(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/26 20160101AFI20230530BHJP
【FI】
H02P21/26
(21)【出願番号】P 2019220626
(22)【出願日】2019-12-05
【審査請求日】2022-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】戸張 和明
(72)【発明者】
【氏名】小沼 雄作
(72)【発明者】
【氏名】杉本 卓也
(72)【発明者】
【氏名】渡嘉敷 睦男
【審査官】柏崎 翔
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-163782(JP,A)
【文献】特開平11-151000(JP,A)
【文献】特開2019-22446(JP,A)
【文献】特開2017-70118(JP,A)
【文献】特開2015-177600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子を有する電力変換器と、
誘導モータの電圧情報および電流情報から前記電力変換器を制御する制御部とを有し、
前記制御部は、
前記誘導モータの電圧情報と電流情報から演算した第1の
有効電力を演算し、
前記誘導モータの電気回路定数、電流指令値、出力周波数指令値および磁束推定値から第2の
有効電力を演算し、
前記第2の
有効電力が、前記第1の
有効電力に追従するように前記磁束推定値を演算する電力変換装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
d軸およびq軸の電圧指令値とd軸およびq軸の検出電流から前記第1の
有効電力を演算
し、
前記誘導モータの前記電気回路定数、d軸およびq軸の前記電流指令値、前記出力周波数指令値およびd軸の前記磁束推定値から前記第2の
有効電力を演算し、
前記第2の
有効電力が、前記第1の
有効電力に追従するようにd軸の前記磁束推定値を演
算する電力変換装置。
【請求項3】
請求項
1に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
三相交流の電圧指令値および電流検出値の振幅値から前記第1の
有効電力を演算し、
前記誘導モータの電気回路定数、d軸およびq軸の前記電流指令値、前記出力周波数指令値およびd軸の前記磁束推定値から前記第2の
有効電力を演算し、
前記第2の
有効電力が、前記第1の
有効電力に追従するようにd軸の前記磁束推定値を演算する電力変換装置。
【請求項4】
請求項
1に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
前記電力変換器の直流電圧値と直流電流値から前記第1の
有効電力を演算し、
前記誘導モータの前記電気回路定数、d軸およびq軸の前記電流指令値、前記出力周波数指令値およびd軸の前記磁束推定値から前記第2の
有効電力を演算し、
前記第2の
有効電力が、前記第1の
有効電力に追従するようにd軸の前記磁束推定値を演算する電力変換装置。
【請求項5】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
前記第1の
有効電力と前記第2の
有効電力との偏差を零とするように比例制御と積分制御により前記磁束推定値を演算する電力変換装置。
【請求項6】
請求項
5に記載の電力変換装置において、
前記誘導モータの前記出力周波数指令値あるいはq軸の前記電流指令値の少なくともどちらか一方に基づいて、
前記比例制御と前記積分制御の制御ゲインを修正する電力変換装置。
【請求項7】
請求項1に記載の電力変換装置において、
デジタル・オペレータやパーソナル・コンピュータあるいはタブレット、スマートフォン機器から、
比例制御あるいは積分制御に設定する制御ゲインを、記録部に設定するか、もしくは設定した制御ゲインを変更する電力変換装置。
