IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レフィルム加工株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】積層フィルム
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20230530BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230530BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20230530BHJP
   C09J 123/10 20060101ALI20230530BHJP
   C09J 125/04 20060101ALI20230530BHJP
   C09J 7/24 20180101ALI20230530BHJP
【FI】
C09J7/38
B32B27/00 M
B32B27/32 Z
C09J123/10
C09J125/04
C09J7/24
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019147047
(22)【出願日】2019-08-09
(65)【公開番号】P2020026531
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2022-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2018150107
(32)【優先日】2018-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222462
【氏名又は名称】東レフィルム加工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】田邨 奈穂子
(72)【発明者】
【氏名】西村 直哉
(72)【発明者】
【氏名】大倉 正寿
(72)【発明者】
【氏名】辰喜 利海
(72)【発明者】
【氏名】馬場 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】町田 哲也
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0170391(US,A1)
【文献】特開2007-253435(JP,A)
【文献】特開2009-028938(JP,A)
【文献】特開2009-069572(JP,A)
【文献】特開2017-160410(JP,A)
【文献】特開2018-001620(JP,A)
【文献】特開2013-117019(JP,A)
【文献】特開2011-042779(JP,A)
【文献】特開2014-198411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J,B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、その少なくとも一方の面に粘着性の樹脂層Aを有する積層フィルムであって、
前記樹脂層Aは、前記積層フィルムの最外層に配置され、
前記樹脂層Aは、ポリオレフィン系樹脂を含み、
前記樹脂層Aの算術平均粗さをRa(A)、厚みをT(A)とした場合に、Ra(A)/T(A)が0.07以上であり、T(A)が5μm未満であり、
前記樹脂層Aを100質量%とすると、前記樹脂層Aは、
230℃、2.16kgにおけるメルトフローレートが5g/10分以上50g/10分以下であるスチレン系エラストマーを40~95質量%含み、かつ、
230℃、2.16kgにおけるメルトフローレートが0.01g/10分以上1.5g/10分以下であるポリプロピレン系樹脂を5~35質量%含む、積層フィルム。
【請求項2】
前記樹脂層Aの25℃、1Hzでの貯蔵弾性率G’ は、1.0×10Pa以上5.0×10Pa以下である請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
前記樹脂層A側の23℃におけるプローブタック最大値Fが、0.2g/mm以上、3.0g/mm以下である、請求項1又は2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
前記樹脂層Aは、230℃、2.16kgにおけるメルトフローレートが5g/10分以上50g/10分以下であるスチレン系エラストマーを含む、請求項1~3のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項5】
前記樹脂層Aは、230℃、2.16kgにおけるメルトフローレートが0.01g/10分以上1.5g/10分以下であるポリオレフィン系樹脂を含む、請求項1~4のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項6】
前記基材は、230℃、2.16kgにおけるメルトフローレートが5g/10分以上50g/10分以下であるスチレン系エラストマー、及び/又は、230℃、2.16kgにおけるメルトフローレートが0.01g/10分以上1.5g/10分以下であるポリプロピレン系樹脂を含む、請求項1~のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項7】
前記樹脂層Aを100質量%とすると、前記樹脂層Aは、粘着付与剤を5質量%以上、40質量%以下含む、請求項1~のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項8】
被着体、及び、請求項1~のいずれかに記載の積層フィルムを貼りあわせた貼合物。
【請求項9】
前記被着体は、前記樹脂層Aと接する面を有し、
前記被着体の前記樹脂層Aと接する面の算術平均粗さRaが0.1μm以上である、請求項に記載の貼合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる凹凸形状を有する様々な被着体に対し、被着体の形状に関わらず一定の粘着力を示す、被着体依存性に優れた積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂、金属、ガラス等の各種素材からなる製品には、加工工程、輸送工程、保管中に生じるキズや汚れを防止するため、表面を保護する材料を貼って取り扱うことが多々ある。その代表的なものが表面保護フィルムであり、一般に、熱可塑性樹脂や紙からなる支持基材の上に、粘着層が形成されたものを用いており、粘着層面を被着体に貼着させて支持基材で被覆することで表面を保護するものである。
【0003】
