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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】触覚センサおよび触覚測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01L 5/162 20200101AFI20230530BHJP
   G01L 5/00 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
G01L5/162
G01L5/00 101Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019112271
(22)【出願日】2019-06-17
(65)【公開番号】P2020204527
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-04-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第35回「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウム(センサ・マイクロマシン部門大会)予稿集、2018年10月23日 〔刊行物等〕 第35回「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウム(センサ・マイクロマシン部門大会)、2018年10月30日~11月1日 〔刊行物等〕 Proceedings of The 32nd IEEE International Conference on Micro Electro Mechanical Systems(MEMS2019)、2019年1月27日 〔刊行物等〕 IEEE MEMS 2019、2019年1月27日~31日 〔刊行物等〕 先端工学研究発表会2019冊子、2019年5月15日 〔刊行物等〕 先端工学研究発表会2019、2019年5月27日 〔刊行物等〕 Transducers/EUROSENSORS 2019 Electronic Technical Digest、2019年6月13日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究創造事業(CREST)、「繊細な触角を定量的に検知する「ナノ触覚神経網」の開発と各種の手触り感計測技術への応用」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304028346
【氏名又は名称】国立大学法人 香川大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高尾 英邦
【審査官】大森 努
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-214631(JP,A)
【文献】特開昭60-004367(JP,A)
【文献】特開平02-075925(JP,A)
【文献】特開平02-157626(JP,A)
【文献】特開2018-116054(JP,A)
【文献】国際公開第2015/133113(WO,A1)
【文献】特開平10-227630(JP,A)
【文献】特開2011-169749(JP,A)
【文献】特開2008-185399(JP,A)
【文献】特開2013-156095(JP,A)
【文献】特表2002-502963(JP,A)
【文献】米国特許第05373747(US,A)
【文献】特開2005-265957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 5/16-5/1627,5/00,1/18-1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表裏の主面および側面を有する平板状の触覚センサであって、
前記側面の一部であり測定対象物と接触する基準面を有し、該基準面において開口する開口部が形成されたフレームと、
前記開口部において、前記基準面および前記表裏の主面と平行なx軸に沿って並んで配置された複数の接触子と、
前記複数の接触子のそれぞれを、少なくとも前記基準面に対して垂直なy軸方向に変位可能に、前記フレームに対して支持する複数の支持体と、
前記複数の接触子のそれぞれの前記基準面に対する変位を検出する複数の変位検出器と、を備える
ことを特徴とする触覚センサ。
【請求項2】
前記複数の支持体は、前記複数の接触子のそれぞれを前記x軸方向にも変位可能に支持する
ことを特徴とする請求項1記載の触覚センサ。
【請求項3】
前記複数の接触子は、前記基準面からの突出量が同じ量に設定されている
ことを特徴とする請求項1または2記載の触覚センサ。
【請求項4】
基準面を有し、該基準面において開口する開口部が形成されたフレームと、
前記開口部において、前記基準面と平行なx軸に沿って並んで配置された複数の接触子と、
前記複数の接触子のそれぞれを、少なくとも前記基準面に対して垂直なy軸方向に変位可能に、前記フレームに対して支持する複数の支持体と、
前記複数の接触子のそれぞれの前記基準面に対する変位を検出する複数の変位検出器と、を備え、
前記複数の接触子は、前記x軸に沿って中心から対称な位置に配置された2つの接触子を一対として、複数対の接触子からなり、
前記複数対の接触子は、前記基準面からの突出量が、対ごとに異なる量に設定されている
ことを特徴とする触覚センサ。
【請求項5】
請求項3記載の触覚センサを用いた触覚測定方法であって、
前記触覚センサの前記基準面を測定対象物の表面に押し当てながら、該測定対象物の表面を前記x軸に対して斜め方向に掃引し、
前記複数の接触子それぞれの前記y軸方向の変位から前記測定対象物の2次元平面の表面形状を求める
ことを特徴とする触覚測定方法。
【請求項6】
基準面を有し、該基準面において開口する開口部が形成されたフレームと、
前記開口部において、前記基準面と平行なx軸に沿って並んで配置された複数の接触子と、
前記複数の接触子のそれぞれを、少なくとも前記基準面に対して垂直なy軸方向に変位可能に、前記フレームに対して支持する複数の支持体と、
