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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】ポット精紡機
(51)【国際特許分類】
   D01H 1/08 20060101AFI20230530BHJP
   D01H 7/74 20060101ALI20230530BHJP
   D01H 5/66 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
D01H1/08
D01H7/74
D01H5/66
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019105225
(22)【出願日】2019-06-05
(65)【公開番号】P2020196979
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2021-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100195006
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 勇蔵
(74)【代理人】
【識別番号】100212657
【弁理士】
【氏名又は名称】塚原 一久
(72)【発明者】
【氏名】宮田 康広
(72)【発明者】
【氏名】冨永 直路
(72)【発明者】
【氏名】中村 祐介
【審査官】住永 知毅
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第04206030(DE,A1)
【文献】米国特許第02117675(US,A)
【文献】特開2001-081634(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01H1/00-17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラフト装置によって引き伸ばされた糸を吸い込む吸篠管と、
筒状のポットと、
前記吸篠管を通して供給される糸を前記ポット内に導く導糸管と、
を備えるポット精紡機において、
前記吸篠管は、
エアの旋回流による吸引力を利用して糸を吸い込む吸い込み部材と、
エアを前記吸い込み部材の内部に取り込むエア取り込み部材と、
前記吸い込み部材の下端部に前記吸い込み部材と同軸に連結されている筒状部材とを備えており、
前記吸篠管を前記ポットの中心軸方向に移動可能に支持するとともに、前記吸篠管の前記吸い込み部材、前記エア取り込み部材及び前記筒状部材の位置を吸引位置と該吸引位置よりも前記ポットに近い紡出位置とに切り替え可能な吸篠管駆動部を備え、
前記吸篠管駆動部は、前記ドラフト装置から送り出される前記糸を前記吸篠管で吸引するときは、前記吸い込み部材、前記エア取り込み部材及び前記筒状部材の位置を前記吸引位置に配置し、紡出中には前記吸い込み部材、前記エア取り込み部材及び前記筒状部材の位置を前記紡出位置に配置する
ことを特徴とするポット精紡機。
【請求項2】
前記導糸管を前記ポットの中心軸方向に移動可能な導糸管駆動部を備え、
前記吸篠管駆動部は、前記導糸管駆動部の駆動力を利用して前記吸篠管を前記紡出位置から前記吸引位置へと移動させる
請求項1に記載のポット精紡機。
【請求項3】
前記吸篠管駆動部は、前記吸篠管に付勢力を付与することにより、前記吸篠管を前記吸引位置から前記紡出位置へと復帰させる付勢部材を有する
請求項1または2に記載のポット精紡機。
【請求項4】
前記ドラフト装置から前記吸篠管に至る糸経路において糸の状態を検知する糸センサを備え、
前記紡出位置は、前記糸センサの検知範囲を外れた位置に設定されている
請求項1~3のいずれか一項に記載のポット精紡機。
【請求項5】
前記ドラフト装置の近傍に配置されてエアを吸引するニューマノズルを備え、
前記紡出位置は、前記ニューマノズルのエア吸引流路を外れた位置に設定されている
請求項1~4のいずれか一項に記載のポット精紡機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポット精紡機に関する。
