体(A)が得られる。尚、本発明に係る複合ゴムはこれらに限定されるものではなく、また、複合させるゴム成分は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0077】
<添加剤>
本発明の共重合体(A)の製造に際して、プレエマルションを作製する工程に、必要に応じて添加剤を添加していてもよい。この場合、添加剤としては、例えばポリスチレンやポリ(メタ)アクリル酸エステル、無機物質(シリカ、ジルコニア、マイカ、ワラストナイト、タルク等)、フィラー(ガラス繊維、炭素繊維等)、滑材、顔料(カーボンブラック、酸化チタン等)、染料、耐熱剤、酸化劣化防止剤、耐候剤、離型剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤等が挙げられる。これらは得られる熱可塑性樹脂組成物や成形品の物性を損なわない範囲において配合することができる。
【0078】
<反応条件>
上記のプレエマルションを調製する工程は通常常温(10~50℃程度)で行われ、ミニエマルション重合の工程は40~100℃で30~600分程度行われる。
【0079】
<粒子径>
本発明の共重合体(A)の粒子径は、特に制限はないが、好ましくは体積平均粒子径で10~1000nm、より好ましくは250~600nmであり、粒子径のピークが単一でも複数であってもよい。
なお、共重合体(A)の粒子径とは、上記の共重合体(A)の製造方法で得られる共重合体(A)の水分散体中の共重合体(A)の分散粒子の粒子径をさす。
【0080】
本発明の共重合体(A)の粒子径の測定方法は、後掲の実施例の項に記載される通りである。
【0081】
[共重合体(A)の水分散体]
上記の共重合体(A)の製造方法により、優れた製造安定性のもとに本発明の共重合体(A)がその水分散体として製造される。
本発明の共重合体(A)の水分散体(「ラテックス」とも称される。)は、せん断安定性に優れるためポンプ輸送等の際に凝固したりすることがなく、取り扱い性に優れ、また貯蔵安定性に優れるため、容器内で静置保存しても分離することなく安定に保存することができる。
【0082】
本発明の共重合体(A)の水分散体の共重合体(A)濃度は、通常、本発明の共重合体(A)の製造における反応系の固形分濃度に該当し、好ましくは5~58質量%、より好ましくは10~45質量%である。
また、本発明の共重合体(A)の水分散体中の共重合体(A)の粒子径は、上記の通りである。
【0083】
[グラフト共重合体(B)]
本発明のグラフト共重合体(B)は、本発明の共重合体(A)に、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル、およびシアン化ビニルから選ばれる少なくとも1種のエチレン系不飽和モノマー(以下、「グラフト単量体成分」と称す場合がある。)をグラフト重合させてグラフト層を形成したものである。
なお、グラフト単量体成分は、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル、およびシアン化ビニル以外のその他のビニル化合物を含んでいてもよい。
【0084】
グラフト共重合体(B)のグラフト層のグラフト率は以下の方法により算出され、後掲の実施例でもこの方法でグラフト率を求めた。
【0085】
<グラフト率の算出>
グラフト共重合体(B)2.5gにアセトン80mLを加え65℃の湯浴で3時間還流し、アセトン可溶分の抽出を行う。残留したアセトン不溶物を遠心分離により分離し、乾燥した後質量を測定する。得られたグラフト共重合体(B)中のアセトン不溶物の質量と、該グラフト共重合体(B)の製造に用いた共重合体(A)の質量から、次の式を用いて、グラフト率を算出する。
【0086】
【数1】
【0087】
本発明のグラフト共重合体(B)のグラフト率は1~99%、特に30~85%が好ましい。グラフト共重合体(B)のグラフト率が上記範囲内であれば、グラフト共重合体(B)の水分散体の安定性、粉体特性が良好となり、良好な耐衝撃性、成形外観の成形品を得ることができる。
【0088】
