(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-30
(45)【発行日】2023-06-07
(54)【発明の名称】フィコシアニン色素組成物
(51)【国際特許分類】
C09B 67/20 20060101AFI20230531BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20230531BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20230531BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20230531BHJP
A61Q 1/02 20060101ALI20230531BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20230531BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20230531BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20230531BHJP
A23L 5/46 20160101ALI20230531BHJP
A23L 5/00 20160101ALN20230531BHJP
【FI】
C09B67/20 F
A61K8/02
A61K8/49
A61K8/73
A61Q1/02
A61K9/14
A61K47/22
A61K47/36
A23L5/46
A23L5/00 F
(21)【出願番号】P 2022530095
(86)(22)【出願日】2021-05-20
(86)【国際出願番号】 JP2021019098
(87)【国際公開番号】W WO2021251093
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2020099967
(32)【優先日】2020-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020116973
(32)【優先日】2020-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020207420
(32)【優先日】2020-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】関川 周司
(72)【発明者】
【氏名】柴野 隆
(72)【発明者】
【氏名】保坂 正喜
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/105430(WO,A1)
【文献】特開2006-006315(JP,A)
【文献】特開2004-359554(JP,A)
【文献】特表2017-533254(JP,A)
【文献】特表2017-532060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 1/00-69/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィコシアニンと、多糖類が吸着してなる非水溶性色素組成物。
【請求項2】
前記フィコシアニンと、多糖類の組成が質量比で、フィコシアニン:多糖類=0.1:99.9~90:10である請求項1記載の非水溶性色素組成物。
【請求項3】
前記多糖類が、セルロースナノファイバー、キチン、キトサン、下記一般式(1)の構成単位からなるポリマー、下記一般式(2)の構成単位からなるポリマーから選ばれる少なくとも1種である請求項1または2記載の非水溶性色素組成物。
一般式(1)
【化1】
一般式(2)
【化2】
【請求項4】
前記多糖類が変性セルロースナノファイバー である請求項1または2記載の非水溶性色素組成物。
【請求項5】
請求項1~4いずれか一項記載の非水溶性色素組成物を含有することを特徴とする食品、化粧品、医薬品、農薬のコーティング材、印字マーカー、文房具、筆記具、印刷インキ、インクジェットインキ、金属インキ、塗料、プラスチック着色剤、カラートナー、蛍光標識剤、蛍光プローブ、または化学センサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
天然色素として、多種多様の赤色色素、黄色色素、青色色素が存在するが、近年、発癌性等の問題から合成着色料が疑問視され、より安全性が高いと思われる天然色素に対する期待が大きくなっている。しかし、天然色素には物性的に一長一短があり、特に色調的に鮮明な青色色素が少ないのが現状である。
【0003】
青色を呈する天然色素として藻類色素のフィコシアニンがある。フィコシアニン色素は蛋白質結合色素であり、藍藻類のスピルリナ等から抽出することができることが知られている。フィコシアニン色素は鮮明な青色を呈する色素であり、サステナブル色素として市場の期待も大きい。
【0004】
しかしながらフィコシアニン色素は、上記したように蛋白質結合色素であるために水溶性であり、化粧品や食用色素に用いた場合水への溶出やそれに伴う色落ちの問題も起こりやすいことが明らかになっている。そのため現状ではごく限られた用途でしか使用されていない。
【0005】
発明者らはフィコシアニン色素の水への溶出や色落ち問題の解決、即ち水溶性改善について記載された文献について調査を行ったところ、天然色素に対しては、トコフェロール、アスコルビン酸等を添加する例や、コーヒー豆に含まれているタンニン成分の一種であるクロロゲン酸類を添加する例があることが分かったが(特許文献1、2、3参照)、これらはいずれも天然色素の熱安定性を改善するものであり、水溶性を改善できるものではない。フィコシアニン色素の水溶性改善は未だ例がなく希求されている課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭57-117566号公報
【文献】特開平5-32909号公報
【文献】特開2001-323263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、水に不溶化した色素組成物、および該色素組成物を含有した食品、化粧品、医薬品または農薬のコーティング材または印字マーカー、文房具、筆記具、印刷インキ、インクジェットインキ、金属インキ、塗料、プラスチック着色剤、カラートナー、蛍光標識剤、蛍光プローブ、または化学センサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、フィコシアニンと、多糖類とを、含有する色素組成物が、水に不溶であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含するものである。