【背景技術】
【0002】
精紡機の1つとして、円筒形のポットを用いるポット精紡機が知られている。ポット精紡機では、ポットを所定の回転数で回転させるとともに、ドラフト装置によって引き伸ばされた糸(繊維束)を導糸管を通してポット内に導くことにより、ポットの内壁に糸を巻き付けてケークを形成する。また、ケークの形成を終えたら導糸管よりも上流側で糸を切り、その後、ポット内にボビンを挿入してポットの内壁からボビンへと糸を巻き返す。
【0003】
ポット精紡機においては、導糸管の上流側に吸篠管を配置し、この吸篠管を通して糸を導糸管に導入している(たとえば、特許文献1を参照)。吸篠管は、ドラフト装置から送り出される糸を、エアの旋回流を利用した吸引力によって吸篠管内に吸い込むものである。吸篠管による糸の吸引を、より少ないエア消費量で確実に行うためには、ドラフト装置のボトムローラの近くに吸篠管を配置することが望ましい。
【0004】
一方で、ドラフト装置のボトムローラの近くに吸篠管を配置すると次のような不都合が生じることがある。
まず、ドラフト装置のボトムローラの近傍には糸センサを配置することがある。このため、ボトムローラの近くに吸篠管を配置すると、糸センサの検知範囲に吸篠管が入り込み、糸センサの検知機能が妨げられてしまう。また、ボトムローラの近傍にはニューマノズルのエア吸引流路が設定されることがある。ニューマノズルは、紡出中に発生する繊維屑や風綿、あるいは紡出中に糸切れした糸などをエアの吸引によって吸い込むものである。このため、ボトムローラの近くに吸篠管を配置すると、ニューマノズルによるエアの吸引が吸篠管によって阻害され、ニューマノズルによる繊維屑等の吸引効率が低下してしまう。また、ボトムローラの近くに吸篠管を配置すると、ボトムローラに糸の繊維が巻き付いた場合に、この繊維が吸篠管に接触するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭62-162027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のポット精紡機では、導糸管の上流側に吸篠管が動かないように固定され、吸篠管の位置が一定に保持されている。このため、糸センサの機能やニューマノズルの吸引効率を優先して、ドラフト装置のボトムローラから離れた位置に吸篠管を配置すると、吸篠管による糸の吸引成功率が低下するという課題があった。吸篠管でのエア噴射量を増やせば吸引力を増大することはできるが、エア消費量増大によるエネルギーロスが生じる。また、吸篠管による糸の吸引成功率を高めるために、ドラフト装置のボトムローラの近くに吸篠管を配置すると、糸センサの機能が妨げられたりニューマノズルの吸引効率が低下したりする課題があった。このため、吸篠管の位置を最適化することが非常に困難であった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その目的は、吸篠管の位置を最適化することができるポット精紡機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ドラフト装置によって引き伸ばされた糸を吸い込む吸篠管と、筒状のポットと、吸篠管を通して供給される糸をポット内に導く導糸管と、を備えるポット精紡機において、吸篠管は、エアの旋回流による吸引力を利用して糸を吸い込む吸い込み部材と、エアを吸い込み部材の内部に取り込むエア取り込み部材と、吸い込み部材の下端部に吸い込み部材と同軸に連結されている筒状部材とを備えており、吸篠管をポットの中心軸方向に移動可能に支持するとともに、吸篠管の吸い込み部材、エア取り込み部材及び筒状部材の位置を吸引位置と該吸引位置よりもポットに近い紡出位置とに切り替え可能な吸篠管駆動部を備え、吸篠管駆動部は、ドラフト装置から送り出される糸を吸篠管で吸引するときは、吸い込み部材、エア取り込み部材及び筒状部材の位置を吸引位置に配置し、紡出中には吸い込み部材、エア取り込み部材及び筒状部材の位置を紡出位置に配置する
【0009】
