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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】口腔内装着器具用シート状製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/41 20060101AFI20230530BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20230530BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20230530BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20230530BHJP
   A61Q 11/02 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
A61K8/41
A61K8/34
A61K8/73
A61K8/02
A61Q11/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019144325
(22)【出願日】2019-08-06
(65)【公開番号】P2021024818
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391029325
【氏名又は名称】明星産商株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 志織
(72)【発明者】
【氏名】堤 康太
(72)【発明者】
【氏名】大西 春二
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-091684(JP,A)
【文献】特開2012-097057(JP,A)
【文献】国際公開第2017/110674(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0053807(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0211959(US,A1)
【文献】特開2008-303188(JP,A)
【文献】特開2017-078029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61K 6/00- 6/90
A61P 1/00-43/00
A01N 1/00-65/48
A01P 1/00-23/00
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アルキルベタイン型両性界面活性剤 0.01~0.2質量%と、
(B)下記の(B1)及び/又は(B2)成分 0.006~28質量%
(B1)2価及び3価の多価アルコールから選ばれる1種以上
(B2)糖アルコール及びオリゴ糖から選ばれる1種以上
とを含有する液体組成物が、シート状基材に含浸された口腔内装着器具用シート状製剤。
【請求項2】
(A)アルキルベタイン型両性界面活性剤が、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインである請求項1記載の口腔内装着器具用シート状製剤。
【請求項3】
(B1)成分が、平均分子量190~6,000のポリエチレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール及び1,3-ブチレングリコールから選ばれ、(B2)成分が、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、エリスリトール、パラチノース、ラフィノース、トレハロース及びマルトースから選ばれる請求項1又は2記載の口腔内装着器具用シート状製剤。
【請求項4】
(B)成分が、(B1)及び(B2)成分であり、(B1)/(B2)が質量比として0.003~450である請求項1~3のいずれか1項記載の口腔内装着器具用シート状製剤。
【請求項5】
(B1)成分の含有量が0.003~18質量%、(B2)成分の含有量が0.003~15質量%である請求項4記載の口腔内装着器具用シート状製剤。
【請求項6】
(A)/(B)が質量比として0.003~19である請求項1~5のいずれか1項記載の口腔内装着器具用シート状製剤。
【請求項7】
口腔内装着器具が義歯である請求項1~6のいずれか1項記載の口腔内装着器具用シート状製剤。
【請求項8】
