(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】エンジン装置
(51)【国際特許分類】
F02B 53/00 20060101AFI20230530BHJP
【FI】
F02B53/00 C
(21)【出願番号】P 2020020780
(22)【出願日】2020-02-10
【審査請求日】2022-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 秀朗
(72)【発明者】
【氏名】岩橋 卓央
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0106151(US,A1)
【文献】国際公開第2008/081212(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 53/00
F01C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、前記ハウジング内に回転中心を中心に一方向に回転可能に支持される第1ピストン部材と、前記ハウジング内に前記回転中心を中心に前記一方向に回転可能に支持される第2ピストン部材と、を含み、前記ハウジング、前記第1ピストン部材および前記第2ピストン部材は燃料を燃焼させるための燃焼室を形成する、回転ピストン型のエンジンと、
前記第1ピストン部材および前記第2ピストン部材を回転駆動する回転電機装置と、
前記燃焼室内で
前記燃料が着火して燃焼
することによる前記燃焼室内の圧力上昇が前記第1ピストン部材および前記第2ピストン部材のうちのいずれか一方のピストン部材を回転駆動する場合において、前記一方のピストン部材の回転中に、前記回転電機装置に駆動トルクを発生させて前記第1ピストン部材および前記第2ピストン部材のうちのいずれか他方のピストン部材を回転駆動
し、前記燃料が着火したときの前記一方のピストン部材の位置に前記他方のピストン部材が到達するよりも前に前記他方のピストン部材への駆動トルクの供給を停止するように制御する、制御装置と、を備える、エンジン装置。
【請求項2】
前記回転電機装置は、前記第1ピストン部材に接続され、前記第1ピストン部材を回転駆動する第1回転電機と、前記第2ピストン部材に接続され、前記第2ピストン部材を回転駆動する第2回転電機とを有する、請求項1に記載のエンジン装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記燃焼室内の前記圧力上昇による前記第1ピストン部材および前記第2ピストン部材の回転を利用して、前記回転電機装置に回生発電させる、請求項1または2に記載のエンジン装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エンジン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平6-2559号公報(特許文献1)には、回転軸と、回転軸上で回転する第1ロータおよび第2ロータと、第1ロータおよび第2ロータの動力を回転軸へ伝達する動力伝達手段とを備えるロータリエンジンが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数のピストン部材が独立して回転可能な回転ピストン型のエンジンにおいては、エンジンの運転中の損失を低減して燃費を向上することが望まれる。上記文献には、一対のロータの真円回転運動により発生した回転動力を回転軸に対してそのまま出力することで回転ロスをなくすと記載されているが、未だ改善の余地がある。
【0005】
本開示では、運転中の損失を低減できるエンジン装置が提案される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に従うと、回転ピストン型のエンジンを備えるエンジン装置が提案される。エンジンは、ハウジングと、ハウジング内に回転中心を中心に一方向に回転可能に支持される第1ピストン部材と、ハウジング内に回転中心を中心に一方向に回転可能に支持される第2ピストン部材と、を含んでいる。ハウジング、第1ピストン部材および第2ピストン部材は、燃料を燃焼させるための燃焼室を形成する。エンジン装置は、回転電機装置と、制御装置とをさらに備えている。回転電機装置は、第1ピストン部材および第2ピストン部材を回転駆動する。制御装置は、燃焼室内での燃料の燃焼による燃焼室内の圧力上昇が第1ピストン部材および第2ピストン部材のうちのいずれか一方のピストン部材を回転駆動する場合において、その一方のピストン部材の回転中に、回転電機装置に駆動トルクを発生させて第1ピストン部材および第2ピストン部材のうちのいずれか他方のピストン部材を回転駆動するように制御する。
