(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】異物検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 22/02 20060101AFI20230530BHJP
G01N 22/00 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
G01N22/02 B
G01N22/00 Q
(21)【出願番号】P 2019142759
(22)【出願日】2019-08-02
【審査請求日】2022-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100123630
【氏名又は名称】渡邊 誠
(72)【発明者】
【氏名】小川 雄一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 哲仁
(72)【発明者】
【氏名】児玉 陽平
(72)【発明者】
【氏名】中島 亜弓
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-109687(JP,A)
【文献】特開平11-072607(JP,A)
【文献】特開2011-232289(JP,A)
【文献】特開2007-017289(JP,A)
【文献】特開2013-092374(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0057466(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第109283155(CN,A)
【文献】特開2018-195908(JP,A)
【文献】特開2016-075596(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 22/00-G01N 22/04
G01N 21/35-G01N 21/3586
G01N 21/84-G01N 21/958
G01N 23/00-G01N 23/2276
G01V 3/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
Science Direct
KAKEN
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波を使用して、検査対象物に混入した異物を検出する異物検査装置であって、
波長約0.1mm乃至約10mmの範囲の単一の波長の電磁波を検査対象物
に照射するための電磁波発振器と、
この電磁波発振器から照射され、上記検査対象物を透過した電磁波が入射する電磁波検出面を備えた電磁波検出器と、
上記検査対象物と上記電磁波検出器の間に配置され、上記検査対象物を透過した電磁波を透過させる
ことにより、電磁波
を回折させ、回折させた電磁波の干渉を誘発する周期構造板と、
上記電磁波検出器によって検出された電磁波に基づいて、上記検査対象物中の異物の有無を判定する演算処理器と、
を有することを特徴とする異物検査装置。
【請求項2】
上記周期構造板は、多数の開口が一定のピッチで形成された薄板から形成されている請求項1記載の異物検査装置。
【請求項3】
上記周期構造板に形成された開口のピッチは、上記電磁波発振器が照射する電磁波の波長の1倍乃至100倍の長さを有する請求項2記載の異物検査装置。
【請求項4】
上記周期構造板は、導電性材料で構成されている請求項1乃至3の何れか1項に記載の異物検査装置。
【請求項5】
上記周期構造板と、上記電磁波検出器の上記電磁波検出面との間の距離は、上記電磁波発振器が照射する電磁波の波長の4倍以下である請求項1乃至4の何れか1項に記載の異物検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異物検査装置に関し、特に、電磁波を使用して、検査対象物に混入した異物を検出する異物検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
食料品や医薬品等を製造する事業者においては、製品に混入する異物を確実に排除することが極めて重要である。検査対象物である製品に混入して、目視で発見することが困難な異物であっても、金属や小石等、検査対象物との密度差が大きい異物は比較的容易に発見することができる。これに対して、プラスチック片や、虫、毛髪、糸等の、検査対象物との密度差が少ない異物や、検査対象物と類似の構成成分を有する異物は、発見が困難である。
【0003】
