(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】透明導電性ガスバリア積層体及びその製造方法、並びにデバイス
(51)【国際特許分類】
B32B 7/025 20190101AFI20230530BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230530BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
B32B7/025
B32B27/00 D
B32B27/18 J
(21)【出願番号】P 2019070584
(22)【出願日】2019-04-02
【審査請求日】2022-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】正田 亮
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 智彦
【審査官】青木 太一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/141275(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/180729(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/181181(WO,A1)
【文献】特開昭63-272542(JP,A)
【文献】特開2017-84564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の透明ガスバリアフィルムと、
アクリル系接着剤、シリコーン系接着剤、ポリオレフィン系接着剤、ウレタン系接着剤及びポリビニルエーテル系接着剤からなる群から選ばれる一種の接着剤からなる透明接着層と、
導電性を有する有機材料からなる透明導電層と、
第2の透明ガスバリアフィルムと、
を備え、これらがこの順序で積層された構成であり、
前記有機材料がポリエチレンジオキシチオフェンを含
み、
前記透明接着層がエポキシ基を有する成分及びシランカップリング剤を含まず、
前記透明導電層が前記第2の透明ガスバリアフィルムの全体を覆うように形成されている、透明導電性ガスバリア積層体。
【請求項2】
第1の透明ガスバリアフィルムと、
アクリル系接着剤、シリコーン系接着剤、ポリオレフィン系接着剤、ウレタン系接着剤及びポリビニルエーテル系接着剤からなる群から選ばれる一種の接着剤からなる透明接着層と、
導電性を有する無機材料からなる透明導電層と、
第2の透明ガスバリアフィルムと、
を備え、これらがこの順序で積層された構成であり、
前記無機材料が酸化インジウムスズであ
り、
前記透明接着層がエポキシ基を有する成分及びシランカップリング剤を含まず、
前記透明導電層が前記第2の透明ガスバリアフィルムの全体を覆うように形成されている、透明導電性ガスバリア積層体。
【請求項3】
前記透明導電層のシート抵抗値が100~1000Ω/□である、請求項1又は2に記載の透明導電性ガスバリア積層体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の透明導電性ガスバリア積層体と、
前記第1の透明ガスバリアフィルムの表面上に形成されたデバイス材料層と、
を備える、デバイス。
【請求項5】
前記デバイス材料層の表面上に形成された対向電極を更に備える、請求項4に記載のデバイス。
【請求項6】
電圧駆動方式のデバイスである、請求項4又は5に記載のデバイス。
【請求項7】
電子ペーパー、液晶表示装置又は調光フィルムである、請求項4~6のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか一項に記載の透明導電性ガスバリア積層体の製造方法であり、
前記第1の透明ガスバリアフィルムと前記透明導電層とを、前記透明接着層を介して貼り合わせる工程を含む、透明導電性ガスバリア積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、透明導電性ガスバリア積層体及びその製造方法、並びにデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
防湿層又はガスバリア層を有する積層フィルムで保護された構造の電子デバイスの開発が進められている。例えば、特許文献1は樹脂シートと防湿層と接着層と樹脂シートとをこの順序で備えた導電層用支持体及びこれを用いた電子ペーパーを開示する。特許文献2は基材層と、所定の材料から構成されたガスバリア層と、透明導電体層とを有する透明導電性フィルム及びこれを備える電子デバイスを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-175566号公報