特に近年、液晶ディスプレイやタッチパネルデバイスの普及が進んでいるが、これらは合成樹脂からなる多数の光学シートや光学フィルム等の部材から構成されている。かかる光学用部材は、光学的な歪み等の欠点を極力低減させる必要があることから、欠点の原因となり得るキズや汚れを防止するため、表面保護フィルムが多用されている。
【0004】
このような表面保護フィルムの特性としては、温度、湿度等の環境変化や小さな応力を受けた程度では被着体から容易に剥離しないこと、被着体から剥離した際に被着体に粘着剤および粘着剤成分が残らないこと、加工後や使用後に容易に剥離できることが求められる。
【0005】
上述した光学用部材のなかでも拡散板やプリズムシートのような表面に凹凸形状を有する被着体については、様々な表面形状を有するものが市場に出回っており、このような異なる表面形状をもつ被着体に対し一様な粘着力を示し、汎用的に利用できる、被着体依存性に優れた保護フィルムの開発が求められている。
【0006】
このような表面に凹凸を有する被着体に貼合する保護フィルムに関する先行技術として特許文献1、2が挙げられるが、これらはいずれも被着体の凹凸形状の違いによる粘着力差、いわゆる被着体依存性を改善するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-253435号公報
【文献】特開2013-117019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は、上記した課題を解決することにある。すなわち、異なる表面形状をもつ被着体に対し一様な粘着力を示し、汎用的に利用できる、被着体依存性に優れた積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題は、以下によって解決可能である。
【0010】
基材と、その少なくとも一方の面に粘着性の樹脂層Aを有する積層フィルムであって、
前記樹脂層Aは、前記積層フィルムの最外層に配置され、
前記樹脂層Aは、ポリオレフィン系樹脂を含み、
前記樹脂層Aの算術平均粗さをRa(A)、厚みをT(A)とした場合に、Ra(A)/T(A)が0.07以上であり、T(A)が5μm未満である、積層フィルム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上述の課題に鑑み、被着体依存性に優れ、異なる表面形状を持つ様々な被着体に対して、良好な粘着特性を示す積層フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下説明する実施形態に限定されるものではない。
【0013】
本発明は、基材とその少なくとも一方の面に粘着性の樹脂層Aを有する積層フィルムであって、前記樹脂層Aは、前記積層フィルムの最外層に配置され、前記樹脂層Aは、ポリオレフィン系樹脂を含み、前記樹脂層Aの算術平均粗さをRa(A)、厚みをT(A)とした場合に、Ra(A)/T(A)が0.07以上であり、T(A)が5μm未満である、積層フィルムである。
【0014】
樹脂層Aは、樹脂層Aの算術平均粗さをRa(A)、厚みをT(A)とした場合に、Ra(A)/T(A)が0.07以上である。Ra(A)/T(A)は、より好ましくは0.08以上、さらに好ましくは0.09以上、特に好ましくは0.1以上である。Ra(A)/T(A)が0.07未満の場合には、被着体依存性が悪化し、異なる表面形状の被着体に対し一様な粘着力を示さない場合がある。Ra(A)/T(A)の上限は特に限定されないが、粘着性を保持することが困難となる場合があることから、1が実質的な上限である。上記した樹脂層AのRa(A)/T(A)を0.07以上に制御する方法としては、例えば、樹脂層Aや基材に粗面効果のある材料を使用する方法や、基材の樹脂層Aを配置した面とは反対側の面の凹凸形状を転写させる方法、樹脂層Aの表面に凹凸形状を有するロールなどを押し付ける方法等が挙げられる。
【0015】
本発明における樹脂層Aの厚みT(A)は、5μm未満である。樹脂層Aの厚みT(A)は、より好ましくは4.5μm以下、さらに好ましくは4.0μm以下、特に好ましくは3.5μm以下である。樹脂層Aの厚みT(A)が5μm以上の場合、被着体依存性に劣る積層フィルムとなり、異なる表面形状の被着体に対し一様な粘着特性を示さない場合がある。T(A)の上限は特に設けないが、0.1μm以下であると、凹凸形状を有する被着体に対し十分な粘着特性が得られない場合があるため、樹脂層Aの厚みT(A)は0.1μmより大きいことが好ましい。
【0016】
上記した積層フィルムの樹脂層Aの算術平均粗さRa(A)や、樹脂層Aの厚みT(A)は後述の方法で算出することができる。
【0017】
本発明の積層フィルムは基材を有する。ここで基材とは有限の厚さを有する層状のものを指す。基材の材質は特に限定されないが、例えばポリオレフィン系樹脂やポリエステル系樹脂を用いることができ、なかでも生産性や加工性の観点からポリオレフィン系樹脂を主成分とすることが好ましい。ここで述べる主成分とは、基材を構成する全ての成分の中で最も質量%の高いもの(含有量の多いもの)をいう。
【0018】
基材中に主成分として含まれるポリオレフィン系樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低結晶性あるいは非晶性のエチレン・α-オレフィン共重合体、ポリプロピレン、プロピレン・エチレン共重合体(ランダム共重合体および/またはブロック共重合体)、プロピレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・エチレン・α-オレフィン共重合体、エチレン・エチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン・メチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン・n-ブチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体が挙げられる。これらは単独で用いても併用してもよい。なお、前記α-オレフィンとしては、プロピレンやエチレンと共重合可能であれば特に限定されず、例えば、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-ペンテン、1-ヘプテンを挙げることができる。
【0019】
本発明の基材に用いる樹脂のメルトフローレート(MFR、230℃、2.16kgの条件で測定)は、0.5g/10分以上であることが好ましく、より好ましくは1g/10分以上、さらに好ましくは2g/10分以上である。基材中の樹脂のMFRが0.5g/分未満では、溶融粘度が高すぎるため生産性が低下する場合がある。また基材中の樹脂のMFRは、30g/分以下であることが好ましく、より好ましくは25g/10分、さらに好ましくは20g/10分である。基材中の樹脂のMFRが30g/10分より大きいと、樹脂層Aとの積層界面の形状が不安定になる場合がある。
