(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】ツールガイド装置
(51)【国際特許分類】
B21D 37/10 20060101AFI20230530BHJP
B21D 28/34 20060101ALI20230530BHJP
B26F 1/02 20060101ALI20230530BHJP
B26D 7/08 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
B21D37/10 Z
B21D28/34 H
B26F1/02 Z
B26D7/08 A
B26D7/08 Z
(21)【出願番号】P 2020028901
(22)【出願日】2020-02-24
【審査請求日】2022-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 俊成
(72)【発明者】
【氏名】三井 浩之
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特公昭51-018676(JP,B1)
【文献】特開平06-328161(JP,A)
【文献】特開平11-314928(JP,A)
【文献】特開平09-057696(JP,A)
【文献】国際公開第2005/039800(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 37/10
B21D 28/34
B26F 1/02
B26D 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
穴あけ加工用の超音波振動ツールをガイドするためのツールガイド装置であって、
ワークの被加工面に押し当てられるベース部と、
上記超音波振動ツールを軸方向に挿入出可能に貫通したガイド穴を有し、上記ベース部が上記ワークの上記被加工面に押し当てられた状態で上記被加工面に接することなく対向するガイドホルダ部と、
上記超音波振動ツールが上記ガイドホルダ部の上記ガイド穴を挿入方向に貫通して上記ワークに対する穴あけ完了位置に到達したときに、この超音波振動ツールが上記穴あけ完了位置から更に挿入方向へ動くのを阻止するストッパー部と、
を備
え、
上記超音波振動ツールは、ツール先端に設けられた加工部と、上記加工部の軸方向の後端側に上記軸方向と直交する径方向について上記加工部よりも大径となるように設けられた本体ハウジングと、を有し、上記加工部と上記本体ハウジングとの境界に段差面が形成されており、
上記ガイドホルダ部の上記ガイド穴は、大径穴部と、上記大径穴部よりも小径の小径穴部と、を有し、上記大径穴部と上記小径穴部との境界に上記ストッパー部としての当接面が設けられており、上記超音波振動ツールが上記穴あけ完了位置に到達したときに上記当接面が上記段差面に当接するように構成されており、
上記超音波振動ツールの上記本体ハウジングは、振動時における軸方向の超音波振幅が上記加工部を下回る低振幅部を有し、
上記ガイドホルダ部の上記ガイド穴の内周面が上記本体ハウジングの上記低振幅部においてのみ上記超音波振動ツールと摺動するように構成されている、ツールガイド装置。
【請求項2】
穴あけ加工用の超音波振動ツールをガイドするためのツールガイド装置であって、
ワークの被加工面に押し当てられるベース部と、
上記超音波振動ツールを軸方向に挿入出可能に貫通したガイド穴を有し、上記ベース部が上記ワークの上記被加工面に押し当てられた状態で上記被加工面に接することなく対向するガイドホルダ部と、
上記超音波振動ツールが上記ガイドホルダ部の上記ガイド穴を挿入方向に貫通して上記ワークに対する穴あけ完了位置に到達したときに、この超音波振動ツールが上記穴あけ完了位置から更に挿入方向へ動くのを阻止するストッパー部と、
を備え、
上記ガイドホルダ部は、上記ワークの穴あけ加工時に形成されたバリが圧し潰されるのを防ぐ圧し潰し防止空間を形成するために、上記被加工面との対向面に設けられた凹部を有し、
上記凹部は、上記対向面で開口する上記ガイド穴の開口縁部が傾斜してなるテーパー面によって構成されている
、ツールガイド装置。
【請求項3】
穴あけ加工用の超音波振動ツールをガイドするためのツールガイド装置であって、
ワークの被加工面に押し当てられるベース部と、
上記超音波振動ツールを軸方向に挿入出可能に貫通したガイド穴を有し、上記ベース部が上記ワークの上記被加工面に押し当てられた状態で上記被加工面に接することなく対向するガイドホルダ部と、
