(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】セルロースナノクリスタル複合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 1/08 20060101AFI20230530BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20230530BHJP
C08B 5/14 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
C08L1/08
C08K3/08
C08B5/14
(21)【出願番号】P 2021516053
(86)(22)【出願日】2020-04-16
(86)【国際出願番号】 JP2020016721
(87)【国際公開番号】W WO2020218152
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2019084560
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】長▲浜▼ 英昭
(72)【発明者】
【氏名】木下 友貴
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-145585(JP,A)
【文献】特開2015-221845(JP,A)
【文献】特開2006-202598(JP,A)
【文献】特開平04-122743(JP,A)
【文献】特開2009-099687(JP,A)
【文献】国際公開第2020/059525(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/085090(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08B 5/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース原料を硫酸処理することにより得られた、硫酸基及び/又はスルホ基含有セルロースナノクリスタルを、親水化処理することにより、硫酸基及び/又はスルホ基、及びアニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルを調製し、該硫酸基及び/又はスルホ基、及びアニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルに、金属微粒子を担持させることを特徴とするセルロースナノクリスタル複合体の製造方法。
【請求項2】
前記親水化処理が、ネバードライ処理、カルボジイミド、硫酸、三酸化硫黄-ピリジン錯体、リン酸-尿素の何れかを用いた処理である請求項1記載のセルロースナノクリスタル
複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属微粒子が担持されたセルロースナノクリスタル複合体及びその製造方法に関するものであり、より詳細には、金属微粒子の担持効率や安定性が高いと共に、分散液としたときの粘性や分散性に優れたセルロースナノクリスタル複合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノセルロースは、高度バイオマス原料として、機能性添加剤、フィルム複合材料等として種々の用途に使用することが提案されている。特に、セルロース繊維を機械的処理により微細化すると共に、化学的処理によりカルボキシル基やリン酸基等の親水性の官能基がセルロースの水酸基に置換導入されたセルロースナノファイバーは、微細化処理に要するエネルギーが低減されると共に、水系溶媒への分散性及び分散液の透明性が向上することから、種々の用途への応用が試みられている(特許文献1等)。
【0003】
ところで、金属微粒子、特に粒子径が100nm以下の金属超粒子は、その特性が一般の金属粒子と大きく異なり、表面活性及び表面積が大きいことから、色剤、抗菌剤、触媒、吸着剤等、種々の分野でその利用が提案されている。その一方、金属超微粒子は凝集しやすいことから金属超微粒子が有する優れた特性を効率よく発揮させるためには、金属超微粒子が均一に分散された状態を維持する必要がある。
このような金属超微粒子の担持体として、上記セルロースナノファイバーとの組み合わせが提案されている。
【0004】
例えば、下記特許文献2には、(A)表面にカルボキシル基またはカルボキシレート基を有するセルロースナノファイバーおよび(B)金属ナノ粒子を含む複合体であって、前記(B)金属ナノ粒子は、前記セルロースナノファイバーのカルボキシル基またはカルボキシレート基を接点として前記セルロースナノファイバーに担持されている、複合体が記載されている。
また下記特許文献3には、木材を由来とする微細セルロースの表面上に、銀またはその化合物からなる金属微粒子が担持されてなる抗菌性微細セルロースであって、前記微細セルロースは、少なくともその結晶表面にカルボキシル基を有し、前記金属微粒子は、前記微細セルロースの結晶表面のカルボキシル基上に析出したものであることを特徴とする抗菌性微細セルロースが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4998981号公報
【文献】特許第5566368号公報
【文献】特許第6260077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献2及び3で使用されているTEMPO触媒を用いて化学処理されたセルロースナノファイバーは繊維長が長く、その分散液は粘度や増粘性が高くチクソトロピー性が大きいことから塗工性や塗布感に劣る等の取扱い性の点で未だ充分満足するものではなく、金属微粒子が有する優れた特性を効率よく快適に発揮させることが困難である。
