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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】封止用樹脂組成物および電子装置
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20230530BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230530BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20230530BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20230530BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20230530BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20230530BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/04
C08L63/00 B
C08K3/013
C09K3/10 L
H01L23/30 R
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022566075
(86)(22)【出願日】2022-07-14
(86)【国際出願番号】 JP2022027657
【審査請求日】2022-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2021118636
(32)【優先日】2021-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】杉野 遼介
(72)【発明者】
【氏名】阪下 晋平
【審査官】北田 祐介
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-348439(JP,A)
【文献】国際公開第2004/096911(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色材と、
熱硬化性樹脂と、
硬化剤と、
無機充填材と、
を含む封止用樹脂組成物であって、
前記着色材は、以下<方法1>によって測定される20kNの荷重を加えた際の比抵抗値が1.0×10Ω・cm以上1.0×1014Ω・cm以下である炭素粒子を含み、
前記炭素粒子の含有量が、当該封止用樹脂組成物の固形分全体に対して0.05重量%以上5重量%以下であり、
当該封止用樹脂組成物を175℃で30分間の熱処理により硬化させて得られる硬化物の、CIE1976L表色系により規定されるL、a、bを用いて、以下の式(1):
D=[(L-27)+(a-(-1))+(b-(-3))1/2・・・(1)
により規定されるD値が、3.2以下であり、
前記炭素粒子中の硫黄含有量が150ppm以下である、封止用樹脂組成物。
<方法1>
粉体抵抗測定システム抵抗計(日東精工アナリテック社製、ハイレスタUX/ロレスタGP、MCP-PD51型)に炭素粒子1gをセットし、20kN荷重をかけた際の比抵抗値を測定する。
【請求項2】
請求項1に記載の封止用樹脂組成物において、
線源としてCuKα線を用いたX線回折法により測定された、横軸を2θ、縦軸を回折強度とするX線回折スペクトルにおいて、以下<方法>によって選択された直線をバックグラウンドとして除去した後に求められる、前記炭素粒子の(002)面のc軸方向((002)面直交方向)の結晶子の大きさLcが50Å以下である、封止用樹脂組成物。
<方法
(1)横軸を2θ、縦軸を回折強度とする前記X線回折スペクトルにおいて、2θ=10°の点または2θ=15°の点のいずれか1つと、2θ=30°の点または2θ=35°の点のいずれか1つとを選択し、選択された2点を直線で結び、計4本の直線を作成する。
(2)前記(1)で作成した4本の直線のうちの一つを選択する。
(3)2θが10°以上35°以下の領域において、前記(2)で選択した直線と、当該直線の下側に位置する前記X線回折スペクトルとで囲まれる面積Sを求める。
(4)前記(1)で作成した4本の直線のそれぞれについて、前記(2)および(3)のステップを繰り返し、得られた前記面積Sが最小となる直線Lを特定する。
(5)前記直線Lをバックグラウンド直線とする。
【請求項3】
請求項1または2に記載の封止用樹脂組成物において、前記炭素粒子中の塩素含有量が50ppm以下である、封止用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載の封止用樹脂組成物において、
前記熱硬化性樹脂がノボラック型エポキシ樹脂、多官能エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、トリアジン核含有エポキシ樹脂および有橋環状炭化水素化合物変性フェノール型エポキシ樹脂からなる群から選択される1種または2種以上のエポキシ樹脂を含む、封止用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載の封止用樹脂組成物において、前記硬化剤がフェノール樹脂系硬化剤を含む、封止用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1または2に記載の封止用樹脂組成物において、
EMMI-1-66に準じたスパイラルフロー測定用の金型を用い、金型温度175℃、測定時間5分の条件で測定した流動長が50cm以上300cm以下である、封止用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1または2に記載の封止用樹脂組成物において、
当該封止用樹脂組成物を175℃で30分間の熱処理により硬化させて得られる硬化物の1GHzでの誘電率εと、10GHzでの誘電率ε10との比ε/ε10が、0.9以上1.2以下である、封止用樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1または2に記載の封止用樹脂組成物において、
当該封止用樹脂組成物を175℃で30分間の熱処理により硬化させて得られる硬化物の1GHzでの誘電正接δと、10GHzでの誘電正接δ10との比δ/δ10が、0.8以上1.1以下である、封止用樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1または2に記載の封止用樹脂組成物の硬化物により半導体素子が封止されている電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封止用樹脂組成物および電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
封止用樹脂組成物においては、レーザーマーク性の向上を目的として、黒色着色剤が使用されている。黒色着色剤としては、カーボンブラックやチタン系黒色顔料、黒色酸化鉄(鉄黒)をはじめとする遷移金属化合物などが使用されている。
【0003】
一例として、特許文献1には、機械的特性、耐熱性、耐薬品性、寸法安定性などの特性に優れることに加えて、電気絶縁性を確保しつつ、封止成形物の表面抵抗率を半導電性領域に厳密に制御することができる封止用樹脂組成物が記載されている。
別の例として、特許文献2には、レーザーマーク性や電気特性に優れ、パッド間やワイヤー間距離が狭い半導体装置等の電子部品装置においても、導電性物質によるショート不良が発生せず、かつ成形性、信頼性、パッケージ表面の外観に優れた封止用エポキシ樹脂組成物及びこれにより封止した素子を備えた電子部品装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-97282号公報
【文献】特開2001-335677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、本発明者らが上記のような封止用樹脂組成物の検討を行ったところ、黒色度および誘電特性の観点からさらに改善の余地があった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、機械的特性、高温信頼性を確保しつつ、黒色度および誘電特性が良好な封止用樹脂組成物および上記封止用樹脂組成物の硬化物により半導体素子が封止されている電子装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、検討の結果、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
【0008】
[1]
着色材と、
熱硬化性樹脂と、
硬化剤と、
無機充填材と、
を含む封止用樹脂組成物であって、
上記着色材は、20kNの荷重を加えた際の比抵抗値が1.0×10Ω・cm以上1.0×1014Ω・cm以下である炭素粒子を含み、
上記炭素粒子の含有量が、当該封止用樹脂組成物の固形分全体に対して0.05重量%以上5重量%以下である、
封止用樹脂組成物。
[2]
上記[1]に記載の封止用樹脂組成物において、
線源としてCuKα線を用いたX線回折法により測定された、横軸を2θ、縦軸を回折強度とするX線回折スペクトルにおいて、以下<方法>によって選択された直線をバックグラウンドとして除去した後に求められる、上記炭素粒子の(002)面のc軸方向((002)面直交方向)の結晶子の大きさLcが50Å以下である、封止用樹脂組成物。
<方法>
(1) 横軸を2θ、縦軸を回折強度とする上記X線回折スペクトルにおいて、2θ=10°の点または2θ=15°の点のいずれか1つと、2θ=30°の点または2θ=35°の点のいずれか1つとを選択し、選択された2点を直線で結び、計4本の直線を作成する。
(2)上記(1)で作成した4本の直線のうちの一つを選択する。
(3)2θが10°以上35°以下の領域において、上記(2)で選択した直線と、当該直線の下側に位置する上記X線回折スペクトルとで囲まれる面積Sを求める。
(4)上記(1)で作成した4本の直線のそれぞれについて、上記(2)および(3)のステップを繰り返し、得られた上記面積Sが最小となる直線Lを特定する。
