(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】重水素化又は部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を含む治療用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4045 20060101AFI20230530BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230530BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20230530BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20230530BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20230530BHJP
A61P 25/30 20060101ALI20230530BHJP
C07D 209/16 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
A61K31/4045
A61P25/00
A61P25/18
A61P25/22
A61P25/24
A61P25/30
C07D209/16
(21)【出願番号】P 2022574099
(86)(22)【出願日】2021-04-23
(86)【国際出願番号】 EP2021060750
(87)【国際公開番号】W WO2021116503
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2023-02-02
(32)【優先日】2020-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2020/065244
(32)【優先日】2020-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2020-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2020-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2020-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2021-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521527989
【氏名又は名称】スモール ファーマ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ランズ,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ベンウェイ,ティファニー
(72)【発明者】
【氏名】ジョエル,ゼラ
(72)【発明者】
【氏名】レイゼル,マリー
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ,エレン
【審査官】愛清 哲
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/245133(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/081764(WO,A1)
【文献】ADAM L HALBERSTADT; ET AL,BEHAVIORAL EFFECTS OF [ALPHA],[ALPHA],[BETA],[BETA]-TETRADEUTERO-5-MEO-DMT IN RATS: 以下備考,PSYCHOPHARMACOLOGY,ドイツ,SPRINGER,2012年01月06日,VOL:221, NR:4,PAGE(S):709 - 718,http://dx.doi.org/10.1007/s00213-011-2616-6,COMPARISON WITH 5-MEO-DMT ADMINISTERED IN COMBINATION WITH A MONOAMINE OXIDASE INHIBITOR
【文献】RUCHANOK TEARAVARICH; ET AL,MICROWAVE-ACCELERATED PREPARATION AND ANALYTICAL CHARACTERIZATION OF 5-ETHOXY-N,N-DIALKYL- 以下備考,DRUG TESTING AND ANALYSIS,英国,2011年09月,VOL:3, NR:9,PAGE(S):597 - 608,http://dx.doi.org/10.1002/dta.223,[[ALPHA],[ALPHA],[BETA],[BETA]-H4]- AND [[ALPHA],[ALPHA],[BETA],[BETA]-D4]-TRYPTAMINES
【文献】PHILIP E MORRIS JR; ET AL,INDOLEALKYLAMINE METABOLISM: SYNTHESIS OF DEUTERATED INDOLEALKYLAMINES AS METABOLIC PROBES,JOURNAL OF LABELLED COMPOUNDS AND RADIOPHARMACEUTICALS,英国,JOHN WILEY & SONS LTD,1993年06月,VOL:33, NR:6,PAGE(S):455 - 465,http://dx.doi.org/10.1002/jlcr.2580330603
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
C07D 209/16
A61P 25/00-25/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物、又はその薬学的に許容される塩:
【化1】
(式中、
各R
1
は、Hであり;
R
2
は、CD
3
であり;
R
3
は、CD
3
であり;及び
各
y
Hは、H及びDから独立して選択される)
を含む、治療用組成物。
【請求項2】
前記化合物が、薬学的に許容される塩の形態であり、前記薬学的に許容される塩が、フマル酸塩である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が医薬製剤である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記医薬製剤が非経口製剤である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記医薬製剤が固形製剤である、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
前記医薬製剤が、0.001mg~100mgの重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物、又はその薬学的に許容される塩を含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項7】
前記化合物が、以下に示す化合物1又はその薬学的に許容される塩である、
【化2】
請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が医薬製剤である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記化合物が、以下に示す化合物2又はその薬学的に許容される塩である、
【化3】
請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が医薬製剤である、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記化合物が、以下に示す化合物5又はその薬学的に許容される塩である、
【化4】
請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物が医薬製剤である、請求項11に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、N,N-ジメチルトリプタミン化合物、α-プロチオ,α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物、及びこれらの化合物の薬学的に許容される塩から選択される、治療に使用するための重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物(単数又は複数)を提供し、好ましくは、重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物は、非重水素化N,N-ジメチルトリプタミンの半減期と比較して長い半減期を有する。
【0002】
特に、本発明は、式Iの化合物、またはその薬学的に許容される塩を提供する;
【化1】
ここで、前記化合物中の重水素:プロチウムの比は、水素において天然に見られるものよりも大きく;
各R
1は、HおよびDから独立して選択され;
R
2は、CH
3およびCD
3から選択され;
R
3は、CH
3およびCD
3から選択され;及び、
各
yHは、HおよびDから独立して選択される。
【0003】
本発明の化合物を合成する方法、及び、大うつ病性障害などの精神障害又は神経障害の治療においてそのような組成物を使用する方法も提供される。
【発明の背景】
【0004】
古典的な幻覚剤は、精神障害の治療において前臨床的及び臨床的有望性を示している(Carhart-Harris and Goodwin (2017), The Therapeutic Potential of Psychedelic Drugs: Past, Present and Future, Neuropsychopharmacology 42, 2105-2113)。特に、シロシビン(psilocybin)は、無作為化二重盲検試験において、様々なうつ病及び不安評価尺度の有意な改善を実証している(Griffiths et al. (2016), Psilocybin produces substantial and sustained decreases in depression and anxiety in patients with life-threatening cancer: a randomised double-blind trial, Journal of Psychopharmacology 30(12), 1181-1197)。
【0005】
N,N-ジメチルトリプタミン(DMT)もまた、短時間作用型幻覚剤として治療的価値を有すると理解されているが、その作用の持続時間が非常に短いので(20分未満)、有効な治療が制限されている。DMTの没入型サイケデリック体験を拡張するために、投与プロトコルが開発されている(Gallimore and Strassman (2016), A model for the application of target-controlled intravenous infusion for a prolonged immersive DMT psychedelic experience, Frontiers in Pharmacology, 7:211)。しかしながら、これらのプロトコルは、DMTの代謝が乏しい患者において毒性蓄積の危険を伴う(さらなる議論については、「Strassman et al (1994), Dose response study of N,N-dimethyltryptamine in humans, Arch Gen Psychiatry 51, 85」を参照)。
【0006】
α,α,β,β-テトラデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンは、N,N-ジメチルトリプタミンと比較して、そのインビボ薬物動態プロファイルに有意な差を与える動的同位体効果(速度論的同位体効果)を示すことが知られている。sp3炭素中心にて水素を重水素で置換することは、CHとCD結合との間の結合強度の差によって、「動的同位体効果」をもたらすことが知られている。げっ歯類の脳におけるα,α,β,β-テトラデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンの半減期は、α,α,β,β-テトラデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンの単独投与が、治療に必須とされるより長い間、患者をDMTスペースに維持することを示唆していることが、1982年に最初に実証された(Barker et al. (1982), Comparison of the brain levels of N,N-dimethyltryptamine and α,α,β,β-tetradeutero-N,N-dimethyltryptamine following intraperitoneal injection, Biochemical Pharmacology, 31(15), 2513-2516)。
【発明の概要】
【0007】
N,N-ジメチルトリプタミンの薬物動態プロファイルを制御可能に改変し、それによってより柔軟な治療への応用を可能にするために、本発明は、α,α,β,β-テトラデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンが示す動的同位体効果の知識を応用する能力に、一部基づく。特に、重水素化N,N-ジメチルトリプタミン類似体(特に、α位に少なくとも1つの重水素原子を含む[すなわち、ジメチルアミノ成分が結合した炭素原子に結合している少なくとも1つの重水素原子を含む]N,N-ジメチルトリプタミン)を含む個別の薬物組成物を提供することにより、本発明は、臨床における注入プロトコル又はモノアミン酸化酵素阻害剤との併用療法に頼ることなく、治療的に最適化された持続時間の間、外部世界から患者を完全な分離状態(本明細書では「DMTスペース」と称する)に維持するために、微調整された単一投与量を可能にする組成物及び方法を提供する。本発明は、DMTを使った療法の管理における臨床上の複雑さを減少させ、臨床的柔軟性を増加させる、臨床的に応用可能な解決策を提供する。
【0008】
さらに我々は、重水素化の程度と、本明細書に開示された合成方法における投入還元剤のH:D比と、親化合物の代謝半減期の増強(すなわち、増加)に対する効果との間に定量可能な関係を観察した。このような技術的効果は、重水素化N,N-ジメチルトリプタミン組成物(すなわち、単離された複数の重水素含有N,N-ジメチルトリプタミン化合物;又は、N,N-ジメチルトリプタミン及びその重水素化類似体、特にα位及び/又はN,N-ジメチル位で重水素化されたもの、又はこれらの薬学的に許容される塩から選択される2種以上の化合物を含む組成物)を調製する際の精度を定量的に高めるために使用することができる。
【0009】
したがって、第一の局面から見ると、本発明は、N,N-ジメチルトリプタミン化合物、α-プロチオ,α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物、及びこれらの化合物の薬学的に許容される塩から選択される、治療に使用するための重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物(単数又は複数)を提供し、好ましくは、前記重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物は、非重水素化N,N-ジメチルトリプタミンの半減期と比較して長い半減期を有する。
【0010】
第二の局面から見ると、本発明は、治療に使用するための式(I)の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物、又はその薬学的に許容される塩を提供する:
【化2】
式中、化合物中の重水素:プロチウムの比は、水素において天然に見られるものよりも大きく:
各R
1は、H及びDから独立して選択され;
R
2は、CH
3及びCD
3から選択され;
R
3は、CH
3及びCD
3から選択され;
各
yHは、H及びDから独立して選択される。
【0011】
第二の局面の好ましい実施形態では、各R1はHである。第二の局面の第一の実施形態では、yHの両方がDである。第二の局面の第二の実施形態では、R2及びR3の両方がCD3である。
【0012】
第三の局面から見て、本発明は、式(I)の化合物又は薬学的に許容されるその塩を提供し、式(II)の化合物をLiAlH
4及び/又はLiAlD
4と反応させることを含む合成法によって得ることができる
【化3】
式中、R
1は、H及びDから選択され;
R
2は、CH
3及びCD
3から選択され;
R
3は、CH
3及びCD
3から選択され;及び
各
yHは、H及びDから独立して選択される。
【0013】
第四の局面から見ると、本発明は、第一~第三の局面のいずれか1つに記載の化合物又は組成物を、薬学的に許容される賦形剤と組み合わせて含む医薬組成物を提供する。
【0014】
第五の局面から見ると、本発明は、幻覚剤を使う精神療法の方法において使用するための、第一~第四の局面のいずれか1つに記載の化合物又は組成物を提供する。
【0015】