本発明に係るポット精紡機において、導糸管をポットの中心軸方向に移動可能な導糸管駆動部を備え、吸篠管駆動部は、導糸管駆動部の駆動力を利用して吸篠管を紡出位置から吸引位置へと移動させるものであってもよい。
【0010】
本発明に係るポット精紡機において、吸篠管駆動部は、吸篠管に付勢力を付与することにより、吸篠管を吸引位置から紡出位置へと復帰させる付勢部材を有するものであってもよい。
【0011】
本発明に係るポット精紡機において、ドラフト装置から吸篠管に至る糸経路において糸の状態を検知する糸センサを備え、紡出位置は、糸センサの検知範囲を外れた位置に設定されていてもよい。
【0012】
本発明に係るポット精紡機において、ドラフト装置の近傍に配置されてエアを吸引するニューマノズルを備え、紡出位置は、ニューマノズルのエア吸引流路を外れた位置に設定されていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ポット精紡機において吸篠管の位置を最適化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係るポット精紡機の構成例を示す概略図である。
図2】本発明の実施形態における吸篠管および吸篠管駆動部の構成例を示す概略斜視図である。
図3】吸篠管を吸引位置に配置した状態を示す概略側面図である。
図4】吸篠管を紡出位置に配置した状態を示す概略側面図である。
図5】吸篠管を吸引位置に配置したときの吸篠管駆動部の動作状態を示す概略側面図である。
図6】吸篠管を紡出位置に配置したときの吸篠管駆動部の動作状態を示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
<ポット精紡機>
図1は、本発明の実施形態に係るポット精紡機の構成例を示す概略図である。
なお、図1においては、ポット精紡機の各部の構成を簡素化して示しており、実際の形状および寸法とは異なることがある。
図1に示すように、ポット精紡機1は、ドラフト装置10と、糸センサ11と、ニューマノズル17と、吸篠管12と、導糸管14と、ポット15と、ボビン支持部16と、を備えている。なお、これらの構成要素は、紡績の一単位となる1つの紡錘を構成するものである。ポット精紡機1は、複数の紡錘を備えるものであるが、ここではそのうちの1つの紡錘の構成について説明する。
【0017】
(ドラフト装置)
ドラフト装置10は、粗糸などの糸材料を引き伸ばす装置である。ドラフト装置10は、バックローラ対21、ミドルローラ対22およびフロントローラ対23からなる複数のローラ対を用いて構成されている。複数のローラ対は、糸の送り方向の上流側から下流側に向かって、バックローラ対21、ミドルローラ対22およびフロントローラ対23の順に配置されている。バックローラ対21は、バックトップローラ21aとバックボトムローラ21bとによって構成されている。ミドルローラ対22は、ミドルトップローラ22aとミドルボトムローラ22bとによって構成されている。フロントローラ対23は、フロントトップローラ23aとフロントボトムローラ23bとによって構成されている。
【0018】
各々のローラ対21,22,23は、後述するドラフト駆動部の駆動に従って回転するものである。各々のローラ対21,22,23の単位時間あたりの回転数(rpm)を比較すると、ミドルローラ対22の回転数はバックローラ対21の回転数よりも高く、フロントローラ対23の回転数はミドルローラ対22の回転数よりも高い。このように各々のローラ対21,22,23の回転数は互いに異なり、この回転数の違い、すなわち回転速度差を利用して、ドラフト装置10は糸材料を細く引き伸ばす。
【0019】
(糸センサ)
糸センサ11は、ドラフト装置10から吸篠管12に至る糸経路において糸の状態を検知するセンサである。糸センサ11は、糸の送り方向において、ドラフト装置10よりも下流側で、かつ、吸篠管12よりも上流側に配置されている。糸センサ11が検知する糸の状態としては、吸篠管12に吸い込まれる糸のバルーニング、あるいは糸切れなどがある。糸のバルーニングとは、ポット15の回転によって糸が旋回し、これによって糸がバルーンを形成する現象をいう。糸センサ11は、たとえば、発光器と受光器とを組み合わせた光センサを用いて構成される。
