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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-30
(45)【発行日】2023-06-07
(54)【発明の名称】培養細胞の生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20230531BHJP
   C12N 5/04 20060101ALI20230531BHJP
   C12N 5/07 20100101ALI20230531BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230531BHJP
   C12N 5/074 20100101ALI20230531BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALI20230531BHJP
【FI】
C12N15/09 100
C12N5/04
C12N5/07
C12N5/10
C12N5/074 ZNA
C12N5/0735
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021505006
(86)(22)【出願日】2020-03-06
(86)【国際出願番号】 JP2020009554
(87)【国際公開番号】W WO2020184403
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-08-06
(31)【優先権主張番号】P 2019042383
(32)【優先日】2019-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509013703
【氏名又は名称】公立大学法人福島県立医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】514219190
【氏名又は名称】ゼノジェンファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横内 裕二
(72)【発明者】
【氏名】江良 択実
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 眞一
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-506170(JP,A)
【文献】タカラバイオ株式会社,ゲノム編集実験ハンドブック, [online], [2020.05.13 検索],2019年02月22日,<URL:takara-bio.co.jp/goods/catalog/pdf/handbook_ for_gene_editing_experiment.pdf>
【文献】Nature Methods,2017年,Vol.14, No.6,pp.615-620
【文献】フナコシ,3'末端の一塩基ミスマッチを検出するDNAポリメラーゼ HiDi DNA Polymerase, [online], [2020.05.13 検索],2016年01月21日,<URL:https://w ww.funakoshi.co.jp/contents/64527>
【文献】藤田敏次 ほか,ORNi-PCRを利用したゲノム編集細胞の検出,第41回日本分子生物学会年会オンライン要旨,2018年11月09日,[2P-0691]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09-15/90
C12N 1/00- 7/08
C12Q 1/00- 3/00
A61K 35/00-35/768
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)複数の動物細胞又は植物細胞に対してインビトロでゲノム編集を行う工程、
b)前記動物細胞又は植物細胞を培養容器において接着培養により又は半固形培地上で培養し、単一細胞に由来する複数のコロニーを形成させる工程、
c)前記複数のコロニーの一部について、核酸中の一以上の塩基配列を一塩基ミスマッチ検出PCRにより検出する工程であって、その間、前記複数のコロニーが培養容器において培養される工程、及び
d)前記検出法の結果に基づいて、前記一部のコロニーを選択して採取する工程、
を含み、
前記ゲノム編集においてマーカー塩基を導入せず、前記工程c)においてゲノム編集によって置換される前のヌクレオチドが存在しないことを検出する、培養細胞の生産方法。
【請求項2】
前記工程d)において採取された細胞をさらに培養する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程b)において、細胞を接着培養により培養する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程c)において、前記複数のコロニーが、4時間~6日間培養される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記動物細胞が哺乳動物細胞である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記哺乳動物細胞が幹細胞である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記培養容器が、容器上の各コロニーの位置を識別可能な識別子を有し、前記工程d)において、前記識別子に基づいて前記一部のコロニーを識別して選択を行う、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記識別子を有する培養容器が、グリッド付プレートである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記工程d)の後に、前記複数のコロニーの一部をダイレクトシークエンス法に供する工程を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ゲノム編集により、ゲノムDNA中の変異型塩基配列を野生型塩基配列に置換するか、又は野生型塩基配列を変異型塩基配列に置換する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記変異型塩基配列が疾患の原因となる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ゲノム編集が、TALEN及びその改変体、SpCas9及びその改変体、SaCas9及びその改変体、ScCas9及びその改変体、AsCpf1及びその改変体、LbCpf1及びその改変体、FnCpf1及びその改変体、MbCpf1及びその改変体、CBE及びその改変体又は類似体、ABE及びその改変体又は類似体からなる群から選択されるタンパク質を用いて行われる、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
動物細胞又は植物細胞においてインビトロのゲノム編集により、マーカー塩基を導入することなくゲノムDNA中の変異型塩基配列を野生型塩基配列に置換するか、又は野生型塩基配列を変異型塩基配列に置換する工程、
ゲノム編集後の細胞において、ゲノム編集によって置換される前のヌクレオチドが存在しないことを検出する工程、及び
置換される前のヌクレオチドが存在しないことが検出された細胞を選択して採取する工程、
を含み、
前記ゲノム編集によって置換される前のヌクレオチドが存在しないことを、一塩基ミスマッチ検出PCRにより検出する、培養細胞の生産方法。
【請求項14】
前記ゲノム編集が、TALEN及びその改変体、SpCas9及びその改変体、SaCas9及びその改変体、ScCas9及びその改変体、AsCpf1及びその改変体、LbCpf1及びその改変体、FnCpf1及びその改変体、MbCpf1及びその改変体、CBE及びその改変体又は類似体、ABE及びその改変体又は類似体からなる群から選択されるタンパク質を用いて行われる、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
一実施形態において、本発明は、培養細胞の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトゲノムには、107個の一塩基多型(SNP)が存在すると予測されており、これらがヒトの形態、体質、及び素因等の表現型を決定すると考えられている。特に、疾患に関連するSNPは病原性SNPと呼ばれ、例えば直接的又は間接的に多発性内分泌腺腫症2型(MEN2B)又は栄養障害型表皮水疱症(DEB)等の遺伝性疾患を生じさせることが知られている(非特許文献1及び2)。
【0003】
これまでに、病原性SNP又は遺伝的変異を有する疾患特異的人工多能性幹細胞(iPSC)が、患者から作製され、in vitroでのモデル疾患として用いられている(非特許文献3、4)。これらのiPSCを修復し、同系の復帰突然変異体細胞を作製することは、ゲノム編集の有望な戦略であり、また新たな治療法の開発にも役立ち得る(非特許文献4)。しかしながら、ゲノム編集手順は現在のところ煩雑であり、その応用のためには、正確で簡便なゲノム編集法が必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Wellcome Trust Case Control Consortium, 2007, Nature, 447, 661-678.
【文献】Wells, S.A., Jr. et al., 2013, J. Clin. Endocrinol. Metab., 98, 3149-3164.