第六の局面から見ると、本発明は、患者の神経障害又は心理的障害を治療する方法において使用するための、第一~第五の局面のいずれか1つに記載の化合物又は組成物を提供する。
【0016】
第七の局面から見ると、本発明は、それを必要とする患者に、第一~第四の局面のいずれか1つに記載の化合物又は組成物を投与することを含む、神経障害又は心理的障害を治療する方法を提供する。
【0017】
第八の局面から見ると、本発明は、患者の神経障害又は心理的障害を治療する方法において使用するための薬剤の製造における、第一~第四の局面のいずれか1つに記載の化合物又は組成物の使用を提供する。
【0018】
第九の局面から見ると、本発明は、本発明の第一~第三の局面のいずれかによる化合物を調製する方法であって、重水素化又は非重水素化2-(3-インドリル)-N,N-ジメチルアセトアミドを、水素化アルミニウムリチウム及び/又は重水素化アルミニウムリチウムから本質的になる還元剤と接触させることを含む方法を提供する。
【0019】
第十の局面から見ると、本発明は、化合物1~5又はその薬学的に許容される塩から選択される化合物を提供する。
【化4】
【0020】
本発明のさらなる局面及び実施形態は、以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、非重水素化DMT及び完全重水素化DMTと比較した、部分重水素化DMTの予測される薬物動態プロファイルを示す。予測されるA)血漿濃度、及びB)脳組織濃度は、部分重水素化DMTの半減期の延長を示す。斜線領域は、「DMTスペース」と呼ばれる、外界からの完全な解離として経験される効果部位濃度(>60ng/mL)を示す。
【
図2】
図2は、実施例1に記載されるDMT及び6種類の重水素化含有組成物について計算されたインビトロ半減期をプロットする。A)線形回帰分析。半減期のr
2値は0.754であり、勾配はゼロと有意に異なることが見出された(p=0.01)。B)重水素化類似体の半減期は、(重水素化されていない)DMT(破線)からのパーセント変化として示される。
【
図3】
図3は、実施例1に記載のDMT及び6種類の重水素含有組成物のインビトロ固有クリアランスを示している。A)線形回帰分析。固有クリアランスのr
2値は0.7648であり、勾配はゼロと有意に異なることが見出された(p=0.01)。B)重水素化類似体の固有クリアランスは、(重水素化されていない)DMT(破線)からのパーセント変化として示される。
【
図4】MAO-A/B阻害剤の組合せが有る場合及び無い場合の、ヒト肝細胞におけるDMT(SPL026)の及び6種類のD
2-重水素化SPL028類似体ブレンドの、インビトロ固有クリアランス(A)及び半減期(B)(実施例のセクションに記載)。
【発明の詳細な説明】
【0022】
本明細書を通して、本発明の1つ又は複数の局面は、本発明の別個の実施形態を定義するために、本明細書に記載される1つ又は複数の特徴と組み合わせることができる。
【0023】
本明細書において、名詞の単数形への言及は、文脈が逆のことを示唆しない限り、名詞の複数形を包含し、逆もまた同様である。
【0024】
本明細書全体を通して、用語「含む」、又は「含み」もしくは「含んでいる」などの変化形は、記載されたエレメント、整数もしくはステップ、又は、一群のエレメント、整数もしくはステップの包含を意味するが、任意の他のエレメント、整数もしくはステップ、又は任意の他の一群のエレメント、整数もしくはステップの除外を意味しないと理解される。
【0025】
本発明は、N,N-ジメチルトリプタミン化合物、α-プロチオ,α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物、及びこれらの化合物の薬学的に許容される塩から選択される重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を提供する。
【0026】
本明細書で使用される場合、重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物という用語は、水素で天然に見られる重水素組成(約1.6%)よりも大きい重水素組成を有するN,N-ジメチルトリプタミン化合物を意味する。本明細書で使用される場合、非重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物という用語は、水素で天然に見られる重水素組成と等しいか又はそれより低い重水素組成を有するN,N-ジメチルトリプタミン化合物を意味する。
【0027】
本明細書で使用される場合、N,N-ジメチルトリプタミン化合物という用語は、各xHが独立して、プロチウム(H)及び重水素(D)から選択される、式Iaの化合物を意味する。例えば、N,N-ジメチルトリプタミン化合物は、β位に0、1又は2個の重水素原子を含むことができる。誤解を避けるために、本発明は、各xHがHである式Iaの化合物を包含しない。
【0028】
本明細書で使用される場合、α-プロチオ,α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物という用語は、各xHが独立して、プロチウム(H)及び重水素(D)から選択される、式Ibの化合物を意味する。例えば、α-プロチオ,α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物は、β位に0、1又は2個の重水素原子を含むことができる。
【0029】
本明細書で使用される場合、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物という用語は、各xHが独立して、プロチウム(H)及び重水素(D)から選択される、式Icの化合物を意味する。例えば、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物は、β位に0、1又は2個の重水素原子を含むことができる。
【0030】
プロチウム原子(H)は、中性子がゼロの水素原子である。重水素原子(D)は、1個の中性子を有する水素原子である。
【化5】
【0031】
本発明者らは、1個又は2個の重水素原子が、N,N-ジメチルトリプタミン化合物のα炭素上に位置する場合に、本発明の化合物が、一次速度論的同位体効果を示すことを発見した。この一次速度論的同位体効果は、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物によってその最大の程度まで示され、α-プロチオ,α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物によってより少ない程度示され、その結果、類似するN,N-ジメチルトリプタミン化合物と比較したα-プロチオ,α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物の半減期の倍率変化は、類似するα,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物の約半分である。
【0032】
N,N-ジメチルトリプタミン、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物、及び、α-プロチオ,α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物から選択される2種以上の化合物の混合物を含む組成物を使用して、一次速度論的同位体効果の治療的利益を、様々な程度で適用することができる。
【0033】
したがって、本発明は、N,N-ジメチルトリプタミン化合物、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物、及び、α-プロチオ,α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物から選択される2種以上の化合物を含む組成物を提供する。
【0034】
本発明者らはまた、本発明の化合物が、N,N-ジメチル基が重水素化された場合に、二次速度論的同位体効果を示すことを発見した。そのようなN,N-ジメチル基が1つ以上の重水素を含み、そのα位もモノ-又は-ジ重水素化されている場合、二次速度論的同位体は、一次速度論的同位体効果と相乗的であり、非重水素化N,N-ジメチルトリプタミンと比較して、半減期の14倍を超える増加をもたらす(実施例3を参照)。
【0035】
N,N-ジメチルトリプタミン及びそのすべての重水素化類似体は、アニオン性対イオンとの付加塩を自由に形成する。本明細書を通して、N,N-ジメチルトリプタミン化合物(特に、N,N-ジメチルトリプタミン、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物、及び、α-プロチオ,α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物)は、任意の薬学的に許容される塩(例えば、フマル酸塩)も等しく意味する。
【0036】
典型的には、酸性試薬を使用して、N,N-ジメチルトリプタミン化合物の塩、特に薬学的に許容される塩を調製することができる。適切な酸性試薬の例は、フマル酸、塩酸、酒石酸、クエン酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、酢酸、マレイン酸、乳酸、酒石酸及びグルコン酸からなる群より選択される。塩の形態である場合しばしば、本発明の組成物中の、あるいは本発明の様々な局面、及びその実施形態に従って使用される、N,N-ジメチルトリプタミン化合物(特に本発明の化合物としての)は、フマル酸塩、塩酸塩、酒石酸塩又はクエン酸塩であり、特にフマル酸塩である。
【0037】
本発明の第一の局面の化合物、及び本発明の第二及び第三(及び、必要に応じて、他の)局面の化合物は、遊離塩基又は塩の形態(例えば、本明細書に記載の塩など)で存在してもよく、場合によりその溶媒和物(例えば、水和物)として存在してもよい。
【0038】
第一の局面の実施形態は、2重量%以上の1種以上の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を含む組成物を提供する。第一の局面の好ましい実施形態において、組成物は、5重量%以上の1種以上の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を含む。第一の局面の好ましい実施形態において、組成物は、10重量%以上の1種以上の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を含む。第一の局面の好ましい実施形態において、組成物は、15重量%以上の1種以上の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を含む。第一の局面の好ましい実施形態において、組成物は、20重量%以上の1種以上の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を含む。第一の局面の好ましい実施形態において、組成物は、25重量%以上の1種以上の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を含む。第一の局面の好ましい実施形態において、組成物は、30重量%以上の1種以上の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を含む。第一の局面の好ましい実施形態において、組成物は、50重量%以上の1種以上の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を含む。第一の局面の好ましい実施形態において、組成物は、60重量%以上の1種以上の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を含む。第一の局面の好ましい実施形態において、組成物は、75重量%以上の1種以上の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を含む。第一の局面の好ましい実施形態において、組成物は、90重量%までの1種以上の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を含む。第一の局面の好ましい実施形態において、組成物は、95重量%までの1種以上の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を含む。第一の局面の好ましい実施形態において、組成物は、96重量%までの1種以上の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を含む。第一の局面の好ましい実施形態において、組成物は、97重量%までの1種以上の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を含む。第一の局面の好ましい実施形態において、組成物は、98重量%までの1種以上の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を含む。第一の局面の好ましい実施形態において、組成物は、99重量%までの1種以上の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を含む。第一の局面の好ましい実施形態において、組成物は、99.5重量%までの1種以上の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を含む。第一の局面の好ましい実施形態において、組成物は、99.9重量%までの1種以上の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を含む。
【0039】
したがって、前述のことから、本発明の第一の局面の特定の実施形態(特に、以下の8つの段落で議論される実施形態)によれば、前記組成物は、2%~90%、2%~95%、2%~96%、2%~97%、2%~98%、例えば、5%~90%、5%~95%、5%~96%、5%~97%、5%~98%;10%~90%、10%~95%、10%~96%、10%~97%、10%~98%;15%~90%、15%~95%、15%~96%、15%~97%、15%~98%;20%~90%、20%~95%、20%~96%、20%~97%、20%~98%;25%~90%、25%~95%、25%~96%、25%~97%、25%~98%;30%~90%、30%~95%、30%~96%、30%~97%、30%~98%;50%~90%、50%~95%、50%~96%、50%~97%、50%~98%;60%~90%、60%~95%、60%~96%、60%~97%、60%~98%;又は、75%~90%、75%~95%、75%~96%、75%~97%、75%~98%、75%~99%;90%~99%、90%~99.9%、99%~99.9%(いずれも重量%)の1種以上の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を含むことが理解される。
【0040】
組成物が、2重量%以上の1種以上の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を含む場合はいつでも、そのような組成物は、95重量%以下(又は96重量%以下、97重量%以下、又は98重量%以下)の1種以上の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を含むことができることが理解されるであろう。
【0041】
好ましい実施形態において、1種以上の部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物は、組成物全体の50重量%までを構成する。
【0042】
本発明の第一の局面の他の好ましい実施形態によれば、組成物は、組成物の総重量に基づいて最大50重量%までの、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物、α-プロチオ,α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物、及び薬学的に許容されるそれらの塩から選択される1種以上の化合物を含む。そのような実施形態では、このような組成物が、前記1種以上の化合物を、組成物全体に基づいて、2重量%以上、例えば、5重量%以上、10重量%以上、15重量%以上、20重量%以上、25重量%以上、又は30重量%以上含み得ることが理解されるであろう。
【0043】
特定の実施形態によれば、本発明の組成物は、本明細書に記載されるすべての実施形態を含み、このような実施形態には、N,N-ジメチルトリプタミンを含む実施形態、N,N-ジメチルトリプタミン、及びその重水素化類似体(特にα位で重水素化されたもの)、又はこれらの薬学的に許容される塩から選択される1種以上の化合物から本質的になる実施形態が含まれるが、それらに限定されない。N,N-ジメチルトリプタミン及びその重水素化類似体から選択される1種以上の化合物から本質的になる組成物とは、組成物が追加の成分(N,N-ジメチルトリプタミン化合物以外)を含んでもよいが、これらの追加成分の存在が、組成物の本質的な特性に実質的に影響を及ぼさないことを意味する。特に、N,N-ジメチルトリプタミン化合物から本質的になる組成物は、実質量の他の薬学的に活性な物質(すなわち、実質量の他の薬物)を含まない。
【0044】