口腔内装着器具の清拭用シートである請求項1~7のいずれか1項記載の口腔内装着器具用シート状製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内に装着する義歯等の器具表面に優れた抗菌効果を与える口腔内装着器具用シート状製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢化社会の到来に伴い、義歯の使用者は年々増加する傾向にあり、また、歯列矯正等に用いられるマウスピース、リテーナー等についても、歯並びや噛み合わせの矯正が審美面だけでなく、虫歯等の口腔内疾患予防やアンチエイジングの面からも注目されており、これら口腔内装着器具の使用者は増加している。
【0003】
口腔内装着器具、例えば義歯の使用にあたっては、義歯装着によって義歯と口腔粘膜との間に食べかすが溜り易く、義歯使用者は、義歯未使用の健常人に比べて口腔内が不潔になり易い。しかも、義歯を口腔内に装着すると、口腔内に存在するう蝕、歯周病の病原菌やカンジダ菌(Candida albicans)が義歯(デンチャー)表面に付着し、これらの細菌凝集体や菌体外代謝物から成り、薬剤抵抗性が高まっているデンチャーバイオフィルム(デンチャープラーク)が形成される。義歯使用者のデンチャーバイオフィルム中には、健常人の歯表面に形成されるデンタルバイオフィルム(歯垢、デンタルプラーク)に比べてカンジダ菌が多く見られ、これが義歯性口内炎や義歯性口角炎の原因になって発生頻度も高くなっているとも考えられている。デンチャーバイオフィルム中には、ストレプトコッカス ミュータンス菌(Streptococcus mutans)やフゾバクテリウム ヌクレアタム菌(Fusobacterium nucleatum)等のう蝕、歯周病、口臭関連の病原菌も含まれており、これらの細菌を除去して義歯をケアすることは、各種口腔内疾患の予防又は抑制にも重要である。
【0004】
これまで、義歯洗浄剤による化学的洗浄や、義歯ブラシや超音波洗浄器等の物理的洗浄を用いた、デンチャーバイオフィルムの除去、除菌技術が確立されている。しかし、前記従来の洗浄、除菌手段は、洗浄後に義歯を漱いでから装着する必要があるものが多いこともあり、義歯表面にデンチャーバイオフィルムが形成されるのを事前に抑制する点では十分とはいえなかった。デンチャーバイオフィルム制御の観点から、義歯ケア用品においては、義歯表面にデンチャーバイオフィルムが形成される前に、構築原因となる様々な口腔内細菌を除去してその形成を阻止又は抑制できるような抗菌効果を与え、装着中にもデンチャーバイオフィルムを形成させないようにすることが大切である。
【0005】
義歯の除菌・洗浄剤として、抗菌有効成分である過酸化物、次亜塩素酸、酵素、酸、生薬、銀系無機抗菌剤又は消毒薬のいずれかを配合した義歯ケア組成物が開発されている。これらでは、義歯に付着した口腔内浮遊菌の除菌、デンチャーバイオフィルムの洗浄ができても、義歯を口腔内に再装着して使用する間に、義歯表面に僅かに残っていた菌や新たに付着した菌が増殖するため、デンチャーバイオフィルム制御の観点では十分とはいえず、デンチャーバイオフィルムが形成されることを阻止することはほとんどできていなかった。
特許文献1(特許第5618370号公報)には、ケイ素含有化合物を固定化させることで義歯表面を抗菌処理する技術が提案されているが、デンチャーバイオフィルムの形成抑制作用は不十分であった。
特許文献2(国際公開第2017/110674号)は、アルキルアミンオキシドを有効成分とする口腔用カンジダ菌殺菌剤及びこれを含有する義歯洗浄剤組成物を提案し、更にアニオン性界面活性剤及び/又はベタイン両性界面活性剤が配合されることを開示しているが、カンジダ菌以外の細菌、デンチャーバイオフィルムへの作用は不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5618370号公報
【文献】国際公開第2017/110674号
【文献】特許第5694660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、口腔内に装着する義歯等の器具表面に、様々な口腔内細菌を抗菌する優れた抗菌効果を与え、かつ良好な装着性を付与することができる、使用性も良い口腔内装着器具用シート状製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、アルキルベタイン型両性界面活性剤と、特定の多価アルコール、糖アルコール及びオリゴ糖から選ばれる1種又は2種以上とをそれぞれ特定量で組み合わせて配合した液体組成物を、シート状基材に含浸させたシート状製剤が、義歯(人工歯とそれを維持し、口腔粘膜を被い装着させるための義歯床。以下、「義歯」と記載。)等の口腔内装着器具表面を拭き取るなどして処理して適用すると、デンチャーバイオフィルム構築の原因となるカンジダ菌等の複数種の口腔細菌に対して高い抗菌効果を奏する、優れた抗菌効果を付与できることを見出した。即ち、本発明では、(A)アルキルベタイン型両性界面活性剤を0.01~0.2質量%と、(B)後述の(B1)及び/又は(B2)成分を0.006~28質量%とを含有する液体組成物が、シート状基材に含浸された口腔内装着器具用シート状製剤が、口腔内装着器具表面に、様々な口腔内細菌を抗菌する優れた抗菌効果与え、かつ前記器具の装着性を良好とし、取り扱い易い使用性を有することを知見し、本発明をなすに至った。
