(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】三次元造形装置、三次元造形方法、リコータ装置および液面をならす方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/214 20170101AFI20230530BHJP
B29C 64/135 20170101ALI20230530BHJP
【FI】
B29C64/214
B29C64/135
(21)【出願番号】P 2019111454
(22)【出願日】2019-06-14
【審査請求日】2022-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】391064429
【氏名又は名称】シーメット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100208188
【氏名又は名称】榎並 薫
(72)【発明者】
【氏名】大場 好一
【審査官】清水 研吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-009921(JP,A)
【文献】特開2000-225647(JP,A)
【文献】特開2011-218821(JP,A)
【文献】特開2001-293788(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0072468(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギを付与されることで硬化する液体を収容する槽と、
移動方向に配置され、各々が前記液体との間に周囲よりも低い圧力に維持された空間を形成しながら移動する複数のリコータ部と、を備
え、
前記移動方向前方に位置するリコータ部の前記空間内の圧力は、前記移動方向後方に位置するリコータ部の前記空間内の圧力より高い、三次元造形装置。
【請求項2】
前記複数のリコータ部は、隣接している、請求項1に記載の三次元造形装置。
【請求項3】
前記複数のリコータ部は、前記移動方向に互いから離間している、請求項1に記載の三次元造形装置。
【請求項4】
前記複数のリコータ部は、同期して移動する、請求項2又は3に記載の三次元造形装置。
【請求項5】
前記複数のリコータ部は、順に移動を開始する、請求項2又は3に記載の三次元造形装置。
【請求項6】
前記空間の圧力を調節する吸引機構を更に備える、請求項1~
5のいずれか一項に記載の三次元造形装置。
【請求項7】
前記複数のリコータ部を前記移動方向と非平行な方
向に移動させる移動機構を更に備え、
前記複数のリコータ部の各々は、前記空間を周囲に通じさせる閉鎖可能な通気穴を有している、請求項1~
5のいずれか一項に記載の三次元造形装置。
【請求項8】
移動方向に配置され、各々が槽内に収容されたエネルギを付与されることで硬化する液体との間に周囲よりも低い圧力に維持された空間を形成しながら移動する複数のリコータ部と、
前記複数のリコータ部の前記空間の圧力を調節する吸引機構と、を備
え、
前記移動方向前方に位置するリコータ部の前記空間内の圧力は、前記移動方向後方に位置するリコータ部の前記空間内の圧力より高い、リコータ装置。
【請求項9】
移動方向に配置され、各々が槽内に収容されたエネルギを付与されることで硬化する液体との間に周囲よりも低い圧力に維持された空間を形成しながら移動する複数のリコータ部と、
前記複数のリコータ部を当該複数のリコータ部の移動方向と非平行な方向に移動させる移動機構と、を備
え、
前記移動方向前方に位置するリコータ部の前記空間内の圧力は、前記移動方向後方に位置するリコータ部の前記空間内の圧力より高い、リコータ装置。
【請求項10】
移動方向に配置され、各々が槽内に収容されたエネルギを付与されることで硬化する液体との間に周囲よりも低い圧力に維持された空間を形成した複数のリコータ部を、前記液体の液面に沿って、同一の経路を移動させる工程を備える、槽内の液体の液面をならす方法
であって、
前記移動方向前方に位置するリコータ部の前記空間内の圧力は、前記移動方向後方に位置するリコータ部の前記空間内の圧力より高い、方法。
【請求項11】
請求項
