(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】お灸用台座
(51)【国際特許分類】
A61H 39/06 20060101AFI20230530BHJP
C09J 101/00 20060101ALI20230530BHJP
C09J 7/30 20180101ALI20230530BHJP
【FI】
A61H39/06 316
C09J101/00
C09J7/30
(21)【出願番号】P 2019069463
(22)【出願日】2019-03-30
【審査請求日】2022-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】519115679
【氏名又は名称】高橋 ひまり
(74)【代理人】
【識別番号】100174805
【氏名又は名称】亀山 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 ひまり
【審査官】佐藤 智弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-338694(JP,A)
【文献】実開平2-139638(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 39/06
C09J 101/00
C09J 7/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着性を有するお灸用台座であって、
台座本体は、
板状に形成されるものであり、
お灸が配置される側とは反対側に位置し人肌に接する接触面と、を備え、
前記台座本体はオウバクエキスから形成され、
前記接着性は前記オウバクエキスからなることを特徴とするお灸用台座。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、お灸用台座に関する。
【背景技術】
【0002】
古来より、灸という治療方法が存在している。灸とは、経穴(つぼ)と呼ばれる体の特定部位に対して温熱刺激を与え血行を促進し、病気や肩こり、腰痛などを軽減する治療方法である。灸には、皮膚の上に直接熱源を据えて灸痕を残す有痕灸と、熱源と皮膚との間に緩衝物を挿入するなどして灸痕を残さない無痕灸とがあり、現在では、無痕灸が最も普及している。無痕灸の種類としては、例えば知熱灸、隔物灸、台座灸などが存在する。これらの灸は、灸の形状や種類、手法などがそれぞれに異なっている。
【0003】
これらの無痕灸のうち、知熱灸と灸頭鍼とは、用いられる器具や手法が特殊であるため、専門の知識を持つ訓練された施術師によってのみ行われている。これに対し隔物灸、台座灸は比較的簡単であり、訓練を積んでいない一般の人でも家庭内において気軽に私的利用することが可能である。特に、台座灸は、日本全国において広く普及しており、誰もが購入して気軽に使用することができる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、市販されている台座灸は、
図6に示すように、もぐさMを支持する支持筒Tと、支持筒Tの開口側に設けられた環状の台座Dと、台座Dの裏側に設けられた接着層Nと、接着層Nをカバーする台座シートSと、を備える。このような市販されている台座灸をそのまま使用した場合、熱源と皮膚との間隔は、台座Dの高さによって決まってしまうため、熱源との間隔が近すぎ、火傷になる可能性がある。
【0006】
そこで、発明者が鋭意検討したところ、火傷を防止することができるお灸用台座、お灸用台座の材料となる接着材料、接着性物品、及び接着性物品の製造方法を見出した。
【0007】
本発明は、斯かる実情に鑑み、火傷を防止することができるお灸用台座を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、接着性を有するお灸用台座であって、台座本体は、板状に形成されるものであり、お灸が配置される側とは反対側に位置し人肌に接する接触面と、を備え、前記台座本体はオウバクエキスから形成され、前記接着性は前記オウバクエキスからなることを特徴とする。
【0009】
本発明は、オウバクエキスからなる接着材料である。また、本発明は、オウバクエキスと水とを含む接着材料である。