また、金属超微粒子は凝集しやすく、更に乾燥体は被固着物から脱離しやすいことから、金属超微粒子が有する優れた特性を効率よく発揮させるためには、金属超微粒子を均一に分散させ、かつ分散性や固着性等を付与する為の担持体に結合させることが必要である。金属微粒子が有する性能をより効果的に発現させるためには、ナノセルロースにより多くの金属微粒子を効率よく安定的に担持させることも必要である。
【0007】
従って本発明の目的は、金属微粒子を担持可能なアニオン性官能基を多く含有して、金属微粒子を効率よく安定的に担持可能であると共に、分散液の増粘やチクソトロピー性を抑制可能で取扱い性にも優れた金属微粒子を担持したセルロースナノクリスタル複合体及びその製造方法を提供することである。
本発明の他の目的は、金属微粒子担持セルロースナノクリスタル複合体が均一に分散された透明性に優れた分散液、及び金属微粒子担持セルロースナノクリスタル複合体を含有する抗菌性能等の金属微粒子由来の性能を効率よく発現可能な成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、セルロース原料を硫酸処理することにより得られた、硫酸基及び/又はスルホ基含有セルロースナノクリスタルを、親水化処理することにより、硫酸基及び/又はスルホ基、及びアニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルを調製し、該硫酸基及び/又はスルホ基、及びアニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルに、金属微粒子を担持させることを特徴とするセルロースナノクリスタル複合体の製造方法が提供される。
本発明のセルロースナノクリスタル複合体の製造方法においては、前記親水化処理が、ネバードライ処理、カルボジイミド、硫酸、三酸化硫黄-ピリジン錯体、リン酸-尿素の何れかを用いた処理であることが好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のセルロースナノクリスタル複合体は、極性の高い硫酸基及び/又はスルホ基や2価のリン酸基等のアニオン性官能基を上記範囲で有するセルロースナノクリスタルを用いることにより、金属微粒子の担持効率と安定性が高くなると共に、セルロースナノクリスタルそれ自体が分散媒に分散性良く分散することが可能であることから、金属微粒子は凝集することなく、分散液に均一に安定的に分散することが可能になる。
またセルロースナノクリスタルは、繊維長が短く且つ繊維幅が細いことから、セルロースナノファイバーを用いた場合等に比して、分散液の粘度の増粘やチクソトロピー性を抑制できると共に、透明性にも優れている。
更に、本発明のセルロースナノクリスタル複合体は、分散液の粘度の増粘やチクソトロピー性が抑制されていることから塗工性や塗布感等の取扱い性に優れており、金属微粒子が担持されたセルロースナノクリスタル複合体を含有する成形体を成形性よく成形することができる。
更にアニオン性官能基を上記範囲で含有するセルロースナノクリスタルは、ナノセルロース間の荷電反発により、繊維同士が分離しやすいという性質を有することから、本発明のセルロースナノクリスタル複合体は、アルコール等の水以外のプロトン性溶媒中でも良好な分散性を有しており、疎水性樹脂に対しても親和性を有すると共に、乾燥又は加熱時間を短縮することができるため、成形性も優れている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1で得られた複合体をシリコンウエハ上にスピンコートした後の銀微粒子と親水化セルロースナノクリスタルのSPM像である(300nmスキャン)。
【
図2】比較例1で得られた複合体をシリコンウエハ上にスピンコートした後の銀微粒子とセルロースナノクリスタルのSPM像である(1μmスキャン)。
【
図3】比較例2で得られた複合体をシリコンウエハ上にスピンコートした後の銀微粒子とセルロースナノファイバーのSPM像である(1μmスキャン)。
【
図4】実施例1で得られた複合体の回転数を上昇させた後に降下させた時の粘度である。
【
図5】比較例3で得られた複合体の回転数を上昇させた後に降下させた時の粘度である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(セルロースナノクリスタル)
本発明に用いるセルロースナノクリスタルは、硫酸基及び/又はスルホ基、及びアニオン性官能基を含有するセルロースナノクリスタルであって、前記硫酸基及び/又はスルホ基、及びアニオン性官能基の総量が0.17mmol/gより多く且つ4.0mmol/g以下、特に0.25~1.5mmol/gであることが重要である。
上記範囲よりも硫酸基及び/又はスルホ基、及びアニオン性官能基の総量が少ない場合には、上記範囲にある場合に比して、ナノセルロースの荷電反発が低下し、セルロースナノクリスタルの分散性が低下すると共に、所望の金属微粒子担持能を得ることができないおそれがある。その一方上記範囲よりも硫酸基及び/又はスルホ基、及びアニオン性官能基の総量が多い場合には、ナノセルロースの結晶構造が維持できず、セルロースナノクリスタルが本来有する結晶化度、強度、ガスバリア性等の優れた性能が損なわれるおそれがある。
なお、本発明において、セルロースナノクリスタルが含有する「アニオン性官能基」は、親水化処理によりセルロースナノクリスタルに導入されたアニオン性官能基を意味するが、後述するように、親水化処理によりアニオン性官能基として更に硫酸基及び/又はスルホ基が導入される場合があり、この場合には、セルロースナノクリスタルには「アニオン性官能基」も含めて、硫酸基及び/又はスルホ基のみが含有された状態となる。
【0014】
本発明においては、セルロースナノクリスタルが、硫酸処理により加水分解されたセルロースナノクリスタルであることが好適であり、これにより、陽イオン交換能が高く、金属を効率よく担持可能な硫酸基及び/又はスルホ基を既に含有している。すなわち、セルロースナノクリスタルには、セルロース繊維を硫酸処理或いは塩酸処理により酸加水分解するものがあるが、塩酸処理によるセルロースナノクリスタルは硫酸基及び/又はスルホ基を有していないことから、硫酸処理によるセルロースナノクリスタルに比して金属微粒子担持能力が劣っている。また硫酸基及び/又はスルホ基を有することにより、前述したとおり、ナノセルロースの荷電反発によるプロトン性溶媒中での分散性の向上を図ることができる。
