(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】ガス検知方法、ガスセンサ及びガス検知装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/12 20060101AFI20230530BHJP
G01N 27/00 20060101ALI20230530BHJP
G01N 27/04 20060101ALI20230530BHJP
G01N 27/14 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
G01N27/12 D
G01N27/00 K
G01N27/04 D
G01N27/14
(21)【出願番号】P 2018236157
(22)【出願日】2018-12-18
【審査請求日】2021-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000231361
【氏名又は名称】NISSHA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149216
【氏名又は名称】浅津 治司
(74)【代理人】
【識別番号】100158610
【氏名又は名称】吉田 新吾
(74)【代理人】
【識別番号】100121120
【氏名又は名称】渡辺 尚
(72)【発明者】
【氏名】松本 晋一
(72)【発明者】
【氏名】栗林 晴美
(72)【発明者】
【氏名】前田 卓也
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-187476(JP,A)
【文献】特開2000-233901(JP,A)
【文献】特表平08-511866(JP,A)
【文献】特開2000-146882(JP,A)
【文献】特開2000-055852(JP,A)
【文献】特許第4201709(JP,B2)
【文献】特開2006-118939(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0195990(US,A1)
【文献】岡部博孝, 外,新規n型酸化物熱電材料候補ZnSb2O6の電子構造とドーピング効果,第49回応用物理学関係連合講演会講演予稿集,2002年,Vol.49, No.1,p.219,29-a-S-9
【文献】松原 義幸,家庭用ガス警報器におけるガスセンシング技術,計測と制御,2007年,Vol.46, No.8,p.644-649,https://doi.org/10.11499/sicejl1962.46.644
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/12
G01N 27/00
G01N 27/04
G01N 27/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極及び第2電極並びに前記第1電極と前記第2電極の間に接続されているn型金属酸化物半導体を備えるガスセンサを、酸素以外の非極性ガスの雰囲気の中に設置するステップと、
検知対象の極性ガスが含まれない前記非極性ガスの雰囲気の中において、前記ガスセンサの温度を100℃未満の所定温度にし、前記第1電極と前記第2電極の間の抵抗値を測定して基準抵抗値を得るステップと、
前記ガスセンサを前記所定温度にし、前記検知対象の極性ガスが含まれる前記非極性ガスの雰囲気の中における前記第1電極と前記第2電極の間の抵抗値と前記基準抵抗値とを比較して前記非極性ガスの雰囲気の中に混じった前記極性ガスを検知するステップと
を備え、
前記n型金属酸化物半導体が多孔質であり、
前記極性ガスが、硫黄化合物ガスであり、
前記非極性ガスが、炭化水素ガスであ
り、
前記極性ガスを検知するステップでは、前記ガスセンサを加熱せずに前記第1電極と前記第2電極の間の抵抗値を測定する、
ガス検知方法。
【請求項2】
前記極性ガスを検知するステップの前に、200℃以上の温度で前記ガスセンサをクリーニングするステップを備える、
請求項1に記載のガス検知方法。
【請求項3】
第1電極及び第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極の間に接続されているn型金属酸化物半導体と、
を備え、
前記n型金属酸化物半導体は、酸素以外の非極性ガスの雰囲気の中で且つ100℃未満の所定温度範囲において、前記雰囲気に検知対象の極性ガスが含まれない場合の前記第1電極と前記第2電極の間の抵抗値よりも、前記雰囲気に前記極性ガスが含まれる場合の前記第1電極と前記第2電極の間の抵抗値が小さくなるように構成され、
前記極性ガスが、硫黄化合物ガスであり、前記非極性ガスが、炭化水素ガスであり、
前記n型金属酸化物半導体が多孔質である、ガスセンサ。
【請求項4】
前記n型金属酸化物半導体が、酸化錫を主成分とする、
請求項3に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記n型金属酸化物半導体の周囲の前記雰囲気の少なくとも一部に対して作用して、検知対象の前記極性ガス以外のガスに対する感度を低減させる第1触媒を備え、
前記第1触媒は貴金属触媒である、
請求項3または請求項4に記載のガスセンサ。
【請求項6】
前記n型金属酸化物半導体の周囲の前記雰囲気の少なくとも一部に対して作用して、検知対象の前記極性ガスに対する感度を増加させる第2触媒を備え、
前記第2触媒がアンチモンである、
請求項3から5のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項7】
前記n型金属酸化物半導体を加熱できる位置に配置されているヒータを備える、
請求項3から6のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項8】
第1電極及び第2電極並びに前記第1電極と前記第2電極の間に接続されているn型金属酸化物半導体を備え、前記n型金属酸化物半導体が、酸素以外の非極性ガスの雰囲気の中で且つ100℃未満の所定温度範囲において、前記雰囲気に検知対象の極性ガスが含まれない場合の前記第1電極と前記第2電極の間の抵抗値よりも、前記雰囲気に前記極性ガスが含まれる場合の前記第1電極と前記第2電極の間の抵抗値が小さくなるように構成されている、ガスセンサと、
間欠的に電圧を前記ガスセンサに印加して前記第1電極と前記第2電極の間に印加される電圧と前記n型金属酸化物半導体を流れる電流から前記第1電極と前記第2電極の間の抵抗値を測定する抵抗測定装置と
を備え、
前記極性ガスが、硫黄化合物ガスであり、前記非極性ガスが、炭化水素ガスである、ガス検知装置。
【請求項9】
前記抵抗測定装置に接続され、前記ガスセンサを加熱できる位置に配置されているヒータをさらに備え、
前記抵抗測定装置は、前記ヒータによって加熱してクリーニングを行った後に、前記第
1電極と前記第2電極の間の抵抗値を測定する、
