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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】接合条件評価装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 3/08 20060101AFI20230530BHJP
   B23K 3/00 20060101ALI20230530BHJP
   H01L 21/60 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
B23K3/08
B23K3/00 310R
B23K3/00 310N
H01L21/60 311T
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019039977
(22)【出願日】2019-03-05
(65)【公開番号】P2020142273
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】519294332
【氏名又は名称】株式会社新川
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 智宣
【審査官】河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-211363(JP,A)
【文献】特開2008-145273(JP,A)
【文献】特開2015-056500(JP,A)
【文献】特開2007-142232(JP,A)
【文献】特開2002-203874(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 3/08
B23K 3/00
H01L 21/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一部材と第二部材とを接合部材を介在させた状態で加熱加圧することで接合する際の接合条件の導出を支援する装置であって、
前記第一部材と前記第二部材とを前記接合部材を介在させた状態で加熱加圧することで接合する接合部と、
複数種類の接合部材それぞれについて、加熱した過渡状態での前記接合部材の粘度と加熱条件との相関を示す粘度特性情報を含む物性情報が複数集合したライブラリと、
前記ライブラリを参照して接合に使用される前記接合部材に対応する前記物性情報を取得し、前記第一部材と前記第二部材とを接合して行う接合評価の評価条件の初期値を決定する初期評価条件決定部と、
設定された評価条件に従って前記接合部を駆動して前記第一、第二部材を接合するとともに、当該接合時における前記接合部材の粘度を測定する前記接合評価を1回以上実行する接合評価部と、
を備える、ことを特徴とする装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置であって、
前記粘度特性情報は、前記接合部材を3℃/sec以上の昇温レートで加熱した際の粘度と加熱条件との相関を示す情報である、ことを特徴とする装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の装置であって、
前記粘度特性情報は、少なくとも、昇温レートの違いによる温度に対する粘度の変化特性を含む、ことを特徴とする装置。
【請求項4】
請求項3に記載の装置であって、
前記粘度特性情報は、さらに、昇温開始温度の違いによる温度に対する粘度の変化特性を含む、ことを特徴とする装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の装置であって、
前記接合評価部は、前記接合評価において測定された粘度に基づいて、前記評価条件の修正の要否を判断し、修正が不要と判断されるまで、前記評価条件の修正と前記接合評価の再実行と、を繰り返し、修正が不要と判断された時点の修正された前記評価条件を接合条件として特定する、ことを特徴とする装置。
【請求項6】
請求項5に記載の装置であって、
前記第一部材は、底面に金属バンプが形成された半導体チップであり、
前記接合評価部は、前記金属バンプが溶融したタイミングにおける前記接合部材の粘度に基づいて、前記評価条件の修正の要否を判断する、
ことを特徴とする装置。
【請求項7】
請求項6に記載の装置であって、