国際公開第2014/132620号(特許文献1)には、毛髪等の繊維状物質の検出方法および装置が記載されている。この検出方法においては、検査対象物に、偏光方向が互いに直交する2つのテラヘルツ波を照射し、この2つのテラヘルツ波の透過率の差や、反射率の差に基づいて、毛髪等の繊維状物質の混入の有無を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の検出方法においては、偏光方向が互いに直交する2つのテラヘルツ波に対する毛髪の吸収強度、又は反射強度の差に基づいて異物を検出しているので、毛髪等の繊維状物質の混入を検出することは可能であるが、その他の形状の異物の検出が困難である、という問題がある。
従って、本発明は、電磁波を使用して、毛髪等の繊維状物質以外の様々な形状を有する異物も検出することができる異物検査装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明は、電磁波を使用して、検査対象物に混入した異物を検出する異物検査装置であって、波長約0.1mm乃至約10mmの範囲の単一の波長の電磁波を検査対象物に照射するための電磁波発振器と、この電磁波発振器から照射され、検査対象物を透過した電磁波が入射する電磁波検出面を備えた電磁波検出器と、検査対象物と電磁波検出器の間に配置され、検査対象物を透過した電磁波を透過させることにより、電磁波を回折させ、回折させた電磁波の干渉を誘発する周期構造板と、電磁波検出器によって検出された電磁波に基づいて、検査対象物中の異物の有無を判定する演算処理器と、を有することを特徴としている。
【0007】
このように構成された本発明においては、電磁波発振器によって、検査対象物に電磁波が照射され、照射された電磁波の少なくとも一部は検査対象物を透過する。検査対象物を透過した電磁波は、検査対象物と電磁波検出器の間に配置された周期構造板に入射し、周期構造板によって電磁波が透過されると共に干渉が誘発される。周期構造板によって干渉が誘発された電磁波は、電磁波検出器の電磁波検出面に入射する。演算処理器は、電磁波検出器によって検出された電磁波に基づいて、検査対象物中の異物の有無を判定する。
【0008】
電磁波を使用して検査対象物に混入した異物を検出するには、検査対象物に電磁波を透過させ、透過した電磁波を電磁波検出器によって検出することにより、異物の有無を判定することが考えられる。しかしながら、電磁波検出器によって検出される電磁波は、検査対象物に微小なプラスチック片等の異物が混入している場合においても、異物が混入していない場合と比較して大きな変化はなく、異物の混入を精度良く検出することは困難であった。
【0009】
本件発明者が鋭意研究を重ねた結果、検査対象物と、電磁波検出器の電磁波検出面との間に周期構造板を配置することにより、異物の存在が強調されることが見出された。即ち、検査対象物に異物が混入していると、検査対象物を透過する電磁波に僅かな乱れが発生する。このように乱れが発生した電磁波が、検査対象物と電磁波検出面の間に配置された周期構造板に入射すると、電磁波に干渉が発生して異物の存在が強調される。上記のように構成された本発明によれば、検査対象物と電磁波検出器の間に、検査対象物を透過した電磁波を透過させると共に、電磁波の干渉を誘発する周期構造板が配置されているので、検査対象物に混入した異物の存在を強調することができ、精度良く異物を検出することができる。
【0010】
本発明において、好ましくは、周期構造板は、多数の開口が一定のピッチで形成された薄板から形成されている。
このように構成された本発明によれば、多数の開口が一定のピッチで形成された薄板により周期構造板が形成されているので、各開口部を透過して回折した電磁波が互いに効果的に干渉を引き起こすことができると共に、精度の高い周期構造板を容易に作成することができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、周期構造板に形成された開口のピッチは、電磁波発振器が照射する電磁波の波長の1倍乃至100倍の長さを有する。
このように構成された本発明によれば、周期構造板の開口のピッチが電磁波の波長の1倍乃至100倍に形成されているので、電磁波の干渉を効果的に引き起こすことができ、異物の存在を強調することができる。
【0012】
本発明において、好ましくは、周期構造板は、導電性材料で構成されている。
このように構成された本発明によれば、周期構造板が導電性材料で構成されているので、周期構造板の非開口部上において電磁波の透過率が低くなることにより、周期構造板の開口部と非開口部における電磁波の透過強度の比を高めて、干渉を効果的に誘発することができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、周期構造板と、電磁波検出器の電磁波検出面との間の距離は、電磁波発振器が照射する電磁波の波長の4倍以下である。