前記複数の接触子のそれぞれの前記基準面に対する変位を検出する複数の変位検出器と、を備え、
前記複数の接触子は、前記基準面からの突出量が同じ量に設定されている、触覚センサを用いた触覚測定方法であって、
前記x軸を測定対象物の表面に対して傾斜させた状態で、前記触覚センサの前記基準面を該測定対象物の表面に押し当てながら、該測定対象物の表面を掃引し、
前記複数の接触子それぞれの前記y軸方向の変位から前記測定対象物の柔軟性を求める
ことを特徴とする触覚測定方法。
【請求項7】
請求項4記載の触覚センサを用いた触覚測定方法であって、
前記触覚センサの前記基準面を測定対象物の表面に押し当てながら、該測定対象物の表面を掃引し、
対をなす前記2つの接触子それぞれの前記y軸方向の変位を平均して、該対のy軸方向平均変位を求め、
前記対それぞれの前記y軸方向平均変位から前記測定対象物の柔軟性を求める
ことを特徴とする触覚測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触覚センサおよび触覚測定方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、人間が感じる触覚の定量化を目的とした触覚センサ、その触覚センサを用いた触覚測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の触覚を工学的に模した触覚センサとして種々のものが開発されている。例えば、特許文献1には微小な接触子を有する触覚センサが開示されている。触覚センサを測定対象物に押し当てながら摺動させ、接触子の変位を検出することで、測定対象物表面の微細な凹凸および微小領域の摩擦力を検知できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2015/133113号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
人間の指腹には指紋がある。指紋は複数の稜線から構成されている。機械受容器の一つであるマイスナー小体は指紋を構成する稜線に沿って分布している。これにより、人間の指腹は細かい触覚を得ることができると考えられている。人間の指腹のように細かい触覚を得るためには、指腹と同程度の空間分解能を有するセンサが必要となる。ところが、特許文献1の触覚センサは指腹ほどの高い空間分解能での多点検出が実現されていない。
【0005】
本発明は上記事情に鑑み、高い空間分解能で多点検出が可能な触覚センサを提供することを目的とする。また、本発明は、その触覚センサを用いた触覚測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の触覚センサは、表裏の主面および側面を有する平板状の触覚センサであって、前記側面の一部であり測定対象物と接触する基準面を有し、該基準面において開口する開口部が形成されたフレームと、前記開口部において、前記基準面および前記表裏の主面と平行なx軸に沿って並んで配置された複数の接触子と、前記複数の接触子のそれぞれを、少なくとも前記基準面に対して垂直なy軸方向に変位可能に、前記フレームに対して支持する複数の支持体と、前記複数の接触子のそれぞれの前記基準面に対する変位を検出する複数の変位検出器と、を備えることを特徴とする。
第2発明の触覚センサは、第1発明において、前記複数の支持体は、前記複数の接触子のそれぞれを前記x軸方向にも変位可能に支持することを特徴とする。
第3発明の触覚センサは、第1または第2発明において、前記複数の接触子は、前記基準面からの突出量が同じ量に設定されていることを特徴とする。
第4発明の触覚センサは、基準面を有し、該基準面において開口する開口部が形成されたフレームと、前記開口部において、前記基準面と平行なx軸に沿って並んで配置された複数の接触子と、前記複数の接触子のそれぞれを、少なくとも前記基準面に対して垂直なy軸方向に変位可能に、前記フレームに対して支持する複数の支持体と、前記複数の接触子のそれぞれの前記基準面に対する変位を検出する複数の変位検出器と、を備え、前記複数の接触子は、前記x軸に沿って中心から対称な位置に配置された2つの接触子を一対として、複数対の接触子からなり、前記複数対の接触子は、前記基準面からの突出量が、対ごとに異なる量に設定されていることを特徴とする。
第5発明の触覚測定方法は、第3発明の触覚センサを用いた触覚測定方法であって、前記触覚センサの前記基準面を測定対象物の表面に押し当てながら、該測定対象物の表面を前記x軸に対して斜め方向に掃引し、前記複数の接触子それぞれの前記y軸方向の変位から前記測定対象物の2次元平面の表面形状を求めることを特徴とする。
第6発明の触覚測定方法は、基準面を有し、該基準面において開口する開口部が形成されたフレームと、前記開口部において、前記基準面と平行なx軸に沿って並んで配置された複数の接触子と、前記複数の接触子のそれぞれを、少なくとも前記基準面に対して垂直なy軸方向に変位可能に、前記フレームに対して支持する複数の支持体と、前記複数の接触子のそれぞれの前記基準面に対する変位を検出する複数の変位検出器と、を備え、前記複数の接触子は、前記基準面からの突出量が同じ量に設定されている、触覚センサを用いた触覚測定方法であって、前記x軸を測定対象物の表面に対して傾斜させた状態で、前記触覚センサの前記基準面を該測定対象物の表面に押し当てながら、該測定対象物の表面を掃引し、前記複数の接触子それぞれの前記y軸方向の変位から前記測定対象物の柔軟性を求めることを特徴とする。
第7発明の触覚測定方法は、第4発明の触覚センサを用いた触覚測定方法であって、前記触覚センサの前記基準面を測定対象物の表面に押し当てながら、該測定対象物の表面を掃引し、対をなす前記2つの接触子それぞれの前記y軸方向の変位を平均して、該対のy軸方向平均変位を求め、前記対それぞれの前記y軸方向平均変位から前記測定対象物の柔軟性を求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
第1発明によれば、複数の接触子を有するので、測定対象物表面の特性を高い空間分解能で多点検出できる。
第2発明によれば、接触子のx軸方向およびy軸方向の変位から測定対象物表面の微細な凹凸および微小領域の摩擦力を検知できる。