請求項8に記載のガス検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野は、酸素の無い雰囲気の中で半導体を用いて検知対象のガスを検知するガス検知方法、ガスセンサ及びガス検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、燃料電池などの技術分野において、商用ガスなどを原料として高純度メタンガスを得る際に商用ガスなどに含まれている硫黄化合物を取り除く脱硫処理が行われている。この脱硫処理が適切に行われていることを監視するために、脱硫後のガス中に残留している硫黄化合物を検知するガスセンサの需要がある。例えば、商用ガスの一種である都市ガスには、燃料としてのメタンガス以外に、ガス漏れを発見し易くするために付臭用の硫黄化合物ガスが添加されている。硫黄化合物ガスとしては、例えば、t-ブチルメルカプタン(TBM)、ジメチルサルファイド(DMS)及びエチルメルカプタンがある。都市ガスのような実質的に無酸素のガス流中に含有されている硫黄成分を検出するために、例えば特許文献1(特許第4201709号公報)では、硫化水素が通過した積算量を検出する硫黄分検出センサが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載されているように、硫化水素の通過量を積算するような硫黄分検出センサでは、ある程度の硫黄化合物ガスが通過しないと硫黄化合物ガスの発生を知ることが難しい。そのため、脱硫に問題があって硫黄化合物ガスの通過が増えても検知しにくく、多くの硫黄化合物ガスがセンサ設置場所の下流に流れてしまう場合がある。
【0005】
酸素の無い雰囲気の中でも極性ガスに対して良い応答性を示すガス検知方法、ガスセンサ及びガス検知装置を提供するという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下に、課題を解決するための手段として複数の態様を説明する。これら態様は、必要に応じて任意に組み合せることができる。
一見地に係るガス検知方法は、第1電極及び第2電極並びに第1電極と第2電極の間に直列に接続されている金属酸化物半導体を備えるガスセンサを、酸素以外の非極性ガスの雰囲気の中に設置するステップと、検知対象の極性ガスが含まれない非極性ガスの雰囲気の中において、ガスセンサの温度を100℃未満の所定温度にし、第1電極と第2電極の間の抵抗値を測定して基準抵抗値を得るステップと、ガスセンサを所定温度にし、非極性ガスの雰囲気の中における第1電極と第2電極の間の抵抗値と基準抵抗値とを比較して非極性ガスの雰囲気の中に混じった極性ガスを検知するステップとを備える。
一見地に係るガス検知方法では、無酸素状態の非極性ガスの中で、100℃未満の比較的低い温度で、検知対象の極性ガスが非極性ガスの雰囲気中に混じっていることを、金属酸化物半導体の抵抗値が小さくなったことにより検知できることから、酸素の無い雰囲気中でも極性ガスの検知について良好な応答性を発揮することができる。
【0007】
上述のガス検知方法は、極性ガスが、硫黄化合物ガスであり、非極性ガスが、炭化水素ガスである、ように構成されてもよい。このように構成されたガス検知方法は、例えば商用ガスのような炭化水素ガスのガス流の中の無酸素状態で、例えば商用ガスに付臭剤として添加されている硫黄化合物ガスを検知する検知方法として用いることができる。
上述のガス検知方法は、金属酸化物半導体が多孔質であり、極性ガスを検知するステップでは、ガスセンサを加熱せずに第1電極と第2電極の間の抵抗値を測定する、ように構成されてもよい。このように構成されたガス検知方法では、ガスセンサを加熱しないことから測定の際の安全性を高められるとともに、多孔質であることから多孔質でない場合に比べて感度が向上して、検知対象の極性ガスを精度良く検知することができる。
上述のガス検知方法は、極性ガスを検知するステップの前に、200℃以上の温度でガスセンサをクリーニングするステップを備える、ように構成されてもよい。このように構成されたガス検知方法では、金属酸化物半導体に付着した極性ガスの脱離を促進することができることから、繰り返し良好な精度で極性ガスを検出することができる。
【0008】
一見地に係るガスセンサは、第1電極及び第2電極と、第1電極と第2電極の間に直列に接続されている金属酸化物半導体と、を備え、金属酸化物半導体は、酸素以外の非極性ガスの雰囲気の中で且つ100℃未満の所定温度範囲において、雰囲気に検知対象の極性ガスが含まれない場合の第1電極と第2電極の間の抵抗値よりも、雰囲気に極性ガスが含まれる場合の第1電極と第2電極の間の抵抗値が小さくなるように構成されている。
一見地に係るガスセンサは、無酸素状態の非極性ガスの中で、100℃未満の比較的低い温度で、検知対象の極性ガスが非極性ガスの雰囲気中に混じっていることを、金属酸化物半導体の抵抗値が小さくなったことにより検知できることから、酸素の無い雰囲気中でも極性ガスの検知について良好な応答性を発揮することができる。
上述のガスセンサは、金属酸化物半導体が、酸化錫を主成分とする、ように構成されてもよい。このように構成されたガスセンサでは、酸素の無い雰囲気中でも極性ガスの検知について良好な応答性を発揮するように、金属酸化物半導体を実現するのが容易になる。
【0009】
上述のガスセンサでは、金属酸化物半導体の周囲の雰囲気の少なくとも一部に対して作用して、検知対象の極性ガス以外のガスに対する感度を低減させる第1触媒を備える、ように構成されてもよい。このように構成されたガスセンサでは、検知対象の極性ガス以外のガスによって第1電極と第2電極の間の抵抗値が変化するノイズが低減されるので、検知対象の極性ガスを検知するときの精度が向上する。
上述のガスセンサは、金属酸化物半導体の周囲の雰囲気の少なくとも一部に対して作用して、検知対象の極性ガスに対する感度を増加させる第2触媒を備える、ものであってもよい。このように構成されたガスセンサでは、検知対象の極性ガスに対する感度が向上して、検知対象の極性ガスを検知し易くなる。
上述のガスセンサは、第2触媒がアンチモンである、ものであってもよい。このように構成されたガスセンサでは、検知対象の極性ガスに対する感度を十分に向上させることができる。
上述のガスセンサは、金属酸化物半導体を加熱できる位置に配置されているヒータを備える、ように構成されてもよい。このように構成されたガスセンサでは、繰り返して極性ガスを検知したり、測定時に加熱することで抵抗値が測定し易くなったりする場合があり、ヒータを用いて金属酸化物半導体のクリーニングをしたり、測定時にヒータで加熱したりできることで、ガスセンサの使用時の利便性が向上する。
上述のガスセンサは、極性ガスが、硫黄化合物ガスであり、非極性ガスが、炭化水素ガスである、ものである。このように構成されたガスセンサでは、例えば商用ガスのような炭化水素ガスのガス流の中の無酸素状態で、例えば商用ガスに付臭剤として添加されている硫黄化合物ガスを検知するガスセンサとして用いることができる。