本発明の組成物は、2重量%~98重量%のN,N-ジメチルトリプタミンを含むことができ、好ましくは5重量%~95重量%のN,N-ジメチルトリプタミンを含む。本発明の好ましい組成物は、10重量%~90重量%のN,N-ジメチルトリプタミン、又は15重量%~85重量%のN,N-ジメチルトリプタミン、又は20重量%~80重量%のN,N-ジメチルトリプタミン、又は25重量%~75重量%のN,N-ジメチルトリプタミン、又は30重量%~70重量%のN,N-ジメチルトリプタミン、又は40重量%~60重量%のN,N-ジメチルトリプタミンを含む。
【0045】
本発明の組成物は、好ましくは5重量%~99.9重量%の、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及び、α,α,β,β-テトラデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンから選択される重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を含む。
【0046】
本発明のある局面は、2-(3-インドリル)-N,N-ジメチルアセトアミドを、水素化アルミニウムリチウム及び/又は重水素化アルミニウムリチウムから本質的になる還元剤で還元することによって得られる組成物の還元によって得られる組成物を提供する。両方の局面において、還元剤は、液体媒体中に溶解又は懸濁されてもよい。固体(粉末)形態で入手可能であるが、典型的には、水及び保護溶媒(アルコールなど)との強い反応性のために、水素化アルミニウムリチウム(又は重水素化アルミニウムリチウム)は多くの場合、ドライな非プロトン性溶媒(エーテルなど)中で、多くの場合、不活性雰囲気下で扱われる。このような事前注意事項及び適切なプロトコルは、当業者によく知られている。
【0047】
したがって、本発明が、2-(3-インドリル)-N,N-ジメチルアセトアミドを含む組成物を、水素化アルミニウムリチウム及び/又は重水素化アルミニウムリチウムから本質的になる還元剤(任意で液体媒体中に溶解又は懸濁される)で還元することによって得られる組成物を提供することが理解される。本発明はまた、そのような還元によって得られる、又はより一般的には本発明の第二又は第三の局面に従った還元によって得られる組成物を提供する。
【0048】
本発明の第一の局面の組成物を特に参照して、本明細書に記載されたN,N-ジメチルトリプタミン化合物の量は、変更すべきところは変更した上で、本発明の第二及び第三の局面の組成物に適用され得ることも理解されるべきである。
【0049】
特定の実施形態によれば、還元剤が、水素化アルミニウムリチウム及び/又は重水素化アルミニウムリチウムから本質的になると記載することによって、還元剤が追加成分を含んでもよいが、これらの成分の存在が還元剤の本質的な特性(特に安定性及び還元性)に実質的に影響を及ぼさないことが意味される。
【0050】
本発明の第四の局面によれば、本発明の第一~第三の局面に従って定義される組成物を、薬学的に許容される賦形剤と組み合わせて含む医薬組成物が提供される。
【0051】
本発明の医薬組成物は、本発明の組成物(第一~第三の局面のいずれか1つによる組成物)を、1種以上の薬学的に許容される賦形剤と組み合わせて含む。当業者は、薬学的に許容される賦形剤を用いて、適切な医薬組成物を調製することができ、薬学的に許容される賦形剤の例は、「Gennaro et. al., Remmington: The Science and Practice of Pharmacy, 20th Edition, Lippincott, Williams and Wilkins, 2000 (specifically part 5: pharmaceutical manufacturing)」に記載されているものを含むが、これらに限定されない。適切な賦形剤はまた、「Handbook of Pharmaceutical Excipients, 2nd Edition; Editors A. Wade and P. J.Weller, American Pharmaceutical Association, Washington, The Pharmaceutical Press, London, 1994」に記載されている。
【0052】
本発明の医薬組成物は、非重水素化N,N-ジメチルトリプタミンと比較して優れた経口バイオアベイラビリティを示すことが期待される。したがって、本発明の化合物又は組成物は、錠剤、カプセル、口腔内崩壊錠、薄いフィルム、バッカルパッチ及びバッカル錠などの固体の投薬単位に圧縮又は他の方法で製剤化することができ、又はカプセル又は坐剤に加工することができる。口腔内崩壊錠として製剤化される場合、本発明の化合物又は組成物は、Zydis(登録商標)プラットフォームに適合する。Zydis(登録商標)錠は、マトリックス中で本発明の遊離塩基化合物又は組成物を、凍結乾燥又はフリーズドライすることによって製造される。得られる生成物は非常に軽量である。製剤のこのような実施形態は、本発明の化合物又は組成物の粒子(好ましくは50μm未満の粒径を有する)を、水溶性マトリックス中に物理的に懸濁させ、次いで凍結乾燥させることを含む。このように製剤化された口腔内崩壊錠は、口腔内に置かれると急速に溶解する。
【0053】
薬学的に適切な溶液によって、化合物は、溶液、懸濁液、エマルションの形態で、又はスプレーとして調製することもできる。錠剤を含む投薬単位を作製するために、充填剤、着色剤、ポリマーバインダーなどの従来の添加剤の使用が考えられる。一般に、任意の薬学的に許容される添加剤を使用することができる。
【0054】
医薬組成物の調製及び投与に適した充填剤としては、適切な量で使用される、ラクトース、スターチ、セルロース及びその誘導体など、又はそれらの混合物が挙げられる。非経口投与のために、水性懸濁液、等張生理食塩水溶液及び滅菌注射用溶液を使用することができ、これらは、薬学的に許容される分散剤及び/又は湿潤剤(プロピレングリコール又はブチレングリコールなど)を含有する。
【0055】
非経口投与のために、薬学的に許容される分散剤及び/又は湿潤剤、例えばプロピレングリコール又はブチレングリコールを含有する、水溶液、等張生理食塩水溶液及び滅菌注射用溶液を使用することができる。吸入投与、経皮投与、粘膜投与又は経膜投与に適した製剤は、重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物の遊離塩基を含み、典型的には1種以上の生体適合性賦形剤を含む。そのような製剤は、非重水素化N,N-ジメチルトリプタミンの同等製剤よりも長く持続する治療効果を達成する。
【0056】
したがって、本発明のある局面は、N,N-ジメチルトリプタミン化合物、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物、α-プロチオ,α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物から選択される1種以上の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物の遊離塩基を、生体適合性賦形剤と共に含む非経口製剤を提供する。好ましい実施形態において、重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物は、式Iの化合物であり、ここで、化合物中の重水素:プロチウムの比率は、水素において天然に見られるものよりも大きく;各R1は、H及びDから独立して選択され;R2は、CH3及びCD3から選択され; R3は、CH3及びCD3から選択され;各yHは、H及びDから独立して選択される。
【0057】
典型的には、生体適合性賦形剤は溶媒を含む。好ましくは、溶媒は、プロピレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、水、エタノール及びトリアセチンのうちの任意の1つ又は2つ以上の組合せから選択される。好ましい吸入可能な製剤の場合、溶媒は、プロピレングリコール、グリセリン及びポリエチレングリコール、又はそれらの任意の混合物から選択される。好ましくは、溶媒は、重量比で約50:50~約30:70のプロピレングリコールとグリセリンとの混合物である。遊離塩基の濃度は、約1mg/mL~約1000mg/mLである。好ましくは、生体適合性賦形剤は、テイスト-マスキング剤を含む。
【0058】
好ましい実施形態では、製剤は、2ppm未満の酸素含有量を有する。複数の実施形態において、製剤は、紫外線の透過を防止するように構成された容器内に保存される。
【0059】
本発明はまた、本発明の医薬組成物を、該組成物に適した包装材料と組み合わせて提供し、この包装材料は、医薬組成物の使用のための説明を含む。
【0060】
本発明の組成物は治療に有用であり、それを必要とする患者に投与することができる。本明細書で使用される場合、「患者」という用語は好ましくはヒト患者を指すが、家畜哺乳動物を指すこともある。この用語は、実験室で用いられる哺乳動物を包含しない。
【0061】
本発明の第六の局面によれば、患者の精神障害又は神経障害を治療する方法において使用するための、第一~第四の局面のいずれか1つに記載の組成物が提供される。本発明の第七の局面は、精神障害又は神経障害を治療する方法であって、それを必要とする患者に、第一~第四の局面のいずれか1つに従って定義される組成物を投与することを含む方法を提供し、第八の局面は、患者の精神障害又は神経障害を治療する方法において使用するための薬剤の製造における、第一~第四の局面のいずれか1つに従って定義される組成物の使用を提供する。本発明の第六から第八の局面の実施形態では、精神障害又は神経障害は、(i)強迫性障害、(ii)抑うつ障害、(iii)統合失調症障害(schizophrenia disorder)、(iv)統合失調型障害(schizotypal disorder)、(v)不安障害、(vi)物質乱用、(vii)意欲消失障害、及び(viii)脳損傷障害から選択される。
【0062】
本明細書で使用される場合、「精神障害(psychiatric disorder)」という用語は、個体において発生し、且つ、現在の苦悩(例えば、苦痛な症状)もしくは能力障害(すなわち、機能の1つ又は複数の重要な領域における障害)に関連する、又は死亡、痛み、能力障害、もしくは自由度の重大な損失に苦しむリスクの大幅な増大に関連する、臨床的に重要な行動又は心理学的症候群もしくはパターンである。
【0063】
本明細書で使用される「神経障害(neurological disorder)」という用語は、中枢神経系及び末梢神経系の病気を意味する。
【0064】
本明細書で言及される精神障害及び神経障害の診断基準は、例えば「Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition,(DSM-5)」に提供されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0065】
本明細書中で使用される場合、「強迫性障害(obsessive-compulsive disorder)」という用語は、強迫観念又は強迫行為のいずれかの(一般的に、両方の)存在によって定義される。この症状は、重大な機能障害及び/又は苦悩を引き起こす可能性がある。強迫観念は、反復的に人の頭に浮かぶ、不必要な侵入思考、イメージ、又は衝動として定義される。強迫行為は、人間が行うべきと駆られるように感じる反復的な行動又は精神的な行為である。典型的には、強迫性障害(OCD)は、強迫行為をすることに駆られる1つ以上の強迫観念として現れる。例えば、細菌に対する強迫観念により、清潔にしたいという強迫行為(衝動)に駆られる。強迫行為は、ドアがロックされていることをチェックするなどの、明らかで他人から見て観察可能なものか、又は、あるフレーズを頭の中で繰り返すなど、観察することができない潜在的な精神的行為のいずれかであり得る。
【0066】
本明細書中で使用される場合、「うつ病性障害」という用語は、大うつ病性障害、持続性うつ病性障害、双極性障害、双極性うつ病、及び末期患者におけるうつ病を含む。
【0067】
本明細書中で使用される場合、「大うつ病性障害(MDD:major depressive disorder);大うつ病又は臨床的うつ病とも呼ばれる」という用語は、二週間以上の期間にわたる、ほとんど一日中、ほとんど毎日の、5個以上の次の症状の存在として定義される(本明細書では、「大うつ病エピソード」とも呼ばれる):
・抑うつ気分、例えば、悲しい、空虚又は泣きそうに感じる(子供及びティーンエイジャーでは、抑うつ気分は、持続的な易怒性として現れることがある);
・すべてあるいはほとんどの活動において、興味が著しく減少するか、又は喜びを感じない;
・食事療法をしていないのに体重が有意に減少する、体重が増加する、又は食欲が減少あるいは増加する(子供では、期待される体重増加が見られない);
・不眠又は睡眠願望の増加;
・他者に観察可能な不穏状態又は動作遅延;
・疲労又は活力の減退;
・無価値観、又は過剰なあるいは不適切な罪悪感;
・決断が困難、又は思考あるいは集中が困難;
・死あるいは自死に関する反復思考、又は自殺企図
症状の少なくとも1つは、抑うつ気分又は興味あるいは喜びの喪失のいずれかでなければならない。
【0068】
気分変調症としても知られている持続性うつ病性障害は、次の2つの特徴を示す患者として定義される。
A.少なくとも2年間、ほとんどの時間、ほとんど毎日、抑うつ気分を有する。
子供及び青年期の若者は、怒りっぽい気分になることがあり、期間は少なくとも1年である。
B.抑うつの間、人は次の症状の少なくとも2つを経験する:
・過食又は食欲不振のいずれか
・過眠又は睡眠障害を有する
・疲労又は活力の減退
・低い自尊心
・集中又は決断が困難
【0069】
本明細書で使用される場合、「治療抵抗性うつ病」という用語は、標準的ケア療法による適切な治療に対して適切な応答を達成することができないMDDを説明する。
【0070】
本明細書で使用される場合、躁うつ病としても知られる「双極性障害」は、気分、活力、活動レベル、及び日々の業務を実行する能力に異常なシフトを引き起こす障害である。
【0071】
双極性障害の2つの定義されたサブカテゴリがあり、それらの全ては、気分、活力、及び活動レベルの明確な変化を含む。これらの気分は、極度の「アップ」、高揚感、及びエネルギッシュな挙動(躁病エピソードとして知られており、さらに以下に定義されている)の期間から、非常に悲しい「ダウン」又は無希望な期間(うつ病エピソードとして知られる)にわたる。それほどひどくない躁期は、軽躁エピソードとして知られている。
【0072】
双極I型障害は、少なくとも7日間続く躁病エピソードによって、又は人が即時の病院でのケアを必要とするような深刻な躁症状によって定義される。通常は、うつ病エピソードも発生し、典型的には少なくとも2週間持続する。混合された特徴を有するうつ病のエピソード(うつ症状及び躁症状を同時に有する)も起こり得る。
【0073】
双極II型障害は、うつ病エピソード及び軽躁エピソードのパターンによって定義されるが、上述した末期の躁病エピソードではない。
【0074】
本明細書で使用される場合、「双極性うつ病」は、うつ症状を、以前の又は共存する躁症状のエピソードとともに経験しているが、双極性障害のための臨床的基準には適合しない個人として定義される。
【0075】
本明細書で使用される場合、「不安障害(不安症)」という用語は、全般性不安障害、恐怖症、パニック障害、社交不安障害、及び外傷後ストレス障害を含む。
【0076】
本明細書中で使用される「全般性不安障害(GAD:generalized anxiety disorder)」は、1つの対象又は状況に特化しない長期間の不安を特徴とする慢性障害を意味する。GADに罹患している者は、非特定の持続的な恐怖及び不安を経験し、日常のありきたりな事を過度に気にするようになる。GADは、次の症状の3つ以上を伴う慢性的な過度の不安によって特徴付けられる:不穏状態、疲労、集中力の不足、易怒性、筋肉の緊張、及び睡眠障害。
【0077】
「恐怖症」は、対象又は状況に対する絶え間ない恐れとして定義され、罹患した人は、それを避けるために(典型的には、生じている実際の危険と不釣り合いに)どんな苦労も惜しまない。恐れている対象や状況が完全に回避できない場合には、罹患した人は、社会的又は職業的活動において著しい苦痛及び重大な支障とともに、それに耐えることになる。
【0078】
「パニック障害」に罹患している患者は、激しい恐怖及び不安による一度以上の短い発作(パニック発作とも呼ばれる)を経験する人として定義されており、しばしば、振戦、身震い、混乱、めまい、悪心、及び/又は呼吸困難を特徴とする。パニック発作は、急激に発生して、10分未満にピークに至るおそれや不快と定義される。
【0079】
「社交不安障害」は、激しい恐怖、及び、ネガティブな世間の詮索、人前での困惑、恥をかく状況、又は社会的交流の回避と定義される。社交不安は、しばしば、発赤、発汗、及び発話困難を含む特定の身体症状を示す。
【0080】
「外傷後ストレス障害(PTSD:post-traumatic stress disorder)」は、トラウマ的経験に起因する不安障害である。外傷後ストレスは、戦闘、自然災害、レイプ、人質事件、児童虐待、いじめ、又は重大事故のような極限状況から生じる可能性がある。一般的な症状には、過覚醒、フラッシュバック、回避行動、不安、怒り、及びうつ状態が含まれる。
【0081】
