(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】内燃エンジンの制御方法および制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 21/08 20060101AFI20230530BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20230530BHJP
F02M 26/06 20160101ALI20230530BHJP
F02M 26/17 20160101ALI20230530BHJP
【FI】
F02D21/08 301A
F02D29/02 321B
F02M26/06
F02M26/17
(21)【出願番号】P 2021529535
(86)(22)【出願日】2019-07-04
(86)【国際出願番号】 IB2019000645
(87)【国際公開番号】W WO2021001669
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2021-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米倉 賢午
(72)【発明者】
【氏名】越後 亮
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-247166(JP,A)
【文献】特開2008-215257(JP,A)
【文献】特開2019-27296(JP,A)
【文献】特開2016-89784(JP,A)
【文献】特開2010-281286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/00-28/00
F02D 29/00-29/06
F02M 26/00-26/74
F02D 9/00-11/10
F02D 41/00-45/00
F02B 33/00-41/10
F02B 47/08-47/10
F01N 3/00
F01N 3/02
F01N 3/04- 3/38
F01N 9/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
EGR通路に、当該EGR通路の有効断面積を調整可能に介装されたEGR弁を備えたEGRシステムを備え、内燃エンジンの一時的な停止時に吸気通路をEGRガスで充填させる内燃エンジンの制御方法であって、
制御装置は、
前記内燃エンジンの停止後、所定の再始動条件が成立した場合に、
前記吸気通路のうち、EGR通路の接続点よりも上流側に備わる吸気シャッタ弁を閉じて、前記吸気通路の有効断面積を縮小させ、
前記EGR弁を開いた後、前記内燃エンジンのクランキングを開始させ、
前記クランキングの開始から前記内燃エンジンの回転数が上昇し、前記クランキングの開始前よりも高い所定回転数に達するまでの間、前記クランキングを継続させるとともに、前記吸気シャッタ弁を閉じた状態に維持し、
前記内燃エンジンの回転数が前記所定回転数に達した後、前記吸気シャッタ弁を開いて、筒内への実質的な空気の導入を許容し、前記EGR弁を閉じてから所定時間の経過を待って燃焼を再開させる、
内燃エンジンの制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃エンジンの制御方法であって、
前記クランキング中に、前記吸気シャッタ弁を最小開度に維持し、前記EGR弁を最大開度に維持する、
内燃エンジンの制御方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の内燃エンジンの制御方法であって、
前記内燃エンジンが、排気通路のうち、前記EGR通路の前記排気通路からの分岐点よりも上流側に設置された排気浄化触媒を備える、
内燃エンジンの制御方法。
【請求項4】
前記内燃
エンジンが過給機を備える、請求項1~3のいずれか一項に記載の内燃エンジンの制御方法であって、
前記EGRシステムにより、前記過給機の排気タービン下流の排気通路を流れる排気を、前記過給機の吸気コンプレッサ上流の吸気通路へ、前記EGRガスとして還流させる、
内燃エンジンの制御方法。
【請求項5】
EGR通路に、当該EGR通路の有効断面積を調整可能に介装されたEGR弁を備えるとともに、吸気通路と排気通路とを前記EGR通路を介して流体連通可能に接続し、前記EGR通路を介し、燃焼後の排気をEGRガスとして筒内に還流させるEGRシステムと、