[1]
フィコシアニンと、多糖類とを含有する非水溶性色素組成物。
[2]
フィコシアニンと、多糖類が吸着してなる[1]記載の非水溶性色素組成物。
[3]
前記フィコシアニンと、多糖類の組成が質量比で、フィコシアニン:多糖類=0.1:99.9~90:10である[1]または[2]記載の非水溶性色素組成物。
[4]
前記多糖類が、セルロースナノファイバー、キチン、キトサン、下記一般式(1)の構成単位からなるポリマー、下記一般式(2)の構成単位からなるポリマーから選ばれる少なくとも1種である[1]~[3]記載の非水溶性色素組成物。
【0010】
一般式(1)
【0011】
【0012】
一般式(2)
【0013】
【化2】
[5]
前記多糖類が変性セルロースナノファイバー である[4]に記載の非水溶性色素組成物。
[6]
[1]~[5]記載の非水溶性色素組成物を含有することを特徴とする食品、化粧品、医薬品、農薬のコーティング材、印字マーカー、文房具、筆記具、印刷インキ、インクジェットインキ、金属インキ、塗料、プラスチック着色剤、カラートナー、蛍光標識剤、蛍光プローブ、または化学センサー。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、水に不溶化した色素組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の非水溶性色素組成物について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様としての一例であり、これらの内容に特定されるものではない。
【0016】
(フィコシアニン)
本発明で使用するフィコシアニンは、蛋白質結合色素であり、発色団としてフィコシアノビリンを有する。フィコシアニンは、フィコシアノビリンとタンパクが結合した構造を有する。
【0017】
本発明に係るフィコシアニンとしては、例えば、藍藻類由来のフィコシアニン、紅藻類由来のフィコシアニン、クリプト藻由来のフィコシアニン等の藻類由来のフィコシアニン等が挙げられ、中でも、大量に採取できることから藍藻類由来のフィコシアニンが好ましい。
【0018】
藍藻類としては、例えば、スピルリナ(Spirulina)属、アルスロスピラ(Arthrospira)属、アファニゾメノン(Aphanizomenon)属、フィッシェレラ(Fisherella)属、アナベナ(Anabaena)属、ネンジュモ(Nostoc)属、シネコキスチス(Synechocystis)属、シネココッカス(Synechococcus)属、トリポスリクス(Tolypothrix)属、スイゼンジノリ(Aphanothece)属、マスティゴクラディス(Mastigoclaus)属、プルロカプサ(Pleurocapsa)属等の藍藻類が挙げられる。中でも、工業的規模で生産され、その安全性が確認されているスピルリナ属およびアルスロスピラ属の藍藻類が好ましく、スピルリナ属の藍藻類がより好ましい。
【0019】
また、フィコシアニン調製の原料として、生の藍藻類を使用することもできるし、乾燥処理した藍藻類を使用してもよい。藍藻類の乾燥品は、生の藍藻類を常法に従い乾燥品としてもよく、市販の乾燥品を使用することもできる。
【0020】
フィコシアニンは、例えば、藍藻類を水やリン酸緩衝液、クエン酸緩衝液等の緩衝液中に懸濁し、藍藻類中のフィコシアニンを抽出することにより得ることができる。
【0021】
フィコシアニンを抽出する方法としては、特に制限は無く、一般に知られている方法を用いることができる。
【0022】
抽出方法の好ましい実施態様としては、例えば、特開2006―230272号公報に記載の抽出方法を挙げることができる。具体的には、下記抽出方法(i)で記載する抽出方法が挙げられる。係る抽出方法(i)により、高純度であざやかな色調のフィコシアニンを得ることができる。
【0023】
<抽出方法(i)>
抽出方法(i)は、藍藻類中のフィコシアニンを水懸濁液中に抽出させた抽出液を得る第一工程と、該抽出液中でカルシウム塩とリン酸塩とを反応させてリン酸カルシウムを生成させると共に該リン酸カルシウムにフィコシアニンの夾雑物を吸着させ吸着物を得る第二工程と、該抽出液から藍藻類の残渣及び吸着物を除去する第三工程と、を有する。
【0024】
さらに上記抽出方法(i)が下記抽出方法(ii)であると、より好ましい。
<抽出方法(ii)>
抽出方法(ii)は、藍藻類中のフィコシアニンを水懸濁液中に抽出させた抽出液を得る第一工程と、該抽出液中でカルシウム塩とリン酸塩とを反応させてリン酸カルシウムを生成させると共に該リン酸カルシウムにフィコシアニンの夾雑物を吸着させ吸着物を得る第二工程と、該抽出液から藍藻類の残渣及び吸着物を除去する第三工程と、第三工程より前に、抽出液にキレート剤を含有させる工程と、を有する。
【0025】
本発明で使用するフィコシアニンは、安定化剤と混合した市販品であるリナブルーG1(DICライフテック(株)製、トレハロース55%、フィコシアニン色素40%、クエン酸三ナトリウム5%)から使用した。これらは、特開平11-299450号公報に記載しているように、トレハロースは、熱安定性を上げるため、クエン酸は、pH調整剤として用いられている。
【0026】
(多糖類)
多糖類とはグルコースやマンノース等の単糖分子がつながったものの総称で、広義には2個以上の単糖がグリコシド結合することで構成される炭水化物のことを指す。例えば、よく知られる多糖類として、澱粉と食物繊維が挙げられる。澱粉は消化性多糖類であり、体内で分解されてエネルギーになる。一方、食物繊維は難消化性多糖類であり、体内で分解されない。
【0027】
多糖類を工業的に使用する場合、水などの溶媒に分散、溶解させて使用することが多い。水に可溶な多糖類に共通する一般的な特徴は、親水性が高く、水分子を強く保持することであり、この効果は、多糖類が多くのヒドロキシ基をはじめとする親水基を有することに起因する。親水基は水分子と非常に親和性が高く、その効果により水が結合水となり保持される。
【0028】
