IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ IDEC株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ウルトラファインバブル生成方法 図1
  • 特許-ウルトラファインバブル生成方法 図2
  • 特許-ウルトラファインバブル生成方法 図3
  • 特許-ウルトラファインバブル生成方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】ウルトラファインバブル生成方法
(51)【国際特許分類】
   B01F 23/2375 20220101AFI20230530BHJP
   B01F 25/312 20220101ALI20230530BHJP
【FI】
B01F23/2375
B01F25/312
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018239205
(22)【出願日】2018-12-21
(65)【公開番号】P2020099862
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-10-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000309
【氏名又は名称】IDEC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】小林 秀彰
【審査官】山田 陸翠
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/168912(WO,A1)
【文献】特開2010-089055(JP,A)
【文献】特開2014-104441(JP,A)
【文献】特開平10-192860(JP,A)
【文献】国際公開第2015/182647(WO,A1)
【文献】特開2016-123925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 21/00-25/90
C02F 1/66- 1/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気伝導率が0.2mS/cm以上である対象液中にウルトラファインバブルを生成するウルトラファインバブル生成方法であって、
a)電気伝導率が0.2mS/cm以上である対象液に対して、前記対象液の1×10 -3 質量%以下の界面活性剤を添加して界面活性剤入り対象液を生成する工程と、
b)加圧された状態の前記界面活性剤入り対象液気体を混合して混合流体を生成する工程と、
c)前記界面活性剤入り対象液中に前記気体のウルトラファインバブルを生成し、前記ウルトラファインバブルを含むウルトラファインバブル液を送出する工程と、
を備えることを特徴とするウルトラファインバブル生成方法。
【請求項2】
請求項1に記載のウルトラファインバブル生成方法であって、
前記c)工程にて送出される前記ウルトラファインバブル液に含まれる前記ウルトラファインバブルの濃度は、前記混合流体から前記界面活性剤が除かれている場合に比べて、2倍以上であることを特徴とするウルトラファインバブル生成方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のウルトラファインバブル生成方法であって、
前記b)工程と前記c)工程との間において、前記混合流体中の前記気体を大気圧よりも圧力が高い加圧環境にて前記界面活性剤入り対象液に加圧溶解させて加圧液を生成する工程をさらに備え、
前記c)工程において、前記加圧液から前記ウルトラファインバブル液を生成して送出することを特徴とするウルトラファインバブル生成方法。
【請求項4】
請求項1ないしのいずれか1つに記載のウルトラファインバブル生成方法であって、
前記界面活性剤は、非イオン系界面活性剤であることを特徴とするウルトラファインバブル生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウルトラファインバブル生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、直径が1mm(ミリメートル)以下の気泡を含む液体が多様な分野で利用されている。