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特許7287450ポリエステルからなる延伸フィルム及びその改質処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】ポリエステルからなる延伸フィルム及びその改質処理方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 71/04 20060101AFI20230530BHJP
   B29C 65/16 20060101ALI20230530BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230530BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
B29C71/04
B29C65/16
C08J5/18 CFD
C08J7/00 302
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021215079
(22)【出願日】2021-12-28
【審査請求日】2023-02-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤羽根 敬弘
(72)【発明者】
【氏名】湯淺 義之
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-037219(JP,A)
【文献】特開2018-188593(JP,A)
【文献】特開2017-052103(JP,A)
【文献】特開2005-319501(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00-65/82、71/04
C08J 5/00-5/02、5/12-5/22
7/00-7/02、7/12-7/18
B23K 26/00-26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムの表面に赤外域波長のレーザー光が照射されたヒートシール領域を有する延伸ポリエステルフィルムを備え、
前記ヒートシール領域は、前記レーザー光が照射された面側からフィルム厚み方向に向けて、ヒートシール前駆部、中間部、非改質部が順に形成されており、
前記ヒートシール前駆部の複屈折度が5×10-3以下であり、
前記中間部の厚みが2μm以下であり、
前記非改質部の複屈折度が、前記レーザー光の未照射部に対して20%以下の変化率であることを特徴とする延伸フィルム。
【請求項2】
前記ヒートシール前駆部の厚みが前記フィルムの全体の厚みの1%以上60%以下であることを特徴とする、請求項1記載の延伸フィルム。
【請求項3】
前記延伸ポリエステルフィルムは、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムである請求項1記載の延伸フィルム。
【請求項4】
前記延伸フィルムを、前記ヒートシール前駆部が露出するようにして、他のフィルムと積層している、請求項1記載の延伸フィルム。
【請求項5】
フィルムの表面の全面或いは一部に赤外域波長のレーザー光を照射してヒートシール領域を形成する処理方法であって、
前記レーザー光として、減衰係数が0.02μm-1以上を示すレーザー光を用いることを特徴とする延伸ポリエステルフィルムの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルからなる延伸フィルムとその改質処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
延伸ポリエステルフィルムは、強度、耐熱性、寸法安定性、耐薬品性、保香性等に優れており、包装用フィルムとして有用であるが、ヒートシール性が乏しい性質があり、この性質が延伸ポリエステルフィルムを包装用容器の内面フィルムとして利用することへの妨げになっていた。
【0003】
これに対して、延伸ポリエステルフィルムにヒートシール性を付与する改質処理方法が提案されている。この改質処理方法は、基本的には、レーザー光を延伸フィルムの表面に照射することで、結晶化度が低下したヒートシール領域を形成するものである。また、イージーピール性(易剥離性)に対応するために、レーザー光照射による線状パターンを形成して、線状パターンの間隔調整を行うことで、ヒートシール強度を制御することが提案されている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-58973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した従来技術は、イージーピール性の要求に対して、レーザー光照射による線状パターンの間隔調整でヒートシール強度の制御を行っている。これによると、レーザー光が照射されて処理部となる線状パターンと線状パターンの間にレーザー光が照射されていない未処理部が存在することになり、ヒートシール領域内に処理部と未処理部が混在することになる。