上記超音波振動ツールが上記ガイドホルダ部の上記ガイド穴を挿入方向に貫通して上記ワークに対する穴あけ完了位置に到達したときに、この超音波振動ツールが上記穴あけ完了位置から更に挿入方向へ動くのを阻止するストッパー部と、
を備え、
上記ベース部に固定されたブラケット部を備え、上記ブラケット部は、上記ガイドホルダ部を支持するとともに、上記超音波振動ツールの軸方向と直交する径方向について上記ベース部に対する上記ガイドホルダ部の位置を調整可能に構成されている
、ツールガイド装置。
【請求項4】
上記ガイドホルダ部は、上記ワークの穴あけ加工時に形成されたバリが圧し潰されるのを防ぐ圧し潰し防止空間を形成するために、上記被加工面との対向面に設けられた凹部を有する、請求項
1または3に記載のツールガイド装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ツールガイド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、この種のツールガイド装置が開示されている。このツールガイド装置は、穴あけ加工用の超音波振動ツールのパンチをガイドするためのガイドブッシュを備えている。このガイドブッシュには、パンチが軸方向に摺動可能に挿入されるガイド穴が設けられている。パンチには超音波ホーンにより超音波振動が印加される。また、パンチの先端には打ち抜き用の加工部が設けられている。
【0003】
このようなツールガイド装置によれば、パンチがガイドブッシュのガイド穴に挿入され且つ加工部がガイド穴を貫通した状態で、振動状態の加工部をワークに接触させることによってワークを打ち抜くことができる。これにより、ワークに穴あけ加工を施すことが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような装置を使用すると、パンチの加工部がワークから受ける反力が穴あけ加工の完了とともに解放されたとき、加工部がその勢いでワーク側へ移動することが起こり得る。この場合、穴あけ加工完了後に、加工部から製品に過剰な振動が伝わったり、加工部が製品に接触し過ぎたりすることがあり、このことが製品品質の低下の要因に成り得る。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、穴あけ加工用の超音波振動ツールをガイドするためのツールガイド装置において製品品質の低下を防ぐのに有効な技術を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
穴あけ加工用の超音波振動ツールをガイドするためのツールガイド装置であって、
ワークの被加工面に押し当てられるベース部と、
上記超音波振動ツールを軸方向に挿入出可能に貫通したガイド穴を有し、上記ベース部が上記ワークの上記被加工面に押し当てられた状態で上記被加工面に接することなく対向するガイドホルダ部と、
上記超音波振動ツールが上記ガイドホルダ部の上記ガイド穴を挿入方向に貫通して上記ワークに対する穴あけ完了位置に到達したときに、この超音波振動ツールが上記穴あけ完了位置から更に挿入方向へ動くのを阻止するストッパー部と、
を備え、
上記超音波振動ツールは、ツール先端に設けられた加工部と、上記加工部の軸方向の後端側に上記軸方向と直交する径方向について上記加工部よりも大径となるように設けられた本体ハウジングと、を有し、上記加工部と上記本体ハウジングとの境界に段差面が形成されており、
上記ガイドホルダ部の上記ガイド穴は、大径穴部と、上記大径穴部よりも小径の小径穴部と、を有し、上記大径穴部と上記小径穴部との境界に上記ストッパー部としての当接面が設けられており、上記超音波振動ツールが上記穴あけ完了位置に到達したときに上記当接面が上記段差面に当接するように構成されており、
上記超音波振動ツールの上記本体ハウジングは、振動時における軸方向の超音波振幅が上記加工部を下回る低振幅部を有し、
上記ガイドホルダ部の上記ガイド穴の内周面が上記本体ハウジングの上記低振幅部においてのみ上記超音波振動ツールと摺動するように構成されている、ツールガイド装置、
にある。
また、本発明の別態様は、
穴あけ加工用の超音波振動ツールをガイドするためのツールガイド装置であって、
ワークの被加工面に押し当てられるベース部と、
上記超音波振動ツールを軸方向に挿入出可能に貫通したガイド穴を有し、上記ベース部が上記ワークの上記被加工面に押し当てられた状態で上記被加工面に接することなく対向するガイドホルダ部と、
上記超音波振動ツールが上記ガイドホルダ部の上記ガイド穴を挿入方向に貫通して上記ワークに対する穴あけ完了位置に到達したときに、この超音波振動ツールが上記穴あけ完了位置から更に挿入方向へ動くのを阻止するストッパー部と、
