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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】熱促進剤組成物および使用の方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/18 20060101AFI20230530BHJP
【FI】
A61B18/18 100
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2018553044
(86)(22)【出願日】2016-12-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-01-31
(86)【国際出願番号】 US2016068517
(87)【国際公開番号】W WO2017112931
(87)【国際公開日】2017-06-29
【審査請求日】2019-12-23
(31)【優先権主張番号】62/387,250
(32)【優先日】2015-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/381,251
(32)【優先日】2016-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500430718
【氏名又は名称】ロード アイランド ホスピタル
(73)【特許権者】
【識別番号】518223753
【氏名又は名称】ブラウン ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】パク, ウィリアム クン チャン
(72)【発明者】
【氏名】デュピュイ, ダミアン イー.
(72)【発明者】
【氏名】ウォルシュ, エドワード ジー.
【審査官】木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-517604(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0265725(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/12 ― 18/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波腫瘍アブレーションに使用するための組成物であって、
対象の組織標的への前記マイクロ波腫瘍アブレーションの程度または範囲を強化する熱促進剤
を含み、前記熱促進剤は、(i)血清アルブミンを含む担体と;(ii)カオトロープを含むイオン性構成成分と;(iii)画像化構成成分とを含み、
前記熱促進剤の組成物は、前記組織標的の温熱療法アブレーションをモジュレートし、より有効にするために、前記組織標的に液体として送達するため、およびそこに固定するための、逆相ポリマーおよび塩を含み、前記塩は、塩化セシウム、別のアルカリイオン含有塩、または、アルカリ土類イオン含有塩のうち少なくとも1つを含み、
前記熱促進剤は、体温またはそれより高い温度で前記対象の前記組織標的において、ゲルに転換するように構成され、
前記担体は、加熱されると前記対象の前記組織標的上で熱を生成する活性成分を含み;
前記カオトロープは、前記血清アルブミンの中の電荷分布を調整するように構成され;
前記熱促進剤は、約10.4~約710の範囲の電気双極子モーメントを有する材料を含み;
前記担体は、アルギン酸塩、セルロース、キトサン、樹状ポリリシン、DNA、ゲラン、ペクチン、ポリアスパラギン酸、両末端が乳酸-グリコール酸コポリマーによって共有結合によりエステル化されるポリエチレングリコール(PLGA-PEG-PLGA)、乳酸-グリコール酸コポリマー(PLGA)、多糖、ポリシアル酸、絹およびウールまたはその組み合わせのうち1つまたは複数を含み、前記担体が、エネルギーに曝露されると、前記対象の前記組織標的上で熱を生成する、
組成物。
【請求項2】
前記熱促進剤が、遠距離場、周囲または下落領域、または組織変動領域において印加される電磁エネルギーによる加熱を強化し、それによって前記領域にアブレーション効果を延長するように構成される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記アブレーション部位から離れて熱伝導をモジュレートし、および/または前記アブレーション部位からヒートシンクを隔離し、それによって意図される前記アブレーション部位を含む領域のより速い、またはより均一な加熱を可能にするために、前記熱促進剤が、アブレーション部位と血管などの前記ヒートシンクの間に配置されるように構成される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記熱促進剤がアブレーション部位と健康な組織の間にマイクロ波シールドとして配置され、前記健康な組織をマイクロ波によるアブレーション損害から保護するように構成される、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記熱促進剤が感受性のまたは健康な近位組織に対して遠位である部位に熱エンハンサーとして配置され、RFまたはマイクロ波放射線のより低い線量を近位に印加する間、前記遠位である部位を選択的に切除しつつ、前記健康な組織をアブレーション損害から保護するように構成される、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記塩は、少なくとも、塩化セシウムを含み、前記塩化セシウムが、局所の温熱療法組織アブレーションのためにマイクロ波エネルギーを効果的に吸収するための量または濃度で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記熱促進剤が:
(a)遠距離場、周囲または下落領域、または組織変動領域において印加される電磁エネルギーによる前記加熱を強化し、それによって前記アブレーション効果を延長し;
(b)様々な画像化モダリティーの下で可視的であり;または
(c)注入可能である
ように構成される、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記熱促進剤が、本質的に前記印加領域に留まるように構成される、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記熱促進剤が無毒である、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記イオン性構成成分が、Mn+ n-(式中、Mはカチオンであり、バリウム、ベリリウム、カルシウム、セシウム、フランシウム、マグネシウム、カリウム、ラジウム、ルビジウム、ナトリウムおよびストロンチウムから選択されるアルカリまたはアルカリ土類金属からなる群より選択され;Xはアニオンであり、酢酸塩、炭酸塩、ハロゲン化物、リン酸塩および硫酸塩より選択され;n+は1、2、3または4を表し;n-は1、2、3または4を表す)からなる群より選択され;かつ
前記画像化構成成分が、セシウム、ジアトリゾエート、イオジキサノール、イオヘキソール、イオン性ポリ炭水化物、イオパミドール、イオプロミド、イオサラメート、イオキサグレート、イオキシラン、メトリゾ酸、PLGA、PEG、RNA、タンタル、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、
請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記イオン性構成成分が、塩化カルシウム、塩化セシウム、塩化リチウム、塩化カリウム、塩化ルビジウム、塩化ナトリウム、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記イオン性構成成分が、安息香酸、カプロン酸、クエン酸、ギ酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、シュウ酸、プロピオン酸、尿酸、およびこれらの対応するコンジュゲート塩基からなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記イオン性構成成分がカオトロープである、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
画像誘導送達の下で注入され、その後in situで所望の位置に固定されて、規定の加熱特性を有する熱促進剤のボディを形成するように構成された逆相ポリマーを前記熱促進剤が含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
マイクロ波腫瘍アブレーションに使用するための組成物であって、
対象において組織標的に対してin vivoで配置されるように構成された熱促進剤を含み、前記熱促進剤は、(i)血清アルブミンを含む担体と;(ii)カオトロープを含むイオン性構成成分と;(iii)画像化構成成分とを含み、
前記熱促進剤の組成物は、前記組織標的の温熱療法アブレーションをモジュレートし、より有効にするために、前記組織標的に液体として送達するため、およびそこに固定するための、逆相ポリマーおよび塩を含み、前記塩は、塩化セシウム、別のアルカリイオン含有塩、または、アルカリ土類イオン含有塩のうち少なくとも1つを含み、
前記熱促進剤は、体温またはそれより高い温度で前記対象の前記組織標的において、ゲルに転換するように構成され、
