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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】歯補綴物を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   A61C 13/007 20060101AFI20230530BHJP
【FI】
A61C13/007
【請求項の数】 49
(21)【出願番号】P 2021556922
(86)(22)【出願日】2020-03-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-17
(86)【国際出願番号】 EP2020056048
(87)【国際公開番号】W WO2020187611
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-11-17
(31)【優先権主張番号】A50248/2019
(32)【優先日】2019-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521435396
【氏名又は名称】ハインリッヒ スティーガー
【氏名又は名称原語表記】Heinrich Steger
【住所又は居所原語表記】Giuseppe-Verdi-Str. 18, 39031 Bruneck, Italy
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100129735
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 顕学
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ハインリッヒ スティーガー
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-302098(JP,A)
【文献】特開平06-166895(JP,A)
【文献】特開平05-140592(JP,A)
【文献】特開2020-139138(JP,A)
【文献】国際公開第2018/143051(WO,A1)
【文献】特開平10-110111(JP,A)
【文献】特開昭55-021919(JP,A)
【文献】特開平02-247107(JP,A)
【文献】特開2006-045094(JP,A)
【文献】特表2010-504825(JP,A)
【文献】米国特許第06077075(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 13/007
C11D 7/50
C08J 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックから成る歯補綴物(1)を製造するための方法であって、前記歯補綴物(1)を義歯床(2)と、前記義歯床(2)に配置され、前記義歯床(2)に結合された人工歯(3)とから製造し、前記歯補綴物(1)の表面(F)に粗さ低減のための表面処理を施す、方法において、
前記歯補綴物(1)の前記表面処理を、少なくとも1種の塩素化炭化水素と、15~45重量パーセントの少なくとも1種のメタンのニトロ誘導体とを含有する溶剤(P)によって行い、
前記少なくとも1種のメタンのニトロ誘導体を、ニトロメタン、ジニトロメタン、トリニトロメタン、テトラニトロメタン、およびこれらの混合物の群から選択する、
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記溶剤(P)は、50~80重量パーセントの少なくとも1種の塩素化炭化水素と、15~45重量パーセントの前記少なくとも1種のメタンのニトロ誘導体とを含有することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記歯補綴物(1)の製造は、
- 前記義歯床(2)を第1のプラスチック中間製品(K1)の加工によって製造するステップと、
- 前記人工歯(3)を少なくとも1つの第2のプラスチック中間製品(K2)の加工によって製造するステップと、
- 前記人工歯(3)を前記義歯床(2)に結合して、前記歯補綴物(1)を形成するステップと