【請求項8】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記磁束推定値に基づいて電圧指令値を出力するベクトル制御演算部と、
前記磁束推定値に基づいて前記出力周波数指令値と周波数推定値を出力する周波数・位相推定演算部とを有する電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導モータを駆動する電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導モータの高精度な制御方法としては、特許文献1に記載のように、電力変換部から誘導モータへの出力電圧と電動機の巻線抵抗により生じる電圧降下量の差分に基づいて、誘導モータの固定子磁束ベクトルを推定する技術の記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された技術では、静止座標系α、βを使い、磁束ベクトルを推定する。αβの各軸成分では、磁束ベクトルは正弦波の形状に変化する。そのため、高速域では、正弦波の変化を検出するサンプリング周期が十分に短くないと、正弦波の振幅の値を正確に検出できない。しかし、サンプリング周期には限界が有るので、その限界を超える高速域では磁束の推定の精度を高めるのは困難である。
【0005】
磁束推定の精度が十分ではないことにより、特許文献1では、速度指令値と実際の誘導モータの回転速度にずれが生じ速度特性が悪くなることが考えられる。また、高速域で磁束を推定する場合に、電気回路定数の誤差で速度特性が悪くなるという課題がある。
【0006】
本発明の目的は、高速域で速度特性が悪化することを防ぐ電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の好ましい一例としては、スイッチング素子を有する電力変換器と、
誘導モータの電圧情報および電流情報から前記電力変換器を制御する制御部とを有し、
前記制御部は、
前記誘導モータの電圧情報と電流情報から演算した第1の有効電力を演算し、
前記誘導モータの電気回路定数、電流指令値、出力周波数指令値および磁束推定値から第2の有効電力を演算し、
前記第2の有効電力が、前記第1の有効電力に追従するように前記磁束推定値を演算する電力変換装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高速域で速度特性の悪化を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】実施例1におけるd軸の二次磁束推定演算部の構成図。
【
図5】実施例1の変形例のd軸の二次磁束推定演算部の構成図。
【
図6】実施例1における顕現性を確認するための構成図。
【
図7】実施例2におけるd軸の二次磁束推定演算部の構成図。
【
図8】実施例3におけるd軸の二次磁束推定演算部の構成図。
【
図9】実施例4におけるd軸の二次磁束推定演算部の構成図。
【
図10】実施例5におけるd軸の二次磁束推定演算部の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて実施例を詳細に説明する。
【実施例1】
【0011】
図1は、実施例1における電力変換装置の構成図を示す。誘導モータ1は、磁束軸(d軸)成分の電流により発生する磁束と、磁束軸に直行するトルク軸(q軸)成分の電流によりトルクを発生する。
【0012】
電力変換器2は、スイッチング素子としての半導体素子を備える。電力変換器2は、3相交流の電圧指令値vu
*、vv
*、vw
*を入力し、3相交流の電圧指令値vu
*、vv
*、vw
*に比例した電圧値を出力する。電力変換器2の出力に基づいて、誘導モータ1の出力電圧値と出力周波数値を可変する。スイッチング素子としてIGBTを使うようにしてもよい。
【0013】
直流電源3は、電力変換器2に直流電圧および直流電流を供給する。
【0014】
