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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】改良型アデノ随伴ウイルスベクター
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/63 20060101AFI20230530BHJP
   C07K 14/475 20060101ALI20230530BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20230530BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230530BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20230530BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230530BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
C12N15/63 Z ZNA
C07K14/475
C12N15/864 100Z
C12N15/12
A61K35/76
A61P27/02
A61K48/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019570634
(86)(22)【出願日】2019-01-16
(86)【国際出願番号】 JP2019001090
(87)【国際公開番号】W WO2019155833
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2022-01-14
(31)【優先権主張番号】P 2018019963
(32)【優先日】2018-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】500557048
【氏名又は名称】学校法人日本医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】390031093
【氏名又は名称】テイカ製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】岡田 尚巳
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 勉
(72)【発明者】
【氏名】塩澤 朝香
【審査官】西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/187053(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/172008(WO,A1)
【文献】特表2003-512823(JP,A)
【文献】特開昭63-152986(JP,A)
【文献】国際公開第2017/044743(WO,A1)
【文献】特表2017-529395(JP,A)
【文献】特表2017-536848(JP,A)
【文献】Molecular Vision,2011年,Vol.17,pp.1090-1102
【文献】Pharma Medica,2015年,Vol.33,pp.15-22
【文献】Hepatol. Int.,2008年,Vol.2,pp.80-88
【文献】Mol. Ther.,2012年,Vol.20,pp.2098-2110
【文献】Mol. Ther.,2017年,Vol.25, No.8,pp.1881-1888
【文献】DIABETES,2010年,Vol.59,pp.3108-3116
【文献】Molecular Vision,2016年,Vol.22,pp.816-826
【文献】PNAS,2005年,Vol.102, No.8,pp.2952-2957
【文献】Molecular Vision,2011年,Vol.17,pp.1090-1102
【文献】Human Gene Therapy,2011年,Vol.22,pp.1143-1153
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/
A61K 35/
A61P 27/
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターに搭載するベクターゲノムを産生するベクタープラスミドであって、
前記ベクタープラスミドは、前記ベクターゲノムのテンプレートとなるベクターゲノムカセットを備え、
前記ベクターゲノムカセットは、
(1) 目的遺伝子をコードする核酸分子と、(b)前記目的遺伝子の発現を可能にする発現調節領域をコードする核酸分子と、を含む発現カセットと、
(2) 前記発現カセットを挟むように位置するインバーテッドターミナルリピート(ITR)をコードする2つの核酸分子と、を備え
前記発現調節領域は、配列番号2の塩基配列からなり
前記ITRをコードする2つの核酸分子は、非変異型ITRと変異型ITRをコードする核酸分子を含み、
前記変異型ITRは、配列番号12の塩基配列からなり
前記非変異型ITRは、配列番号13の塩基配列からなり
前記目的遺伝子は、肝細胞増殖因子(HGF)遺伝子である、
ベクタープラスミド。
【請求項2】
前記変異型ITRをコードする核酸分子は、前記非変異型ITRをコードする核酸分子よりも5'末端方向上流に位置する、請求項1に記載のベクタープラスミド。
【請求項3】
前記ベクターゲノムは、
前記発現カセットと、
前記発現カセットの逆相補配列をコードする核酸分子を含む逆相補発現カセットと、
前記発現カセットと前記逆相補発現カセットの間に位置する前記変異型ITRをコードする核酸分子を含む、請求項1又は2に記載のベクタープラスミド。
【請求項4】
前記HGF遺伝子は、ヒトHGF遺伝子である、請求項1に記載のベクタープラスミド。
【請求項5】
前記ヒトHGF遺伝子のコドンは、ヒト頻出コドンに置き換えられている、請求項4に記載のベクタープラスミド。
【請求項6】
前記ヒトHGF遺伝子は、配列番号4の塩基配列からなる、請求項4又は5に記載のベクタープラスミド。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のベクタープラスミドから産生されたベクターゲノムを搭載する、AAVベクター。
【請求項8】
眼疾患又はこれに伴う疾患治療又は予防用である、請求項7に記載のAAVベクター。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のAAVベクターを含む、眼疾患又はこれに伴う疾患治療又は予防用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改良型アデノ随伴ウイルスベクターに関するものである。
【0002】
