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特許7287766泥漿鋳込み成形によるガラスセラミック物品の製造方法およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】泥漿鋳込み成形によるガラスセラミック物品の製造方法およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C03B 19/06 20060101AFI20230530BHJP
   C03C 10/14 20060101ALI20230530BHJP
   C04B 35/14 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
C03B19/06 D
C03C10/14
C04B35/14
【請求項の数】 10
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018178742
(22)【出願日】2018-09-25
(65)【公開番号】P2019064907
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-07-14
(31)【優先権主張番号】10 2017 217 283.5
(32)【優先日】2017-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr. 10, 55122 Mainz, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100156812
【弁理士】
【氏名又は名称】篠 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】イヴォンヌ メンケ-ベアク
(72)【発明者】
【氏名】イェアク シューマッハー
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ トライス
(72)【発明者】
【氏名】ズィモーネ ヴェネマン
(72)【発明者】
【氏名】ローベアト クレーマー
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-139469(JP,A)
【文献】特開2010-208944(JP,A)
【文献】特開平05-295016(JP,A)
【文献】特開2015-182915(JP,A)
【文献】特開2016-155742(JP,A)
【文献】特開2004-131372(JP,A)
【文献】特開平05-105463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 19/06
C03C 10/12,10/14
C04B 35/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスセラミック物品の製造方法であって、少なくとも以下の工程:
- セラミック化可能なガラスまたはガラスセラミックからなる粉体であって、該ガラスまたはガラスセラミックが主成分としてSiO2、Al23およびLi2Oを含有し、1.3μmから3.5μmまでの平均粒度d50を有する粉体を準備する工程と、
- 少なくとも前記準備された粉体と、液状の分散媒とから鋳込み可能な泥漿を作製する工程と、
- 前記作製された泥漿を使用した泥漿鋳込み成形により生成形体を形成する工程と、
- 前記生成形体を、200℃未満の温度で少なくとも1時間にわたり乾燥させる工程と、
- 前記生成形体を、250℃から600℃までの温度で少なくとも1時間にわたり予備焼成する工程と、
- 前記生成形体を、1100℃から1300℃までの温度で少なくとも1時間にわたり焼結することで、主結晶相としてキータイトを有するとともに、1%から3%までの気孔率を有するガラスセラミック物品を得る工程と
を含む、製造方法。
【請求項2】
前記セラミック化可能なガラスまたは前記ガラスセラミックは、酸化物基準で質量%で表現して、以下の成分:
SiO2 50~75、
Al23 17~28、
Li2O 2~6、および
合計で少なくとも2質量%で含まれている核形成剤としての1種以上の酸化物