本件発明者の研究によれば、周期構造板により誘発された干渉の影響は、周期構造板から電磁波の波長の4倍程度離れると低下し始め、周期構造板を配置した効果が減少する。上記のように構成された本発明によれば、周期構造板と電磁波検出面の間の距離が、電磁波の波長の4倍以下に設定されているので、電磁波検出器によって、異物の存在が強調された電磁波を検出することができ、精度良く異物を検出することができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、電磁波発振器が照射する電磁波は、約0.1mm乃至約10mmの波長を有する。
このように構成された本発明においては、電磁波発振器が波長約0.1mm乃至約10mmの電磁波を照射するので、一般的な食料品を適度に透過し、検査対象物を食料品としたとき、異物を効果的に検出することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の異物検査装置によれば、電磁波を使用して、様々な形状を有する異物を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態による異物検査装置の側面図である。
【
図2】本発明の実施形態による異物検査装置における周期構造板を部分的に拡大して示す平面図である。
【
図3】実施形態による異物検査装置において、電磁波が照射されたときの電場強度分布を側面から見た図である。
【
図4】比較例として、周期構造板を配置していない場合における電場強度分布を側面から見た図である。
【
図5】本発明の実施形態による異物検査装置において、
図3のL
1断面における電場強度分布を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態による異物検査装置において、
図3のL
2断面における電場強度分布を示す図である。
【
図7】本発明の実施形態による異物検査装置において、
図3のL
3断面における電場強度分布を示す図である。
【
図8】比較例として、
図4のL
1断面における電場強度分布を示す図である。
【
図9】本発明の実施形態による異物検査装置において、電磁波検出面の位置と平均二乗誤差との関係を示すグラフである。
【
図10】本発明の実施形態による異物検査装置において、電磁波検出面の位置と局所的な二乗誤差との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施形態を説明する。
図1は、本発明の実施形態による異物検査装置の側面図である。
図2は、周期構造板を部分的に拡大して示す平面図である。
【0018】
本実施形態の異物検査装置1は、
図1に示すように、検査対象物Aに電磁波を照射するための電磁波発振器2と、検査対象物Aを載置するためのトレイ4と、検査対象物Aを透過した電磁波が入射する電磁波検出器6と、検査対象物Aと電磁波検出器6の間に配置された周期構造板8と、検査対象物A中の異物の有無を判定する演算処理器10と、を有する。本実施形態の異物検査装置1は、任意の食品等に混入した異物の検出に適用することが可能であるが、検査対象物Aの例として、食卓塩、片栗粉、うま味調味料、グラニュー糖、粉末スープ等の粉体製品(結晶、造粒品)、乾燥パセリ、ホウレンソウ、パスタ糖等の各種原料、菓子類、冷凍食品等を挙げることができる。また、検査対象物Aとしては、含有する液体の水分量が少なく、形状が概ね均一でばらつきの少ないものが好適である。
【0019】
電磁波発振器2は、その上面に設けられた電磁波射出面2aから上方に向けて電磁波を射出するように構成されている。本実施形態においては、電磁波発振器2は、波長λ=約3mm、周波数f=約0.1THzのコヒーレントな(干渉する性質を有する)サブテラヘルツ電磁波を射出するように構成されている。また、本実施形態においては、電磁波発振器2は、電磁波を連続波として射出するように構成されている。電磁波発振器2として、任意の波長の電磁波を射出する発振器を使用することができるが、好ましくは波長約0.1mm乃至約10mmの電磁波を射出する発振器を使用する。使用する電磁波の波長は、検査対象物Aに対する透過性、検査対象物Aの厚さ、検出しようとしている異物の大きさに応じて設定するのが良い。なお、一例として、サブテラヘルツ電磁波を射出する発振器には、インパットダイオードを使用したTERASENSE社製の「IMPATT Diode 100GHz」を使用することができる。また、電磁波発振器2は、検査対象物Aが配置された範囲全体に、十分な強度でほぼ均一なサブテラヘルツ電磁波を射出できるように構成されているのが良い。