【文献】特開2012-86378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、透明導電層を含むデバイスを開発する過程において、本来、透明であるべき透明導電性ガスバリア積層体が着色する現象に着目した。透明導電性ガスバリア積層体の色が経時的に変化すると、性能上の問題がなくても透明導電性ガスバリア積層体が劣化したとデバイスメーカーや使用者が認識するという問題がある。
【0005】
そこで、本開示は、経時的な変色を十分に抑制できる透明導電性ガスバリア積層体及びその製造方法、並びに、当該透明導電性ガスバリア積層体を用いたデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る透明導電性ガスバリア積層体は、第1の透明ガスバリアフィルムと、アクリル系接着剤、シリコーン系接着剤、ポリオレフィン系接着剤、ウレタン系接着剤及びポリビニルエーテル系接着剤からなる群から選ばれる一種の接着剤からなる透明接着層と、導電性を有する有機材料又は無機材料からなる透明導電層と、第2の透明ガスバリアフィルムとを備え、これらがこの順序で積層された構成である。
【0007】
上記透明導電性ガスバリア積層体においては、第1のガスバリアフィルムと第2のガスバリアフィルムとの間に、導電性を有する有機材料又は無機材料からなる透明導電層が配置されている。二つのガスバリアフィルムによって透明導電層をサンドイッチした構成を採用したことで、透明導電層が空気中の水分等によって経時的に変色することを抑制できる。導電性を有し且つ透明性を有する材料は、水や熱の影響でクロミック現象を生じやすいと考えられ、本発明者らの検討によると、かかる環境下において電圧が印加されることで変色がより顕著となる場合がある。
【0008】
また、本発明者らは、透明接着層と透明導電層が直接接した状態であると、透明接着層の種類によっては、それに含まれる成分が透明導電層に悪影響を与えることを見出した。透明導電層が有機材料(例えば、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)を含むもの)である場合、透明接着剤層を構成する接着剤として、エポキシ系接着剤、あるいは、シランカップリング剤を含む接着剤を使用した試験例において、温度85℃相対湿度85%の条件下に放置した後において、透明導電層が着色するとともに、透明導電層が導電性を失う現象が認められた。これに対し、本発明者らの検討によると、透明接着層として、アクリル系接着剤、シリコーン系接着剤、ポリオレフィン系接着剤、ウレタン系接着剤及びポリビニルエーテル系接着剤を用いた場合にはこのような現象は認められなかった。
【0009】
透明接着層を構成する有機材料としては、上述のとおり、ポリエチレンジオキシチオフェンを含むものが挙げられる。透明接着層は、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PPS)との混合物(以下、場合により「PEDOT/PSS」と表記する。)を含むものであってもよい。透明接着層を構成する無機材料としては、酸化スズインジウム(ITO)が挙げられる。透明導電層のシート抵抗値は、例えば、100~1000Ω/□である。
【0010】
本開示は、上記透明導電性ガスバリア積層体を用いたデバイスを提供する。すなわち、このデバイスは、上記透明導電性ガスバリア積層体と、その第1の透明ガスバリアフィルムの表面上に形成されたデバイス材料層とを備える。このデバイスにおけるデバイス材料層は透明導電性ガスバリア積層体によって保護されているとともに透明導電層を介して駆動される。
【0011】
本開示に係るデバイスは、デバイス材料層の表面上に形成された対向電極を更に備えたものであってもよい。上記デバイスは、デバイス材料層と透明導電層との間に少なくとも第1の透明ガスバリアフィルムと透明接着層とが介在している。これらは導電性を有するものではないため、本開示に係るデバイスは電圧駆動方式であることが好ましい。その具体例として、電子ペーパー、液晶表示装置及び調光フィルムが挙げられる。
【0012】
本開示は上記透明導電性ガスバリア積層体の製造方法を提供する。すなわち、この製造方法は、第1の透明ガスバリアフィルムと透明導電層とを、上記透明接着層を介して貼り合わせる工程を含む。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、経時的な変色を十分に抑制できる透明導電性ガスバリア積層体及びその製造方法、並びに、当該透明導電性ガスバリア積層体を用いたデバイスが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は本開示に係る透明導電性ガスバリア積層体の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2(a)は第1の透明ガスバリアフィルムの構成の一例を模式的に示す断面図であり、