前記担体は、前記組織標的を加熱および切除するため、前記熱促進剤の前記担体を加熱するためのエネルギーを生成するために、a)1つまたは複数の電極および/またはb)1つまたは複数のマイクロ波アンテナによってエネルギーが与えられるように構成され、前記熱促進剤は、60℃以上の温度に加熱され、
前記a)1つまたは複数の電極および/またはb)1つまたは複数のマイクロ波アンテナにエネルギーを与えることからの前記エネルギーが、前記担体を加熱して、少なくとも部分的に前記組織標的を切除し、
前記カオトロープは、前記血清アルブミンの中の電荷分布を調整するように構成され;
前記熱促進剤は、前記エネルギーを熱エネルギーに変換するために作動可能である高い電気双極子モーメントの材料を含み、前記高い電気双極子モーメントが約10.4~約710の範囲を有する、
組成物。
【請求項16】
前記熱促進剤が、前記1つまたは複数のアンテナに印加されたマイクロ波エネルギーによってエネルギーが与えられるように構成される、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記熱促進剤が、前記1つまたは複数の電極に印加されたRFエネルギーによってエネルギーが与えられるように構成される、請求項15に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への参照
本出願は、米国特許商標庁に2015年12月23日に出願された仮出願番号第62/287350号および2016年8月30日に出願された同62/381252号に関連し、そしてそれらの利益を主張し、これら出願の両方は、それらの図面および付属書類を含むそれらの全体が本明細書中に本明細書によって援用される。
【背景技術】
【0002】
技術分野
本発明は、温熱療法組織アブレーションのための方法、材料および装置に、すなわち、内部器官、血管、骨または他の部位に位置する腫瘍などの組織を手術なしで加熱し、破壊するためのエネルギーの印加に関する。そのようなアブレーションのために使用される機器の例は、単極(MP)高周波アンテナ;双極(BP)高周波電極;およびマイクロ波アンテナである。これらは経皮的に、または処置部位にアクセスするためのカテーテルシースを通して挿入することができ、各々はその特徴的な作用および作動パラメータを有する。温熱療法組織アブレーションを達成するために組織を局所的に加熱するためのそのようなアンテナデバイスの使用は、特徴的な作動持続時間、印加される電力レベルならびに電磁気駆動の頻度およびタイプを必要とし得、これらのパラメータの適切な選択または設定およびアンテナ先端の配置は、代表的には組織タイプに、ならびに標的腫瘍のサイズおよび形状に依存する。異なる加熱モダリティーの中で、マイクロ波アブレーションはプローブまたはハンドピースで運ばれる針様アンテナを使用して内部組織部位に印加することができ、活性アンテナは、標的組織部位に対して配置を正確に誘導するために、例えばCT画像化によって画像化することができる。標的それ自体は、同じまたは別の医学的画像化モダリティーによる、診断的画像化によって識別することができるか、または識別されている。
【0003】
そのような画像誘導マイクロ波腫瘍アブレーションは、離散性の腫瘍のための安全で、最小限に侵襲的で、費用効果に優れたがん処置として認知されており、他の因子によって手術が危険またはさもなければ賢明でないとされる場合は最適な処置であるかもしれない。
【0004】
しかし、マイクロ波アンテナは、意図される標的部位のために、単純な外科的アブレーション針ハンドピース、またはアンテナおよびケーブルの配置のために代表的には利用可能なトロカールおよびカテーテルを適宜使用して、体のいかなる場所にでも配置することができるが、マイクロ波アブレーションアンテナの有効な加熱範囲は、アブレーションアンテナの周囲の比較的短い距離だけ延長する、卵形または長方形の形状のアブレーション領域をもたらす。局所の組織状態によって、その加熱効果は多少変動し得る。この短い有効範囲は、ほとんどの近くの健康な組織構造への意図されない損害を制限するが、マイクロ波アブレーションがほんの数センチメートルで下落する(drop off)という点で、それは欠点も示し、その部位でのマイクロ波熱生成速度、またはその部位から離れた隣接組織への熱伝導、または組織伝導率および誘電定数(それは、各患者で異なるかもしれない)における変動のために、アブレーションは不規則になる可能性がある。その結果、マイクロ波温熱療法アブレーションによって処置されるとき、不完全なアブレーションの座のために腫瘍は比較的高率の再発(約30%)に直面する。一部の未検出の腫瘍細胞が有効なアブレーションゾーンの外にあるので;組織特性の局所的変動が本質的により低い熱生成をもたらすので;意図されるアブレーション部位から離れた熱伝導を増加させることによってアブレーション手技の間の標的領域の一部における温度上昇を制限する「ヒートシンク」として作用した、生存している腫瘍細胞が血管の近くにあるので;または、遠距離場での下落もしくはシャドーイングが公称目標温度周囲の有効温度の大きな変動をもたらしたので、不完全なアブレーションならびに結果として生じる腫瘍細胞の生存および腫瘍再発が起こる可能性がある。
【0005】
マイクロ波針/アンテナのための有効なアブレーションゾーンは、図1Aに示すように、代表的には、マイクロ波アンテナからわずか2~4cmの伸長したアーモンド形の領域であり、この図は、作動により腫瘍の房へりでなく中心を包含するアブレーションゾーンAZが加熱されるように、患者の肝臓Lの中の腫瘍Tに挿入されたマイクロ波針/アンテナAを図示する。図1Bは、左側の結腸がんから転移し、それを提示した現実の肝腫瘍の実際の画像を示す。原発性結腸の切除の後、患者は8サイクルのロイコボリン、フルオロウラシルおよびオキサリプラチン、ならびにベバシズマブ(アバスチン)で処置された。しかし、肝腫瘍は機能的肝臓留保に関する懸念のために切除不能であると考えられたので、それはいくつかのセグメントにおける腫瘍のマイクロ波アブレーションによって処置され、その1つは図1Bの太い矢印によって示される。腫瘍の寸法は2.7cmであり、左肝静脈(細い矢印)に接した。アブレーション手技の後、経過観察の陽電子放出断層撮影スキャン画像が撮られた。図1Cに示すように、左肝静脈(図1C、細い矢印)に隣接した残留性腫瘍の存在と一貫した位置で、増加したフルオロデオキシグルコース活性(太い矢印)が小さい領域で観察された。ヒートシンクは、残留する疾患に寄与する可能性がある原因として結びつけられた。患者は、初期診断から3年後にも生きていた。
【0006】
標的組織およびそのマイクロ波加熱特性についての不完全な知識、標的の不規則な形状またはサイズ、およびアンテナのアクセスまたは配置を制限する組織の存在を含めて、他の因子が最適でないアブレーション効力に寄与する可能性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、不完全なまたは不規則なアブレーションの前述の問題点に対処するためにマイクロ波温熱療法アブレーション処置のために改善された組成物、デバイスおよび方法を提供し、それによって、腫瘍再発問題を低減するように手術することが強く望まれるであろう。
【0008】
意図される経皮標的部位の温熱療法マイクロ波アブレーションを成形、制御、強化またはより速やかに実行するための手段を提供することも望ましいであろう。
【0009】
多様な組織および器官の均一で有効なアブレーションを可能にするために、組織依存性温度変動を軽減または克服する組成物を提供することも、望ましいであろう。
【0010】
発明の要旨
上述および他の望ましい目標は、処置領域にまたはその近くに配置され、照射されるときに効率的にヒートアップするように調合される、熱基質組成物または熱促進剤材料を提供することによって、本発明に従って達成される。好ましくは、基質は、腫瘍部位のより完全で、より良好に限定された外科的に有効なアブレーションを達成するように、アブレーションアンテナの意図される温熱療法アブレーション領域において形状、加熱の範囲または程度をモジュレートするために標的腫瘍において成形またはさもなければ配置することができる。これは、現在腫瘍の再発の主要な寄与因子であり、画像誘導熱アブレーション(IGTA)を直径約3cm未満の腫瘍のために最も良好に使用される第二選択の療法に現在制限する不完全なアブレーションの問題を排除する。
【0011】
本発明は、いくつかの熱促進剤組成物または材料、および熱促進剤を配置する方法によって下で例示される、熱基質または熱促進剤組成物、ならびに画像誘導皮膚横断経皮的マイクロ波アンテナを使用する改善された処置方法の例として記載される。好ましい促進剤は、低粘度液として規定の位置で注入することができ、次にゲルを形成し、所定の位置に留まって局所組織加熱を規定、延長、均一化し、および/またはさもなければ強化する、天然または人工の逆相ポリマーで形成される。一実施形態では、熱基質は可溶性塩を含有し、それはマイクロ波吸収および加熱を強化する働きをすることができる。別のまたはさらなる実施形態では、画像誘導経皮マイクロ波アンテナを使用した温熱療法アブレーションのために加熱を延長し、加速するために、ポリマーが低い粘度を有し、腫瘍または組織の内外に液体として効果的に付与することができるように、塩は分子電荷を調整することができるかまたは調整する。マイクロ波を照射されるとき、組成物は組織の代表的には若干より遅い応答より熱くおよびより速くヒートアップし、低粘度の液として付与される熱促進剤は、より優れた処置を達成するために様々な位置に付与し、固定することができる。具体的には、そのより速い温度上昇は、マイクロ波のより短い曝露時間を可能にすることができる。それは、所与の処置持続時間または配置の位置のために熱上昇速度または最終温度終点を増加させることもできる。