電流検出器4は、誘導モータ1の3相の交流電流iu、iv、iwの検出値であるiuc、ivc、iwcを出力する。また電流検出器4は、誘導モータ1の3相の内の2相、例えば、u相とw相の交流電流を検出し、v相の交流電流は、交流条件(iu+iv+iw=0)から、iv=-(iu+iw)として求めてもよい。本実施例では、電流検出器4は、電力変換装置内に設けた例を示したが、電力変換装置の外部に設けてもよい。
【0015】
制御部は、以下に説明する座標変換部5、速度制御演算部6、d軸の二次磁束推定演算部7、ベクトル制御演算部8、周波数・位相推定演算部9、座標変換部10を備える。そして、制御部は、電力変換器2を制御する。
【0016】
制御部は、マイコン(マイクロコンピュータ)やDSP(Digital Signal Processor)などの半導体集積回路(演算制御手段)によって構成される。制御部は、いずれかまたは全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などのハードウェアで構成することができる。
【0017】
次に、電力変換器2を制御する制御部の各構成要素について、説明する。
【0018】
座標変換部5は、3相の交流電流iu、iv、iwの交流電流検出値iuc、ivc、iwcと位相演算値θdcからd軸の電流検出値idcおよびq軸の電流検出値iqcを出力する。
【0019】
速度制御演算部6は、周波数指令値ωr
*と周波数推定値ωr
^に基づいて演算したq軸の電流指令値iq
*を出力する。
【0020】
d軸の二次磁束推定演算部7は、d軸およびq軸の電圧指令値vdc
**、vqc
**、電流検出値idc、iqc、電流指令値id
*、iq
*と出力周波数指令値ω1
*に基づいて演算したd軸の磁束推定値φ2d
**を出力する。
【0021】
ベクトル制御演算部8は、d軸の二次磁束推定値φ2d
**、d軸およびq軸の電流指令値id
*、iq
*、電流検出値idc、iqcと出力周波数指令値ω1
*に基づいて演算したd軸およびq軸の電圧指令値vdc
**、vqc
**を出力する。
【0022】
周波数・位相推定演算部9は、q軸の電圧指令値vqc
**、d軸の電流指令値id
*、q軸の電流指令値iq
*および電流検出値iqcとd軸の二次磁束推定値φ2d
**に基づいて演算した周波数推定値ωr
^、出力周波数指令値ω1
*と位相演算値θdcを出力する。
【0023】
座標変換部10は、d軸の電圧指令値vdc
**とq軸の電圧指令値vqc
**と、位相演算値θdcから3相交流の電圧指令値vu
*、vv
*、vw
*を出力する。
【0024】
最初に、d軸の二次磁束推定演算部7を用いた場合のセンサレスベクトル制御の基本動作について説明する。
【0025】
速度制御演算部6は、周波数指令値ωr
*に周波数推定値ωr
^が追従するように、比例制御と積分制御により(数1)に従いトルク電流指令であるq軸の電流指令値iq
*を演算する。
【0026】
【数1】
ここでK
spは速度制御の比例ゲイン、K
siは速度制御の積分ゲインである。
【0027】
ベクトル制御演算部8では、第1に、d軸の二次磁束推定値φ2d
**、d軸およびq軸の電流指令値id
*、iq
*と出力周波数指令値ω1
*を用いて(数2)に従いd軸およびq軸の電圧指令値vdc
*、vqc
*を出力する。
【0028】
【数2】
ここでT
acrは電流制御遅れ相当の時定数、R
1は一次抵抗値、L
σは漏れインダクタンス値、Mは相互インダクタンス値、L
2は二次側インダクタンス値である。
【0029】
第2に、d軸およびq軸の電流指令値id
*、iq
*に、各成分の電流検出値idc、iqcが追従するよう比例制御と積分制御により、(数3)に従いd軸およびq軸の電圧補正値Δvdc、Δvqcを演算する。
【0030】
【数3】
ここでK
pdはd軸の電流制御の比例ゲイン、K
idはd軸の電流制御の積分ゲイン、K
pqはq軸の電流制御の比例ゲイン、K
iqはq軸の電流制御の積分ゲインである。
【0031】
さらに(数4)に従い、d軸およびq軸の電圧指令値vdc
**、vdc
**を演算する。
【0032】
【0033】
周波数・位相推定演算部9では、q軸の電圧指令値vqc
**、d軸の電流指令値id
*、q軸の電流指令値iq