【0007】
燃焼室内の圧力上昇で回転駆動されるピストン部材を回転電機装置の駆動トルクで回転させるのではなく、燃焼室内の圧力上昇で回転駆動されないピストン部材を回転電機装置の駆動トルクで回転させる。これにより、ピストン部材を回転させるために回転電機装置の発生する駆動仕事が相対的に小さくなる。回転電機装置に駆動仕事を発生させることはエネルギーの損失となるが、回転電機の駆動仕事を小さくするように制御することで、エンジンの運転中の損失を低減することができる。
【0008】
上記のエンジン装置において、回転電機装置は、第1ピストン部材に接続され、第1ピストン部材を回転駆動する第1回転電機と、第2ピストン部材に接続され、第2ピストン部材を回転駆動する第2回転電機とを有してもよい。
【0009】
上記のエンジン装置において、制御装置は、燃焼室内の圧力上昇による第1ピストン部材および第2ピストン部材の回転を利用して、回転電機装置に回生発電させるように制御してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本開示に係るエンジン装置に従えば、運転中の損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態におけるエンジン装置の概略構成の一例を示す図である。
【
図2】エンジン装置の構成の一部を示す斜視図である。
【
図3】エンジン内部に設けられるピストン部材の構成の一例を示す図である。
【
図4】燃焼室およびエンジンの動作を説明するための模式図である。
【
図5】燃焼室およびエンジンの動作を説明するための模式図である。
【
図6】燃焼室およびエンジンの動作を説明するための模式図である。
【
図7】燃焼室およびエンジンの動作を説明するための模式図である。
【
図8】先行ロータを駆動させる場合の、時間に対する位相の変化を示すグラフである。
【
図9】先行ロータを駆動させる場合の、時間に対する回転数の変化を示すグラフである。
【
図10】先行ロータを駆動させる場合の、時間に対するモータトルクの変化を示すグラフである。
【
図11】後追ロータを駆動させる場合の、時間に対する位相の変化を示すグラフである。
【
図12】後追ロータを駆動させる場合の、時間に対する回転数の変化を示すグラフである。
【
図13】後追ロータを駆動させる場合の、時間に対するモータトルクの変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号が付されている。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
【0013】
<エンジン装置1の概略構成>
図1は、実施形態におけるエンジン装置1の概略構成の一例を示す図である。
図2は、エンジン装置1の構成の一部を示す斜視図である。
図1および
図2に示すように、エンジン装置1は、エンジン2と、回転電機装置60と、第1インバータ71と、第2インバータ72と、バッテリ80と、負荷90とを含む。エンジン装置1はまた、第1レゾルバ101と、第2レゾルバ102と、制御装置200とを含む。
【0014】
<エンジン2の構成>
実施形態において、エンジン2は、回転ピストン型の内燃機関である。エンジン2の燃料には、たとえば、水素、ガソリン、ガス(液化天然ガス、液化石油ガスなど)または軽油などが用いられる。エンジン2は、ハウジング4と、吸気管6と、排気管8と、燃料供給装置10と、スロットルバルブ12と、スロットルモータ14と、第1出力軸16と、第2出力軸18とを含む。
【0015】