【0020】
トレイ4は、検査対象物Aを載置するための平板状の部材であり、電磁波発振器2の上方に、電磁波射出面2aと平行に配置されている。本実施形態においては、トレイ4の上面と電磁波射出面2aとの間の距離D1は、検査対象物Aに照射される電磁波の波長に相当する約3mmに設定されている。トレイ4は、電磁波発振器2から射出された電磁波を透過しやすい、ポリエチレン等の材質で形成するのが良く、また、透過させる電磁波に乱れを与えないように、均質な材料で、均一な厚さに構成されていることが好ましい。さらに、トレイ4の上面と電磁波射出面2aとの間の距離D1は離れている方が、検査対象物A全体に電磁波を均一な強度で照射しやすく有利であるが、離れすぎると電磁波の強度が低下してしまう。従って、トレイ4の上面と電磁波射出面2aとの間の距離D1は、検査対象物Aが載置されている範囲全体に亘って1μW以上、好ましくは15μW以上の電磁波の強度が得られるように設定するのが良い。なお、検査対象物Aがトレイ4を用いることなく電磁波発振器2の上方に配置可能なものである場合には、トレイ4を省略することができる。また、トレイ4に代えてベルトコンベア(図示せず)を設け、これにより検査対象物Aを連続的に移送するように本発明を構成することもできる。
【0021】
電磁波検出器6は、トレイ4に載置された検査対象物Aの上方に配置され、検査対象物Aを透過した電磁波を検出するように構成されている。具体的には、電磁波検出器6は、その下面に設けられた電磁波検出面6aに電磁波が入射するように配置されており、電磁波検出面6aは、電磁波発振器2の電磁波射出面2a、及びトレイ4と平行に配置されている。また、電磁波検出器6の電磁波検出面6a上には多数の検出素子(図示せず)が配列されており、電磁波検出器6は、電磁波検出面6a上に入射した電磁波の強度分布を検出可能なエリアセンサとして構成されている。さらに、本実施形態においては、トレイ4の上面と電磁波検出面6aとの間の距離D2は、検査対象物Aに照射される電磁波の波長の約2倍に相当する約6mmに設定されている。なお、一例として、電磁波を検出する検出器には、ショットキーバリアダイオードを用いたテラヘルツ検出器を使用することができる。また、トレイ4の上面と電磁波検出面6aとの間の距離D2は、電磁波の波長の約1倍乃至約8倍に設定するのが良い。
【0022】
周期構造板8は、検査対象物Aを透過した電磁波を透過させると共に、電磁波の干渉を誘発するように、検査対象物Aと電磁波検出器6の間に配置されている。また、周期構造板8は、電磁波検出器6の電磁波検出面6a、及びトレイ4と平行に配置されている。さらに、本実施形態においては、トレイ4の上面と周期構造板8の下面との間の距離D3は、検査対象物Aに照射される電磁波の約一波長に相当する約3mmに設定されている。さらに、周期構造板8の下面と電磁波検出面6aの間の距離D4も、電磁波の約一波長に相当する約3mmに設定されている。なお、トレイ4の上面と周期構造板8の下面との間の距離D3は、電磁波の波長の約1倍乃至約4倍で、検査対象物Aと周期構造板8が接触しないように設定し、周期構造板8の下面と電磁波検出面6aの間の距離D4は、電磁波の波長の約1倍乃至約4倍に設定するのが良い。
【0023】
なお、本実施形態においては、トレイ4の下側に電磁波発振器2を配置し、トレイ4の上側に周期構造板8及び電磁波検出器6を配置している。これに対して、変形例として、トレイ4の上側に下方に向けて電磁波を射出するように電磁波発振器2を配置し、トレイ4の下側に周期構造板8を配置し、さらにその下側に電磁波検出器6を配置することもできる。この場合には、トレイ4の下側の面に近接して周期構造板8及び電磁波検出器6を配置することが可能であり、トレイ4の下面から電磁波の波長の1倍以下の距離に、周期構造板8及び/又は電磁波検出器6を配置することもできる。
【0024】
図2に示すように、本実施形態においては、周期構造板8として、金属製の薄板に多数の開口を一定のピッチで形成したものが使用されている。具体的には、周期構造板8は、厚さ約0.1mmの薄板に、一辺約5mmの正方形の開口8aが一定のピッチP=約6mmで多数形成された薄板部材により構成されている。なお、本実施形態においては、周期構造板8はニッケル製であり、開口8aのピッチPは、電磁波の波長の約2倍である。好ましくは、周期構造板8に形成する開口8aのピッチPは、電磁波発振器2が照射する電磁波の波長の1倍乃至100倍の長さに設定する。