【0009】
更に詳述すると、細菌への抗菌作用は、細菌の種類や性質によって相違し、ある細菌を抗菌できてもそれとは性質等の異なる細菌まで抗菌できるとは限らない。一方、界面活性剤のアルキルベタイン型両性界面活性剤は、義歯表面への吸着作用が弱く、義歯が水で洗浄されたり、口腔内で唾液に晒されると、義歯表面上に残留せず、カンジダ菌等の口腔内細菌に対する抗菌作用が弱くなる傾向がある。また、多価アルコールや糖アルコールには抗菌作用がほとんど認められない。しかし、本発明では、(A)及び(B)成分を組み合わせると、上記シート状製剤において、(A)及び(B)成分が抗菌性付与剤として作用し、口腔内装着器具表面を上記製剤で拭き取るだけでもその表面に優れた抗菌性を与え、上記格別な作用効果を付与できた。したがって、本発明の口腔内装着器具用シート状製剤によれば、カンジダ菌(Candida albicans)、ストレプトコッカス ミュータンス菌(Streptococcus mutans)、フゾバクテリウム ヌクレアタム菌(Fusobacterium nucleatum)等の複数種の口腔内細菌を抗菌する作用効果を口腔内器具表面に付与し、かつ、口腔内装着器具の良好な装着性、シート状製剤の手指での扱い易い使用性を確保することもできる。本発明によれば、上記のように複数種の口腔内細菌の生育、増殖を阻止し、細菌を死滅させることで、デンチャーバイオフィルムが形成される前にその形成を阻止又は抑制することもできる。
【0010】
本発明の作用効果は、(A)又は(B)成分を欠くと劣り、(A)成分を欠く場合は、(B)成分と界面活性剤のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とが配合されていても劣り(後述の比較例1、2、7)、また、(A)及び(B)成分が配合されていても、いずれかの配合量が不適切であると劣り(後述の比較例3~6)、本作用効果は、(A)及び(B)成分をそれぞれ特定量で組み合わせることによって得られる特異な作用効果であった。
なお、本発明において、そのメカニズムの全容は明らかではないが、(A)成分と(B)成分との複合体が形成されて両者が相乗的に作用することで、義歯等の口腔内装着器具の表面に吸着し易くなり、(A)成分の活性部位がカンジダ菌等の複数種の口腔内細菌を溶菌させることで、相乗的かつ優れた抗菌作用が発揮されるものと推察される。
更に、本発明では、(A)及び(B)成分の配合比率を調整し、これらの量比を示す(A)/(B)の質量比を特定範囲にすることで、口腔内装着器具のすべりが良くなって歯茎(装着部)への装着が更にスムーズな装着性を与え、また、(B)成分由来のべたつきが軽減されてシート状製剤を手指で直接触れても不快なべたつきがない、より良い使用性を与えることもできた。
なお、特許文献2は、アルキルアミンオキシドによるカンジダ菌の殺菌である。また、特許文献3(特許第5694660号公報)に開示された清拭ウェットシートは、アミドベタイン型界面活性剤及び水溶性多価アルコールを含有するが、これらとシリコーン化合物、水溶性アミノ酸又はその誘導体及びアクリル系ポリマーとを組み合わせて配合した薬液による、皮膚の洗浄、拭き取り性及び汚れ落ち等の改善である。これらに対して、本発明は、口腔内装着器具用シート状製剤において、薬液として(A)及び(B)成分を組み合わせて使用することによる抗菌効果の付与であって、カンジダ菌を含めた複数種の口腔内細菌の抗菌及び口腔内装着器具の装着性の改善である。
【0011】
従って、本発明は、下記の口腔内装着器具用シート状製剤を提供する。
〔1〕
(A)アルキルベタイン型両性界面活性剤 0.01~0.2質量%と、
(B)下記の(B1)及び/又は(B2)成分 0.006~28質量%
(B1)2価及び3価の多価アルコールから選ばれる1種以上
(B2)糖アルコール及びオリゴ糖から選ばれる1種以上
とを含有する液体組成物が、シート状基材に含浸された口腔内装着器具用シート状製剤。
〔2〕
(A)アルキルベタイン型両性界面活性剤が、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインである〔1〕に記載の口腔内装着器具用シート状製剤。
〔3〕
(B1)成分が、平均分子量190~6,000のポリエチレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール及び1,3-ブチレングリコールから選ばれ、(B2)成分が、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、エリスリトール、パラチノース、ラフィノース、トレハロース及びマルトースから選ばれる〔1〕又は〔2〕に記載の口腔内装着器具用シート状製剤。
〔4〕