第3発明によれば、複数の接触子の突出量が同じであるので、複数の接触子を同じ条件で測定対象物に接触させることができる。
第4発明によれば、突出量が異なる複数対の接触子を有するので、種々の条件での検出を同時に行なえる。
第5発明によれば、触覚センサをx軸に対して斜め方向に掃引することで、一回の掃引で所定幅の領域を測定でき、測定対象物の2次元平面の表面形状を測定できる。
第6発明によれば、触覚センサのx軸を測定対象物の表面に対して傾斜させた状態で押し当てることで、複数の接触子それぞれの押し当て力を段階的に変化させることができる。そのため、一回の掃引で複数の押し当て力における接触子の変位を検出でき、これにより接触子先端幅程度の高い空間解像度で測定対象物の柔軟性を求めることができる。
第7発明によれば、対をなす2つの接触子のy軸方向の変位の平均を求めることで、x軸の測定対象物に対する傾斜の影響を除去できる。そのため、接触子先端幅程度の高い空間解像度で測定対象物の柔軟性を精度良く求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第1実施形態に係る触覚センサの平面図である。
図2】図(A)は支持体の横梁に歪がない場合の第1、第2歪検出素子の説明図である。図(B)は支持体の横梁に歪がある場合の第1、第2歪検出素子の説明図である。
図3】歪検出回路の回路図である。
図4】図(A)は支持体の縦梁に歪がない場合の第3、第4歪検出素子の説明図である。図(B)は支持体の縦梁に歪がある場合の第3、第4歪検出素子の説明図である。
図5】第1実施形態に係る触覚センサの接触子先端部の拡大平面図である。
図6】触覚センサを用いた検出方法の説明図である。
図7】触覚センサから得られる各種信号を例示するグラフである。
図8】2次元平面測定操作の説明図である。
図9】柔軟性測定操作の説明図である。
図10】第2実施形態に係る触覚センサの接触子先端部の拡大平面図である。
図11】柔軟性測定操作の説明図である。
図12】触覚センサの特性評価の結果を示すグラフである。
図13】図(A)は2次元平面測定試験により得られた表面形状のグラフである。図(B)は2次元平面測定試験により得られた摩擦力のグラフである。
図14】柔軟性測定試験1で得られた表面形状信号および摩擦力信号のグラフである。
図15】柔軟性測定試験2で得られた各試料の表面形状信号および摩擦力信号のグラフである。
図16】押し込み量と反力との関係を示すグラフである。
図17】各試料のヤング率と試験により求められた弾性との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
〔第1実施形態〕
(触覚センサ)
図1に示すように、本発明の第1実施形態に係る触覚センサ1は、SOI基板などの半導体基板を半導体マイクロマシニング技術により加工して形成したものである。半導体基板を所定のパターンでエッチングして不要部分を除去することで触覚センサ1の構成部材が形成されている。したがって、触覚センサ1は全体として平板状である。触覚センサ1の全体的な寸法は特に限定されないが、例えば1~20mm四方である。
【0010】
触覚センサ1はその一側面を測定対象物と接触するセンシング面としている。本実施形態では、触覚センサ1の側面のうち図1における上側の側面をセンシング面としている。
【0011】
触覚センサ1は略矩形のフレーム10を有する。フレーム10の中央部分には空間部11が形成されている。また、フレーム10のセンシング面側の縁部12には中央に開口部13が形成されている。空間部11は開口部13を介してフレーム10の外部と連通している。
【0012】
縁部12の側面のうちセンシング面の一部を構成する側面を基準面14と称する。開口部13は基準面14において開口している。したがって、基準面14は開口部13により2つに分割されている。なお、一方の基準面14は他方の基準面14を延長した面内に配置されている。
【0013】
以下、基準面14を基準として触覚センサ1のx軸、y軸、z軸を定義する。x軸は基準面14と平行な軸である。y軸は基準面14に対して垂直な軸である。z軸はx-y平面(x軸およびy軸を含む平面)に対して垂直な軸である。x-y平面は平板状の触覚センサ1が有する表裏の主面と平行である。したがって、z軸は触覚センサ1の厚さ方向に沿っている。なお、基準面14はx-z平面(x軸およびz軸を含む平面)と平行である。また、x軸に沿った方向をx軸方向、y軸に沿った方向をy軸方向、z軸に沿った方向をz軸方向と称する。
【0014】
フレーム10の開口部13には複数の接触子20A~20Fが配置されている。接触子20A~20Fの数は特に限定されず、2つ以上であればよい。本実施形態の触覚センサ1は6つの接触子20A~20Fを有する。
【0015】
各接触子20A~20Fは棒状の部材であり、その中心軸がy軸に沿って配置されている。また、複数の接触子20A~20Fはx軸に沿って並んで配置されている。接触子20A~20Fは2つの基準面14、14(縁部12、12)の間に並んで配置されている。
【0016】
フレーム10の空間部11には複数の支持体30A~30Fが配置されている。支持体30A~30Fは複数の接触子20A~20Fのそれぞれをフレーム10に対して支持する。支持体30A~30Fの数は接触子20A~20Fの数と等しい。本実施形態の触覚センサ1は6つの支持体30A~30Fを有する。各接触子20A~20Fはそれに対応する支持体30A~30Fにより支持されている。
【0017】
例えば、第1接触子20Aとフレーム10とは第1支持体30Aを介して接続されている。支持体30Aは一または複数の横梁31と、一または複数の縦梁32と、接続部33とからなる。横梁31は接触子20Aと接続部33との間に架け渡されている。縦梁32は接続部33とフレーム10との間に架け渡されている。なお、接触子20Aと接続部33との間に縦梁32を架け渡し、接続部33とフレーム10との間に横梁31を架け渡してもよい。
【0018】