本発明で用いる多糖類としては、例えば、サイリウム、グルコマンナンのほか、アラビアガム、セルロースナノファイバー、水溶性ヘミセルロース、寒天、アルギン酸及びその塩類、キチン、キトサン等の生体由来の多糖類、ファーセレラン等の海藻から抽出された海藻多糖類、グアーガム、ローカストビーンガム等の種子から抽出された種子多糖類、アラビアガム、カラヤガム、トラガントガム等の樹脂浸出物、アラビノガラクタン、ペクチン等の植物から抽出された植物抽出物、更にはキサンタンガム等の醗酵ガム、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ等の澱粉質等が挙げられるが、フィコシアニンとの吸着性の優れたキサンタンガム、セルロースナノファイバー、キチン、キトサンが特に好ましい。多糖類は1種のみを用いても良いし、2種以上を混合しても良い。また、多糖類としては、市販品を使用してももちろん良い。
【0029】
(キサンタンガム)
一般式(1)の構成単位からなるポリマーであるキサンタンガムは、発酵多糖類の1種であり、微生物であるキサントモナス・キャンペストリス(Xanthomonas campestris)から産生され、主鎖がD-グルコース2分子,側鎖がD-マンノース2分子及びD-グルクロン酸1分子で構成された多糖類であり、その分子中にカルボン酸としてD-グルクロン酸とピルビン酸を含む。キサンタンガムは、厚生労働省既存添加物名簿収載品目リスト(平成26年2月4日更新)に収載され、一般に、冷菓類、ハム、ソーセージ等食品の増粘、保水剤として多用されている。
【0030】
一般的にキサンタンガムの分子量は200万から5000万であり、本発明においては、何れの分子量のキサンタンガムも好適に使用可能である。
【0031】
またキサンタンガムは、種類によって水溶性の高いものと低いものが工業的に入手可能であるが、本発明においては何れも好適に使用可能である。
【0032】
本発明に使用するキサンタンガムはカチオン化されていてもよいしされていなくてもよい。このうち、一般式(2)の構成単位からなるポリマーであるカチオン化キサンタンガムは、キサンタンガムの水酸基を例えば第4級窒素含有基等に置換し、4級アンモニウム塩化することでカチオン化変性した水溶性高分子であり、一般に、増粘剤、乳化安定剤として化粧品、トイレタリーの分野で使用されている。
【0033】
キサンタンガムのカチオン化剤としては、2,3-エポキシプロピルトリアルキルアンモニウム塩、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウム塩、塩化ヘキサメトニウム、塩化デカメトニウム、フェニルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、テトラノルマルブチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0034】
上記カチオン化剤は、2,3-エポキシプロピルトリアルキルアンモニウム塩、または3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウム塩であることが特に好ましい。これらの塩としては例えば、2,3-エポキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライドが挙げられる。本発明に使用するカチオン化キサンタンガム合成に使用するカチオン化剤は上記に限定されず、他のカチオン化剤を使用したものも好適に使用可能である。
【0035】
キサンタンガム、カチオン化キサンタンガムはその構造中にナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等の塩を含む。本発明においては、構造中にどの塩を有するものでも、また2種類以上の塩を有するものでも好適に使用可能である。また、これらのキサンタンガムは、単独で用いることもでき、又2種類以上を混合して用いることもできる。
【0036】
(セルロースナノファイバー)
セルロースはβ-グルコースがグリコシド結合により直鎖状に重合した多糖類である。本発明で使用するセルロースはナノファイバーであることが好ましく、平均直径(繊維径ともいう)が1~500nmであることが好ましく、1~150nmであることがより好ましく、3~100nmであることがさらに好ましく、5~20nmであることがさらにより好ましい。アスペクト比は、10~10000であることが好ましく、10~2000であることがさらに好ましく、10~200であることがさらに好ましく、30~120であることがさらに好ましい。かかる範囲であれば、安価で十分な効果が得ることができるからである。これらのセルロースナノファイバーは、単独で用いることもでき、又2種類以上を混合して用いることもできる。
【0037】
本発明における乾燥状態のセルロースナノファイバーのアスペクト比は、セルロースナノファイバーにおける平均繊維長と平均直径の比(平均繊維長/平均直径)を意味する。当該本発明における乾燥状態のセルロースナノファイバーの平均直径、平均繊維径およびアスペクト比は、走査電子顕微鏡(SEM)あるいは透過型電子顕微鏡(TEM、電子染色あり)により測定できる。例えば、セルロースナノファイバーが分散した分散液を基板上にキャストしてSEMで観察し、得られた1枚の画像当たり20本以上の繊維について直径と長さの値を読み取り、これを少なくとも3枚の重複しない領域の画像について行い、最低30本、望ましくは100本の繊維の直径と長さの情報を得る。得られた繊維の直径のデータから平均直径を算出し、長さのデータから平均繊維長を算出し、アスペクト比は、前記平均繊維長を前記平均直径で割ることで求めることができる。ただし、本発明の乾燥状態におけるセルロースナノファイバーのアスペクト比は、上記以外の手法で算出しても良い。なお、本発明において、乾燥状態とは、自然乾燥や凍結減圧乾燥といった従来公知の方法によって、少なくともセルロースナノファイバーから99質量%以上、液体を除去した状態である。
【0038】
本発明で使用するセルロースナノファイバーは、上述したように電子顕微鏡観察結果に基づいて算定した平均直径、平均繊維長およびアスペクト比により表現することもできるし、市販の電気的、光学的粒子径測定装置を用いて、流体力学的粒子径として表現することも可能である。本発明で使用するセルロースナノファイバーの流体力学的粒子径は、例えば、動的光散乱式ナノトラック粒度分析計UPA-150EX(日機装株式会社製)で測定することができる。本願明細書で述べるセルロースナノファイバーの流体力学的粒子径とは、セルロースナノファイバーが、溶媒中に分散したときに形成する流体力学的等価球モデルの平均粒子径に相当するものである。原理的には一定体積の粒子を小さいものから順に篩分けし、粒子径分布を表示する。よって、そのモード値とは、粒子径分布の極大値である。20%粒子径とは、粒子径分布の20%体積に当たる粒子が分別された時点での粒子径であり、80%粒子径とは、粒子径分布の80%体積に当たる粒子が分別された時点での粒子径である。
【0039】
