(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】ドッグクラッチを制御する方法
(51)【国際特許分類】
B60W 10/10 20120101AFI20230530BHJP
B60K 6/36 20071001ALI20230530BHJP
B60K 6/442 20071001ALI20230530BHJP
B60W 20/00 20160101ALI20230530BHJP
F16D 11/10 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
B60W10/10 900
B60K6/36 ZHV
B60K6/442
B60W20/00
F16D11/10 Z
(21)【出願番号】P 2021557199
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 EP2020058524
(87)【国際公開番号】W WO2020193697
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-09-24
(31)【優先権主張番号】102019204294.5
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】519453607
【氏名又は名称】ヴィテスコ テクノロジーズ ジャーマニー ゲー・エム・ベー・ハー
【氏名又は名称原語表記】Vitesco Technologies Germany GmbH
【住所又は居所原語表記】Siemensstrasse 12,93055 Regensburg,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】エドゥアルド クインテロ マンリケス
(72)【発明者】
【氏名】オスカー エドゥアルド サルミエント
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ケルム
(72)【発明者】
【氏名】マリオ アルベルト チンチラ サボリオ
(72)【発明者】
【氏名】セヨン パーク
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-149020(JP,A)
【文献】国際公開第2010/103810(WO,A1)
【文献】特開平01-209508(JP,A)
【文献】特開2009-098965(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00545597(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0234625(US,A1)
【文献】仏国特許出願公開第02905437(FR,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00 - 20/50
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
F16D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータアーム(20)を介してドッグクラッチ(8.1,8.2)を移動させるように構成されたDCモータ(15)により、ドッグクラッチ(8.1,8.2)を制御する方法であって、
前記方法は、前記DCモータ(15)に、制御アルゴリズム(10)によって形成されたデューティ比を有するパルス幅変調電圧を供給するステップを含み、
前記制御アルゴリズム(10)は、4次のトラジェクトリプランニングアルゴリズムに基づいて前記アクチュエータアーム(20)の所望の位置を生成するトラジェクトリプランナ(11)と、前記アクチュエータアーム(20)の所望の位置をトラッキングするためのスライディングモード理論に基づくモーションコントローラとを含
み、
前記モーションコントローラは、滑り曲面を規定するスライディングモード制御を適用し、
スライディングモードコントローラは、2次のスライディングモードコントローラに基づくsuper-twisting algorithmを含む、
方法。
【請求項2】
