(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】モデル化方法、モデル化プログラム及び情報処理装置
(51)【国際特許分類】
H04W 24/06 20090101AFI20230530BHJP
G06F 17/11 20060101ALI20230530BHJP
H04W 16/18 20090101ALI20230530BHJP
【FI】
H04W24/06
G06F17/11
H04W16/18
(21)【出願番号】P 2019206399
(22)【出願日】2019-11-14
【審査請求日】2022-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊月 達也
(72)【発明者】
【氏名】二宮 照尚
【審査官】桑江 晃
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/159048(US,A1)
【文献】特開2018-125573(JP,A)
【文献】特開2004-320775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04W 4/00 - 99/00
G06F 30/18
3GPP TSG RAN WG1-4
SA WG1-4
CT WG1,4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既知のパターンで端末装置から信号が送信される場合に、基地局装置のスケジューラによって前記端末装置に割り当てられる割当帯域を取得し、
前記基地局装置において前記端末装置から受信される電波強度、前記端末装置が要求する要求帯域及び前記端末装置が要求する要求遅延をパラメータとし、当該パラメータに重み係数を適用することにより前記端末装置に割り当てる割当帯域を算出する重み付け関数を用いて、前記取得された割当帯域に対応する重み係数を推定する
処理を有することを特徴とするモデル化方法。
【請求項2】
前記推定する処理は、
前記重み付け関数に複数の重み係数候補の組み合わせを設定し、重み係数候補の組み合わせごとに、前記既知のパターンの電波強度、要求帯域及び要求遅延から前記重み付け関数によって算出される割当帯域を記憶し、
前記重み付け関数によって算出される割当帯域のうち、前記取得された割当帯域に最も類似する割当帯域の算出時に前記重み付け関数に設定される重み係数候補の組み合わせを選択する
ことを特徴とする請求項1記載のモデル化方法。
【請求項3】
前記重み付け関数は、
端末装置ごとの要求帯域の合計が前記基地局装置に接続中の全端末装置に対して割り当て可能な帯域に対応する最大容量以下である場合には、前記端末装置に割り当てる割当帯域を当該端末装置の要求帯域に等しくする
ことを特徴とする請求項1記載のモデル化方法。
【請求項4】
前記重み付け関数は、
端末装置ごとに算出される割当帯域の合計が、前記基地局装置に接続中の全端末装置に対して割り当て可能な帯域に対応する最大容量以下になるように、前記端末装置に割り当てる割当帯域を算出する
ことを特徴とする請求項1記載のモデル化方法。
【請求項5】
前記重み付け関数は、
電波強度及び要求帯域の重み係数を要求遅延の重み係数より大きくすることにより、帯域効率を重視するポリシーを有するスケジューラ動作を表現する
ことを特徴とする請求項1記載のモデル化方法。
【請求項6】
前記重み付け関数は、
電波強度、要求帯域及び要求遅延の重み係数を等しく0にすることにより、公平性を重視するポリシーを有するスケジューラ動作を表現する
ことを特徴とする請求項1記載のモデル化方法。
【請求項7】
前記重み付け関数は、
要求遅延の重み係数を電波強度及び要求帯域の重み係数より大きくすることにより、遅延を重視するポリシーを有するスケジューラ動作を表現する
ことを特徴とする請求項1記載のモデル化方法。
【請求項8】
既知のパターンで端末装置から信号が送信される場合に、基地局装置のスケジューラによって前記端末装置に割り当てられる割当帯域を取得し、
前記基地局装置において前記端末装置から受信される電波強度、前記端末装置が要求する要求帯域及び前記端末装置が要求する要求遅延をパラメータとし、当該パラメータに重み係数を適用することにより前記端末装置に割り当てる割当帯域を算出する重み付け関数を用いて、前記取得された割当帯域に対応する重み係数を推定する
処理をコンピュータに実行させることを特徴とするモデル化プログラム。
