(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】機能性材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/30 20060101AFI20230530BHJP
C09D 133/08 20060101ALI20230530BHJP
C09D 125/14 20060101ALI20230530BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
B32B27/30 A
C09D133/08
C09D125/14
C09D5/02
(21)【出願番号】P 2022538913
(86)(22)【出願日】2021-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2021036190
(87)【国際公開番号】W WO2022137707
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2020215992
(32)【優先日】2020-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000109635
【氏名又は名称】星光PMC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100164828
【氏名又は名称】蔦 康宏
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 公美
(72)【発明者】
【氏名】真継 美佳
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-241716(JP,A)
【文献】特開平07-258307(JP,A)
【文献】特開2002-138394(JP,A)
【文献】特開2004-051879(JP,A)
【文献】特開2002-146339(JP,A)
【文献】特表2020-517783(JP,A)
【文献】特開2006-028697(JP,A)
【文献】国際公開第2020/203346(WO,A1)
【文献】特開2012-067402(JP,A)
【文献】特開2015-151647(JP,A)
【文献】特開2015-155582(JP,A)
【文献】Texicryl 13-813 Technical Data Sheet,[online],英国,ScottBader Co Ltd,2020年,[検索日 2021年11月26日]、インターネット<URL:http://www.scottbader.com/business/functional-polymers/texicryl-13-813/>
【文献】Induprint SE 288 Data Sheet,[online],ドイツ,Indulor Chemie GmbH,2004年,[検索日:2021年11月26日]、インターネット<URL:http://www.indulor.com/fileadmin/templates/projekte/indulor/content/pdf/TDS_Induprint_SE_288_eng_040426_Version_04.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
C09D1/00-10/00
101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも片方の基材表面に連続する2層以上の塗工層を有する機能性材料であって、基材に直に接する塗工層(X)が、酸価35~65mgKOH/gの合成樹脂(A)を含み、最表面の塗工層(Y)が、ガラス転移温度-35~65℃の合成樹脂(B)を含み、全塗工層中に合成樹脂の合計質量に対し0.5~10質量%のワックス成分を含み、合成樹脂(A)
および合成樹脂(B)が
エマルションであり、少なくとも片方のエマルションが、ワックス存在下に乳化重合することにより得た
、ワックスを内包しているものであり、合成樹脂(A)がスチレンアクリル樹脂および/またはアクリル樹脂であり、合成樹脂(B)がスチレンアクリル樹脂および/またはアクリル樹脂であることを特徴とする機能性材料。
【請求項2】
合成樹脂(A)および合成樹脂(B)の構成モノマーが、カルボキシ基を有するビニルモノマー/(メタ)アクリル酸エステル/スチレン類=4.5~10/40~95.5/0~51質量%であることを特徴とする、請求項1に記載の機能性材料。
【請求項3】
基材が、紙またはフィルムであることを特徴とする請求項1に記載の機能性材料。
【請求項4】