*および電流検出値iqcとd軸の二次磁束推定値φ2d
**に基づいて、(数5)に従い周波数推定値ωr
^を、(数6)に従い出力周波数指令値ω1
*を、(数7)に従い位相演算値θdcをそれぞれ演算する。
【0034】
【数5】
ここでR
*は一次抵抗と二次抵抗を加算した設定値、T
obsは速度推定の時定数である。
【0035】
【0036】
【0037】
図2に本実施例の特徴であるd軸の二次磁束推定演算部7のブロックを示す。
【0038】
L.P.F(Low Pass Filter)71は、ゲインが相互インダクタンスM、時定数が二次時定数T2であり、d軸の電流指令値id
*が入力され、d軸の二次磁束指令値φ2d
*を演算する。
【0039】
第1の有効電力演算部72は、d軸およびq軸の電圧指令値vdc
**、vqc
**と電流検出値idc、iqcを用いて、第1の有効電力Pcを(数8)に従い演算する。
【0040】
【0041】
力行/回生の両方の運転モードに対応するため、第1の有効電力演算部72の出力を絶対値演算部73に通して、第1の有効電力Pcの絶対値|Pc|を演算する。
【0042】
第2の有効電力演算部74は、d軸およびq軸の電流指令値id
*、iq
*、出力周波数指令値ω1
*、誘導モータ1の電気回路定数であるR1、M、L2と、d軸の二次磁束推定値φ2d
**を用いて、第2の有効電力Pc
^を(数9)に従い演算する。
【0043】
【0044】
力行/回生の両方の運転モードに対応するため、第2の有効電力演算部74の出力を絶対値演算部75に通して、第2の有効電力Pc
^の絶対値| Pc
^|を演算する。
【0045】
PI制御部76は、第2の有効電力Pc
^の絶対値|Pc
^|が、第1の有効電力Pcの絶対値|Pc|に追従するように、P(比例)制御とI(積分)制御を行い、d軸の二次磁束指令補正値Δφ2d0
*を演算する。
【0046】
L.P.F77は、時定数がTのゲインを持ち、二次磁束指令補正値Δφ2d0
*が入力され、d軸の二次磁束補正値Δφ2d
*を出力する。前記Δφ2d
*とd軸の二次磁束指令値φ2d
*を用いて、d軸の二次磁束推定値φ2d
**を(数10)に従い演算する。
【0047】
【0048】
つぎに、本実施例が高精度な制御特性となる原理について説明する。
【0049】
図3は、d軸の二次磁束推定演算部7を用いない(Δφ
2d
*=0)比較例としての制御特性を示す。(数2)に示すd軸およびq軸の電圧指令値v
dc
**、v
dc
**の演算式と、(数5)に示す速度推定値ω
r^の演算式に含まれる漏れインダクタンスの設定値L
σ
*に、+20%の誤差がある場合のシミュレーション結果である。
【0050】
上段の縦軸は負荷トルクTL(N・m)、中段の縦軸は周波数推定値ωr^(Hz)と誘導モータの周波数ωr(Hz)、下段の縦軸はd軸の二次磁束φ2d(p.u)とその指令値φ2d
*(p.u)を、横軸は時間(秒)を表示している。
【0051】
ランプ状の負荷トルクTLを図中のA点から与え始め、図中のB点で定格トルク(100%)トルクの2倍の大きさとなり、B点より右以降は200%トルクを与えたままの状態である。誘導モータの周波数ωrが周波数指令値ωr
*である30Hzより増速していることがわかる。
【0052】
一方、周波数推定値ωr
^は約30Hzであり、(数6)により出力周波数指令値ω1
*を演算するため、周波数の推定誤差はΔω=(ωr―ωr
^)であり、誘導モータのすべり誤差Δωsは(ωs―ωs
^)となる。このすべり誤差Δωsによりd軸の二次磁束φ2dが増加してしまう。そのようになると漏れインダクタンスの設定値Lσ
*によっては制御特性(速度ωの特性)が劣化する。つまり誘導モータの回転速度が速度指令値からずれるという速度特性の悪化が生じる問題があった。
【0053】
本実施例では、誘導モータの電圧情報としてのd軸の電圧指令値vdc
**およびq軸の電圧指令値vqc
**と、誘導モータの電流情報としてのd軸の電流検出値idc、q軸の電流検出値iqcを用いて、電気回路定数である漏れインダクタンスLσの情報を含まない第1の有効電力Pcを(数8)より演算する。
【0054】
