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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】ポリイミドフィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/34 20060101AFI20230530BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20230530BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20230530BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20230530BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
B32B27/34
B05D1/36 B
B05D7/24 302X
C08G73/10
C08J5/18 CFG
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022078321
(22)【出願日】2022-05-11
(62)【分割の表示】P 2021559596の分割
【原出願日】2021-05-25
(65)【公開番号】P2022117986
(43)【公開日】2022-08-12
【審査請求日】2022-05-13
(31)【優先権主張番号】P 2020094848
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】水口伝一朗
(72)【発明者】
【氏名】奥山哲雄
(72)【発明者】
【氏名】涌井洋行
(72)【発明者】
【氏名】中村誠
(72)【発明者】
【氏名】渡辺直樹
(72)【発明者】
【氏名】米虫治美
(72)【発明者】
【氏名】前田郷司
【審査官】鈴木 祐里絵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/186262(WO,A1)
【文献】特開2010-155360(JP,A)
【文献】特開2013-119258(JP,A)
【文献】国際公開第2018/088543(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/122032(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00-7/26
B32B1/00-43/00
C08G73/00-73/26
C08J5/00-5/02
5/12-5/22
7/04-7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成が異なる少なくとも2種のポリイミド層が厚さ方向に積層された多層ポリイミド層と、
前記多層ポリイミド層を構成する(a)層と前記(a)層に隣り合う(b)層との間に存在し、化学組成が傾斜をもって変化する遷移層と
を有し、
前記(a)層のポリイミドが、
脂環族テトラカルボン酸無水物を70質量%以上含有するテトラカルボン酸無水物と、分子内にアミド結合を有するジアミンを70質量%以上含有するジアミンとの縮重合により得られる化学構造からなるポリイミド、
または
脂環族テトラカルボン酸無水物を70質量%以上含有するテトラカルボン酸無水物と、トリフルオロメチル基を分子内に有するジアミンを70質量%以上含有するジアミンとの縮重合により得られる化学構造からなるポリイミドであり、
前記(b)層のポリイミドが、
芳香族テトラカルボン酸無水物を70質量%以上含有するテトラカルボン酸無水物と、分子内にイオウ原子を有するジアミンを70質量%以上含有するジアミンから得られる化学構造からなるポリイミド、
または
トリフルオロメチル基を分子内に含有するテトラカルボン酸を30質量%以上含有するテトラカルボン酸無水物と、トリフルオロメチル基を分子内に有するジアミンを70質量%以上含有するジアミンとの縮重合により得られる化学構造からなるポリイミドであり、
前記遷移層は、前記(a)層のポリイミドから前記(b)層のポリイミドへと組成が連続的に変化する層であり、
前記遷移層の厚さは、下限がフィルム総厚さの3%、または1μmのいずれかであり、上限がフィルム総厚さの10%、または3μmのいずれかであり、
フィルム全体の厚さが3μm以上120μm以下であり、
フィルム全体のイエローインデックスが5以下であり、
フィルム全体の全光線透過率が86%以上である
ことを特徴とする多層ポリイミドフィルム。
【請求項2】
前記(a)層は、単独で厚さ25±2μmのフィルムとした際にイエローインデックスが10以下であり、全光線透過率が85%以上であるポリイミドから主として構成され、
前記(b)層は、単独で厚さ25±2μmのフィルムとした際にイエローインデックスが5以下であり、全光線透過率が90%以上であるポリイミドから主として構成されている
ことを特徴とする、請求項1に記載の多層ポリイミドフィルム。
【請求項3】
前記(a)層は、前記(b)層の一方の面側と他方の面側の両方に存在し、
前記遷移層は、前記(b)層の一方の面側の(a)層と前記(b)層との間、及び、前記(b)層の他方の面側の(a)層と前記(b)層との間に存在し、
前記(a)層、前記遷移層、前記(b)層、前記遷移層、前記(a)層の順に積層された層構成を有している
ことを特徴とする、請求項1または2に記載の多層ポリイミドフィルム。
【請求項4】
1:(a)層形成用のポリイミド溶液またはポリイミド前駆体溶液を仮支持体に塗布し、塗膜a1を得る工程、
2:塗膜a1作製後100秒以内に、(b)層形成用のポリイミド溶液またはポリイミド前駆体溶液を塗膜a1に塗布し、塗膜ab1を得る工程、
3:全層を加熱し、全層基準の残溶剤量が0.5質量%以下である積層体を得る工程、
を少なくとも含む請求項1または2に記載の多層ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項5】
1:(a)層形成用のポリイミド溶液またはポリイミド前駆体溶液を仮支持体に塗布し、塗膜a1を得る工程、
2:塗膜a1作製後100秒以内に、(b)層形成用のポリイミド溶液またはポリイミド前駆体溶液を塗膜a1に塗布し、塗膜ab1を得る工程、
3:全層を加熱し、全層基準の残溶剤量が5質量%以上40質量%以下である積層体を得た後、仮支持体から剥離し、自己支持性のあるフィルムを得る工程、
5:前記自己支持性のあるフィルムの両端を把持し、さらに全層基準の残溶剤量が0.5質量%以下であるフィルムを得る工程、
を少なくとも含む請求項1または2に記載の多層ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項6】
1:(a)層形成用のポリイミド溶液またはポリイミド前駆体溶液を仮支持体上に塗布し、塗膜a1を得る工程、
2:塗膜a1作製後100秒以内に、(b)層形成用のポリイミド溶液またはポリイミド前駆体溶液を塗膜a1に塗布し、塗膜ab1を得る工程、
3:塗膜ab1作製後100秒以内に、(a)層形成用のポリイミド溶液またはポリイミド前駆体溶液を塗膜ab1に塗布し、塗膜aba1を得る工程、
4:全層を加熱し、全層基準の残溶剤量が0.5質量%以下である積層体を得る工程、
を少なくとも含む請求項1~3のいずれかに記載の多層ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項7】
1:(a)層形成用のポリイミド溶液またはポリイミド前駆体溶液を仮支持体に塗布し、塗膜a1を得る工程、
2:塗膜a1作製後100秒以内に、(b)層形成用のポリイミド溶液またはポリイミド前駆体溶液を塗膜a1に塗布し、塗膜ab1を得る工程、
3:塗膜ab1作製後100秒以内に、(a)層形成用のポリイミド溶液またはポリイミド前駆体溶液を塗膜ab1に塗布し、塗膜aba1を得る工程、
4:全層を加熱し、全層基準の残溶剤量が8質量%以上40質量%以下である積層体を得た後、仮支持体から剥離し、自己支持性のあるフィルムを得る工程、
5:前記自己支持性のあるフィルムの両端を把持し、さらに全層基準の残溶剤量が0.5質量%以下であるフィルムを得る工程、
を少なくとも含む請求項1~3のいずれかに記載の多層ポリイミドフィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無色であり、かつ低い線膨張係数と良好な機械特性を有するポリイミドフィルム、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムは優れた耐熱性、良好な機械特性を有し、なおかつフレキシブルな素材として電気および電子分野にて広く使用されている。しかしながら、一般のポリイミドフィルムは黄褐色に着色しているため、表示装置などの光透過が必要な部分に適用することはできない。
一方で表示装置は薄型化、軽量化が進み、さらにフレキシブル化が求められてきている。そのため基板材料をガラス基板からフレキシブルな高分子フィルム基板に代えようという試みが進められているが、着色しているポリイミドフィルムは、光線透過をON/OFFすることによって表示を行う液晶ディスプレイの基板材料としては使用できず、表示装置の駆動回路が搭載されるTAB,COFなどの周辺回路や、反射型表示方式ないし自発光型表示装置における背面側など、ごく一部にしか適用することができない。
【0003】
かかる背景から、無色透明のポリイミドフィルムの開発が進められている。代表的な例としてフッ素化ポリイミド樹脂や半脂環型もしくは全脂環型ポリイミド樹脂などを用いた無色透明ポリイミドフィルムを開発する試みがある(特許文献1~3)。これらのフィルムは着色が少なく、かつ透明性を有しているが、着色しているポリイミドフィルムほどには機械特性があがらず、また工業的生産、ならびに高温に暴露される用途を想定した場合、熱分解ないし酸化反応などが生じるため必ずしも無色性、透明性を保持できるとは限らない。この観点より、酸素含有量を規定した気体を噴きつけながら加熱処理する方法が提案されているが(特許文献4)、酸素濃度18%未満となる環境ではその製造コストが高く、工業的生産は極めて困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-106508号公報
【文献】特開2002-146021号公報
【文献】特開2002-348374号公報
【文献】WO2008/146637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
すなわち耐熱性、機械特性などの実用特性と、無色透明性はトレードオフの関係にあり、すべてを満足させる無色の透明ポリイミドフィルムを製造することは非常に困難であった。本発明は、機械特性および無色透明性に優れるポリイミドフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、複数のポリイミド樹脂を組み合わせることでバランスの取れたポリイミドフィルムの実現を試みた。一般に複数成分の樹脂を組み合わせて配合、ブレンド、あるいは共重合した場合には、必ずしもそれぞれの成分の良い点のみが組み合わされた結果を得ることができるとは限らず、むしろ欠点が相乗されて発現するケースが少なくない。しかしながら本発明者らは鋭意研究を続けた結果、特定の構造を形成するようにポリイミド樹脂を組み合わせてフィルム化することで、それぞれの成分の長所を十分に引き出すことができることを見出し本発明に到達した。
【0007】
すなわち本発明は以下の構成である。
[1] 組成が異なる少なくとも2種のポリイミド層が厚さ方向に積層された多層ポリイミド層と、
前記多層ポリイミド層を構成する(a)層と前記(a)層に隣り合う(b)層との間に存在し、化学組成が傾斜をもって変化する遷移層と
を有し、
前記遷移層の厚さは、下限がフィルム総厚さの3%、または1μmのいずれかであり、上限がフィルム総厚さの10%、または3μmのいずれかであり、
フィルム全体の厚さ3がμm以上120μm以下であり、
フィルム全体のイエローインデックスが5以下であり、
フィルム全体の全光線透過率が86%以上である
ことを特徴とする多層ポリイミドフィルム。
[2] 前記(a)層は、単独で厚さ25±2μmのフィルムとした際にイエローインデックスが10以下であり、全光線透過率が85%以上であるポリイミドから主として構成され、