を含有することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記1種以上の核形成剤は、TiO2、ZrO2、SnO2またはそれらの組み合わせであることを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記鋳込み可能な泥漿は、60%から77%までの固体含量を有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記鋳込み可能な泥漿は、分子量が30kg/molから250kg/molである有機添加物質を含有することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記有機添加物質は、ポリビニルアルコールまたはヒドロキシプロピルセルロースであることを特徴とする、請求項5記載の方法。
【請求項7】
主成分としてSiO2、Al23およびLi2Oを含有するとともに、主結晶相としてキータイトを有する、1%から3%までの気孔率を有するガラスセラミック物品の、リチウムイオン電池用のカソードの製造における焼成治具としての使用。
【請求項8】
前記ガラスセラミック物品は、酸化物基準で質量%で表現して、以下の成分:
SiO2 50~75、
Al23 17~28、および
Li2O 2~6、
を含有することを特徴とする、請求項7記載の使用。
【請求項9】
前記焼成治具は、1mmから8mmまでの肉厚を有する容器であることを特徴とする、請求項7から8までのいずれか1項記載の使用。
【請求項10】
前記焼成治具は、1mmから8mmまでの厚さを有する板であることを特徴とする、請求項7から8までのいずれか1項記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、0.5%から5%までの気孔率を有するとともに、主結晶相としてキータイトを有するガラスセラミック物品の製造方法およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスセラミック物品は、高温安定性、酸およびアルカリに対する良好な化学的耐性、低い熱膨張係数、ひいては非常に良好な熱衝撃抵抗性の点で優れている。これらの特性に基づき、ガラスセラミック物品は、非常に様々な多数の用途において、例えばホブ、望遠鏡反射鏡基板、光学リソグラフィーにおける部材として、高出力レーザーにおいて、または長さ基準として使用される。
【0003】
そのような用途のために、ガラスセラミック物品は、まずガラス状態でガラス産業において通常の熱成形法、例えば圧縮、圧延または鋳込みにより所望の形状にされ、引き続いての熱処理によりガラスセラミックに変換される。このようにして、微調整可能な光学特性および熱的特性を有する無孔性ガラスセラミック物品を製造することができる。しかしながら、前記熱成形法は、それにより製造可能な形状が、特に薄肉容器により大幅に制限されるという共通点を有する。
【0004】
セラミック産業においては、泥漿鋳込み成形は、広く知られた成形方法である。泥漿鋳込み成形では、まずいわゆる泥漿、つまりは分散相として無機粒子または酸化物粒子を含有する大抵は水性の鋳込み可能な懸濁液が多孔質型、例えば石膏製の型中に注入される。気孔の毛細管作用により前記型は、泥漿から液状の分散媒を奪うので、その型壁に泥漿の固体成分が堆積される。生成形体とも呼ばれる堆積物の所望の厚さに達した後に、残りの泥漿は、型から除去され、後に残された生成形体が乾燥される。
【0005】
この乾燥過程でその生成形体が軽く収縮することにより、該生成形体は多孔質型から引き離されて、そこから取り出すことができる。引き続き、前記生成形体の熱処理が行われ、その際に泥漿中に含まれることがある添加物質は焼失され、該生成形体はセラミック化される。この熱処理は、焼結とも呼ばれる。
【0006】
独国登録特許第19622522号明細書(DE19622522C1)は、4%までの気孔率を有する複雑に成形されたガラスセラミック物品の製造のための泥漿鋳込み成形法を開示している。この方法では、2つの異なる粒度分級物を有するガラス粒子またはガラスセラミック粒子からなる粉体、すなわち粒子の90%が63μm未満である第1の粉体および粒子の90%が7μm未満である第2の粉体が使用される。これらの粉体は、2:1から4:1までの比率で混合される。
【0007】
リチウムイオン電池中のカソードは、リチウムと遷移金属酸化物との化合物、LiwNixMnyCoz2またはLiFePO4からなる。そのようなカソードの通常の製造方法は、粉体工学的な焼結経路だけでなく、ゾルゲル法に続いての焼成もある。両者の方法は、それらが化学的に高反応性の中間物質を含み、該中間物質が焼成治具中で500℃から1000℃の間の温度での熱処理により反応されて所望の化合物および形状となるという共通点を有する。リチウム-ニッケル-マンガン-コバルト酸化物(Li-NMC)からの、特に組成Li(Ni0.58Mn0.18Co0.15Li0.09)O2を有するリチウムイオン電池用のカソードの製造方法は、例えば米国特許第6677082号明細書(US6677082B2)に開示されている。