セルロースナノクリスタルが有するアニオン性官能基は、後述するセルロースナノクリスタルの親水化処理の方法によって決まり、特にカルボキシル基、リン酸基、硫酸基及び/又はスルホ基であることが好適である。
尚、本明細書において、硫酸基は硫酸エステル基をも含む概念である。
【0015】
本発明において、金属微粒子を担持させるセルロースナノクリスタルは、セルロース原料を硫酸処理することにより得られた、硫酸基及び/又はスルホ基含有セルロースナノクリスタルを、親水化処理することにより製造することができる。また親水化処理の前後、必要により、解繊処理、分散処理に付することもできる。
【0016】
[セルロースナノクリスタル]
本発明のナノセルロースの原料として使用される、セルロースナノクリスタルは、パルプなどのセルロース繊維を硫酸や塩酸で酸加水分解処理することにより得られる、ロッド状のセルロース結晶繊維であるが、本発明においては、自己組織化構造の形成に寄与可能な硫酸基及び/又はスルホ基を有する、硫酸処理によるセルロースナノクリスタルを使用する。
セルロースナノクリスタルは、硫酸基及び/又はスルホ基を0.01~0.17mmol/gの量で含有することが好適である。またセルロースナノクリスタルは、平均繊維径が50nm以下、特に2~50nm、の範囲にあり、平均繊維長が100~500nmの範囲にあり、アスペクト比が5~50の範囲にあり、結晶化度が60%以上、特に70%以上であるものを好適に用いることができる。
本発明で用いる硫酸基及び/又はスルホ基、及びアニオン性官能基を上記範囲の量で含有するセルロースナノクリスタルは、硫酸基及び/又はスルホ基を有するセルロースナノクリスタルに後述する親水化処理を施すことにより得られるが、従来の酸化方法によって製造された、繊維幅が50nm以下でアスペクト比が10以上であるセルロースナノファイバーを、本発明のナノセルロースが有する優れたバリア性や取扱い性を損なわない範囲で含有させてもよく、具体的には、セルロースナノクリスタルの50%未満の量で使用することができる。
【0017】
[親水化処理]
本発明においては、上述した硫酸基及び/又はスルホ基を有するセルロースナノクリスタルの親水化処理を行うことにより、硫酸基及び/又はスルホ基量を調整、或いは、カルボキシル基、リン酸基等のアニオン性官能基をセルロースの水酸基に導入し、硫酸基及び/又はスルホ基、カルボキシル基、リン酸基等のアニオン性官能基の総量が0.17mmol/gより多く且つ4.0mmol/g以下、特に0.25~1.5mmol/gの範囲にあるナノセルロースを調製する。
親水化処理としては、ネバードライ処理、水溶性カルボジイミド、硫酸、三酸化硫黄-ピリジン錯体、リン酸-尿素、TEMPO触媒、酸化剤の何れかを用いて行う。ネバードライ処理、カルボジイミド、硫酸、三酸化硫黄-ピリジン錯体、の何れかを用いた処理により、セルロースナノクリスタルの硫酸基及び/又はスルホ基量が調整されると共に、更にナノセルロースが更に短繊維化される。またリン酸-尿素又はTEMPO触媒、酸化剤の何れかを用いた処理により、リン酸基又はカルボキシル基のアニオン性官能基が導入されて、ナノセルロースの総アニオン性官能基量が上記範囲に調整される。
尚、親水化処理は、アニオン性官能基の総量が上記範囲となる限り、いずれか一つの処理を行えばよいが、同一の処理を複数回、或いは他の処理と組み合わせて複数回行ってもよい。
【0018】
<ネバードライ処理を用いた親水化処理>
セルロースナノクリスタルは、スプレードライ、加熱、減圧などによる乾燥処理を行ってパウダー等の固形化を経るが、乾燥処理による固形化の際にセルロースナノクリスタルに含有するアニオン性官能基の一部が脱離して親水性が低下する。すなわち、硫酸基及び/又はスルホ基、リン酸基、カルボキシル基等のアニオン性官能基を含有するセルロースナノクリスタルについてパウダー等の固形化を経ないネバードライ処理は親水化処理として挙げられる。
ネバードライ処理は、用いる硫酸基及び/又はスルホ基含有セルロースナノクリスタルを固形化しない、すなわち、それ単独の処理の場合の他、カルボジイミド、硫酸、三酸化硫黄-ピリジン錯体、リン酸-尿素、TEMPO触媒の何れかを用いた親水化処理との組み合わせで行うことができる。
【0019】
<カルボジイミドを用いた親水化処理>
カルボジイミドを用いた処理においては、ジメチルホルムアミド等の溶媒中でセルロースナノクリスタルとカルボジイミドを撹拌し、これに硫酸を添加した後、0~80℃の温度で5~300分反応させて硫酸エステルとする。カルボジイミド及び硫酸は、セルロースナノクリスタル1g(固形分)に対して5~30mmol及び5~30mmolの量で使用することが好ましい。
次いで水酸化ナトリウム等のアルカリ性化合物を添加して、セルロースナノクリスタルに導入された硫酸基及び/又はスルホ基をH型からNa型に変換することが、収率を向上する上で好ましい。その後、透析膜等を用いた濾過処理に付して不純物等を除去することにより、硫酸基及び/又はスルホ基変性セルロースナノクリスタルが調製される。
カルボジイミドとしては、分子内にカルボジイミド基(-N=C=N-)を有する水溶性化合物である1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド等を例示できる。また有機溶媒に溶解するジシクロヘキシルカルボジイミド等を使用することもできる。
【0020】
<硫酸を用いた親水化処理>