前記トラジェクトリプランナ(11)は、前記モーションコントローラのための前記アクチュエータアーム(20)の所望の位置を規定する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記アクチュエータアーム(20)の所望の位置は、導出された躍度プロフィルに基づいて提示される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記ドッグクラッチ(8.1,8.2)の係合プロセスのための前記アクチュエータアーム(20)の所望の位置は、3つのフェーズ、すなわち接近、接触、および挿入によって規定される、請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
前記3つのフェーズによる係合プロセスは、150ms以内で実行される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
スライディングモードコントローラは、トルクリップルおよび制御変数のチャタリングを回避するために、前記DCモータ(15)のモータ電流から独立している、請求項
1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記アクチュエータアーム(20)の位置に対する単一のトラッキングエラー変数の関数として、スライディングモードコントローラのために、縮小された滑り曲面が規定される、請求項
1から
6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記縮小された滑り曲面は、漸近的に前記滑り曲面に到達するためのおよびハイゲイン制御を回避するための安定化項に基づいており、さらにモデル化されていないダイナミクスを拒絶するためのおよび定常状態誤差を低減するための積分項に基づいている、請求項
7記載の方法。
【請求項9】
前記縮小された滑り曲面は、システムパラメータ(R,L,k
t,k
e,J)およびギヤジオメトリから独立している、請求項
7または
8記載の方法。
【請求項10】
前記super-twisting algorithmは、前記デューティ比の推定に用いられる制御変数を計算するために使用される、請求項
1から
9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
ギヤボックス(1)およびギヤアクチュエータを備えた装置であって、
前記ギヤボックス(1)は、複数のギヤ(21,22)と、該ギヤ(21,22)のうちの少なくとも1つに係合するように構成されたドッグクラッチ(8.1,8.2)とを含み、
前記ギヤアクチュエータは、アクチュエータアーム(20)を介して前記ドッグクラッチ(8.1,8.2)を移動させるように構成され、かつ請求項1から
10までのいずれか1項記載の方法によって前記ドッグクラッチ(8.1,8.2)を制御するように構成された、DCモータ(15)を備えている、装置。
【請求項12】
前記ギヤボックス(1)は、ハイブリッド専用トランスミッションである、請求項
11記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ハイブリッド専用トランスミッション(DHT)では、燃料消費、効率および運転性能を改善するために、2次パワー源、例えば電気モータが内燃機関に統合されている。自動化マニュアルトランスミッション(AMT)は、種々のパワー源を統合するシャフトの回転速度を同期させながら要求トルクを伝達するためのパワートレーン内の低コストのソリューションである。
【0002】
自動車およびトラックでの乾式クラッチの自動的な係合は、典型的には、エネルギフロー管理の作動のために使用されている。このことは、燃料消費および汚染物質排出の低減に併せた安全性、快適性、信頼性、シフト品質および運転性能の改善に関して、多くの利点を提供する。例えばファジー論理、最適化制御、フィードバック線形化およびPI制御のような技術に基づく係合のための幾つかの制御アルゴリズムが文献において提案されている。
【0003】
ギヤシフトのための機械的なハイブリッドトランスミッションにおける代替手段はドッグクラッチシステムであり、これは、スリップなく、乾式クラッチよりも少ない摩耗で、2つのシャフトが同じ速度で回転するという利点を有する。自動制御が、迅速かつ平滑な係合を実現するためにドッグクラッチシステムにおいて適用される。これら2つの性能目標は対立的である。平滑なギヤシフトを達成するには、ギヤ係合時間がギヤへの応力を低減させるための長さを有さなければならない。反対に、迅速な係合はドッグクラッチの衝撃力を増大させるので、係合は平滑とならない。
【0004】
ドッグクラッチの係合のための種々の制御装置が提案されている。1つの制御装置では、電磁コイルの磁力によってドッグクラッチ部材が非接続位置から接続位置へ向かって移動され、クラッチリンクによってドッグの係合が補助される。文献で提案されている第2の任意選択手段では、ストローク位置センサのフィードバックを使用して、リニアアクチュエータおよびコントローラにより、自動化トランスミッションのギヤが移動される。