10に記載された方法を備える、三次元造形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギを付与されることで硬化する液体を用いて三次元造形物を製造する三次元造形装置及び三次元造形方法、並びに、上記液体の液面をならすリコータ装置および液面をならす方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、例えば特許文献1に開示されているように、光造形装置が注目を浴びている。光造形装置は、3Dプリンタと呼ばれる装置の一つであり、三次元形状を有する造形物を、対応する三次元データから作製することができる。特許文献1では、処理槽内に貯留された液状の光硬化性樹脂組成物の表層に所望のパターンでレーザ光等を照射してエネルギを付与する。これにより、光硬化性樹脂組成物の表層が、照射パターンに対応したパターンで硬化し、光硬化性樹脂組成物の硬化物からなる樹脂層が得られる。樹脂層を順次積層して作製していくことで、三次元形状を有する造形物が得られる。特許文献1では、直前に作製された樹脂層を光硬化性樹脂組成物内に一層分だけ沈めた後、次の樹脂層が、上記直前に作製された樹脂層に重ねて作製される。
【0003】
ここで、樹脂層一層の厚みは極めて薄い。このため、新たな樹脂層を作製するために直前に作製された樹脂層を一層分だけ光硬化性樹脂組成物内に沈めても、光硬化性樹脂組成物の表面張力によって、上記直前に作製された樹脂層の表面は光硬化性樹脂組成物で被覆されない。このため、リコータで光硬化性樹脂組成物の表面をならして、光硬化性樹脂組成物を上記直前に作製された樹脂層上に塗り広げる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、リコータで光硬化性樹脂組成物の表面をならす際、液体の光硬化性樹脂組成物内に空気が巻き込まれることが知られている。巻き込まれた空気は、光硬化性樹脂組成物内で気泡を形成し三次元造形物内に残る。ここで、近年、三次元造形物に対する要求が高まり、その一つとして透明度が向上した三次元造形物を作製することがある。三次元造形物の内部に気泡が残っていると、意匠面で大きな影響を与えるので、気泡の少ない三次元構造物を作製することが望まれている。
【0006】
本件発明は、このような点を考慮してなされたものであって、エネルギを付与されることで硬化する液体内の気泡を除去可能な三次元造形装置、三次元造形方法、リコータ装置および液面をならす方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による三次元造形装置は、
エネルギを付与されることで硬化する液体を収容する槽と、
移動方向に配置され、各々が前記液体との間に周囲よりも低い圧力に維持された空間を形成しながら移動する複数のリコータ部と、を備える。
【0008】
あるいは、本発明による三次元造形装置は、
エネルギを付与されることで硬化する液体を収容する槽と、
前記液体との間に周囲よりも低い圧力に維持された空間を形成しながら移動するリコータ部と、
前記リコータ部の移動方向に前記リコータ部からずらして配置され、前記液体との間に周囲よりも低い圧力に維持された空間を形成しながら移動する別のリコータ部と、を備える。
【0009】
本発明による三次元造形装置において、
前記複数のリコータ部は、隣接していてもよい。
【0010】
この場合、前記複数のリコータ部は、一体的に成形されていてもよい。
【0011】
本発明による三次元造形装置において、
前記複数のリコータ部は、前記移動方向に互いから離間していてもよい。
【0012】
本発明による三次元造形装置において、
前記複数のリコータ部は、同期して移動してもよい。
【0013】
本発明による三次元造形装置において、
前記複数のリコータ部は、順に移動を開始してもよい。
【0014】
本発明による三次元造形装置において、
前記複数のリコータ部の前記複数の空間内の圧力は、互いに同一であってもよい。
【0015】
本発明による三次元造形装置において、
前記複数のリコータ部の前記空間内の圧力は、互いに異なってもよい。
【0016】
本発明による三次元造形装置において、
前記移動方向前方に位置するリコータ部の前記空間内の圧力は、前記移動方向前方に位置するリコータ部の前記空間内の圧力より高くてもよい。
【0017】
本発明による三次元造形装置は、前記空間の圧力を調節する吸引機構を更に備えていてもよい。
【0018】
この場合、前記吸引機構は、前記複数のリコータ部の前記空間に通じる複数の筒状部材と、前記複数の筒状部材と接続し前記筒状部材を介して前記複数のリコータ部の前記空間を吸引可能なポンプと、を有していてもよい。さらに、前記複数の筒状部材の各々に、圧力調整弁(リリーフ弁)が設けられていてもよい。