前記吸気通路のうち、前記EGR通路の接続点よりも上流側に設置された、前記吸気通路の有効断面積を調整可能な吸気シャッタ弁と、を備える内燃エンジンを制御する、内燃エンジンの制御装置であって、
前記内燃エンジンの一時的な停止時に、前記吸気通路をEGRガスで充填させ、
前記内燃エンジンの停止後、所定の再始動条件が成立した場合に、
前記吸気シャッタ弁を閉じて、前記吸気通路の有効断面積を縮小させ、
前記EGR弁を開いた後、前記内燃エンジンのクランキングを開始させ、
前記クランキングの開始から前記内燃エンジンの回転数が所定回転数に達するまでの間、前記クランキングを継続させるとともに、前記吸気シャッタ弁を閉じた状態に維持し、
前記内燃エンジンの回転数が前記所定回転数に達した後、前記吸気シャッタ弁を開いて、筒内への実質的な空気の導入を許容し、前記EGR弁を閉じてから所定時間の経過を待って燃焼を再開させる、
内燃エンジンの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EGRシステムを備え、内燃エンジンの一時的な停止時に吸気通路をEGRガスで充填させる内燃エンジンの制御方法および制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
JP2005-330886Aには、EGRシステムを備える内燃エンジンにおいて、アイドルストップによる内燃エンジンの一時的な停止に際し、EGR弁を開き、燃料の供給停止後の惰性による回転中にシリンダから送出された空気を、吸気通路に導入することが開示されている(段落0029~0037)。
【発明の概要】
【0003】
JP2005-330886Aの技術は、アイドルストップによる燃料の供給停止後、惰性による回転が継続している間にシリンダから送出され、触媒に流入するガスに過剰な酸素が含まれることによる、触媒における酸化雰囲気の形成を抑制するものである。
【0004】
つまり、上記技術は、燃料の供給停止後の期間に着目するものであって、アイドルストップ後の再始動については具体的に想定しておらず、再始動の開始後、点火に至るまでのクランキングないしモータリング中にシリンダを介した空気(酸素)が、未反応のまま触媒に流入するという問題がある。触媒に酸素が流入すると、触媒に吸着された酸素が充分に処理され、酸素ストレージ状態が解消されるまでの間、触媒によるNOx(窒素酸化物)の浄化率が低下するからである。
【0005】
さらに、酸素ストレージ状態の解消に要する還元剤の投入量の増大に帰結することから、排気を悪化させる原因となり得ることも懸念される。
【0006】
本発明は、以上の問題を考慮した内燃エンジンの制御方法および制御装置を提供することを目的とする。
【0007】
一態様では、EGR通路に、当該EGR通路の有効断面積を調整可能に介装されたEGR弁を備えたEGRシステムを備え、内燃エンジンの一時的な停止時に吸気通路をEGRガスで充填させる内燃エンジンの制御方法が提供される。本形態に係る方法では、制御装置は、内燃エンジンの停止後、所定の再始動条件が成立した場合に、吸気通路のうち、EGR通路の接続点よりも上流側に備わる吸気シャッタ弁を閉じて、吸気通路の有効断面積を縮小させるとともに、EGR弁を開いた後、内燃エンジンのクランキングを開始させる。そして、クランキングの開始から内燃エンジンの回転数が上昇し、クランキングの開始前よりも高い所定回転数に達するまでの間、クランキングを継続させるとともに、吸気シャッタ弁を閉じた状態に維持する。そして、内燃エンジンの回転数が所定回転数に達した後、吸気シャッタ弁を開いて、筒内への実質的な空気の導入を許容し、EGR弁を閉じてから所定時間の経過を待って燃焼を再開させる。
【0008】
他の態様では、内燃エンジンの制御装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る内燃エンジンの全体的な構成を示す概略図である。
【
図2】
図2は、同上実施形態に係る内燃エンジンの、燃料カット後のエンジン停止時における状態を示す説明図である。
【
図3】
図3は、同上実施形態に係る内燃エンジンの、燃料カットリカバ時(クランキング中)における動作を示す説明図である。
【
図4】
図4は、同上実施形態に係る内燃エンジンの、燃料カットリカバ時(エンジン回転数の上昇後)における動作を示す説明図である。