吸気管6の一方端は、ハウジング4の吸気ポート(図示せず)に接続される。吸気管6の他方端には、たとえば、エアクリーナ(図示せず)が接続される。エアクリーナは、エンジン2の外部から吸入される空気から異物を除去する。エンジン2の作動中において、吸気管6には、エアクリーナから吸入された空気が流通する。吸気管6を流通する空気は、ハウジング4の吸気ポートに流通する。
【0016】
スロットルバルブ12は、吸気管6に設けられ、吸気管6を流通する空気の流量を制限する。スロットルバルブ12の開度(スロットル開度)は、制御装置200からの制御信号THに応じて動作するスロットルモータ14によって調整される。
【0017】
燃料供給装置10は、吸気管6のスロットルバルブ12よりも上流側に設けられる。燃料供給装置10は、制御装置200からの制御信号INJに応じて、燃料を吸気管6内に供給する。吸気管6内に供給された燃料は、吸気管6内で空気と混合されて、ハウジング4の吸気ポートに流通する。
【0018】
ハウジング4の外周部分は、円筒形状によって形成されており、その内周部分も円筒形状に形成されている。ハウジング4は、その内部に、第1出力軸16に接続される第1ピストン部材と、第2出力軸18に接続される第2ピストン部材とを収納する。
【0019】
排気管8の一方端は、ハウジング4の排気ポート(図示せず)に接続される。排気管8の他方端には、たとえば、排気処理装置(図示せず)が接続される。エンジン2の作動中において、ハウジング4内での燃焼により生じた排気は、ハウジング4の排気ポートから排気管8に流通する。排気管8に流通する排気は、排気処理装置によって浄化されて、エンジン2の外部に排出される。
【0020】
<エンジン2の内部構造>
以下、エンジン2の内部構造の一例について
図3を参照しつつ説明する。
図3は、エンジン内部に設けられるピストン部材の構成の一例を示す図である。
【0021】
図3に示すように、ハウジング4内には、第1ピストン部材24と、第2ピストン部材28とが組み合わされて収納される。第1ピストン部材24は、第1回転体24aと、第1壁面部材24bとを含む。第2ピストン部材28は、第2回転体28aと、第2壁面部材28bとを含む。
【0022】
第1ピストン部材24と、第2ピストン部材28とは、ハウジング4によって支持されており、ハウジング4内で回転可能とされている。第1ピストン部材24と第2ピストン部材28とは、
図3中に一点鎖線で図示される回転中心AXが一致している。第1ピストン部材24は、回転中心AXを中心に回転可能である。第2ピストン部材28は、回転中心AXを中心に回転可能である。
【0023】
第1回転体24aと第2回転体28aとは、第1回転体24aの一方の端面と第2回転体28aの一方の端面とが軸方向に対向するように設けられる。第1回転体24aおよび第2回転体28aは、その回転中心を含む断面に斜面部分を有するように形成される。これにより、第1回転体24aと第2回転体28aとが組み合わされた状態において、第1回転体24aと第2回転体28aとの間には、V字形状の断面を有する凹部が周方向に形成される。
【0024】
第1回転体24aには、回転中心AXからハウジング4の内周面に向けて延在するように設けられ、端部がハウジング4の内周面に当接する第1壁面部材24bが設けられる。第1壁面部材24bは、2つの三角形の板状部材によって構成される。第1壁面部材24bの2つの三角形の板状部材は、回転中心AXについて互いに対称となる位置関係になるように第1回転体24aに設けられる。
【0025】
第2回転体28aには、回転中心AXからハウジング4の内周面に向けて延在するように設けられ、端部がハウジング4の内周面に当接する第2壁面部材28bが設けられる。第2壁面部材28bは、上述の第1壁面部材24bを構成する板状部材と同形状となる、2つの三角形の板状部材によって構成される。第2壁面部材28bの2つの三角形の板状部材は、回転中心AXについて互いに対称となる位置関係になるように第2回転体28aに設けられる。
【0026】
第1壁面部材24bおよび第2壁面部材28bの三角形の板状部材は、いずれも、第1ピストン部材24と第2ピストン部材28がハウジング4に収納されている状態において、第1回転体24aと第2回転体28aとの間の凹部とハウジング4の内周面とによって形成される三角形の断面形状に合致するように形成される。また、第1壁面部材24bおよび第2壁面部材28bの三角形の板状部材の外周部分は、ハウジング4の内周面と摺動可能に構成される。