【請求項9】
既知のパターンで端末装置から信号が送信される場合に、基地局装置のスケジューラによって前記端末装置に割り当てられる割当帯域を取得する取得部と、
前記基地局装置において前記端末装置から受信される電波強度、前記端末装置が要求する要求帯域及び前記端末装置が要求する要求遅延をパラメータとし、当該パラメータに重み係数を適用することにより前記端末装置に割り当てる割当帯域を算出する重み付け関数を用いて、前記取得部によって取得された割当帯域に対応する重み係数を推定する推定部と
を有することを特徴とする情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モデル化方法、モデル化プログラム及び情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば第5世代無線通信システム(5G)及びWi-Fi6等の新たな無線通信規格に関する検討が盛んに行われている。これらの無線通信規格の策定にあたっては、例えば低遅延のサービスを実現することが望まれている。一般に、無線通信においては、電波強度の変動などにより無線の性能が不安定になることがある。このため、低遅延のような要件が厳しいサービスを提供するには、基地局装置の配置や設定値等を事前に決定する無線設計が行われる。
【0003】
無線設計に際しては、例えば置局設計ツールが用いられ、電波強度のシミュレーションが実行されたり、要求された帯域を基地局装置が収容可能であるか否かが計算されたりすることがある。また、ネットワークシミュレータを用いて基地局装置のスケジューラ動作をシミュレーションし、収容可能な帯域や遅延などについて正確に計算することも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2004-510372号公報
【文献】特開2015-164300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、無線通信システムの構築の際には、スケジューラ動作が未知の基地局装置を設置することなどがあり、十分に要件を満足する無線設計を行うことが困難であるという問題がある。具体的には、上述した置局設計ツールでは、電波強度及び帯域に関する計算は可能であるものの、基地局装置のスケジューラ動作については考慮していないため、遅延などの時間に関する計算は行われない。このため、置局設計ツールのみを用いて、低遅延が要求されるサービスを実現するための無線設計をすることは困難である。
【0006】
また、ネットワークシミュレータは、基地局装置のスケジューラ動作をシミュレーションすることが可能であるが、基地局装置のスケジューラ動作が未知である場合には、そのシミュレーションをすることが困難である。結果として、遅延に関する計算は行われず、低遅延が要求されるサービスを実現するための無線設計をすることは困難である。さらに、ネットワークシミュレータによる計算には膨大な時間がかかるため、ネットワークシミュレータを用いて無線設計を行うのは、効率的ではない。
【0007】
開示の技術は、かかる点に鑑みてなされたものであって、基地局装置のスケジューラ動作が未知であっても効率的に無線設計を行うことができるモデル化方法、モデル化プログラム及び情報処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願が開示するモデル化方法は、1つの態様において、既知のパターンで端末装置から信号が送信される場合に、基地局装置のスケジューラによって前記端末装置に割り当てられる割当帯域を取得し、前記基地局装置において前記端末装置から受信される電波強度、前記端末装置が要求する要求帯域及び前記端末装置が要求する要求遅延をパラメータとし、当該パラメータに重み係数を適用することにより前記端末装置に割り当てる割当帯域を算出する重み付け関数を用いて、前記取得された割当帯域に対応する重み係数を推定する処理を有する。
【発明の効果】
【0009】
本願が開示するモデル化方法、モデル化プログラム及び情報処理装置の1つの態様によれば、基地局装置のスケジューラ動作が未知であっても効率的に無線設計を行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、一実施の形態に係る無線設計システムの構成を示す図である。
【
図2】
図2は、要求帯域と割当帯域の関係の具体例を示す図である。
【
図3】