横梁31は弾性を有しており、板ばねと同様の性質を有する。また、横梁31はx軸に沿って配置されている。したがって、横梁31は接触子20Aのy軸方向の変位を許容する。縦梁32は弾性を有しており、板ばねと同様の性質を有する。また、縦梁32はy軸に沿って配置されている。したがって、縦梁32は接触子20Aのx軸方向の変位を許容する。すなわち、接触子20Aは基準面14に対してx軸方向およびy軸方向に変位可能に支持されている。
【0019】
支持体30Aを構成する横梁31および縦梁32の本数および寸法(長さ、幅)は特に限定されない。支持体30Aとして必要な弾性が得られるように、横梁31および縦梁32の本数および寸法を設定すればよい。
【0020】
他の支持体30B~30Fは第1支持体30Aと同様の構成である。他の接触子20B~20Fも基準面14に対してx軸方向およびy軸方向に変位可能に支持されている。
【0021】
支持体30A~30Fはx軸方向の変位に対するばね定数kxが実質的に同じとなるように設定されている。また、支持体30A~30Fはy軸方向の変位に対するばね定数kyが実質的に同じとなるように設定されている。そのため、接触子20A~20Fに同じ強さ、同じ方向の外力を加えた場合、接触子20A~20Fは同様に変位する。そのため、全ての接触子20A~20Fはx軸方向およびy軸方向の外力に対して同程度の感度を有する。
【0022】
なお、支持体30A~30Fは接触子20A~20Fがy軸方向のみに変位するよう構成してもよい。後述のごとく、接触子20A~20Fのx軸方向の変位から測定対象物表面の微小領域の摩擦力を検知し、y軸方向の変位から測定対象物表面の微細な凹凸を検知する。摩擦力を検知する必要がない場合には、接触子20A~20Fがy軸方向のみに変位するよう構成してもよい。
【0023】
触覚センサ1のセンシング面を測定対象物に押し当てると、接触子20A~20Fがy軸方向に変位する。また、触覚センサ1のセンシング面を測定対象物に押し当てながら、触覚センサ1を測定対象物の表面に沿って掃引すると、接触子20A~20Fがy軸方向に変位するとともにx軸方向に変位する。このような接触子20A~20Fの変位を検出するために、複数の変位検出器40A~40Bが設けられている。
【0024】
変位検出器40A~40Fの数は接触子20A~20Fの数と等しい。本実施形態の触覚センサ1は6つの変位検出器40A~40Fを有する。変位検出器40A~40Fにより接触子20A~20Fのそれぞれの基準面14に対する変位を独立して検出できる。各変位検出器40A~40Fはそれに対応する支持体30A~30Fに設けられている。
【0025】
例えば、第1変位検出器40Aは第1支持体30Aに設けられている。第1変位検出器40Aにより第1接触子20Aの基準面14に対する変位を検出できる。変位検出器40Aは、接触子20Aのy軸方向の変位を検出する縦変位検出器41と、接触子20Aのx軸方向の変位を検出する横変位検出器42とからなる。
【0026】
図2(A)に示すように、縦変位検出器41は横梁31の歪を検出する第1、第2歪検出素子43、44からなる。第1、第2歪検出素子43、44としてピエゾ抵抗素子を用いることができる。ピエゾ抵抗素子は不純物拡散、イオン注入などの集積回路製造工程、金属配線形成技術などによって半導体基板の表面に形成できる。
【0027】
支持体30Aを構成する複数の横梁31のうち一の横梁31の表面には第1歪検出素子43が形成されている。また、他の一の横梁31の表面には第2歪検出素子44が形成されている。第1、第2歪検出素子43、44は、それぞれ階段状に形成されており、横梁31の一端から中央までは一方の側部に沿い、中央から他端までは他方の側部に沿う形状を有している。また、一方の横梁31に形成された第1歪検出素子43と、他方の横梁31に形成された第2歪検出素子44とは、それぞれ線対称となる形状を有する。
【0028】
なお、支持体30Aを構成する横梁31が一本の場合は、横梁31の一方の側部に沿って直線状の第1歪検出素子43を配置し、他方の側部に沿って直線状の第2歪検出素子44を配置すればよい。
【0029】
図2(B)に示すように、接触子20Aがy軸方向に変位すると、横梁31に歪が生じる。この際、第1、第2歪検出素子43、44が正のピエゾ抵抗係数を示す材料であれば、第1歪検出素子43は引張応力により抵抗が大きくなり、第2歪検出素子44は圧縮応力により抵抗が小さくなる。接触子20Aの変位方向が逆になると、第1歪検出素子43は圧縮応力により抵抗が小さくなり、第2歪検出素子44は引張応力により抵抗が大きくなる。
【0030】
図3に示すように、触覚センサ1の表面には横梁31の歪を検出する歪検出回路(図1および図2においては図示せず)が形成されている。歪検出回路は、第1、第2歪検出素子43、44を直列に接続して両端に電圧Vddをかけ、第1歪検出素子43と第2歪検出素子44との間の電圧Voutを読み取る回路である。電圧Voutは第1、第2歪検出素子43、44の差動により変化する。電圧Voutを読み取ることで横梁31の歪量を検出できる。これにより、縦変位検出器41で接触子20Aの基準面14に対するy軸方向の変位を検出できる。
【0031】
図4(A)に示すように、横変位検出器42は縦梁32の歪を検出する第3、第4歪検出素子45、46からなる。第3、第4歪検出素子45、46としてピエゾ抵抗素子を用いることができる。
【0032】
支持体30Aを構成する複数の縦梁32のうち一の縦梁32の表面には第3歪検出素子45が形成されている。また、他の一の縦梁32の表面には第4歪検出素子46が形成されている。第3、第4歪検出素子45、46は対称な階段状に形成されている。なお、支持体30Aを構成する縦梁32が一本の場合は、縦梁32の一方の側部に沿って直線状の第3歪検出素子45を配置し、他方の側部に沿って直線状の第4歪検出素子46を配置すればよい。
【0033】
図4(B)に示すように、接触子20Aがx軸方向に変位すると、縦梁32に歪が生じる。この際、第3、第4歪検出素子45、46が正のピエゾ抵抗係数を示す材料であれば、第3歪検出素子45は引張応力により抵抗が大きくなり、第4歪検出素子46は圧縮応力により抵抗が小さくなる。接触子20Aの変位方向が逆になると、第3歪検出素子45は圧縮応力により抵抗が小さくなり、第4歪検出素子46は引張応力により抵抗が大きくなる。
【0034】