【0027】
各部材間の当接部分や摺動部分には、シール等が適宜設けられる。第1ピストン部材24には、回転中心AXが一致するように第1出力軸16が接続される。第2ピストン部材28には、回転中心AXが一致するように第2出力軸18が接続される。さらに、第1回転体24aおよび第2回転体28aの各々とハウジング4との間には、たとえば、ワンウェイクラッチ22,26が設けられる。ワンウェイクラッチ22は、第1ピストン部材24のハウジング4内における予め定められた回転方向への回転を許容し、当該回転方向とは逆方向への回転を抑制する。同様に、ワンウェイクラッチ26は、第2ピストン部材28のハウジング4内における予め定められた回転方向への回転を許容し、当該回転方向とは逆方向への回転を抑制する。
【0028】
<エンジン2以外の構成>
図1および
図2に戻って、以下にエンジン装置1のエンジン2以外の構成について説明する。
【0029】
第1出力軸16および第2出力軸18は、いずれもハウジング4内での燃料の燃焼によって回転する。回転電機装置60は、第1MG(Motor Generator)61と、第2MG(Motor Generator)62とを有している。第1出力軸16は、第1MG61の回転軸に接続されている。第2出力軸18は、第2MG62の回転軸に接続されている。
【0030】
第1MG61および第2MG62は、たとえば、いずれも三相交流回転電機である。第1インバータ71および第2インバータ72は、いずれも直流電力と交流電力との間で電力変換が可能に構成される電力変換装置である。第1MG61は、実施形態における第1回転電機に相当する。第2MG62は、実施形態における第2回転電機に相当する。
【0031】
第1MG61は、第1インバータ71と電気的に接続される。第1インバータ71は、制御装置200からの制御信号INV1によって制御される。すなわち、第1MG61と第1インバータ71との間で授受される電力は、制御装置200からの制御信号INV1によって制御される。
【0032】
制御装置200は、たとえば、第1MG61において回生トルクが発生するように第1インバータ71を制御する。このとき、第1MG61において発生する回生電力は、第1インバータ71において交流電力から直流電力に変換され、バッテリ80に供給される。バッテリ80は、第1インバータ71から供給される直流電力によって充電される。第1MG61は第1出力軸16を介して第1ピストン部材24に接続されており、第1MG61は第1ピストン部材24の回転により回生発電可能に構成されている。
【0033】
または、制御装置200は、第1MG61において駆動トルクが発生するように第1インバータ71を制御する。このとき、バッテリ80の電力は、第1インバータ71において直流電力から交流電力に変換され第1MG61に供給される。第1MG61は第1出力軸16を介して第1ピストン部材24に接続されており、第1MG61は第1ピストン部材24を回転駆動可能に構成されている。
【0034】
制御装置200は、第1インバータ71に制御信号INV1を送信することにより、第1ピストン部材24の回転動作を制御する。
【0035】
第1レゾルバ101は、第1MG61の回転軸(第1出力軸16)の回転角度(以下、回転角度CA1と記載する)を検出する。第1レゾルバ101は、検出した回転角度CA1を示す信号を制御装置200に送信する。
【0036】
第2MG62は、第2インバータ72と電気的に接続される。第2インバータ72は、制御装置200からの制御信号INV2によって制御される。すなわち、第2MG62と第2インバータ72との間で授受される電力は、制御装置200からの制御信号INV2によって制御される。
【0037】
制御装置200は、たとえば、第2MG62において回生トルクが発生するように第2インバータ72を制御する。このとき、第2MG62において発生する回生電力は、第2インバータ72において交流電力から直流電力に変換され、バッテリ80に供給される。バッテリ80は、第2インバータ72から供給される直流電力によって充電される。第2MG62は第2出力軸18を介して第2ピストン部材28に接続されており、第2MG62は第2ピストン部材28の回転により回生発電可能に構成されている。