【文献】Peitz, M. et al., 2013, Curr. Mol. Med., 13, 832-841.
【文献】Sanchez-Danes, A. et al., 2012, EMBO Mol. Med., 4, 380-395.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の通り、ゲノム編集の手順は現在のところ煩雑である。例えば、従来、複数の細胞からゲノム編集が行われた細胞を選択するためには、一般的に、ゲノム編集が行われた細胞を検出するためのスクリーニングを行う間、各細胞間でのコンタミネーションを防ぐため等の目的で、全ての細胞をそれぞれ継代培養していた。そしてその後、継代培養した細胞の中から、スクリーニングの結果に基づいてゲノム編集が行われたものを選択していた(例えば、Kwart, D. et al., Nat. Protoc., 12, 329-354を参照)。この手順では、スクリーニングに供した全ての細胞を継代培養することから、作業量が多く煩雑であった。
【0006】
また、ゲノム編集では、後のスクリーニングを簡便にするために、編集を行う目的の塩基の他に、マーカーとなる塩基を導入することが多い。マーカー塩基は、一般的にはアミノ酸配列に影響を及ぼさないサイレント変異を生ずる1ないし数個の塩基が用いられる。しかしながら、サイレント変異であってもタンパク質の発現効率に影響し得る。また非翻訳領域における変異は転写調節やスプライシング制御などに関わる。従って、副作用を生ずるリスクを低減するためにはマーカー塩基を導入しない方が好ましい。一方で、マーカー塩基を導入しない場合、意図したゲノム編集が行われた細胞を検出するためには、ゲノム編集によって置換される前のヌクレオチドが存在しないことを検出する工程(ネガティブスクリーニング)が必要であり、これは一般に困難であると考えられていた。
【0007】
一実施形態において、本発明は、複数の細胞について、その全ての細胞を継代培養することなく、一部につきスクリーニングを行い、その結果に基づいて一部の細胞を選択することができる方法を提供する。別の実施形態において、本発明は、マーカー塩基を導入することなくゲノム編集を行った細胞を選択することができる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、驚くべきことに、複数の動物細胞又は植物細胞を接着培養により又は半固形培地上で培養し、一部の細胞を核酸又はタンパク質検出法に供し、その間細胞を培養した場合に、その結果に基づいて一部の細胞を、コンタミネーションを生ずることなく、選択することができることを見出した。また、本発明者は、従来困難と考えられていたネガティブスクリーニングによって、マーカー塩基を導入することなくゲノム編集を行った細胞を十分な効率で選択することができることを見出した。
【0009】
本発明は、以下の実施形態を包含する。
(1)a)複数の動物細胞又は植物細胞を培養容器において接着培養により又は半固形培地上で培養し、単一細胞に由来する複数のコロニーを形成させる工程、
b)前記複数のコロニーの一部について、核酸中の一以上の塩基配列を核酸又はタンパク質検出法により検出する工程であって、その間、前記複数のコロニーが培養容器において培養される工程、及び
c)前記検出法の結果に基づいて、前記一部のコロニーを選択して採取する工程、
を含む、培養細胞の生産方法。
(2)前記工程c)において採取された細胞をさらに培養する工程を含む、(1)に記載の方法。
(3)前記遺伝子又はタンパク質検出法が、一塩基ミスマッチ検出PCRである、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記工程a)において、細胞を接着培養により培養する、(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5)前記工程b)において、前記複数のコロニーが、4時間~6日間培養される、(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6)前記工程a)において、動物細胞を培養する、(1)~(5)のいずれかに記載の方法。
(7)前記動物細胞が哺乳動物細胞である、(6)に記載の方法。
(8)前記哺乳動物細胞が幹細胞である、(7)に記載の方法。
(9)前記培養容器が、容器上の各コロニーの位置を識別可能な識別子を有し、前記工程c)において、前記識別子に基づいて前記一部のコロニーを識別して選択を行う、(1)~(8)のいずれかに記載の方法。
(10)前記識別子を有する培養容器が、グリッド付プレートである、(9)に記載の方法。
(11)前記工程c)の前又は後に、前記複数のコロニーの一部をさらに別の遺伝子又はタンパク質検出法に供する工程を含む、(1)~(10)のいずれかに記載の方法。
(12)前記工程a)の前に、前記動物細胞又は植物細胞に対してゲノム編集を行う工程をさらに含む、(1)~(11)のいずれかに記載の方法。
(13)前記ゲノム編集により、ゲノムDNA中の変異型塩基配列を野生型塩基配列に置換するか、又は野生型塩基配列を変異型塩基配列に置換する、(12)に記載の方法。
(14)前記変異型塩基配列が疾患の原因となる、(13)に記載の方法。
(15)前記ゲノム編集においてマーカー塩基を導入せず、前記工程b)においてゲノム編集によって置換される前のヌクレオチドが存在しないことを検出する、(12)~(14)のいずれかに記載の方法。
(16)前記ゲノム編集が、TALEN及びその改変体、SpCas9及びその改変体、SaCas9及びその改変体、ScCas9及びその改変体、AsCpf1及びその改変体、LbCpf1及びその改変体、FnCpf1及びその改変体、MbCpf1及びその改変体、CBE及びその改変体又は類似体、ABE及びその改変体又は類似体からなる群から選択されるタンパク質を用いて行われる、(12)~(15)のいずれかに記載の方法。
(17)動物細胞又は植物細胞においてゲノム編集により、マーカー塩基を導入することなくゲノムDNA中の変異型塩基配列を野生型塩基配列に置換するか、又は野生型塩基配列を変異型塩基配列に置換する工程、
ゲノム編集後の細胞において、ゲノム編集によって置換される前のヌクレオチドが存在しないことを検出する工程、及び
置換される前のヌクレオチドが存在しないことが検出された細胞を選択して採取する工程、
を含む、培養細胞の生産方法。
(18)前記ゲノム編集によって置換される前のヌクレオチドが存在しないことを、一塩基ミスマッチ検出PCRにより検出する、(17)に記載の方法。
(19)前記ゲノム編集が、TALEN及びその改変体、SpCas9及びその改変体、SaCas9及びその改変体、ScCas9及びその改変体、AsCpf1及びその改変体、LbCpf1及びその改変体、FnCpf1及びその改変体、MbCpf1及びその改変体、CBE及びその改変体又は類似体、ABE及びその改変体又は類似体からなる群から選択されるタンパク質を用いて行われる、(17)又は(18)に記載の方法。
(20)(12)~(19)のいずれかに記載の方法によって得られるゲノム編集がなされた細胞。
(21)(20)に記載の細胞を含む、医薬組成物。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2019-042383号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0010】
一実施形態において、複数の細胞について、その全ての細胞を継代培養することなく、一部につきスクリーニングを行い、その結果に基づいて一部の細胞を選択することができる方法が提供される。別の実施形態において、本発明は、マーカー塩基を導入することなくゲノム編集を行った細胞を選択することができる方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例で用いたマスタープレートの模式図を示す。マスタープレートはグリッドにより複数の区画に分けられ、後述する一次又は二次スクリーニングに供する際、及びその後の採取の際のクローンの識別を可能にする(図中、スクリーニングに供した部位に○を付してあり、図1Aはマスタープレート、図1Bはそれをマップ化したものである)。図1BのMAPでは、コロニーに印及び番号を付している。
図2図2は、FB4-14 MEN2B-iPSCにおいて野生型(WT)アレル中のRET_M918部位の野生型塩基を置換した際の結果を示す。図2Aにおいて、第1行は野生型アレル配列、第2行はM918における修飾塩基とI913におけるマーカー塩基の両方を有するssODN改変鋳型(ssODN_RET_M918T_I913_silentC (Mut))、第3行は改変後の野生型アレル配列、第4行は変異型アレル配列を示す。右向き矢印はマーカー塩基検出用プライマーを示す。図2Bは、一塩基ミスマッチ検出PCR分析の結果を示す(矢頭はマーカー塩基検出用プライマー配列による増幅産物を示す)。図2Cは、標的配列のダイレクトシークエンシングの結果を示す。図2Cにおいて、矢印はMet918においてMetからThrへの置換をもたらすTからCへの置換、矢頭はマーカー塩基(Ile913におけるサイレント変異をもたらすTからCへの置換)を示す。