【0020】
(ニューマノズル)
ニューマノズル17は、ニューマ装置の一構成要素となるもので、先端のノズル開口17aからエアを吸引する。ノズル開口17aは、ドラフト装置10から吸篠管12に至る糸経路に向けて開口している。ニューマノズル17は、紡出中に発生する繊維屑や風綿、あるいは紡出中に糸切れした糸などをエアの吸引によって吸い込む。
【0021】
(吸篠管)
吸篠管12は、ドラフト装置10から供給される糸18を吸い込むとともに、吸い込んだ糸18を導糸管14へと送り出すものである。吸篠管12は、ドラフト装置10で引き伸ばされた糸18を、エアの旋回流を利用して吸篠管12内に吸い込む。吸篠管12は、後述する吸篠管駆動部52(図2を参照)によってポット15の中心軸方向に移動可能に支持されている。
【0022】
(導糸管)
導糸管14は、ドラフト装置10から吸篠管12を経由して送り込まれる糸18をポット15内に導くものである。導糸管14は、細長い管状に形成されている。導糸管14を長さ方向と直交する方向に断面したときの形状は円形になっている。導糸管14は、ドラフト装置10よりも下流側に、吸篠管12およびポット15と同軸に配置されている。導糸管14は、ポット15の上部を貫通してポット15内に挿入されている。導糸管14の上端部は糸導入口14aとして開口し、導糸管14の下端部は糸排出口14bとして開口している。導糸管14の糸導入口14aから導入された糸18は、導糸管14の糸排出口14bから排出される。導糸管14は、図示しない導糸管駆動部によってポット15の中心軸方向に移動可能に設けられている。
【0023】
(ポット)
ポット15は、ケーク24の形成と糸の巻き返しに用いられるものである。ポット15は、円筒形に形成されている。ポット15は、ポット15の中心軸まわりに回転可能に設けられている。ポット15の中心軸Kは、鉛直方向と平行に配置されている。このため、ポット15の中心軸方向の一方は上方、他方は下方となっている。ポット15の上端側には導糸管挿入口25が形成されている。導糸管挿入口25は、ポット15に導糸管14を挿入するための開口である。ポット15の下端部には開口部26が形成されている。
【0024】
(ボビン支持部)
ボビン支持部16は、ボビン30を支持するものである。ボビン支持部16は、ボビン台座31と、ボビン装着部32と、を有する。ボビン台座31は板状に形成されている。ボビン装着部32はボビン台座31に固定されている。ボビン装着部32は、柱状に形成されるとともに、ボビン台座31の上面から上方に突出するように配置されている。
【0025】
図2は、本発明の実施形態における吸篠管および吸篠管駆動部の構成例を示す概略斜視図である。
まず、吸篠管12の構成について説明する。
吸篠管12は、ポット精紡機1の各紡錘の位置に対応して吸篠管レール60に所定の間隔で複数取り付けられている。吸篠管12は、吸い込み部材121、エア取り込み部材122および筒状部材123を備えている。吸い込み部材121、エア取り込み部材122および筒状部材123は、互いに一体的に組み付けられて一つの吸篠管12を構成している。
【0026】
吸い込み部材121は、エアの旋回流による吸引力を利用して糸18を吸い込む部材である。吸い込み部材121の内部には吸い込み孔(図示せず)が形成されている。この吸い込み孔は、吸い込み部材121を中心軸方向に貫通するように形成される。エア取り込み部材122は、吸篠管レール60の上面に固定されている。エア取り込み部材122は、エア継手62およびエア配管63を通して送り込まれるエアを吸篠管12の内部に取り込む部材である。エアの旋回流は、エア取り込み部材122によって取り込まれるエアによって形成される。筒状部材123は、吸い込み部材121の下端部に、吸い込み部材121と同軸に連結されている。筒状部材123の内部には、吸い込み部材121の吸い込み孔に連通する連通孔(図示せず)が形成されている。エアの旋回流を利用して吸い込み部材121に吸い込まれる糸18は、吸い込み部材121の吸い込み孔と筒状部材123の連通孔とを通して導糸管14へと送り出される。
【0027】
次に、吸篠管駆動部52の構成について説明する。