【0020】
また基材は、230℃、2.16kgにおけるメルトフローレートが5g/10分以上50g/10分以下であるスチレン系エラストマー、及び/又は、230℃、2.16kgにおけるメルトフローレートが0.01g/10分以上1.5g/10分以下であるポリプロピレン系樹脂を含むことが好ましい。主成分とは別の成分として、基材が、230℃、2.16kgにおけるメルトフローレートが5g/10分以上50g/10分以下であるスチレン系エラストマー、及び/又は、230℃、2.16kgにおけるメルトフローレートが0.01g/10分以上1.5g/10分以下であるポリプロピレン系樹脂を含むことで、基材と樹脂層Aの親和性が向上し、界面接着力を高めることができるために好ましい。
【0021】
基材全体を100質量%としたときの、230℃、2.16kgにおけるメルトフローレートが5g/10分以上50g/10分以下であるスチレン系エラストマー及び230℃、2.16kgにおけるメルトフローレートが0.01g/10分以上1.5g/10分以下であるポリプロピレン系樹脂の合計の基材中での含有量は、1質量%以上が好ましく、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上である。また230℃、2.16kgにおけるメルトフローレートが5g/10分以上50g/10分以下であるスチレン系エラストマー及び230℃、2.16kgにおけるメルトフローレートが0.01g/10分以上1.5g/10分以下であるポリプロピレン系樹脂の合計の基材中での含有量の上限は、15質量%以下であることが好ましく、13質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。230℃、2.16kgにおけるメルトフローレートが5g/10分以上50g/10分以下であるスチレン系エラストマー及び230℃、2.16kgにおけるメルトフローレートが0.01g/10分以上1.5g/10分以下であるポリプロピレン系樹脂の合計の含有量が上記範囲となることで、基材と樹脂層Aの親和性が向上し、界面接着力を高める観点から好ましい。
【0022】
230℃、2.16kgにおけるメルトフローレートが5g/10分以上50g/10分以下であるスチレン系エラストマーや230℃、2.16kgにおけるメルトフローレートが0.01g/10分以上1.5g/10分以下であるポリプロピレン系樹脂を、基材に含ませる方法としては、例えば、本積層フィルムを回収、再原料化した回収原料を添加して基材に使用する方法を挙げることができ、この方法を採用することは樹脂のリサイクルや生産コスト低減の観点から好ましい手法である。
【0023】
さらに本発明の基材中には、本発明の積層フィルムとしての特性を損なわない範囲で、結晶核剤、滑剤、酸化防止剤、耐候剤、帯電防止剤、顔料等の各種添加剤を適宜添加してもよい。また本発明の基材中には、本発明の樹脂層Aと良好に積層させるための易接着成分を含有してもよい。
【0024】
本発明の積層フィルムを構成する基材の厚みは、積層フィルムの要求特性にあわせて適宜調整することができるが、5μm以上であることが好ましく、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは20μm以上である。5μmより薄いと強度が不足し、製造工程での搬送が困難な場合や、加工時や使用時に破れてしまう場合がある。基材の厚みは200μm以下であることが好ましく、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは80μm以下である。厚みが200μmを超える場合は、フィルムのヘイズが上昇したり、生産性が低下したりする場合がある。また、特に表面に凹凸を有する被着体に対しての追従性が不足して、粘着力が低下する場合がある。
【0025】
本発明の積層フィルムは、粘着性の樹脂層Aを有する。ここで樹脂層Aは、基材の少なくとも一方の面に配置される層であり、ポリオレフィン系樹脂を含む層である。そして樹脂層Aは、常温で粘着性を有することが好ましく、有限の厚さを有する層状のものを指す。
【0026】
また、樹脂層Aが粘着性を有するとは、算術平均粗さRaが0.2μm、十点平均粗さRzが2.8μmであるSUS304板に対して、積層フィルムの樹脂層A側をロールプレス機((株)安田精機製作所製特殊圧着ローラ)を用い、貼込圧力0.35MPaで貼り合わせた貼合物に関して、樹脂層AとSUS304板間の粘着力を測定した場合に、1gf/25mm以上の粘着力を有することを意味する。樹脂層Aの粘着性は、2gf/25mm以上であればより好ましく、5gf/25mm以上であればさらに好ましい。樹脂層Aの粘着性は高い程好ましく、上限は特にないが、1000gf/25mmを超える場合には貼合後に剥離が困難となり作業性が低下することがあるので、1000gf/25mm程度が上限として好ましい。
【0027】
さらに樹脂層Aは、本発明の積層フィルムの最外層に配置される。粘着性を有する樹脂層Aが、積層フィルムの最外層に配置されることで、樹脂層Aを介して積層フィルムを被着体と貼り合せて貼合物を得ることができる。
【0028】
樹脂層Aは、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、アクリル系、シリコーン系、天然ゴム系、合成ゴム系、などの公知のエラストマー樹脂を含むことができる。これらの中でもリサイクル性の観点から熱可塑性の合成ゴム系粘着剤を用いることが好ましく、なかでもスチレン系エラストマーがより好ましい。
【0029】
樹脂層Aに好適なスチレン系エラストマーとしては、例えばスチレン・ブタジエン共重合体(SBR)、スチレン・イソプレン・スチレン共重合体(SIS)、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体(SBS)等のスチレン・共役ジエン系共重合体およびそれらの水添物(例えば水添スチレン・ブタジエン共重合体(HSBR)やスチレン・エチレンブチレン・スチレントリブロック共重合体(SEBS)、スチレン・エチレンブチレンジブロック共重合体(SEB))や、スチレン・イソブチレン系共重合体(例えば、スチレン・イソブチレン・スチレントリブロック共重合体(SIBS)やスチレン・イソブチレンジブロック共重合体(SIB)、またはこれらの混合物)を使用することができる。前記した中でも、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体(SBS)等のスチレン・共役ジエン系共重合体およびそれらの水添物、スチレン・イソブチレン系共重合体が好ましく用いられる。また、スチレン系エラストマーは1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用することもできる。さらに、必要に応じてスチレン系エラストマー以外の材料を用いてもよい。