図3図3は、FB4-14細胞において、Ile913におけるサイレント変異をもたらすマーカー塩基を伴った修復鋳型を用いて病原性変異のアレル特異的単一ヌクレオチド修復を行った際の結果を示す。図3Aにおいて、第1行は変異型アレル配列、第2行はMet918に修復塩基及びIle913にマーカー塩基を含むssODN修復鋳型(ssODN_RET_M918_I913_silentC(WT))、第3行は修復後の変異アレル配列、第4行はRET野生型アレル配列を示す。右向き矢印はマーカー塩基検出用プライマーを示す。図3Bは、一塩基ミスマッチ検出PCR分析の結果を示す(矢頭はマーカー塩基検出用プライマー配列による増幅産物を示す)。図3Cは、標的配列のダイレクトシークエンシングの結果を示す。図3Cにおいて、矢印は標的部位における変異型塩基から野生型塩基への置換(CからTへの置換)、矢頭はマーカー塩基(Ile913におけるサイレント変異をもたらすTからCへの置換)を示す。
図4図4は、FB4-14細胞において、Ile920におけるサイレント変異をもたらすマーカー塩基を伴った修復鋳型を用いて病原性変異のアレル特異的単一ヌクレオチド修復を行った際の結果を示す。図4Aにおいて、第1行は変異型アレル配列、第2行はMet918に修復塩基及びIle920にマーカー塩基を含むssODN修復鋳型(ssODN_RET_M918_I920_silentC(WT))、第3行は野生型(WT)アレル配列を示す。右向き矢印はマーカー塩基検出用プライマーを示す。図3Bは、SNP-PCR分析の結果を示す(矢頭はマーカー塩基検出用プライマー配列による増幅産物を示す)。図4Cは、標的配列のダイレクトシークエンシングの結果を示す。図4Cにおいて、矢印は標的部位における変異型塩基から野生型塩基への置換(CからTへの置換)、矢頭はマーカー塩基(Ile920におけるサイレント変異をもたらすTからCへの置換)を示す。
図5図5は、マーカー塩基を用いずに病原性変異のアレル特異的単一ヌクレオチド修復を行った際の結果を示す、図5Aは、その模式図である。図5Bにおいて、第1行は変異型アレル配列、第2行はMet918に修復塩基を含むssODN修復鋳型(ssODN_RET_M918(WT))、第3行は修復後の変異型アレル配列、第4行は野生型(WT)アレル配列を示す。右向き矢印は変異アレル検出用プライマーを示す。図5Cは、一塩基ミスマッチ検出PCR分析の結果を示す(矢頭は変異アレル検出用プライマー配列による増幅産物が生じないことを示す)。図5Dは、標的配列のダイレクトシークエンシングの結果を示す。図5Dにおいて、矢印は標的部位における野生型塩基への置換(CからTヘの置換)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.培養細胞を生産する方法
一実施形態において、本発明は、培養細胞を生産する方法に関する。本発明の方法の対象となり得る細胞は、動物細胞又は植物細胞であれば限定しない。動物細胞の由来となる生物種は、例えば、哺乳動物(例えばヒト及びアカゲザル等の霊長類、ラット、マウス、及びドブネズミ等の実験動物、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、及びヤギ等の家畜動物、並びにイヌ及びネコ等の愛玩動物、並びにカンガルー、コアラ、ウォンバット等の有袋類及びカモノハシ、ハリモグラ等の単孔類が挙げられる)、鳥類(ニワトリ、アヒル、ハト、ダチョウ、エミュー、オウム、及びセキショクヤケイ等)、爬虫類(トカゲ、ワニ、ヘビ、カメ等)、両生類(アフリカツメガエル及びネッタイツメガエル、サンショウウオ、アホロートル等)、魚類(メダカ、ゼブラフィッシュ、キンギョ、フナ、コイ、サケ、マス、ウナギ、ナマズ、スズキ、タイ、ヒラメ、マグロ、ブリ、カツオ、サメ等)、軟体動物類(タコ、イカ、アワビ、サザエ、アコヤガイ、ハマグリ、アサリ、カタツムリなど)、棘皮動物類(ウニ、ナマコ、ヒトデ等)、甲殻類(カニ、エビ、シャコ、ザリガニ、ヤドカリ等)、昆虫類(カイコ、クワコ、オオミノガ、チャミノガ、ショウジョウバエ、ミツバチ、クマバチ、アリ、テントウムシ、コオロギ、バッタ、カブトムシ、クワガタムシ、カミキリムシ、ゴキブリ、シロアリ等)、刺胞動物(ヒドラ、クラゲ、サンゴ等)が挙げられ、好ましくはヒト等の哺乳動物である。植物細胞の由来となる生物種は限定されず、例えば、単子葉植物及び双子葉植物を含む被子植物、裸子植物、コケ植物、シダ植物、草本植物及び木本植物等いずれの植物細胞であってもよい。植物細胞の由来の具体例としては、例えば、イネ科(イネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシ、ソルガム、ハトムギ、サトウキビ、ヨシ及びマダケ等)、アブラナ科(シロイヌナズナ、アブラナ、ブロッコリー、ワサビ、及びキャベツ等)、ナス科(ナス、トマト、タバコ、トウガラシ、及びジャガイモ等)、ウリ科(キュウリ、メロン、スイカ、ヒョウタン等)、ヒガンバナ科(ネギ、タマネギ、ニンニク等)、マメ科(ダイズ、アズキ、レンゲ、カンゾウ、クズ、センナ、キバナオウギ、アラビアゴムノキ、シタン等)、キンポウゲ科(オウレン等)、アカネ科(クチナシ、コーヒーノキ等)、サトイモ科(サトイモ、コンニャク、ハンゲ、カラスビシャク等)、ヤマノイモ科(ヤマノイモ、ナガイモ等)、ヒルガオ科(サツマイモ、アサガオ等)、トウダイグサ科(キャッサバ、パラゴムノキ等)、セリ科(ニンジン、セロリ、トウキ、ミシマサイコ、センキュウ、ボウフウ等)、タデ科(イヌタデ、ソバ、ダイオウ等)、クワ科(クワ、カジノキ等)、ヒユ科(アマランサス、ケイトウ等)、スベリヒユ科(スベリヒユ、マツバボタン等)、アオイ科(オクラ、ハイビスカス等)、キク科(ヒマワリ、キクイモ、アーティチョーク、ホソバオケラ、オオバナオケラ等)、ミズキ科(サンシュユ等)、バラ科(バラ、モモ、ナシ、リンゴ、イチゴ等)、ミカン科(ミカン、ユズ、サンショウ、キハダ等)、ブドウ科(ブドウ、ヤマブドウ等)、ボタン科(ボタン、シャクヤク等)、ゴマノハグサ科(アカヤジオウ等)、シソ科(シソ、ハッカ、ローズマリー、コガネバナ等)、モクセイ科(レンギョウ等)、キキョウ科(キキョウ等)、マタタビ科(マタタビ、サルナシ、キウイフルーツ等)、オモダカ科(サジオモダカ等)、ジャノヒゲ(ジャノヒゲ等)、カキノキ科(カキノキ、コクタン等)、ラン科(シュンラン、バニラ等)、バショウ科(バショウ、バナナ等)、ウコギ科(タラノキ、オタネニンジン等)、クスノキ科(シナニッケイ、アボカド等)、クロウメモドキ科(ナツメ等)、ブナ科(ブナ、ナラ、クリ等)、ムクロジ科(ムクロジ、トチノキ等)、アサ科(麻(ヘンプ)等)、イラクサ科(苧麻(ラミー)等)、キジカクシ科(サイザルアサ、アガヴェ等)、ウルシ科(ヤマウルシ、ハゼノキ、マンゴー等)、カバノキ科(シラカンバ、ダケカンバ等)、ヤナギ科(ネコヤナギ、シダレヤナギ等)、コショウ科(コショウ等)、パイナップル科(パイナップル等)、パパイア科(パパイア等)、ニクズク科(ニクズク等)、ケシ科(ケシ等)、ヤシ科(ココヤシ、アブラヤシ等)、マツ科(アカマツ、エゾマツ等)、マオウ科(マオウ)、イチョウ科(イチョウ等)、シダ植物(ワラビ、スギナ、ヘゴ等)、コケ植物(ゼニゴケ、ツノゴケ、マゴケ、スギゴケ等)の植物が挙げられる。これら細胞は、初代培養細胞、継代培養細胞、及び凍結細胞のいずれであってもよい。
【0013】
本発明の方法の対象細胞は、例えば哺乳動物細胞、例えば幹細胞であってもよい。本明細書において「幹細胞」とは、別種の細胞又は様々な種類の細胞に分化することができる能力と、自己複製能力の両方を有する細胞を指す。幹細胞は、幹細胞のみからなる細胞集団であってもよいし、幹細胞を豊富に含む細胞集団であってもよい。例えば幹細胞の例として哺乳動物の場合、骨髄、血液、皮膚、腸、神経、及び脂肪等の生体組織に存在する未分化な状態の細胞(総称して、体性幹細胞といい、その例としてミューズ細胞が挙げられる)、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)等を含む。このような幹細胞は、自体公知の方法によって作製することができるが、所定の機関より入手でき、また市販品を購入することもできる。
【0014】
一実施形態において、本発明の方法は、
a)複数の動物細胞又は植物細胞を培養容器において接着培養により又は半固形培地上で培養し、単一細胞に由来する複数のコロニーを形成させる工程(以下、「コロニー形成工程」とも記載する)、
b)前記複数のコロニーの一部について、核酸中の一以上の塩基配列を核酸又はタンパク質検出法により検出する工程であって、その間、前記複数のコロニーが培養容器において培養される工程(以下、「検出工程」とも記載する)、及び
c)前記検出法の結果に基づいて、前記一部のコロニーを選択して採取する工程(以下、「選択工程」とも記載する)を含む。本実施形態における本発明の方法を構成する各工程を以下に詳細に記載する。
【0015】
a)コロニー形成工程
コロニー形成工程では、複数の動物細胞又は植物細胞を培養容器において接着培養により又は半固形培地上で培養し、単一細胞に由来する複数のコロニーを形成させる。
【0016】
本明細書において、「複数」の範囲は限定しないが、例えば2以上、3以上、4以上、5以上、10以上、102以上、5×102以上、又は103以上であってよく、また105以下、104以下又は103以下であってよい。例えば、「複数」は102~104又は5×102~103であってよい。コロニー形成工程で培養を行う細胞数が多すぎれば、形成されるコロニー同士が接触するリスクが高まり、逆に少なすぎれば後の検出工程に供するコロニー数が少なくなる。これらの要素を考慮して、当業者であれば細胞数を適宜選択することができる。例えば、コロニー形成工程では、通常の継代培養よりも低濃度(例えば、約1細胞/cm2~約100細胞/cm2、約5細胞/cm2~約40細胞/cm2、約10細胞/cm2~約20細胞/cm2)で培養を行うことができる。
【0017】