(B)成分が、(B1)及び(B2)成分であり、(B1)/(B2)が質量比として0.003~450である〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の口腔内装着器具用シート状製剤。
〔5〕
(B1)成分の含有量が0.003~18質量%、(B2)成分の含有量が0.003~15質量%である〔4〕に記載の口腔内装着器具用シート状製剤。
〔6〕
(A)/(B)が質量比として0.003~19である〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の口腔内装着器具用シート状製剤。
〔7〕
口腔内装着器具が義歯である〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の口腔内装着器具用シート状製剤。
〔8〕
口腔内装着器具の清拭用シートである〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の口腔内装着器具用シート状製剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、口腔内に装着する義歯等の器具表面に、様々な口腔内細菌を抗菌する優れた抗菌効果を与え、かつ良好な装着性を付与することができる、使用性も良い口腔内装着器具用シート状製剤を提供できる。この口腔内装着器具用シート状製剤は、デンチャーバイオフィルム形成を抑制することもでき、口腔内装着器具の清拭等のケア用として有効である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明につき更に詳述する。本発明の口腔内装着器具用シート状製剤は、(A)アルキルベタイン型両性界面活性剤と、(B)後述の(B1)及び/又は(B2)成分とを含有する液体組成物と、シート状基材とからなり、上記液体組成物がシート状基材に含浸されているものである。
【0014】
(A)アルキルベタイン型両性界面活性剤は、脂肪酸アミドプロピルベタイン等の脂肪酸ベタイン型、アルキル酢酸ベタイン等の酢酸ベタイン型、アルキルイミダゾリニウムベタイン等のイミダゾリウムベタイン型が挙げられ、特に炭素数10~16のアルキル基を有するものが好ましい。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
具体的に脂肪酸アミドプロピルベタインは、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン等、アルキル酢酸ベタインは、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等、アルキルイミダゾリニウムベタインは、アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等が挙げられる。中でも、抗菌効果の点で、脂肪酸ベタイン型の脂肪酸アミドプロピルベタイン、酢酸ベタイン型のアルキル酢酸ベタインが好ましく、特にアルキル酢酸ベタイン、とりわけラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインが好ましい。
【0015】
(A)成分の配合量は、液体組成物全体の0.01~0.2%(質量%、以下同様)であり、0.03~0.15%が好ましい。0.01%未満では、抗菌効果が低く、また、手指のべたつきの無さが劣る場合がある。0.2%を超えると、装着性が悪くなり装着感が劣る。
【0016】
(B)成分は、下記の(B1)成分、(B2)成分であり、(B1)又は(B2)成分を用いることができるが、(B1)及び(B2)成分を用いることが好ましい。
(B1)2価及び3価の多価アルコールから選ばれる1種以上
(B2)糖アルコール及びオリゴ糖から選ばれる1種以上
【0017】
(B1)成分は、2価又は3価の多価アルコールであり、例えばポリエチレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等の2価アルコール、3価アルコールが挙げられる。これら(B1)成分中、ポリエチレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコールが、抗菌効果の点で好ましい。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
ポリエチレングリコールとしては、平均分子量(医薬部外品原料規格2006記載の平均分子量。以下同様)190~6,000のものを使用でき、特に190~630、とりわけ190~210のポリエチレングリコールが、抗菌効果の点で好ましい。具体的には、ポリエチレングリコール200(平均分子量190~210)、ポリエチレングリコール300(平均分子量280~320)、ポリエチレングリコール400(平均分子量380~420)、ポリエチレングリコール600(平均分子量570~630)、ポリエチレングリコール1540(平均分子量1,290~1,650)、ポリエチレングリコール2000(平均分子量1,850~2,150)、ポリエチレングリコール4000(平均分子量2,600~3,800)等を用いることができる。