少なくとも片方の基材表面に連続する2層以上の塗工層を有する機能性材料の製造方法であって、基材表面に酸価35~65mgKOH/gの合成樹脂(A)を含むエマルションを塗工して塗工層(X)を形成する工程(I)、および塗工層の最表面にガラス転移温度-35~65℃の合成樹脂(B)を含むエマルションを塗工して塗工層(Y)を形成する工程(II)を有し、全塗工層中に合成樹脂の合計質量に対し0.5~10質量%のワックス成分を含み、合成樹脂(A)
および合成樹脂(B)が
エマルションであり、少なくとも片方のエマルションが、ワックス存在下に乳化重合することにより得た
、ワックスを内包しているものであり、合成樹脂(A)がスチレンアクリル樹脂および/またはアクリル樹脂であり、合成樹脂(B)がスチレンアクリル樹脂および/またはアクリル樹脂であることを特徴とする、機能性材料の製造方法。
【請求項5】
合成樹脂(A)の塗工量が6.0~30g/m
2であり、合成樹脂(B)の塗工量が3.0~6.0g/m
2であることを特徴とする請求項4に記載の機能性材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性、耐油性、水蒸気バリア性、ヒートシール性、耐ブロッキング性に優れた塗工層を有する機能性材料、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、機能性材料には基材として紙やフィルムが用いられている。例えば、機能性材料の一種である食品包装材料では、食品に含まれる水・油分成分が包装材料外部に浸出することを防止し、内容物の劣化や変色、菌の増殖やカビの発生を抑制するために、食品包装材料には撥水性、耐油性、水蒸気バリア性が求められる。また、包装材料の保管時には耐ブロッキング性、成型加工時にはヒートシール性が要求される。食品包装材料に限らず、一般の包装紙や剥離紙も含め、これまで、紙を基材とする機能性材料の多くはこれらの諸物性を満足させるためにポリエチレンなどのプラスチックをラミネートしたラミネート紙が使用されてきた。
【0003】
しかしながら、一般にラミネート紙は古紙としてのリサイクル性に欠けることから、近年ではラミネート加工に代えて、機能性材料として所望する機能を発現し、かつ古紙再利用時に脱離が容易な樹脂を塗工した紙が検討されてきた。
【0004】
例えば、特許文献1には、紙にアクリル樹脂水性エマルジョンを含有する塗料を塗布し乾燥して耐油性樹脂層を形成して得られ、かつ、該耐油性樹脂層のガラス転移温度(Tg)が40~70℃である、良好な耐油性を有する食品用耐油紙が提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、紙基材の少なくとも片面に、アンダーコート層とトップコート層の2層からなる樹脂層を設け、トップコート層に耐水耐油剤を含有する、洗剤もしくは食品容器を製造するのに適した耐水耐油紙が提案されている。
【0006】
特許文献3には、紙に耐油性を付与するフッ素系耐油剤の代替技術として、紙基材にアクリル系合成樹脂エマルジョンを塗工して耐油性合成樹脂層を形成した食品用耐油紙において、前記耐油性合成樹脂層が、紙基材表面に形成されたアンダーコート層と、表面層となるオーバーコート層を有し、前記アンダーコート層樹脂のガラス転移温度Tg1が-30~0℃、オーバーコート層樹脂のガラス転移温度Tg2が0~30℃である、菓子用カートンやファーストフード容器等の素材として用いられる食品用耐油紙が提案されている。
【0007】
同じくフッ素系耐油剤の代替技術として、特許文献4には、基紙の上に少なくとも片面2層以上の耐油層を有し、耐油層の耐油成分がアクリル樹脂を主体とするエマルジョンを塗布して得られる紙において、該アクリル樹脂のガラス転移温度が30℃以上である食品包装用耐油紙が提案されている。
【0008】
しかしながら、これら特許文献1~4の耐油紙や耐水耐油紙では、耐油性を含め、ラミネート紙で得られる撥水性、水蒸気バリア性、耐ブロッキング性、ヒートシール性の点において全てを満足するものは得られていない。
【0009】
一方で、リサイクルシステムの改善による、プラスチックフィルムを用いた食品包装材料などの使用も引き続き検討されている。ラミネート代替としての樹脂塗工による脱プラスチック、あるいはリサイクル性を改善したプラスチックフィルムのいずれを進めるにしても、前述の性能が必要であり、その多岐に渡る性能を発現する手段が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2001-303475号公報
【文献】特開平9-87994号公報
【文献】特開2006-28697号公報