【0012】
熱促進剤材料は、マイクロ波アンテナの直近に配置することができるか、または、それによって遠距離場におけるアブレーションの完全性を強化するために、アンテナからオフセットされた領域、もしくは組織標的の周囲に選択的に送達することができる。代わりにまたはさらに、例えば、腫瘍と近くの血管の間の組織の温度を上昇させ、それによって熱伝導が意図される部位から離れること(さもなければ熱を意図されるアブレーション領域から離れて伝導し、腫瘍細胞の最適以下の加熱および無効なアブレーションをもたらす血管中の循環の「ヒートシンク効果」)をブロックするために、熱基質を腫瘍に関して、および近くの組織構造に関して配置することができる。したがって、衛星加熱体として、熱促進剤は、様々な手技において、遠距離場でアブレーションを強化するために、妨害する組織構造にもかかわらずより均一で完全なアブレーションを促すために、または、完全なアブレーションを達成するために通常必要とされる必要な近接場曝露を制限しつつ、特異的部位における組織加熱およびアブレーションを選択的に増加させるために、配置することができる。
【0013】
マイクロ波組織アブレーションのための手技において有用な代表的な材料および方法の実施例は、下で、ならびに本明細書に添付した図および請求項にさらに記載される。具体的な議論は、適する合成PLGA-PEG-PLGAポリマー、ならびに、マイクロ波アブレーション手技のための熱促進剤の逆相構成成分としてのアルブミンに基づく製剤を特定する。熱促進剤の粘度および/または加熱特性をチューニングするための構成成分として、ある特定のアルカリまたはアルカリ土類塩が記載される。例えば、上で特定される優先権仮出願の付録A、付録Bおよび付録Cを参照する。
【0014】
特定の実施形態では、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
対象の腫瘍または他の組織標的を加熱して切除するためのマイクロ波のために配置され、作動される1つまたは複数の電極またはマイクロ波アンテナを使用した、組織アブレーションの改善された方法であって、前記標的へのアブレーションの程度または範囲を強化するために熱促進剤が置かれる方法。
(項目2)
前記熱促進剤が、マイクロ波エネルギーを熱エネルギーに高効率で変換するために作動可能である高い双極子モーメントを有する材料を含む、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記熱促進剤が、遠距離場、周囲または下落領域、または組織変動領域において印加される電磁エネルギーによる加熱を強化し、それによって前記領域にアブレーション効果を延長するように配置される、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記アブレーション部位から離れて熱伝導をモジュレートし、および/または前記アブレーション部位からヒートシンクを隔離し、それによって意図される前記アブレーション部位を含む領域のより速い、またはより均一な加熱を可能にするために、前記熱促進剤が、アブレーション部位と血管などの前記ヒートシンクの間に配置される、項目2に記載の方法。
(項目5)
前記熱促進剤がアブレーション部位と血管などの健康な組織の間にマイクロ波シールドとして配置され、前記健康な組織をマイクロ波によるアブレーション損害から保護する、項目2に記載の方法。
(項目6)
前記熱促進剤が血管などの感受性のまたは健康な近位組織に遠位である部位に熱エンハンサーとして配置され、RFまたはマイクロ波放射線のより低い線量を近位に印加しつつ、前記遠位である部位を選択的に切除し、それによって前記健康組織をアブレーション損害から保護する、項目2に記載の方法。
(項目7)
前記熱促進剤が局所の温熱療法組織アブレーションのためにマイクロ波エネルギーを効果的に吸収するための量または濃度で塩化セシウムまたは他のイオン性構成成分を含み、任意選択で、周囲組織に対するシグナル減衰の差の提示を強化するように設定されたMRI医療画像化装置を通して画像化される、項目1に記載の方法。
(項目8)
画像誘導送達の下で注入することができ、その後in situで所望の位置に固定されて、規定の加熱特性を有する熱促進剤のボディを形成する逆相ポリマーを前記熱促進剤が含む、項目1または項目5に記載の方法。
(項目9)
対象の腫瘍または他の組織標的を加熱して切除するためのマイクロ波のために配置され、作動されるマイクロ波アンテナを使用した、組織アブレーションの改善された方法であって、例えば規定の領域にアブレーションを局在化または延長しつつ、前記領域外の組織に損害を与えることなく前記領域の組織を完全に切除するために、アブレーションの程度または範囲を強化するために前記標的の近位に熱促進剤が配置される、方法。
(項目10)
前記熱促進剤がアブレーション領域を規定するシートまたは輪郭を形成し、処置対象の外部に位置するかまたはその中に経皮的に置かれる1つまたは複数のアンテナによってマイクロ波エネルギーが印加される、項目9に記載の改善された方法。
(項目11)
前記熱促進剤が:
i)前記熱促進剤に囲まれている領域において加熱を増加させること、
ii)前記標的組織の遠位に位置する組織をマイクロ波エネルギーから遮蔽すること、
iii)血管などの妨害するヒートシンクから前記組織標的を隔離するために局所の熱境界を形成すること;
iv)完全な腫瘍アブレーションの明確な組織領域を形成するためにマイクロ波分布を変更すること;または
v)電極またはアンテナにより近位に位置するある特定の組織のアブレーションを回避するために十分に低い線量で作動する処置電極またはアンテナに遠位である、完全な腫瘍アブレーションの明確な組織領域を形成するためにマイクロ波分布を変更すること
の1つまたは複数によって前記アブレーション領域を規定する、項目9に記載の改善された方法。
(項目12)
さもなければ前記標的部位でアブレーションの効果を低減するであろう伝導性熱損失を低減するために、前記熱促進剤が加熱障壁を形成する、項目9に記載の改善された方法。
(項目13)
手術用ハンドピースまたは他のマイクロ波アンテナの遠距離場における切除作用を増加させるために、前記熱促進剤が周囲に配置される、項目9に記載の改善された方法。
(項目14)
前記熱促進剤が、逆相ポリマーまたは流動可能かつ固定可能なポリマー、ならびに前記熱促進剤の画像化およびマイクロ波加熱を強化するのに有効な塩化セシウムの量を含む、項目9に記載の改善された方法。
(項目15)
大きなまたは不規則な腫瘍部位または領域の完全なアブレーションを実行するために、組織加熱の位置およびパラメータを効果的に規定し、かつ制御するために、2つまたはそれよりも多いアンテナを使用して前記組織を照射することをさらに含む、項目9に記載の改善された方法。
(項目16)
前記マイクロ波アンテナによる温熱療法アブレーションの均一性、範囲または程度を増加、強化し、それによって、切除された腫瘍の再発を回避、低減または防ぐために、前記熱促進剤が、マイクロ波吸収を強化するのに有効な逆相ポリマーおよび塩を含有する、項目9に記載の改善された方法。
(項目17)
マイクロ波腫瘍アブレーションで使用するための組成物であって、アブレーション部位の温熱療法アブレーションをモジュレートし、より有効にするために、前記部位に液体として送達するため、およびそこに固定するための、逆相ポリマーおよび塩化セシウムまたはアルカリもしくはアルカリ土類イオン含有塩などの塩を含む組成物。
(項目18)
標的組織のアブレーションを延長、均一化または完了するための、マイクロ波またはRFアブレーション手技のための熱促進剤としてのアルブミンの使用。
本発明のこれらおよび他の特徴は、本明細書に添付される請求項と一緒にとられる下の図および記載から理解される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1Aは、先行技術のマイクロ波肝臓腫瘍アブレーション処置の非重複アブレーションおよび腫瘍領域を図式的に示す。図1Bは、患者の肝臓の中の肝静脈に隣接する転移性腫瘍を示す。図1Cは、ヒートシンク効果が残留性疾患の寄与原因であったことを示唆する残留性腫瘍増殖を示すその部位のPETスキャンである。
図2A図2Aは、異なる液についてのマイクロ波加熱による温度上昇の有効な速度を示す。
図2B図2Bは、未処置の組織および異なる熱基質製剤についての温度上昇の有効な速度を示す。
図2C図2Cは、蒸留水およびHSの3つの異なる濃度の小さいバイアルを示し、CT画像化の下の識別可能なコントラストおよび検出性が確認される。
図2D図2Dは、ポリマー/塩作用物質が温度上昇に伴い液体-ゲル沈殿変化を経ることを示す
図3図3Aは、腫瘍ならびにアンテナおよび熱促進剤の配置を図式的に示す。図3Bは、図3Aの配置によるアブレーションの延長を示す。
図4図4は、肝臓断面および腫瘍と血管の間の熱促進剤の配置を示す。
図5図5は、拡大したアブレーションゾーンを形成するための2つのアンテナおよび熱促進剤の2つの部位の配置を示す。
図6図6Aは、熱促進剤の熱増強を評価するために使用された実験的なセットアップを示す。図6Bは、促進剤の異なる量についての加熱の時間/温度チャートである。