図3は、情報処理装置の構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、テストパターンの具体例を示す図である。
【
図5】
図5は、テストパターンごとの通信性能の具体例を示す図である。
【
図6】
図6は、通信性能の算出結果の具体例を示す図である。
【
図7】
図7は、無線設計方法を示すフロー図である。
【
図8】
図8は、モデル化処理を示すフロー図である。
【
図9】
図9は、無線設計処理の具体例を示すフロー図である。
【
図10】
図10は、無線設計処理の他の具体例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本願が開示するモデル化方法、モデル化プログラム及び情報処理装置の一実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、この実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0012】
図1は、一実施の形態に係る無線設計システムの構成を示す図である。無線設計システムは、基地局装置10、無線送信装置20及び情報処理装置100を有する。この無線設計システムは、基地局装置10を含む種々の基地局装置の配置や設定値を決定する無線設計を実行する。
【0013】
基地局装置10は、無線通信システムの構築にあたって設置が予定されている基地局装置である。基地局装置10はスケジューラを有し、設置された場合には、無線通信圏内の端末装置に対して無線リソースを割り当てるスケジューリングを実行する。このスケジューラの動作は未知であり、スケジューラがどのようなアルゴリズムで端末装置に対して無線リソースを割り当てるのかは不明であるものとする。このようなケースとしては、例えば、無線通信システムを構築する事業者が外部から基地局装置10を入手して設置する場合などが考えられる。
【0014】
無線送信装置20は、情報処理装置100と有線接続され、情報処理装置100からの送信指示に従って、所定の信号を無線送信する。すなわち、無線送信装置20は、情報処理装置100からの送信指示に従って、複数の端末装置が送信する信号を模擬するテストパターンを基地局装置10へ無線送信する。テストパターンは、基地局装置10に受信される電波強度が指定された電波強度となるような信号であり、仮想的な端末装置が割り当てを要求する帯域(以下「要求帯域」という)と、仮想的な端末装置が許容する遅延(以下「要求遅延」という)とに関する情報を含む信号である。
【0015】
基地局装置10は、テストパターンを受信すると、受信時の電波強度と要求帯域及び要求遅延とに基づいて、仮想的な端末装置に対して無線リソースを割り当てるスケジューリングを実行する。なお、無線送信装置20は、基地局装置10に受信される電波強度を調整可能であれば、通常の端末装置であっても良い。すなわち、通常の端末装置が、情報処理装置100からの送信指示に従って所定のテストパターンを無線送信しても良い。
【0016】
情報処理装置100は、無線送信装置20に対してテストパターンの送信指示を送出し、テストパターンを受信した基地局装置10によってスケジューリングが実行されると、スケジューリングの結果として基地局装置10から出力される割当情報を取得する。割当情報は、テストパターンを受信した基地局装置10のスケジューラが、それぞれの仮想的な端末装置に割り当てた無線リソースの情報である。換言すれば、割当情報は、電波強度、要求帯域及び要求遅延に基づいて、仮想的な端末装置に割り当てられた無線リソースの情報である。
【0017】
情報処理装置100は、割当情報を取得すると、数式モデルを用いて基地局装置10のスケジューラ動作をモデル化する。具体的には、情報処理装置100は、電波強度、要求帯域及び要求遅延をパラメータとし、それぞれのパラメータに重み付けをする重み付け関数によって、スケジューラ動作をモデル化する。このような重み付け関数としては、例えば下記の式(1)がある。
【数1】
【0018】
式(1)は、端末装置Aに対して割り当てられる帯域(以下「割当帯域」という)f
Aを示す数式であり、g
Aは端末装置Aによる要求帯域、Nは正規化パラメータ、D
Aは端末装置Aに対する分配係数、Cは端末装置Aを含む基地局装置10に接続中の全端末装置に対して割り当て可能な帯域に対応する最大容量をそれぞれ示している。正規化パラメータN及び分配係数D
Aは、それぞれ下記の式(2)、(3)によって表される。
【数2】