本発明の共重合体(A)にグラフト重合させる(メタ)アクリル酸エステルとしては、本発明の共重合体(A)の製造に用いるエチレン系不飽和モノマー(a)の(メタ)アクリル酸エステル類として例示したものの1種または2種以上を用いることができる。また、芳香族ビニル、シアン化ビニルとしても、本発明の共重合体(A)の製造に用いるエチレン系不飽和モノマー(a)の芳香族ビニル類、シアン化ビニル類としてそれぞれ例示したものの1種または2種以上を用いることができる。
【0089】
なお、グラフト共重合体(B)を構成するグラフト層には、前述の(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル、シアン化ビニル以外のその他のエチレン系不飽和モノマーに由来する成分が含まれていてもよい。その他のエチレン系不飽和モノマーとしては、本発明の共重合体(A)の製造において、エチレン系不飽和モノマー(a)として用いられるエチレン系不飽和モノマーとして例示したもののうちの、(メタ)アクリル酸エステル類、芳香族ビニル類、シアン化ビニル類以外のエチレン系不飽和モノマーの1種または2種以上が挙げられる。
【0090】
グラフト共重合体(B)のグラフト層を形成するグラフト単量体成分として、芳香族ビニル、好ましくはスチレンと、シアン化ビニル、好ましくはアクリロニトリルの混合物を使用すると、得られるグラフト共重合体(B)の熱安定性が優れたものとなるため好ましい。この場合、スチレン等の芳香族ビニルとアクリロニトリル等のシアン化ビニルとの割合は、芳香族ビニル50~90質量%に対してシアン化ビニル10~50質量%であることが好ましい(ただし、芳香族ビニルとシアン化ビニルとの合計で100質量%とする)。
【0091】
グラフト共重合体(B)のグラフト層は、共重合体(A)10~90質量%に対して、グラフト単量体成分90~10質量%を乳化グラフト重合させて得られるものであると、このグラフト共重合体(B)を用いて得られる熱可塑性樹脂成形品の外観が優れるため好ましい(ただし、共重合体(A)とグラフト単量体成分との合計で100質量%とする。)。この割合は、さらに好ましくは、共重合体(A)50~80質量%で、グラフト単量体成分20~50質量%である。共重合体(A)の割合が多いほど後述する熱可塑性樹脂組成物中のグラフト共重合体(B)の割合を減らすことができ、低コスト化につなげることができる。
【0092】
共重合体(A)へのグラフト単量体成分のグラフト重合方法としては、ミニエマルション重合により得られた共重合体(A)のラテックスにグラフト単量体成分を添加し、1段又は多段で重合する方法が挙げられる。多段で重合する場合、共重合体(A)のラテックスにグラフト単量体成分を分割添加又は連続添加して重合することが好ましい。このような重合方法により良好な重合安定性が得られ、且つ所望の粒子径および粒子径分布を有するグラフト共重合体(B)のラテックスを安定に得ることができる。このグラフト重合に用いる重合開始剤としては、前述の本発明の共重合体(A)の製造方法におけるミニエマルション重合に用いるラジカル重合開始剤と同様のものが挙げられる。
【0093】
共重合体(A)にグラフト単量体成分をグラフト重合する際には、共重合体(A)のラテックスを安定化させ、得られるグラフト共重合体(B)の平均粒子径を制御するために、乳化剤を添加することができる。ここで用いる乳化剤としては、特に限定しないが、前述の本発明の共重合体(A)の製造方法におけるミニエマルション重合に用いる乳化剤と同様のものが挙げられ、アニオン系乳化剤およびノニオン系乳化剤が好ましい。共重合体(A)にグラフト単量体成分をグラフト重合させる際の乳化剤の使用量としては、特に限定しないが、得られるグラフト共重合体(B)100質量部に対して0.1~10質量部が好ましく、0.2~5質量部がより好ましい。
【0094】
乳化重合で得られたグラフト共重合体(B)のラテックスから、グラフト共重合体(B)を回収する方法としては、特に限定されないが、下記の方法が挙げられる。
グラフト共重合体(B)のラテックスを、凝固剤を溶解させた熱水中に投入し、グラフト共重合体(B)を固化させる。次いで、固化したグラフト共重合体(B)を、水または温水中に再分散させてスラリーとし、グラフト共重合体(B)中に残存する乳化剤残渣を水中に溶出させ、洗浄する。次いで、スラリーを脱水機等で脱水し、得られた固体を気流乾燥機等で乾燥することによって、グラフト共重合体(B)を粉体または粒子として回収する。