を含むことを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記歯補綴物(1)の製造は、前記義歯床(2)を前記第1のプラスチック中間製品(K1)のフライス加工によって製造するステップを含むことを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記歯補綴物(1)の製造は、前記人工歯(3)を前記少なくとも1つの第2のプラスチック中間製品(K2)のフライス加工によって製造するステップを含むことを特徴とする、請求項3または4記載の方法。
【請求項6】
前記歯補綴物(1)の製造は、前記人工歯(3)を前記義歯床(2)に接着して、前記歯補綴物(1)を形成するステップを含むことを特徴とする、請求項3から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記人工歯(3)と前記義歯床(2)との結合を前記溶剤(P)によって行うことを特徴とする、請求項3から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記人工歯(3)と前記義歯床(2)とは、接触領域を有し、前記接触領域を介して、前記人工歯(3)と前記義歯床(2)とは、組み合わされた状態で接触しており、前記溶剤(P)を前記組合せ前に前記義歯床(2)および/または前記人工歯(3)の前記接触領域に塗布することにより、前記結合を行うことを特徴とする、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1種の塩素化炭化水素を、クロロフォルム、1,2-ジクロロエタン、ジクロロメタン、トリクロロエチレン、塩化アセチル、およびこれらの混合物の群から選択することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記溶剤(P)は、最大10重量パーセントのエタノールまたはエタノールの誘導体を含有することを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記溶剤(P)は、エタノール、酢酸、アセトアルデヒド、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ギ酸エチルエステル、およびこれらの混合物の群から選択されたエタノールまたはエタノールの誘導体を含有することを特徴とする、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記溶剤(P)は、0.1重量パーセント~10重量パーセントのエタノールまたはエタノールの誘導体を含有することを特徴とする、請求項10または11記載の方法。
【請求項13】
前記溶剤(P)は、最大7.5重量パーセントの芳香族化合物または芳香族化合物のアルコールまたはアルコール系芳香族化合物のエーテルを含有することを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記溶剤(P)は、ベンゾール、ベンジルアルコール、フェノキシエタノール、ベンズカテキン、レゾルシノール、ハイドロキノン、およびこれらの混合物の群から選択された芳香族化合物または芳香族化合物のアルコールまたはアルコール系芳香族化合物のエーテルを含有することを特徴とする、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記溶剤(P)は、0.1重量パーセント~7.5重量パーセントの芳香族化合物または芳香族化合物のアルコールまたはアルコール系芳香族化合物のエーテルを含有することを特徴とする、請求項13または14記載の方法。
【請求項16】
前記溶剤(P)は、最大4重量パーセントのシクロアルカンまたは複素環式化合物を含有することを特徴とする、請求項1から15までのいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
前記溶剤(P)は、シクロヘキサン、シクロペンタン、オキサン、オキサラン、オキセタン、およびこれらの混合物の群から選択されたシクロアルカンまたは複素環式化合物を含有することを特徴とする、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記溶剤(P)は、0.1重量パーセント~4重量パーセントのシクロアルカンまたは複素環式化合物を含有することを特徴とする、請求項16または17記載の方法。
【請求項19】
前記溶剤(P)は、以下の成分、すなわち、
- 65重量パーセント~85重量パーセントのジクロロメタンと、