本発明で使用するセルロースナノファイバーは、0.1質量%(溶媒:水)における流体力学的粒子径の最頻値(モード値)が100nm以上1500nm以下であることが好ましく、200nm以上1000nm以下であることがより好ましく、250nm以上800nm以下であることが更に好ましい。流体力学的粒子径の分布は、80%粒子径と20%粒子径との比の値、すなわち、(80%粒子径)/(20%粒子径)の値が、10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましく、6以下であることが更に好ましい。
【0040】
本発明で使用するセルロースナノファイバーは、特に限定されず、市販品や、公知の製造方法により製造したものを用いることができる。一般的には、セルロース繊維含有材料をリファイナー、高圧ホモジナイザー、媒体攪拌ミル、石臼、グラインダー等により磨砕及び/又は叩解することによって解繊又は微細化して製造されるが、例えば特開2005-42283号公報に記載の方法等の公知の方法で製造することもできる。また、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))を利用して製造することもできる。さらに、市販品を利用することも可能である。セルロース繊維含有材料は、植物(例えば木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農作物残廃物、布、パルプ、再生パルプ、古紙)、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等を起源とするものが知れているが、本発明ではそのいずれも使用できる。好ましくは植物又は微生物由来のセルロースナノファイバーであり、より好ましくは植物由来のセルロースナノファイバーである。
【0041】
本発明で使用するセルロースナノファイバーは、例えば、特開2011-56456号公報記載の方法で製造されたいわゆる未変性セルロースナノファイバー、未変性セルロースナノファイバー市販品、特開2019-143044号公報、特開2013-181167号公報、特開2010-216021号公報記載のような何らかの化学修飾を施したいわゆる変性セルロースナノファイバー、変性セルロースナノファイバー市販品、を用いることができる。
【0042】
未変性セルロースナノファイバーの市販品としては、スギノマシン株式会社のバイオナノファイバー「BiNFi-s」シリーズ、ダイセルファインケム株式会社の「セリッシュ」シリーズおよび中越パルプの「CNF」シリーズ等がある。これらのセルロースナノファイバーは、単独で用いることもでき、又2種類以上を混合して用いることもできる。
【0043】
変性セルロースナノファイバーの変性例としては、TEMPO触媒酸化、リン酸エステル化、亜リン酸エステル化、スルホン化、カルボキシメチル化、ザンテート化などがある。変性セルロースナノファイバー市販品としては、日本製紙株式会社の「セレンピア」シリーズ、王子ホールディングス株式会社の「アウロ・ヴィスコ」シリーズ、第一工業製薬株式会社の「レオクリスタ」シリーズなどがある。これらのセルロースナノファイバーは、単独で用いることもでき、又2種類以上を混合して用いることもできる。
【0044】
変性セルロースナノファイバーの中で例として、カルボキシメチル化セルロースのナノファイバーが使用できる。カルボキシメチル化セルロースは、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基の一部がカルボキシメチル基とエーテル結合した構造を有する。
【0045】
カルボキシメチル化セルロースのナノファイバーとは、上記の構造を有するカルボキシメチル化セルロースをナノスケールの繊維径を有するナノファイバーへと変換したものをいう。カルボキシメチル化セルロースは、例えばカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩などの金属塩といった塩の形態をとる場合もあり、カルボキシメチル化セルロースのナノファイバーも塩の形態をとっていてもよい。
【0046】
本発明のカルボキシメチル化セルロースのナノファイバーは、水に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるものである。すなわち、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの水分散体を電子顕微鏡で観察すると、繊維状の物質を観察することができるものである。また、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーをX線回折で測定した際にセルロースI型結晶のピークを観測することができるものである。
【0047】
本発明で使用するセルロースナノファイバーの結晶化度(セルロースI型の結晶構造の割合)に、特に制限はない。結晶化度(セルロースI型の結晶構造の割合)は、X線回析により求められる。
【0048】
(キチン、キトサン)
キチンは下記一般式(3)で示される多糖類であり、エビ、カニをはじめとして、昆虫、貝、キノコにいたるまで、きわめて多くの生物に含まれている天然の素材である。地球上で合成される量は1年間で1000億トンにもなると推測されている豊富な生物資源である。
【0049】
一般式(3):
【0050】
【0051】
本発明において用いるキトサンは、カニやエビなど自然界に広く存在する甲殻類の酸キチン質から炭酸カルシウム等のミネラル分とタンパク質を除去して得られるキチンを、水酸化ナトリウム等のアルカリで脱アセチル化した多糖類である。
【0052】
本発明において用いるキトサンは、下記一般式(4)で示されるキチンの2位に結合したアセトアミド基部分を脱アセチル化してアミノ基とした、D-グルコサミンが多数β-(1,4)-で結合した、長い直鎖状のセルロースに近似した構造を持つ多糖類である。
【0053】
一般式(4):
【0054】
【0055】
キチンおよびキトサンはそれぞれ単独で使用することもできるし、混合して使用することもできる。
【0056】
キチン、キトサンの分子量は、高分子量からオリゴ糖までの中間の中分子量製品も開発されており、単量体~高分子まで切れ目なく利用されている。一例として、キチンの場合、高分子量製品だと一般式(3)のm=8,000~16,000程度、オリゴ糖製品だと、m=0~10である。また、キトサンの場合、高分子量製品だと一般式(4)のn=700~2,000程度、オリゴ糖製品だと、m=0~10である。
【0057】