上述のガスセンサは、金属酸化物半導体が多孔質である、ものであってもよい。
【0010】
一見地に係るガス検知装置は、第1電極及び第2電極並びに第1電極と第2電極の間に直列に接続されている金属酸化物半導体を備え、金属酸化物半導体が、酸素以外の非極性ガスの雰囲気の中で且つ100℃未満の所定温度範囲において、雰囲気に検知対象の極性ガスが含まれない場合の第1電極と第2電極の間の抵抗値よりも、雰囲気に極性ガスが含まれる場合の第1電極と第2電極の間の抵抗値が小さくなるように構成されている、ガスセンサと、間欠的に電圧をガスセンサに印加して第1電極と第2電極の間に印加される電圧と金属酸化物半導体を流れる電流から第1電極と第2電極の間の抵抗値を測定する抵抗測定装置とを備える。
一見地に係るガス検知装置では、酸素の無い雰囲気中でも極性ガスの検知について良好な応答性を発揮させるための金属酸化物半導体に印加される電圧が、間欠であることから、常に電圧を印加し続ける場合に比べて、金属酸化物半導体の劣化を抑制でき、また消費電力を小さくすることができる。
上述のガス検知装置は、抵抗測定装置に接続され、ガスセンサを加熱できる位置に配置されているヒータをさらに備え、抵抗測定装置は、ヒータによって加熱してクリーニングを行った後に、第1電極と第2電極の間の抵抗値を測定する、ように構成されてもよい。このように構成されたガス検知装置では、金属酸化物半導体に付着した極性ガスの脱離を促進することができることから、繰り返し良好な精度で極性ガスを検出することができる。
【発明の効果】
【0011】
本開示のガス検知方法、ガスセンサ、またはガス検知装置は、酸素の無い雰囲気の中でも硫黄化合物ガスなどの極性ガスに対して良好な応答性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ガスセンサの取り付け状態を示すブロック図。
【
図2】ガスセンサの取り付け状態を示す部分拡大断面図。
【
図3】(a)ガスセンサの上面図、(b)ガスセンサの一方向から見た側面図、(c)ガスセンサの他の方向から見た側面図、(d)
図3(c)のI-I線断面図。
【
図4】(a)酸素によるキャリアの減少を説明するための模式的な断面図、(b)酸素が奪われたときのキャリアの増加を説明するための模式的な断面図。
【
図5】(a)極性ガスがない状態の電気伝導度を説明するための模式的な断面図、(b)極性ガスが存在するときの電気伝導度を説明するための模式的な断面図。
【
図6】第1触媒の効果を説明するための模式的な断面図。
【
図7】非脱硫ガスによる抵抗値の低下を示すグラフ。
【
図8】金属酸化物半導体の感度を説明するための図。
【
図9】触媒が添加されていない酸化錫半導体からの硫黄化合物の昇温による脱離を説明するためのグラフ。
【
図10】第1触媒が添加された酸化錫半導体からの硫黄化合物の昇温による脱離を説明するためのグラフ。
【
図11】第2触媒が添加された酸化錫半導体からの硫黄化合物の昇温による脱離を説明するためのグラフ。
【
図12】(a)ガスセンサの抵抗値の変化を説明するためのグラフ、(b)
図12(a)の一部分を拡大したグラフ。
【
図13】ビーズ型の酸化錫半導体とリード線に係る構成を説明するための模式図。
【
図14】ビーズ型のガスセンサの構成を説明するための部分破断斜視図。
【
図15】(a)プレート型の酸化錫半導体とリード線に係る構成を説明するための模式図、(b)
図15(a)の裏面の構成を説明するための模式図。
【
図16】プレート型のガスセンサの構成を説明するための部分破断斜視図。
【
図17】(a)ヒータのないプレート型の酸化錫半導体とリード線に係る構成を説明するための模式図、(b)
図17(a)の裏面の構成を説明するための模式図。
【
図18】ガス検知装置の構成の第1の例を説明するための回路図。
【
図19】ガス検知装置の構成の第2の例を説明するための回路図。
【
図20】ガス検知装置の構成の第3の例を説明するための回路図。
【
図21】ガス検知装置の構成の第4の例を説明するための回路図。
【
図23】加熱をしないガス検知で駆動回路が出力するパルス信号を示すタイミングチャート。
【
図24】加熱をするガス検知で駆動回路が出力するパルス信号を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(1)ガスセンサの適用
図1及び
図2には、ガスセンサの適用例として、燃料電池システムの脱硫器の下流に組み込まれたガスセンサが示されている。
燃料電池システム100は、供給源110と、脱硫器120と、改質器130と、燃料電池140とを備えている。供給源110は、所定の硫黄化合物を付臭剤として含む燃料を脱硫器120に供給する。供給源110は、例えば都市ガスを供給する施設及び設備であり、または例えば圧縮ガスが封入されたガス容器である。脱硫器120は、燃料に含まれた硫黄化合物を燃料から除去する。脱硫器120は、ガス管101などの流路によって、供給源110に接続されている。改質器130は、公知の改質反応によって、改質された燃料である例えば水素を生成する。燃料電池140は、改質器130で改質された燃料を使って発電する。燃料電池システム100には、例えば、t-ブチルメルカプタン(TBM)、ジメチルサルファイド(DMS)及びエチルメルカプタンなどの硫黄化合物ガスで付臭された商用ガスでメタンガスが供給される。炭化水素ガスであり且つ非極性ガスであるガスが、例えばメタンガス、プロパンガス及びブタンガスであり、硫黄化合物ガスであり且つ極性ガスであるガスの例がt-ブチルメルカプタン、ジメチルサルファイド及びエチルメルカプタンである。ここで、極性ガスとは、極性分子からならなるガスであり、非極性ガスとは、非極性分子からなるガスである。言い換えると、極性ガスとは、ガスを構成する分子が電気双極子モーメント持つガスであり、非極性ガスとは、ガスを構成する分子が電気双極子モーメントを持たないガスである。なお、ここでは、燃料電池システム100に商用ガスが燃料として用いられる場合について説明するが、本開示のガスセンサが適用される燃料電池システムに燃料として用いられるガスは商用ガスには限られず、他のガスであってもよい。
【0014】
燃料電池システム100では、システムの劣化を抑制するために、供給される商用ガスから硫黄化合物ガスを取り除く脱硫が行われる。
図1には、脱硫後の炭化水素ガスが通るガス管101と、当該ガス管101に設置されたガスセンサ10が示されている。ガスセンサ10は、ガス管101の開口部101aに嵌めこまれてネジなどにより固定されている。ガス管101とガスセンサ10の間にできる隙間はOリング19でシールされている。このOリング19のシールによって、炭化水素ガスがガス管101から外に漏れ出すことが防がれるとともに、外気がガス管101の中に入ることもが防がれる。このように、ガス管101の中は、炭化水素ガスで満たされており、実質的に無酸素の状態が維持されている。
ガスセンサ10の上面が
図3(a)に示され、互いに直交する2つの方向から見たガスセンサ10の側面が