また、最近では、直径が1μm(マイクロメートル)未満の気泡(ウルトラファインバブル)を含む液体が、多様な分野において注目されており、当該液体を生成する装置が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、気体および加圧された液体を導入する導入部と、導入部から導入された気体を液体に加圧溶解させて加圧液を生成する加圧液生成容器と、加圧液生成容器内を大気圧よりも圧力が高い加圧環境とするとともに加圧液生成容器から供給された加圧液からファインバブルを含む液体を生成して排出する排出部と、を備えるファインバブル液生成装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-181976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ウルトラファインバブル液の生成に利用される液体の種類によっては、ウルトラファインバブルが生成されにくく、所望の濃度までウルトラファインバブルを生成することが難しい場合がある。本願発明者は、鋭意研究した結果、液体の電気伝導率が高い場合、当該液体中にウルトラファインバブルが生成されにくい、という知見を得た。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、電気伝導率が高い液体にウルトラファインバブルを好適に生成することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、電気伝導率が0.2mS/cm以上である対象液中にウルトラファインバブルを生成するウルトラファインバブル生成方法であって、a)電気伝導率が0.2mS/cm以上である対象液に対して、前記対象液の1×10 -3 質量%以下の界面活性剤を添加して界面活性剤入り対象液を生成する工程と、b)加圧された状態の前記界面活性剤入り対象液気体を混合して混合流体を生成する工程と、c)前記界面活性剤入り対象液中に前記気体のウルトラファインバブルを生成し、前記ウルトラファインバブルを含むウルトラファインバブル液を送出する工程と、を備える
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のウルトラファインバブル生成方法であって、前記c)工程にて送出される前記ウルトラファインバブル液に含まれる前記ウルトラファインバブルの濃度は、前記混合流体から前記界面活性剤が除かれている場合に比べて、2倍以上である。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のウルトラファインバブル生成方法であって、前記b)工程と前記c)工程との間において、前記混合流体中の前記気体を大気圧よりも圧力が高い加圧環境にて前記界面活性剤入り対象液に加圧溶解させて加圧液を生成する工程をさらに備え、前記c)工程において、前記加圧液から前記ウルトラファインバブル液を生成して送出する。
【0014】
請求項に記載の発明は、請求項1ないしのいずれか1つに記載のウルトラファインバブル生成方法であって、前記界面活性剤は、非イオン系界面活性剤である。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、電気伝導率が高い液体にウルトラファインバブルを好適に生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】一の実施の形態に係るウルトラファインバブル液生成装置の断面図である。
図2】ウルトラファインバブル液の生成の流れを示す図である。
図3】混合ノズルの拡大断面図である。
図4】ウルトラファインバブル生成ノズルの拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の一の実施の形態に係るウルトラファインバブル液生成装置1の構成を示す図である。図1では、ウルトラファインバブル液生成装置1の一部の構成を断面にて描いている。「ウルトラファインバブル」とは、直径が1μm(マイクロメートル)未満の気泡であり、ナノバブルとも呼ばれる。以下の説明では、ウルトラファインバブルを「UFB」とも呼ぶ。また、ウルトラファインバブル液およびウルトラファインバブル液生成装置をそれぞれ、「UFB液」および「UFB液生成装置」とも呼ぶ。
【0018】
UFB液生成装置1は、液体と気体とを混合して、当該気体のUFBを含む液体であるUFB液を生成する装置である。UFB液生成装置1は、混合部31と、加圧液生成容器32と、液送出部2と、貯溜部5と、ポンプ33と、循環部6と、気体供給部34とを備える。
【0019】
混合部31は、加圧液生成容器32の上部に接続される。混合部31には、気体供給部34が接続される。液送出部2は、加圧液生成容器32の下部に接続される。また、液送出部2は、第1配管52を介して貯溜部5の貯溜槽51に接続される。貯溜槽51にはポンプ33が取り付けられる。ポンプ33は、循環部6の第2配管61を介して混合部31に接続される。貯溜部5の貯溜槽51には、UFBが生成される対象である液体(以下、「対象液」と呼ぶ。)に微量の界面活性剤が添加された液体が貯溜されている。
