(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】電動機の制御装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 21/16 20160101AFI20230530BHJP
【FI】
H02P21/16
(21)【出願番号】P 2020027936
(22)【出願日】2020-02-21
【審査請求日】2022-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【氏名又は名称】大菅 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【氏名又は名称】天田 昌行
(72)【発明者】
【氏名】野村 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】松岡 大輔
(72)【発明者】
【氏名】名和 政道
【審査官】柏崎 翔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/012644(WO,A1)
【文献】特開2008-182881(JP,A)
【文献】特開2005-160199(JP,A)
【文献】国際公開第2013/080292(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/049694(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機の回転子を駆動させるインバータ回路と、
前記電動機に流れる電流を取得する電流取得部と、
前記電動機の回転子の位置に基づいて求められる電流指令値と前記電動機に流れる電流との差に応じた電圧指令値に基づいて、前記インバータ回路の動作を制御する制御回路と、
を備え、
前記制御回路は、
前記電動機のモデルとしての電圧方程式に、前記電圧指令値、前記電動機の固有のパラメータ、及び前記電動機の回転子の位置に基づいて求められる回転速度を代入して、前記電動機に流れる電流を推定する電流推定部と、
前記電流取得部により取得される電流と前記電流推定部により推定される電流との差に基づいて、前記パラメータとしての前記電動機のインダクタンスと抵抗を推定するLR推定部と、
前記電動機の推定インダクタンスに基づいて電流制御のための比例ゲインを決定し、前記電動機の推定抵抗に基づいて電流制御のための積分ゲインを決定するゲイン決定部と、
を備えることを特徴とする電動機の制御装置。
【請求項2】
前記LR推定部は、逐次最小二乗法又は重みつき最小二乗法により、前記電動機のインダクタンスと抵抗を推定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の電動機の制御装置。
【請求項3】
前記制御回路は、前記電流取得部により取得される電流と前記電流推定部により推定される電流との差が閾値以上である場合、前記電流推定部により推定される電流が誤っていると判定する判定部を備える、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電動機の制御装置。
【請求項4】
前記電流推定部により推定される電流が誤っていると前記判定部が判定した場合、前記LR推定部は、前記インダクタンスと前記抵抗の推定を中止し、前記ゲイン決定部は、前記推定インダクタンスと前記推定抵抗に基づく前記比例ゲインと前記積分ゲインの決定を中止する、
ことを特徴とする請求項3に記載の電動機の制御装置。
【請求項5】
電動機の回転子を駆動させるインバータ回路と、
前記電動機に流れる電流を取得する電流取得部と、
前記電動機の回転子の位置に基づいて求められる電流指令値と前記電動機に流れる電流との差に応じた電圧指令値に基づいて、前記インバータ回路の動作を制御する制御回路と、
を備える電動機の制御方法であって、
前記制御回路により、
前記電動機のモデルとしての電圧方程式に、前記電圧指令値、前記電動機の固有のパラメータ、及び前記電動機の回転子の位置に基づいて求められる回転速度を代入して、前記電動機に流れる電流を推定する電流推定ステップと、
前記電流取得部により取得される電流と前記電流推定ステップにより推定される電流との差に基づいて、前記パラメータとしての前記電動機のインダクタンスと抵抗を推定するLR推定ステップと、
前記電動機の推定インダクタンスに基づいて電流制御のための比例ゲインを決定し、前記電動機の推定抵抗に基づいて電流制御のための積分ゲインを決定するゲイン決定ステップと、
を実行することを特徴とする電動機の制御方法。
【請求項6】
前記LR推定ステップでは、逐次最小二乗法又は重みつき最小二乗法により、前記電動機のインダクタンスと抵抗を推定する、
ことを特徴とする請求項5に記載の電動機の制御方法。
【請求項7】
前記制御回路により、前記電流取得部により取得される電流と前記電流推定ステップにより推定される電流との差が閾値以上である場合、前記電流推定ステップにより推定される電流が誤っていると判定する判定ステップを有する、
ことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の電動機の制御方法。
【請求項8】
前記電流推定ステップにより推定される電流が誤っていると前記判定ステップにより判定された場合、前記LR推定ステップでは、前記インダクタンスと前記抵抗の推定を中止し、前記ゲイン決定ステップでは、前記推定インダクタンスと前記推定抵抗に基づく前記比例ゲインと前記積分ゲインの決定を中止する、