図3(b)と
図3(c)に示され、
図3(c)のI-I線に沿って切断したガスセンサ10の断面が
図3(d)に示されている
ガスセンサ10は、金属製のケーシング11と、上面側にガスの流通部12aが設けられたキャップ12と、ケーシング11の底を塞ぐ基板13と、基板13に固定されているリード線14と、前記基板13に取り付けられているn型金属酸化物半導体15とを備えている。リード線14は、第1電極と第2電極(図示せず)に接続されている。n型金属酸化物半導体15は、第1電極と第2電極の間に直列に接続されている。
キャップ12の内部は空洞12bになっている。このキャップ12の流通部12aから流れ込むガスが、空洞12bの内部で露出しているn型金属酸化物半導体15に接触する。従って、流通部12aがガス管101の内部に面していれば、ガス管101の中を流れるガスがn型金属酸化物半導体15に接触する。
【0015】
(2)n型金属酸化物半導体15の抵抗値の変化
本開示のn型金属酸化物半導体15において、検知対象の極性分子が無酸素状態の雰囲気に混じったときの抵抗変化を説明する。n型金属酸化物半導体15は、例えば、酸化スズ、酸化タングステン、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化チタン、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム及びスズ酸バリウムから選択される金属酸化物またはそれらの組合せを主成分とする。本開示のn型金属酸化物半導体15の抵抗値の変化についての理解を助けるために、まず、従来のガスセンサにおいて、金属酸化物半導体の抵抗値が変化する仕組みについて説明する。
【0016】
(2-1)従来の金属酸化物半導体の抵抗値の変化
図4(a)と
図4(b)を用いて、酸素がある雰囲気の中で、金属酸化物半導体の抵抗値の変化する理由について説明する。
図4(a)に示されているn型の酸化錫SnO
2-x(酸化錫半導体45)の中には、格子欠陥によって生じたキャリア46が存在している。大気中で、この酸化錫が300℃以上に加熱されると、大気中の酸素の解離が生じる。この解離した酸素が電子を捕捉して酸化錫半導体45に負電荷吸着する。これを式で表現すると、1/2O
2+2e
-→O
2-ad(SnO
2-x)となる。ここで、adは、負電荷吸着を示している。その結果、酸化錫半導体45の中のキャリア46(負電荷)の一部が吸着した酸素47に捕捉されると、酸化錫半導体45の中のキャリア46が減少して、酸化錫半導体45の電気伝導度が小さくなる。言い換えると、酸化錫半導体45に吸着した酸素47にキャリア46が捕捉されることにより、酸化錫半導体45の抵抗値が大きくなる。
図4(a)のように、酸化錫半導体45に吸着された酸素47が存在するところに、
図4(b)に示されているように、一酸化炭素ガスが雰囲気の中に混じると、酸化錫半導体45に吸着されている酸素が一酸化炭素と反応する。酸素と一酸化炭素とが反応して、二酸化炭素が精製される。この反応を式で表すと、CO+O
2-ad(SnO
2-x)→CO
2+2e
-となる。その結果、吸着した酸素47に捕捉されていた負電荷が酸化錫半導体45に供給され、酸化錫半導体45の中のキャリア46が増加して、酸化錫半導体45の電気伝導度が大きくなる。言い換えると、酸化錫半導体45に吸着していた酸素47が一酸化炭素に奪われることにより、酸化錫半導体45の抵抗値が小さくなる。
【0017】
(2-2)本開示の金属酸化物半導体の抵抗値の変化
図5(a)と
図5(b)を用いて、酸素がない雰囲気の中で、金属酸化物半導体の抵抗値の変化する理由について説明する。
図5(a)と
図5(b)を用いて説明する例では、メタンガスで満たされた雰囲気を考えるが、他のエタンガス、プロパンガスなどの非極性ガスで雰囲気が構成されている場合も同様に考えることができる。
図5(a)に示されているように、酸化錫半導体45の周囲にメタンガス(CH
4)が存在しても、酸化錫半導体45のキャリア46の挙動には殆ど影響を与えないと考えられる。それに対して、
図5(b)に示されているように、酸化錫半導体45の周囲にメチルメルカプタン(CH
3SH)が存在して、酸化錫半導体45にメチルメルカプタン(CH
3SH)が吸着すると、メチルメルカプタンの影響によって、酸化錫半導体45のキャリア46が影響を受けると考えられる。その結果、酸化錫半導体45の電気伝導度が大きくなり、酸化錫半導体45の抵抗値が小さくなる。
【0018】
メチルメルカプタンは、単に酸化錫半導体45に吸着されているだけであることから、雰囲気をメタンガス(CH
4)のみの状態に変えると、従来のように酸化錫半導体45を加熱しなくても、徐々に酸化錫半導体45からメチルメルカプタンが脱離して、酸化錫半導体45の抵抗値が上昇する。例えば、従来の金属酸化物半導体の抵抗値の変化では、300℃以上の温度で酸素の乖離を生じさせなければ、本開示の金属酸化物半導体の抵抗値の変化のような金属酸化物半導体の抵抗値の顕著な上昇が見られない。
また、従来の金属酸化物半導体の抵抗値の変化が見られる場合の現象と、本開示の金属酸化物半導体の抵抗値の変化が見られる場合の現象との大きな違いは、金属酸化物半導体の周囲を通過した検知対象のガスの変化である。従来の金属酸化物半導体の抵抗値の変化が見られる場合には、化学変化を生じて、例えば、一酸化炭素(CO)が二酸化炭素(CO
2)に変化する。それに対して、本開示の金属酸化物半導体の抵抗値の変化が見られる場合には、化学変化が生じず、例えば、測定の前後でメチルメルカプタン(CH
3SH)が変化しない。
上述のように、
図5(a)に示されている状態から
図5(b)に示されている状態にかわることで、酸素が関与していなくても抵抗値に変化が生じる。従って、本開示のn型金属酸化物半導体の抵抗値の変化を測定することで、メタンガス、プロパンガス及びブタンガスなどの非極性ガスの中で、言い換えると、無酸素の状態で、t-ブチルメルカプタン(TBM)、ジメチルサルファイド(DMS)及びエチルメルカプタンなどの極性ガスを検知することができる。
【0019】
(2-3)金属酸化物半導体の雑ガスの抑制
無酸素中で、検知対象の極性ガスを検知する際に、第1触媒91(
図6参照)をn型金属酸化物半導体の周囲の雰囲気中の雑ガスに作用させることによって、第1触媒91により雑ガスがn型金属酸化物半導体の抵抗値に与える影響を抑制することができる。言い換えれば、この第1触媒91は、n型金属酸化物半導体の周囲の雑ガスに作用して、雑ガスに対するガスセンサ10の感度を低減させる機能を有している、ということである。第1触媒91をn型金属酸化物半導体15に適用するには、例えばn型金属酸化物半導体15に第1触媒91を担持させる。
図6には、第1触媒91の機能が模式的に示されており、
図6に示されている第1触媒91は、例えば貴金属触媒である。貴金属触媒には、例えば、パラジウム(Pd)、タングステン(W)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、セリウム(Ce)、モリブデン(Mo)及びバナジウム(V)がある。なお、