【0020】
対象液は、例えば、純水に電解質が溶解した電解質溶液である。対象液の電気伝導率は、例えば0.2mS/cm以上である。対象液の電気伝導率の上限は特に限定されない。なお、対象液の種類は様々に変更されてよい。
【0021】
界面活性剤は、イオン系界面活性剤(すなわち、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤または両性界面活性剤)であってもよく、非イオン系界面活性剤であってもよい。本実施の形態では、非イオン系界面活性剤が対象液に添加される。対象液に対する界面活性剤の割合は、例えば1×10-5質量%以上である。また、対象液に対する界面活性剤の割合の上限は特に限定されないが、例えば1×10-3質量%以下である。
【0022】
次に、図2を参照しつつ、UFB液生成装置1によるUFB液の生成の流れについて説明する。UFB液生成装置1の各構成の詳細については後述する。UFB液生成装置1では、まず、ポンプ33により、貯溜槽51に貯溜されている液体が、第2配管61を介して混合部31へと圧送される。また、気体供給部34により、混合部31に気体(例えば、空気)が供給される。気体供給部34は、例えば、大気圧よりも高圧に加圧された状態の空気を混合部31へと圧送するコンプレッサである。混合部31では、ポンプ33から加圧された状態で供給される上記液体(すなわち、界面活性剤が添加された対象液)と、気体供給部34から加圧された状態で供給される気体とが混合され、混合流体が生成される(ステップS11)。
【0023】
混合部31により生成された混合流体は、加圧液生成容器32内へと噴出(すなわち、供給)される。加圧液生成容器32内は、大気圧よりも圧力が高い加圧環境である。加圧液生成容器32では、混合流体中の上記気体が対象液(詳細には、界面活性剤が添加された対象液)中に加圧溶解し、加圧液が生成される(ステップS12)。
【0024】
加圧液生成容器32内において生成された加圧液は、液送出部2に供給される。液送出部2では、加圧液生成容器32から供給された加圧液中に上記気体のUFBが生成され、当該UFBを含むUFB液が生成される。当該UFB液は、液送出部2から第1配管52を介して貯溜部5の貯溜槽51へと送出され(ステップS13)、貯溜槽51にて一時的に貯溜される。
【0025】
UFB液生成装置1では、貯溜槽51に貯溜されている液体が、ポンプ33により、循環部6を介して連続的に混合部31へと供給され、加圧液生成容器32および液送出部2を通過して、貯溜槽51へと戻される。すなわち、ステップS13において液送出部2から送出されたUFB液は、循環部6により混合部31へと戻され(すなわち、循環され)、再度ステップS11~S13が行われる(ステップS14,S15)。UFB液生成装置1では、ステップS11~S15が繰り返されることにより、UFB液中のUFBの濃度が増大し、所定濃度のUFBを含むUFB液が生成される(ステップS14)。そして、ポンプ33が停止され、UFB液生成装置1における液体の循環が停止される。UFBは、液体中において長時間存在可能であるため、上記循環の停止後(すなわち、UFBの生成停止後)も、貯溜槽51内のUFB液中に長時間存在し続ける。
【0026】
UFB液中のUFBの「濃度」とは、液体が単位体積当たりに含有するUFBの個数を指す。液体中のUFBの個数は、例えば、レーザ回折・散乱法により測定される。本実施の形態では、株式会社島津製作所製のレーザ回折式粒子径分布測定装置SALD-7500X10により、UFBの個数を測定する。
【0027】
UFB液生成装置1にて生成されたUFB液中のUFBの濃度は、例えば1億個/ml(ミリリットル)以上である。UFB液に含まれるUFBの直径は、主に200nm(ナノメートル)以下である。単位体積辺りのUFB液に含まれるUFBの個数に注目すると、直径が50nm以上かつ200nm以下のUFBの個数は、例えば、全UFBの個数の80%以上かつ100%以下である。
【0028】
