(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】マイクロレンズアレイの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 3/00 20060101AFI20230530BHJP
C03C 15/00 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
G02B3/00 A
C03C15/00 Z
(21)【出願番号】P 2019059533
(22)【出願日】2019-03-27
【審査請求日】2022-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】509154420
【氏名又は名称】株式会社NSC
(72)【発明者】
【氏名】福成 良介
(72)【発明者】
【氏名】元持 健
【審査官】森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-283993(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00 - 15/02
G02B 3/00 - 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ形状設計データに基づいてガラス基板にレーザビームを照射し、前記ガラス基板の主面に板厚方向に延びる
5~50μmの径を有するマイクロクラックを複数形成するレーザステップと、
前記レーザビームが照射されたガラス基板に対してエッチング液を接触させることで前記
マイクロクラック形成位置に凹状レンズ部を形成するエッチングステップと、
を含むマイクロレンズアレイの製造方法であって、
前記エッチングステップにおいて使用するエッチング液
がフッ酸とエッチング抑制物質とを含む異方性エッチング用のエッチング液であり、そのエッチング速度が3.00μm/分以下であ
り、
前記凹状レンズ部の幅が深さよりも大きいことを特徴とするマイクロレンズアレイ製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロレンズアレイの製造方法に関し、特に凹部の形状の制御を容易なマイクロレンズアレイの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロレンズアレイは、透明基板上に凹部または凸部が稠密に形成された基板である。マクロレンズアレイは、凹凸部に集光された光を拡散または集光させることが可能であり、通信、医療等の分野における光学部品に利用されている。マイクロレンズアレイに使用される透明基板は、樹脂基板またはガラス基板が一般的である。樹脂基板であれば、金型を使用してレンズ部となる凹凸部が形成される。
【0003】
しかしながら、樹脂基板は凹凸の加工精度や光透過性において問題になることがあった。樹脂基板は耐熱温度が100℃前後程度であり、高温処理が必要な場面では熱膨張を起こしてしまい、加工精度が低下してしまっていた。そこで、ガラス基板を利用したマイクロレンズアレイが採用されることが多くなった。
【0004】
ガラス基板は、樹脂基板と比較しても熱変形等も少なく、高い加工精度が要求される場面において採用された。しかし、ガラス基板に対する凹凸の加工は、樹脂基板ほど容易ではない。ガラス基板の加工の一例として従来技術の中には、ガラス基板を尖状物により加圧し、凹部を形成した後にエッチングで凹部を拡大することよりガラス基板上にマイクロレンズを形成する方法があった(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、レーザ装置とエッチング処理を組み合わせることにより凹部を形成する方法も存在していた。この方法では、レーザを照射し、ガラス基板に局所的に応力を与えた後にエッチング処理が行われる(例えば、特許文献2参照)。レーザが照射された改質領域は、エッチング反応が進行しやすく、ガラス基板の主面にレンズ状の凹部が形成できるとされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4510405号公報
【文献】特開2008-026437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、エッチング処理は等方性に進行するため、凹部の形状の制御がほとんど困難であった。ガラス基板への加圧やレーザの照射条件を変更することで、凹部の形状を調整することも可能であるが、凹部の形状はエッチング処理により決定される要素が多く、加圧圧力やレーザの調整による効果も限定的である。このため、所望の形状の凹部の加工が困難であった。
【0008】
また、エッチング処理での調整においても、わずかなエッチング時間の差異が凹部の形状に影響を及ぼす。特に、レーザで改質された領域は通常よりもエッチングされ易い状態であるため、レンズ部を設計通りに形成することが困難であるといった問題が発生することがあった。
【0009】
本発明の目的は、レーザとエッチング処理を組み合わせることにより所望の形状の凹部を有するマイクロレンズアレイ製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るマイクロレンズアレイ製造方法は、レーザステップおよびエッチングステップを含む。エッチングステップは、レンズ形状設計データに基づいてガラス基板にレーザビームを照射し、ガラス基板の主面に板厚方向に延びるクラックを複数形成する工程である。エッチングステップは、レーザビームが照射されたガラス基板に対してエッチング液を接触させることでクラック形成位置に凹状レンズ部を形成する工程である。さらに、エッチングステップにおいて使用するエッチング液は、ガラス基板のエッチング速度が3.00μm/分以下である。