図2(b)は第1の透明ガスバリアフィルムの構成の他の例を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3(a)は第2の透明ガスバリアフィルムの構成の一例を模式的に示す断面図であり、
図3(b)は第2の透明ガスバリアフィルムの構成の他の例を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4は透明導電性ガスバリア積層体を備えたデバイスの一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5(a)及び
図5(b)は透明ガスバリアフィルムの構成の他の例を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6(a)~
図6(c)は本開示に係る透明導電性ガスバリア積層体の他の実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図7】
図7(a)は比較例に係る透明導電性ガスバリア積層体を模式的に示す断面図であり、
図7(b)は比較例に係るデバイスを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本開示の複数の実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0016】
<透明導電性ガスバリア積層体>
図1に示す透明導電性ガスバリア積層体(以下、本開示に係る「透明導電性ガスバリア積層体」について場合により単に「積層体」という。)10は、第1の透明ガスバリアフィルム1と、透明接着層3と、透明導電層5と、第2の透明ガスバリアフィルム2とをこの順序で備える。なお、
図4に示すように、積層体10がデバイス100を水分等から保護するための部材として使用される場合、第1の透明ガスバリアフィルム1側にデバイス材料層30が配置される。すなわち、この場合、積層体10は、第1の透明ガスバリアフィルム1側(
図1における上側)が内側に相当し、第2の透明ガスバリアフィルム2側(
図1における下側)が外側に相当する。積層体10において、上記のフィルム又は層の間に、他のフィルムや層が設けられていてもよい。
【0017】
第1の透明ガスバリアフィルム1は、例えば、
図1に示すとおり、透明基材フィルム1aとバリア層1bとによって構成されている。
【0018】
透明基材フィルム1aは、十分に無色透明であることが好ましい。透明基材フィルム1aの全光線透過率は85%以上であることが好ましい。透明基材フィルム1aとして、例えば、透明性が高く、耐熱性に優れたフィルムとして、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)、ポリエチレンナフタレートフィルムなどを用いることができる。透明基材フィルム1aの厚さは9~50μmであり、好ましくは12~30μmである。透明基材フィルム1aの厚さが9μm以上であれば、透明基材フィルム1aの強度を十分に確保することができ、他方、50μm以下であれば、長いロール(透明ガスバリアフィルム1のロール)を効率的且つ経済的に製造することができる。
【0019】
バリア層1bは、例えば、
図2(a)に示すように蒸着層1vとガスバリア性被覆層1cとによって構成される。すなわち、バリア層1bは、透明基材フィルム1aの一方の面上に蒸着層1vが設けられ、この蒸着層1vの上にガスバリア性被覆層1cが設けられた構成である。透明基材フィルム1aと蒸着層1vとの密着性を向上させるために、透明基材フィルム1aの表面に、プラズマ処理などの処理を施したり、アクリル樹脂層、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂などからなるアンカーコート層(不図示)を設けたりしてもよい。なお、バリア層1bは、
図2(b)に示すように、蒸着層1vとガスバリア性被覆層1cとが交互に積層された構成であってもよい。図示していないが、透明基材フィルム1aの両面にバリア層1bを形成してもよい。
【0020】
蒸着層1vは、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化マグネシウムあるいはそれらの混合物を透明基材フィルム1aに蒸着させることによって形成することができる。これら無機材料の中でも、バリア性、生産性の観点から、酸化アルミニウム又は酸化ケイ素を用いることが望ましい。蒸着層は、真空蒸着法、スパッタ法、CVD等の手法により形成される。
【0021】
