IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社 資生堂の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】化粧料及びデオドラント製品
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/365 20060101AFI20230530BHJP
   A61Q 15/00 20060101ALI20230530BHJP
   A61K 8/27 20060101ALI20230530BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20230530BHJP
   A61K 8/46 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
A61K8/365
A61Q15/00
A61K8/27
A61K8/34
A61K8/46
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019125051
(22)【出願日】2019-07-04
(65)【公開番号】P2021011438
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100149294
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 直人
(72)【発明者】
【氏名】薮 桃
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 由樹
(72)【発明者】
【氏名】石川 恭義
【審査官】伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-111551(JP,A)
【文献】特開2005-239633(JP,A)
【文献】特開2010-070526(JP,A)
【文献】特開2005-247729(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
CAplus/REGISTRY(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)パラフェノールスルホン酸亜鉛からなる制汗成分、
(B)リンゴ酸及び/又はその塩、
(C)20質量%以上のアルコール、及び
(D)水、を含有し、
pHが5.67~8.2の範囲内であり、
前記(A)制汗成分の配合量が、化粧料全量に対して0.1~3質量%であり、
前記(B)リンゴ酸及び/又はその塩の配合量が、化粧料全量に対して0.01~1質量%であることを特徴とする化粧料。
【請求項2】
(D)水の配合量が、化粧料全量に対して40~75質量%である、請求項1に記載の化粧料。
【請求項3】
リンゴ酸の塩がナトリウム塩である、請求項1または2に記載の化粧料。
【請求項4】
(E)殺菌成分を更に含有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の化粧料。
【請求項5】
(E)殺菌成分が、塩化ベンザルコニウム、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、3,4,4-トリクロロカルバニリド(T.C.C)、トリエチルシトレート(T.E.C)、塩化ベンゼトニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、レゾルシン、フェノール、ソルビン酸、サリチル酸、ヘキサクロロフェン、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸クロルヘキシジンイソプロピルメチルフェノール、銀担持ゼオライト、銀担持シリカ、およびヒノキチオールからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項4に記載の化粧料。
【請求項6】
デオドラント化粧料である、請求項1から5のいずれか一項に記載の化粧料。
【請求項7】
請求項6に記載のデオドラント化粧料と、金属含有素材からなる容器とを含み、前記デオドラント化粧料が前記容器内に収容された、デオドラント製品。
【請求項8】
前記デオドラント化粧料が、シート状部材に含浸されている、請求項7に記載のデオドラント製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はデオドラント製品に適した化粧料に関する。さらに詳しくは、制汗作用及び使用時の爽快感に優れ、なおかつ制汗成分が析出することなく経時安定性に優れた化粧料、及び当該化粧料を用いたデオドラント製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、体臭等により周囲の人に不快感を与えることを回避するエチケット志向が高まり、様々な形態のデオドラント製品が上市されている。汗や皮脂に起因して生じる腋臭などの体臭を除去するデオドラント化粧料には、制汗成分、殺菌成分、消臭成分等が配合されている。しかし、制汗成分には経時的に析出してしまうという問題があった。
【0003】
特許文献1では、クロルヒドロキシアルミニウム及びミョウバンという防臭・制汗成分を併用した組成物において、乳酸等のヒドロキシ酸を配合することにより、前記制汗成分の沈殿を抑制し収斂感を向上させたことが開示されている。特許文献2には、特定の制汗成分の所定量と特定の消臭成分とを配合した化粧料に、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸またはその塩から選択される有機酸を配合し、なおかつpHを7.0以上9以下に調整することにより、消臭作用の即効性及び持続性に優れ、制汗成分の析出を抑制した化粧料が開示されている。しかしながら、特許文献1及び2に記載された化粧料(組成物)において効果が確認された例にアルコールは配合されていない。