【0030】
樹脂層Aに好適なスチレン系エラストマーの樹脂層A中の含有量は、樹脂層A全体を100質量%としたとき、95質量%以下が好ましく、より好ましくは93質量%以下、さらに好ましくは90質量%以下である。95質量%を超える場合、Ra(A)が低下し被着体依存性が悪化する場合がある。スチレン系エラストマー含有量は樹脂層A全体を100質量%としたとき、40質量%以上が好ましく、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは55質量%以上、特に好ましくは60質量%以上である。40質量%未満である場合、凹凸形状を有する被着体に対して十分な粘着力が得られない場合がある。
【0031】
樹脂層Aに好適なスチレン系エラストマーのメルトフローレート(MFR、230℃、2.16kgの条件で測定)は、5g/10分以上であることが好ましく、より好ましくは7g/10分以上、さらに好ましくは10g/10分以上、特に好ましくは15g/10分以上である。また、50g/10分以下であることが好ましく、より好ましくは40g/10分以下、さらに好ましくは30g/10分以下、特に好ましくは25g/10分以下である。50g/10分を超える場合には、基材層との積層界面が不安定になる場合がある。
【0032】
樹脂層A中のスチレン系エラストマーについて、特に本発明においては、樹脂層Aを100質量%とした時に、樹脂層Aが、230℃、2.16kgにおけるメルトフローレートが5g/10分以上50g/10分以下であるスチレン系エラストマーを40~95質量%含むことが最も好ましい。このスチレン系エラストマーの好適なメルトフローレートや樹脂層A中の含有量については、前述の通りである。
【0033】
樹脂層Aに好適なスチレン系エラストマー中のスチレン含有量は、スチレン系エラストマー全体を100質量%としたとき、2質量%以上であることが好ましく、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは8質量%以上である。スチレン系エラストマー中のスチレン含有量が2質量%未満では、樹脂層Aの凝集力が低下して、被着体から剥離した際に糊残りが生じる場合がある。また、樹脂層Aに好適なスチレン系エラストマー中のスチレン含有量は、60質量%以下であることが好ましく、より好ましくは55質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下である。60質量%を超えると被着体への貼り付き性が低下することになり、特に凹凸を有する被着体に対して粘着性が不足する場合がある。
【0034】
本発明の樹脂層Aには、ポリオレフィン系樹脂が含まれる。樹脂層Aがポリオレフィン系樹脂を含むことにより、樹脂層Aのマトリックス成分であるエラストマー樹脂に対し、ドメイン成分としてポリオレフィン系樹脂が分散した構造を形成し、樹脂層Aの粗面度を好ましく制御することができる。
【0035】
樹脂層Aに好適なポリオレフィン系樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、低結晶性あるいは非晶性のエチレン・α-オレフィン共重合体、結晶性ポリプロピレン、低結晶性ポリプロピレン、非晶性ポリプロピレン、プロピレン・エチレン共重合体(ランダム共重合体および/またはブロック共重合体)、プロピレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・エチレン・α-オレフィン共重合体、ポリブテン、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体、エチレン・エチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン・メチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン・n-ブチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体が挙げられ、前記した中でも、結晶性ポリプロピレン、低結晶性ポリプロピレン、非晶性ポリプロピレン、プロピレン・エチレン共重合体(ランダム共重合体および/またはブロック共重合体)、プロピレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・エチレン・α-オレフィン共重合体といったポリプロピレン系樹脂が好ましく用いられる。これらポリオレフィン系樹脂は単独で用いても併用してもよい。なお、前記α-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、4-メチル-1-ペンテンと共重合可能であれば特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-ペンテン、1-ヘプテンを挙げることができる。
【0036】
ポリオレフィン系樹脂の樹脂層A中での含有量は、樹脂層A全体を100質量%としたとき、35質量%以下が好ましく、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下である。ポリオレフィン系樹脂の樹脂層A中での含有量が35質量%を超える場合、凹凸形状を有する被着体に対して十分な粘着力が得られない場合がある。また、ポリオレフィン系樹脂の樹脂層A中での含有量は5質量%以上が好ましく、より好ましくは7質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上である。ポリオレフィン系樹脂の樹脂層A中での含有量が5質量%未満である場合、Ra(A)が低下し被着体依存性が悪化する場合がある。
【0037】
樹脂層Aに好適なポリオレフィン系樹脂のメルトフローレート(MFR、230℃、2.16kgの条件で測定)は、1.5g/10分以下であることが好ましく、より好ましくは1.3g/10分以下、さらに好ましくは1.0g/10分以下、特に好ましくは0.7g/10分以下である。MFRが1.5g/10分を超える場合には、樹脂層Aの粗さが不十分で被着体依存性が悪化する場合がある。また、樹脂層Aに好適なポリオレフィン樹脂のMFRは0.01g/10分以上であることが好ましく、より好ましくは0.05g/10分以上、さらに好ましくは0.1g/10分以上、特に好ましくは0.2g/10分以上である。樹脂層Aに好適なポリオレフィン系樹脂のMFRが0.01g/10分未満である場合には、生産性が低下する場合がある。
【0038】