ことを特徴とする請求項7に記載の電動機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機の制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、同期モータをインバータ等で駆動する時の電流制御系の電流制御ゲインを調整する調整方法及び調整装置を備えるモータ制御装置が開示されている。モータ制御装置は、PI制御を適用する制御系の比例ゲイン及び積分ゲインの自動調整を改良したものである。
【0003】
モータ制御装置は、d軸及びq軸電流指令値に応じた比例ゲインをテーブルとして予め設定する比例ゲインテーブルと、PI制御を適用した電流制御ゲイン設定を行う際、PI制御の比例ゲインの設定値を、比例ゲインテーブルにより検索するゲイン調整手段と、を有している。
【0004】
モータ制御装置は、同期モータの巻線温度を検出する巻線温度検出手段と、巻線温度に応じた積分ゲインをテーブルとして予め設定する積分ゲインテーブルとを有している。ゲイン調整手段は、PI制御を適用した電流制御ゲイン設定を行う際、PI制御の積分ゲインの設定値を、積分ゲインテーブルにより検索する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、比例ゲインは電流に依存して変動し、積分ゲインは温度に依存して変動するため、特許文献1のモータ制御装置は、制御対象毎(例えばモータやインバータ毎)に、電流に依存した変動を考慮した複数の比例ゲインテーブルと、温度に依存した変動を考慮した複数の積分ゲインテーブルとを作成・準備しなければならないという問題がある。
【0007】
また、比例ゲインテーブルと積分ゲインテーブルは、電流と温度に応じたテーブルにすぎず、インダクタンス(L)と抵抗(R)に厳密には対応していないので、電流制御の高精度化には限界がある。
【0008】
本発明は、以上の問題意識に基づいてなされたものであり、簡単かつ好適な電流制御を可能とする電動機の制御装置及び制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施形態の電動機の制御装置は、電動機の回転子を駆動させるインバータ回路と、前記電動機に流れる電流を取得する電流取得部と、前記電動機の回転子の位置に基づいて求められる電流指令値と前記電動機に流れる電流との差に応じた電圧指令値に基づいて、前記インバータ回路の動作を制御する制御回路と、を備え、前記制御回路は、前記電動機のモデルとしての電圧方程式に、前記電圧指令値、前記電動機の固有のパラメータ、及び前記電動機の回転子の位置に基づいて求められる回転速度を代入して、前記電動機に流れる電流を推定する電流推定部と、前記電流取得部により取得される電流と前記電流推定部により推定される電流との差に基づいて、前記パラメータとしての前記電動機のインダクタンスと抵抗を推定するLR推定部と、前記電動機の推定インダクタンスに基づいて電流制御のための比例ゲインを決定し、前記電動機の推定抵抗に基づいて電流制御のための積分ゲインを決定するゲイン決定部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本実施形態の電動機の制御方法は、電動機の回転子を駆動させるインバータ回路と、前記電動機に流れる電流を取得する電流取得部と、前記電動機の回転子の位置に基づいて求められる電流指令値と前記電動機に流れる電流との差に応じた電圧指令値に基づいて、前記インバータ回路の動作を制御する制御回路と、を備える電動機の制御方法であって、前記制御回路により、前記電動機のモデルとしての電圧方程式に、前記電圧指令値、前記電動機の固有のパラメータ、及び前記電動機の回転子の位置に基づいて求められる回転速度を代入して、前記電動機に流れる電流を推定する電流推定ステップと、前記電流取得部により取得される電流と前記電流推定ステップにより推定される電流との差に基づいて、前記パラメータとしての前記電動機のインダクタンスと抵抗を推定するLR推定ステップと、前記電動機の推定インダクタンスに基づいて電流制御のための比例ゲインを決定し、前記電動機の推定抵抗に基づいて電流制御のための積分ゲインを決定するゲイン決定ステップと、を実行することを特徴とする。
【0011】
これにより、電動機のモデルとしての電圧方程式を利用して電動機のインダクタンスと抵抗を推定するとともに、電動機の推定インダクタンスに基づいて電流制御のための比例ゲインを決定し、電動機の推定抵抗に基づいて電流制御のための積分ゲインを決定するので、簡単かつ好適な電流制御を可能にすることができる。
【0012】
前記LR推定部は(前記LR推定ステップでは)、逐次最小二乗法又は重みつき最小二乗法により、前記電動機のインダクタンスと抵抗を推定してもよい。
【0013】
これにより、逐次最小二乗法又は重みつき最小二乗法により電動機のインダクタンスと抵抗を高精度に推定することができる。
【0014】
前記制御回路は、前記電流取得部により取得される電流と前記電流推定部により推定される電流との差が閾値以上である場合、前記電流推定部により推定される電流が誤っていると判定する判定部を備えてもよい。あるいは、前記制御回路により、前記電流取得部により取得される電流と前記電流推定ステップにより推定される電流との差が閾値以上である場合、前記電流推定ステップにより推定される電流が誤っていると判定する判定ステップを有してもよい。
【0015】
これにより、誤った推定電流を用いるのを防止して、電動機のインダクタンスと抵抗の推定ミス、ひいては、比例ゲインと積分ゲインの決定ミスを未然に防止することができる。
【0016】