【0006】
このような従来技術によると、一対のフィルムのヒートシール領域を互いに対面接触させたときに、相互の線状パターンにずれが生じて、処理部と未処理部とが重なる状態になり得る。この状態になると、その重なり状態のずれ度合いに起因して、調整すべきシール強度にばらつきが生じ易くなる問題が懸念される。
【0007】
本発明は、このような問題を解消することを課題としている。すなわち、ポリエステルからなる延伸フィルムにヒートシール性を付与したヒートシール領域を形成し、そこでのシール強度を制御するに際して、シール強度のばらつきを抑制して、所望のシール強度が得られるようにすること、が本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するために、本発明は、以下の構成を具備するものである。
フィルムの表面に赤外域波長のレーザー光が照射されたヒートシール領域を有する延伸ポリエステルフィルムを備え、前記ヒートシール領域は、前記レーザー光が照射された面側からフィルム厚み方向に向けて、ヒートシール前駆部、中間部、非改質部が順に形成されており、前記ヒートシール前駆部の複屈折度が5×10-3以下であり、前記中間部の厚みが2μm以下であり、前記非改質部の複屈折度が、前記レーザー光の未照射部に対して20%以下の変化率であることを特徴とする延伸フィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、ポリエステルからなる延伸フィルムに赤外域波長のレーザー光を照射してヒートシール領域を形成するに際して、フィルムの厚み方向に向けて形成されるヒートシール前駆部、中間部、非改質部のうち、ヒートシール前駆部の厚みを調整して、ヒートシール強度の制御を行うことが可能となり、さらに、ヒートシール強度のばらつきが抑制され、所望のシール強度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る延伸フィルムの平面図。
図2】本発明の実施形態に係る延伸フィルムを説明する断面説明図(図1におけるA-A断面図)。
図3】実施例の積層フィルムを説明する断面説明図。
図4】実施例と比較例の結果を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の説明で、異なる図における同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。
【0012】
図1に示すように、延伸フィルム1は、ポリエステルからなる2軸延伸フィルムを備え、フィルムの表面に赤外域波長のレーザー光が照射されたヒートシール領域1Aを有する。図示の延伸フィルム1の2軸延伸ポリエステルフィルムにおいて、ヒートシール領域1A以外の領域はレーザー光の未照射部(未処理部)1Bである。
【0013】
図2の断面図に示すように、延伸フィルム1は、ヒートシール領域1Aが、レーザー光が照射された面側からフィルム厚み方向に向けて、ヒートシール前駆部T1、中間部T2、非改質部T3を有している。
【0014】
ここで、延伸フィルム1は、1軸延伸又は2軸延伸されたポリエステルフィルムである。ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、共重合ポリエステル、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0015】
延伸ポリエステルフィルムの一例は、2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムである。2軸延伸PETフィルムなどの2軸延伸ポリエステルフィルムは公知であり、その製造方法についても公知である。具体的には、2軸延伸ポリエステルフィルムは、例えば、ポリエステルを含む原料からなる未延伸原反フィルムに対して、流れ方向(MD)及び垂直方向(TD)のそれぞれの延伸倍率が2.0~6.0倍となる条件で2軸延伸した後、210~230℃で熱処理することによって得ることができる。2軸延伸方法としては、チューブラー方式やテンター方式による同時2軸延伸又は逐次2軸延伸を採用することができる。
【0016】