日本における失明原因の代表例は、緑内障及び網膜色素変性症である。緑内障においては、眼圧が十分にコントロールされているにも関わらず、病期が進む患者も認められている。また、網膜色素変性症では原因遺伝子が多岐にわたることから、有効な治療法がいまだ存在しない。そのため、網膜組織そのもの、特に網膜神経節細胞、視細胞及び網膜色素上皮細胞そのものを保護する治療が求められている。
【0003】
肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor; HGF)は、肝細胞再生に関与する細胞増殖因子として発見され、近年、神経保護効果を有することが報告されており、筋委縮性側索硬化症やパーキンソン病などの中枢神経疾患治療薬として研究がなされている。しかしながら、眼疾患治療薬としてHGFを使用するには障害が大きい。例えば点眼ではHGFが標的組織へ到達できない問題がある。また眼内注射ではHGFタンパク質の半減期が短いがために高用量・頻回投与が必要となり、患者の負担が大きく現実的でない。そのため、HGFタンパク質そのものを投与するのではなく、HGF遺伝子を搭載したウイルスを投与することで、標的組織におけるHGF産生を実現化し、HGFの薬理作用を長期的に持続させることが望まれる。
【0004】
HGF遺伝子を搭載したウイルスについて、例えば非特許文献1は、アデノ随伴ウイルス5型(AAV5)を用いてHGFをマウス肝臓において発現させたことを開示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Suzumura K, et al., Adeno-associated virus vector-mediated production of hepatocyte growth factor attenuates liver fibrosis in mice, Hepatol Int (2008) 2:80-88.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1において使用されるアデノ随伴ウイルス(AAV)は、搭載した遺伝子の発現が遅延することによって遺伝子発現効率が低いという問題があった。その理由は、AAVとしてシングルストランドアデノ随伴ウイルス(ssAAV)を使用しているためである。一般的なAAVは、ssAAVであり、ssAAVのゲノムは、一本鎖DNAであるため、ssAAVに搭載した遺伝子の発現には、標的細胞の核内においてssAAVのゲノムが二本鎖DNAになる必要がある。発現遅延による遺伝子発現効率の低さは、ssAAVのDNAが一本鎖から二本鎖になる過程で生じると考えられている。
【0007】
本発明は、上記問題を解決することを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターに搭載するベクターゲノムを産生するベクタープラスミドであって、
上記ベクタープラスミドは、上記ベクターゲノムのテンプレートとなるベクターゲノムカセットを備え、
上記ベクターゲノムカセットは、
(1) 目的遺伝子をコードする核酸分子と、(b)上記目的遺伝子の発現を可能にする発現調節領域をコードする核酸分子と、を含む発現カセットと、
(2) 上記発現カセットを挟むように位置するインバーテッドターミナルリピート(ITR)をコードする2つの核酸分子と、を備える、
ベクタープラスミド
が提供される。このベクタープラスミドによれば、目的遺伝子がコードするタンパク質を発現させることができる、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターに搭載するベクターゲノムを複製することができる。
【0009】
上記ベクタープラスミドから複製されたベクターゲノムを搭載するAAVベクターも提供することができる。これによって、目的遺伝子がコードするタンパク質を発現するAAVベクターを提供することができる。上記AAVベクターを含む眼疾患又はこれに伴う疾患治療又は予防用医薬組成物も提供することができる。これによって、医薬組成物としてAAVベクターを提供することができる。眼疾患又はこれに伴う疾患を治療又は予防する方法であって、上記眼疾患又はこれに伴う疾患を患っている被験体に、上記眼疾患又はこれに伴う疾患治療又は予防用医薬組成物を治療上有効量で投与することを含む、方法も提供することができる。これによって、上記AAVベクターを被験体に投与することで被験体の眼疾患又はこれに伴う疾患を治療又は予防することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本願発明による、ベクターゲノムの模式的な構造を示している。
図2図2は、pVector-p42(配列番号5)におけるプロモーター(Promoterに対応)及びHGF(Genomeに対応)の挿入位置を示している。
図3図3は、ヒトサイトメガロウイルスプロモーターとp42及びp13用の短縮形サイトメガロウイルスプロモーターとの位置関係を示している。
図4図4は、AAV.p42投与群(p42+NMDA群)とAAV.p42非投与群(PBS群及びNMDA群)におけるhHGF RNA発現を表すグラフを示している。
図5図5は、AAV.p42投与群(p42+NMDA群)とAAV.p42非投与群(PBS群及びNMDA群)におけるhHGFタンパク質発現を表すグラフを示している。
図6図6Aは、AAV.p42及びAAV.p13を感染させたC2C12細胞におけるhHGF分泌を表すグラフを示している。図6Bは、AAV.p42及びAAV.p13を感染させたNeuro2a細胞におけるhHGF分泌を表すグラフを示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、例示であって、本発明の範囲は、以下の実施形態で示すものに限定されない。なお、同様な内容については繰り返しの煩雑をさけるために、摘示説明を省略する。
【0012】
定義
便宜上、本願で使用される特定の用語は、ここに集めている。別途規定されない限り、本願で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般的に理解するのと同じ意味を有する。文脈で別途明記されない限り、単数形「a」、「an」及び「the」は複数の言及を含む。
【0013】
用語「被験体」及び「患者」は、本明細書では置換可能に使用され、本発明のベクター及び医薬組成物によって治療可能なヒトを含む動物を意味する。用語「被験体」又は「患者」は、性別が特定されない限り、オスとメスの両方の性別を指すことを意図する。従って、用語「被験体」又は「患者」は、本発明のベクター及び医薬組成物から利益を得ることができる任意の哺乳動物を含む。「被験体」又は「患者」の例として、ヒト、ラット、マウス、モルモット、サル、ブタ、ヤギ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、トリ及びニワトリを挙げることができるが、これらに限定されない。例示的な実施形態において、「被験体」又は「患者」は、ヒトである。
【0014】