前記電流推定部により推定される電流が誤っていると前記判定部が判定した場合、前記LR推定部は、前記インダクタンスと前記抵抗の推定を中止し、前記ゲイン決定部は、前記推定インダクタンスと前記推定抵抗に基づく前記比例ゲインと前記積分ゲインの決定を中止してもよい。あるいは、前記電流推定ステップにより推定される電流が誤っていると前記判定ステップにより判定された場合、前記LR推定ステップでは、前記インダクタンスと前記抵抗の推定を中止し、前記ゲイン決定ステップでは、前記推定インダクタンスと前記推定抵抗に基づく前記比例ゲインと前記積分ゲインの決定を中止してもよい。
【0017】
これにより、誤りのある(信頼性の低い)推定電流に基づいた誤りのある(信頼性の低い)インダクタンスと抵抗の推定、ひいては誤りのある(信頼性の低い)比例ゲインと積分ゲインの決定を確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、簡単かつ好適な電流制御を可能とする電動機の制御装置及び制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態の電動機の制御装置の一例を示す図である。
【
図3】実施形態の電動機の制御装置の他の例を示す図である。
【
図5】重みつき最小二乗法によるLR推定を行うための制御ブロック図の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて実施形態について詳細を説明する。
【0021】
図1は、実施形態の電動機の制御装置の一例を示す図である。電動機としては、例えば、PM(Permanent Magnet)モータとしての埋込永久磁石型同期モータ(IPMSM:Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)を用いることができる。
【0022】
図1に示す電動機Mの制御装置1は、例えば、電動フォークリフトやプラグインハイブリッド車などの車両に搭載される電動機を駆動するための制御装置であって、インバータ回路2と、制御回路3とを備える。
【0023】
インバータ回路2は、直流電源Pから供給される電力により電動機Mの回転子を駆動するものであって、コンデンサCと、スイッチング素子SW1~SW6(例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor))と、電流センサSe1、Se2とを備える。すなわち、コンデンサCの一方端が直流電源Pの正極端子及びスイッチング素子SW1、SW3、SW5の各コレクタ端子に接続され、コンデンサCの他方端が直流電源Pの負極端子及びスイッチング素子SW2、SW4、SW6の各エミッタ端子に接続されている。スイッチング素子SW1のエミッタ端子とスイッチング素子SW2のコレクタ端子との接続点は電流センサSe1を介して電動機MのU相の入力端子に接続されている。スイッチング素子SW3のエミッタ端子とスイッチング素子SW4のコレクタ端子との接続点は電流センサSe2を介して電動機MのV相の入力端子に接続されている。スイッチング素子SW5のエミッタ端子とスイッチング素子SW6のコレクタ端子との接続点は電動機MのW相の入力端子に接続されている。
【0024】
コンデンサCは、直流電源Pから出力されインバータ回路2へ入力される電圧を平滑する。
【0025】
スイッチング素子SW1は、制御回路3から出力される駆動信号S1に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW2は、制御回路3から出力される駆動信号S2に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW3は、制御回路3から出力される駆動信号S3に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW4は、制御回路3から出力される駆動信号S4に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW5は、制御回路3から出力される駆動信号S5に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW6は、制御回路3から出力される駆動信号S6に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子Sw1~SW6がそれぞれオンまたはオフすることで、直流電源Pから出力される直流電圧が、互いに位相が120度ずつ異なる3つの交流電圧に変換され、それら交流電圧が電動機MのU相、V相、及びW相の入力端子に印加され電動機Mの回転子が駆動する。
【0026】
電流センサSe1は、ホール素子やシャント抵抗などにより構成され、電動機MのU相に流れるU相電流Iuを検出して制御回路3に出力する。また、電流センサSe2は、ホール素子やシャント抵抗などにより構成され、電動機MのV相に流れるV相電流Ivを検出して制御回路3に出力する。
【0027】
制御回路3は、ドライブ回路4と、演算部5とを備える。
【0028】
ドライブ回路4は、IC(Integrated Circuit)などにより構成され、演算部5から出力される電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*と三角波とを比較し、その比較結果に応じた駆動信号S1~S6をスイッチング素子SW1~SW6のそれぞれのゲート端子に出力する。例えば、ドライブ回路4は、電圧指令値Vu*が三角波以上である場合、ハイレベルの駆動信号S1を出力するとともに、ローレベルの駆動信号S2を出力し、電圧指令値Vu*が三角波より小さい場合、ローレベルの駆動信号S1を出力するとともに、ハイレベルの駆動信号S2を出力する。また、ドライブ回路4は、電圧指令値Vv*が三角波以上である場合、ハイレベルの駆動信号S3を出力するとともに、ローレベルの駆動信号S4を出力し、電圧指令値Vv*が三角波より小さい場合、ローレベルの駆動信号S3を出力するとともに、ハイレベルの駆動信号S4を出力する。また、ドライブ回路4は、電圧指令値Vw*が三角波以上である場合、ハイレベルの駆動信号S5を出力するとともに、ローレベルの駆動信号S6を出力し、電圧指令値Vw*が三角波より小さい場合、ローレベルの駆動信号S5を出力するとともに、ハイレベルの駆動信号S6を出力する。