【0025】
また、周期構造板8は金属以外の材料で構成することも可能であるが、好ましくは、周期構造板8は、導電性の金属、特に好ましくはニッケル、金等で構成する。さらに、薄板に設ける開口の形状は正方形の他、長方形や円形等、任意の形状にすることができる。或いは、薄板に多数の開口を形成したものではなく、金属等の素線を編むことにより形成された、平織の網状の部材により周期構造板8を構成することもできる。また、本実施形態においては、周期構造板8は縦方向及び横方向の二方向の周期構造を有し、格子状に形成されているが、周期構造は一方向であっても良い。例えば、金属板に細長いスリットを等間隔に多数形成することにより、縞状の周期構造板を形成することもできる。また、検査対象物Aの上方から電磁波を照射するように本発明を構成した場合には、周期構造板8を、検査対象物Aを載置するためのトレイ4やベルトコンベアのベルト(図示せず)と一体化して形成することもできる。
【0026】
検査対象物Aと電磁波検出器6の間に周期構造板8を配置することにより、検査対象物Aを透過した電磁波が周期構造板8に入射する。周期構造板8に入射した電磁波は、その各開口8aを透過して回折し、回折した電磁波が互いに干渉を引き起こす。即ち、周期構造板8上の各開口8aの部分と、非開口部との電磁波の透過強度の比が高くなり、効果的に電磁波の干渉が誘発される。この干渉が誘発された電磁波が電磁波検出器6の電磁波検出面6aに入射する。また、検査対象物A内に異物が混入していると、この異物が検査対象物Aを透過する電磁波に僅かな乱れを発生させる。このように、乱れを含む電磁波が周期構造板8に入射すると、異物による乱れの影響が強調され、異物による乱れが電磁波検出器6によって検出されやすくなる。
【0027】
図1に示すように、演算処理器10は、電磁波検出器6によって検出された電磁波に基づいて、検査対象物A中の異物の有無を判定するように構成された演算装置である。具体的には、演算処理器10は、電磁波検出器6から入力された検出信号を処理するマイクロプロセッサ、メモリ、インターフェイス回路、これらを作動させるソフトウェア等から構成されている。演算処理器10は、電磁波検出器6から入力された信号を処理して、検査対象物Aに異物が混入していると判断した場合には、異物が混入している旨の表示、及び/又は警告音によって、異物が混入している旨を報知するように構成されている。
【0028】
具体的には、演算処理器10には、異物が混入していない検査対象物Aを透過した電磁波が電磁波検出器6に入射した際の電磁波の強度が記憶されており、記憶されている電磁波の強度と、検査すべき検査対象物Aを透過した電磁波の強度との相違に基づいて、異物の有無が判定される。なお、異物が混入していない検査対象物Aを透過した電磁波の強度は、同種の検査対象物Aについて複数回測定し、その平均値を演算処理器10に記憶しておくのが良い。また、異物の有無の判定の詳細については後述する。
【0029】
次に、本発明の実施形態による異物検査装置1の作用を説明する。
まず、異物の混入を検査すべき検査対象物Aをトレイ4の上に載せ、検査の準備をする。検査対象物Aはトレイ4の上に概ね均一に配置するのが良く、また、配置される検査対象物Aの厚さは、予め設定された既定値となるようにするのが良い。次いで、トレイ4を電磁波発振器2の上方の所定の位置にセットした後、電磁波発振器2を作動させ、検査対象物Aに電磁波を照射する。検査対象物Aを透過した電磁波は、周期構造板8を透過すると共に、周期構造板8によって干渉が誘発され、周期構造板8の上方に配置された電磁波検出器6によって検出される。
【0030】
演算処理器10は、電磁波検出器6から入力された検出信号に基づいて、電磁波検出面6a上の各検出素子(図示せず)が検出した電磁波の検出強度I
1を計算する。一方、演算処理器10には、異物が混入していない検査対象物Aに電磁波を照射したときに検出された検出信号に基づく、各検出素子(図示せず)によって検出された電磁波の基準強度I
Rが記憶されている。演算処理器10は、これらの検出強度I
1、及び基準強度I
Rに基づいて下記数式(1)により平均二乗誤差(NMSE: Normalized Mean Square Error)を計算し、この平均二乗誤差が所定の閾値E
th1よりも大きい場合に、検査対象物Aに異物が混入していると判定する。
【0031】