【0008】
そのような焼成治具は、通常は酸化アルミニウム(Al23)から泥漿鋳込み成形において引き続き焼結することで製造される。ここではAl23が、とりわけカソードの製造のために使用される材料に対するその化学的耐性および非常に良好な耐熱性のため使用される。しかしながら、Al23は、比較的高い熱膨張率を有するため、低い熱衝撃抵抗性を有する。それにより制限されて、前記焼成治具は、カソード材料の熱処理の後に非常にゆっくりと冷却せねばならず、これにより、リチウムイオン電池用のカソードの製造に際して低いスループットがもたらされる。
【0009】
米国特許出願公開第2014/0017424号明細書(US2014/0017424A1)には、60質量%から90質量%までのAl23を有するリチウムイオン電池用のカソードの製造のための焼成治具であって、熱衝撃抵抗性の改善のために10質量%から20質量%のSiO2を含有するとともに、10%から30%までの気孔率を有する焼成治具が記載されている。Al23含量の下限およびSiO2含量の上限は、その場合に遵守されるべきである。それというのもさもなくば、カソードの製造のために使用される材料と化学的に反応するかもしれないからである。特にこの理由からより低いSiO2含量が有利になる。該焼成治具は、明示的にMgO、ZrO2およびLi化合物を含まないべきである。熱衝撃抵抗性のために必要とされる高い気孔率の欠点は、カソード材料がその焼成治具中に侵入し、これを汚染し得ること、それにより焼成治具の寿命または再利用可能性を制限するということである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】独国登録特許第19622522号明細書
【文献】米国特許第6677082号明細書
【文献】米国特許出願公開第2014/0017424号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、複雑な形状を有するガラスセラミック物品であって、
- 500℃から1000℃までの範囲の耐熱性と、
- 優れた熱衝撃抵抗性と、
- 良好な化学的耐性と
を有するガラスセラミック物品の製造方法および使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前記課題を独立形式請求項により解決する。本発明の有利な実施態様および実施の形態は、従属形式請求項に示されている。
【0013】
本発明によるガラスセラミック物品の製造方法は、少なくとも以下の工程:
- セラミック化可能なガラスおよび/またはガラスセラミックからなる粉体であって、該ガラスまたはガラスセラミックが主成分としてSiO2、Al23およびLi2Oを含有し、1.3μmから3.5μmまでの平均粒度d50を有する粉体を準備する工程と、
- 少なくとも前記準備された粉体と、液状の分散媒とから鋳込み可能な泥漿を作製する工程と、
- 前記作製された泥漿を使用した泥漿鋳込み成形により生成形体を形成する工程と、
- 前記生成形体を、200℃未満の温度で少なくとも1時間にわたり乾燥させる工程と、
- 前記生成形体を、250℃から600℃までの温度で少なくとも1時間にわたり予備焼成する工程と、
- 前記生成形体を、1100℃から1300℃までの温度で少なくとも1時間にわたり焼結することで、主結晶相としてキータイトを有するとともに、0.5%から5%までの気孔率を有するガラスセラミック物品を得る工程と
を含む。
【0014】
前記準備された粉体の製造のための出発材料は、本発明によれば、主成分としてSiO2、Al23およびLi2Oを含有し、セラミック化可能なガラスとして、または既にセラミック化されたガラスセラミックとして存在する。この出発材料は、粉砕過程により微粒の粉体へと変換される。本発明によれば、前記粉体は、1.3μmから3.5μmまでの、好ましくは1.8μmから3μmまでの平均粒径d50を有する粒度分布を有する。前記粉体は、セラミック化可能なガラスおよびガラスセラミックからなる粒子の混合物を含有し得る。
【0015】