図7図7は、有効なアブレーション材料、パラメータおよび操作手順を特定するように設計された研究用のin vivo動物プロトコールのチャートである。
図8図8Aおよび8Bは、HSAおよびBSAの表面電位をそれぞれ図示し、正負の電荷の領域は異なった陰影または着色をつけられる。
図9図9は、BSAの粘度をmg/mLで表したその濃度の関数として示す。
図10図10Aは、マイクロ波アンテナから1.5cmに配置された対照および異なる量のNaClを有するアルブミンTAの経時的温度上昇を示す。図10Bは、NaCl濃度の関数としての120秒時の終点温度上昇を示す。
図11図11は、塩化セシウム構成成分の異なる濃度を使用して異なる組織で達成されたアブレーション容量の増加を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
詳細な説明
その最も広い形態では、本発明は、マイクロ波または高周波(RF)アンテナ、例えば画像誘導経皮マイクロ波アンテナにより組織の有効な温熱療法アブレーションを達成し、限定された範囲、温度分布の高い変動ならびにシャドーイングおよびヒートシンクなどの組織に起因するアーチファクトに由来する限界または問題点を克服するために、温度上昇の速度、程度または終点を局所的にモジュレートするために、組織部位への強力なエネルギー吸収体、「熱基質」(HS)または「熱促進剤」(TA)の付与を含む。1つの最初の実施形態では、逆相ポリマーが担体として使用され、関連する組織部位の中またはその周囲の所望の位置に液として注入される。ポリマーは液体であり、体温またはそれより高い温度でそれはゲル化し、ゲル状になるかまたは凝固さえもし、したがって、それは固定化されるかまたは速やかに固定化されて、送達部位にそのまま限局される。ポリマーは、アブレーション手技と一貫した温度で状態を変え、液体(例えば、水)を放出するものであってよい。一実施形態では、ポリマーは塩も含有する。塩化セシウムの使用は、マイクロ波/加熱相互作用を大いに増加させ、さらに促進剤をCTまたはMRIの下で可視化させ、このように、RFまたはマイクロ波励起の前に局在化の画像誘導検証を可能にすることが見出された。他の画像化モダリティー、例えば超音波を、画像誘導のために使用することができる。適当な特性を有するポリマーは、ポリエチレングリコールからなるブロックコポリマーPLGA-PEG-PLGAなどであってよく、それは両端がFDA承認の乳酸-グリコール酸コポリマーによって共有結合によりエステル化されている。操作において、代表的な組織、例えばブタまたは子ウシ肝臓においてマイクロ波条件(すなわち、電力、周波数、アブレーション期間および距離)の関数としてアブレーション応答を確立するために、各種のパラメータを変更することができる。(例えば、Pillai K、Akhter J、Chua TC、Shehata M、Alzahrani N、Al-Alem I、Morris DL。2015年。Heat sink effect on tumor ablation characteristics as observed in monopolar radiofrequency, bipolar radiofrequency, and microwave, using ex vivo calf liver model. Medicine(Baltimore)94巻(9号):e580頁のモデル化プロトコールを参照)。別の実施形態では、さらに下で記載されるように、熱促進剤は、その粘度、マイクロ波エネルギー吸収性または熱促進剤特質を順応させ、好ましくは、MRI、超音波またはX線CT画像化などの1つまたは複数の医学的画像化モダリティーの下で画像化も提供する、ある特定の電解質と一緒の、血清アルブミンまたは他のアルブミンの調製物である。
【実施例
【0017】
(実施例1)
不十分な加熱の問題を軽減するために、出願人は、加熱を選択的に増加させるための、および適する配置によって望ましくない冷却または「ヒートシンク」効果を回避するための、新規熱基質を考案した。この基質は塩化セシウム(CsCl)で作製されており、配置された後、遠隔からのマイクロ波エネルギーによって活性化される逆相転移ポリマーに調合される。例えば、適する粘度のPLGA-PEG-PLGAブロックコポリマーであってよい逆相転移ポリマーは、体温またはそれより高い温度でゲルに転換し、塩化セシウム塩により、マイクロ波放射に強く応答し、温度を局所的に上昇させて、図1A、1Bおよび1CのアブレーションゾーンAZのすぐ外側にある腫瘍細胞をより効果的に切除する。さらに、この熱基質はそれ自体が優れた造影剤であり、CT画像化の下で可視的であることが見出された。これらの特質は、それを固形腫瘍の処置のために特に効果的にし、ここで、医師は、完全なアブレーションを確実にするために、標的化腫瘍の周囲の位置に送達され、固定される熱基質の量、位置(単数または複数)および濃度を制御することができる。さらに、より大きな、または不規則な形状の腫瘍のために、腫瘍を補正された/強化された熱分布で完全に覆うために、いくつかのマイクロ波アンテナを画像誘導の下に配置することができる。
【0018】
異なる塩濃度で調合されるCsCl熱基質によって達成できる加熱の程度を評価するために、様々な調査を実施した。図2Aは、熱基質が所定距離でマイクロ波エネルギーを拾って加熱を増強すること、100mg/mlの高いCsCl濃度ではアンテナの近傍(1mm)で測定された加熱を大いに増加させること、アンテナから15mm離れて測定された高い均一性の強化された加熱が他の濃度で達成されることを具体的に示す(図2B)。これらの図は、温度上昇がアンテナから1mm離れてモニタリングされた場合の、図2Aにおけるマイクロ波エネルギー(15W、915MHz、t=400秒)による温度上昇に及ぼす熱基質(100mg/mL、CsCl/20%(w/v)ポリマー)の影響;および熱基質がMWアンテナから15mmに置かれた場合の、マイクロ波エネルギー(60W、915MHz、t=600秒)による温度上昇に及ぼす熱基質(0、100、250mg/mL、CsCl/20%(w/v)ポリマー)の影響を具体的に例示する。熱基質が存在するとき、熱のかなりの増強がある。さらに、塩/ポリマー熱基質は、図2Cに示すようにCTを通して可視的である優れた造影剤である。その図では、塩調製物の異なる濃度および蒸留水の固定容量をCTの下で画像化し、それらのハウンスフィールド吸収性は以下の通りであると注記される:1.蒸留水-15Hu、2.HS(10mg/mL)286Hu、3.HS(100mg/mL)2056Hu、4.HS(1000mg/mL)3070Hu。図2Cの下の部分は、コンピュータを利用した強化により同じ試料を示す。最低濃度10mg/mLのHSでさえ、CTにおける水と同等の識別可能なコントラストを与える。画像化は、GE Optima580W CTスキャナーをCTプロトコール:120kV、50mA、.8秒回転、.562:1のピッチおよび16×.625mm検出器構成で使用して実施した。放射線アウトプット(CTDIvol)は12.08mGyであり、線積分線量(Dose Length Product)は193.88mGy-cmであった。
【0019】
図2Dは、CsCl塩をポリマーと調合したときの、温度上昇に伴う相変化特性を図示する。
【0020】
なる濃度についての温度-時間プロット、ex vivo肝臓に置いてマイクロ波を照射したときの基質変化の写真と一緒に、熱基質がアンテナから15mm離れた肝臓組織を加熱することが可能であること、および、基質を周囲温度で液体として置くことができ、体内に入るとゲルに転換し、完全なアブレーションを確実にするために腫瘍境界を正確に標的化することを可能にすることを確認でき。子ウシ肝臓全体をMWエネルギー(60W、915MHz)で加熱し、20%(w/v)ポリマー溶液に100mgのHSの350μLの少量を、MWアンテナの先端から1.5cm離れた地点に注入した。10分後に、ポリマー溶液が沈殿物に転換したことを観察するためにこの領域を切開した。HS濃度に比例する温度上昇が観察できる。250mg/mLでは、温度は3分以内に60℃に達した。100mg/mLでは、それは概ね5分を要したが、HSが付与されなかったとき、温度上昇は名目的であった。
【0021】
したがって、実施例1の調査は、熱基質の価値を実証した。特定の腫瘍組織または特定の距離における組成物の加熱特性をモデル化または評価するために、ならびに臨床手技および新しい処置方法における熱基質の使用をより良く支援するために代表的製剤の画像形成可能性を評価するために(上記、図2Cの議論を参照のこと)、さらなる調査を設計および/または実行した。具体的には、熱基質はマイクロ波アンテナに対して好適に配置することができるので、マイクロ波エネルギーの印加は、周囲の組織をヒートアップして切除するように仕立てられた加熱プロファイルを生成する。例えば、単一のマイクロ波アンテナを単独で使用して完全にまたは均一に切除するには遠過ぎる周辺組織の加熱を強化するために、促進剤をアンテナから若干離れて配置することができる。熱促進剤は、さもなければ意図されるアブレーションゾーンの中のまたはそれに隣接した太い血管の存在のために起こり、近接場における加熱の有効レベルを捕獲するであろう熱損失(「ヒートシンク」としても公知である、図1Cを参照)を、血管自体を切除することなく阻止するように配置することもできる。モデル化は、複数のアンテナの使用のために、およびより大きなもしくはより均一でかつ拡張されたアブレーションゾーンを規定するために、または、器官の他の部分に電力が印加される時間を制限する一方で、アブレーションゾーンを規定するために、戦略的に置かれた熱促進剤の複数の局在化ボディについて実施した。したがって、熱促進剤は、有効なマイクロ波エネルギーの増強において共同のおよび相乗的な役割をする。しかし、これらの介入の各々の適合性は、増加する加熱の実際のレベルが、周囲の組織によって発揮されるいかなる相殺性の伝導および吸収効果に打ち勝つに十分であることを必要とする。