吸篠管駆動部52は、吸篠管12をポット15の中心軸方向(上下方向)に移動可能に支持するとともに、吸篠管12の位置を第一位置とそれよりもポット15に近い第二位置とに切り替え可能なものである。本実施形態においては、一例として、第一位置が吸引位置であり、第二位置が紡出位置である場合について説明する。
図3は吸篠管を吸引位置に配置した状態を示す概略側面図であり、図4は吸篠管を紡出位置に配置した状態を示す概略側面図である。
吸篠管駆動部52は、ドラフト装置10から送り出される糸18を吸篠管12で吸引するときは、吸篠管12を吸引位置P1に配置する。また、吸篠管駆動部52は、吸篠管12に吸引した糸18を導糸管14を経由してポット15内に紡出するときは、吸篠管12を紡出位置P2に配置する。
【0028】
吸引位置P1は、糸の吸引に適した位置であって、吸篠管12によるエアの消費量を抑えながら、エアの吸引によって吸篠管12内に糸を確実に吸い込むことができるよう、図3に示すようにフロントボトムローラ23bの間近に設定される。吸篠管12を吸引位置P1に配置した場合、フロントボトムローラ23bと吸篠管12との間の離間寸法L1は、好ましくは1mm程度に設定される。
【0029】
これに対して、紡出位置P2は、糸の紡出に適した位置であって、吸引位置P1よりもポット15に近い位置に設定される。このため、紡出位置P2は、図4に示すように吸引位置P1よりも下方(糸の送り方向の下流側)、すなわちフロントボトムローラ23bから離れた位置に設定される。紡出位置P2は、吸篠管12と糸センサ11との位置関係で規定すれば、糸センサ11の検知範囲を外れた位置に設定することが好ましい。また、紡出位置P2は、吸篠管12とニューマノズル17との位置関係で規定すれば、ニューマノズル17のエア吸引流路を外れた位置に設定することが好ましい。ニューマノズル17のエア吸引流路とは、ニューマノズル17のノズル開口17aからエアを吸引したときに、フロントボトムローラ23bと吸篠管12との間の糸経路を横切るように形成されるエアの流路をいう。吸篠管12を紡出位置P2に配置した場合、フロントボトムローラ23bと吸篠管12との間の離間寸法L2は、好ましくは4mm以上に設定される。
【0030】
吸篠管駆動部52は、吸篠管12を昇降させるための機構を含むものであって、図2に示すように、吸篠管レール60の下方に固定状態で配置された固定レール66と、固定レール66によって上下動可能に支持されたロッド67と、ロッド67に取り付けられたバネ68と、バネ68とは異なる位置でロッド67に取り付けられたストッパ69と、ロッド67の下端部67bに取り付けられた突き当て部材70と、上下方向に移動可能に設けられた昇降レール71と、を備えている。
【0031】
固定レール66は、吸篠管レール60の長手方向に延在するレール状の部材である。固定レール66には、ロッド67を上下方向に移動可能に支持するガイド孔(図示せず)が形成されている。このガイド孔には必要に応じて軸受が取り付けられる。固定レール66は、ロッド67の中心軸方向において、バネ68とストッパ69との間に配置される。また、固定レール66には、吸篠管12の筒状部材123との位置的な干渉を避けるための逃げ孔や切り欠きなどが形成される。
【0032】
ロッド67は、吸篠管12の筒状部材123と平行に配置されている。ロッド67の上端部67aは吸篠管レール60に固定されている。このため、ロッド67が固定レール66に支持されながら上下方向に移動すると、吸篠管レール60および吸篠管12は、ロッド67と一体になって上下方向に移動する。ロッド67の下端部67bは部分的に径が大きくなっている。
【0033】
バネ68はロッド67の軸部に巻装されている。バネ68は圧縮コイルバネによって構成されている。バネ68の上端部は固定レール66の下面に圧接し、バネ68の下端部はロッド67の下端部67bに圧接している。バネ68の力はロッド67を下方に付勢する付勢力として作用しており、この付勢力によってストッパ69が固定レール66の上面に押し当てられている。
【0034】