その場合に、この平均粒径の比較的低い値は、0.5%から5%までの、有利には1%から3%までの所望の気孔率を有する、つまり固体の理論密度の95%から99.5%までの、有利には97%から99%までの密度を有するガラスセラミック粒子の効果的な製造を可能にすることが判明した。その場合に、本発明者等は、より大きな粒度の場合に、この密度を達成するのに必要な焼結過程の時間が大幅に増加することを観察した。そのことはおそらく、より粗大な粉体の粒子のより小さな有効表面と関連していると思われる。この推測の証拠に、本発明による粒度をわずかに超過しただけでも焼結時間の劇的な増加が引き起こされる。さらに、約50μmより大きなd50を有する非常に大幅により粗大な粉体の場合には、焼結時間が長くても理論密度の95%の密度を達成することはできない。1.3μm未満の平均粒径を有する粉体は、製造および取り扱いにおいて明らかにより多くの手間と費用がかかる。さらに、1.3μm未満の平均粒径を有する粉体が使用される場合に、経済的な生産のために必要な収率では、主結晶相としてキータイトを有するとともに、少なくとも0.5%の気孔率を有するガラスセラミック物品を製造することができないことが判明した。
【0016】
その場合に、平均粒径d50とは、粉体の粒子の直径の中央値を表し、つまりは、該粉体中に含まれる粒子の半分がこの値よりも小さい直径を有し、もう半分がこの値よりも大きな直径を有するような値を表す。つまりそれは、すべての粒子の全容積に対して該粒子の50%が値d50より小さく、かつ該粒子の50%が値d50よりも大きいことを意味する。粒度は、例えばレーザー粒度計、例えばCILAS Instrumentation社のCILAS 1064を用いてレーザー回折により測定することができる。
【0017】
本発明の有利な一実施形態においては、前記セラミック化可能なガラスまたはガラスセラミックは、酸化物基準で質量%で表現して、以下の成分:
SiO2 50~75、
Al23 17~28、
Li2O 2~6
を含有する。
【0018】
SiO2成分は、この組成物において網目形成剤として働く。有利には、その成分は、SiO2=55質量%~75質量%の割合で存在する。Al23成分は、ここでは安定化剤として働く。有利には、その成分は、Al23=18質量%~25質量%の割合で存在する。Li2O成分は、この組成物において網目修飾成分を形成する。有利には、その成分は、Li2O=3質量%~5質量%の割合で存在する。特に有利には、前記ガラスまたは前記ガラスセラミックは、酸化物基準で質量%で表現して、以下の成分:
SiO2 55~75、
Al23 18~25、
Li2O 3~5
を含有する。
【0019】
さらに、前記セラミック化可能なガラスのセラミック化、または出発材料としてのガラスセラミックの製造のためには、追加で1種以上の酸化物が核形成剤として、合計で少なくとも2質量%で、有利には少なくとも4質量%で前記ガラスまたは前記ガラスセラミック中に含まれていることがエネルギー的に有利である。特に有利には、前記1種以上の核形成剤は、TiO2、ZrO2、SnO2またはそれらの組み合わせである。しかしながら、これらの核形成剤は焼結挙動に悪影響を及ぼすので、核形成剤は、有利には多くても20質量%、有利には多くても16質量%、特に有利には多くても8質量%で含まれることが望ましい。
【0020】
前記準備された粉体から、本発明によれば鋳込み可能な泥漿は、少なくとも前記粉体および液状の分散媒を混合することにより製造される。鋳込み可能な泥漿とは、この場合に104mPa・s未満の粘度を有する泥漿を表す。
【0021】
有利な一実施形態においては、前記鋳込み可能な泥漿は、60%から76%までの、有利には65%から73%までの、特に有利には67%から71%までの固体含量を有する。1.3μmから3.5μmの間の平均粒度および76%より多くの固体含量を有する泥漿が使用される場合には、もはや泥漿の必要とされる鋳込み可能性はもたらされないことが判明した。60%未満の固体含量を有する泥漿が使用される場合には、型から泥漿を除去した後の生成形体中の残留水分は非常に高いので、該生成形体が型から取り出され得る前に長い乾燥が必要とされる。さらに、高い残留水分は、乾燥の間の不所望な収縮の増大をもたらし、これはさらに乾燥の間の亀裂形成の可能性を高める。
【0022】
分散媒としては、特に水が適しており、水は、経済性と環境への優しさに基づいて有利に使用される。さらに、有機溶剤、例えばメチルエチルアセトン、トリクロロエタン、アセトンまたはアルコールの使用も可能である。前記泥漿は、それが例えばレオロジーまたは貯蔵安定性のために必要である場合には複数の分散媒の混合物を含有してもよい。
【0023】
さらに、前記泥漿は、例えば分散相の凝集もしくは沈降を避けるために、または泥漿のレオロジーを最適化するために、様々な添加物質、例えば界面活性剤、分散剤、結合剤または凝膠剤を含有してよい。
【0024】