【0095】
凝固剤としては、無機酸(硫酸、塩酸、リン酸、硝酸等)、金属塩(塩化カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸アルミニウム等)等が挙げられる。凝固剤は、乳化剤の種類に応じて適宜選定される。例えば、乳化剤としてカルボン酸塩(脂肪酸塩、ロジン酸石鹸等)のみを用いた場合、どのような凝固剤を用いてもよい。乳化剤としてアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムのような酸性領域でも安定な乳化力を示す乳化剤を用いた場合、無機酸では不十分であり、金属塩を用いる必要がある。
【0096】
本発明の共重合体(A)を用いて上述のようにして製造される本発明のグラフト共重合体(B)の体積平均粒子径は、好ましくは20~1200nm、より好ましくは300~800nmである。
【0097】
なお、本発明のグラフト共重合体(B)の粒子径の測定方法は、後掲の実施例の項に記載される通りである。
【0098】
[熱可塑性樹脂組成物]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上述した本発明のグラフト共重合体(B)を含有し、通常、本発明のグラフト共重合体(B)と他の熱可塑性樹脂とを混合してなる。本発明の熱可塑性樹脂組成物100質量部中のグラフト共重合体(B)の含有量は、10~80質量部が好ましく、15~60質量部がより好ましい。上記範囲内であれば、流動性(成形性)と、成形品の耐衝撃性、剛性、その他の物性バランスが良好となる。
【0099】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて本発明のグラフト共重合体(B)以外の他の熱可塑性樹脂や添加剤を含有していてもよい。
【0100】
他の熱可塑性樹脂としては、例えばポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリロニトリル-N-フェニルマレイミド共重合体、α-メチルスチレン-アクリロニトリル共重合体、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体、メタクリル酸メチル-N-フェニルマレイミド共重合体、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリフェニレンエーテル-ポリスチレン複合体などの1種または2種以上が挙げられる。これらのうち、耐衝撃性と流動性の観点から、アクリロニトリル-スチレン共重合体が好ましい。
【0101】
添加剤としては、例えば顔料、染料等の着色剤、充填剤(カーボンブラック、シリカ、酸化チタン等)、難燃剤、安定剤、補強剤、加工助剤、耐熱剤、酸化劣化防止剤、耐候剤、離型剤、可塑剤、帯電防止剤等が挙げられる。
これらの添加剤は、前述の通り、本発明の共重合体(A)の製造に際して、プレエマルションを作製する工程に添加してもよい。
【0102】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、グラフト共重合体(B)と、必要に応じて他の熱可塑性樹脂や添加剤とをV型ブレンダやヘンシェルミキサー等により混合分散させ、これにより得られた混合物を押出機、バンバリーミキサー、加圧ニーダ、ロール等の混練機等を用いて溶融混練することにより製造される。
各成分の混合順序には特に制限はなく、全ての成分が均一に混合されればよい。
【0103】
[成形品]
本発明の成形品は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなるものであり、耐衝撃性、剛性、成形外観等に優れる。
【0104】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形方法としては、例えば、射出成形法、射出圧縮成形機法、押出法、ブロー成形法、真空成形法、圧空成形法、カレンダー成形法およびインフレーション成形法等が挙げられる。これらのなかでも、量産性に優れ、高い寸法精度の成形品を得ることができるため、射出成形法、射出圧縮成形法が好ましい。
