(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】電動オイルポンプの制御装置、電動オイルポンプ
(51)【国際特許分類】
F04B 49/06 20060101AFI20230530BHJP
F04C 14/08 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
F04B49/06 321A
F04C14/08
(21)【出願番号】P 2019175184
(22)【出願日】2019-09-26
【審査請求日】2022-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000220505
【氏名又は名称】ニデックパワートレインシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100138689
【氏名又は名称】梶原 慶
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【氏名又は名称】成田 友紀
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【氏名又は名称】古都 智
(72)【発明者】
【氏名】白井 康弘
(72)【発明者】
【氏名】樋口 孔二
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-13209(JP,A)
【文献】特開2009-55719(JP,A)
【文献】特開2004-166436(JP,A)
【文献】特開平10-89262(JP,A)
【文献】国際公開第2018/062096(WO,A1)
【文献】特開2015-61382(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0159452(US,A1)
【文献】米国特許第4204808(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 49/06
F04C 14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、モータに連結されるポンプ機構とを備える電動オイルポンプを、上位装置から入力される指令値に基づいて回転数制御する制御装置であって、
前記指令値と前記モータの回転数との偏差に基づいて前記モータに出力する電流のデューティ値を算出する第1演算部と、
前記モータの電流制限値と前記モータの電流値との偏差に基づいて前記モータに出力する電流のデューティ値を算出する第2演算部と、
前記第1演算部で算出される第1のデューティ値と、前記第2演算部で算出される第2のデューティ値とを比較し、低い方の前記デューティ値を、前記モータを駆動する電流のデューティ値として選択する駆動電流決定部と、
を有する、電動オイルポンプの制御装置。
【請求項2】
前記第2のデューティ値はゼロよりも大きい値である、
請求項1に記載の電動オイルポンプの制御装置。
【請求項3】
前記モータの電流値が、予め定められる電流上限値を超える場合に、前記モータを停止させる強制停止部を有する、
請求項1または2に記載の電動オイルポンプの制御装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の制御装置を備える、電動オイルポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動オイルポンプの制御装置、電動オイルポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の作動油または冷却油の供給に用いられる電動オイルポンプの制御装置において、例えば特許文献1に開示されるように、油温に応じて動作を切り換える制御装置が知られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の制御装置では、油温に基づく動作切換のために油温センサが必須であった。そのため、油温センサを備えない電動オイルポンプには適用できない課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の1つの態様によれば、モータと、モータに連結されるポンプ機構とを備える電動オイルポンプを、上位装置から入力される指令値に基づいて回転数制御する制御装置が提供される。前記指令値と前記モータの回転数との偏差に基づいて前記モータに出力する電流のデューティ値を算出する第1演算部と、前記モータの電流制限値と前記モータの電流値との偏差に基づいて前記モータに出力する電流のデューティ値を算出する第2演算部と、前記第1演算部で算出される第1のデューティ値と、前記第2演算部で算出される第2のデューティ値とを比較し、低い方の前記デューティ値を、前記モータを駆動する電流のデューティ値として選択する駆動電流決定部と、を有する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の1つの態様によれば、油温センサを備えない電動オイルポンプにおいても油温の変化に応じた適切な動作を可能とする電動オイルポンプの制御装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】