界面活性剤により、極性界面活性剤および非極性界面活性剤、イオン性界面活性剤または非イオン性界面活性剤によっても、例えばエトキシル化されたノニルフェノール、エトキシル化されたトリデシルアルコール、ステアリン酸ナトリウム、ジイソプロピルナフタレン硫酸ナトリウムまたは塩化ドデシルトリメチルアンモニウムによっても、粒子の分散媒による濡れを改善することができる。
【0025】
解膠剤および分散剤により、静電気的相互作用または立体的相互作用による分散相の凝集は避けられる。水系環境における無機分散剤は、例えば炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウムおよびピロリン酸四ナトリウムを基礎とする。有機分散剤は、好ましくはC78(トルエン)、トリクロロエタン、アルコール、ポリアリール酸、シュウ酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸アンモニウム、クエン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、ポリスルホン酸ナトリウム、クエン酸アンモニウム、またはシュウ酸アンモニウムである。市販の解膠剤は、例えばDarvan(登録商標)またはDolapix(登録商標)の名称で知られている。解膠剤および分散剤のためのさらなる例は、例えばアルカリ不含の高分子電解質、カルボン酸エステルおよびアルカノールアミンを基礎としている。強力な高分子電解質のための例は、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(アニオン性)または塩化ポリジアリルジメチルアンモニウム(カチオン性)であり、弱い高分子電解質の代表は、ポリアクリル酸(酸性)またはポリエチレンイミン(塩基性)である。高分子電解質溶液の特性は、ほとんど高分子鎖の同電荷の基の反発性相互作用により決定される。
【0026】
粘度を高めるために、または粒子の沈殿を遅らせるために、結合剤が使用される。さらに、結合剤により生成形体の機械的強度を高めることができる。コロイド状結合剤と分子状結合剤とは区別される。合成結合剤のための例は、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルメタクリレート(PMA)、ヒドロキシプロピルセルロースおよびポリアセタールである。植物を基礎とする結合剤のための例は、パルプ、ワックス、オイルまたはパラフィンである。
【0027】
可塑剤は、ポリマー結合剤の変態温度を周囲温度を下回る温度に調整するために用いられる。このための例は、軽グリコール、例えばポリエチレングリコールまたはグリセロールおよびフタレート、例えばジブチルフタレートまたはベンジルフタレートである。
【0028】
本発明により調合される泥漿の分散相の小さい粒度に基づき、該泥漿に、分子量30kg/mol~250kg/molである有機添加物質を混加することが特に有利であるとみなされた。特に有利には、この添加物質は、ポリビニルアルコールまたはヒドロキシプロピルセルロースである。これにより、泥漿の粘度は、該泥漿での加工のために望まれる鋳込み可能性に調整され得る。
【0029】
泥漿鋳込み成形により、作製された泥漿の使用下で生成形体が形成される。そのために該泥漿はまず最初に多孔質型中に注入される。次いでこの型壁において、そこで泥漿の固体成分が沈着することにより生成形体が形成される。該生成形体が意図される肉厚に達したら、該泥漿を型から、例えば注ぎ出すことにより除去する。
【0030】
前記多孔質型のための出発材料としては、泥漿鋳込み成形の場合には、通常は石膏、粘土、壌土、樹脂、木材、多孔質セラミック、多孔質プラスチック、例えばPMMAまたはポリエステルを基礎とする多孔質プラスチック、多孔質ガラスまたはガラスセラミック、および適切な開放気孔構造を有するゼオライト等の材料が使用される。その場合に、孔径は、約25nmから5000nmの間にあることが望ましい。
【0031】
任意に、生成形体を型からより簡単に取り出すことを可能にするために、前記型の表面を離型剤で前処理する必要がある場合がある。通常の離型剤は、例えばタルクまたはワックスである。
【0032】
泥漿が型内に長く留まるほど、生成形体の肉厚はより厚くなる。本発明による方法により、1mmから約30mmまでの生成形体の肉厚を達成することができ、その際、ほとんどの用途のためには1mmから8mmまでの厚さが有利となる。
【0033】