【0029】
なお、ドライブ回路4は、電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の振幅値が三角波の振幅値より小さい場合、電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の1周期においてスイッチング素子SW1~SW6が繰り返しオン、オフする制御、すなわち、パルス幅変調制御(PWM制御)を行ってもよい。
【0030】
また、ドライブ回路4は、電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の振幅値が三角波の振幅値より大きい場合、電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の1周期のうちの一部の期間においてスイッチング素子SW1~SW6が繰り返しオン、オフし、残りの期間においてスイッチング素子SW1~SW6が常にオンまたは常にオフする制御、すなわち、過変調制御を行ってもよい。
【0031】
また、ドライブ回路4は、電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の振幅値が三角波の振幅値よりさらに大きい場合、電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の半周期においてスイッチング素子SW1~SW6が常にオンまたは常にオフし、残りの半周期においてスイッチング素子SW1~SW6が常にオンまたは常にオフする制御、すなわち、矩形波制御を行ってもよい。
【0032】
演算部5は、マイクロコンピュータなどにより構成され、速度演算部6と、減算部7と、トルク制御部8と、トルク/電流指令値変換部9と、減算部10、11と、電流制御部12と、dq/uvw変換部13と、座標変換部14と、推定部15とを備える。例えば、マイクロコンピュータが不図示の記憶部に記憶されているプログラムを実行することにより、速度演算部6、減算部7、トルク制御部8、トルク/電流指令値変換部9、減算部10、11、電流制御部12、dq/uvw変換部13、座標変換部14、及び推定部15が実現される。
【0033】
速度演算部6は、推定部15により推定される電動機Mの回転子の推定位置θ^により回転速度ωを演算する。例えば、速度演算部6は、推定位置θ^を演算部5の制御周期で除算することにより回転速度ωを求める。
【0034】
減算部7は、外部から入力される回転速度指令値ω*と速度演算部6から出力される回転速度ωとの差Δωを算出する。
【0035】
トルク制御部8は、減算部7から出力される差Δωを用いて、トルク指令値T*を求める。例えば、トルク制御部8は、不図示の記憶部に記憶されている、電動機Mの回転子の回転速度と電動機Mのトルクとが互いに対応付けられている情報を参照して、差Δωに相当する回転速度に対応するトルクを、トルク指令値T*として求める。
【0036】
トルク/電流指令値変換部9は、トルク制御部8から出力されるトルク指令値T*を、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*に変換する。例えば、トルク/電流指令値変換部9は、不図示の記憶部に記憶されている、電動機Mのトルクとd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*とが互いに対応付けられている情報を参照して、トルク指令値T*に相当するトルクに対応するd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を求める。
【0037】
減算部10は、トルク/電流指令値変換部9から出力されるd軸電流指令値Id*と、推定部15から出力される推定d軸電流Id^との差ΔIdを算出する。
【0038】
減算部11は、トルク/電流指令値変換部9から出力されるq軸電流指令値Iq*と、推定部15から出力される推定q軸電流Iq^との差ΔIqを算出する。
【0039】
電流制御部12は、減算部10から出力される差ΔId及び減算部11から出力される差ΔIqを用いたPI(Proportional Integral)制御により、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を算出する。例えば、電流制御部12は、下記式1を用いてd軸電圧指令値Vd*を算出するとともに、下記式2を用いてq軸電圧指令値Vq*を算出する。なお、KpはPI制御の比例項の定数とし、KiはPI制御の積分項の定数とし、Lqは電動機Mを構成するコイルのq軸インダクタンスとし、Ldは電動機Mを構成するコイルのd軸インダクタンスとし、ωは回転速度とし、Keは誘起電圧定数とする。
【0040】
d軸電圧指令値Vd*=Kp×差ΔId+∫(Ki×差ΔId)-ωLqIq…式1
q軸電圧指令値Vq*=Kp×差ΔIq+∫(Ki×差ΔIq)+ωLdId+ωKe…式2
【0041】