キチンの構造を一般式(3)に示したが、キチンにはD-グルコサミン単位もある程度含有している。また、キトサンの構造を一般式(4)に示したが、通常のキトサンは100%脱アセチル化した物ではなく、多少のアセチル基を含んでいる。本発明において用いられるキトサンは、一般式(4)に表されるように、キチンの2位に結合するアセトアミド基部分が脱アセチル化されたキトサンの他、キチンの脱アセチル化の程度によって、N-アセチル-Dグルコサミン残基が不特定に一部残存しているような部分脱アセチル化キトサンであってもよい。
【0058】
しかしながら、本発明において用いられるキトサンの脱アセチル化度は高い程好ましい。特に少なくとも70%近くまで脱アセチル化されているキトサンを用いることが好ましい。
【0059】
さらに、キチン、キトサンの性質は分子量、構成単位の割合だけでなく、アルカリ処理の方法などによっても異なる。そのため、構成単位の割合によってキチンとキトサンのあいだに線を引いて明確に区分けすることは難しい。
【0060】
キトサンは無機酸または有機酸の希釈水溶液に溶解するため、酸溶液として使用できる。キトサンを溶解する酸としては、塩酸、硝酸、リン酸等の無機酸、およびギ酸、シュウ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、リンゴ酸、コハク酸、アジピン酸、クエン酸等の有機酸が用いられる。酸の濃度は0.5~15%(W/V%)が好ましい。キトサンを酸希釈水溶液に溶解していくと、溶液の粘度は増加しゲル状となる。従って、これらの酸希釈水溶液に溶解するキトサンの濃度は、得られるゲルが流動性を有する限り制限はないが、キトサンの酸希釈水溶液に対する溶解濃度は、0.5~15%(W/V%)が好ましい。
【0061】
本発明の非水溶性色素組成物は、フィコシアニンと多糖類が吸着していることが好ましい。吸着は物理的吸着であっても、化学的吸着でもあっても構わないが、色素組成物として機能を最大限発揮するためには物理的吸着のほうがより好ましい。
【0062】
本発明の非水溶性色素組成物は、多糖類の表面にフィコシアニンが被覆されている状態がより好ましい。被覆の定義として、フィコシアンが多糖類表面に一部または均一に存在し覆っている状態を示すが、いずれの状態でも好適に使用できる。
【0063】
フィコシアニンと吸着する、または、フィコシアニンで被覆される多糖類としては、上記多糖類が何れも使用可能であるが、吸着状態をより強固する観点から、キサンタンガム、セルロースナノファイバー、キチン、キトサンから選ばれる少なくとも1種であることが特に好ましい。
【0064】
本発明の非水溶性色素組成物に用いられる多糖類は、キサンタンガム、セルロースナノファイバー、キチン、キトサンの中から2種類以上混合して用いてもよい。
【0065】
(非水溶性色素組成物)
従来フィコシアニン単体は染料の形態であるため水溶性であるが、本発明では、強固にフィコシアニンが多糖類の粒子又は繊維表面に吸着することにより、フィコシアニンと多糖類の粒子又は繊維を含有する色素組成物とすることで、水に不溶となることを見出した。不溶化のメカニズムとしては、下記に一例を示しているが、これに限定されるものではない。
フィコシアニンの等電点は、藻株の種類によって異なり4.1~6.4で、スピルリナ由来のフィコシアニンの等電点は4.2付近である。pHが4.2付近の水溶液中では、フィコシアニン同士の静電的反発力が最小化し、フィコシアニンの溶解度が最も小さくなる。そのようなpHの水中において、フィコシアニンは近傍に存在する多糖類と吸着し、フィコシアニンと多糖類の複合体として析出、水に不溶化した、と考えている。
【0066】
本発明によって得られた不溶化した顔料により、青系色素として食品や化粧品用途に限定されていたフィコシアニンを、通常の顔料と同等の着色材として、食品、化粧品、医薬品または農薬のコーティング材または印字マーカー、文房具、筆記具、印刷インキ、インクジェットインキ、金属インキ、塗料、プラスチック着色剤、カラートナー、蛍光標識剤、蛍光プローブ、または化学センサー等の用途に使用できうる耐性まで向上することができた。また、不溶化に伴い、耐熱性、耐光性等の特性向上も期待できる。なお、本発明の非水溶性色素組成物の用途は、上記の用途に限定されるものではない。
【0067】
本発明の非水溶性色素組成物として、フィコシアニンと多糖類の組成の質量比は、任意に設計が可能であり、フィコシアニン:多糖類=0.1:99.9~90:10の割合で設定して使用することができる。好ましくは、フィコシアニン:多糖類=1:99~70:30である。
【0068】
(非水溶性色素組成物の製造方法)
本発明の非水溶性色素組成物を製造する方法としては、溶媒中でフィコシアニンと多糖類の粒子又は繊維を混合する方法が最も均一な非水溶性色素組成物を製造できるため好ましい。
【0069】
溶媒中で各物質を混合する非水溶性色素組成物の製造方法としては、1)まず多糖類の水分散液を作製する。2)一方でフィコシアニンまたは、フィコシアニンを含有する調剤を水に溶解し、水溶液を作製する。3)次に上記2つの液を混合して、非水溶性色素組成物を作製する。4)得られた非水溶性色素組成物を含む混合液を濾過、乾燥する方法が挙げられる。
【0070】
多糖類とフィコシアニンを混合する方法としては、多糖類の水分散液にフィコシアニン含有水溶液を混合しても良いし、その逆にフィコシアニン含有水溶液に多糖類の水分散液を混合しても良いし、これら2つの液を少量ずつ混合しながら作製しても構わない。また、多糖類もしくはフィコシアニンの液に、フィコシアニンもしくは多糖類の粉末を加えても良いし、多糖類、フィコシアニンの粉末を混合し水を添加しても良い。混合する温度は、室温、加熱して混合しても構わない。フィコシアニン単体の分解温度を考慮し、10~60℃で混合するのが好ましく、20~50℃がより好ましい。また、多糖類とフィコシアニン含有水溶液を混合する際のpHの範囲は、6.0~8.0が好ましく、6.3~7.5に調整することがさらに好ましい。
【0071】
pHを調整する際のpH調整剤としては、塩酸、クエン酸、酢酸、乳酸などが挙げられる。pH調整剤を添加したときの混合液のpHの範囲は、混合液中で多糖類とフィコシアニンを効率的に吸着させ不溶化させる観点から、3.0~5.0が好ましく、3.5~5.0に調整することがさらに好ましい。
【0072】
得られた非水溶性色素組成物を含む混合液を濾過、乾燥し、非水溶性色素組成物を得ることができる。混合液をヌッチェ等のろ過器でろ過し、ウェットケーキの水洗を繰り返す。初めろ液は着色しているが、徐々に着色が薄くなり、最終的に無色透明になる。ろ液に着色がなくなった後もウェットケーキが着色していることから、色素であるフィコシアニンと多糖類が吸着していることを確認できる。得られた非水溶性色素組成物の水含有ウェットケーキは、室温や加熱、真空、減圧乾燥等により乾燥し、ドライの非水溶性色素組成物を得ることができる。乾燥方法、乾燥機は、通常の方法、装置であればいかなるものでも可能であり、限定されるものではない。