【0038】
または、制御装置200は、第2MG62において駆動トルクが発生するように第2インバータ72を制御する。このとき、バッテリ80の電力は、第2インバータ72において直流電力から交流電力に変換され第2MG62に供給される。第2MG62は第2出力軸18を介して第2ピストン部材28に接続されており、第2MG62は第2ピストン部材28を回転駆動可能に構成されている。
【0039】
制御装置200は、第2インバータ72に制御信号INV2を送信することにより、第2ピストン部材28の回転動作を制御する。
【0040】
第2レゾルバ102は、第2MG62の回転軸(第2出力軸18)の回転角度(以下、回転角度CA2と記載する)を検出する。第2レゾルバ102は、検出した回転角度CA2を示す信号を制御装置200に送信する。
【0041】
バッテリ80は、たとえば、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池等の二次電池によって構成される直流電源である。なお、バッテリ80は、第1インバータ71あるいは第2インバータ72から供給される直流電力の貯蔵が可能な蓄電装置であればよく、たとえば、バッテリ80に代えて、キャパシタ等が用いられてもよい。
【0042】
エンジン装置1の動作は、制御装置200によって制御される。制御装置200は、各種処理を行なうCPU(Central Processing Unit)と、プログラムおよびデータを記憶するROM(Read Only Memory)およびCPUの処理結果等を記憶するRAM(Random Access Memory)等を含むメモリと、外部との情報のやり取りを行なうための入・出力ポート(いずれも図示せず)とを含む。入力ポートには、上述したセンサ類(たとえば、第1レゾルバ101および第2レゾルバ102)が接続される。出力ポートには、制御対象となる機器(たとえば、エンジン2、第1インバータ71、第2インバータ72等)が接続される。
【0043】
制御装置200は、各センサおよび機器からの信号、ならびにメモリに格納されたマップおよびプログラムに基づいて、エンジン装置1が所望の作動状態となるように各種機器を制御する。なお、各種制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)により処理することも可能である。
【0044】
<エンジン装置1の動作>
以上のような構成を有するエンジン装置1において、ハウジング4内に形成される燃焼室、およびピストン部材の動作について、以下に説明する。
図4~7は、燃焼室C1~C4およびエンジン2の動作を説明するための模式図である。
【0045】
図4~7には、ハウジング4の中央部分(たとえば、第1回転体24aと第2回転体28aとの当接部分)における、回転中心AXに直交する断面が示される。
図4~7に示すように、ハウジング4内には、ハウジング4の内周面4mと、第1ピストン部材24と、第2ピストン部材28とによって、燃料を燃焼させるための4つの燃焼室C1~C4が形成される。第1壁面部材24bおよび第2壁面部材28bは、燃焼室C1~C4の周方向の壁面を構成している。周方向に隣り合う2つの燃焼室は、第1壁面部材24bおよび第2壁面部材28bによって仕切られている。
【0046】
第1ピストン部材24の第1壁面部材24bは、2つの板状部材24b1,24b2を有している。板状部材24b1,24b2は、回転中心AXを中心に、一体に回転可能である。板状部材24b1は、第1ピストン部材24の回転方向の前方面24m1と、回転方向の後方面24n1とを有している。板状部材24b2は、第1ピストン部材24の回転方向の前方面24m2と、回転方向の後方面24n2とを有している。
【0047】
第2ピストン部材28の第2壁面部材28bは、2つの板状部材28b1,28b2を有している。板状部材28b1,28b2は、回転中心AXを中心に、一体に回転可能である。板状部材28b1は、第2ピストン部材28の回転方向の前方面28m1と、回転方向の後方面28n1とを有している。板状部材28b2は、第2ピストン部材28の回転方向の前方面28m2と、回転方向の後方面28n2とを有している。
【0048】