dq/uvw変換部13は、推定部15から出力される推定位置θ^を用いて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vu*、及びW相電圧指令値Vw*に変換する。
【0042】
座標変換部14は、電流センサSe1により検出されるU相電流Iu及び電流センサSe2により検出されるV相電流Ivを用いて、電動機MのW相に流れるW相電流Iwを求める。また、座標変換部14は、推定部15から出力される推定位置θ^を用いて、U相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwをd軸電流Id(弱め界磁を発生させるための電流成分)及びq軸電流Iq(トルクを発生させるための電流成分)に変換する。なお、座標変換部14及び電流センサSe1、Se2により、電動機Mに流れる電流を取得する電流取得部が構成されるものとする。
【0043】
また、電流センサSe1、Se2により検出される電流は、U相電流Iu及びV相電流Ivの組み合わせに限定されず、V相電流Iv及びW相電流Iwの組み合わせ、または、U相電流Iu及びW相電流Iwの組み合わせでもよい。電流センサSe1、Se2によりV相電流Iv及びW相電流Iwが検出される場合、座標変換部14は、V相電流Iv及びW相電流Iwを用いて、U相電流Iuを求める。また、電流センサSe1、Se2によりU相電流Iu及びW相電流Iwが検出される場合、座標変換部14は、U相電流Iu及びW相電流Iwを用いて、V相電流Ivを求める。
【0044】
また、インバータ回路2において、電流センサSe1、Se2の他に、電動機MのW相に流れる電流を検出する電流センサSe3をさらに備える場合、座標変換部14は、推定部15から出力される推定位置θ^を用いて、電流センサSe1~Se3により検出されるU相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwをd軸電流Id及びq軸電流Iqに変換するように構成してもよい。この場合、座標変換部14及び電流センサSe1~Se3により、電動機Mに流れる電流を取得する電流取得部が構成されるものとする。
【0045】
また、インバータ回路2において、電流センサSe1、Se2の代わりに、スイッチング素子SW2、SW4、SW6の各エミッタ端子に接続される1つのシャント抵抗を備える場合、座標変換部14は、スイッチング素子SW1~SW6のオン、オフのタイミングと、シャント抵抗にかかる電圧と、シャント抵抗の抵抗値とにより、U相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwを求め、推定部15から出力される推定位置θ^を用いて、U相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwをd軸電流Id及びq軸電流Iqに変換するように構成してもよい。この場合、座標変換部14及びシャント抵抗により、電動機Mに流れる電流を取得する電流取得部が構成されるものとする。
【0046】
また、座標変換部14は、ドライブ回路4がパルス幅変調制御を行っているとき、電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の1周期において、U相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwをすべて求めることができ、d軸電流Id及びq軸電流Iqを出力することができるものとする。
【0047】
また、座標変換部14は、ドライブ回路4が過変調制御または矩形波制御を行っているとき、電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の1周期の一部の期間において、U相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwを求めることができず、d軸電流Id及びq軸電流Iqを出力することができないものとする。
【0048】
また、座標変換部14は、ドライブ回路4が矩形波制御を行っているとき、電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の1周期において、U相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwをすべて求めることができず、d軸電流Id及びq軸電流Iqを出力することができないものとする。
【0049】
制御回路3は、電動機Mの回転子の位置に基づいて求められる電流指令値と電動機Mに流れる電流との差に応じた電圧指令値に基づいて、インバータ回路2の動作を制御するものであり、当該機能を発揮するために、推定部15を有している。
【0050】
推定部15は、速度演算部6から出力される回転速度ωと、電流制御部12から出力されるd軸電圧指令値Vd*及q軸電圧指令値Vq*と、座標変換部14から出力されるd軸電流Id及びq軸電流Iqとを用いて、推定d軸電流Id^、推定q軸電流Iq^、推定位置θ^を出力する。
【0051】
【0052】
図2に示す推定部15は、電流推定部151と、減算部152と、パラメータ推定部(LR推定部)153と、ゲイン決定部154とを備える。
【0053】
電流推定部151は、座標変換部14からd軸電流Id及びq軸電流Iqが出力される場合(電流取得部により電動機Mに流れる電流が取得される場合)、d軸電流Idを推定d軸電流Id^として減算部10に出力するとともに、q軸電流Iqを推定q軸電流Iq^として減算部11に出力する。
【0054】