図2は、電動オイルポンプの制御装置の機能ブロック図である。
【
図3】
図3は、電動オイルポンプの動作を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、電動オイルポンプの制御状態を示す説明図である。
【
図5】
図5は、電動オイルポンプの制御状態を示す説明図である。
【
図6】
図6は、電動オイルポンプの制御状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。
各図においてZ軸方向は、正の側を上側とし、負の側を下側とする上下方向である。各図に適宜示す中心軸Jの軸方向は、Z軸方向、すなわち上下方向と平行である。
以下の説明においては、中心軸Jの軸方向と平行な方向を単に「軸方向」と呼ぶ。また、中心軸Jを中心とする径方向を単に「径方向」と呼び、中心軸Jを中心とする周方向を単に「周方向」と呼ぶ。
【0009】
本実施形態において、上側は、軸方向他方側に相当し、下側は、軸方向一方側に相当する。なお、上下方向、水平方向、上側および下側とは、単に各部の相対位置関係を説明するための名称であり、実際の配置関係等は、これらの名称で示される配置関係等以外の配置関係等であってもよい。
【0010】
本実施形態の電動オイルポンプ1は、例えば車両の駆動装置に搭載される。つまり電動オイルポンプ1は、車両に搭載される。電動オイルポンプ1は、例えば、車両の駆動装置において、駆動装置のハウジング内を循環する冷却用のオイルを吸入し、吐出する。
【0011】
電動オイルポンプ1は、
図1に示すように、モータ10と、制御基板40と、ハウジング50と、ポンプ機構90と、を備える。本実施形態の場合、ハウジング50は、モータ10と、制御基板40と、ポンプ機構90とを内部に収容する。ハウジング50において、モータハウジングとして機能する部分と、基板ハウジングとして機能する部分は、別々の筐体であってもよい。
【0012】
モータ10は、ロータ20と、ステータ30とを有する。ロータ20は、上下方向に延びる中心軸Jに沿って延びるシャフト21を有する。
ロータ20のシャフト21の上端部には、軸方向から見て環状のセンサマグネット22が固定される。シャフト21の下端部は、ポンプ機構90と接続される。ステータ30は、ロータ20を径方向外側から囲む。ステータ30の外周面は、ハウジング50の内周面に固定される。ステータ30は、制御基板40と電気的に接続される。本実施形態の場合、モータ10は、三相モータである。
【0013】
制御基板40は、プリント基板41と、回転センサ42と、制御装置43と、外部接続端子44と、コネクタ45と、を有する。プリント基板41は、軸方向と直交する方向に広がる。回転センサ42は、プリント基板41の下面に実装される。回転センサ42は、例えばホールICである。回転センサ42は、センサマグネット22と上下方向に対向し、シャフト21の回転方向位置を検出する。
【0014】
制御装置43は、モータ10を駆動制御する。制御装置43は、例えば、制御回路と、駆動回路とを含む。制御回路は、上位装置HDから入力される回転数指令値に基づいて、モータ10に供給する駆動電流を演算する。駆動回路は、制御回路の演算結果に基づいて、三相モータであるモータ10に供給する電流を生成する。
【0015】
外部接続端子44は、プリント基板41からコネクタ45へ延びる。コネクタ45は、ハウジング50を径方向に貫通する貫通孔に設置される。外部接続端子44の径方向外側の端部は、コネクタ45内に位置する。外部接続端子44は、コネクタ45を介して、上位装置HDから延びるケーブルと接続される。制御基板40において、外部接続端子44は、制御装置43と接続される。すなわち、制御装置43は、上位装置HDと接続される。
【0016】
ポンプ機構90は、モータ10の下側に位置し、モータ10の動力により駆動される。ポンプ機構90は、インナーロータ91と、アウターロータ92と、ポンプハウジング93と、吸入口96と、吐出口97と、を有する。ポンプ機構90は、吸入口96からオイル等の流体を吸入し、吐出口97から吐出する。
【0017】