【0105】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる本発明の成形品は、耐衝撃性、低温耐衝撃性等の機械特性、成形外観に優れることから、車両内外装部品、OA機器、建材などに好適である。
【0106】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる本発明の成形品の工業的用途例としては、車両部品、特に無塗装で使用される各種外装・内装部品、壁材、窓枠等の建材部品、食器、玩具、掃除機ハウジング、テレビジョンハウジング、エアコンハウジング等の家電部品、インテリア部材、船舶部材および通信機器ハウジング等が挙げられる。
【実施例
【0107】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら制限されるものではない。
【0108】
なお、以下において、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を意味する。
【0109】
[体積平均粒子径の測定]
実施例および比較例で製造した共重合体(A-1)~(A-7)と、グラフト共重合体(B-1)~(B-8)の体積平均粒子径は、日機装社製のNanotrac UPA-EX150を用いて動的光散乱法より求めた。
【0110】
[凝塊物量の測定]
実施例および比較例で製造した共重合体(A-1)~(A-7)と、グラフト共重合体(B-1)~(B-8)のラテックスをそれぞれ100メッシュの金網で濾過し、100メッシュの金網に残った凝塊物を乾燥させて秤量し、各々、共重合体(A-1)~(A-7)、グラフト共重合体(B-1)~(B-8)に対する割合(質量%)を求めた。凝塊物量が少ないほど、共重合体(A-1)~(A-7)、グラフト共重合体(B-1)~(B-8)ラテックスの製造安定性が良好である。
【0111】
[せん断安定性の評価]
実施例および比較例で製造した共重合体(A-1)~(A-7)と、グラフト共重合体(B-1)~(B-8)のラテックス300gを、それぞれ500mLビーカーに入れ、(株)SMT製高速ホモジナイザー「HG92」、シャフト「PB-1」、回転数:15000rpmで15分攪拌した。攪拌後のラテックスの状態(凝固の有無)を目視にて観察し、下記基準で評価した。
◎:15分経過してもクリーム化しない。
〇:15分経過しても凝固しない。
△:10~15分以内に凝固する。
×:10分以内に凝固する。
◎又は〇であれば、ポンプ輸送中に凝固することがなく、せん断安定性は良好であると判断できる。
【0112】
[貯蔵安定性の評価]
実施例および比較例で製造した共重合体(A-1)~(A-7)と、グラフト共重合体(B-1)~(B-8)のラテックス30gを、50mL蓋付容器に入れ、30日間静置した後のラテックスの状態(沈殿の有無)を目視にて観察し、下記基準で評価した。
◎:30日経過しても、沈殿物なし。
〇:20~30日で沈殿物が出現する。
△:10~20日で沈殿物が出現する。
×:10日以内に沈殿物が出現する。
◎又は〇であれば、容器内で静置しても分離することがなく、貯蔵安定性は良好であると判断できる。
【0113】
[分散性(粉体特性)の評価]
1.5%硫酸水溶液100部を40℃に加熱し、該水溶液を撹拌しながら、該水溶液に実施例および比較例で製造したグラフト共重合体(B-1)~(B-8)のラテックスをそれぞれ100部徐々に滴下して固化させ、さらに95℃に昇温して10分間保持した。
得られた粉体を8メッシュ(目開き2μm)の金網でふるいにかけ、未通過量の割合を下記式で算出した。
未通過量(%)=未通過量(g)/(未通過量+通過量)(g)×100
8メッシュ未通過量(%)が10%未満のものであれば、熱可塑性樹脂組成物中でのグラフト共重合体(B)の分散が良好である。
【0114】
[親水性の架橋剤(b)]
共重合体(A-1)~(A-6)の製造には、以下に記載する市販の親水性の架橋剤(b-1)~(b-6)を用いた。
<実施例用の親水性の架橋剤(b)>