燃焼室C1は、ハウジング4の内周面4m、板状部材24b1の前方面24m1、および板状部材28b1の後方面28n1によって、規定されている。燃焼室C2は、ハウジング4の内周面4m、板状部材28b2の前方面28m2、および板状部材24b1の後方面24n1によって、規定されている。燃焼室C3は、ハウジング4の内周面4m、板状部材24b2の前方面24m2、および板状部材28b2の後方面28n2によって、規定されている。燃焼室C4は、ハウジング4の内周面4m、板状部材28b1の前方面28m1、および板状部材24b2の後方面24n2によって、規定されている。
【0049】
図3に示されるワンウェイクラッチ22,26は、
図4~7においては、第1ピストン部材24と第2ピストン部材28の反時計回りの回転を抑制し、時計回りの回転を許容する。
図4~7中の時計回り方向は、実施形態における一方向に相当する。燃焼室C4、燃焼室C3、燃焼室C2および燃焼室C1は、この一方向においてこの順に並んでいる。
【0050】
図4に示される燃焼室C1では、圧縮された空気と燃料との混合気が自着火によって着火する。燃焼室C1で燃料が燃焼すると、燃焼室C1内の圧力が急激に上昇する。燃焼室C1内の圧力は、板状部材24b1の前方面24m1に対して図中の反時計回り方向の力として作用し、板状部材28b1の後方面28n1に対して図中の時計回り方向の力として作用する。第1ピストン部材24の反時計回りの移動は、ワンウェイクラッチ22によって抑制されている。そのため、燃焼室C1内の圧力上昇は、第1ピストン部材24および第2ピストン部材28のうち、第2ピストン部材28のみを回転駆動させる。
【0051】
図5に示されるように、第1ピストン部材24の回転位置が維持される一方、第2ピストン部材28は、図中の実線矢印に沿って、図中の時計回り方向(上述した一方向)に回転する。燃焼室C1では、燃焼室C1内の気体の膨張とともに燃焼室C1の容積が増加する、膨張行程となる。
図5に示される実線矢印は、第2ピストン部材28が加速しながら回転する加速回転運動を示す。
図1に示される制御装置200は、第2ピストン部材28の回転を利用して、第2ピストン部材28に接続された第2MG62に回生発電させる。第2MG62の発電した電力は、
図1に示されるバッテリ80に蓄えられる。
【0052】
燃焼室C1での燃料の燃焼によって、第2ピストン部材28が一方向に回転すると、第1ピストン部材24の回転位置が維持されるため、燃焼室C4の容積が減少する。このとき、燃焼室C4は、排気管8と連通している。そのため、燃焼室C4内の排気は、燃焼室C4の容積の減少とともに、排気管8に排出される。燃焼室C4では、膨張した排気が排気管8から排出される排気行程となる。
【0053】
一方、
図4に示される燃焼室C2は、吸気管6と連通している。そのため、吸気管6から空気と燃料との混合気が燃焼室C2内に吸入される。燃焼室C2では、吸気管6から混合気が吸入される吸気行程となる。
【0054】
燃焼室C1での燃料の燃焼によって第2ピストン部材28が一方向に回転する途中で、燃焼室C2は吸気管6と非連通になる。第2ピストン部材28がさらに回転すると、第1ピストン部材24の回転位置が維持されるため、燃焼室C2の容積が減少する。このとき、
図5に示されるように、燃焼室C2は、吸気管6および排気管8のいずれにも連通していないため、燃焼室C2の容積の減少によって燃焼室C2内の混合気が圧縮される。燃焼室C2では、吸気管6から吸入された混合気が圧縮される圧縮行程となる。
【0055】
図4に示される燃焼室C3では、燃焼室C1での燃料の燃焼によって第2ピストン部材28が一方向に回転すると、第1ピストン部材24の回転位置が維持されるため、容積が増加する。燃焼室C3は、第2ピストン部材28が回転する途中で、吸気管6と連通する。このとき、
図5に示されるように、燃焼室C3の容積の増加とともに、吸気管6から混合気が燃焼室C3内に吸入される。燃焼室C3では、吸気管6から混合気が吸入される吸気行程となる。
【0056】
図6に示されるように、第2ピストン部材28がさらに回転すると、燃焼室C2内の混合気がさらに圧縮されて、燃焼室C2内の圧力が上昇する。燃焼室C2内の圧力の高められた気体が板状部材28b2の前方面28m2に図中の反時計回り方向の力を作用することによって、第2ピストン部材28が減速する。