【0005】
低コストのシステムでは、ドッグクラッチは、システムを単純化しかつ小さくするために同期コーンまたは同期リングを有さない。また、制御アルゴリズムはコストを低く抑えるために標準的なセンサ、および実装のためのリソースが制限されたマイクロコントローラのみが使用されるように制限されている。これらの条件から、ドッグクラッチシステムの係合および解離のためのロバストかつシンプルな位置制御アルゴリズムが要求される。
【0006】
乾式クラッチを備えたトランスミッションでは、
・乾式クラッチの摺動がシステムの性能に影響し、
・摩耗が交換の高いコストを誘起する、
という基本的な問題が存在する。
【0007】
ドッグクラッチトランスミッション機構では、
・平滑な係合による迅速かつ平滑な係合プロセスには長い時間を要し、迅速な係合ではドッグでの衝撃力が増大し、
・同期コーンまたは同期リングにより係合プロセスは支援されるが、より複雑であることによってコストが増大する、
という主たる問題が存在する。
【0008】
同期コーンまたは同期リングを用いない迅速かつ平滑な係合のための制御アルゴリズムについての需要が存在する。文献では、
・乾式クラッチの係合時間は約0.4s~0.8sであってきわめて短い時間ではなく、運転者がシフトを知覚しうることとなり、
・低コストのマイクロコントローラに実装するには制御ストラテジが過度に複雑であり、
・制御アルゴリズムがシステムパラメータに大きく依存する、
という問題を考慮したクラッチシステムの係合および解離について、種々の制御ストラテジが開発されてきている。
【0009】
改善されたドッグクラッチを制御する方法についての需要も存在する。
【0010】
本開示によれば、アクチュエータアームを介してドッグクラッチを移動させるように構成された電気モータにより、ドッグクラッチを制御する方法であって、当該方法は、電気モータに、制御アルゴリズムによって形成されたデューティ比を有するパルス幅変調電圧を供給することを含み、制御アルゴリズムは、4次のトラジェクトリプランニングアルゴリズム(trajectory planning algorithm)に基づいてアクチュエータアームの所望の位置を生成するトラジェクトリプランナと、アクチュエータアームの所望の位置をトラッキングするためのスライディングモード理論に基づくモーションコントローラとを含む、方法が提供される。
【0011】
例示的な一実施形態では、トラジェクトリプランナは、モーションコントローラのためのアクチュエータアームの所望の位置を規定する。
【0012】
例示的な一実施形態では、アクチュエータアームの所望の位置は、導出された躍度プロフィル(jerk profile)に基づいて提示される。
【0013】
例示的な一実施形態では、ドッグクラッチの係合プロセスのためのアクチュエータアームの所望の位置は、3つのフェーズ、すなわち接近、接触および挿入によって規定される。
【0014】
例示的な一実施形態では、3つのフェーズによる係合プロセスは、150ms以内で実行される。
【0015】
例示的な一実施形態では、モーションコントローラは、滑り曲面(sliding surface)を規定するスライディングモード制御を適用する。
【0016】
例示的な一実施形態では、スライディングモードコントローラは、2次のスライディングモードコントローラに基づくsuper-twisting algorithmを含む。例示的な一実施形態では、スライディングモードコントローラは、トルクリップルおよび制御変数のチャタリングを回避するために、電気モータのモータ電流から独立している。
【0017】
例示的な一実施形態では、アクチュエータアームの位置に対する単一のトラッキングエラー変数の関数として、スライディングモードコントローラのために、縮小された滑り曲面(a reduced sliding surface)が規定される。
【0018】
例示的な一実施形態では、縮小された滑り曲面は、漸近的に滑り曲面に到達するためのおよびハイゲイン制御を回避するための安定化項に基づいており、さらにモデル化されていないダイナミクスを拒絶するためのおよび定常状態誤差を低減するための積分項に基づいている。
【0019】
例示的な一実施形態では、縮小された滑り曲面は、システムパラメータ、例えばR,L,kt,ke,Jおよびギヤジオメトリから独立している。
【0020】
例示的な一実施形態では、super-twisting algorithmは、デューティ比の推定に用いられる制御変数を計算するために使用される。