【0010】
本発明は、基材と、基材に設けられた接着材料と、を備え、前記接着材料は、オウバクエキスを含むことを特徴とする接着性物品である。
【0011】
本発明は、オウバクエキスからなる物体を40℃以上60℃以下まで温める加熱ステップを備えたことを特徴とする接着性物品の製造方法である。
【0012】
本発明は、オウバクエキスからなる物体を湿らせる加湿ステップを備えたことを特徴とする接着性物品の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、火傷を防止することができるお灸用台座を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3】(A)は、灸座の概要を表す平面図である。(B)は、灸座の概要を表すIIIb-IIIb’線断面図である。
【
図5】(A)は、お灸セットの概要を表す平面図である。(B)は、お灸セットの概要を表すVb-Vb’線断面図である。
【
図6】(A)は、従来のお灸セットの概要を表す斜視図である。(B)は、従来のお灸セットの概要を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1~2に示すように、お灸セット2は、台座灸10と、台座灸10を支持する灸座20と、を備える。
【0016】
台座灸10は、もぐさMを支持する支持筒11と、支持筒11の開口側に設けられた環状の台座12と、台座12の裏側に設けられた接着層13と、接着層13をカバーする台座シート14と、を備える。ここで、支持筒11の中空部11Xと環状の孔12Xとは連通している。
【0017】
灸座20は、同じ大きさの円板状に形成されるものである。灸座20は、オウバクエキスからなる。オウバクエキスは、キハダの樹皮を乾燥させたものである。灸座20の高さは、用途に応じて自由に設定すればよいが、例えば、1mm以上4mm以下である。
【0018】
また、灸座20の大きさも、用途に応じて自由に設定すればよい。なお、灸座20の上に台座灸10を載置した状態(
図2)において、灸座20の輪郭の一部または全部が、台座12の輪郭よりも突出していることが好ましい。これにより、突出部分に指をかけることで、お灸セット2全体を取り外しやすくなる。
【0019】
灸座20は、市販されているオウバクエキスから製造可能である。灸座20の材料は、100%オウバクエキスであることが好ましいが、必要に応じて、少々の添加剤を入れてもよい。
【0020】
灸座20の作り方について説明する。
【0021】
市販されているオウバクエキスとして、例えば、長野県製薬株式会社の御嶽百草や、日野製薬株式会社の日野百草等がある。これらは、板状で販売されていることが多い。そこで、灸座にふさわしい形状に成形する必要がある。
【0022】
まず、板状のオウバクエキスを、加熱装置で温める。加熱装置としては、電子レンジやヒータ等、オウバクエキスの温度を上昇させるものであればよい。この加熱操作は、オウバクエキスの温度が40℃以上60℃以下になるようにする。当該温度範囲において、オウバクエキスは変形しやすくなるため、所期の形状の灸座20をつくることができる。また、冷えた後には、堅くなるが、再び、加熱操作を行うことにより、変形しやすくなる。
【0023】
灸座20の使用方法について説明する。
【0024】
そして、所期の形状の灸座20に対し、加熱操作を行う。この加熱操作は、オウバクエキスの温度が40℃以上60℃以下になるようにする。当該温度範囲において、オウバクエキスに接着性が生じる。また、冷えた後には、接着性が消失するが、再び、加熱操作を行うことにより、接着性が再び現れる。なお、加熱操作によりオウバクエキスの温度を60℃よりも高くすると、温度変化による接着性は再現しない。
【0025】
次に、お灸を行いたい部位に、灸座20を貼り付ける。次に、灸座20の上に台座灸10を載置する。このとき灸座20は、温まっているため、部位及び台座灸10に対して接着性を有する。このため、台座灸10は、体の部位から落下しない。その後、市販されている台座灸10にセットされたもぐさMに火をつける。
【0026】