【0022】
ブタの肝臓におけるマイクロ波条件(すなわち、電力、周波数、アブレーション期間および距離)の関数として実際の熱促進剤応答を確立するために、パイロットスタディを設計した。理想的には、熱促進剤はアンテナを通して伝達されるマイクロ波エネルギーを増強し、注入されると体の標的領域において熱促進剤はゲルに転換すると期待された。マイクロ波エネルギーの印加の際、熱促進剤は単一のマイクロ波アンテナ単独で切除するには遠過ぎる周囲の組織をヒートアップする。
【0023】
この状況は、図3Aおよび図3Bにおいて図式的に例示され、そこでは、不規則な腫瘍の右上の末端領域または表面(図3A)、およびマイクロ波アンテナを中心とする理論的な環状または対称形の有効なアブレーションゾーンの外に位置する基質の小さい塊は、完全なアブレーション領域を腫瘍境界までまたはそれを越えて延長する、明確なアブレーション領域(図3Bに見られる太いバンド)を生成する。この研究は、熱促進剤が、血管自体を切除することなく、アブレーションゾーンに隣接した血管によって引き起こされる熱損失(「ヒートシンク」としても公知である)を回避するのを助けることができるという概念を試験するように、さらに設計された。この状況は図4に例示し、それは、血管への損害を回避する一方で、腫瘍アブレーションを強化するために熱促進剤をどこに置くべきかを特定する。図5は、均一な強度のより広く、より高いアブレーション領域を生成するための、熱促進剤および複数のマイクロ波アンテナの配置を図示し、複数のアンテナおよび熱促進剤が戦略的に置かれるならば、アブレーションゾーンを拡張することができることを示している。これは、マイクロ波エネルギーによる加熱の増強において、TAが演ずる共同および相乗的役割を実証するものである。
【0024】
図3Aおよび3Bは、マイクロ波アブレーションを図式的に図解し、ここで、熱促進剤は想像上の腫瘍標的領域に注入される。一般的なアブレーションゾーンは、単一のアンテナがマイクロ波アブレーション条件:915MHz、60Wで10分間により使用されるとき、直径約2.5cmである。熱促進剤は体温でゲルに転換するので、置かれたまま留まる。熱促進剤ゲルのトラックは、名目上のアブレーションゾーンのすぐ外に示され、肝臓の想像上の腫瘍の外部境界を通って走る。図3Bは、マイクロ波エネルギーの増強によって延長される凝固アブレーションゾーンを示す。
【0025】
図4は、熱損失が最小になるかどうか見るために主血管(直径>4mm)とアブレーションゾーンの間に熱促進剤が置かれた、実験的なセットアップを示す。マイクロ波エネルギーはアンテナと熱促進剤の間で増強されるので、より短いアンテナ作動で腫瘍の完全なアブレーションを達成することができ、血管自体は切除されることから保護される。
【0026】
図5は、アブレーションゾーンを最大にするために戦略的に置かれる複数のアンテナおよび熱促進剤のボディを示す。2つのアンテナが2cm離れて(d=2cm)置かれ、2つの熱促進剤が各アンテナから2cmに置かれて菱形(横断面図において)を形成するとき、10分間のマイクロ波エネルギーの印加(実例として全体で120W、それぞれ60Wのアンテナ)は、対照(d=2cm、MWだけ)およびd=1.5cmの公知の場合(すなわち、915MHz、各60W、10分、Dmax=3.5cmおよびDmin=3.3cm)より大きなアブレーションゾーンをもたらす。これは、マイクロ波エネルギーの増強におけるTAの共同的および相乗的な役割を実証する。
【0027】
熱促進剤および根底にある技術的考慮事項の簡単な議論は、本発明の材料および効果の範囲ならびにマイクロ波アブレーションテクノロジーの改善を理解するのに有益であり得る。
【0028】
新規のMWA方法論は、腫瘍の完全なアブレーションの達成を目的とする。本方法論は、一実施形態では、以下の理論的根拠で塩化セシウム(CsCl)および逆相転移ポリマーで構成される熱促進剤を利用する:MWエネルギーによる組織アブレーションは、主に水分子を動力学的に励起して熱を生成することによって作動する。水分子は酸素原子の上の2つの非結合性電子のために構造的に曲がっており(104.5°)、したがって、比較的高い双極子モーメント(1.85D、D=Debye)を有する。MWの周波数領域(300MHz~30GHz)で、水分子は交流電場に同期して、それらの間で衝突を引き起こし、このエネルギーは熱に変換される。アルカリおよびアルカリ土類金属イオンのほとんどは、高い双極子モーメントを有する傾向があり(D>7~8、例えば、KBr 10.4D、BaO 7.9D)、これらの化合物が水分子より効果的に熱を生成することができることを示唆する。これらのイオン性化合物の間で、その高い双極子モーメント(10.4D)のためだけでなく、それがMWアブレーションに対して提供するその特異な物理化学的および毒物学的特質のためにも、塩化セシウム(CsCl)は特に興味深い:すなわち、1番目に、CsClは水に易溶性である(20℃で1,865kg/Lおよび100℃で2.7kg/L)。これは、必要に応じて高度に濃いCsCl熱促進剤溶液を作製することができることを意味する。第2には、その高い原子番号および密度(Z=55およびd=3.99g/mL)により、Csイオンは、CTで優れたコントラストを提供することができることである。CsClは画像誘導のための基質として使用することができるので、これは本発明者らの目的のために特に有益である。第3に、CsClは無毒である(LD50=2,600mg/kg、経口、910mg/kg iv、ラット)。ポリマー構成成分は、周囲温度で液体であるが、一般的な体温(35~37℃)でゲルであるという特異な特性を有する。さらに、温度のさらなる上昇により、ポリマー格子構造から水分子を放出することによってポリマーは沈殿する。このポリマーは安全であると考えられており、FDA承認の乳酸-グリコール酸コポリマー(PLGA)によって両末端がエステル化されるポリエチレングリコール(PEG)からなる。ポリマーは生分解性で、生体適合性である。CsClはイオン性化合物であり、したがって水性ポリマー溶液と混和でき、CsClの均一な分布を与え、標的アブレーション空間の中で均一な加熱を可能にする。
【0029】
画像誘導のためにCTを使用して、既知のCsCl濃度の熱促進剤の所望の量を、腫瘍塊の境界に置くことができる。その後、注入された熱基質は、所定のアブレーション形状および容量のゲルに転換する。熱基質ゲルは、MWアンテナ(MicrothermX(登録商標)Perseon Medical、Salt Lake City、UT)を通して伝達されるMWエネルギーによって加熱され、標的領域において殺腫瘍温度(>60℃)に到達する。
【0030】
(実施例2)
予備的研究:マイクロ波エネルギーの増強
概念実証として、本発明者らは、マイクロ波エネルギーの増強における熱基質の効率を試験した。ファントム(1%(w/v)アガロース媒体)を使用して、対照および熱基質(2濃度:それぞれ100mg/mLおよび250mg/mL)による温度上昇を経時的に測定した。MW条件(60W、915MHz、10分)の下で、達成された最大アブレーションゾーンは、代表的には直径2.5cmである(すなわち、アンテナから1.25cmの距離で延長するゾーン)。熱基質の増強効率を評価するためのベースラインプラットホームとして、この距離および条件を使用した。図6Bに表すように、熱基質は、アンテナから1.5cmに置かれ、MWアンテナ(MicrothermX(登録商標)Perseon Medical、Salt Lake City、UT)を通して伝達されるMWエネルギーによって加熱され、殺腫瘍温度(>60℃)に到達した。温度プロットは、図6Aに示す。熱促進剤のない試料と比較して、熱促進剤は濃度依存的にMWエネルギーを増強することが見出され、5分以内に60℃よりも高く到達した(それぞれ、1分約250mg/mL;<3分約100mg/mL)。図6Aは、in vitro実験のための一般的なセットアップを示す。
【0031】
(実施例3)
CT造影剤としての熱促進剤の予備的研究を実行した。熱促進剤(TA)溶液の様々な濃度を調製し、それらのCTコントラストを測定した。図2Cは、10mg/mLの低い濃度のTA溶液が、水と比較して識別可能なコントラストを生成したことを示す。CTコントラストの程度は熱促進剤(TA)の濃度に比例することが見出され、したがってTA溶液はCTで可視的である。図2Cの上部分は、以下の通り、4つの試料1)~4)を示す:1.蒸留水-15Hu、2.TA(10mg/mL)286Hu、3.TA(100mg/mL)2056Hu、4.TA(1000mg/mL)3070Hu。図2Cの下の部分は、コンピュータを利用した強化により同じ試料を示す。最低濃度10mg/mLのTAは、GE Optima580W CTスキャナー中で、CTにおける水と比較して識別可能なコントラストを与える。使用されたCTプロトコール:120kV、50mA、.8秒回転、.562:1のピッチおよび16×.625mm検出器構成。放射線アウトプット(CTDIvol)は、12.08mGyであった。線積分線量は、193.88mGy-cmであった。
【0032】