前記接合評価部は、前記接合部材の厚みの変化に基づいて前記金属バンプの溶融タイミングを特定するとともに、前記溶融タイミング直後の前記厚みの変化に基づいて前記溶融したタイミングにおける前記接合部材の粘度を算出する、ことを特徴とする装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、第一部材と第二部材を接合部材を介在させた状態で加熱加圧することで接合する際の接合条件の導出を支援する装置を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来から、二つの部材(第一部材および第二部材)の間に熱硬化性の接合部材を介在させた状態で当該二つの部材を加熱および加圧して接合する接合方法が知られている。例えば、半導体チップ(第一部材)を基板(第二部材)に実装して半導体装置を製造する実装装置では、半導体チップと基板との間に熱硬化性樹脂からなるNCF等の接合部材を挟み込み、その状態で半導体チップを基板に向かって加圧するとともに加熱する。この場合、接合部材は、半導体チップに設けられた金属バンプが熱溶融する前に、軟化して半導体チップと基板との隙間を埋めた後、熱硬化する必要がある。したがって、半導体チップを適切に実装するためには、金属バンプが溶融開始温度に達する前に接合部材が硬化温度に達するような加熱条件で加熱する必要がある。
【0003】
こうした加熱条件を含む接合条件は、同じ接合部材を用いる場合であっても、第一部材および第二部材の組み合わせが変更されれば、変更する必要がある。すなわち、接合部材が同じであったとしても、当該接合部材が適用される第一部材、第二部材の構造(材質や形状)が変化すれば、接合部材への伝熱特性等も大きく変化し、接合部材の物性(特に硬化温度等)が変化する。
【0004】
そこで、第一部材、第二部材、および接合部材の組み合わせが変われば、その都度、適した接合条件を求めることが行われている。こうした加熱条件の決定は、一般的には、接合条件を変更しながら実際に接合を繰り返すトライ&エラーで求められることが多い。しかし、やみくもにトライ&エラーを繰り返すだけでは、試行回数が膨大となる。そこで、一般的に提供されている物性情報を参考に接合条件をある程度絞り込むことも考えられる。例えば、接合部材の粘度-温度特性は、その接合部材に用いられる材料を製造している材料メーカーから提供されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、こうした材料メーカーから提供される粘度-温度特性は、通常、例えば10℃/min(0.167℃/sec)の昇温レートで昇温して計測された準静的状態での粘度特性であることが多い。一方、実際に接合する際には、接合時間の短縮などを目的として、接合部材を含む各部材を上記の昇温レートよりも急速に加熱することが多い。すなわち、半導体チップを基板に接合する際には、3℃/sec以上の昇温レートで加熱する。この場合、接合部材は、温度が同じであっても定常状態とは異なる特性を発揮する過渡状態となる。過渡状態における接合部材の粘度特性は、材料メーカーから提供される定常状態での特性とは大きく異なるため、こうした定常状態での特性情報を参照しても、接合条件を効率的に絞り込むことは難しかった。
【0006】
そこで、本明細書では、接合条件をより効率的に導出できるように支援できる装置を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書で開示する装置は、第一部材と第二部材とを接合部材を介在させた状態で加熱加圧することで接合する際の接合条件の導出を支援する装置であって、前記第一部材と前記第二部材とを前記接合部材を介在させた状態で加熱加圧することで接合する接合部と、複数種類の接合部材それぞれについて、加熱した過渡状態での前記接合部材の粘度と加熱条件との相関を示す粘度特性情報を含む物性情報が複数集合したライブラリと、前記ライブラリを参照して接合に使用される前記接合部材に対応する前記物性情報を取得し、前記第一部材と前記第二部材とを接合して行なう接合評価の評価条件の初期値を決定する初期評価条件決定部と、設定された評価条件に従って前記接合部を駆動して前記第一、第二部材を接合するとともに、当該接合時における前記接合部材の粘度を測定する接合評価を1回以上実行する接合評価部と、を備える、ことを特徴とする。
【0008】
この場合、前記粘度特性情報は、前記接合部材を3℃/sec以上の昇温レートで加熱した際の粘度と加熱条件との相関を示す情報であってもよい。
【0009】
また、前記粘度特性情報は、少なくとも、昇温レートの違いによる温度に対する粘度の変化特性を含んでもよい。この場合、前記粘度特性情報は、さらに、昇温開始温度の違いによる温度に対する粘度の変化特性を含んでもよい。
【0010】
また、前記接合評価部は、前記接合評価において測定された粘度に基づいて、前記評価条件の修正の要否を判断し、修正が不要と判断されるまで、前記評価条件の修正と前記接合評価の再実行と、を繰り返し、修正が不要と判断された時点の修正された前記評価条件を接合条件として特定してもよい。