触覚センサ1の表面には縦梁32の歪を検出する歪検出回路(図1および図4においては図示せず)が形成されている。その回路は図3に示す回路において、第1歪検出素子43を第3歪検出素子45に、第2歪検出素子44を第4歪検出素子46に置き換えたものである。歪検出回路で縦梁32の歪を検出する。これにより、横変位検出器42で接触子20Aの基準面14に対するx軸方向の変位を検出できる。
【0035】
図5に接触子20A~20Fの先端部の拡大図を示す。接触子20A~20Fは先端部が基準面14から外部に突出している。各接触子20A~20Fの先端部を接触端21と称する。接触端21の側面はセンシング面の一部を構成し、測定対象物と接触する。接触端21の形状は特に限定されないが、半円形または扇形とすればよい。
【0036】
全ての接触子20A~20Fの接触端21は、通常、同一形状、同一寸法に設計される。本実施形態の接触子20A~20Fの接触端21は、実質的に同一形状、同一寸法である。また、接触子20A~20Fはx軸に沿って等間隔で並べられている。隣り合う接触子20A、20Bの間隔(中心間距離)は、特に限定されないが、300~700μmが好ましく、例えば500μmである。これは、人間の指紋を構成する稜線の間隔と同程度である。そうすれば、触覚センサ1は人間の触覚に近い検知ができると考えられる。
【0037】
人間の触覚に近い検知を実現するという観点からは、接触端21は指紋を構成する隆線の断面と同様の形状、寸法を有することが好ましい。具体的には、接触端21を半円形とし、その直径を100~500μmとすることが好ましい。
【0038】
接触子20A~20Fの間には隙間が設けられている。したがって、各接触子20A~20Fの幅寸法は隣り合う接触子20A、20Bの間隔よりも小さい。各接触子20A~20Fの幅寸法は、例えば200~600μmである。接触子20A~20Fの間に隙間が設けられていることから、接触子20A~20Fは独立してx軸方向およびy軸方向に変位できる。
【0039】
本実施形態の触覚センサ1は、全ての接触子20A~20Fの突出量Pが同じ量に設定されている。ここで、突出量Pとは、接触子20A~20Fに外力が働いていない状態における基準面14から各接触子20A~20Fの頂部までのy軸方向の距離を意味する。接触子20A~20Fの突出量Pが同じであるので、接触子20A~20Fを同じ条件で測定対象物に接触させることができる。
【0040】
(製造方法)
つぎに、SOI基板を用いた触覚センサ1の製造方法を説明する。
ここで、SOI基板は、支持基板(シリコン)、酸化膜層(二酸化ケイ素)、活性層(シリコン)の3層構造を有しており、その厚みは例えば300μmである。
【0041】
まず、基板を洗浄し、酸化処理を行ない、表面酸化膜を形成する。つぎに、表面酸化膜を加工して回路部となる拡散層パターンを形成し、リン拡散を行なう。つぎに、リンのイオン注入および熱アニールによりピエゾ抵抗素子を形成する。つぎに、基板の裏面にクロム薄膜をスパッタリングし、可動構造部(接触子20A~20Fおよび支持体30A~30F)をリリースするパターンにクロム薄膜を加工する。つぎに、表面酸化膜を除去し、ICP-RIEでエッチングして可動構造部を形成する。形成した可動構造部の周辺にレジストを充填して保護した後に、裏面をICP-RIEでエッチングする。最後に、中間酸化膜とレジストを除去して可動構造部をリリースする。
【0042】
(触覚測定方法)
つぎに、触覚センサ1を用いた触覚測定方法を説明する。
触覚センサ1を用いて測定を行なう際には、触覚センサ1のセンシング面を測定対象物に押し当てながら掃引する。そうすると、接触子20A~20Fがx軸方向およびy軸方向に変位する。その変位に基づき測定対象物の表面形状、摩擦力、柔軟性などを測定できる。以下、その原理を説明する。
【0043】
・基本原理
まず、図6に基づき、単一の接触子20の動きを説明する。
触覚センサのセンシング面を測定対象物Oの表面に押し当てて、基準面14を測定対象物Oに接触させる。そうすると、基準面14は測定対象物Oの表面の凹凸のピークを結んだ平面に配置される。そして、接触子20は触覚センサの押し当て力の反力により押し込まれ、y軸方向に変位する。
【0044】
触覚センサのセンシング面を測定対象物Oの表面に押し当てたまま、測定対象物Oの表面に沿って掃引する。そうすると、接触子20は測定対象物Oの表面の凹凸に沿ってy軸方向に変位する。また、接触子20は接触端21と測定対象物Oとの間に働く摩擦力によりx軸方向に変位する。
【0045】
図7に上記操作により触覚センサから得られる各種信号の例を示す。
(1)のグラフは横軸が時間、縦軸が縦変位検出器41により検出された接触子20のy軸方向の変位である。触覚センサを測定対象物Oの表面に沿って一定の速度で掃引した場合には、横軸は測定対象物Oの表面の位置座標と同義である。接触子20のy軸方向の変位は測定対象物Oの表面の凹凸量を意味する。したがって、(2)のグラフは測定対象物Oの表面の表面形状(空間波形)を再現したものである。
【0046】
ここで、接触子20は接触端21のサイズと同程度の波長帯の微細な凹凸にまで追従して変位する。接触端21が半円形または扇形である場合には、接触子20は接触端21の半径と同程度の波長帯の微細な凹凸にまで追従して変位する。すなわち、接触端21の半径が小さいほど空間波長の短い凹凸に追従し、測定対象物Oの表面の微細な凹凸を検知できる。また、接触端21の半径が大きいほど小さい凹凸には追従しなくなり、測定対象物Oの表面の微細な凹凸を除去した空間波長の長い凹凸(うねり)を検知できる。このように、接触端21の半径により波長帯(周波数帯)を選択して、測定対象物Oの表面形状を測定できる。
【0047】
また、接触端21を半円形または扇形とすれば、触覚センサ1を測定対象物Oに押し当てながら摺動させても、接触子20が測定対象物Oに引っ掛かることなくスムーズに動作する。そのため、接触子20が測定対象物表面の凹凸に追従して変位し、測定対象物Oの表面形状を精度よく測定できる。
【0048】
(2)のグラフは横軸が時間、縦軸が横変位検出器42により検出された接触子20のx軸方向の変位である。接触子20のx軸方向の変位は接触端21と測定対象物Oとの間に働く摩擦力を意味する。ここで、接触端21の測定対象物Oとの接触面積は小さいので、接触子20のx軸方向の変位は微小領域の摩擦力を意味する。