本発明で示す数値範囲及びパラメーターは、近似値であるが、特定の実施例に示されている数値は可能な限り正確に記載している。しかしながら、いずれの数値も本質的に、それぞれの試験測定値に見られる標準偏差から必然的に生じる特定の誤差を含んでいる。また、本明細書で使用する「約」という用語は、一般に、所与の値又は範囲の10%、5%、1%又は0.5%以内を意味する。或いは、用語「約」は、当業者が考慮する場合、許容可能な標準誤差内にあることを意味する。
【0015】
本明細書、図面及び配列表の塩基配列は、別途規定されない限り、5'末端から3'末端の順番で記載している。例えば、「100番目の塩基」は、5'末端から100番目の塩基を意味する。用語「逆相補配列」は、ある配列に対して逆相補の関係にある配列を意味する。例えば、5'-AAATTCGG-3'配列の逆相補配列は、5'-CCGAATTT-3'である。
【0016】
本実施形態にかかる核酸分子(例えば、領域、カセット、ゲノム及びベクタープラスミド)の塩基配列は、その塩基配列と、
1)95%以上の配列相同性を有する塩基配列である、または、
2)1または数塩基が欠失、置換、付加されている塩基配列である、または、
3)相補的な配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる塩基配列であっても良い。
【0017】
なお、本明細書において同一性・相同性を示す値は、BLASTなどの公知のプログラムを利用することにより算出することができる。本実施形態にかかる核酸分子の塩基配列と配列相同性を有する塩基配列は、95%以上の配列相同性を有していればよく、例えば、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.5%以上、99.8%以上であっても良い。
【0018】
本明細書において、「1または数塩基が欠失、置換、付加されている塩基配列」における「数塩基」は、例えば、2~10塩基、2~9塩基、2~8塩基、2~7塩基、2~6塩基、2~5塩基、2~4塩基、2~3塩基、2塩基である。欠失、置換、付加した塩基の数は、一般的に少ないほど好ましい。塩基の欠失、置換、付加のうち2種以上が同時に生じてもよい。なお、塩基の欠失、置換、付加については、公知の技術を用いることができる。
【0019】
本明細書において、「ストリンジェントな条件」とは、例えば以下の(1)(2)などが挙げられる。
(1)イオン強度が低く洗浄温度が高い状態として、たとえば0.015MのNaCl/0.0015Mのクエン酸ナトリウム(チトラート)/0.1%SDSで温度50℃が挙げられる。あるいは
(2)ハイブリッド形成中にホルムアミド等の変性剤を使用して、たとえば、50%(vol/vol)ホルムアミドに、0.1%ウシ血清アルブミン/0.1%Ficoll/0.1%polyvinylpyrrolidone/50mMリン酸ナトリウムバッファpH6.5、750mMNaCl、75mMクエン酸ナトリウムで温度42℃とすることが挙げられる。別の例としては、50%ホルムアミド、5×SSC(0.75M NaCl,0.075Mクエン酸ナトリウム),50mM リン酸ナトリウム(pH6.8), 0.1%ピロリン酸ナトリウム, 5×デンハルト液、超音波処理されたサーモンスパームDNA(50μg/ml),0.1%SDS,10%硫酸デキストラン,温度42度,洗浄温度42℃,0.2×SSC,0.1%SDSが挙げられる。また、当業者であれば、クリアで検出可能なハイブリダイゼーションシグナルを得るべく、ストリンジェントな条件を適宜変更できることは、明らかである。
【0020】
実施形態の詳細な説明
本実施形態において、
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターに搭載するベクターゲノムを産生するベクタープラスミドであって、
上記ベクタープラスミドは、上記ベクターゲノムのテンプレートとなるベクターゲノムカセットを備え、
上記ベクターゲノムカセットは、
(1) 目的遺伝子をコードする核酸分子と、(b)上記目的遺伝子の発現を可能にする発現調節領域をコードする核酸分子と、を含む発現カセットと、
(2) 上記発現カセットを挟むように位置するインバーテッドターミナルリピート(ITR)をコードする2つの核酸分子と、を備える、
ベクタープラスミド
が提供される。
【0021】
ベクタープラスミド
本実施形態におけるベクタープラスミドは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターに搭載するためのベクターゲノムを宿主細胞において産生する。宿主細胞は、ベクタープラスミドからベクターゲノムを産生することができれば任意の宿主細胞(例えば、HEK293細胞)を用いることができる。本実施形態におけるベクタープラスミドは、任意の選択マーカー(例えば、アンピシリン耐性遺伝子をコードする核酸分子)を備えていてもよい。本実施形態におけるベクタープラスミドは、宿主細胞の染色体への挿入に関わる遺伝子をコードする核酸分子が除かれていてもよい。一実施形態において、ベクタープラスミドは、rep遺伝子をコードする核酸分子及びcap遺伝子をコードする核酸分子のうちの少なくとも1つを有さない。一実施形態において、ベクタープラスミドは、任意の核酸分子(例えば、シミアンウイルス40(SV40)ポリAシグナルをコードする核酸分子)を有する。
【0022】
一実施形態において、ベクターゲノムは、ベクターゲノムカセットをテンプレートとして産生される。ベクターゲノムは、一本鎖であってもよく、自己相補結合による二本鎖であってもよい。ベクターゲノムは、ベクターゲノムカセットから産生された産物(1次産物)と1次産物をテンプレートにして生じる産物(2次産物)を含むが、それらの産物(1次及び2次産物)のなかで目的のベクターゲノムが支配的であればよく、例えば、それらの産物の80、85、90、95又は99%以上であればよい。
【0023】
本実施形態にかかるベクターゲノムカセットは、発現カセットと、発現カセットを挟むように位置するITRをコードする2つの核酸分子と、を備える。
【0024】
一実施形態において、ベクターゲノムカセットは、5'側のITRと発現カセットとの間には任意の数のヌクレオチドを有していてもよく、例えば、ITRと発現カセットとの間のヌクレオチドの数は、約3~約20(例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19及び20)であってもよく、その範囲内の任意の2つの値の間の範囲(例えば、3~8及び12~16)であってもよい。
【0025】
一実施形態において、ベクターゲノムカセットは、発現カセットと3'側のITRとの間には任意の数のヌクレオチドを有していてもよく、例えば、発現カセットと3'側のITRとの間のヌクレオチドの数は、約200~約270(例えば、200、205、210、215、220、225、230、235、240、245、250、255、260、265及び270)であってもよく、その範囲内の任意の2つの値の間の範囲(例えば、200~260)であってもよい。一実施形態において、発現カセットと3'側のITRとの間には、ポリAシグナル(例えば、SV40ポリAシグナル(配列番号15))をコードする核酸分子を含む。
【0026】