【0021】
本開示の一態様によれば、ギヤボックスおよびギヤアクチュエータを備えた装置であって、ギヤボックスは、複数のギヤと、当該ギヤのうちの少なくとも1つに係合するように構成されたドッグクラッチとを含み、ギヤアクチュエータは、アクチュエータアームを介してドッグクラッチを移動させるように構成され、かつ上述した方法によってドッグクラッチを制御するように構成された、電気モータを含む、装置が提供される。
【0022】
例示的な一実施形態では、ギヤボックスは、ハイブリッド専用トランスミッションである。
【0023】
本開示は、ドッグクラッチシステムを係合および解離させるために、DCモータがギヤアクチュエータを介して力を伝達するようにするトラジェクトリプランニング制御アルゴリズムによってドッグクラッチを制御する方法に関する。さらに、提案している制御アルゴリズムは、
・例えば150ms以下の迅速な係合プロセス、
・例えば150ms以下の迅速な解離プロセス、
・ドッグへの衝撃を低減するための平滑な運動プロフィルのトラッキング、
・低コストのマイクロコントローラへの実装のためのロバストかつシンプルな制御アルゴリズム、
・システムパラメータへの非依存性、
・同期コーンまたは同期リングなしのドッグクラッチシステムでの適用可能性、
の利点を有することができる。
【0024】
本発明は、以下に与えられる詳細な説明と添付の図面とからより完全に理解されるが、図面は説明のためのものにすぎず、よって本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】ドッグクラッチを備えたギヤボックスの概略図である。
【
図3】トラジェクトリプランニング制御アルゴリズム、ギヤアクチュエータおよびドッグクラッチのシステムアーキテクチャの概略図である。
【
図4】解離位置にあるドッグクラッチの概略図である。
【
図5A】1つの位置にあるドッグクラッチの概略図である。
【
図5B】異なる位置にあるドッグクラッチの概略図である。
【
図5C】異なる位置にあるドッグクラッチの概略図である。
【
図6】例示的な係合および解離のプロフィルを示す概略的なグラフである。
【
図7】導出された躍度に基づく運動プロフィルの生成を示す概略的なグラフである。
【
図8】電気モータおよび回転負荷に結合されたメッシングギヤを備えた2段ギヤトレーンの概略図である。
【0026】
最初に、制御アルゴリズムが実装されるシステムのイントロダクションが提示される。ギヤボックス1、特にハイブリッド専用トランスミッション(DHT)の概略図が
図1に示されている。
【0027】
ギヤボックス1は、内燃機関3に接続された第1の入力シャフト2を有しており、当該内燃機関3はコストの点で効率的なマルチポイントインジェクションシステムであってよい。ギヤボックス1の第2の入力シャフト4は、第1の電気駆動機構5、例えば電気トラクションドライブに接続可能である。ギヤボックス1の第3の入力シャフト6は第2の電気駆動機構7、例えばベルトスタータジェネレータに接続可能である。ギヤボックス1は電気駆動機構5,7の高速適用に対応可能なものであってよい。ギヤボックス1は、単純化されたトランスミッションと最小数のギヤとを可能にしてローンチ要素またはデカップリング要素を必要としない、いわゆるハイブリッド専用トランスミッション(DHT)であってよい。
【0028】
ギヤボックス1は、複数のシフト状態S1~S4、例えば4つのシフト状態S1~S4を駆動するための複数のドッグクラッチ8.1,8.2、例えば2つのドッグクラッチ8.1,8.2を有する。ドッグクラッチ8.1,8.2を駆動するためのギヤアクチュエータに対して、電気制御ユニットを設けることができる。電気制御ユニットは、以下に示す制御アルゴリズムを使用して動作可能である。
【0029】
【0030】
簡明性のために、単一のドッグクラッチ8.1について制御アルゴリズムを説明するが、当該制御アルゴリズムはドッグクラッチ8.1,8.2の双方に適用可能である。ギヤアクチュエータおよびドッグクラッチ8.1,8.2のシステムアーキテクチャのスキーマは、
図3に示されている。
【0031】
例示的な一実施形態では、システムアーキテクチャは、シフト信号Sを供給する外部ユニットであってよい主制御ユニット9を含み、シフト信号Sは、例えば、
・ギヤ1の係合、
・ギヤ2の係合、
・解離
を表す。
【0032】
例示的な制御アルゴリズム10は、トラジェクトリプランナ11とモーションコントローラ12とを含む。トラジェクトリプランナ11は、モーションコントローラ12のための所望のアーム位置を生成する。