また、延伸フィルム1は、延伸ポリエステルフィルムの単体、延伸ポリエステルフィルムの層と他の樹脂層との積層体、延伸ポリエステルフィルムの層と金属(例えば、アルミニウム箔)層との積層体、延伸ポリエステルフィルムの層と金属(例えば、アルミニウム箔)層と他の樹脂層との積層体のいずれであってもよい。積層体の場合には、延伸ポリエステルフィルムの層がレーザー照射層になり、ヒートシール前駆部T1が露出するようにして、他のフィルムと積層する。
【0017】
ヒートシール領域1Aは、フィルムの表面に赤外域波長のレーザー光を照射して、延伸フィルム1を非晶化することで形成される。フィルムの結晶状態は、複屈折度で評価することができ、高結晶性のフィルムは複屈折度の値が大きく、非晶性のフィルムでは複屈折度の値が小さくなる。
【0018】
また、ヒートシール強度の制御には、ヒートシール領域1Aは、平面的な全領域が処理部であり、図1に示すようにヒートシール領域1Aを平面視した際に、その領域内に未処理部が存在しないことが望ましいが、ヒートシール強度の制御を行うことが可能な範囲において、ヒートシール領域1Aに未処理部が存在してもよい。ヒートシール領域1A内の処理部の割合は、60%以上が好ましく、70%以上がさらに好ましく、80%以上が特に好ましい。ヒートシール領域1Aを形成するレーザー光の照射として、照射面上のスポット径が所定値のレーザービームを用い、照射面上を繰り返し走査してヒートシール領域1Aを形成する場合があるが、この場合には、走査線間隔(スポット径の中心間距離)スポット径より小さくすることで、平面視のヒートシール領域1Aにおいて未処理部の割合を小さくすることができる。
【0019】
ヒートシール前駆部T1は、ヒートシール領域1Aにおけるレーザー光照射側の最表面層であり、その下層に中間部T2と非改質部T3が存在する。ヒートシール前駆部T1の複屈折度は、ヒートシール性を発現させるために、5×10-3以下である。
【0020】
ヒートシール前駆部T1の下層に中間部T2と非改質部T3が形成されるには、照射するレーザー光の照射条件を特定する必要がある。比較的波長の長い赤外域波長のレーザー光を照射した場合には、フィルム全体の厚さが複屈折度5×10-3以下になる場合がある。比較的波長の短い赤外域波長のレーザー光を照射することで、フィルム全体の厚さ方向でヒートシール前駆部T1の厚みを制御することが可能になり、その下層に中間部T2と非改質部T3が形成される。
【0021】
ヒートシール前駆部T1の厚みは、照射する赤外域レーザー光が延伸フィルム1に吸収され易いか否かで厚みに違い生じると考えられる。延伸ポリエステルフィルムに吸収され易い赤外域波長のレーザー光を照射すると、吸収によってレーザー光による改質が延伸フィルム1の厚さ方向に進行し難くなり、ヒートシール前駆体T1の下層側に中間部T2と非改質部T3が形成される。
【0022】
具体的には、フィルム全体の厚さが12μmの延伸ポリエステルフィルム(2軸延伸PETフィルム)の表面に、赤外域の波長10.6μmの炭酸ガスレーザーを照射すると、厚さ12μmの全層に複屈折度5×10-3以下の層が形成される。
【0023】
これに対して、延伸ポリエステルフィルム(2軸延伸PETフィルム)の光減衰率が波長10.6μmのレーザー光より大きい波長10.2μm或いは波長9.3μmのレーザー光を照射した場合、複屈折度5×10-3以下のヒートシール前駆部T1は、フィルムの厚さ12μmの表面のみを処理することが可能であり、その下層側には、中間部T2と非改質部T3が形成される。
【0024】
赤外域波長のレーザー光の波長と2軸延伸PETフィルムの光減衰率との関係は下記の表1に示すとおりである。
【0025】
【表1】
【0026】
ここでの減衰係数は、被照射体(2軸延伸PETフィルム)の厚みによらず、被照射体のレーザー光に対する吸収性を表している。厚みdの媒体に光強度Iのレーザー光を入射したとき、被照射体を透過後の光強度をIとすると、減衰係数μは、ランベルトの法則によって以下のように表すことができる。
【0027】
log(I/I)=μd
また、透過度Tは、T=I/I
吸光度E=-logT=log(I/I)となるので、
減衰係数μは、μ=E/d
【0028】
減衰係数μを用いてレーザー光の照射条件を設定する場合、波長10.6μm(減衰係数0.0076μm-1)と波長10.2μm(減衰係数0.023μm-1)の間に閾値があると考えられるので、例えば、減衰係数が0.02μm-1以上を示すレーザー光を照射することで、ヒートシール前駆部T1の下層側に、中間部T2と非改質部T3を得ることができる。しかしながら、ここでのレーザー光の照射条件は一例であり、延伸ポリエステルフィルムに対する光減衰率がある程度高い赤外域波長のレーザー光を照射することで、下層側に中間部T2と非改質部T3が形成されるヒートシール前駆部T1を得ることができる。
【0029】