【0049】
接触子20のx軸方向およびy軸方向の変位から測定対象物Oの表面の微小領域の動摩擦係数μを求めることができる。横梁31の弾性率は既知であるため、接触子20のy軸方向の変位から接触子20にかかる反力fyを算出できる。また、縦梁32の弾性率は既知であるため、接触子20のx軸方向の変位から接触子20にかかる摩擦力fxを算出できる。下記の式(1)に従い、反力fyおよび摩擦力fxから測定対象物Oの表面の微小領域の動摩擦係数μを算出できる。
【数1】
【0050】
以上のように、接触子20のx軸方向およびy軸方向の変位を検出することで、測定対象物Oの表面の微細な特性、すなわち微細な凹凸および微小領域の摩擦力を検知できる。
【0051】
本実施形態の触覚センサ1は複数の接触子20A~20Fを有し、接触子20A~20Fそれぞれの変位を検知できる。そのため、触覚センサ1を用いて上記操作を行なえば、複数地点の測定を同時に行なうことができる。これにより、測定対象物Oの表面の特性を高い空間分解能で多点検出できる。
【0052】
・2次元平面測定
つぎに、図8に基づき、触覚センサ1を用いた2次元平面の測定方法を説明する。
まず、触覚センサ1の基準面14を測定対象物Oの表面に押し当てる。ここで、触覚センサ1のx軸を測定対象物Oの表面と平行にする。この状態で、触覚センサ1を測定対象物Oの表面に沿って掃引する。ここで、掃引方向sを触覚センサ1のx軸に対して斜めにする。
【0053】
触覚センサ1のx軸と掃引方向sとのなす角をヨー角φと称する。ヨー角φを設けると、接触子20A~20Fは掃引方向sに対して垂直な方向に配列される。そのため、一回の掃引で所定の幅Wを有する領域の測定ができる。接触子20A~20Fそれぞれのx軸方向およびy軸方向の変位から、幅Wの2次元平面の微細な表面形状および微小領域の摩擦力を測定できる。
【0054】
ヨー角φは0°より大きく90°未満の範囲で選択できる。ヨー角φが小さいほど、掃引方向sに対して垂直な方向における接触子20A~20Fの間隔が狭くなる。そのため、掃引方向sに対して垂直な方向の分解能が高くなる。ただし、ヨー角φが小さいほど、一度に掃引できる幅Wが狭くなる。逆に、ヨー角φが大きいほど、掃引方向sに対して垂直な方向の分解能が低くなり、幅Wが広くなる。なお、ヨー角φは45°以下とすることが好ましい。接触子20A~20Fのx軸方向の変位は測定対象物Oとの間に働く摩擦力のx軸方向成分に比例する。ヨー角φが大きすぎると、摩擦力のx軸方向成分が小さくなり、接触子20A~20Fの摩擦力に対する感度が低下するからである。
【0055】
・柔軟性測定
つぎに、図9に基づき、触覚センサ1を用いた柔軟性の測定方法を説明する。
まず、触覚センサ1の基準面14を測定対象物Oの表面に押し当てる。この際、触覚センサ1のx軸を測定対象物Oの表面(触覚センサ1の押し当てにより変形する前の表面)に対して傾斜させる。この状態で、触覚センサ1を測定対象物Oの表面に沿って掃引する。なお、同一地点の柔軟性を測定する場合は掃引時のヨー角φを0°とする。
【0056】
触覚センサ1のx軸と測定対象物Oの表面hとのなす角をピッチ角θと称する。ピッチ角θを設ければ、接触子20A~20Fそれぞれの押し当て力を段階的に変化させることができる。例えば、第1接触子20Aから第6接触子20Fにかけて測定対象物Oへの押し当て力を段階的に強くすることができる。そのため、一回の掃引で、複数の押し当て力における接触子20A~20Fの変位を検出できる。
【0057】
接触子20A~20Fの変位の差は、測定対象物Oの柔軟性に依存する。具体的には、測定対象物Oが硬い場合、測定対象物Oはあまり変形しないため、接触子20A~20Fの変位の差はピッチ角θを反映し、大きくなる。これに対して、測定対象物Oが柔らかい場合、測定対象物Oは押し当て力に従って変形するため、接触子20A~20Fの変位の差は小さくなる。これを利用して、接触子20A~20Fそれぞれのy軸方向の変位から、測定対象物Oの柔軟性を求める。
【0058】
〔第2実施形態〕
(触覚センサ)
つぎに、本発明の第2実施形態に係る触覚センサ2を説明する。
図10に示すように、本実施形態の触覚センサ2は、第1実施形態の触覚センサ1と同様に、複数の接触子20A~20Fを有する。触覚センサ2は、具体的には、6つの接触子20A~20Fを有する。触覚センサ2は接触子20A~20Fの突出量に特徴を有する。それ以外の構成は第1実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0059】
本実施形態においては、触覚センサ2のx軸に沿って中心から対称な位置に配置された2つの接触子20A~20Fを一対とする。具体的には、最も外側の第1接触子20Aと第6接触子20Fを第1対とする。第1対の内側の第2接触子20Bと第5接触子20Eを第2対とする。最も内側の第3接触子20Cと第4接触子20Dを第3対とする。このように、触覚センサ2は複数対の接触子20A~20Fを有する。
【0060】
接触子20A~20Fは基準面14からの突出量が対ごとに異なる量に設定されている。対をなす接触子20A、20Fは突出量が同じに設定されている。具体的には、第1対をなす第1、第6接触子20A、20Fは第1突出量P1に設定されている。第2対をなす第2、第5接触子20B、20Eは第2突出量P2に設定されている。第3対をなす第3、第4接触子20C、20Dは第3突出量P3に設定されている。第1突出量P1、第2突出量P2、第3突出量P3はこの順の大きくなっている。したがって、接触子20A~20Fは全体として、人間の指腹の断面形状のごとく、中央が外部に突出した円弧状となっている。
【0061】
なお、接触子20A~20Fが構成する対の数は2つ以上であればよく、3つに限定されない。接触子20A~20Fの突出量も2段階以上であればよく、3段階に限定されない。また、同じ突出量に設定され対をなす接触子20A~20Fはx軸に沿って中心から対称な位置(中心から同距離)に配置されていればよい。外側の接触子20A、20Fの突出量P1を大きくし、内側の接触子20C、20Dの突出量P3を小さくしてもよい。この場合、接触子20A~20Fは全体として、中央が内部に凹んだ円弧状となる。
【0062】