発現カセットは、ベクターゲノムにも搭載され、ベクターゲノムを含むAAVベクターを治療又は予防のために感染させた細胞において発現する遺伝子群をコードする核酸分子を指す。本実施形態にかかる発現カセットは、(a)目的遺伝子をコードする核酸分子と、(b)上記目的遺伝子の発現を可能にする発現調節領域をコードする核酸分子と、を含む。
【0027】
一実施形態において、ベクターゲノムカセットは、目的遺伝子と発現調節領域との間には任意の数のヌクレオチドを有していてもよく、例えば、目的遺伝子と発現調節領域との間のヌクレオチドの数は、約30~約70(例えば、30、35、40、45、50、55、60、65及び70)であってもよく、その範囲内の任意の2つの値の間の範囲(例えば、35~45)であってもよい。
【0028】
一実施形態において、目的遺伝子は、任意の遺伝子であってもよい。一実施形態において、目的遺伝子は、HGF遺伝子である。一実施形態において、発現調節領域は、短縮型発現調節領域である。
【0029】
HGF遺伝子
本実施形態におけるベクタープラスミドは、HGF遺伝子をコードする核酸分子を備えている。本実施形態におけるHGF遺伝子は、治療する被験体又は患者と同じ種由来であってもよく、異なる種由来であってもよい。一実施形態において、HGF遺伝子は、ヒトHGF遺伝子である。HGF遺伝子は、治療する被験体又は患者の種における頻出コドンに置き換えた塩基配列を有していてもよい。一実施形態において、ヒトHGF遺伝子は、ヒトにおける頻出コドンに置き換えた塩基配列を有する。一実施形態において、ヒトHGF遺伝子は、配列番号4の塩基配列を有する。
【0030】
短縮型発現調節領域
本実施形態におけるベクタープラスミドは、HGF遺伝子の発現を可能にする短縮型発現調節領域をコードする核酸分子を備えている。本実施形態における短縮型発現調節領域の長さは、そのネイティブの発現調節領域の長さよりも短い。短縮型発現調節領域は、そのネイティブの発現調節領域よりも短いものの、HGF遺伝子の発現を可能にする能力は維持している。従って、短縮型発現調節領域は、HGF遺伝子の発現を可能にする能力を維持するのであれば、そのネイティブの発現調節領域中の任意の長さの1又は複数の塩基配列を欠いている領域であってもよい。本実施形態における短縮型発現調節領域は、プロモーターとしての機能を有する。一実施形態において、短縮型発現調節領域は、機能可能なプロモーター領域とエンハンサー領域を有する。一実施形態において、短縮型発現調節領域の長さは、そのネイティブの発現調節領域の70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%及び30%より選択される任意の2つの値の範囲内の長さである。別の実施形態において、短縮型発現調節領域は、そのネイティブの発現調節領域よりも、HGF遺伝子に対する発現能力が向上している。
【0031】
一実施形態において、ネイティブの発現調節領域は、サイトメガロウイルスの発現調節領域を有する。一実施形態において、サイトメガロウイルスの発現調節領域は、ヒトサイトメガロウイルスの発現調節領域である。一実施形態において、ネイティブの発現調節領域は、ある生命体における本来の(遺伝子工学的な処理を施されていない)発現調節領域又は公知の人工発現調節領域である。一実施形態において、用語「ネイティブ」は、野生型と言い換えることもできる。一実施形態において、ヒトサイトメガロウイルスの発現調節領域は、ヒトサイトメガロウイルス主要前初期(HCMVMIE)プロモーター領域を有する。別の実施形態において、ヒトサイトメガロウイルスの発現調節領域は、ヒトサイトメガロウイルス主要前初期(HCMVMIE)プロモーター領域及びエンハンサー領域を有する。一実施形態において、ヒトサイトメガロウイルスの発現調節領域は、配列番号1(GenBank: K03104.1)の塩基配列を含む又はからなる。ネイティブの発現調節領域が配列番号1の塩基配列を含む又はからなる場合、短縮型発現調節領域は、
(a) 以下の5'末端塩基のうちの任意の1つの塩基と、以下の3'末端塩基のうちの任意の1つの塩基との間の塩基配列:
5'末端塩基;150、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、175、180、190、200、250、300、350、400、410、420、430、435、436、437、438、439、440、441、442、443、444、445、446、447、448、449、450、460又は470番目の塩基、
3'末端塩基;700、710、720、730、735、736、737、738、739、740、741、742、743、744、745、746、747、748、749、750、751、752、753、754、755、760、765、770、750、760、770、775、776、777、778、779、780、781、782、783、784、785、786、787、788、789、790、791、792、793、794、795、796、797、798、799又は800番目の塩基、
(b) 以下の5'末端塩基のうちの任意の1つの塩基と、以下の3'末端塩基のうちの任意の1つの塩基との間の塩基配列:
5'末端塩基;156、157、158、159、160、161、162、163、164、165又は166番目の塩基、
3'末端塩基;739、740、741、742、743、744、745、746、747、748又は749番目の塩基、
(c) 5'末端塩基; 438、439、440、441、442、443、444、445、446、447又は448番目の塩基、
3'末端塩基;781、782、783、784、785、786、787、788、789、790又は791番目の塩基、
(d) 配列番号2の塩基配列、
又は
(e) 配列番号3の塩基配列、を有する。
【0032】
インバーテッドターミナルリピート(ITR)
本実施形態におけるベクタープラスミドは、発現カセットを挟むように位置するITRをコードする2つの核酸分子を備えている。本実施形態におけるITRをコードする2つの核酸分子は、発現カセットを挟む構成を指すものであるため、本実施形態にかかるベクタープラスミドは、その機能(AAVベクターに包含可能なベクターゲノムの産生を含む)を発揮する限り、ITR間のセグメント(即ち、ベクターゲノムカセット)の外側に更なるITRをコードする核酸分子を有していてもよい。ITRは、ベクターゲノムカセットの複製開始点として機能し、更には、ウイルス粒子へのパッケージングにも関与する。一実施形態において、上記ITRをコードする2つの核酸分子は、非変異型ITRと変異型ITRをコードする核酸分子である。一実施形態において、変異型ITRをコードする核酸分子は、ベクタープラスミドにおいて非変異型ITRをコードする核酸分子よりも上流(5'末端方向)に位置する。一実施形態において、変異型ITRをコードする核酸分子は、自己相補することができるベクターゲノムがベクターゲノムカセットから生じるように構成された変異を有する。一実施形態において、ベクターゲノムは、発現カセットと、上記発現カセットの逆相補配列をコードする核酸分子を含む逆相補発現カセットと、上記発現カセットと上記逆相補発現カセットの間に位置する上記変異型ITRをコードする核酸分子を含む。従って、かかるベクターゲノムは、発現カセットと逆相補カセットが自己相補的に結合することができる(例えば、図1を参照)。本実施形態のベクターゲノムにおけるITRをコードする核酸分子は、ステムループ構造を形成することができる。一実施形態において、上記ベクターゲノムは、変異型ITRをコードする核酸分子と、非変異型ITRをコードする核酸分子と、非変異型ITRの逆相補配列をコードする核酸分子を含む。