【0073】
本発明の非水溶性色素組成物は、上記の水が含有したウェットケーキであっても乾燥したドライの非水溶性色素組成物であっても、用途によって使い分けが可能である。水系の分散液、インキに使用する場合は、ウェットケーキをそのまま使用が可能であり、溶剤分散系の場合は、水系から溶剤系に置換し、使用が可能である。ドライの非水溶性色素組成物は、そのままでも使用可能であるし、水、または有機溶媒、樹脂溶液等に再分散させて使用することももちろん可能である。
【0074】
(安定化剤、添加剤)
本発明の非水溶性色素組成物に、他の有機顔料、無機顔料、染料、色素を任意の割合で混合することももちろん可能であり、所望の要求される色相を満たすことができる。本発明の非水溶性色素組成物を更に耐光性、耐熱性を付与するために、安定化剤や添加剤を添加することもできる。
【0075】
安定化剤、添加剤の添加は、多糖類の水溶液または、フィコシアニン含有水溶液各々または両方に添加することも可能であるし、作製された非水溶性色素組成物に添加しても良い。
【0076】
本発明の非水溶性色素組成物は、必要に応じて、他の樹脂、ゴム、添加剤、顔料や染料等と混合され最終的な食品、化粧品、医薬品または農薬のコーティング材または印字マーカー、文房具、筆記具、印刷インキ、インクジェットインキ、金属インキ、塗料、プラスチック着色剤、カラートナー、蛍光標識剤、蛍光プローブ、または化学センサー等に調整され使用される。以下、上記用途の一例を示す。
【0077】
(化粧品用途)
本発明の非水溶性色素組成物は、化粧品として使用できる。使用される化粧品には特に制限はなく、本発明の非水溶性色素組成物は、様々なタイプの化粧品に使用することができる。
【0078】
前記化粧品は、機能を有効に発現することができる限り、いかなるタイプの化粧品であってもよい。前記化粧品は、ローション、クリームゲル、スプレー等であってよい。前記化粧品としては、洗顔料、メーク落とし、化粧水、美容液、パック、保護用乳液、保護用クリーム、美白化粧品、紫外線防止化粧品等のスキンケア化粧品、ファンデーション、白粉、化粧下地、口紅、アイメークアップ、頬紅、ネイルエナメル等のメークアップ化粧品、シャンプー、ヘアリンス、ヘアトリートメント、整髪剤、パーマネント・ウェーブ剤、染毛剤、育毛剤等のヘアケア化粧品、身体洗浄用化粧品、デオドラント化粧品、浴用剤等のボディケア化粧品などを挙げることができる。
【0079】
前記化粧品に使用される本発明の非水溶性色素組成物の量は、化粧品の種類に応じて適宜設定することができる。前記化粧品中の含有量が通常0.1~99質量%の範囲であり、一般的には、0.1~10質量%の範囲となるような量であることが好ましい。一方で、着色が目的のメークアップ化粧品では、好ましくは5~80質量%の範囲、さらに好ましくは10~70質量%の範囲、最も好ましくは20~60質量%の範囲となるような量であることが好ましい。前記化粧品に含まれる本発明の非水溶性色素組成物の量が前記範囲であると、着色性等の機能を有効に発現することができ、かつ化粧品に要求される機能も保持することができる。
【0080】
前記化粧品は、化粧品の種類に応じて、本発明の非水溶性色素組成物の他、化粧品成分として許容可能な、担体、顔料、油、ステロール、アミノ酸、保湿剤、粉体、着色剤、pH調整剤、香料、精油、化粧品活性成分、ビタミン、必須脂肪酸、スフィンゴ脂質、セルフタンニング剤、賦形剤、充填剤、乳化剤、酸化防止剤、界面活性剤、キレート剤、ゲル化剤、濃厚剤、エモリエント剤、湿潤剤、保湿剤、鉱物、粘度調整剤、流動調整剤、角質溶解剤、レチノイド、ホルモン化合物、アルファヒドロキシ酸、アルファケト酸、抗マイコバクテリア剤、抗真菌剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、鎮痛剤、抗アレルギー剤、抗ヒスタミン剤、抗炎症剤、抗刺激剤、抗腫瘍剤、免疫系ブースト剤、免疫系抑制剤、抗アクネ剤、麻酔剤、消毒剤、防虫剤、皮膚冷却化合物、皮膚保護剤、皮膚浸透増強剤、剥脱剤(exfoliant)、潤滑剤、芳香剤、染色剤、脱色剤、色素沈着低下剤(hypopigmenting agent)、防腐剤、安定剤、医薬品、光安定化剤、及び球形粉末等を含むことができる。
【0081】
前記化粧品は、本発明の非水溶性色素組成物およびその他の化粧品成分を混合することによって製造することができる。また、本発明の非水溶性色素組成物を含む化粧品は、該化粧品のタイプ等に応じて、通常の化粧品と同様に使用することができる。
【0082】
(インキ、塗料用途)
本発明の非水溶性色素組成物は、インキ、塗料として使用できる。ただし、インキ、塗料の用途、組成について記述するが、これらに限定されるものではない。また本発明の非水溶性色素組成物は、熱可塑性樹脂のみに分散させてもよいが、熱可塑性樹脂を必須成分として含有する印刷インキ用ビヒクルや塗料用ビヒクル等に分散させることも出来る。
【0083】
熱可塑性樹脂としては、たとえばポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン、ポリアルキレンテレフタレートやポリ塩化ビニル樹脂等の樹脂が分散用樹脂として使用できる。
【0084】
たとえば平版印刷用インキのビヒクルは、たとえばロジン変性フェノール樹脂、石油樹脂、アルキッド樹脂等の樹脂を20~50(質量)%、アマニ油、桐油、大豆油等の動植物油を0~30(質量)%、n-パラフィン、イソパラフィン、ナフテン、α-オレフィン、アロマティック等の溶剤を10~60(質量)%、その他可溶化剤、ゲル化剤等の添加剤を数(質量)%の原料から製造される。
【0085】
またグラビア印刷インキ、フレキソ印刷インキ用ビヒクルの場合は、たとえばロジン類、マレイン酸樹脂、ポリアミド樹脂、ビニル樹脂、環化ゴム、塩化ゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ニトロセルロース、酢酸セルロース等から選ばれる一種以上の樹脂を10~50(質量)%、アルコール類、トルエン、n-ヘキサン、酢酸エチル、セロソルブ、酢酸ブチルセロソルブ等の溶剤30~80(質量)%の原料等から製造される。
【0086】
塗料用のビヒクルでは、たとえばアルキド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、水溶性樹脂等の樹脂20~80(質量)%、炭化水素類、アルコール類、ケトン類、水等の溶剤10~60(質量)%の原料等から製造される。