図6および
図7中の破線矢印は、第1ピストン部材24および第2ピストン部材28が減速しながら回転する減速回転運動を示す。
【0057】
一方、第1ピストン部材24は、第1MG61によって駆動されて、一方向に回転する。第2ピストン部材28が第1ピストン部材24に接近しすぎないように、第1MG61により第1ピストン部材24をアシスト駆動する。
図6中の白抜き矢印は、第1MG61の発生する駆動トルクによる第1ピストン部材24の回転運動を示す。
図1に示される制御装置200は、
図6に示されるように、第2ピストン部材28が一方向に回転中に、第1ピストン部材24に接続された第1MG61に駆動トルクを発生させて、第1ピストン部材24を回転駆動する。
【0058】
図7に示されるように、第2ピストン部材28がさらに回転することで燃焼室C2の容積がさらに減少し、燃焼室C2内の圧力がさらに上昇することにより、第2ピストン部材28は減速回転運動を続ける。一方、制御装置200が第1ピストン部材24の回転を利用して第1ピストン部材24に接続された第1MG61に回生発電させることにより、第1ピストン部材24もまた、減速回転運動するようになる。第1MG61から第1ピストン部材24への駆動トルクの供給が停止することで、第1ピストン部材24はより大きく減速する。
【0059】
図4に示される第2ピストン部材28の位置に到達するまで第1ピストン部材24が回転し、
図4に示される第1ピストン部材24の位置に到達するまで第2ピストン部材28が回転すると、燃焼室C2で燃料が燃焼する。燃焼室C2内の圧力上昇が、第1ピストン部材24を回転駆動する。第1ピストン部材24の回転により、第1MG61が回生発電する。第2ピストン部材28は、第2MG62の駆動トルクを受けて回転する。第1ピストン部材24と第2ピストン部材28との両方が回転することにより、第1ピストン部材24と第2ピストン部材28とは、
図4に示す配置へと戻る。
【0060】
このようにして、燃焼室C1~C4のうちのいずれかで燃焼する毎に、第1ピストン部材24および第2ピストン部材28のうちのいずれか一方のピストン部材が、燃焼室内での燃料の燃焼による圧力上昇で、回転駆動される。第1ピストン部材24と第2ピストン部材28とが交互に回転することによって、エンジン2が動作する。燃焼室C1、燃焼室C2、燃焼室C3および燃焼室C4内において、吸気行程、圧縮行程、膨張行程および排気行程からなるサイクルが繰り返される。
【0061】
燃焼室内での燃料の燃焼による燃焼室内の圧力上昇が第2ピストン部材28を回転駆動する場合において、制御装置200は、第2ピストン部材28の回転中に、第1MG61に駆動トルクを発生させて、第1ピストン部材24を回転駆動する。燃焼室内での燃料の燃焼による燃焼室内の圧力上昇が第1ピストン部材24を回転駆動する場合において、制御装置200は、第1ピストン部材24の回転中に、第2MG62に駆動トルクを発生させて、第2ピストン部材28を回転駆動する。
【0062】
燃焼室内で燃料が燃焼すると、第1ピストン部材24および第2ピストン部材28のうちのいずれか一方のピストン部材が、燃焼室内の圧力によって回転駆動する。この場合に、燃焼開始時にいずれか他方のピストン部材が配置されている位置にまで当該いずれか一方のピストン部材が回転するよりも前に、当該いずれか他方のピストン部材は、回転電機の発生する駆動トルクで回転して、位置を変えている。これにより、第1ピストン部材24と第2ピストン部材28との衝突が確実に回避されるので、エンジン2の運転を安定して継続することができる。
【0063】
第1ピストン部材24と第2ピストン部材28との衝突回避のために、燃焼室内の圧力上昇で回転駆動されるピストン部材を回転電機の駆動トルクで回転させるのではなく、燃焼室内の圧力上昇で回転駆動されないピストン部材を回転電機の駆動トルクで回転させる。これにより、ピストン部材を回転させるために回転電機の発生する駆動仕事が相対的に小さくなる。回転電機に駆動仕事を発生させることはエネルギーの損失となるが、回転電機の駆動仕事を小さくするように制御することで、エンジン2の運転中の損失を低減できる。したがって、エンジン2の燃費を向上することができる。駆動力を確保するために回転電機を大きくする必要がないので、エンジン装置1を小型化することができる。