残りの泥漿を型から除去した後に、該型中の生成形体を、200℃未満で少なくとも1時間にわたり乾燥させる。その際に生成形体は収縮するので、該生成形体は型から簡単に取り出すことができる。その型は引き続き完全に乾燥されて、何度も再利用され得る。
【0034】
生成形体を型から取り出した後に、その生成形体を熱処理にかけることで、それはガラスセラミック物品に変換される。このために生成形体は、本発明によれば250℃から600℃までの温度で少なくとも1時間にわたり予備焼成される。その後に該生成形体は、1100℃から1300℃までの温度で少なくとも1時間にわたり焼結される。この熱処理は、達成されるべき気孔率に至るまでの該物体の緻密化およびそのセラミック化をもたらすので、主結晶相としてキータイトを有するとともに、0.5%から5%までの気孔率を有するガラスセラミック物品が得られる。
【0035】
主成分としてSiO2、Al23およびLi2Oを含有するとともに、主結晶相としてキータイトを有する、0.5%から5%までの気孔率を有するガラスセラミック物品の本発明による使用は、リチウムイオン電池用のカソードの製造における焼成治具としての使用にある。
【0036】
その場合に、焼成治具は、物質の加熱のための耐火性かつ化学的耐性の支持材と解釈されるべきである。焼成治具という概念は、本発明の範囲においてそのような支持材の特定の形状に限定されない。有利な一実施形態においては、焼成治具は、1mmから8mmまでの厚さを有する板である。さらなる有利な一実施形態においては、焼成治具は、1mmから8mmまでの肉厚を有する容器である。そのような容器は、例えば丸形または矩形の底面と、上方に延びる壁としての縁部とを有し得る。
【0037】
主成分としてSiO2、Al23およびLi2Oを含有するガラスセラミック物品は、一般的にその低い熱膨張率に基づき、熱衝撃に対して非常に耐性がある。驚くべきことに、無孔性ガラスセラミック物品に対する熱衝撃抵抗性は、少なくとも0.5%の気孔率でさえも明らかに改善されていることが判明した。これにより、カソードの製造に際して、熱処理に引き続き、特に高い冷却速度を実現することができる。
【0038】
しかしながら、5%より大きい気孔率の場合に、リチウムイオン電池用のカソードの製造においてカソード用の反応性出発材料が気孔内に入り込み、それにより相応の焼成治具の寿命が大幅に低下することがある。1%から3%までの気孔率の場合に、焼成治具の熱衝撃抵抗性および寿命は特に大きく改善されている。
【0039】
驚くべきことに、本発明者等は、そのようなキータイトを主結晶相として有するガラスセラミック物品は、それがLi2Oおよび20質量%より明らかに多くの多量のSiO2を含有するにもかかわらず、カソードの製造のために使用される材料に対して化学的に耐性であることを見出した。
【0040】
その場合に、ガラスセラミック物品が、酸化物基準で質量%で表現して以下の成分:
SiO2 50~75、
Al23 17~28、
Li2O 2~6
を含有する場合に、化学的安定性および熱的安定性について特に有利であることが分かった。
【0041】
特に有利には、前記ガラスセラミック物品は、酸化物基準で質量%で表現して、以下の成分:
SiO2 55~75、
Al23 18~25、
Li2O 3~5
を含有する。
【0042】
前記の有利な組成により高められたガラスセラミック物品の安定性の他に、さらに、少なくとも2質量%の、有利には少なくとも3質量%のLi2O含量が、リチウムイオン電池用のカソードの特性に良い影響を及ぼすことが分かった。これについての正確な原因は、これまでに解明することはできなかった。おそらく、本発明によるガラスセラミック物品のリチウム含量が、公知のLi不含の焼成治具とは異なり、製造の間の拡散過程によるカソードのLi減損に対抗すると思われる。
【0043】
本発明による使用のためのガラスセラミック物品は、以下に説明されるように、例えば泥漿鋳込み成形により製造することができる。しかしながら、相応の組成および気孔率を有するガラスセラミック物品を同様にもたらす、例えば圧縮および焼結等のその他の製造方法も、そのために同様に考えることが可能である。
【0044】
以下に、本発明を実施例に基づき図面を参照してより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1A】Li-NMCからなるカソードの製造のために800℃で16時間にわたり使用した後の、本発明により製造された焼成治具のEDXスペクトルを示す。
図1B】Li-NMCからなるカソードの製造のために800℃で16時間にわたり使用した後の、比較例としてSiO2から製造された焼成治具のEDXスペクトルを示す。
【実施例
【0046】