【0033】
システムアーキテクチャの例示的な電気トポロジ13は、電圧供給部14、DCモータ15、Hブリッジ16、およびPWMインタフェース17を含む。電圧供給部14は、Hブリッジ16に、DCモータ15への給電のための電圧を供給する。Hブリッジ16は、PWMインタフェース17により生成されるPWM信号によって制御される。PWM信号のデューティ比は、スライディングモード理論に基づいてモーションコントローラ12により計算される。
【0034】
PWMインタフェース17は、Hブリッジ16内のパワースイッチ、例えばMOSFETまたはIGBTのためのPWM信号を、モーションコントローラ12が計算したデューティ比に依存して生成する。DCモータ15は機械トポロジ18のためのトルクを形成する。
【0035】
機械トポロジ18は、ギヤトレーン19、アクチュエータアーム20、およびドッグクラッチ8.1を含む。
【0036】
ギヤトレーン19は、DCモータ15からのトルクを増幅し、速度を低減する。アクチュエータアーム20は、角度運動を線形運動へ変換する。ドッグクラッチ8.1は、アクチュエータアーム20により移動される要素である。その機能は、ギヤボックス1内の種々のギヤを機械的に係合または解離させることである。
【0037】
図4は、挿入距離IDおよびクリアランス距離CDで(例えばアクチュエータアーム20が0mmの位置を有する)解離位置にあるドッグクラッチ8.1の概略図である。ドッグクラッチ8.1は、1つもしくは複数のドッグ21.1を有する第1のギヤ21、1つもしくは複数のドッグ22.1を有する第2のギヤ22、および第1のギヤ21と第2のギヤ22との間に配置されておりかつ第1のギヤ21のドッグ21.1に係合する1つもしくは複数のドッグ23.1と第2のギヤ22のドッグ22.1に係合する1つもしくは複数のドッグ23.2とを有する摺動スリーブ23を含み、ここで、摺動スリーブ23は、
図4に示されているニュートラル位置では第1のギヤ21および第2のギヤ22のいずれにも係合しないか、またはこれらのうちの一方のみに係合する。挿入距離IDはドッグ21.1,23.1または22.1,23.2が互いに係合可能な深さである。クリアランス距離CDは、摺動スリーブ23がニュートラル位置にある場合の、ドッグ22.1,23.1間のスペースおよび22.1,23.2間のスペースである。
【0038】
第1のギヤ21、第2のギヤ22および摺動スリーブ23はシャフトの周囲に配置されており、摺動スリーブ23は回転可能に前記シャフトに結合されており、第1のギヤ21および第2のギヤ22は前記シャフトを中心として回転可能である。
【0039】
アクチュエータアーム20の位置は、摺動スリーブ23の位置と同じであり、当該アクチュエータアーム20によって摺動スリーブ23に力が印加される。第1のギヤ21の係合プロセスは、第2のギヤ22の係合プロセスと同じである。
【0040】
図5A~
図5Cに示されている係合プロセスは、3つのフェーズを有する。
【0041】
接近とも称されうるフェーズである
図5Aに示されている第1のフェーズP1では、摺動スリーブ23が、シャフトに沿って、第1のギヤ21のドッグ21.1に向かって加速される。
【0042】
接触とも称されうるフェーズである
図5Bに示されている第2のフェーズP2では、摺動スリーブ23がいわゆる当接点に近づき、第1のギヤ21のドッグ21.1にほぼ接触するまで減速される。低速で移動した後、摺動スリーブ23と第1のギヤ21のドッグ21.1との間の所定の接触が、小さな大きさの接触力で行われる。
【0043】
挿入とも称されうるフェーズである
図5Cに示されている第3のフェーズP3では、第1のギヤ21の各ドッグ21.1を摺動スリーブ23のドッグ23.1のクリアランスに挿入するために、印加される力と第1のギヤ21に向かって生じる摺動スリーブ23の速度とが徐々に増大される。最終的に、第1のギヤ21と摺動スリーブ23とは同じ速度で回転する。
【0044】
解離プロセスDはより単純であり、摺動スリーブ23が、解離位置へ向かって加速され、第1のギヤ21のドッグ21.1から係合解除されて解離位置へ近づくと、解離位置に到達して加速度がゼロとなるまで減速される。トラジェクトリプランナ11は、導出された躍度プロフィルが規定されて運動プロフィルの取得のために4回の積分が行われる4次のトラジェクトリプランニングアルゴリズムに基づいて、アクチュエータアーム20の所望の位置を生成する。
【0045】
図6は、アクチュエータアーム20の位置に対する所望のトラジェクトリとしての例示的な係合および解離のプロフィルを示すグラフである。