【0011】
この場合、前記第一部材は、底面に金属バンプが形成された半導体チップであり、前記接合評価部は、前記金属バンプが溶融したタイミングにおける前記接合部材の粘度に基づいて、前記評価条件の修正の要否を判断してもよい。
【0012】
また、前記接合評価部は、前記接合部材の厚みの変化に基づいて前記金属バンプの溶融タイミングを特定するとともに、前記溶融タイミング直後の前記厚みの変化に基づいて前記溶融したタイミングにおける前記接合部材の粘度を算出してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本明細書で開示する装置によれば、過渡状態、換言すれば、実際の接合時に近い状態での接合部材の粘度と加熱条件との相関を示す粘度特性情報を含む物性情報に基づいて、評価条件の初期値を決定するため、接合条件を効率的に絞り込める。さらに、絞り込まれた接合条件(評価条件)に基づいて、実際の接合と測定(接合評価)を行なうため、接合条件をより効率的に導出できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】接合条件導出支援装置の構成を示す図である。
図2】接合時における半導体チップの温度およびNCFの粘度の時間変化を示すグラフである。
図3】接合条件の決定の流れを示すフローチャートである。
図4】昇温レートの違いによるNCFの温度-粘度特性の違いを示す図である。
図5】昇温開始温度の違いによるNCFの温度-粘度特性の違いを示す図である。
図6】硬化特性情報の一例を示す図である。
図7】接合動作時におけるNCFの厚みの時間変化の一例を示す図である。
図8】接合条件特定処理の具体的な流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して接合条件導出支援装置10について説明する。図1は、接合条件導出支援装置10の構成を示す概略図である。接合条件導出支援装置10は、第一部材と第二部材との間に接合部材を介在させた状態で加熱加圧することで接合する際の接合条件、特に加熱条件の導出を支援する装置である。第一部材、第二部材、接合部材は、それぞれ特に限定されないが、以下では、半導体チップ110を非導電性フィルム(以下、NCFという)112を介して基板100に接合する場合を例に挙げて説明する。この接合条件導出支援装置10の具体的な構成を説明する前に、半導体チップ110と基板100との接合について簡単に説明する。
【0016】
半導体チップ110の底面には、複数の金属バンプ114が突出形成されている。また、金属バンプ114の上には、熱硬化性樹脂等からなるNCF112が貼り付けられている。かかる半導体チップ110を基板100に接合する際には、金属バンプ114を基板100側に向けた状態で、半導体チップ110を基板100に向かって加圧するとともに加熱する。この加熱により金属バンプ114が溶融して、基板100の電極との間で合金を形成することにより半導体チップ110が基板100に電気的に接続される。また、この金属バンプ114の溶融に先だって、NCF112は、一時的に軟化した後に硬化する。すなわち、NCF112は、温度上昇の初期段階では、軟化することで半導体チップ110と基板100との間に入り込み、両者の隙間を埋める。その後、温度がさらに上昇することで、NCF112は、熱硬化し、半導体チップ110を基板100に機械的に固定する。
【0017】
図2は、理想的な接合条件で半導体チップ110を基板100に接合させた際の半導体チップ110(ひいては金属バンプ114)の温度TcおよびNCF112の粘度Vの時間変化を示すグラフである。図2において、実線は、NCF112の粘度Vを、一点鎖線は、半導体チップ110の温度Tcをそれぞれ示している。また。図2において横軸は、時間を、縦軸は、粘度をおよび温度を示している。この図2に示す通り、半導体チップ110を基板100に接合するために加圧加熱した場合、金属バンプ114の温度は、徐々に上昇する。そして、時刻t2において、金属バンプ114が溶融開始温度TWに到達すると、金属バンプ114が溶融し、基板100の電極との間で合金を形成する。また、金属バンプ114と同様にNCF112も徐々に温度上昇する。この温度上昇の初期段階では、NCF112の粘度Vは、徐々に低下する。この粘度Vが低下した期間において、NCF112は、半導体チップ110と基板100との間に入り込む。その後、さらに温度上昇が進むことで、NCF112の粘度Vは、上昇傾向に反転する。そして、時刻t1において、NCF112の粘度Vが硬化粘度VSに到達して硬化することで、半導体チップ110が基板100に機械的に固定される。