本明細書で使用される場合、「物質乱用」という用語は、使用者がその物質を、彼ら自身又は他人に有害な量で又は方法で消費する薬物のパターン化された使用を意味する。
【0082】
本明細書で使用される場合、「意欲消失障害(avolition disorder)」という用語は、自主的で意図的な活動を開始し実行するモチベーションの低下を症状として含む障害を指す。
【0083】
本明細書で使用される場合、「脳損傷障害」という用語は、出生後に生じ、先天性、変性又は遺伝性ではない、脳に対する損傷を指す。この用語は、例えば自動車事故又はスポーツ傷害からの外傷性脳傷害、及び後天性脳傷害、例えば虚血性脳卒中、一過性虚血性脳卒中、出血性脳卒中、脳腫瘍、髄膜炎又は脳炎を包含する。
【0084】
本発明の第六から第八の局面の好ましい実施形態では、精神障害又は神経障害は、(i)強迫性障害、(ii)うつ病性障害、(iii)不安障害、(iv)物質乱用、(v)意欲消失障害、及び(vi)脳損傷障害から選択される。
【0085】
本発明の第六~第八の局面の特定の実施形態によれば、うつ病性障害は、大うつ病性障害である。さらにより特定の実施形態によれば、大うつ病性障害は、治療抵抗性大うつ病性障害である。
【0086】
本発明の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を含む組成物は、スキーム1に示される反応スキーム(合成スキーム)に従って、グラムスケールから数キログラムスケールで、合成することができる。
【0087】
重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物及び部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物に対するN,N-ジメチルトリプタミン化合物の相対的な割合は、還元剤中の水素化アルミニウムリチウムと重水素化アルミニウムリチウムとの比を変化させることによって制御されてもよい。N,N-ジメチルトリプタミン、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン及びα,α,β,β-テトラデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンのうちの1つ又は複数を上記の組成物に添加することによって、相対的な割合をさらに変えてもよい。
【0088】
本発明、特に、その第三の局面に従って得られる組成物及びその第九の局面の方法(ただしこれに限定されない)の特定の利点は、本発明のこれらの局面について記載された還元が、続くクロマトグラフィー精製(例えば、カラムクロマトグラフィー)を必要とせずに、特に高い純度を得ることを可能にし、それによって、本発明の組成物を調製する効率を増加させることである。さらに、高純度を達成するためにクロマトグラフィーを使用しないことは、スケールアップをより効率的にし、したがってコスト効率を良くする。
【0089】
本発明の方法によって得られる組成物の同定は、必要に応じて、分光分析及び/又は質量分析と組み合わせて、当業者が使える従来の手段により、混合物の成分のクロマトグラフィー分離によって達成することができる。
【0090】
別の組成物は、還元剤が専ら水素化アルミニウムリチウムである場合にスキーム1によって得られる非水素化N,N-ジメチルトリプタミンと、還元剤が専ら重水素化アルミニウムリチウムである場合にスキーム1から得られる重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物とを混合することによって得られる。
【0091】
上述の組成物は、1種以上の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を添加することによってさらに改変されてもよい。このような重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物のストックは、例えば、上記のクロマトグラフィー分離から得ることができる。このようにして、例えば、本発明の第十の局面の化合物を得ることができる。
【0092】
本明細書に記載した還元から得られる組成物の同定は、混合物の成分のクロマトグラフィー分離によって、分光及び/又は質量分析と組み合わせて達成することができるが、本発明の特定の利点は、特定の実施形態によれば、そうする必要が必ずしもないことである。これは、すでに示唆したように、我々は、本発明に従って達成可能な純度に加えて、重水素化の程度(言い換えると、本発明の組成物中のN,N-ジメチルトリプタミン化合物中の重水素の量又は割合)と、得られた組成物の代謝半減期との間に定量化可能な関係が存在することを認識したからである。重水素化の程度は、本発明の方法で使用される重水素-含有還元剤の量を介して制御することができ、それを通じて(特定の実施形態によれば)、本発明の組成物は、親化合物(重水素化されていないN,N-ジメチルトリプタミン)の代謝半減期の増強を通じて、予測可能な方法で得ることができ、それゆえ制御可能である。
【0093】
特に、実施例1並びに関連する
図2及び3に詳述されるように、本発明者らは、N,N-ジメチルトリプタミンのα炭素において重水素富化を増加させることが、代謝安定性を増大させ、クリアランスの低下及びより長い半減期をもたらし、この際、分子量(188.3~190.3グラム/モル)と半減期との間に直線的な関係が存在し、相乗的な一次及び二次速度論的同位体効果が、分子量と、式Iの化合物及び組成物の半減期との間に予測可能な関係を提供することを実証した(ここで、R
1はHであり、188.3~196.3グラム/モル)。
【0094】
そのようなタイプの組成物は、本発明の第一の局面の特定の実施形態を構成する。これらの特定の実施形態によれば、組成物は、N,N-ジメチルトリプタミン、α-プロチオ,α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及び、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンから選択される2つ又は3つの化合物から本質的になり、前記組成物は薬学的に許容される塩の形態であってもよく、ここで、組成物中に存在するN,N-ジメチルトリプタミン、α-プロチオ,α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及び、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンの平均分子量は、188.28~190.28である。
【0095】
さらなる特定の局面によれば、組成物は、N,N-ビス(トリデューテロ)ジメチルトリプタミン(化合物5)、α-プロチオ,α-デューテロ-N,N-ビス(トリデューテロ)ジメチルトリプタミン(化合物2)、及び、α,α-ジデューテロ-N,N-ビス(トリデューテロ)ジメチルトリプタミン(化合物1)から選択される1つ、2つ又は3つの化合物から本質的になり、前記化合物は、薬学的に許容される塩の形態であってもよく、ここで、組成物中に存在するN,N-ビス(トリデューテロ)ジメチルトリプタミン、α-プロチオ,α-デューテロ-N,N-ビス(トリデューテロ)ジメチルトリプタミン、及び、α,α-ジデューテロ-N,N-ビス(トリデューテロ)ジメチルトリプタミンの分子量又は平均分子量は、188.9~196.3である。この局面の好ましい実施形態において、組成物は、N,N-ビス(トリデューテロ)ジメチルトリプタミン(化合物5)、好ましくは、α-プロチオ,α-デューテロ-N,N-ビス(トリデューテロ)ジメチルトリプタミン(化合物2)、及びより好ましくはα,α-ジデューテロ-N,N-ビス(トリデューテロ)ジメチルトリプタミン(化合物1)から選択される1つの化合物から本質的になる(代謝安定性が高い順)。
【0096】
本明細書で使用される場合、平均分子量は、N,N-ジメチルトリプタミン化合物、α-プロチオ,α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物、及び、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物の分子量の重量平均を意味し、適切な質量分析技術、例えばLC-MS SIM(選択イオンモニタリング)によって測定され、薬学的に許容される塩の形成によるいかなる重量寄与も無視する(該当する場合)。
【0097】
このような特定の平均分子量を有する組成物の提供は、本明細書の教示を通じて当業者によって達成され得ることが理解される(特に、α位置での重水素化のレベルを変化させる際は、ステージ2で使用される水素化アルミニウムリチウム:重水素化アルミニウムリチウムの相対割合を調整することによって、及びN,N-ジメチル位での重水素化のレベルを変化させる際は、ステージ1で使用されるジメチルアミン:重水素化ジメチルアミンの相対割合を調整することによって)。
【0098】
これに関連して、組成物が、N,N-ジメチルトリプタミンと、α-プロチオ,α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン/α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンの一方又は両方との混合物から本質的になるとの記載は、組成物がこれらに加えて追加成分を含んでもよいが、そのような追加成分の存在が、組成物の本質的な特徴に実質的に影響を及ぼさないことを意味する。特に、組成物は、実質量の他の薬学的に活性な化合物(他のN,N-ジメチルトリプタミン化合物を含む)を含まない。したがって、実質量の他の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物、特に、β-プロチオ,β-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物、及びβ,β-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物、例えば、β-プロチオ,β-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及びβ,β-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及び、α位に水素原子の代わりに1個又は2個の重水素原子を有するβ-プロチオ,β-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物、及びα位に水素原子の代わりに1個又は2個の重水素原子を有するβ,β-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物は、そのような実施形態の組成物中に存在しない。
【0099】
言い換えれば、そして別の言い方をすれば、1つの特定の実施形態による組成物は、N,N-ジメチルトリプタミン、α-プロチオ,α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及び、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンのうちの1つ又は複数から本質的になる生物学的に活性な成分を含む製剤原料を構成し、ここで、生物学的に活性な成分は188.3~190.3の平均分子量を有し、製剤原料に含まれる化合物は任意で、薬学的に許容される塩の形態である。第二の特定の実施形態による組成物は、N,N-ビス(トリデューテロ)ジメチルトリプタミン(化合物5)、α-プロチオ,α-デューテロ- N,N-ビス(トリデューテロ)ジメチルトリプタミン(化合物2)、及びα,α-ジデューテロ-N,N-ビス(トリデューテロ)ジメチルトリプタミン(化合物1)のうちの1つ又は複数から本質的になる生物学的に活性な成分を構成し、ここで、生物学的に活性な成分は188.9~196.3の平均分子量を有し、前記製剤原料は、薬学的に許容される塩の形態であってもよい。
【0100】
これらの特定の実施形態による組成物は、同位体的に富化されていないN,N-ジメチルトリプタミン中に見られる量よりも多い量で、α-プロチオ,α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物、及び、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物のうちの1種以上を含むことが理解されるであろう。また、これらの特定の実施形態におけるα-プロチオ,α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物、及び、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物の割合が高いほど、組成物の平均分子量が高いことが理解されるであろう。
【0101】
さらに特定の実施形態によれば、組成物中に存在するN,N-ジメチルトリプタミン、α-プロチオ,α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及び、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンの平均分子量は、188.9~189.7、例えば188.90~189.70である。
【0102】
本明細書に記載される具体的な実施形態のさらにより具体的な実施形態には、組成物中に存在するN,N-ジメチルトリプタミン、α-プロチオ,α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及び、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンの平均分子量が188.9~189.7である組成物が含まれ、組成物中に含まれる化合物は、任意で薬学的に許容される塩の形態であり、このことによって、組成物中に存在するN,N-ジメチルトリプタミン、α-プロチオ,α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及び、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンが、薬学的に許容される塩の形態で存在することが理解される。このような塩は、本明細書の他の箇所に記載されているような塩であってもよく、さらにより特定の実施形態によれば、組成物はフマル酸塩の形態である。
【0103】
式Iの化合物が生成され得る方法は以下に記載されており、前記方法は式Iの高純度化合物の生成に適している。いくつかの実施形態において、式Iの化合物又はその薬学的に許容される塩は、HPLCで99%~100%の純度、例えばHPLCで99.5%~100%の純度のものである。いくつかの実施形態において、式Iの化合物又はその薬学的に許容される塩は、HPLCで99.9%~100%の純度、例えばHPLCで99.95%~100%の純度のものである。
【0104】
いくつかの実施形態において、式Iの化合物又はその薬学的に許容される塩は、HPLCによって2つ以下の不純物ピークを生じる。いくつかの実施形態では、式Iの化合物又はその薬学的に許容される塩が、HPLCによって不純物ピークを生じる場合、0.2%を超える不純物ピークは存在しない。いくつかの実施形態では、0.1%を超えるHPLCによる不純物ピークは存在しない。
【0105】
いくつかの実施形態において、式Iの化合物は、薬学的に許容される塩の形態である。薬学的に許容される塩は、多くの場合、式Iの化合物及び適切な酸を含む。式Iの化合物は、典型的には-N(R2R3)2でプロトン化され、-[NHR2R3]+を形成し、生じた正電荷は、陰イオンで相殺される。
【0106】
P.H.Stahl及びC.G.Wermuthは、「Handbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection and Use, Weinheim/Zurich:Wiley-VCH/VHCA, 2002」において、薬学的塩及びそこに含まれる酸の概要を提供する。このレビューに記載された酸は、式Iの薬学的に許容される塩の適切な成分である。
【0107】
いくつかの実施形態において、酸は、フマル酸、酒石酸、クエン酸、塩酸、酢酸、乳酸、グルコン酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、2,2-ジクロロ酢酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、2-オキソグルタル酸、4-アセトアミド安息香酸、4-アミノサリチル酸、アジピン酸、アスコルビン酸、アスパラギン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファー酸(しょうのう酸)、カンファー-10-スルホン酸、デカン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、炭酸、桂皮酸、シクラミン酸、ドデシル硫酸、エタン-1,2-ジスルホン酸、エタンスルホン酸、ギ酸、ガラクタル酸、ゲンチジン酸、グルコヘプトン酸、グルクロン酸、グルタミン酸、グルタル酸、グリセロリン酸、グリコール酸、馬尿酸、臭化水素酸、イソ酪酸、ラクトビオン酸、ラウリン酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、ニコチン酸、硝酸、オレイン酸、シュウ酸、パルミチン酸、パモ酸、リン酸、プロピオン酸、ピログルタミン酸(-L)、サリチル酸、セバシン酸、ステアリン酸、コハク酸、硫酸、チオシアン酸、トルエンスルホン酸及びウンデシレン酸からなる群より選択されるいずれか1つである。
