(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】磁気式ロータリエンコーダ及び転がり軸受ユニット
(51)【国際特許分類】
G01D 5/245 20060101AFI20230530BHJP
G01B 7/30 20060101ALI20230530BHJP
F16C 41/00 20060101ALI20230530BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20230530BHJP
F16C 19/38 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
G01D5/245 110L
G01B7/30 M
F16C41/00
F16C33/78 Z
F16C19/38
(21)【出願番号】P 2019075756
(22)【出願日】2019-04-11
【審査請求日】2021-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】笠原 勇樹
【審査官】吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-3223(JP,A)
【文献】特開2013-203823(JP,A)
【文献】特開2009-40954(JP,A)
【文献】特開2010-66513(JP,A)
【文献】特開平9-323972(JP,A)
【文献】特開平4-189803(JP,A)
【文献】特開2005-91404(JP,A)
【文献】特開2000-298368(JP,A)
【文献】特開2014-227460(JP,A)
【文献】特開平11-312418(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/12-5/252
G01B 7/00-7/34
C08L 1/00-101/14
F16C 41/00、33/78、
19/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体粉末、ポリアミド樹脂、アミン系酸化防止剤、及び2-メルカプトベンズイミダゾールを含有する磁性樹脂材料を円環状に形成した磁石部と、前記磁石部に接合された円環状部材であるスリンガと、を備え、
前記ポリアミド樹脂は、23℃で24時間水中に放置した場合の吸水率が0.7質量%以下であり、
前記アミン系酸化防止剤の含有量と前記2-メルカプトベンズイミダゾールの含有量の質量比が2:1~1:2である磁気式ロータリエンコーダ。
【請求項2】
前記磁性樹脂材料は、前記ポリアミド樹脂100質量部と、前記アミン系酸化防止剤0.5質量部以上2質量部以下と、前記2-メルカプトベンズイミダゾール0.25質量部以上2質量部以下と、を含有する請求項1に記載の磁気式ロータリエンコーダ。
【請求項3】
前記アミン系酸化防止剤が4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミンである請求項1又は請求項2に記載の磁気式ロータリエンコーダ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の磁気式ロータリエンコーダと、回転輪及び静止輪を有する転がり軸受と、を備え、前記磁気式ロータリエンコーダのスリンガが前記転がり軸受の回転輪に装着された転がり軸受ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気式ロータリエンコーダ及び転がり軸受ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受と、該転がり軸受の回転輪の回転状態(例えば回転速度、回転方向)を測定するセンサである磁気式ロータリエンコーダと、を備えた転がり軸受ユニットが知られている。磁気式ロータリエンコーダとしては、磁性体粉末とバインダである樹脂との混合物である磁性樹脂材料を円環状に形成した磁石部を、円環状部材であるスリンガに接合してなるものが知られている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
この転がり軸受ユニットは、自動車の車輪の回転状態の測定等に使用されるが、自動車においては高温環境(例えば120℃)及び低温環境(例えば-40℃)に繰り返し曝露されるため、磁石部の変形がスリンガの変形に追従できず、磁石部に亀裂が発生するおそれがあった。すなわち、磁石部の耐衝撃性が不十分であった。また、高温に曝されると、磁石部のバインダである樹脂が酸化劣化し、磁石部の伸びや撓みが生じにくくなるため、高温環境と低温環境に繰り返し曝露された場合に、磁石部の亀裂がより一層発生しやすくなるおそれがあった。すなわち、磁石部の耐熱性が不十分であった。