樹脂層A中のポリプロピレン系樹脂について、特に本発明においては、樹脂層Aを100質量%とした時に、樹脂層Aが、230℃、2.16kgにおけるメルトフローレートが0.01g/10分以上1.5g/10分以下であるポリプロピレン系樹脂を5~35質量%含むことが最も好ましい。このポリプロピレン系樹脂の好適なメルトフローレートは、前述の樹脂層A中のポリオレフィン樹脂のメルトフローレートのとおりであり、このポリプロピレン系樹脂の好適な樹脂層A中の含有量については、前述の樹脂層A中のポリオレフィン系樹脂の含有量のとおりである。
【0039】
本発明の樹脂層Aは、樹脂層Aの算術平均粗さRa(A)を制御することを目的として、粒子を含んでもよい。樹脂層A中の粒子としては、例えば無機粒子や有機粒子などが使用でき、被着体と貼り合せた場合に被着体を損傷する懸念が少ない有機粒子であることが好ましい。有機粒子としては、アクリル系樹脂粒子、スチレン系樹脂粒子、ポリオレフィン系樹脂粒子、ポリエステル系樹脂粒子、ポリウレタン系樹脂粒子、ポリカーボネート系樹脂粒子、ポリアミド系樹脂粒子、シリコーン系樹脂粒子、フッ素系樹脂粒子、あるいは上記樹脂の合成に用いられる2種以上のモノマーの共重合樹脂粒子等が挙げられ、これらは単独で用いても併用してもよい。
【0040】
樹脂層A中の粒子の平均粒子径は、0.1μm以上であることが好ましく、より好ましくは1.0μm以上、さらに好ましくは2.0μm以上である。平均粒子径が0.1μm未満であると、粒子の凝集が発生したり、粗面度を制御する効果が得られなかったりする場合がある。一方、平均粒子径の上限は20.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは15.0μm以下、さらに好ましくは10.0μm以下である。平均粒子径が20.0μmを超える場合、所望の粘着力が得られない場合がある。
【0041】
本発明の樹脂層Aは、上記した以外にも粘着付与剤、滑剤、その他の添加剤等の他の成分を本発明の目的を損なわない範囲で適宜添加してもよい。
【0042】
前記粘着付与剤としては、例えば、脂肪族系共重合体、芳香族系共重合体、脂肪族・芳香族系共重合体系や脂環式系共重合体等の石油樹脂、テルペン系樹脂、テルペンフェノール系樹脂、ロジン系樹脂、アルキルフェノール系樹脂、キシレン系樹脂又はこれらの水添物を使用することができる。粘着付与剤の含有量は、樹脂層A全体を100質量%としたとき、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。また、粘着付与剤の含有量は、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、22質量%以下がさらに好ましい。粘着付与剤の含有量は5質量%以上、40質量%以下が好ましい。樹脂層A中の粘着付与剤の含有量が5質量%未満の場合、本発明の積層フィルムを被着体に良好に貼り合わせた際に粘着力が不足する場合がある。また、粘着付与剤の含有量が40質量%より多いと、本発明の積層フィルムを被着体に貼り合わせた後、剥離する際に糊残りが生じて被着体を汚染する場合や経時や加熱保管した際に粘着付与剤の一部が樹脂層A表面にブリードアウトして粘着力が過剰になってしまう場合がある。
【0043】
本発明の樹脂層Aに用いる滑剤としては、スチレン系エラストマーをチップ化した際に、チップ同士が粘着、ブロッキングすることを防止するためにチップ表面に付着させたり、樹脂層Aの表面に析出させることで粘着力を調整したり、樹脂層Aを溶融押出する際に良好な押出性を得るために添加するもので、例えばステアリン酸カルシウムやベヘン酸マグネシウムなどの脂肪酸金属塩やエチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド等の脂肪酸アミドやポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、パラフィンワックス等のワックスを挙げることができる。滑剤の含有量は樹脂層A全体を100質量%としたとき、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が特に好ましい。滑剤の含有量が10質量%より多い場合は、特に凹凸を有する被着体への粘着力が不足する場合や、樹脂層Aを溶融押出法にて成型した場合、滑剤の一部が昇華して口金を汚染し、さらに製品に付着してしまう場合がある。
【0044】
また、上記したその他の添加剤としては、結晶核剤、酸化防止剤、耐熱付与剤、耐候剤、帯電防止剤等が挙げられる。これらの添加剤は単体で用いても、併用してもよいが、総含有量は、樹脂層A全体を100質量%としたときに、3質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましい。添加剤の総含有量が3質量%より多い場合は、樹脂層Aからブリードアウトして、製品に欠点を生じる場合や、被着体を汚染する場合がある。
【0045】
樹脂層Aの25℃、1Hzでの貯蔵弾性率G’は、1.0×10Pa以上であることが好ましい。より好ましくは2.0×10Pa以上、さらに好ましくは3.0×10Pa以上、特に好ましくは5.0×10Pa以上、最も好ましくは1.5×10Pa以上である。樹脂層Aの25℃、1Hzでの貯蔵弾性率G’が1.0×10Pa未満である場合、樹脂層Aの凝集力が低下し十分な粘着力が得られない場合がある。また、樹脂層Aの25℃、1Hzでの貯蔵弾性率G’は5.0×10Pa以下であることが好ましい。より好ましくは2.0×10Pa以下、さらに好ましくは1.0×10Pa以下、特に好ましくは8.0×10Pa以下、最も好ましくは3.0×10Pa以下である。樹脂層Aの25℃、1Hzでの貯蔵弾性率G’が5.0×10Paを超える場合、被着体に貼合した場合に被着体の凹凸形状に樹脂層Aが追従せず、十分な粘着力が得られない場合がある。樹脂層Aの25℃、1Hzでの貯蔵弾性率G’は積層フィルムを製造する際、例えば樹脂層Aの原料組成を調整することで可能である。
【0046】
本発明の樹脂層A側の23℃におけるプローブタック最大値Fは、0.2g/mm以上、3.0g/mm以下が好ましい。樹脂層A側のプローブタック最大値Fが0.2g/mm未満の場合は、本発明の積層フィルムを表面保護フィルムとして用いた際に、十分な粘着力が得られない場合がある。また、プローブタック最大値Fが3.0g/mmより大きい場合は、粘着力が大きくなりすぎたり、被着体依存性が大きくなりすぎる場合がある。プローブタック最大値Fの下限は、1.0g/mm以上であることがより好ましく、1.5g/mm以上であることがさらに好ましい。また、プローブタック最大値Fの上限は、2.5g/mm以下であることがより好ましい。
【0047】