(実施例4)
逆相転移ポリマー。
熱促進剤で使用されたポリマーは、望ましくは、周囲温度で液体であるが、代表的な体温(35~37℃)でゲルであるという特質を有する。上の図2Dに示すように、温度のさらなる上昇により、ポリマー格子構造から水分子を追い出すことによってポリマーは沈殿する。この実施例のポリマーは、技術的に、乳酸-グリコール酸コポリマー(PLGA)およびポリエチレングリコール(PEG)で作製されるブロックコポリマーである。PLGAは、PEGのようにその生体適合性のためにFDAによって承認されたポリマーである。ここで熱基質構成成分として使用されるポリマーは、以下の通り、PLGA-PEG-PLGAのように構造的に配置される。周囲温度(25℃)では、PLGAが分子内PLGAと相互作用してヘアピンを形成するような方法で、ポリマーは順応される。この立体配座は温度上昇に伴って変化し、そのため分子間PLGA-PLGA相互作用が優勢になる(37℃)。さらなる加熱(>60℃)により、より高い温度でポリマー層から水分子が追い出されること以外は、立体配座はヘアピン立体配座に戻る。
【0033】
(実施例5)
Ex vivo実験 子ウシ肝臓全体における熱基質によるMW加熱の増強。
ウシ肝臓全体をMWエネルギー60W、915MHzで加熱した:20%(w/v)ポリマー溶液に100mgのCsClの少量(350μL)を、MWアンテナの先端から1.5cm離れた点に注入した。10分後に、ポリマー溶液が沈殿物に転換したことを観察するためにこの領域を切開した。温度上昇はTA濃度に比例する。250mg/mLでは、温度は3分以内に60℃に達した。100mg/mLでは、それは概ね5分を要したが、TAなしでは、温度上昇は名目的であった。
【0034】
前述の観察および測定は、根底にある概念の相当な確信、および、生きた対象の組織状態による任意の効果、例えば血管中の血流へのかん流効果または補正の大きさを特定して、切除結果の変動を確立することができるin vivo動物調査を探究するさらなる動機づけを提供した。そのような研究では、(「パイロットスタディ」)は、特異的目的として以下の1つまたは複数を有するであろう:目的1)ブタで開腹を実施し、肝臓を曝露させる。画像誘導として超音波を使用して、マイクロ波(MW)アンテナを挿入し、予めセットされたパラメータのマイクロ波エネルギーを印加する。同様に、画像誘導として超音波を使用して、熱促進剤(TA、20%(w/v)ポリマー溶液の250CsClmg/mL)を肝実質、想像上の標的領域に注入し、静止したゲルとして置く。MWアンテナは、熱促進剤から概ね1.5cm離して挿入する。同じパラメータのマイクロ波エネルギーをアンテナに印加する(すなわち、915MHz、45または60Wで5~10分間)。手技の直後に全ての動物を安楽死させ、CTを含むさらなる比較ならびにアブレーションパターンの分析およびアブレーション容量の測定のために肝臓を収集する;目的2)目的1)に記載のように、動物に麻酔をかけ、腹部切開を行って肝臓を曝露させる。第1のブタ(対照)で、超音波誘導により、アンテナを太い血管から1.5cmに置き、予めセットした条件(915MHz、45または60Wで5~10分間)で切除する。第2のブタの肝臓で、熱促進剤を血管の近くに注入した後に、アンテナを太い血管から1.5cmに置き、その後マイクロ波エネルギーを印加する。各ブタは、3回のアブレーションを受ける:1)45Wで10分間、2)60Wで5分間、3)60Wで10分間。手技の終了直後に、CTおよびアブレーションパターンの分析ならびに深度、高さおよび幅によるアブレーション容量の測定のために肝臓を収集するために、ブタを安楽死させる;目的3)麻酔下のブタで開腹が実施された後、ブタ肝臓が曝露させられる。画像誘導として超音波を使用して、2つのアンテナを2cm離して肝臓に挿入し、マイクロ波エネルギー(60W)を対照について10分間印加する。同じ肝臓では、2つのアンテナは2cm離して挿入され、その後熱促進剤(TA)の2回の注入が続くが、図に表すように注入は各アンテナから2cm離して行われ、菱形を形成する。マイクロ波アブレーションは、対照と同じ条件(すなわち、60W、10分)の下で実施される。手技の終了後に、CTおよびアブレーションパターンの分析ならびに深度、高さおよび幅によるアブレーション容量の測定のために肝臓を収集するために、ブタを安楽死させる。図7は、提案された研究プロトコールを示すチャートである。
【0035】
簡潔には、目的1は、単一のアンテナを使用した経皮的マイクロ波アブレーションにおける熱促進剤(TA)の熱増強効率を調べることを目的とし、目的2は、ヒートシンク効果に打ち勝つ効力を評価することを目的とし、目的3は、追加のアンテナを使用することによって以前に対処することができた状況のために使用されるTAを調査する。
【0036】
上記のように、熱促進剤は、不完全なアブレーション問題を軽減するために考案され、単一のアンテナ単独で到達できない距離からのマイクロ波エネルギーを増強することができる新規熱促進剤(TA)を想定する。これは、腫瘍塊の外部境界を覆うアブレーションゾーンを延長するだけでなく、より急速に切除することも助ける。臨床的に示されるように、より有効でより速いマイクロ波アブレーションは、手技がより完全になるのを助け、従って、腫瘍再発率を低下させる。さらに、熱損失を阻止することができるように、TAをヒートシンクの近傍に戦略的に注入することができる。
【0037】
TAは、腫瘍を処置するための画像誘導熱アブレーションでの最良の有用性のために、以下の特質を好ましくは有する:1)それは、特に単一のアンテナで到達不能な距離からの電磁気放射エネルギー(例えば、高周波、マイクロ波)を増強することができる;2)それは、様々な画像化モダリティー(例えば、コンピュータ断層撮影法(CT)、超音波またはMRI)の下で可視的である;3)それは注入可能であり、注入されると静止する;および4)それは無毒である。
【0038】
上記のように、アルカリ希土類塩(CsCl)との合成ポリマーは有益であることが見出されたが、アルブミンなどの他のポリマー材料が類似の利点を提供し、ヒト血清アルブミンまたは類似の調製物の粘度特質および他の形質は、濃度、塩含有量および他のステップによってさらに仕立てることができる。一般的に、TAの構成成分は、3つの無毒の構成成分を含むことができる:1)担体としてのポリマー(天然または人工);2)全体の電荷および粘度平衡のためのイオン性構成成分;3)画像化構成成分である。3つの構成成分の最適な組成物で、TAは画像誘導(例えば、US、CTまたはMRI)の下で腫瘍の標的領域に置くことができ、完全なアブレーションをより良好に達成するために印加されるエネルギー(例えば、マイクロ波、高周波またはエレクトロポレーション)を増強することができる。例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)、NaClおよびタンタル粉末で構成されるTAは前述の基準を満たし、より有効なアブレーションを提供して、腫瘍の未処置の外部境界およびヒートシンク効果の排除をもたらす。塩はアルブミンの中の電荷分布を調整し、タンタルはその画像化特性を強化する。磁気共鳴画像化のために、調製物は多くの組織より短いシグナル減衰速度時定数(T)を実証する。一例として、3テスラでの肝臓は、概ね800ミリ秒のTを有する。NaClの濃度によっては、アルブミン/NaCl調製物は、250ミリ秒から330ミリ秒の範囲内のTを有する。画像誘導のためのT加重MRIスキャンでは、TAは周囲の組織より実質的に明るく現れ(陽性のコントラスト)、材料の明確な配置を可能にする。主に陰性コントラストを通して、Tコントラスト機構を使用することもでき、ここでは、TAは周囲の組織より短いTを有し、T加重スキャンが誘導のために使用される。
【0039】
アルブミンは球状タンパク質ファミリーに属し、水溶性であり、濃い塩溶液に中程度可溶性であり、熱変性を受ける。アルブミンは血漿中に一般に見出され、それらがグリコシル化されていないという点で、他の血液タンパク質と異なる。血清アルブミン、アルファフェトプロテイン、ビタミンD結合性タンパク質およびアファミンを含む、いくつかの血液輸送タンパク質が進化的に関連している。血清アルブミンは、ヒト血漿で最も豊富である。それは、水、カチオン(例えば、Ca2+、NaおよびK)、脂肪酸、ホルモン、ビリルビン、サイロキシンおよび医薬品(バルビツール剤およびタキソールを含む)に結合する。その主な機能は、血液のコロイド浸透圧を調節することである。アルブミンの等電点は、4.9である(ヒト血清アルブミン、Ip=4.7)。
【0040】
アルブミンは類似の構造の3つのドメインで構成され、それらは全て同じドメインを起源とした。各ドメインは10個のα-ヘリックスで構成され、それぞれ6個および4個のヘリックスを含有する、AおよびBとして表される2つのサブドメインにさらに分割することができる。2つのサブドメインは長いアミノ酸ループによって接続され、それはサブドメインの配向の変化を担う。他方、ドメイン間の立体配置的柔軟性は、ヘリックスの屈曲に依存する。その標準的な構造は保存された17個のジスルフィド架橋のセットによって支持され、それらは全ての哺乳動物の血清アルブミンにおいて維持される。3つのドメインのうち、第1のドメインは、Cys-34の1つを欠き、6個でなく5個のジスルフィド架橋を含有する唯一のものである。代わりに、Cys-34で形成する分子内ジスルフィド架橋の欠如は、アルブミンがこの残基で別のアルブミン分子と二量体化することを可能にする。HSA、BSA、LSAおよびESAは5億年にわたってそれらの残基の70~85%を交換したが、システインおよびジスルフィド架橋の位置は変化していない。さらに、ドメインはかなりの進化的変化を経たが、それらの全体的構築および二次構造要素は不変のままである。