上述のステップS14では、例えば、UFB液生成装置1におけるUFB液の循環回数と、UFB液中のUFBの濃度との関係が予め求められており、循環回数が所定数(例えば、10回)に達すると、UFBの濃度が所定濃度に到達したと判断される。具体的には、例えば、ポンプ33の流量および稼働時間に基づいて求められたポンプ33からの液体の総送出量が、UFB液生成装置1内の液体の総量の上記所定数倍(例えば、10倍)におよそ等しくなったときに、循環回数が所定数に達したと判断され、UFBの濃度が所定濃度に到達したと判断される。なお、UFB液生成装置1内の液体の総量とは、貯溜槽51内の液体の体積と、貯溜槽51の外部を循環している液体(すなわち、第2配管61、混合部31、加圧液生成容器32、液送出部2および第1配管52内の液体)の体積との合計である。なお、ステップS14では、貯溜槽51内の液体の一部が試料として取り出され、当該試料中のUFBの濃度が、上述の測定装置等により測定されてもよい。
【0029】
図3は、混合部31を拡大して示す断面図である。混合部31は、上述のように、液体と気体とを混合して混合流体を生成する混合ノズルである。混合部31は、液体流入口311と、気体流入口319と、混合流体噴出口312とを備える。液体流入口311は、第2配管61(図1参照)を介してポンプ33に接続される。気体流入口319は、気体供給部34に接続される。混合流体噴出口312は、加圧液生成容器32の上端部に接続される。
【0030】
液体流入口311からは、ポンプ33により供給される加圧された状態の液体(すなわち、界面活性剤が添加された対象液)が流入する。気体流入口319からは、気体供給部34により供給される加圧された状態の気体が流入する。混合流体噴出口312からは、液体流入口311から流入した液体と、気体流入口319から流入した気体とが混合された混合流体72(図1参照)が噴出する。液体流入口311、気体流入口319および混合流体噴出口312はそれぞれ略円形である。
【0031】
混合部31では、液体流入口311から混合流体噴出口312に向かうノズル流路310の流路断面、および、気体流入口319からノズル流路310に向かう気体流路3191の流路断面も略円形である。流路断面とは、ノズル流路310や気体流路3191等の流路の中心軸に垂直な断面、すなわち、流路を流れる流体の流れに垂直な断面を意味する。また、以下の説明では、流路断面の面積を「流路面積」という。ノズル流路310は、流路面積が流路の中間部で小さくなるベンチュリ管状である。
【0032】
混合部31は、液体流入口311から混合流体噴出口312に向かって順に連続して配置される導入部313と、第1テーパ部314と、喉部315と、気体混合部316と、第2テーパ部317と、導出部318とを備える。混合部31は、また、内部に気体流路3191が設けられた気体流入部3192を備える。
【0033】
導入部313では、流路面積は、ノズル流路310の中心軸J1方向の各位置においてほぼ一定である。第1テーパ部314では、液体の流れる方向に向かって(すなわち、下流に向かって)流路面積が漸次減少する。喉部315では、流路面積はほぼ一定である。喉部315の流路面積は、ノズル流路310において最も小さい。なお、ノズル流路310では、喉部315において流路面積が僅かに変化する場合であっても、流路面積がおよそ最も小さい部分全体が喉部315と捉えられる。気体混合部316では、流路面積はほぼ一定であり、喉部315の流路面積よりも少し大きい。第2テーパ部317では、下流に向かって流路面積が漸次増大する。導出部318では、流路面積はほぼ一定である。気体流路3191の流路面積もほぼ一定であり、気体流路3191は、ノズル流路310の気体混合部316に接続される。
【0034】
混合部31では、液体流入口311からノズル流路310に流入した液体が、喉部315で加速されて静圧が低下し、喉部315および気体混合部316において、ノズル流路310内の圧力が気体流入口319内の圧力よりも低くなる。また、気体流入口319から気体流路3191に流入した気体は、当該圧力低下により加速されつつ気体混合部316に流入し、液体と混合されて混合流体が生成される。当該混合流体は、第2テーパ部317および導出部318において減速されて静圧が増大し、混合流体噴出口312を介して上述のように図1に示す加圧液生成容器32内に噴出される。
【0035】
UFB液生成装置1では、混合部31から加圧された液体および気体が加圧液生成容器32内に噴出される。また、加圧液生成容器32の出口は、液送出部2により絞られている。このため、加圧液生成容器32内が加圧されて、大気圧よりも圧力が高い状態(以下、「加圧環境」という。)となっている。換言すれば、液送出部2は、加圧液生成容器32内を加圧環境とする機能を有している。加圧液生成容器32では、上述のように、混合部31から噴出された混合流体72が加圧環境下にて流れる間に、気体が液体に加圧溶解して加圧液が生成される。
【0036】