【
図5】
図5は、同上実施形態に係る内燃エンジンの、燃料カットリカバ時(吸気遅れ期間の経過後)における動作を示す説明図である。
【
図6】
図6は、同上実施形態に係る内燃エンジンの、燃料カット時における制御の内容を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、同上実施形態に係る内燃エンジンの、燃料カットリカバ時における制御の内容を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、燃料カットリカバ時における制御の、吸気遅れ時間経過判定処理の内容を示す説明図である。
【
図9】
図9は、燃料カットによるエンジン停止時から燃料カットリカバによる再始動時に亘る内燃エンジンの動作の、タイムチャートによる説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0011】
(内燃エンジンの全体構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る内燃エンジン1の全体的な構成を示している。
【0012】
本実施形態に係る内燃エンジン(以下「内燃エンジン」といい、単に「エンジン」という場合がある)1は、車両に搭載され、車両の駆動力を形成する駆動源を構成する。内燃エンジン1は、車両の駆動源を単体で構成することが可能であるし、電気モータまたはモータジェネレータと協働して構成することも可能である。後者の場合の駆動源は、シリーズ式またはパラレル式のいずれの形式であってもよい。
【0013】
内燃エンジン1は、ターボ式の過給器2を備える。過給機2は、吸気コンプレッサ21および排気タービン22を備え、吸気コンプレッサ21は、内燃エンジン1の吸気通路11に、排気タービン22は、排気通路15に、夫々介装される。吸気コンプレッサ21と排気タービン22とは、軸23により結合され、排気タービン22の回転がこの軸23を介して吸気コンプレッサ21に伝達され、吸気コンプレッサ21を回転させる。
【0014】
吸気通路11には、吸気の流れに関して吸気コンプレッサ21よりも上流側にエアクリーナ12が設置されるとともに、下流側にスロットル弁13が設置され、そのさらに下流側に燃料噴射弁14が設置されている。エアクリーナ12は、大気から吸気通路11に吸入される空気に含まれる異物を除去し、スロットル弁13は、吸気通路11の実質的な断面積(以下「有効断面積」という場合がある)を拡大または縮小させて、筒内に吸入される空気の量を調整する。燃料噴射弁14は、筒内に燃料を供給可能に配設されており、本実施形態では、シリンダヘッドに埋設され、吸気ポートに向けて燃料を噴射する。
【0015】
他方で、排気通路15には、排気の流れに関して排気タービン22よりも下流側に触媒コンバータ16、17が設置されるとともに、そのさらに下流側にマフラ18が設置されている。本実施形態では、容量の異なる同種の触媒を有する2つの触媒コンバータ16、17を備える例を示すが、触媒コンバータ16、17が有する触媒は、異なる種類のものであってもよいし、等しい容量であってもよい。触媒の種類として、三元触媒を例示することができるが、酸素ストレージ能力を有する他の触媒を採用することも可能である。さらに、触媒コンバータは、1つ(例えば、触媒コンバータ16)のみであってもよいし、3つ以上であってもよい。
【0016】
内燃エンジン1は、さらに、燃焼後の排気をEGRガスとして筒内に還流させるEGRシステム3を備える。
【0017】
EGRシステム3は、吸気通路11と排気通路15との間に接続されたEGR通路31を備え、吸気通路11と排気通路15とは、EGR通路31により互いに流体連通可能に接続されている。本実施形態において、EGR通路31は、排気通路15のうち、排気タービン22よりも下流側、具体的には、2つの触媒コンバータ16、17の間の部分(分岐点Pd)と、吸気通路11のうち、吸気コンプレッサ21よりも上流側の部分(接続点Pm)と、の間に接続される。EGR通路31には、EGRシステムを構成するEGR通路31以外の要素として、EGRクーラ32およびEGR弁33が設置されている。EGRクーラ32は、排気通路15から分岐した排気を冷却し、EGR弁33は、EGR通路31の実質的な断面積(有効断面積)を拡大または縮小させて、筒内に還流される排気(EGRガス)の量を調整する。
