(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】繊維構造体及び繊維強化複合材
(51)【国際特許分類】
D03D 11/00 20060101AFI20230530BHJP
B29B 15/10 20060101ALI20230530BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20230530BHJP
B29K 105/10 20060101ALN20230530BHJP
【FI】
D03D11/00 Z
B29B15/10
D03D1/00 A
B29K105:10
(21)【出願番号】P 2019133709
(22)【出願日】2019-07-19
【審査請求日】2021-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】神谷 隆太
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-047432(JP,A)
【文献】特開平06-000815(JP,A)
【文献】特開2006-144847(JP,A)
【文献】特開2019-094578(JP,A)
【文献】国際公開第2019/031478(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D 11/00
D03D 1/00
B29B 15/10
B29K 105/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の繊維層が積層方向に積層され、
互いに平行に配列され、かつ所要の剛性が要求される軸力方向
に伸びる軸力方向糸と、
互いに平行に配列され、かつ前記軸力方向及び前記積層方向に直交する直交方向
に伸びる直交方向糸と、
互いに平行に配列され、かつ前記軸力方向糸及び前記直交方向
糸とは異なる方向
に伸び
、前記複数の繊維層を層間結合する層間結合糸と、
からなる多軸配向を有
する多層織物を、
平板部と、前記平板部に対し曲げられ、前記平板部の表面に対し交差した表面を有する曲げ部と、を有する
形状とした繊維構造体であって、
前記軸力方向糸は強化繊維の連続繊維から形成されるとともに、
前記曲げ部を構成する前記軸力方向糸以外の糸のうち、
前記層間結合糸は非連続繊維の紡績糸で形成されていることを特徴とする繊維構造体。
【請求項2】
前記非連続繊維の紡績糸は撚糸である請求項
1に記載の繊維構造体。
【請求項3】
繊維構造体にマトリックス材料を含浸させて構成される繊維強化複合材であって、前記繊維構造体は請求項1
又は請求項2に記載の繊維構造体である繊維強化複合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維構造体及び繊維強化複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材は軽量の構造材料として広く使用されている。繊維強化複合材用の強化基材として繊維構造体があり、この繊維構造体に樹脂をマトリックスとした繊維強化複合材は航空機、自動車及び建築物等の構造材として用いられている。また、繊維構造体としては、複数の繊維層が積層されるとともに、それら複数の繊維層が層間結合糸によって積層方向に結合されたものがある。
【0003】
また、繊維強化複合材の用途に合わせて、繊維構造体の形状を、例えばL字状やU字状等の曲げ部を有した形状とすることがある。この場合、平板状に形成された繊維構造体を賦形して曲げ部を有する形状とする。
【0004】
繊維構造体には強化繊維からなる糸が使用される。強化繊維は一般に伸びが非常に小さい。そのため、強化繊維からなる糸が使用された繊維構造体を賦形して曲げ部を有する形状とする際、曲げ部の外側に配列された糸が伸びにくいことで、曲げ部の内側に皺が生じるおそれがある。曲げ部の内側に皺が生じると、繊維構造体に樹脂を含浸させる際に、曲げ部に樹脂が浸透しにくくなるため、好ましくない。
【0005】
そこで、特許文献1に記載の三次元繊維構造体では、皺の発生を抑制するために、層間結合糸としての厚さ方向糸の延びる方向を調整している。特許文献1の三次元繊維構造体は、連続繊維が少なくとも2軸配向となるように配列された積層繊維層と、積層繊維層の厚さ方向に配列された厚さ方向糸により構成されている。積層繊維層は、曲げ方向の異なる曲げ部と、平面部とが連続する立体的な板状に形成されている。曲げ部を挟んで隣り合う一方の平面部には厚さ方向糸が繊維層と斜めに交差する状態で配列され、他方の平面部には厚さ方向糸が繊維層と直交する方向に配列されている。