【0018】
ここで、半導体チップ110を基板100に適切に接合するためには、金属バンプ114が溶融し始める時刻t2の前に、NCF112が硬化粘度VSに到達しなければならない(つまりt1<t2)。また、接合時間を短縮し、半導体装置を製造するタスクタイムを低減するためには、金属バンプ114が溶融するまでの時間t2およびNCF112が硬化するまでの時間t1は、いずれも短いことが望ましい。さらに、効率的に接合するためには、NCF112が硬化してから金属バンプ114が溶融するまでの時間t2-t1は、できるだけ短いことが望ましい。本例の接合条件導出支援装置10はこうした要望を満たす接合条件(特に加熱条件)の導出を支援する。
【0019】
次に、図1を参照して接合条件導出支援装置10の構成について説明する。本例の接合条件導出支援装置10は、半導体チップ110を基板100の上に接合して実装する実装装置12に組み込まれている。したがって、接合条件導出支援装置10の一部の構成は、実装装置12に設けられた構成を利用している。
【0020】
接合条件導出支援装置10(実装装置12)は、実際に接合動作を行う接合部13と、当該接合部13の駆動を制御する制御部34と、に大別される。接合部13には、基板100が載置されるステージ14と、ステージ14に対して相対移動可能なボンディングヘッド18と、が設けられている。ステージ14は、載置された基板100を真空吸着する。このステージ14には、基板100を加熱するステージ側ヒータ30が内蔵されている。このステージ側ヒータ30の昇温は、制御部34により制御される。
【0021】
ボンディングヘッド18は、半導体チップ110を保持したうえで、当該半導体チップ110を基板100の上に載置して加熱加圧するもので、その先端には、半導体チップ110を吸引保持するボンディングツール16が設けられている。ボンディングツール16の上側には、ツール側ヒータ28が内蔵されたヒートブロック24が設けられている。ツール側ヒータ28は、ボンディングツール16を介して半導体チップ110を加熱するためのヒータである。半導体チップ110は、後述するように、急速(例えば300℃/sec)に加熱することが望まれるため、ツール側ヒータ28は、急速に昇温できるヒータ、例えば、パルスヒータ等であることが望ましい。このツール側ヒータ28の昇温も、制御部34により制御される。
【0022】
ボンディングツール16で半導体チップ110を吸引保持した状態のまま、ボンディングツール16を基板100に向かって下降させて押し付けるとともに、ツール側ヒータ28で半導体チップ110を加熱することで、半導体チップ110が基板100に接合される。ボンディングヘッド18には、この時の押圧荷重Fと、ボンディングヘッド18の高さを検知するセンサ(図示せず)が設けられており、これらセンサで検知された結果は、制御部34に送られる。制御部34は、これらの検知結果に基づいてボンディングツール16の駆動を制御するとともに、NCF112の厚みHおよび粘度Vを算出する。
【0023】
接合部13には、さらに、NCF112の温度を検出する温度センサ32も設けられている。この温度センサ32は、例えば、非接触式の温度センサである。温度センサ32で検出された温度は、制御部34に送られる。
【0024】
制御部34は、接合部13の駆動を制御するとともに、接合条件の評価および決定を行う。この制御部34は、例えば、各種演算を実行するCPUと、各種データおよびプログラムを記憶するメモリと、を有したコンピューターである。また、制御部34は、機能的には、ライブラリ36と、初期評価条件決定部38と、接合評価部40と、に大別できる。この各部について説明する前に、接合条件導出支援装置10で行う接合条件の評価および決定について簡単に説明する。
【0025】
半導体チップ110を基板100に接合する際には、所定の接合条件で接合部13を動作させる必要がある。ここで、接合条件には、例えば、半導体チップ110を加熱加圧する際の押圧荷重F、昇温レートR、昇温開始温度Ts等が含まれる。こうした接合条件は、接合に用いる半導体チップ110、基板100、NCF112の組み合わせに応じて適宜、変更されなければならない。例えば、基板100およびNCF112が過去に使用したものと同じであっても、半導体チップ110の構造(例えばサイズや金属バンプ114の個数等)が過去に使用したものと異なれば、加熱に伴うNCF112の挙動が変化する。したがって、半導体チップ110の構造が異なるにも関わらず、過去に使用した接合条件と同じ接合条件で接合を行うと、適切な接合ができないおそれがある。
【0026】