コロニー形成工程における培養条件(温度及び期間等)は、用いる細胞種に応じて選択することができる。例えば、動物細胞であれば培養温度は約20℃~約40℃、約30℃~約40℃、約35℃~約39℃、約36℃~約38℃又は約37℃とすることができ、植物細胞であれば培養温度は約10℃~約30℃、約20℃~約27℃又は約25℃とすることができる。動物細胞については、CO2の存在下で培養を行ってもよく、CO2濃度は約2%~約10%、約4%~約6%、又は約5%であってよい。コロニー形成工程における培養期間は、例えば4日~12日、6日~10日、又は7日~8日であってよい。
【0018】
コロニー形成工程において用いる培地は、用いる細胞種に応じて選択することができる。市販の培地(例えば、動物細胞であれば、DMEM、MEM、BME、RPMI 1640、F-10、F-12、DMEM-F12、α-MEM、IMDM、MacCoy's 5A培地又はmTeSR1培地、植物細胞であれば、Murashige Skoog(MS)培地、ガンボーグB5培地、変形ガンボーグB5培地、リンスマイエルスクーグ(LS)培地)又は調製した培地を用いて行うこともできる。これらの培地には、各種添加物(例えば、血清又は血清代替物、L-グルタミン、非必須アミノ酸、2-メルカプトエタノール、ペニシリン及びストレプトマイシン等の抗生物質、並びに塩基性線維芽細胞増殖因子等の増殖因子)を加えることもできる。
【0019】
コロニー形成工程では、接着培養により培養を行うか、又は半固形培地上(又は培地中)で培養を行う。「接着培養」とは、細胞を、培養培地中において、培養容器の接触面に対し、接着させた状態で培養することをいう。「接着」の強度は、例えば、タッピング処理、ピペッティング処理、又は酵素処理、等の人為的処理によらなければ、生存性を維持したまま細胞を剥離することができない程度の強度であってよい。接着培養では、接着性を増強させるため、例えば細胞外マトリックス(例えばラミニン、テネイシン、フィブロネクチン、コラーゲン、ヴィトロネクチンとその派生物(VTN-Nなど)、マトリゲルとその派生物(マトリゲルーGFR等)、ポリ-D-リジン等によりコーティング処理した培養容器を使用することができる。本明細書において、「半固形培地」とは、寒天、アガロース、ゼラチン、コラーゲン、マトリゲルとその派生物(マトリゲル-GFR等)、フィブロイン、キチン、キトサン、カラギナン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、キサンタンガム、グァーガム、ペクチン、ポリビニルアルコール等のゲル化剤を含む、液体でも固体でもない培地を指す。半固形培地では、そこに加えられる細胞が沈み、半固形培地が加えられた容器の内表面に接触し付着することが予防される程度の十分な粘性を有しているものであってよい。半固形培地は、例えば、液体培地に0.1%から5%(w/v)の量でゲル化薬剤を加えることによって調製することができる。
【0020】
上記細胞の数、培養期間、及び培養条件を適切に選択することによって、単一細胞に由来する複数のコロニーを形成させることが可能である。なお、本明細書において、「単一細胞に由来するコロニー」とは、単一細胞にのみ由来するコロニーであってもよいし、本発明の効果を達成できる限り、その大部分(例えば、50%以上、80%以上、90%以上、又は95%以上)が単一細胞に由来し、多少の夾雑細胞を含むコロニーであってもよい。
【0021】
本明細書において、「培養容器」とは、細胞を培養する際に使用されるものであればいかなるものであってもよく、例えば、細胞培養皿、細胞培養ボトル(又はフラスコ)、マルチウェルプレート、マイクロキャリア等が挙げられる。培養容器として、市販のものを用いてもよい。培養容器の材質も特に限定されず、例えば、ガラス又はプラスチック等が挙げられる。
【0022】
一実施形態において、培養容器は、後述する検出工程により目的の塩基配列が検出されたコロニーを後述する選択工程で選択するために、容器上の各コロニーの位置を識別可能な識別子を有する。識別子の形状等は限定しないが、例えば、文字、数字、多角形等の図形、矢印、線、ドット、マーカー及びこれらの組合せが挙げられ、例えばグリッド(格子線)であってもよい。識別子は、培養容器の底部等に直接付されていてもよいし、又は識別子が付されたシート、例えば半透明のシールを培養容器の底部等に添付してもよい。また、これらの識別子に基づいて付される2次的な識別子(例えばマーカー又はチェック等)も各コロニーの識別のために用い得る。
【0023】
b)検出工程
検出工程は、コロニー形成工程により形成された複数のコロニーの一部について、核酸中の一以上の塩基配列を核酸又はタンパク質検出法により検出する工程である。コロニーの「一部」とは、検出工程により目的の細胞を検出可能な程度であれば限定しないが、例えば形成された全コロニーの5%以上、6%以上、8%以上、10%以上、又は20%以上であってよく、80%以下、60%以下、50%以下、40%以下、又は30%以下であってよく、例えば5%~80%、8%~40%、又は10%~30%であってよい。
【0024】
本工程においてコロニーの一部を検出工程に供し、その結果に基づいて、後述する選択工程で、一部のコロニーのうち、上記一以上の塩基配列が検出されたコロニーを選択して採取することで、検出工程の間、全ての細胞をそれぞれ継代培養する手間を削減することができる。また、より低濃度で細胞を播種し、その全数を検出工程に供する場合に比べて、細胞培養に用いる容器の数を低減し、細胞培養の手間を低減し得る。
【0025】
本明細書において、「核酸」とは、プリン又はピリミジンから導かれる含窒素塩基、糖、及びリン酸を構成単位として有する高分子の有機化合物を意味し、これら核酸のアナログ等も包含する。核酸は、例えば、DNA、RNA、又はcDNA等であってよい。核酸は、例えば上記細胞の由来となる生物種のゲノムDNAであってよい。核酸は、検出のために標識されたものであってもよい。
【0026】
一以上の塩基配列における「一以上」の範囲は限定しないが、例えば、1塩基又は2塩基以上、3塩基以上又は5塩基以上であってよく、50000塩基以下、100塩基以下、50塩基以下、又は10塩基以下であってよく、例えば2塩基~50000塩基、2塩基~50塩基、例えば3塩基~10塩基を含む、又はからなる塩基配列であってよい。一以上の塩基配列は一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism、SNP)、一塩基多様性(Single Nucleotide Variant、SNV)、挿入欠失(Insertion & Deletion、Indel)又は構造多型(Structural Variant、SV)であってもよい。
【0027】
本明細書において、「一塩基多型(SNP)」とは、同種の個体のゲノム間の変動を意味し、通常その頻度が集団内で約1%以上見出されるものを指す。SNPは、塩基の付加、欠失、又は置換であり得、1塩基の変異のみならず2塩基から10塩基程度の変異を包含する。一般に、SNPはゲノムで比較的頻繁に発生し、遺伝的多様性に寄与している。
【0028】
本明細書において、「一塩基多様性(SNV)」とは、同種の個体のゲノム間の変動を意味し1塩基置換をさす。
【0029】
本明細書において、「挿入欠失(Indel)」とは、同種の個体のゲノム間の変動を意味し、1塩基以上50塩基未満の短い挿入欠失を指す。
【0030】
本明細書において、「構造多型(SV)」とは、同種の個体のゲノム間の変動を意味し、50塩基以上の挿入、欠失、重複、転座、逆位、縦列反復をさす。
【0031】
一実施形態において、SNP、SNV、Indel、SVは、疾患の原因となる変異であり得る。
【0032】
核酸検出法、例えばSNP検出法は当業者に周知であり、任意の方法を使用することができる。核酸検出法の例として、例えば、一塩基ミスマッチ検出PCR、酵素ミスマッチ切断法(Enzyme mismatch cleavage(EMC))、制限酵素断片長多型(restriction fragment length polymorphism(RFLP))、TaqMan PCR法、増幅産物分析によるindel検出(indel detection by amplicon analysis)IDAA))、質量分析法、ダイレクトシークエンシング、アレル特異的オリゴヌクレオチドドットブロット法、一塩基プライマー伸長法、インベーダー法、定量的リアルタイムPCR検出法等が挙げられる。記載した核酸検出法のうち代表的なものを、以下で例示的に説明する。
【0033】
一塩基ミスマッチ検出PCR
一塩基ミスマッチ検出PCRとは、一塩基ミスマッチを検出可能なPCRを意味する。一塩基ミスマッチ検出PCRは、特定のポリメラーゼを用いた場合に、プライマーの3'末端における1塩基が全一致しない場合(ミスマッチが存在する場合)は増幅効率が著しく低下することを利用する。一塩基ミスマッチ検出PCRは、対応する塩基を3'末端に設定した配列特異的プライマーを用いて行われる。一塩基ミスマッチは、例えばHiDi DNA polymerase(Drum, M. et al., 2014, PLoS One, 9, e96640)を用いて行うことができる。一塩基ミスマッチ検出PCRは、多型等を検出する場合等には、「amplification refractory mutation system(ARMS)」又は「アレル特異的増幅(ASA)、又は「アレル特異的PCR」とも呼ばれる。
【0034】
酵素ミスマッチ切断法(Enzyme mismatch cleavage(EMC))