本発明で使用するセルロースナノクリスタルは、セルロース繊維を硫酸で加水分解処理して成る硫酸基及び/又はスルホ基含有セルロースナノクリスタルであるが、このセルロースナノクリスタルを更に硫酸を用いて親水化処理する。硫酸は、セルロースナノクリスタル1g(固形分)に対して40~60質量%で使用することが好ましい。40~60℃の温度で5~300分反応させ、その後、透析膜等を用いた濾過処理に付して不純物等を除去することにより、硫酸基及び/又はスルホ基変性セルロースナノクリスタルが調製される。
【0021】
<三酸化硫黄-ピリジン錯体を用いた親水化処理>
三酸化硫黄-ピリジン錯体を用いた処理においては、ジメチルスルホキシド中でセルロースナノクリスタルと三酸化硫黄-ピリジン錯体を、0~60℃の温度で5~240分反応させることにより、セルロースグルコールユニットの水酸基に硫酸基及び/又はスルホ基を導入する。
三酸化硫黄-ピリジン錯体は、セルロースナノクリスタル1g(固形分)に対して0.5~4gの質量で配合することが好ましい。
反応後、水酸化ナトリウム等のアルカリ性化合物を添加して、セルロースナノクリスタルに導入された硫酸基及び/又はスルホ基をH型からNa型に変換することが、収率を向上する上で好ましい。その後、ジメチルホルムアミド又はイソプロピルアルコールを添加して、遠心分離等によって洗浄した後、透析膜等を用いた濾過処理によって不純物等を除去し、得られた濃縮液を水に分散させることにより、硫酸基及び/又はスルホ基変性セルロースナノクリスタルが調製される。
【0022】
<リン酸-尿素を用いた親水化処理>
リン酸-尿素を用いた親水化処理は、リン酸-尿素を用いてリン酸基を導入する従来公知の処理と同様に行うことができる。具体的には、尿素含有化合物の存在下で、セルロースナノクリスタルとリン酸基含有化合物を、135~180℃の温度で5~120分反応させることによって、セルロースグルコースユニットの水酸基にリン酸基を導入する。
リン酸基含有化合物としては、リン酸、リン酸のリチウム塩、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩等を例示できる。中でもリン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸等を好適に単独または混合して使用できる。リン酸基含有化合物は、セルロースナノクリスタル10g(固形分)に対して10~100mmolの量で添加することが好ましい。
また尿素含有化合物としては、尿素、チオ尿素、ビュウレット、フェニル尿素、ベンジル尿素、ジメチル尿素などを例示できる。中でも尿素を好適に使用できる。尿素含有化合物は、セルロースナノクリスタル10g(固形分)に対して150~200mmolの量で使用することが好ましい。
【0023】
<TEMPO触媒を用いた親水化処理>
TEMPO触媒(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシル)を用いた親水化処理は、TEMPO触媒を用いた従来公知の酸化方法と同様に行うことができる。具体的には、硫酸基及び/又はスルホ基を有するセルロースナノクリスタルを、TEMPO触媒(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシル)を介した水系、常温、常圧の条件下で、セルロースグルコースユニットの6位の水酸基をカルボキシル基に酸化する親水化反応を生じさせる。
TEMPO触媒としては、上記2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシルの他、4-アセトアミドーTEMPO、4-カルボキシーTEMPO、4-フォスフォノキシーTEMPO等のTEMPOの誘導体を用いることもできる。
TEMPO触媒の使用量は、セルロースナノクリスタル(固形分)1gに対して0.01~100mmol、好ましくは0.01~5mmolの量である。
【0024】
また親水化処理時には、単独又はTEMPO触媒と共に、酸化剤、臭化物又はヨウ化物等の共酸化剤を併用することが好適である。
酸化剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸又はそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物等公知の酸化剤を例示することができ、特に次亜塩素酸ナトリウムや次亜臭素酸ナトリウムを好適に使用できる。酸化剤は、セルロースナノクリスタル(固形分)1gに対して0.5~500mmol、好ましくは5~50mmolの量である。酸化剤を添加して一定時間が経過した後、更に酸化剤を加えることで追酸化処理することもできる。
また共酸化剤としては、臭化ナトリウム等の臭化アルカリ金属、ヨウ化ナトリウム等のヨウ化物アルカリ金属を好適に使用できる。共酸化剤は、セルロースナノクリスタル(固形分)1gに対して0.1~100mmol、好ましくは0.5~5mmolの量である。
また反応液は、水やアルコール溶媒を反応媒体とすることが好ましい。
【0025】
親水化処理の反応温度は1~50℃、特に10~50℃の範囲であり、室温であってもよい。また反応時間は1~360分、特に60~240分であることが好ましい。
反応の進行に伴い、セルロース中にカルボキシル基が生成するため、スラリーのpHの低下が認められるが、酸化反応を効率よく進行させるため、水酸化ナトリウム等のpH調整剤を用いてpH9~12の範囲に維持することが望ましい。
酸化処理後に、使用した触媒等を水洗などにより除去する。
【0026】
[解繊処理]
本発明においては、原料として繊維長の短いセルロースナノクリスタルを使用するので、必ずしも必要ではないが、親水化処理後に解繊処理を行うこともできる。
解繊処理は、従来公知の方法によって行うことができ、具体的には、超高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、グラインダー、高速ブレンダ―、ビーズミル、ボールミル、ジェットミル、離解機、叩解機、二軸押出機等を使用して微細化することができる。