また、d軸の電流指令値id
*およびq軸の電流指令値iq
*、出力周波数指令値ω1
*、誘導モータの電気回路定数R1、M、L2とd軸の二次磁束の推定値φ2d
**を用いて、こちらも漏れインダクタンスLσの情報を含まない第2の有効電力情報Pc
^を(数9)より演算する。
【0055】
上記のPc
^の絶対値|Pc
^|が、Pcの絶対値|Pc|に追従するように前記φ2d
**を推定し、推定値φ2d
^をベクトル制御演算部8、周波数・位相推定演算部9に用いることで、制御特性を改善することができる。
【0056】
実施例1における制御特性を
図4に示す。
図4は、
図3の横軸と縦軸は同じである。d軸の二次磁束推定演算部7を動作させ、
図3と同様な負荷トルクT
Lを与えている。d軸の二次磁束φ
2dを高精度に推定する(φ
2d≒φ
2d
**)ため、周波数推定値ω
r
^は誘導モータの周波数ω
rにほぼ一致しており、本実施例の効果が明白であることがわかる。
【0057】
また上記の実施例では、d軸の二次磁束推定演算部7において、比例制御と積分制御のゲイン(K
p、K
i)を固定値としているが、
図5に示すように出力周波数指令値ω
1
*やq軸の電流指令値i
q
*に応じて変化させてもよい。
【0058】
図5における7aは
図2のd軸の二次磁束推定演算部7に相当する。
図5における7a1、7a2、7a3、7a4、7a5、7a7は、それぞれ
図2のL.P.F71、第1の有効電力演算部72、絶対値演算部73、第2の有効電力演算部74、絶対値演算部75、L.P.F77と同一である。
【0059】
図5のPI制御部7a6において、出力周波数指令値ω
1
*の大きさやq軸の電流指令値i
q
*に略比例して、比例制御と積分制御のゲイン(K
p、K
i)を変化させることで、第1の有効電力P
cの絶対値|P
c|が、第2の有効電量P
c
^の絶対値|P
c
^|に、周波数や電流値に応じて変化する。つまり低速域から高速域、軽負荷から重負荷においても、より短時間で高精度な制御特性を実現できる。
【0060】
ここで、
図6を用いて本実施例を採用した場合の検証方法について説明する。誘導モータ1を駆動する電力変換装置20に、電圧検出器21、電流検出器22を取り付け、誘導モータ1のシャフトにはエンコーダ23を取り付ける。
【0061】
ベクトル電圧・電流成分の計算部24には、電圧検出器21の出力である三相交流の電圧検出値(vuc、vvc、vwc)、三相交流の電流検出値(iuc、ivc、iwc)とエンコーダの出力である位置θが入力され、ベクトル電圧成分のvdc、vqc、ベクトル電流成分のidc、iqcと、位置θを微分した検出値ωrを演算する。
【0062】
各部波形の観測部25では、(数11)を用いて、d軸の二次磁束推定値φ2d
^を演算する。
【0063】
【0064】
電力変換器2に設定する漏れインダクタンスLσ
*の大きさを変更すると、上記φ2d
^の大きさが変更され、検出値ωrがほぼ指令値に一致していれば、本実施例を採用していることが明白となる。
【0065】
なお、本実施例では周波数推定値ωr
^を演算しているが、誘導モータ1にエンコーダを取り付けて、周波数ωrを検出するようにしてもよい。d軸の二次磁束を高精度に推定できるので、すべり指令値を修正することで高精度な制御特性を実現できる。
【実施例2】
【0066】
図7は、実施例2におけるd軸の二次磁束推定演算部の構成図である。本実施例は、d軸の二次磁束推定演算部以外の構成は実施例1と同じである。実施例1では、d軸およびq軸の電圧指令値v
dc
**、v
qc
**と電流検出値i
dc、i
qcから、第1の有効電力P
cを演算した。
【0067】
実施例2では、誘導モータの電圧情報としての三相交流の電圧指令の振幅値V1
*と、誘導モータの電流情報としての電流検出の振幅値i1および位相θviの余弦信号を用いて、有効電力Pcを演算する。
【0068】
図7における7bは、
図2におけるd軸の二次磁束推定演算部7に相当するものである。また