【文献】特開2006-316367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明では機能性材料に求められる性能である撥水性、耐油性、水蒸気バリア性、ヒートシール性、耐ブロッキング性を発現する塗工層を有する機能性材料、および該機能性材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、特定の合成樹脂を紙やフィルムなどの基材上に2層以上塗工することで、その塗工層が撥水性、耐油性、水蒸気バリア性、ヒートシール性、耐ブロッキング性のすべてを満足するレベルで発現することを見出した。
【0013】
すなわち本発明は、(1)少なくとも片方の基材表面に連続する2層以上の塗工層を有する機能性材料であって、基材に直に接する塗工層(X)が、酸価35~65mgKOH/gの合成樹脂(A)を含み、最表面の塗工層(Y)が、ガラス転移温度-35~65℃の合成樹脂(B)を含み、全塗工層中に合成樹脂の合計質量に対し0.5~10質量%のワックス成分を含むことを特徴とする機能性材料、(2)合成樹脂(A)がスチレンアクリル樹脂および/またはアクリル樹脂であり、合成樹脂(B)がスチレンアクリル樹脂および/またはアクリル樹脂であることを特徴とする前記(1)に記載の機能性材料、(3)合成樹脂(A)および合成樹脂(B)の構成モノマーが、カルボキシ基を有するビニルモノマー/(メタ)アクリル酸エステル/スチレン類=4.5~10/40~95.5/0~51質量%であることを特徴とする、前記(1)または(2)に記載の機能性材料、(4)基材が、紙またはフィルムであることを特徴とする前記(1)に記載の機能性材料、(5)少なくとも片方の基材表面に連続する2層以上の塗工層を有する機能性材料の製造方法であって、基材表面に酸価35~65mgKOH/gの合成樹脂(A)を含むエマルションを塗工して塗工層(X)を形成する工程(I)、および塗工層の最表面にガラス転移温度-35~65℃の合成樹脂(B)を含むエマルションを塗工して塗工層(Y)を形成する工程(II)を有することを特徴とする、機能性材料の製造方法、(6)合成樹脂(A)の塗工量が6.0~30g/m2であり、合成樹脂(B)の塗工量が3.0~6.0g/m2であることを特徴とする前記(5)に記載の機能性材料の製造方法、である。
【発明の効果】
【0014】
本発明で得られる機能性材料は、撥水性、耐油性、水蒸気バリア性、ヒートシール性、耐ブロッキング性のいずれも満足するレベルで発現するため、食品包装材料としての利用が期待されるほか、これら物性が求められる他の包装材料や剥離紙、建材用壁紙、あるいは紙器などの用途にも適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の機能性材料、およびその製造方法について具体的に説明する。
【0016】
本発明の機能性材料は、少なくとも片方の基材表面に連続する2層以上の塗工層を有し、基材に直に接する塗工層(X)が、酸価35~65mgKOH/gの合成樹脂(A)(以下、単に「合成樹脂(A)」と略することがある)を含み、最表面の塗工層(Y)が、ガラス転移温度-35~65℃の合成樹脂(B)(以下、単に「合成樹脂(B)」と略することがある)を含み、全塗工層中に合成樹脂の合計質量に対し0.5~10質量%のワックス成分を含む。
【0017】
<基材>本発明の機能性材料に用いることのできる基材に制限はなく、例えば、食品包装材料として用いられる基材としては紙、布、プラスチックフィルム、アルミ箔などが挙げられる。紙、プラスチックフィルムが好ましく、中性上質紙、PETフィルム、ポリ乳酸フィルムがより好ましい。
【0018】
<塗工層(X)>本発明の機能性材料において、塗工層(X)は、少なくとも片方の基材表面に連続する2層以上の塗工層のうち、基材に直に接する塗工層であり、合成樹脂(A)を含む。
【0019】
本発明に使用する合成樹脂(A)は、耐油性、水蒸気バリア性の観点から、酸価35~65mgKOH/gの範囲でなければならない。酸価が35mgKOH/g未満であると水蒸気バリア性が悪化し、65mgKOH/gを超えると耐油性が悪化する。なお、本発明において、合成樹脂の酸価とは、JIS K0070-1992の中和滴定法に準じて測定した値である。スチレンアクリル樹脂および/またはアクリル樹脂であることが好ましく、それぞれ対応するカルボキシ基を有するビニルモノマー、(メタ)アクリル酸エステル、および必要に応じて使用されるスチレン類の共重合物である。
【0020】
カルボキシ基を有するビニルモノマーとしては、カルボキシ基を1つ以上有しているビニルモノマーであればよく、例えば(メタ)アクリル酸などが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジルなどの(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルなどの水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸グリシジルなどが挙げられる。スチレン類としては、スチレン骨格を有しているモノマーであればよく、例えばスチレン、αメチルスチレンなどが挙げられる。これらを1種または2種以上混合して用いる。