【0087】
(プラスチック用途)
本発明の非水溶性色素組成物はプラスチック着色用途にも使用できる。着色プラスチック成形品を得る場合には、たとえばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンやポリ塩化ビニル樹脂等の、射出成形やプレス成形等の熱成形用の熱可塑性樹脂(プラスチック)が用いられるが、本発明の非水溶性色素組成物はこれらの樹脂に従来公知の方法で練り込んで使用することができる。
【0088】
(トナー用途)
本発明の非水溶性色素組成物はトナー着色用途にも使用できる。静電荷像現像用トナーを得る場合には、たとえばポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂等の常温で固形の皮膜形成性の熱可塑性樹脂が分散用樹脂として使用される。
【0089】
本発明の非水溶性色素組成物を構成成分として製造される静電荷像現像用トナーは、トナー中に磁性体を含有する1成分色磁性トナー(磁性一成分現像用カラートナー)、磁性体を含有しない非磁性1成分色カラートナー(非磁性一成分現像用カラートナー)、又は、キャリアーを混合した2成分色現像剤用カラートナー(二成分現像用カラートナー)として用いることができる。
【0090】
1成分色磁性トナーは、通常使用されているものと同様に、例えば着色剤、結着樹脂、磁性粉、電荷制御剤(CCA)や離型剤に代表されるその他添加剤等から構成出来る。
【0091】
静電荷像現像用トナー中に占める非水溶性色素組成物の使用量は特に限定されないが、結着樹脂100質量部に対し0.5~25質量部の割合で使用することが好ましく、着色剤自身の有する帯電性能を一層顕著ならしめる点から結着樹脂100質量部に対し4~10質量部であることが更に好ましい。
【0092】
静電荷像現像用トナーに用いられる結着樹脂としては、前記熱可塑性樹脂として例示した公知慣用のものがいずれも使用できるが、熱又は圧力の適用下で接着性を示す合成樹脂、天然樹脂、天然ゴム、合成ゴム、合成ワックス等がいずれも使用できる。
【0093】
(蛍光標識剤、蛍光プローブ用途)
フィコシアニンは赤色蛍光性を有することが知られている。本発明のフィコシアニン組成物において、フィコシアニンはその構造は維持されることから、蛍光性を利用した用途、例えば蛍光標識剤、蛍光プローブ等に使用することができる。
【0094】
例えば、本発明のフィコシアニン組成物における多糖類に、さらに所望の標的生体分子を分子認識する物質を表面に結合もしくは吸着させることによって蛍光標識剤とすることができる。具体的には検体(例えば、任意の細胞抽出液、溶菌液、培地・培養液、溶液、バッファー)中の標的生体分子(生理活性物質を含む。)を蛍光標識付けすることができる。前記標的生体分子を分子認識する物質としては、抗体、抗原、ペプチド、DNA、RNA、糖鎖、リガンド、受容体、化学物質等が挙げられる。前記標的生体分子との分子認識が、抗原-抗体反応である場合は、免疫染色用試薬とすることも可能である。
【0095】
(化学センサー用途)
フィコシアニンはpHが4.5~8.0では安定的な青色を呈するが、これを外れると、その色が消失する。特にpHが3.0に向かって徐々にその色が減退することを利用することによって、pHを検出するための化学センサーとして使用することもできる。
【0096】
例えば、環境河川水、地下水、産業排水中に含まれるイオンを簡便に検出することができる。日常的な環境モニタリングや工場排水の管理等において、その手段として、大型の測定機器による機器分析を使用するには、時間、コスト、及び労力の点で問題が多いが、本発明のフィコシアニン組成物を用いることで、測定の現場で、簡便にpH変化を観測でき、また、非水溶性であることより、濾別等で回収できるため、水性媒体に色素を流出させることもなく工程管理に使用することも可能である。
【実施例】
【0097】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0098】
(溶解性測定(常温))
本発明の非水溶性色素組成物は、水に不溶であることを特徴としており、水分散液のスポットテスト及び下記試験法により確認した。JISK5101-16-2 顔料試験方法-第16部:水溶分-第2節:常温抽出法を参考にした。
試料5.00gを500mlの硬質ビーカーに正しく計りとり、イオン交換水(電導度5μS/cm以下、pH=7.0±1.0)200gを、初め少量ずつ加えて、よくぬらした後、全量を加えて、常温で1時間攪拌する。この固体及び溶液にイオン交換水を加えて255gとした後、よくかき混ぜてろ紙でろ過する。ろ液の最初の約50mlを捨て、残りの中から50mlをメスシリンダーで計り取り、質量既知の蒸発ざらに移す。メスシリンダーに付着したろ液は少量のイオン交換水で蒸発ざらに洗い流す。この蒸発皿を水浴上で蒸発乾固させ、105±2℃に保った乾燥器中で2時間乾燥した後、デシケーターに入れ、放冷した後の質量をはかり、次式に依り水可溶分を算出する。
【0099】
[蒸発残量(g)×5.0 / 試料の質量(g)] ×100 = 水可溶分(%)
【0100】
(実施例1)
200mlビーカーに、イオン交換水60g、キサンタンガム(東京化成工業株式会社製)0.40g を入れて撹拌し、塩酸を添加しpHを4.0に調整し、分散液Aを作製した。また、300mlビーカーに、イオン交換水80g、リナブルーG1(DICライフテック株式会社製、トレハロース55%、フィコシアニン色素40%、クエン酸三ナトリウム5%)1.5gを入れて撹拌し、3.5%に希釈した塩酸を添加しpHを4.0に調整し、溶液Bを作製した。撹拌をしている溶液Bへ分散液Aを5分かけて徐々に添加し、30分攪拌した。その後、ろ紙で濾過し、イオン交換水500mlで洗浄した。濾過後の固体を真空乾燥機(740mmHg)で20℃、12時間乾燥し、粉体(1)1.0gを得た。
粉体(1)の収量から、仕込んだキサンタンガム分を差し引いて求めた、粉体(1)中のキサンタンガムとフィコシアニン色素の組成比率は、質量比で、フィコシアニン:キサンタンガム=60:40だった。得られた粉体(1)はフィコシアニンと同系の青色を呈した。
粉体(1)10mgを水1.0gに添加し、5分間攪拌し、分散液(1)を作製した。分散液(1)をろ紙上に1滴滴下したところ、滴下部分は円状に青く呈色し、その後同心円状に無色透明の液が広がっていく様子が観察された。初めに円状に青く呈色した部分は水に不溶化した粉体(1)、その後同心円状に透明の液が広がった部分は水であり、粉体(1)は水に不溶であったことが分かった。
【0101】
(実施例2)