(5)上記直線Lをバックグラウンド直線とする。
[3]
上記[1]または[2]に記載の封止用樹脂組成物において、上記炭素粒子中の硫黄含有量が150ppm以下である、封止用樹脂組成物。
[4]
上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の封止用樹脂組成物において、上記炭素粒子中の塩素含有量が50ppm以下である、封止用樹脂組成物。
[5]
上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の封止用樹脂組成物において、
上記熱硬化性樹脂がノボラック型エポキシ樹脂、多官能エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、トリアジン核含有エポキシ樹脂および有橋環状炭化水素化合物変性フェノール型エポキシ樹脂からなる群から選択される1種または2種以上のエポキシ樹脂を含む、封止用樹脂組成物。
[6]
上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の封止用樹脂組成物において、上記硬化剤がフェノール樹脂系硬化剤を含む、封止用樹脂組成物。
[7]
上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の封止用樹脂組成物において、
EMMI-1-66に準じたスパイラルフロー測定用の金型を用い、金型温度175℃、測定時間5分の条件で測定した流動長が50cm以上300cm以下である、封止用樹脂組成物。
[8]
上記[1]~[7]のいずれか1つに記載の封止用樹脂組成物において、
当該封止用樹脂組成物を175℃で30分間の熱処理により硬化させて得られる硬化物の、CIE1976L表色系により規定されるL、a、bを用いて、以下の式(1):
D=[(L-27)+(a-(-1))+(b-(-3))1/2 ・・・(1)
により規定されるD値が、3.2以下である、封止用樹脂組成物。
[9]
上記[1]~[8]のいずれか1つに記載の封止用樹脂組成物において、
当該封止用樹脂組成物を175℃で30分間の熱処理により硬化させて得られる硬化物の1GHzでの誘電率εと、10GHzでの誘電率ε10との比ε/ε10が、0.9以上1.2以下である、封止用樹脂組成物。
[10]
上記[1]~[9]のいずれか1つに記載の封止用樹脂組成物において、
当該封止用樹脂組成物を175℃で30分間の熱処理により硬化させて得られる硬化物の1GHzでの誘電正接δと、10GHzでの誘電正接δ10との比δ/δ10が、0.8以上1.1以下である、封止用樹脂組成物。
[11]
上記[1]~[10]のいずれか1つに記載の封止用樹脂組成物の硬化物により半導体素子が封止されている電子装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、機械的特性、高温信頼性を確保しつつ、黒色度および誘電特性が良好な封止用樹脂組成物および封止用樹脂組成物の硬化物により半導体素子が封止されている電子装置が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0011】
本明細書中、数値範囲の説明における「X~Y」との表記は、特に断らない限り、X以上Y以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。本明細書中、「電子装置」とは、半導体チップ、半導体素子、半導体装置、プリント配線基板、電気回路ディスプレイ装置、情報通信端末、発光ダイオード、物理電池、化学電池など、電子工学の技術が適用された素子、デバイス、最終製品等を包含する意味で用いられ、回路基板上に半導体素子、抵抗、インダクタ等の電子部品が搭載された構造体を封止用樹脂組成物で一括封止した構造のものも含む。
【0012】
<封止用樹脂組成物>
まず、本実施形態の封止用樹脂組成物について説明する。
【0013】
本実施形態における封止用樹脂組成物は、着色材と、熱硬化性樹脂と、硬化剤と、無機充填材と、を含む封止用樹脂組成物であって、上記着色材は、20kNの荷重を加えた際の比抵抗値が1.0×10Ω・cm以上1.0×1014Ω・cm以下である炭素粒子を含み、上記炭素粒子の含有量が、当該封止用樹脂組成物の固形分全体に対して0.05重量%以上5重量%以下である、封止用樹脂組成物である。
【0014】
従来の封止用樹脂組成物に用いる着色材は、上述のようにカーボンブラックやチタン系黒色顔料、黒色酸化鉄(鉄黒)をはじめとする遷移金属化合物などが使用されている。しかし、従来のカーボンブラックは着色力が強く低コストだが、比抵抗値が低いために封止した電子部品間での短絡を引き起こす可能性がある。一方、チタン系黒色顔料や黒色酸化鉄(鉄黒)は比抵抗値が高いために封止した電子部品間での短絡を引き起こす可能性は低いが、高コストとなる。
【0015】
ここで、本実施形態における封止用樹脂組成物では、着色材として20kNの荷重を加えた際の比抵抗値が1.0×10Ω・cm以上1.0×1014Ω・cm以下である炭素粒子を用い、さらに上記炭素粒子の含有量が、当該封止用樹脂組成物の固形分全体に対して0.05重量%以上5重量%以下であることにより、従来のカーボンブラックを使用した場合と同等の黒色度と、従来のチタン系黒色顔料や黒色酸化鉄(鉄黒)を使用した場合以上の誘電特性を得ることに成功した。
【0016】
以下、樹脂組成物に含まれる各成分についてさらに詳細に説明する。
【0017】
[着色材]
本実施形態における封止用樹脂組成物は、着色材として20kNの荷重を加えた際の比抵抗値が1.0×10Ω・cm以上1.0×1014Ω・cm以下である炭素粒子を含む。このことにより、封止用樹脂組成物の電気絶縁性を良好なものとすることができ、本実施形態における樹脂組成物を用いて電子部品を封止した際に、電子部品間での短絡を防ぐことができる。
【0018】
(炭素粒子)
本実施形態における封止用樹脂組成物に含まれる炭素粒子の20kNの荷重を加えた際の比抵抗値の下限値は1.0×10Ω・cm以上であり、好ましくは1.0×10Ω・cm以上、より好ましくは1.0×10Ω・cm以上、さらに好ましくは1.0×10Ω・cm以上である。上記比抵抗値が上記下限値以上であることにより、封止用樹脂組成物に混錬した際に、封止用樹脂組成物の内部の配線における短絡リスクを好適に抑制することができる。
また、本実施形態における封止用樹脂組成物に含まれる炭素粒子の比抵抗値の上限値は1.0×1014Ω・cm以下であり、1.0×1013Ω・cm以下であってもよく、1.0×1012Ω・cm以下であってもよく、1.0×1011Ω・cm以下であってもよい。
【0019】
また、本実施形態における封止用樹脂組成物に含まれる炭素粒子の含有量は、当該封止用樹脂組成物の固形分全体に対して0.05重量%以上5重量%以下である。このことにより、封止用樹脂組成物に混錬した際の封止用樹脂組成物の黒色度を好適なものとすることができ、レーザーマーク性を良好なものとすることができる。
【0020】
ここで、本実施形態における封止用樹脂組成物に含まれる炭素粒子の含有量の下限値は0.05重量%以上が好ましく、より好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.2重量%以上である。炭素粒子の含有量が上記下限値以上であることにより、封止用樹脂組成物に混錬した際の封止用樹脂組成物の黒色度をより好適なものとすることができる。
また、本実施形態における封止用樹脂組成物に含まれる炭素粒子の含有量の上限値は5重量%以下が好ましく、より好ましくは4重量%以下、さらに好ましくは3重量%以下である。炭素粒子の含有量が上記上限値以下であることにより、封止用樹脂組成物に混錬した際の封止用樹脂組成物の流動性をより好適なものとすることができる。
【0021】
本実施形態における封止用樹脂組成物に含まれる炭素粒子は、線源としてCuKα線を用いたX線回折法により測定された、横軸を2θ、縦軸を回折強度とするX線回折スペクトルにおいて、以下<方法>によって選択された直線をバックグラウンドとして除去した後に求められる(002)面のc軸方向((002)面直交方向)の結晶子の大きさLcの上限値が50Å以下であることが好ましく、40Å以下であることがより好ましく、30Å以下であることが特に好ましい。
【0022】
<方法>
(1) 横軸を2θ、縦軸を回折強度とする上記X線回折スペクトルにおいて、2θ=10°の点または2θ=15°の点のいずれか1つと、2θ=30°の点または2θ=35°の点のいずれか1つとを選択し、選択された2点を直線で結び、計4本の直線を作成する。
(2)上記(1)で作成した4本の直線のうちの一つを選択する。
(3)2θが10°以上35°以下の領域において、上記(2)で選択した直線と、当該直線の下側に位置する上記X線回折スペクトルとで囲まれる面積Sを求める。
(4)上記(1)で作成した4本の直線のそれぞれについて、上記(2)および(3)のステップを繰り返し、得られた面積Sが最小となる直線Lを特定する。
(5)上記直線Lをバックグラウンド直線とする。
【0023】
上記Lcが上記上限値以下であることにより、炭素粒子を混錬した封止用樹脂組成物を用いて成形体を作製した際に、成形品表面で欠け・剥離が生じにくくなり、装置汚染を防止できるという効果を得ることができる。これは、難黒鉛タイプの炭素は結晶性の黒鉛より硬く炭素層が剥離しにくいことに起因すると思われる。
また、上記Lcの上限値が40Å以下であることにより、封止用樹脂組成物に混錬した際に、封止用樹脂組成物の内部の配線における短絡リスクを好適に抑制することができる。
上記Lcの下限値は特に限定されないが、例えば3Å以上であり、5Å以上であり、6Å以上であり、7Å以上であり、8Å以上であり、9Å以上である。
【0024】
結晶子の大きさLcは、X線回折測定から求められるスペクトルにおける(002)面ピークの半値幅と回折角から次のScherrerの式を用いて決定することができる。
Lc=0.94λ/(βcosθ) (Scherrerの式)
Lc:結晶子の大きさ
λ:陰極から出力される特性X線Kα1の波長(CuKα線を線源とした場合、λ=0.15418nm)
β:ピークの半値幅(ラジアン)
θ:スペクトルの反射角度
ここで、ピークの半値幅βおよびスペクトルの反射角度θは以下の手順で求められる。