図1に示す例では、加圧液生成容器32は、上下方向に積層される第1流路321と、第2流路322と、第3流路323と、第4流路324と、第5流路325とを備える。以下の説明では、第1流路321、第2流路322、第3流路323、第4流路324および第5流路325をまとめて指す場合、「流路321~325」と呼ぶ。流路321~325は、水平方向に延びる管路であり、流路321~325の長手方向に垂直な断面は略矩形である。
【0037】
第1流路321の上流側の端部(すなわち、図1中の左側の端部)には、上述の混合部31が取り付けられており、混合部31から噴出された後の混合流体72は、加圧環境下にて図1中の右側に向かって流れる。図1に示す例では、第1流路321内の混合流体72の液面より上方にて、混合部31から混合流体72が噴出される。混合部31から噴出された直後の混合流体72は、第1流路321の下流側の壁面(すなわち、図1中の右側の壁面)に衝突する前に上記液面に直接衝突する。
【0038】
加圧液生成容器32では、混合部31の混合流体噴出口312(図3参照)の一部または全体が、第1流路321内の混合流体72の液面よりも下側に位置してもよい。これにより、上述と同様に、第1流路321内において、混合部31から噴出された直後の混合流体72が、第1流路321内を流れる混合流体72に直接衝突する。
【0039】
第1流路321の下流側の端部の下面には、略円形の開口321aが設けられており、第1流路321を流れる混合流体72は、第1流路321の下方に位置する第2流路322へと開口321aを介して落下する。第2流路322では、第1流路321から落下した混合流体72が加圧環境下にて図1中の右側から左側へと流れ、第2流路322の下流側の端部の下面に設けられた略円形の開口322aを介して、第2流路322の下方に位置する第3流路323へと落下する。第3流路323では、第2流路322から落下した混合流体72が加圧環境下にて図1中の左側から右側へと流れ、第3流路323の下流側の端部の下面に設けられた略円形の開口323aを介して、第3流路323の下方に位置する第4流路324へと落下する。図1に示すように、第1流路321~第4流路324では、混合流体72は、気泡を含む液体の層と、その上方に位置する気体の層に分かれている。
【0040】
第4流路324では、第3流路323から落下した混合流体72が加圧環境下にて図1中の右側から左側へと流れ、第4流路324の下流側の端部の下面に設けられた略円形の開口324aを介して、第4流路324の下方に位置する第5流路325へと流入(すなわち、落下)する。第5流路325では、第1流路321~第4流路324とは異なり、気体の層は存在しておらず、第5流路325内に充満する液体内において、第5流路325の上面近傍に気泡が僅かに存在する状態となっている。第5流路325では、第4流路324から流入した混合流体72が加圧環境下にて図1中の左側から右側へと流れる。
【0041】
加圧液生成容器32では、流路321~325を、段階的に緩急を繰り返しつつ上から下に流れ落ちる(すなわち、水平方向への流れと下方向への流れとを交互に繰り返しつつ流れる)混合流体72において、気体が液体に徐々に加圧溶解する。第5流路325においては、液体中に溶解している気体の濃度は、加圧環境下における当該気体の(飽和)溶解度の60%~90%にほぼ等しい。そして、液体に溶解しなかった余剰の気体が、第5流路325内において、視認可能な大きさの気泡として存在している。上下に隣接する流路321~325における混合流体72の流れの方向が逆向きであることにより、加圧液生成容器32の小型化が実現される。なお、加圧液生成容器32では、上下に積層される流路の数は適宜変更されてよい。
【0042】
加圧液生成容器32は、第5流路325の下流側の上面から上方へと延びる余剰気体分離部326をさらに備える。余剰気体分離部326には混合流体72が充満している。余剰気体分離部326の上下方向に垂直な断面は略矩形であり、余剰気体分離部326の上端部は、圧力調整用の絞り部327を介して大気開放されている。第5流路325を流れる混合流体72の気泡は、余剰気体分離部326内を上昇して大気中に放出される。
【0043】
このようにして、混合流体72の余剰な気体が混合流体72の一部と共に分離されることにより、少なくとも容易に視認できる大きさの気泡を実質的に含まない加圧液が生成され、第5流路325の下流側の端部に直接的に接続された液送出部2へと供給される。本実施の形態では、加圧液には、大気圧下における気体の(飽和)溶解度の約2倍以上の気体が溶解している。加圧液生成容器32において流路321~325を流れる混合流体72の液体は、生成途上の加圧液と捉えることもできる。
【0044】