を備え、
上記ガイドホルダ部は、上記ワークの穴あけ加工時に形成されたバリが圧し潰されるのを防ぐ圧し潰し防止空間を形成するために、上記被加工面との対向面に設けられた凹部を有し、
上記凹部は、上記対向面で開口する上記ガイド穴の開口縁部が傾斜してなるテーパー面によって構成されている、ツールガイド装置、
にある。
また、本発明の更なる別態様は、
穴あけ加工用の超音波振動ツールをガイドするためのツールガイド装置であって、
ワークの被加工面に押し当てられるベース部と、
上記超音波振動ツールを軸方向に挿入出可能に貫通したガイド穴を有し、上記ベース部が上記ワークの上記被加工面に押し当てられた状態で上記被加工面に接することなく対向するガイドホルダ部と、
上記超音波振動ツールが上記ガイドホルダ部の上記ガイド穴を挿入方向に貫通して上記ワークに対する穴あけ完了位置に到達したときに、この超音波振動ツールが上記穴あけ完了位置から更に挿入方向へ動くのを阻止するストッパー部と、
を備え、
上記ベース部に固定されたブラケット部を備え、上記ブラケット部は、上記ガイドホルダ部を支持するとともに、上記超音波振動ツールの軸方向と直交する径方向について上記ベース部に対する上記ガイドホルダ部の位置を調整可能に構成されている、ツールガイド装置、
にある。
【発明の効果】
【0008】
上記のツールガイド装置において、ベース部がワークの被加工面に押し当てられた状態では、ガイドホルダ部がワークの被加工面に接することなく対向する。このガイドホルダ部には、超音波振動ツールを軸方向に挿入出可能に貫通したガイド穴が設けられている。このため、ガイドホルダ部のガイド穴を挿入方向に貫通した超音波振動ツールを、振動状態でワークの被加工面に押し当てることによってワークに穴あけ加工を施すことができる。
【0009】
ここで、超音波振動ツールがガイドホルダ部のガイド穴に直に挿入出されるため、超音波振動ツールとガイドホルダ部との間に別部材が介装される構造に比べて、超音波振動ツールに対する隙詰め効果が得られ、超音波振動ツールが軸方向に振動するときの動きの精度を高めることができる。このため、超音波振動ツールが軸方向に対して傾いた状態でワークに接触するのを抑制することができ、穴あけ加工時に生じるワークのバリを少なく抑えることができる。また、超音波振動ツールからの振動を直に受けるガイドホルダ部をワークの被加工面に接触させることなく、ワークの穴あけ加工を行うことができる。これにより、穴あけ加工時に製品品質が低下するのを防ぐことができる。
【0010】
また、超音波振動ツールがガイドホルダ部のガイド穴を挿入方向に貫通してワークに対する穴あけ完了位置に到達したときには、この超音波振動ツールが穴あけ完了位置から更に挿入方向へ動くのがストッパー部によって阻止される。このため、穴あけ加工完了後は、超音波振動ツールの必要以上の動きが阻止されることになり、超音波振動ツールから製品に過剰な振動が伝わったり、超音波振動ツールが製品に接触し過ぎたりするのを防ぐことができる。これにより、穴あけ加工後に製品品質が低下するのを防ぐことができる。
【0011】
以上のごとく、上記の態様によれば、穴あけ加工用の超音波振動ツールをガイドするためのツールガイド装置において製品品質の低下を防ぐのに有効な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態1のツールガイド装置を上方からみた平面図。
【
図2】実施形態1のツールガイド装置を下方からみた平面図。
【
図5】
図3において超音波振動ツールが穴あけ完了位置にあるときの状態を示す断面図。
【
図7】実施形態2のツールガイド装置について
図3に対応した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上述の態様の好ましい実施形態について説明する。
【0014】
上記のツールガイド装置において、上記超音波振動ツールは、ツール先端に設けられた加工部と、上記加工部の軸方向の後端側に上記軸方向と直交する径方向について上記加工部よりも大径となるように設けられた本体ハウジングと、有し、上記加工部と上記本体ハウジングとの境界に段差面が形成されており、上記ガイドホルダ部の上記ガイド穴は、大径穴部と、上記大径穴部よりも小径の小径穴部と、を有し、上記大径穴部と上記小径穴部との境界に上記ストッパー部としての当接面が設けられており、上記超音波振動ツールが上記穴あけ完了位置に到達したときに上記当接面が上記段差面に当接するように構成されているのが好ましい。
【0015】