- 15重量パーセント~25重量パーセントのニトロメタンと、
- 2重量パーセント~4重量パーセントのエタノールと、
- 1重量パーセント~3重量パーセントのフェノキシエタノールと
を含有することを特徴とする、請求項1から18までのいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
前記溶剤(P)は、以下の成分のみ、すなわち、
- 65重量パーセント~85重量パーセントのジクロロメタンと、
- 15重量パーセント~25重量パーセントのニトロメタンと、
- 2重量パーセント~4重量パーセントのエタノールと、
- 1重量パーセント~3重量パーセントのフェノキシエタノールと
を含有することを特徴とする、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記溶剤(P)は、75重量パーセントのジクロロメタンを含有することを特徴とする、請求項19または20記載の方法。
【請求項22】
前記溶剤(P)は、20重量パーセントのニトロメタンを含有することを特徴とする、請求項19から21までのいずれか1項記載の方法。
【請求項23】
前記溶剤(P)は、3重量パーセントのエタノールを含有することを特徴とする、請求項19から22までのいずれか1項記載の方法。
【請求項24】
前記溶剤(P)は、2重量パーセントのフェノキシエタノールを含有することを特徴とする、請求項19から23までのいずれか1項記載の方法。
【請求項25】
前記表面処理を前記溶剤(P)による前記歯補綴物(1)の塗り付けによって行うことを特徴とする、請求項1から24までのいずれか1項記載の方法。
【請求項26】
塗り付けによる前記表面処理は、
- 前記溶剤(P)を刷毛(4)で前記歯補綴物(1)に塗布するステップと、
- 前記溶剤(P)を作用させるステップと、
- 前記歯補綴物(1)の前記表面(F)を水によって洗浄するステップと
を含むことを特徴とする、請求項25記載の方法。
【請求項27】
前記溶剤(P)を、約30秒~3分にわたって作用させることを特徴とする、請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記表面処理を前記溶剤(P)内への前記歯補綴物(1)の浸漬によって行うことを特徴とする、請求項1から27までのいずれか1項記載の方法。
【請求項29】
浸漬による前記表面処理は、
- 前記歯補綴物(1)を、前記溶剤(P)内に浸漬させるステップと、
- 前記歯補綴物(1)を、乾燥させるステップと、
- 前記歯補綴物(1)の前記表面(F)をクリーニングするステップと
を含むことを特徴とする、請求項28記載の方法。
【請求項30】
前記歯補綴物(1)を、1秒~30秒にわたって前記溶剤(P)内に浸漬させることを特徴とする、請求項29記載の方法。
【請求項31】
前記歯補綴物(1)を、圧縮空気を用いて乾燥させることを特徴とする、請求項29または30記載の方法。
【請求項32】
前記歯補綴物(1)の前記表面(F)を、約1分にわたって、クリーニングすることを特徴とする、請求項29から31までのいずれか1項記載の方法。
【請求項33】
前記歯補綴物(1)の前記表面(F)を、超音波を用いてクリーニングすることを特徴とする、請求項29から32までのいずれか1項記載の方法。
【請求項34】
前記表面処理を前記歯補綴物(1)への前記溶剤(P)の蒸着によって行うことを特徴とする、請求項1から33までのいずれか1項記載の方法。
【請求項35】
蒸着による前記表面処理は、
- 前記歯補綴物(1)を、蒸着チャンバ(5)内に装入するステップと、
- 前記蒸着チャンバ(5)を閉鎖するステップと、
- 場合によって前記蒸着チャンバ内の圧力を減少させるステップと、
- 前記蒸着チャンバ(5)内に前記溶剤(P)を流入させ、これによって、前記溶剤(P)の少なくとも一部を気化させ、これによって、溶剤蒸気を前記歯補綴物(1)の前記表面(F)に沈着させるステップと、
- 前記溶剤(P)を作用させるステップと、
- 前記蒸着チャンバ(5)を開放するステップと、
- 前記蒸着チャンバ(5)から前記歯補綴物(1)を取り出すステップと
を含むことを特徴とする、請求項34記載の方法。
【請求項36】
前記歯補綴物(1)を、気密の蒸着チャンバ(5)内に装入することを特徴とする、請求項35記載の方法。
【請求項37】
前記溶剤(P)を、少なくとも30秒にわたって作用させることを特徴とする、請求項35または36記載の方法。