前記(b)層は、単独で厚さ25±2μmのフィルムとした際にイエローインデックスが5以下であり、全光線透過率が90%以上であるポリイミドから主として構成されている
ことを特徴とする、[1]に記載の多層ポリイミドフィルム。
[3] 前記(a)層は、前記(b)層の一方の面側と他方の面側の両方に存在し、
前記遷移層は、前記(b)層の一方の面側の(a)層と前記(b)層との間、及び、前記(b)層の他方の面側の(a)層と前記(b)層との間に存在し、
前記(a)層、前記遷移層、前記(b)層、前記遷移層、前記(a)層の順に積層された層構成を有している
ことを特徴とする、[1]または[2]に記載の多層ポリイミドフィルム。
[4] 前記(a)層のポリイミドが、
脂環族テトラカルボン酸無水物を70質量%以上含有するテトラカルボン酸無水物と、分子内にアミド結合を有するジアミンを70質量%以上含有するジアミンとの縮重合により得られる化学構造からなるポリイミド、
または
脂環族テトラカルボン酸無水物を30質量%以上含有するテトラカルボン酸無水物と、トリフルオロメチル基を分子内に有するジアミンを70質量%以上含有するジアミンとの縮重合により得られる化学構造からなるポリイミド、
であることを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載の多層ポリイミドフィルム。
[5] 前記(b)層のポリイミドが、
芳香族テトラカルボン酸無水物を70質量%以上含有するテトラカルボン酸無水物と、分子内にイオウ原子を有するジアミンを70質量%以上含有するジアミンから得られる化学構造からなるポリイミド、
または
トリフルオロメチル基を分子内に含有するテトラカルボン酸を70質量%以上含有するテトラカルボン酸無水物と、トリフルオロメチル基を分子内に有するジアミンを70質量%以上含有するジアミンとの縮重合により得られる化学構造からなるポリイミド、
であることを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載の多層ポリイミドフィルム。
[6]1:(a)層形成用のポリイミド溶液またはポリイミド前駆体溶液を仮支持体に塗布し、塗膜a1を得る工程、
2:塗膜a1作製後100秒以内に、(b)層形成用のポリイミド溶液またはポリイミド前駆体溶液を塗膜a1に塗布し、塗膜ab1を得る工程、
3:全層を加熱し、全層基準の残溶剤量が0.5質量%以下である積層体を得る工程、
を少なくとも含む[1]、[2]、[4]または[5]に記載の多層ポリイミドフィルムの製造方法。
[7]1:(a)層形成用のポリイミド溶液またはポリイミド前駆体溶液を仮支持体に塗布し、塗膜a1を得る工程、
2:塗膜a1作製後100秒以内に、(b)層形成用のポリイミド溶液またはポリイミド前駆体溶液を塗膜a1に塗布し、塗膜ab1を得る工程、
3:全層を加熱し、全層基準の残溶剤量が5質量%以上40質量%である積層体を得た後、仮支持体から剥離し、自己支持性のあるフィルムを得る工程、
5:前記自己支持性のあるフィルムの両端を把持し、さらに全層基準の残溶剤量が0.5質量%以下であるフィルムを得る工程、
を少なくとも含む[1]、[2]、[4]または[5]に記載の多層ポリイミドフィルムの製造方法。
[8]1:(a)層形成用のポリイミド溶液またはポリイミド前駆体溶液を仮支持体上に塗布し、塗膜a1を得る工程、
2:塗膜a1作製後100秒以内に、(b)層形成用のポリイミド溶液またはポリイミド前駆体溶液を塗膜a1に塗布し、塗膜ab1を得る工程、
3:塗膜ab1作製後100秒以内に、(a)層形成用のポリイミド溶液またはポリイミド前駆体溶液を塗膜ab1に塗布し、塗膜aba1を得る工程、
4:全層を加熱し、全層基準の残溶剤量が0.5質量%以下である積層体を得る工程、
を少なくとも含む[1]~[5]のいずれかに記載の多層ポリイミドフィルムの製造方法。
[9]1:(a)層形成用のポリイミド溶液またはポリイミド前駆体溶液を仮支持体に塗布し、塗膜a1を得る工程、
2:塗膜a1作製後100秒以内に、(b)層形成用のポリイミド溶液またはポリイミド前駆体溶液を塗膜a1に塗布し、塗膜ab1を得る工程、
3:塗膜ab1作製後100秒以内に、(a)層形成用のポリイミド溶液またはポリイミド前駆体溶液を塗膜ab1に塗布し、塗膜aba1を得る工程、
4:全層を加熱し、全層基準の残溶剤量が8質量%以上40質量%である積層体を得た後、仮支持体から剥離し、自己支持性のあるフィルムを得る工程、
5:前記自己支持性のあるフィルムの両端を把持し、さらに全層基準の残溶剤量が0.5質量%以下であるフィルムを得る工程、
を少なくとも含む[1]~[5]のいずれかに記載の多層ポリイミドフィルムの製造方法。
【0008】
本発明ではさらに以下の構成を含んでも良い。
[10] 前記[6]における1と2を繰り返して5層以上の奇数層とすることを特徴とする多層ポリイミドフィルムの製造方法。
[11] (a)層の厚さがフィルム総厚さの34%以下であることを特徴とする[1]~[5]に記載の多層ポリイミドフィルム。ただし(a)層が複数ある場合には(a)層の厚さの総計がフィルム総厚さの1%以上、好ましくは2%以上、さらに好ましくは4%以上であり、25%以下、好ましくは13%以下、さらに好ましくは7%以下であることを特徴とする[1]~[5]に記載の多層ポリイミドフィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、フィルムを異なる組成からなる複数の層で構成することにより、光学特性(無色透明性)に優れ、さらにフレキシブルなフィルムとして十分なハンドリング性が得られる機械特性を備えた耐熱フィルムを実現するものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明における(a)層のポリイミドは、好ましくは、脂環族テトラカルボン酸無水物を70質量%以上含有するテトラカルボン酸無水物と、分子内にアミド結合を有するジアミンを70質量%以上含有するジアミンとの縮重合により得られる化学構造からなるポリイミド、または脂環族テトラカルボン酸無水物を30質量%以上含有するテトラカルボン酸無水物と、トリフルオロメチル基を分子内に有するジアミンを70質量%以上含有するジアミンとの縮重合により得られる化学構造からなるポリイミドであり、かかるポリイミドは良好な機械特性、高い破断伸度を有し、かつ低いCTEを示す優れた特性を有するが、比較的着色しやすい。
一方の(b)層のポリイミドは、好ましくは、芳香族テトラカルボン酸無水物を70質量%以上含有するテトラカルボン酸無水物と、分子内にイオウ原子を有するジアミンを70質量%以上含有するジアミンから得られる化学構造からなるポリイミド、または、トリフルオロメチル基を分子内に含有するテトラカルボン酸を70質量%以上含有するテトラカルボン酸無水物と、トリフルオロメチル基を分子内に有するジアミンを70質量%以上含有するジアミンとの縮重合により得られる化学構造からなるポリイミド、であり高い無色透明性を有しているが、樹脂としては硬脆く、フィルム化した際に十分な破断伸度を出すことが難しいため、フレキシブルな用途への適性が必ずしも良いとは言えず、さらに連続フィルムとして生産することも困難である。
両者をブレンド、ないし共重合すると、双方の中間、またはそれ以下の物性のフィルムしか得ることができず、さらに無色透明性についても、着色しやすい(a)層の特性に引っ張られる傾向がある。
【0011】
しかしながら、本発明のように、これら2成分のポリイミドを、それぞれ独立の層として形成することで機能分担を行い、さらに特定の製造方法を適用することにより、バランスの取れた、すなわち無色透明性と実用上十分なフィルム強度、高い破断伸度、低い線膨張係数を有するフィルムを得ることができる。
ポリイミドフィルムはポリイミド溶液ないしポリイミド前駆体の溶液を支持体に塗布し、乾燥させ、必要に応じて化学反応を行わせて得られるが、本発明では複数の成分の溶液を、短時間の時間差、最も好ましくは同時に塗布する製造方法を用いることが特徴となる。かかる塗布方法によれば、異なる成分が接する面において限定された厚さ領域に、拡散ないし流動による物質移動が生じ、組成が傾斜した遷移層が形成される。かかる遷移層が物性の異なる層と層の間に生じる応力などのミスマッチを緩衝するため、特定部位に内部ひずみが集中することなくバランスの良いフィルムを得ることができる。
【0012】
本発明の多層ポリイミドフィルムは、厚さ3μm以上120μm以下である。機械特性が良好となることから好ましくは4μm以上であり、より好ましくは5μm以上であり、さらに好ましくは8μm以上である。また、透明性が良好となることから100μm以下であることが好ましく、より好ましくは80μm以下であり、さらに好ましくは60μm以下である。
【0013】
本発明の多層ポリイミドフィルムは、イエローインデックスが5以下である。透明性が良好となることから好ましくは4以下であり、より好ましくは3.5以下であり、さらに好ましくは3以下である。イエローインデックスは低い方が良いため下限は特に限定されないが、工業的には0.1以上であれば良く、0.2以上であっても差し支えない。
【0014】
本発明の多層ポリイミドフィルムは、全光線透過率が86%以上である。透明性が良好となることから好ましくは87%以上であり、より好ましくは88%以上であり、さらに好ましくは89%以上である。上限は特に限定されないが、工業的には99%以下であれば良く、98%以下であっても差し支えない。
【0015】
本発明では少なくとも組成の異なる2種類のポリイミドを用い、これらを厚さ方向に積層する。ポリイミドは一般にテトラカルボン酸無水物とジアミンとの縮重合反応により得られる高分子である。前記少なくとも2種のポリイミド層が(a)層と(b)層とを含み、前記(a)層と(b)層とは各々下記の特性のポリイミドから主として構成されていることが好ましい。ここで、主としてとは、各下記特性のポリイミドがそれぞれの層に70質量%以上含有することが好ましく、より好ましい含有量は80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは100質量%である。また、組成が異なるとは、少なくとも各ポリイミドの樹脂組成が異なる必要があり、例えば樹脂組成が同じで滑剤の有無や配合量等のみが異なるものとは異なる。
【0016】
(a)層に主として用いられるポリイミド(以下、「主として」を省略し、単に「(a)層に用いられるポリイミド」や「(a)層として用いられるポリイミド」等と記載することがある。)は、単独で厚さ25±2μmのフィルムとした際にイエローインデックスが10以下であり、全光線透過率が85%以上であるポリイミドであることが好ましい。透明性が良好となることからイエローインデックスは9以下であることが好ましく、より好ましくは8以下であり、さらに好ましくは7以下である。イエローインデックスの下限は特に限定されないが、工業的には0.1以上であれば良く、0.2以上であっても差し支えない。全光線透過率は86%以上であることが好ましく、より好ましくは87%以上であり、さらに好ましくは88%以上である。上限は特に限定されないが、工業的には99%以下であれば良く、98%以下であっても差し支えない。
【0017】
多層ポリイミドフィルムにおける(a)層の厚さは機械強度が良好となることから1μm超であることが好ましく、より好ましくは1.5μm以上であり、さらに好ましくは2μm以上であり、特に好ましくは3μm以上である。また透明性が良好となることから119μm未満であることが好ましく、より好ましくは100μm以下であり、さらに好ましくは50μm以下であり、特に好ましくは20μm以下である。
【0018】
(a)層に主として用いられるポリイミは、好ましくは、全酸成分を100質量%としたとき、脂環族テトラカルボン酸無水物を70質量%以上含有するテトラカルボン酸無水物と、全アミン成分を100質量%としたとき、分子内にアミド結合を有するジアミンを70質量%以上含有するジアミンとの縮重合により得られる化学構造からなるポリイミド、または脂環族テトラカルボン酸無水物を30質量%以上含有するテトラカルボン酸無水物と、トリフルオロメチル基を分子内に有するジアミンを70質量%以上含有するジアミンとの縮重合により得られる化学構造からなるポリイミドである。
【0019】