【0041】
図8Aおよび図8BはHSA(A)およびBSA(B)の表面電位を図示するが、異なる色は正および負に荷電した領域を表す。Vincent Goovaertsら、Phys. Chem. Chem. Phys.、2013年、15巻、18378~18387頁。成熟したBSAは583アミノ酸を含有し、99個の陽性(K、H、R)および陰性(D、E)残基を有する。同様に、成熟したHSAは585アミノ酸を含有し、99個の陽性(K、H、R)および98個の陰性(D、E)残基を有する。タンパク質の一般的な構造は哺乳動物の血清アルブミンの間で保存されているが、かなりの差が存在する。配列では、BSAはHSAとわずか75.8%の相同性を共有する。それらの構造は標準的(canonical)である(保存されたジスルフィド架橋のために)が、表面アミノ酸において異なる。その結果、様々な血清アルブミンにおけるリガンド結合性ポケットは、異なるアミノ酸組成およびわずかに異なる立体配座を示し、異なるリガンドの結合を可能にする。
【0042】
TAのタンタル構成成分は、蛍光透視可視化を提供する高度に放射線不透過性の材料である。タンタルは、動脈ステント、人工股補綴具および塞栓形成材料のような、造影剤の組込みを必要とするインプラントで使用されてきた歴史のある不活性の金属である[9、10]。塞栓形成材料でのその使用に加えて、タンタル粉末は、経皮的脊髄切除の間の可視化のために頸部の脊髄に注入される造影剤として使用されてきた。さらに、タンタル粉末は、ロボトミーまたは白質切断において切断面をマークするために、腫瘍摘出の部位の可視化または鮮明さを提供するために、および手術後の再発性の硬膜下血腫の検出のために、神経外科において用途が見出されてきた。
【0043】
血清アルブミンの特質は生理的条件下で広く研究されてきたが、特に画像化造影剤または熱促進剤の担体としての、高い濃度のアルブミン(すなわち、300mg/mL)に関する研究は稀である。それにもかかわらず、真空における血清アルブミンの計算された双極子モーメントは、上で最初に記載されたTA物質、CsCl(約10D)または水(1.85D)と比較して非常に大きく、710D(D=Debye)である。その大きな双極子モーメントにもかかわらず、生理学的に利用可能なウシ血清アルブミン(BSA)単独では、その低い誘電定数および目的の周波数範囲、すなわち915MHz~2.45GHzにおける損失係数のために、温度を急速に上昇させない[12]。500mg/mLのBSAでは、アンテナをBSA試料から1.5cmの距離に配置したとき、915MHzにより60Wで10分後に40~50℃への段階的な増加がin vitroで観察された。温度上昇は、BSAを単独でTAとするには不十分だった。さらに、高い濃度(>300mg/mL)のアルブミンは、大部分は、濃度の関数としてBSAの粘度を図式的に例示する図9に示すように、タンパク質間相互作用のために、非常に高い粘度を有する傾向がある。
【0044】
印加されるマイクロ波放射線の下で、アルブミン分子の表面電荷は、直ちに利用できる他のアルブミン分子との分子間相互作用によって占有される。相互作用を緩和するために、本発明者らはカオトロピックとしてNaClを使用した。本質的には、BSA分子の分子間相互作用は、電荷-電荷、双極子-双極子ならびに疎水性の相互作用からなり、したがって、高い粘度を示すと考えられている。NaClを溶液に加えることによって、他のBSA電荷と競合する塩イオン、および以降の水分子による溶媒和によって、粘度は低下する。これは、個々のBSA分子を、マイクロ波エネルギーに応答するように解放する。本発明者らは、アルブミン(500mg/mL)の熱促進効率に及ぼす[NaCl]の効果を調べ、結果を図10Aに示す。最適なTA効率を誘導するNaClの濃度は、50mg/mLよりわずかに高いが、75mg/mL未満である。より高い濃度は効率を抑制し(>75mg/mL NaCl)、230mg/mLを超える溶解限度を有する。最適なNaCl範囲で、アルブミン溶液(500mg/mL)の粘度はまた、約70cP(推定)から約30cP(センチポアズ)まで低減され、それは、ケシの実油などのエチオダイズド油のそれと同等の流動性を提供する。図10Aは、マイクロ波アブレーション(MWA、60W、915MHz、10分、アンテナからの距離=1.5cm)に及ぼす様々なNaCl濃度の効果を示す。図10Bは、同じマイクロ波レジメン下の120秒終点時の温度対[NaCl]濃度の概略プロットであり、およそ50mg/mL NaClに温度ピークを示す。
【0045】
上記のアルブミン熱促進剤は、ブタにおけるいくつかのin vivoマイクロ波アブレーション実験において使用され、生存能力のある細胞から死細胞を区別するために切除された部位をトリフェニル塩化テトラゾリウムで染色した。これらの追実験からの画像は、TAによるMWAが、対照としてTAなしの代表的なマイクロ波アブレーション(915MHz、60W、10分、d=1.5cm)を使用した対照より大きなアブレーションゾーンを与えることを実証した。同じMWA条件下で、TA(1mLのアルブミン(500mg)、NaCl(50mg))は、太い血管の影響を受けなかったより大きなアブレーションゾーンを生成した(直径1cm)。MWAは、ブタ肝臓の左中間葉で実施した(915MHz、60W、10分、d=1.5cm)。同じMWA条件下で、TA(1mLのアルブミン(500mg)、NaCl(50mg))は、肝臓の同じ小葉でより大きなアブレーションゾーンを生成した。ブタ肝臓の左中間葉でのMWA(915MHz、60W、10分、d=1.5cm)を、血管の背後に注入したTA(1mLのアルブミン(500mg)、NaCl(50mg))によるMWAと比較した。その手技について、アブレーションゾーンは血管(直径>4mm)を通って広がり、血管を完全に囲むのが見られた。前の実施例と共に、これは、TAによるMWAがマイクロ波エネルギーを増強することができるだけでなく、「ヒートシンク」効果によって引き起こされる熱損失をブロックすることもできることを実証した。さらなる実験では、アンテナおよびTAの間に血管を配置したアブレーションが完了(10分)した直後に、超音波画像を撮った。アブレーションの間、血管中の血流は正常であることが見られ、それは、マイクロ波エネルギーが血管を過熱することなく、機能している血管を透過し、遠距離場で効果的に作動することができたことを示す。これは、「ヒートシンク」効果をアブレーション方法論によって排除することができることを示唆する。他のTTC処置腎臓組織画像は、単一のアンテナを60W、915MHzで10分間使用した代表的なアブレーションゾーンを示すが、中心腎洞領域の結合組織への影響がより少ないので、アブレーションはわずかに中心を外れている。その結果としてのアブレーションゾーンは、直径約1cmである。TAはアブレーションゾーンの大幅な増加をもたらすことができ(直径3cm)、中心組織も完全に切除されたことが示された(60W、915MHz、10分;アンテナとTAの間の距離は1.3cmであった)。
【0046】
図11は、CsCl吸収体の異なる濃度において、TAのないまたはTAの1mLを有する異なる組織(腎臓、筋肉および肝臓)における、1mLの熱促進剤のcmで表したアブレーション容量を評価するために行ったさらなる組織アブレーション実験の結果を示す。各場合に、有効なアブレーションゾーンは、TAでより大きかった。肝臓はこの方法による処置のための重要な器官であるので、肝臓組織アブレーションのためにTAの異なる濃度を250mg/mLまでの濃度で試験した。他の組織も、有意なアブレーション容量増加を示した。
【0047】
上記のように、本発明の熱基質または熱促進剤は、様々な形態または調合物で実行することができ、注入可能、固定可能、画像形成可能および加熱可能な媒体としてそれらの有用性を改善するように、天然または人工のポリマーの物理的特性を仕立てることを含むことができる。いくつかの強力な初期の材料を記載したが、単純な試験でさらなるものを速やかに明らかにするかまたは確認することができる。したがって、塩化セシウムマイクロ波促進剤に加えて、またはその代わりに、医療用に有益である臭化物またはヨウ化物などの他のハロゲン化物、および他のアルカリまたはアルカリ土類カチオンが、同等ではなくても類似のアブレーション強化を提供すると予想することができる。例えば、塩化ルビジウムまたは好適に保護されたルビジウム部分が有益である可能性がある。同様に、BSAおよびPLGA-PEG-PLGAポリマーに加えて、それらが適する特性を示すならば、アルギン酸媒体中の材料またはカルボン酸塩または亜硫酸塩材料などのアニオンを有する塩を用いることができ、有益なカチオン、アニオンまたは電解質、または熱促進剤の所望の物理的画像化、加熱および他の特性を最適化するための他の材料の議論が上に含まれる。例として、様々な塞栓形成媒体をそのように改変することができ、それらの基本的乳剤様組成物も超音波画像形成可能性を提供する。さらに、塩化ナトリウム塩とのアルブミンの製剤は、優れたマイクロ波加熱性能とともに、多様な組織処置(血管内を含む)のために適切な物理的特性を有する低粘度の熱促進剤を提供する一方で、完全に生体適合性であることが示された。記載された熱促進剤の異なるものが、400MHz、915MHz、2450MHzまたは5800MHz範囲の異なるマイクロ波レジメンに適切である可能性があり、それらが医療用に安全であり、検討中の組織、腫瘍塊または器官のために有効なマイクロ波アブレーション強化特性をもたらすならば使用可能である。