【数3】
【0019】
ただし、式(3)において、agは要求帯域の重み係数、qAは端末装置Aによる要求遅延、aqは要求遅延の重み係数、rAは端末装置Aの電波強度、arは電波強度の重み係数をそれぞれ示している。
【0020】
式(1)~(3)に示したように、基地局装置10のスケジューラは、端末装置Aの電波強度rA、要求帯域gA及び要求遅延qAの3つのパラメータに対して、それぞれ重み係数ar、ag、aqを適用して端末装置Aに割り当てる帯域を決定する数式によってモデル化される。式(1)に示すように、すべての端末装置の要求帯域giの合計が基地局装置10の最大容量C以下であれば、端末装置Aには要求帯域gAが割り当てられる。
【0021】
また、要求帯域giの合計が基地局装置10の最大容量Cを超えていれば、端末装置Aには要求帯域gAを分配係数DAに応じて減じた帯域が割り当てられる。このとき、分配係数DAは、電波強度rA、要求帯域gA及び要求遅延qAに重み付けをして得られる係数であるため、基地局装置10のスケジューラ動作のポリシーを反映することが可能である。具体的には、例えば、帯域効率、公平性及び遅延のうちいずれを重視するかというスケジューラ動作のポリシーが、分配係数DAにおける重み係数ar、ag、aqによって表現される。
【0022】
図2は、端末装置Aの要求帯域g
Aと割当帯域f
Aとの関係の具体例を示す図である。
図2に示すように、要求帯域g
iの合計が基地局装置10の最大容量C以下であれば、割当帯域f
Aは要求帯域g
Aに等しくなる。一方、要求帯域g
iの合計が基地局装置10の最大容量Cを超えると、スケジューラのポリシーによって割当帯域f
Aと要求帯域g
Aの関係は異なる。すなわち、例えばスケジューラのポリシーが帯域効率を重視するものである場合には、重み係数a
r、a
gが重み係数a
qよりも大きくなり、割当帯域f
Aと要求帯域g
Aの関係は、例えば直線201で表されるものとなる。また、例えばスケジューラのポリシーが公平性を重視するものである場合には、重み係数a
r、a
g、a
qが等しく0となり、割当帯域f
Aと要求帯域g
Aの関係は、例えば直線202で表されるものとなる。さらに、例えばスケジューラのポリシーが遅延を重視するものである場合には、重み係数a
qが重み係数a
r、a
gよりも大きくなり、割当帯域f
Aと要求帯域g
Aの関係は、例えば直線203で表されるものとなる。
【0023】
なお、ここでは、端末装置Aが遅延を許容する(すなわち、要求遅延がない)端末装置であるものとしたため、スケジューラのポリシーが遅延を重視するものである場合に、割当帯域f
Aが増加していない(直線203)。しかしながら、割当帯域と要求帯域の関係は、
図2に示したものに限定されず、端末装置の電波強度、要求帯域及び要求遅延によって異なっている。ただし、情報処理装置100による基地局装置10のスケジューラ動作のモデル化においては、電波強度、要求帯域及び要求遅延の重み付けによって、例えば
図2に示した直線201~203のようにスケジューラのポリシーの違いが表現可能となっている。
【0024】
情報処理装置100は、基地局装置10のスケジューラ動作をモデル化すると、このモデルを用いて基地局装置10の配置や設定値を決定する無線設計を実行する。
【0025】
図3は、情報処理装置100の構成を示すブロック図である。
図3に示す情報処理装置100は、プロセッサ110、メモリ120及び出力部130を有する。
【0026】
プロセッサ110は、例えば例えばCPU(Central Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)又はDSP(Digital Signal Processor)などを備え、情報処理装置100の全体を統括制御する。具体的には、プロセッサ110は、テストパターン設定部111、重み係数候補設定部112、割当帯域取得部113、通信性能算出部114、重み係数推定部115及び無線設計部116を有する。
【0027】
テストパターン設定部111は、無線送信装置20から無線送信させるテストパターンを設定する。具体的には、テストパターン設定部111は、複数の端末装置から信号が送信される複数のパターンを設定し、それぞれのパターンにおいて、基地局装置10における各端末装置からの電波強度と、各端末装置の要求帯域及び要求遅延とを設定する。すなわち、例えば
図4に示すように、テストパターン設定部111は、複数の端末装置が信号を無線送信する複数のパターンを設定する。