そのため、接合する部材の組み合わせが変更されれば、オペレータは、その都度、新たな接合条件を求めていた。従来は、こうした接合条件の設定は、接合条件を変更しながら接合動作を繰り返すトライ&エラーにより行うことが多かった。しかし、やみくもにトライ&エラーを繰り返すのでは、試行回数が膨大となり、接合条件決定の負担が大きかった。本例の接合条件導出支援装置10は、こうした接合条件、特に、昇温レートRおよび昇温開始温度Tsを含む加熱条件をより簡易に導出できるように支援する装置である。
【0027】
再び、図1を参照して制御部34の構成について説明する。制御部34には、予め、複数種類のNCF112それぞれの物性情報を記憶したライブラリ36が設けられている。すなわち、接合部材であるNCF112は、その材料や厚みが異なる様々な種類が存在している。ライブラリ36には、この複数種類のNCF112それぞれの物性情報が記憶されている。物性情報としては、接合部材を急速加熱させた際の過渡状態での温度と粘度Vとの相関を示す粘度情報が含まれるが、この具体的な内容については、後に詳説する。
【0028】
初期評価条件決定部38は、ライブラリ36を参照して、実際の接合に用いるNCF112に対応する物性情報を取得し、この物性情報に基づいて、後述する接合評価で用いる接合条件(評価条件)の初期値を決定する。ライブラリ36を参照して評価条件の初期値を決定することで、後述する接合評価の実行回数を大幅に低減できる。
【0029】
接合評価部40は、評価条件に従って接合評価と、その評価結果に基づいた評価条件の修正と、を繰り返し行うことで、接合条件を決定する。ここで、接合評価では、接合したい半導体チップ110、基板100、NCF112の組み合わせでの接合を実際に行うとともに、当該接合時におけるNCF112の粘度を測定することである。接合評価部40は、測定された粘度(評価結果)に基づいて、評価条件の修正の要否を判断し、修正が不要と判断すれば、その時の評価条件を接合条件として決定する。一方、評価条件の修正が必要と判断すれば、評価条件を修正したうえで、再度、接合の実行および粘度の測定を実行する。
【0030】
なお、NCF112の粘度Vは、接合時における当該NCF112の厚みH変化から求めることができる。すなわち、半導体チップ110を介してNCF112に押圧荷重Fがかかると、NCF112の厚みHは、徐々に低下していく。この厚みHの低下レートは、NCF112の粘度Vによって変化する。そこで、本例では、NCF112の厚みHの時間変化からNCF112の粘度Vを求めている。具体的には、押圧荷重をF(N)、時間をt(sec)、NCF112な厚みをH(m)、NCF112の体積をQ(m3)とすると、NCF112の粘度V(Pa・S)は、以下の式1によって算出できる。
V=2*π*F*H/3*Q*(-dH/dt)(2*π*H+Q) ---- (式1)
【0031】
図3は、こうした接合条件の決定の流れを示すフローチャートである。図3に示す通り、また、上述した通り、接合条件を決定する場合、初期評価条件決定部38は、ライブラリ36を参照して初期評価条件を決定する(S10)。続いて、接合評価部40は、設定された評価条件に従って接合評価、すなわち、接合の実行と当該接合時のNCF112の粘度Vの測定を行う(S12)。続いて、接合評価部40は、測定された粘度Vに基づいて評価条件の修正の要否を判断する(S14)。評価条件が修正不要と判断されれば、接合評価部40は、その時点での評価条件を接合条件として決定する(S18)。一方、評価条件の修正が必要と判断されれば、接合評価部40は、評価条件を修正(S16)したうえで、再度、接合評価を実行(S12)する。そして、この処理を評価条件の修正が不要と判断されるまで繰り返す。
【0032】
次に、ライブラリ36に記憶されている物性情報について詳説する。ライブラリ36には、上述した通り、複数種類のNCF112それぞれの物性情報が記憶されている。また、物性情報には、少なくとも、NCF112の加熱条件と硬化温度Thとの関係を示す粘度特性情報が含まれる。この粘度特性情報について、図4図6を参照して説明する。
【0033】
図4は、NCF112を加熱する際の温度上昇率、すなわち昇温レートRの違いによる温度-粘度特性の違いを示す図である。図4において、横軸は、NCF112の温度を、縦軸は、NCF112の粘度Vを示しており、このうちVSはNCF112が、充分に硬化した時の粘度、すなわち、硬化粘度VSを示している。また、図4において、四つの曲線は、四つの昇温レートR=A,B,C,D(A<B<C<D)でNCF112を加熱した際の温度-粘度特性曲線である。この昇温レートRは、実際の接合動作での採用が想定される昇温レートであり、3℃/sec以上であり、好適には、20℃/sec以上の昇温レートである。図4から明らかな通り、NCF112の温度-粘度特性曲線は、昇温レートRによって大きく異なっており、昇温レートRが高いほど、硬化粘度VSに到達する温度(硬化温度Th)が高くなる。このように昇温レートRによって、温度-粘度特性が大きく変化するのは、この場合の加熱が急速加熱であり、NCF112は、微小時間前の加熱による残留応答が残ったまま、現時点の加熱による応答が随時進む過渡反応となるためである。