【0018】
(B2)成分は、糖アルコール、オリゴ糖であり、特に抗菌効果の点から糖アルコールが好ましい。
(B2)成分は、例えばキシリトール、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、エリスリトール等の糖アルコール、パラチノース、ラフィノース、トレハロース、マルトース等のオリゴ糖が挙げられる。これら(B2)成分中、キシリトール、ソルビトール、パラチノースが、抗菌効果の点で好ましく、より好ましくはキシリトール、ソルビトールである。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
(B)成分は、(B1)及び(B2)成分を併用すると、抗菌効果に優れると共に、装着性及び手指のべたつきの無さがより改善し、より好ましい。
この場合、(B1)成分と(B2)成分との量比を示す(B1)/(B2)は、特に制限されないが、質量比として0.003~450が好ましく、より好ましくは0.008~300である。(B1)/(B2)の質量比が上記範囲内であると、装着性及び手指のべたつきの無さがより優れる。0.003以上であると、手指のべたつきの無さが十分に良く、450以下であると、十分な装着性が得られる。
【0020】
(B)成分の配合量は、液体組成物全体の0.006~28%であり、好ましくは0.008~15%、より好ましくは0.01~15%である。0.006%未満では、抗菌効果が低い。また、装着性が劣る場合がある。28%を超えると、手指のべたつきの無さが劣る。
更に、(B)成分として(B1)及び(B2)成分を配合する場合、(B1)成分の配合量は、液体組成物全体の0.003~18%が好ましく、より好ましくは0.005~13%であり、(B2)成分の配合量は、液体組成物全体の0.003~15%が好ましく、より好ましくは0.005~7.5%である。
【0021】
更に、(A)成分と(B)成分との量比を示す(A)/(B)は、質量比として0.003~19が好ましく、0.003~15がより好ましく、更に好ましくは0.005~10である。(A)/(B)の質量比が上記範囲内であると、抗菌効果、装着性及び手指のべたつきの無さがより一層優れる。(A)/(B)の質量比が0.003以上であると、抗菌効果が十分に高まり、また、手指のべたつきの無さを更に改善できる。19以下であると、装着性を十分に維持できる。
【0022】
本発明にかかわる液体組成物には、上記(A)及び(B)成分に加えて、これら以外にも、口腔用の清拭剤等に配合可能な公知成分を本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて任意に配合できる。任意成分としては、具体的に各種植物抽出物(セージ葉エキス、ローズマリー葉エキス、モモ葉エキス、ハマメリス葉エキス、ユズエキス、アロエベラエキス等)、界面活性剤、増粘剤、着色剤、甘味剤、香料、防腐剤、pH調整剤、薬効成分、溶剤等が挙げられる。
【0023】
液体組成物のpHは、口腔内及び人体に安全性上問題ない範囲であれば、特に限定されるものではないが、望ましくはpH5.0~9.0が好適である。
【0024】
薬効成分は、(A)及び(B)成分以外に抗菌剤は配合しなくてもよいが、これらに加えて、抗炎症剤、殺菌剤、知覚過敏予防剤等を、本発明の効果を妨げない範囲で有効量配合できる。上記他の薬効成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
溶剤は、水を用いることができ、精製水を使用できる。更に、上記成分を溶解又は分散させるために、エタノール等の炭素数1~3の低級一価アルコールを配合することもできる。なお、上記低級一価アルコールは、多く配合し過ぎると、口腔内装着器具の装着性に影響することがあり、為害性が生じることもあるため、これらを配合する場合、その配合量は、液体組成物全体の15%以下、特に10%以下が好ましく、また、配合せず0%であってもよい。
【0026】
本発明の口腔内装着器具用シート状製剤は、上記液体組成物が薬液であり、これを支持体のシート状基材に含浸させることで得ることができる。
シート状基材は、特に制限されないが、口腔内に適用可能な安全性を備えるものが好ましく、使用目的に応じて支持体として使用可能な材料を適宜選択して用いることができる。
シート状基材は、例えば、セルロース、セルロース誘導体(例えばヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)、紙、パルプ、綿、麻、絹、コットン、ポリエチレン、発泡ポリエチレン、ポリプロピレン、発泡ポリプロピレン、ポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート等)、ポリアクリルニトリル、ポリビニルアルコール、ナイロン、レーヨン、キュプラが挙げられ、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0027】