(I)2θが15~30°の範囲における最も強度が大きいピークを(002)面ピークとする。また、(002)面ピークのピークトップにおける2θの値を(002)面ピークの2θとし、(002)面ピークの2θを2で割った値をスペクトルの反射角度θとする。
(II)上記(002)面ピークのピークトップの半分の強度を示し、かつ、小角側、広角側それぞれにおいて最も2θに近い点を、それぞれP(昇格側)およびP(広角側)とし、PおよびPにおける2θの値を2θおよび2θとする。そして、2θおよび2θの差分(2θ-2θ)をピークの半値幅βとする。
炭素粒子におけるX線回折スペクトルは、公知のいずれのX線回折装置により測定されてもよい。公知のX線回折装置としては、例えば株式会社リガク製・X線回折装置「SmartLab」などが挙げられる。
【0025】
このような炭素粒子は、(i)最高炭化温度、(ii)保持時間を高度に制御することによって製造することができる。
【0026】
本実施形態における封止用樹脂組成物に含まれる炭素粒子の炭素元素の含有比率の下限値は80%以上であり、より好ましくは82%以上であり、さらに好ましくは85%以上である。炭素元素の含有比率が上記下限値以上であることにより、炭素粒子の黒色度がより好適なものとなり、樹脂組成物に混錬した際の着色力がより良好なものとなる。
また、上記炭素元素の含有比率の上限値は98%以下であり、好ましくは97%以下であり、より好ましくは95%以下である。炭素元素の含有比率が上記上限値以下であることにより、炭素粒子の導電性の発現を抑えることができ、樹脂組成物に混錬した際の電気絶縁性がより良好なものとなる。
【0027】
本実施形態における封止用樹脂組成物に含まれる炭素粒子は、CIE1976L表色系により規定されるbの値が、-4以上+6以下であることが好ましく、-3以上+5以下であることがより好ましく、-2以上+4以下であることがさらに好ましく、-2以上+3以下であることがさらに好ましく、-1以上+3以下であることがさらに好ましい。bが上記数値範囲内であることにより、炭素粒子の黒色度がより好適なものとなり、樹脂組成物に混錬した際の着色力がより良好なものとなる。
【0028】
CIE1976L表色系により規定されるbの値が上記数値範囲内である炭素粒子は、(i)最高炭化温度、(ii)保持時間、(iii)炭素粒子の粒子径D50を高度に制御することによって製造することができる。
【0029】
本実施形態における封止用樹脂組成物に含まれる炭素粒子は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定された体積基準の累積度数分布曲線において累積度数が50%である粒子径D50の下限値が、0.1μm以上であり、0.2μm以上であることがより好ましく、0.3μm以上であることがさらに好ましい。上記D50が上記下限値以上であることで、炭素粒子の黒色度がより好適なものとなるほか、樹脂組成物に混練した際の分散性が向上する。
また、上記粒子径D50の上限値は、30μm以下であり、20μm以下であることがより好ましく、15μm以下であることがさらに好ましい。上記D50が上記上限値以下であることで、炭素粒子の着色力がより好適なものとなるほか、炭素粒子を樹脂組成物に混練した際に、樹脂組成物の表面粗さをより良好にすることができる。
【0030】
本実施形態における封止用樹脂組成物に含まれる炭素粒子は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定された体積基準の累積度数分布曲線において累積度数が10%である粒子径D10が0.01μm~15μmであることが好ましく、0.02μm~10μmであることがより好ましく、0.05μm~5μmであることがさらに好ましい。
10が上記数値範囲内にあることで、炭素粒子の黒色度がより好適なものとなるほか、樹脂組成物に混練した際の分散性が向上する。
【0031】
本実施形態における封止用樹脂組成物に含まれる炭素粒子は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定された体積基準の累積度数分布曲線において累積度数が90%である粒子径D90が0.5μm~50μmであることが好ましく、0.88μm~45μmであることがより好ましく、1μm~40μmであることがさらに好ましい。
90が上記数値範囲内にあることで、炭素粒子の着色力がより好適なものとなるほか、炭素粒子を樹脂組成物に混練した際に、樹脂組成物の表面粗さをより良好にすることができる。
【0032】
本実施形態における封止用樹脂組成物に含まれる炭素粒子において、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定された体積基準の累積度数分布曲線において累積度数がそれぞれ10%、50%、90%である粒子径D10、D50、D90を用いて、下記式(1)で表される粒径分布は、0.5~2.0であることが好ましく、0.6~1.9であることがより好ましく、0.7~1.8であることがさらに好ましい。
粒径分布=(D90-D10)/D50 ・・・式(1)
粒径分布が上記数値範囲内であることで、炭素粒子の黒色度がより好適なものとなり、樹脂組成物に混練した際の分散性が向上するほか、炭素粒子の着色力がより好適なものとなり、炭素粒子を樹脂組成物に混練した際に、樹脂組成物の表面粗さをより良好にすることができる。
【0033】
本実施形態における封止用樹脂組成物に含まれる炭素粒子は、炭素粒子中の硫黄含有量の上限値が150ppm以下であることが好ましく、100ppm以下であることがより好ましく、50ppm以下であることがさらに好ましい。上記硫黄含有量が上記上限値以下であることにより、炭素粒子を混錬した封止用樹脂組成物で電子部品を封止した際に、封止構造内部の電気配線の腐食を抑制することができ、たとえば、CuワイヤとAlパッドの接合部の腐食を高度に抑制できる。
また、上記硫黄含有量の下限値は特に限定されないが、例えば0ppm以上である。ここで、0ppmとはイオンクロマトグラフィーの検出下限以下の数値も含む。
硫黄含有量は公知の方法で測定されていればよく、例えば、ダイオネクスICS2000型イオンクロマトグラフを用いて、測定試料中の硫酸イオンを検量線法により定量し、試料中の元素含有量に換算して炭素粒子中の硫黄含有量とすることで測定できる。
このような炭素粒子は、原料樹脂組成物または炭素粒子の製造過程において、硫酸などの硫黄元素を含む化合物を用いない、もしくは用いたとしても少量とすることにより製造することができる。
【0034】
本実施形態における封止用樹脂組成物に含まれる炭素粒子は、炭素粒子中の塩素含有量の上限値が50ppm以下であることが好ましく、40ppm以下であることがより好ましく、30ppm以下であることがさらに好ましい。上記塩素含有量が上記上限値以下であることにより、炭素粒子を混錬した封止用樹脂組成物で電子部品を封止した際に、封止構造内部の電気配線の腐食を抑制することができ、たとえば、CuワイヤとAlパッドの接合部の腐食を高度に抑制できる。
また、上記塩素含有量の下限値は特に限定されないが、例えば0ppm以上である。ここで、0ppmとは検出下限以下の数値も含む。
塩素含有量は公知の方法で測定されていればよく、例えば、ダイオネクスICS2000型イオンクロマトグラフを用いて、測定試料中の塩素イオンを検量線法により定量し、試料中の元素含有量に換算して炭素粒子中の塩素含有量とすることで測定できる。
このような炭素粒子は、原料樹脂組成物または炭素粒子の製造過程において、塩酸などの塩素元素を含む化合物を用いない、もしくは用いたとしても少量とすることにより製造することができる。
【0035】
[炭素粒子の製造方法]
本実施形態における封止用樹脂組成物に含まれる炭素粒子は、以下の製造方法によって製造することができる。
【0036】
本実施形態における封止用樹脂組成物に含まれる炭素粒子は、好ましくは以下の2つの工程を含む製造方法により製造することができる。
即ち、原料樹脂を炭化して炭化物を得る炭化工程と、
上記炭化物を粉砕して炭素粒子を得る粉砕工程と、を有することが望ましい。
【0037】
(炭化工程)
まず、炭化工程では、原料樹脂組成物を炭化することによって原料樹脂組成物の炭化物を得る。原料樹脂組成物の炭化物を得る方法としては、好ましくは不活性ガス雰囲気下で熱処理可能な設備を用いる。上記不活性ガスとしては窒素、ヘリウムガス、アルゴンガスなどの公知の気体が使用できる。
【0038】
上記炭化工程における最高炭化温度は、炭素粒子の比抵抗値の向上という観点から、400℃~800℃が好ましく、450℃~750℃がより好ましく、500℃~700℃がさらに好ましい。
【0039】
上記炭化工程における最高炭化温度を保持する時間(以下、「保持時間」と呼称する)は、炭素粒子の比抵抗値の向上という観点から、好ましくは0時間~24時間であり、より好ましくは0時間~18時間であり、さらに好ましくは0時間~12時間である。
【0040】
上記炭素粒子は、原料樹脂組成物として熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂および重合性高分子量体(以下、単に「主成分樹脂類」ということがある)から選択される1種または2種以上の材料の炭化物を含むことが好ましい。
また、これらの原料樹脂組成物の形状は、例えば粉体、硬化物、液状などであってもよいが、製造効率の観点から、液状であることが好ましい。
なお、本発明の原料樹脂組成物は、主成分樹脂類として一種類の樹脂のみを用いる場合もあるが、便宜上、これも原料樹脂組成物と呼称することとする。
【0041】
ここで、熱硬化性樹脂としては特に限定されないが、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂などのフェノール樹脂;ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂;アニリン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、シアネート樹脂などの含窒素樹脂;ケトン樹脂;不飽和ポリエステル樹脂;ウレタン樹脂あるいはフラン樹脂などが挙げられる。また、これらが種々の成分で変性された変性物であってもよい。