図4は、液送出部2を拡大して示す断面図である。液送出部2は、内部のノズル流路20を流れる液体(すなわち、加圧液)中にUFBを生成するUFB生成ノズルである。図4に示す例では、液送出部2は、3つのノズル28が直列に接続された多段ノズルである。なお、液送出部2のノズル28の段数は、1段であってもよく、複数段であってもよい。液送出部2は、液体流入口21と、液体送出口22とを備える。液体流入口21からは、加圧液生成容器32の第5流路325(図1参照)から加圧液が流入する。液体送出口22は、第1配管52を介して貯溜部5の貯溜槽51へと接続される。液体流入口21および液体送出口22はそれぞれ略円形であり、液体流入口21から液体送出口22に向かうノズル流路20の流路断面も略円形である。
【0045】
液送出部2は、液体流入口21から液体送出口22に向かって(すなわち、ノズル流路20の上流から下流に向かって)順に連続して配置される3組のテーパ部24、喉部25および拡大部26を備える。テーパ部24では、加圧液の流れる方向に向かって(すなわち、ノズル流路20の上流から下流に向かって)流路面積が漸次減少する。テーパ部24の内面は、ノズル流路20の中心軸J2を中心とする略円錐面の一部である。当該中心軸J2を含む断面において、テーパ部24の内面の成す角度は、10°以上90°以下であることが好ましい。
【0046】
喉部25は、テーパ部24の下流端に接続し、テーパ部24と拡大部26とを連絡する。喉部25の内面は略円筒面であり、喉部25では、流路面積はほぼ一定である。喉部25における流路断面の直径は、ノズル流路20において最も小さく、喉部25の流路面積は、ノズル流路20において最も小さい。喉部25の長さは、好ましくは、喉部25の直径の1.1倍以上10倍以下であり、より好ましくは、1.5倍以上2倍以下である。なお、ノズル流路20では、喉部25において流路面積が僅かに変化する場合であっても、流路面積がおよそ最も小さい部分全体が喉部25と捉えられる。
【0047】
拡大部26は、喉部25の下流端である噴出口29に接続される。拡大部26は、上流側の喉部25と下流側のテーパ部24とを連絡する。拡大部26の内面は略円筒面であり、拡大部26では、流路面積はほぼ一定である。拡大部26の直径は、喉部25の直径よりも大きい。拡大部26では、喉部25に比べて流路面積が急激に拡大される。中心軸J2を含む断面において、喉部25の下流端と拡大部26の上流端との間の略円環状の面27と、中心軸J2との成す角度は約90°である。換言すれば、面27は中心軸J2に略垂直である。当該角度は、例えば、45°以上かつ90°以下である。
【0048】
液送出部2では、液体流入口21からノズル流路20に流入した加圧液が、テーパ部24において徐々に加速されつつ喉部25へと流れ、喉部25の下流端である噴出口29から、拡大部26へと噴流として噴出される。喉部25における加圧液の流速は、好ましくは秒速10m~30mである。喉部25では、加圧液の静圧が低下するため、加圧液中の気体が過飽和となってUFBとして液中に析出する。また、加圧液が拡大部26を通過する間にも、UFBの析出が生じる。液送出部2では、3組のテーパ部24、喉部25および拡大部26を加圧液が順に通過することにより、高濃度のUFBを含むUFB液が生成され、図1に示す第1配管52を介して貯溜槽51へと送出される。
【0049】
次に、表1を参照しつつ、上述の対象液の電気伝導率と、UFB液生成装置1により生成されるUFB液中のUFBの濃度との関係を示す実施例1~6および比較例1~6について説明する。
【0050】
【表1】
【0051】
実施例1~6および比較例1~6では、上述の対象液として塩化ナトリウム水溶液を用いた。また、実施例1~6および比較例3~5では、対象液に添加する界面活性剤として、非イオン系界面活性剤であるポリソルベート85を用いた。比較例1,2,6では、対象液に界面活性剤を添加しなかった。換言すれば、比較例1,2,6では、UFB液生成装置1の混合部31にて生成される混合流体から界面活性剤が除かれている。実施例1~6および比較例1~6のUFB数濃度割合は、各実施例および各比較例のUFB液中のUFBの濃度を、比較例6のUFB液中のUFBの濃度で除算したものである。各実施例および各比較例のUFB液中のUFBの濃度は、UFB液生成装置1において上述の循環回数を10回として生成されたUFBの濃度であり、上述の測定装置により測定した。比較例6は、対象液の電気伝導率が非常に低く、界面活性剤が対象液に添加されていない基準例である。
【0052】