プローブタック最大値Fは、樹脂層Aを構成する材料や樹脂層Aの柔軟性、厚み、表面粗さ等を調整することで制御できるが、例えば、プローブタック最大値Fを小さくする方法としては、樹脂層A中のポリオレフィン系樹脂の含有量を多くする方法、樹脂層A中の粘着付与剤の含有量を少なくする方法、樹脂層Aを硬くする方法、樹脂層Aの厚みを薄くする方法、樹脂層Aの表面粗さを大きくする方法、滑剤を添加する方法を挙げることができる。
【0048】
本発明の積層フィルムは、少なくとも基材と樹脂層Aを有する。つまり本発明の積層フィルムは、少なくとも2層以上の層を有する構成である。本発明の積層フィルムの具体的な積層の構成としては、例えば、樹脂層A/基材、樹脂層A/基材/樹脂層A、樹脂層A/基材/後述する樹脂層Bの構成が好ましい。
【0049】
前述のとおり、本発明の積層フィルムは、基材の樹脂層Aを有する面とは反対側の表面に、樹脂層Bを有することが好ましい。樹脂層Bは、離型性を有することが好ましく、有限の厚さを有する層状のものを指す。
【0050】
本発明の積層フィルムの樹脂層Bに用いる樹脂として、例えばポリオレフィン系樹脂やポリエステル系樹脂を挙げることができ、なかでも生産性や加工性の観点からポリオレフィン系樹脂を主成分とすることが好ましい。ここで述べる主成分とは、積層フィルムの樹脂層Bを構成する成分のうち最も質量%の高いもの(含有量の多いもの)をいう。
【0051】
前記ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低結晶性あるいは非晶性のエチレン・α-オレフィン共重合体、ポリプロピレン、プロピレン・エチレン共重合体(ランダム共重合体および/またはブロック共重合体)、プロピレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・エチレン・α-オレフィン共重合体、エチレン・エチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン・メチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン・n-ブチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体が挙げられる。これらは単独で用いても併用してもよい。なお、前記α-オレフィンとしては、プロピレンやエチレンと共重合可能であれば特に限定されず、例えば、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-ペンテン、1-ヘプテンを挙げることができる。上記したポリオレフィン系樹脂のなかでも、樹脂層Bの粗さの制御による離型性付与の観点から、樹脂層Bを構成する主成分をポリプロピレンとし、これに相溶しないポリオレフィンを添加する方法や、市販のブロックポリプロピレン、いわゆるブロックコポリマーあるいはインパクトコポリマーを用いることが好ましい。樹脂層B中のポリオレフィン系樹脂としては1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用することもできる。
【0052】
本発明の樹脂層Bに用いる樹脂のメルトフローレート(MFR、230℃、2.16kgの条件で測定)は、0.5g/10分以上であることが好ましく、より好ましくは1g/10分以上、さらに好ましくは2g/10分以上である。MFRが0.5g/10分未満では、溶融粘度が高すぎるため生産性が低下する場合がある。また、30g/10分以下であることが好ましく、より好ましくは25g/10分、さらに好ましくは20g/10分である。30g/10分より大きいと、樹脂層Bの算術平均粗さRa(B)が低下し、積層フィルムを巻回した後の展開が困難となる場合がある。
【0053】
樹脂層Bを構成する材料は、さらに離型剤として、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド、無機粒子、有機粒子などの易滑剤を添加することが好ましい。易滑剤を含まない場合、積層フィルムを巻回、展開する際に樹脂層Aの表面形状が変形し、被着体依存性が低下する場合がある。
【0054】
本発明の積層フィルムは、樹脂層Bを有することで、製造工程やスリット工程で積層フィルムをロール状に巻き取る際に良好な巻き姿で巻き取ることができたり、スリット時や使用時にロールからフィルムを巻き出す際の力が大きくなりすぎず、良好に巻き出しすることができたりするようになる。なお、本発明の積層フィルムにおける樹脂層Aと反対側の面に離型性を付与する他の方法としては、樹脂層Bを設けずに上記した易滑剤などを基材に添加する方法も挙げられるが、生産性やコスト、離型効果の観点から樹脂層Bを設ける方法がより好ましい。
【0055】
本発明の積層フィルムの樹脂層Bの算術平均粗さRa(B)は、0.1μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.2μm以上、さらに好ましくは0.3μm以上である。0.1μm未満である場合、製造工程やスリット工程で積層フィルムを良好に巻き取ることが困難な場合がある。Ra(B)の上限は特に設けないが、20μm以上では厚み精度や強度の低下が問題となる場合がある。
【0056】
次に本発明の積層フィルムの製造方法について説明する。
【0057】
本発明の積層フィルムの製造方法は特に限定されず、例えば、樹脂層A、基材、及び樹脂層Bをこの順に有する3層積層構成の場合、各々を構成する樹脂組成物を個別の押出機から溶融押出し、口金内で積層一体化させるいわゆる共押出法や、上記樹脂層A、基材、樹脂層Bをそれぞれ個別に溶融押出した後に、ラミネート法により積層する方法等が挙げられるが、生産性の観点から共押出法で製造されることが好ましい。各層を構成する材料は、ヘンシェルミキサ等で各々混合したものを用いてもよいし、予め各層の全てまたは一部の材料を混練したものを用いてもよい。共押出法については、インフレーション法、Tダイ法等の公知の方法が用いられるが、厚み精度に優れることや表面形状制御の観点から、Tダイ法による熱溶融共押出法が特に好ましい。
【0058】
共押出法により製造する場合、樹脂層A、基材、樹脂層Bの構成成分を各々溶融押出機から押出を行う。この時、樹脂層Aの押出温度は250℃以下であることが好ましく、より好ましくは230℃以下である。樹脂層Aの押出温度が250℃を超える場合、樹脂層A表面の算術平均粗さRa(A)を所望の範囲に制御できない場合がある。下限は特に設けないが、180℃未満の押出温度では、溶融粘度が高すぎるため、生産性が低下する場合がある。
【0059】
樹脂層Aと基材、樹脂層BはTダイ内部で積層一体化し、共押出を行う。そして金属冷却ロールで冷却固化し、フィルム状に成形を行い、ロール状に巻き取ることで積層フィルムを得ることができる。
【0060】