図6においては、酸化錫半導体45と第1触媒91とを離して記載しているが、このように記載したのは説明のためであって、
図6が実際の構造を現しているのではない。第1触媒91が作用する雑ガスの中には、例えば、検知対象外の極性ガスが含まれる。
図6に記載されているように、例えば、メチルメルカプタン(CH
3SH)が検知対象の極性ガス、メチルアルコール(CH
3OH)が雑ガスとしての極性ガスとする。この場合に、第1触媒91として貴金属触媒であるパラジウム(Pd)を用いることで、メチルメルカプタンも減少するが、それに比べて大幅にメタノールが減少する。その結果、対象ガスであるメチルメルカプタンの検知時に、メチルアルコールにより生じるノイズを低減できるので、メチルメルカプタンに対する感度が向上する。
【0020】
(2-4)金属酸化物半導体の対象ガスに対する感度の向上
無酸素中で、検知対象の極性ガスを検知する際に、第2触媒92(
図6参照)をn型金属酸化物半導体の周囲の雰囲気中の検知対象の極性ガスに作用させることによって、第2触媒92により検知対象の極性ガスがn型金属酸化物半導体の抵抗値に与える影響を大きくすることができる。言い換えれば、この第2触媒92は、n型金属酸化物半導体の周囲の検知対象の極性ガスに作用して、検知対象の極性ガスに対するガスセンサ10の感度を増加させる機能を有している、ということである。第2触媒92をn型金属酸化物半導体15に適用するには、例えばn型金属酸化物半導体15に第2触媒92を担持させる。
図7には、パラジウムを担持させたn型の酸化錫半導体の抵抗値の変化と、パラジウムとアンチモンを担持させた酸化錫半導体の抵抗値の変化とが示されている。
図7に示されている抵抗値は、商用ガスとして都市ガス13Aを用い、脱硫した都市ガス13Aと、脱硫していない都市ガス13Aを、例えば
図1のガス管101に流して、ガスセンサ10で測定したときの測定結果である。
図7の縦軸の抵抗値は、脱硫していない都市ガス13Aを流し始まる直前の脱硫した都市ガス13Aの中にあるガスセンサ10の抵抗値に対する比で示されている。言い換えれば、ガスセンサ10の抵抗値Rsを、横軸の時間0秒の時の値Rs0で除した値が、縦軸の値になる。
【0021】
図7において、0秒以前の期間Pe1が脱硫された都市ガス13Aがガス管101に流れている期間であり、0秒より後の期間Pe2が脱硫されていない都市ガス13Aがガス管101に流れている期間である。この期間Pe1には、ガスセンサ10が、メタンガス、エタンガス及びプロパンガスを含む非極性ガスの炭化水素ガスの雰囲気中にあり、ガスセンサ10には、検知対象の極性ガスであるt-ブチルメルカプタン、ジメチルサルファイド及びエチルメルカプタンが作用していない。他方、期間Pe2には、ガスセンサ10が、メタンガス、エタンガス及びプロパンガスを含む非極性ガスの炭化水素ガスの雰囲気中(無酸素状態の雰囲気中)にあって、ガスセンサ10に対して、検知対象の極性ガスであるt-ブチルメルカプタン、ジメチルサルファイド及びエチルメルカプタンが作用している。
実線で示されているグラフGh1は、パラジウムを担持させたn型の酸化錫半導体について、測定前に大気中で加熱した後に測定したときの抵抗値の変化を示している。一点鎖線で示されているグラフGh2は、パラジウムとアンチモンを担持させたn型の酸化錫半導体について、測定前に大気中で加熱した後に測定したときの抵抗値の変化を示している。二点鎖線で示されているグラフGh3は、パラジウムとアンチモンを担持させたn型の酸化錫半導体について、測定前に大気中で加熱せずに測定したときの抵抗値の変化を示している。
【0022】
図7のグラフGh1とグラフGh2,Gh3とを比較して分かるように、第2触媒92であるアンチモンを担持した酸化錫半導体で構成されているガスセンサ10は、第2触媒92であるアンチモンを担持していない酸化錫半導体で構成されているガスセンサ10に比べて、検知対象の極性ガスに対する感度(抵抗値の変化の割合)が向上している。
図8には、パラジウムを担持させたn型の酸化錫半導体とパラジウムとアンチモンを担持させたn型の酸化錫半導体について、ヒータでの加熱条件を変えたときの感度が示されている。パラジウムとアンチモンを担持させた酸化錫半導体については、加熱の有無に係わらず、無酸素の状態でも、検知対象のジメチルサルファイドなどに対して、高い感度が見られた。しかし、パラジウムを担持させた酸化錫半導体については、加熱しない場合には、検知対象のジメチルサルファイドなどに対して、十分な感度が得られなかった。
【0023】
(2-5)金属酸化物半導体からの検知対象の極性ガスの脱離
図9、
図10及び
図11には、金属酸化物半導体について、温度と金属酸化物半導体からの極性ガスの脱離量との関係が示されている。
図9~
図11に示されている検出された物質の脱離量は次のようにして得られたものである。乾燥空気中で熱処理した酸化錫半導体にメチルメルカプタンを室温で2時間30分吸着させて、ヘリウム(He)ガスで置換した後、反応管の中に入れた前述の酸化錫半導体を電気炉で昇温して、物質の脱離量を、質量分析で検出した。
図9が酸化錫のみの場合、
図10が酸化錫にパラジウムを添加した場合、
図11が酸化錫にパラジウムとアンチモンを添加した場合を示している。
図9~
図11において、縦軸のピーク強度が高いほど脱離量が多いことを示している。また、
図9~
図11において、グラフD1がメチルメルカプタン(CH
3SH)、グラフD2がジメチルスルフィド(CH
3SCH
3)、グラフD3が二酸化硫黄(SO
2)、グラフD4がジメチルスルフィド由来の物質と推定されるものを示している。
図9~
図11より、300℃付近で、硫黄化合物ガスの脱離が確認できた。これらのグラフの比較から、パラジウム触媒の効果でメチルメルカプタンの吸着量が増加し、アンチモン触媒の効果で吸着量がさらに増加していることが分かる。400℃以上では、酸化錫のみの場合、酸化錫にパラジウムを添加した場合及び酸化錫にパラジウムとアンチモンを添加した場合のいずれの場合もほぼ同等の硫黄化合物の脱離量が観察された。なお、グラフの記載は省略するが、200℃以下の低温においても脱離ピークが確認されたが、300℃付近の脱離量と比較すると、200℃以下の低温の脱離量は極めて少ない。
以上のことから、ガスセンサ10を繰り返し使用するために、ガスセンサ10を加熱してクリーニングするには、200℃以上の所定温度まで加熱すると効果的であることが分かる。また、クリーニング時間を短縮するには、300℃以上の所定温度まで加熱することが好ましい。
【0024】
(2-6)メチルメルカプタンに対するガスセンサ10の挙動
図12(a)と
図12(b)を用いて、ガスセンサ10をメリルメルカプタンに曝露して、その後にメチルメルカプタンを排気した場合のガスセンサ10の抵抗値の変化について説明する。
図12(b)には、