酵素ミスマッチ切断法では、まず検出対象の核酸とハイブリダイズした際にミスマッチを含むか、或いは含まない核酸をハイブリダイズすることによってヘテロ二重鎖を形成せる。続いて、ミスマッチが存在する場合に生ずる二重鎖の一本鎖領域を切断する酵素で処置する。たとえば、RNA/DNA二重鎖では、RNaseで処置し、DNA/DNAハイブリッドでは、S1ヌクレアーゼ、CEL Iエンドヌクレアーゼ、T7 エンドヌクレアーゼI(T7E1)、T7 エンドヌクレアーゼIV(T7E4)、エンドヌクレアーゼV、Surveyorヌクレアーゼ等で処置して、ミスマッチ領域を酵素的に消化することができる。ミスマッチ領域の消化の後、次いで生じる産物を変性ポリアクリルアミドゲル上でサイズによって分離して、SNP等の特定の塩基配列を検出することができる。詳細については、例えば、Cotton, et al., 1988. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 4397等を参照されたい。
【0035】
制限酵素断片長多型(restriction fragment length polymorphism(RFLP))
検出対象の塩基配列を含む核酸配列が制限酵素認識部位を含んでいる場合には、制限酵素断片長多型分析法(RFLP法:Botstein, D. R., et al., Am. J. Hum. Gen., 32, 314-331 (1980))によって検出を行うことができる。RFLP法では、まず、核酸中の検出される塩基配列を含む領域のDNA断片をPCR法等により増幅させてサンプルを得る。次いで、このサンプルを特定の制限酵素を用いて消化し、DNAの切断様式(切断の有無、切断フラグメントの塩基長等)を常法に従って確認し、これによりSNP等の特定の塩基配列を検出する。
【0036】
TaqManPCR法
TaqManPCR法は、蛍光標識したアレル特異的オリゴヌクレオチド(TaqManプローブ)とTaqDNAポリメラーゼによるPCRを利用した方法である(例えば、Genet. Anal., 14, 143-149 (1999))。TaqManプローブは、多型部位を含む約13~20塩基のオリゴヌクレオチドであり、5'末端は蛍光レポーター色素によって標識されており、3'末端はクエンチャーによって標識されている。このアレル特異的プローブを用いることにより、SNP等の特定の塩基配列の検出が可能となる。
【0037】
増幅産物分析によるindel検出(IDAA)
IDAAでは、標的部位に隣接する標的特異的プライマー(F/R)、及びFプライマーに付した5'オーバーハング配列に特異的な5'FAM標識プライマー(FamF)の3つのプライマーを用いて、標的部位の増幅を行う。増幅の結果、FAM標識された増幅産物が得られる。続いて、indelを含む蛍光標識された増幅産物を、断片分析により検出することによって、indelを検出することができる。詳細については、例えばYang Z. et al., 2015, Nucleic Acids Res., 43, e59;1-8を参照されたい。
【0038】
質量分析法
質量分析法は、塩基配列の差によって生じる質量の差を検出する方法である。具体的には、検出したい塩基配列を含む領域をPCRにて増幅した後、SNP等の特定の塩基配列の位置直前に伸長用プライマーをハイブリダイズさせ、伸長反応を行う。伸長反応の結果、SNP等に応じて3'末端の異なる断片が生成される。この生成産物を精製し、MALDI-TOF等の質量分析計等によって分析することで、質量数と遺伝子型との対応を解析し、SNP等の特定の塩基配列を検出することができる(例えば、Pusch, W. et al., 2002, Pharmacogenomics, 3(4): 537-48を参照されたい)。
【0039】
ダイレクトシークエンシング
ダイレクトシークエンス法は、特定の塩基配列を含むDNA断片をPCR増幅した後、増幅されたDNAのヌクレオチド配列を直接ジデオキシ法等により配列決定する方法である(Biotechniques, 11, 246-249 (1991))。この方法で用いられるPCRプライマーは、約15~30塩基程度のオリゴヌクレオチドであり、通常多型部位を含む約50bp~2000bpのDNA断片を増幅する。また、シークエンスプライマーとしては、配列決定を行う部位から50~300ヌクレオチド程度5'末端側の位置に相当する15~30塩基程度のオリゴヌクレオチドを用いる。
【0040】
タンパク質検出法
核酸中の一以上の塩基配列によって指定されるアミノ酸を含むタンパク質を検出することによって、間接的に塩基配列を検出することもできる。タンパク質検出法の例としては、ウエスタンブロッティングが挙げられる。例えば、SNPによって、塩基配列により指定されるアミノ酸配列が異なる場合、例えば一アミノ酸置換を識別できる抗体を用いてウエスタンブロッティングを行うことにより、間接的にSNPを検出し得る。
【0041】
本実施形態の方法では、検出工程の間、前記複数のコロニーは、培養容器において培養される。検出工程の間の培養条件は、培養期間を除いて、上記コロニー形成工程において記載したものと同様である。検出工程の間の培養期間は、培養容器上の各コロニーが増殖によりコンタミネーションしない期間であれば限定されず、例えば1時間以上、2時間以上、4時間以上、8時間以上、16時間以上、1日以上、2日以上であってよく、6日以下、5日以下、4日以下、3日以下であってよい。動物細胞の場合は、4日以下又は3日以下であってよい。培養期間は、例えば4時間~6日、8時間~5日、1日~4日、又は2日~3日であってよい。
【0042】
一実施形態において、検出工程は、核酸又はタンパク質検出法(一次スクリーニング)に供したコロニーを、さらに別の遺伝子又はタンパク質検出法に供する工程(二次スクリーニング)を含む。一次スクリーニングと二次スクリーニングに用いる遺伝子又はタンパク質検出法の組み合わせは、上記核酸又はタンパク質検出法の組み合わせであってもよいし、上記核酸又はタンパク質検出法と別の核酸又はタンパク質検出法との組み合わせであってもよい。例えば、一次スクリーニングにおいて、一塩基ミスマッチ検出PCR、EMC、RFLP、TaqMan PCR法、IDAA、質量分析法、アレル特異的オリゴヌクレオチドドットブロット法、一塩基プライマー伸長法、インベーダー法、定量的リアルタイムPCR検出法等の比較的簡便な方法により検査を行い、二次スクリーニングにおいてダイレクトシークエンシング等のより正確な方法により検査を行うことができる。
【0043】
c)選択工程
選択工程では、検出工程における上記検出法の結果に基づいて、一部のコロニーのうち、上記一以上の塩基配列が検出されたコロニーを選択して採取する。
【0044】
上記検出法の結果に基づいて上記一以上の塩基配列が検出されたコロニーを選択する方法は限定しない。例えば、コロニー形成工程において、容器上の各コロニーの位置を識別可能な識別子を有する容器を用いた場合、この識別子に基づいてコロニーを識別して選択を行うことができる。あるいは、複数のコロニーが形成された培養容器の画像情報を取得し、各コロニーの座標、位置関係や大きさ等の視覚的情報に基づき、必要に応じてこれをコンピュータにより解析することで、各コロニーを識別することもできる。
【0045】
選択されたコロニーを採取する方法は、限定しない。例えば、手動で行う場合、顕微鏡下で、目的コロニーの一部、ピペットマンチップ先端又はパスツールピペット等で、例えばピペッティングにより剥がして全量又は一部を回収することができる。あるいは、細胞スクレーパー等により物理的に細胞を解離させ、採取してもよい。自動又は半自動装置を使用する場合、ロボットアームを用いて、手動の場合と同様に回収することも可能である。
【0046】
他の工程
本態様の培養細胞を生産する方法は、上記コロニー形成工程、検出工程、及び選択工程に加えて、他の工程を含んでもよい。他の工程は限定しないが、例えば、以下で記載するゲノム編集工程、選抜工程、選択工程で選択された細胞を培養する工程、及び細胞のクローン性を確認する工程のいずれか一以上が挙げられる。本明細書に記載の培養細胞を生産する方法は、上記工程を含むか、又はからなってもよい。
【0047】
一実施形態において、本発明の培養細胞を生産する方法は、上記動物細胞又は植物細胞に対してゲノム編集を行う工程以下、「ゲノム編集工程」とも記載する)を、例えばコロニー形成工程の前に含む。ゲノム編集工程では、例えばゲノムDNA中のSNP/SNV等の変異型塩基配列を野生型塩基配列に置換するか、又は野生型塩基配列をSNP/SNV等の変異型塩基配列に置換することができる。或いは、例えばゲノム上の特定の部位において、特定の遺伝子、遺伝子群、又はこれらに付随する天然又は人工的塩基配列群をノックイン又はノックアウト等してもよい。また、ゲノム編集工程では、複数の遺伝子座を大規模に欠損させてもよく、特定遺伝子又は遺伝子群の全部又は一部を別の染色体上に転座させてもよく、特定遺伝子を他染色体上に加えて重複させたり、同一染色体上で隣接する位置に縦型重複させてもよい。
【0048】
本明細書において、「野生型」とは同種塩基配列のアレル集団内において自然界に最も多く存在し、かつそれがコードするタンパク質又はノンコーディングRNAが機能を有する場合には、その本来の機能を有するアレルをいう。本明細書において、変異の種類には、置換、挿入、欠失、構造多型(重複、転座、逆位、縦列反復、コピー数多型)が挙げられる。
【0049】