ストッパ69はロッド67の軸部に固定されている。ストッパ69は、バネ68の付勢力をもって固定レール66に押し当てられることにより、上下方向におけるロッド67の位置、さらには吸篠管レール60および吸篠管12の位置を規定(位置決め)している。
【0035】
突き当て部材70は、昇降レール71が突き当てられる部分となる。突き当て部材70は、ロッド67の下端部67bよりも下方に突出して配置されている。ロッド67の下端部67bの位置を基準とした突き当て部材70の突出寸法は調整可能となっている。突き当て部材70の突出寸法を調整する機構としては、たとえば、ロッド67の下端部67bにロッド67の中心軸に沿ってネジ孔(図示せず)を形成し、このネジ孔に対応する雄ネジ(図示せず)を突き当て部材70に形成すればよい。この調整機構によれば、ロッド67のネジ孔に突き当て部材70の雄ネジを螺合させ、その状態で突き当て部材70を回転させることにより、突き当て部材70の回転方向および回転量に応じて突き当て部材70の突出寸法を調整することができる。また、このような調整機構を備えることにより、吸引位置P1を調整(微調整)することが可能となる。
【0036】
昇降レール71は、吸篠管レール60の長手方向に延在する長尺状の部材であって、固定レール66の下方に配置されている。昇降レール71は、上下方向で突き当て部材70と対向するように配置されている。昇降レール71は、好ましくは、導糸管14を支持する導糸管レールによって構成される。導糸管レールは、導糸管14を上下方向に移動(昇降)させる導糸管駆動部の一構成要素となるもので、図示しない駆動機構の駆動により導糸管14と一体に上下方向に移動する。昇降レール71を導糸管レールによって構成した場合は、導糸管レールと別に昇降レール71を設ける場合に比べて部品点数を削減することができる。また、導糸管駆動部は、導糸管レールと共に導糸管14を上下方向に移動させる駆動機構を備えているため、この駆動機構の駆動力を利用して吸篠管駆動部52を動作させることができる。本実施形態においては、昇降レール71を導糸管レールによって構成するものとする。このため、以降の説明では、昇降レール71を導糸管レール71と記載する。導糸管レール71は、たとえば、シリンダやモータなどを駆動源とする駆動機構によって上下方向に移動可能に設けられる。
【0037】
続いて、本発明の実施形態に係るポット精紡機の動作について説明する。
ポット精紡機1の動作は、引き伸ばしステップS1と、ケーク形成ステップS2と、巻き返しステップS3とを含む。
【0038】
引き伸ばしステップS1は、粗糸などの糸材料を引き伸ばすステップである。ケーク形成ステップS2は、引き伸ばしステップS1で引き伸ばされた糸をポット15の内壁27に巻き付けてケーク24を形成するステップである。巻き返しステップS3は、ケーク24を形成する糸をボビン30に巻き返すステップである。以下、各ステップに基づくポット精紡機1の動作について説明する。以下に述べるポット精紡機1の動作は、ポット精紡機1が有する制御部(図示せず)がポット精紡機1の各部の動作を制御することによって実行されるものである。
【0039】
(引き伸ばしステップ)
引き伸ばしステップS1においては、ドラフト装置10に設けられたバックローラ対21、ミドルローラ対22およびフロントローラ対23がそれぞれ所定の回転数で回転することにより、粗糸などの糸材料が所定の細さに引き伸ばされて搬送される。こうして引き伸ばされた糸18は、吸篠管12に吸い込まれた後、糸導入口14aから導糸管14に導入される。
【0040】
その際、引き伸ばしステップS1の開始に先立って、吸篠管12は、導糸管レール71の上昇によって吸引位置P1に配置される。その場合の吸篠管駆動部52の動作は次のようになる。
まず、導糸管レール71が上昇すると、導糸管レール71の上面が突き当て部材70に突き当たる。このとき、導糸管レール71は、バネ68の付勢力に抗してロッド67を押し上げる。そうすると、ロッド67の押し上げによってバネ68が圧縮され、ストッパ69は固定レール66から離間する。また、ロッド67と一体になって吸篠管レール60と吸篠管12とが上昇する。これにより、吸篠管12は紡出位置P2から吸引位置P1へと移動する。導糸管レール71の上昇は、吸篠管12が吸引位置P1に到達したところで停止する。このとき、導糸管14の糸排出口14bは、予め設定された巻き付き開始高さH1(図1を参照)に配置される。巻き付き開始高さH1とは、導糸管14の糸排出口14bから排出される糸18がポット15の内壁27に巻き付き始める高さをいう。