以上のように、触覚センサ2は突出量が異なる複数対の接触子20A~20Fを有するので、種々の条件での検出を同時に行なえる。
【0063】
(触覚測定方法)
つぎに、触覚センサ2を用いた触覚測定方法を説明する。
触覚センサ2を用いて以下の操作を行なえば、測定対象物Oの柔軟性を測定できる。
【0064】
図11に示すように、触覚センサ2の基準面14を測定対象物Oの表面に押し当てる。この状態で、触覚センサ2を測定対象物Oの表面に沿って掃引する。なお、ヨー角φは0°とする。
【0065】
触覚センサ2を測定対象物Oに押し当てると、接触子20A~20Fに押されて測定対象物Oが変形する。触覚センサ2は突出量の異なる複数の接触子20A~20Fを有する。接触子20A~20Fの変位の差は、測定対象物Oの柔軟性に依存する。具体的には、測定対象物Oが硬い場合、測定対象物Oはあまり変形しないため、接触子20A~20Fの変位の差は突出量の違いを反映し、大きくなる。これに対して、測定対象物Oが柔らかい場合、測定対象物Oは押し当て力に従って変形するため、接触子20A~20Fの変位の差は小さくなる。これを利用して、接触子20A~20Fそれぞれのy軸方向の変位から、測定対象物Oの柔軟性を求める。
【0066】
上記の操作の際、触覚センサ2が意図せず測定対象物Oの表面に対して傾くことがある。また、測定対象物Oの表面に大きなうねりがあると、触覚センサ2を測定対象物Oの表面と平行な状態を維持したまま掃引することは困難である。ここでは、触覚センサ2のx軸が測定対象物Oの表面h(触覚センサ2の押し当てにより変形する前の表面)に対して角度θだけ傾斜しているとする。
【0067】
触覚センサ2の傾斜は接触子20A~20Fのy軸方向の変位dA~dFに影響する。例えば、図11に示すように触覚センサ2が傾斜している場合、第1接触子20Aは傾斜角θが大きくなるほど測定対象物Oに強く押し付けられる。これにより、第1接触子20Aの変位dAが大きくなる。逆に、第6接触子20Fは傾斜角θが大きくなるほど測定対象物Oに弱く押し付けられる。これにより、第6接触子20Fの変位dFが小さくなる。触覚センサ2の傾斜は接触子20A~20Fの変位dA~dFから求められた測定対象物Oの柔軟性にも影響する。そのため、柔軟性の測定精度が低くなる。
【0068】
以下の演算を行なえば、触覚センサ2の傾斜の影響を除去して、測定対象物Oの柔軟性を精度良く求めることができる。すなわち、対をなす2つの接触子20A、20Fそれぞれのy軸方向の変位dA、dFを平均して、その対のy軸方向平均変位を求める。具体的には、第1対をなす第1、第6接触子20A、20Fのy軸方向の変位dA、dFを平均して第1対のy軸方向平均変位d1を求める。第2対をなす第2、第5接触子20B、20Eのy軸方向の変位dB、dEを平均して第2対のy軸方向平均変位d2を求める。第3対をなす第3、第4接触子20C、20Dのy軸方向の変位dC、dDを平均して第3対のy軸方向平均変位d3を求める。
【0069】
対称な位置に配置された対をなす2つの接触子20A、20Fについて、y軸方向の変位の平均を求めることで、触覚センサ2の傾斜の影響を除去できる。その後、対それぞれのy軸方向平均変位d1、d2、d3から測定対象物Oの柔軟性を求める。そうすれば、測定対象物Oの柔軟性を精度良く求めることができる。また、2対以上の接触子20A~20Fを用いて柔軟性を求めることで、対象物Oの柔軟性が入力に対して線形的に変化しているかどうかを判別することもできる。
【0070】
〔その他の実施形態〕
接触子20A~20Fの接触端21は半円形に限られず、他の形状に形成されてもよい。例えば、先鋭的な針状、波面状、左右非対称の形状にしてもよい。また、測定対象物Oの引っ掛かり感を重要なパラメータとして測定する場合には、接触端21を鉤状に形成し、測定対象物Oに引っ掛かりやすくしてもよい。
【0071】
支持体30A~30Fは、所望の弾性を得られれば、梁以外の部材で構成してもよい。
【0072】
変位検出器40A~40Fは、ピエゾ抵抗素子に限定されない。例えば、接触子20A~20Fの変位により接触子20A~20Fとフレーム10との距離が変化することを利用して、変位検出器40A~40Fを接触子20A~20Fとフレーム10との間の静電容量を検出する構成としてもよい。
【0073】
触覚センサ1、2の製造方法は半導体マイクロマシニング技術に限定されない。例えば、触覚センサ1、2の全体または一部を3次元プリンターによる造形技術により形成してもよい。
【実施例
【0074】
(設計・製作1)
半導体基板を加工して触覚センサ1を製作した。この触覚センサ1は第1実施形態の触覚センサ1と同様の構造であるが、図1に示すものと比較して各部の寸法は異なる。半導体基板として、支持基板300μm、酸化膜層0.5μm、活性層50μmのp型SOI基板を用いた。触覚センサ1は6つの接触子20A~20Fを有する。各接触子20A~20Fの接触端21は直径440μmの半円形である。接触子20A~20Fはx軸に沿って500μm間隔で並べられている。全ての接触子20A~20Fの突出量Pは50μmである。
【0075】
(特性評価)
作製した触覚センサ1の感度を測定した。測定にはMicromechanical Testing And Assembly System(FemtoTools FT-MTA03)を用いた。測定装置のプローブを各接触子20A~20Fに対してy軸方向に押し当て、y軸方向の変位の分解能を測定した。また、測定装置のプローブを各接触子20A~20Fに対してx軸方向に押し当て、摩擦力の分解能を測定した。その結果、y軸方向の変位の分解能は0.2μm、摩擦力の分解能は10μNであった。他軸感度は3%以下と十分に低いことが確認された。また、支持体30A~30Fのばね定数はほぼ等しく、それらの偏差は7%以下であった。
【0076】
つぎに、触覚センサ1を用いて試料の表面形状および摩擦力を測定した。試料として平編の布を用いた。試料に触覚センサ1のセンシング面を押し当て、x軸方向に一定速度(1mm/秒)で掃引した。なお、ヨー角φおよびピッチ角θは0°とした。その結果を図12に示す。図12中、上のグラフは、横軸が試料表面上の位置、縦軸が各接触子20A~20Fのy軸方向の変位(表面形状)である。図12中、下のグラフは、横軸が試料表面上の位置、縦軸が各接触子20A~20Fのx軸方向の変位から求められた摩擦力である。