【0004】
特許文献1に開示の転がり軸受ユニットの磁性樹脂材料には、耐衝撃性向上剤及び酸化防止剤が添加されているものの、自動車に使用される転がり軸受ユニットへの要求性能はますます厳しくなっているため、磁気式ロータリエンコーダの磁石部には、耐衝撃性と耐熱性のさらなる向上が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高温環境及び低温環境に繰り返し曝露されても、磁石部に亀裂が発生しにくい磁気式ロータリエンコーダ及び転がり軸受ユニットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る磁気式ロータリエンコーダは、磁性体粉末、ポリアミド樹脂、アミン系酸化防止剤、及び2-メルカプトベンズイミダゾールを含有する磁性樹脂材料を円環状に形成した磁石部と、磁石部に接合された円環状部材であるスリンガと、を備え、ポリアミド樹脂は、23℃で24時間水中に放置した場合の吸水率が0.7質量%以下であり、アミン系酸化防止剤の含有量と2-メルカプトベンズイミダゾールの含有量の質量比が2:1~1:2であることを要旨とする。
本発明の他の態様に係る転がり軸受ユニットは、上記一態様に係る磁気式ロータリエンコーダと、回転輪及び静止輪を有する転がり軸受と、を備え、磁気式ロータリエンコーダのスリンガが転がり軸受の回転輪に装着されたことを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る磁気式ロータリエンコーダ及び転がり軸受ユニットは、高温環境及び低温環境に繰り返し曝露されても、磁石部に亀裂が発生しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る転がり軸受ユニットの一実施形態である、磁気式ロータリエンコーダを備える深溝玉軸受の構造を示す部分縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態について以下に説明する。なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。また、本実施形態には種々の変更又は改良を加えることが可能であり、その様な変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
【0011】
本発明の一実施形態に係る磁気式ロータリエンコーダは、磁性体粉末、ポリアミド樹脂、アミン系酸化防止剤、及び2-メルカプトベンズイミダゾールを含有する磁性樹脂材料を円環状に形成した磁石部と、磁石部に接合された円環状部材であるスリンガと、を備えている。このポリアミド樹脂は、23℃で24時間水中に放置した場合の吸水率が0.7質量%以下である低吸水性樹脂である。また、磁性樹脂材料中のアミン系酸化防止剤の含有量と2-メルカプトベンズイミダゾール(以下「MBI」と記すこともある)の含有量の質量比は、2:1~1:2の範囲内である。
【0012】
本発明の一実施形態に係る転がり軸受ユニットは、上記一実施形態に係る磁気式ロータリエンコーダと、回転輪及び静止輪を有する転がり軸受と、を備えている。そして、磁気式ロータリエンコーダのスリンガが転がり軸受の回転輪に装着されており、磁気式ロータリエンコーダの磁石部が、転がり軸受の回転輪と同一の回転状態で回転するようになっている。よって、磁石部の回転状態を測定することにより、転がり軸受の回転輪の回転状態を測定することができるようになっている。
【0013】
磁気式ロータリエンコーダの磁石部を構成する磁性樹脂材料は、アミン系酸化防止剤及びMBIを上記の質量比で含有するので、両者の相乗効果によりポリアミド樹脂の酸化劣化が生じにくく、柔軟性の低下が生じにくい。そのため、本実施形態の磁気式ロータリエンコーダの磁石部は、優れた耐衝撃性と耐熱性を有している。よって、高温環境及び低温環境に繰り返し曝露されたとしても磁石部に亀裂が発生しにくいので、本実施形態の磁気式ロータリエンコーダ及び転がり軸受ユニットは、磁気特性が高く且つ回転状態の高精度な測定が可能で信頼性が高い。
【0014】
このような本実施形態の磁気式ロータリエンコーダ及び転がり軸受ユニットは、自動車分野に好適に使用可能である。自動車は雨水、泥水等の水と接触する機会が多いため、自動車に使用される磁気式ロータリエンコーダ及び転がり軸受ユニットも水と接触する機会が多い。そのため、ポリアミド樹脂の吸水率が高いと、吸水により磁石部が膨潤し、必要な磁気特性が損なわれるおそれがある。ポリアミド樹脂が、23℃で24時間水中に放置した場合の吸水率が0.7質量%以下である低吸水性樹脂であれば、吸水による磁石部の膨潤や磁気特性の低下が生じにくい。