【0006】
厚さ方向糸で結合された積層繊維層に曲げ加工を施す際に、積層繊維層を板厚方向に圧縮しながら曲げると、曲げ部の外側に配列されている連続繊維の非曲げ部の部分がずれようとする。そのとき、非曲げ部に配列されている厚さ方向糸がずれを許容するように連続繊維と共に移動することにより、曲げ部における皺の発生が抑制された状態で製造が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、特許文献1においては、曲げ部における皺の発生の抑制のために、曲げ部を挟んで隣り合う一方の平面部に配列される厚さ方向糸と、他方の平面部に配列される厚さ方向糸とで、繊維層に対して交差する角度を異ならせる必要がある。このため、平板状の三次元繊維構造体の製織時に厚さ方向糸の長さを予め調整する工程を必要とし製造コストが嵩む。また、角度を異ならせた厚さ方向糸が曲げ部に配列されるように、厚さ方向糸を位置決めして平板状の三次元繊維構造体を賦形する必要があり、位置決めのための工程が増え、製造コストが嵩む。
【0009】
本発明の目的は、製造コストを抑えつつ曲げ部における皺の発生を抑制できる繊維構造体及び繊維強化複合材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題点を解決するための繊維構造体は、複数の繊維層が積層方向に積層され、互いに平行に配列され、かつ所要の剛性が要求される軸力方向に伸びる軸力方向糸と、互いに平行に配列され、かつ前記軸力方向及び前記積層方向に直交する直交方向に伸びる直交方向糸と、互いに平行に配列され、かつ前記軸力方向糸及び前記直交方向糸とは異なる方向に伸び、前記複数の繊維層を層間結合する層間結合糸と、からなる多軸配向を有する多層織物を、平板部と、前記平板部に対し曲げられ、前記平板部の表面に対し交差した表面を有する曲げ部と、を有する形状とした繊維構造体であって、前記軸力方向糸は強化繊維の連続繊維から形成されるとともに、前記曲げ部を構成する前記軸力方向糸以外の糸のうち、前記層間結合糸は非連続繊維の紡績糸で形成されていることを要旨とする。
【0011】
これによれば、非連続繊維の紡績糸は、連続繊維を引き揃えて形成した糸と比べると、引っ張られたときの伸びが大きく許容される。このため、軸力方向糸以外の糸で、曲げ部を構成する層間結合糸が、曲げ部の形成に伴い引っ張られると伸びが許容され、曲げ部の内側において、糸が蛇行するように集められて皺が発生することを抑制できる。したがって、曲げ部における皺発生を抑制するために、繊維構造体の製織時に、層間結合糸の長さや交差角度を予め調整する工程を行ったり、繊維構造体の賦形時の層間結合糸を位置決めする工程等が不要となり、繊維構造体の製造コストを抑えることができる。
【0012】
また、これによれば、繊維構造体の曲げ部の形成に伴い層間結合糸が伸びることで、層間結合糸が係止している糸のずれが許容され、皺の発生を抑制できる。
また、これによれば、多層織物製の繊維構造体は、糸の変更が容易であるため、連続繊維からなる軸力方向糸と、非連続繊維の紡績糸とを併用する繊維構造体であっても容易に製織できる。
【0016】
また、繊維構造体について、前記非連続繊維の紡績糸は撚糸であってもよい。
これによれば、撚糸は撚りが加えられているため、引っ張られたときの伸びがより許容される。したがって、繊維構造体の賦形のために糸が引っ張られたときの伸びがより一層許容される。
【0018】
上記問題点を解決するための繊維強化複合材は、繊維構造体にマトリックス材料を含浸させて構成される繊維強化複合材であって、前記繊維構造体は請求項1~請求項6のうちいずれか一項に記載の繊維構造体であることを要旨とする。
【0019】