また、電流推定部151は、座標変換部14からd軸電流Id及びq軸電流Iqが出力されない場合(電流取得部により電動機Mに流れる電流が取得されない場合)、電流制御部12から出力されるd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*と、パラメータ推定部152により推定される電動機Mの固有のパラメータと、速度演算部6から出力される回転速度ωとを用いて、推定d軸電流Id^及び推定q軸電流Iq^を算出し、その算出した推定d軸電流Id^及び推定q軸電流Iq^を減算部10、11に出力する。
【0055】
例えば、電流推定部151は、座標変換部14からd軸電流Id及びq軸電流Iqが出力されない場合、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*をVd、Vqとして下記式3に代入するとともに、電動機Mの固有のパラメータとしてR、Ld、Lqを下記式3に代入するとともに、回転速度ωをωとして下記式3に代入することにより、Id、Iqを求め、その求めたId、Iqを推定d軸電流Id^及び推定q軸電流Iq^として減算部10、11に出力する。なお、下記式3は電動機Mのモデルとしての電圧方程式であり、Rは電動機Mを構成するコイルの抵抗とし、Ldは電動機Mを構成するコイルのd軸インダクタンスとし、Lqは電動機Mを構成するコイルのq軸インダクタンスとし、Pは微分演算子とし、Keは誘起電圧定数とする。
【0056】
【0057】
減算部152は、座標変換部14からd軸電流Id及びq軸電流Iqが出力される場合(電流取得部により電動機Mに流れる電流が取得される場合)、座標変換部14から出力されるd軸電流Idと電流推定部151から出力される推定d軸電流Id^との差ΔId^(第1の差)を算出するとともに、座標変換部14から出力されるq軸電流Iqと電流推定部151から出力される推定q軸電流Iq^との差ΔIq^(第1の差)を算出する。
【0058】
パラメータ推定部153は、減算部152から差ΔId^、ΔIq^が出力される場合(電流取得部により電動機Mに流れる電流が取得される場合)、電動機Mの固有のパラメータ(抵抗R、d軸インダクタンスLd、及びq軸インダクタンスLq)を推定する。
【0059】
具体的に、LR推定部としてのパラメータ推定部153は、座標変換部(電流取得部)14により取得される電流(d軸電流Id、q軸電流Iq)と、電流推定部151により推定される電流(推定d軸電流Id^、推定q軸電流Iq^)との差(ΔId^、ΔIq^)に基づいて、電動機Mの固有のパラメータとしてのインダクタンス(d軸インダクタンスLd、q軸インダクタンスLq)と抵抗Rを推定する(d軸インダクタンスLd^、q軸インダクタンスLq^、抵抗R^)。
【0060】
すなわち、パラメータ推定部153は、減算部152から差ΔId^、ΔIq^が出力される場合、その差ΔId^、ΔIq^がゼロになるようにパラメータを制御タイミング毎に繰り返し推定する。なお、パラメータ推定部153によりパラメータが繰り返し推定されているとき、差ΔId^、ΔIq^が徐々にゼロに近づいていき、パラメータが推定され始めてから所定時間以上が経過すると、差ΔId^、ΔIq^がゼロになり、パラメータ推定部153により推定されるパラメータ(d軸インダクタンスLd^、q軸インダクタンスLq^、抵抗R^)が同定するものとする。
【0061】
例えば、パラメータ推定部153は、下記式4~式7を用いて、逐次最小二乗法により、抵抗R、d軸インダクタンスLd、及びq軸インダクタンスLqを推定するように構成してもよい。なお、yNは下記式8とする。また、θT及びZN
Tを下記式9及び式10に示すように定義する場合、下記式8を下記式11に示すように表されるものとする。rNは減算部152の出力値(差ΔId^、ΔIq^)とし、ai及びbiは電動機Mの固有のパラメータ(抵抗R、d軸インダクタンスLd、及びq軸インダクタンスLq)とし、yN-iは座標変換部14の出力値(d軸電流Id及びq軸電流Iq)とし、uN-1は電流制御部12の出力値(d軸電圧指令値Vd*及q軸電圧指令値Vq*)とする。また、φN及びψNはzNとし、ρNは忘却係数とする。
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
ゲイン決定部154は、LR推定部としてのパラメータ推定部153が推定した電動機Mの推定インダクタンス(d軸インダクタンスLd^、q軸インダクタンスLq^)に基づいて、電流制御のための比例ゲインKpを決定する。上述したように、比例ゲインKpは、PI制御の比例項の定数として、下記式12で表される。カットオフ角速度ωcは所定値であるため、下記式12に、LR推定部としてのパラメータ推定部153が推定した電動機Mの推定インダクタンス(d軸インダクタンスLd^、q軸インダクタンスLq^)を代入することで、比例ゲインKpが決定される。
【0071】
Kp=ωc×L(ωcはカットオフ角速度)…式12
【0072】
ゲイン決定部154は、LR推定部としてのパラメータ推定部153が推定した電動機Mの推定抵抗(抵抗R^)に基づいて、電流制御のための積分ゲインKiを決定する。上述したように、積分ゲインKiは、PI制御の積分項の定数として、下記式13で表される。カットオフ角速度ωcは所定値であるため、下記式13に、LR推定部としてのパラメータ推定部153が推定した電動機Mの推定抵抗(抵抗R^)を代入することで、積分ゲインKiが決定される。
【0073】
Ki=ωc×R(ωcはカットオフ角速度)…式13
【0074】