また、熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、ポリプロピレン、メタクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、またはポリフタルアミドなどが挙げられる。
その他の高分子材料としては特に限定されないが、例えば、エチレン製造時に副生する石油系のタールまたはピッチ、石炭乾留時に生成するコールタール、コールタールの低沸点成分を蒸留除去した重質成分またはピッチ、および石炭の液化により得られるタールまたはピッチ等の石油系または石炭系の材料、前述する石油系または石炭系の材料を架橋処理したもの、紡糸用ピッチ等の重合性高分子量体などが挙げられる。
上記主成分樹脂類は、単独あるいは二種類以上を併用することができる。
【0042】
原料樹脂組成物においては、このような主成分樹脂類として熱硬化性樹脂を用いる場合には、その硬化剤を併用することができる。
熱硬化性樹脂の硬化剤としては特に限定されないが、例えばノボラック型フェノール樹脂の場合はヘキサメチレンテトラミン;レゾール型フェノール樹脂;ポリアセタール;またはパラホルムなどを用いることができる。またエポキシ樹脂の場合は、脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミンなどのポリアミン化合物;酸無水物;イミダゾール化合物;ジシアンジアミド;ノボラック型フェノール樹脂;ビスフェノール型フェノール樹脂;またはレゾール型フェノール樹脂などを用いることができる。
なお、通常硬化剤を併用する熱硬化性樹脂であっても、本発明の原料樹脂組成物においては、硬化剤を併用しないで用いることができる。
【0043】
原料樹脂組成物においては、上記主成分樹脂類のほか、添加剤を配合することができる。
ここで添加剤としては特に限定されないが、例えば、黒鉛及び黒鉛変性剤、有機酸、無機酸、含窒素化合物、含酸素化合物、芳香族化合物、及び、非鉄金属元素などを挙げることができる。
上記添加剤は、用いる主成分樹脂類の種類や性状などにより、単独あるいは二種類以上を併用することができる。
【0044】
本実施形態の炭化工程において使用できる熱処理可能な設備としては、特に限定されるものではなく、公知の設備を選択することができる。公知の設備としては、例えば回分式の電気炉もしくはロータリーキルン、ローラーハースキルン等の連続炉が挙げられる。
上記設備は、上記炭素粒子に求める物性や上記炭素粒子の製造効率などにより、単独あるいは二種類以上を併用することができる。
【0045】
(粉砕工程)
次いで、粉砕工程を行う。粉砕工程では、炭化工程で得られた炭化物を粉砕し、炭素粒子を得る。この際、粉砕効率の向上という観点から、炭化物を予め砕く予備粉砕と、目的の炭素粒子の粒径となるまで砕く本粉砕を併用しても良い。
【0046】
予備粉砕および本粉砕を問わず、粉砕工程に用いる装置は特に限定されず、炭化物を粉砕できればいずれの方法を用いても良い。粉砕工程に用いる装置としては、例えばロッドミル、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、サイクロンミル、ローラーミル、ピンミル、ハンマーミル等の乾式粉砕装置;および高圧ホモジナイザーおよびビーズミル等の湿式粉砕装置などの公知の装置を用いることができる。
粉砕処理において、これらの装置を1種または2種以上使用し、または、1種の装置で複数回粉砕して用いてもよい。
【0047】
粉砕工程においてビーズミルを使用する場合、乾式粉砕および湿式粉砕を問わずに、用いるビーズの材質は特に限定されず、ジルコニアビーズ、アルミナビーズ、ジルコンビーズ、ガラスビーズ、高クロム炭素鋼ビーズなどの公知の材質のビーズを用いることができる。この中でも、金属コンタミ、耐摩耗性、粉砕効率の観点からはジルコニアビーズを用いることが好ましい。
【0048】
また、上記ビーズ径としては、炭化物の粒径や硬度に応じて選択してよく、例えば0.015mm~5mmである。また、粒径の異なるビーズを2種類以上併用してもよい。
【0049】
粉砕工程において湿式粉砕をする場合、炭化物を分散し、炭素材スラリーとする分散媒としては、水、有機溶剤もしくはその混合物を用いることが好ましい。上記有機溶剤としては沸点が120℃以下の公知の有機化合物を使用することができる。例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等のアルコール類、アセトン、2-ブタノン、4-メチル-2-ペンタノンなどのケトン類が挙げられる。
【0050】
湿式粉砕時の炭素材スラリーの濃度としては、1重量%~50重量%が好ましく、1重量%~40重量%がより好ましく、1重量%~30重量%がさらに好ましい。
炭素材スラリーの濃度が上記上限以下であることによって、炭素材スラリーの流動性が増し、炭化物をより良好に粉砕できるため好ましい。また、炭素材スラリーの濃度が上記下限以上であることによって、炭化物の粉砕効率が向上するため好ましい。
【0051】
上記設備を2種類以上併用する場合、炭素粒子の粒径の均一化および炭素粒子のハンドリング性という観点から、設備変更の間において篩かけ工程を含んでも良い。
【0052】
(その他工程)
上記粉砕工程を湿式粉砕にて行った場合、粉砕工程の後に乾燥により炭素材スラリーから炭素粒子を回収する乾燥工程を含んでも良い。また、上記粉砕工程の後に、炭素粒子のさらなる黒色化を目的として、炭素粒子をさらに熱処理する二次炭化工程を含んでも良い。
さらに、上記粉砕工程もしくは上記二次炭化工程の後に、炭素粒子の粒径の均一化および炭素粒子のハンドリング性の向上という観点から篩かけを行っても良い。
【0053】
[熱硬化性樹脂]
本実施形態における封止用樹脂組成物は、熱硬化性樹脂を含む。上記熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、シアネート樹脂、マレイミド樹脂、アクリル樹脂、フェノール誘導体またはこれらの誘導体等の従来公知の熱硬化性樹脂が使用できる。
【0054】
本実施形態に用いることができるエポキシ樹脂としては、一般的に封止用樹脂組成物に使用される公知のエポキシ樹脂が挙げられる。公知のエポキシ樹脂としては、例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;スチルベン型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等に例示されるトリスフェノール型エポキシ樹脂等の多官能エポキシ樹脂;フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、フェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂等のフェノールアラルキル型エポキシ樹脂;ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレンの2量体をグリシジルエーテル化して得られるエポキシ樹脂等のナフトール型エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート等のトリアジン核含有エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂等の有橋環状炭化水素化合物変性フェノール型エポキシ樹脂が挙げられる。この中でも、封止用樹脂組成物の曲げ強度の向上を図る観点から、ノボラック型エポキシ樹脂、多官能エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、トリアジン核含有エポキシ樹脂、有橋環状炭化水素化合物変性フェノール型エポキシ樹脂からなる群から選択される1種または2種以上のエポキシ樹脂を含むことが好ましい。
エポキシ樹脂としては、上記具体例のうち、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0055】
本実施形態に用いることができるマレイミド樹脂としては、一般的に封止用樹脂組成物に使用される公知のマレイミド樹脂が挙げられる。公知のマレイミド樹脂としては、4,4'-ジフェニルメタンビスマレイミド、m-フェニレンビスマレイミド、p-フェニレンビスマレイミド、2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス-(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、N,N'-エチレンジマレイミド、N,N'-ヘキサメチレンジマレイミド、ビス(4-マレイミドフェニル)エーテル、ビス(4-マレイミドフェニル)スルホン、3,3-ジメチル-5,5-ジエチル-4,4-ジフェニルメタンビスマレイミド、ビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミド等の分子内に2つのマレイミド基を有する化合物、ポリフェニルメタンマレイミド等の分子内に3つ以上のマレイミド基を有する化合物等が挙げられる。
これらの中の1種類を単独で用いることもできるし、2種類以上を併用することもできる。
【0056】
本実施形態に用いることができるアクリル樹脂とは、分子内にラジカル重合性の(メタ)アクリロイル基を有する化合物であり、(メタ)アクリロイル基が反応することで3次元的網目構造を形成し硬化し得る化合物のことである。(メタ)アクリロイル基は、分子内に1つ以上有する必要があるが、3次元的網目構造を形成する点で2つ以上含まれていることが好ましい。ラジカル重合性の(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,2-シクロヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,3-シクロヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,2-シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、1,3-シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、1,2-シクロヘキサンジエタノールモノ(メタ)アクリレート、1,3-シクロヘキサンジエタノールモノ(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジエタノールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールモノ(メタ)アクリレートなどの水酸基を有する(メタ)アクリレートやこれら水酸基を有する(メタ)アクリレートとジカルボン酸またはその誘導体を反応させて得られるカルボキシル基を有する(メタ)アクリレートなどが挙げられる。ここで使用可能なジカルボン酸としては、例えばしゅう酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸およびこれらの誘導体が挙げられる。