【請求項38】
プラスチックから成る歯補綴物(1)であって、義歯床(2)と、前記義歯床(2)に配置され、前記義歯床(2)に結合された人工歯(3)とを備える、歯補綴物(1)において、
前記歯補綴物(1)の表面(F)に、粗さ低減のための表面処理のための溶剤(P)が被着されており、前記溶剤(P)は、塩素化炭化水素と、15重量パーセント~45重量パーセントのメタンのニトロ誘導体とを含有し、
前記メタンのニトロ誘導体は、ニトロメタン、ジニトロメタン、トリニトロメタン、テトラニトロメタン、およびこれらの混合物の群から選択される、
ことを特徴とする、歯補綴物。
【請求項39】
前記溶剤(P)は、50重量パーセント~80重量パーセントの塩素化炭化水素を含有することを特徴とする、請求項38記載の歯補綴物。
【請求項40】
プラスチックから成る歯補綴物(1)の、粗さ低減のための表面処理のための溶剤(P)であって、前記溶剤(P)は、成分として、
- 少なくとも1種の塩素化炭化水素と、
15重量パーセント~45重量パーセントの少なくとも1種のメタンのニトロ誘導体と
を含有
前記少なくとも1種のメタンのニトロ誘導体は、ニトロメタン、ジニトロメタン、トリニトロメタン、テトラニトロメタン、およびこれらの混合物の群から選択される、
溶剤。
【請求項41】
前記溶剤(P)は、請求項1から37までのいずれか1項記載の方法における歯補綴物(1)の表面処理時に使用するための溶剤(P)であることを特徴とする、請求項40記載の溶剤。
【請求項42】
前記溶剤(P)は、50重量パーセント~80重量パーセントの少なくとも1種の塩素化炭化水素を含有することを特徴とする、請求項40または41記載の溶剤。
【請求項43】
前記溶剤(P)は、成分として、
- 0.1重量パーセント~10重量パーセントの少なくとも1種のエタノールまたはエタノールの誘導体と、
- 0.1重量パーセント~7.5重量パーセントの少なくとも1種の芳香族化合物または芳香族化合物のアルコールまたはアルコール系芳香族化合物のエーテルと、
- 0.1重量パーセント~4重量パーセントの少なくとも1種のシクロアルカンまたはシクロアルカンの複素環式化合物と
を含有することを特徴とする、請求項40から42までのいずれか1項記載の溶剤。
【請求項44】
前記溶剤(P)は、成分として、
- 65重量パーセント~85重量パーセントのジクロロメタンと、
- 15重量パーセント~25重量パーセントのニトロメタンと、
- 2重量パーセント~4重量パーセントのエタノールと、
- 1重量パーセント~3重量パーセントのフェノキシエタノールと
を含有することを特徴とする、請求項40から43までのいずれか1項記載の溶剤。
【請求項45】
前記溶剤(P)は、75重量パーセントのジクロロメタンを含有することを特徴とする、請求項44記載の溶剤。
【請求項46】
前記溶剤(P)は、20重量パーセントのニトロメタンを含有することを特徴とする、請求項44または45記載の溶剤。
【請求項47】
前記溶剤(P)は、3重量パーセントのエタノールを含有することを特徴とする、請求項44から46までのいずれか1項記載の溶剤。
【請求項48】
前記溶剤(P)は、2重量パーセントのフェノキシエタノールを含有することを特徴とする、請求項44から47までのいずれか1項記載の溶剤。
【請求項49】
歯補綴物(1)を製造するための方法において前記歯補綴物(1)を粗さ低減のための表面処理するための、請求項40から48までのいずれか1項記載の溶剤(P)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯補綴物を製造するための方法であって、歯補綴物を義歯床と、義歯床に配置され、義歯床に結合された人工歯とから製造し、歯補綴物の表面に表面処理を施す、方法に関する。さらに、本発明は、歯補綴物、特にこのような方法で製造された歯補綴物であって、義歯床と、義歯床に配置され、義歯床に結合された人工歯とを備える、歯補綴物に関する。
【0002】
歯補綴物は、本来の人間の歯と本来の人間の歯茎とを少なくとも部分的に補完するために使用される。このような歯補綴物は、インプラントとは異なり、人間の顎骨に固定されるのではなく、通常、多くの場合、ゲル状の接着剤によって歯茎の歯のない領域に着脱可能に固定される。このような歯科補綴物は、例えばプラスチックから製造される。歯補綴物は、歯科補綴物または(プラスチック)クラウンの形態で形成されていてよい。そのための一例は、オーストリア国特許発明第512747号明細書に開示されている。相応の見栄えの良さを得るために、歯科補綴物には、多くの場合、表面処理が施される。歯科補綴物は、例えば手によって後加工され、クリーニングされ、かつポリッシングされる。ポリッシングは特に、表面が艶々して平らに見えるようにするために役立つ。さらに、ポリッシングされた表面には、汚れが溜まることも、バクテリアが巣くうこともほとんどなくなる。