【0028】
図4に示す例において、例えばパターン1は、端末装置A、Bが信号を無線送信するパターンである。パターン1において、端末装置Aが無線送信する信号の基地局装置10における電波強度は-85dBmであり、端末装置Aが無線送信する信号には、要求帯域が70Mbpsで要求遅延はないことを示す情報が含まれる。また、端末装置Bが無線送信する信号の基地局装置10における電波強度は-50dBmであり、端末装置Bが無線送信する信号には、要求帯域が5Mbpsで要求遅延が1msであることを示す情報が含まれる。パターン2においても同様に、端末装置A、B、Cから無線送信される信号の電波強度、要求帯域及び要求遅延が設定されている。
【0029】
テストパターン設定部111は、上記のような各パターンの設定に関する情報を含む送信指示を生成し、無線送信装置20へ送出する。これにより、無線送信装置20は、各パターンにおいて設定された端末装置の信号を模擬するテストパターンを無線送信する。
【0030】
重み係数候補設定部112は、基地局装置10のスケジューラ動作のモデルに様々な重み係数候補を設定し、それぞれの重み係数候補が設定されたモデルによって、基地局装置10によってテストパターンが受信された場合のスケジューラ動作をシミュレーションする。すなわち、重み係数候補設定部112は、例えば上式(1)~(3)のモデルの重み係数a
r、a
g、a
qに種々の重み係数候補の組み合わせを設定し、それぞれの組み合わせが設定されたモデルをテストパターンを構成する各パターンに適用し、各端末装置に対して割り当てられる割当帯域を算出する。そして、重み係数候補設定部112は、端末装置への割当帯域から、この端末装置に関するスループット及び遅延などの通信性能を算出し、重み係数候補の組み合わせごとに対応付けて記憶する。これにより、例えば
図5に示すように、それぞれの端末装置について、テストパターンに対する通信性能の特性が重み係数候補の組み合わせごとに記憶される。
【0031】
図5において、横軸はテストパターンを構成する各パターンに対応し、縦軸は例えばスループット及び遅延などの通信性能を示す。上式(1)~(3)のモデルに設定される重み係数候補の組み合わせを変更することにより、それぞれの端末装置の通信性能の特性は、例えば曲線301、302、303のように異なって算出される。すなわち、通信性能の特性301、302、303は、それぞれ重み係数候補の組み合わせに対応する。なお、
図5においては、3組の重み係数候補に対応する3つの通信性能の特性301、302、303のみを図示しているが、重み係数候補設定部112は、モデルに4組以上の重み係数候補を設定し、それぞれの組み合わせに対応する通信性能の特性を算出して記憶しても良い。
【0032】
割当帯域取得部113は、テストパターンを受信した基地局装置10からスケジューリング結果を含む割当情報を取得し、端末装置ごとの割当帯域を取得する。すなわち、テストパターンを受信する基地局装置10は、各パターンの端末装置に対して無線リソースを割り当てるスケジューリングを実行し、各端末装置への割当帯域の情報を含む割当情報を生成する。割当帯域取得部113は、基地局装置10が生成する割当情報を取得して、基地局装置10のスケジューラが各端末装置に対して割り当てた割当帯域を特定する。
【0033】
通信性能算出部114は、割当帯域取得部113によって取得された端末装置ごとの割当帯域に基づいて、それぞれの端末装置のスループット及び遅延などの通信性能を算出する。すなわち、通信性能算出部114は、重み係数候補設定部112によって記憶される通信性能の特性と同じ種類の通信性能を端末装置ごとに算出する。重み係数候補設定部112によって記憶されるのはモデルから算出される通信性能であり、通信性能算出部114によって算出されるのは基地局装置10によるスケジューリング結果から算出される通信性能である。
【0034】
重み係数推定部115は、重み係数候補設定部112によって記憶される通信性能の特性と、通信性能算出部114によって算出される通信性能とを比較することにより、スケジューラ動作に合致する重み係数を推定する。すなわち、重み係数推定部115は、重み係数候補の組み合わせごとに記憶された通信性能の特性のうち、通信性能算出部114によって算出された通信性能に最も類似する特性を選択する。そして、重み係数推定部115は、選択した特性に対応する重み係数候補の組み合わせが、基地局装置10のスケジューラ動作に合致する重み係数であると推定する。