【0057】
本実施形態において、封止用樹脂組成物中の全熱硬化性樹脂の含有量は、従来の封止用樹脂組成物の硬化性をはじめとする各種物性を保つ観点から、封止用樹脂組成物の固形分全体に対して好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは6質量%以上、さらに好ましくは7質量%以上である。
また、封止用樹脂組成物を用いて得られる硬化物について、高温信頼性や曲げ強度を向上させる観点から、封止用樹脂組成物中の熱硬化性樹脂の含有量は、封止用樹脂組成物の固形分全体に対して好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは14質量%以下、さらに好ましくは13質量%以下である。
【0058】
本実施形態において、封止用樹脂組成物は、高温信頼性の観点から、イオン性不純物であるNaイオンやClイオン、Sイオンを極力含まないことが好ましい。
【0059】
[硬化剤]
本実施形態における封止用樹脂組成物は、硬化剤を含む。本実施形態の封止用樹脂組成物に用いられる硬化剤としては、たとえば重付加型の硬化剤、触媒型の硬化剤、および縮合型の硬化剤の3タイプに大別することができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
重付加型の硬化剤は、たとえば、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、メタキシレリレンジアミン(MXDA)などの脂肪族ポリアミン、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、m-フェニレンジアミン(MPDA)、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)などの芳香族ポリアミンのほか、ジシアンジアミド(DICY)、有機酸ジヒドラジドなどを含むポリアミン化合物;ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸(MTHPA)などの脂環族酸無水物、無水トリメリット酸(TMA)、無水ピロメリット酸(PMDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸(BTDA)などの芳香族酸無水物などを含む酸無水物;ノボラック型フェノール樹脂、ポリビニルフェノール、アラルキル型フェノール樹脂などのフェノール樹脂系硬化剤;ポリサルファイド、チオエステル、チオエーテルなどのポリメルカプタン化合物;イソシアネートプレポリマー、ブロック化イソシアネートなどのイソシアネート化合物;カルボン酸含有ポリエステル樹脂などの有機酸類からなる群から選択される1種または2種以上を含む。
【0061】
触媒型の硬化剤は、たとえば、ベンジルジメチルアミン(BDMA)、2,4,6-トリスジメチルアミノメチルフェノール(DMP-30)などの3級アミン化合物;2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール(EMI24)などのイミダゾール化合物;BF錯体などのルイス酸からなる群から選択される1種または2種以上を含む。
【0062】
縮合型の硬化剤は、たとえば、レゾール型フェノール樹脂;メチロール基含有尿素樹脂などの尿素樹脂;メチロール基含有メラミン樹脂などのメラミン樹脂からなる群から選択される1種または2種以上を含む。
【0063】
これらの中でも、得られる封止用樹脂組成物の耐燃性、耐湿性、電気特性、硬化性、および保存安定性等についてのバランスを向上させる観点から、フェノール樹脂系硬化剤を含むことがより好ましい。フェノール樹脂系硬化剤としては、たとえば、一分子内にフェノール性水酸基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般を用いることができ、その分子量、分子構造は限定されない。
【0064】
フェノール樹脂系硬化剤は、たとえば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールノボラック等のノボラック型フェノール樹脂;ポリビニルフェノール、トリフェニルメタン型フェノール樹脂等の多官能型フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂等の変性フェノール樹脂;フェニレン骨格及び/又はビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン及び/又はビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂等のフェノールアラルキル型フェノール樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール化合物からなる群から選択される1種または2種以上を含む。これらの中でも、成形体の反りを抑制する観点からは、ノボラック型フェノール樹脂、多官能型フェノール樹脂およびフェノールアラルキル型フェノール樹脂を含むことがより好ましい。また、フェノールノボラック樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、トリフェニルメタン型フェノール樹脂を好ましく使用することもできる。
【0065】
硬化剤の配合割合の下限値は、封止用樹脂組成物の固形分全体に対して、2質量%以上であることが好ましく3質量%以上であることがより好ましい。配合割合の下限値が上記範囲内であると、充分な流動性を得ることができる。また、硬化剤の配合割合の上限値は、封止用樹脂組成物全体に対して、16質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。配合割合の上限値が上記範囲内であると、互着を適正に抑制することができる。また、流動性および融け性を向上させるため、用いる硬化剤の種類に応じて配合割合を適宜調整することが望ましい。
【0066】
[無機充填材]
本実施形態における封止用樹脂組成物は、無機充填材を含む。無機充填材は、封止用樹脂組成物の硬化に伴う吸湿量の増加や、強度の低下を低減する機能を有するものであり、当該分野で一般的に用いられる無機充填材を使用することができる。
【0067】
無機充填材としては、例えば、溶融シリカ、球状シリカ、溶融球状シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化珪素および窒化アルミ等が挙げられ、これらの無機充填材は、単独でも混合して使用してもよい。
【0068】
無機充填材の平均粒径D50は、例えば0.01μm以上、150μm以下とすることができる。
【0069】
封止用樹脂組成物中における無機充填材の量の下限値は、封止用樹脂組成物の全質量に対して、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上である。下限値が上記範囲内であると、得られる封止用樹脂組成物の硬化に伴う吸湿量の増加や、強度の低下を、より効果的に低減することができ、したがって硬化物の耐半田クラック性をさらに改善することができる。
【0070】
また、封止用樹脂組成物中の無機充填材の量の上限値は、封止用樹脂組成物の全質量に対して、好ましくは93質量%以下であり、より好ましくは91質量%以下であり、さらに好ましくは90質量%以下である。上限値が上記範囲内であると、得られる封止用樹脂組成物は良好な流動性を有するとともに、良好な成形性を備える。
【0071】
(その他の成分)
本実施形態における封止用樹脂組成物は、着色材、熱硬化性樹脂、硬化剤および無機充填材に加え、以下に示す成分を含み得る。
【0072】
(硬化促進剤)
硬化促進剤は、熱硬化性樹脂の反応基と硬化剤の反応基との反応を促進する機能を有するものであり、当該分野で一般に使用される硬化促進剤が用いられる。
【0073】
硬化促進剤の具体例としては、テトラフェニルホスホニウム・4,4'-スルフォニルジフェノラート、テトラフェニルホスホニウムビス(ナフタレン-2,3-ジオキシ)フェニルシリケート等のテトラ置換ホスホニウム化合物、有機ホスフィン、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等のリン原子含有化合物;1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7、ベンジルジメチルアミン、2-メチルイミダゾール等が例示されるアミジンや3級アミン、さらには前記アミジン、アミンの4級塩等の窒素原子含有化合物が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、硬化性の観点からはリン原子含有化合物が好ましく、また耐半田性と流動性の観点では、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物が特に好ましく、連続成形における金型の汚染が軽度である点では、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等のリン原子含有化合物が特に好ましい。
【0074】
封止用樹脂組成物で用いることができる有機ホスフィンとしては、例えばエチルホスフィン、フェニルホスフィン等の第1ホスフィン;ジメチルホスフィン、ジフェニルホスフィン等の第2ホスフィン;トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等の第3ホスフィン;およびこれらの誘導体が挙げられる。
【0075】
(カップリング剤)
カップリング剤は、封止用樹脂組成物中に無機充填材が含まれる場合に、熱硬化性樹脂と無機充填材との密着性を向上させる機能を有するものであり、例えば、シランカップリング剤等が用いられる。