【0015】
ここで、アミン系酸化防止剤及びMBIの相乗効果によりポリアミド樹脂の酸化劣化が生じにくくなる理由について説明する。ポリアミド樹脂は、100~175℃の高温環境下で使用されると酸化劣化することが多いが、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(以下「CD」と記すこともある)等のアミン系酸化防止剤が配合されていれば、熱分解や酸化により生じたポリマーラジカルにアミン系酸化防止剤が水素を供与して自動酸化反応の連鎖を停止させるので、酸化劣化が抑制される。
【0016】
一方、アミン系酸化防止剤の酸化防止作用等により生成したヒドロペルオキシドから各種ラジカルが生じるため、ヒドロペルオキシドによってもポリアミド樹脂の酸化劣化が生じる。しかし、MBIが配合されていれば、MBIはヒドロペルオキシドを安定なアルコールに変換するため、ヒドロペルオキシドに起因する酸化劣化が抑制される。しかも、MBIは、酸塩基相互作用により、磁性樹脂材料内においてCD等のアミン系酸化防止剤の近くに存在するため、アミン系酸化防止剤とMBIの併用によって高い酸化劣化防止効果が奏される。
このように、ポリアミド樹脂にアミン系酸化防止剤とMBIの両方が配合されていれば、その相乗効果により、優れた酸化劣化防止効果が奏される。
【0017】
磁性樹脂材料中のアミン系酸化防止剤の含有量とMBIの含有量の質量比が2:1~1:2の範囲内であれば、ポリアミド樹脂の酸化劣化防止効果が優れているとともに、アミン系酸化防止剤によるポリアミド樹脂の酸化劣化防止効果がMBIによって向上しやすい。また、磁石部の磁気特性や機械的強度も優れている。
【0018】
磁性樹脂材料におけるアミン系酸化防止剤とMBIの配合量は、ポリアミド樹脂100質量部に対して、アミン系酸化防止剤0.5質量部以上2質量部以下、2-メルカプトベンズイミダゾール0.25質量部以上2質量部以下とすることが好ましい。このような配合量であれば、ポリアミド樹脂の酸化劣化防止効果がより優れているとともに、アミン系酸化防止剤やMBIの磁石部からの滲出が生じにくい。
【0019】
次に、磁性樹脂材料に含有される各成分について詳細に説明する。
<磁性体粉末について>
使用可能な磁性体粉末の種類は特に限定されるものではないが、磁気特性や耐候性を考慮すると、ストロンチウムフェライト、バリウムフェライト等のフェライト系磁性体粉末や、サマリウム-鉄-窒素、サマリウム-コバルト、ネオジウム-鉄-ボロン等の希土類磁性体粉末等が好適である。これら磁性体粉末は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて併用してもよい。
【0020】
なお、主たる使用環境が高温(例えば150℃程度)である場合や、高い磁気特性(BHmaxで2.0MGOe超)が必要な場合には希土類磁性体粉末を使用し、低い磁気特性(BHmaxで1.6~2.0MGOe)でよい場合には、コストを考慮して、フェライト系磁性体粉末を主成分とする配合が好ましい。
【0021】
また、磁性樹脂材料における磁性体粉末の含有量は、磁性体粉末の種類によっても異なるが、例えば70質量%以上95質量%以下とすることができる。磁石部の成形は、バインダであるポリアミド樹脂の融点以上の温度で行われる。
また、磁性体粉末の分散性の向上及び磁性体粉末とバインダとの相互作用の向上のために、アミノ基、エポキシ基等の有機官能基を有するシランカップリング剤を磁性樹脂材料に配合してもよい。
【0022】
<ポリアミド樹脂について>
ポリアミド樹脂の種類は、23℃で24時間水中に放置した場合の吸水率が0.7質量%以下であれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリアミド12(PA12)、ポリアミド11(PA11)、ポリアミド612(PA612)、ポリアミド610(PA610)、変性ポリアミド6T(PA6T)、ポリアミド9T(PA9T)、ポリアミドMXD6(PAMDX6)が挙げられる。
【0023】
なお、変性ポリアミド6Tとは、ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸との重縮合物であるポリアミド6Tのテレフタル酸の一部を、アジピン酸、イソフタル酸の少なくとも一方に変更した重縮合物(具体的にはPA6T/66、PA6T/6I、PA6T/6I/66)、ポリアミド6Tのヘキサメチレンジアミンの一部をメチルペンタンジアミンに変更した重縮合物(PA6T/M-5T)、ポリアミド6Tとε-カプロラクタムを繰り返し単位とする重縮合物(PA6T/6)等である。また、ポリアミドMXD6は、メタキシレンジアミンとアジピン酸との重縮合物である。