実施例1~3および比較例1では、対象液中の塩化ナトリウムの濃度は1000mg/L(ミリグラム毎リットル)であり、対象液の電気伝導率が2.0mS/cm(ミリジーメンス毎センチメートル)である。また、対象液に対して添加される界面活性剤の割合(すなわち、界面活性剤の質量を界面活性剤と対象液との合計質量で除算した値)は、実施例1~3ではそれぞれ、1×10-3質量%、1×10-4質量%および1×10-5質量%である。比較例1の当該割合は、0質量%である。実施例1~3のUFB数濃度割合は1以上であり、実施例1のUFB数濃度割合は10であった。また、比較例1のUFB濃度は測定限界未満であった。当該測定限界未満とは、UFB数濃度割合が0.5未満であることを意味する。したがって、比較例1のUFB濃度に対して、実施例1のUFB濃度は20倍以上であり、実施例2~3のUFB濃度は2倍以上であった。対象液の電気伝導率は2mS/cmと高い場合、対象液に界面活性剤が添加されていない比較例1では、測定可能な程度までUFBを生成することはできなかった。一方、界面活性剤が添加されている実施例1~3では、対象液の電気伝導率が非常に低く界面活性剤が添加されていない比較例6と同等以上のUFB濃度を実現することができた。
【0053】
実施例4~6および比較例2では、対象液中の塩化ナトリウムの濃度は100mg/Lであり、対象液の電気伝導率は、実施例1~3および比較例1よりも低く、0.2mS/cmである。また、対象液に対して添加される界面活性剤の割合は、実施例4~6ではそれぞれ、1×10-3質量%、1×10-4質量%および1×10-5質量%である。比較例2の当該割合は、0質量%である。実施例4~6のUFB数濃度割合は1以上であり、実施例4のUFB数濃度割合は10であった。また、比較例2のUFB濃度は測定限界未満であった。比較例2のUFB濃度に対して、実施例4のUFB濃度は20倍以上であり、実施例5~6のUFB濃度は2倍以上であった。対象液の電気伝導率が0.2mS/cmと比較的高い場合、対象液に界面活性剤が添加されていない比較例2では、測定可能な程度までUFBを生成することはできなかった。一方、界面活性剤が添加されている実施例4~6では、対象液の電気伝導率が非常に低く界面活性剤が添加されていない比較例6と同等以上のUFB濃度を実現することができた。
【0054】
比較例3~6では、対象液中の塩化ナトリウムの濃度は10mg/Lであり、対象液の電気伝導率は、実施例4~6および比較例2よりも低く、0.02mS/cmである。また、対象液に対して添加される界面活性剤の割合は、比較例3~6ではそれぞれ、1×10-3質量%、1×10-4質量%および1×10-5質量%および0質量%である。比較例3~5のUFB数濃度割合は1以上であり、比較例3のUFB数濃度割合は10であった。すなわち、対象液の電気伝導率が0.02mS/cmと非常に低い場合、対象液に対する界面活性剤の添加の有無に関わらず、界面活性剤が添加されていない比較例6と同等以上のUFB濃度が実現される。
【0055】
以上に説明したように、UFB液生成装置1は、混合部31と、液送出部2とを備える。混合部31は、加圧された対象液、界面活性剤および気体を混合して混合流体を生成する。液送出部2は、対象液中に上記気体のUFBを生成し、UFBを含むUFB液を送出する。上記対象液の電気伝導率は、0.2mS/cm以上である。
【0056】
上述の比較例1,2のように、電気伝導率が比較的高い対象液中にUFBを生成する場合、生成されたUFBが凝集するため、UFB液中のUFBの濃度増大が比較的難しい。これに対し、UFB液生成装置1では、混合流体に界面活性剤を含ませてUFBの凝集を抑制することにより、電気伝導率が高い液体にUFBを好適に生成することができる。
【0057】
UFB液生成装置1では、液送出部2から送出されるUFB液に含まれるUFBの濃度は、混合流体から界面活性剤が除かれている場合に比べて、2倍以上である。このように、UFB液生成装置1では、高濃度のUFBを含むUFB液を好適に生成することができる。
【0058】
上述のように、UFB液生成装置1は、加圧液生成容器32をさらに備えることが好ましい。加圧液生成容器32は、混合流体中の気体を対象液に加圧溶解させて加圧液を生成する。液送出部2は、加圧液生成容器32内を大気圧よりも圧力が高い加圧環境とする。また、液送出部2は、加圧液生成容器32から供給された加圧液からUFB液を生成して送出する。これにより、高濃度のUFBを含むUFB液を効率良く生成することができる。
【0059】
上述のように、UFB液生成装置1は、液送出部2から送出された液体を混合部31へと戻す循環部6をさらに備えることが好ましい。これにより、UFB液中のUFBの濃度を増大させることができる。
【0060】