このツールガイド装置によれば、ガイドホルダ部のガイド穴のうち大径穴部と小径穴部との境界に設けられた当接面をストッパー部として使用し、この当接面が超音波振動ツールの加工部と本体ハウジングとの境界に設けられている段差面に当接することによって、超音波振動ツールが穴あけ完了位置から更に挿入方向へ動くのを阻止できる。これにより、ストッパー部の構造をガイドホルダ部のガイド穴の異径構造を利用して簡素化することができる。
【0016】
上記のツールガイド装置において、上記超音波振動ツールの上記本体ハウジングは、振動時における軸方向の超音波振幅が上記加工部を下回る低振幅部を有し、上記ガイドホルダ部の上記ガイド穴の内周面が上記本体ハウジングの上記低振幅部においてのみ上記超音波振動ツールと摺動するように構成されているのが好ましい。
【0017】
このツールガイド装置によれば、ガイドホルダ部の上記ガイド穴の内周面を、加工部に比べて軸方向の超音波振幅が小さい、本体ハウジングの低振幅部においてのみ、超音波振動ツールと摺動させることができる。これにより、ガイドホルダ部のガイド穴の内周面が、超音波振動ツールの振動によって受ける影響を小さく抑えることができる。
【0018】
上記のツールガイド装置において、上記ガイドホルダ部は、上記ワークの穴あけ加工時に形成されたバリが圧し潰されるのを防ぐ圧し潰し防止空間を形成するために、上記被加工面との対向面に設けられた凹部を有するのが好ましい。
【0019】
このツールガイド装置によれば、ガイドホルダ部のうちワークの被加工面との対向面に凹部を設けることにより、この凹部にワークの穴あけ加工時に形成されたバリを溜めることができ、このバリが圧し潰されるのを防ぐことが可能になる。このため、穴あけ加工後の製品にバリが干渉するのを回避できる。
【0020】
上記のツールガイド装置において、上記凹部は、上記対向面で開口する上記ガイド穴の開口縁部が傾斜してなるテーパー面によって構成されているのが好ましい。
【0021】
このツールガイド装置によれば、ガイド穴の開口縁部に設けたテーパー面を利用して圧し潰し防止空間を形成することができる。
【0022】
上記のツールガイド装置は、上記ベース部に固定されたブラケット部を備え、上記ブラケット部は、上記ガイドホルダ部を支持するとともに上記超音波振動ツールの軸方向と直交する径方向について上記ベース部に対する上記ガイドホルダ部の位置を調整可能に構成されているのが好ましい。
【0023】
このツールガイド装置によれば、ベース部をワークの被加工面に押し当てた状態で、ブラケット部を使用してベース部に対するガイドホルダ部の径方向の位置、即ちワークに対する穴あけ位置を容易に調整することができる。
【0024】
以下、本発明にかかるツールガイド装置の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
なお、このツールガイド装置の説明のための図面において、特に断りのない限り、超音波振動ツールの長手方向である軸方向を矢印Xで示し、軸方向Xに直交する径方向を矢印Y及び矢印Zで示している。また、軸方向Xのうちの一方向を超音波振動ツールの挿入方向X1とし、この挿入方向X1の逆方向を超音波振動ツールの挿出方向X2とする。
【0026】
(実施形態1)
図1~
図3に示される、実施形態1のツールガイド装置10は、ワークWに使用される穴あけ加工用の超音波振動ツール1をガイドするためのものである。以下では、便宜上、被加工面Waが上向きとなるように置かれたワークWに対してツールガイド装置10をセットする場合について例示的に説明する。このため、ワークWの基準位置や向きの変更によって、ツールガイド装置10の配置が適宜に変更される。
【0027】
ツールガイド装置10は、ベース部20と、ガイドホルダ部30と、ストッパー部40と、ブラケット部50と、を備えている。
【0028】
ベース部20は、穴あけ加工時にワークWの被加工面Waに押し当てられる部位である。そのために、このベース部20は、径方向Yに離間して配置された2つの脚部21を有し、2つの脚部21においてワークWの被加工面Waに当接するように構成されている(
図2及び
図3を参照)。
【0029】
なお、ベース部20の素材は特に限定されないが、このベース部20がワークWに直に接するものであり、ワークWの損傷を極力防ぐことを考慮した場合、ベース部20は樹脂材料やゴム材料などの素材からなるのが好ましい。
【0030】
ガイドホルダ部30は、ベース部20がワークWの被加工面Waに押し当てられた状態で被加工面Waに接することなく対向するように構成されている。即ち、ガイドホルダ部30は、ワークWの被加工面Waに対して隙間を隔てて対向するようになっている。