【0035】
図6は、通信性能算出部114による通信性能の算出結果の具体例を示す図である。通信性能は、テストパターンを構成するパターンごとに算出されるため、
図6は、パターンごとの通信性能がプロットされて曲線310が得られることを示している。重み係数推定部115は、曲線310と重み係数候補の組み合わせごとに算出された通信性能の特性301、302、303とを比較し、最も曲線310に類似する通信性能の特性を選択する。曲線310に類似する特性の選択には、例えば最小二乗法が用いられても良い。
【0036】
図6に示した例では、通信性能の特性301が曲線310に最も類似するため、重み係数推定部115は、特性301を選択する。そして、重み係数推定部115は、通信性能の特性301に対応する重み係数候補の組み合わせが基地局装置10のスケジューラ動作に合致する重み係数であると推定する。したがって、例えば上式(1)~(3)によってスケジューラ動作をモデル化する場合には、重み係数推定部115は、重み係数a
r、a
g、a
qを推定し、未知である基地局装置10のスケジューラ動作をモデル化することができる。
【0037】
無線設計部116は、重み係数推定部115によって得られるスケジューラのモデルを用いて、無線設計を実行する。すなわち、無線設計部116は、通信サービスを提供するために要求される遅延などの要件を満たす基地局装置10の配置や設定値を、基地局装置10のスケジューラ動作を考慮しながら決定する。このとき、無線設計部116は、例えば遺伝的アルゴリズム、パンくず法及び全探索などを用いて、要件を満たす基地局装置10の配置や設定値を探索しても良い。
【0038】
メモリ120は、例えばRAM(Random Access Memory)又はROM(Read Only Memory)などを備え、プロセッサ110による処理に用いられる情報を記憶する。
【0039】
出力部130は、無線設計部116によって実行された無線設計の結果を出力する。具体的には、出力部130は、無線設計の結果、要件を満たし最良と判断された基地局装置10の配置及び設定値を、例えば表示したり印刷したりする。
【0040】
次いで、上記のように構成された情報処理装置100による無線設計方法について、
図7~10に示すフロー図を参照しながら説明する。
図7は、無線設計方法を示すフロー図である。
【0041】
情報処理装置100は、まず基地局装置10のスケジューラ動作をモデル化する(ステップS10)。すなわち、未知である基地局装置10のスケジューラ動作がモデル化され、スケジューラ動作を表現する数式が得られる。そして、情報処理装置100は、得られたモデルを用いて、基地局装置10のスケジューラ動作を考慮した無線設計処理を実行する(ステップS20)。この無線設計処理では、比較的小さい処理負荷で例えば遅延に関するシミュレーションなどが可能であり、低遅延が要求されるサービスを実現するための無線設計をすることができる。換言すれば、基地局装置10のスケジューラ動作が未知であっても効率的に無線設計を行うことができる。
【0042】
図8は、スケジューラ動作のモデル化処理を示すフロー図である。
【0043】
まず、テストパターン設定部111によって、無線送信装置20から送信させるテストパターンが決定される。テストパターンには、信号を送信する端末装置やそれぞれの端末装置から基地局装置10への電波強度などが異なる複数のパターンが設定されている。具体的には、例えば
図4に示したパターン1、2などの複数のパターンがテストパターンに設定されている。それぞれのパターンでは、信号を送信する端末装置が指定されるとともに、端末装置ごとの電波強度、要求帯域及び要求遅延が指定されている。
【0044】
そして、重み係数候補設定部112によって、それぞれのパターンに対してスケジューラ動作のモデルが適用される。スケジューラ動作のモデルは、端末装置ごとの電波強度、要求帯域及び要求遅延を重み係数によって重み付けし、端末装置ごとの割当帯域を算出する重み付け関数である。すなわち、例えば上式(1)~(3)のような数式によって基地局装置10のスケジューラ動作がモデル化される。このモデルでは、テストパターンによって指定される電波強度、要求帯域及び要求遅延の3つのパラメータが重み係数によって重み付けされる。
【0045】