【0033】
一実施形態において、非変異型ITR及び変異型ITRをコードする核酸分子の長さは、そのネイティブのITRをコードする核酸分子の長さよりも短い。一実施形態において、ITRをコードする核酸分子は、末端解離部位(terminal resolution site; TRS)をコードする核酸分子を含み、変異型ITRをコードする核酸分子は、TRSをコードする核酸分子に上記変異を有する。一実施形態において、変異型ITRをコードする核酸分子は、上記変異を有し、且つ、野生型ITRをコードする核酸分子よりも短い。別の実施形態において、上記ITRをコードする2つの核酸分子は、いずれも非変異型ITRである。非変異型ITRをコードする2つの核酸分子は、互いに同じ配列でも異なる配列であってもよい。一実施形態において、変異型ITRは、配列番号12の塩基配列を含む又はからなる。一実施形態において、非変異型ITRは、配列番号13又は配列番号14の塩基配列を含む又はからなる。一実施形態において、一方の非変異型ITRは、配列番号13の塩基配列を含む又はからなり、他方の非変異型ITRは、配列番号14の塩基配列を含む又はからなる。一実施形態において、5'側の非変異型ITRは、配列番号14の塩基配列を含む又はからなり、3'側の非変異型ITRは、配列番号13の塩基配列を含む又はからなる。一実施形態において、5'側の非変異型ITRの塩基配列は、3'側の非変異型ITRの塩基配列の逆相補の関係にある。従って、配列番号13の塩基配列は、配列番号14の塩基配列の逆相補の関係にある。
【0034】
本実施形態において、配列番号12の塩基配列を含む又はからなる変異型ITRをコードする核酸分子が提供される。
【0035】
本実施形態において、上記ベクタープラスミドから産生されたベクターゲノムを搭載する、AAVベクターが提供される。一実施形態において、本AAVベクターは、網膜組織そのもの、特に網膜神経節細胞、視細胞及び網膜色素上皮細胞そのものを保護することができる。かかる保護の結果、網膜組織(特に網膜神経節細胞、視細胞及び網膜色素上皮細胞)の異常が抑えられ、かかる異常による現象としての疾患又は症状が治癒できる。一実施形態において、AAVベクターは、カプシドタンパク質とその中に含まれるゲノムベクターから構成される。AAVベクターの血清型は、眼疾患又はこれに伴う疾患治療又は予防に用いることができれば、特に限定されない。一実施形態において、AAVベクターは、AAV血清2型(AAV2)ベクターである。一実施形態において、AAVベクターの血清型は、チロシン変異型AAV2(Y444,500,730F)である。本実施形態におけるAAVベクターは、シングルストランド(ss)型ベクターゲノムを搭載していてもよく、自己相補(sc)型ベクターゲノムを搭載していてもよい。
【0036】
眼疾患又はこれに伴う疾患
本実施形態において、眼疾患又はこれに伴う疾患治療又は予防用であるAAVベクターが提供される。一実施形態において、眼疾患は、眼症状及び所見も含む。一実施形態において、治療は、疾患(その症状又は所見)の低減も含む。眼疾患は、眼疾患以外の疾患(症状又は所見)を伴っていてもよいが、本実施形態のAAVベクターは、眼疾患又はこれに伴う疾患を少なくとも治療又は予防すること関する。例えば、くも膜下出血については、本実施形態のAAVベクターは、くも膜下出血によって生じる眼疾患(例えば、網膜症(例:増殖性硝子体網膜症))を少なくとも治療又は予防することを指す。少なくとも一実施形態において、眼疾患又はこれに伴う疾患は、眼瞼疾患、涙器疾患、結膜疾患、角膜疾患、強膜疾患、緑内障、網膜色素変性症、無色素性網膜色素変性症、水晶体疾患、眼窩疾患、ぶどう膜疾患、網膜疾患、硝子体疾患からなる群より選択される。一実施形態において、網膜色素変性症は、他臓器の症候群を伴う又は他臓器の症候群を伴わない。他臓器の症候群を伴う網膜色素変性症としては、Usher症候群、Laurence-Moon症候群、Baldet-Biedl症候群、Cockayne症候群、Batten症候群、Hunter症候群、Hurler症候群、脊髄小脳変性症、Kearns-Sayre症候群が挙げられる。一実施形態において、網膜色素変性症は、定型網膜色素変性症及び非定型網膜色素変性症を含む。緑内障としては、原発緑内障、開放隅角緑内障、閉塞隅角緑内障、先天緑内障及び続発緑内障が挙げられる。
【0037】
別の実施形態において、眼疾患又はこれに伴う疾患は、軟性ドルーゼン、網状偽ドルーゼン、典型加齢黄斑変性、ポリープ状脈絡膜血管症、網膜血管腫状増殖、萎縮型加齢黄斑変性、網膜色素線条、突発性脈絡膜新生血管、中心性漿液性脈絡網膜症、慢性型中心性漿液性脈絡網膜症、胞状網膜剥離(多発性後極部網膜色素上皮症)、後部硝子体剥離、網膜前膜、黄斑円孔、硝子体黄斑牽引症候群、層状黄斑円孔、乳頭小窩黄斑症候群、黄斑部毛細血管拡張性1型、黄斑部毛細血管拡張症2型、低眼圧黄斑症、網膜静脈分枝閉塞症、網膜中心静脈閉塞症、網膜動脈分枝閉塞症、網膜中心動脈閉塞症、単純糖尿病膜症、前増殖糖尿病網膜症、増殖糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、網膜細動脈瘤、Coats病、Eales病、高安病、放射線網膜症、眼虚血症候群、三角症候群、網膜色素変性症、無色素性網膜色素変性症、レーベル先天盲、色素性傍静脈網脈絡膜萎縮症、錐体杆体ジストロフィー、白点状眼底、白点状網膜炎、小口病、先天停在性夜盲、杆体一色覚(全色盲)、青錐体一色覚、青錐体増幅症候群、卵黄状黄斑ジストロフィー(Best病)、成人型卵黄状黄斑ジストロフィー、常染色体劣性ベストロフィノパチー、スタルガルト病、オカルト黄斑ジストロフィー(三宅病)、中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィー、先天網膜分離症、家族性滲出性硝子体網膜症、Stickler症候群、コロイデレミア、クリスタリン網膜症、脳回転状網脈絡膜萎縮症、網膜有髄神経線維、網膜色素上皮肥大、先天網膜ひだ、風疹網膜症、太田母斑、神経線維腫症1型(von Recklinghausen症)、結節性硬化症(Bourneville-Pringle病)、von Hippel-Lindau病、Sturge-Weber症候群、Wyburn-Mason症候群、白皮症、未熟児網膜症、色素失調症、ゆさぶられっ子症候群、急性帯状潜在性網膜外層症、多発消失性白点症候群、点状脈絡膜内層症、多巣性脈絡膜炎、急性後部多発性斑状色素上皮症、急性網膜色素上皮炎、急性突発性黄斑症、急性黄斑神経網膜症、地図状脈絡膜炎、ベーチェット病、サルコイドーシス、原田病、強膜炎、視神経乳頭先天異常、視神経炎、虚血性視神経症、レーベル遺伝性視神経症、うっ血乳頭、乳頭腫脹、視神経萎縮、緑内障性視神経症、視路疾患による逆行性視神経萎縮、中毒性神経症、外傷性視神経症、全身性エリテマトーデス、抗好中球細胞質抗体関連血管炎、貧血網膜症、白血病網膜症、過粘稠度症候群、網膜脂血症、ライソゾーム病、Kearns-Sayre症候群、がん関連網膜症、メラノーマ関連網膜症、Bilateral Diffuse Uveal Melanocytic Proliferation (BDUMP)、くも膜下出血(Terson症候群)、高血圧症、動脈硬化症、腎性網膜症、妊娠高血圧症候群、鈍的外傷による網脈絡膜障害、日光網膜症、レーザー(工業用レーザーを含む)光凝固による網膜障害、レーザーポインター網膜症、ヒドロキシクロロキン網膜症、インターロイキン網膜症、タモキシフェン網膜症及びパクリタキセル網膜症からなる群より選択される。