即ち、数式(1)の分母は、エリアセンサを構成する電磁波検出器6の各画素(各検出素子)が検出した基準強度IRの二乗を、全画素について合計することにより計算される。また、数式(1)の分子は、同一の画素において検出された検出強度I1と基準強度IRの差を二乗し、その値を全画素について合計することにより計算される。なお、本実施形態では、数式(1)において、全画素の強度に基づいて平均二乗誤差を計算しているが、一部の画素又は一つの画素の強度に基づいて平均二乗誤差を計算し、その値を所定の閾値Eth2と比較して、検査対象物Aに異物が混入しているか否かを判定するように本発明を構成することもできる。或いは、検出強度I1の値が大きい1つ又は複数の画素を選択し、その画素について平均二乗誤差を計算し、その値を所定の閾値Eth3と比較して検査対象物Aに異物が混入しているか否かを判定するように本発明を構成することもできる。
【0032】
次に、
図3乃至
図10を参照して、本発明の実施形態による異物検査装置の効果を電磁界解析によるシミュレーション結果に基づいて説明する。
図3は、本発明の実施形態による異物検査装置において、電磁波が照射されたときの電場強度分布を側面から見た図である。
図4は、比較例として、周期構造板を配置していない場合における電場強度分布を側面から見た図である。
【0033】
図3は、本実施形態の異物検査装置1において、電磁波が照射されたときの電場強度分布を側面から見たシミュレーション結果である。
図3の(a)欄は検査対象物Aに異物がない場合のシミュレーション結果を示し、(b)欄は異物がある場合のシミュレーション結果を示している。なお、
図3の(a)(b)は、電磁波発振器2が、一辺40mmの正方形の電磁波射出面2aから100GHzの連続波を射出した場合のシミュレーション結果を示している。また、電磁波発振器2は、幅20mmのガウシアン分布を有する電磁波を射出しているものとしてシミュレーションを行った。
【0034】
さらに、
図3の(b)において、異物Cは電磁波射出面2aの上方3mm(トレイ4までの距離D
1=3mmに相当)に位置し、周期構造板8は異物の上方3mm(トレイ4からの距離D
3=3mmに相当)に配置されているものとして計算を行った。また、周期構造板8は、
図2に示したように、一辺5mmの正方形の開口がピッチ6mmで縦横に形成された厚さ0.1mmの金属板として形成されているものとして計算を行った。さらに、異物Cは、一辺1mmの正方形であり、ポリスチレン樹脂(PS)を想定して、屈折率1.5、導電率0.0199として計算を行った(電磁波が射出される空間は、屈折率1.0、導電率0とした)。一方、
図3の(a)については、異物Cが配置されていないことを除き、
図3の(b)と同一の条件で計算を行った。
【0035】
次に、
図4は、比較例として、周期構造板8が配置されていない空間に電磁波が射出された場合の電場強度分布のシミュレーション結果である。計算条件は、周期構造板8が配置されていないことを除き、
図3の(b)と同一である。
【0036】
図3の(b)欄と、
図4の電場強度分布を比較すると、電場内に周期構造板8を配置した場合には、電磁波の干渉により、電場強度分布が複雑になることが分かる。また、
図3の(a)欄と(b)欄の電場強度分布を比較すると、異物Cを配置することによる電場の変化が、周期構造板8の上方まで及んでいることがわかる。一方、比較例である
図4の電場強度分布では、異物Cを配置したことによる電場強度分布の乱れは、異物Cの近傍に止まっており、上方の空間まで及んでいないことがわかる。このように、周期構造板8を配置することにより、異物Cが存在することによる電場の乱れが増強されていることがわかる。
【0037】
次に、
図5乃至
図8を参照して、周期構造板8の上方の各位置において検出される電場強度分布を説明する。
図5は、本発明の実施形態による異物検査装置において、
図3のL
1断面における電場強度分布を示す図である。
図6は、本発明の実施形態による異物検査装置において、
図3のL
2断面における電場強度分布を示す図である。
図7は、本発明の実施形態による異物検査装置において、
図3のL
3断面における電場強度分布を示す図である。
図8は、比較例として、
図4のL
1断面における電場強度分布を示す図である。
【0038】
図5の(a)欄は、
図3の(a)欄のL
1断面における電場強度分布を示す図であり、
図5の(b)欄は、
図3の(b)欄のL
1断面における電場強度分布を示す図である。なお、
図3のL
1断面は、本実施形態の異物検査装置1において、電磁波検出器6の電磁波検出面6aが配置されている位置に相当し、トレイ4の上方6mm(電磁波射出面2aの上方9mm)に位置する。
図5に示すように、異物Cが存在する場合を示している(b)欄の電場強度分布では、異物Cが存在しない(a)欄の分布に比べ、中央付近における電場強度が高く、また、電場強度が高い領域が広くなっている。このため、