ポンプ機構90は、本実施形態の場合、トロコイドポンプ構造を有する。インナーロータ91およびアウターロータ92は、それぞれトロコイド歯形を有する。インナーロータ91は、シャフト21の下側の端部に固定される。したがって、本実施形態の電動オイルポンプ1では、モータ10の回転数とポンプ機構90の回転数は同一である。電動オイルポンプ1は、モータ10とポンプ機構90との間に減速機構を備える構成であってもよい。アウターロータ92は、インナーロータ91の径方向外側に配置される。アウターロータ92は、インナーロータ91を径方向外側から、周方向の全周にわたって囲う。
【0018】
ポンプハウジング93は、インナーロータ91およびアウターロータ92を内部に収容する。シャフト21は、ポンプハウジング93の上面を貫通して、ポンプハウジング93の内側へ延びる。吸入口96および吐出口97は、ポンプハウジング93の下面に位置する。吸入口96および吐出口97は、インナーロータ91とアウターロータ92との間に位置する空隙に繋がる。
【0019】
制御装置43は、
図2に示すように、第1演算部101と、第2演算部102と、駆動電流決定部103と、駆動回路104と、電流センサ105と、減算器106、107と、強制停止部108と、を備える。制御装置43は、上位装置HDと、モータ10と、に接続される。上位装置HDは、制御装置43のうち第1演算部101に接続される。モータ10は、制御装置43のうち駆動回路104に接続される。
【0020】
制御装置43は、モータ10のステータ30に接続される。制御装置43は、ステータ30のコイルに対して駆動電流を出力し、モータ10を回転させることによりポンプ機構90を駆動する。
図2では、駆動回路104とモータ10は1本の配線で接続されているが、モータ10は三相モータであり、実際には、駆動回路104とモータ10は、U相、V相、W相の各相の配線で接続される。電流センサ105は、駆動回路104とモータ10を接続する配線ごとに配置される。
【0021】
第1演算部101は、上位装置HDから入力される回転数の指令値Rcと、モータ10の回転数Rとの偏差に基づいて、モータ10に出力する電流のデューティ値を演算する。具体的には、制御装置43は、回転センサ42により計測されるモータ10の回転数Rを、減算器106にフィードバックとして入力する。減算器106は、指令値Rcと回転数Rとの偏差を第1演算部101に出力する。第1演算部101は、回転数Rを指令値Rcに一致させるようにモータ10をフィードバック制御するための第1のデューティ値Drを算出する。
【0022】
第2演算部102は、モータ10の電流値を制限する制限値Imaxと、モータ10のコイルに流れる電流値との偏差に基づいて、モータ10に出力する電流のデューティ値を演算する。具体的に、駆動回路104とモータ10との間には、電流センサ105が配置される。電流センサ105は、例えば、シャント抵抗を用いる方式の電流センサである。
【0023】
制御装置43は、電流センサ105で計測される電流値iを、減算器107にフィードバックとして入力する。減算器107は、制限値Imaxと電流値iとの偏差を第2演算部102に出力する。第2演算部102は、電流値iを制限値Imaxに一致させるようにモータ10をフィードバック制御するための第2のデューティ値Diを算出する。
【0024】
第1演算部101および第2演算部102の出力端子は、いずれも駆動電流決定部103に接続される。すなわち、第1演算部101および第2演算部102は、駆動電流決定部103に対して並列に接続される。
【0025】
駆動電流決定部103の出力端子は、駆動回路104に接続される。駆動電流決定部103は、第1演算部101から駆動電流決定部103に入力される第1のデューティ値Drと、第2演算部102から駆動電流決定部103に入力される第2のデューティ値Diとを比較する。駆動電流決定部103は、第1のデューティ値Drと第2のデューティ値Diのうち、低い方のデューティ値を、モータ10を駆動する電流のデューティ値として選択する。駆動電流決定部103は、選択されたデューティ値を、駆動回路104に出力する。
【0026】
駆動回路104は、ステータ30のU相、V相、W相のコイルに印加する駆動電流を生成するインバータ回路と、インバータ回路に供給されるPWM(pulse width modulation)信号を生成する信号生成回路と、を含む。信号生成回路は、駆動電流決定部103から入力されるデューティ値に基づいてPWM信号を生成し、インバータ回路に出力する。インバータ回路は、PWM信号に基づいて電源電圧を変調し、モータ10に信号波を出力する。
【0027】
以下、
図3から
図6を参照して、電動オイルポンプ1の動作を具体的に説明する。
図3は、電動オイルポンプ1の動作フローチャートである。
図4から