【0038】
医薬組成物
本実施形態において、上記AAVベクターを含む眼疾患又はこれに伴う疾患治療又は予防用医薬組成物が提供される。一実施形態において、医薬組成物は、治療上有効量の上記AAVベクターを含む。本実施形態の医薬組成物は、懸濁液、粘性若しくは半粘性ゲル、又は他の固体若しくは半固体組成物等の他のタイプであってもよい。本実施形態の医薬組成物は、薬学的に許容される等張化剤、緩衝液、防腐剤、界面活性剤及び粘度付与剤等の他の成分を含んでもよい。
【0039】
等張化剤は、眼科分野の当業者に知られているものであり、限定するものではないが、例えば、グリセリン、マンニトール、ソルビトール、塩化ナトリウム、及び他の電解質が挙げられる。
【0040】
本実施形態の医薬組成物は、そのpHを約6~約8、好ましくは約7に維持するために有効量の緩衝液を含んでいてもよい。緩衝液は、眼科分野の当業者に知られているものであり、限定するものではないが、例えば、酢酸塩、アスコルビン酸塩、ホウ酸塩、重炭酸塩、炭酸塩、クエン酸塩、L-ヒスチジン緩衝液及びリン酸塩緩衝液が挙げられる。
【0041】
防腐剤は、眼科分野の当業者に知られているものであり、限定するものではないが、例えば、塩化ベンザルコニウム、チメロサール、クロロブタノール、メチルパラベン、プロピルパラベン、フェニルエチルアルコール、エデト酸二ナトリウム、ソルビン酸、ポリクオタニウム-1、安定化オキシクロロ複合体(Purite(登録商標)としても知られている))、フェニル水銀酢酸塩、クロロブタノール、ベンジルアルコール、又は当業者に公知の他の薬剤が挙げられる。
【0042】
界面活性剤は、眼科分野の当業者に知られているものであり、限定するものではないが、ポリエトキシル化ヒマシ油、ポリソルベート20, 60及び80、Pluronic(登録商標) F-68, F-84及びP-103(BASF Corp., Parsippany N.J., USA)、シクロデキストリン、ポリソルベート、ポロキサマー、アルコールエトキシレート、エチレングリコール-プロピレングリコールブロックコポリマー、脂肪酸アミド、アルキルフェノールエトキシレート、リン脂質、又は当業者に公知の他の薬剤であってもよい。
【0043】
治療上有効量の上記AAVベクターの量は、約1×105~約1×1020ベクターゲノム(例えば、1×105ベクターゲノム、1×106ベクターゲノム、1×107ベクターゲノム、1×108ベクターゲノム、1×109ベクターゲノム、1×1010ベクターゲノム、1×1011ベクターゲノム、1×1012ベクターゲノム、1×1013ベクターゲノム、1×1014ベクターゲノム、1×1015ベクターゲノム、1×1016ベクターゲノム、1×1017ベクターゲノム、1×1018ベクターゲノム、1×1019ベクターゲノム、1×1020ベクターゲノム)であってもよく、その範囲内の任意の2つの値の間の範囲であってもよい。上記AAVベクターの量は、単回投与での量であってもよく、複数回投与での量であってもよい。本実施形態の医薬組成物は、点眼、網膜下投与、内境界膜下投与又は硝子体内投与によって投与してもよい。
【0044】
この医薬組成物は、単独投与又は他の治療薬との併用投与のいずれであれ、眼疾患又はこれに伴う疾患を治療又は予防するのに有効量で投与される。しかしながら、本実施形態のAAVベクターの総投与量は、担当医によって、健全な医学的判断の範囲内で決定される。対象に対する有効量は、対象の重症度;対象の年齢、体重、総体的健康、性別及び食事;投与時間;投与経路;本実施形態のAAVベクターの排出又は分解速度;治療期間;上記医薬組成物と併用している又は同時使用している薬物に依存する。医薬組成物の投与量は、投与毎に一定量でなくてもよい。例えば、所望の効果を達成するのに必要な投与量よりも低い投与量で投与し、所望の効果が得られるまで投与量を次第に増大させてもよい。
【0045】
眼疾患又はこれに伴う疾患を治療又は予防する方法
本実施形態において、眼疾患又はこれに伴う疾患を治療又は予防する方法であって、上記眼疾患又はこれに伴う疾患を患っている被験体に、上記AAVベクターを含む眼疾患又はこれに伴う疾患治療又は予防用医薬組成物を治療上有効量で投与することを含む、方法が提供される。
【0046】
なお、本明細書において、分子生物学の手法(例えば、クローニング、プラスミド抽出、DNA断片の切断、連結、ハイブリダイゼーション、部位特異的変異導入法、PCR法、ウエスタンブロット法等々の手法)は、当業者によく知られている通常の方法を採用することができる。これらの方法は、 Sambrook, J., Fritsch, E. F., and Maniatis, T., "Molecular Cloning A Laboratory Manual, Second Edition",Cold Spring Harbor Laboratory Press, (1989)等を参照することができる。
【実施例
【0047】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
実施例1
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターの作製
rAAVベクターはアデノウイルスフリーシステムを用いて作製した。図1は、hHGFを搭載している自己相補型rAAVベクターゲノムの模式的な構造を示している。
【0049】
scAAV2TM.mCMV.optHGF