テストパターンに対するモデルの適用は、以下のように行われる。すなわち、重み係数候補設定部112によって、任意の重み係数候補の組み合わせがモデルに設定され(ステップS101)、このモデルが複数のパターンに適用されることにより、それぞれのパターンにおける端末装置ごとの割当帯域が算出される。そして、重み係数候補設定部112によって、算出された割当帯域から、端末装置に関するスループット及び遅延などの通信性能が算出される。複数のパターンに対してモデルが適用されることにより、ある重み係数候補の組み合わせに対して、パターンが変化する場合の端末装置ごとの通信性能の変化が得られる。本実施の形態においては、この通信性能の変化を「通信性能の特性」という。
【0046】
重み係数候補設定部112によって、種々の重み係数候補の組み合わせがモデルに設定されることにより、それぞれの重み係数候補の組み合わせに対応する通信性能の特性が端末装置ごとに算出される。このため、算出される通信性能の特性は、重み係数候補の組み合わせに対応付けて記憶される。すなわち、例えば
図5に示したように、端末装置それぞれについて、複数の通信性能の特性301、302、303などが記憶される。
【0047】
また、テストパターン設定部111によって、各パターンに関する情報を含む送信指示が生成され、無線送信装置20へ送出される(ステップS102)。この送信指示を受け、無線送信装置20は、各パターンに従って信号を無線送信する。このとき、無線送信装置20は、それぞれのパターンに従った信号を例えば所定時間の間繰り返して無線送信する。したがって、基地局装置10は、それぞれのパターンに従った信号が受信される間、各パターンの端末装置に対して無線リソースを割り当てるスケジューリングを実行し、端末装置ごとの割当帯域の情報を含む割当情報を生成する。
【0048】
そこで、割当帯域取得部113によって、基地局装置10によって生成される割当情報が取得され、各パターンにおける端末装置ごとの割当帯域が取得される(ステップS103)。割当帯域からは、単位時間当たりの通信可能なデータ量などが計算可能であるため、通信性能算出部114によって、各パターンにおける端末装置ごとのスループット及び遅延などの通信性能が算出される(ステップS104)。
【0049】
そして、重み係数推定部115によって、重み係数候補の組み合わせごとの通信性能の特性と、通信性能算出部114によって算出される通信性能とが比較されることにより、基地局装置10のスケジューラ動作に合致する重み係数が推定される(ステップS105)。具体的には、例えば
図6に示したように、重み係数候補の組み合わせごとの通信性能の特性301、302、303などのうち、実際のスケジューリング結果から算出される通信性能の曲線310に最も類似する特性301が選択される。そして、通信性能の特性301に対応する重み係数候補の組み合わせが、スケジューラ動作に合致する重み係数と推定される。
【0050】
スケジューラ動作に合致する重み係数が推定されることにより、基地局装置10のスケジューラ動作がモデル化されたことになる。つまり、未知である基地局装置10のスケジューラ動作が、例えば上式(1)~(3)により表現可能となる。
【0051】
図9は、無線設計処理の具体例を示すフロー図である。
図9に示す無線設計処理は、主に無線設計部116によって実行される。
【0052】
まず、例えば基地局装置10の配置や設計値の初期値が設定される(ステップS201)。初期設計値は、例えば既存の基地局装置の配置や設計値などを参考にして決定されても良く、ユーザによって設定されても良い。
【0053】
そして、基地局装置10のスケジューラ動作のモデルが用いられることにより、初期設計値が適用される場合の端末装置ごとの通信性能が計算される(ステップS202)。すなわち、基地局装置10のスケジューリングによる各端末装置への割当帯域が考慮され、初期設計値が適用される場合の端末装置ごとのスループット及び遅延などが計算される。そして、算出された通信性能が、例えば通信サービスを実現するための要件を達成するものであるか否かが判定され(ステップS203)、要件を達成する場合には(ステップS203Yes)、現在設定されている設計値が出力部130から出力される(ステップS205)。
【0054】
一方、現在設定されている設計値では要件が達成されない場合には(ステップS203No)、例えば遺伝的アルゴリズムの遺伝的操作によって設計値が変更され(ステップS204)、再度通信性能が計算される(ステップS202)。そして、設計値の変更が繰り返されながら、要件を達成する設計値が探索され、最終的に要件を達成する設計値が出力部130から出力される(ステップS205)。