【0003】
従来、歯科分野ではポリッシングは、表面を手作業で摩擦または研磨することによって実施され、これによって、凹凸、皺、および溝が補償されて平らにされる。しかしながら、この摩擦または研磨時に、特に歯補綴物のあまり良く接近することができない箇所に、なお不所望の凹部および皺が残ってしまうことがよくあり、このようなことは、一方では、見た目の印象を損ない、他方では、より容易に汚れを引き起こすことがある。
【0004】
本発明の課題は、従来技術に比べて改善された方法を提供することである。特に歯補綴物の表面は可能な限り滑らかで艶々していることが望ましい。さらに、表面処理は可能な限り簡単に実施することができることが望ましい。
【0005】
この課題は、請求項1の特徴を有する方法によって解決される。したがって、本発明によれば、歯補綴物の表面処理を、好ましくは50重量パーセント~80重量パーセントの少なくとも1種の塩素化炭化水素と、メタンの、好ましくは15重量パーセント~45重量パーセントの少なくとも1種のニトロ誘導体とを含有する(液状の)溶剤によって行うことが特定されている。つまり、このような方法では、材料切削式の方法(例えば摩擦または研磨)が使用されず、化学的な溶剤が被着される。これによって、この溶剤は、ポリッシング剤として働く。この溶剤は、一方では、小さな凹凸、皺、および凹部を塞ぎ、他方では、溶剤の組成物が、艶々した表面を形成する。さらに、溶剤の塗布もしくは被着は、比較的簡単にかつ迅速に実施可能である。具体的に、溶剤は、歯補綴物の材料のポリマ鎖を開放し、もしくは解離し、かつこれらのポリマ鎖を新たに整列させることができる。
【0006】
本発明の好適な実施例は、特に従属請求項に記載されている。
【0007】
義歯床は、既成の標準構成要素から製造することができる。人工歯は、予め製造された状態または既成の状態で入手することができる。すなわち、歯科技工士による人工歯の加工は行われない。しかしながら、好ましくは、歯科補綴物の製造は、義歯床を第1の中間製品の加工によって製造するステップと、人工歯を少なくとも1つの第2の中間製品の加工によって製造するステップと、人工歯を義歯床に結合して、歯補綴物、特に歯科補綴物を形成するステップとを含むことが特定されている。
【0008】
人工歯および/または義歯床の加工は、材料付加式に(例えば3Dプリントによって)行うことができる。しかしながら、好ましくは、加工は材料除去式に実施されることが特定されている。特に好ましくは、人工歯および/または義歯床の加工をフライス加工または研削加工によって行うことが特定されている。そのためには、相応の工具が使用される。この加工は、CNC加工機械において自動化して行うことができる。
【0009】
また、人工歯と義歯床とはワンピースでもしくは一体形に形成されていてもよい。すなわち、歯補綴物は、中間製品から加工される。しかしながら、(赤みがかったもしくは肉の色の)義歯床と(白っぽいもしくは歯の色の)人工歯とは、最終製品において異なる色を有することが望ましいので、異なる出発材料もしくは異なる視覚的な特性(例えば色)、熱的な特性、機械的な特性、または化学的な特性を有する中間製品が使用される。さらに、出発材料は、染料を含有していてよい。染料は、材料内に拡散されてよい。
【0010】
人工歯と義歯床との結合は、それ自体摩擦接続的にまたは形状接続的に行うことができる。しかしながら、好ましくは、例えば、適宜な接着剤を用いた接着、好ましくは拡散接着による材料接続的な結合が特定されている。
【0011】
1つの好適な実施例によれば、人工歯と義歯床との結合を溶剤によって行うことが特定されている。このようにすると、溶剤は二重の機能を有することになる。すなわち、溶剤は、一方では、表面をポリッシングもしくは艶出しするためのポリッシング剤として働き、他方では、義歯床と人工歯とを結合するための接着剤として働く。
【0012】