200mLビーカーに、リナブルーG1(DICライフテック株式会社製、トレハロース55%、フィコシアニン色素40%、クエン酸三ナトリウム5%)1.00g、イオン交換水100mLを添加し、室温(20℃)で10分間攪拌した。その後、カルボキシメチルセルロースナトリウムのナノファイバーであるセレンピアCS-01(日本製紙株式会社製) 0.6gを添加し、室温(20℃)で更に20分間攪拌した。3.5%に希釈した塩酸を加え、pHを6.5から4.0に調整した。その後、30分攪拌後、ろ紙で濾過し、イオン交換水500mLで洗浄液に色がつかなくなるまで洗浄した。濾過後の固体を真空乾燥機(740mmHg)で30℃、12時間乾燥し、粉体(2)0.91gを得た。粉体(2)の収量から、仕込んだセルロースナノファイバー分を差し引いて求めた、粉体(2)中のフィコシアニン色素とセルロースナノファイバーの組成比率は、質量比で、フィコシアニン:セルロースナノファイバー=34:66だった。得られた粉体(2)はフィコシアニンと同系の青色を呈した。
粉体(2)10mgを水1.0gに添加し、5分間攪拌し、分散液(2)を作製した。分散液(2)をろ紙上に1滴滴下したところ、滴下部分は円状に青く呈色し、その後同心円状に無色透明の液が広がっていく様子が観察された。初めに円状に青く呈色した部分は水に不溶化した粉体(2)、その後同心円状に透明の液が広がった部分は水であり、粉体(2)は水に不溶であったことが分かった。
【0102】
(実施例3)
1Lステンカップに、脱アセチル化度が80mol%以上のキトサンの粉末であるキトサン10(富士フイルム和光純薬株式会社製)を1.50gと酢酸(関東化学株式会社製)でpHを4.0に調整したイオン交換水298.5gを加え、ホモディスパーで1時間攪拌し、60時間静置した。この溶液にリナブルーG1(DICライフテック株式会社製、トレハロース55%、フィコシアニン色素40%、クエン酸三ナトリウム5%)3.75gを加えた。室温(20℃)で、溶液を5分間攪拌後、4.8%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを4.8から7.2に調整した。1時間攪拌後、ろ紙で濾過し、イオン交換水2Lで洗浄液に色がつかなくなるまで洗浄した。濾過後の固体を真空乾燥機(740mmHg)で20℃、12時間乾燥し、粉体(3)2.31gを得た。粉体(3)の収量から、仕込んだキトサン分を差し引いて求めた、粉体(3)中のキトサンとフィコシアニン色素の組成比率は、質量比で、フィコシアニン:キトサン=35:65だった。
得られた粉体(3)はフィコシアニンと同系の青色を呈した。
粉体(3)10mgを水1.0gに添加し、5分間攪拌し、分散液(3)を作製した。分散液(3)をろ紙上に1滴滴下したところ、滴下部分は円状に青く呈色し、その後同心円状に無色透明の液が広がっていく様子が観察された。初めに円状に青く呈色した部分は水に不溶化した粉体(3)、その後同心円状に透明の液が広がった部分は水であり、粉体(3)は水に不溶であったことが分った。
なお水可溶分は、0.016%だった。
【0103】
(実施例4)
1Lステンカップに、純度が80%以上のキチンの粉末であるキチン(関東化学株式会社製)を1.50gと酢酸でpHを4.0に調整したイオン交換水298.5gを加え、ホモディスパーで1時間攪拌し、60時間静置した。この溶液にリナブルーG1を3.75g加えた。室温(20℃)で、溶液を5分間攪拌後、4.8%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを4.8から7.2に調整した。1時間攪拌後、ろ紙で濾過し、イオン交換水2Lで洗浄液に色がつかなくなるまで洗浄した。濾過後の固体を真空乾燥機(740mmHg)で20℃、12時間乾燥し、粉体(4)1.53gを得た。粉体(2)の収量から、仕込んだキチン分を差し引いて求めた、粉体(4)中のキチンとフィコシアニン色素の組成比率は、質量比で、フィコシアニン:キチン=2:98だった。
得られた粉体(4)はフィコシアニンと同系の青色を呈した。
粉体(4)10mgを水1.0gに添加し、5分間攪拌し、分散液(4)を作製した。分散液(4)をろ紙上に1滴滴下したところ、滴下部分は円状に青く呈色し、その後同心円状に無色透明の液が広がっていく様子が観察された。初めに円状に青く呈色した部分は水に不溶化した粉体(4)、その後同心円状に透明の液が広がった部分は水であり、粉体(4)は水に不溶であったことが分かった。
なお水可溶分は、0.30%だった。
【0104】
(実施例5)
1Lステンカップに、キチン(関東化学株式会社製)を0.75g、キトサン10(富士フイルム和光純薬株式会社製)を0.75gと酢酸でpHを3.5に調整したイオン交換水298.5gを加え、ホモディスパーで1時間攪拌した。この溶液にリナブルーG1を3.75gを加えた。室温(20℃)で、溶液を5分間攪拌後、4.8%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを4.8から7.2に調整した。1時間攪拌後、ろ紙で濾過し、イオン交換水2Lで洗浄液に色がつかなくなるまで洗浄した。濾過後の固体を真空乾燥機(740mmHg)で20℃、12時間乾燥し、粉体(5)1.62gを得た。粉体(3)の収量から、仕込んだキチン・キトサン分を差し引いて求めた、粉体(5)中のキチン・キトサンとフィコシアニン色素の組成比率は、質量比で、フィコシアニン:キチン・キトサン=7:93だった。
得られた粉体(5)はフィコシアニンと同系の青色を呈した。
粉体(5)10mgを水1.0gに添加し、5分間攪拌し、分散液(5)を作製した。分散液(5)をろ紙上に1滴滴下したところ、滴下部分は円状に青く呈色し、その後同心円状に無色透明の液が広がっていく様子が観察された。初めに円状に青く呈色した部分は水に不溶化した粉体(5)、その後同心円状に透明の液が広がった部分は水であり、粉体(5)は水に不溶であったことが分かった。
なお水可溶分は、0.43%だった。
【0105】
(比較例1)
特開平11-299450の製造方法で作製されたリナブルーG1を使用した。リナブルーG1を10mg、水1.0gに添加し、5分間攪拌し、分散液(6)を作製した。分散液(6) をろ紙上に1滴滴下したところ、滴下部分を中心に同心円状に青色の液が均一に広がっていく様子が観察された。これは分散液(6)において、リナブルーG1が水に溶解していることを示しており、リナブルーG1は水に可溶であった。
なお水可溶分は、98.4%だった。
【0106】
実施例1~5、比較例1で明らかなように、フィコシアニンは水溶性であるが、フィコシアニンと多糖類とを含有する色素組成物は非水溶性であった。