図6は、電動オイルポンプ動作時のモータ10の回転数とコイル電流の変化を時間経過と共に示す図である。
図4は、オイル温度が高い場合を示す。
図5は、オイル温度が低い場合を示す。
図6は、電動オイルポンプが強制停止される場合を示す。
【0028】
図3に示すように、ステップS1において、電源オン状態の電動オイルポンプ1は、上位装置HDからの指令値入力を待機する。上位装置HDから指令値Rcが入力されると、制御装置43は、第1演算部101と第2演算部102によるデューティ値の演算を並行して実行する。
【0029】
制御装置43は、ステップS21において、回転センサ42によりモータ10の回転数Rを取得する。ステップS22において、減算器106は、指令値Rcと回転数Rとの偏差を第1演算部101に出力する。第1演算部101は、指令値Rcと回転数Rとの偏差に基づいて、第1のデューティ値Drを計算する。第1演算部101は、回転数Rを指令値Rcに近づけるように、モータ10に出力される駆動電流のデューティ値を演算する。第1演算部101は、算出した第1のデューティ値Drを駆動電流決定部103に出力する。
【0030】
制御装置43は、ステップS31において、電流センサ105によりモータ10に出力される駆動電流の電流値を取得する。ステップS32において、減算器107は、制限値Imaxと電流値iとの偏差を第2演算部102に出力する。第2演算部102は、制限値Imaxと電流値iとの偏差に基づいて、第2のデューティ値Diを計算する。第2演算部102は、電流値iを制限値Imaxに近づけるように、モータ10に出力される駆動電流のデューティ値を演算する。第2演算部102は、算出した第2のデューティ値Diを駆動電流決定部103に出力する。
【0031】
ここで、制御装置43は、ステップS4において、ステップS31で取得した電流値iを強制停止部108に入力する。ステップS4は、ステップS32と並行して実行される。強制停止部108は、電流値iが電流の上限値Ifailを上回っているか否かを判断する。電流値iが上限値Ifailを上回っている場合、強制停止部108は、モータ10を停止させる。一方、電流値iが上限値Ifailを下回っている場合、強制停止部108は動作しない。
【0032】
図6は、強制停止部108によりモータ10が停止される場合のモータ10の回転数とコイル電流の変化を示す図である。
図6に示すように、上限値Ifailは、制限値Imaxよりも大きい値である。上限値Ifailは、モータ10の電流値iが上限値Ifailを定常的に超える場合、モータ10が破損するおそれのある値である。一方、制限値Imaxは、モータ10を安全に動作させることが可能な電流値iの最大値である。
【0033】
強制停止部108によりモータ10が停止される場合とは、例えば、オイル温度が極低温であるためにオイルの粘度が極めて高く、オイルの負荷によってモータ10が回転しない場合である。あるいは、ポンプ機構90に異物が侵入し、インナーロータ91およびアウターロータ92が回転しなくなった場合である。
【0034】
制御装置43は、指令値Rcの入力を受けると、モータ10を指令値Rcに近づけるために駆動電流を上昇させようとする。その過程で、モータ10をほとんど回すことができないと、電流値iが急激に上昇する。電流値iの上昇速度によっては、制限値Imaxに基づく電流フィードバック制御が間に合わず、モータ10が破損することもあり得る。そこで、本実施形態のように、強制停止部108を備えることで、電流値iの急激な上昇によるモータ10の破損を抑制できる。
【0035】
制御装置43は、ステップS5において、駆動電流決定部103により第1のデューティ値Drと第2のデューティ値Diを比較する。
第1のデューティ値Drが第2のデューティ値Diよりも小さい場合、ステップS6に移行する。すなわち、モータ10の回転数Rに基づいて演算された第1のデューティ値Drが駆動回路104に入力され、駆動回路104からモータ10に電流が供給される。
一方、第2のデューティ値Diが第1のデューティ値Drよりも大きい場合、ステップS7に移行する。この場合、モータ10の電流値iに基づいて演算された第2のデューティ値Diがモータ10に出力される。
ステップS6またはステップS7以降は、ステップS21、S31に戻り、動作が繰り返される。
【0036】
以下、オイル温度が異なる場合の動作の違いについて具体的に説明する。
図4は、電動オイルポンプ1により搬送されるオイルの温度が高い場合を示す。
電動オイルポンプ1の回転動作が開始されると、モータ10の回転数Rおよび電流値iは、いずれも上昇を開始する。回転開始直後は、回転数Rと指令値Rcとの差、および電流値iと制限値Imaxとの差がいずれも大きい。そのため、第1のデューティ値Drと第2のデューティ値Diは、いずれも比較的大きな値となる。