【0108】
多くの場合、酸は、フマル酸、酒石酸、クエン酸及び塩酸から選択されるいずれか1つである。いくつかの実施形態において、酸はフマル酸であり、すなわち、薬学的に許容される塩はフマル酸塩である。
【0109】
また、本明細書には、式Iの化合物又はその薬学的に許容される塩を製造するための合成方法が開示される。本方法は、ステージ2と、任意でステージ1とを含み、ステージ1は:
(i)式IIIの化合物を、2種以上のカップリング剤と反応させて、活性化合物を生成する工程;
(ii)活性化合物を、式(R
2)
2NHを有するアミンと反応させて、式IIの化合物を生成する工程;
を含み、ステージ2は、式IIの化合物を、LiAlD
4と又はLiAlH
4及びLiAlD
4と反応させることを含み、
【化6】
式中、
各R
1は、H及びDから独立して選択され;
R
2は、CH
3及びCD
3から選択され;
R
3は、CH
3及びCD
3から選択され;
各
yHは、H及びDから独立して選択される。
【0110】
疑義を避けるために、本発明の第一の局面の式Iの化合物又はその薬学的に許容される塩に関する実施形態は、変更すべきところは変更した上で 、前記合成方法の式Iの化合物(及び式III及びIIの化合物)にも適用される。
【0111】
前記合成方法は、問題のある塩化オキサリルの使用を回避し、式IIIの化合物(これは、オーキシン誘導体に由来してもよい)を使用する。高品質及び高純度の式IIIのオーキシンは、大規模で市販されており、及び/又は、Fischer合成、Bartoli合成、Japp-Klingemann合成又はLarock合成を介して容易に合成することができる(例えば、M. B. Smith and J. March, 2020, March’s Advanced Organic Chemistry, 8th edition, Wiley, New Jerseyを参照)。本方法は効率的であり、スケーラブルであり、医薬品適正製造基準(cGMP:Current Good Manufacturing Practices)と適合性があり、式Iの高純度化合物の製造に適している。例えば、本方法は、1g~100kgの範囲のバッチスケールにて式Iの化合物を製造するのに適しており、純度>99.9%及び全収率65%以上で式Iの化合物を製造するのに適している。
【0112】
式IIの化合物は、式IIIの化合物を2種以上のカップリング剤と反応させて活性化合物を生成し、そしてこの活性化合物を、式R2R3NHを有するアミンと反応させることにより生成される。理論に拘束されることを意図しないが、アミンの窒素原子が、式IIIのカルボニルの炭素原子に結合し、式IIの化合物の形成をもたらすと理解される。誤解を避けるために、式II及び式IのR2基及びR3基は、アミンのR2基及びR3基に由来する。したがって、上述のように、式II及び式IのR2及びR3は、CH3及びCD3から独立して選択される。
【0113】
式Iの化合物は、式IIの化合物を、LiAlD4と、又はLiAlH4及びLiAlD4と反応させることにより製造される。理論に束縛されることを意図しないが、LiAlD4によって、又はLiAlH4及びLiAlD4によって提供される水素化物又は重水素化物イオンは、式IIのカルボニルの炭素原子に結合して式Iの化合物の形成をもたらすと理解される。誤解を避けるために、式IのxH基は、LiAlD4によって、又はLiAlH4及びLiAlD4によって提供される水素化物又は重水素化物イオンに由来する。
【0114】
上述のように、本方法は、ステージ1及びステージ2を含む。ステージ1は:
(i)式IIIの化合物を、2種以上のカップリング剤と反応させて、活性化合物を生成すること;及び
(ii)前記活性化合物を、式R2R3NHを有するアミンと反応させて、式IIの化合物を生成すること
を含む。
【0115】
「カップリング剤」という用語は、アミンとカルボン酸との間の化学反応を促進する剤を指す。2種以上のカップリング剤は、カルボン酸活性化剤、すなわち、式IIIのカルボン酸部分と反応して、元のカルボン酸部分に由来する活性化部分(これは、元のカルボン酸部分よりもアミンと反応しやすい)を含む化合物を生成する剤を含んでもよい。
【0116】
活性化合物は、式IIIの化合物と2種以上のカップリング剤との間の反応の生成物である。2種以上のカップリング剤にカルボン酸活性化剤が含まれる場合、活性化合物は、式IIIの元のカルボン酸部分に由来する活性化部分(これは、元のカルボン酸部分よりもアミンと反応しやすい)を含む。
【0117】
2種以上のカップリング剤は、カルボン酸活性化剤を含んでもよい。2種以上のカップリング剤は、追加のカップリング剤を含んでもよい。
【0118】
追加のカップリング剤(本明細書では「添加剤」とも呼ばれる)は、カップリング剤の反応性を高める剤である。添加剤は、式IIIの反応生成物及びカップリング剤(前記生成物は活性化部分を含む化合物である)と反応して、元の活性化部分よりもアミンと反応しやすい、さらに活性化された部分を含む化合物を生成することができる化合物であってもよい。
【0119】
添加剤は、式IIIの反応生成物及びカップリング剤(前記生成物は活性化部分を含む化合物である)と反応して、元の活性化部分よりもアミンと反応しやすい、さらに活性化された部分を含む活性化合物を生成する能力を有してもよい。
【0120】
多くの場合、2種以上のカップリング剤は、カルボン酸活性化剤及び追加のカップリング剤を含む。
【0121】
2種以上のカップリング剤のうちの少なくとも1種は、カルボジイミドカップリング剤、ホスホニウムカップリング剤、及び3-(ジエトキシ-ホスホリルオキシ)-1,2,3-ベンゾ[d]トリアジン-4(3H)-オン(DEPBT)からなる群より選択されてもよく、例えばカルボジイミドカップリング剤又はホスホニウムカップリング剤から選択されてもよい。2種以上のカップリング剤のうちの少なくとも1種は、カルボジイミドカップリング剤であってもよい。
【0122】
カルボジイミドカップリング剤は、カルボジイミド基(R'-N=C=N-R")を含むカップリング剤であり、ここで、R'及びR"は、窒素、硫黄及び酸素から選択されるヘテロ原子(典型的には窒素)で置換されていてもよいヒドロカルビル基である。多くの場合、R'及びR"は、C1-C6アルキル、C5-C6シクロアルキル、C1-C6アルキルアミノ及びモルホリノC1-C6アルキルから独立して選択される。多くの場合、C1-C6アルキルはC3アルキルであり、C5-C6シクロアルキルはシクロヘキシルであり、C1-C6アルキルアミノはジメチルアミノプロピルであり、及び/又はモルホリノC1-C6アルキルはモルホリノエチルである。
【0123】
カルボジイミドカップリング剤は、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、(N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N'-エチルカルボジイミド(EDC)、及び1-シクロヘキシル-(2-モルホリノエチル)カルボジイミドメト-p-トルエンスルホネート(CMCT)からなる群より選択されるいずれか1つであってもよい。前記カルボジイミドカップリング剤は、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、及び(N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N'-エチルカルボジイミド(EDC)からなる群より選択されるいずれか1つであってもよい。多くの場合、カルボジイミドカップリング剤は、N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N'-エチルカルボジイミド(EDC)であり、典型的には塩酸塩(EDC.HCl)である。EDC又はEDC.HClは、非毒性であり、高度に水溶性であり、ステージ1のワークアップ及び洗浄ステップにおいて、それらの実質的に完全な除去を容易にするため、特に好ましい。
【0124】
ホスホニウムカップリング剤は、ホスホニウムカチオン及び対イオン、典型的にはヘキサフルオロホスフェートアニオンを含む。ホスホニウムカチオンは、式[PRa
3Rb]+のものであってもよく、ここで、Raは、ジ(C1-C6)アルキルアミノ又はピロリジニルであり、Rbは、ハロ又はヒドロカルビル基(窒素及び/又は酸素原子で置換されていてもよい)である。しばしば、Rbは、ブロモ、ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ、又は7-アザ-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシである。
【0125】
ホスホニウムカップリング剤は、ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ-トリス(ジメチルアミノ)-ホスホニウム ヘキサフルオロホスフェート(BOP)、ブロモ-トリピロリジノ-ホスホニウム ヘキサフルオロホスフェート(PyBrOP)、ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ-トリピロリジノ-ホスホニウム ヘキサフルオロホスフェート(PyBOP)、7-アザ-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ-トリピロリジノホスホニウム ヘキサフルオロホスフェート(PyAOP)、及びエチルシアノ(ヒドロキシイミノ)アセタト-O2)トリ-(1-ピロリジニル)-ホスホニウム ヘキサフルオロホスフェート(PyOxim)からなる群より選択される任意のものであってもよい。
【0126】
2種以上のカップリング剤のうちの少なくとも1種は、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、ヒドロキシ-3,4-ジヒドロ-4-オキソ-1,2,3-ベンゾトリアジン(HOOBt)、N-ヒドロキシスクシンイミド(HOSu)、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)、エチル2-シアノ-2-(ヒドロキシイミノ)アセテート(Oxyma Pure)、4-(N,N-ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)、N-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミド(HONB)、6-クロロ-1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(6-Cl-HOBt)、3-ヒドロキシ-4-オキソ-3,4-ジヒドロ-1,2,3-ベンゾトリアジン(HODhbt)、3-ヒドロキシ-4-オキソ-3,4-ジヒドロ-5-アザベンゾ-1,2,3-トリアゼン(HODhat)、及び3-ヒドロキシ-4-オキソ-3,4-ジヒドロ-5-アゼピンベンゾ-1,3-ジアジン(HODhad)からなる群より選択される追加のカップリング剤であってもよい。
【0127】
2種以上のカップリング剤のうちの少なくとも1種は、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、ヒドロキシ-3,4-ジヒドロ-4-オキソ-1,2,3-ベンゾトリアジン(HOOBt)、N-ヒドロキシスクシンイミド(HOSu)、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)、エチル2-シアノ-2-(ヒドロキシイミノ)アセテート(Oxyma Pure)、及び4-(N,N-ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)からなる群より選択される追加のカップリング剤であってもよい。
【0128】
2種以上のカップリング剤の少なくとも1種は、1-ヒドロキシベンゾトリアゾールである追加のカップリング剤であってもよい。
【0129】
2種以上のカップリング剤は、カップリング剤及び追加のカップリング剤からなってもよく、ここで、前記カップリング剤及び追加のカップリング剤は、上述の実施形態に記載されている通りであってもよい。
【0130】
カップリング剤及び追加のカップリング剤の両方を使用する利点は、式IIIの化合物及び式(R2)2NHを有するアミンからの、式IIの化合物の生成速度の増加である。さらに、追加のカップリング剤をカルボジイミドカップリング剤と併用する場合、望ましくない副反応の可能性が低減され得る。例えば、式IIIの化合物とカルボジイミドカップリング試薬との反応は、O-アシルイソウレアを形成する可能性が高い。これは、再編成を受けて、N-アシルウレア(アミンと反応しにくい安定な化合物)を形成しうる。追加のカップリング試薬は、N-アシルウレアへの再編成の前にO-アシルウレアと反応し、不活性なN-アシルウレアではなく、アミンと反応する化合物を生成できる。
【0131】
したがって、2種以上のカップリング剤は、カルボジイミドカップリング剤及び追加のカップリング剤からなってもよい。
【0132】
2種以上のカップリング剤は、N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N'-エチルカルボジイミド(EDC)、典型的には塩酸塩(EDC.HCl)、及び1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)からなってもよい。
【0133】
多くの場合、式IIIの化合物に対して過剰のカップリング剤が使用される。カップリング剤:式IIIの化合物の比は、約1:1~約3:1、典型的には約1:1~約2:1、最も典型的には約1:1~約1.5:1であってもよい。
【0134】
多くの場合、式IIIの化合物に対して過剰の追加のカップリング剤が使用される。時には、追加のカップリング剤:式IIIの化合物の比は、約1:1~約3:1、典型的には約1:1~約2:1、最も典型的には約1:1~約1.5:1である。
【0135】
2種以上のカップリング剤が、カップリング剤及び追加のカップリング剤を含む場合、カップリング剤:式IIIの化合物の比、及び追加のカップリング剤:式IIIの化合物の比は、約1:1~約1.5:1であってもよい。
【0136】
上述のように、ステージ1は、活性化合物(式IIIの化合物と2種以上のカップリング剤との反応生成物)を、式R2R3NHを有するアミンと反応させて、式IIの化合物を生成することを含む。式II及び式IのR2及びR3は、独立して、CH3及びCD3から選択される。
【0137】
この方法で採用されるアミン:式IIIの化合物の比は、多くの場合、約≧1:1である。時には、アミン:式IIIの化合物の比は、約1:1~約3:1、典型的には約1:1~約2:1である。
【0138】
時には、ステージ1は、式IIの化合物を単離することをさらに含む。当業者は、式IIの化合物の単離に適した当分野の技術を知っている。例えば、式IIの化合物は、ジクロロメタン又は酢酸エチルなどの有機溶媒中に抽出され、塩基性水溶液などの水溶液で洗浄され、濃縮されてもよい。純度を高めるために、式IIの単離された化合物を再結晶してもよい。当業者は、式IIの化合物の再結晶に適した技術を知っている。例えば、式IIの化合物を、最小量の溶媒に、特定の温度(例えば、周囲温度(例えば、15~25℃)、又は加熱温度(溶液に熱を加えられる温度))にて溶解し、得られた溶液を冷却して沈殿を促進することができる。代わりに、又はそれに加えて、溶液の体積を減少させて、沈殿を促進してもよい(例えば、周囲温度及び圧力での単純な蒸発によって)。代わりに、又はそれに加えて、貧溶媒(anti-solvent:式IIの化合物は、既に存在する溶媒よりも、それに溶解しにくい)を使用してもよい。
【0139】
単離された式IIの化合物は安定であり、周囲温度(例えば、約20℃)にて、空気中で固体として保存することができる。それらは、不活性なコンディション、例えば、窒素もしくはアルゴン下、又は低温、例えば、冷蔵庫もしくは冷凍庫中で貯蔵されてもよいが、必ずしもその必要はない。
【0140】
典型的には、ステージ1のステップ(i)及び(ii)は、適切な溶媒中で実施される。当業者は、どの溶媒がこれらのステップに適しているかを評価することができる。適切な溶媒の例としては、ジクロロメタン(DCM)、アセトン、イソプロピルアルコール(IPA)、酢酸イソプロピル(iPrOAc)、tert-ブチルメチルエーテル(TBME)、2-メチルテトラヒドロフラン(2-MeTHF)及び酢酸エチル(EtOAc)が挙げられる。いくつかの実施形態において、ステージ1のステップ(i)及び(ii)は、ジクロロメタン中で実施される。
【0141】
ステージ1のステップ(i)及び(ii)は、適切な温度で実施され、当業者はどの温度がこれらのステップに適しているかを評価することができる。多くの場合、ステージ1のステップ(i)及び(ii)は、約10℃~約30℃の温度で実施される。いくつかの実施形態では、ステージ1のステップ(i)及び(ii)は、室温(約20℃)で実施される。
【0142】
時には、本方法のステージ1は、以下のステップを含む:
(1)式IIIの化合物と、1~1.5当量の追加のカップリング剤と、1~1.5当量のカルボジイミドカップリング剤とを接触させて、第一の組成物を製造する;及び