【0019】
あるいは、前記吸引機構は、前記複数のリコータ部の前記空間に通じる複数の筒状部材と、前記複数の筒状部材の各々に接続した複数のポンプと、を有していてもよい。
【0020】
本発明による三次元造形装置は、
前記複数のリコータ部を前記移動方向と非平行な方向(直交する方向)に移動させる移動機構を更に備え、
前記複数のリコータ部の各々は、前記空間を周囲に通じさせる閉鎖可能な通気穴を有していてもよい。
【0021】
本発明によるリコータ装置は、
移動方向に配置され、各々が槽内に収容されたエネルギを付与されることで硬化する液体との間に周囲よりも低い圧力に維持された空間を形成しながら移動する複数のリコータ部と、
前記複数のリコータ部の前記空間の圧力を調節する吸引機構と、を備える。
【0022】
本発明によるリコータ装置は、
移動方向に配置され、各々が槽内に収容されたエネルギを付与されることで硬化する液体との間に周囲よりも低い圧力に維持された空間を形成しながら移動する複数のリコータ部と、
前記複数のリコータ部を当該複数のリコータ部と非平行な方向(直交する方向)に移動させる移動機構と、を備える。
【0023】
本発明による槽内の液体の液面をならす方法は、
移動方向に配置され、各々が槽内に収容されたエネルギを付与されることで硬化する液体との間に周囲よりも低い圧力に維持された空間を形成した複数のリコータ部を、前記液体の液面に沿って、同一の経路を移動させる工程を備える。
【0024】
本発明による三次元造形方法は、上記液面をならす方法を備える。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、エネルギを付与されることで硬化する液体内の気泡を除去可能な三次元造形装置、三次元造形方法、リコータ装置および液面をならす方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、本発明の一実施の形態を説明するための図であって、三次元造形装置の一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すリコータ装置の構成を概略的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、三次元造形方法を説明するためのフローチャートである。
【
図5】
図5は、リコータ装置の変形例を示す断面図である。
【
図6】
図6は、リコータ装置の他の変形例を示す断面図である。
【
図7】
図7は、リコータ装置のさらに他の変形例を示す断面図である。
【
図8】
図8は、リコータ装置のさらに他の変形例を示す断面図である。
【
図9】
図9は、リコータ装置のさらに他の変形例を示す断面図であって、リコータ部が液体内に沈められた状態を示す図である。
【
図10】
図10は、
図9に対応する図であって、
図9に示すリコータ部の下端部が液面まで引き上げられた状態を示す図である。
【
図11】
図11は、
図2に対応する図であって、さらに他の変形例によるリコータ装置の構成を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0028】
まず、
図1~
図3を参照して、三次元造形装置について説明する。なお、
図1は、三次元造形装置の一例を示す図である。
図2は、
図1に示すリコータ装置を示す断面図である。
図3は、
図2に示すリコータ部の斜視図である。
【0029】
図1に示すように、三次元造形装置10は、制御器15及び三次元造形機20を有している。制御器15は、三次元造形機20の各構成要素の動作を制御する。制御器15は、操作者等が三次元造形装置10を管理するためにコマンドの入力操作等を行うキーボード17や、三次元造形装置10の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ18等の入出力装置と接続されている。また、制御器15は、三次元造形装置10で実行される処理を実現するためのプログラム等が記録された記録媒体16にアクセス可能となっている。記録媒体16は、ROMおよびRAM等のメモリ、ハードディスク、CD-ROM、DVD-ROMおよびフレキシブルディスク等のディスク状記録媒体等、既知のプログラム記録媒体から構成され得る。
【0030】