蒸着層1vの厚さ(膜厚)は5~500nmの範囲内とすることが好ましく、10~100nmの範囲内とすることがより好ましい。膜厚が5nm以上であると、均一な膜を形成しやすく、ガスバリア材としての機能をより十分に果たすことができる傾向がある。一方、膜厚が500nm以下であると、十分なフレキシビリティを保持させることができ、成膜後に折り曲げ、引っ張りなどの外的要因により、薄膜に亀裂を生じることをより確実に防ぐことができる傾向がある。
【0022】
ガスバリア性被覆層1cは後工程での二次的な各種損傷を防止するとともに、高いバリア性を付与するために設けられるものである。ガスバリア性被覆層1cは、優れたバリア性を得る観点から、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド、金属アルコキシド加水分解物及び金属アルコキシド重合物からなる群より選択される少なくとも一種を成分として含有していることが好ましい。
【0023】
水酸基含有高分子化合物としては、具体的には、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン等の水溶性高分子が挙げられるが、特にポリビニルアルコールを用いた場合にバリア性が最も優れる。
【0024】
金属アルコキシドは、一般式:M(OR)n(MはSi、Ti、Al、Zr等の金属原子を示し、Rは-CH3、-C2H5等のアルキル基を示し、nはMの価数に対応した整数を示す)で表される化合物である。具体的には、テトラエトキシシラン〔Si(OC2H5)4〕、トリイソプロポキシアルミニウム〔Al(O-iso-C3H7)3〕などが挙げられる。テトラエトキシシラン、トリイソプロポキシアルミニウムは、加水分解後、水系の溶媒中において比較的安定であるので好ましい。また、金属アルコキシドの加水分解物及び重合物としては、例えば、テトラエトキシシランの加水分解物や重合物としてケイ酸(Si(OH)4)などが、トリプロポキシアルミニウムの加水分解物や重合物として水酸化アルミニウム(Al(OH)3)などが挙げられる。
【0025】
ガスバリア性被覆層1cの厚さ(膜厚)は50~1000nmの範囲内とすることが好ましく、100~500nmの範囲内とすることがより好ましい。膜厚が50nm以上であると、より十分なガスバリア性を得ることができる傾向があり、1000nm以下であると、十分なフレキシビリティを保持できる傾向がある。
【0026】
第2の透明ガスバリアフィルム2は、
図1に示すとおり、透明基材フィルム2aとバリア層2bとによって構成されている。第2の透明ガスバリアフィルム2は、第1の透明ガスバリアフィルム1と同様の構成(積層構造、材質及び厚さ等)とすることができる。すなわち、第2の透明ガスバリアフィルム2は、
図3(a)に示すとおり、バリア層2bは一対の蒸着層2v及びガスバリア性被覆層2cで構成されていてもよいし、
図3(b)に示すとおり、複数対の蒸着層2v及びガスバリア性被覆層2cで構成されていてもよい。
【0027】
透明導電層5は、導電性を有する有機材料からなる層である。
図1に示すとおり、透明導電層5は、二つの透明ガスバリアフィルム1,2の間に配置されており、すなわち、二つの透明ガスバリアフィルム1,2によってサンドイッチされている。かかる構成を採用したことにより、透明導電層5が空気中の水分等によって経時的に変色することを抑制できる。
【0028】
導電性を有する有機材料としては、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)を含む導電性ポリマーが挙げられる。透明導電層5は、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PPS)との混合物(PEDOT/PSS)を含むものであってもよい。
【0029】
透明導電層5の厚さ(膜厚)は0.1~2.0μmの範囲内とすることが好ましく、0.1~0.4μmの範囲内とすることがより好ましい。膜厚が0.1μm以上であると、均一な膜を形成しやすく、導電層としての機能をより十分に果たすことができる傾向がある。一方、膜厚が2.0μm以下であると、十分なフレキシビリティを保持させることができ、成膜後に折り曲げ、引っ張りなどの外的要因により、薄膜に亀裂を生じることをより確実に防ぐことができる傾向がある。透明導電層5のシート抵抗値は、例えば、100~1000Ω/□の範囲であり、好ましくは100~500Ω/□であり、より好ましくは100~150Ω/□である。透明導電層5のシート抵抗値は例えばロレスターGP MCP-T610(商品名、株式会社三菱化学アナリテック製)を用いて測定することができる。
【0030】
透明導電層5は、例えば、導電性ポリマーを含む塗液を塗工することによって形成することができる。なお、透明導電層5は第2の透明ガスバリアフィルム2の全体を覆うように形成(いわゆるベタ塗り)されていてもよいし、パターンを形成していてもよい。