(b)層に主として用いられるポリイミド(以下、「主として」を省略し、単に「(b)層に用いられるポリイミド」や「(b)層として用いられるポリイミド」等と記載することがある。)は、単独で厚さ25±2μmのフィルムとした際にイエローインデックスが5以下であり、全光線透過率が90%以上であるポリイミドであることが好ましい。透明性が良好となることからイエローインデックスは4以下であることが好ましく、より好ましくは3以下である。イエローインデックスの下限は特に限定されないが、工業的には0.1以上であれば良く、0.2以上であっても差し支えない。全光線透過率は91%以上であることが好ましく、より好ましくは92%以上である。上限は特に限定されないが、工業的には99%以下であれば良く、98%以下であっても差し支えない。(b)層に用いられるポリイミドのイエローインデックスは、(a)層に用いられるポリイミドのイエローインデックスより小さいことが好ましい。また、(b)層に用いられるポリイミドの全光線透過率は、(a)層に用いられるポリイミドの全光線透過率より大きいことが好ましい。
【0020】
多層ポリイミドフィルムにおける(b)層の厚さは機械強度が良好となることから1μm超であることが好ましく、より好ましくは2μm以上であり、さらに好ましくは3μm以上であり、特に好ましくは4μm以上である。また透明性が良好となることから119μm未満であることが好ましく、より好ましくは100μm以下であり、さらに好ましくは80μm以下であり、特に好ましくは50μm以下である。
【0021】
(b)層に主として用いられるポリイミドは、好ましくは、全酸成分を100質量%としたとき、芳香族テトラカルボン酸無水物を70質量%以上含有するテトラカルボン酸無水物と、全アミン成分を100質量%としたとき、少なくとも分子内にイオウ原子を有するジアミンを70質量%以上含有するジアミンから得られる化学構造からなるポリイミド、または、少なくともトリフルオロメチル基を分子内に含有するテトラカルボン酸を70質量%以上含有するテトラカルボン酸無水物と、少なくともトリフルオロメチル基を分子内に有するジアミンを70質量%以上含有するジアミンとの縮重合により得られる化学構造からなるポリイミドである。
【0022】
本発明における脂環族テトラカルボン酸無水物としては、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸、1,2,3,4-シクロヘキサンテトラカルボン酸、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ビシクロヘキシルテトラカルボン酸、ビシクロ[2,2、1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸、ビシクロ[2,2,2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸、ビシクロ[2,2,2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸、テトラヒドロアントラセン-2,3,6,7-テトラカルボン酸、テトラデカヒドロ-1,4:5,8:9,10-トリメタノアントラセン-2,3,6,7-テトラカルボン酸、デカヒドロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸、デカヒドロ-1,4:5,8-ジメタノナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸、デカヒドロ-1,4-エタノ-5,8-メタノナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸(別名「ノルボルナン-2-スピロ-2’-シクロペンタノン-5’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸」)、メチルノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-(メチルノルボルナン)-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロヘキサノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸(別名「ノルボルナン-2-スピロ-2’-シクロヘキサノン-6’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸」)、メチルノルボルナン-2-スピロ-α-シクロヘキサノン-α’-スピロ-2’’-(メチルノルボルナン)-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロプロパノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロブタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロヘプタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロオクタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロノナノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロデカノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロウンデカノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロドデカノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロトリデカノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロテトラデカノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタデカノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸、ノルボルナン-2-スピロ-α-(メチルシクロペンタノン)-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸、ノルボルナン-2-スピロ-α-(メチルシクロヘキサノン)-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸、などのテトラカルボン酸及びこれらの酸無水物が挙げられる。これらの中でも、2個の酸無水物構造を有する二無水物が好適であり、特に、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物が好ましく、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物がより好ましく、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物がさらに好ましい。なお、これらは単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0023】
本発明における芳香族テトラカルボン酸無水物としては、4,4’-(2,2-ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸、4,4’-オキシジフタル酸、ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロ-2-ベンゾフラン-5-カルボン酸)1,4-フェニレン、ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロ-2-ベンゾフラン-5-イル)ベンゼン-1,4-ジカルボキシレート、4,4’-[4,4’-(3-オキソ-1,3-ジヒドロ-2-ベンゾフラン-1,1-ジイル)ビス(ベンゼン-1,4-ジイルオキシ)]ジベンゼン-1、2-ジカルボン酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、4,4’-[(3-オキソ-1,3-ジヒドロ-2-ベンゾフラン-1,1-ジイル)ビス(トルエン-2,5-ジイルオキシ)]ジベンゼン-1、2-ジカルボン酸、4,4’-[(3-オキソ-1,3-ジヒドロ-2-ベンゾフラン-1,1-ジイル)ビス(1,4-キシレン-2,5-ジイルオキシ)]ジベンゼン-1、2-ジカルボン酸、4,4’-[4,4’-(3-オキソ-1,3-ジヒドロ-2-ベンゾフラン-1,1-ジイル)ビス(4-イソプロピル―トルエン-2,5-ジイルオキシ)]ジベンゼン-1、2-ジカルボン酸、4,4’-[4,4’-(3-オキソ-1,3-ジヒドロ-2-ベンゾフラン-1,1-ジイル)ビス(ナフタレン-1,4-ジイルオキシ)]ジベンゼン-1、2-ジカルボン酸、4,4’-[4,4’-(3H-2,1-ベンズオキサチオール-1,1-ジオキシド-3,3-ジイル)ビス(ベンゼン-1,4-ジイルオキシ)]ジベンゼン-1、2-ジカルボン酸、4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、4,4’-[(3H-2,1-ベンズオキサチオール-1,1-ジオキシド-3,3-ジイル)ビス(トルエン-2,5-ジイルオキシ)]ジベンゼン-1、2-ジカルボン酸、4,4’-[(3H-2,1-ベンズオキサチオール-1,1-ジオキシド-3,3-ジイル)ビス(1,4-キシレン-2,5-ジイルオキシ)]ジベンゼン-1、2-ジカルボン酸、4,4’-[4,4’-(3H-2,1-ベンズオキサチオール-1,1-ジオキシド-3,3-ジイル)ビス(4-イソプロピル―トルエン-2,5-ジイルオキシ)]ジベンゼン-1、2-ジカルボン酸、4,4’-[4,4’-(3H-2,1-ベンズオキサチオール-1,1-ジオキシド-3,3-ジイル)ビス(ナフタレン-1,4-ジイルオキシ)]ジベンゼン-1、2-ジカルボン酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、ピロメリット酸、4,4’-[スピロ(キサンテン-9,9’-フルオレン)-2,6-ジイルビス(オキシカルボニル)]ジフタル酸、4,4’-[スピロ(キサンテン-9,9’-フルオレン)-3,6-ジイルビス(オキシカルボニル)]ジフタル酸、などのテトラカルボン酸及びこれらの酸無水物が挙げられる。なお、芳香族テトラカルボン酸類は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0024】
本発明では、テトラカルボン酸無水物に加えてトリカルボン酸、ジカルボンサン酸を用いても良い。
トリカルボン酸類としては、トリメリット酸、1,2,5-ナフタレントリカルボン酸、ジフェニルエーテル-3,3’,4’-トリカルボン酸、ジフェニルスルホン-3,3’,4’-トリカルボン酸などの芳香族トリカルボン酸、或いはヘキサヒドロトリメリット酸などの上記芳香族トリカルボン酸の水素添加物、エチレングリコールビストリメリテート、プロピレングリコールビストリメリテート、1,4-ブタンジオールビストリメリテート、ポリエチレングリコールビストリメリテートなどのアルキレングリコールビストリメリテート、及びこれらの一無水物、エステル化物が挙げられる。これらの中でも、1個の酸無水物構造を有する一無水物が好適であり、特に、トリメリット酸無水物、ヘキサヒドロトリメリット酸無水物が好ましい。尚、これらは単独で使用してもよいし複数を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
ジカルボン酸類としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4、4’-オキシジベンゼンカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、或いは1,6-シクロヘキサンジカルボン酸などの上記芳香族ジカルボン酸の水素添加物、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカ二酸、ドデカン二酸、2-メチルコハク酸、及びこれらの酸塩化物或いはエステル化物などが挙げられる。これらの中で芳香族ジカルボン酸及びその水素添加物が好適であり、特に、テレフタル酸、1,6-シクロヘキサンジカルボン酸、4、4’-オキシジベンゼンカルボン酸が好ましい。尚、ジカルボン酸類は単独で使用してもよいし複数を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