三次元造形機20は、制御器15からの制御信号に基づき、材料を所定の固化パターンで固化させてなる単位層ulを積層していくことで三次元造形物を製造する。三次元造形装置10の三次元造形機20は、液槽光重合方式の積層造形、いわゆる光造形を実施する装置として構成されている。すなわち、三次元造形機20は、液体の光硬化性樹脂組成物rcの表層に所定のパターンでレーザ光を照射してエネルギを付与することで硬化した樹脂からなる単位層ulを順次積層していき、三次元造形物を製造する。なお、レーザ光を用いる代わりに、いわゆる面露光と呼ばれる方式(紫外線領域の光を発生するランプを用いて面状の光を照射するもの)を用いてもよい。
【0031】
図1に示すように、三次元造形機20は、図示しない筐体と、筐体内に配置された槽21及び固化手段22と、槽21内を上下に移動可能な昇降テーブル25と、槽21内の液面をならすリコータ装置30と、を有している。
【0032】
槽21は、液体の光硬化性樹脂組成物(以下、単に「液体」または「液体樹脂組成物」とも呼ぶ)rcを収容している。
【0033】
昇降テーブル25は、造形中の三次元造形物を支持する。上述したように、昇降テーブル25は、槽21内を上下に移動可能である。昇降テーブル25は、降下することにより、槽21に貯留された液体樹脂組成物rc内に浸漬可能となっている。
【0034】
固化手段22は、例えば、光硬化性樹脂組成物rcの硬化反応を引き起こす光、例えば紫外線帯域のレーザ光を射出する照射装置23から構成される。照射装置23は、レーザ光等を射出するエネルギ源と、射出されたエネルギの進路を調節する走査装置と、を有している。光路を調整する走査装置としては、ガルバノミラーやMEMSを用いることができる。
【0035】
図2に示すように、リコータ装置30はリコータ部31を有している。リコータ部31は、その下端部が槽21に収容された液体樹脂組成物rcの液面設定位置(後述する単位層ulの上面となる位置)の近傍に配置されるように位置付けられ、液体樹脂組成物rcは、表面張力などによってリコータ部31の下端部に接触している。リコータ部31を液面Sに沿って(より具体的には、上記液面設定位置に沿って)移動させて液体樹脂組成物rcを掃引することで、当該液面Sをならす。
【0036】
図1に示すように、造形中、未硬化の液体樹脂組成物rcが所定量の厚みで昇降テーブル25の上方に存在するよう、昇降テーブル25が位置決めされる。次に、固化手段22が、昇降テーブル25上の液体樹脂組成物rcの層に、制御器15からの制御信号にしたがった所定パターン(2次元形状)を構成するようにレーザ光(面露光方式の場合は面状の光)を照射する。レーザ光を照射された領域において、液体樹脂組成物rcは光重合反応を開始して硬化する。このようにして、液体樹脂組成物rcが所定のパターンで固化してなる単位層ulが形成される。その後、昇降テーブル25は所定量、例えば0.1ミリメートルだけ降下する。昇降テーブル25の降下量は、単位層ulの厚みとなる。ここで昇降テーブル25が降下しても、液体樹脂組成物rcに働く表面張力によって、造形中の三次元構造物上(すなわち直前に形成された単位層ul上)には、液体樹脂組成物rcが導入されない領域(液体樹脂組成物rcによって被覆されない領域)が存在する。このような領域に液体樹脂組成物rcを導入するため、次に、リコータ装置30は、リコータ部31を液体樹脂組成物rcの液面Sに沿って移動させて、当該液面Sをならす。この状態から、固化手段22のレーザ光照射が再度実施され、次の単位層ulが形成される。順次形成される単位層ulが互いに結合していくことにより、三次元造形物を一体的に形成することができる。
【0037】
ところで、リコータ部31によって液面Sをならして上記直前に形成された単位層ulの表面に未硬化の液体樹脂組成物rcを導入する際、液体樹脂組成物rcに空気が巻き込まれ、液体樹脂組成物rc内に気泡Bが形成される。発明者の得た知見によれば、リコータ部31を
図2及び
図3に示すように液面Sの側が開放された箱状に形成し、液体樹脂組成物rcとの間の空間Aを周囲よりも低い圧力に維持することで、液体樹脂組成物rc内の気泡Bを上方に移動させて液体樹脂組成物rcから除去することができる。さらに、発明者の得た知見によれば、リコータ部31の上記空間A内に吸い上げられた液体樹脂組成物rcの液面Sを一度下げた後、再びリコータ部31の上記空間A内に吸い上げて液面Sを上昇させることにより、液体樹脂組成物rc内の気泡Bを、さらに効果的に除去することができる。
【0038】