これによれば、非連続繊維の紡績糸は、連続繊維を引き揃えて形成した糸と比べると、引っ張られたときの伸びが大きく許容される。このため、軸力方向以外の糸で、曲げ部を構成する層間結合糸が、曲げ部の形成に伴い引っ張られると伸びが許容される。その結果、曲げ部を構成する糸が伸びない糸の場合のように、曲げ部の内側において、糸が蛇行するように集められて皺が発生することを抑制できる。したがって、曲げ部における皺発生を抑制するために、繊維構造体の製織時に、層間結合糸の長さや交差角度を予め調整する工程を行ったり、繊維構造体の賦形時の層間結合糸を位置決めする工程等が不要となり、繊維構造体の製造コストを抑えることができる。そして、繊維構造体を強化基材とする繊維強化複合材においては、曲げ部の内側に皺が生じにくいため、曲げ部の内側であっても樹脂を含浸させやすくなる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、製造コストを抑えつつ曲げ部における皺の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図3】(a)は連続繊維で形成された経糸を示す模式図、(b)は非連続繊維で形成された層間結合糸を示す模式図。
【
図5】第2の実施形態において曲げ部を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1の実施形態)
以下、繊維構造体及び繊維強化複合材を具体化した第1の実施形態を
図1~
図4にしたがって説明する。
【0023】
図1に示すように、繊維強化複合材10は、繊維構造体11にマトリックス材料の一例であるマトリックス樹脂Maを含浸させることで形成されている。なお、マトリックス樹脂Maとしては、例えば、熱硬化性樹脂のエポキシ樹脂が使用される。
【0024】
繊維強化複合材10は断面ハット状である。繊維強化複合材10は、矩形平板状の天板12と、天板12の一対の長縁に連続する曲げ部13と、各曲げ部13に連続する矩形平板状の側板14と、を有する。繊維強化複合材10は、天板12と各側板14との間に曲げ部13を有する。繊維強化複合材10は、当該繊維強化複合材10と他部材とを連結するための連結構造を備える。本実施形態では、連結構造はボルト孔15である。
【0025】
繊維構造体11は多層織りによって製造された多層織物である。また、繊維構造体11は、平板状の繊維構造体11に曲げ部13を形成し、断面ハット状に賦形することで、立体形状に形成されている。
【0026】
繊維構造体11は、繊維強化複合材10の天板12を構成する矩形平板状の第1平板部21と、繊維強化複合材10の各曲げ部13を構成する一対の曲げ部22と、各側板14を構成する矩形平板状の一対の第2平板部23と、を有する。繊維構造体11は、第1平板部21と各第2平板部23の間に曲げ部22を有する。各曲げ部22は、第1平板部21及び第2平板部23に対し曲げられ、第1及び第2平板部21,23の表面に対し交差した表面を有する。
【0027】
図2に示すように、繊維構造体11は、配列角度0°の複数本の経糸31aから構成される2つの経糸層31と、配列角度90°の複数本の緯糸32aから構成される1つの緯糸層32と、2つの経糸層31及び1つの緯糸層32の層間を結合する層間結合糸40とを有する。経糸層31及び緯糸層32は繊維構造体11の繊維層を構成する。なお、配列角度0°とは、経糸31aが曲げ部22の曲率中心線と平行に配列される状態を意味し、配列角度90°とは緯糸32aが曲げ部22の曲率中心線と直交するように配列される状態を意味する。繊維構造体11では、2つの経糸層31と1つの緯糸層32が交互に積層されるとともに、層間結合糸40によって、繊維層である経糸層31と緯糸層32が層間結合されて3軸配向の繊維構造体11が形成されている。
【0028】
経糸層31は、複数本の経糸31aが互いに平行に直交方向Yへ配列されて形成され、緯糸層32は、複数本の緯糸32aが互いに平行に軸力方向Xへ配列されて形成されている。また、複数本の層間結合糸40は、互いに平行に直交方向Yに配列されている。よって、緯糸32aと層間結合糸40は互いに平行であり、経糸31aに対し直交する。
【0029】
なお、繊維構造体11において、経糸層31と緯糸層32が積み重なる方向を積層方向Zとする。したがって、繊維構造体11では、2つの経糸層31と1つの緯糸層32が積層方向Zに積層されている。また、経糸31aの糸主軸が延びる方向を軸力方向Xとし、緯糸32aの糸主軸が延びる方向を直交方向Yとする。
【0030】