【0024】
これらのポリアミド樹脂は、上記のように低吸水性ポリアミド樹脂であるため、耐水性を有するバインダとなりうるが、バインダは耐熱性を兼備することが好ましいので、上記の低吸水性ポリアミド樹脂の中でも変性ポリアミド6T、ポリアミド9T、及びポリアミドMXD6がより好ましいと言える。
ポリアミド樹脂の吸水率の測定方法は、特に限定されるものではないが、ISO 62に規定の方法やJIS K7209に規定のA法が挙げられる。吸水率を測定する際には、ポリアミド樹脂を溶融成形して縦60mm、横60mm、厚さ1mmの板状試料を作製し、この板状試料を23℃で24時間水中に放置して吸水率を測定する。
【0025】
磁性樹脂材料の製造時には、ポリアミド樹脂と磁性体粉末を混合し押出機等でペレット化する工程がある場合があるため、ポリアミド樹脂は磁性体粉末との分散性を有することが好ましい。また、磁石部においては、材料成分が均質に分布していることが好ましい。
【0026】
<アミン系酸化防止剤について>
アミン系酸化防止剤の種類は特に限定されるものではないが、4,4’-(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、4,4’-ジオクチルジフェニルアミン等のジフェニルアミン系化合物や、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1-メチルヘプチル)-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1,4-ジメチルペンチル)-p-フェニレンジアミン、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン等のp-フェニレンジアミン系化合物等が挙げられる。
【0027】
なお、磁性樹脂材料には、本発明の目的が損なわれない範囲であれば、添加剤、補強材等の他の成分を配合しても差し支えない。添加剤としては、例えば、耐衝撃性向上剤、熱安定剤、無機充填剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤、艶消剤、核剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、離型剤が挙げられる。
【0028】
熱安定剤は、磁性樹脂材料を溶融成形する際の熱安定性の向上のために用いられ、例えばリン化合物が好適に使用される。
また、耐衝撃性向上剤は、磁石部に加わる振動や衝撃を緩和するために用いられ、例えば弾性材料が好適に使用される。弾性材料としては、以下に示す樹脂やゴム材料が挙げられる。
【0029】
すなわち、樹脂としては、例えば変性低吸水性ポリアミド樹脂が挙げられる。この変性低吸水性ポリアミド樹脂とは、上記の低吸水性ポリアミド樹脂からなるハードセグメントと、ポリエステル成分及びポリエーテル成分の少なくとも一方からなるソフトセグメントとを有するブロック共重合体である。変性低吸水性ポリアミド樹脂の市販品としては、ポリアミド11又はポリアミド12をハードセグメントとする変性ポリアミド樹脂がある。なお、変性低吸水性ポリアミド樹脂のハードセグメントを、バインダとして使用する低吸水性ポリアミド樹脂と同一にすると、バインダと耐衝撃性向上剤との相溶性が良好となる。
【0030】
また、ゴム材料としては、スチレンブタジエンゴム、アクリルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、カルボキシル変性アクリロニトリルブタジエンゴム、シリコーンゴム、フッ素化シリコーンゴム、クロロプレンゴム、水素化アクリロニトリルブタジエンゴム、カルボキシル変性水素化アクリロニトリルブタジエンゴム、カルボキシル変性スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴム、エチレンプロピレン非共役ジエンゴムが挙げられる。これらゴム材料は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて併用してもよい。
【0031】
これらのゴム材料の中では、磁性樹脂材料の製造時(ペレット化時)及び磁石部の成形時におけるゴム材料の劣化を考慮すると、アクリルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、カルボキシル変性アクリロニトリルブタジエンゴム、シリコーンゴム、水素化アクリロニトリルブタジエンゴム、フッ素ゴム、カルボキシル変性水素化アクリロニトリルブタジエンゴムが好ましい。