【0055】
図10は、無線設計処理の他の具体例を示すフロー図である。
図10に示す無線設計処理は、主に無線設計部116によって実行される。
【0056】
まず、例えば基地局装置10の配置や設計値の取り得るすべての値を列挙する設計値リストが作成される(ステップS301)。設計値リストには、設定可能なすべての設計値が含まれる。
【0057】
そして、基地局装置10のスケジューラ動作のモデルが用いられることにより、設計値リストに列挙された設計値それぞれが適用される場合の端末装置ごとの通信性能が計算される(ステップS302)。すなわち、基地局装置10のスケジューリングによる各端末装置への割当帯域が考慮され、設計値リストに列挙されるすべての設計値が適用されるそれぞれの場合について、端末装置ごとのスループット及び遅延などが計算される。そして、設計値ごとに算出された通信性能のうち最良の通信性能に対応する設計値が選択される(ステップS303)。
【0058】
選択された最良の設計値は、例えば通信サービスを実現するための要件を達成するものであるか否かが判定され(ステップS304)、要件を達成する場合には(ステップS304Yes)、最良の設計値が出力部130から出力される(ステップS305)。一方、最良の設計値でも要件を達成しない場合には(ステップS304No)、設計値リストに列挙された設計値では要件が達成されないため、この設計値リストを用いた無線設計処理は中止される。
【0059】
以上のように、本実施の形態によれば、電波強度、要求帯域及び要求遅延の3つのパラメータを重み係数によって重み付けする重み付け関数を用いて、基地局装置のスケジューラ動作をモデル化する。そして、スケジューラ動作のモデルを用いて、遅延などの通信性能を考慮した無線設計を実行する。このため、基地局装置のスケジューラ動作をモデルによって的確に再現しながら、比較的小さい処理負荷で低遅延が要求されるサービスを実現するための無線設計をすることができる。換言すれば、基地局装置のスケジューラ動作が未知であっても効率的に無線設計を行うことができる。
【0060】
なお、上記一実施の形態においては、割当帯域から算出されるスループット及び遅延などの通信性能を比較して、基地局装置10のスケジューラ動作に合致する重み係数を推定するものとしたが、通信性能の代わりに割当帯域を比較しても良い。すなわち、重み係数候補の組み合わせごとに、テストパターンを構成するパターンごとの割当帯域の特性を、重み付け関数を用いて算出して記憶しておき、基地局装置10から取得される実際の割当帯域と比較することにより、スケジューラ動作に合致する重み係数が推定されても良い。
【0061】
また、上記一実施の形態において説明したスケジューラ動作のモデルは、例えば基地局装置のスケジューリングポリシーを設計する際などにも利用することができる。具体的には、例えばvRAN(virtual Radio Access Network)技術を用いたソフトウェア基地局などのスケジューリングポリシーを設計する場合に、上述したモデルの重み係数を設計対象としても良い。この場合には、通信サービスを実現するための要件を達成する基地局装置の配置及び設計値とともに、要件を達成する重み係数が探索される。重み係数の探索に際しては、例えば遺伝的アルゴリズム、パンくず法及び全探索などが用いられても良い。
【0062】
また、上記一実施の形態において説明したスケジューラ動作のモデルは、既存の基地局装置を再設計する際などにも利用することができる。すなわち、例えば運用中の基地局装置に障害が発生した場合などに、上記一実施の形態と同様のモデルを用いて基地局装置のスケジューラ動作をモデル化し、より良い設定値などを決定する再設計が行われても良い。
【0063】
上記一実施の形態において説明したスケジューラ動作のモデル化方法は、コンピュータが実行可能なプログラムとして記述することも可能である。この場合、このプログラムをコンピュータが読み取り可能な記録媒体に格納し、コンピュータに導入することも可能である。コンピュータが読み取り可能な記録媒体としては、例えばCD-ROM、DVDディスク、USBメモリなどの可搬型記録媒体や、例えばフラッシュメモリなどの半導体メモリが挙げられる。
【符号の説明】
【0064】
110 プロセッサ
111 テストパターン設定部
112 重み係数候補設定部
113 割当帯域取得部
114 通信性能算出部
115 重み係数推定部
116 無線設計部
120 メモリ
130 出力部