すべての実施例のための出発材料として、酸化物基準で質量%における以下の組成:
SiO2 65.33
Al23 20.60
Li2O 3.84
Na2O 0.59
2O 0.28
MgO 0.31
CaO 0.42
BaO 2.29
ZnO 1.50
TiO2 3.12
ZrO2 1.36
SnO2 0.24
25 0.02
Fe23 0.10
合計 100.00
を有するLASガラスセラミックが準備される。
【0047】
この出発材料を、破片の形で同質量の蒸留水を添加して、セラミック容器中にAl23ボールを有するボールミル中で1分間当たり33回転の速度で12時間にわたり粉砕する。こうして達成された粒度分布を、CILAS社のCILAS 1064レーザー粒度計により測定する。こうして製造された粒子の平均直径は、d50=2.8μmであり、その際、最も大きな粒子は、約36μmの直径を有する。したがって、所望の粒度分布を達成するために、粉砕に引き続いて粒子を篩別する必要はない。粉砕後に、ボールミルから取り出された水およびガラスセラミック粒子からなる混合物を、箱形乾燥機内のプラスチック製バレル中で乾燥させる。
【0048】
泥漿1:
225gの完全脱灰(VE)水を、5gのレオロジー添加剤KG1201および0.3gの結合剤Dolacast 54と混合する。その混合は5分間にわたり行う。その混合物が油状の粘稠性に変わったら、500gのLASガラスセラミック粉体をゆっくりと添加する。ガラスセラミック粉体を添加した後に、泥漿を30分間にわたり撹拌する。引き続き、5gの結合剤AC 95を添加する。その泥漿をもう一度30分間にわたり撹拌する。固体含量は、68.9質量%である。KG1201、Dolacast 54およびAC 95は、Zschimmer&Schwarz社の製品である。
【0049】
泥漿2:
この実施例では、結合剤としてKuraray社のポリビニルアルコールMowiol(登録商標)を使用する。45gのVE水を90℃に加熱する。撹拌し続けながら、0.2gの145kg/molの分子量を有するMowiol(登録商標)28-99を熱水に加える。引き続き、100gのLASガラスセラミック粉体をゆっくりと添加し、その分散液を30分間にわたり撹拌する。固体含量は、同様に68.9質量%である。
【0050】
泥漿3:
この実施例では、結合剤として100kg/molの分子量を有するヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を使用する。1gのHPCを、撹拌し続けながら45gの水に溶解させる。その溶液を20分間にわたり撹拌した後に、100gのLASガラスセラミック粉体をゆっくりと添加し、その分散液をさらに30分間にわたり撹拌する。固体含量は、同様に68.9質量%である。
【0051】
3種すべての泥漿を、追加的にZrO2ボールを詰めた容器中でローラー架台の上で回転させることにより一晩さらに均質化する。泥漿容量に対して10%の容量割合を有する5mmの直径を有するZrO2ボールは、再加工の前に篩別される。ここで激しく気泡の混じった泥漿は、回転蒸発器において50mbar未満の圧力で脱ガスされる。
【0052】
泥漿鋳込み成形のために、100×100mm2の底面および30mmの深さを有する箱形の中抜き部を有する石膏型を準備する。生成形体をより簡単に取り出すために、その石膏型にタルクを塗る。それぞれの脱ガスされた泥漿を、石膏型に注入して乾燥させる。そのときに、泥漿の固体成分はその石膏型壁に沈着する。約30分~60分後に、達成されるべき生成形体の肉厚に達したら、泥漿のまだ液状の部分を注ぎ出し、まだ湿った生成形体が型内に残る。その生成形体を、まずは石膏型中で室温においてさらに72時間にわたり乾燥させる。そのときに、約1体積%の最小収縮が起こる。これにより該生成形体は石膏型壁から剥がれ、難なく取り出すことができる。
【0053】
次の工程では、本来の焼結過程の前に生成形体からそれぞれの結合剤を除去する。それにより、とりわけ焼結炉の汚染が低減される。このために生成形体を炉内で500℃で5時間にわたり予備焼成する。生成形体中に大抵存在する有機成分はその際に分解される。この予備焼成の後に、生成形体を室温に冷却するか、または直接的にさらなる熱処理を続けてもよい。
【0054】
さらなる熱処理のために、該生成形体を、さらに1時間にわたり500℃に予熱する。生成形体を500℃に1時間保持した後に、炉の温度を2K/分の速度で1200℃に高め、引き続き3時間にわたり1200℃に保持する。この3時間の焼結の後に、炉は停止されるので、該生成形体は、ゆっくりと室温に冷却され得る。このようにして、ガラスセラミック製の箱形容器を製造することができる。