【0041】
このように吸篠管12を吸引位置P1に配置してから引き伸ばしステップS1を開始した場合は、図5に示すように、ドラフト装置10のフロントボトムローラ23bの間近に吸篠管12の吸い込み部材121が配置される。このため、フロントローラ対23によって送り出される糸18を、より少ないエア消費量で吸篠管12に確実に吸い込むことができる。ただし、吸篠管12を吸引位置P1に配置したままケーク形成ステップS2を行うと、糸センサ11の検知機能が妨げられたりニューマノズル17の吸引効率が低下したりするなどの弊害を招く。
【0042】
そこで、糸18が吸篠管12に吸い込まれた段階(引き伸ばしステップS1を開始してから所定時間が経過した段階)で、吸篠管12は、導糸管レール71の下降によって紡出位置P2に配置される。その場合の吸篠管駆動部52の動作は次のようになる。
まず、導糸管レール71が下降すると、バネ68の付勢力によってロッド67が押し下げられる。そうすると、ロッド67と一体になって吸篠管レール60と吸篠管12とが下降する。吸篠管12の下降は、ストッパ69が固定レール66に突き当たった段階で停止する。これにより、吸篠管12は吸引位置P1から紡出位置P2へと移動する。このとき、導糸管14の糸排出口14bは、予め設定された積層開始高さH2(図1を参照)に配置される。積層開始高さH2とは、導糸管14の糸排出口14bから排出される糸18がポット15の内壁27に積層してケーク24の形成が始まる高さをいう。
【0043】
このように吸篠管12を紡出位置P2に配置してからケーク形成ステップS2を行った場合は、図6に示すように、ドラフト装置10のフロントボトムローラ23bから離れた位置に吸篠管12の吸い込み部材121が配置される。これにより、吸篠管12は糸センサ11の検知範囲から外れた位置に配置されるため、糸センサ11の検知機能が妨げられることがない。また、吸篠管12はニューマノズル17のエア吸引流路から外れた位置に配置されるため、ニューマノズル17の吸引効率が低下することもない。また、吸篠管12を紡出位置P2に配置すれば、ニューマノズル17を有するニューマ装置の機能を充分に発揮させ、糸欠陥の防止や糸切れの低減を図るとともに、糸切れ時の繊維束の吸引を迅速に行うことができる。また、フロントボトムローラ23bに糸の繊維が巻き付いた場合でも、フロントボトムローラ23bと吸篠管12との間に充分な離間距離が確保される。このため、フロントボトムローラ23bに巻き付いた繊維が吸篠管12に接触しづらくなり、フロントボトムローラ23bや吸篠管12の破損を抑制することができる。また、吸篠管12を紡出位置P2に配置した場合は、吸引位置P1に配置する場合に比べて、吸い込み部材121に対する糸18の巻き掛け角が小さくなるため、吸い込み部材121よりも上流側に位置する糸18に充分な撚りを加えて糸強度を高め、糸切れの発生を抑制することができる。
【0044】
なお、図6においては、導糸管レール71の上面が突き当て部材70に接触しているが、後述するケーク形成ステップS2において、導糸管レール71と共に導糸管14を下方に移動させると、図2に示すように導糸管レール71の上面が突き当て部材70から離間した状態になる。この状態では固定レール66の上面にストッパ69が突き当たることによって吸篠管12が紡出位置P2に位置決めされる。
【0045】
ケーク形成ステップS2においては、導糸管駆動部の駆動により、導糸管14を所定の周期で繰り返し上下方向に往復移動させながら、導糸管14の位置を段階的に下方に移動させる。これにより、ポット15の内壁27に糸18が巻き付けられるとともに、その巻き付け位置をずらしながら糸18が積層され、ケーク24が形成される。ケーク24の形成は、糸切りが行われた段階で終了となる。糸切りを行う場合は、フロントローラ対23の回転を継続したまま、バックローラ対21およびミドルローラ対22の回転を共に停止させる。これにより、ミドルローラ対22の下流側で糸18が強制的に切られる。