上述のように、液送出部2は、内部にノズル流路20を有するUFB生成ノズルであることが好ましい。当該UFB生成ノズルは、テーパ部24と、喉部25と、拡大部26とを備える。テーパ部24では、ノズル流路20の上流から下流に向かって流路面積が漸次減少する。喉部25は、テーパ部24の下流端に接続され、テーパ部24からの液体を噴出口29から噴出する。拡大部26は、噴出口29に接続され、流路面積を拡大する。これにより、高濃度のUFBを含むUFB液を効率良く生成することができる。
【0061】
上述のように、混合部31にて混合される気体は、加圧された状態で供給されることが好ましい。これにより、混合部31において対象液に混合される気体の量を増大させることができ、混合流体中の気体の含有率を増大させることができる。その結果、液送出部2から送出されるUFB液中のUFBの濃度を増大させることができる。
【0062】
上述のように、対象液に対する界面活性剤の割合は、1×10-3質量%以下であることが好ましい。これにより、界面活性剤がミセルを形成せず、UFBを効率良く生成することができる。また、対象液に対する界面活性剤の割合は、1×10-5質量%以上であることが好ましい。これにより、電気伝導率が高い液体にさらに好適にUFBを生成することができる。
【0063】
上述のように、界面活性剤は、非イオン系界面活性剤であることが好ましい。これにより、電気伝導率が高い液体にさらに好適にUFBを生成することができる。
【0064】
上述のUFB液生成装置1では、様々な変更が可能である。
【0065】
例えば、気体供給部34により混合部31に供給される気体は、空気以外の様々な気体(例えば、窒素ガス)であってもよい。気体供給部34は、コンプレッサには限定されず、様々に変更されてよい。例えば、気体供給部34は、大気圧よりも高圧の窒素ガス等が充填されたガスボンベであってもよい。
【0066】
UFB液生成装置1では、混合部31のノズル流路310を流れる液体により生じる負圧によって、気体流入口319から空気等の気体が必要量吸引される場合、気体供給部34は省略されてもよい。この場合、混合部31において対象液に混合される気体は、加圧された状態ではなく、大気圧と略同じ圧力を有する。
【0067】
UFB液生成装置1では、混合部31に供給される対象液には、必ずしも界面活性剤が予め添加されている必要はなく、界面活性剤は、対象液とは別の経路を介して混合部31に供給され、混合部31にて対象液に混合されてもよい。この場合、混合部31に供給される界面活性剤は、大気圧よりも高圧に加圧された状態であってもよく、加圧されていなくてもよい。対象液に対する界面活性剤の割合は、1×10-5質量%未満であってもよく、1×10-3質量%よりも大きくてもよい。
【0068】
液送出部2の構造は上述のものには限定されず、様々に変更されてよい。例えば、液送出部2のUFB生成ノズルでは、上流から下流に向かって連続するテーパ部24、喉部25および拡大部26が2組、または、4組以上設けられてもよい。あるいは、UFB生成ノズルでは、上流から下流に向かって連続するテーパ部24、喉部25および拡大部26が、1組のみ設けられていてもよい。液送出部2は、必ずしもテーパ部24、喉部25および拡大部26を備える必要はなく、他の構造のUFB生成ノズルであってもよい。
【0069】
液送出部2は、必ずしも、加圧液を噴出することにより加圧液中にUFBを生成するUFB生成ノズルである必要はなく、公知の様々な生成方法によりUFBを生成してもよい。例えば、混合部31により生成された混合流体に、液送出部2において超音波を付与したり、あるいは、液送出部2の内部構造により剪断力を付与することにより、UFBが生成されてもよい。この場合、UFB液生成装置1から加圧液生成容器32が省略されてもよい。
【0070】
UFB液生成装置1では、混合部31により生成された混合流体が液送出部2を1回だけ通過することにより、液送出部2から送出されるUFB液中のUFBの濃度が上述の所定濃度に到達する場合、循環部6を介したUFB液の上記循環は行われなくてもよい。この場合、UFB液生成装置1から循環部6が省略されてもよい。
【0071】
UFB液生成装置1によりUFBが生成される対象液は、様々な種類の液体であってよい。対象液は、例えば、炭酸水、希塩酸または希フッ酸であってもよい。あるいは、対象液は、研削加工に利用される研削液(例えば、ソリューションタイプ、ソリュブルタイプまたはエマルションタイプの研削液)であってもよい。
【0072】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【符号の説明】
【0073】
1 UFB液生成装置
2 液送出部
24 テーパ部
25 喉部
26 拡大部
31 混合部
32 加圧液生成容器
S11~S15 ステップ
図1
図2
図3
図4