人工歯と義歯床とは、接触領域を有しており、この接触領域を介して、人工歯と義歯床とは、組み合わされた状態で互いに接触する。結合は、溶剤を組合せ前に義歯床および/または人工歯の接触領域に塗布することによって行われる。次いで、義歯床と人工歯とは、組み合わされるかもしくは押し合わせられる。両接触領域(接合面とも呼ぶことができる)のポリマ鎖は、互いに浸透し、かつ互いにループを形成する。残りの溶剤が逃げた後で、ポリマ鎖の間に物理的な相互作用が発生し、両接合部分(義歯床と人工歯と)の間に凝集ゾーンが発生する。この方法では、粘着ゾーンは発生せず、表面のポリマ鎖は、向かい合っている接合部分内に拡散するので、このことから拡散接着と呼ばれる。
【0013】
好ましくは、義歯床のための第1の中間製品および/または人工歯のための第2の中間製品は、好ましくは熱可塑性のプラスチックから成っていることが特定されている。そのための具体例は、PMMA、PC、ABS、PE、PP、PEEK、PA、POM、PVDF、PET、PBT、およびこれに類したものである。プラスチック中間製品は、多層にまたは多色に形成されていてもよい。
【0014】
塩素化炭化水素は、有機化合物の物質群と有機ハロゲン化合物のサブ群とを形成している。これらの化学物質は、1つまたは複数の水素原子が塩素によって置換されている炭化水素・基本構造を有している。1つの好適な実施例によれば、少なくとも1種の塩素化炭化水素を、クロロフォルム、1,2-ジクロロエタン、ジクロロメタン、トリクロロエチレン、塩化アセチル、およびこれらの混合物の群から選択することが特定されている。
【0015】
さらに好ましくは、メタンの少なくとも1種のニトロ誘導体を、ニトロメタン、ジニトロメタン、トリニトロメタン、テトラニトロメタン、およびこれらの混合物の群から選択することが特定されている。
【0016】
別の好適な実施例によれば、溶剤は、最大10重量パーセント、好ましくは0.1重量パーセント~10重量パーセントのエタノールまたはエタノールの誘導体を含有していることが特定されている。エタノールは、化学式COの脂肪族の一価のアルコールである。好ましくは、エタノールまたはその誘導体は、エタノール、酢酸、アセトアルデヒド、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ギ酸エチルエステル、およびこれらの混合物の群から選択されている。
【0017】
好ましくはまた、溶剤は、最大7.5重量パーセント、好ましくは0.1重量パーセント~7.5重量パーセントの芳香族化合物または芳香族化合物のアルコールまたはアルコール系芳香族化合物のエーテルを含有していることが特定されている。芳香族化合物(略して芳香化合物とも呼ぶ)は、有機化学における1つの物質クラスである。
【0018】
化学では、官能基としてエーテル基、つまり、2つのオルガニル基を備えて構成された酸素原子を有している有機化合物が、エーテルと呼ばれる。好ましくは、溶剤は、ベンゾール、ベンジルアルコール、フェノキシエタノール、ベンズカテキン、レゾルシノール、ハイドロキノン、およびこれらの混合物の群から選択された成分を含有している。
【0019】
好ましくは、溶剤は、最大4重量パーセント、好ましくは0.1重量パーセント~4重量パーセントのシクロアルカンまたはシクロアルカンの複素環式化合物を含有していることが特定されている。シクロアルカンは、環状の飽和した炭化水素の物質群である。環は側鎖を有していてよい。有機化学の分類学では、シクロアルカンは、脂環式化合物に数えられる。好ましくは、シクロアルカン、またはシクロアルカンのオキシランは、シクロヘキサン、シクロペンタン、オキサン、オキサラン、オキセタン、およびこれらの混合物の群から選択される。
【0020】
具体的に溶剤のためには、溶剤は、以下の成分(のみ)、すなわち、65重量パーセント~85重量パーセントのジクロロメタンと、15重量パーセント~25重量パーセントのニトロメタンと、2重量パーセント~4重量パーセントのエタノールと、1重量パーセント~3重量パーセントのフェノキシエタノールとを含有していることが特定されている。
【0021】
特に好ましくは、溶剤は具体的に、
- 75重量パーセントのジクロロメタンと、
- 20重量パーセントのニトロメタンと、
- 3重量パーセントのエタノールと、
- 2重量パーセントのフェノキシエタノールと
を含有している。
【0022】
表面処理は、それ自体任意の形式で行うことができる。以下には、本発明において特に良好に適している3つの好適な変化形態が記載されている。
【0023】