【0018】
以上に加え、内燃エンジン1は、吸気通路11のうち、吸気の流れに関してEGR通路31の接続点Pmよりも上流側に設置された吸気シャッタ弁41を備える。吸気シャッタ弁41は、吸気通路11の有効断面積を調整可能に構成されており、本実施形態では、吸気通路11の有効断面積を縮小させることによりその下流側の圧力を低下させ、EGR通路31の入口側(分岐点Pd)と出口側(接続点Pm)との間の差圧を拡大させるアドミッション弁(以下「アドミッション弁」との呼称で統一する)として構成される。本実施形態に係る「吸気シャッタ弁」は、アドミッション弁41として、開度を段階的または連続的に調整可能に構成されるが、最大開度と最小開度との2つの位置のみに調整可能なものであってもよい。そのような場合として、EGRシステムの動作上、差圧の拡大を必要としない場合を例示することができる。そして、例えば、最大開度は、全開時における開度(全開開度)であり、最小開度は、全閉時における開度(全閉開度)である。アドミッション弁41と同様に、EGR弁33もまた、開度を段階的または連続的に調整可能に構成するばかりでなく、最大開度と最小開度との間でのみ切換可能に構成することが可能である。
【0019】
(制御システムの基本構成)
EGRシステム3を含む内燃エンジン1全体の動作は、エンジンコントローラ101により制御される。
【0020】
エンジンコントローラ101は、電子制御ユニットとして構成され、中央演算装置(CPU)、RAMおよびROM等の各種記憶装置、入出力インターフェース等を備えたマイクロコンピュータからなる。
【0021】
エンジンコントローラ101は、内燃エンジン1の運転状態を検出する各種運転状態センサの検出信号を入力し、検出された運転状態をもとに所定の演算を実行して、内燃エンジン1の燃料噴射量、燃料噴射時期および点火時期等を設定する。
【0022】
本実施形態では、運転状態センサとして、運転者によるアクセルペダルの操作量(以下「アクセル開度」という)APOを検出するアクセルセンサ111、内燃エンジン1の回転速度NEを検出する回転速度センサ112、エンジン冷却水の温度TWを検出する冷却水温度センサ113等が設けられるほか、図示しないエアフローメータ、スロットルセンサおよび空燃比センサ等が設けられる。
【0023】
(燃料カット制御および燃料カットリカバ制御の概要)
本実施形態では、エンジンコントローラ101の動作中、換言すれば、図示しない起動スイッチがオンされている間、所定の燃料カット条件が成立した場合に、内燃エンジン1に対する燃料の供給を一時的に停止させる燃料カットを行う。そして、燃料の供給を停止させるのに先立ち、アドミッション弁41よりも下流側の吸気通路11および筒内をEGRガスで充填させる制御を実施する。これは、アドミッション弁41を閉じて、吸気通路11の有効断面積を燃料カット条件の成立前よりも縮小させるとともに、EGR弁33を開けることで、内燃エンジン1のシリンダとEGR通路31との間でEGRガスを循環させることで実現可能である。
【0024】
そして、その後、所定の燃料カットリカバ条件が成立すると、内燃エンジン1に対する燃料の供給を再開させ、内燃エンジン1を再始動させる燃料カットリカバを行う。
【0025】
ここで、燃料カットリカバ条件の成立後、内燃エンジン1のクランキングを開始させるのと同時にアドミッション弁41をも開放させた場合、つまり、クランキングを開始させるのとアドミッション弁41を開けるのとを同時に行った場合は、エンジン回転数が所定回転数にまで上昇し、燃焼の再開が許容されるまでの間、アドミッション弁41を介して筒内に導入された空気(酸素)が、排気通路15に未反応のまま送出(つまり、掃気)され、触媒コンバータ16に流入することとなる。触媒に酸素が流入すると、燃焼の再開後、触媒に吸着されている酸素が充分に処理され、酸素ストレージ状態が解消されるまでの間、触媒によるNOx(窒素酸化物)の浄化率が低下する。さらに、酸素ストレージ状態の解消に要する還元剤の投入量の増大に帰結することから、排気を悪化させる原因ともなり得る。酸素ストレージ状態の解消は、例えば、排気の空燃比を一時的に理論値よりも増大させる燃料噴射弁14の操作(リッチスパイク操作)によるのが一般的である。
【0026】