本発明における分子内にアミド結合を有するジアミンとしては、芳香族ジアミン、脂環族アミンを主に用いることができる。
芳香族ジアミン類としては、例えば、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、1,4-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)ベンゼン、2,2’-ジトリフルオロメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、m-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、m-アミノベンジルアミン、p-アミノベンジルアミン、4-アミノ-N-(4-アミノフェニル)ベンズアミド、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2’-トリフルオロメチル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’-ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホキシド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,1-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-2-[4-(4-アミノフェノキシ)-3-メチルフェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-3-メチルフェニル]プロパン、2-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-2-[4-(4-アミノフェノキシ)-3,5-ジメチルフェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-3,5-ジメチルフェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、4,4’-ビス[(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,1-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、2,2-ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、4,4’-ビス[3-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’-ビス[3-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、ビス[4-{4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ}フェニル]スルホン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-トリフルオロメチルフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-フルオロフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-メチルフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-シアノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジフェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-5,5’-ジフェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-4,5’-ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4-フェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-5-フェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-4-フェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-5’-フェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジビフェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-5,5’-ジビフェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-4,5’-ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4-ビフェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-5-ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-4-ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-5’-ビフェノキシベンゾフェノン、1,3-ビス(3-アミノ-4-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-4-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-5-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-5-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノ-4-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-4-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-5-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-5-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、2,6-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾニトリル、4,4’-[9H-フルオレン-9,9-ジイル]ビスアニリン(別名「9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン」)、スピロ(キサンテン-9,9’-フルオレン)-2,6-ジイルビス(オキシカルボニル)]ビスアニリン、4,4’-[スピロ(キサンテン-9,9’-フルオレン)-2,6-ジイルビス(オキシカルボニル)]ビスアニリン、4,4’-[スピロ(キサンテン-9,9’-フルオレン)-3,6-ジイルビス(オキシカルボニル)]ビスアニリン、5-アミノ-2-(p-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、6-アミノ-2-(p-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、5-アミノ-2-(m-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、6-アミノ-2-(m-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、2,2’-p-フェニレンビス(5-アミノベンゾオキサゾール)、2,2’-p-フェニレンビス(6-アミノベンゾオキサゾール)、1-(5-アミノベンゾオキサゾロ)-4-(6-アミノベンゾオキサゾロ)ベンゼン、2,6-(4,4’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:5,4-d’]ビスオキサゾール、2,6-(4,4’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:4,5-d’]ビスオキサゾール、2,6-(3,4’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:5,4-d’]ビスオキサゾール、2,6-(3,4’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:4,5-d’]ビスオキサゾール、2,6-(3,3’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:5,4-d’]ビスオキサゾール、2,6-(3,3’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:4,5-d’]ビスオキサゾール等が挙げられる。また、上記芳香族ジアミンの芳香環上の水素原子の一部もしくは全てが、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルキル基もしくはアルコキシル基、またはシアノ基で置換されても良く、さらに前記炭素数1~3のアルキル基もしくはアルコキシル基の水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子で置換されても良い。
【0027】
脂環族ジアミン類としては、例えば、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-メチルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-エチルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-n-プロピルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-イソプロピルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-n-ブチルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-イソブチルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-sec-ブチルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-tert-ブチルシクロヘキサン、4,4’-メチレンビス(2,6-ジメチルシクロヘキシルアミン)、9,10-ビス(4-アミノフェニル)アデニン、2,4-ビス(4-アミノフェニル)シクロブタン-1,3-ジカルボン酸ジメチル、等が挙げられる。
【0028】
本発明では、(a)層は、(b)層の一方の面側と他方の面側の両方に存在し、遷移層は、(b)層の一方の面側の(a)層と(b)層との間、及び、(b)層の他方の面側の(a)層と(b)層との間に存在し、(a)層、遷移層、(b)層、遷移層、(a)層の順に積層された層構成を有していることが好ましい。以下、(a)層、遷移層、(b)層、遷移層、(a)層の順に積層された層構成を「(a)/(b)/(a)」ともいう。また、同様に、(a)層、遷移層、(b)層の順に積層された層構成を「(a)/(b)」ともいい、(a)層、遷移層、(b)層、遷移層、(a)層、遷移層、(b)層、遷移層、(a)層の順に積層された層構成を「(a)/(b)/(a)/(b)/(a)」ともいう。
本発明では、かかる(a)層と(b)層が、(a)/(b)の二層構成、あるいは(a)/(b)/(a)の三層構成、また好ましくは、(a)/(b)/(a)/(b)/(a)の五層構成、さらには七層、九層、またはそれ以上の奇数層のフィルムとしても良い。奇数層の場合には(a)層が最外層に位置するように配置することが好ましい。(b)層に比較して機械特性に優れ、線膨張係数が小さい(a)層を最外層とすることで、フィルム全体の線膨張係数を低い側に抑え込むことができ、かつ機械的強度に優れる表層を与えることで、フィルムのハンドリングが向上し、かつ内層となる(b)層ポリイミドの優れた光学特性を最大限に引き出すことができる。(b)層は(a)層よりも厚いことが好ましい。(b)層の厚さと(a)層の厚さの比率は、(b)層/(a)層=1超であることが好ましく、より好ましくは1.5以上であり、さらに好ましくは2以上である。また、20以下であることが好ましく、より好ましくは15以下であり、さらに好ましくは12以下である。