第1の変化形態によれば、表面処理を溶剤による歯補綴物の塗り付けによって行うことが特定されている。具体的にこの変化形態では、溶剤を刷毛で歯補綴物に塗布するステップと、溶剤を、好ましくは約30秒~3分にわたって作用させるステップと、歯補綴物の表面を水によって洗浄するステップとが特定されている。
【0024】
第2の変化形態によれば、表面処理を溶剤内への歯補綴物の浸漬によって行うことが特定されている。具体的にこの変化形態では、歯補綴物を、好ましくは1秒~30秒にわたって溶剤内に浸漬させるステップと、歯補綴物を、好ましくは圧縮空気を用いて乾燥させるステップと、歯補綴物の表面を、好ましくは約1分にわたって、好ましくは超音波を用いてクリーニングするステップとが特定されている。
【0025】
第3の変化形態によれば、表面処理を歯補綴物への溶剤の蒸着によって行うことが特定されている。具体的にこの変化形態では、歯補綴物を、好ましくは気密の蒸着チャンバ内に装入するステップと、蒸着チャンバを閉鎖するステップと、場合によって蒸着チャンバ内の圧力を減少させるステップと、蒸着チャンバ内に溶剤を流入させ、これによって、溶剤の少なくとも一部を気化させ、これによって、溶剤蒸気を歯補綴物の表面に沈着させるステップと、溶剤を、好ましくは少なくとも30秒にわたって作用させるステップと、蒸着チャンバを開放するステップと、蒸着チャンバからポリッシングされた歯補綴物を取り出すステップとが特定されている。蒸着チャンバが気密でない場合には、溶剤を気化器によって(熱的にまたは機械的に例えば圧電素子を用いて)正圧で蒸着チャンバ内にもたらすことも可能である。3D物品にポリッシング蒸気を被着させることを示す別の形式の一般的な記述は、国際公開第2018/156240号である。類似の、しかしながら同様に別の形式の記述は、自動車のための部品の、プラスチックから形成された表面の艶出しを示す独国特許出願公開第102017200191号明細書である。
【0026】
第4の変化形態としては、さらに、表面処理を歯補綴物へ溶剤の吹付けによって行うことが可能である。
【0027】
本発明の保護は、義歯床と、義歯床に配置され、義歯床に結合された人工歯とを備えている歯補綴物に対しても求められる。本発明によれば、歯補綴物の表面に溶剤が被着されており、この溶剤は、好ましくは50重量パーセント~80重量パーセントの塩素化炭化水素と、メタンの、好ましくは15重量パーセント~45重量パーセントのニトロ誘導体とを含有していることが特定されている。好ましくは、この歯補綴物は、本発明に係る方法で製造されていることが特定されている。
【0028】
さらに、本発明の保護は、歯補綴物のための溶剤に対しても求められ、この態様では、溶剤は、成分として、好ましくは50重量パーセント~80重量パーセントの少なくとも1種の塩素化炭化水素と、メタンの、好ましくは15重量パーセント~45重量パーセントの少なくとも1種のニトロ誘導体とを含有していることが特定されている。この溶剤の好適な実施例は、既にさらに上に記載されていて、請求項に記載されている。
【0029】
最後に本発明の保護は、歯補綴物を製造するための方法における歯補綴物の表面処理のための溶剤、特にポリッシングのための溶剤、および歯補綴物の構成部分を結合するための溶剤の使用に対して求められる。
【0030】
次に本発明のさらなる詳細および利点について、図面に示した実施例を参照しながら図面の説明によって詳説する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】2つのプラスチック中間製品を概略的に示す図である。
図2】プラスチック中間製品が固定されているCNC加工機械を示す図である。
図3】切欠きを備えた義歯床を示す図である。
図4】複数の人工歯を示す図である。
図5】義歯床と人工歯とから成る歯補綴物を示す図である。
図6】溶剤を満たされたボトルを示す図である。
図7】溶剤の塗布時における歯補綴物と刷毛とを示す図である。
図8】歯補綴物が浸漬された浸漬容器を示す図である。
図9】蒸着チャンバ内における歯補綴物を示す図である。
図10】ポリッシングされた、艶々して光沢のある歯補綴物を示す図である。
【0032】
図1には、2つのプラスチック中間製品K1,K2が示してある。両プラスチック中間製品K1,K2は、それ自体それぞれ任意の形状を有することができる。好ましくは、プラスチック中間製品K1,K2は、ディスク状に形成されている。第1のプラスチック中間製品K1は、赤っぽい色、好ましくは肉色を有している。この第1のプラスチック中間製品K1から、義歯床2が加工される。第2のプラスチック中間製品K2は、白っぽい色ないしベージュ色を有している。この第2のプラスチック中間製品K2からは、人工歯3が加工される。