支持体は、上記シート状基材を材料として形成され、この支持体の形態は、例えば織布、不織布、網布、多孔シート、発泡シート等が挙げられる。これらのうち、機能成分である(A)及び(B)成分を一度に大量に放出させることなく徐々に放出させることができ、かつ均一な液剤の塗布ができる点から、織布、不織布が好ましく、不織布がより好ましい。
織布、不織布の材料としては、上記のシート状基材として挙げた具体例のうち、紙、パルプ、絹、コットン、ポリエチレン、発泡ポリエチレン、ポリプロピレン、発泡ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、レーヨンが好ましく、コットンがより好ましい。
更に、不織布は、その目付が10~300g/m2であることが好ましい。
不織布の製造方法は、特に限定されず、通常の方法を採用でき、例えば乾式法、湿式法、スパンボンド法、メルトブロー法、サーマルボンド法、ケミカルボンド法、ニードルパンチ法、スパンレース法、ステッチボンド法、スチームジェット法等が挙げられ、いずれであってもよい。
なお、支持体は、単層であっても、あるいは互いに同種もしくは異種の材料で形成された2層以上の積層体であってもよいが、単層の不織布が好ましい。また、シート状基材の材料が水溶性であってもよく、不織布は水解性のものでもよい。
【0028】
支持体の大きさは、シート状製剤を使用する器具、使用目的等に応じて調整できるが、好ましくは縦×横が30~500mm×30~500mm、特に50~400mm×50~400mmの長さである。厚さは、特に制限されず、薬液を含浸できればよい。
【0029】
本発明の口腔内装着器具用シート状製剤は、公知の方法を採用して調製することができる。上記液体組成物の調製方法は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば(A)成分、(B)成分、更には必要に応じて上記任意成分を使用し、所定の製造装置を用いて常法により調製することができる。また、液体組成物は、通常の方法で支持体のシート状基材に含浸させることができ、ウェットシートとして調製することができる。
この場合、液体組成物(含浸液)のシート状基材への含浸倍率は、抗菌効果、更には拭き取り易さの点から、液体組成物とシート状基材との量比を示す液体組成物/シート状基材が、質量比として1~10が好ましく、1.5~7.5がより好ましい。この範囲内であると、抗菌効果が更に優れ、また、口腔内装着器具表面がより拭き取り易くなる。
【0030】
シート状製剤は、公知の清拭シート等と同様に容器に収容されることが好ましい。この場合、収容容器は、シート状製剤の乾燥を防止するために密封可能な容器が好ましく、容器材質はポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂や、フィルム状にしたアルミ箔と合成樹脂を積層させたラミネートフィルムが好ましい。また、容易に開閉可能であり、かつ、シート状製剤を容易に取り出せるように積み重ねるなどして収容することができる容器がよく、更には、取り出し時にはシート状製剤を1枚ずつ取り出せるような取り出し口を備えたものが好ましく、これらを満たす袋状又はピロー型容器、蓋を備えたボックス容器等が好適である。また、収容されたシート状製剤全てを使い切った後に、新たなシート状製剤を詰め替えることができる再利用可能な容器を採用することもできる。
【0031】
本発明の口腔内装着器具用シート状製剤は、口腔内装着器具、例えば義歯、マウスピース、歯列矯正用のリテーナー等に使用できるが、中でも口腔粘膜との接触面積が大きい義歯(部分床義歯、全部床義歯)へ使用すると、一層高い本効果が期待できることから好ましく、これら器具表面の清拭用として好適である。
【0032】
また、本発明にかかわるシート状製剤は、口腔内装着器具の清拭用シートとして好適であり、一般的な清拭シート等と同様に通常の方法で使用することができる。例えば、シート状製剤を手指で直接持ち、対象物である口腔内装着器具の表面を拭く方法を採用できる。このように表面を拭くことで、支持体のシート状基材に含浸された液体組成物が、徐々に染み出て口腔内装着器具表面に付着して残って、抗菌効果を奏し、また、装着性の改善効果も奏する。この場合、口腔内装着器具表面の拭き取り回数は、好ましくは1往復以上、より好ましくは2~10往復である。口腔内装着器具は、表面を拭き取り後に水で軽く洗い流してもよいが、洗い流さないほうが、液体組成物による抗菌効果がより一層発揮され好ましく、水で洗い流さずに口腔内に装着することがより好ましい。
【実施例