本発明の積層フィルムは、合成樹脂板、金属板、ガラス板等の製造、加工、運搬時の傷付き防止、汚れ付着防止用の表面保護フィルムとして用いることができるが、例えば、拡散板やプリズムシートなどの表面に凹凸を有する光学用の表面保護フィルムとして好ましく用いられる。つまり本発明の積層フィルムは、合成樹脂板、金属板、ガラス板等の被着体と貼り合せることができ、本発明の貼合物は、被着体と本発明の積層フィルムを貼りあわせた物を意味する。
【0061】
そして本発明の貼合物は、被着体が本発明の積層フィルムの樹脂層Aと接する面を有し、この被着体の樹脂層Aと接する面の算術平均粗さRaが0.1μm以上であることが好ましい。被着体の樹脂層Aと接する面の算術平均粗さRaの上限は特に限定されないが、例えば10μm以下である。本発明の貼合物において、被着体の樹脂層Aと接する面の算術平均粗さRaを0.1μm以上とすることで、浮きや過粘着が発生せず適正な粘着力を有する貼合物となるために好ましい。
【実施例
【0062】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、各種物性の測定および評価は、以下の方法により実施した。
【0063】
(1)表面粗さ
樹脂層Aの算術平均粗さRa(A)、樹脂層Bの算術平均粗さRa(B)、被着体の算術平均粗さRa(M)、被着体の十点平均粗さRz(M)は、(株)小坂研究所製の高精度微細形状測定器(SURFCORDER ET4000A)を用い、JIS B0601-1994に準拠し、積層フィルム、被着体の幅方向に2mm、長手方向に0.2mmの範囲について、走査方向を幅方向とし、長手方向に10μm間隔で21回の測定を実施し3次元解析を行い、評価した。なお、触針先端半径2.0μmのダイヤモンド針を使用、測定力100μN、カットオフ0.8mmで測定した。
【0064】
(2)貯蔵弾性率G’
実施例および比較例に示す積層フィルムから、ステンレス製のヘラを用いて樹脂層Aのみを削り取り、これを厚さ1mmに溶融成型したものをサンプルとした。測定はTAインスツルメント社製レオメーターAR2000exを用いて、マイナス50℃からプラス150℃の温度範囲を、昇温速度10℃/分で昇温しながら、周波数1Hz、ひずみ0.01%で動的剪断変形させ、25℃での貯蔵弾性率G’を測定した。
【0065】
(3)厚み
ミクロトーム法を用い、積層フィルムの幅方向-厚み方向に断面を有する幅5mmの超薄切片を作製し、該断面に白金コートをして観察試料とした。次に、日立製作所製電界放射走差電子顕微鏡(S-4800)を用いて、積層フィルム断面を加速電圧1.0kVで観察し、観察画像の任意の箇所から基材、樹脂層A、樹脂層Bの厚みおよび積層フィルムの総厚みを計測した。観察倍率に関し、樹脂層A、Bの厚みを測定する際には10,000倍、基材および積層フィルムの厚みを測定する際には1,000倍とした。さらに、同様の計測を合計20回行い、その平均値を基材、樹脂層A、Bそれぞれの厚みおよび積層フィルムの総厚みとして用いた。
【0066】
(4)積層フィルムの被着体との貼合
温度23℃、相対湿度50%の条件下で24時間、保管・調整した実施例及び比較例の
積層フィルムの樹脂層A側、及び被着体を、ロールプレス機((株)安田精機製作所製特殊圧着ローラ)を用い、貼込圧力0.35MPaで貼り付けた。なお、被着体には貼合面の算術平均粗さRa(M)が0.2μm、十点平均粗さRz(M)が2.8μmのSUS304板(以下、被着体Aと記載する)と、算術平均粗さRa(M)が0.7μm、十点平均粗さRz(M)が3.5μm、材質はアクリル樹脂であるプリズムシートの反対面に形成されたマット面(以下、被着体Bと記載する)の2種類を用意し、貼り合わせを行った。
【0067】
(5)粘着力
上記(4)により得られた貼り合せサンプルを、23℃の室内にて24時間保管後、引張試験機((株)オリエンテック“テンシロン”万能試験機)を用いて、引張速度300mm/分、剥離角度180°にて粘着力測定を実施した。1種類の積層フィルムに対して、被着体A、被着体Bそれぞれの粘着力を測定し、下記式(a)に従い被着体A、被着体Bの粘着力比を算出した。
粘着力比=被着体Aとの粘着力/被着体Bとの粘着力 ・・・ (a)
被着体Bの粘着力を以下の基準で評価した。
◎:2.0gf/25mm以上、かつ10gf/25mm未満
〇:(i)1.0gf/25mm以上、かつ2.0gf/25mm未満、または(ii)10gf/25mm以上、かつ30gf/25mm未満
×:(i)1.0gf/25mm未満、または(ii)30gf/25mm以上
また、(a)式に基づいて算出した被着体A、被着体Bの粘着力比は、1に近いほど被着体依存性に優れる積層フィルムであることを示し、以下の3段階で評価した。
◎:粘着力比が0.5以上、かつ3.0未満
○:粘着力比が(i)0.3以上、かつ0.5未満、または(ii)3.0以上、かつ4.0未満
×:粘着力比が0.3未満、または4.0以上。
【0068】
(6)メルトフローレート(MFR)
(株)東洋精機製作所製メルトインデックサを用い、JIS K7210-1997に準拠し、ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレートを測定する場合は、温度230℃、荷重2.16kg/cmの条件で、ポリエチレン系樹脂のメルトフローレートを測定する場合は、温度190℃、荷重2.16kg/cmの条件で測定した。単位はいずれもg/10分である。
【0069】
(7)プローブタック最大値F
レスカ製タッキング試験機TAC1000を用いて、以下の条件で積層フィルムの樹脂層A側から直径5mmのSUSプローブを接触後、引き剥がした際の最大荷重を読み取り、プローブの面積で除して単位面積あたりの荷重を算出した。試験は1種類の積層フィルムにつき5回実施し、その平均値を積層フィルムの樹脂層A側のプローブタック最大値Fとした。
温度:23℃
サンプル設置後の保持時間:5分
接触速さ、引き剥がし速さ:2mm/秒
接触時間:2秒。
【0070】
(実施例1)
各層の構成樹脂を次のように準備した。
【0071】
基材:ホモポリプロピレン(住友化学株式会社製、“ノーブレン”(登録商標)FLX80E4、MFR8g/10分(230℃、2.16kgで測定))を100質量%用いた。
【0072】
樹脂層A:SEBS(旭化成製、“タフテック”(登録商標)H1052、MFR13g/10分(230℃、2.16kgで測定))を75質量%、ホモポリプロピレン(住友化学株式会社製、“ノーブレン”(登録商標)D101、MFR0.5g/10分(230℃、2.16kgで測定))を15質量%、粘着付与剤(ヤスハラケミカル株式会社製、YSポリスター(登録商標)TH130)を10質量%用い、事前に二軸押出機にて混錬、チップ化したものを使用した。
【0073】