rAAVベクターとして、自己相補型のscAAV2TM.p42CMV.optHGF(別名:p42又はAAV.p42)を作成した。初めに、配列番号5のベクタープラスミド(pVector-p42)を当業者にとって一般的な方法に従って作成した。図2は、pVector-p42におけるプロモーター(Promoterに対応)及びHGF(Genomeに対応)の挿入位置を示している。短縮型サイトメガロウイルスプロモーターは、野生型ヒトサイトメガロウイルス主要前初期(HCMVMIE)プロモーター(配列番号1、GenBank: K03104.1、全長930b)の443番目から786番目の配列から構成されている(図3、p42CMV、配列番号2)。HGFは、ネイティブなヒトHGF遺伝子の配列をヒト頻出コドンに置き換え最適化させたHGF(codon optimized human HGF; optHGF、配列番号4)を用いた。図2において、一本下線を引いた領域は、変異型ITR領域(配列番号12)を示し、二本下線を引いている領域は、非変異型ITR領域(配列番号13)を示し、太下線を引いた領域は、シミアンウイルス40(SV40)ポリAシグナル(配列番号15)を示す。変異型ITRは、pVector-p42から産生されるベクターゲノムが自己相補することができるように構成された変異を有し且つ野生型ITRよりも短い。また、非変異型ITRも野生型ITRよりも短い。
【0050】
作成したベクタープラスミド(pVector-p42)を宿主細胞(HEK293EB)にトランスフェクトした。具体的にはCorning(登録商標) 245mm Square BioAssay Dish(Corning)にHEK293EB 2.0×106個を播き、2日間培養後、Polyethylene MAX(40,000MW, linear;Polysciences,Inc., ;以下PEI)を用いてトランスフェクションを行った。組成は、表1の通りである(square dish 1枚あたりの量)。pAAV2RC-3Mは、AAV2のRep遺伝子とCap遺伝子を含むプラスミドであり、カプシドタンパク質VP3中の3つのチロシンがフェニルアラニンに置換される変異(Y444,500,730F)を有する。
【表1】
【0051】
トランスフェクションの6~12時間後、培養培地をDMEM/2%FBS/GlutaMaxへ置換し、更に細胞を3日間培養した。その後、細胞をPBSにて回収し、ディッシュ1枚当たり5mLになるよう調整した。
【0052】
PBS中の細胞をvortex mixerにより懸濁し、液体窒素と37℃恒温槽を用いて凍結融解を5回繰り返すことで細胞を破砕した。破砕後の懸濁液に、5mMのMgCl2を含む10 U/ mL Benzonase (25U/mL, Novagen)を添加し、これを37℃、30分間反応させ、EDTA(最終濃度5 mM)の添加により反応を停止させた。反応液を、12,000 rpm(R12A2)、30分間、4℃で遠心し、上清のみを回収した。回収した上清を、30分間、50℃で加熱し、更に10,000rpm、10分間、4℃で2回遠心を行い、上清を回収した。回収した上清を、プレフィルター(Millex-AP, Millipore)付き0.45μm-poreフィルター(Millex-HV, Millipore)により濾過した。
【0053】
濾液に等量の飽和硫酸アンモニウム溶液を加え、転倒混和後、氷水中で30分間インキュベートした。析出物を12,000rpm、30分間、4℃で遠心することでペレットとして回収した。Square dish10~20枚分のペレット量に対して32mLのice-cold PBSを加え、再懸濁し、Ultra-Clear centrifuge tube (25×89mm, Beckman)に入れた。3mLの1.25g/mL CsCl2 in HNE buffer (屈折率(refractive index; RI)=1.361)をチューブの底に加え、更に3mLの1.74g/mL CsCl2 in HNE buffer (RI=1.402)を、層を崩さないようにしてチューブの底に加えた。上記チューブを、30,000 rpm、2時間30分、16℃で超遠心した(Optima L-70K Ultracentrifuge, Beckman Coulter; Sw 32 Tiローター)(Accel, Deccel; Max)。遠心後、Beckman Fraction Recovery System (#270331580, Beckman)を用いて、RIが1.368~1.376の層の溶液のみを回収した。回収した溶液を、Slide-A-Lyzer G2 Dialysis Cassette(Thermo Fisher, 20KMWCO, 3mL capacity)を用いて500 mLのPBS/3mM MgCl2バッファー中で直ちに透析した。上記バッファーは、2時間以上スターラー撹拌下で透析を行った後に交換した。バッファー交換は、4回行った。透析後のウイルスを含む溶液を、1.5mLのエッペンチューブに回収して、10,000rpm、5分、4℃で遠心(Centrifuge 5417R , eppendorf)を行い、scAAV2TM.mCMV.optHGFを含む上清を回収した。
【0054】
同様の方法に基づいて、シングルストランドのrAAV2であるssAAV2TM.p13CMV.optHGF.WPRE(AAV.p13)も作成した。ベクタープラスミド(pVector-p13)は、配列番号6に記載の塩基配列を有する。プロモーターは、CMVプロモーター(p13CMV、配列番号3)を、HGFは、optHGF(配列番号4)を用いた。p13CMVは、図3の通り、p42CMVよりも長い。pVector-p13では、optHGFと3'側のITRとの間にWPRE-mut6(WPRE; Woodchuck Hepatitis Virus Post-transcriptional Regulatory Element, 配列番号7)を配置した。pVector-p13の2つのITRは、いずれも非変異型である。
【0055】
実施例2
マウスの硝子体内への投与
NMDAモデルでの検討
動物
本実験には8週齢オスC57BL/6マウス(日本クレア)を用いた。マウスは、14時間/10時間の明暗期のサイクル下で食餌・飲用水へ自由にアクセスできるように飼育した。
【0056】
硝子体内投与
マウスを、ケタミン/キシラジン(100mg/kg, 10mg/kg)の腹腔内投与及びオキシブプロカイン塩酸塩点眼(ベノキシール点眼液0.4%, 参天製薬)により麻酔した。麻酔したマウスに1μLのウイルスベクター(AAV.p42)を硝子体内投与した。ウイルス投与の3週間後、1μLのN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA, Wako)をマウスの硝子体内に投与した。ウイルス及びNMDAの濃度は、表2に示している。
【表2】
【0057】
in vivo hHGF RNA発現レベル解析
網膜中のhHGF RNA発現レベル解析のため、リアルタイムPCRを行った。ウイルス投与4週間後、マウスをイソフルラン麻酔下で頸椎脱臼することにより安楽殺した。マウスから眼球を摘出し、眼科顕微鏡下で神経網膜(内境界膜、神経線維層、神経節細胞層、内網状層、内顆粒層、外網状層、外顆粒層、外境界膜及び視細胞層からなる層)を剥離し、得られた膜(以下、神経網膜)を200μLのRNAlater (Qiagen)に一晩、4℃で浸漬し、-30℃で保存した。神経網膜を350μLのBuffer RLT/β-メルカプトエタノール(100:1)へ移し、ソニケーションにより神経網膜を破砕した。神経網膜からのRNA抽出は、RNeasy Minikit(Qiagen)を用い、製品マニュアルに従って行った。
【0058】