【0011】
ガラス基板にクラックを形成した領域において、エッチング速度が3.00μm/分以下の低レートのエッチング液を接触させることにより、異方性エッチングが進行し、レンズ部を作成することが可能になる。また、エッチング速度が遅いため、エッチング量の管理も従来よりも容易になり、より精密なレンズ形状を形成することが可能になる。
【0012】
また、凹状レンズ部の幅が深さよりも大きいことが好ましい。低レートのエッチング液でエッチング処理を行うことにより、ガラス基板の板厚方向よりも幅方向に対してエッチング処理が進行し易くなり、凹状レンズの幅が深さよりも大きくなる。このような形状の凹状レンズ部は、所望のレンズ効果を発揮することが可能になる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、レーザとエッチング処理を組み合わせることにより所望の形状の凹部を有するマイクロレンズアレイを製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】ガラス基板にレーザビームを照射し、マイクロクラックを形成する工程を示す図である。
【
図2】凹状レンズ部を形成するエッチングの状態を示す図である。
【
図4】エッチング装置の他のバリエーションを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ここから、本発明に係るマイクロレンズアレイの製造方法の一実施形態を説明する。本発明に係るマイクロレンズアレイの製造方法は、レーザステップおよびエッチングステップを含んでおり、ガラス基板の主面上に凹状のレンズ部を稠密に形成するものである。
【0016】
レーザステップは、ガラス基板10に対してレーザビームを照射するステップである。ガラス基板10は、マイクロレンズアレイとなる基板であり、使用するガラス基板に特に制限はないが光学ガラス等の透明度の高いガラスを使用することが好ましい。レーザビームの照射に使用されるレーザ装置30としては、CO2レーザを使用することが可能である。レーザ装置30は、レンズ形状設計データに基づいて、ビーム径、出力、周波数等の加工条件を適宜調整される。また、レーザビームは、ピコ秒またはフェムト秒の短パルス幅にて照射されることが好ましい。
【0017】
レーザステップにてガラス基板10にレーザビームが照射されると、
図1(A)および
図1(B)に示すように、ガラス基板10の一方の主面にマイクロクラック12が形成される。マイクロクラック12は、レーザ装置30から照射されるレーザビームによりガラス基板10がアブレーションされることで、主面から中心部に向かって略垂直に形成される微小な亀裂である。ガラス基板10の主面におけるマイクロクラック12の径は、ビーム径やエネルギ等によって決定されるが、5~50μm程度であり、板厚方向の中心部に向かって先細り形状となっている。
【0018】
マイクロクラック12は、
図1(B)に示すように、マトリクス状にガラス基板10の主面に形成される。マイクロクラック12の形成間隔は、10~30μmの範囲で制御される。マイクロクラック12の間隔が10μmより小さくなると、隣接するマイクロクラックを形成する際にレーザビームの熱影響によりクラックの形状に不具合が生じるおそれがある。
【0019】
エッチングステップは、レーザステップにてマイクロクラック12が形成されたガラス基板10にエッチング液を接触させて、マイクロクラック12を形成した位置に凹状のレンズ部14を形成する工程である。ガラス基板10にエッチング液を接触させることによりマイクロクラック12を中心として凹状レンズ部14が形成される。
【0020】
凹状レンズ部14を形成するエッチング処理は、エッチング液を使用したウエットエッチングによって行われる。さらに、エッチング速度が3.00μm/分以下になるように調整してエッチングが行われる。また、エッチング速度としては、0.01μm/分~3.00μm/分の範囲で調整を行うことがより好ましい。
【0021】
ガラス基板のエッチング液は、少なくともフッ酸を含んでおり、塩酸または硫酸等の無機酸や界面活性剤を含んでいても良い。エッチング液のエッチング速度は、おおむねフッ酸の濃度と正比例の関係にあり、フッ酸の濃度が増加するほどエッチング速度も上昇する。このため、エッチング速度を3.00μm/分以下にするには、フッ酸の濃度を15重量%以下にする必要がある。さらに、エッチング液のフッ酸の濃度は、10重量%以下に調整することがより好ましい。
【0022】
エッチング速度を3.00μm/分以下にすることにより異方性エッチングを行うことが可能になり、凹状レンズ部14がレンズ効果を発揮する形状となる。異方性エッチングとは、深さ方向と幅方向のエッチング量が異なるエッチングであり、本実施形態では、深さ方向のエッチング量に対して幅方向のエッチング量が多くなる。通常のウエットエッチングは、幅方向と深さ方向のエッチング量の等しい等方性エッチングであるが、マイクロクラック12が形成された領域に低レートのエッチング液を接触させることにより、異方性エッチング処理を行うことが可能になる。出願人の実験によると、エッチング速度が3.00μm/分を超えると、等方性エッチングが進行し、凹状レンズ部14の形状制御が困難になる。