解繊処理は、親水化処理後のナノセルロースの状態や、ナノセルロースの用途に応じて、乾式又は湿式の何れで行うこともできる。ナノセルロースは、分散液の状態で使用することが好適であることから、水等を分散媒として超高圧ホモジナイザー等により解繊することが好適である。
【0027】
[分散処理]
本発明のセルロースナノクリスタル複合体においては、後述するように、セルロースナノクリスタルの分散液の状態で金属微粒子を供与可能な金属化合物と混合することが好適であることから、セルロースナノクリスタルは分散処理に付することが望ましい。
分散処理は超音波分散機、ホモジナイザー、ミキサー等の分散機を好適に使用することができ、また、攪拌棒、攪拌石等による攪拌方法を用いても良い。
【0028】
(金属微粒子)
本発明のセルロースナノクリスタル複合体が担持する金属微粒子の金属種は特に限定されず、金属微粒子が有する抗菌性能、吸着性能、触媒性能等の所望の作用効果によって適宜選択することができる。これに限定されないが、Cu,Ag,Au,In,Pd,Pt,Fe,Ni,Co,Zn,Nb,Sn,Ru,Rh,Ti等を例示することができる。金属微粒子は、単一の金属種の他、合金、或いは複数種の金属微粒子が担持されていてもよい。
金属微粒子は、これに限定されないが、平均一次粒径が50nm以下、特に5~20nmの範囲にあることが好適であり、これによりセルロースナノクリスタル表面に緻密に且つ安定的に担持させることができると共に、金属微粒子由来の機能を効率よく発揮することが可能になる。
【0029】
(セルロースナノクリスタル複合体の製造方法)
本発明の金属微粒子が担持されているセルロースナノクリスタル複合体は、前述したとおり、セルロース原料を硫酸処理することにより得られた硫酸基及び/又はスルホ基含有セルロースナノクリスタルを、親水化処理することにより調製された、硫酸基及び/又はスルホ基、及びアニオン性官能基の総量が0.17mmol/gより多く且つ4.0mmol/g以下であるセルロースナノクリスタル表面の硫酸基及び/又はスルホ基やリン酸基等のアニオン性官能基と金属のカチオンを相互作用させて、金属微粒子を担持させることにより製造される。
硫酸基及び/又はスルホ基、及びアニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルに金属微粒子を担持させる方法としては、硫酸基及び/又はスルホ基、及びアニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルの分散液と、金属化合物を含有する溶液を混合した後、金属化合物を還元することによって、金属微粒子が担持されたセルロースナノクリスタルとすることができる。
金属含有溶液は、金属イオンや、ハロゲン化物、硝酸塩、及び酢酸塩等の金属化合物を含有する溶液であることが好ましい。金属含有溶液中の金属イオンや金属化合物の濃度は特に限定されないが、セルロースナノクリスタル100質量部に対して0.01~10質量部の量で含有されていることが好ましい。
【0030】
セルロースナノクリスタル分散液と金属化合物溶液を混合した後、金属化合物を還元して金属微粒子を析出することにより、金属微粒子が担持されたセルロースナノクリスタル複合体分散液を調製することができる。
金属化合物の還元方法は公知の方法により行うことができるが、金属化合物を還元する際に、金属化合物とアニオン性官能基との結合を阻害しないことが望ましい。このような還元方法としては、水素による気相還元法、還元剤を用いた液相還元法を例示できるが、セルロースナノクリスタル分散液と金属化合物溶液の混合液に容易に使用できることから、還元剤を用いた液相還元法によることが好ましい。
還元剤としては、これに限定されないが、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化アルミニウムリチウム、シアノ化水素化ホウ素ナトリウム、トリアルコキシ水素化アルミニウムリチウム、ジイソブチル水素化アルミニウム等の水素化金属を例示できるが、安全性や汎用性等の観点から水素化ホウ素ナトリウムを好適に使用できる。
還元剤の添加量は、金属化合物の金属種等によっても異なり一概に規定できないが、金属化合物1当量に対して1~10当量となるように添加することが望ましい。
【0031】
金属微粒子が担持されたセルロースナノクリスタル複合体を含有する分散液は、セルロースナノクリスタル複合体濃度が1質量%の回転数2.5rpmでの分散液の粘度が1000mPa・S以下、特に1~100mPa・S(回転粘度計、温度20℃)であり、セルロースナノクリスタルが繊維幅が50nm以下、繊維長が500nm以下と細く短いことから、増粘とチクソトロピー性が抑制されており、分散性、塗工性、塗布感、乾燥等の取扱い性に優れている。
増粘は水に溶解又は分散して粘稠性を生じる高分子によって発現する現象であり、多糖類やセルロースの化学的誘導体等が一般的に用いられるが、増粘は分散液の取り扱い性に大きく影響し、増粘が低い分散液ほど他の分散液への希釈分散処理に要する時間やエネルギーが掛からず、また塗工性、塗布感、乾燥等の取り扱い性の面で優れている。また分散液のチクソトロピー性は回転数等せん断速度を上昇させた後に下げるヒステリシスループ測定を行うことによって生じるせん断速度-せん断応力のループにより観測され、このループ面積を比較することで分散液のチクソトロピー性の程度を評価することができる。チクソトロピー性があると分散液に繰り返しせん断を加えることで粘度が低下し、塗工や塗布時での粘度低下や、使用前に与えたせん断刺激により塗工性や塗布感が変化するため、チクソトロピー性を抑制させることで塗工性や塗布感が変化しにくい効果がある。
また得られたセルロースナノクリスタル複合体分散液は、セルロースナノクリスタル複合体(固形分)1質量%の分散液で波長750nmにおける全光線透過率が50%T以上の優れた透明性を有している。
また本発明のセルロースナノクリスタル複合体分散液には、充填剤、着色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、耐水化剤、架橋剤、金属塩、コロイダルシリカ、アルミナゾル、酸化チタン等、公知の添加剤を配合することができる。