中間部T2は、複屈折度がヒートシール前駆部T1と非改質部T3の中間的な値になり、複屈折度が5×10-3より大きく且つ非改質部の複屈折度より小さく、例えば、連続的に複屈折度が変化した状態(傾斜構造)であってもよい。これに対して、非改質部T3は、複屈折度5×10-3以下のヒートシール前駆部T1をフィルムの厚みの途中までで止めた場合に、レーザー光の照射方向に沿って中間部T2に隣接して形成される。非改質部T3の複屈折度は、レーザー光の未照射部1Bに対しての変化率が20%以下になる。このとき、中間部T2は、ヒートシール前駆部T1と非改質部T3に強固に接合されている。
【0030】
例えば、中間部T2が存在しない場合、ヒートシール前駆部T1と非改質部T3の界面で剥離してしまい膜残りなどの不具合を生じる虞があり、また、中間部T2の厚みが厚すぎると、ヒートシール強度の制御が困難となるため、例えば、中間部T2の厚みは、フィルムの全体厚さの大小に係らず、0.1μm以上、且つ2μm以下であることが好ましい。
【0031】
以下に実施例を説明する。
【0032】
[実施例]
延伸フィルム1として、図3に示す積層フィルムを用意した。この積層フィルムは、厚さ12μmの2軸延伸PETフィルム10を、ポリウレタン接着剤11を用いて厚さ7μmのアルミニウム箔12の両面にラミネートした積層体である。この積層フィルムに対して、下記の改質処理方法にて処理を行うことで、2軸延伸PETフィルム10にヒートシール領域(処理部)1Aを形成した。また、ヒートシール領域1Aにおけるヒートシール前駆部T1、中間部T2、非改質部T3の各層の厚み及び複屈折度を、下記方法にて測定して算出した。
【0033】
<改質処理方法>
レーザー光の光源として、赤外域の波長9.3μm(減衰係数0.035μm-1)のレーザー光を出射する炭酸ガスレーザー発振装置(COレーザー)を用いて、出力100W、照射表面上のスポット径が約1mm、走査速度11000~24000mm/sec、走査線間隔(スポット径の中心間距離)0.2~0.7mmにて、レーザー光を延伸フィルム1における2軸延伸PETフィルム10の表面に照射し、未処理部が存在しない、幅100mm、長さ10mmのヒートシール領域1Aを形成した。
【0034】
<複屈折度(Δn)の算出、各層の厚みの測定>
複屈折度の算出にあたり、ミクロトームを用いてヒートシール領域1Aから切片厚5μmのサンプル片を切削し、ティルティングコンペンセータを導入した偏光顕微鏡(カールツァイス社製;Axioplan2 imaging)を用いてリタデーション値の測定を行なった。
回転ステージで測定する層(例えばヒートシール前駆部T1)が最も明るく見える位置(対角位)に設定し、コンペンセータの目盛りを回して測定する層のリタデーションとコンペンセータのリタデーションが打ち消し合い、最も暗く見える角度値を読み取り、角度値に対応するリタデーション値を得た。この操作をヒートシール領域1Aにおけるヒートシール前駆部T1、中間部T2、非改質部T3のそれぞれで行い、各々のリタデーション値を得た。得られたリタデーション値に基づいて、複屈折度を下記式にて算出した。
複屈折度(Δn)=R/d(R:リタデーション、d:切片厚)
また、リタデーション値を測定する際に、各層(例えばヒートシール前駆部T1)が暗く見える範囲を各層の厚みとして測長を行ない、ヒートシール前駆部厚み、中間部厚み、非改質部厚みをそれぞれ測定した。
【0035】
<光減衰率%Eの測定>
フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR、VARIAN社製;FTS7000)を用いて測定した12μm厚の2軸延伸PETフィルムの赤外スペクトルにより、9.3μm波長、10.6μm波長に当たる943cm-1、1075cm-1の吸光度Aを求め、光の透過率%Tを%T=10-Aから算出した。光減衰率%Eは、%E=100-%Tで求められ、表1に示した。
【0036】
<ヒートシール強度の測定>
ヒートシール領域1Aが形成された延伸フィルム1のサンプルを2枚用意し、ヒートシール領域1Aを重ねて、ヒートシールバー温度180℃、加熱時間1秒、ヒートシール圧力0.2MPaの条件でヒートシールして得られた試料から、15mm巾の短冊を5点切り出し、テンシロン万能試験機(オリエンテック社製;UCT-5T)を用いてTピール法により引張速度300mm/分にてシール強度を測定し、上記5点の平均値から算出した。
【0037】
[比較例]
下記の改質処理方法を採用した以外は、実施例と同様にヒートシール領域を有する延伸フィルムを得た。
【0038】
<比較例の改質処理方法>
レーザー光の光源として、波長10.6μmの炭酸ガスレーザー発振装置(CO2レーザー)を用いて、出力30W、照射表面上のスポット径約1mm、走査速度1528~1910mm/sec、走査線間隔(スポット径の中心間距離)0.7mmにて、レーザー光を延伸フィルムの表面に照射し、幅100mm、長さ10mmのヒートシール領域を形成した。