図3(a)に示すように、経糸31a及び緯糸32aは、強化繊維の連続繊維30で形成された糸である。強化繊維としては、有機繊維又は無機繊維を使用してもよいし、異なる種類の有機繊維、異なる種類の無機繊維、又は有機繊維と無機繊維を混繊した混繊繊維を使用してもよい。有機繊維としては、アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリ-p-フェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等が挙げられ、無機繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維等が挙げられる。本実施形態では、経糸31a及び緯糸32aは、炭素繊維の連続繊維30で形成された糸である。
【0031】
図1に示すように、繊維構造体11では、第1平板部21及び第2平板部23の長手方向に、連続繊維30からなる経糸31aが直線状に延びることで、繊維強化複合材10の天板12及び側板14の長手方向に所要の剛性を付与している。したがって、本実施形態では、経糸31aは軸力方向Xに糸主軸が延びる軸力方向糸である。つまり、経糸31aは、互いに平行に配列され、かつ所要の剛性が要求される軸力方向Xに糸主軸が伸びる軸力方向糸である。
【0032】
一方、第1平板部21及び第2平板部23を構成する緯糸32aは、第1平板部21及び第2平板部23の短手方向に直線状に延びている。つまり、緯糸32aは、互いに平行に配列され、かつ軸力方向X及び積層方向Zに直交する直交方向に糸主軸が伸びる直交方向糸である。
【0033】
図4に示すように、繊維構造体11の曲げ部22では、緯糸層32の各緯糸32a及び層間結合糸40が曲げられる一方で、経糸31aは曲げ部13の曲率中心線に平行に伸びている。層間結合糸40は、積層方向Zの一端の経糸層31の経糸31aに係止して折り返されるとともに積層方向Zに繊維構造体11を貫通する。層間結合糸40は、積層方向Zの他端の経糸層31の経糸31aのうち、積層方向Zの一端で折り返された経糸31aに対し、直交方向Yに隣り合う経糸31aに沿って折り返されている。互いに平行に配列された複数本の層間結合糸40は、軸力方向Xにおいて、係止する経糸31aの位置が直交方向Yに1本ずつずれている。そして、層間結合糸40は、互いに平行に配列され、かつ経糸31a及び緯糸32aの糸主軸とは異なる方向に糸主軸が伸びる交差糸である。
【0034】
図3(b)に示すように、層間結合糸40は、強化繊維の非連続繊維29で形成された紡績糸であり、撚糸である。強化繊維の非連続繊維29としては、有機繊維又は無機繊維を使用してもよいし、異なる種類の有機繊維、異なる種類の無機繊維、又は有機繊維と無機繊維を混繊した混繊繊維を使用してもよい。有機繊維としては、アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリ-p-フェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等が挙げられ、無機繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維等が挙げられる。本実施形態では、層間結合糸40は、リサイクルされた炭素繊維の非連続繊維29を撚って形成されている。このような層間結合糸40は、連続繊維30を引き揃えた糸、具体的には連続繊維30の無撚糸と比べると、糸主軸方向へ引っ張られた際の伸び量が大きい。
【0035】
そして、本実施形態では、繊維構造体11の曲げ部22を構成する経糸31a以外の糸である緯糸32aと層間結合糸40のうち、層間結合糸40を非連続繊維29の紡績糸としている。
【0036】
次に、繊維強化複合材10の製造方法を本実施形態の作用とともに説明する。
まず、平板状の繊維構造体11を賦形し、第1平板部21、一対の曲げ部22及び一対の第2平板部23を形成する。
【0037】
図4に示すように、各曲げ部22を形成するために繊維構造体11を曲げた際、曲げ部22に位置する緯糸32a及び層間結合糸40は、賦形に伴い曲げられた方向へ引っ張られる。このとき、
図4の拡大図に示すように、各層間結合糸40において、曲げ部22の外側、つまり積層方向Zの一端で経糸31aに係止する部位は、引っ張りに伴う伸びが許容される。このため、曲げ部22の内側、つまり積層方向Zの他端では曲げに伴う圧縮が緩和される。
【0038】
そして、賦形された繊維構造体11は、マトリックス樹脂Maを含浸硬化させて、繊維強化複合材10となる。マトリックス樹脂Maの含浸硬化は、RTM(レジン・トランスファー・モールディング)法で行なわれる。繊維構造体11にマトリックス樹脂Maが含浸硬化されることにより、繊維構造体11の経糸31a及び緯糸32aは、マトリックス樹脂Maと複合化し、第1平板部21から天板12が形成されるとともに、曲げ部22から曲げ部13が形成され、さらに、第2平板部23から側板14が形成されて繊維強化複合材10となる。