【0032】
セルロースナノクリスタル複合体分散液は、水分散液のままでも使用することができるが、溶媒置換することにより、水以外のアルコール等の誘電率(25℃)が15以上80未満のプロトン性極性溶媒を分散媒とする分散液とすることができる。これにより疎水性の樹脂にも希釈剤等として使用することが可能になる。
溶媒置換の方法としては、セルロースナノクリスタル複合体水分散液を、遠心分離機や、フィルタを用いた濾過等の脱水方法により水分散液の水分を除去した後、プロトン性極性溶媒と混合することによって行うことができる。溶媒置換処理後、上記分散処理と同様の方法によりナノセルロースをプロトン性極性溶媒中に分散させることによってセルロースナノクリスタル複合体分散液が調製される。
【0033】
(成形体)
上記方法で調製された本発明のセルロースナノクリスタル複合体分散液は、それ単独で、セルロースナノクリスタル複合体の緻密な自己組織化構造に由来するガスバリア性を有すると共に、金属微粒子が有する抗菌性等の機能を兼ね備えたフィルムやシート等の成形体を容易に成形することができる。また本発明のセルロースナノクリスタル複合体をプロトン性極性溶媒に分散して成る分散液は疎水性の樹脂に対しても親和性を有すると共に、短時間での乾燥又は加熱により効率よく溶媒を除去できるため、効率よく成形体を成形できる。
【0034】
[多価カチオン樹脂との混合物から成る成形体]
本発明のセルロースナノクリスタル複合体分散液は、上述したとおりそれ単独で成形体を成形することも可能であるが、多価カチオン樹脂から成る層上にセルロースナノクリスタル複合体分散液から成る層を形成することによって、基材への密着性を発現可能な混合状態を有する混合物の成形体として成形できる。すなわち、セルロースナノクリスタルが有する自己組織化構造が維持された状態で多価カチオン樹脂及びセルロースナノクリスタル複合体が混合された混合物から成る成形体を成形することができ、この成形体の最外部の表面付近から最内部の表面(例えば熱可塑性樹脂から成る基材上に形成した場合には基材方向)までナノセルロースと多価カチオン樹脂が存在している。
【0035】
多価カチオン樹脂としては、水溶性あるいは水性分散性の多価カチオン性官能基を含有する樹脂である。このような多価カチオン樹脂としては、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリアミンポリアミドエピクロロヒドリン、ポリアミンエピクロロヒドリン等の水溶性アミンポリマー、ポリアクリルアミド、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム塩)、ジシアンジアミドホルマリン、ポリ(メタ)アクリレート、カチオン化澱粉、カチオン化ガム、ゼラチン、キチン、キトサン等を挙げることができるが、中でも水溶性アミン及び/又はアミノ基含有ポリマー、特にポリエチレンイミンを好適に使用することができる。
【0036】
多価カチオン樹脂含有溶液は、多価カチオン樹脂を固形分基準で0.01~30質量%、特に0.1~10質量%の量で含有する溶液であることが好ましい。上記範囲よりも多価カチオン樹脂の量が少ない場合には、上記範囲にある場合に比して、界面剥離強度の向上を図ることができず、一方上記範囲よりも多価カチオン樹脂の量が多くても界面剥離強度の更なる向上は得られず経済性に劣ると共に、塗工性や製膜性にも劣るおそれがある。
また多価カチオン樹脂含有溶液に用いる溶媒としては、水、メタノール,エタノール,イソプロパノール等のアルコール、2-ブタノン,アセトン等のケトン、トルエン等の芳香族系溶剤、及びこれらと水との混合溶媒であってもよい。
【0037】
多価カチオン樹脂含有溶液は、セルロースナノクリスタル複合体分散液から形成される層中のセルロースナノクリスタル複合体の固形分量を基準に、多価カチオン樹脂含有溶液の濃度によって塗工量が決定される。すなわち、前述したとおり、セルロースナノクリスタル複合体(固形分)を1m2当たり1.0gの量で含有する場合に、多価カチオン樹脂が1m2当たり0.01~2.0gの量で含有されるように、塗布することが好ましい。上記範囲よりも多価カチオン樹脂の量が少ない場合には、上記範囲にある場合に比して、ポリエステル樹脂などの疎水性の基材に対する界面剥離強度の向上を図ることができず、その一方、上記範囲よりも多価カチオン樹脂の量が多くても界面剥離強度の更なる向上は得られず、経済性に劣るようになる。
塗布方法としては、これに限定されないが、例えばスプレー塗装、浸漬、或いはバーコーター、ロールコーター、グラビアコーター、スピンコーター、手指等により塗布することが可能である。また塗膜の乾燥方法としては、温度5~200℃で0.1秒~24時間の条件で乾燥することが好ましい。また乾燥処理は、オーブン乾燥、赤外線加熱、高周波加熱等により行うことができるが、自然乾燥であってもよい。
【0038】
セルロースナノクリスタル複合体分散液は、固形分基準で0.01~10質量%、特に0.1~5.0質量%の量で含有されていることが好ましく、上記範囲よりも少ない場合には、セルロースナノクリスタル複合体を含有させることにより得られる効果が上記範囲にある場合に比して少なく、その一方上記範囲より多いと上記範囲にある場合に比して塗工性、塗布性や製膜性に劣るようになる。
またセルロースナノクリスタル複合体分散液は、水分散液でもよいし、或いはプロトン性極性溶媒だけでもよいが、2-ブタノン、アセトン等のケトン、トルエン等の芳香族系溶剤との混合溶媒であってもよい。
セルロースナノクリスタル複合体分散液は、セルロースナノクリスタル複合体(固形分)が1m2当たり0.1~3.0gとなるように塗布することが好ましい。
セルロースナノクリスタル複合体分散液の塗布方法及び乾燥方法は、多価カチオン含有溶液の塗布方法及び乾燥方法と同様に行うことができるが、水分散液の場合は、温度5~200℃で1秒~24時間の条件で乾燥することが好ましく、プロトン性極性溶媒、例えばエタノールの場合で、温度5~200℃で1秒~24時間の条件で乾燥することが好ましい。