樹脂層B:MFRが8.5g/10分(230℃、2.16kgで測定)の市販のブロックポリプロピレンを95質量%、離型剤として市販のシリコーン系表面改質剤を5質量%用いた。
【0074】
次に、各層の構成樹脂を、3台の押出機を有するTダイ複合製膜機のそれぞれの押出機に投入し、樹脂層Aが3.5μm、基材が30μm、樹脂層Bが5μmになるように各押出機の吐出量を調整し、この順で積層して複合Tダイから押出温度230℃にて押出し、表面温度を40℃に制御したロール上にキャストしフィルム状に成型したものを巻回し、積層フィルムを得た。
【0075】
その後、得られた積層フィルムに対して、上記した方法により評価を行った。
【0076】
(実施例2)
樹脂層Aを構成する組成物をホモポリプロピレン(住友化学株式会社製、“ノーブレン”(登録商標)D101)15質量%に変えて、高溶融張力ポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社製“ウェイマックス”MFX8、MFR1g/10分(230℃、2.16kgで測定))を15質量%用い、樹脂層Aの厚みを3.0μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得た。
【0077】
(実施例3)
樹脂層Aを構成する組成物をホモポリプロピレン(住友化学株式会社製、“ノーブレン”(登録商標)D101)15質量%に変えて、ホモポリプロピレン(住友化学株式会社製、“ノーブレン”(登録商標)FLX80E4、MFR8g/10分(230℃、2.16kgで測定))15質量%用い、樹脂層Aの厚みを4.0μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得た。
【0078】
(実施例4)
樹脂層Aを構成する組成物をホモポリプロピレン(住友化学株式会社製、“ノーブレン”(登録商標)D101)15質量%に変えて、高密度ポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製、“ノバテック”(登録商標)HY443、MFR1.1g/10分(190℃、2.16kgで測定))15質量%用いたこと以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得た。
【0079】
(実施例5)
樹脂層Aの厚みを4.5μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得た。
【0080】
(実施例6)
樹脂層Aを構成する組成物として、SEBS(旭化成製、“タフテック”(登録商標)H1052、MFR13g/10分(230℃、2.16kgで測定))を79.7質量%、ホモポリプロピレン(住友化学株式会社製、“ノーブレン”(登録商標)D101、MFR0.5g/10分(230℃、2.16kgで測定))を15質量%、粘着付与剤(ヤスハラケミカル株式会社製、YSポリスター(登録商標)TH130)を5質量%、市販のエチレンビスステアリン酸アミド(EBSA)を0.3質量%用いたこと以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得た。
【0081】
(実施例7)
樹脂層Aを構成する組成物として、SEBS(旭化成製、“タフテック”(登録商標)H1052、MFR13g/10分(230℃、2.16kgで測定))を65質量%、ホモポリプロピレン(住友化学株式会社製、“ノーブレン”(登録商標)FLX80E4、MFR8g/10分(230℃、2.16kgで測定))を20質量%、粘着付与剤(ヤスハラケミカル株式会社製、YSポリスター(登録商標)TH130)を15質量%とし、樹脂層Aの厚みを4.5μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得た。
【0082】
(実施例8)
樹脂層Aを構成する組成物として、SEBS(旭化成製、“タフテック”(登録商標)H1052、MFR13g/10分(230℃、2.16kgで測定))を54.7質量%、ホモポリプロピレン(住友化学株式会社製、“ノーブレン”(登録商標)D101、MFR0.5g/10分(230℃、2.16kgで測定))を20質量%、粘着付与剤(荒川化学工業株式会社製、“アルコン”(商標登録)M135)を25質量%、市販のエチレンビスステアリン酸アミド(EBSA)を0.3質量%とし、樹脂層Aの厚みを3.0μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得た。
【0083】
(比較例1)
樹脂層Aを構成する組成物をSEBS(旭化成製、“タフテック”(登録商標)H1052、MFR13g/10分(230℃、2.16kgで測定))を100質量%、用いたこと以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得た。
【0084】
(比較例2)
樹脂層Aを構成する組成物をホモポリプロピレン(住友化学株式会社製、“ノーブレン”(登録商標)D101)15質量%に変えて、スチレン系エラストマー(カネカ株式会社製“シブスター”102T、MFR0.6g/10分(230℃、2.16kgで測定))を15質量%用いたこと以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得た。
【0085】
(比較例3)
樹脂層Aの厚みを5.0μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得た。
【0086】
(比較例4)
樹脂層Aを構成する組成物として、SEBS(旭化成製、“タフテック”(登録商標)H1052、MFR13g/10分(230℃、2.16kgで測定))を70質量%、ホモポリプロピレン(住友化学株式会社製、“ノーブレン”(登録商標)D101、MFR0.5g/10分(230℃、2.16kgで測定))を20質量%、粘着付与剤(ヤスハラケミカル株式会社製、YSポリスター(登録商標)TH130)を10質量%とし、樹脂層Aの厚みを5.5μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得た。
【0087】
【表1-1】
【0088】
【表1-2】
【0089】
本発明の要件を満足する実施例1~8は被着体Bの粘着力及び粘着力比の結果より、いずれの被着体に対していずれも良好な貼り付き性を有し、被着体依存性に優れる積層フィルムであった。一方、比較例1~4は被着体依存性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の積層フィルムは被着体依存性に優れることから、様々な表面形状を有する、合成樹脂、金属、ガラス等の各種素材から成る製品の表面保護フィルム用途として好ましく用いることができる。