【0039】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1-1)繊維構造体11の層間結合糸40を非連続繊維29の紡績糸とした。このため、繊維構造体11の賦形の際、曲げ部22の外側において層間結合糸40が引っ張られても伸びが許容される。その結果、曲げ部22の内側に皺が発生することを抑制できる。したがって、曲げ部22の内側での皺発生を抑制するために、繊維構造体11の製織時に、層間結合糸40の長さや交差角度を予め調整する工程や、賦形時に層間結合糸40の位置決めする工程が不要となり、繊維構造体11の製造コストを抑えることができる。
【0040】
(1-2)層間結合糸40は、紡績糸の一種である撚糸である。撚糸は、撚りが加えられているため、引っ張られたときの伸びが許容される。したがって、繊維構造体11の賦形のために層間結合糸40が引っ張られたときの伸びがより一層許容される。
【0041】
(1-3)繊維構造体11の軸力方向糸である経糸31aは連続繊維30製であるため、繊維構造体11を強化基材とした繊維強化複合材10において、軸力方向への所要の剛性を確保できる。
【0042】
(1-4)層間結合糸40を非連続繊維29で形成した。このため、繊維構造体11の曲げ部22において層間結合糸40が伸びることで、曲げ部22の外側において、層間結合糸40が係止している経糸31aのずれを許容でき、皺の発生を抑制できる。
【0043】
(1-5)繊維構造体11は、連続繊維30の糸である経糸31a及び緯糸32aと、非連続繊維29の紡績糸である層間結合糸40とを有する多層織物である。多層織物を製織する織機は、糸の変更が容易であるため、経糸31a及び緯糸32aとは種類の異なる層間結合糸40を有する繊維構造体11であっても容易に製織できる。
【0044】
(第2の実施形態)
次に、繊維構造体及び繊維強化複合材を具体化した第2の実施形態を
図5にしたがって説明する。なお、第2の実施形態では、第1の実施形態と同様の部分及び重複する部分についてはその詳細な説明を省略する。
【0045】
図5に示すように、第2の実施形態の繊維構造体51は、3つの経糸層31と2つの緯糸層32とが積層方向Zへ交互に積層されている。また、繊維構造体51において、経糸31a及び層間結合糸40は、連続繊維30の糸であり、緯糸32aが、非連続繊維29の紡績糸である。繊維構造体51において、緯糸32aは、互いに平行に配列され、かつ経糸31a及び層間結合糸40の糸主軸とは直交する方向に糸主軸が伸びる直交方向糸である。
【0046】
従って、第2の実施形態によれば、第1の実施形態に記載の(1-2)、(1-3)及び(1-5)と同様の効果に加えて以下の効果を得ることができる。
(2-1)繊維構造体51の緯糸32aを非連続繊維29の紡績糸とした。このため、繊維構造体51の賦形の際、
図5の拡大図に示すように、曲げ部22の外側に位置する緯糸32aが引っ張られても伸びが許容される。その結果、曲げ部22の内側に皺が発生することを抑制できる。したがって、曲げ部22の内側での皺発生を抑制するために、繊維構造体51の製織時に、緯糸32aの長さや交差角度を予め調整する工程が不要となり、繊維構造体11の製造コストを抑えることができる。
【0047】
(第3の実施形態)
次に、繊維構造体及び繊維強化複合材を具体化した第3の実施形態を
図6及び
図7にしたがって説明する。なお、第3の実施形態では、第1の実施形態と同様の部分及び重複する部分についてはその詳細な説明を省略する。
【0048】
図6又は
図7に示すように、第3の実施形態の繊維構造体61は、積層方向Zの一端から他端に向けて第1斜行糸層331、第1経糸層311、緯糸層32、第2経糸層312、及び第2斜行糸層332が積層されるとともに、層間結合糸40によって積層方向Zに層間結合されている。第1斜行糸層331は、配列角度+45°の複数本の斜行糸33aから構成され、第1経糸層311及び第2経糸層312は、配列角度0°の複数本の経糸31aから構成される。緯糸層32は、配列角度90°の複数本の緯糸32aから構成され、第2斜行糸層332は、配列角度-45°の複数本の斜行糸33aから構成される。
【0049】