図5の(a)欄に示す電場における各点の電場強度を基準強度I
Rとし、(b)欄の電場における各点の電場強度を検出強度I
1とすれば、両者の相違に基づいて、異物Cの存在を検出することが可能になる。
【0039】
次に、
図6は、
図3のL
2断面における電場強度分布を示しており、(a)欄は
図3の(a)欄のL
2断面、(b)欄は、
図3の(b)欄のL
2断面における電場強度分布を夫々示している。なお、
図3のL
2断面は、本実施形態の異物検査装置1において、トレイ4の上方12mm(電磁波射出面2aの上方15mm)の位置に相当する。
図6に示すように、異物Cが存在する場合を示す(b)欄の電場強度分布では、異物Cが存在しない(a)欄の分布に比べ、中央付近に存在する電場強度が高い点が僅かに大きくなっている。このため、
図6の(a)欄に示す電場強度と、(b)欄の電場強度の相違に基づいて、異物Cの存在を検出できる可能性がある。
【0040】
さらに、
図7は、
図3のL
3断面における電場強度分布を示しており、(a)欄は
図3の(a)欄のL
3断面、(b)欄は、
図3の(b)欄のL
3断面における電場強度分布を夫々示している。なお、
図3のL
3断面は、本実施形態の異物検査装置1において、トレイ4の上方18mm(電磁波射出面2aの上方21mm)の位置に相当する。
図7に示すように、異物Cが存在する場合を示す(b)欄の電場強度分布と、異物Cが存在しない(a)欄の分布はほぼ同一であり、L
3断面における電場強度分布に基づいて、異物Cの存在を検出することは困難である。
【0041】
図8は、比較例として、周期構造板8が配置されていない場合の電場強度分布を示すものである。
図8の(b)欄は、
図4のL
1断面における電場強度分布を示しており、(a)欄は
図4のシミュレーションにおいて、異物Cが配置されていない場合のL
1断面における電場強度分布を示している。なお、
図4のL
1断面は、本実施形態の異物検査装置1における電磁波検出器6の配置位置と同一であり、トレイ4の上方6mm(電磁波射出面2aの上方9mm)に位置する。
図8の(a)欄と(b)欄の電場強度分布は、ほぼ同一であり、この電場強度分布に基づいて異物Cを検出することは困難である。なお、周期構造板8が配置されていない場合の電場強度分布は、
図6、
図7に夫々対応するトレイ4の上方12mm、18mmの位置においても、異物Cが存在する場合と存在しない場合でほぼ同一となり、これらに基づいて異物Cを検出することは困難であった。
【0042】
次に、
図9及び
図10を参照して、電場強度分布の検出位置と平均二乗誤差の関係を説明する。
図9は、
図5乃至
図7に示したシミュレーションについて、電磁波検出面6aの位置と、検出された全画素の電場強度に基づいて計算された平均二乗誤差との関係を示すグラフである。
図10は、
図5乃至
図7に示したシミュレーションについて、電磁波検出面6aの位置と、検出された電場強度の局所的な二乗誤差の最大値との関係を示すグラフである。
【0043】
図9は、横軸をトレイ4からの距離とし、縦軸を数式(1)によって計算された平均二乗誤差NMSEとしたグラフである。
図9において、横軸の6mmは、
図3におけるL
1断面に相当し、12mmはL
2断面、18mmはL
3断面に夫々相当する。
図9に示すように、平均二乗誤差の値は、電磁波検出面6aの位置がトレイ4から離れるほど小さくなっている。即ち、トレイ4から離れた位置では、異物が混入していない検査対象物Aについて測定された基準強度I
Rと、異物が混入している検査対象物Aについて測定された検出強度I
1の差が小さくなり、異物を検出することが困難となる。
【0044】
図9に示す結果から、トレイ4からの距離が約15mm以下の位置であれば十分な精度で異物を検出可能であることが読み取れ、この位置は、トレイ4からの距離で電磁波の波長の約5倍、周期構造板8からの距離で電磁波の波長の約4倍に相当する。また、トレイ4からの距離が近いほど平均二乗誤差の値が大きくなり、高精度で異物を検出することが可能となるが、検査対象物A自体の厚みがあるため、電磁波検出面6aをトレイ4(検査対象物Aの下面)に近接させるには限界がある。このため、トレイ4(検査対象物Aの下面)から電磁波検出面6aまでの距離は電磁波の波長の約2倍以上、周期構造板8から電磁波検出面6aまでの距離は電磁波の波長の約1倍以上に設定することが好ましい。一方、検査対象物Aを載置するトレイやコンベアの下側に周期構造板8及び電磁波検出器6を配置するように異物検査装置1が構成されている場合には、電磁波の波長の1倍以下の至近距離に周期構造板8及び電磁波検出器6を配置することができる。
【0045】