【0031】
なお、ガイドホルダ部30の素材は特に限定されないが、このガイドホルダ部30が超音波振動ツール1に直に接することを考慮した場合、ガイドホルダ部30は樹脂材料などの素材からなるのが好ましい。
【0032】
ガイドホルダ部30は、平面視の外形が方形である上側ブロック30aと、平面視の外形が円形であり径方向Y,Zの寸法が上側ブロック30aを下回る下側ブロック30bと、を有する。このガイドホルダ部30には、上側ブロック30a及び下側ブロック30bにわたり、超音波振動ツール1を軸方向Xに挿入出可能に貫通したガイド穴31が設けられている。このため、ガイド穴31に挿入された超音波振動ツール1は、挿入方向X1と挿出方向X2のいずれについてもガイドされる。
【0033】
図3に示されるように、超音波振動ツール1は、図中の下方をツール先端としたとき、ツール先端に設けられた加工部2と、加工部2の軸方向Xの後端側に軸方向Xと直交する径方向Y,Zについて加工部2よりも大径となるように設けられた本体ハウジング3と、を有する。この超音波振動ツール1は、典型的には、作業者が手指で把持して使用するハンドツールとして構成される。この超音波振動ツール1の主要材料として、炭素工具鋼鋼材(SK材)を使用するのが好ましい。
【0034】
加工部2は、軸方向Xを長手方向とする円柱状の打ち抜き反刃として構成されている。加工部2は、その軸方向Xの長さ寸法がワークWの厚みに応じて設定され、その外径がワークWに予定されている貫通穴の穴径に応じて設定される。この加工部2は、穴あけ加工によってワークWに形成された貫通穴の内周面との接触を極力少なくするために、ツール後端に向かうにつれて縮径されたテーパー形状を有するのが好ましい。
【0035】
本体ハウジング3は、軸方向Xを長手方向とする円筒状部材である。この本体ハウジング3は、その外径が加工部2の外径を上回る。このため、相対的に大径部分である本体ハウジング3と相対的に小径部分である加工部2との境界に段差面4が形成されている。
【0036】
本体ハウジング3の筒内には、振動発生源である振動子5が収容されている。この振動子5は、別体の発信器(図示省略)に電気的に接続されている。発信器の作動に伴って振動子5で生じた超音波振動は、ツール先端の加工部2まで伝達される。このとき、超音波振動ツール1の本体ハウジング3は、振動時における軸方向Xの超音波振幅が加工部2の軸方向Xの超音波振幅を下回る低振幅部3aを有する。即ち、低振幅部3aは、実質的に穴あけ加工を行う加工部2に比べて軸方向Xの超音波振幅が小さく、加工部2から遠ざかることで振動仕事量が大幅に低下するようになっている。一般的には、本体ハウジング3のうち振動子5と加工部2との中央部における軸方向Xの超音波振幅がほぼゼロになり、加工部2において軸方向Xの超音波振幅が最大となることが知られている。本実施形態では、ガイドホルダ部30のガイド穴31の内周面が本体ハウジング3の低振幅部3aにおいてのみ超音波振動ツール1と摺動するように構成されている。
【0037】
図4に示されるように、
図3のA領域を拡大して説明すると、ガイドホルダ部30のガイド穴31は、軸方向Xに互いに連接して設けられた大径穴部31a及び小径穴部31bを有する。ここで、大径穴部31aは、ガイドホルダ部30の上側領域で開口する断面円形の部位である。この大径穴部31aは、超音波振動ツール1の本体ハウジング3との間に微小隙間を形成するように寸法設定されている。これに対して、小径穴部31bは、ガイドホルダ部30の下側領域で開口する断面円形で大径穴部31aよりも小径の部位である。この小径穴部31bは、超音波振動ツール1の加工部2との間に、大径穴部31aと本体ハウジング3との間の微小隙間を上回る隙間を形成するように寸法設定されている。
【0038】
これにより、超音波振動ツール1は、本体ハウジング3においてのみガイドホルダ部30のガイド穴31の大径穴部31aの内周面と摺動するのに対して、加工部2はガイド穴31の内周面とは摺動しないように、或いはガイド穴31の内周面との摺動度合いが本体ハウジング3を下回るように構成されている。
【0039】
また、ガイドホルダ部30のガイド穴31のうち大径穴部31aと小径穴部31bとの境界には、ストッパー部40としての当接面32が設けられている。この当接面32は、超音波振動ツール1が後述の穴あけ完了位置P2に到達したときに超音波振動ツール1の段差面4に当接する機能を果たす。このため、超音波振動ツール1がガイドホルダ部30のガイド穴31を挿入方向X1に貫通してワークWに対する穴あけ完了位置P2に到達したときに、この超音波振動ツール1が穴あけ完了位置P2から更に挿入方向X1へ動くのを、当接面32を利用して阻止できる。このような構成は、超音波振動ツール1の本体ハウジング3がワークWの被加工面Waに接触しないように、超音波振動ツール1の打ち抜き端或いは押しきり端の位置を保証するものである。