(2)第一の組成物を、1~2当量の式R2R3NHを有するアミンと接触させて、第二の組成物を生成する。
【0143】
多くの場合、1g以上、例えば、1g~100kg又は1g~1kgの式IIIの化合物が、本方法において使用される。
【0144】
ステップ(i)及び(ii)の接触は、多くの場合、第一の溶媒、例えば5~20容量の第一の溶媒の存在下で実施される。第一の溶媒は、ジクロロメタン(DCM)、アセトン、イソプロピルアルコール(IPA)、酢酸イソプロピル(iPrOAc)、tert-ブチルメチルエーテル(TBME)、2-メチルテトラヒドロフラン(2-MeTHF)及び酢酸エチル(EtOAc)のいずれか1つから選択されてもよい。典型的には、第一の溶媒はDCMである。
【0145】
多くの場合、ステップ(i)は、第一の組成物をかき混ぜる又は撹拌することをさらに含む。第一の組成物は、少なくとも30分間、例えば、30分間~3時間又は30分間~2時間、好ましくは少なくとも1時間、例えば、1~3時間又は1~2時間、かき混ぜ又は撹拌されてもよい。第一の組成物は、10℃~30℃の温度で維持されてもよい。
【0146】
ステップ(ii)のアミンは、多くの場合、接触前に、テトラヒドロフラン(THF)又はエーテルなどの溶媒に溶解される。アミンは、約2Mの濃度で溶媒中に存在してもよい。典型的には、ステップ(ii)のアミンは、THFに溶解される。
【0147】
場合によっては、ステップ(ii)は、第二の組成物をかき混ぜる又は撹拌することをさらに含む。第二の組成物は、少なくとも30分間、例えば、30分間~3時間又は30分間~2時間、好ましくは少なくとも1時間、例えば、1~3時間又は1~2時間、かき混ぜ又は撹拌されてもよい。第二の組成物は、10℃~30℃の温度で維持されてもよい。
【0148】
ステップ(ii)は、さらに、第二の組成物を塩基性水溶液と接触させて、第三の組成物を生成すること、例えば、第二の組成物を2~10容量の塩基性水溶液、例えば炭酸カリウムを含む水溶液と接触させることを含んでもよい。
【0149】
場合によっては、ステップ(ii)は、第三の組成物をかき混ぜる又は撹拌することをさらに含む。第三の組成物は、少なくとも1分間、例えば、1~15分間又は1~10分間、好ましくは少なくとも5分間、例えば、5~15分間又は5~10分間、かき混ぜ又は撹拌され得る。第三の組成物は、10℃~30℃の温度で維持されてもよい。
【0150】
第三の組成物が有機成分及び水性成分を含む場合、ステップ(ii)は、水性成分から有機成分を分離することをさらに含んでもよい。有機成分は、ステップ(i)の接触から8時間以内に、水性成分から分離されてもよい。
【0151】
時には、本方法のステージ1は、以下のステップを含む:
i.第一の容器に、1g以上の式IIIの化合物、及び1~1.5当量の追加のカップリング剤を添加する、
ii.第一の容器に、DCM、アセトン、IPA、iPrOAc、TBME、2-MeTHF及びEtOAcから選択される第一の溶媒を5~20容量添加する、
iii.第一の容器に、1~1.5当量のカルボジイミドカップリング剤を添加する、
iv.第一の容器の内容物を少なくとも30分間、好ましくは少なくとも1時間(例えば、1~2時間)、10℃~30℃で撹拌する、
v.第一の容器に、1~2当量の式R2R3NHを有するアミンを添加する(ここで、アミンは好ましくはエーテル溶剤に溶解される)
vi.第一の容器の内容物を、少なくとも30分間、好ましくは少なくとも1時間(例えば、1~2時間)、10℃~30℃でさらに撹拌する、
vii.第一の容器に、2~10容量の塩基性水溶液を加える、
viii.第一の容器の内容物を、少なくとも1分間、好ましくは少なくとも5分間(例えば、5~10分間)、10℃~30℃でさらに撹拌する、
ix.非混和性有機画分を水性画分から分離させる(ここで、有機画分は、式IIの化合物を含む)
x.式IIの化合物を含む有機画分を取り除く
ここで、ステップ(i)~(x)は、8時間の単一の期間内に実施される。
【0152】
多くの場合、第一の溶媒はDCMである。
多くの場合、アミンはジメチルアミンである。アミンは、例えば、2Mの濃度で、THF中に溶解されてもよい。
多くの場合、塩基性水溶液は炭酸カリウムを含む。
【0153】
時には、本方法の第一ステージは、以下のステップをさらに含む:
xi.乾燥剤、例えば、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、及び硫酸ナトリウムから選択される乾燥剤を用いて有機画分を乾燥する、
xii.有機画分を濾過する、
xiii.例えば、真空下(例えば、1気圧未満の圧力下)で、有機画分を濃縮する、
xiv.濃縮された有機画分を第二の容器に入れる、
xv.2~10容量の第二の溶媒を、第二の容器に添加する(ここで、第二の溶媒は、IPA、EtOAc、IPrOAc、アセトニトリル(MeCN)、TBME、THF、2-MeTHF及びトルエンから選択される)、
xvi.45℃~55℃の温度で、少なくとも1時間、好ましくは少なくとも2時間(例えば、2~3時間)、第二の容器の内容物を撹拌する、
xvii.第二の容器の内容物を15℃~25℃の温度まで冷却する、
xviii.第二の容器の内容物をろ過して、ろ液を得る(ここで、ろ液は、式IIの化合物を含む)、及び
xix.ろ液を乾燥する。
【0154】
ステップ(xi)の乾燥剤は、典型的には硫酸マグネシウムである。しばしば、ステップ(xv)の溶媒は、TBME及びIPAから選択される。
【0155】
本方法のステージ2は、式IIの化合物を、LiAlD4と、又はLiAlH4及びLiAlD4と反応させて式Iの化合物を生成することを含む。LiAlD4を、又はLiAlH4とLiAlD4との混合物を、式IIの化合物と反応させてもよい。好ましい実施形態において、本方法のステージ2は、式IIの化合物を、LiAlH4とLiAlD4との混合物と反応させることを含む。このような混合物は、LiAlD4を含み、0.1~99.9%の水素化物を含む。2%~98%の水素化アルミニウムリチウム又は2%~98%の重水素化アルミニウムリチウムの混合物を使用してもよい。時には、LiAlH4とLiAlD4との混合物は、本質的に、98%LiAlD4
/2%LiAlH4からなる。時には、このような混合物は、本質的に、95%LiAlD4
/5%LiAlH4、95%LiAlD4
/5%LiAlH4、85%LiAlD4
/15%LiAlH4、80%LiAlD4
/20%LiAlH4、75%LiAlD4
/25%LiAlH4、70%LiAlD4
/30%LiAlH4、65%LiAlD4
/35%LiAlH4、60%LiAlD4
/40%LiAlH4、55%LiAlD4
/45%LiAlH4、50%LiAlD4
/50%LiAlH4、45%LiAlD4
/55%LiAlH4、40%LiAlD4
/60%LiAlH4、35%LiAlD4
/65%LiAlH4、30%LiAlD4
/70%LiAlH4、25%LiAlD4
/75%LiAlH4、20%LiAlD4
/80%LiAlH4、15%LiAlD4
/85%LiAlH4、10%LiAlD4
/90%LiAlH4、5%LiAlD4
/95%LiAlH4、又は2%LiAlD4
/98%LiAlH4からなる。
【0156】
特定のパーセンテージのLiAlH4とLiAlD4とから本質的になる混合物とは、混合物が追加の成分(LiAlH4及びLiAlD4以外)を含んでもよいが、これらの追加成分の存在が、混合物の本質的な特徴に実質的に影響を及ぼさないことを意味する。特に、LiAlH4とLiAlD4とから本質的になる混合物は、式IIの化合物の還元(式Iの化合物を生成する)に弊害をもたらす物質を、実質量を含まない(例えば、式Iの化合物を生成する式IIの化合物の還元を阻害するような形で、LiAlH4及びLiAlD4、式IIの化合物及び/又は式Iの化合物と反応する実質量の物質を含まない)。
【0157】
前記2種混合物に含まれるLiAlH4又はLiAlD4の量は、式Iの化合物において求められる重水素化の程度に依存する。例えば、一方のyHがプロチウムであり、他方が重水素である式Iの化合物が求められる場合は、50%LiAlH4及び50%LiAlD4の混合物が好まれ得る。あるいは、化合物の約半分がα位に2つの重水素原子を含み(すなわち、yHが両方とも重水素)、化合物の約半分が1つの重水素原子及び1つのプロチウム原子をα位に含む(すなわち、一方のyHが重水素であり、他方がプロチウム)式Iの化合物の混合物が求められる場合、25%LiAlH4及び75%LiAlD4の混合物が好まれ得る。
【0158】
式IIの化合物に対して使用されるLiAlD4の、又はLiAlH4及びLiAlD4の量は、しばしば≦1:1である。誤解を避けるために、式IIの化合物に対するLiAlD4の、又はLiAlH4及びLiAlD4の比は、化合物IIの量に対して使用されるLiAlD4の、又はLiAlH4及びLiAlD4の総量を指す。特には、LiAlD4 又は LiAlH4及びLiAlD4:式IIの化合物の比は、0.5:1~1:1、例えば0.8:1~1:1である。典型的には、LiAlH4及び/又はLiAlD4:式IIの化合物の比は、0.9:1である。
【0159】
典型的には、本方法のステージ2は、適切な溶媒中で実施される。当業者は、どの溶媒がステージ2に適しているかを評価することができる。適切な溶媒の例としては、エーテル、例えばTHF及びジエチルエーテルが挙げられる。しばしば、ステージ2はTHF中で実施される。
【0160】
しばしば、LiAlD4 又は LiAlH4及びLiAlD4は、適切な溶剤(エーテルなど、例えばTHF又はジエチルエーテル、典型的にはTHF)中のLiAlD4の又はLiAlH4及びLiAlD4の溶液又は懸濁液として提供される。
【0161】
方法のステージ2は適切な温度で実施され、当業者はどの温度がこれらのステップに適しているかを評価することができる。しばしば、ステージ2は、約-5℃~約65℃の温度で実施される。
【0162】
典型的には、ステージ2は、式Iの化合物を単離することをさらに含む。当業者は、式Iの化合物の単離に適した技術を知っている。例えば、反応をクエンチして(例えば、ロッシェル塩などの酒石酸塩の水溶液で)、式Iの化合物を、有機溶媒(エーテルなど、例えば、THF又はジエチルエーテル)に抽出し、塩基性水溶液などの水溶液で洗浄し、濃縮することができる。単離された式Iの化合物は、再結晶化されてもよい。当業者は、式Iの化合物の再結晶化に適した技術を知っている。式IIの化合物の再結晶化に関して記載された再結晶化技術の例は、変更すべきところは変更した上で、式Iの化合物の再結晶化に適用される。
【0163】
多くの場合、約1g以上、例えば、約1g~約100kg、又は約1g~約1kgの式IIの化合物が、本方法において使用される。
【0164】
典型的には、本方法のステージ2は、式IIの化合物と、約0.8~約1当量、例えば約0.9当量のLiAlD4 又は LiAlH4及びLiAlD4とを接触させて、第一の化合物を生成することを含む。
【0165】
接触は、典型的には溶媒(エーテルなど、例えばTHF又はジエチルエーテル、典型的にはTHF)の存在下で実施される。
【0166】
しばしば、接触は、LiAlD4を、又は LiAlH4及びLiAlD4を、式IIの化合物に滴下することを含み、ここで、LiAlD4 又は LiAlH4及びLiAlD4は、好適な溶媒(エーテルなど、例えば、THF又はジエチルエーテル)中のLiAlD4 又は LiAlH4及びLiAlD4の溶液又は懸濁液として提供される。LiAlD4 又は LiAlH4及びLiAlD4は、THF中のLiAlD4 又は LiAlH4及びLiAlD4の2.4M又は2Mの溶液又は懸濁液として提供されてもよい。時には、LiAlD4 又は LiAlH4及びLiAlD4は、THF中のLiAlD4 又は LiAlH4及びLiAlD4の2M溶液又は懸濁液として提供される。
【0167】
接触は、多くの場合、約-5℃~約65℃の温度で行われる。
【0168】
多くの場合、ステージ2は、第一の組成物をかき混ぜること又は撹拌することをさらに含む。第一の組成物は、約1時間~約6時間、典型的には約2時間、かき混ぜ又は撹拌されてもよい。第一の組成物は、約55℃~約65℃の温度でかき混ぜ又は撹拌されてもよい。多くの場合、第一の組成物は、約55℃~約65℃の温度でかき混ぜ又は撹拌され、次いで、約10℃~約30℃の温度に冷却される。
【0169】
典型的には、式IIの化合物を、約0.9当量のLiAlD4と又は LiAlH4及びLiAlD4と接触させる。
【0170】
本発明の方法のステージ2は、以下のステップを含んでもよい:
i.第三の容器に、1g以上(例えば、1g~1kg)の式IIの化合物を添加する、
ii.第三の容器に、5~20容量のエーテル溶媒を添加する、
iii.第三の容器に、少なくとも15分間(例えば、15~30分間)かけて、-5℃~65℃の温度にて、エーテル溶媒中の0.8~1当量のLiAlD4溶液又はLiAlH4及びLiAlD4溶液を滴下する、
iv.第三の容器の内容物を、55℃~65℃で1時間~6時間、好ましくは2時間撹拌する、及び、
v.第三の容器の内容物を10℃~30℃に冷却する、
ここで、第三の容器の内容物は、式Iの化合物を含む。
【0171】
多くの場合、エーテル溶媒はTHFである。典型的には、0.9当量のLiAlD4 又は LiAlH4及びLiAlD4を、ステップ(iii)において第三の容器に添加する。LiAlD4 又は LiAlH4及びLiAlD4は、典型的には2.4M又は2MのTHF溶液として第三の容器に添加される。時には、LiAlD4 又は LiAlH4及びLiAlD4を、THF中の2M溶液として第三の容器に添加する。
【0172】
時には、本方法のステージ2は、以下のステップを含むワークアップを含む:
vi.5~20容量の酒石酸塩(例えば、ロッシェル塩)の水溶液を、第四の容器に入れる、
vii.式Iの粗化合物を含む組成物を、15℃~25℃で、少なくとも15分間(例えば、15分~1時間)、好ましくは少なくとも30分間(例えば、30分~1時間)かけて、第四の容器に添加する、及び
viii.第四容器の内容物を、15℃~25℃で少なくとも30分間(例えば、30分~1時間)撹拌する。
【0173】
誤解を避けるために、式Iの粗化合物を含む組成物とは、上記のステージ2のステップ(v)完了時の第三の容器の内容物を指す。
【0174】
本方法のステージ2は、以下のステップをさらに含んでもよい:
ix.有機画分を水性画分から分離させる(ここで、有機画分は式Iの化合物を含む)
x.第四の容器から水性画分を除去する、
xi.第四の容器に、5~20容量のブライン溶液(塩水)を添加する、
xii.第四の容器の内容物を、15℃~25℃の温度で少なくとも5分間(例えば、5~15分間)撹拌する、
xiii.式Iの化合物を遊離塩基として含む有機画分を取り除く、
xiv.乾燥剤(例えば、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、及び硫酸ナトリウムから選択される乾燥剤)を用いて有機画分を乾燥させる、
xv.有機画分を濾過する、及び
xvi.真空下(例えば、1気圧未満の圧力下)で、有機画分を濃縮する。
【0175】
単離された式Iの化合物(ステージ2によって生成される)は安定であり、周囲温度、例えば、約20℃にて、空気中で固体として保存することができる。それらは、不活性コンディション下、例えば、窒素もしくはアルゴン下、又は低温で、例えば、冷蔵庫もしくは冷凍庫中で貯蔵されてもよいが、必ずしもそうする必要はない。時には、式Iの化合物は、溶媒中で、例えばエタノールに溶解されて保存される。時には、式Iの化合物は、溶媒中で、8時間より長く、典型的には12時間より長く保存される。
【0176】
上述したように、式Iの化合物は、薬学的に許容される塩の形態であってもよい。薬学的に許容される塩は、適切な酸との反応によって式Iの化合物から形成されてもよい。したがって、本方法は、式Iの化合物を酸性試薬と反応させて、式Iの化合物の薬学的に許容される塩を生成するステージ3を、さらに含んでもよい。酸性試薬は、式Iの化合物の薬学的に許容される塩を結晶化するのに適していてもよい。
【0177】
誤解を避けるために、試薬が本明細書において当量数として表される場合、これは、それぞれ、ステージ1、ステージ2又はステージ3における試薬についての式III、式II又は式Iの化合物のモル当量に関する。
【0178】
式Iの化合物又はその薬学的に許容される塩を合成する方法は、多くの場合、ステージ1、ステージ2及びステージ3を含み、ここで、ステージ1は:
(i)式IIIの化合物を、2種以上のカップリング剤と反応させて、活性化合物を生成すること;
(ii)前記活性化合物を、式R2R3NHを有するアミンと反応させて、式IIの化合物を生成すること;及び
(iii)式IIの化合物を単離すること;
を含む。
ステージ2は、式IIの化合物を、LiAlD4と又はLiAlH4及びLiAlD4と反応させることを含み;及び
ステージ3は、式Iの化合物を、式Iの化合物の薬学的に許容される塩を結晶化するのに適切な酸性試薬と反応させる工程を含む。
【0179】
時には、酸性試薬:式Iの化合物が≧1:1の比で使用される。多くの場合、酸性試薬:式Iの化合物の比は1:1である。
【0180】
典型的には、本方法のステージ3は、適切な溶媒中で実施される。当業者は、どの溶媒がステージ3に適しているかを評価することができる。適切な溶媒の例としては、エタノール、IPA、iPrOAc及びMeCNが挙げられる。ステージ3は、しばしばエタノール中で実施される。