親水性の架橋剤(b-1):新中村化学工業(株)製 「A-1000」
ポリエチレングリコール#1000ジアクリレート
エチレン系不飽和結合数:2個
低分子量ポリオールの連続繰り返し単位数:23個
数平均分子量:1000
親水性の架橋剤(b-2):阪本薬品工業(株)製 「SA-TE60」
ポリエチレングリコール変性ポリグリセリン系アクリレート
エチレン系不飽和結合数:6個
低分子量ポリオールの連続繰り返し単位数:14個
数平均分子量:4000
ポリグリセリンの平均重合度(n):3
【0115】
<比較例用の親水性の架橋剤(b)>
親水性の架橋剤(b-3):新中村化学工業(株)製 「A-400」
ポリエチレングリコール#400ジアクリレート
エチレン系不飽和結合数:2個
低分子量ポリオールの連続繰り返し単位数:9個
数平均分子量:400
親水性の架橋剤(b-4):新中村化学工業(株)製 「A-GLY-20E」
ポリエチレングリコール変性ポリグリセリン系アクリレート
エチレン系不飽和結合数:3個
低分子量ポリオールの連続繰り返し単位数:6個
数平均分子量:1300
ポリグリセリンの平均重合度(n):1
親水性の架橋剤(b-5):阪本薬品工業(株)製 「SA-TE6」
ポリエチレングリコール変性ポリグリセリン系アクリレート
エチレン系不飽和結合数:6個
低分子量ポリオールの連続繰り返し単位数:6個
数平均分子量:2000
ポリグリセリンの平均重合度(n):3
親水性の架橋剤(b-6):富士フイルム和光純薬(株)
ポリエチレングリコール#1000
エチレン系不飽和結合数:0個
低分子量ポリオールの連続繰り返し単位数:23個
数平均分子量:1000
【0116】
[共重合体(A)の製造と評価]
<実施例I-1:共重合体(A-1)の製造>
以下の配合で共重合体(A-1)を製造した。
【0117】
〔配合〕
アクリル酸n-ブチル 97部
メタクリル酸アリル 1部
親水性の架橋剤(b-1) 2部
流動パラフィン 2部
アルケニルコハク酸ジカリウム 0.2部
ジラウロイルペルオキシド 0.6部
蒸留水 400部
【0118】
容器にアクリル酸n-ブチル(LogP=1.9)、流動パラフィン(LogP>6.0)、メタクリル酸アリル(LogP=1.5)、親水性の架橋剤(b-1)、ジラウロイルペルオキシド、蒸留水、アルケニルコハク酸ジカリウムを仕込み、常温下、(株)SMT製「ハイフレックスディスパーサー HG92」を用いて9000rpmで5分撹拌を行うことで混合物を得た。得られた混合物を三丸機械工業(株)製「高圧式ホモジナイザー H3-1D」を用いて、圧力20MPa、流量135L/hrで2回処理することでプレエマルションを得た。得られたプレエマルションの体積平均粒子径は350nmであった。
【0119】
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および攪拌装置を備えた反応器に、得られたプレエマルションを仕込み、反応器内を十分に窒素置換した後、攪拌しながら内温を60℃に昇温し、ラジカル重合を開始した。アクリル酸エステル成分の重合により、液温は78℃まで上昇した。30分間75℃で維持し、アクリル酸エステル成分の重合を完結させた。製造に要した時間は70分であり、固形分18.5%、体積平均粒子径350nmの共重合体(A-1)のラテックスを得た。得られた共重合体(A-1)の凝塊物量は0.01%であった。
【0120】
<実施例I-2、比較例I~5:共重合体(A-2)~(A-7)の製造>
実施例I-2および比較例I-1~I-4では用いた親水性の架橋剤(b)の種類を表1に示す通り変更したこと以外は、実施例I-1と同様にして、それぞれ共重合体(A-2)~(A-6)のラテックスを得た。
比較例I-5では親水性の架橋剤(b)を使用せず、アクリル酸n-ブチルとメタクリル酸アリルを表1に示す配合量としたこと以外は実施例I-1と同様にして共重合体(A-7)のラテックスを得た。
【0121】
各共重合体(A-1)~(A-7)の評価結果を表1に示す。
【0122】
【表1】
【0123】
[グラフト共重合体(B)の製造と評価]
<実施例II-1:グラフト共重合体(B-1)の製造>