そこで、本実施形態では、燃料カットリカバ条件が成立した場合に、クランキングの開始後、アドミッション弁41を引き続き閉じたままとして、筒内とEGR通路31との間でEGRガスを循環させ、筒内への空気の導入を抑制する。そして、エンジン回転数が充分に上昇し、燃焼の再開が許容される所定回転数に達したことをもって、アドミッション弁41を開弁させ、空気の導入を開始する。さらに、空気の導入開始後、導入された空気が吸気ポートに到達し、アドミッション弁41下流の吸気通路11にあったEGRガスが空気に置き換わるまでの間、燃料カットリカバの実行を保留し、EGRガスから空気への置換が完了した後、これを実行して、内燃エンジン1に対する燃料の供給を再開させ、燃焼を再開させる。
【0027】
(燃料カットリカバの基本動作)
図2~5は、本実施形態に係る内燃エンジン1の燃料カットによる停止時から燃料カットリカバによる再始動時に亘る動作を、時系列に示している。
図2~5のそれぞれにおいて、太い点線は、排気またはEGRガスの挙動を概念的に示し、矢印の向きにより流れの有無およびその方向を示している。さらに、
図9は、燃料カット前から燃料カットリカバ後に亘る内燃エンジン1の動作を、タイムチャートにより示している。
図9中、時刻Toffは、アクセルオフ時を示し、時刻Treqは、燃料カット条件の成立時を示し、時刻Tcutは、燃料カットの実行時を示す。さらに、時刻Trcvは、燃料カットリカバ条件の成立時を示し、時刻Trstは、燃料カットリカバの実行時を示す。
図9を適宜に参照しながら、内燃エンジン1の動作を、
図2~5により説明する。
【0028】
本実施形態では、内燃エンジン1単体で車両の駆動源を構成することを前提に、車両の減速時に燃料カットを行う、いわゆる減速燃料カットの場合について説明するが、燃料カット(およびその後の燃料カットリカバ)の適用は、これに限定されるものではなく、例えば、信号待ちの間等、車両の一時的な停車中であってもよい。さらに、減速燃料カットは、減速から停車に至るいわゆるコースト運転時に行われるものであってもよい。この意味で、本実施形態に係る「燃料カット」とは、内燃エンジン1への燃料の供給を一時的に(換言すれば、エンジンコントローラ101の動作中に)停止させる操作全般をいい、停車中に行う、いわゆるアイドルストップによる場合をも含むものとする。さらに、内燃エンジン1が電気モータと協働して駆動源を構成する場合は、電気モータのみにより走行するモードへの切換えによる場合を含み得る。
【0029】
図2は、燃料カット後のエンジン停止時における状態を示す(
図9の時刻Tstp)。燃料カットに際して実行されるガスの置換により、排気通路15およびEGR通路31に加え、アドミッション弁41下流の吸気通路11もEGRガスで充填された状態にある。アドミッション弁41は、燃料カット時から引き続き閉弁させられ、EGR弁33は、開放させられた状態にある。本実施形態では、アドミッション弁41を全閉させ、EGR弁33を全開させる。アドミッション弁41を閉弁させることで、その下流への空気の導入が抑制される。
【0030】
図3は、燃料カットリカバ条件が成立した後のクランキング中における状態を示す(時刻Trcv~Trev)。クランキングの開始により、内燃エンジン1の回転数が上昇する。アドミッション弁41が全閉位置にある一方、EGR弁33が全開位置にあることで、排気通路15から吸気通路11へのEGR通路31を介したEGRガスの導入が促され、筒内とEGR通路31との間でEGRガスが循環する。スロットル弁13は、エンジンコントローラ101の電源オフ時に全閉状態を保つように調整されるが、本実施形態では、電源の投入により全開位置に制御され、クランキングが継続される間、全開位置に保持される。ここで、燃料カット中に吸気通路11に充填されていたEGRガスが筒内に吸入され、排出されるまでに次に述べるクランキング中のエンジン回転数が充分に上昇する場合は、EGR弁33を閉じておくことで、EGRガスを循環させないようにしてもよい。
【0031】
図4は、クランキングによりエンジン回転数が充分に上昇した後の状態を示す(時刻Trev~Trst)。燃焼の再開に備えるべく、吸気通路11に充填されていたEGRガスを空気で置き換えるため、アドミッション弁41を開弁させる。これに併せ、EGR弁33を閉弁させ、吸気通路11への新たなEGRガスの導入を抑止する。本実施形態では、アドミッション弁41を全開させる一方、EGR弁33を全閉させる。これにより、燃料カットリカバ条件が成立した時点で吸気通路11にあったEGRガスが空気により排気通路15へ送出され、筒内に空気が導入される。空気が吸気ポートに到達した時点で、空気への置換が完了したものとみなすことが可能である。