【0040】
図1及び
図3に示されるように、ガイド穴31の大径穴部31aは、超音波振動ツール1の円滑な挿入動作を可能とするために、その開口縁部が傾斜してなるテーパー面33を有する。このテーパー面33は、周方向に連続して一周形成されている。また、
図2~
図4に示されるように、ガイド穴31の小径穴部31bは、ワークWの被加工面Waに対向する対向面34で開口しており、その開口縁部が傾斜してなるテーパー面36を有する。このテーパー面36は、周方向に連続して一周形成されている。対向面34は、下側ブロック30bの円形の下面によって構成されている。
【0041】
なお、
図2では、テーパー面36を明確に示すために、このテーパー面36の領域にハッチングを施している。このテーパー面36によって対向面34にすり鉢状の凹部35が形成される。凹部35は、ワークWの穴あけ加工時に形成されたバリが圧し潰されるのを防ぐ圧し潰し防止空間Sを形成している。
【0042】
図1及び
図3に示されるように、ブラケット部50は、ベース部20とガイドホルダ部30との間に介装されており、ベース部20に複数の固定ボルト51によって固定されている。ブラケット部50は、ガイドホルダ部30の上側ブロック30aを下方から支持するように構成されている。
【0043】
また、特に
図1に示されるように、ブラケット部50は、ガイドホルダ部30の1つの側面に対向する対向壁部52と、ガイドホルダ部30の別の側面に対向する対向壁部53と、を有する。また、ブラケット部50において、対向壁部52を径方向Yに貫通する螺子穴に調整用ボルト54が螺合しており、また対向壁部53を径方向Zに貫通する螺子穴に調整用ボルト55が螺合している。そして、ガイドホルダ部30の1つの側面に調整用ボルト54のボルト軸の先端が当接しており、またガイドホルダ部30の別の側面に調整用ボルト55のボルト軸の先端が当接している。
【0044】
このため、調整用ボルト54の操作によってそのボルト軸の対向壁部52からの突出長さが変化することになり、軸方向Xと直交する径方向Yについてベース部20に対するガイドホルダ部30の位置を調整することができる。例えば、
図1において調整用ボルト54のボルト軸の突出長さが増えることによって、ガイドホルダ部30がベース部20に対して図中の左方向へスライドする。
【0045】
同様に、調整用ボルト55の操作によってそのボルト軸の対向壁部53からの突出長さが変化することになり、軸方向Xと直交する径方向Zについてベース部20に対するガイドホルダ部30の位置を調整することができる。例えば、
図1において調整用ボルト55のボルト軸の突出長さが増えることによって、ガイドホルダ部30がベース部20に対して図中の下方向へスライドする。
【0046】
このように、ブラケット部50は、ベース部20に対するガイドホルダ部30の径方向Y,Zの位置を調整可能に構成されている。
【0047】
次に、
図3~
図6を参照しながら、超音波振動ツール1を使用してワークWに穴あけ加工を施すときの様子について説明する。
【0048】
図3に示されるように、既知の構造の位置決めピンや固定手段を使用して、ワークWに対してツールガイド装置10を予め固定する。これにより、ベース部20の脚部21がワークWの被加工面Waに押し当てられる。その後、ブラケット部50調整用ボルト54,55を使用して、ベース部20に対するガイドホルダ部30の径方向Zの位置を調整する。これにより、ワークWの被加工面Waの所定位置に、ガイドホルダ部30のガイド穴31を位置合わせすることができる。
【0049】
図3及び
図4に示されるように、ガイドホルダ部30のガイド穴31に、大径穴部31a側から超音波振動ツール1を挿入する。その後、超音波振動ツール1を、加工前位置P1から挿入方向X1に下降させながら振動子5にて超音波振動を発生させる。超音波振動ツール1の加工部2がワークWの被加工面Waに接すると、この加工部2はワークWと接触及び非接触を断続的に繰り返す。接触時に発生する衝撃エネルギー及びその衝撃に伴って生じる熱エネルギーによって、ワークWのうち加工部2の外径に対応した領域が切削される。超音波振動ツール1をワークWから受ける反力に抗して加工完了位置P2に向けて挿入方向X1に徐々に下降させる。
【0050】
図5及び