【0076】
シランカップリング剤としては、各種のものを用いることができるが、アミノシランを用いるのが好ましい。これにより、封止用樹脂組成物の流動性および耐半田性を向上させることができる。
【0077】
アミノシランとしては、特に限定されないが、例えば、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-フェニルγ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニルγ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-6-(アミノヘキシル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(3-(トリメトキシシリルプロピル)-1,3-ベンゼンジメタナミン等が挙げられる。
【0078】
シランカップリング剤等のカップリング剤の配合割合の下限値としては、全封止用樹脂組成物中0.01質量%以上が好ましく、より好ましくは0.05質量%以上、特に好ましくは0.1質量%以上である。シランカップリング剤等のカップリング剤の配合割合の下限値が上記範囲内であれば、熱硬化性樹脂と無機充填材との界面強度が低下することがなく、電子装置における良好な耐半田クラック性を得ることができる。また、シランカップリング剤等のカップリング剤の配合割合の上限値としては、全封止用樹脂組成物中1質量%以下が好ましく、より好ましくは0.8質量%以下、特に好ましくは0.6質量%以下である。シランカップリング剤等のカップリング剤の配合割合の上限値が上記範囲内であれば、熱硬化性樹脂と無機充填材との界面強度が低下することがなく、装置における良好な耐半田クラック性を得ることができる。また、シランカップリング剤等のカップリング剤の配合割合が上記範囲内であれば、封止用樹脂組成物の硬化物の吸水性が増大することがなく、電子装置における良好な耐半田クラック性を得ることができる。
【0079】
(難燃剤)
難燃剤は、封止用樹脂組成物の難燃性を向上させる機能を有するものであり、一般に使用される難燃剤が用いられる。
【0080】
具体的には、燃焼時に脱水、吸熱することによって燃焼反応を阻害する金属水酸化物や、燃焼時間の短縮することができる複合金属水酸化物が好ましく用いられる。
【0081】
金属水酸化物としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化ジルコニアを挙げることができる。
【0082】
複合金属水酸化物としては、2種以上の金属元素を含むハイドロタルサイト化合物であって、少なくとも一つの金属元素がマグネシウムであり、かつ、その他の金属元素がカルシウム、アルミニウム、スズ、チタン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、または亜鉛から選ばれる金属元素であればよく、そのような複合金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム・亜鉛固溶体が市販品で入手が容易である。
【0083】
なかでも、密着性と高温信頼性のバランスの観点からは水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム・亜鉛固溶体が好ましい。
【0084】
難燃剤は、単独で用いても、2種以上用いてもよい。また、密着性への影響を低減する目的から、シランカップリング剤等の珪素化合物やワックス等の脂肪族系化合物等で表面処理を行って用いてもよい。
【0085】
また、上述したその他の成分以外に、イオン捕捉剤;カルナバワックス等の天然ワックス、ポリエチレンワックス等の合成ワックス、ステアリン酸やステアリン酸亜鉛等の高級脂肪酸およびその金属塩類もしくはパラフィン等の離型剤;シリコーンオイル、シリコーンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ジメチルシロキサン-アルキルカルボン酸-4,4'-(1-メチルエチリデン)ビスフェノール グリシジルエーテル共重合体等の低応力剤を適宜配合してもよい。
【0086】
本実施形態の封止用樹脂組成物は、上記の着色材、熱硬化性樹脂、硬化剤および無機充填材ならびに必要に応じて上記のその他の成分を、当該分野で通常用いられる方法により混合することにより得ることができる。
【0087】
本実施形態における封止用樹脂組成物は、EMMI-1-66に準じたスパイラルフロー測定用の金型を用い、金型温度175℃、測定時間5分の条件で測定した流動長の下限値が50cm以上であることが好ましく、75cm以上であることがより好ましく、100cm以上であることがさらに好ましい。流動長が上記下限値以上であることにより、封止用樹脂組成物の封止成形性がより好適なものとなる。
また、上記流動長の上限値が300cm以下であることが好ましく、275cm以下であることがより好ましく、250cm以下であることがさらに好ましい。流動長が上記上限値以下であることにより、封止用樹脂組成物の硬化性および成形時におけるバリの発生や高温信頼性等の硬化物特性がより好適なものとなる。
【0088】
本実施形態における封止用樹脂組成物は、当該封止用樹脂組成物を175℃で30分間の熱処理により硬化させて得られる硬化物の、CIE1976L表色系により規定されるL、a、bを用いて、以下の式(1):
D=[(L-27)+(a-(-1))+(b-(-3))1/2 ・・・(1)
により規定されるD値の上限値が、3.2以下であることが好ましく、2.8以下であることがより好ましく、2.7以下であることがさらに好ましく、2.5以下であることがさらに好ましく、2.3以下であることがさらに好ましく、2.1以下であることがさらに好ましく、1.8以下であることがさらに好ましく、1.6以下であることがさらに好ましい。D値が上記上限値以下であることにより、本実施形態における封止用樹脂組成物を硬化物とした際に、着色度が向上しレーザーマーク性がより好適なものとなる。
なお、上記D値の下限値は特に限定されないが、例えば0以上である。
【0089】
本実施形態における封止用樹脂組成物は、当該封止用樹脂組成物を175℃で30分間の熱処理により硬化させて得られる硬化物の1GHzでの誘電率εと、10GHzでの誘電率ε10との比ε/ε10の下限値が、0.9以上であることが好ましく、0.95以上であることがより好ましく、1.0以上であることがさらに好ましい。比ε/ε10が上記下限値以上であることにより、封止用樹脂組成物の常温保管性および封止成形性がより好適なものとなる。
また、上記比ε/ε10の上限値が1.2以下であることが好ましく、1.15以下であることがより好ましく、1.1以下であることがさらに好ましい。比ε/ε10が上記上限値以下であることにより、封止用樹脂組成物の硬化性および半田クラック性や高温信頼性等の硬化物特性がより好適なものとなる。
【0090】
本実施形態における封止用樹脂組成物は、当該封止用樹脂組成物を175℃で30分間の熱処理により硬化させて得られる硬化物の1GHzでの誘電正接δと、10GHzでの誘電正接δ10との比δ/δ10の下限値が、0.8以上であることが好ましく、0.85以上であることがより好ましく、0.9以上であることがさらに好ましい。比δ/δ10が上記下限値以上であることにより、封止用樹脂組成物の常温保管性および封止成形性がより好適なものとなる。
また、上記比δ/δ10の上限値が1.1以下であることが好ましく、1.05以下であることがより好ましく、1.0以下であることがさらに好ましい。比δ/δ10が上記上限値以下であることにより、封止用樹脂組成物の硬化性および半田クラック性や高温信頼性等の硬化物特性がより好適なものとなる。
【0091】
<電子装置>
本発明の一実施形態においては、本実施形態の封止用樹脂組成物の硬化物により半導体素子が封止されている電子装置とすることができる。
【0092】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例
【0093】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
【0094】
<実施例、比較例>
(封止用樹脂組成物の調製)
各実施例および各比較例のそれぞれについて、以下のように封止用樹脂組成物を調製した。
まず、表1に示す各成分をミキサーにより混合した。次いで、得られた混合物を、ロール混練した後、冷却、粉砕して粉粒体である封止用樹脂組成物を得た。
表1中の各成分の詳細は下記のとおりである。また、表1中に示す各成分の配合割合は、封止用樹脂組成物全体に対する配合割合(重量%)を示している。
(原料)
(無機充填材)
無機充填材1:溶融シリカ(MSV-SF540、龍森社製、粒子径D50:13μm)
無機充填材2:溶融球状シリカ(FB-100XFD、デンカ社製、粒子径D50:14μm)
無機充填材3:溶融シリカ(アドマテックス社製、SD2500-SQ、粒子径D50:0.9μm)
無機充填材4:溶融シリカ(アドマテックス社製、SD5500-SQ、粒子径D50:1.5μm)
【0095】
(着色材)
着色材1:以下の(方法1)で作成した炭素粒子1(粒子径D50:1.27μm、D10:0.66μm、D90:2.56μm、比抵抗値:4.1×1010Ω・cm、硫黄含有量:10ppm(測定下限)以下、塩素含有量:25ppm(測定下限)以下、Lc:8Å)
(方法1)
フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製:PR-51464)を窒素雰囲気下、580℃で160分炭化することで炭化物を得た。得られた炭化物をサイクロンミルで粉砕し、超音波振動篩(目開き20μm)を用いて篩かけを行うことで粒子径D50:10μmの予備粉砕物を得た。次いで、上記予備粉砕物をΦ12.5mmジルコニアビーズを用いた乾式ビーズミルを用いて微粉砕を行い、炭素粒子を得た。最後に、上記炭素粒子を手篩(目開き:212μm)で篩かけを行うことで凝集物を除去し、炭素粒子1を得た。
【0096】
着色材2:以下の(方法2)で作成した炭素粒子2(粒子径D50:0.95μm、D10:0.56μm、D90:1.89μm、比抵抗値:9.5×10Ω・cm、硫黄含有量:10ppm(測定下限)以下、塩素含有量:25ppm(測定下限)以下、Lc:9Å)