図4中、矢印付きの太い点線は、EGRガスの挙動を示し、矢印付きの二点鎖線は、空気の挙動を示す。
【0032】
図5は、燃料カットリカバの実行時における状態を示す(時刻Trst)。アドミッション弁41の開弁後、アドミッション弁41を空気が通過し、吸気ポートに到達した時点、換言すれば、吸気遅れ期間ΔTdlyが経過した時点で、内燃エンジン1への燃料の供給を再開させ、燃焼を再開させる。
【0033】
(フローチャートによる説明)
図6および7は、エンジンコントローラ101の動作をフローチャートにより示しており、
図6は、燃料カット制御に係る動作を、
図7は、燃料カットリカバ制御に係る動作を、夫々示す。エンジンコントローラ101は、所定の燃料カット条件が成立した場合に、燃料カット制御を実行し、燃料カットの実行後、所定の燃料カットリカバ条件が成立した場合に、燃料カットリカバ制御を実行するようにプログラムされている。
【0034】
図6に示すフローチャートにおいて、S101では、アクセルオフの状態にあるか否かを判定する。アクセルペダルが完全に戻されるかまたはそれに近い位置にあり、アクセルオフの状態にある場合は、S102へ進み、アクセルオフの状態にない場合は、S108へ進む。
【0035】
S102では、燃料カット条件が成立したか否かを判定する。本実施形態では、燃料カット条件は、アクセルオフの状態が所定時間以上に亘って継続した時点での内燃エンジン1の回転速度が所定回転速度以上であり、運転者によりブレーキがかけられている場合に、成立したものと判断する。燃料カット条件が成立した場合は、S103へ進み、成立していない場合は、S101および102の処理を繰り返す。
【0036】
ここで、バッテリが搭載され、このバッテリにより給電される電気モータで駆動力を生じさせることが可能なハイブリッド車両では、バッテリの充電状態SOCに余裕がある場合に、アクセルオンの状態にあっても燃料カットを行わせ、内燃エンジン1を自動的に停止させることがある。この場合は、S101および102の処理として、バッテリの充電状態とアクセル開度とをもとに、燃料カット条件として、内燃エンジン1の自動停止条件(つまり、EV走行モード条件)の成否を判定することが可能である。
【0037】
S103では、アドミッション弁41を閉弁(具体的には、全閉)させる。
【0038】
S104では、EGR弁33を開弁(具体的には、全開)させる。これにより、筒内とEGR通路31との間におけるEGRガスの循環が促進される。
【0039】
S105では、EGRガスの輸送遅れ時間が経過したか否かを判定する。輸送遅れ時間とは、アドミッション弁41を閉じた後、EGR通路31の接続点Pmから吸気ポートに至るまでのEGRガスの輸送遅れに相当する時間をいい、これが経過したか否かは、内燃エンジン1の運転状態をもとに推定することが可能である。後に述べる吸気遅れ期間ΔTdlyの推定と同様に、単位時間当たりに吸気弁を通過するEGRガスの流量(吸気弁通過流量)を積算して、吸気弁を通過する体積(吸気弁通過体積)を算出し、これが吸気通路11の体積に相当する所定体積に達したときに、輸送遅れ時間が経過したものと推定する。輸送遅れ時間が経過した場合は、S107へ進み、経過していない場合は、S106へ進む。
【0040】
S106では、燃料カットキャンセル条件が成立したか否かを判定する。燃料カットキャンセル条件は、例えば、輸送遅れ時間の経過を待っている間に、アクセルペダルが踏み込まれ、燃料の供給を継続させる場合に、成立する。燃料カットキャンセル条件が成立した場合は、S108へ進み、成立していない場合は、S105へ戻り、引き続き輸送遅れ時間の経過を待つ。
【0041】
S107では、燃料カットを実行する。具体的には、燃料噴射弁14の動作を停止させ、内燃エンジン1に対する燃料の供給を停止させる。これに伴い、図示しない点火プラグの動作をも停止させる。
【0042】
S108では、通常の燃料噴射制御を実行し、内燃エンジン1に対する燃料の供給を継続させる。
【0043】
図7に示すフローチャートに移り、S201では、燃料カットリカバ条件が成立したか否かを判定する。本実施形態において、燃料カットリカバ条件は、ブレーキペダルが完全に戻されるかまたはこれに近い状態にまで戻されることで、運転者により操作されるブレーキが解除された場合に、成立したものと判断される。燃料カットリカバ条件が成立した場合は、S202へ進み、成立していない場合は、S201の処理を繰り返す。