【0031】
透明接着層3は、第1の透明ガスバリアフィルム1と透明導電層5との間に介在しており、両者を貼り合わせている。本発明者らの検討によると、透明導電層5と直接接する透明接着層3は、エポキシ基及びシランカップリング剤を含まないことが好ましい。透明接着層3がエポキシ基を含むものであると透明導電層5に含まれるPEDOTが還元され、ホール密度が低下することによって透明導電層5の導電性が低下すると推察される。また、透明接着層3がシランカップリング剤を含むものである場合も透明導電層5に含まれるPEDOTが還元されることによって透明導電層5の導電性が低下すると推察される。
【0032】
透明接着層3を構成する接着剤としては、アクリル系接着剤、シリコーン系接着剤、ポリオレフィン系接着剤、ウレタン系接着剤又はポリビニルエーテル系接着剤等が挙げられる。これらのうち、アクリル系粘着剤は、透明性が高く、耐熱性にも優れることから好ましい。透明接着層3の厚さは、例えば、0.5~50μmであり、1~20μm又は2~6μmであってもよい。
【0033】
透明接着層3を構成する接着剤は、酸素バリア性を有してもよい。この場合、透明接着層3の酸素透過度は、厚さ5μmにおいて、厚さ方向に、例えば1000cm3/(m2・day・atm)以下である。上記酸素透過度は500cm3/(m2・day・atm)以下であることが好ましく、100cm3/(m2・day・atm)以下であることがより好ましく、50cm3/(m2・day・atm)以下であることが更に好ましく、10cm3/(m2・day・atm)以下であることが特に好ましい。透明接着層3の酸素透過度が1000cm3/(m2・day・atm)以下であることにより、バリア層1bが欠陥を有していたとしてもこれを補うことができる。上記酸素透過度の下限値は特に制限されないが、例えば、0.1cm3/(m2・day・atm)である。
【0034】
<透明導電性ガスバリア積層体の製造方法>
透明導電性ガスバリア積層体10は、例えば、ロールtoロール方式によって製造することができる。まず、透明ガスバリアフィルム1を製造する。具体的には、透明基材フィルム1aの一方の面上に蒸着層1vを蒸着法によって積層する。次いで、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド、金属アルコキシド加水分解物及び金属アルコキシド重合物からなる群より選択される少なくとも一種の成分等を含む水溶液あるいは水/アルコール混合溶液を主剤とするコーティング剤を蒸着層1vの表面上に塗布し、例えば80~250℃で乾燥することで、ガスバリア性被覆層1cを形成する。これと同様にして、透明ガスバリアフィルム2を製造する。
【0035】
透明ガスバリアフィルム2の内側表面に透明導電層5を形成する。その後、第1の透明ガスバリアフィルム1と透明導電層5とを、透明接着層3を介して貼り合わせる工程を経て積層体10が製造される。
【0036】
<デバイス>
図4に示すデバイス100は、積層体10(第1の透明ガスバリアフィルム1、透明接着層3、透明導電層5及び第2の透明ガスバリアフィルム2)と、デバイス材料層30と、対向電極40とを備える。デバイス100の具体例としては、電圧駆動方式のデバイスである電子ペーパー、液晶表示装置及び調光フィルムが挙げられる。
図4に示すように、デバイス材料層30は、透明ガスバリアフィルム1の表面上に形成されている。なお、デバイス材料層30は、デバイス100が機能するための材料を含む層を意味する。例えば、デバイス100が電子ペーパーである場合、文字等を表示するための顔料粒子等が収められたマイクロカプセルを含む層がデバイス材料層30に相当する。
【0037】
デバイス材料層30が紫外線によって劣化するのを抑制する観点から、透明接着層3は紫外線カット性を有していてもよい。具体的には、透明接着層3は紫外線吸収剤を含有してもよい。紫外線吸収剤としてはペンザトリアゾール、ペンゾフェノン、トリアジン系などの化合物を含むもの挙げられる。市販品としてはTinuvin(登録商標)400(商品名、BASF株式会社製)などを使用できる。
【0038】
透明導電層5が紫外線によって劣化するのを抑制する観点から、透明基材フィルム2aとして、紫外線カット性を有するフィルムを使用してもよい。透明導電層5を紫外線から保護することで、透明導電層5のシート抵抗の経時的な上昇を抑制できる。デバイス材料層30が紫外線によって劣化するのを抑制する観点から、透明基材フィルム1aとして、紫外線カット性を有するフィルムを使用してもよい。
【0039】
以上、本開示の複数の実施形態について詳細に説明したが、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0040】
例えば、第1の透明ガスバリアフィルム1及び第2の透明ガスバリアフィルム2の少なくとも一方が