(方法2)
フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製:PR-51464)を窒素雰囲気下、580℃で260分炭化することで炭化物を得た。得られた炭化物をサイクロンミルで粉砕し、超音波振動篩(目開き20μm)を用いて篩かけを行うことで粒子径D50:10μmの予備粉砕物を得た。次いで、上記予備粉砕物をΦ1.0mmジルコニアビーズを用いた乾式ビーズミルを用いて微粉砕を行い、炭素粒子を得た。最後に、上記炭素粒子を手篩(目開き:212μm)で篩かけを行うことで凝集物を除去し、炭素粒子2を得た。
【0097】
着色材3:以下の(方法3)で作成した炭素粒子3(粒子径D50:1.36μm、D10:0.73μm、D90:2.64μm、比抵抗値:3.1×10Ω・cm、硫黄含有量:10ppm(測定下限)以下、塩素含有量:25ppm(測定下限)以下、Lc:8Å)
(方法3)
フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製:PR-51464)を窒素雰囲気下、580℃で160分炭化することで炭化物を得た。得られた炭化物をサイクロンミルで粉砕し、超音波振動篩(目開き20μm)を用いて篩かけを行うことで粒子径D50:10μmの予備粉砕物を得た。次いで、上記予備粉砕物をΦ12.5mmジルコニアビーズを用いた乾式ビーズミルを用いて微粉砕を行い、炭素粒子を得た。その後、上記炭素粒子をさらに630℃で45分間熱処理を行い、二次炭化物を得た。最後に、上記二次炭化物を手篩(目開き:212μm)で篩かけを行うことで凝集物を除去し、炭素粒子3を得た。
【0098】
着色材4:以下の(方法4)で作成した炭素粒子4(粒子径D50:0.46μm、D10:0.30μm、D90:0.73μm、比抵抗値:8.0×10Ω・cm、硫黄含有量:10ppm(測定下限)以下、塩素含有量:25ppm(測定下限)以下、Lc:10Å)
(方法4)
フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製:PR-51464)を窒素雰囲気下、580℃で160分炭化することで炭化物を得た。得られた炭化物をサイクロンミルで粉砕し、超音波振動篩(目開き20μm)を用いて篩かけを行うことで粒子径D50:10μmの予備粉砕物を得た。次いで、上記予備粉砕物15重量部を水85重量部に分散し、Φ0.3mmジルコニアビーズを用いた湿式ビーズミルを用いて微粉砕を行うことで、炭素材スラリーを得た。その後、上記炭素材スラリーを100℃で18時間予備乾燥を行い、200℃で6時間本乾燥を行うことで炭素粒子を得た。上記炭素粒子をさらに630℃で45分間熱処理を行い、二次炭化物を得た。最後に、上記二次炭化物を手篩(目開き:212μm)で篩かけを行い凝集物を除去することで、炭素粒子4を得た。
【0099】
着色材5:以下の(方法5)で作成した炭素粒子5(粒子径D50:2.34μm、D10:1.06μm、D90:4.39μm、比抵抗値:5.7×10Ω・cm、硫黄含有量:10ppm(測定下限)以下、塩素含有量:25ppm(測定下限)以下、Lc:13Å)
(方法5)
フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製:PR-51464)を窒素雰囲気下、635℃で30分炭化することで炭化物を得た。得られた炭化物をサイクロンミルで粉砕し、超音波振動篩(目開き20μm)を用いて篩かけを行うことで粒子径D50:10μmの予備粉砕物を得た。次いで、上記予備粉砕物をΦ1.5mmジルコニアビーズを用いた乾式ビーズミルを用いて微粉砕を行うことで炭素粒子を得た。その後、炭化物を手篩(目開き:212μm)で篩かけを行い凝集物を除去することで、炭素粒子5を得た。
【0100】
着色材6:カーボンブラック(三菱ケミカル社製、MA600、粒子径D50:10μm、D10:1μm、D90:16μm、比抵抗値:1.0×10-1Ω・cm、硫黄含有量:10ppm(測定下限)以下、塩素含有量:25ppm(測定下限)以下、Lc:31Å)
着色材7:黒色酸化チタン(TilackD TM-HPD、赤穂化成社製、粒子径D50:0.70μm、D10:0.35μm、D90:1.4μm、比抵抗値:1.0×10Ω・cm)
【0101】
着色材8:以下の(方法8)で作成した炭素粒子8(粒子径D50:2.3μm、D10:0.98μm、D90:4.38μm、比抵抗値:7.0×10Ω・cm、硫黄含有量:10ppm(測定下限)以下、塩素含有量:25ppm(測定下限)以下、Lc:12Å)
(方法8)
フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製:PR-51464)を窒素雰囲気下、705℃で30分炭化することで炭化物を得た。得られた炭化物をサイクロンミルで粉砕し、超音波振動篩(目開き20μm)を用いて篩かけを行うことで粒子径D50:10μmの予備粉砕物を得た。次いで、上記予備粉砕物をΦ1.5mmジルコニアビーズを用いた乾式ビーズミルを用いて微粉砕を行うことで炭素粒子を得た。その後、炭化物を手篩(目開き:212μm)で篩かけを行い凝集物を除去することで、炭素粒子8を得た。
【0102】
着色材9:以下の(方法9)で作成した炭素粒子9(粒子径D50:2.37μm、D10:1.05μm、D90:4.37μm、比抵抗値:1.1×10Ω・cm、硫黄含有量:10ppm(測定下限)以下、塩素含有量:25ppm(測定下限)以下、Lc:12Å)
(方法9)
フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製:PR-51464)を窒素雰囲気下、715℃で30分炭化することで炭化物を得た。得られた炭化物をサイクロンミルで粉砕し、超音波振動篩(目開き20μm)を用いて篩かけを行うことで粒子径D50:10μmの予備粉砕物を得た。次いで、上記予備粉砕物をΦ1.5mmジルコニアビーズを用いた乾式ビーズミルを用いて微粉砕を行うことで炭素粒子を得た。その後、炭化物を手篩(目開き:212μm)で篩かけを行い凝集物を除去することで、炭素粒子9を得た。
【0103】
各炭素粒子の粒子径D50、D10およびD90は、以下の方法で測定した。
各炭素粒子0.05gをポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート(キシダ化学社製、ツイーン20)の重量100倍希釈液1ccおよび水5ccの混合液に入れ、超音波分散することで測定試料を調製した。上記測定試料を用いて、レーザー回折式粒度分布測定装置(堀場製作所社製、LA-920)を用いて測定された体積基準の累積度数分布曲線において、累積度数が50%の際の粒子径D50、累積度数が10%の際の粒子径D10および累積度数が90%の際の粒子径D90を測定した。
【0104】
各炭素粒子の比抵抗値は、以下の方法で測定した。
粉体抵抗測定システム抵抗計(日東精工アナリテック社(旧社名:三菱ケミカルアナリテック社)製、ハイレスタUX/ロレスタGP、MCP-PD51型)に各炭素粒子1gをセットし、20kN荷重をかけた際の比抵抗値を測定した。
【0105】
各炭素粒子中の硫黄含有量および塩素含有量は、以下の方法で測定した。
各炭素粒子10mgを、酸素置換した密閉系のフラスコ内で完全燃焼させた。この時生成したガスをあらかじめフラスコ内に添加していた過酸化水素アルカリ吸収液に捕集したのち、50mlに定容後測定試料とした。ダイオネクスICS2000型イオンクロマトグラフを用いて、上記測定試料中の硫酸イオンおよび塩素イオンを検量線法により定量し、試料中の元素含有量に換算して炭素粒子中の硫黄含有量および塩素含有量とした。
【0106】
各炭素粒子の結晶子の大きさLcは、以下の方法で測定した。
各炭素粒子について、株式会社リガク製のX線回折装置「SmartLab」を用い、CuKα線を線源とした粉末X線回折測定を行うことで横軸を2θ、縦軸を回折強度とするX線回折スペクトルを得た。粉末X線回折測定は、炭素粒子を充填した試料ホルダーをX線回折装置の観測台にセットし、走査軸2θ/θとし、サンプリング幅0.01°、およびスキャンスピード2°/minの条件で行った。得られたX線回折スペクトルについて、以下<方法>に従って選択した直線をバックグラウンドとして除去した。
【0107】
<方法>
(1) 横軸を2θ、縦軸を回折強度とする上記X線回折スペクトルにおいて、2θ=10°の点または2θ=15°の点のいずれか1つと、2θ=30°の点または2θ=35°の点のいずれか1つとを選択し、選択された2点を直線で結び、計4本の直線を作成する。
(2)上記(1)で作成した4本の直線のうちの一つを選択する。
(3)2θが10°以上35°以下の領域において、上記(2)で選択した直線と、当該直線の下側に位置する上記X線回折スペクトルとで囲まれる面積Sを求める。
(4)上記(1)で作成した4本の直線のそれぞれについて、上記(2)および(3)のステップを繰り返し、得られた面積Sが最小となる直線Lを特定する。
(5)上記直線Lをバックグラウンド直線とする。
【0108】
次いで、2θが15~30°の範囲における最も強度が大きいピークを(002)面ピークとした。また、(002)面ピークのピークトップにおける2θの値を(002)面ピークの2θとし、(002)面ピークの2θを2で割った値をスペクトルの反射角度θとした。
さらに、上記(002)面ピークのピークトップの半分の強度を示し、かつ、小角側、広角側それぞれにおいて最も2θに近い点を、それぞれP(昇格側)およびP(広角側)とし、PおよびPにおける2θの値を2θおよび2θとした。そして、2θおよび2θの差分(2θ-2θ)をピークの半値幅βとした。
その後、得られた(002)面ピークの半値幅βとスペクトルの反射角度θから、結晶子の大きさLcを次のScherrerの式を用いて決定した。
Lc=0.94λ/(βcosθ) (Scherrerの式)
Lc:結晶子の大きさ
λ:0.15418nm
β:ピークの半値幅(ラジアン)
θ:スペクトルの反射角度
【0109】
(シランカップリング剤)
シランカップリング剤1:フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン(CF4083、東レ・ダウコーニング社製)
【0110】
(熱硬化性樹脂)