【0055】
それぞれの泥漿の調合を使用してそれにより達成された密度および気孔率は、第1表にまとめられている。この場合に理論密度は、溶融物から鋳込まれた、主結晶相としてキータイトを有する同じ組成の無気泡のガラスセラミック板の密度を指す。密度の測定のために、本発明による方法により10×10×2mm3の寸法を有するガラスセラミック板を製造した。この試料の密度を、DIN EN ISO 1183に従ってアルキメデスの原理により測定した。気孔率は、理論密度に対する測定された密度の比率から求める。さらに、気孔率は、試料の破断縁の走査型電子顕微鏡での撮像の評価により定性的に見極めた。
【0056】
第1表: 種々の泥漿から製造されたガラスセラミック物品の密度および気孔率
【表1】
【0057】
本発明により製造されるガラスセラミック物品の熱衝撃抵抗性の調査のために、焼き入れ試験を実施した。10×10cm2の寸法および4mmの厚さを有するガラスセラミック板を、室炉内で1000℃に加熱し、この温度で15分間にわたり保持した。15分が経過した後に、その板を炉から取り出し、水浴中に完全に浸すことにより室温に冷却した。比較のために、溶融物から鋳込みにより、同じ組成を有し、主結晶相としてキータイトを有する無孔性のガラスセラミック板を製造した。この鋳込まれた板(10×10×4mm3)を、同様に焼き入れ試験に供した。鋳込まれたガラスセラミック板においては水浴中への第1の浸漬の直後に既に多くの粗い亀裂が形成されたが、一方で、本発明による方法により製造されたガラスセラミック板は、驚くべきことに、その焼き入れ試験を何度も繰り返した後でも亀裂またはその他の損傷を示さなかった。そのことは、本発明による方法で製造されたガラスセラミック板が、無孔性のガラスセラミック板の非常に良好な熱衝撃抵抗性をなおも明らかに上回っていることを裏付けている。
【0058】
リチウムイオン電池用のカソードの製造のための材料に対する、本発明により製造されたガラスセラミック物品の化学的耐性を調査するために、LASガラスセラミックから焼成治具を作製した。試験のために、それを用いて組成Li(Ni0.58Mn0.18Co0.15Li0.09)O2を有するリチウム-ニッケル-マンガン-コバルト酸化物(Li-NMC)からカソードを製造した。この場合に、焼成治具中の材料を800℃で16時間にわたり熱処理し、その焼成治具を引き続き視覚的に評価し、そして走査型電子顕微鏡により断面の評価をした。
【0059】
カソードの製造後に、ガラスセラミック製の焼成治具は視覚的な変化を示さず、さらに走査型電子顕微鏡において焼成治具の微細構造の変化も確認することができなかった。泥漿鋳込み成形において製造されたSiO2製の支持材で同じ試験を繰り返した。カソードの製造後にこれらの支持材は激しく侵食され、再び使用することはできなかった。それは、視覚的な評価の場合にも一目で、元々は白色のSiO2製の焼成治具に黒ないし灰色の変色で現れ、断面においても約1cmの深さで焼成治具の容積に入り込んでいた。
【0060】
さらに、カソード材料と焼成治具との間の接触面に対して2μmの距離において、エネルギー分散型X線分光法(EDX)により、本発明により製造された焼成治具およびSiO2製の焼成治具のスペクトルを記録した。使用したカソード材料、つまりMn、CoおよびNiは、そのようなEDXスペクトルにおいて約5.8keV(Mn)、7.0keV(Co)および7.5keV(Ni)でのピークによって検出することができる。図1Aにおいて、本発明により製造された焼成治具のEDXスペクトルが示されている。そこでは微量のMn、CoまたはNiは検出できず、ただ予想されるべきLASガラスセラミックの成分だけが検出できた。しかしながら、図1Bに示されるSiO2製の焼成治具のEDXスペクトルにおいては、約7.5keVでの明らかに際だったピークを観察することができ、それは焼成治具のニッケルによる汚染を立証するものである。さらにまた、このニッケル汚染は、接触面からさらにより大きな距離においても検出することができた。MnおよびCoは、EDXスペクトルによれば、SiO2焼成治具の汚染には寄与していないと思われる。
【0061】
本発明が、上記の単に例示されたにすぎない実施形態に限定されずに、特許請求の範囲の主題の範囲内で多岐にわたり変動し得ることは、当業者には自明である。さらに、有利には、本発明による方法の個々のプロセス工程は、何度も続けて行われてもよく、または本発明により必要とされる工程の前、その間、もしくはその後にさらなるプロセス工程が加えられてもよい。
図1A
図1B