以上の点を考慮して、本実施の形態のリコータ装置30は、次のように構成されている。すなわち、リコータ装置30は、各々が上記箱状に形成されて液体樹脂組成物rcとの間に空間Aを形成する複数のリコータ部31a,31bと、複数のリコータ部31a,31bの上記空間Aの圧力を調節する吸引機構35と、を備えている。
【0039】
複数のリコータ部31a,31bは、移動機構40によるリコータ部31a,31bの移動方向D1に互いからずらして(並んで)配置されている。図示された例では、複数のリコータ部31a,31bは隣接している。さらに、図示された例では、複数のリコータ部31a,31bは一体的に形成されている。
【0040】
吸引機構35は、各リコータ部31と液体樹脂組成物rcとの間の空間Aを吸引して、当該空間A内の圧力を周囲よりも(より具体的にはリコータ部31外の液面S0上の気圧よりも)低い圧力に維持する。リコータ部31の空間A内の圧力が周囲よりも低い圧力にされることにより、リコータ部31の上記空間A内に液体樹脂組成物rcが吸い上げられ、当該空間A内の液面S1の高さがリコータ部31外の液面S0の高さよりも高くなる。上記空間A内における液面S1の高さは、一定に維持される。図示された例では、上記空間Aの圧力の制御が容易なよう、複数のリコータ部31a,31bの空間A内の圧力は、互いに同一である。このため、複数のリコータ部31a,31bの上記空間A内の液面S1の高さも同じである。図示された例では、吸引機構35は、複数のリコータ部31a,31bに設けられた貫通穴32に接続されて当該リコータ部31a,31bの上記空間Aに通じる複数の筒状部材36と、複数の筒状部材36と接続し当該筒状部材36を介して複数のリコータ部31a,31bの上記空間Aを吸引可能なポンプ37と、を有する。
【0041】
リコータ装置30は、移動機構40によって、液体樹脂組成物rcの液面Sに沿って移動させられる。移動機構40は、複数のリコータ部31a,31bを、上記液面Sに沿って、同一の経路を移動させる。図示された例では、移動機構40は、複数のリコータ部31a,31bを同期して水平移動させる。これにより、複数のリコータ部31a,31bの水平移動を、容易に制御することができる。図示された例では、複数のリコータ部31a,31bは隣接しているため(さらには一体的に形成されているため)、複数のリコータ部31a,31bを同期して水平移動させることが容易である。
【0042】
複数のリコータ部31a,31bが移動機構40によるリコータ部31a,31bの移動方向D1に互いからずらして(並んで)配置されていることにより、リコータ部31a,31bを停止させることなく、液体樹脂組成物rcの液面S上の各点で液面Sの上下動を複数回実施することができる。すなわち、リコータ部31が一つしかない場合、液面S上の各点で液面Sを複数回上下動させるためには、液面S上の各点でリコータ部31を一度停止させ、リコータ部31の空間Aの減圧と加圧を繰り返す必要がある。しかしながら、移動方向D1に並んで配置された複数のリコータ部31a,31bを用いれば、複数のリコータ部31a,31bの移動に伴って、液体樹脂組成物rcは、まず上記移動方向D1の先頭に位置するリコータ部31aに吸い込まれた後、当該リコータ部31aから抜け出て、上記移動方向D1後方に位置するリコータ部31bに再び吸い込まれる。そして、上記先頭のリコータ部31aに吸い込まれて液面Sが上昇した液体樹脂組成物rcは、移動方向D1前方のリコータ部31aから抜け出て移動方向D1後方のリコータ部31bに吸い込まれる度に下降し上昇する。このように、移動方向D1に並んで配置された複数のリコータ部31a,31bを用いることで、リコータ部31a,31bの動きを止めることなく液面S上の各点において液面Sを複数回上下動させることができる。これにより、液体樹脂組成物rc内の気泡Bを効率的且つ効果的に除去することができる。
【0043】