【0039】
実施例の測定結果を表2に示し、比較例の測定結果を表3に示す。表2における「非改質部の変化率[%]」は、未照射部1Bの複屈折度に対する非改質部T3の複屈折度の変化率であって、100×(未照射部の複屈折度-非改質部の複屈折度)/(未照射部の複屈折度)で求めている。
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
実施例で使用した波長9.3μm(光減衰率:62%、減衰係数:0.035μm-1)のレーザー光は、比較例で使用した波長10.6μm(光減衰率19%、減衰係数:0.0076μm-1)のレーザー光に対して、光吸収性が高い。これによって、実施例は、2軸延伸PETフィルム10の12μmの厚さに対して、1.23μm~10.40μmのヒートシール前駆部T1(表2の「前駆部」)を形成している。この結果は、光吸収性が高いレーザー光を使用すると、レーザー光照射面側での吸収が強く起こるため、2軸延伸PETフィルム10の深さ方向での吸収が表面側よりも弱くなることに起因していると考えられる。これに対して、比較例では、厚み全体が改質されてしまい、実施例のようにヒートシール前駆部T1、中間部T2及び非改質部T3が形成されない。
【0043】
実施例の結果では、レーザー光の光吸収性に加えて、レーザー走査速度を変化させることで、ヒートシール前駆部T1の厚みを調整できることが示唆される。概ね、レーザー走査速度が遅い場合に、ヒートシール前駆部T1の厚みは大きくなり、レーザー走査速度が速い場合に、ヒートシール前駆部T1の厚みは小さくなる。これに対して、中間部T2の厚みは、ヒートシール前駆部T1の厚みの大小に依存せず概ね2μm以下になっている。
【0044】
実施例の結果からみて、ヒートシール前駆部T1の厚みによってヒートシール強度の制御が可能になる。図4は、実施例と比較例の結果を、横軸にヒートシール前駆部の厚み、縦軸にヒートシール強度をとってグラフ化したものである。実施例においては、概ね、ヒートシール前駆部T1の厚みに応じてヒートシール強度が高くなっていると言える。そして、実施例は、比較例に対してヒートシール強度が低くなっており、イージーピール性に対応できるヒートシール強度の制御が可能であることを示している。
【0045】
以上説明したように、ヒートシール領域1Aを形成するに際して、本発明の実施形態に係る延伸フィルム1又は延伸フィルム1の改質処理方法によって、前述したように、減衰係数が0.02μm-1以上を示す光吸収性が高いレーザー光を照射して、延伸ポリエステルフィルムの中に、レーザー光が照射される側から順に、ヒートシール前駆部T1、中間部T2、非改質部T3が形成される。
【0046】
これにより、ヒートシール領域1Aを平面的に一様に処理した場合であっても、ヒートシール前駆部T1の厚みを変えて、ヒートシール強度を制御することができ、ヒートシール強度のばらつきを抑制して、所望のシール強度を得ることができる。
【0047】
特に、イージーピール性に対応するためには、ヒートシール前駆部T1の厚みは、延伸ポリエステルフィルム全体厚みの1%以上60%以下の範囲で調整することが好ましく、更に1%以上45%以上の範囲が好ましく、1%以上25%以下の範囲で調整することが特に好ましい。ヒートシール前駆部T1の厚みが全体厚みの1%に満たない場合は、適正なヒートシール性を付与することができず、ヒートシール前駆部T1の厚みが全体厚みの60%を超える場合には、イージーピール性を実感することができなくなる。また、図4のグラフをみても、ヒートシール前駆部T1の厚みが全体の1%以上60%以下の範囲(全体厚み12μmで0.12~7.2μm)でヒートシール強度が適正に調整できることが示されている。
【符号の説明】
【0048】
1:延伸フィルム,1A:ヒートシール領域,1B:未照射部(未処理部),
T1:ヒートシール前駆部,T2:中間部,T3:非改質部,
10:2軸延伸PETフィルム,11:ポリウレタン接着剤,
12:アルミニウム箔
【要約】
【課題】シール強度を制御するに際して、シール強度のばらつきを抑制して、所望のシール強度が得られるようにする。
【解決手段】フィルムの表面に赤外域波長のレーザー光が照射されたヒートシール領域を有する延伸ポリエステルフィルムを備え、ヒートシール領域は、レーザー光が照射された面側からフィルム厚み方向に向けて、ヒートシール前駆部、中間部、非改質部が順に形成されており、ヒートシール前駆部の複屈折度が5×10-3以下であり、中間部の厚みが2μm以下であり、非改質部の複屈折度が、レーザー光の未照射部に対して20%以下の変化率である。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4