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および攪拌装置を備えた反応器に、以下の配合で原料を仕込み、反応器内を十分に窒素置換した後、攪拌しながら内温を75℃まで昇温した。
【0124】
〔配合〕
水(共重合体(A-1)ラテックス中の水を含む) 230部
共重合体(A-1)ラテックス 70部(固形分として)
アルケニルコハク酸ジカリウム 0.5部
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.3部
硫酸第一鉄七水塩 0.001部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.003部
【0125】
次いで、アクリロニトリル、スチレン、t-ブチルハイドロペルオキシドを以下の配合で含む混合液を100分間にわたって滴下しながら、80℃まで昇温した。
【0126】
〔配合〕
アクリロニトリル 10部
スチレン 20部
t-ブチルハイドロペルオキシド 0.2部
【0127】
滴下終了後、温度80℃の状態を30分間保持した後冷却して、グラフト共重合体(B-1)のラテックスを得た。得られたラテックス中のグラフト共重合体(B-1)の固形分は29.7%、凝塊物量は0.01%、体積平均粒子径は400nm、グラフト率は25%であった。
【0128】
次いで、1.5%硫酸水溶液100部を80℃に加熱し、該水溶液を撹拌しながら、該水溶液にグラフト共重合体(B-1)ラテックス100部を徐々に滴下し、グラフト共重合体(B-1)を固化させ、さらに95℃に昇温して10分間保持した。
次いで、固化物を脱水、洗浄、乾燥し、粉末状のグラフト共重合体(B-1)を得た。
【0129】
<実施例II-2、比較例II-1~II-6:グラフト共重合体(B-2)~(B-8)の製造>
実施例II-2および比較例II-1~II-5では共重合体(A-1)のラテックスの代りに、共重合体(A-2)~(A-7)のラテックスをそれぞれ用いたこと以外は、実施例II-1と同様にして、それぞれグラフト共重合体(B-2)~(B-7)を得た。
また、比較例II-6では、グラフト共重合体(B-7)と同様に重合した後、アルケニルコハク酸ジカリウムを1部追加添加してグラフト共重合体(B-8)を得た。
【0130】
各グラフト共重合体(B-1)~(B-8)の評価結果を表2に示す。
【0131】
【表2】
【0132】
[AN-ST系熱可塑性樹脂組成物の製造と評価]
<実施例III-1~III-6、比較例III-1~III-4:熱可塑性樹脂組成物の製造>
グラフト共重合体(B-1)~(B-8)と、懸濁重合法によって製造したアクリロニトリル(AN)-スチレン(ST)共重合体(テクノUMG(株)製「UMG AXS レジン S102N」)とを、表3に示す割合でヘンシェルミキサーを用いて混合し、この混合物を240℃に加熱した押出機に供給して混練し、それぞれペレット1を得た。
また、ペレット1の100部とカーボンブラック0.8部とをヘンシェルミキサーを用いて混合し、この混合物を240℃に加熱した押出機に供給して混練し、それぞれ黒色ペレット2を得た。
【0133】
<試験片の作製>
熱可塑性樹脂組成物のペレット1を用い、各々、4オンス射出成形機(日本製鋼所(株)製)にて、シリンダー温度240℃、金型温度60℃、射出率20g/秒の条件で成形して、長さ80mm、幅10mm、厚み4mmの棒状の成形体1を得た。
同様に、熱可塑性樹脂組成物の黒色ペレット2をシリンダー温度240℃、金型温度60℃、射出率20g/秒の条件で射出成形して、長さ100mm、幅100mm、厚み3mmの板状の成形体2を得た。
【0134】
<評価>
(シャルピー衝撃値の測定)
ISO 179-1:2013年度版に準拠し、試験温度23℃および-30℃の条件で、それぞれの成形体1(タイプB1、ノッチ有:形状A シングルノッチ)のシャルピー衝撃強度(打撃方向:エッジワイズ)を測定した。シャルピー衝撃値が高いほど、耐衝撃性に優れることを意味する。
【0135】
(メルトボリュームレート(MVR)の測定)
ISO 1133規格に従い、220℃-98Nの条件でペレット1のMVRを測定した。MVRは熱可塑性樹脂組成物の成形性の目安となる。