【0032】
さらに、これらゴム材料の中では、低吸水性ポリアミド樹脂との相互作用が比較的強い官能基(例えばカルボキシ基、エステル基)を分子中に有することから、アクリルゴム、カルボキシル変性アクリロニトリルブタジエンゴム、カルボキシル変性水素化アクリロニトリルブタジエンゴム、カルボキシル変性スチレンブタジエンゴムが好ましい。
【0033】
これらのゴム材料は、平均粒子径30nm以上300nm以下の微粒子であることが好ましい。平均粒子径が30nm未満の場合は、高コストであることに加えて、微細すぎるため劣化しやすい。平均粒子径が300nmを超える場合は、分散性が低下するとともに、耐衝撃性の改善を均一に行うことが難しくなるおそれがある。
【0034】
これら耐衝撃性向上剤の添加量は、低吸水性ポリアミド樹脂と耐衝撃性向上剤との合計量に対して5質量%以上60質量%以下であることが好ましく、10質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。添加量が5質量%未満では、耐衝撃性の改善効果が不十分となるおそれがある。一方、添加量が60質量%を超えると、耐衝撃性は向上するものの、相対的に低吸水性ポリアミド樹脂の量が少なくなるため、引張強度等の機械物性が低下して実用性が低くなるおそれがある。
【0035】
なお、磁性樹脂材料に配合される磁性体粉末、ポリアミド樹脂等の各成分の種類及びそれらの配合比は、実施例の項において後述する方法で測定した磁性樹脂材料製の試験片の曲げたわみ量が2mm以上15mm以下の範囲内となるならば、所望の磁気特性に応じて適宜選択することができる。上記の曲げたわみ量が2mm以上15mm以下の範囲内となるような磁性樹脂材料で磁石部を形成すれば、磁石部の耐熱性及び耐衝撃性が優れたものとなり、高温環境及び低温環境に繰り返し曝露されても、磁石部に亀裂が発生しにくい磁気式ロータリエンコーダ及び転がり軸受ユニットが得られる。
【0036】
次に、磁気式ロータリエンコーダを構成する各部材について詳細に説明する。
<磁石部について>
磁石部は、磁性樹脂材料を円環状に形成した部材である。磁石部は、金型等を用いた射出成形法、圧縮成形法等により製造することができる。
【0037】
<スリンガについて>
スリンガは、磁石部に接合される円環状部材である。磁石部とスリンガとは、全体として円環状をなすように接合される。
スリンガの材質は、磁石部の磁気特性を低下させにくいことと、耐食性を有することから、フェライト系ステンレス鋼(SUS430等)、マルテンサイト系ステンレス鋼(SUS410等)等の磁性材料が好ましい。ただし、磁気式ロータリエンコーダを囲う保護部材を備える転がり軸受ユニットの場合には、高い耐食性は要求されないため、コストを考慮して冷延鋼板(SPCC)等を用いてもよい。
【0038】
磁石部とスリンガの接合方法は特に限定されるものではないが、スリンガをコアにして磁性樹脂材料をインサート成形することにより行ってもよいし、あるいは、それぞれ別々に製造した磁石部とスリンガとを接合することにより行ってもよい。いずれの方法においても、磁石部とスリンガとの接合部分に接着剤を介在させてもよいし、接着剤を用いずに接合してもよい。
【0039】
次に、転がり軸受ユニットについて詳細に説明する。本実施形態の転がり軸受ユニットは、磁気式ロータリエンコーダと転がり軸受とを備えている。この転がり軸受は、回転輪及び静止輪(非回転輪)を有しており、回転輪に磁気式ロータリエンコーダのスリンガが装着されている。
【0040】
したがって、磁気式ロータリエンコーダの磁石部が転がり軸受の回転輪と同一の回転状態で回転することとなるので、磁気センサ等の磁気検出器を用いて磁石部の回転状態を測定することにより、転がり軸受の回転輪の回転状態を測定することができるようになっている。
【0041】
次に、磁気式ロータリエンコーダを備える転がり軸受ユニットの一例について、
図1を参照しながら、より詳細に説明する。
図1に示す転がり軸受ユニットは、転がり軸受10と磁気式ロータリエンコーダ20とを備えている。転がり軸受10は、
図1の例では深溝玉軸受であるが、転がり軸受の種類は深溝玉軸受に限定されるものではなく、他の種類の転がり軸受でも差し支えない。例えば、アンギュラ玉軸受、自動調心玉軸受、円筒ころ軸受、円すいころ軸受、針状ころ軸受、自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受、スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受が挙げられる。
【0042】