【0034】
また、NCF112の温度-粘度特性は、昇温レートRだけでなく、NCF112の加熱を開始する際の温度、すなわち、昇温開始温度Tsによっても変化する。図5は、昇温開始温度Tsの違いによる温度-粘度特性の違いを示す図である。図5において、三つの曲線は、三つの異なる昇温開始温度Ts=T01,T02,T03(T01<T02<T03)からNCF112を同じ昇温レートRで加熱した際の温度-粘度特性曲線である。図5から明らかな通り、NCF112の温度-粘度特性曲線は、昇温開始温度Tsによって大きく異なっており、昇温開始温度Tsが低いほど、硬化粘度VSに達する温度(硬化温度Th)が高くなる。
【0035】
粘度特性情報は、こうした加熱条件の違いによる硬化温度Thの変化を示す情報である。図6は、硬化特性情報の一例を示す図である。図6において、横軸は、昇温レートRを、縦軸は、硬化温度を示している。また、図6における三つの曲線は、三つの異なる昇温開始温度Ts=T01,T02,T03それぞれについての昇温レート-硬化温度特性曲線である。こうした粘度特性情報は、シミュレーション等で取得してもよいし、予め、実験を行って取得してもよい。また、粘度特性情報のライブラリ36における記憶形式は、図6に示すようなマップ形式でもよいし、図6に示す昇温レート-硬化温度特性曲線を数式化した関数形式でもよいし、テーブル形式でもよい。また、図6では、粘度特性情報として、昇温開始温度Tsの違いも考慮しているが、粘度特性情報は、少なくとも、昇温レートRと硬化温度Thとの相関を表すことができるのであれば、昇温開始温度Tsに関する情報は含まなくてもよい。
【0036】
初期評価条件決定部38は、このライブラリ36に記憶された情報を参照して、接合評価で用いる接合条件(評価条件)の初期値を決定する。すなわち、接合評価では、評価条件を変更しながら実際に接合条件を繰り返すことで、望ましい接合条件を決定する。しかし、評価条件をやみくもに変更するだけでは、試行回数が膨大となり、費用や時間の無駄を招く。そこで、本例では、ライブラリ36に記憶された情報に基づいて、評価条件の初期値を決定することで、試行回数を大幅に低減する。
【0037】
具体的には、初期評価条件決定部38は、実際に接合したい半導体チップ110に設けられた金属バンプ114の材質などから、当該金属バンプ114の溶融開始温度TWを特定する。続いて、初期評価条件決定部38は、実際の接合に用いるNCF112に対応する物性情報をライブラリ36から読み出し、硬化温度が溶融開始温度TWよりも低くなるような昇温レートRと昇温開始温度Tsの組み合わせを特定する。
【0038】
例えば、対象となるNCF112が、図6に示すような硬化温度特性を有しており、対象となる半導体チップ110の金属バンプ114の溶融開始温度が、図6におけるTWであったとする。接合動作では、NCF112の硬化温度Thは、金属バンプ114の溶融開始温度TWよりも僅かに小さいことが望ましい。したがって、この場合、接合動作で採用すべき加熱条件は、硬化温度Thが、溶融開始温度TWより僅かに低いターゲット温度TT以下となる条件である。
【0039】
また、接合動作のタクトタイムを低減するためには、溶融開始温度TWに達するまでの時間を極力小さくすることが望ましい。この時間は、昇温レートRが高いほど、かつ、昇温開始温度Tsが高いほど小さくなる。ただし、多くの場合、昇温開始温度Tsよりも昇温レートRの方が、加熱時間に与える影響が大きいため、通常は、採用可能な昇温レートRと昇温開始温度Tsとの組み合わせのうち、昇温レートRの大きい方の組み合わせを選択する。図6の例では、昇温レートR=Ra、昇温開始温度Ts=T03の加熱条件が評価条件の初期値として選択される。
【0040】
次に、評価条件に基づいて行う接合評価について詳説する。上述した通り、接合評価では、設定された評価条件にしたがって、実際に半導体チップ110を基板100に接合するとともに当該接合時におけるNCF112の粘度Vを測定する。そして、測定された粘度Vの値に基づいて、現在の評価条件の良否を判断し、評価条件が修正必要と判断した場合には、評価条件を修正して再度、接合および粘度V測定を実行する。
【0041】