【0029】
本発明では(a)層の厚さが、(a)層が複数層ある場合にはそれらの厚さの合計が、フィルム総厚さの34%以下であることが好ましく、さらに26%以下が好ましく、さらに13%以下、さらに好ましくは7%以下となるように構成することが好ましい。(a)層の厚さはフィルム総厚さの1%以上、好ましくは2%以上、さらに好ましくは4%以上である。(a)層の厚さをこの範囲に収めることにより、(a)層の持つ機械特性と(b)層の持つ光学特性がバランスしたフィルムを得ることができる。
なお、(a)層、(b)層の厚さを示す場合には、遷移層の厚さ方向の中心から(a)層側は(a)層に、(b)層側は(b)層に含めるものとする。
【0030】
本発明では、(a)層と(b)層の間に、(a)層のポリイミドから(b)層のポリイミドへと組成が連続的に変化する遷移層(混じり合いの層)が存在する。遷移層の厚さの下限はフィルム総厚さの3%、または1μmのいずれかであり、遷移層の厚さの上限はフィルム総厚さの10%、または3μmのいずれかであることが好ましい。下限の好ましい範囲としては、フィルム総厚さの3%超、または1.1μmのいずれかであり、より好ましくはフィルム総厚さの3.2%、または1.2μmのいずれかであり、フィルム総厚さの3.5%、または1.5μmのいずれかであることがさらに好ましい。また、上限の好ましい範囲としては、フィルム総厚さの9%、または2.8μmのいずれかであり、フィルム総厚さの8%、または2.6μmのいずれかであることがより好ましい。遷移層を前記範囲内とすることで透明性と機械的強度を両立することができる。
なお、遷移層の厚さとは(a)層のポリイミドと(b)層のポリイミドが混じり合って組成が片方からもう片方に傾斜してゆく領域の厚さであり、混合層の(a)層のポリイミド/(b)層のポリイミドの構成比(質量比)が5/95~95/5の範囲を言う。遷移層の厚さは、フィルムを厚さ方向に斜め切断し、ポリイミドの組成分布を見ることにより測定することができる。
【0031】
遷移層の厚さは、多層ポリイミドフィルムが2層の積層構成の場合は、層と層の間(界面)が1ヶ所なので、当該界面に存在する遷移層の厚さとフィルムの総厚さから求めることができる。多層ポリイミドフィルムが3層の積層構成の場合は層と層の間(界面)が2ヶ所となるので、それぞれの遷移層の厚さの合計量とフィルムの総厚さから求めることができる。多層ポリイミドフィルムが4層以上の積層構成の場合も同様に、全ての遷移層の厚さの合計量と、フィルムの総厚さから求めることができる。
【0032】
本発明における(a)層に用いられるポリイミドは、単独で厚さ25±2μmのフィルムとした際にイエローインデックスが10以下であり、全光線透過率が85%以上であるポリイミドであることが好ましい。さらに(a)層に用いられるポリイミドはCTEが25ppm/K以下、さらには20ppm/K以下であることが好ましく、引張破断強度が100MPa以上、さらには120MPa以上であることが好ましく、破断伸度が10%以上、さらには12%以上であることが好ましい。
かかる(a)層の好ましいポリイミドとして、脂環族テトラカルボン酸無水物を70質量%以上含有するテトラカルボン酸無水物と、分子内にアミド結合を有するジアミンを70質量%以上含有するジアミンとの縮重合により得られる化学構造からなるポリイミドを例示できる。
また(a)層に用いられるポリイミドとして、脂環族テトラカルボン酸無水物を70質量%以上含有するテトラカルボン酸無水物と、トリフルオロメチル基を分子内に有するジアミンを70質量%以上含有するジアミンとの縮重合により得られる化学構造からなるポリイミドを例示することができる。
いずれの(a)層用ポリイミドも脂環族テトラカルボン酸無水物を使用することができる。脂環族テトラカルボン酸無水物の含有量は、全テトラカルボン酸無水物の70質量%以上が好ましく、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、なおさらに好ましくは95質量%以上である。脂環族テトラカルボン酸の含有量を所定範囲に収めることにより着色が抑制される。
【0033】
分子内にアミド結合を有するジアミンとしては、4-アミノ-N-(4-アミノフェニル)ベンズアミドが好ましい。アミド結合を有するジアミンは全ジアミン中の70質量%以上が好ましく、80質量%以上、さらには90質量%以上の使用が好ましい。
また、トリフルオロメチル基を分子内に有するジアミンとしては、2,2’-ジトリフルオロメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、1,4-ビス(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)ベンゼン、2,2’-トリフルオロメチル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテルが好ましい。これら分子内にフッ素原子を有するジアミン化合物、特にトリフルオロメチル基を分子内に有するジアミンを使用する場合に、その使用量は、全ジアミン中の70質量%以上が好ましく、80質量%以上、さらには90質量%以上の使用が好ましい。
【0034】
本発明における(b)層に用いられるポリイミドは、単独で厚さ25±2μmのフィルムとした際にイエローインデックスが5以下であり、全光線透過率が90%以上であるポリイミドであることが好ましい。
かかる(b)層に用いられるポリイミドとしては、芳香族テトラカルボン酸無水物を70質量%以上含有するテトラカルボン酸無水物と、少なくとも分子内にイオウ原子を有するジアミンを70質量%以上含有するジアミンから得られる化学構造からなるポリイミドを例示することができる。
また、(b)層に好適なポリイミドとして、少なくともトリフルオロメチル基を分子内に含有するテトラカルボン酸を30質量%以上含有するテトラカルボン酸無水物と、少なくともトリフルオロメチル基を分子内に有するジアミンを70質量%以上含有するジアミンとの縮重合により得られる化学構造からなるポリイミドを例示することができる。
【0035】
(b)層のポリイミドに好ましく用いられる芳香族テトラカルボン酸無水物としては、4,4’-オキシジフタル酸、ピロメリット酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、が好ましい。(b)層のポリイミドに用いられる芳香族テトラカルボン酸二無水物は、(b)層ポリイミドの全テトラカルボン酸の70質量%以上が好ましく、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、なおさらに好ましくは95質量%以上である。芳香族テトラカルボン酸の含有量を所定範囲に収めることにより耐熱性が改善される。
【0036】
(b)層のポリイミドに用いられるトリフルオロメチル基を分子内に含有するテトラカルボン酸としては、4,4’-(2,2-ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物が好ましい。(b)層のポリイミドに用いられるトリフルオロメチル基を分子内に含有するテトラカルボン酸は、(b)層ポリイミドの全テトラカルボン酸の30質量%以上が好ましく、より好ましくは45質量%以上であり、さらに好ましくは60質量%以上であり、なおさらに好ましくは80質量%以上である。トリフルオロメチル基を分子内に含有するテトラカルボン酸の含有量を所定範囲に収めることにより無色透明性が改善される。
【0037】
本発明の(b)層として好ましく用いられるポリイミドにおいて、好ましく用いられるジアミンは少なくとも分子内にイオウ原子を有するジアミン、および/またはトリフルオロメチル基を分子内に有するジアミンである。
分子内にイオウ原子を有するジアミンとしては、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、を用いることができる。本発明では、分子内にイオウ原子を有するジアミンを70質量%以上、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上含有するジアミンを用いることで、芳香族テトラカルボン酸無水物と組み合わせた場合にも無色透明性を得ることができる。
トリフルオロメチル基を有するジアミンとしては、2,2’-ジトリフルオロメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、1,4-ビス(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)ベンゼン、2,2’-トリフルオロメチル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテルが好ましい。
これら分子内にフッ素原子を有するジアミン化合物、特にトリフルオロメチル基を分子内に有するジアミンを使用する場合に使用量は、全ジアミン中の70質量%以上が好ましく、80質量%以上、さらには90質量%以上の使用が好ましい。
【0038】
本発明における(a)層のポリイミド、(b)層のポリイミドは、単独で厚さ25±2μmのフィルムとした際のイエローインデックスと全光線透過率、機械特性などにより特徴づけられる。ここに単独で厚さ25±2μmのフィルムとする操作は、実験室で可能なスケールの評価であり、該ポリイミドの溶液ないしポリイミド前駆体の溶液を、10cm四方、好ましくは20cm四方以上のサイズのガラス板に塗布し、まず120℃までの温度で予備加熱して残溶剤量が塗膜の40質量%以下となるまで予備加熱・乾燥し、さらに窒素などの不活性気体中で300℃にて20分間加熱して得られたフィルムを評価して得られる数値である。物性調整のために滑剤、フィラーなどの無機成分を含有する場合はそれらを含んだ状態の溶液を用いて得られたフィルムの物性数値を用いる。
【0039】
本発明における(a)層のポリイミド、(b)層のポリイミドには、それぞれ滑剤(フィラー)を含有することができる。滑剤としては、無機フィラーであっても有機フィラーであっても良いが、無機フィラーであることが好ましい。滑剤としては、特に限定されず、シリカ、カーボン、セラミック等が挙げられ、中でもシリカであることが好ましい。これら滑剤を単独で使用しても良いし、2種類以上を併用してもよい。滑剤の平均粒子径は10nm以上であることが好ましく、より好ましくは30nm以上であり、さらに好ましくは50nm以上である。また、1μm以下であることが好ましく、より好ましくは500nm以下であり、さらに好ましくは100nm以下である。(a)層のポリイミド、(b)層のポリイミドにおける滑剤の含有量は、0.01質量%以上であることが好ましい。ポリイミドフィルムの平滑性が良好となることから、より好ましくは0.02質量%以上であり、さらに好ましくは0.05質量%以上であり、特に好ましくは0.1質量%以上である。また、透明性の観点からは、30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは20質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以下であり、特に好ましくは5質量%以下である。
【0040】
以下に本発明の多層ポリイミドフィルムを得るための製造方法について説明する。本発明の多層ポリイミドフィルムのうち、2層構成のポリイミドフィルムは、
好ましくは、温度が10℃以上40℃以下、湿度が10%以上55%以下の大気中または不活性気体中にて、1:(a)層形成用のポリイミド溶液またはポリイミド前駆体溶液を仮支持体に塗布し、塗膜a1を得る工程、
2:塗膜a1作製後100秒以内に、(b)層形成用のポリイミド溶液またはポリイミド前駆体溶液を塗膜a1に塗布し、塗膜ab1を得る工程、
3:全層を加熱し、全層基準の残溶剤量が0.5質量%以下である積層体を得る工程、
を経て作製することができる。