【0044】
先に述べたハイブリッド車両では、上記に代え、バッテリの充電状態SOCが低下し、その指標値がアクセル開度に応じた所定値にまで減少したときに、燃料カットリカバ条件(つまり、内燃エンジン1の再始動条件)が成立したと判定することが可能である。
【0045】
S202では、アドミッション弁41を閉弁(具体的には、全閉)させる。本実施形態では、燃料カット時にアドミッション弁41を既に閉じた状態にあるので、その閉弁状態を継続させる。
【0046】
S203では、EGR弁33を開弁(具体的には、全開)させる。アドミッション弁41と同様に、燃料カット時の状態(開弁状態)を継続させる。
【0047】
S204では、内燃エンジン1のクランキングを開始する。クランキング(「モータリング」と呼ばれる場合もある)は、ISG(インテグレート・スタータ・ジェネレータ)等の電気モータによる。内燃エンジン1が電気モータまたはモータジェネレータと協働して駆動源を構成する場合は、これらの回転電機によりクランキングを行わせることが可能である。ここで、アドミッション弁41が閉弁状態にあり、EGR弁33が開弁状態にあることから、クランキングの間、排気通路15にある排気は、分岐点Pdを排気通路15の下流の方向へは通過せず、EGR通路31を介して吸気通路11に誘導される。
【0048】
S205では、内燃エンジン1の回転数が所定回転数に達したか否かを判定する。所定回転数に達した場合は、S206へ進み、達していない場合は、クランキングを継続させ、所定回転数に達するのを待つ。
【0049】
S206では、アドミッション弁41を開弁(例えば、全開)させる。これにより、空気がアドミッション弁41および接続点Pmを通過して、筒内へ導入されるのが許容される。
【0050】
S207では、EGR弁33を閉弁(例えば、全閉)させる。これにより、吸気通路11へのEGRガスの導入が阻止されることから、アドミッション弁41を介する空気の導入が進むのに従い、吸気通路11に占めるガスがEGRガスから空気に置き換えられる。
【0051】
S208では、吸気遅れ時間ΔTdlyが経過したか否かを判定する。吸気遅れ時間ΔTdlyとは、アドミッション弁41を開いた後、アドミッション弁41を通過した空気が接続点Pmを介して吸気ポートに至るまでの空気の輸送遅れに相当する時間をいい、これが経過したか否かの判定は、内燃エンジン1の運転状態に基づく推定によることが可能いである。吸気遅れ時間ΔTdlyが経過した場合は、S209へ進み、経過していない場合は、S208の判定を繰り返してその経過を待つ。
【0052】
図8は、推定による場合の経過の判定原理を示している。
【0053】
図8(a)に示すように、吸気弁を通過する空気の流量(吸気弁通過流量)は、スロットル弁13の開度(以下「スロットル開度」という)THO毎に与えられ、各スロットル開度THOについて、エンジン回転数NEに対する関数、例えば、単調増加関数として予め見積もりを定めることが可能である。そして、吸気弁通過流量を積算することにより空気の吸気弁通過体積を算出し、積算の開始後(時刻T0)、吸気弁通過体積が吸気通路11の体積に相当する所定体積Vthrに達したとき(時刻T1)に、吸気遅れ時間ΔTdlyが経過したものと判定する。
【0054】
輸送遅れ時間ΔTdlyが経過したか否かは、このような推定によるほか、センサを用いた実測により判定することも可能である。例えば、吸気通路11のうち、燃焼室または吸気ポートに近い位置にガス状態センサ(例えば、酸素濃度センサ)を設置し、アドミッション弁41を開いた後、このガス状態センサにより検出されるガスの状態に、空気の到達を示す挙動が生じた場合に、吸気遅れ時間ΔTdlyが経過したものと判定する。そのような挙動として、酸素濃度センサによる場合に、酸素濃度が所定濃度以上に上昇することを例示することができる。この意味で、空気の輸送遅れは、「吸気シャッタ弁下流の吸気通路に占めるガスの、EGRガスから空気への置換に要する遅れ」または「吸気シャッタ弁を開いた後、筒内に占める空気(酸素)の割合が上昇して、所定値に達するまでの遅れ」といい換えることができる。
【0055】
S209では、燃料カットリカバを実行し、燃料噴射弁14による燃料の供給を再開させて、内燃エンジン1を始動させる。
【0056】