【0023】
エッチング液をガラス基板10に接触させると、ガラス基板10の主面側においてエッチング反応が発生する。マイクロクラック12に対して、エッチング液が浸透するので、マイクロクラック12を中心に凹部が形成される。ところが、エッチング液は、マイクロクラック12の内部に浸透しにくいため、板厚方向よりも幅方向にエッチングが進行する(
図2(A)参照)。
【0024】
さらに、エッチング処理が進行すると、
図2(B)のように、マイクロクラック12を中心として凹状レンズ部14が拡大し、マイクロクラック12が消失していく。最終的には、
図2(C)のように、隣接する凹状レンズ部14が連続して形成され、ガラス基板10の主面のレンズ領域において平坦部がなくなるまでエッチングを行う。ガラス基板のエッチング量は、30~150μm程度であれば、ガラス基板10上に稠密に凹状レンズ部14を形成することが可能である。
【0025】
ガラス基板10のエッチングは、
図3(A)および
図3(B)に示すエッチング装置50で行うことが可能である。エッチング装置50は、搬送ローラ52および複数のエッチングチャンバ54を備えた枚葉式のエッチング装置である。搬送ローラ52は、エッチング装置50の長さ方向に沿って一定間隔で配置されており、ガラス基板10を搬送方向に沿って搬送するように構成される。エッチングチャンバ54は、ガラス基板10の搬送方向に沿って複数設けられており、ガラス基板50に対してエッチング液を噴射するように構成される。なお、エッチング装置50は、ガラス基板10の両主面にエッチング液を噴射しているが、少なくともマイクロクラック12が形成された主面にエッチング液が接触するように噴射されれば良い。また、凹状レンズ部14が形成されない主面には、保護マスク等を被覆しても良い。エッチング液は、ガラス基板10の主面に均等に吹き付けられ、マイクロクラック12が形成された領域に凹状レンズ部14が形成される。なお、エッチングチャンバ54の後段には、洗浄チャンバ56が設けられており、エッチングチャンバ54にて噴射されたエッチング液が洗い流される。
【0026】
また、ガラス基板10のエッチング装置としては
図4(A)および
図4(B)に示すエッチング装置を使用することも可能である。
図4(A)に示すエッチング装置501は、エッチングチャンバ内に収容されたエッチング液に搬送ローラで保持されたガラス基板10を接触させることでエッチング処理を行うように構成される。なお、エッチング液は、エッチングチャンバ内でオーバーフローしており、エッチングチャンバとその下部に配置されたタンク間を循環している。
【0027】
また、他のエッチング装置の例としては、
図4(B)に示す浸漬式のエッチング装置502を使用することも可能である。エッチング装置502は、エッチング液を収容するエッチングチャンバ内に複数のガラス基板10を保持したキャリア60を浸漬することで、ガラス基板10をエッチングするように構成される。なお、エッチングチャンバ内のエッチング液は、撹拌装置等を用いて撹拌されることが好ましい。
【0028】
また、エッチング液のエッチング速度を低下させるために、エッチング抑制物をエッチング液に含ませても良い。エッチング抑制物は、ガラス基板のエッチング反応を抑制し、エッチング速度を低下させるための物質である。エッチング抑制物が含まれることにより、同じ濃度のフッ酸を含むエッチング液と比較し、エッチング速度が低下させることが可能になる。
【0029】
エッチング抑制物質の例として、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリや、酸化チタン、塩化アルミニウム、ホウ酸、二酸化珪素等のフッ素錯化剤が挙げられる。エッチング抑制物質は、主としてフッ酸と強酸からなるエッチング液のエッチング速度(エッチングレート)を減じる作用を奏する。
【0030】
フッ酸の物質量に対して0.05~5.00モル当量程度のエッチング抑制物質を含有させることにより、フッ酸濃度やフッ素濃度を高くしてもエッチング速度を0.01~3.00μm/分程度に低く抑えることができる。このような状態を形成することによってウエットエッチングの等方性の影響を最小限に抑制した異方性エッチングが実現していると出願人は推測している。
【0031】
フッ酸とエッチング抑制物質との化合物として、これまで好適に異方性エッチングが実現できたものの例として、フッ化チタン酸(H2TiF6)、フッ化アンモニウム(NH4F)、テトラフルオロホウ酸(HBF4)、ヘキサフルオロリン酸(HPF6)、ヘキサフルオロケイ酸(H2SiF6)、ヘキサフルオロアルミン酸(H3AlF6)、ヘキサフルオロアンチモン酸(HSbF6)、六フッ化砒素酸(HAsF6)、六フッ化ジルコン酸(H2ZrF6)、テトラフルオロベリリウム酸(H2BeF4)、ヘプタフルオロタンタル酸(H2TaF7)などやこれらの塩が挙げられる。
【0032】
これらのエッチング抑制物質を含むエッチング液についても、上記実施形態と同様にエッチング装置50等を用いてマイクロクラック12が形成されたガラス基板10に接触させることで、凹状レンズ部14を形成することが可能になる。
【0033】
上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0034】
10-ガラス基板
12-マイクロクラック
14-凹状レンズ部
50-エッチング装置