前記仮支持体は長尺でフレキシブルなものであることが好ましい。また、3の工程における加熱時間は5分以上60分以下であることが好ましい。なお、3の工程における全層基準の残溶剤量は塗膜ab1のみの質量から求めるものとし、仮支持体の質量は含めないものとする。また、2の工程における100秒の起算点は、(a)層形成用のポリイミド溶液またはポリイミド前駆体溶液の仮支持体への塗布完了後である。以下の操作においても同様とする。
さらに、3の工程を二段階に分けて、
3’:全層基準の残溶剤量が8質量%以上40質量%となるまで、5分以上45分以下の時間をかけて加熱した後に仮支持体から剥離し、自己支持性のあるフィルムを得る工程、
4:前記自己支持性のあるフィルムの両端を把持し、さらに全層基準の残溶剤量が0.5質量%以下となるまで加熱する工程、
としても良い。自己支持性のあるフィルムの段階で仮支持体から剥離することにより、乾燥並びに化学反応によって生成する副生物をすみやかにフィルムから排出することが可能となり、さらに表裏の物性差、構造差を小さくすることができる。
【0041】
また、3層以上のフィルムとする場合には、前記1および2の後にもう一度(a)層ポリイミド溶液またはポリイミド前駆体溶液を塗布すればよく、(a)層、(b)層をさらに繰り返して塗布することでさらに多層のフィルムを得ることができる。
【0042】
本発明では、ポリイミド溶液またはポリイミド前駆体溶液の塗布を、温度が10℃以上40℃以下、好ましくは15℃以上35℃以下、湿度が10%RH以上55%RH以下、好ましくは20%RH以上50%RHの大気中または不活性気体中にて、長尺でフレキシブルな仮支持体上に行うことが好ましい。かつ、一工程前の層を塗布した後に100秒以内、好ましくは50秒以内、さらに好ましくは25秒以内に次の層を塗布することが好ましい。次の層を塗布するまでの時間は早い方が好ましいため下限は特に限定されないが、工業的には1秒以上であれば良く、2秒以上であっても差し支えない。塗布方法としては、最初に塗布される層は、コンマコーター、バーコーター、スリットコーターなどを用いて塗布可能であり、二層目以後はダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーターなどで塗布することができる。また多層ダイを用いることにより、これら複数の層を事実上同時に塗布することも可能である。
【0043】
溶液を塗布する環境は大気中ないし不活性気体中であることが好ましい。不活性気体とは、実質的には酸素濃度が低い気体と解釈してよく、経済的な観点から窒素、ないし二酸化炭素を用いればよい。
【0044】
塗布環境における温度は、塗液の粘性に影響し、二種の塗液が重ねられた際に界面において二種の塗液が互いに混ざりあって遷移層を形成する際の遷移層厚さの形成に影響する。本発明のポリイミド溶液ないしポリイミド前駆体溶液の粘度は、特に二層目以後の非接触式の塗布法において適切な粘度範囲に調整されることが好ましく、かかる温度域が二層界面の混ざりあいにおいても該粘度範囲の流動性を適切に保つことに寄与する。
【0045】
ポリイミド溶液、ないしポリイミド前駆体溶液に使用される溶剤の多くは吸湿性があり、溶剤が吸湿して溶剤の含水率があがると樹脂成分の溶解度が下がり、溶解成分が溶液内に析出し、溶液粘度の急激な上昇を生じる場合がある。塗布された後に、かかる状況が生じると、適切な厚さの遷移層形成が阻害される。湿度を所定範囲に収めることにより、100秒以内程度の時間であれば、このような溶解成分の析出を十分に防ぐことが可能である。
【0046】
本発明で用いられる仮支持体上としては、ガラス、金属板、金属ベルト、金属ドラム、高分子フィルム、金属箔などを用いることができる。本発明では長尺でフレキシブルな仮支持体を用いることが好ましく、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミドなどのフィルムを仮支持体として用いることができる。仮支持体表面に離型処理を施すことは好ましい態様のひとつである。
【0047】
本発明では、全ての層が塗布された後、加熱処理により乾燥及び必要に応じて化学反応を行わせる。ポリイミド溶液を用いた場合には、溶媒除去という意味合いで単に乾燥すればよいが、ポリイミド前駆体溶液を用いた場合には乾燥と、化学反応の両方が必要となる。ここにポリイミド前駆体とは好ましくはポリアミド酸ないしポリイソイミドの形態である。ポリアミド酸をポリイミドに転化させるには脱水縮合反応が必要である。脱水縮合反応は加熱のみでも可能であるが、必要に応じてイミド化触媒を作用させることもできる。ポリイソイミドの場合にも加熱によりイソイミド結合からイミド結合への転化をさせることができる。また適度な触媒を併用することも可能である。
最終的なフィルムの残溶剤量は、フィルム全層の平均値として 残溶剤量が0.5質量%以下、好ましくは0.2質量%以下、さらに好ましくは0.08質量%以下である。加熱時間は、5分以上60分以下、好ましくは6分以上50分以下、さらに好ましくは7分以上30分以下の時間が好ましい。加熱時間を所定範囲に収めることにより、溶媒の除去、必要な化学反応を完結できるとともに、適切な厚さに遷移層を制御することができ、かつ無色透明性、機械特性、特には破断伸度を高く保つことができる。加熱時間が短い場合には遷移層の形成が遅れ、また加熱時間が必要以上に長いとフィルム着色が強くなり、かつフィルムの破断伸度が低下する場合がある。
【0048】
本発明では、塗布された溶液が加熱により乾燥ないし化学反応を生じ自己支持性で仮支持体から剥離可能であれば、加熱工程の途中で仮支持体から剥離してもよい。
より具体的には、全フィルム層の平均残溶剤量が8質量%以上40質量%の範囲に達するまで、5分以上45分以下、好ましくは6分以上30分以下、さらに好ましくは7分以上20分以下の時間をかけて加熱した後に仮支持体から自己支持性のあるフィルムを剥離し、さらに前記自己支持性のあるフィルムの両端をクリップで挟む、あるいはピンに突き刺して把持し、加熱環境内を搬送して、さらに全層基準の残溶剤量が0.5質量%以下、好ましくは0.2質量%以下、さらに好ましくは0.08質量%以下となるまで加熱することにより多層ポリイミドフィルムを得る工程を採用することができる。
加熱工程途中で仮支持体から自己支持性フィルムを剥離し、さらに加熱を継続することにより、溶媒の蒸発、ポリアミド酸が脱水閉環してポリイミドに転化する際に生じる水をフィルムの両面から速やかに排出することができ、表裏の物性差の小さいフィルムを得ることができる。
【0049】
本発明では、前記自己支持性フィルムを、延伸してもよい。延伸はフィルム長手方向(MD方向)フィルムの幅方向(TD)のいずれでも良く、両方でも良い。フィルム長手方向の延伸は搬送ロールの速度差あるいは搬送ロールと、両端を把持した後の速度の差を使って行うことができる。フィルム幅方向の延伸は把持したクリプないしピン間を広げることにより行うことができる。延伸と加熱は同時に行っても良い。延伸倍率は1.00倍~2.5倍の間で任意に選ぶことができる。本発明において、フィルムを多層構造とすることで、単独では延伸しにくいポリイミドと、延伸可能なポリイミドを組み合わせることにより、延伸しにくい、すなわち延伸により破断の生じやすい組成にポリイミドも延伸が可能となり、機械物性を向上させることができる。
なおポリイミドは、乾燥ないし脱水縮合によりフィルム化途中で体積が小さくなるため、両端を等間隔で把持している状態(延伸倍率が1.00倍)であっても延伸効果が発現する。
【0050】
本発明の多層ポリイミドフィルムにおける(a)層、(b)層には、滑剤をポリイミド中に添加含有せしめるなどして層(フィルム)表面に微細な凹凸を付与しフィルムの滑り性などを改善することが好ましい。滑剤は外層となる(a)層にのみ添加する形態が好ましい。
滑剤としては、無機や有機の0.03μm~3μm程度の平均粒子径を有する微粒子が使用でき、具体例として、酸化チタン、アルミナ、シリカ、炭酸カルシウム、燐酸カルシウム、燐酸水素カルシウム、ピロ燐酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、粘土鉱物などが挙げられる。滑剤の含有量はポリイミド(ポリマー)中、0.1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.4質量%以上である。また50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは30質量%以下である。
【実施例
【0051】
以下、本発明に関し実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、製造例、実施例中の各物性値などは以下の方法で測定した。
【0052】
<ポリイミドフィルムの厚さ測定>
マイクロメーター(ファインリューフ社製、ミリトロン1245D)を用いて測定した。
【0053】
<引張弾性率、引張強度(破断強度)、および、破断伸度>
フィルムを、塗布時の流れ方向(MD方向)および幅方向(TD方向)にそれぞれ100mm×10mmの短冊状に切り出したものを試験片とした。引張試験機(島津製作所製、オートグラフ(R) 機種名AG-5000A)を用い、引張速度50mm/分、チャック間距離40mmの条件で、MD方向、TD方向それぞれについて、引張弾性率、引張強度及び破断伸度を求め、MD方向とTD方向の測定値の平均値を求めた。
【0054】
<線膨張係数(CTE)>
フィルムを、塗布時の流れ方向(MD方向)および幅方向(TD方向)において、下記条件にて伸縮率を測定し、30℃~45℃、45℃~60℃のように15℃の間隔での伸縮率/温度を測定し、この測定を300℃まで行い、全測定値の平均値をCTEとして算出し、さらにMD方向とTD方向の測定値の平均値を求めた。
機器名 ; MACサイエンス社製TMA4000S
試料長さ ; 20mm
試料幅 ; 2mm
昇温開始温度 ; 25℃
昇温終了温度 ; 300℃
昇温速度 ; 5℃/min
雰囲気 ; アルゴン
【0055】
<遷移層厚さ>
SAICAS DN-20S型(ダイプラ・ウィンテス社)によってフィルムの斜め切削面を作製し、次いでこの斜め切削面を顕微IRCary 620 FTIR (Agilent社)によって、ゲルマニウム結晶(入射角30°)を用いた顕微ATR法でスペクトルを求め、(a)層、(b)層各々の特徴的なピークの増減と、あらかじめ求めておいた検量線から組成の傾斜を質量比換算で求め、(a)層組成/(b)層組成の比が5/95質量比~95/5質量比の範囲の厚さを遷移層厚さとして求めた。
【0056】
<ヘイズ>
HAZEMETER(NDH5000、日本電色社製)を用いてフィルムのヘイズを測定した。光源としてはD65ランプを使用した。尚、同様の測定を3回行い、その算術平均値を採用した。
【0057】
<全光線透過率>
HAZEMETER(NDH5000、日本電色社製)を用いてフィルムの全光線透過率(TT)を測定した。光源としてはD65ランプを使用した。尚、同様の測定を3回行い、その算術平均値を採用した。
結果を表2~6に示す。
【0058】
<イエローインデックス>
カラーメーター(ZE6000、日本電色社製)およびC2光源を使用して、ASTM D1925に準じてフィルムの三刺激値XYZ値を測定し、下記式により黄色度指数(YI)を算出した。尚、同様の測定を3回行い、その算術平均値を採用した。
YI=100×(1.28X-1.06Z)/Y
【0059】
<フィルムの反り>
100mm×100mmのサイズの正方形に裁断したフィルムを試験片とし、室温で平面上に試験片を凹状となるように静置し、四隅の平面からの距離(h1rt、h2rt、h3rt、h4rt:単位mm)を測定し、その平均値を反り量(mm)とした。
【0060】
〔製造例1 ポリアミド酸溶液Aの製造〕
窒素導入管、還流管、攪拌棒を備えた反応容器内を窒素置換した後、22.73質量部の4,4’-ジアミノベンズアニリド(DABAN)を201.1質量部のN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解させ、次いで、19.32質量部の1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸無二水物(CBDA)を固体のまま分割添加した後、室温で24時間攪拌した。その後、173.1質量部のDMAcを加え希釈し、NV(固形分)10質量%、還元粘度3.10dl/gのポリアミド酸溶液Aを得た。