図7における7b1、7b3、7b4、7b5、7b6、7b7は、それぞれ
図2のL.P.F71、絶対値演算部73、第2の有効電力演算部74、絶対値演算部75、PI制御部76、L.P.F77と同一である。
【0069】
図7において、第1の有効電力演算部7b2では三相交流の電圧指令の振幅値V
1
*を(数12)、電流検出値の振幅値i
1を(数13)、および位相θ
viを(数14)より求め、(数15)を用いて有効電力P
cを演算する。
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
本実施例を用いても実施例1と同様に、高精度な制御特性を実現することができる。
【0075】
また、実施例2においても、
図5と同様に、PI制御部7b6において、出力周波数指令値ω
1
*の大きさやq軸の電流指令値i
q
*に略比例して、比例制御と積分制御のゲイン(K
p、K
i)を変化させるようにしてもよい。そのようにすることで、低速域から高速域、軽負荷から重負荷においても、より短時間で高精度な制御特性を実現できる。
【実施例3】
【0076】
図8は、実施例3におけるd軸の二次磁束推定演算部の構成図である。本実施例は、d軸の二次磁束推定演算部以外の構成は実施例1と同じである。実施例1では、d軸およびq軸の電圧指令値v
dc
**、v
qc
**と電流検出値i
dc、i
qcから、第1の有効電力P
cを演算した。
【0077】
実施例3では、誘導モータの電圧情報として電力変換器2に直流電圧を供給する直流電源3の直流電圧値EDCと、誘導モータの電流情報として、直流電源3から供給される直流電流値IDCを用いて有効電力Pcを演算する。
【0078】
図8における7cは、
図2におけるd軸の二次磁束推定演算部7に相当するものである。
図7における7c1、7c3、7c4、7c5、7c6、7c7は、
図2のL.P.F71、絶対値演算部73、第2の有効電力演算部74、絶対値演算部75、PI制御部76、L.P.F77と同一である。
【0079】
図7において、7c2では電力変換器の直流電圧検出値E
DC、直流電流検出値I
DCを用いて、有効電力P
cを(数16)を用いて演算する。
【0080】
【0081】
本実施例を用いても、実施例1と同様に、高精度な制御特性を実現することができる。
【0082】
実施例3においても、
図5と同様に、PI制御部7c6において、出力周波数指令値ω
1
*の大きさやq軸の電流指令値i
q
*に略比例して、比例制御と積分制御のゲイン(K
p、K
i)を変化させるようにしてもよい。
【実施例4】
【0083】
図9は、実施例4におけるd軸の二次磁束推定演算部の構成図である。本実施例は、d軸の二次磁束推定演算部以外の構成は実施例1と同じである。実施例1では、2つの有効電力情報を用いたが、本実施例からは、2つの無効電力情報を用いる。
【0084】
図9における7dは、
図2におけるd軸の二次磁束推定演算部7に相当するものである。また
図7における7d1、7d3、7d5、7d6、7d7は、
図2のL.P.F71、絶対値演算部73、絶対値演算部75、PI制御部76、L.P.F77と同一である。
【0085】
第1の無効電力演算部7d2は、誘導モータの電圧情報としてのd軸の電圧指令値vdc
**およびq軸の電圧指令値vqc
**と、誘導モータの電流情報としての電流検出値idc、iqcを用いて、第1の無効電力Qcを(数17)に従い演算する。
【0086】
【0087】
力行/回生の両方の運転モードに対応するため、第1の無効電力演算部7d2の出力を絶対値演算部7d3に通して、第1の無効電力Qcの絶対値|Qc|を演算する。
【0088】
第2の無効電力演算部7d4は、d軸およびq軸の電流指令値id
*、iq
*、出力周波数指令値ω1
*、誘導モータ1の電気回路定数であるR1、M、L2と、d軸の磁束推定値φ2d
**を用いて、第2の無効電力Qc
^を(数18)に従い演算する。
【0089】
【0090】
力行/回生の両方の運転モードに対応するため、第2の無効電力演算部7d4の出力を絶対値演算部7d5に通して、第2の無効電力Qc