さらに、各々が液体樹脂組成物rcの液面Sを上昇させる上記複数のリコータ部31a,31bで液面Sをならすことにより、気泡Bを効率的に除去しつつ、中海問題と呼ばれる問題を効果的に解決することができる。ここで、中海問題とは、次のような問題である。まず、上述したように、三次元造形物は、単位層を積層して作製される。そして、単位層の積層体の上に次の単位層を形成するために、昇降テーブルを浸漬させてリコータ装置で液体の液面をならす。このとき、単位層の積層体が上方に開放された凹部を形成する場合、リコータ装置で上記液面をならしても、当該凹部内(中海)の液体が積層体外(外海)に出ていかず、凹部内の液面が積層体外の液面よりも高くなり、三次元造形物の製造に支障をきたす。これを中海問題と呼ぶ。中海問題は、次の単位層を形成するために上記積層体上に導入される液体の厚みが非常に薄いために、上記凹部内の液体が上記積層体外に伸び出していかないことにより生じる。発明者が得た知見によれば、このような中海問題は、液体rcの液面Sを上昇させるリコータ部31で当該液面Sをならすことにより、解決することができる。すなわち、上記凹部内の液体rcを上記積層体外へならす際、積層体を乗り越える液体rcの液面Sをリコータ部31によって上昇させることで、積層体上の液体rcの厚みを一時的に大きくすることで、凹部内の液体rcが上記積層体外へ伸び出すことを促進することができる。さらに、発明者の得た知見によれば、上記移動方向D1に互いからずらして(並んで)配置された複数のリコータ部31a,31bで液体rcの液面Sをならすことにより、中海問題を更に効果的に解決することができる。
【0044】
なお、図示された例ではリコータ装置30は2つのリコータ部31a,31bを含むが、これに限られない。リコータ装置30は、
図7に示すように、3以上のリコータ部31a,31b,31cを含んでもよい。
【0045】
次に、三次元造形装置10を用いた三次元造形方法について、言い換えると、三次元造形装置10を用いて三次元造形物を製造する方法について、説明する。以下に説明する三次元造形方法は、制御器15が記録媒体16に予め記録されたプログラムを読み込むことにより、実施される。
【0046】
図4に示すように、三次元造形方法は、第1の工程S1~第4の工程S4を含んでいる。まず、第1の工程S1では、造形対象となるモデルを決定する。
【0047】
次に、第2の工程S2として、三次元造形モデルのCADデータを、三次元造形装置10での造形に用いられる造形データへ変換する。このデータ処理は、例えば、制御器15が記録媒体16に格納された三次元造形モデルのCADデータを取り込んで処理することにより、実施される。具体的には、制御器15は、三次元造形モデルの断面形状を示す断面パターンを生成する。断面パターンは、積層造形される際の積層方向に対して直交する断面での形状と一致する。断面パターンの生成は、積層造形される際の積層方向へのピッチと同ピッチとなる三次元造形モデルの各位置で実施される。
【0048】
その後、第3の工程S3として、例えばキーボード17及びディスプレイ18を利用しながら、材料の種類や造形条件等を制御器15に入力する。制御器15に入力されたこれらの情報は、三次元造型機20に設けられた図示しないプロセッサに渡され、当該プロセッサで処理される。処理された情報は、固化装置22に入力される。
【0049】
そして第4の工程S4として、断面パターンで材料の層に固化処理を施すことで、三次元造形物を製造する。具体的には、槽21内の液体樹脂組成物rc内に沈められた昇降テーブル25上の、液体樹脂組成物rcの表層に対し上記断面パターンの範囲に光を照射してエネルギを付与することで、硬化した樹脂からなる単位層ulを形成する。そして、昇降テーブル25を所定量だけ下降させ、リコータ装置30の複数のリコータ部31a,31bを液面Sに沿って、同一の経路を移動させる。これにより、硬化した上記単位層ulの表面に未硬化の液体樹脂組成物rcが導入される。また、液面Sの各点において当該液面Sが複数回上下動させられて液体樹脂組成物rc内の気泡Bが除去される。その後、液体樹脂組成物rcの表層に対し上記断面パターンの範囲に光を照射してエネルギを付与することで、先に硬化した単位層ul上に新たな単位層ulを積層する。このようにして単位層ulを順次積層していき、三次元造形物を製造する。
【0050】
以上のように、本実施の形態によれば、三次元造形装置10は、エネルギを付与されることで硬化する液体rcを収容する槽21と、移動方向D1に配置され、各々が液体rcとの間に周囲よりも低い圧力に維持された空間Aを形成しながら移動する複数のリコータ部31a,31b,・・・と、を備える。
【0051】
このような三次元造形装置10によれば、液体rc内の気泡Bを、効率的且つ効果的に除去することができる。
【0052】
また、本実施の形態によれば、複数のリコータ部31a,31b,・・・は、隣接している。これにより、液体rcの液面Sに沿った複数のリコータ部31a,31b,・・・の移動を、容易に制御することができる。