【0061】
〔製造例2 (a)層形成用滑剤入りポリアミド酸溶液Asの製造)〕
製造例1で得られたポリアミド酸溶液Aに、さらに滑剤としてコロイダルシリカをジメチルアセトアミドに分散してなる分散体(日産化学工業製「スノーテックス(登録商標)DMAC-ST-ZL」)とをシリカ(滑剤)がポリアミド酸溶液中のポリマー固形分総量にて1.4質量%)になるように加え均一なポリアミド酸溶液Asを得た。
【0062】
〔製造例3 ポリアミド酸溶液Bの製造〕
窒素導入管、還流管、攪拌棒を備えた反応容器内を窒素置換した後、32.02質量部の2,2’-ジトリフルオロメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(TFMB)を、279.9質量部のN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解させ、次いで、9.81質量部の1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸無二水物(CBDA)及び15.51質量部の4,4’-オキシジフタル酸二無水物(ODPA)をそれぞれ固体のまま分割添加した後、室温で24時間攪拌した。その後、固形分17質量%、還元粘度3.60dl/gのポリアミド酸溶液Bを得た。
【0063】
〔製造例4 (a)層形成用滑剤入りポリアミド酸溶液Bsの製造)〕
製造例3で得られたポリアミド酸溶液Bに、滑剤としてコロイダルシリカをジメチルアセトアミドに分散してなる分散体(日産化学工業製「スノーテックス(登録商標)DMAC-ST-ZL」)とをシリカ(滑剤)がポリアミド酸溶液中のポリマー固形分総量にて0.45質量%)になるように加え均一なポリアミド酸溶液Bsを得た。
【0064】
〔製造例5 (b)層形成用ポリイミド溶液Cの製造〕
窒素導入管、ディーン・スターク装置及び還流管、温度計、攪拌棒を備えた反応容器に、窒素ガスを導入しながら、32.02質量部の2,2’-ジトリフルオロメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(TFMB)、230質量部のN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)を加えて完全に溶解させ、次いで、44.42質量部の4,4’-(2,2-ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)を固体のまま分割添加した後、室温で24時間攪拌した。その後、固形分25質量%、還元エンド1.10dl/gのポリアミド酸溶液Caaを得た。
次に、得られたポリアミド酸溶液CaaにDMAc204質量部を加えてポリアミド酸の濃度が15質量%になるように希釈した後、イミド化促進剤としてイソキノリン1.3質量部を加えた。次いで、ポリアミド酸溶液を攪拌しながら、イミド化剤として無水酢酸12.25質量部をゆっくりと滴下した。その後、24時間攪拌を続けて化学イミド化反応を行って、ポリイミド溶液Cpiを得た。
次に、得られたポリイミド溶液Cpi100質量部を攪拌装置と攪拌機を備えた反応容器に移し替え、攪拌しながらメタノール150質量部をゆっくりと滴下させたところ、粉体状の固体の析出が確認された。
その後、反応容器の内容物である粉末を脱水濾過し、さらにメタノールを用いて洗浄した後に50℃で24時間真空乾燥した後、260℃で更に5時間加熱し、ポリイミド粉体Cpdを得た。得られたポリイミド粉体20質量部を80質量部のDMAcに溶解させてポリイミド溶液Cを得た。
【0065】
〔製造例6 (b)層形成用ポリイミド溶液Dの製造〕
窒素導入管、ディーン・スターク装置及び還流管、温度計、攪拌棒を備えた反応容器に、窒素ガスを導入しながら、120.5質量部の4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(4,4’-DDS)、51.6質量部の3,3’-ジアミノジフェニルスルホン(3,3’-DDS)、500質量部のガンマブチロラクトン(GBL)を加えた。続いて217.1質量部の4,4’-オキシジフタル酸無二水物(ODPA)、223質量部のGBL、260質量部のトルエンを室温で加えた後、内温160℃まで昇温し、160℃で1時間加熱還流を行い、イミド化を行った。イミド化完了後、180℃まで昇温し、トルエンを抜き出しながら反応を続けた。12時間反応後、オイルバスを外して室温に戻し、固形分が20質量%濃度となるようにGBLを加え、ポリイミド溶液Dを得た。
【0066】
〔製造例7 ポリアミド酸溶液Eの製造〕
窒素導入管、還流管、攪拌棒を備えた反応容器に窒素雰囲気下、2,2’-ジトリフルオロメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(TFMB)161質量部とN-メチルー2-ピロリドン1090質量部を混合攪拌して溶解させた後、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸ニ無水物(CHDA)112質量部を室温にて固体のまま分割添加し、室温下12時間攪拌した。次に共沸溶媒としてキシレン400質量部を添加して180℃に昇温して3時間反応を行い、共沸してくる生成水を分離した。水の流出が終わったことを確認し、1時間かけて190℃に昇温しながらキシレンを除去することでポリアミド酸溶液Eを得た。
【0067】
〔製造例8 (a)層形成用滑剤入りポリアミド酸溶液Esの製造)〕
製造例7で得られたポリアミド酸溶液Eに、滑剤としてコロイダルシリカをジメチルアセトアミドに分散してなる分散体(日産化学工業製「スノーテックス(登録商標)DMAC-ST-ZL」)とをシリカ(滑剤)がポリアミド酸溶液中のポリマー固形分総量にて1.0質量%)になるように加え均一なポリアミド酸溶液Esを得た。
【0068】
〔製造例9 (b)層形成用フィラー入りポリアミド酸溶液Efの製造)〕
製造例7で得られたポリアミド酸溶液Eに、滑剤としてコロイダルシリカをジメチルアセトアミドに分散してなる分散体(日産化学工業製「スノーテックス(登録商標)DMAC-ST-ZL」)とをシリカ(滑剤)がポリアミド酸溶液中のポリマー固形分総量にて25質量%)になるように加えフィラー入りポリアミド酸溶液Efを得た。
【0069】
製造例1~9にて得られたポリイミド溶液、ポリアミド酸溶液(ポリイミド前駆体溶液)を以下の方法でフィルム化し、光学特性、機械特性を測定した。結果を表1に示す。
【0070】
(単独で物性測定のためのフィルムを得る方法)
ポリイミド溶液またはポリアミド酸溶液を、一辺30cmのガラス板の中央部、おおむね20cm四方のエリアにバーコーターを用いて、最終厚さが25±2μmとなるように塗布し、ドライ窒素を静かに流したイナートオーブンにて100℃で30分間加熱し、塗膜の残溶剤量が40質量%以下であることを確認した後に、ドライ窒素で置換したマッフル炉にて300℃にて20分間加熱した。次いでマッフル炉から取り出し、乾燥塗膜(フィルム)の端をカッターナイフで起こし、慎重にガラスから剥離してフィルムを得る。
【0071】
(実施例1)
25℃45%RHに空調された大気中にて、製造例2で得たポリアミド酸溶液Asを、コンマコーターを用いてポリエチレンテレフタレート製フィルムA4100(東洋紡株式会社製、以下PETフィルムと略記する)の無滑材面上に最終膜厚が5μmとなるよう塗布し、続いて10秒後に製造例5で得たポリイミド溶液Cをポリアミド酸溶液Asの上に最終膜厚が20μmとなるようダイコーターによって塗布した。これを110℃にて10分間乾燥した。乾燥後に自己支持性を得たフィルムを支持体としてきたA4100フィルムから剥離し、ピンを配置したピンシートを有するピンテンターに通し、フィルム端部をピンに差し込むことにより把持し、フィルムが破断しないように、かつ不必要なたるみが生じないようにピンシート間隔を調整して搬送し、200℃で3分、250℃で3分、300℃で6分の条件で加熱し、イミド化反応を進行させた。その後、2分間で室温にまで冷却し、フィルムの両端の平面性が悪い部分をスリッターにて切り落とし、ロール状に巻き上げ、幅580mm、長さ100mのフィルム(実1)のロールを得た。
得られたフィルム(実1)の評価結果を表2に示す。
【0072】
(実施例2~4)
以下、表2に示す条件設定により、フィルム(実2)~(実4)、比較例フィルム(比1)を得た。同様に評価した結果を表2に示す。
【0073】
(比較例1~4)
比較例1として、ポリアミド酸溶液Asのみを用いて、厚さ25μmとして実施例3と同じ条件にてフィルム(比1)を得た。同様にポリイミド溶液C、ポリアミド酸溶液Bsのみ、ポリイミド溶液Dのみを、それぞれ用いてフィルム(比2)~(比4)を得た。それぞれの評価結果を表3に示す。
フィルム(比1)~(比4)の機械特性値は、製造例で得られた試験片の数値より、高い破断強度と高い破断伸度を示している。この差はガラスに塗布したままでフィルム化を行った製造例フィルムに対して、熱処理途中で仮支持体であるPETフィルムから剥離し、フィルム表裏から溶剤および反応生成物を排出しつつフィルム化を行った場合の差を示している。
【0074】
(計算例1、2)
表4の計算例1欄に示した数値はフィルム(比1)と(比2)の評価結果の算術平均値である。また計算例2は実施例1~4における(a)層と(b)層の厚さ比により重み付けした平均値である。
実施例で得られたフィルムの評価結果と計算例とを比較すると、実施例で得られたフィルムはいずれも計算例1、計算例2よりもヘイズが低く、全光線透過率も高い。またイエローインデックスも小さい値を示しており、光学特性が改善されていることが示されている。また、引張強度、破断伸度ともに実施例の方が高い値となっており、機械特性についても改善されていることがわかる。
なお、反りについては、フィルム厚さ方向に非対称な構成となっているためである。
【0075】
(比較例5、6)
続いて、表5に示す条件に従って、ポリアミド酸溶液Asとポリイミド溶液Cを用いてフィルム(比5)(比6)を得た。評価結果を表5に示す。(a)層塗布から(b)層塗布までの時間間隔を長くした比較例5においてはヘイズの大幅な増加が見られた。加熱までの時間が長くなったために溶液が雰囲気中の水分を吸収したために塗膜中にて相分離構造が生じ、その形態を残したまま乾燥が進んだため白化が生じたものと推察される。また、遷移層厚さが厚くなっている。遷移層の存在は、(a)層と(b)層が、強固にかつ組成傾斜をもってなだらかに結合するために必要であるが、遷移層部分は(a)層と(b)層の混合組成となる部分であるため、この層が厚く発達しすぎると、多層に分けて機能分担している利点が消されてしまうことが解る。
比較例6は(a)層と(b)層のポリイミドを入れ替えた場合であるが、この場合には、実施例に見られた相乗効果は見られず、光学特性はそれぞれのポリイミドを単独でフィルム化した場合より劣っている。
【0076】
(実施例5~9、12、13) [(a)/(b)/(a) 3層フィルムの製造]
25℃45%RHに空調された大気中にて、製造例2で得たポリアミド酸溶液Asを、コンマコーターを用いてポリエチレンテレフタレート製フィルムA4100(東洋紡株式会社製、以下PETフィルムと略記する)の無滑材面上に最終膜厚が3μmとなるよう塗布し、続いて30秒後に製造例5で得たポリイミド溶液Cをポリアミド酸溶液Asの上に最終膜厚が31μmとなるようダイコーターによって塗布した。さらに30秒後に、もう一台のダイコーターを用いてポリアミド酸溶液Asを最終膜厚が3μmとなるように塗布した。
これを110℃にて10分間乾燥し、乾燥後に自己支持性を得たフィルムを支持体としてきたA4100フィルムから剥離し、ピンを配置したピンシートを有するピンテンターに通し、フィルム端部をピンに差し込むことにより把持し、フィルムが破断しないように、かつ不必要なたるみが生じないようにピンシート間隔を調整して搬送し、200℃で4分、250℃で4分、300℃で6分の条件で加熱し、イミド化反応を進行させた。その後、2分間で室温にまで冷却し、フィルムの両端の平面性が悪い部分をスリッターにて切り落とし、ロール状に巻き上げ、幅580mm、長さ80mのフィルム(実5)のロールを得た。得られたフィルム(実5)の評価結果を表6に示す。
以下同様に、表6~表7に従って、ポリアミド酸溶液、ポリイミド溶液、操作条件を変えてフィルム(実6)~(実9)を得た。また表5に従ってフィルム(実12)、(実13)を得た。それぞれの表に評価結を示す。