【0077】
表面形状の波形および摩擦力の波形は布の織り構造をよく再現している。また、6つの表面形状の波形はほぼ一致しており、6つの摩擦力の波形もほぼ一致している。これは、6つの接触子20A~20Fが同じ感度を有することを示している。各接触子20A~20Fは表面の凹凸の分解能が100μmであり、摩擦力の分解能が50μNであることが確認された。これは人間の指先の分解能に匹敵する。
【0078】
(2次元平面測定試験)
つぎに、ヨー角φを10°とし、触覚センサ1で試料表面を掃引した。ここで掃引方向を布の織り目方向に対して垂直方向とした。また、ピッチ角θは0°とした。図13(A)に表面形状のグラフを示す。図13(B)に摩擦力のグラフを示す。ヨー角φを設けることで、2次元平面の表面形状および摩擦力を測定できることが確認された。
【0079】
表面形状のグラフより布の織り目の周期構造がわかる。また、摩擦力のグラフより局所的な摩擦力は布の織り目の位置に関係していることが分かる。局所的な摩擦力は人間が布に触れたときの引っ掛かり感を再現していると考えられる。
【0080】
(柔軟性測定試験1)
つぎに、ピッチ角θを2°とし、触覚センサ1で試料表面を掃引した。なお、ヨー角φは0°とした。その結果を図14に示す。ヨー角φを設けることで、6つの接触子20A~20Fの押し当て力を段階的に変化させることができる。図14のグラフから分かるように、6つの表面形状の波形には相違が見られる。また、6つの摩擦力の波形にも相違が見られる。この相違、すなわち、接触子20A~20Fの変位の差は、試料の柔軟性に依存する。そのため、波形の相違の大きさは試料の柔軟性の度合いを示している。
【0081】
(設計・製作2)
つぎに、半導体基板を加工して触覚センサ2を製作した。この触覚センサ2は第2実施形態の触覚センサ2と同様の構造であるが、図10に示すものと比較して各部の寸法は異なる。半導体基板として、支持基板300μm、酸化膜層0.5μm、活性層50μmのp型SOI基板を用いた。触覚センサ1は6つの接触子20A~20Fを有する。各接触子20A~20Fの接触端21は直径440μmの半円形である。接触子20A~20Fはx軸に沿って500μm間隔で並べられている。第1対をなす第1、第6接触子20A、20Fの第1突出量P1は50μmである。第2対をなす第2、第5接触子20B、20Eの第2突出量P2は100μmである。第3対をなす第3、第4接触子20C、20Dの第3突出量P3は150μmである。
【0082】
(柔軟性測定試験2)
作製した触覚センサ2を用いて試料の柔軟性を測定した。試料として弾性の異なる5種類のPDMS(Polydimethylsiloxane)で形成された2mm厚の板を用いた。デュロメータを用いて5つの試料のヤング率を測定したところ、表1に示すとおりであった。
【表1】
【0083】
各試料に対して、その表面に触覚センサ2の基準面14を押し当て、x軸方向に一定速度(1mm/秒)で掃引した。その結果を図15に示す。図15中、上のグラフは、横軸が試料表面上の位置、縦軸が各接触子20A~20Fのy軸方向の変位から求められた押し込み量(表面形状)である。図15中、下のグラフは、横軸が試料表面上の位置、縦軸が各接触子20A~20Fのx軸方向の変位から求められた摩擦力である。
【0084】
ここで、各接触子20A~20Fが測定対象物Oに押し込まれた量を押し込み量pA~pFとする。押し込み量pA~pFは基準面14から各接触子20A~20Fの頂部までのy軸方向の長さである。押し込み量pA~pFは各接触子20A~20Fの突出量からy軸方向の変位dA~dFを減じることで求められる。
【0085】
上記の操作により、各試料1~5の表面形状および微小領域の摩擦力を検出できることが分かる。接触子20A~20Fの押し込み量pA~pFには差異が見られる。試料が柔らかいほど、押し込み量pA~pFには差異が大きくなることが分かる。
【0086】
触覚センサ2の試料表面に対する傾斜の影響を除去するため、対をなす2つの接触子20A、20Fそれぞれのy軸方向の変位dA、dFを平均して、その対のy軸方向平均変位を求める。具体的には、下記の式(2)~(4)に従い、3つの対それぞれのy軸方向平均変位d1、d2、d3を求める。ここで、d1は第1対のy軸方向平均変位、d2は第2対のy軸方向平均変位、d3は第3対のy軸方向平均変位である。
【数2】
【0087】
また、下記の式(5)~(7)に従い、3対それぞれのy軸方向平均変位d1、d2、d3から3対それぞれの押し込み量p1、p2、p3を求める。ここで、p1は第1対の平均押し込み量、p2は第2対の平均押し込み量、p3は第3対の平均押し込み量である。
【数3】
【0088】
各接触子20A~20Fが試料から受ける反力fは、y軸方向の変位dA~dFから求められる。支持体30A~30Fのy軸方向の変位に対するばね定数をkyとすれば、3対それぞれが受ける平均反力f1、f2、f3は、下記の式(8)~(10)から求められる。ここで、f1は第1対が受ける平均反力、f2は第2対が受ける平均反力、f3は第3対が受ける平均反力である。
【数4】
【0089】
図16に、押し込み量と反力との関係を示す。押し込み量と反力とは比例関係にある。その傾きは試料が硬いほど大きいことが分かる。各試料に対して3対の接触子20A~20Fから得られた3つの測定点をフィッティングし、傾きを求めた。この傾きを試料の弾性とする。
【0090】
図17に、デュロメータで測定したヤング率と、触覚センサ2で求めた弾性との関係を示す。触覚センサ2で測定された各試料の弾性は、デュロメータの測定値と比例関係にある。これより、触覚センサ2は測定対象物の弾性を精度良く測定できることが確認された。なお、触覚センサ2は測定対象物上を接触子が走査したなかで任意の場所における局所的な弾性を測定できる。その点で、デュロメータとは異なる性能を有する。
【符号の説明】
【0091】
1、2 触覚センサ
10 フレーム
12 縁部
13 開口部
14 基準面
20A~20F 接触子
30A~30F 支持体
40A~40F 変位検出器

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17