【0004】
一方、特許文献3には、エアゾールを含有するエアゾール型ジェル状デオドラント剤において、制汗剤の析出を抑制するためには、所定量のアルキル変性カルボキシビニルポリマーを配合するとともに、エタノールの配合量を制限することが必要であることが示唆されている。従って、制汗剤とともにエタノール等のアルコールを多配合した化粧料において、制汗剤の析出を抑制して安定性を保持するという課題は未だ解決されていない。
【0005】
また、制汗成分として知られるクロルヒドロキシアルミニウムや酸化亜鉛を含有する化粧料を金属製容器に収容しておくと、金属の腐食が起こりることも知られている(特許文献4)。特許文献4においては、無水のエアゾール型デオドラント組成物において、HLBが5以上10未満である特定の非イオン性界面活性剤を配合することにより、粉末の凝集と腐食性を抑制したことが記載されている。しかしながら、水を含有する化粧料における腐食を防止できるか否かは不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-178835号公報
【文献】特許第6118089号公報
【文献】特開2019-64953号公報
【文献】特許第5634253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、制汗剤とともにアルコールを20質量%以上配合した化粧料、特に液状の水性化粧料において、制汗剤の析出を抑制して安定性を向上させ、なおかつ金属に対する腐食性を抑制した化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、亜鉛を含有する制汗剤を選択し、当該制汗剤とともにリンゴ酸(塩)を配合して、化粧料のpHを所定範囲に調整することにより、アルコールを多配合しても制汗剤の析出を防止できるとともに金属に対する腐食性を示さない化粧料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(A)亜鉛を含有する制汗成分、
(B)リンゴ酸及び/又はその塩、
(C)20質量%以上のアルコール、及び
(D)水、を含有し、
pHが5~8.2の範囲内であることを特徴とする化粧料を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の化粧料は、アルコールを多量に含有しているため、肌に塗布した際の爽快感に優れる。また、多量のアルコールを含有していても制汗剤の析出という問題を生じずに安定である。さらに、金属製の容器に収容しても金属容器を腐食することがない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(A)亜鉛を含有する制汗成分
化粧料等に用いられる制汗成分(制汗剤)としては、クロルヒドロキシアルミニウム、塩化アルミニウム、アラントインクロルヒドロキシアルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム(ミョウバン)等のアルミニウム化合物、酸化亜鉛、パラフェノールスルホン酸亜鉛等の亜鉛化合物、ジルコニウム塩等が知られており、皮膚を強力に収斂させることにより汗の発生を抑える作用があるといわれている。
本発明の化粧料においては、制汗成分として亜鉛を含有するものを配合する。亜鉛を含有する制汗成分の中でも、パラフェノールスルホン酸亜鉛を選択するのが特に好ましい。
【0012】
本発明の化粧料における(A)制汗成分の配合量は、化粧料全量に対して0.1~3質量%、好ましくは0.15~2質量%、より好ましくは0.2~1質量%である。配合量が0.1質量%未満であると十分な制汗効果が得られず、3質量%を超えて配合すると、制汗剤の析出が生じる場合がある。
【0013】
(B)リンゴ酸及び/又はその塩
本発明の化粧料は、リンゴ酸及び/又はその塩を必須成分として含有する。リンゴ酸はヒドロキシ酸に分類される有機酸の一種であるが、本発明の化粧料においては、リンゴ酸を特に選択して配合することにより制汗剤の析出を抑制することができ、リンゴ酸に換えてクエン酸や酒石酸といった他のヒドロキシ酸を配合したのでは同様の効果は得られない。
【0014】
リンゴ酸の塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩などが例示され、特に限定されない。本発明においては、リンゴ酸のアルカリ金属塩、中でもナトリウム塩が好ましく使用される。
【0015】
本発明の化粧料における(B)リンゴ酸及び/又はその塩の配合量は、化粧料全量に対して0.01~1質量%とするのが好ましく、より好ましくは0.02~0.6質量%である。配合量が0.01質量%未満の場合または1質量%を超える場合は、意図した析出防止効果が得られない場合がある。
【0016】
(C)アルコール
本発明の化粧料は、20質量%以上のアルコールを含有する。本発明における(C)アルコールは、炭素数6以下の低級アルコール、特にエタノールとするのが好ましい。
(C)アルコールの配合量は、20質量%以上、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。アルコールの配合量が20質量%に満たないと、化粧料を塗布した際の爽快感が十分得られない場合がある。アルコール配合量の上限値は特に限定さないが、通常は70質量%以下であり、60質量%以下あるいは50質量%以下とすることもできる。
【0017】
(D)水
本発明の化粧料は(C)アルコールに加えて(D)水を含む液状化粧料である。水は特に限定されず、具体的に示すとすれば、精製水、イオン交換水などが挙げられる。