実施例1~4と同様に単層で作製したフィルムより特性が向上していることが示されている。さらに実施例1~4に比較して反りが大幅に小さくなっているが、これは厚さ方向の対照性が良くなったからである。
【0077】
(計算例3、4)
表4の計算例3欄に示した数値はフィルム(比3)と(比4)の評価結果の算術平均値である。また計算例4は実施例8における(a)層と(b)層の厚さ比により重み付けした平均値である。
実施例8で得られたフィルムの評価結果と計算例とを比較すると、実施例で得られたフィルムは計算例3、計算例4よりも光学特性が改善されていることが示されている。また機械特性についても改善が見られている。
【0078】
(比較例9)
製造例9で得られたフィラーを添加したポリアミド酸溶液Efを用いて単層50μmのフィルムの試作を試みた。設定した条件を表7に示す。一時乾燥の後、自己支持性となったフィルムを仮支持体のPETから剥がし、ピンテンターに導入したが、加熱の初期にフィルムが縦方向に破断した。ピン幅調整により試験を継続したが、乾燥とポリイミドへの転化反応が進行する途上で、フィルムが非常に脆くなり、物性評価に足るフィルムを得ることはできなかった。
【0079】
(実施例10)
フィラー添加を滑剤のみとしたポリアミド酸溶液Esを(a)層に、製造例9で得られたフィラー含有ポリアミド酸溶液Efを(b)層に用いて、表7に設定した条件で(a)/(b)/(a)構成のフィルムの試作を行った。ピン幅調整に時間を要したが、最終的に幅480mm、長さ50mのポリイミドフィルム(実10)を得ることができた。評価結果を表7に示す。
【0080】
(実施例11)
製造例で得られたポリアミド酸溶液Asおよびポリイミド溶液Cを用い、鏡面仕上げ下ステンレスベルトに3層共押し出しT型ダイを用いてコーティングした。ダイのリップギャップはスキン層150μm、コア層500μmであった。以後は表7に示した条件に従って、加熱を行い、端部をスリっとしてロール状に巻きあげて、幅1100mm長さ300mのフィルム(実11)を得た。評価結果を表7に示す。
【0081】
〔製造例10(滑剤入りポリアミド酸溶液Fsの製造)〕
窒素導入管、還流管、攪拌棒を備えた反応容器内を窒素置換した後、33.36質量部の2,2’-ジトリフルオロメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(TFMB)、336.31質量部のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)と滑剤としてコロイダルシリカをジメチルアセトアミドに分散してなる分散体(日産化学工業製「スノーテックス(登録商標)DMAC-ST-ZL」)とをシリカ(滑剤)がポリアミド酸溶液中のポリマー固形分総量にて0.3質量%)になるように加え完全に溶解させ、次いで、9.81質量部の1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸無二水物(CBDA)、11.34質量部の3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、4.85質量部の4,4’-オキシジフタル酸無二水物(ODPA)をそれぞれ固体のまま分割添加した後、室温で24時間攪拌した。その後、固形分15質量%、還元粘度3.50dl/gのポリアミド酸溶液Fs(TFMB//CBDA/BPDA/ODPAのモル比=1.00//0.48/0.37/0.15)を得た。
【0082】
〔製造例11(無滑剤ポリアミド酸溶液Fの製造)〕
窒素導入管、還流管、攪拌棒を備えた反応容器内を窒素置換した後、33.36質量部の2,2’-ジトリフルオロメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(TFMB)に336.31質量部のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を加え完全に溶解させ、次いで、9.81質量部の1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸無二水物(CBDA)、11.34質量部の3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、4.85質量部の4,4’-オキシジフタル酸無二水物(ODPA)をそれぞれ固体のまま分割添加した後、室温で24時間攪拌した。その後、固形分15質量%、還元粘度3.50dl/gのポリアミド酸溶液F(TFMB//CBDA/BPDA/ODPAのモル比=1.00//0.48/0.37/0.15)を得た。
【0083】
(実施例14)
25℃45%RHに空調された大気中にて、ロールトゥロール式のコンマコーターと連続式乾燥炉を備えた装置を用いて、製造例10で得たポリアミド酸溶液Fsを、仮支持体であるPETフィルムの無滑材面上に最終膜厚が5μmとなるよう塗布し、続いて10秒後に製造例11で得たポリアミド酸溶液Fをポリアミド酸溶液Fsの上に最終膜厚が20μmとなるようダイコーターによって塗布した。これを110℃にて10分間乾燥した。
乾燥後に自己支持性を得たフィルムを支持体としてきたPETフィルムから剥離し、ピンを配置したピンシートを有するピンテンターに通し、フィルム端部をピンに差し込むことにより把持し、フィルムが破断しないように、かつ不必要なたるみが生じないようにピンシート間隔を調整して搬送し、最終加熱として、200℃で3分、250℃で3分、300℃で3分、400℃で3分の条件で加熱し、イミド化反応を進行させた。その後、2分間で室温にまで冷却し、フィルムの両端の平面性が悪い部分をスリッターにて切り落とし、ロール状に巻き上げ、幅530mm、長さ80mのフィルム(実14)のロールを得た。得られたフィルム(実14)はフィルム総厚さ25μm、ヘイズ0.41%、全光線透過率88.2%、イエローインデックス4.1、破断強度230MPa、破断伸度13.1%、弾性率4.4GPa、CTE29ppm/K、反り0.1mm以下、遷移層厚さ0.9μmであった。
【0084】
(実施例15)
25℃45%RHに空調された大気中にて、ロールトゥロール式のコンマコーターと連続式乾燥炉を備えた装置を用いて、製造例10で得たポリアミド酸溶液Fsを、仮支持体であるPETフィルムの無滑材面上に最終膜厚が3μmとなるよう塗布し、続いて10秒後に製造例11で得たポリアミド酸溶液Fをポリアミド酸溶液Fsの上に最終膜厚が19μmとなるようダイコーターによって塗布し、さらに30秒後にもう一台のダイコーターにてポリアミド酸溶液Fsを最終膜厚が3μmとなるように塗布し、これを110℃にて10分間乾燥した。
乾燥後に自己支持性を得たフィルムを支持体としてきたPETフィルムから剥離し、実施例12と同様にピンテンターを用いて200℃で3分、250℃で3分、300℃で3分、400℃で3分の条件で加熱し、イミド化反応を進行させた。以後同様に操作し、幅530mm、長さ80mのフィルム(実15)のロールを得た。得られたフィルム(実15)はFs/F/Fsの三層構造で、フィルム総厚さ25μm、ヘイズ0.43%、全光線透過率88.1%、イエローインデックス4.1、破断強度180MPa、破断伸度12.5%、弾性率4.2GPa、CTE30ppm/K、反り0.1mm以下、遷移層厚さ(エア面側/ベース面側)1.2μm/1.3μmであった。
【0085】
(比較例10)
25℃45%RHに空調された大気中にて、ロールトゥロール式のコンマコーターと連続式乾燥炉を備えた装置を用いて、製造例2で得たポリアミド酸溶液Asを、仮支持体であるPETフィルムの無滑材面上に最終膜厚が20μmとなるよう塗布した。次いで連続式の乾燥機により、一次加熱として、110℃5分間加熱し、残溶剤量が28質量%の半乾燥被膜Agfxを得て、仮支持体ごとロール状に巻き取った。
自己支持性を得た乾燥被膜Agfxを支持体としてきたPETフィルムから剥離し、ピンを配置したピンシートを有するピンテンターに通し、フィルム端部をピンに差し込むことにより把持し、フィルムが破断しないように、かつ不必要なたるみが生じないようにピンシート間隔を調整して搬送し、最終加熱として、200℃で3分、250℃で3分、300℃で6分の条件で加熱し、イミド化反応を進行させた。その後、2分間で室温にまで冷却し、フィルムの両端の平面性が悪い部分をスリッターにて切り落とし、ロール状に巻き上げ、幅530mm、長さ50mのポリイミドフィルム(比10a)のロールを得た。
【0086】
得られたポリイミドフィルム(比10a)ロールを再び前述の装置にセットし、ポリイミドフィルム(比10a)を巻き出して、その上に製造例5で得たポリイミド溶液Cを最終膜厚が5μmとなるようコンマコーターで塗布した。これを二次加熱として110℃にて10分間乾燥した。
乾燥後にピンを配置したピンシートを有するピンテンターに通し、フィルム端部をピンに差し込むことにより把持し、フィルムが破断しないように、かつ不必要なたるみが生じないようにピンシート間隔を調整して搬送し、最終加熱として、200℃で3分、250℃で3分、300℃で6分の条件で加熱し、イミド化反応を進行させた。その後、2分間で室温にまで冷却し、フィルムの両端の平面性が悪い部分をスリッターにて切り落とし、ロール状に巻き上げ、幅450mm、長さ30mのポリイミドフィルム(比10b)のロールを得た。
得られたポリイミドフィルム(比10b)はAs(20μm)/C(5μm)の二層構造で、フィルム総厚さ25μm、ヘイズ0.63%、全光線透過率86.9%、イエローインデックス4.3、破断強度154MPa、破断伸度18%、弾性3.9GPa、CTE19.6ppm/K、反り2.8mm以下、遷移層厚さ0.0μmであった。フィルムの反り量が実施例に比較すると大である。
【0087】
(比較例11)
25℃45%RHに空調された大気中にて、製造例2で得たポリアミド酸溶液Asを、アプリケータを用いてガラス基板上に最終膜厚が3μmとなるよう塗布し、続いて60秒後に製造例5で得たポリイミド溶液Cをポリアミド酸溶液Asの上に最終膜厚が31μmとなるようアプリケータによって塗布した。さらに60秒後に、アプリケータを用いてポリアミド酸溶液Asを最終膜厚が3μmとなるように塗布した。なお、本比較例における最終膜厚は別途それぞれの溶液をガラス基板に単独に塗布して得られたフィルム厚から求めた値である。
これをイナートオーブンにて110℃にて20分間乾燥し、ついで真空乾燥機にて200℃で10分、250℃で10分、さらにマッフル炉を用いて350℃で5分の条件で加熱し、イミド化反応を進行させ、ガラス基板から剥離してポリイミドフィルム(比11)得た。
得られたポリイミドフィルム(比11)はAs(3μm)/C(31μm)/As(3μm)の三層構造を意図して作製したフィルムという位置づけである。ポリイミドフィルム比11の特性はフィルム総厚さ37μm、ヘイズ5.2%、全光線透過率83.9%、イエローインデックス1.8、破断強度130MPa、破断伸度5.8%、弾性3.9GPa、CTE37ppm/K、反り3.5mm、遷移層厚さ(エア面側/ベース面側)3.5μm/5.6μmであった。フィルムの反り量が実施例5に比較すると大であり、ヘイズ値も上がっている。遷移層厚さは、塗布時に意図したAs層よりも厚くなっており、多層構造というよりは、半ば組成が混合されてしまった状態に近く、強度、伸度ともに低下しており期待した機能分離が発現していないことが伺われる。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
【表3】
【0091】
【表4】
【0092】
【表5】
【0093】
【表6】
【0094】
【表7】
【産業上の利用可能性】
【0095】
以上述べてきたように、本発明の多層ポリイミドフィルムは、異なる組成のポリイミドを、それぞれを単独でフィルム化した場合に比較して良好な光学特性と機械特性を有することが示された。また本発明の製造方法によれば、多層に分かれて機能分担した異なる組成の層間に特定の厚さの組成傾斜した遷移層を形成することができ、それ故にバランスの取れたフィルムを形成することが可能となる。
本発明の多層ポリイミドフィルムは優れた光学特性、無色透明性を有し、かつ機械特性にすぐれ、比較的低いCTEを示すため、フレキシブルでかつ軽量な表示装置の部材として、あるいは透明性が必要なタッチパネルなどのスイッチ素子、ポインティングデバイスなどに利用することができる。