【0021】
本発明で使用する合成樹脂(A)は構成モノマーが、カルボキシ基を有するビニルモノマー/(メタ)アクリル酸エステル/スチレン類=4.5~10/40~95.5/0~51質量%であることが好ましい。
【0022】
<塗工層(Y)>本発明の機能性材料において、塗工層(Y)は、少なくとも片方の基材表面に連続する2層以上の塗工層のうち、最表面に位置する塗工層であり、合成樹脂(B)を含む。
【0023】
本発明に使用する合成樹脂(B)は、撥水性、ヒートシール性、耐ブロッキング性の観点からガラス転移温度-35~65℃の範囲でなければならない。ガラス転移温度が-35℃未満であると、撥水性、耐ブロッキング性が悪化し、65℃を超えるとヒートシール性が悪化する。耐ブロッキング性の観点から、-18~65℃の範囲であることが好ましい。合成樹脂(A)と同じくスチレンアクリル樹脂および/またはアクリル樹脂であることが好ましく、合成樹脂(A)の構成モノマーとして挙げられているモノマー類から構成される。
【0024】
本発明で使用する合成樹脂(B)は構成モノマーが、カルボキシ基を有するビニルモノマー/(メタ)アクリル酸エステル/スチレン類=4.5~10/40~95.5/0~51質量%であることが好ましく、本発明の条件を満足する限りにおいて、合成樹脂(B)は合成樹脂(A)と同じであっても構わない。
【0025】
なお、本発明において、合成樹脂のガラス転移温度(Tg(total))とは、下記FOXの式より求められる理論値である。1/Tg(total)=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・+Wn/Tgn・・・ FOXの式(式中のTg(total)はエマルション組成物に含まれる全合成樹脂成分のガラス転移温度(K:ケルビン)であり、W1,W2・・・Wnはエマルション組成物に含まれる全合成樹脂成分を構成する各モノマーの質量分率であり、Tg1,Tg2・・・Tgnは各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度(K:ケルビン)を表す。)エマルション組成物に含まれる全合成樹脂成分を構成する各モノマーの質量分率は、モノマーの仕込み量が既知である場合はその仕込み比率に基づく。仕込み量が不明な場合は、エマルション組成物を乾燥・固化したものから質量分析法により求める。
【0026】
合成樹脂(A)、合成樹脂(B)は本発明で規定する各条件を満足するものであれば、その形態は問わないが、基材や他の塗工層に対して塗工、乾燥成膜して塗工層を形成することから、機能性材料の製造に用いる原料形態としては、エマルションであることが好ましい。合成樹脂(A)、合成樹脂(B)のいずれかを含む少なくとも片方のエマルションが、後述するワックス成分を内包しているものであると、塗工前のワックス分散の手間が省け、均質な塗工層を形成し易いためより好ましい。市販品としては、例えば、XP8812(酸価61、ガラス転移温度-9℃、パラフィンワックス含有)、XP8829(酸価57、ガラス転移温度-8℃、パラフィンワックス含有)、NE‐2260(酸価53、ガラス転移温度-10℃)、PE‐2273(酸価38、ガラス転移温
度-11℃)(いずれも星光PMC株式会社製)などが挙げられる。
【0027】
また、市販品を用いるほかに、合成樹脂(A)、合成樹脂(B)は公知の方法で得ることができる。例えば、エマルションであれば、水、乳化剤(高分子乳化剤と称されるものを含む)、及び必要によりワックス成分の存在下に合成樹脂(A)や合成樹脂(B)を構成するモノマー混合物を乳化重合することにより得る。
【0028】
<ワックス成分>本発明の機能性材料の塗工層には、水蒸気バリア性の観点から、全塗工層中に、合成樹脂(A)と合成樹脂(B)を含む全合成樹脂の合計質量に対し0.5~10質量%のワックス成分を含む必要がある。ワックス成分の含有量が0.5質量%未満であると十分な水蒸気バリア性が得られず、10質量%を超えるとヒートシール性が悪化し、塗工量によってはハジキにより塗工層を形成できない。ワックス成分は、全塗工層のうち、少なくとも1つの塗工層に含まれていればよい。
【0029】
本発明に使用するワックス成分は、常温において固体(蝋状)で水に不溶な炭素数20以上のノルマルパラフィンの混合物が好ましい。ワックス成分としては、例えば、日本精蝋株式会社製の商品名「Paraffin WAX」シリーズ(135(融点59℃)、140(同61℃)、145(同63℃)、150(同66℃)、155(同69℃))などが挙げられる。
【0030】