図12(a)の中の-4時間~6時間までのグラフが拡大して示されている。なお、
図12(a)に示された期間中、ガスセンサ10は常温に保たれていて加熱されていない。また、
図12(a)には4つのガスセンサ10のグラフが示されている。
図12(b)に示されている期間Pe11では、試験チャンバ内にガスセンサ10を設置し、試験チャンバを密閉している。この期間Pe11には、ガスセンサ10が大気に曝された。期間Pe12で、試験チャンバ内の空気が窒素(N
2)に置換された。期間Pe13では、ガスセンサ10が窒素雰囲気中に1時間放置されている。次の期間Pe14では、メチルメルカプタンが試験チャンバ内に注入されて、ガスセンサ10が80ppmのメチルメルカプタンに曝された。
そして、次に、窒素ガスが10分間だけ試験チャンバ内に流通させられ、メチルメルカプタンが試験チャンバから排気された(期間Pe15)。さらに、窒素で満たされた試験チャンバ内において、ガスセンサ10が74時間放置された(期間Pe16)。
図12(a)及び
図12(b)から分かるように、メチルメルカプタンの注入によって、ガスセンサ10の抵抗値が著しく減少した(期間Pe14)。期間Pe15,Pe16のガスセンサ10の抵抗値の回復から、メチルメルカプタンの脱離が生じていると考えられる。このような現象から、金属酸化物半導体への化学吸着ではなく金属酸化物半導体への物理吸着による抵抗値の低下が考えられる。
上記の結果から、ガスセンサ10を繰り返し使用するには、加熱するなどして、極性ガスをガスセンサ10から脱離させることが有効であることが分かった。
【0025】
(3)ガスセンサの構造
図3(a)~
図3(d)に示されているガスセンサ10とは、構造の異なるガスセンサ10の例を以下の(3-1)と(3-2)で説明する。
(3-1)ビーズ型のガスセンサ
図13には、ビーズ型のガスセンサ10の酸化錫半導体45の部分が示されている。
図13に示されているように、ガスセンサ10は、ビーズ状の酸化錫半導体45の中に、コイル状の第2白金リード線24と、コイル状の第2白金リード線24の中を通る直線状の第1白金リード線23とを備えている。
図13に示されているビーズ状の酸化錫半導体45と第1白金リード線23と第2白金リード線24を含む組立体は、次のように製造される。焼成された酸化錫に、第1触媒91及び第2触媒92が添加されて焼成され、そして粉砕される。その後、粉砕された酸化錫と第1触媒91と第2触媒92がペースト状にされて、第1白金リード線23と第2白金リード線24の間に付着され、ビーズ状に成形される。ペースト状の酸化錫と第1触媒91と第2触媒92が焼成されて、
図13に示されている状態の酸化錫半導体45と第1白金リード線23と第2白金リード線24が形成される。その際、第1白金リード線23及び第2白金リード線24は、
図14に示されている第1電極21及び第2電極22に接続される。第1電極21及び第2電極22は樹脂ベース28に固定されて支持されている。焼成後、キャップ29を被せてガスセンサ10の組み立てが完了する。キャップ29の状部の開口部29aには、通気性の高いメッシュ29bが被せられている。
上述のようにして形成された酸化錫半導体45は、多孔質になっている。そのため、検知対象の極性ガスに接触する面積が増えるので、極性ガスが酸化錫半導体45のキャリア46に及ぼす影響が増大して検知の感度が向上する。
【0026】
(3-2)プレート型のガスセンサ
図15(a)及び
図15(b)には、プレート型のガスセンサ10の酸化錫半導体45の部分が示されている。
図15(a)に示されている酸化錫半導体45は、厚膜印刷技術を用いて成形されている。この酸化錫半導体45も多孔質に形成されることが好ましい。このガスセンサ10では、例えば、一辺が2mmのアルミナ基板35の一方の主面上に例えば金(Au)からなる導電層36a,36bが設けられ、アルミナ基板35の他方の主面上に例えば金(Au)からなる導電層36a,36b,36c,36dが設けられている。一方と他方の主面上に設けられた導電層36aは互いに電気的に接続され、一方と他方の主面上に設けられた導電層36bは互いに電気的に接続されている。導電層36aにはリード線37aが接続され、導電層36bにはリード線37bが接続され、導電層36cにはリード線37cが接続され、導電層36dにはリード線37dが接続されている。リード線37a~37dは、例えば貴金属合金からなる。リード線37a~37dは、例えばスポット溶接によりそれぞれ導電層36a~36dに接続される。
アルミナ基板35の他方の主面上には、酸化ルテニウムまたは白金の厚膜が印刷されてなるヒータ38が設けられている。
【0027】
図16に示されているように、酸化錫半導体45とアルミナ基板35と導電層36a~36dとリード線37aとヒータ38を含む組立体は、第1電極31、第2電極32、第3電極33及び第4電極34が固定されて支持されている樹脂ベース39に固定される。リード線37a~37dは、
図16に示されている第1電極31、第2電極32、第3電極33及び第4電極34に接続される。その後、キャップ40を被せてガスセンサ10の組み立てが完了する。キャップ40の状部の開口部40aには、通気性の高いメッシュ40bが被せられている。
なお、ガスセンサ10は、
図17(a)及び
図17(b)に示されているように、ヒータ38を設けない構成も可能である。ヒータ38を設けない場合には、ヒータ38を形成するための材料、導電層36c,36dを形成するための材料及びリード線37c,37dを形成するための材料を省いて、ガスセンサ10の製造コストを削減することができる。
【0028】
(4)ガス検知装置
(4-1)
図18には、
図14に示されているビーズ型のガスセンサ10を用いたガス検知装置200が示されている。ガス検知装置200は、ガスセンサ10と、定電圧回路210と、スイッチング素子220と、負荷抵抗230と、コントローラ250とを備えている。
定電圧回路210は、商用の交流電源290に接続されている。定電圧回路210は、交流電源290から供給される交流電圧を整流して+側の出力端子211と-側の出力端子212の間に直流電圧Vcを発生させる。スイッチング素子221,222には、例えば、pnp型のトランジスタを用いることができる。スイッチング素子221,222のエミッタが、定電圧回路210の+側の出力端子211に接続されている。スイッチング素子221のコレクタがガスセンサ10の2つの第2電極22のうちの一方に接続され、ベースが抵抗241を介して駆動回路254に接続されている。スイッチング素子222のコレクタが負荷抵抗230の一方端に接続されている。スイッチング素子222のベースが抵抗242を介して駆動回路254に接続されている。ガスセンサ10の第2電極22のうちの他方は、定電圧回路210の-側の出力端子212に接続されている。ガスセンサ10の第1電極21は、負荷抵抗230の他方端とA/D変換回路255とに接続されている。