図7には、導出された躍度に基づく運動プロフィルがどのように生成されるかの一例を示すグラフが示されている。このように、衝撃力を低減するための迅速かつ平滑な加速プロフィルが生成される。
【0046】
モーションコントローラ12を設計するために、DCモータ15の離散時間モデルが、
【数1】
として示されている。上記の式中、状態xは、
θ ロータ位置
ω ロータ速度
i 電機子電流
τ
m 機械トルク
である。パラメータは、
R 電機子レジスタンス
L 電機子インダクタンス
k
t トルク定数
k
e 逆起電力(CEMF)定数
J モータ慣性
T
S サンプリング時間
u 電機子電圧
である。τ
Lは負荷トルクでありかつ未知の擾乱であると見なされ、添え字kはサンプリング時点である。さらに、電機子電圧はu=デューティ比・VDCに等しく、ここで、VDCは給電電圧の大きさである。
【0047】
ギヤトレーン19および慣性作用を考慮して、等価慣性が使用されている。DCモータ15および回転負荷24に結合されたメッシングギヤG1,G2およびG3,G4を備えた2段ギヤトレーン19が、
図8に示されているように想定される。
【0048】
図8を参照すると、N1~N4は、対応するギヤG1,G2,G3,G4の歯の数を表している。次式、すなわち
【数2】
を使用して、等価慣性を推定することができる。
【0049】
Jxxは、種々の要素の回転慣性(kgm2)を表す。項N1/N2およびN3/N4は、ギヤ比の逆数である。最後に、項Jloadは、アクチュエータアーム20の線形慣性がアクチュエータアームモデルにおいて既に考慮されているためにこの場合はゼロに等しい、アクチュエータアーム20の変換された回転慣性を表す。
【0050】
等価慣性を観察すると、モータおよび第1のギヤの慣性が優勢であるのに対して、残りのギヤの作用は縮小(the reduction)により消去されている。項(N1/N2)2および(N3/N4)2は相当に小さくなり、さらにこれらを乗算した慣性の作用も最小化される。したがって、モータ慣性Jは、DCモータ15の数学的モデルにおける等価慣性Jeqによって置換される。
【0051】
この場合、角度位置センサは、速度を推定するために使用可能である。角度位置センサは、ギヤボックス1とアクチュエータアーム20との間に配置可能である。この場合、ギヤボックス1の縮小がDCモータ15の数学的モデルのために考慮されなければならない。DCモータ15により適用されるパワーはギヤボックス1の入力側と出力側とで等しく、τ’
mおよびω’はギヤボックス1の出力側でのトルクおよび速度であるので、これは、
τ’
mω’=τ
mω
と記述することができ、ここで、nを縮小量として、ω’=ω/nおよびτ’
m=nτ
mであり、またアクチュエータアーム20での角度位置もθ’=θ/nで表される。測定に利用可能な変数であるアクチュエータアーム20の位置θ’に従って、DCモータ15の数学的モデルは、
縮小された滑り曲面を有するスライディングモードコントローラ
【数3】
として規定される。
【0052】
ここで提案しているモーションコントローラの目的は、R,L,k
t,k
e,Jのようなシステムパラメータへの依存性を回避すること、ならびにリップルトルクおよび制御変数におけるチャタリングを緩和するためにモータ電流変数の使用を回避することである。モーションコントローラの出力変数はPWMインタフェース17のデューティ比であり、
図3に制御スキーマが示されている。制御合成を記述するために、状態変数、測定された変数、およびx=[θ’,ω’,i,τ
m,k],η=[θ’,i]およびy=θ’として制御されるべき変数が、それぞれ規定される。
【0053】
まず、トラッキングエラーが、
z1,k=θ’k-θ’d,k
として規定され、ここで、θ’d,kは、トラジェクトリプランナによって規定される、アクチュエータアーム20の角度位置の所望の値であり、有界の増分によって適切に有界を有する信号である。
【0054】
ついで、アクチュエータアーム20の位置のトラッキングエラーの関数としてのみ、縮小された滑り曲面が、
【数4】
として提示される。安定化項cは、漸近的に滑り曲面に到達し、かつハイゲイン制御が回避されるように加えられ、積分項c
dは、モデル化されていないダイナミクスが拒絶されかつ定常状態誤差が低減されるように加えられる。
【0055】
ついで、2次のスライディングモードコントローラに基づき、かつ
【数5】
として規定されるsuper-twisting algorithmを用いて、制御変数uが計算される。ここで、γは、super-twisting algorithmの状態であり、
【数6】