本発明の機能性材料は、前述した塗工層(X)、塗工層(Y)以外に、本発明の効果を損なわない限りにおいて塗工層(X)と塗工層(Y)との間に他の中間塗工層を有してもよいが、塗工の効率性などの観点から、機能性材料表面の塗工層は3層構造以下であることが好ましい。また前記中間塗工層を有する場合には、中間塗工層は合成樹脂(A)および/または合成樹脂(B)を含むことが好ましい。
【0031】
また、本発明の機能性材料は、塗工層に前記した成分以外に加え、填料が含まれていてもよい。填料は、通常紙塗工に用いられるものであれば特に制限はない。例えば、カオリナイト、タルク、酸化チタン、炭酸カルシウム、クレー、シリカ等が挙げられ、好ましいものとして、炭酸カルシウム、クレー等が挙げられる。
【0032】
<機能性材料の製造方法>本発明の機能性材料の製造方法は、基材表面に酸価35~65mgKOH/gの合成樹脂(A)を含むエマルションを塗工して塗工層(X)を形成する工程(I)と、塗工層の最表面にガラス転移温度-35~65℃の合成樹脂(B)を含むエマルションを塗工して塗工層(Y)を形成する工程(II)とを少なくとも有する。
【0033】
工程(I)、工程(II)におけるエマルションの塗工方法は、既知のフレキソ、グラビア、カーテンコーター、サイズプレスコーター、ロールコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーターのいずれも採用でき、適宜1種または2種以上を組合せて適用する。塗工層(X)、塗工層(Y)を形成する各エマルションの塗工量は、本発明の効果が得られる程度であれば特に限定されないが、ピンホールや塗膜の割れが発生しない程度であることが好ましく、性能面から、それぞれ、合成樹脂(A)の塗工量が6.0~30g/m2、合成樹脂(B)の塗工量が3.0~6.0g/m2となるように塗工量を調整することが好ましい。
【0034】
ワックス成分については、全塗工層のうち少なくともひとつの塗工層に含まれていればよく、その添加方法や添加する塗工層も特に制限はない。ワックスを内包する水分散可能なワックスエマルションを用い、合成樹脂を含む塗工液に混合分散して塗工することが好ましく、前述したように合成樹脂(A)、合成樹脂(B)のいずれかを含む少なくとも片方のエマルションがワックスを内包しているものを塗工すると、塗工前のワックス分散の手間が省け、均質な塗工層を形成し易いためより好ましい。
【0035】
また、塗工後の乾燥は、本発明の効果が得られる程度であれば特に限定されないが、50~90℃で30~60秒乾燥するのが好ましい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例および比較例により、本発明を詳細に説明する。なお、%は特に記載がない限り、質量%である。
【0037】
実施例、比較例に使用するエマルション1~19に含まれる合成樹脂1~19の含有量、ガラス転移温度(Tg)、酸価、構成モノマー質量比と、ワックス成分(日本精蝋株式会社製;製品名:Paraffin Wax-155)含有量(対全合成樹脂質量比)を表1に示す。
【0038】
【0039】
表中の略称 AA:アクリル酸 MAA:メタクリル酸 MMA:メタクリル酸メチル BA:アクリル酸ブチル 2EHA:アクリル酸2エチルヘキシル GMA:メタクリル酸グリシジル St:スチレン αMSt:αメチルスチレン
【0040】
<中性上質紙を基材とした機能性材料の製造>基材として、21.0cm×29.7cm(A4サイズ)の中性上質紙(坪量65g/m2)を用いた。(実施例1)基材の片面に合成樹脂(A)として合成樹脂7を含むエマルション7をワイヤーバー#6を用いて塗工し、80℃の乾燥機に30秒入れ、合成樹脂(A)の塗工量が6.0g/m2の塗工層(X)を形成した。その後、塗工層(X)上に合成樹脂(B)として合成樹脂1を含むエマルション1をワイヤーバー#4を用いて塗工し、80℃の乾燥機に30秒入れ、合成樹脂(B)の塗工量が4.0g/m2の塗工層(Y)を形成して、機能性材料1を得た。
【0041】
(実施例2、3、6~9、比較例1、2、4~13)用いるエマルションを表2、表3に示すものに代えたほかは、実施例1と同様にして、機能性材料2、3、6~9、比較用機能性材料1、2、4~13を得た。
【0042】
(実施例4)基材の片面に合成樹脂(A)として合成樹脂1を含むエマルション1をワイヤーバー#6を用いて塗工し、80℃の乾燥機に30秒入れ、合成樹脂(A)の塗工量が6.0g/m2の塗工層(X)を形成した。その後、塗工層(X)上に合成樹脂7を含むエマルション7をワイヤーバー#6を用いて塗工し、80℃の乾燥機に30秒入れ、塗工量が6.0g/m2の中間層を形成した。さらに中間層上に合成樹脂(B)として合成樹脂1を含むエマルション1をワイヤーバー#4を用いて塗工し、80℃の乾燥機に30秒入れ、合成樹脂(B)の塗工量が4.0g/m2の塗工層(Y)を形成して、機能性材料4を得た。