本発明の化粧料における(D)水の配合量は、化粧料全量に対して40~75質量%とするのが好ましく、より好ましくは45~60質量%である。
【0018】
本発明の化粧料は、そのpHを、5~8.2の範囲内にすることが必須である。化粧料のpH範囲は、6~8とするのが好ましく、6.5~7.5とするのが更に好ましい。
化粧料のpHを上記範囲に調整することにより、制汗剤の析出抑制のみならず金属に対する腐食性も抑制することができる。
【0019】
本発明の化粧料のpHは、前記(B)リンゴ酸及びその塩で構成される緩衝系によって調整してもよいが、例えば、リンゴ酸と塩形性物質(pH調整剤:例えば、水酸化ナトリウム等)を別々に配合することにより調製してもよい。
【0020】
本発明の化粧料は、上記した必須成分(A)~(D)に加えて、(E)殺菌成分を更に含有するのが好ましい。(E)殺菌成分は、体臭の原因物質を作り出す皮膚常在菌の増殖を抑制し防臭効果を発揮する物質であり、化粧料の分野では、塩化ベンザルコニウム、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、3,4,4-トリクロロカルバニリド(T.C.C)、トリエチルシトレート(T.E.C)、塩化ベンゼトニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、レゾルシン、フェノール、ソルビン酸、サリチル酸、ヘキサクロロフェン、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸クロルヘキシジンイソプロピルメチルフェノール、銀担持ゼオライト、銀担持シリカ、およびヒノキチオール等が知られている。
本発明で用いる(E)殺菌成分は特に限定されないが、イソプロピルメチルフェノールが特に好ましく使用される。
【0021】
前記成分(A)~(D)及び任意に成分(E)を含有する本発明の化粧料は、制汗作用及び殺菌作用を有し、アルコールの揮発に伴う塗布時の爽快感を与えるため、デオドラント化粧料とするのに特に適している。
【0022】
デオドラント化粧料として提供するときの本発明の化粧料は、前記成分(A)~(E)以外に、デオドラント化粧料に配合されうる他の成分を、本発明の効果を阻害しない範囲で含有することができる。
【0023】
他の成分としては、例えば、消臭剤(亜鉛華など)、芳香剤(香料)、冷感物質、界面活性剤、粉末、増粘剤、酸化防止剤、各種薬剤、防腐剤等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
冷感物質を配合すると、アルコールの揮発による爽快感に加えて、冷感物質による清涼感を付与することができ、特に夏用のデオドラント化粧料に好適である。
冷感物質としては、メントール(L-メントール、DL-メントール)及びその誘導体、カンファー、ユーカリ油等を例示できる。メントール誘導体としては、例えば、乳酸メンチル、L-メンチルグリセリルエーテル、L-メンチルグルコシド、L-メンチルヒドロキシブチレート、メントキシプロパンジオール、メントキシフラン等が挙げられる。
【0025】
本発明の化粧料は、液状水性化粧料であり、そのままの形態でデオドラント化粧料として提供できる。また、本発明の化粧料は、金属に対する腐食性が抑制されているので、金属含有素材(例えば、鉄、アルミニウム、ブリキ(スズメッキ鋼板)、トタン(亜鉛メッキ鋼板)等)からなる容器に収容して提供することが可能である。
【0026】
本発明の化粧料の容器の形態は限定されず、例えば、ロールオン容器、エアゾール又はディスペンサー容器に充填して提供することが可能であり、不織布等のシート状部材に含浸させた形態で、金属含有素材からなる包装容器に包装して提供することも可能である。なお、前記の金属含有素材からなる容器は、その表面を樹脂等でコーティングしたものであってもよい。
【0027】
従って本発明は、本発明のデオドラント化粧料と、金属含有素材からなる容器とを含み、前記デオドラント化粧料が前記容器内に収容されたデオドラント製品を提供する。当該デオドラント化粧料は、シート状部材に含浸された状態で容器に収容されていてもよい。
【0028】
本発明の化粧料は、前記成分(A)~(D)及び任意に成分(E)並びに他の任意成分を混合し、適宜攪拌することによって製造できる。
【実施例
【0029】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、配合量は全量に対する質量%を表す。
【0030】
表1~表4に示す処方の化粧料を調製し、室温(RT)及び60℃の環境で1週間保管した後の各化粧料の状態を目視で観察し、それらの安定性(析出の有無)を以下の基準で評価した。
A:析出が全く観察されず安定であった。
B:わずかな析出が観察された。
C:析出により化粧料が白濁した。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
【0034】
【表4】
【0035】
上記の評価結果から明らかなように、本発明の化粧料(実施例1~10)は、アルコールを36質量%又は48質量%と多配合していても、リンゴ酸(塩)を配合してpHを所定範囲内に調整したことで制汗成分の析出を抑制して安定性が向上した。一方、リンゴ酸(塩)を他の有機酸に置換した場合、あるいはpHが本願所定の範囲を逸脱して高い場合(比較例1~3、5、6~8及び10)では制汗成分の析出が生じた。
なお、リンゴ酸(塩)を配合して析出を生じなかった実施例1~10、比較例4及び9の化粧料について、アルミニウム含有素材を用いた容器に対する影響を評価したところ、実施例1~10では変化(腐食の兆候)は観察されなかったが、比較例4及び9では容器のアルミニウム層部分に変質(腐食の兆候)が認められた。