【0181】
本発明の方法のステージ3は、適切な温度で実施され、当業者はどの温度がこれらのステップに適しているかを評価することができる。
【0182】
本方法のステージ3は、多くの場合、式Iの化合物と酸性試薬とを接触させて、第一の組成物を生成することを含む。しばしば、ステージ3の接触は、70~100℃、例えば70~90℃又は70~80℃の温度で実施される。時には、ステージ3の接触は、約75℃の温度で実施される。
【0183】
多くの場合、ステージ3は、式Iの薬学的に許容される塩を単離することをさらに含む。当業者は、そのような化合物の単離に適した技術を知っている。例えば、化合物が懸濁液中に溶解される場合、それは、濾過(例えば、熱濾過)によって、懸濁液の他の成分のいくつかから分離されてもよい。式Iの薬学的に許容される塩は、ろ液から沈殿されてもよい。当業者は、溶液から化合物の沈殿を促進する方法、例えば、溶液を冷却すること、溶液を濃縮すること、及び/又は、結晶形態の化合物を溶液に添加して、核形成及び溶液からの化合物のさらなる結晶の成長を促進する方法(すなわち、シーディング)を心得ている。式Iの薬学的に許容される塩は、再結晶化されてもよい。当業者は、式Iの薬学的に許容される塩の再結晶化に適した技術を知っている。式IIの化合物の再結晶化に関して記載された再結晶化技術の例は、変更すべきところは変更した上で、式Iの薬学的に許容される塩の再結晶化に適用される。
【0184】
本方法のステージ3は、以下のステップを含んでもよい:
i.式Iの化合物の薬学的に許容される塩を結晶化させるのに適した酸性試薬を少なくとも一当量、第五の容器に添加する、
ii.遊離塩基としての式Iの化合物を、5~20容量の溶媒(例えば、エタノール、IPA、iPrOAc及びMeCNから選択される溶媒)に溶解し、その溶液を第五の反応容器に添加する、
iii.72℃以上の温度(例えば、72~90℃)で第五容器の内容物を撹拌する、
iv.第五の容器の内容物を濾過する、
v.第六の容器にろ液を加え、内容物を67℃~73℃の温度まで冷却する、
vi.任意で、第六の容器に、結晶形態の式Iの化合物の薬学的に許容される塩をシーディングする、
vii.第六の容器の内容物を67℃~73℃の温度で少なくとも30分間(例えば、30分~1時間)撹拌する、
viii.1時間当たり2~8℃の速度で、第六の容器の内容物を、-5℃~5℃の温度まで冷却する、及び、
ix.第六の容器の内容物を濾過して、式Iの化合物の薬学的に許容される塩を含むろ過ケーキを生成する。
【0185】
しばしば、ステップ(ii)の溶媒はエタノールである。多くの場合、ステップ(viii)における冷却速度は、1時間当たり5℃である。
【0186】
上述のように、薬学的に許容される塩は、多くの場合、式Iの化合物及び適切な酸を含む。本発明の薬学的に許容される塩の適切な成分として上記に列挙された酸は、変更すべきところは変更した上で、本方法のステージ3の酸性試薬に適用される。
【0187】
多くの場合、酸性試薬は、フマル酸、酒石酸、クエン酸及び塩酸から選択される任意のもの、例えばフマル酸である。
【0188】
本明細書に開示される合成方法は、本方法がα位で重水素を置換するがβ位では置換しないので、当該分野で既知の他の合成よりも著しく少ないLiAlD4を使用し、そのため、治療用の重水素化置換ジアルキルトリプタミンを製造するのに特に有益である。LiAlD4はこの合成において、最も高価で、試薬製造が困難なものの一つである。さらに、本明細書に開示される最適化された方法は、LiAlD4の又はLiAlH4及びLiAlD4の必要量を、例えば、2当量から0.9当量に減少させ、これは式Iの重水素化化合物の製造における経済効率を増大させる。この点から見て、式Iの化合物は、本明細書に開示される合成方法により、典型的にはα位及びβ位の両方で重水素化される既知の重水素化類似体よりも安価に製造される。
【0189】
本明細書に開示される合成方法は効率的であり、式Iの化合物は、全収率50%~100%、例えば、60%~100%、又は65%~100%で生成され得る。
【0190】
本明細書で言及される各々及び全ての特許文献及び非特許参考文献は、各参考文献の全内容が全体として本明細書に記載されているかのように、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照してさらに理解され得る。
【0191】
実施例1
最初の実施例において、本発明者らは、α位が1つ又は2つの重水素によって富化されたときにN,N-ジメチルトリプタミンにもたらされる一次速度論的同位体効果が、ヒト肝細胞アッセイにおいて平均分子量と半減期との間に直線関係を示すことを実証する。
【0192】
DMTに対する重水素化DMT類似体ブレンドのインビトロ固有クリアランスを評価するためのヒト肝細胞の使用
固有クリアランスのインビトロ測定は、インビボ肝クリアランスを予測するための有益なモデルである。肝臓は、体内における薬物代謝の主要な器官であり、無傷の細胞に存在する第I相及び第II相の薬物代謝酵素の両方を含む。
【0193】
試料の合成
N,N-DMT 220.9g(遊離塩基として)を、スキーム1に示された化学を使用して、N,N-DMTフマル酸塩として調製した。さらなる6種の部分重水素化混合物4~6gも、修正コンディションを用いて製造した。
【0194】
【0195】
DMTの合成
ステージ1:インドール-3-酢酸とジメチルアミンのカップリング
N2下の5L容器に、インドール-3-酢酸(257.0g、1.467mol)、ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt、約20%wet)(297.3g、1.760mol)、及びジクロロメタン(2313mL)を投入し、乳白色懸濁液を得た。次いで、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC.HCl、337.5g、1.760mol)を、16~22℃で5分かけて一部ずつ投入した。反応混合物を周囲温度で2時間撹拌した後、THF中の2Mジメチルアミン(1100mL、2.200mol)を、20~30℃にて20分かけて滴下した。得られた溶液を周囲温度で1時間撹拌し、ここで、HPLCは、1.1%のインドール-3-酢酸及び98.1%の標的生成物を示した(ステージ1と称する)。次に、反応混合物に10%K2CO3(1285ml)を添加し、5分間撹拌した。層を分離し、上部の水層をジクロロメタン(643mL×2)で抽出した。有機抽出物を合わせ、飽和塩水(643mL)で洗浄した。次いで、有機抽出物をMgSO4で乾燥し、濾過し、45℃にて真空中で濃縮した。これにより、303.1gの粗ステージ1をオフホワイトの粘着性固体として得た。次いで、この粗物質を、tert-ブチルメチルエーテル(TBME、2570mL)中で、50℃にて2時間スラリーとし、その後、周囲温度に冷却し、濾過し、TBME(514mL×2)で洗浄した。次いで、濾過ケーキを50℃にて真空乾燥し、オフホワイトの固体として、266.2g(収率=90%)のステージ1を得た(純度はHPLCにて98.5%、及びNMRにて>95%)。
【0196】
ステージ2:DMTの調製
N2下で5L容器に、ステージ1(272.5g、1.347mol)及びテトラヒドロフラン(THF、1363mL)を投入し、オフホワイトの懸濁液を得た。次いで、THF中の2.4M LiAlH4(505.3mL、1.213mol)を、20~56℃にて35分かけて滴下し、琥珀色の溶液を得た。この溶液を、60℃に2時間加熱し、ここで、HPLCは、ステージ1(ND)、標的生成物ブラケット(ステージ2と称する 92.5%)、不純物1(2.6%)、不純物2(1.9%)を示した。完全な反応混合物を周囲温度まで冷却し、次いで25%ロッシェル塩(aq)(2725mL)の溶液に30分かけて20~30℃にて滴下した。得られた乳白色懸濁液を20~25℃で1時間撹拌し、その後層を分離し、上層の有機層を飽和塩水(681mL)で洗浄した。次いで、有機層をMgSO4で乾燥し、濾過し、45℃にて真空中で濃縮した。得られた粗油状物質を、エタノール(545mL×2)から共沸混合物に供した。これにより、HPLCでは95.0%、NMRでは>95%の純度で、234.6gのステージ2(収率=92%)が得られた。
【0197】
ステージ3a(i)~(iii):DMTフマル酸塩の種結晶の調製
(i) ステージ2(100mg)を、8容量の酢酸イソプロピルに入れ、50℃に温めてから、フマル酸(1当量)をエタノール溶液として投入した。次いで、フラスコを50℃で1時間成熟させてから、室温まで冷却し、一晩撹拌し、白色懸濁液を得た。固体を濾過により単離し、50℃で4時間乾燥して、161mgの生成物を得た(>99%収率)。HPLCによる純度は99.5%であり、NMRによる純度は>95%であった。
【0198】
(ii) 方法(i)における酢酸イソプロピルをイソプロピルアルコールに置き換え、一晩撹拌した後に白色懸濁液を得た。固体を濾過により単離し、50℃で4時間乾燥して、168mgの生成物を得た(>99%収率)。HPLCによる純度は99.8%であり、NMRによる純度は>95%であった。
【0199】
方法(i)における酢酸イソプロピルをテトラヒドロフランに置き換え、一晩撹拌した後、白色懸濁液を得た。固体を濾過により単離し、50℃で4時間乾燥して、161mgの生成物を得た(>99%収率)。HPLCによる純度は99.4%であり、NMRによる純度は>95%であった。
【0200】
X線粉末回折による分析は、方法(i)~(iii)の各々の生成物が同じであることを示し、これはパターンAと名付けられた。
【0201】
ステージ3b:DMTフマル酸塩の調製
N2下の5Lフランジフラスコに、フマル酸(152.7g、1.315mol)及びステージ2(248.2g、1.315mol)をエタノール(2928mL)中の溶液として投入した。混合物を75℃に加熱して、暗褐色の溶液を得た。溶液を、予熱した(80℃)5Lのジャケット付き容器中にポリッシング濾過した。次いで、溶液を70℃に冷却し、パターンA(0.1wt%)を播種し、種を30分間成熟させてから、5℃/時間の速度で0℃まで冷却した。0℃でさらに4時間撹拌した後、バッチを濾過し、冷エタノール(496mL×2)で洗浄し、次いで50℃で一晩乾燥した。これにより、HPLCでは純度99.9%、NMRでは純度>95%にて、312.4g(収率=78%)のステージ3を得た。XRPD:パターンA
【0202】
DMT化合物の重水素化混合物の合成
固体LiAlH4/LiAlD4混合物を用いるステージ2の修正合成法を採用し、1.8等量のLiAlH4/LiAlD4 vs 0.9等量を用いて、非重水素化DMTのために上述した方法を使用した。
【0203】
重水素化(1:1のLiAlH
4
:LiAlD
4
)DMT組成物の代表的な合成法
N2下の250mLの三つ口フラスコに、LiAlH4(1.013g、26.7mmol)、LiAlD4(1.120g、26.7mmol)、THF(100ml)を投入した。得られた懸濁液を30分間撹拌した後、ステージ1(6g、29.666mmol)を20~40℃にて15分間かけて一部ずつ投入した。次いで、反応混合物を2時間加熱還流し(66℃)、ここで、HPLCは、ステージ1が残っていないことを示した。混合物を0℃に冷却し、30℃未満にて30分間かけて25%ロッシェル塩(aq)(120mL)でクエンチした。得られた乳状懸濁液を1時間撹拌し、次いで分離させた。下層の水層を除去し、上層の有機層を飽和塩水(30mL)で洗浄した。次いで、有機物をMgSO4で乾燥し、濾過し、真空中で濃縮した。これにより、4.3gの粗物質を得た。次いで、粗物質をエタノール(52mL)に取り、フマル酸(2.66g、22.917mmol)を投入した後、75℃に加熱した。得られた溶液を一晩周囲温度まで冷却した後、1時間さらに0~5℃に冷却した。固体を濾過により単離し、冷エタノール(6.5mL×2)で洗浄した。濾過ケーキを50℃で一晩乾燥して、HPLCでは純度99.9%、NMRでは純度>95%で5.7g(収率=63%)の生成物を得た。
【0204】
【0205】
重水素化DMT化合物及び組成物のインビトロ固有クリアランス
ヒト肝細胞固有クリアランス
固有クリアランス(CLint)のインビトロ測定は、インビボクリアランスを予測するための有益なモデルである。肝臓は、無傷の細胞中に存在する第I相及び第II相薬物代謝酵素の両方を含有し、それによって薬物代謝の研究のための有益なモデルを提供する。特に、肝細胞におけるCLintは、化合物が代謝を受ける可能性の尺度であり、血漿タンパク質結合及び肝血流も考慮に入れることによって、インビボでの肝クリアランスに関連し得る。したがって、CLintは、化合物の相対的代謝安定性の指標として使用され、他の外部プローブ基質と比較され得る。さらに、インビトロでのCLintの測定(肝代謝クリアランスが問題点であることが知られている)は、インビボでの化合物の種々の薬物動態挙動を把握するための有益な手段であり得る。
【0206】
アッセイ法
10人のドナーからプールしたヒト(ジェンダーミックス)肝細胞を用いて、3つの別個の実験においてSPL026及びSL028類似体のインビトロ固有クリアランスを調べた:
・第一の実験-ヒト(ジェンダーミックス)肝細胞;545,000細胞/mL 最終有機濃度1.05%(80.74%のMeCN及び19.26%のDMSOからなる)
・第二の実験-ヒト(ジェンダーミックス)肝細胞;427,000細胞/mL 最終有機濃度1%(84.7%のMeCN及び15.3%のDMSOからなる)。
・第三の実験-ヒト(ジェンダーミックス)肝細胞;362,000細胞/mL
マウスCD-1(雄)肝細胞
最終有機濃度1%(84.7%のMeCN及び15.3%のDMSOからなる)。
【0207】
アッセイ調製
・肝細胞緩衝液を、MilliQ水中の、26.2mMのNaHCO3、9mMのNa HEPES、2.2mMのD-フルクトース及びDMEMとして調製する。
・化合物及びマーカーストックを、DMSO中10mMで調製し、さらに91:9のアセトニトリル: DMSO中で100倍のアッセイ濃度に希釈する。
・肝細胞を37℃の水浴中で急速に解凍し、解凍したら、肝細胞緩衝液中にデカントする。細胞を遠心分離し、上清を除去した後、計数し、最終アッセイ濃度で再懸濁する。
【0208】
アッセイ手順
全ての試験化合物、ならびにスマトリプタン、セロトニン、ベンジルアミン対照について濃度5μMを使用し、各実験において、化合物あたり二回の反復インキュベーションを行った。この濃度は、シグナル-対-ノイズ比を最大にする一方で、モノアミンオキシダーゼ酵素(MAO)のためのミカエリス定数(Km)未満となるように選択された。ジルチアゼム及びジクロフェナク対照を、1μMの実験室で検証された濃度で使用した。
【0209】
予め温めたインキュベーションチューブ(37℃)に肝細胞を添加する。次いで、予め調製した100xアッセイ化合物ストックを、インキュベーションチューブに添加し、注意深く混合する。試料を7つの時点(2、4、8、15、30、45及び60分)で採取する。各時点で、少量のアリコートをインキュベーションから取り出し、クエンチした(氷冷酸性化メタノール又はアセトニトリル[内部標準を含有する]を用いて1:4で)。
【0210】
インキュベーションチューブを、実験の間中、37℃で回動振盪する。
標準的な最終インキュベーション条件は、名目上約50万の生細胞/mL、約0.9%(v/v)のアセトニトリル(MeCN)、及び約0.1%(v/v)のDMSO(上記のセクション2で概説された特定のアッセイ濃度)を含有する緩衝液中で1μM化合物である。
【0211】
クエンチされた試料を十分に混合し、タンパク質を-20℃で最低12時間沈殿させる。次いで、試料を4℃で遠心分離する。上清を、分析のために新しい96ウェルプレートに移す。
【0212】
液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS/MS)
以下のLC-MS/MS条件を、分析のために使用した:
【0213】
MRMトランジション:
・D0=質量対電荷比 189.136 > 144.179 (SPL026分析から決定される方法)
・D1=質量対電荷比 190.136 > 59.17 (SPL028ii分析から決定される方法)
・D2=質量対電荷比 191.137 > 60.169 (SPL028i分析から決定される方法)
・D6=質量対電荷比 195.17 > 64.127
・D8=質量対電荷比 197.2 > 146.17
【0214】
MRMトランジションは、重水素を含まない(D0トランジション)か、又は、高レベルのD1、D2、D6又はD8重水素化のいずれか(それぞれ、D1、D2、D6及びD8トランジション)を含むDMT試料の予備分析から決定した。
【0215】
次いで、得られた濃度-時間プロファイルを使用して、固有クリアランス(CLint)及び半減期(t1/2)を計算した。これを行うために、各分析物のMSピーク面積又はMSピーク面積/IS応答を、X軸上のサンプリングの時間(分)に対してy軸上に自然対数スケールでプロットする。この線の勾配は、消失速度定数である。これは、-ln(2)/勾配によって半減期に変換される。固有クリアランスは、勾配/消失速度定数から計算され、式は、CLint=(-1000*勾配)/細胞密度(1E6細胞/ml)であり、マイクロリットル/分/百万細胞の単位を与える。