【0048】
さらに、記載されるポリマーは、標的組織の血管に送達し、加熱して、標的腫瘍に栄養を与える血管をブロックし、それによって血管を通した酸素および栄養供給の遮断による腫瘍退縮を引き起こすための塞栓形成物質として作用させることができる。さらなる変形は、局在化され、加熱されると、ポリマーがin-situで徐放性処置剤としての役目をするように、1つまたは複数の抗がん薬または処置剤をポリマーに加えることである。
【0049】
本明細書に記載される発明は、電気または電磁エネルギーの増強、例えば放散されたエネルギーの吸収および熱エネルギーへの変換によって、熱傷害を起こすアブレーション方法論を含む。アブレーション方法論は、例えば、加熱効果を増加させるために、衛星エネルギー吸収体として機能する熱促進剤(TA)を含む。熱促進剤(TA)は、3つの構成成分、1)担体としてのポリマー(天然または人工的);2)全体的電荷および粘度バランスのためのイオン性構成成分または同等物;3)アブレーション手技のモニタリングを可能にする画像化構成成分で好ましくは構成される。
【0050】
他のポリマーには、天然物または人工物、例えば、アルブミン、絹、ウール、キトサン、アルギン酸塩、ペクチン、DNA、セルロース、ポリシアル酸、樹状ポリリシン、乳酸-グリコール酸コポリマー(PLGA)が含まれる。イオン性構成成分は、MまたはM2+2-を含むことができ、ここで、MはLi、Na、K、Rb、Csなどのアルカリまたはアルカリ土類金属に属し、Xは、ハロゲン、酢酸塩およびMに対する他の同等のカウンターバランスを表し、YはX、または混合したハロゲン、酢酸塩、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩およびM2+に対する他の同等のカウンターバランスであってよい。他の有機構成成分は、これらの役割に独立して影響することができる。以下を参照する:Wang, S.ら、Mol. Pharmaceutics 2015年、12巻、4478~4487頁。CT画像化については、セシウム、タンタル、イオヘキソール、エチオダイズドポリマー、例えばPLGA、PEG、アルブミンを利用することができるが、超音波画像診断のためには、ポリマーは一般に低反響性であることが見出されている。しかしPLGA-PEG-PLGA(ブロックコポリマー、逆相-転移ヒドロゲル)が使用されるとき、ポリマーは注入直後に低反響性のようであるが、その後温度上昇に伴い高反響性に転換する。アルブミンが担体ポリマーとして使用されるとき、類似の観察がされた。
【0051】
アブレーションを駆動するために電磁エネルギー(例えば、マイクロ波、RF、エレクトロポレーション)を印加する際、遠隔に配置されたTAは、周囲よりもずっと効果的にエネルギーを吸収することができ、アブレーションゾーンの延長を助けることができる。ここで、遠隔に配置されたTAとは、付録Cに報告された通りの条件(60W、915MHz、10分間)が使用されるとき、アンテナ開放スロットから1.5cmよりも大きいかまたはそれと等しい距離を意味する。上記のように、電磁エネルギー(例えば、マイクロ波、RF、エレクトロポレーション)の印加の際、太い血管に隣接して置かれたTAは、アブレーション標的が過剰な熱損失を被るのを阻止することができ、したがって、TAは完全なアブレーションを提供するために「ヒートシンク」効果を軽減することができる。さらに、TAは、腫瘍を破壊するために、塞栓形成/アブレーションの組合せ処置で使用することができる。TAはリピオドールの粘度に類似の粘度を有し、したがって、正確に配置するために血管内カテーテルによって送達することができる。以降のアブレーションは、腫瘍を効果的に破壊することができる。
【0052】
したがって、概要および要約として、上記の熱促進剤(TA)製剤および材料は、衛星エネルギー吸収体として機能し、アンテナ単独で効果的に処置できない距離で熱への電気または電磁エネルギーのカップリングを増強することによって熱傷害を起こすことができる。TAは、3つの構成成分、1)担体としてのポリマー(天然または人工的);2)全体的電荷および/または粘度平衡のためのイオン性構成成分または同等物;および3)画像化構成成分で構成することができる。ポリマーには、天然物または人工物、例えば、アルブミン、絹、ウール、キトサン、アルギン酸塩、ペクチン、DNA、セルロース、ポリシアル酸、樹状ポリリシン、乳酸-グリコール酸コポリマー(PLGA)、ゲラン、多糖およびポリアスパラギン酸およびその組合せが含まれてもよい。イオン性構成成分は、MまたはM2+2-(一般式Mn+n-として)を含むことができ、ここで、MはLi、Na、K、Rb、Csなどのアルカリまたはアルカリ土類金属に属し、Xは、ハロゲン化物、酢酸塩およびMに対する他の同等のカウンターバランスを表し、YはX、または混合したハロゲン化物、酢酸塩、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩およびM2+に対する他の同等のカウンターバランス、ならびにギ酸、グリコール酸、乳酸、プロピオン酸、カプロン酸、シュウ酸、リンゴ酸、クエン酸、安息香酸、尿酸およびそれらの対応するコンジュゲート塩基であってよい。他の有機構成成分は、Wang, S.ら、Mol. Pharmaceutics 2015年、12巻、4478~4487頁に記載されているように、独立して置換することができる。
【0053】
CT画像化のために、セシウム、タンタル、イオパミドール、イオヘキソール、イオキシラン、イオプロミド、イオジキサノール、イオキサグレート、ジアトリゾエート、メトリゾ酸、ヨータラム酸、エチオダイズドポリマー、例えば、PLGA、PEG、アルブミン、DNA、RNA、イオン性のポリ炭水化物およびその組合せを利用することができる。超音波画像診断については、ポリマーは一般に低反響性である。しかし、PLGA-PEG-PLGA(ブロックコポリマー、逆相-転移ヒドロゲル)が使用されるとき、ポリマーは注入直後に低反響性のようであるが、その後温度上昇に伴い高反響性に転換し、画像形成可能性を示している。アルブミンが担体ポリマーとして使用されるとき、類似の観察がされた。
【0054】
電磁エネルギー(例えば、マイクロ波、RF、エレクトロポレーション)を印加する際、遠隔に配置されたTAは、周囲よりもずっと効果的にエネルギーを吸収することができ、アブレーションゾーンの延長を助けることができる。ここで、「遠隔に配置されたTA」は、遠い範囲内を意味し、そこで、例えば、条件(例えば、60W、915MHz、10分間)が使用されるとき、マイクロ波アンテナから1.5cmより大きいかまたは等しい距離を意味し得る。TAを使用して、アブレーションゾーンは所与の電力/時間処置のためにアンテナからさらに広げることができるか、または、同じアブレーション容量をより短い時間で効果的に切除することができるか、または、マイクロ波加熱が本質的により可能でない特異的組織領域において加熱の程度を強化することができる。
【0055】
電磁処置エネルギー(例えば、マイクロ波、RF、エレクトロポレーション)の印加の際、太い血管に隣接して置かれたTAは、アブレーションゾーンを熱損失から保護することができ、したがって、TAは完全なアブレーションを保証するために「ヒートシンク」効果を軽減することができる。さらに、好適に置かれたTAは血管の向こう側にアブレーションを延長することができ、単純なマイクロ波アンテナのために新しい処置幾何学的構造を可能にする。
【0056】
さらに、TAは、腫瘍を破壊するために、塞栓形成/アブレーションの組合せ処置で使用することができる。TAはリピオドールに類似の粘度で製剤化することができ、したがって、正確に置くために血管内カテーテルによって送達することができる。以降のアブレーションは、腫瘍を効果的に破壊することができる。
【0057】
TA製剤は賦形剤を含むことができ、それは具体的な目的に依存し得る。賦形剤には、例えば、PEG、ラクトース、微結晶性セルロース、グリコール酸デンプンナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、PVP、HPMC、ステアリン酸マグネシウム、コロイド状SiOを含めることができる。
【0058】
組織標的はかなり多様であってよく、がん/腫瘍アブレーションの分野でのTAの使用は、乳房(良性および悪性)、甲状腺(良性および悪性)、肺(原発性および転移性)、肝臓(原発性および転移性、肝臓手術縁辺凝固)、副腎(良性機能性、がんおよび転移性)、腎臓(原発性および転移性)、骨、前立腺、軟組織(原発性および転移性)を含むことができる。さらに、強化されたアブレーション精度、速度および均一性は、子宮内膜アブレーション/月経過多:子宮;脊髄減圧術および除神経;前立腺肥大(BPH);ならびに、食道(還流)、気管支樹(気腫低減)、胆管樹(腫瘍によるステント閉塞)、関節(ゆるみ)、外科切除および出血などの他の組織の処置に対して有望な改善を提供する。
【0059】
このように本発明を記載したが、そのさらなる変形、改変および実施例は当業者によって理解され、全てのそのような変形および改変は、本明細書に記載され、特許請求される本発明の範囲内にあるとみなされる。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11