^の絶対値|Qc
^|を演算する。
【0091】
PI制御部7d6は、第2の無効電力Qc
^の絶対値|Qc
^|が第1の無効電力Qcの絶対値|Qc|に追従するように、P(比例)+I(積分)制御を行い、d軸の二次磁束指令補正値Δφ2d0
*を演算する。
【0092】
L.P.F7d7は、時定数がTのゲインを持ち、d軸の二次磁束指令補正値Δφ2d0
*が入力され、d軸の二次磁束補正値Δφ2d
*を演算する。前記Δφ2d
*とd軸の二次磁束指令値φ2d
*を用いて、d軸の二次磁束推定値φ2d
**を前記の(数10)に従い演算する。
【0093】
本実施例は、第2の無効電力Qc
^の絶対値|Qc
^|が、第1の無効電力Qcの絶対値|Qc|に追従するように、d軸の二次磁束指令値φ2d
*を修正することにより、電気回路定数である抵抗の設定値R1
*に誤差があっても、力行/回生の運転モードに係わらず高精度な制御特性を実現することができる。
【0094】
実施例4においても、
図5と同様に、PI制御部7d6において、出力周波数指令値ω
1
*の大きさやq軸の電流指令値i
q
*に略比例して、比例制御と積分制御のゲイン(K
p、K
i)を変化させるようにしてもよい。そのようにすることで、低速域から高速域、軽負荷から重負荷においても、より短時間で高精度な制御特性を実現できる。
【実施例5】
【0095】
図10は、実施例5におけるd軸の二次磁束推定演算部の構成図である。本実施例は、d軸の二次磁束推定演算部以外の構成は実施例1と同じである。実施例4では、d軸およびq軸の電圧指令値v
dc
**、v
qc
**と電流検出値i
dc、i
qcから、第1の無効電力Q
cを演算した。
【0096】
実施例5では、誘導モータの電圧情報としての三相交流の電圧指令の振幅値V1
*と、誘導モータの電流情報としての電流検出の振幅値i1、および位相θviを用いて、無効電力Qcを演算する。
【0097】
図10における7eは、
図9におけるd軸の二次磁束推定演算部7dに相当するものである。また
図10における7e1、7e3、7e4、7e5、7e6、7e7は、
図9のL.P.F7d1、絶対値演算部7d3、第2の無効電力演算部7d4、絶対値演算部7d5、PI制御部7d6、L.P.F7d7と同一である。
【0098】
図10において、7e2では三相交流の電圧指令の振幅値V
1
*を前述の(数12)、電流検出値の振幅値i
1を前述の(数13)、および位相θ
viの正弦信号を用いて、無効電力Q
cを(数19)により演算する。
【0099】
【0100】
本実施例を用いても、実施例4と同様に、抵抗の設定値R1
*に誤差があっても、力行/回生の両方のトルクモードに係わらず、高精度な制御特性を実現することができる。
【0101】
実施例5においても、
図5と同様に、PI制御部7e6において、出力周波数指令値ω
1
*の大きさやq軸の電流指令値i
q
*に略比例して、比例制御と積分制御のゲイン(K
p、K
i)を変化させるようにしてもよい。そのようにすることで、低速域から高速域、軽負荷から重負荷においても、より短時間で高精度な制御特性を実現できる。
【実施例6】
【0102】
図11は、実施例6における電力変換器の構成図である。本実施例は、誘導モータ駆動システムに本実施例を適用したものである。
図11において、誘導モータ1、座標変換部5、速度制御演算部6、d軸の二次磁束推定演算部7、ベクトル制御演算部8、周波数・位相推定演算部9は、
図1の構成と同一である。
【0103】
図1の構成要素である誘導モータ1は、電力変換装置20により駆動される。電力変換装置20は、ソフトウェア20aとハードウェアに分かれている。
図1の座標変換部5、速度制御演算部6、d軸の二次磁束推定演算部7、ベクトル制御演算部8、周波数・位相推定演算部9がソフトウェア20aである。
【0104】
図1の電力変換器2、直流電源3、電流検出器4がハードウェアとして実装されている。また、電力変換装置20の操作や表示をするデジタル・オペレータ20bや、パーソナル・コンピュータ28、タブレット29、スマートフォン30などの上位装置により、ソフトウェア20aの所定の比例ゲイン31、所定の積分ゲイン32を、制御部の記録部に設定するか、記録しておいたゲインの変更をすることができる。