【0216】
MAO阻害剤が有る場合及び無い場合の6種類のD
2
DMT類似体ブレンド(SPL028i~SPL028vi)のクリアランス
6種の異なるα,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン(D2DMT)化合物へのMAOの寄与を、10人のドナーからのヒト(ジェンダーミックス)肝細胞(545,000細胞/mL;最終有機濃度1.05%[80.74%のMeCN及び19.26%のDMSOからなる])を用いたインビトロ固有クリアランスの測定を介して、不可逆的な複合MAO-A/B阻害剤(100nMクロルジリン及び100nMデプレニル/セレギリン:カセットとして添加)を用いて調べた。
【0217】
重水素化の影響
データを、線形回帰分析(一元配置ANOVA)を用いた2つの別々の線形モデルに当てはめ、DMTのα-炭素での重水素富化が、D
2-重水素化の割合及び分子量(MW)が増加するにつれて、固有クリアランスを線形に減少させることを明らかにした(以下の式を用いた)。
【数1】
【0218】
96.6%のD2-DMT(SPL028i)は、最初の肝細胞試験において、SPL026と比較して、代謝安定性における最大の変化(固有クリアランス及び半減期の約二倍の変化)を示した(表3及び表4)。重水素化の中間ブレンド(SPL028ii~SPL028vi)の代謝安定性は、重水素化のレベル及び分子量の増加と相関する様式で増加した(表3及び表4)。
【0219】
表3:ヒト肝細胞におけるSPL026及び6種のD
2-重水素化SPL028類似体ブレンドのインビトロ固有クリアランス 阻害剤が有る場合/無い場合の各重水素化化合物について、SPL026からの固有クリアランスの倍率変化を強調する。化合物は分子量の順に並ぶ
【表3】
【0220】
表4:ヒト肝細胞におけるSPL026及び6種のD
2-重水素化SPL028類似体ブレンドのインビトロ半減期 阻害剤が有る場合/無い場合の各重水素化化合物について、SPL026からの半減期の倍率変化を強調する。化合物は分子量の順に並ぶ
【表4】
【0221】
MAOの寄与(図4も参照のこと)
MAO阻害剤及び化合物の重水素化が、固有クリアランスに及ぼす影響を決定するために、二元配置ANOVAを行った。固有クリアランスに対するMAO阻害剤の有意な効果 F(1,6)=11.42、p=0.0149、及び固有クリアランスに対する重水素化の有意な効果 F(1,6)=9.996、p=0.006が観察された。
【0222】
MAO阻害剤の含有は、SPL026(DMT)の代謝に対して最も少ない影響を及ぼし、約4%遅い固有クリアランスをもたらすことが示された(表5)。MAO阻害剤はまた、96.6%D2-重水素化類似体(SPL028i)に対してわずかな影響を及ぼす(MAO阻害剤の存在下で約5%速い固有クリアランスを観察)ことが示された(表5)。これらの結果は、MAO酵素が、ヒト肝細胞におけるSPL026及びSPL028iの代謝に有意に寄与しないことを示している。
【0223】
MAO阻害剤は、残りの5つのD2-重水素化類似体ブレンド(SPL028ii~SPL028vi)について、固有クリアランスに対するより大きな阻害作用を持つことが示された。これら5つの化合物については、SPL028viを除き、重水化レベル及び分子量の増加に伴って、MAO阻害剤の阻害作用が線形的に増加することが示された(表3)。49%D2-重水素化SPL028ivは、MAO阻害剤を含む場合、固有クリアランスの最大の変化(49%)を示し(表5)、一方、36.8%D2-重水素化SPL028iiiは、阻害剤が有る場合、細胞画分のSPL026と比較して、代謝安定性の最大の変化(約二倍)を示した(表3及び4)。
【0224】
表5:ヒト肝細胞におけるSPL026及び6種のD
2-重水素化SPL028類似体ブレンドのインビトロ固有クリアランス及び半減期(MAO-A/B阻害剤の組合せが有る場合と無い場合)。パーセント変化(%)の値は、MAO阻害剤を含む場合 vs 阻害剤を含まない場合の代謝安定性の変化%を表す(固有クリアランス及び半減期について、別々に測定)。化合物は、分子量の増加の順に並ぶ。
【表5】
【0225】
これらの結果は、DMTのα-炭素での重水素化レベルの増加が、化合物のMAO酵素代謝を減少させることを示している。
【0226】
6種のD
2DMT類似体ブレンド(SPL028i~SPL028vi)及び1種のD
6-DMT(SPL028vii)類似体ブレンドのクリアランス
d
6
-DMTの合成:028vii(化合物5)
【化8】
【0227】
EDC.HCl(15.7g、81.90mmol)を、室温にて、3-インドール酢酸(12.0g、68.50mmol)及びHOBt.H2O(1.16g、75.75mmol)を含むDCM(108mL)に添加した。反応物を1時間撹拌した後、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)(35.6mL、205.75ミリモル)及びd6-ジメチルアミン.HCl(9.0g、102.76mmol)を添加した(温度は30℃未満に維持)。反応物を室温で1時間撹拌した後、HPLCによる分析により、65.6%の生成物と残存する28.9%の3-インドール酢酸が示された。DIPEA(11.9mL、68.78mmol)を加え、反応物を室温で1時間撹拌した。HPLCは、変換に変化がないことを示した。炭酸カリウム水溶液(54mLの水に6.0g)を加え、相を分離した。水相をDCM(2×30mL)で抽出した。合わせた有機物を塩水(2×30mL)で、次いでクエン酸水溶液(20w/w%、50mL)で洗浄し、MgSO4で乾燥し、濾過した。ろ液をストリッピングし、得られた固体をTBME(120mL)中でスラリー化し、濾過により単離した。フラッシュカラムクロマトグラフィーによる精製により、8.34gの所望の生成物を得た(収率58%)。1H NMRは、生成物の同一性を確認した。
【0228】
【0229】
LiAlH4(THF中1M、17.3mL、17.28mmol)を、THF(10mL)中のステージ1(4.0g、19.20mmol)の懸濁液に、<30℃で添加した。得られた反応物を60~65℃に加熱し、2時間撹拌した。HPLC分析は、ステージ1の完全な消費と、97.3%の生成物の形成を示した。反応物を室温まで冷却し、<30℃にてロッシェル塩水溶液(30mLの水に10g)中でクエンチした。1時間撹拌した後、相を分離した。水相をTHF(20mL)で抽出した。合わせた有機物を塩水(20mL)で洗浄し、MgSO4で乾燥し、濾過し、ストリッピング(エタノールと共沸、20mL)して、所望の生成物を琥珀色の油状物(3.97g)として得た。1H NMRにより、生成物の同一性が確認され、8.5%のエタノールが存在し(THFなし)、3.63g、97%の活性収率が得られたことが示された。
【0230】
【0231】
d6-DMTの遊離塩基(3.6g活性、18.53mmol)を、室温でエタノール(43mL)に溶解した。フマル酸(2.15g、18.53mmol)を加え、溶液を75℃に加熱した(加熱中に固体が結晶化し、再溶解しなかった)。得られた懸濁液を0~5℃に冷却し、1時間撹拌した。固形物を濾過により単離し、エタノール(2×7mL)で洗浄し、乾燥した。50℃の真空オーブン中でさらに乾燥させると、所望のd6-DMTフマル酸塩(4.98g、87%)が得られた。
【0232】
d
8
-DMTの合成:028viii(化合物1)
ステージ1(3-インドール酢酸とd6-ジメチルアミンのカップリング)については、上記を参照。
【0233】
【0234】
LiAlD4(THF中1M、17.3mL、17.28mmol)を、THF(10mL)中のステージ1(4.0g、19.20mmol)の懸濁液に、<30℃で添加した。得られた反応物を60~65℃に加熱し、2時間撹拌した。HPLC分析は、ステージ1の完全な消費と、97.3%の生成物の形成を示した。反応物を室温まで冷却し、<30℃にてロッシェル塩水溶液(30mLの水に10g)中でクエンチした。1時間撹拌した後、相を分離した。水相をTHF(20mL)で抽出した。合わせた有機物を、塩水(20mL)で洗浄し、MgSO4で乾燥し、濾過し、ストリッピング(エタノールと共沸、20mL)して、所望の生成物を琥珀色の油状物(4.01g)として得た。1H NMRにより、生成物の同一性が確認され、8.6%エタノールが存在し(THFなし)、3.66g、97%の活性収率が得られたことが示された。
【0235】
【0236】
化合物1の遊離塩基(3.6g活性、18.53mmol)を、室温でエタノール(43mL)中に溶解した。フマル酸(2.15g、18.53mmol)を加え、溶液を75℃に加熱した(加熱中に固体が結晶化し、再溶解しなかった)。得られた懸濁液を0~5℃に冷却し、1時間撹拌した。固形物を濾過により単離し、エタノール(2×7mL)で洗浄し、乾燥した。50℃の真空オーブン中でさらに乾燥させると、フマル酸塩(4.62g、81%)として所望の化合物1が得られた。
【0237】
重水素化の程度の評価
これは、LCMS-SIM(SIM=シングルイオンモニタリング)によって達成され、この分析は、N,N-ジメチルトリプタミンの保持時間にて、3種の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物(N,N-ジメチルトリプタミン(D0)、α-プロチオ,α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン(D1)、及びα,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン(D2))の各質量について別個のイオンカウントを与える。次いで、これらのイオンカウントから各成分のパーセンテージを計算した。例えば、
【数2】
【0238】
【0239】
【0240】
6種類のα,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン(D2DMT)化合物及び1種類のN,N-ビス(トリデューテロ-ジメチル)トリプタミン(D6DMT、SPL028vii)のin vitroヒト肝臓固有クリアランスを測定し、10人のドナーからのヒト(ジェンダーミックス)肝細胞(427,000細胞/mL;最終有機濃度1%[MeCN 84.7%及び15.3% DMSOからなる])を用いて、メチル基重水素化 vs α炭素重水素化が、代謝安定性に及ぼす影響を検討した。
【0241】
表6.ヒト肝細胞における6種類のD
2-重水素化DMT及びD
6-重水素化DMT類似体ブレンドのインビトロ固有クリアランス及び半減期。分子量の増加の順に並ぶ。
【表6】
【0242】
6種類のD
2-重水素化物に線形回帰モデルをフィットさせたデータは、DMTのα-炭素での重水素富化が、重水素化レベル及び分子量の増加に伴い、固有クリアランスを直線的に低下させるという従前の発見を確認した。
【数3】
線形回帰モデルは、以下の式を使用して分子量にもフィッティングされ、6種類のD
2-重水素化SPL028ブレンドに関して、分子量が固有クリアランスの強力な予測因子であることを明らかにした。
【数4】
【0243】
初期の肝細胞データは、D2-重水素化及びD6-重水素化SPL028ブレンドの分子量と固有クリアランスとの間の関係を示唆しなかった(r2=0.0395)。
【0244】
[実施例2]
第二の実施例において、本発明者らは、N,N-ジメチルトリプタミンがN,N-ジメチル位置で重水素化された場合の、半減期の増加の可能性を認める。
【0245】
2種類のD
2
DMT(SPL028i及びSPL028ii)ブレンド、1種類のD
6
DMT(SPL028vii、化合物5)、及び1種類のD
8
-DMT(SPL028viii、化合物1)類似体のクリアランス
さらなるヒト肝細胞アッセイを、2種類のD2-重水素化SLP028類似体ブレンド及び2種類のさらなる重水素化類似体(D6DMT及びD8DMT)を用いて実施し、10人のドナーからのヒト(ジェンダーミックス)肝細胞(362,000細胞/mL)を用いて、インビトロ固有クリアランスを測定した。
【0246】
表7.ヒト肝細胞における2種類のD
2-重水素化DMT、D
6-重水素化DMT、及びD
8-重水素化DMT類似体ブレンドのインビトロ固有クリアランス及び半減期。分子量の増加の順に並ぶ。
【表7】
【0247】
データ中に、二次速度論的同位体効果の存在の可能性が認められたが、線形回帰モデルは、ヒト肝細胞アッセイにおいて、SPL026、SPL028i、SPL028ii、SPL029vii、及びSPL028viiiに関して、分子量と固有クリアランスとの間に予測的関係性をサポートしなかった(r2=0.0445)。
【0248】
[実施例3]
第三の実施例において、本発明者らは、D2-重水素化SPL028iとD8-重水素化SPL028viii(化合物1)との間でさらなる保護作用が観察されるというエビデンスを提供する。データは、重水素が、式Iの化合物の、又は本発明の任意の局面の任意の他の化合物もしくは組成物のα位及びN,N-ジメチル位の両方に存在する場合の、代謝安定性に対する相乗効果を支持する。
【0249】
重水素化DMTのヒト代謝をモデル化するための肝ミトコンドリア画分の使用
ヒトにおけるDMTの予測半減期(5分)を前提として、本発明者らは、ヒト肝臓に到達する前にDMTの大部分が分解されると予測する。したがって、DMTのヒト代謝をモデル化するためのより適切なシステムとして、非組織又は臓器特異的代替インビトロアッセイが求められた。非組織又は臓器特異的ヒト代謝の分析は、ヒト肝ミトコンドリア画分中で行うことができる。
【0250】
ヒト肝ミトコンドリア(HLMt)画分に対して実施された以下のアッセイは、肝細胞研究において予測される倍率変化と比較して、SPL026とD2-重水素化SPL028iとの間の倍率変化が増強すると予測する。
【0251】
MAO-A及びMAO-B阻害剤を含む場合/含まない場合の、SPL026(DMT)のin vitroヒトミトコンドリア画分固有クリアランス
SPL026の固有クリアランスのインビトロ測定において、選択的及び不可逆的MAO-A阻害剤(100nM クロルジリン)及びMAO-B阻害剤(100nM デプレニル/セレギリン)を、0.5mg/mLのヒト肝臓ミトコンドリア画分に別々に加えた。MAO-A基質であるセロトニン及びMAO-B基質であるベンジルアミンを陽性対照として添加し、MAO-A及びMAO-Bの存在ならびにクロルジリン及びデプレニル阻害剤の作用を確認した。
【0252】
表8.ヒト肝ミトコンドリア画分におけるSPL026の固有クリアランス及び半減期
【表8】
【0253】
SPL026の半減期及び固有クリアランスは、MAO-A阻害剤(クロルジリン)が有る場合、有意に増加し、MAO阻害剤が無い場合のSPL026のデータと比較して、固有クリアランスの10倍の増加をもたらした。デプレニル(MAO-B阻害剤)は、阻害剤無しの画分と比較して、ヒトミトコンドリア固有クリアランスに差異を示さなかった。これらの結果は、SPL026の代謝におけるMAO-Aの役割(MAO-Bではなく)を示唆する。
【0254】
SPL026(DMT)、SPL028i(96.6% D
2
-DMT)、SPL028iii(36.8% D
2
-DMT)、SPL028vii(化合物5)、及びSPL028viii(化合物1)のin vitroヒトミトコンドリア画分の固有クリアランス
固有クリアランスのインビトロ測定において、SPL026、SPL028i、SPL028iii及びSPL028viiiを、0.5mg/mLのヒト肝臓ミトコンドリア画分に別々に添加した。MAO-A基質「セロトニン」及びMAO-B基質「ベンジルアミン」を陽性対照として添加し、MAO-A及びMAO-Bの存在を確認した。同じ物質を用いて、ならびにSPL028ii及びSPL028viiも用いて、実験を繰り返した。
【0255】
表9.ヒト肝ミトコンドリア画分におけるSPL026、SPL028i、SPL028ii、SPL028iii、SPL028vii、及びSPL028viiiの固有クリアランス及び半減期
【表9】
【0256】
SPL026と比較した場合、半減期は、SPL028化合物の重水素化レベルの増加に伴って増加した。D8-重水素化SPL028viii(化合物1)は、SPL026と比較して、最大の半減期変化(繰り返した両方について平均した場合、14倍の増加)を示した。96.6%D2-重水素化SPL028iも、SPL026と比較して、半減期の大きな変化(繰り返した両方について平均した場合、10倍の増加)を示した。36.80%D2-重水素化SPL028iiiは、SPL026と比較して、より小さいクリアランスの変化(3.6倍の増加)を示した。各重水素化化合物について独立ウェルチt検定を実施し、SPL026と比較して、結果を表10に示す。
【0257】
表10.SPL028(i~viii)の半減期延長の有意性を示すt検定
【表10】
【0258】
結論
N,N-ジメチルトリプタミンのα位の完全重水素化は、ヒトミトコンドリア画分アッセイにおける一次速度論的同位体効果を介して代謝安定性を10倍増加させる。
N,N-ジメチル重水素化は、ヒト肝細胞アッセイにおいて、二次速度論的同位体効果を介して代謝安定性を潜在的に増加させる。
最も意外なことに、α位及びN,N-ジメチル位の両方における重水素化の一次及び二次同位体効果は、化合物1において相乗的に代謝安定性を増加させ、ヒトミトコンドリア画分アッセイにおいて14倍の代謝安定性の増加を示した。