なお、配列角度±45°とは、斜行糸33aが配列角度0°の経糸31aに対し±45°に配列される状態を意味する。そして、第1斜行糸層331と、第1経糸層311と、緯糸層32と、第2経糸層312と、第2斜行糸層332とが積層されて、5軸配向の繊維構造体61が形成されている。なお、第1斜行糸層331、第1経糸層311、緯糸層32、第2経糸層312、及び第2斜行糸層332はいずれも繊維層である。そして、斜行糸33aは、互いに平行に配列され、かつ経糸31a及び緯糸32aの糸主軸とは異なる方向に糸主軸が伸びる交差糸である。
【0050】
また、繊維構造体61は、捻り軸線61aを捻り中心とした曲げ構造を有する曲げ部R1と、曲げ部R1に連続し、かつ平板状の平板部R2とを含む。繊維構造体61において、捻り軸線61aは曲げ部R1及び平板部R2を通過しつつ、長手方向に沿って直線状に延び、直進性を有する。繊維構造体61において、捻り軸線61aの両端に位置する短縁部を側縁部62とし、2つの側縁部62の両端同士を繋ぐ長縁部を捻り縁部63とする。
【0051】
第1経糸層311及び第2経糸層312の経糸31aは、捻り軸線61aに平行な状態で直線状に延びている。第1斜行糸層331及び第2斜行糸層332の斜行糸33aは、捻り軸線61aに対し±45度傾斜した状態で、捻り軸線61aから各捻り縁部63に向けて直線状に延びている。緯糸層32の緯糸32aは、捻り軸線61aに対し直交した状態で、捻り軸線61aから各捻り縁部63に向けて直線状に延びている。層間結合糸40は、第1斜行糸層331、第1経糸層311、緯糸層32、第2経糸層312、及び第2斜行糸層332を積層方向Zに層間結合している。
【0052】
繊維構造体61において、経糸31a及び層間結合糸40は、連続繊維30の糸であり、斜行糸33a及び緯糸32aは、非連続繊維29の紡績糸の一種である撚糸である。繊維構造体61において、緯糸32a及び斜行糸33aは、互いに平行に配列され、かつ経糸31aの糸主軸とは異なる方向に糸主軸が伸びる糸である。
【0053】
従って、第3の実施形態によれば、第1の実施形態に記載の(1-2)、(1-3)及び(1-5)と同様の効果に加えて以下の効果を得ることができる。
(3-1)繊維構造体61を構成する緯糸32a及び斜行糸33aを非連続繊維29の紡績糸で形成した。このため、繊維構造体61の賦形のために捻りに伴う曲げが施された曲げ部R1では、緯糸32a及び斜行糸33aが引っ張られるが、緯糸32a及び斜行糸33aの伸びが許容される。その結果、緯糸32a及び斜行糸33aにおいて、伸びが許容されない場合と異なり、繊維構造体61における曲げ部の内側と外側との経路差の違いを原因とした皺や歪みが発生することを抑制できる。したがって、繊維構造体61の製織時に、緯糸32aの斜行糸33aの長さを予め調整する工程等が不要となり、繊維構造体61の製造コストを抑えることができる。
【0054】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
○ 第1の実施形態の層間結合糸40、第2の実施形態の緯糸32a、及び第3の実施形態の斜行糸33aは、非連続繊維29製の無撚糸であってもよい。
【0055】
○ 各実施形態では、マトリックス樹脂Maとして熱硬化性樹脂を用いたが、その他の種類の樹脂を用いてもよい。
○ マトリックス材料はマトリックス樹脂以外にもセラミックでもよい。
【0056】
○ 各実施形態において、積層する繊維層の数は任意に変更してもよい。
○ 繊維構造体11,51,61の形状は断面ハット状でなくてもよく、筒状やL状など曲げ部や捻れ部を有する形状であれば適宜変更してもよい。
【0057】
○ 繊維構造体11,51,61は、多層織物でなくてもよく、複数の単層織物を積層し、それら単層織物を層間結合糸40で層間結合したものでもよいし、編み物でもよい。
【符号の説明】
【0058】
Ma…マトリックス材料としてのマトリックス樹脂、R1…曲げ部、R2…平板部、10…繊維強化複合材、11,51,61…繊維構造体、21…第1平板部、22…曲げ部、23…第2平板部、29…非連続繊維、30…連続繊維、31…繊維層としての経糸層、31a…軸力方向糸としての経糸、32…繊維層としての緯糸層、32a…直交方向糸としての緯糸、33a…交差糸としての斜行糸、40…交差糸としての層間結合糸、311…繊維層としての第1経糸層、312…繊維層としての第2経糸層、331…繊維層としての第1斜行糸層、332…繊維層としての第2斜行糸層。