図6に示されるように、超音波振動ツール1が穴あけ完了位置P2に到達したときに、ワークWにおける穴あけ加工が完了する。
図6において
図5のB領域を拡大して示すように、ワークWに加工部2の外径に対応した内径の貫通穴Wbがあけられる。
【0051】
ここでいう「穴あけ完了位置P2」として、典型的には、超音波振動ツール1の加工部2の先端がワークWの裏面(被加工面Waを表面としたときの反対側の面)から、加工部2の外径を下回る程度に僅かに突出した位置をいう。この穴あけ完了位置P2は、使用するワークWの厚みに応じて予め設定されるのが好ましい。
【0052】
超音波振動ツール1が穴あけ完了位置P2に到達した、超音波振動ツール1の段差面4がガイドホルダ部30の当接面32に当接する。これにより、穴あけ完了位置P2に到達した超音波振動ツール1が、この穴あけ完了位置P2から更に挿入方向X1へ動くのが阻止される。また、ワークWの穴あけ加工時に形成されたバリは圧し潰し防止空間Sに溜められる。
【0053】
ここでいう「バリ」は、典型的には、ワークWの穴あけ加工によって形成されたあとの貫通穴Wbの開口縁部から被加工面Wa側へ突出した突起やはみ出し部などによって構成される。
【0054】
上述の実施形態1によれば、以下のような作用効果が得られる。
【0055】
上記のツールガイド装置10において、ベース部20がワークWの被加工面Waに押し当てられた状態では、ガイドホルダ部30がワークWの被加工面Waに接することなく対向する。このガイドホルダ部30には、超音波振動ツール1を軸方向Xに挿入出可能に貫通したガイド穴31が設けられている。このため、ガイドホルダ部30のガイド穴31を挿入方向X1に貫通した超音波振動ツール1を、振動状態でワークWの被加工面Waに押し当てることによって、ワークWに軸方向Xの穴あけ加工を施すことができる。
【0056】
ここで、超音波振動ツール1がガイドホルダ部30のガイド穴31に直に挿入出されるため、超音波振動ツール1とガイドホルダ部30との間に別部材が介装される構造に比べて、超音波振動ツール1に対する隙詰め効果が得られ、超音波振動ツール1が軸方向Xに振動するときの動きの精度を高めることができる。このため、超音波振動ツール1が軸方向Xに対して傾いた状態でワークWに接触するのを抑制することができ、穴あけ加工時に生じるワークのバリを少なく抑えることができる。また、超音波振動ツール1からの振動を直に受けるガイドホルダ部30をワークWの被加工面Waに接触させることなく、ワークWの穴あけ加工を行うことができる。これにより、穴あけ加工時に製品品質が低下するのを防ぐことができる。
【0057】
また、超音波振動ツール1がガイドホルダ部30のガイド穴31を挿入方向X1に貫通してワークWに対する穴あけ完了位置P2に到達したときには、この超音波振動ツール1が穴あけ完了位置P2から更に挿入方向X1へ動くのがストッパー部40によって阻止される。このため、穴あけ加工完了後は、超音波振動ツール1の必要以上の動きが阻止されることになり、超音波振動ツール1から製品に過剰な振動が伝わったり、超音波振動ツール1が製品に接触し過ぎたりするのを防ぐことができる。これにより、穴あけ加工後に製品品質が低下するのを防ぐことができる。
【0058】
従って、上述の実施形態1によれば、穴あけ加工用の超音波振動ツール1をガイドするためのツールガイド装置10において製品品質の低下を防ぐのに有効な技術を提供することができる。
【0059】
上記のツールガイド装置10によれば、ガイドホルダ部30のガイド穴31のうち大径穴部31aと小径穴部31bとの境界に設けられた当接面32をストッパー部40として使用し、この当接面32が超音波振動ツール1の加工部2と本体ハウジング3との境界に設けられている段差面4に当接することによって、超音波振動ツール1が穴あけ完了位置P2から更に挿入方向X1へ動くのを阻止できる。これにより、ストッパー部40の構造をガイドホルダ部30のガイド穴31の異径構造を利用して簡素化することができる。
【0060】
上記のツールガイド装置10によれば、ガイドホルダ部30のガイド穴31の大径穴部31aの内周面を、加工部2に比べて軸方向Xの超音波振幅が小さい、本体ハウジング3の低振幅部3aにおいてのみ、超音波振動ツール1と摺動させることができる。これにより、ガイドホルダ部30のガイド穴31の内周面が、超音波振動ツール1の振動によって受ける影響を小さく抑えることができる。また、ガイドホルダ部30が本体ハウジング3のうち軸方向Xの超音波振幅が小さい低振幅部3aにおいてのみ摺動する構造であるため、許容範囲内で軸方向Xの摺動長さを増やすことができる。この場合、軸方向Xの摺動長さを増やすことで、超音波振動ツール1が軸方向Xに振動するときの動きの精度を更に高めることができる。