もぐさからの熱により、台座灸10本来の効能が得られる。また、台座灸10と人肌の間に灸座20が存在するため、人肌に伝わる温度が緩和される結果、火傷が起こりにくくなる。さらに、灸座20もまた、もぐさからの熱を受けるため、接着性は維持される。加えて、灸座20をなす材料がオウバクエキスであるため、オウバクエキスが直接人肌に触れる。結果、オウバクエキス特有の幹部を温める薬効(抗菌作用、解毒作用、抗炎症作用、鎮痙作用等)を得ることができる。
【0027】
灸を終える場合には、台座灸10及び灸座20を取り外す、または台座灸10を取り外せばよい。オウバクエキスの接着性は適度な強さのため、素肌への痛みを与えずに剥がすことができる。なお、取り外す前に、もぐさの火を消してもよい。灸座20の温度が低下すれば、接着性が失われるため、素肌への痛みをほとんど与えることなく取り外すことができる。
【0028】
上記実施形態では、オウバクエキスからなる灸座20を用いるため、灸座20の加熱により、所期の形状の灸座20を得ることができる。したがって、使用者の要求に応じた高さに成形することができる。
【0029】
上記実施形態では、円板状の灸座20を用いたが、その他の板状に形成してもよいし、台座灸10が載置される載置面21に所定形状の突起22Tを設けてもよい(
図3)。なお、突起は、載置面21及び素肌と接触する接触面22の一方又は両方に設けてもよい。同様に、突起に代えて、溝を載置面21及び素肌と接触する接触面22の一方又は両方に設けてもよい。
【0030】
上記実施形態では、灸座20の上に台座灸10を載置したが、本発明はこれに限られず、灸座20を台座灸10に組み込んでもよい。
【0031】
かかる場合の台座灸10は、
図4に示すように、もぐさMを支持する支持筒11と、支持筒11の開口側に設けられた環状の灸座20とを備える。灸座20の中空部20Xと支持筒11の中空部11Xは連通する。灸座20は、オウバクエキスからなるため、灸座20の加熱により接着性を生じる。よって、
図1~2に示す台座灸10に比べ、接着層13と台座シート14とを省略できる。
【0032】
また、灸座20は、オウバクエキスからなるため、灸座20の加熱により、接着性を生じるとともに、柔らかくなる。このため、
図5に示すように、支持筒11の開口端を灸座20に埋め込んだまま保持することも可能である。
【0033】
上記実施形態では、オウバクエキスからなる灸座20の加熱により、灸座20に接着性を生じさせたが、本発明はこれに限られず、オウバクエキスからなる灸座20の表面を湿らせる加湿操作により、灸座20に接着性を生じさせてもよい。この場合、灸座をウェットティッシュで軽くなでる程度で接着性が生じる。また、乾いた後には、接着性が消失するが、再び、加湿操作を行うことにより、接着性が再び現れる。
【0034】
上記実施形態では、次に、オウバクエキスからなる灸座20の加熱や加湿により、灸座20に接着性を生じさせたが、本発明はこれに限られない。オウバクエキスに所定の水を混ぜることによって、接着剤を得ることができる。
【0035】
オウバクエキスを含む接着剤は、オウバクエキスと、水とを含むことが好ましい。接着剤におけるオウバクエキスの濃度は、15重量%以上60重量%以下であることが好ましい。
【0036】
オウバクエキスを含む接着剤は、文房具用のりや、つけまつ毛用のり等に利用できる。文房具用のりとして利用できる対象は、紙、木、布、ガラス等がある。
【0037】
オウバクエキスを含む接着剤を含む接着層を基材に塗布することで、接着テープをつくることができる。
【0038】
<実施例>
【0039】
<実験A1>
板状のオウバクエキス0.6gを、水3g(オウバクエキスの濃度16%)で溶き、接着剤をつくった。
【0040】
<実験A2~A5>
表1に記載したこと以外は、実験A1と同様にして、接着剤をつくった。
【0041】
【0042】
(評価)
得られた接着剤について、次の評価を行った。
【0043】
(接着試験)
表1に記載の対象物(厚紙、段ボール、木、布、ガラス、及びシリコン(シリコーン樹脂)。以下同じ。)を2つ用意し、得られた接着剤を一方の対象物に塗布し、もう片方の対象物に対して押し当てた。10秒経過後、一方の対象物をもって、もう片方の対象物を下に向けたまま10秒間静置した。同じ条件のサンプル(3つ)に対し、それぞれ評価を行った。
評価基準は以下の通りである。
○:他方の対象物が落下しなかった。