熱硬化性樹脂1:ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ樹脂(日本化薬社製、NC3000)
熱硬化性樹脂2:多官能エポキシ樹脂(YL6677、三菱ケミカル社製)
【0111】
(硬化剤)
硬化剤1:p-ビフェニレン変性フェノール樹脂(MEH-7851SS、明和化成社製)
硬化剤2:トリフェニルメタン型フェノール樹脂(HE910-20、エア・ウォーター社製)
【0112】
(難燃剤)
難燃剤1:水酸化アルミニウム(BE043LA、日本軽金属社製)
【0113】
(離型剤)
離型剤1:カルボキシル基を備えるステアリン酸(SR-サクラ、日油社製)
【0114】
(イオン捕捉剤)
イオン捕捉剤1:マグネシウム・アルミニウム・ハイドロオキサイド・カーボネート・ハイドレート(協和化学工業社製、DHT-4H)
【0115】
(硬化促進剤)
・硬化促進剤1:下記の化学式で表されるテトラフェニルホスホニウム・4,4'-スルフォニルジフェノラート
【0116】
【化1】
【0117】
・硬化促進剤2:下記式で表される硬化促進剤(テトラフェニルホスホニウムビス(ナフタレン-2,3-ジオキシ)フェニルシリケート)
【0118】
【化2】
【0119】
(低応力剤)
低応力剤:ジメチルシロキサン-アルキルカルボン酸-4,4'-(1-メチルエチリデン)ビスフェノール グリシジルエーテル共重合体(住友ベークライト株式会社製、M69B)
【0120】
(物性評価)
各例で得られた封止用樹脂組成物の各物性を、以下の方法で評価した。
【0121】
(スパイラルフロー(SF)・ゲルタイム)
低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製、「KTS-15」)を用いて、EMMI-1-66に準じたスパイラルフロー測定用金型に、175℃、測定時間5分、注入圧力6.9MPa、保圧時間120秒の条件で、各実施例および各比較例の封止用樹脂組成物を注入し、流動長を測定し、これをスパイラルフローとした。また、注入開始から封止用樹脂組成物が硬化し流動しなくなるまでの時間を測定し、ゲルタイムとした。
なお、スパイラルフローは、流動性のパラメータであり、数値が大きい方が、流動性が良好である。
【0122】
(線膨張係数)
各実施例および各比較例について、得られた封止用樹脂組成物の線膨張係数を測定した。測定は、低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製「KTS-30」)を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒間で注入成形し、15mm×4mm×4mmの成形品を得た。次いで、得られた成形品を175℃、4時間で後硬化して試験片を作製した。そして、得られた試験片に対して、熱機械分析装置(セイコーインスツル株式会社製、TMA100)を用いて、測定温度範囲0℃~400℃、昇温速度5℃/分の条件下で、25-70℃における平均線膨張係数CTE1(ppm/℃)、270-290℃における平均線膨張係数CTE2(ppm/℃)を測定した。
【0123】
(ガラス転移温度(Tg)、TMA)
各実施例および各比較例の封止用樹脂組成物のガラス転移温度は、JIS K 6911に準じて測定した。すなわち、各実施例および各比較例の封止用樹脂組成物について、トランスファー成形機を用いて、金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間90秒で、80mm×10mm×4mmの試験片を成形し、175℃2時間で後硬化し、熱機械分析装置(セイコーインスツルメンツ社製、TMA/SS6000)を用いて、5℃/分の昇温速度で得られた試験片の熱膨張率を測定した。次いで、得られた測定結果に基づき、熱膨張率の変曲点から硬化物のガラス転移温度(Tg)を算出した。
【0124】
(曲げ弾性率、曲げ強さ)
各実施例および各比較例について、低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製、KTS-30)を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒の条件で、封止用樹脂組成物を注入成形し、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの成形物を得た。得られた成形物を、後硬化として200℃で4時間加熱処理したものを試験片とし、曲げ弾性率および曲げ強さをJIS K 6911に準じて25℃および260℃の雰囲気温度下で測定した。
【0125】
(吸水率)
各実施例および各比較例について、低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製、KTS-30)を用いて、金型温度175℃、注入圧力7.4MP、硬化時間120秒の条件で、封止用樹脂組成物を注入成形して直径50mm、厚さ3mmの試験片を作製し、200℃で4時間後硬化した。その後、得られた試験片を煮沸環境下で24時間加湿処理し、加湿処理前後の重量変化を測定し吸水率を求めた。
【0126】
(密着性)
各実施例および各比較例について、低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製、KTS-30)を用いて、金型温度175℃、注入圧力10MPa、硬化時間180秒の条件で、封止用樹脂組成物を注入成形して9×29mmの短冊状の試験用シリコン板上に3.6mmφ×3mmの密着強度試験片を10個成形した。
その後、175℃3時間の条件で硬化したサンプルについて、自動ダイシェア測定装置(ノードソン・アドバンスド・テクノロジー社製、DAGE4000型)を用いて、室温(25℃)若しくは260℃にてダイシェア強度を測定することで、密着性(MPa)を求めた。
【0127】
(色味、D値)
各実施例および各比較例について、低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製、KTS-30)を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間300秒の条件で、上記封止用樹脂組成物をトランスファー成形することにより直径50mm、厚さ3mmの封止用樹脂組成物の硬化物を得た。
次いで、得られた硬化物について、コニカミノルタ センシング社製Color Reader CR-13(測定モード:透過、測定回数:n=3)を用い、L値、a値、b値を測定した。CIE1976L表色系の数値への変換は装置本体が行い、CIE1976L表色系のデータを得た。
その後、得られたL値、a値、b値を以下式(1)に代入し、D値を算出した。
D=[(L-27)+(a-(-1))+(b-(-3))1/2 ・・・(1)
【0128】
(塩素イオン含有量、硫酸イオン含有量)
各実施例および各比較例について、低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製、KTS-30)を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間300秒の条件で、上記封止用樹脂組成物をトランスファー成形することにより直径50mm、厚さ3mmの封止用樹脂組成物の硬化物を得た。次いで、上記硬化物を凍結粉砕により粉砕し、粉末試料2gをプレッシャークッカー容器に精秤し、超純水40mlを加え容器を密閉し、手動で1分間振とうし、試料を水と馴染ませた。121℃に設定されたオーブンに容器を投入し、連続20時間加熱加圧処理を行い、室温まで放冷後、内溶液を遠心分離及びフィルターろ過したものを検液とする。その液をイオンクロマト法により分析した。
【0129】
(レーザーマーク性)
各実施例および各比較例について、低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製、KTS-30)を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間300秒の条件で、上記封止用樹脂組成物を注入して半導体素子(シリコンチップ)が搭載されたリードフレーム等を封止成形し、16ピンSOP(半導体素子はHAST用標準品TEG9を使用し、半導体素子とリードフレームのインナーリード部とは25μm径の金線でボンディングされている。)を成形し、後硬化として175℃、2時間処理を行い半導体装置を作製した。その後、得られた半導体装置のうち、上記封止用樹脂組成物の硬化物である封止材に、日本電気社製のマスクタイプのYAGレーザー等のレーザーの捺印機(印加電圧2.4kV、パルス幅120μsで15A、30kHz、300mm/secの条件)を用いてマークを印字し、目視でマーク性を以下の3段階で評価した。
A:刻印がはっきり読める
B:刻印が使用可能な程度に読める
C:刻印が読めず、使用不可能である
【0130】
(誘電率、誘電正接)
各実施例および各比較例について、低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製、KTS-30)を用いて、金型温度175℃、注入圧力7.4MP、硬化時間120秒の条件で、封止用樹脂組成物を注入成形して直径50mm、厚さ3mmの試験片を作製し、175℃で30分間熱処理することにより硬化した。その後、得られた試験片を電極で挟み込み、誘電率測定装置(株式会社エーイーティ製、製品名ASMS01Oc1)を用いて、1GHzおよび10GHzでの誘電率ε、ε10および誘電正接δ、δ10を測定した。
【0131】
【表1】
【0132】
表1に示すように、実施例では機械的特性、高温信頼性を確保しつつ、黒色度および誘電特性が良好な封止用樹脂組成物が得られた。
【0133】
この出願は、2021年7月19日に出願された日本出願特願2021-118636号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【要約】
本発明の封止用樹脂組成物は、着色材と、熱硬化性樹脂と、硬化剤と、無機充填材と、を含む封止用樹脂組成物であって、前記着色材は、20kNの荷重を加えた際の比抵抗値が1.0×10Ω・cm以上1.0×1014Ω・cm以下である炭素粒子を含み、前記炭素粒子の含有量が、当該封止用樹脂組成物の固形分全体に対して0.05重量%以上5重量%以下である。