【0039】
熱可塑性樹脂から成る基材上に多価カチオン樹脂含有溶液を塗布・乾燥した後、セルロースナノクリスタル複合体分散液を塗布・乾燥することにより、基材上に、セルロースナノクリスタル複合体及び多価カチオン樹脂の混合物から成る成形体が形成された積層体として製造することもできる。また多価カチオン樹脂含有溶液及びセルロースナノクリスタル複合体分散液をこの順序でそれぞれ塗布・乾燥させてキャストフィルムとして形成することもできる。
基材としては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、アクリル系樹脂、等の従来公知の熱可塑性樹脂や水酸基及び/又はカルボキシル基含有樹脂を用い、ラミネート成形、押出成形、射出成形、ブロー成形、延伸ブロー成形或いはプレス成形等の手段で製造された、フィルム、シート、或いはボトル状、カップ状、トレイ状、パウチ状等の成形体を例示できる。
【実施例】
【0040】
以下に本発明の実施例を説明する。なお、以下の実施例は本発明の一例であり、本発明はこれらの実施例には限定されない。各項目の調製や測定方法は、次の通りである。
【0041】
<アニオン性官能基量>
セルロースナノクリスタル又はセルロースナノファイバー分散液を秤量し、イオン交換水を加えて0.05~0.3質量%のセルロースナノクリスタル又はセルロースナノファイバー分散液100mlを調製した。陽イオン交換樹脂を0.1g加えて攪拌処理した。その後ろ過を行い陽イオン交換樹脂とセルロースナノクリスタル又はセルロースナノファイバー分散液を分離した。陽イオン交換後の分散液に対して電位差自動滴定装置(京都電子社製)を用いて0.05mol/L水酸化ナトリウム溶液を滴下し、セルロースナノクリスタル又はセルロースナノファイバー分散液が示す電気伝導度の変化を計測した。得られた伝導度曲線からアニオン性官能基の中和のために消費された水酸化ナトリウム滴定量を求め、下記式(1)を用いてアニオン性官能基量(mmol/g)を算出した。
アニオン性官能基量(mmol/g)=アニオン性官能基の中和のために消費した水酸化ナトリウム滴定量(ml)×前記水酸化ナトリウム濃度(mmol/ml)÷セルロースナノクリスタル又はセルロースナノファイバー固形質量(g)・・・(1)
【0042】
<親水化セルロースナノクリスタル分散液の調製>
<実施例1>
尿素2.4g、リン酸二水素アンモニウム1g及びイオン交換水3gに対して溶解させたリン酸溶液を調製し、前記リン酸溶液にパルプを64質量%の硫酸で分解処理することによって調製したセルロースナノクリスタル2g(固形量)を加えて分散処理した。多重安全式乾燥機(二葉科学製)を用いて165℃で15分間セルロースナノクリスタル分散液を蒸発させながら加熱を行い、前記セルロースナノクリスタルを親水化処理した。その後イオン交換水を100ml加えて分散処理し、超遠心分離機(50000rpm、10分)を用いて洗浄した。更にイオン交換水と水酸化ナトリウム溶液を加えてpHを12に調整し、イオン交換水を加えながら超遠心分離機(50000rpm、10分)を用いてpHが8になるまで洗浄した。その後透析膜(スペクトラム社製・分画分子量3500~5000D)の内部に入れてイオン交換水中で静置して不純物等を除去し親水化セルロースナノクリスタル分散液を調製した。前記の精製された親水化セルロースナノクリスタル分散液にイオン交換水を加えて分散処理することで親水化セルロースナノクリスタルの固形量が1質量%の親水化セルロースナノクリスタル分散液を得た。親水化セルロースナノクリスタルのアニオン性官能基量は0.8mmol/gであった。
【0043】
<セルロースナノクリスタル複合体の調製>
前記の親水化セルロースナノクリスタルの固形量が1質量%の親水化セルロースナノクリスタル分散液を5ml採取し、8mmol/L硝酸銀水溶液を添加して攪拌した。その後16mmol/L水酸化ホウ素ナトリウムを添加して攪拌し、銀イオンを還元して親水化セルロースナノクリスタル上に銀微粒子を担持させ、セルロースナノクリスタル複合体を調製した。
【0044】
<実施例2>
<親水化セルロースナノクリスタル分散液の調製>
パルプを64重量%の硫酸で分解処理することによって調製したセルロースナノクリスタル1g(固形量)をN,N-ジメチルホルムアミド5mlに対して分散させた。N,N-ジメチルホルムアミド5mlに対して1-エチル-3-(3-ジエチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(東京化成工業株式会社製)が10mmol溶解した溶液をセルロースナノクリスタル分散液に加えて5分間分散した。その後N,N-ジメチルホルムアミド5mlに対して硫酸が10mmol分散された溶液をセルロースナノクリスタル分散液にゆっくり加え、前記セルロースナノクリスタルを0℃で60分間攪拌しながら親水化処理させることで親水化セルロースナノクリスタル分散液を調製した。その後イオン交換水と水酸化ナトリウム溶液を添加し、透析膜(スペクトラム社製・分画分子量3500~5000D)の内部に入れてイオン交換水中で静置して不純物等を除去し親水化セルロースナノクリスタル分散液を調製した。前記の精製された親水化セルロースナノクリスタル分散液にイオン交換水を加えてミキサーで分散処理することで親水化セルロースナノクリスタルの固形量が1質量%の親水化セルロースナノクリスタル分散液を得た。親水化セルロースナノクリスタルのアニオン性官能基量は0.7mmol/gであった。その後は実施例1と同様に処理して銀イオンを還元し、親水化セルロースナノクリスタル上に銀微粒子を担持させたセルロースナノクリスタル複合体を調製した。
【0045】
<実施例3>