一実施形態において、SNP、SNV、Indel、SV等の変異型塩基配列は疾患の原因となり得る。疾患の種類は、変異型塩基配列が原因となり得る疾患であれば限定しないが、例えば多発性内分泌腺腫症2B型(multiple endocrine neoplasia type2A(MEN2B))、多発性内分泌腫瘍症2A型(MEN2A)、多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)、栄養障害型表皮水疱症(DEB)、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(Hereditary Breast and/or Ovarian Cancer Syndrome(HBOC))、Li-Fraumeni症候群(LFS)、Cowden症候群、リンチ症候群、家族性大腸腺腫症(familial adenomatous polyposis(FAP))、副甲状腺機能亢進症顎腫瘍症候群(HPT-JT)、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis(ALS))、筋緊張性ジストロフィー(Myotonic Dystrophy1(DM1))、家族性パーキンソン病、遺伝性アルツハイマー病、マルファン症候群、変容性骨異形成症(metatrophic dysplasia)、進行性骨化性線維異形成症、新生児期発症多臓器系炎症性疾患(neonatal-onset multisystem inflammatory disease(NOMID))、FGFR3軟骨異形成症、II型コラーゲン異常症、von-Hippel-Lindau病(VHLD)、シトリン欠損症(Citrin deficiency)、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー(Transthyretin-type Familial Amyloid Polyneuropathy)、ニーマン・ピック病C型(Niemann-Pick type C(NPC))、シャルコー・マリー・トゥース病(Charcot-Marie Tooth disease)、テイサックス病(Tay-Sachs disease)、Williams症候群、Duchenne 筋ジストロフィー、Smith-Magenis症候群、カーニー複合(Carney Complex)、APP変異に起因するアルツハイマー病、Potocki-Lupski症候群、Prader-Willi症候群、Angelman症候群、ダウン症候群、XX男性症候群(SRY)、統合失調症(chr 11)、バーキットリンパ腫、Hemophilia A、Hunter症候群、Emery-Dreifuss筋ジストロフィー、FMR1変異に起因する脆弱X症候群、ハンチントン病、脊髄小脳失調等であってよい。
【0050】
本明細書において、「ゲノム編集」とは、ゲノム上の標的部位を特異的に切断及び編集する技術を指す。ゲノム編集では、配列特異的な切断が可能である部位特異的ヌクレアーゼ(Site Specific Nuclease, SSN)(本明細書では、「ゲノム編集タンパク質」とも記載する)、例えば、TALEN(Transcription activator-like effector nuclease)、CRISPR/Cas9(Clustered regularly interspaced short palindromic repeats CRISPR)/CRISPR-associated protein 9)、CRISPR/Cpf1(CRISPR from Prevotellaand Francisella 1)又はZFN(zinc finger nuclease)及びその改変体等が用いられる。SSNには、CRISPR/Cas系の他の菌由来のアナログ(SaCas9、ScCas9、FnCpf1等)、又は別のCasタンパク群(Cas12a、Cas12b、C2c1、C2c2、C2c3等)とその改変体群も含まれる。標的認識能が正確で、一塩基置換を識別できる部位特異的ヌクレアーゼ(SSN)を用いることが好ましく、その例として、TALEN及びその改変体(例えば、Platinum TALEN)、Streptococcus pyogenes Cas9(SpCas9)及びその改変体(例えば、高忠実性改変体として、eSpCas9-1.0/-1.1、SpCas9-HF1/HF2/HF3/HF4、HypaCas9、xCas9が挙げられる)並びにSpCas9のPAM改変体(SpCas9(VQR)、SpCas9(EQR)、SpCas9(VRER)、SpCas9(D1135E)、及びSpCas9(QQR1)等)、Staphylococcus aureus Cas9(SaCas9)及びその改変体(例えば、SaCas9HF及びSaCas9(KKH))、Streptococcus canis Cas9(ScCas9)及びその改変体(例えば、ScCas9HF)、Acidaminococcus sp. Cpf1(AsCpf1)及びその改変体(例えば、AsCpf1(RR)、AsCpf1(RVR))、Lachnospiraceae bacterium ND2006 Cpf1(LbCpf1)及びその改変体(例えば、LbCpf1(RR)及びLbCpf1(RVR))、Francisella novicida Cpf1(FnCpf1)及びその改変体(例えば、FnCpf1(RR)、FnCpf1(RVR))、並びに、Moraxella bovoculi 237(Mb)Cpf1及びその改変体(例えば、MbCpf1(RR)及びMbCpf1(RVR))等が挙げられる。
【0051】
ゲノム編集では、上記ヌクレアーゼ等により切断されたDNAは、相同組換え又は非相同末端連結により修復されるが、このときに目的の遺伝子を改変することが可能である。ゲノム編集において標的認識能が正確なヌクレアーゼ、例えばAsCpf1を用いることによって、後のスクリーニング等において目的の細胞が得られる精度を高めることができる。
【0052】
ゲノム編集タンパク質がCRISPR/Cas9、CRISPR/Cpf1又は別のCasタンパク群等である場合、ゲノム編集(切断)を行うためには、ゲノム編集タンパク質に加えて、crRNA(又はガイドRNA)を同時に導入する必要がある。
【0053】
ゲノム編集タンパク質がCRISPR/Cas9、CRISPR/Cpf1又は別のCasタンパク群等である場合、ゲノム編集(意図された置換、挿入又は欠失等)を行うためには、ゲノム編集タンパク質、crRNA(又はガイドRNA)に加えて、鋳型DNA(ssODN、dsDNA等)を同時に導入する必要がある。
【0054】
本明細書におけるゲノム編集工程には、一般的なSSNと鋳型DNAを用いたゲノム編集法に加えて、Cytosine Base Editor(CBE)又はAdenine Base Editor(ABE)を用いた塩基置換も含まれる。CBEとはG-C塩基対からT-A塩基対への一塩基転位を可能にするCRISPR/Casタンパクをベースにした人工酵素である。用い得るタンパク質として、CBE並びにその改変体及び類似体(例えばBE1、BE2、BE3、HF-BE3、BE4、BE4max、BE4-gam、YE1-BE3、EE-BE3、YE2-BE3、YEE-BE3、VQR-BE3、VRER-BE3、SaBE3、SaBE4、SaBE4-Gam、Sa(KKH)-BE3、Cas12a-BE、Target-AID、Target-AID-NG、xBE3、eA3A-BE3、A3A-BE3、BE-PLUS、TAM、CRISPR-X)等が挙げられる。一方、ABEとはA-T塩基対からG-C塩基対への一塩基転位を可能にするCRISPR/Casタンパクをベースにした人工酵素である。用い得るタンパク質として、ABE並びにその改変体及び類似体(例えば、TAM、CRISPR-X、ABE7.9、ABE7.10、ABE.7.10*、xABE、ABESa、VQR-ABE、VRER-ABE、Sa(KKH)-ABE)等が挙げられる。
【0055】
また、ゲノム編集タンパク質、(及び任意に上記crRNA)に加えて、ゲノム編集が行われた細胞を選択するための抗生物質耐性等の選択マーカーを細胞に導入してもよい。
【0056】
ゲノム編集タンパク質(及び任意に選択マーカー)は、これらをコードする核酸を含むベクターの形態で細胞に導入されてもよい。ゲノム編集タンパク質をコードする核酸に加えて、任意に選択マーカーをコードする核酸及び/又はcrRNAは、同一のベクター上に含まれていてもよいし、複数の異なるベクター上に含まれていてもよい。また、ベクターは、例えば切断後のDNAに取り込まれ得る改変用鋳型としての一本鎖DNA又は二本鎖DNA、例えば一本鎖オリゴデオキシヌクレオチドと共に細胞内に導入してもよい。ベクターは、公知の方法により細胞に導入することができ、例えば導入方法の例として、エレクトロポレーション法、ソノポレーション法、パーティクルガン法、リポフェクション法、PEG-リン酸カルシウム法、ポリエチレンイミン(PEI)仲介トランスフェクション、及びマイクロインジェクション法、ウイルスベクター法等が挙げられる。
【0057】
一実施形態において、ゲノム編集工程において、置換を行う目的の塩基に加えて、「マーカー塩基」を導入する。「マーカー塩基」とは、後の検出工程における検出を簡便にするために、編集を行う塩基の他に加えられる塩基である。マーカー塩基を用いる場合、マーカー塩基が存在することを検出することにより、間接的に目的の編集が行われたクローンを検出することができる。マーカー塩基は、一般的にはアミノ酸配列に影響を及ぼさないサイレント変異を生ずる塩基が用いられるが、サイレント変異であってもタンパク質の発現効率に影響し得ることから、副作用のリスクを低減するためにはマーカー塩基を導入しない方が好ましい。
【0058】