図5(a)又は
図5(b)に示す態様(二組のガスバリアフィルムを有する態様)であってもよい。
図5(a)に示す透明ガスバリアフィルム12Aは、二組のバリア層1b同士が対面するように、透明接着層A1を介して積層されている。他方、
図5(b)に示す透明ガスバリアフィルム12Bは、一方の組(図における下側)のバリア層1bと他方の組(図における上側)の透明基材フィルム1aとが対面するように、透明接着層A1を介して積層されている。透明接着層A1としては、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤等が挙げられる。特にアクリル系粘着剤は透明性が高く、耐熱性にも優れることから好ましい。透明接着層A1の厚さは、例えば、0.5~50μmであり、1~20μm又は2~6μmであってもよい。透明接着層A1は、上述の透明接着層3を構成する接着剤は、酸素バリア性及び紫外線カット性を有してもよい。
【0041】
上記実施形態においては、
図1に示したとおり、透明基材フィルム1a及び透明基材フィルム2aがそれぞれ最外層をなす透明導電性ガスバリア積層体10を例示した。かかる構成は、二つのバリア層1b,2bが透明導電層5の近くに配置されていることで、透明導電層5に対する水分等の影響をより高度に抑制できるという利点がある。また、例えば、ロールtoロール方式で透明導電性ガスバリア積層体を製造する場合に、透明基材フィルム1a,2aを搬送用のローラに接触させやすく、バリア層1b,2bがローラ等との接触によってダメージを受けることを抑制できるという利点がある。他方、バリア層1bと透明接着層3との間の接着性が不十分となり得る場合は、
図6(a)に示すとおり、第1の透明ガスバリアフィルム1の表と裏を逆に配置してもよい。すなわち、透明基材フィルム1aと透明接着層3が直接接するようにしてもよい。また、バリア層2bと透明導電層5との間の接着性が不十分となり得る場合は、
図6(b)に示すとおり、第2の透明ガスバリアフィルム2の表と裏を逆に配置してもよい。すなわち、透明基材フィルム2aと透明導電層5が直接接するようにしてもよい。
図6(c)に示すように、第1の透明ガスバリアフィルム1及び第2の透明ガスバリアフィルム2の両方について表と裏を逆に配置してもよい。
【0042】
上記実施形態においては、透明導電層5が導電性ポリマー(有機材料)からなる場合を例示したが、これに代わりに、酸化スズインジウム(ITO)等の無機材料であってもよい。ITOのような無機酸化物も、水分等の影響によって酸素欠損の状態が反応的に変化し、これによってバンドギャップが影響を受けて変色し得る。
【0043】
上記実施形態においては、透明導電性ガスバリア積層体10がデバイス100を水分等から保護するための部材として使用される場合を例示したが、透明導電性ガスバリア積層体自体を他の用途に使用してもよい。他の用途としては、例えば、電磁波抑制シートとして用いることが挙げられる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例において、シート抵抗値の増加率、及び、L*a*b*表色系におけるb*の変化量(Δb*)は次のようにして測定した。
【0045】
(1)シート抵抗値の増加率
透明導電層のシート抵抗値(初期値及びUV曝露後の値)をロレスターGP MCP-T610(商品名、株式会社三菱化学アナリテック製)を用いて測定した。透明ガスバリアフィルム側から透明導電層側に向けて紫外線を照射し、照射時間は100時間とした。シート抵抗値の増加率は以下の式で算出した。
シート抵抗値の増加率(%)=(UV曝露後の値-初期値)/(初期値)×100
【0046】
(2)L*a*b*表色系におけるb*の変化量(Δb*)
UV-2450(商品名、株式会社島津製作所製)を用いて透明導電性ガスバリア積層体の分光透過率(初期値及びUV曝露後の値)を測定した。測定結果から物体色の三刺激値XYZ表色系における透過による物体色の三刺激値X,Y,Zを以下の式により求め、b*を算出した。透明ガスバリアフィルム側から透明導電層側に向けて紫外線を照射し、照射時間は100時間とした。
【0047】
【数1】
b
*の変化量(Δb
*)=UV曝露後の値-初期値
なお、Δb
*がプラスの値であることは透明導電性ガスバリア積層体の黄色味が強くなったことを意味し、Δb
*がマイナスの値であることは透明導電性ガスバリア積層体の青色味が強くなったことを意味する。
【0048】
<透明導電性ガスバリア積層体の作製>
[実施例1A]