なお、電圧方程式(規範モデル)の出力電流、つまり制御対象としての電動機Mの電流は、d軸、q軸に分かれたId、Iqとして得られる。よって、逐次最小二乗法、及び後述する重みつき最小二乗法の計算でもd軸、q軸に分かれて行われ、インダクタンスもd軸、q軸に分かれたLd、Lqとして得られる。ゲイン算出には、Ld、Lq、Rが用いられるところ、Ld、Lqはそのまま使えるが、Rd、Rqはそのままでは使えないので、三相の固定子抵抗に変換する必要がある。当該変換のためには、例えば、下記式14を適用することができる。
【0075】
【0076】
なお、推定部15には、電動機Mのモデルとしての電圧方程式に、電圧指令値、電流推定部により推定される電流、パラメータ推定部により推定されるパラメータ、及び回転速度を代入して、電動機Mの回転子の位置を推定する位置推定部(図示略)を設けてもよい。この位置推定部は、電流制御部12から出力されるd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*と、座標変換部14から出力されるd軸電流Id及びq軸電流Iqまたは電流推定部151から出力される推定d軸電流Id^及び推定q軸電流Iq^と、パラメータ推定部153から出力されるパラメータと、速度演算部6から出力される回転速度ωとを用いて、電動機Mの回転子の推定位置θ^を求めてもよい。
【0077】
図3は、実施形態の電動機の制御装置の他の例を示す図である。なお、
図3に示す電動機Mの制御装置1´において、
図1に示す構成と同じ構成には同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0078】
図3に示す電動機Mの制御装置1´において、
図1に示す電動機Mの制御装置1と異なる点は、推定部15´が、座標変換部14から出力されるU相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwを用いて、推定d軸電流Id^及び推定q軸電流Iq^が誤っているか否かを判定する点である。
【0079】
図4は、推定部15´の一例を示す図である。なお、
図4に示す推定部15´において、
図2に示す構成と同じ構成には同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0080】
図4に示す推定部15´において、
図2に示す推定部15と異なる点は、電流変換部155と、判定部156とをさらに備えている点である。
【0081】
電流変換部155は、例えば推定位置θ^を用いて、電流推定部151から出力される推定d軸電流Id^及び推定q軸電流Iq^を、推定U相電流Iu^、推定V相電流Iv^、及び推定W相電流Iw^に変換する。例えば、電流変換部155は、下記式15に示す変換行列Cを用いて、推定d軸電流Id^及び推定q軸電流Iq^を、推定U相電流Iu^、推定V相電流Iv^、及び推定W相電流Iw^に変換する。
【0082】
【0083】
判定部156は、座標変換部14から出力されるU相電流Iuと電流変換部155から出力される推定U相電流Iu^との差ΔIu(第2の差)を求めるとともに、座標変換部14から出力されるV相電流Ivと電流変換部155から出力される推定V相電流Iv^との差ΔIv(第2の差)を求めるとともに、座標変換部14から出力されるW相電流Iwと電流変換部155から出力される推定W相電流Iw^との差ΔIw(第2の差)を求める。また、判定部156は、差ΔIuが閾値Iuth以上である場合、推定U相電流Iu^が誤っている(推定U相電流Iu^が電動機MのU相に流れている電流と異なっている)と判定し、差ΔIuが閾値Iuthより小さい場合、推定U相電流Iu^が誤っていない(推定U相電流Iu^が電動機MのU相に流れている電流と一致または略一致している)と判定する。また、判定部156は、差ΔIvが閾値Ivth以上である場合、推定V相電流Iv^が誤っている(推定V相電流Iv^が電動機MのV相に流れている電流と異なっている)と判定し、差ΔIvが閾値Ivthより小さい場合、推定V相電流Iv^が誤っていない(推定V相電流Iv^が電動機MのV相に流れている電流と一致または略一致している)と判定する。また、判定部156は、差ΔIwが閾値Iwth以上である場合、推定W相電流Iw^が誤っている(推定W相電流Iw^が電動機MのW相に流れている電流と異なっている)と判定し、差ΔIwが閾値Iwthより小さい場合、推定W相電流Iw^が誤っていない(推定W相電流Iw^が電動機MのW相に流れている電流と一致または略一致している)と判定する。
【0084】
なお、電流推定部151は、今回の制御タイミングにおいて推定した推定U相電流Iu^、推定V相電流Iv^、及び推定W相電流Iw^のうちの少なくとも1つの電流が誤っていると判定された場合、今回の制御タイミングにおいて推定した推定d軸電流Id^及び推定q軸電流Iq^を減算部10、11に出力せず、過去の制御タイミングにおいて推定した推定d軸電流Id^及び推定q軸電流Iq^のうち、誤っていないと判定された推定d軸電流Id^及び推定q軸電流Iq^を減算部10、11に出力するように構成してもよい。
【0085】
また、電流推定部151による電流推定が誤っているものと判定部156が判定した場合、パラメータ推定部153が、電動機Mのインダクタンスと抵抗の推定を中止し、ゲイン決定部154が、推定インダクタンスと推定抵抗に基づくゲイン決定を中止することができる。そして、電流推定部151による電流推定、パラメータ推定部153による電動機Mのインダクタンスと抵抗の推定、及び、ゲイン決定部154によるゲイン決定を再試行してもよい。
【0086】
上述した例では、逐次最小二乗法を利用して、電動機Mのインダクタンスと抵抗を推定する場合を例示して説明した。これに対して、重みつき最小二乗法を利用して、電動機Mのインダクタンスと抵抗を推定する態様も可能である。重みつき最小二乗法におけるパラメータ同定は、古いデータに小さな重みをかけて求められるものであり、パラメータ同定を行う制御対象の離散時間システムは、kを現在として、下記式16で与えられる。