図10は、横軸をトレイ4からの距離とし、縦軸を局所的なNMSEとしたグラフである。
図10において、横軸の6mmは、
図3におけるL
1断面に相当し、12mmはL
2断面、18mmはL
3断面に夫々相当する。
図10における局所的NMSE最大値は、異物が混入している検査対象物Aについて測定された検出強度と異物が混入していない検査対象物Aについて測定された基準強度について同一画素ごとに二乗誤差を計算した値の最大値である。即ち、局所的NMSE最大値は、下記数式(2)に示すように、ある点(画素)における検出強度I
1と、その点(画素)における基準強度I
R1の差の二乗を当該基準強度I
R1の二乗で除した値の中の最大値である。
【0046】
図10に示すように、局所的NMSE最大値は、電磁波検出面6aの位置がトレイ4から離れるほど小さくなっている。即ち、トレイ4から離れた位置では、異物が混入している検査対象物Aについて測定された検出強度I
1と、異物が混入していない検査対象物Aについて測定された基準強度I
R1との差が少なくなり、二乗誤差の最大値も小さくなるため異物を検出することが困難となる。
【0047】
図10に示す結果からも、トレイ4からの距離が約15mm以下の位置であれば十分な精度で異物を検出可能であることが読み取れ、この位置は、トレイ4からの距離で電磁波の波長の約5倍、周期構造板8からの距離で電磁波の波長の約4倍に相当する。また、上記のように、トレイ4(検査対象物Aの下面)から電磁波検出面6aまでの距離は電磁波の波長の約2倍以上、周期構造板8から電磁波検出面6aまでの距離は電磁波の波長の約1倍以上に設定することが好ましいと考えられる。また、周期構造板8及び電磁波検出器6がトレイやコンベアの下側に配置されている場合には、電磁波の波長の1倍以下の至近距離に周期構造板8及び電磁波検出器6を配置することができる。
【0048】
本発明の実施形態の異物検査装置1によれば、検査対象物Aと電磁波検出器6の間に、検査対象物Aを透過した電磁波を透過させると共に、電磁波の干渉を誘発する周期構造板8が配置されているので、検査対象物Aに混入した異物の存在を強調することができ、精度良く異物を検出することができる。
【0049】
また、本実施形態の異物検査装置1によれば、多数の開口8aが一定のピッチPで形成された薄板により周期構造板8が形成されている(
図2)ので、効果的に電磁波の干渉を引き起こすことができると共に、精度の高い周期構造板8を容易に作成することができる。
【0050】
さらに、本実施形態の異物検査装置1によれば、周期構造板8の開口8aのピッチPが電磁波の波長の約2倍に形成されているので、電磁波の干渉を効果的に引き起こすことができ、異物の存在を強調することができる。
【0051】
また、本実施形態の異物検査装置1によれば、周期構造板8が導電性材料であるニッケルで構成されているので、周期構造板8上において電磁波の透過率が低くなるため、干渉を効果的に誘発することができる。
【0052】
さらに、本実施形態の異物検査装置1によれば、周期構造板8と電磁波検出面6aの間の距離が、電磁波の一波長分に設定されているので、電磁波検出器6によって、異物の存在が強調された電磁波を検出することができ、精度良く異物を検出することができる。
【0053】
また、本実施形態の異物検査装置1によれば、電磁波発振器2が波長約3mmの電磁波を照射するので、一般的な食料品を適度に透過し、検査対象物Aを食料品としたとき、異物を効果的に検出することができる。
【0054】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、上述した実施形態に種々の変更を加えることができる。特に、上述した実施形態においては、電磁波発振器の電磁波射出面から2次元的に、面状に電磁波が射出され、トレイに載せられた検査対象物Aを透過した電磁波が、エリアセンサとして機能する電磁波検出器によって検出されていた。これに対して、変形例として、電磁波が線状に射出されるように電磁波発振器を構成すると共に、これに対向するようにラインセンサとして機能する電磁波検出器を配置し、電磁波発振器と電磁波検出器の間をベルトコンベア(図示せず)に載せられた検査対象物Aが通過するように本発明を構成することもできる。この変形例によれば、多量の検査対象物Aをベルトコンベアで移送しながら、連続的に異物の有無を検査することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 異物検査装置
2 電磁波発振器
2a 電磁波射出面
4 トレイ
6 電磁波検出器
6a 電磁波検出面
8 周期構造板
8a 開口
10 演算処理器