【0033】
図2には、CNC加工機械6が概略的に示してある。このCNC加工機械6は、ハウジング8と、プラスチック中間製品K1;K2のための、ハウジング8に対して相対的に可動の保持装置7と、プラスチック中間製品K1;K2を加工するための加工工具10を備えた加工装置9とを有している。歯補綴物1の製造のために、プラスチック中間製品K1,K2は保持装置7内で固定され、格納されたデータをベースにしてまたは歯科技工士によって決定可能なデータによって、加工装置9によって材料除去式に加工される。このような加工機械のための例としては、欧州特許第3095412号明細書を参照することができる。
【0034】
図3には、第1のプラスチック中間製品K1から加工された義歯床2が概略的に示されている。この義歯床2には、人工歯3を取り付けるための複数の切欠き11(または凹部)が形成されている。
【0035】
図4には、第2のプラスチック中間製品K2から加工された複数の人工歯3が示してある。これらの人工歯3は、一体形に形成されている。しかしながら、また、それぞれ1つの人工歯3を形成する複数の個々の部材を第2のプラスチック中間製品K2から加工することも可能である。
【0036】
図5には、歯科補綴物の形態の組み合わされた歯補綴物1が示してあり、この歯補綴物1では、人工歯3は、義歯床2に結合、好ましくは接着されている。歯補綴物1の表面Fは、加工工具10によるかなり粗い加工に基づいて、まだ比較的粗くかつくすんでいる。
【0037】
歯補綴物1の表面処理のためには、溶剤Pが使用される。図6には、このような液状の溶剤Pによって満たされているボトルが概略的に示してある。この溶剤Pは、50重量パーセント~80重量パーセントの少なくとも1種の塩素化炭化水素と、メタンの、15重量パーセント~45重量パーセントの少なくとも1種のニトロ誘導体とを含有している。具体的にこの溶剤Pは、少なくともジクロロメタン(CHCl)とニトロメタン(CHNO)とを含有している。さらにこの溶剤Pは、好ましくはエタノール(CO)とフェノキシエタノール(C10)とを含有している。
【0038】
図7には、塗り付けによる表面処理が概略的に示してある。具体的には溶剤Pは、刷毛4で歯補綴物1の表面Fに塗布される。溶剤を作用させ、かつ硬化させた後で、歯補綴物1は水によって洗浄される。
【0039】
図8には、液状の溶剤P内への歯補綴物1の浸漬による表面処置が概略的に示してある。そのために歯科技工士は、例えばトングの形態の適宜な工具12によって歯補綴物1を取り上げ、歯補綴物1を、溶剤Pによって満たされた浸漬容器13内に浸漬させる。この浸漬は、約1~30秒続いてよい。このとき、歯補綴物1は、溶剤P内で旋回させられる。次いで、(好ましくは4~6バールの)圧縮空気による歯補綴物1の乾燥が行われる。乾燥後に歯補綴物は、超音波を使用して約1分クリーニングされる。
【0040】
図9には、閉鎖可能な蒸着チャンバ5が概略的に示してある。まず歯補綴物1は、蒸着チャンバ5内に置かれる(または場合によっては可動の保持装置によって保持される)。次いで蒸着チャンバ5は閉鎖され、蒸着チャンバ5内に負圧が形成される。その後で溶剤Pが、ノズル14を介して蒸着チャンバ5内に噴霧され、これによって蒸着チャンバ5内には溶剤霧もしくは溶剤蒸気が発生する。この溶剤霧もしくは溶剤蒸気は、歯補綴物1の表面Fに沈着するかもしくは歯補綴物1の表面Fを湿潤させる。十分な作用時間の後で、溶剤霧は吸い出され、蒸着チャンバ5は開放され、ポリッシングされた歯補綴物1は取り出される。
【0041】
最後にさらに、図10には、義歯床2と、義歯床2に配置され、義歯床2に結合された人工歯3とを備えた歯補綴物1が概略的に示してある。この歯補綴物1の表面Fには、溶剤Pが被着されている。これによって、表面Fは、艶々していて可能な限り滑らかである。
【符号の説明】
【0042】
1 歯補綴物
2 義歯床
3 人工歯
4 刷毛
5 蒸着チャンバ
6 CNC加工機械
7 保持装置
8 ハウジング
9 加工装置
10 加工工具
11 切欠き
12 工具
13 浸漬容器
14 ノズル
F 歯科補綴物の表面
P 溶剤
K1 第1のプラスチック中間製品
K2 第2のプラスチック中間製品
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10