従って、スイッチング素子221がオン状態になると、ガスセンサ10の第2電極22の一方から他方に向かって電流が流れ、ガスセンサ10において発熱が発生する。また、スイッチング素子222がオン状態になると、負荷抵抗230とガスセンサ10に電圧Vcが印加され、ガスセンサ10の第1電極21からガスセンサ10の酸化錫半導体45(
図13及び
図15(a)参照)を通って他方の第2電極22に電流が流れる。
【0029】
コントローラ250は、中央演算処理回路251と、メモリ252と、出力回路253と、駆動回路254と、A/D変換回路255とを備えている。中央演算処理回路251には、例えばCPUを用いることができる。コントローラ250の駆動回路254は、中央演算処理回路251からの命令を受信して、スイッチング素子221,222のオン状態とオフ状態とを切替えるために、スイッチング素子221,222に対するパルス信号をそれぞれ出力する。A/D変換回路255は、負荷抵抗230の両端に発生する電圧の値をデジタル信号に変換して中央演算処理回路251に送信する。メモリ252には、スイッチング素子221,222の動作及び負荷抵抗230の両端電圧と検知対象の極性ガスの有無との関係を示すデータが記憶されている。出力回路253は、例えば警報ランプ、警報ブザー、表示装置などの外部の出力装置(図示せず)に対して、検知対象の極性ガスが検知されたことを示す信号を出力する。なお、スイッチング素子222のオン抵抗が負荷抵抗230に対して十分に小さく設定されており、検知対象の極性ガスを検知する際には、スイッチング素子222のオン抵抗を無視することができる。
【0030】
(4-2)
ガスセンサ10が
図16に示されているように、第1電極31~第4電極34を持っている場合に、例えば
図19に示されているようなガス検知装置200を構成することもできる。
図18に示されているガス検知装置200と、
図19に示されているガス検知装置200は、ガスセンサ10とスイッチング素子のタイプが異なり、接続関係が異なるだけである。
そこで、ここでは、
図19のガス検知装置200のガスセンサ10とスイッチング素子223,224と抵抗243,244の接続関係を説明する。スイッチング素子223,224には、例えば、npn型のトランジスタを用いることができる。スイッチング素子223,224のエミッタが、定電圧回路210の-側の出力端子212に接続されている。スイッチング素子223のコレクタがガスセンサ10の第3電極33に接続され、ベースが抵抗243を介して駆動回路254に接続されている。スイッチング素子224のコレクタが負荷抵抗230の一方端に接続されている。スイッチング素子224のベースが抵抗242を介して駆動回路254に接続されている。ガスセンサ10の第1電極31は、負荷抵抗230の他方端とA/D変換回路255とに接続されている。ガスセンサ10の第2電極32及び第4電極34が、定電圧回路210の+側の出力端子211に接続されている。
【0031】
(4-3)
上述の(4-1)及び(4-2)では、ガスセンサ10を加熱する構成を持つガス検知装置200について説明したが、ガスセンサ10を加熱する構成を省いてもよい。例えば、ガスセンサ10が検知対象の極性ガスを一度検知したら新しいガスセンサ10に交換するような場合である。例えば、
図20及び
図21に示されているように、ガスセンサ10のヒータ機能を不能にすればよく、ここでは、
図20及び
図21に示されている構成を持つガス検知装置200の詳細については説明を省略する。
【0032】
(5)ガス検知方法
(5-1)加熱しない場合
ここでは、
図20に示されているガス検知装置200を用いたガス検知方法を例に挙げて説明する。
図22に、ガス検知装置200を用いたガス検知方法のフローの一例が示されている。
まず、ガスセンサ10を酸素以外の非極性ガスの雰囲気の中に設置する(ステップST1)。例えば、
図2に示されているガス管101にガスセンサ10を設置して、ガス管101の中に非極性ガスを流通させる。非極性ガスとしては、例えば都市ガス、プロパンガス及び天然ガスのような炭化水素を主成分とするガスがある。ガス管101の中に都市ガスを流通させる場合には、ガスセンサ10がメタンガスを主とする非極性ガスの雰囲気の中に設置される。ガスセンサ10として酸化錫半導体45を用いる場合にはガスセンサ10の抵抗値が水分によっても変化するため、水分を取り除くフィルタを設けることが好ましい。しかしながら、都市ガスのように雰囲気中に水分を殆ど含まない場合には、ガスセンサ10によるガス検知において、水分を除去する手段を省くことができる。
【0033】
次に、検知対象の極性ガスが含まれない非極性ガスの雰囲気の中における基準抵抗値を得る(ステップST2)。このとき、ガスセンサ10の温度は、非極性ガスの雰囲気の温度と同じになっている。非極性ガスの雰囲気の温度は、100℃未満の所定温度範囲にあるので、ガスセンサ10の温度も100℃未満の所定温度範囲の雰囲気と実質的に等しい温度になる。検知対象の極性ガスを検知するときのガスセンサ10の抵抗値の変化は、
図12(b)に示されているように、抵抗値の桁が異なるほど大きく変化する。そのため、変化前と変化後の抵抗値の比を取って検知対象の極性ガスを検知すると、変化後の抵抗値と閾値を比べて検知するのに比べて、誤検知を少なくすることができる。
例えば、
図2のガス管101が外気温度(日本国内で通常観測される外気温度範囲、例えば-40℃~50℃の中の任意の温度、例えば20℃)になっているとする。この場合、ガス管101が日本国内で用いられるとすると、-40℃~50℃が100℃未満の所定温度範囲の一例である。ガス検知装置200は、
図23に示されているようなパルス信号を、駆動回路254がスイッチング素子224に出力する。パルス信号がハイになっている時間(電圧がVcになっている時間)は、例えば5msであり、パルス信号がローになっている時間(電圧が0Vになっている時間)は、例えば1時間である。ガスセンサ10の抵抗値の測定は、パルス信号がハイで、スイッチング素子222がオン状態になったときに行われる。A/D変換回路255から中央演算処理回路251に、負荷抵抗230に発生した電圧の値がデジタル信号に変換して送信される。中央演算処理回路251では、負荷抵抗230に発生した電圧の値V
RLからガスセンサ10の抵抗値Rsが算出される。例えば、Rs=(Vc/V
RL-1)×RLのような計算を行うことで、抵抗値Rsが得られる。測定された抵抗値Rsは、例えば、メモリ252に記憶されている標準的な基準抵抗値Rs00と比較される。測定された抵抗値Rsが、標準的な基準抵抗値Rs00と比較して適切なものであれば、メモリ252に基準抵抗値Rs0として記憶され、次回の検知のときに用いられる。
【0034】
次に、所定温度範囲において非極性ガスの雰囲気の中における第1電極と第2電極の間の抵抗値と基準抵抗値とを比較して非極性ガスの雰囲気の中に混じった極性ガスを検知する(ステップST3)。例えば、ガス検知装置200は、基準抵抗値Rs0を記憶した次の測定で測定された抵抗値Rsを、メモリ252に記憶されている基準抵抗値Rs0と比較する。ガス検知装置200が行う抵抗値Rsの測定は、ステップST2と同様に行われる。