転がり軸受10は、静止輪である外輪11と、回転輪である内輪12と、外輪11の軌道面及び内輪12の軌道面の間に転動自在に配された複数の転動体13と、外輪11の軌道面及び内輪12の軌道面の間に転動体13を保持する保持器14と、外輪11及び内輪12の間の空隙部の開口を覆う密封装置15と、を備えている。なお、保持器14及び密封装置15は、備えていなくてもよい。
【0043】
密封装置15は、外輪11の内周面に固定された円環状の芯金18と、芯金18に取り付けられた円環状のゴムシール部17と、芯金18及びゴムシール部17よりも軸受軸方向外側に配置され且つ内輪12の外周面に固定された円環状のスリンガ22と、を備えている。ゴムシール部17は、断面略L字形をなしており、同じく断面略L字形をなす芯金18により補強されている。そして、ゴムシール部17が有するシールリップ部がスリンガ22の表面に摺接することにより、外輪11及び内輪12の間の空隙部の開口が密封されている。
【0044】
一方、内輪12の回転状態(例えば回転速度、回転回数、回転方向)を測定する磁気式ロータリエンコーダ20は、スリンガ22と、このスリンガ22に取り付けられた磁石部21と、を有している。このように、
図1の転がり軸受ユニットにおいては、スリンガ22は、磁気式ロータリエンコーダ20を構成する部材と密封装置15を構成する部材とを兼ねている。
【0045】
スリンガ22は、フェライト系ステンレス(SUS430等)、マルテンサイト系ステンレス(SUS410等)等の薄板から製造されたものである。そして、スリンガ22の円筒状部分が内輪12の外周面に嵌合され、スリンガ22の円筒状部分から軸受径方向外方にフランジ部が立ち上がるように延びていて、スリンガ22は断面略L字形をなしている。
【0046】
磁石部21は、前述した磁性樹脂材料で形成されており、スリンガ22を介して内輪12に固定されている。詳述すると、磁石部21は、スリンガ22のフランジ部の軸受軸方向外側を向く面に取り付けられている。また、磁石部21は多極磁石であり、N極とS極が周方向に交互に形成されている。磁石部21の極数は、70~130極程度が好ましく、90~120極がより好ましい。そして、この磁石部21の軸受軸方向外側には、磁気センサ30が軸受軸方向に対向して対面配置されており、磁気式ロータリエンコーダ20と磁気センサ30とによって、転がり軸受10の内輪12の回転状態を測定する測定機構が構成されている。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例及び比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。
磁性体粉末、ポリアミド樹脂の粉末、アミン系酸化防止剤、及び2-メルカプトベンズイミダゾール(MBI)を、表1に示す配合比(数値の単位は質量部である)で混合し混練して、磁性樹脂材料を得た。そして、得られた磁性樹脂材料を溶融成形して、ISO178に規定された曲げ特性の測定方法において使用される試験片を製造した。ただし、試験片の厚さは3.0mmである。
【0048】
磁性体粉末としてはストロンチウムフェライト粉末を用いた。ポリアミド樹脂としてはポリアミド12を用いた。アミン系酸化防止剤としては、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン(以下「DPPD」と記す)又は4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(CD)を用いた。
【0049】
【0050】
製造した試験片に150℃、96時間との条件で熱処理を施した後に、ISO178に規定された曲げ特性の測定方法により、23℃での曲げたわみ量を測定した。ただし、曲げ測定時の支点間距離は50mmである。そして、熱処理後の曲げたわみ量を熱処理前の曲げたわみ量で除して曲げたわみ量の保持率を算出し、この曲げたわみ量の保持率(すなわち柔軟性の維持率)によって磁性樹脂材料の耐熱性及び耐衝撃性を評価した。表1においては、曲げたわみ量の保持率が80%以上であった場合は「優」、60%以上80%未満であった場合は「良」、40%以上60%未満であった場合は「可」、40%未満であった場合は「不可」と示してある。
【0051】
表1に示す結果から分かるように、CDとMBIを併用した実施例1は、CDのみを使用した比較例2及び両者ともに使用しない比較例3と比べて、たわみ量の保持率が高く、耐熱性及び耐衝撃性が優れていた。
【符号の説明】
【0052】
10 転がり軸受
11 外輪(静止輪)
12 内輪(回転輪)
20 磁気式ロータリエンコーダ
21 磁石部
22 スリンガ
30 磁気センサ