【0033】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において%は特に断らない限りいずれも質量%を示す。
【0034】
[実施例、比較例]
表1~6に示す組成の液体組成物を常法によって調製し、これらを含浸液として使用した。シート状基材としてコットン不織布を使用し、これに3倍量の含浸液(含浸液/シート状基材の質量比;3)を含浸させてシート状製剤(清拭ウェットシート)を調製した。得られたシート状製剤について、下記に示す方法で抗菌効果、装着性(装着感の良さ)、手指のべたつきの無さを評価した。結果を表1~6に併記した。
【0035】
なお、被験者は、人工歯と義歯床がアクリル樹脂で作製された部分義歯装着者である。
調製に用いたシート状基材は、コットン不織布(コットン100%、目付38g/m2、150mm×150mm)である。使用したポリエチレングリコール200の平均分子量(医薬部外品原料規格2006記載の平均分子量)は、190~210である。
【0036】
(1)抗菌効果の評価方法
10mm×10mmのアクリル板表面を、#1000の研磨紙で研磨し、次亜塩素酸ナトリウムで滅菌したものをアクリル板として用い、また、8mm×8mmのビニール製のフィルムをエタノールに浸漬し、滅菌した後に乾燥させたものをフィルムとして使用した。
上記アクリル板を、シート状製剤で5往復拭き取り、滅菌水で洗浄した後、下記の各種菌液を6μL添加した後に上から上記フィルムを被せた(試験群)。コントロールは、シート状製剤で未処置のアクリル板に各種菌液を添加した群とした。
菌液としては、カンジダ アルビカンス(C.albicans)の菌液(3.0×104CFU/mL)、ストレプトコッカス ミュータンス(S.mutans)の菌液(1.4×108CFU/mL)、フゾバクテリウム ヌクレアタム(F.nucleatum)の菌液(1.4×108CFU/mL)を用い、C.albicansの菌液を使用したものは28℃好気条件下で24時間培養し、S.mutansの菌液及びF.nucleatumの菌液を使用したものは、それぞれ37℃嫌気条件下で24時間培養したものを使用した。
その後、それぞれのアクリル板及びこれらに被せたフィルムをSCDLP(Soybean-Casein Digest Broth with Lecithin & Polysorbate)培地に加え、超音波を用いて細菌を培地中に回収し、この細菌を含む培地を各種平板培地(C.albicansはYPD(Yeast Extract Peptone Dextroser)培地、S.mutansとF.nucleatumは血液寒天培地)に塗抹し、3~4日間培養した後にコロニー数をカウントすることで、それぞれの生菌数を測定した。
生菌数から、下記式によって抗菌活性値を算出し、下記の評価基準に従って、抗菌効果(C.albicans)、抗菌効果(S.mutans)、抗菌効果(F.nucleatum)を評価した。
抗菌活性値の算出式;
ΔLog10CFU=
Log10(コントロールの生菌数)-Log10(試験群の生菌数)
評価基準
★:3.0≦抗菌活性値
◎:2.5≦抗菌活性値<3.0
〇:2.0≦抗菌活性値<2.5
△:1.0≦抗菌活性値<2.0
×:抗菌活性値<1.0
【0037】
(2)装着性(装着感の良さ)の評価方法
義歯装着者である被験者5名が、シート状製剤1枚を手指で直接持って、アクリル樹脂で成形した義歯床を含む義歯表面を5往復拭き取った直後に、自身の口腔内の装着部に装着し、歯茎へ装着する際の装着感(抵抗を感じずにスムーズに装着できる感じ)について、下記の評点基準で判定した。5名の平均値を求め、下記の評価基準で装着性(装着感の良さ)を評価した。
評点基準
4点:全く抵抗がなく、装着感が大変良い
3点:抵抗がほとんどなく、装着感が良い
2点:やや抵抗を感じ、装着感があまり良くない
1点:非常に抵抗を感じ、装着感が良くない
評価基準
★:平均点3.5点以上4.0点以下
◎:平均点3.0点以上3.5点未満
○:平均点2.5点以上3.0点未満
△:平均点2.0点以上2.5点未満
×:平均点2.0点未満
【0038】
(3)手指のべたつきの無さの評価方法
義歯装着者である被験者5名が、シート状製剤1枚を手指で直接持って、アクリル樹脂で成形した義歯床を含む義歯表面を5往復拭き取った後、手指のべたつきの無さについて、下記の評点基準で判定した。5名の平均値を求め、下記の評価基準で手指のべたつきの無さを評価した。
評点基準
4点:べたつきが無い
3点:べたつきがほとんど無く、問題ない
2点:べたつきがややある
1点:べたつきがある
評価基準
★:平均点3.5点以上4.0点以下
◎:平均点3.0点以上3.5点未満
○:平均点2.5点以上3.0点未満
△:平均点2.0点以上2.5点未満
×:平均点2.0点未満
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
【表4】
【0043】
【表5】
【0044】
【表6】