【0037】
図4に示すように第1のデューティ値Drと第2のデューティ値Diがほぼ同じ値である場合、回転数Rが大きく上昇する時刻t1までの間、ステップS5では、第1のデューティ値Drと第2のデューティ値Diのいずれが選択されるか不定である。第1のデューティ値Drと第2のデューティ値Diのいずれの値が選択されたとしても、ほぼ同じ値であるため、モータ10の動作状態が大きく変動することはない。
なお、第1演算部101および第2演算部102のゲインを調整することにより、時刻t1までの期間に、必ず第1のデューティ値Drが選択されるようにすることも可能であり、第2のデューティ値Diが選択されるようにすることも可能である。
【0038】
回転数Rがある程度上昇し、指令値Rcとの偏差が小さくなると、第1演算部101により算出される第1のデューティ値Drが小さくなる。一方、モータ10の電流値iは、オイル温度が高い場合、オイルの粘度が低くポンプ機構90に対する負荷が小さいため、制限値Imaxを大きく下回った状態を維持する。したがって、第2演算部102により算出される第2のデューティ値Diは、回転開始直後の値からあまり変化しない。
【0039】
上記により、回転数Rが指令値Rcに近づく時刻t1以降、第1のデューティ値Drが、第2のデューティ値Diよりも小さくなり、駆動電流決定部103によって第1のデューティ値Drが選択されるようになる。これにより、回転数Rの上昇が緩やかになり、指令値Rcに向かって収束する。電流値iの上昇も回転数Rの変化に伴って緩やかになる。回転数Rが指令値Rcに到達すると、電流値iは制限値Imaxよりも低い一定値に維持される。
【0040】
図5は、電動オイルポンプ1により搬送されるオイルの温度が低い場合を示す。
オイル温度が低い場合、オイルの粘度が高くなるため、ポンプ機構90への負荷が大きくなり、モータ10を指令値Rcの回転数で回転させるための駆動電流が大きくなる。本実施形態の制御装置43は、モータ10の電流値iが制限値Imaxを超えないようにモータ10を制御する。
【0041】
図5に示すように、電動オイルポンプ1の回転動作が開始されると、モータ10の回転数Rおよび電流値iは、いずれも上昇を開始する。回転開始直後の動作は
図4に示した場合と同様である。
【0042】
オイル温度が低い場合、オイル温度が高い場合と比較して、電流値iが上昇しやすく、回転数Rは上昇しにくくなる。そのため、回転数Rが指令値Rcに近づく前に、電流値iが制限値Imaxに接近し、第2演算部102により算出される第2のデューティ値Diが小さくなる。このとき、回転数Rと指令値Rcの差はまだ大きいため、第1演算部101により算出される第1のデューティ値Drは、回転開始直後の値からあまり変化しない。
【0043】
上記により、電流値iが制限値Imaxに近づく時刻t2以降、第2のデューティ値Diが、第1のデューティ値Drよりも小さくなり、駆動電流決定部103によって第2のデューティ値Diが選択されるようになる。これにより、電流値iの上昇が緩やかになり、制限値Imaxに向かって収束する。回転数Rの上昇も電流値iの変化に伴って緩やかになる。電流値iが制限値Imaxに到達すると、回転数Rは、指令値Rcよりも低い一定値に維持される。回転数Rが収束する値は、オイル温度に応じて変わり、オイル温度が低くなるほど低い値になる。
【0044】
ただし、制御装置43の第2演算部102は、モータ10の電流値iと制限値Imaxとの偏差に基づいて第2のデューティ値Diを演算するため、第2のデューティ値Diは必ずゼロより大きい値となる。すなわち、制御装置43は、指令値Rcでモータ10を回転させることができないような低温環境においても、可能な限りモータ10を停止させない。
【0045】
以上に説明したように、本実施形態の制御装置43によれば、回転数制御と電流制限制御の低い方のデューティ値を選択するので、オイル温度が低くモータ10の負荷が過度に大きい場合には、電流値iが制限値Imaxに近づいた時点で電流制限制御に切り換わり、無理に回転数を上げなくなる。したがって、オイル温度を計測しなくてもモータ10の状態によって安全に動作させることができる。
電流制限制御においては、モータ10を安全に動作させることができる制限値Imaxでモータ10を駆動するため、低温環境においても可能な限りモータ10を回し、電動オイルポンプ1を動作させることができる。
【符号の説明】
【0046】
1…電動オイルポンプ、10…モータ、43…制御装置、90…ポンプ機構、101…第1演算部、102…第2演算部、103…駆動電流決定部、108…強制停止部、Di…第2のデューティ値、Dr…第1のデューティ値、HD…上位装置、i…電流値、Ifail…上限値、Imax…制限値、R…回転数、Rc…指令値