より具体的に説明すると、接合評価部40は、設定された評価条件に従って、接合部13を駆動し、半導体チップ110を基板100に接合する。繰り返し述べる通り、適切に接合するためには、金属バンプ114が溶融する前にNCF112が硬化しなければならない。そこで、接合評価部40は、金属バンプ114の溶融時におけるNCF112の粘度Vを測定し、当該測定された粘度Vが硬化粘度VS以上であるか否かを判断する。ここで、金属バンプ114の溶融タイミングは、温度センサ32で測定されたNCF112の温度から推測してもよい。また、別の形態として金属バンプ114の溶融タイミングは、NCF112の厚みHから推測してもよい。これについて、図7を参照して説明する。
【0042】
図7は、接合動作時におけるNCF112の厚みHの時間変化の一例を示す図である。図7に示す通り、NCF112は、接合の初期段階(時刻0~t1)では、徐々に軟化するため、その厚みHが急激に低下する。しかし、NCF112の厚みHが、金属バンプ114の高さと同じになると、金属バンプ114が基板100の表面に当接することで、半導体チップ110のさらなる下降、ひいては、NCF112の厚みHの低下が阻害される。その結果、厚みHが金属バンプ114の高さとほぼ同じになる時刻t1から金属バンプ114が溶融開始する時刻t2の期間、NCF112の厚みHは、ほとんど変化しない。しかし、時刻t2において、金属バンプ114の溶融が開始すると、当該金属バンプ114が厚みH方向に潰れるため、NCF112の厚みHが一時的に急激に低下する。つまり、NCF112の厚みHが金属バンプ114の高さを下回ったタイミングを金属バンプ114の溶融タイミングと特定できる。
【0043】
接合評価部40は、金属バンプ114の溶融タイミングが特定できれば、当該溶融タイミングにおけるNCF112の粘度Vを測定する。上述した通り、本例では、NCF112の粘度Vを、式1を用いて、厚みHの時間変化から算出している。なお、これまでの説明から明らかな通り、時刻t1からt2の期間は、金属バンプ114が基板100に当接するため、NCF112の厚みHの変化はほとんど生じない。したがって、この期間における厚みHの時間変化では、NCF112の粘度Vを正確に測定することはできない。そこで、溶融タイミングにおけるNCF112の粘度Vは、金属バンプ114が溶融した直後における厚みH変化(図7におけるA部)から算出することが望ましい。
【0044】
溶融タイミングにおける粘度Vが得られれば、接合評価部40は、この粘度Vを評価する。すなわち、NCF112は、金属バンプ114の溶融時点において、充分に硬化している必要があるため、粘度Vは、硬化粘度VS以上であることが望ましい。また、溶融時点において、NCF112の粘度Vが過度に高い場合、より高い昇温レートRが設定できる可能性がある。
【0045】
そこで、接合評価部40は、溶融タイミングにおける粘度Vが測定できれば、当該粘度Vと、予め設定された基準値である最小粘度Vminおよび最大粘度Vmaxと、を比較する。最小粘度Vminは、金属バンプ114溶融時点においてNCF112が最低限有するべき粘度Vであり、例えば硬化粘度VSより僅かに高い粘度である。また、最大粘度Vmaxは、溶融時点において許容できるNCF112の粘度Vの最大値である。比較の結果、測定粘度Vが最小粘度Vmin未満の場合には、硬化温度Thが低下するように加熱条件を修正する。ここで、硬化温度Thを低下させるためには、昇温レートRを低下させてもよいし、昇温開始温度Tsを増加させてもよい。ただし、タクトタイムの増加を防止するためには、昇温レートRを低下させるのではなく、昇温開始温度Tsを増加させることが望ましい。また、比較の結果、測定粘度Vが最大粘度Vmax超過の場合には、昇温レートRをさらに増加できる可能性がある。したがって、この場合には、接合評価の際に採用する昇温レートRを増加させる。
【0046】
接合評価部40は、このように、接合の実行と、評価条件の修正とを繰り返すことで望ましい接合条件を特定する。図8は、この接合条件特定処理(図3におけるステップS12~S18)の詳細な流れを示すフローチャートである。図8に示す通り、接合評価部40は、まず、評価条件に従って接合部13を駆動し、実際に半導体チップ110を基板100に接合する(S20)。この時の評価条件は、1回目では、初期評価条件決定部38で決定された条件であり、2回目以降は、後述するステップS26,S30で修正された条件である。
【0047】
さらに、接合評価部40は、金属バンプ114が溶融した時点でのNCF112の粘度Vを取得する(S22)。粘度Vが取得できれば、続いて、この粘度Vと、最小粘度Vminとを比較する(S24)。粘度Vが最小粘度Vminを下回っている場合、硬化温度Thが溶融開始温度TWを下回っていると判断できるため、この場合、接合評価部40は、評価条件のうち、昇温開始温度Tsに所定の補正値αを加算する(S26)。この補正値αは、NCF112の種類に応じて予め設定された値である。評価条件が修正されれば、ステップS20に戻り、再度、接合を行う。