得られたRNAを、TaKaRa RNA PCRTM Kit ((AMV) Ver.3.0, TaKaRa)を用いて表3に記載の条件に従って逆転写PCRによりcDNA化した。
【表3】
【0059】
得られたcDNAをテンプレートにしてSYBR(登録商標) Premix Ex TaqTM (Tli RNaseH Plus)(Takara)を用いて表4に記載の条件に従ってリアルタイムPCRを行った。プライマーの配列は、表5にリストしている。
【表4】
【表5】
【0060】
結果 in vivo hHGF RNA発現レベル解析
結果を図4に示している。AAV.p42投与群(p42+NMDA群)は、AAV.p42非投与群(PBS群)と比較し、4674±1634倍(±S.E.)のhHGF RNA発現が確認できた(mean±S.E., t-test, *p<0.05, n=3 (NMDA群はn=2))。
【0061】
実施例3
in vivoタンパク質発現量解析
実施例2において取得した神経網膜をPBS中に浸漬して、氷上で冷却した。ソニケーションにより神経網膜を破砕し、破砕された神経網膜を含むサンプルを得た。
【0062】
神経網膜中のHGFタンパク質発現レベルを、Human HGF Quantikine ELISA Kit (R&D)を用いて製品マニュアルに従って解析した。各ウェル中の溶液の吸光度をプレートリーダー(ARVO MX Perkin Elmer 1420 Multilabel Counter)によって450nmで測定した。
【0063】
神経網膜中の総タンパク質量の測定は、Total protein assay by DC protein assay kitを用いて行った。5μLのスタンダード及びサンプル(スタンダード:1.0、0.5、0.25、0.125、0mg/mL(PBS)、サンプル:PBSでの4倍希釈サンプル)をそれぞれ96 wellプレートのウェルに入れ、25μLのReagent Aをウェルに加えた。200mLのReagent Bをウェルに加えた後、96 wellプレートを5秒間振盪して、常温で15分間インキュベートし、各ウェル中の溶液の吸光度をプレートリーダー(ARVO MX Perkin Elmer 1420 Multilabel Counter)によって750nmで測定した。
【0064】
結果 in vivoタンパク質発現量解析
結果を図5に示している。AAV.p42投与群(p42+NMDA群)は、AAV.p42非投与群(PBS群及びNMDA群)と比較し、神経網膜中の総タンパク質量あたりのhHGFタンパク質量が1796±439 pg/mg (±S.E.)であることが確認できた(mean±S.E., t-test, *p<0.05, n=3 (NMDA群はn=2))。正常眼圧緑内障モデルのマウスの硝子体内にウイルスベクターAAV.p42を投与した。その結果、神経節細胞層細胞数減少の抑制が認められた(不図示)。
【0065】
実施例4
in vitroタンパク質発現量解析
マウス神経芽腫細胞株Neuro2a及びマウス横紋筋細胞株C2C12におけるHGF発現量を解析した。1×105 (cells/well)の各細胞を24well plateに播種して培養した。播種の6時間後、1細胞あたり5×105 v.g.のAAV.p42をC2C12のウェルに添加し、播種の20時間後、1細胞あたり5×105 v.g.のAAV.p42をNeuro2aのウェルに添加した。1日間の培養後、各ウェル中の細胞を500μLのPBSで洗浄した後、500μLのDMEM/10%FBSを各ウェルに加えた。細胞を2日間培養し、上清を回収した。回収した上清を3000rpm, 5分, 4℃で遠心し、その上清サンプルを解析に用いた。同様の方法に従って、AAV.p13をC2C12とNeuro2aにトランスダクションし、それぞれから上清サンプルを取得した。
【0066】
HGF発現量解析は、実施例3に記載の方法に従った。上清サンプルは、Human HGF Quantikine ELISA KitのRD5Pバッファーにより20倍に希釈して使用した。
【0067】
結果を図6A及びBに示している。C2C12細胞もNeuro2a細胞も顕著なhHGF分泌が認められた(mean±S.E., t-test, *p<0.05, n=3)。特にNeuro2a細胞において、同様のHGF配列を有する一本鎖AAV.p13と比較し、より高いレベルでの発現が確認された。以上の結果から、野生型CMVプロモーターの領域を短くしても、hHGFの発現に大きな影響を与えないことが明らかになった。
【0068】
まとめ
本発明者達は、上述する一般的なssAAVベクターでは、遺伝子発現効率が低いため、自己相補型(Self-complementary)アデノ随伴ウイルス(scAAV)ベクターを用いることにした。scAAVベクターは、最初から二本鎖DNAであるため、搭載した遺伝子の発現効率が高い一方で、ssAAVと比較して搭載できる遺伝子の長さは半減する。従って、全長が約2.2kbpのHGFは、一般的なssAAVには搭載可能であるが、scAAVでは困難であると考えられていた。そこで、本発明者達は、鋭意研究の末、AAVベクター上の由来不明配列を除去し、更に、CMVのプロモーター領域の一部及びAAVのITR領域の一部を削除することでscAAVベクターにHGFを搭載することに成功した。
【0069】
本発明にかかるscAAVベクターは、従来のAAVベクターと比較して、in vitro及びin vivoにおいてHGFを高レベルに発現できることを実験的に確認した。具体的には、マウス神経芽腫細胞株(Neuro2a)及びマウス筋芽細胞株(C2C12)へ当該ベクターをトランスダクションし、その培養上清中のHGFタンパク質量をELISA法により測定したところ、どちらの細胞株においても高レベルでのHGFタンパク質の分泌が確認された。特に、当該ベクターを感染させたNeuro2aでは、当該ベクターと同じHGF配列を有する一本鎖AAVを感染させたNeuro2aよりも、HGFタンパク質の顕著な発現が認められた。また、当該ベクターをマウス硝子体内へ投与し、一定の発現期間を置いた後、N-メチル-D-アスパラギン酸により急性網膜障害を引き起こし、その網膜中のHGFのmRNA発現レベル及びタンパク質発現量をリアルタイムPCR及びELISA法で確認したところ、障害網膜において強いHGF発現が認められた。また、当該ベクターを正常眼圧緑内障モデルマウスに投与したところ、神経節細胞層上の細胞数減少の抑制が認められた(不図示)。
【0070】
本実施例で使用したpVector-p42(配列番号5)は、空ベクター(pVector; 配列番号16)に基づいて作成されている。pVector-p42においては、HGFを搭載したが、pVectorは、HGF以外の因子(神経栄養因子、成長因子及びサイトカイン等)も搭載することができる。また、pVectorは、CMVIE以外のプロモーターも搭載することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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