【0061】
上記のツールガイド装置10によれば、ガイドホルダ部30のうちワークWの被加工面Waとの対向面34に凹部35を設けることにより、この凹部35にワークWの穴あけ加工時に形成されたバリを溜めることができ、このバリが圧し潰されるのを防ぐことが可能になる。このため、穴あけ加工後の製品にバリが干渉するのを回避できる。特に、ガイド穴31の小径穴部31bの開口縁部に設けたテーパー面36を利用して圧し潰し防止空間Sを形成することができる。
【0062】
上記のツールガイド装置10によれば、ベース部20をワークWの被加工面Waに押し当てた状態で、ブラケット部50を使用してベース部20に対するガイドホルダ部30の径方向Y,Zの位置、即ちワークWに対する穴あけ位置を容易に調整することができる。
【0063】
上述の実施形態1において、超音波振動ツール1は、段差面4がガイドホルダ部30の当接面32に当接したことを検出して挿出方向X2に移動する機構を備えるのが好ましい。これにより、超音波振動ツール1の段差面4とガイドホルダ部30の当接面32とが接触する時間を極力短くすることができる。
【0064】
以下、上述の実施形態1に関連する他の実施形態について図面を参照しつつ説明する。他の実施形態において、実施形態1の要素と同一の要素には同一の符号を付しており、当該同一の要素についての説明は省略する。
【0065】
(実施形態2)
図7に示されるように、実施形態2のツールガイド装置110は、ブラケット部150がベース部20に対するガイドホルダ部30の位置調整機能を備えていない点で、実施形態1のツールガイド装置10と相違している。即ち、ツールガイド装置110のブラケット部150は、実施形態1のブラケット部50に設けられている、対向壁部52,53及び調整用ボルト54,55に相当する要素を備えていない。
【0066】
その他の構成は、実施形態1と同様である。
【0067】
実施形態2のツールガイド装置110によれば、ブラケット部150の構成を簡素化することによって、装置コストの低減を図ることができる。
【0068】
その他、実施形態1と同様の作用効果を奏する。
【0069】
上述の実施形態2のツールガイド装置110に特に関連する変更例として、ベース部20とガイドホルダ部30とブラケット部150の少なくとも2つを同一の素材からなる一体部品とした構造を採用することができる。
【0070】
本発明は、上記の本実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の応用や変形が考えられる。例えば、本実施形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
【0071】
上述の実施形態では、ベース部20に対して設けられるガイドホルダ部30の数が1つの場合について例示したが、ガイドホルダ部30の数はこれに限定されるものではなく、必要に応じて、複数のガイドホルダ部30を設けることもできる。これにより、ワークWの複数箇所に穴あけ加工に使用できる。この場合、複数のガイドホルダ部30の複数のガイド穴31が全て同径であってもよいし、複数のガイドホルダ部30の複数のガイド穴31の中に異径のガイド穴31が含まれていてもよい。
【0072】
上述の実施形態では、ガイドホルダ部30の対向面34に、圧し潰し防止空間Sを形成するための凹部35を設ける場合について例示したが、この凹部35に代えて或いは加えて、ガイドホルダ部30の対向面34に圧し潰し防止空間Sを形成するための別の凹部を設けることもできる。
【0073】
上述の実施形態では、ガイドホルダ部30の内部にストッパー部40を構成する当接面32を設ける場合について例示したが、これに代えて、ガイドホルダ部30の外部にストッパー部40に相当する要素を設け、この要素が超音波振動ツール1の穴あけ完了位置P1における挿入方向X1の動きを阻止するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0074】
1 超音波振動ツール
2 加工部
3 本体ハウジング
3a 低振幅部
4 段差面
10,110 ツールガイド装置
20 ベース部
30 ガイドホルダ部
31 ガイド穴
31a 大径穴部
31b 小径穴部
32 当接面(ストッパー部)
34 対向面
35 凹部
36 テーパー面
40 ストッパー部
50,150 ブラケット部
P2 穴あけ完了位置
S 圧し潰し防止空間
W ワーク
Wa 被加工面
X 軸方向
X1 挿入方向
Y,Z 径方向