(作用効果の説明)
本実施形態では、エンジンコントローラ101が「内燃エンジンの制御装置」を構成する。本実施形態に係る内燃エンジン1およびその制御装置は、以上の構成を有し、本実施形態により得られる効果について、以下に説明する。
【0057】
第1に、内燃エンジン1の一時的な停止後の再始動に際し、内燃エンジン1のクランキングを継続させる間、アドミッション弁41を閉じた状態に維持することで、空気(酸素)がアドミッション弁41下流の吸気通路11に流入し、シリンダを未反応のまま通過して、触媒に流入するのを抑制することが可能となる。これにより、触媒に過剰な酸化雰囲気が形成されて、NOx(窒素酸化物)の浄化率が悪化するのを回避することができる。
【0058】
さらに、触媒における酸化雰囲気の形成が抑制されることで、酸素ストレージ状態の解消に要する還元剤の投入量を削減させ、これを通じて燃費の改善を図ることが可能となる。
【0059】
第2に、クランキングの開始後、内燃エンジン1の回転数が上昇して、所定回転数に達した後に燃料の供給を再開させ、燃焼を再開させることで、燃費のよい運転点で燃焼を再開させることが可能となる。ここで、内燃エンジン1の回転数が所定回転数に達するまでに時間を要したとしても、触媒への空気の流入が抑制されることで、NOxの浄化率の悪化を抑制することできる。
【0060】
第3に、クランキングの開始に際し、EGR弁33を開き、EGR通路31の有効断面積を拡大させることで、クランキングを継続させる間、筒内とEGR通路31との間でEGRガスを循環させ、クランキングモータに対する負荷を低減させるとともに、触媒に対する空気の流入をより確実に抑制することが可能となる。
【0061】
第4に、内燃エンジン1の回転数が所定回転数に達した後、アドミッション弁41を介する空気の導入が許容されてから所定時間の経過を待って燃焼を再開させることで、筒内に充填されるガスに占めるEGRガスの割合が高いうちに燃焼が再開されるのを回避し、不安定な燃焼による未燃分の排出を抑制し、さらに、再始動を確実に達成することが可能となる。
【0062】
ここで、アドミッション弁41を開いた後、吸気ポートへの空気の到達を示す吸気遅れ期間ΔTdlyの経過を待って燃焼を再開させることで、過不足のない吸気遅れ期間ΔTdlyの設定を可能とし、燃焼の再開が遅れて触媒に空気が流入したり、燃焼の再開が早く、着火が不安定な状態で燃料が供給されることにより、排気が悪化したりするのを回避することができる。
【0063】
第5に、触媒コンバータ16を、EGR通路31の分岐点Pdよりも上流側の排気通路15に設置したことで、筒内から排出されたガスがこの分岐点Pdに至る前に触媒を通過することになる。本実施形態によれば、このような状況において、触媒に対する空気の流入を抑制し、排気の悪化を確実に抑制することが可能となる。
【0064】
第6に、EGRシステム3により、排気タービン22下流の排気通路15を流れる排気を、吸気コンプレッサ21上流の吸気通路11へ、EGRガスとして還流させることで、いわゆる低圧型のEGRシステム3に備わる既存の弁装置(つまり、アドミッション弁41)により、吸気シャッタ弁を実現することが可能となり、部品点数の増大を抑制することができる。
【0065】
本実施形態に係る制御は、いわゆる低圧型のEGRシステムに限らず、高圧型のEGRシステムに適用することも可能である。具体的には、排気通路のうち排気タービンよりも上流側に触媒が備わる場合に、この触媒よりも下流側の排気通路とスロットル弁よりも下流側の吸気通路とをEGR通路により接続し、燃焼カット後の再始動に際し、スロットル弁を閉じることで、吸気通路への空気の導入を抑制するのである。
【0066】
さらに、過給機を備えていない内燃エンジンでは、触媒よりも下流側の排気通路とスロットル弁よりも下流側の吸気通路とをEGR通路により接続し、スロットル弁により「吸気シャッタ弁」の機能を具現することができる。
【0067】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は、本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を、上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。上記実施形態に対し、請求の範囲に記載した事項の範囲内で様々な変更および修正が可能である。