【0043】
(実施例5、13)用いるエマルションを表2に示すものに代えたほかは、実施例4と同様にして、機能性材料5、13を得た。
【0044】
(実施例10)塗工層(X)形成時のワイヤーバーを#15に代えて塗工層(X)の塗工量を15.0g/m2としたほかは、実施例1と同様にして、機能性材料10を得た。
【0045】
(実施例11)塗工層(X)形成時のワイヤーバーを#30に代えて塗工層(X)の塗工量を30.0g/m2としたほかは、実施例1と同様にして、機能性材料11を得た。
【0046】
(実施例12)塗工層(Y)形成時のワイヤーバーを#6に代えて塗工層(Y)の塗工量を6.0g/m2としたほかは、実施例1と同様にして、機能性材料12を得た。
【0047】
(比較例3)用いるエマエルションを表3に示すものに代え、塗工層(X)形成時のワイヤーバーを#10に代えて塗工層(X)の塗工量を10.0g/m2とし、塗工層(Y)を形成しなかったほかは実施例1と同様にして、比較用機能性材料3を得た。
【0048】
表2に、塗工層(X)を形成する合成樹脂の種類と酸価、中間層を形成する合成樹脂の種類、塗工層(Y)を形成する合成樹脂の種類とTg、全塗工層中のワックス量を示す。
【0049】
<PETフィルムを基材とした機能性材料の製造>(実施例14~26、比較例14~26)基材を中性上質紙に代えてPETフィルムとしたほかは、実施例1~13、比較例1~13と同様にして機能性材料14~26、比較用機能性材料14~26を得た。
【0050】
<ポリ乳酸フィルムを基材とした機能性材料の製造>(実施例27~39、比較例27~39)基材を中性上質紙に代えてポリ乳酸フィルムとしたほかは、実施例1~13、比較例1~13と同様にして機能性材料27~39、比較用機能性材料27~39を得た。
【0051】
【0052】
【0053】
<機能性材料の評価>本発明の機能性材料の撥水性の指標として撥水度、耐油性の指標としてKit値、水蒸気バリア性の指標として透湿度、ヒートシール性の指標としてヒートシール温度を測定した。耐ブロッキング性は後述の耐ブロッキング試験を行い、評価した。
【0054】
(撥水性)撥水性は、撥水度:JAPAN TAPPI No68に準拠し評価を行った。撥水度の評価(R0~R10)は、それぞれ下記に示す状態となる場合を示す。 R0:連続した跡であって一様な幅を示すもの R2:連続した跡であって水滴よりもわずかに狭い幅を示すもの R4:連続した跡であるがところどころ切れていて、明らかに水滴より狭い幅を示すもの R6:跡の半分がぬれているもの R7:跡の1/4は、長く伸びた水滴によってぬれているもの R8:跡の1/4以上は、球形の小滴が散在しているもの R9:ところどころに球形の小水滴がちらばるもの R10:完全に転がり落ちるものなお、本願発明において撥水度は、R6~R10が実用レベルである。
【0055】
(耐油性)耐油性は、Kit値:JAPAN TAPPI No41に準拠し評価を行った。なお、本願発明においてKit値は、6~12の範囲が実用レベルである。
【0056】
(水蒸気バリア性)水蒸気バリア性は、透湿度:JIS Z0208(カップ法、40℃、湿度90%RH、24時間)に準拠し評価を行った。透湿度の値が小さいほど、水蒸気バリア性に優れることを示す。なお、本発明において透湿度は、中性上質紙では100g/m2・24h以下、PETフィルムでは15g/m2・24h以下、ポリ乳酸フィルムでは30g/m2・24h以下が実用レベルである。
【0057】
(ヒートシール性)塗工サンプルを2cm×15cm に裁断したものを2枚用意し、塗工面同士を重ね合わせた後、加圧圧力1kgf/cm2、加圧時間0.5秒、加圧温度90~200℃でヒートシールを行った。本発明において、塗工基材が破壊された際の加圧温度をヒートシール温度とし、120℃以下が実用レベルである。
【0058】
(耐ブロッキング性)塗工面を3cm×3cm に裁断したものを2枚用意し、面同士を重ね合わせた後、40℃ 、湿度90%の条件下で2kgf/cm2の荷重をかけたまま24時間保持した後、一方の角から手で剥いだ時の剥がれ方と剥離後の塗工面の状態で評価した。評価 ○:力を入れずに剥がれ、剥離表面に破れが無い ×:剥離表面に破れがある本発明における耐ブロッキング性は○評価が実用レベルである。
【0059】
表4~6に、各機能性材料および比較用機能性材料の性能評価の結果を示す。
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
実施例と比較例から、本願発明の条件を満足する実施例は、本願発明の条件を満足しない比較例に比べて、所望する性能を備えており優れることが分かる。
【0064】
表5および表6の結果から、基材をPETフィルムやポリ乳酸フィルムに変更しても、中性上質紙の場合と同じく所望する性能を発現する。