図7及び
図12(a)を用いて説明したように、もし、検知対象の極性ガスが混じっていると抵抗値が大きく減少する。ガス検知装置200は、中央演算処理回路251で算出された(測定した抵抗値Rs)÷(基準抵抗値Rs)が5分の1以下になったら極性ガスが混じったと判断する。
【0035】
(5-2)加熱する場合
図18または
図19に示されているガス検知装置200を用いて、ヒータ38などを用いてガスセンサ10の加熱を行うように構成することができる。
図18または
図19のガス検知装置200において、第1電極21,31と第2電極22,32の間の抵抗値を測定する場合、
図24に示されている実線のパルス信号で、スイッチング素子222,224を駆動し、一点差線のパルス信号で、スイッチング素子221,223を駆動する。
スイッチング素子221,223を駆動することで、
図18の第2白金リード線24が発熱し、
図19のヒータ38が発熱する。
図18の第2白金リード線24の発熱または
図19のヒータ38の発熱により、酸化錫半導体45が加熱されるが、酸化錫半導体45の温度が100℃未満になるように構成されてもよい。ガス検知の温度を、100℃未満で極性ガスを検知しやすい温度に保つことにより、ガス検知を安定化させることができる。このような場合には、温度に応じて適切な電力が第2白金リード線24またはヒータ38に与えられるように、気温による出力調節の機能をガス検知装置200に組み込んでもよい。
また、100℃以上200℃未満でガス検知の感度を向上させられる場合には、ガス検知の感度を向上させるために、
図18の第2白金リード線24の発熱または
図19のヒータ38の発熱を用いてもよい。
【0036】
また、酸化錫半導体45をクリーニングするために、
図18の第2白金リード線24の発熱または
図19のヒータ38の発熱を用いてもよい。この場合には、一点鎖線で示されたパルス信号のパルス幅を、クリーニングに適した温度に酸化物半導体が保てるように、増加させてもよい。
【0037】
(6)特徴
(6-1)
非極性ガスであるメタンガス、エタンガス及びプロパンガスなどの炭化水素ガスが充満している無酸素状態の中で、100℃未満の比較的低い温度で、検知対象の極性ガスであるt-ブチルメルカプタン(TBM)、ジメチルサルファイド(DMS)及びエチルメルカプタンなどの硫黄化合物ガスが非極性ガスの雰囲気中に混じっていることを、n型金属酸化物半導体である酸化錫半導体45の抵抗値が小さくなったことにより検知できる。その結果、酸素の無い雰囲気中でも極性ガスの検知について良好な応答性を発揮することができる。
非極性ガスは、炭化水素以外に、例えば窒素ガス、二酸化炭素、不活性ガスであってもよい。炭化水素ガスは、例えば芳香族であってもよい。また、極性ガスは、硫黄化合物ガス以外のガスであってもよく、例えば一酸化炭素、アルコールであってもよい。
(6-2)
極性ガスが、硫黄化合物ガスであり、非極性ガスが、炭化水素ガスである場合には、例えば都市ガスのような商用ガスのガス流の中の無酸素状態で、例えば商用ガスに付臭剤として添加されている硫黄化合物ガスを検知するのに用いることができる。そして、100℃未満の低い温度でガス検知を行うことで、安全性が向上する。
【0038】
(6-3)
図20及び
図21に示したようなヒータを有しないガス検知装置200を用いるなどして、ガスセンサ10を加熱せずに第1電極21,31と第2電極22,32の間の抵抗値を測定している。ガスセンサ10を加熱しないことから測定の際の安全性を高められるとともに、酸化錫半導体45が多孔質であることから多孔質でない場合に比べて感度が向上して、検知対象の極性ガスを精度良く検知することができる。なお、酸化錫半導体45以外のn型金属酸化物半導体15でも多孔質にすることが好ましい。
(6-4)
検知対象の極性ガスを検知する前に、200℃以上の温度でガスセンサ10をクリーニングすると、n型金属酸化物半導体15に付着した極性ガスの脱離を促進することができることから、繰り返し良好な精度で極性ガスを検出することができるようになる。
(6-5)
上述のガスセンサ10のように、n型金属酸化物半導体の周囲の雰囲気の少なくとも一部に対して作用して、検知対象の極性ガス以外のガスに対する感度を低減させるパラジウムのような第1触媒91(
図6参照)を備えていると、検知対象の極性ガス以外のガスによって第1電極21,31と第2電極22,32の間の抵抗値が変化するノイズが低減される。例えば、
図6で説明した例では、メチルメルカプタンが検知対象の極性ガスであり、メチルアルコールが検知対象の極性ガス以外の雑ガスである。その結果、ガスセンサ10において、検知対象の極性ガスを検知するときの精度が向上する。
【0039】
(6-6)
上述のガスセンサ10のように、n型金属酸化物半導体の周囲の雰囲気の少なくとも一部に対して作用して、検知対象の極性ガスに対する感度を増加させるアンチモンのような第2触媒92(
図6参照)を備えていると、検知対象の極性ガスに対する感度が向上して、検知対象の極性ガスを検知し易くなる。
図6で説明した例では、メチルメルカプタンが検知対象の極性ガスである。アンチモンのような第2触媒92は、メチルメルカプタン以外の極性ガスにも効果が有る。例えば硫黄化合物ガスであり且つ極性ガスである他のガスにも効果がある。このようなガスとしては、例えば、ジメチルサルファイドがある。
(7)変形例
(7-1)変形例A
上記実施形態では、n型金属酸化物半導体15または酸化錫半導体45に雰囲気を直接曝す場合について説明したが、フィルタを通過した雰囲気に曝すように構成してもよい。この場合、フィルタで水分、雑ガスを除去することが好ましい。
(7-2)変形例B
上記実施形態では、n型金属酸化物半導体15を用いる場合について説明したが、n型金属酸化物半導体15に代えて、p型金属酸化物半導体を用いてもよい。
(7-3)変形例C
上記実施形態では、非極性ガスであるメタンガス、エタンガス及びプロパンガスなどの炭化水素ガスが充満している無酸素状態の中で、100℃未満の比較的低い温度で、検知対象の極性ガスであるTBM、DMS及びエチルメルカプタンなどの硫黄化合物ガスが非極性ガスの雰囲気中に混じっていることを検知する場合について説明した。しかし、非極性ガスは炭化水素ガスには限られない。また、非極性ガスも硫黄化合物ガスには限られない。例えば、
図1に示されている改質器130が供給する水素ガスを非極性ガスとして、水素ガスに混入した一酸化炭素(CO)を検知する場合にも、n型金属酸化物半導体を第1電極と第2電極の間に直列に接続したガスセンサを用いることができる。この場合、ガスセンサ10は、例えば、改質器130の下流のガス管102に取り付けられる。
【符号の説明】
【0040】
10 ガスセンサ
15 n型金属酸化物半導体
21,31 第1電極
22,32 第2電極
45 酸化錫半導体
200 ガス検知装置