一実施形態において、ゲノム編集工程において、マーカー塩基を導入せず、検出工程においてゲノム編集によって置換される前のヌクレオチドが存在しないことを検出する(ネガティブスクリーニング)。これまで、マーカー塩基を用いないネガティブスクリーニングは、一般に困難であると考えられていた。本発明者は、このような技術常識に反し、従来困難と考えられていたネガティブスクリーニングによって、マーカー塩基を導入することなくゲノム編集を行った細胞を十分な効率で選択することができることを見出した。本実施形態の方法は、マーカー塩基がタンパク質の発現効率に影響し得るというリスクを低減し、より副作用のデメリットが少ないという効果を奏し得る。さらに転写調節やスプライシング制御などに関わる非翻訳領域における変異導入/修復にも適用できる。
【0059】
一実施形態において、本発明の方法は、ゲノム編集工程後、コロニー形成工程の前に選抜工程を含んでもよい。選抜工程は、例えばゲノム編集工程と同時に抗生物質耐性等の選択マーカーを細胞に導入し、この抗生物質耐性等の存在下で細胞を培養することにより行うことができる。抗生物質としては、例えばピューロマイシン、ネオマイシン、ブラストサイジン、ハイグロマイオシン、及びゼオシンが挙げられ、その種類及び濃度は当業者であれば適宜設定することができる。また、選抜工程における培養条件は、培養期間を除き、コロニー形成工程において記載したものと同様とすることができる。培養期間は、例えば1日~7日、2日~5日、又は2日~3日とすることができる。
【0060】
一実施形態において、本発明の方法は、選択工程において選択し、採取された細胞を培養する工程(以下、「培養工程」とも記載する)を選択工程の後に含む。培養工程の培養条件は、培養期間を除き、コロニー形成工程において記載したものと同様とすることができる。培養期間は、例えば1日~14日、2日~7日、又は3日~4日とすることができる。培養工程では、継代工程を行って上記の期間よりもさらに長期間培養を行うこともできる。
【0061】
一実施形態において、本発明の方法は、細胞のクローン性を確認する工程を含む。クローン性を確認する方法は限定しないが、例えばダイレクトシークエンシングにより、ゲノム編集を行った配列を含む領域(例えば約50bp、約100bp、又は約200bp)を配列決定し、indelの有無を調べることにより行ってもよい。例えば、意図しない遺伝子編集がなされたクローン間において標的部位周辺でindelにバラつきが存在すること、及び/又は意図した遺伝子編集がなされたクローンにおいてindelが生じていないことは、クローン増殖が生じていることの指標となり得る。
【0062】
2.マーカー塩基を用いない培養細胞を生産する方法
一態様において、本発明は、(i)動物細胞又は植物細胞においてゲノム編集により、マーカー塩基を導入することなくゲノムDNA中の変異型塩基配列を野生型塩基配列に置換するか、又は野生型塩基配列を変異型塩基配列に置換する工程(以下、「ゲノム編集工程」とも記載する)、(ii)ゲノム編集後の細胞において、ゲノム編集によって置換される前のヌクレオチドが存在しないことを検出する工程(以下、「検出工程」とも記載する)、及び(iii)置換される前のヌクレオチドが存在しないことが検出された細胞を選択して採取る工程(以下、「選択工程」とも記載する)を含む、培養細胞の生産方法に関する。
【0063】
本実施形態におけるゲノム編集工程については、マーカー塩基を導入しない点を除いて、「1.培養細胞を生産する方法」において記載したゲノム編集工程と同様である。また、本実施形態における検出工程及び選択工程についても、ゲノム編集に関するものである点を除き、「1.培養細胞を生産する方法」において記載した検出工程及び選択工程とそれぞれ同様であり、例えば検出は、一塩基ミスマッチ検出PCR、EMC、RFLP、TaqMan PCR法、IDAA、質量分析法、アレル特異的オリゴヌクレオチドドットブロット法、一塩基プライマー伸長法、インベーダー法、定量的リアルタイムPCR検出法、及びダイレクトシークエンシングからなる群から選択される一以上の方法により検査を行うことができる。
【0064】
本態様の方法は、任意に、ゲノム編集工程の後に、選抜工程及び/又はコロニー形成工程を含んでもよく、また選択工程の後に、選択工程で選択された細胞を培養する工程、及び/又は細胞のクローン性を確認する工程を含んでもよい。選抜工程、コロニー形成工程、細胞を培養する工程、及び細胞のクローン性を確認する工程についても、「1.培養細胞を生産する方法」において記載した各工程とそれぞれ同様である。
【0065】
3.他の態様
一態様において、「1.培養細胞を生産する方法」及び「2.マーカー塩基を用いない培養細胞を生産する方法」において記載された方法は、上記一以上の塩基配列が検出された細胞(又はコロニー)を選択する方法、又はゲノム編集がなされた細胞(又はコロニー)を選択する方法、又はこれらの細胞を生産する方法ということもできる。
【0066】
一態様において、本発明は、「1.培養細胞を生産する方法」又は「2.マーカー塩基を用いない培養細胞を生産する方法」に記載される方法によって得られる細胞、例えばゲノム編集がなされた細胞に関する。一態様において、本発明は、上記ゲノム編集がなされた細胞を含む医薬組成物、例えば疾患の治療及び/又は予防のための医薬組成物、並びに疾患の治療及び/又は予防のための当該細胞の使用に関する。
【0067】
また、一態様において、本発明は、本発明の方法によってゲノム編集がなされた細胞を得る工程、及び得られた細胞を用いて疾患を治療及び/又は予防する工程を含む、疾患の治療方法に関する。
【0068】
これらの態様における疾患の治療及び/又は予防は、例えば、ゲノム編集がなされた細胞を増殖、及び必要に応じて分化させ、これを対象に投与又は移植することにより行うことができる。この実施形態において、ゲノム編集を行う細胞は、対象における拒絶反応を低減するため、対象から得られる幹細胞とすることができる。
【0069】
これらの態様において、治療及び/又は予防がなされ得る対象は、ヒトであってもよい。また、疾患は、SNP、SNV、Indel、SV等の変異が原因となり得る疾患であれば限定しないが、例えば疾患多発性内分泌腺腫症2B型(MEN2B)又は栄養障害型表皮水疱症(DEB)等の本明細書に記載された疾患であってよい。
【実施例
【0070】
<材料と方法>
実験フロー
実験フローの概要は以下の通りである。相同組換え(HDR)を実施するために、ゲノム編集ツール(ASCpf1-RR)、crRNA及びピューロマイシン耐性遺伝子を発現するall-in-one ベクター(pY211-puro)及びssODN鋳型を、ヒトiPSCにエレクトロポレーションにより導入した。ピューロマイシンによる選択及び回収の後に、グリッドを有する100mmプレート(マスタープレート)に単一の細胞をまばらに播種し、単一の細胞に由来するコロニーがプレート上で形成されるまで、7~8日間培養した。図1に、実施例で用いたマスタープレートの模式図を示す。マスタープレートはグリッドにより複数の区画に分けられ、後述する一次又は二次スクリーニングに供する際、及びその後の採取の際のクローンの識別を可能にする(図中、スクリーニングに供した部位に○を付してあり、図1Aはマスタープレート、図1Bはそれをマップ化したものである)。続いて、一部のコロニーに由来するサンプルから、ゲノムDNAを抽出し、一次スクリーニングを行った(一塩基ミスマッチ検出PCRによる候補となるコロニーの特定)。一次スクリーニングの間、抽出を行ったコロニーと、残りのコロニーの両方を含むマスタープレートをそのまま維持した。一次スクリーニングでは、ポジティブスクリーニングの場合、ssODNを用いて意図した置換(M)に加えて、一塩基(Single Nucleotide)マーカー(S)を導入し(MS鋳型)、マーカー塩基の存在を一塩基ミスマッチ検出PCRにより検出した。ネガティブスクリーニングの場合、ssODNを用いて意図した置換(M)のみを導入し(M鋳型)、置換前の塩基が存在しないことを一塩基ミスマッチ検出PCRによって確かめた。続いて、一次スクリーニングを通過したコロニーにつき、ダイレクトシークエンシングにより二次スクリーニングを行った。また、二次スクリーニングを通過したコロニーをマスタープレートから、顕微鏡下で、ピペットチップを用いて採取し、増殖させたクローンについて、意図した変異を導入する効率について、サンガーシークエンスにより試験した。実験の詳細について、以下に記載する。
【0071】
AsCpf1_RR及びCRISPR RNA(crRNA)の設計と構築
ピューロマイシン耐性遺伝子を有するAsCpf1-RR変異体のall-in-oneベクターを作製するために、AsCpf1-RR及びcrRNA骨格を含むpY211哺乳動物発現ベクター(Gao, L. et al., 2017, Nat. Biotechnol., 35, 789-792)(Addgene plasmid ナンバー89352をDr. Feng Zhangから譲り受けた)を用いた。ここで、3×HAタグは、3×HAタグ、T2AペプチドcDNA、及びSGFP2 cDNAに置換した。手短には、3×HA及びT2AフラグメントをssODNのアニーリングにより構築し、SGFP2 cDNAをpSGFP2-C1(Addgene plasmid ナンバー22881をDr. Dorus Gadellaから譲り受けた)から増幅させた。pY211ベクターをBamHI/EcoRIにより切断した。最後に、全ての断片を、In-Fusion HD Cloning kit(Clontech/TAKARA-BIO)を用いて融合させた。得られたプラスミドを、pY211-T2Gと名付けた。その後、ピューロマイシン耐性遺伝子に対応するcDNAを、pSIH-H1-Puro vector(Addgene plasmid ナンバー26597をDr. Frank Sinicropeから譲り受けた)から増幅し、SpeI/EcoRI部位でpY211-T2Gベクターに融合させた。最終的なall-in-oneベクターは、pY211-puroと名付けた。