【0136】
(発色性の評価)
成形体2について、分光測色計(コニカミノルタオプティプス社製「CM-3500d」)を用いて、SCE方式にて明度L*を測定した。測定されたL*を「L*(ma)」とする。L*が低いほど黒色となり、発色性が良好と判定した。
「明度L*」とは、JIS Z 8729において採用されているL*a*b*表色系における色彩値のうちの明度の値(L*)を意味する。
「SCE方式」とは、JIS Z 8722に準拠した分光測色計を用い、光トラップによって正反射光を除去して色を測る方法を意味する。
【0137】
(表面光沢の測定)
スガ試験機株式会社製の「デジタル変角光沢計UGV-5D」を用い、JIS K 7105に準拠して、入射角60°、反射角60°における成形体2の表面の反射率(%)を測定した。反射率が高いほど成形外観に優れることを意味する。
【0138】
(ガス発生・付着量試験)
ペレット1を用いて、図1のように、射出された溶融樹脂が、スプルー11からランナー12,13を2方向に流動した後、サイドゲート14,15から射出され、型内で会合してウエルド面を形成する金型10に射出成形を行った。その際、金型10内の中央部で、溶融樹脂20がウエルド面を形成せずに未融合の状態になるように、ショートショットとし、金型10内にガス溜りを形成するようにして、100ショット射出成形した。射出成形後、その未融合部の露出した金型10a部分に付着した脂状の堆積物をガス付着量として計量した。成形時に発生するガスが金型に脂状に堆積すると、この堆積物が成形品側に移行して、成形品の外観を悪化させるため、定期的に金型に付着した脂状の堆積物をクリーニング除去する必要があり、連続成形性に劣るものとなる。ガス付着量が少ないものほど連続成形性に優れる。
【0139】
実施例III-1~III-2および比較例III-1~III-6の結果を表3に示す。
【0140】
【表3】
【0141】
上記実施例および比較例の結果から、次のことが明らかとなった。
【0142】
本発明の共重合体(A-1)、(A-2)は、表1に示される通り、凝塊物量が少なく、ラテックスのせん断安定性、貯蔵安定性に優れる。
この共重合体(A-1)、(A-2)を用いたグラフト共重合体(B-1)~(B-2)は、表2に示される通り、凝塊物が少なく、ラテックスのせん断安定性、貯蔵安定性に優れると共に、分散性(粉体特性)に優れる。
このグラフト共重合体(B-1)、(B-2)を用いた実施例III-1、III-2の熱可塑性樹脂組成物は、表3に示される通り、耐衝撃性、低温耐衝撃性、流動性(成形性)、発色性、表面光沢(成形外観)、ガス付着性(連続成形性)に優れるものであることがわかる。
一方、本発明の範囲外の親水性の架橋剤(b-3)~(b-6)を用いた共重合体(A-3)~(A-6)、親水性の架橋剤(b)を用いていない共重合体(A-7)と、この共重合体(A-3)~(A-7)を用いたグラフト共重合体(B-3)~(B-8)は、製造安定性、せん断安定性、貯蔵安定性、分散性(粉体特性)のいずれかに劣るものであった。さらに、グラフト共重合体(B-3)~(B-8)を用いた熱可塑性樹脂組成物は耐衝撃性、低温耐衝撃性、発色性、成形外観、ガス付着性(連続成形性)のいずれかに劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明の共重合体(A)は製造安定性に優れることから、大量生産が容易であり、共重合体(A)を多く含むグラフト共重合体(B)にすることで、グラフト共重合体(B)の含有量を削減でき、熱可塑性樹脂組成物の低コスト化が実現できるようになる。
また、本発明のグラフト共重合体(B)を用いた熱可塑性樹脂組成物は成形性、連続成形性に優れ、また、その成形品は、耐衝撃性、低温耐衝撃性、発色性、成形外観が良好なものである。この成形性、連続成形性、耐衝撃性、低温耐衝撃性、発色性、成形外観のバランスは、従来の熱可塑性樹脂組成物よりなる成形品に比べて非常に優れているので、本発明の熱可塑性樹脂組成物およびその成形品は、各種工業用材料としての利用価値も極めて高い。
【符号の説明】
【0144】
10 金型
11 スプルー
12,13 ランナー
14,15 サイドゲート
20 溶融樹脂
図1