パルプを64質量%の硫酸で分解処理することによって調製したセルロースナノクリスタル10g(固形量)の水分散液に対しTEMPO触媒(Sigma Aldrich社製)0.8mmolと臭化ナトリウム12.1mmolを添加し、イオン交換水を加えて1Lにメスアップし、均一に分散するまで攪拌した。その後5mmolの次亜塩素酸ナトリウムを添加し、酸化反応を開始した。反応中は0.5N水酸化ナトリム水溶液でpH10.0から10.5に系内のpHを保持し、30℃で4時間攪拌しながら親水化処理を行った。親水化セルロースナノクリスタルはイオン交換水を加えながら超遠心分離機(50000rpm、10分)を用いてpHが8になるまで洗浄した。その後透析膜(スペクトラム社製・分画分子量3500~5000D)の内部に入れてイオン交換水中で静置して不純物等を除去し親水化セルロースナノクリスタル分散液を調製した。前記の精製された親水化セルロースナノクリスタル分散液にイオン交換水を加えて分散処理することで親水化セルロースナノクリスタルの固形量が1質量%の親水化セルロースナノクリスタル分散液を得た。親水化セルロースナノクリスタルのアニオン性官能基量は0.9mmol/gであった。その後は実施例1と同様に処理して銀イオンを還元し、親水化セルロースナノクリスタル上に銀微粒子を担持させたセルロースナノクリスタル複合体を調製した。
【0046】
<比較例1>
パルプを64質量%の硫酸で分解処理することによって調製したセルロースナノクリスタル1g(固形量)をイオン交換水に加えて分散処理を行うことでセルロースナノクリスタルの固形量が1質量%のセルロースナノクリスタル分散液を得た。セルロースナノクリスタルのアニオン性官能基量は0.1mmol/gであった。その後は実施例1と同様に処理して銀イオンを還元し、セルロースナノクリスタル上に銀微粒子を担持させたセルロースナノクリスタル複合体を調製した。
【0047】
<比較例2>
クラフトパルプ10g(固形量)の水分散液に対してTEMPO触媒(Sigma Aldrich社)0.8mmolと臭化ナトリウム12.1mmolを添加し、イオン交換水を加えて1Lにメスアップし、均一に分散するまで攪拌した。反応系にセルロース1g当たり15mmolの次亜塩素酸ナトリウムを添加し、酸化反応を開始した。反応中は0.5N水酸化ナトリム水溶液でpH10.0から10.5に系内のpHを保持し、30℃で4時間酸化反応を行った。酸化セルロースはイオン交換水を加えながら高速冷却遠心分離機(16500rpm,10分)を用いて中性になるまで十分洗浄を行った。洗浄した酸化セルロースに水を加えて1質量%に調製し、ミキサー(7011JBB,大阪ケミカル株式会社)で解繊処理してカルボキシル基を含有するセルロースナノファイバー分散液を調製した。その後は実施例1と同様に処理して銀イオンを還元し、セルロースナノファイバーのカルボキシル基に銀微粒子を担持したセルロースナノファイバー複合体を調製した。
【0048】
<比較例3>
イオン交換水を5ml採取し、8mmol/L硝酸銀水溶液を添加して攪拌した。その後16mmol/L水酸化ホウ素ナトリウムを添加して攪拌し、銀イオンを還元して銀微粒子分散液を調製した。
【0049】
<全光線透過率>
分光光度計(UV-3100PC、島津製作所)を用いて実施例1~3又は比較例1~3で調製した1質量%のセルロースナノクリスタル複合体、セルロースナノファイバー複合体、又は微粒子分散液の750nmにおける全光線透過率(%T)を求めた。
【0050】
<粘度測定>
回転式粘度計(VISCO、アタゴ)を用いて実施例1~3又は比較例1~3で調製した1質量%のセルロースナノクリスタル複合体又はセルロースナノファイバー複合体について、スピンドルの回転数を2.5から250rpmまで上昇させた後、3rpmまで降下させながら粘度(mPa・S)を求めた。
【0051】
<スピンコート後の銀微粒子の観察>
前記実施例1又は比較例1、2のセルロースナノクリスタル複合体、セルロースナノファイバー複合体についてシリコンウエハ上に展開しスピンコートしたものについて、SPM(AFM5300E、日立ハイテクサイエンス)を用いて銀微粒子を観察した。DFMモード、深針Si製(バネ定数9N/m相当品)の条件で行った。結果を
図1~3に示した。
【0052】
<多価カチオン樹脂との混合物から成る成形体>
コロナ処理された2軸延伸PETフィルム(ルミラーP60,12μm,東レ株式会社製)基材にバーコーターを用いてポリエチレンイミン(PEI)(エポミン,P-1000,株式会社日本触媒製)を塗布量が固形量として0.6g/m2になるように塗工した。熱風乾燥器(MSO-TP,ADVANTEC社製)により50℃で10分乾燥して固形化した。前記で調製した実施例1~3及び比較例1~3のセルロースナノクリスタル複合体、セルロースナノファイバー複合体又は銀微粒子分散液について、前記の固形化したポリエチレンイミン上にバーコーター(♯40)を用いて塗工し、その後25℃で24時間乾燥を行うことで多価カチオン樹脂との混合物から成る成形体を調製した。
【0053】
<抗菌力試験による抗菌活性値>
前記実施例1~3または比較例1~3のセルロースナノクリスタル複合体、セルロースナノファイバー複合体又は銀微粒子分散液から作製された成形体について、JIS Z 2801:2012「抗菌加工製品-抗菌性試験方法・抗菌効果」5試験方法のフィルム密着法に基づいて抗菌力試験を行い、試験菌に対する抗菌活性値を求めた。試験菌は黄色ぶどう球菌または大腸菌を用いた。
【0054】
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のセルロースナノクリスタル複合体は、金属微粒子がセルロースナノクリスタルに効率よく安定的に担持されており、凝集しやすい金属微粒子が均一に分散した分散液として提供でき、しかも分散液の増粘やチクソトロピー性が抑制されているため、塗工性や塗布感等の取扱い性に顕著に優れている。またアルコール等のプロトン性極性溶媒を分散媒とすることも可能であることから、疎水性樹脂に対しても親和性を有することから、疎水性樹脂にも使用可能であり、金属微粒子が有する抗菌性等の機能を成形体に効率よく付与することができる。