【0105】
例えば、d軸の二次磁束推定演算部7におけるPI制御部76の比例ゲインKp1もしくは積分ゲインKi1を、外部から設定するか、もしくは、そのゲインを変更することができる。
【0106】
本実施例を誘導モータ駆動システムに適用すれば、速度センサレスベクトル制御において高精度な制御特性を実現することができる。また所定の比例ゲイン31、所定の積分ゲイン32は、プログラマブル・ロジック・コントローラ、コンピュータと接続するローカル・エリア・ネットワーク、制御装置のフィールドバス上で設定してもよい。
【0107】
実施例6は実施例1を用いて開示してあるが、実施例2から実施例5のいずれであっても良い。
【0108】
実施例1から実施例5においては、電流指令値id
*、iq
*と電流検出値idc、iqcから電圧修正値Δvdc、Δvqcを作成し、この電圧修正値とベクトル制御の電圧基準値を加算する(数3)に示す演算を行った。
【0109】
電流指令値id
*、iq
*と電流検出値idc、iqcからベクトル制御演算に使用する(数20)に示す中間的な電流指令値id
**、iq
**を作成し、出力周波数指令値ω1
*および誘導モータ1の電気回路定数を用いて(数21)に示すベクトル制御演算を行ってもよい。
【0110】
【数20】
ここでK
pd1はd軸の電流制御の比例ゲイン、K
id1はd軸の電流制御の積分ゲイン、K
pq1はq軸の電流制御の比例ゲイン、K
iq1はq軸の電流制御の積分ゲイン、T
dはd軸の電気時定数(L
σ/R)、T
qはq軸の電気時定数(L
σ/R)である。
【0111】
【0112】
電流指令値id
**、iq
*と電流検出値idc、iqcから、ベクトル制御演算に使用するd軸の比例演算成分の電圧修正値Δvd_p
*、d軸の積分演算成分の電圧修正値Δvd_i
*、q軸の比例演算成分の電圧修正値Δvq_p
*、q軸の積分演算成分の電圧修正値Δvq_i
*を(数22)により作成し、出力周波数指令値ω1
*および誘導モータ1の電気回路定数を用いた(数23)に示すベクトル制御演算を行ってもよい。
【0113】
【数22】
ここでK
pd2はd軸の電流制御の比例ゲイン、K
id2はd軸の電流制御の積分ゲイン、K
pq2:q軸の電流制御の比例ゲイン、K
iq2:q軸の電流制御の積分ゲインである。
【0114】
【0115】
d軸の電流指令値id
*およびq軸の電流検出値iqcの一次遅れ信号iqctd、周波数指令値ωr
*と、誘導モータ1の電気回路定数を用いて、(数24)に示す出力周波数指令値ω1
**と、(数25)に示すベクトル制御演算を行ってもよい。
【0116】
【0117】
【数25】
ここで、i
qctdはi
qcを一次遅れフィルタに通した信号である。
【0118】
実施例1から実施例5においては、周波数・位相推定演算部9では(数5)に従い周波数推定値を演算していた。q軸電流制御で電流制御と速度推定を併用しても良い。(数26)に示すように周波数推定値ωr
^^を演算する。
【0119】
【数26】
ここでK
pq3は電流制御の比例ゲイン、K
iq3は電流制御の積分ゲインである。
【0120】
さらに周波数・位相推定演算部9において、(数5)あるいは(数26)に従い周波数推定値を演算したが、誘導モータ1にエンコーダを取りつけ、エンコーダ信号から周波数検出値を演算しても良い。
【0121】
実施例1から実施例6において、電力変換器2を構成するスイッチング素子としては、Si(シリコン)半導体素子であっても、SiC(シリコンカーバイト)やGaN(ガリュームナイトライド)などのワイドバンドギャップ半導体素子であってもよい。
【符号の説明】
【0122】
1…誘導モータ、2…電力変換器、3…直流電源、4…電流検出器、5…座標変換部、6…速度制御演算部、7…d軸の二次磁束推定演算部、8…ベクトル制御演算部、9…周波数・位相推定演算部、10…座標変換部