△:他方の対象物が落下しなかったが、一部が剥がれていた。
×:他方の対象物が落下した。
【0044】
(剥離試験)
表1に記載の対象物(厚紙、段ボール、木、布、ガラス、シリコン。以下同様)を2つ用意し、得られた接着剤を一方の対象物に塗布し、もう片方の対象物に対して押し当てた。その後、12時間経過後、一方の対象物を、もう片方の対象物から剥がす方向に引っ張った。同じ条件のサンプル(3つ)に対し、それぞれ評価を行った。
評価基準は以下の通りである。
1:凝集破壊がおきた。
2:界面破壊がおきた。
3:基材破壊がおきた。
【0045】
<実験B1~B6>
フライパンにアルミホイルを敷いて、その上に板状のオウバクエキスを載置した。その後、IH調理器を用いてフライパンを加熱した。オウバクエキスの温度を測定しながら、オウバクエキスを表2に記載の温度まで加熱した。温度測定には、赤外温度計を用いてオウバクエキスの表面温度を測定した。
【0046】
【0047】
(評価)
得られたオウバクエキスについて、次の評価を行った。
【0048】
(接着試験)
表2に記載の対象物を2つ用いて、表2に記載の温度のオウバクエキスを挟んだ。30秒経過後、一方の対象物をもって、もう片方の対象物を下に向けたまま10秒間静置した。同じ条件のサンプル(3つ)に対し、それぞれ評価を行った。
評価基準は以下の通りである。
○:他方の対象物が落下しなかった。
△:他方の対象物が落下しなかったが、一部が剥がれていた。
×:他方の対象物が落下した。
【0049】
(剥離試験)
表2に記載の対象物を2つ用いて、表2に記載の温度のオウバクエキスを挟んだ。その後、一方の対象物を持ち、もう片方の対象物から剥がす方向に引っ張った。同じ条件のサンプル(3つ)に対し、それぞれ評価を行った。
評価基準は以下の通りである。
1:凝集破壊がおきた。
2:界面破壊がおきた。
3:基材破壊がおきた。
【0050】
(冷却試験)
表2に記載の対象物を2つ用いて、表2に記載の温度のオウバクエキスを挟んだ。オウバクエキスの温度が室温になるまで約2時間放置した後、一方の対象物をもって、もう片方の対象物を下に向けたまま10秒間静置した。同じ条件のサンプル(3つ)に対し、それぞれ評価を行った。
評価基準は以下の通りである。
○:他方の対象物が落下しなかった。
△:他方の対象物が落下しなかったが、一部が剥がれていた。
×:他方の対象物が落下した。
【0051】
<実験C1~C5>
板状のオウバクエキスを、表3の処方を用いて湿らせた。
【0052】
【0053】
(評価)
得られたオウバクエキスについて、次の評価を行った。
【0054】
(接着試験)
表3に記載の対象物を2つ用いて、表3の処方により湿ったオウバクエキスを挟んだ。30分経過後、一方の対象物をもって、もう片方の対象物を下に向けたまま10秒間静置した。同じ条件のサンプル(3つ)に対し、それぞれ評価を行った。
評価基準は以下の通りである。
○:他方の対象物が落下しなかった。
△:他方の対象物が落下しなかったが、一部が剥がれていた。
×:他方の対象物が落下した。
【0055】
(剥離試験)
表3に記載の対象物を2つ用いて、表3の処方により湿ったオウバクエキスを挟んだ。その後、一方の対象物を持って、もう片方の対象物から剥がす方向に引っ張った。同じ条件のサンプル(3つ)に対し、それぞれ評価を行った。
評価基準は以下の通りである。
1:凝集破壊がおきた。
2:界面破壊がおきた。
3:基材破壊がおきた。
【0056】
(乾燥試験)
表3に記載の対象物を2つ用いて、表3の処方により湿ったオウバクエキスを挟んだ。オウバクエキスが乾くまで2時間放置した。その後、一方の対象物をもって、もう片方の対象物を下に向けたまま10秒間静置した。同じ条件のサンプル(3つ)に対し、それぞれ評価を行った。
評価基準は以下の通りである。
○:他方の対象物が落下しなかった。
△:他方の対象物が落下しなかったが、一部が剥がれていた。
×:他方の対象物が落下した。
【0057】
尚、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0058】
2 お灸セット
10 台座灸
11 支持筒
11X 中空部
12 台座
12X 孔
13 接着層
14 台座シート
20 灸座
20X 中空部
21 載置面
22 接触面
22T 突起