二枚の透明ガスバリアフィルムを以下のようにして作製した。まず、透明基材フィルムとしての厚さ12μmのPETフィルムの片面に、アクリル樹脂塗液を塗布乾燥させてアンカーコート層を形成し、アンカーコート層上に蒸着層として酸化ケイ素を真空蒸着法により厚さ30nmで設けた。更に、蒸着層上に厚さ300nmのガスバリア性被覆層を形成した。このガスバリア性被覆層は、テトラエトキシシランとポリビニルアルコールとを含む塗液をウエットコーティング法により塗工することによって形成した。これにより、透明基材フィルムの一方の面上に一対の酸化ケイ素蒸着層及びガスバリア性被覆層からなるバリア層が設けられた透明ガスバリアフィルムを得た(
図2(a)参照)。これと同様にして、透明ガスバリアフィルムを別途作製した(
図3(a)参照)。
【0049】
一方の透明ガスバリアフィルムのガスバリア性被覆層上に厚さ150nmの透明導電層を形成した。透明導電層はPEDOTを含む塗液(ナガセケムテックス株式会社製)をウエットコーティング法により塗工することによって形成した。透明導電層のシート抵抗値は150Ω/□であった。この透明導電層と、他方の透明ガスバリアフィルムと透明接着層を介して貼り合わせることによって、透明導電性ガスバリア積層体を得た(
図1参照)。透明接着層を構成する接着剤として、光学用アクリル系接着剤(サイデン化学株式会社製)を使用した。
【0050】
[実施例2A]
透明接着層を構成する接着剤として、光学用アクリル系接着剤(サイデン化学株式会社製)の代わりに、光学用シリコーン系接着剤(日栄化工株式会社製)を使用したことの他は、実施例1Aと同様にして透明導電性ガスバリア積層体を得た(
図1参照)。
【0051】
[実施例3A]
PEDOTを含む溶液を使用して透明導電層(厚さ150nm)を形成する代わりに、真空蒸着によってITO膜(厚さ50nm)を形成したことの他は、実施例1Aと同様にして透明導電性ガスバリア積層体を得た(
図1参照)。
【0052】
[実施例4A]
PEDOTを含む溶液を使用して透明導電層(厚さ150nm)を形成する代わりに、真空蒸着によってITO膜(厚さ50nm)を形成したことの他は、実施例2Aと同様にして透明導電性ガスバリア積層体を得た(
図1参照)。
【0053】
[比較例1A]
実施例1Aと同様にして透明ガスバリアフィルムを作製した(
図2(a)参照)。この透明ガスバリアフィルムのガスバリア性被覆層上に、実施例1Aと同様にして、PEDOTを含む透明導電層(厚さ150nm)を形成した(
図7(a)参照)。これにより、透明導電層がむきだしの積層体を得た。
【0054】
[比較例2A]
実施例1と同様にして透明ガスバリアフィルムを作製した(
図2(a)参照)。この透明ガスバリアフィルムのガスバリア性被覆層上に、実施例3Aと同様にして、ITOからなる透明導電層(厚さ50nm)を形成した(
図7(a)参照)。これにより、透明導電層がむきだしの積層体を得た。
【0055】
[比較例3]
透明接着層を構成する接着剤として、光学用アクリル系接着剤(サイデン化学株式会社製)の代わりに、光学用エポキシ系接着剤(三菱化学製)を使用したことの他は、実施例1Aと同様にして透明導電性ガスバリア積層体を得た(
図1参照)。
【0056】
[比較例4]
透明接着層を構成する接着剤として、光学用アクリル系接着剤(サイデン化学株式会社製)の代わりに、シランカップリング剤を含む接着剤(三菱化学製)を使用したことの他は、実施例1Aと同様にして透明導電性ガスバリア積層体を得た(
図1参照)。
【0057】
<電子ペーパーの作製>
[実施例1B]
実施例1Aと同様にして得た透明導電性ガスバリア積層体と、デバイス材料層と、対向電極とを備える電子ペーパーを作製した(
図4参照)。このデバイス材料層は、エポキシ系樹脂を含有するものであった。
【0058】
[実施例2B~4B]
実施例2A~4Aと同様にして得た透明導電性ガスバリア積層体をそれぞれ使用したことの他は、実施例1Bと同様にして、電子ペーパーを作製した(
図4参照)。
【0059】
[比較例1B及び比較例2B]
比較例1A及び比較例2Aと同様にして得た積層体をそれぞれ使用したことの他は、実施例1Bと同様にして、電子ペーパーを作製した(
図7(b)参照)。
【0060】
【0061】
比較例3及び比較例4に係る透明導電層は、UV曝露後において導電性が失ったと認められ、シート抵抗値を測定することができなかった。
【0062】
実施例1B~4Bに係る電子ペーパーは正常に駆動することを確認した。一方、比較例1B,2Bに係る電子ペーパーは駆動しなかった。これはデバイス材料層がエポキシ系樹脂を含有しており、このデバイス材料層が透明導電層と直接接していることが原因と推察される。
【符号の説明】
【0063】
1…第1の透明ガスバリアフィルム、1a…透明基材フィルム、1b…バリア層、1v…蒸着層、1c…ガスバリア性被覆層、2…第2の透明ガスバリアフィルム、2a…透明基材フィルム、2b…バリア層、2v…蒸着層、2c…ガスバリア性被覆層、3…透明接着層、5…透明導電層、10…透明導電性ガスバリア積層体、12A,12B…透明ガスバリアフィルム、30…デバイス材料層、100…デバイス。