【0064】
上述の実施形態においては、第1ピストン部材24に第1MG61が接続され、第2ピストン部材28に第2MG62が接続される例について説明した。複数のピストン部材がそれぞれ別の回転電機に接続される構成に替えて、エンジン装置1が複数のピストン部材のいずれか1つに選択的に接続される1つの回転電機を備える構成としてもよい。たとえば、クラッチを使用することにより、回転電機と第1ピストン部材24とが接続されるときと、回転電機と第2ピストン部材28とが接続されるときとを切り換える構成としてもよい。
【実施例】
【0065】
以下、実施例について説明する。先行ロータを回転電機で駆動させる場合と、後追ロータを回転電機で駆動させる場合とで、回転電機に駆動トルクを発生させることによる損失を比較した。ここでの先行ロータとは、圧縮行程にある燃焼室に対して回転方向の下流側にあるピストン部材をいい、後追ロータとは、圧縮行程にある燃焼室に対して回転方向の上流側にあるピストン部材をいう。たとえば
図6においては、第1ピストン部材24が先行ロータであり、第2ピストン部材28が後追ロータである。
【0066】
図8は、先行ロータを駆動させる場合の、時間に対する位相の変化を示すグラフである。
図9は、先行ロータを駆動させる場合の、時間に対する回転数の変化を示すグラフである。
図10は、先行ロータを駆動させる場合の、時間に対するモータトルクの変化を示すグラフである。
図11は、後追ロータを駆動させる場合の、時間に対する位相の変化を示すグラフである。
図12は、後追ロータを駆動させる場合の、時間に対する回転数の変化を示すグラフである。
図13は、後追ロータを駆動させる場合の、時間に対するモータトルクの変化を示すグラフである。
【0067】
図8~13の各々の横軸は、時間を示す。燃焼室内で燃焼を開始した時刻を時刻0とする。
図8,11の縦軸は、先行ロータおよび後追ロータの位相を示す。
図4~7における図中の上下方向を位相0の角度とする。
図9,12の縦軸は、先行ロータおよび後追ロータの回転数を示す。
図10,13の縦軸は、先行ロータおよび後追ロータの各々に接続された回転電機のトルク(モータトルク)を示す。モータトルクが負の範囲で、回転電機は回生発電しているものとする。モータトルクが正の範囲で、回転電機は駆動トルクを発生しているものとする。
【0068】
図8~10では、燃焼室内の圧力上昇によって後追ロータが回転している間に、先行ロータに接続されている回転電機に駆動トルクを発生させて、先行ロータを回転駆動する。
図10中のハッチングを付した領域の面積が、駆動トルクを積分した面積であり、回転電機の発生する駆動仕事の量に相当する。
【0069】
図11~13では、燃焼室内の圧力上昇によって後追ロータが回転している間に、後追ロータに接続されている回転電機に駆動トルクを発生させて、後追ロータを回転駆動する。
図13中のハッチングを付した領域の面積が、駆動トルクを積分した面積であり、回転電機の発生する駆動仕事の量に相当する。
【0070】
図10と
図13とを比較して、先行ロータを駆動させる
図10のほうがハッチングを付した領域の面積が小さく、回転電機の発生する駆動仕事が小さかった。したがって、回転電機の発生する駆動トルクで後追ロータではなく先行ロータを回転駆動するように制御することで、エンジンの運転中の損失をより小さくでき、エンジンの燃費を向上できることが示された。
【0071】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0072】
1 エンジン装置、2 エンジン、4 ハウジング、4m 内周面、16 第1出力軸、18 第2出力軸、22,26 ワンウェイクラッチ、24 第1ピストン部材、24a 第1回転体、24b1,24b2,28b1,28b2 板状部材、24b 第1壁面部材、24m1,24m2,28m1,28m2 前方面、24n1,24n2,28n1,28n2 後方面、28 第2ピストン部材、28a 第2回転体、28b 第2壁面部材、60 回転電機装置、61 第1MG、62 第2MG、71 第1インバータ、72 第2インバータ、200 制御装置、AX 回転中心、C1,C2,C3,C4 燃焼室。