【0053】
また、本実施の形態によれば、複数のリコータ部31a,31b,・・・は、一体的に成形されている。これにより、複数のリコータ部31a,31b,・・・の上記液面Sに沿った移動を、さらに容易に制御することができる。
【0054】
また、本実施の形態によれば、複数のリコータ部31a,31b,・・・は、同期して移動する。これにより、複数のリコータ部31a,31b,・・・の上記液面Sに沿った移動の制御が容易である。
【0055】
また、本実施の形態によれば、複数のリコータ部31a,31b,・・・の上記空間A内の圧力は、互いに同一である。これにより、複数のリコータ部31a,31b,・・・の上記空間A内の圧力を、容易に制御することができる。
【0056】
また、本実施の形態によれば、複数のリコータ部31a,31b,・・・の上記空間A内の圧力を調節する吸引機構35を備える。具体的には、吸引機構35は、複数のリコータ部31a,31b,・・・の上記空間Aに通じる複数の筒状部材36と、複数の筒状部材36と接続し筒状部材36を介して複数のリコータ部31a,31b,・・・の上記空間Aを吸引可能なポンプ37と、を有する。
【0057】
また、本実施の形態によれば、リコータ装置30は、移動方向D1に配置され、各々が槽21内に収容されたエネルギを付与されることで硬化する液体rcとの間に周囲よりも低い圧力に維持された空間Aを形成しながら移動する複数のリコータ部31a,31b,・・・と、複数のリコータ部31a,31b,・・・の上記空間Aの圧力を調節する吸引機構35と、を備える。
【0058】
このようなリコータ装置30によれば、液体rc内の気泡Bを、効率的且つ効果的に除去することができる。
【0059】
また、本実施の形態によれば、槽21内の液体rcの液面Sをならす方法は、移動方向D1に配置され、各々が槽21内に収容されたエネルギを付与されることで硬化する液体rcとの間に周囲よりも低い圧力に維持された空間Aを形成した複数のリコータ部31a,31b,・・・を、液体rcに液面Sに沿って、同一の経路を移動させる工程を備える。
【0060】
このような液体rcの液面Sをならす方法によれば、液体rc内の気泡Bを、効率的且つ効果的に除去することができる。
【0061】
また、本実施の形態によれば、三次元造形方法は、上述した槽21内の液体rcの液面Sをならす方法を備える。
【0062】
このような三次元造形方法によれば、液体rc内の気泡Bを、効率的且つ効果的に除去することができる。
【0063】
<変形例>
以上に説明した実施形態では、複数のリコータ部31a,31b,・・・の上記空間A内の圧力は互いに同一であるが、
図5乃至
図7に示すように、互いに異なっていてもよい。この場合、リコータ部31毎に異なる大きさの気泡Bを除去することができる。
【0064】
複数のリコータ部31a,31b,・・・の上記空間Aの圧力が互いに異なる場合、発明者が得た知見によれば、
図5乃至
図7に示すように、移動方向D1前方に位置するリコータ部31の上記空間A内の圧力は、移動方向D1後方に位置するリコータ部31の上記空間A内の圧力より高いことが好ましい。このように上記空間Aの圧力を設定することで、液体rc内の気泡Bの除去効率が向上する。
【0065】
複数のリコータ部31a,31b,・・・の空間A内の圧力が互いに異なる場合、
図5に示すように、吸引機構35の複数の筒状部材36の各々に、圧力調整弁38が設けられていてもよい。あるいは、吸引機構35は、
図6および
図7に示すように、複数のリコータ部31a,31b,・・・の空間Aに通じる複数の筒状部材36と、複数の筒状部材36の各々に接続した複数のポンプ37と、を有していてもよい。
【0066】
また、以上に説明した実施形態では、複数のリコータ部31a,31b,・・・は隣接しているが、これに限られない。
図8に示すように、複数のリコータ部31a,31b,・・・は、上記移動方向D1に互いから離間していてもよい。この場合、個々のリコータ部31a,31b,・・・の液面Sに沿った移動の制御を自由度高く行うことができ、気泡Bの除去効率を向上させることができる。
【0067】
また、以上に説明した実施形態では、複数のリコータ部31a,31b,・・・は同期して移動するが、順に移動を開始してもよい。この場合、個々のリコータ部31の液面Sに沿った移動の制御を自由度高く行うことができ、気泡Bの除去効率を向上させることができる。
【0068】