【0087】
【0088】
上記式16における制御対象のyi、ui(i=0、1、2、…、k)を測定して、パラメータθ(ここではL、R)を同定する。つまり、電流取得部により取得される電流と電流推定部による推定電流との差を最小にする(ゼロにする)ことはパラメータθを求めることと同義であり、パラメータθを求めることはL、Rを求めることと同義である。上記式16の推定パラメータは下記式17のように書き換えられる。また、下記式18で表される誤差に重みを付けて二乗し、i=nからi=kまで加え、それらの和を最小にするように、パラメータθを決定する。
【0089】
【0090】
【0091】
また評価関数として下記式19を考えると、下記式20、21のアルゴリズムが得られる。
【0092】
【0093】
【0094】
図5は、重みつき最小二乗法によるLR推定を行うための制御ブロック図の一例を示す図である。
図5の制御対象で、i(t)とu(t)が既知であるとき、適応機構を用いた重みつき最小二乗法により、L、Rを推定することができる。
【0095】
図5において、下記式22が成立し、サンプリング周期をTとして、オイラー法を使うと、下記式23の差分方程式が得られ、これを下記式24とおく。
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
a=1-TR/L、b=T/Lであり、抵抗とインダクタンスの値が逐次更新される。a、bが計算できれば、R、Lが求められるので、次のようにして、a、bを求める。上記式24は、下記式25のように書き換えられる。また、下記式26のようにおくと、上記式20は、下記式27のように書き換えられる。同様に、上記式21も書き下すことができる。
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
実施形態の電動機Mの制御装置1、1´による電動機Mの制御方法は、推定部15、15´を構成するコンピュータの各機能構成要素によって各種の処理ステップを実行することにより実現される。具体的に、電流推定部151により、電動機のモデルとしての電圧方程式に、電圧指令値、電動機の固有のパラメータ、及び電動機の回転子の位置に基づいて求められる回転速度を代入して、電動機に流れる電流を推定する電流推定ステップを実行する。また、パラメータ推定部(LR推定部)153により、電流取得部により取得される電流と電流推定ステップにより推定される電流との差に基づいて、パラメータとしての電動機のインダクタンスと抵抗を推定するLR推定ステップを実行する。また、ゲイン決定部154により、電動機の推定インダクタンスに基づいて電流制御のための比例ゲインを決定し、電動機の推定抵抗に基づいて電流制御のための積分ゲインを決定するゲイン決定ステップを実行する。また、判定部156により、電流取得部により取得される電流と電流推定ステップにより推定される電流との差が閾値以上である場合、電流推定ステップにより推定される電流が誤っていると判定する判定ステップを実行する。LR推定ステップでは、逐次最小二乗法又は重みつき最小二乗法により、電動機のインダクタンスと抵抗を推定する。電流推定ステップにより推定される電流が誤っていると判定ステップにより判定された場合、LR推定ステップでは、インダクタンスと抵抗の推定を中止し、ゲイン決定ステップでは、推定インダクタンスと推定抵抗に基づく比例ゲインと積分ゲインの決定を中止する。
【0104】
このように、実施形態の電動機Mの制御装置1、1´によれば、LR推定部としてのパラメータ推定部153が、座標変換部(電流取得部)14により取得される電流(d軸電流Id、q軸電流Iq)と、電流推定部151により推定される電流(推定d軸電流Id^、推定q軸電流Iq^)との差(ΔId^、ΔIq^)に基づいて、電動機Mの固有のパラメータとしてのインダクタンス(d軸インダクタンスLd、q軸インダクタンスLq)と抵抗Rを推定する(d軸インダクタンスLd^、q軸インダクタンスLq^、抵抗R^)。また、ゲイン決定部154が、LR推定部としてのパラメータ推定部153が推定した電動機Mの推定インダクタンス(d軸インダクタンスLd^、q軸インダクタンスLq^)に基づいて、電流制御のための比例ゲインKpを決定し、LR推定部としてのパラメータ推定部153が推定した電動機Mの推定抵抗(抵抗R^)に基づいて、電流制御のための積分ゲインKiを決定する。
【0105】
これにより、推定インダクタンス(d軸インダクタンスLd^、q軸インダクタンスLq^)と推定抵抗(抵抗R^)を高精度にオンライン推定して、電流制御のための比例ゲインKpと積分ゲインKiを高精度に決定することができ、以って、簡単かつ好適な電流制御を実現することができる。
【0106】
また、本発明は、以上の実施の形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更が可能である。
【符号の説明】
【0107】
1、1´ 制御装置
2 インバータ回路
3 制御回路
4 ドライブ回路
5 演算部
6 速度演算部
7 減算部
8 トルク制御部
9 トルク/電流指令値変換部
10 減算部
11 減算部
12 電流制御部
13 dq/uvw変換部
14 座標変換部(電流取得部)
15、15´ 推定部
151 電流推定部
152 減算部
153 パラメータ推定部(LR推定部)
154 ゲイン決定部
155 電流変換部
156 判定部
M 電動機
Se1、Se2 電流センサ(電流取得部)