【0046】
一方、巻き返しステップS3においては、導糸管レール71の上昇により導糸管14を上方に移動させるとともに、ボビン台座31の上昇によりボビン30と糸ほぐし部材33を上方に移動させる。これにより、ボビン30はポット15内に配置される。また、糸ほぐし部材33の上端部は、ケーク24の巻き終わり側の端部24bに接触する。そうすると、ケーク24を形成している糸がほぐれるとともに、ほぐれた糸がポット15の内壁27から離れてボビン30に巻き付き始める。その後、ケーク24を形成しているすべての糸がボビン30に巻き返されると、ボビン台座31の下降によりボビン30と糸ほぐし部材33が下方に移動する。
【0047】
その後は、巻き返し済みのボビン30がボビン装着部32から取り外され、空のボビン30がボビン装着部32に装着される。また、吸篠管12は、次の引き伸ばしステップS1が開始する前に吸引位置P1に配置される。以降は、上記同様の動作が繰り返される。
【0048】
<実施形態の効果>
以上説明したように、本発明の実施形態に係るポット精紡機においては、吸篠管12をポット15の中心軸方向に移動可能に支持するとともに、吸篠管12の位置を吸引位置P1と紡出位置P2とに切り替え可能な吸篠管駆動部52を備えた構成となっている。このため、ドラフト装置10によって引き伸ばされた糸を吸篠管12に吸い込むときは、それに適した吸引位置P1に吸篠管12を配置し、ポット内に糸を紡出するときは、それに適した紡出位置P2に吸篠管12を配置することができる。したがって、吸篠管12の位置を最適化することができる。
【0049】
また、本発明の実施形態においては、導糸管駆動部の駆動力を利用して吸篠管12を紡出位置P2から吸引位置P1へと移動させる構成を採用している。これにより、吸篠管駆動部52に専用の駆動機構を設ける場合に比べて、ポット精紡機の構成を簡素化することができる。
【0050】
また、本発明の実施形態においては、吸篠管12に付勢力を付与することにより、吸篠管12を吸引位置P1から紡出位置P2へと復帰させるバネ68を有する構成を採用している。これにより、吸篠管12を自重によって吸引位置P1から紡出位置P2へと復帰させる構成を採用する場合に比べて、吸篠管12をより確実に紡出位置P2へと復帰させることができる。
【0051】
また、本発明の実施形態においては、糸センサ11の検知範囲を外れた位置に紡出位置P2を設定しているため、導糸管14からポット15内に糸18を紡出している間、吸篠管12の機能が吸篠管12によって妨げられることがない。
【0052】
また、本発明の実施形態においては、ニューマノズル17のエア吸引流路を外れた位置に紡出位置P2を設定しているため、導糸管14からポット15内に糸18を紡出している間、ニューマノズル17の吸引効率が低下することがない。
【0053】
<変形例等>
本発明の技術的範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0054】
たとえば、上記実施形態においては、吸篠管12と導糸管14とが別体の構成になっているが、これに限らず、吸篠管12と導糸管14とが一体の構成になっていてもよい。この構成を採用した場合は、吸篠管12の紡出位置P2は一定の位置とはならずに導糸管14の昇降動作に従って変動することになる。
【0055】
また、上記実施形態においては、付勢部材としてバネ68を用いたが、これに限らず、ゴムなどの弾性部材を用いてもよい。また、付勢部材を設けずに、吸篠管12が自重によって吸引位置P1から紡出位置P2へと復帰(下降)する構成を採用してもよい。ただし、吸篠管12を確実に紡出位置P2に復帰させるには付勢部材を設けた方が好ましい。
【符号の説明】
【0056】
1 ポット精紡機、10 ドラフト装置、11 糸センサ、12 吸篠管、14 導糸管、15 ポット、17 ニューマノズル、18 糸、52 吸篠管駆動部、P1 吸引位置(第一位置)、P2 紡出位置(第二位置)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6