は、正の制御利得である。この場合、閉ループシステムは、有限時間において滑り多様体s=0に到達するので、アクチュエータアーム20の位置のトラッキングエラーはゼロへ向かう。
【0056】
角度単位での所望のトラジェクトリプロフィルは
図6に示されており、ここでの目的は、提案しているスライディングモードコントローラを使用した、150msの時間内での係合および解離である。
【0057】
制御アルゴリズムの性能は適切であり、係合プロセスおよび解離プロセスDの時間は150msより短くなる。
【0058】
提案しているコントローラ、すなわち縮小された滑り曲面を有するスライディングモードコントローラは、実装が簡単である。さらに、当該コントローラは、モータ電流変数を必要とせず、当該コントローラ内の保護のために使用されるのみであって、パラメータの知識も必要ない。
【0059】
本開示、特に縮小された滑り曲面を有するスライディングモードコントローラによる方法により、例えば、
・150ms以内の係合プロセス、
・150ms以内の解離プロセスD、
・ドッグクラッチシステムのアクチュエータとしてのDCモータ15の制御、
・低コストのマイクロコントローラへの実装のためのロバストかつシンプルな制御アルゴリズム、
・ドッグへの衝撃を低減するための平滑な運動プロフィルのトラッキング、
・システムパラメータへの非依存性、
の各特性に併せて、迅速かつ平滑なドッグクラッチシステムの係合および解離が可能となる。
【0060】
ドッグクラッチシステムは、同期コーンまたは同期リングを必要とせず、システムを単純化しかつ小さくするが、同時に係合の困難性を増大させる。制御アルゴリズムは、種々のドッグクラッチジオメトリへの実装のためのフレキシビリティを提供する。
【0061】
制御アルゴリズムは、迅速かつ平滑なトラジェクトリプロフィルのトラッキングのためのアクチュエータとしてのDCモータ15によって位置制御すべきあらゆるシステムに適用可能である。無段変速機(CVT)における他のアプリケーションも可能である。
【0062】
提案している制御アルゴリズムはテストベンチ上で実現された。当該テストベンチは、
・トルクの増幅とDCモータ15の速度の低減とに使用されるギヤトレーン19、
・ドッグクラッチ8.1のシフトフォークに力を印加するための、トルクを力へ変換するアクチュエータアーム20、
・ギヤボックス1内の種々のギヤを機械的に係合または解離させるためのドッグクラッチ8.1、ここで、ドッグクラッチ8.1は、2つのギヤ21,22と、シフトフォークに印加される力によってハブ上を摺動する摺動スリーブ23とを含む、
の各機械要素を含む。
【0063】
さらに、テストベンチは、
・ギヤトレーン19のためのトルクを形成するDCモータ15、
・ギヤトレーン19とアクチュエータアーム20との間のシャフトの位置を測定する角度センサ、
・電圧供給部14、
・トラジェクトリプランナ11およびモーションコントローラ12が実装され、Hブリッジ16、PWMインタフェース17およびマイクロコントローラを統合した電気制御ユニット、
の種々の電気要素を含む。
【0064】
アクチュエータアームのための角度単位での所望のトラジェクトリプロフィルでは、係合プロセスにおいて提案している3つのフェーズ、すなわち接近、接触および挿入が150ms以内で適用され、また解離プロセスDも150ms以内で実行される。
【0065】
結果は、挿入時の障害、機械的トレランスおよびギヤでのバックラッシュのない、150msの時間内での満足のいく係合および解離を示している。さらに、制御アルゴリズムは、挿入されたギヤの未知の相対位置に従ってトラジェクトプロフィルを適応化し、ギヤ間の種々の速度での係合および種々のトルク負荷での解離を行うことができる。
【符号の説明】
【0066】
1 ギヤボックス
2 第1の入力シャフト
3 内燃機関
4 第2の入力シャフト
5 第1の電気駆動機構
6 第3の入力シャフト
7 第2の電気駆動機構
8.1,8.2 ドッグクラッチ
9 制御ユニット
10 制御アルゴリズム
11 トラジェクトリプランナ
12 モーションコントローラ
13 電気トポロジ
14 電圧供給部
15 DCモータ
16 Hブリッジ
17 PWMインタフェース
18 機械トポロジ
19 ギヤトレーン
20 アクチュエータアーム
21 第1のギヤ
21.1,22.1,23.1,23.2 ドッグ
22 第2のギヤ
23 摺動スリーブ
24 回転負荷
CD クリアランス距離
D 解離プロセス
G1~G4 ギヤ
ID 挿入距離
N1~N4 歯数
P1 第1のフェーズ
P2 第2のフェーズ
P3 第3のフェーズ
S シフト信号
S1~S4 シフト状態