【0048】
一方、V≧Vminの場合、接合評価部40は、粘度Vと最大粘度Vmaxとを比較する(S28)。比較の結果、粘度Vが最大粘度Vmaxを上回っている場合、接合評価部40は、評価条件のうち、昇温レートRに所定の補正値βを加算する(S30)。この補正値βも、NCF112の種類に応じて予め設定された値である。評価条件が修正されれば、ステップS20に戻り、再度、接合を行う。
【0049】
さらに、粘度Vが、最小粘度Vmin以上かつ最大粘度Vmax以下の場合には、現在の評価条件が望ましい接合条件であると判断できる。したがって、この場合には、現在の評価条件を、接合条件として決定する(S32)。このように、評価条件を修正しながら接合評価を繰り返すことで、最適な接合条件を導出することができる。
【0050】
ここで、これまでの説明から明らかな通り、本例では、評価条件の初期値を、ライブラリ36に記録されている物性情報に基づいて決定している。このように、NCF112の物性情報を考慮して評価条件の初期値を決定することで、接合評価の繰り返し回数を大幅に低減することができ、望ましい接合条件を導出するための時間的、金銭的コストを低減できる。
【0051】
ここで、NCF112の物性情報を予め記憶しておくことは、従来でも一部で提案されている。しかしながら、従来、記憶されている物性情報の多くは、NCF112の温度変化が乏しい安定状態での物性情報であった。例えば、NCF112の温度-粘度特性は、当該NCF112を製造販売している材料メーカー等から提供されている。しかしながら、材料メーカーが提供する温度-粘度特性は、過渡反応の影響を極力排除するために、非常に低い昇温レートR(例えば10℃/min≒0.167℃/sec)で加熱した際の温度-粘度特性であった。一方、実際に接合を行う時には、上述した通り、NCF112および半導体チップ110を比較的高い昇温レートR(例えば20℃/sec以上)で急速加熱する。この場合、NCF112の粘度は、様々なタイミングにおける残留応答の影響を受けて複雑に変化するため、急速加熱時における温度-粘度特性は、安定状態での温度-粘度特性とは、全く異なるものとなる。そのため、材料メーカー等から提供される安定状態での粘度特性に基づいて初期評価条件を決定したとしても、その後の接合評価の繰り返し回数を大幅に低減することは難しかった。
【0052】
一方、本例では、NCF112の物性情報として、NCF112を急速加熱した際の過渡状態での粘度特性、換言すれば、実際の接合時に近い状態でのNCF112の粘度特性を記憶している。かかる過渡状態での粘度特性を参照して初期評価条件を決定することで、安定状態での粘度特性を参照する場合に比べて、接合評価の繰り返し回数を大幅に低減できる。
【0053】
なお、これまで説明した構成は、一例であり、過渡状態での接合部材の物性情報に基づいて、初期評価条件を特定したうえで、評価条件に従った接合評価を1回以上行なうのであれば、その他の構成は、適宜、変更されてもよい。例えば、本例では、接合条件導出支援装置10を、実装装置12に組み込んでいるが、接合条件導出支援装置10は、独立した専用装置でもよい。また、本例では、接合評価を繰り返して、望ましい接合条件を決定しているが、接合条件導出支援装置10は、初期評価条件に従った接合評価を1回だけ行なうのでもよい。この場合、1回の接合評価で測定された粘度Vに基づいて、オペレータが接合条件を決定するようにしてもよい。また、本例では、第一部材として半導体チップ、第二部材として基板、接合部材としてNCFを例に挙げたが、これらの組み合わせは、適宜、変更されてもよい。例えば、半導体チップの上に半導体チップを実装するチップオンチップに、本例の技術を適用する場合、半導体チップが、第一および第二部材として機能する。また、上述の例では、接合部材として、NCFを例に挙げたが、接合部材は、温度により物性が変化するのであれば、NCFに限らず、ダイアタッチフィルム(DAF)、異方性導電フィルム(ACF)、銀ペーストなどでもよい。
【符号の説明】
【0054】
10 接合条件導出支援装置、12 実装装置、13 接合部、14 ステージ、16 ボンディングツール、18 ボンディングヘッド、24 ヒートブロック、28 ツール側ヒータ、30 ステージ側ヒータ、32 温度センサ、34 制御部、36 ライブラリ、38 初期評価条件決定部、40 接合評価部、100 基板、110 半導体チップ、112 NCF、114 金属バンプ、F 押圧荷重、H 厚み、R 昇温レート。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8