また、以上に説明した実施形態では、吸引機構35を用いることによって、複数のリコータ部31a,31b,・・・の空間A内の圧力を周囲よりも低い圧力に維持しているが、これに限られない。例えば、
図9及び
図10に示す例では、リコータ装置130は、吸引機構35を有していない。リコータ装置130は、複数のリコータ部31a,31b,・・・を上記移動方向D1と非平行な方向(直交する方向。上下方向)D2に移動させる第2移動機構45を備えている。また、複数のリコータ部31a,31b,・・・の各々は、上記空間Aを周囲に通じさせる閉鎖可能な通気穴33を有している。図示された例では、通気穴33には、上記空間A内の圧力が周囲の圧力よりも高くなると移動して通気穴33を開放する弁体34が設けられている。このようなリコータ装置130によれば、次のようにして複数のリコータ部31a,31b,・・・の空間A内の圧力を周囲よりも低い圧力に維持することができ、また、上記空間A内の液面S1を上記空間A外の液面S0よりも上昇させることができる。すなわち、まず、第2移動機構45によって複数のリコータ部31a,31b,・・・を下方に移動させてその下半部を液体rcに沈める。このとき、複数のリコータ部31a,31b,・・・の下方への移動にともなって、上記空間A内の圧力が周囲の圧力よりも高くなる。これにより、弁体34が移動し、通気穴33が開放される。また、液体rcが空間A内に入り込む。その後、弁体34を移動させて通気穴33を閉鎖する。そして、第2移動機構45によって複数のリコータ部31a,31b,・・・を上方に移動させる。このとき、複数のリコータ部31a,31b,・・・の上方への移動にともなって、上記空間A内の圧力が周囲の圧力よりも低くなり、上記空間A内の液面S1が上記空間A外の液面S0よりも高くなる。
【0069】
また、
図2、
図5乃至
図7、
図9並びに
図10に示す例において、複数のリコータ部31a,31b,31c・・・下端部の高さは均一であるが、これに限られない。例えば、複数のリコータ部31a,31b,31c・・・の空間Aを区画する壁部w1,w2,w3のうち、互いに隣り合う空間Aを隔てる壁部w2の下端部は、他の壁部w1,w3の下端部(複数のリコータ部31a,31b,31cの移動方向D1の最も前方に位置する壁部w1の下端部と最も後方に位置する壁部w3の下端部)よりも、高い位置にあってもよい。
【0070】
さらに、
図11を参照して、液体rc内の気泡Bを除去し中海問題を解決する他の方法について、説明する。
【0071】
図11に示す例では、上述した実施形態と比較して、次の点で異なる。すなわち、
図11に示す例では、リコータ装置230は、単一のリコータ部231を備えている。また、リコータ装置230の吸引機構235は、槽21内の液体rcを、リコータ部231を介して吸引して槽21内に戻す。その他の構成は、上述した実施形態と略同一である。
図11に示す例において、上述した実施形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0072】
リコータ部231は、液面Sの側が開放された箱状に形成されている。
【0073】
吸引機構235は、筒状部材236と、筒状部材236に接続したポンプ237と、を有する。筒状部材236は、その一端236aがリコータ部231の天面に設けられた貫通穴に接続され、当該リコータ部231の内部空間に通じている。一方、筒状部材236の他端236bは、槽21内に延びている。ポンプ237は、槽21内の液体rcを、リコータ部231を通じて筒状部材236内に吸引可能である。筒状部材236内に吸引された液体rcは、筒状部材236の他端236bから槽21内に排出される。
【0074】
このようなリコータ装置230で槽21内の液体rcを吸引しながらリコータ部231を液面Sに沿って移動させて、液体rcを造形中の三次元構造物上に導入しつつ上記液面Sをならすことによっても、液体rc内の気泡Bを除去し、上述した中海問題を解決することが可能である。
【0075】
なお、以上において上述した実施の形態に対するいくつかの変形例を説明してきたが、当然に、複数の変形例を適宜組み合わせて適用することも可能である。
【符号の説明】
【0076】
10 三次元造形装置
20 三次元造形機
21 槽
22 固化手段
23 照射装置
25 昇降テーブル
30 リコータ装置
31 リコータ部
33 通気穴
35 吸引機構
36 筒状部材
37 ポンプ
40 移動機構
45 第2移動機構
130 リコータ装置