【0072】
crRNAは、以前記載された通りに、マニュアルで設計した(Gao, L. et al.、上掲)。RETエキソン16又はCOL7A1エキソン78を標的とするcrRNAガイド配列鋳型は、BbsIで消化したpY211-puroベクターに、以前記載された通りにクローニングした(Gao, L. et al.、上掲)。
【0073】
ssODN修復鋳型の設計
修復/改変のための99塩基長のssODN鋳型(PAGE精製済、Sigma-Aldrich)は、中心をCRISPR-AsCpf1の5’予測切断部位とし、5'隣接及び3'隣接49塩基長を含むものであった。本鋳型は、病原性SNP/SNV又はそれに対応する野生型ヌクレオチドを含み、場合によりマーカー塩基として用いるためのサイレント変異を含んでいた。サイレント変異は、コドン使用データベースに基づき選択した(https://www.kazusa.or.jp/codon/)。
【0074】
iPS細胞の構築
iPSCsは、CytoTune-iPS 2.0 Sendai Reprogramming Kit(ThermoFisher Scientific, U.S.A.)を用いて、製造業者のプロトコルに従って、ヒトT細胞から作製した。手短には、ヒトT細胞を末梢血サンプルから単離し、1.5×106細胞/ウェルの密度で、抗CD3抗体(eBioscience)でコートした6ウェルプレートに播種した。1日後、3×105細胞に、感染多重度(MOI)10でリプログラミング因子を有する組換えセンダイウイルス(SeV)を感染させた。2日間培養後、感染細胞を回収し100mmディッシュあたり2×104細胞で、マイトマイシンC(MMC)処置マウス胚線維芽細胞(フィーダー細胞として作用する)上に再播種した。感染の20~23日後、コロニーを採取し、ヒトiPSC培地(詳細は以下の通り)で再培養した。SeVを除くため、iPSCを38℃で3日間培養し、1回継代した。
【0075】
新規に樹立したiPSC(FB4-14及びB117-3細胞)の質を確かめるために、5つの多能性遺伝子(Nanog、Gdf3、Rex1、Sall4、Dnmt3B)及び4つのYamanaka因子(Oct-3/4、Sox2、Klf4、c-Myc)を、事前に設計したプライマーセットを用いてRT-PCRにより確かめた。
【0076】
細胞
遺伝子編集(GE)実験1-4(GE1-4)では、疾患遺伝子座に常染色体優性変異を有するFB4-14細胞(MEN2B-特異的iPSC)を用いた。この遺伝子座は、エキソン16のコドン918においてRET遺伝子に単一アレル点突然変異(TからC)を有し、これがMet918Thr置換をもたらす。GE5では、疾患遺伝子座に常染色体劣性複合変異を有するB117-3 細胞(DEB-特異的iPSC)を用いた。この遺伝子座は、単一エキソン78のコドン2138において、COL7A1遺伝子に、ナンセンス変異(G2138X)をもたらす単一アレル点突然変異(GからT)を有し、またフレームシフトをもたらす単一アレルindel(n.3591 del.13, ins. GG)を有する。
【0077】
iPSC培養
細胞は、MMCで処置したMEFを播種した、0.1%ゼラチンでコートした細胞培養プレートで維持し、iPSC培地で37℃で5%CO2下で増殖させた。この培地は、20% KNOCKOUTTM血清代替物(KSR, Invitrogen)、2 mM L-グルタミン(Life technologies)、0.1 mM 非必須アミノ酸(NEAA, SIGMA)、0.1 mM 2-メルカプトエタノール(SIGMA)、0.5%ペニシリン及びストレプトマイシン(ナカライテスク)及び5 ng/ml塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF、和光)を補充したDMEM/F12(SIGMA)からなる。トランスフェクションの前に、iPSCをMatrigel-GFR (Corning)でコートした細胞培養プレートに移し、10 μMのROCK阻害剤を含むMEFで調製したiPSC培地(MEF-CM)で2日間培養した。最後に、細胞をMatrigel-GFRでコートした細胞培養プレート上でmTeSR1培地(STEMCELL Technologies)において37℃で5%CO2下で増殖させた。
【0078】
トランスフェクション
iPSCに、pY211-puroベクター(AsCpf1-RR cDNA、CRISPR RNA、及びピューロマイシン耐性遺伝子を含むall-in-one哺乳動物発現ベクター)、及びssODNをエレクトロポレーションした。手短には、1×106細胞を10 μg pY211-puro及び15 μg ssODN(99 nt, PAGE-purified; Sigma-Aldrich)を含む100 μlのOptiMEMに再懸濁した。続いて、Super Electroporator NEPA21 Type 2(NEPA GENE, Japan)を用いて、細胞を2 mmギャップキュベット内でエレクトロポレーションした(トランスファーパルス20 V、パルス長50 ms、パルス回数5回)。エレクトロポレーション後、細胞をMatrigel-GFRコート24ウェルプレートに移し、CloneR (STEMCELL Technologies)を含むmTeSR1培地で16時間増殖させ、CloneR及びピューロマイシン(0.5 μg/ml)を含むmTeSR1培地で48時間処置し、CloneRを含むmTeSR1培地で1~2日増殖させた。その後、細胞をTrypLE(ThermoFisher Scientific, U.S.A.)で単一化し、CloneRを含むmTeSR1培地に低密度(100mmプレートに対し500~1000細胞)で播種し、クローニングした。
【0079】
単一細胞由来のクローンの、一塩基ミスマッチ検出PCR及びシークエンスによる遺伝子型決定
単一細胞由来のクローンの遺伝子型決定を容易にするために、ポジティブスクリーニングでは、病原性SNP/変異に独立であり、一塩基ミスマッチ検出PCRに用いることができるサイレントな一塩基置換(SNS)をもたらすssODN鋳型を、HDRのために設計した。ゲノム編集を行った単一細胞に由来するiPSCクローンをマスタープレート(100個のスクエアグリッド(PetriSticker, Diversified Biotech Inc.)を有するMatrigel-GFRコート100 mmプレート)において、CloneRを含むmTeSR1培地で4日間、及びmTeSR1培地で3日間増殖させた。増殖したコロニーのおよそ25~33%を双眼実体顕微鏡下でクリーンな10μLピペットチップを用いてマニュアルで採取し、10μlの溶解バッファーを含むPCRチューブに直接移した。残りのコロニーを含むマスタープレートは、同じ条件において2~3日そのまま維持した。
【0080】
ゲノムDNAを、プロテイナーゼK法で抽出した。手短には、細胞サンプルを10μLの溶解バッファーに再懸濁し、55℃で12時間インキュベートした。プロテイナーゼKを、45分間の85℃での熱処理により不活性化した。HDRが生じた目的のクローンを一塩基ミスマッチ検出PCRにより特定するために、標的遺伝子座の付近のゲノム領域を、HiDi DNA polymerase(Drum, M. et al., 2014, PLoS One, 9, e96640)(myPOLS Biotec GmbH, Germany)及び対応するアレル特異的プライマーペアを用いて増幅させた。増幅産物は、2%アガロースゲル電気泳動により分析した。HDRにより導入されたマーカー塩基及びクローンにおける病原性変異の接合状態を、サンガーシークエンスにより確かめた。すなわち、遺伝子編集された遺伝子座の周囲の450~500bpを、特異的なプライマーペア、及びTks Gflex DNAポリメラーゼ(TAKARA-BIO, Japan)を用いてPCRにより増幅した。シークエンスは、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Thermo-Fisher Scientific, U.S.A.)を用いて行った。
【0081】
遺伝子編集されたクローンのクローン性を確かめるために、1次スクリーニングを通過した、意図していない遺伝子編集がなされたクローンの配列を分析した。意図していない遺伝子編集がなされたクローンは、遺伝子編集の後のNHEJにより生じる幾つかのindelを含む。意図していない遺伝子編集がなされたクローンの組成は、直接的に意図していない遺伝子編集がなされたクローンのクローン性の指標となるものである。また、これは、間接的に意図した遺伝子編集がなされたクローンのクローン性の指標となるものである。意図していない遺伝子編集がなされたクローンのシークエンスリードは、正常なアレル及びindelを含むアレルの単一リードにマニュアルで分けた。indelを含むリードは、indel分布のために、参照配列にマニュアルでアライメントすることにより分析した。
【0082】
オフターゲット分析
遺伝子編集された疾患特異的iPSCにおいて、CHOPCHOP v2: Eivind Valenの研究室により作成されたウェブベースのCRISPRデザインツール(http://chopchop.cbu.uib.no)により、各ガイドRNAについて予測されるオフターゲット事象について試験した。各crRNAについて、上記デザインツールによって予測される7つの上位のオフターゲット部位を用いた。各オフターゲット部位の周囲のゲノムDNA領域を、PCRにより増幅し、UCSC ゲノムブラウザ上(http://genome.ucsc.edu/)の最も新しいHuman Dec. 2013 (GRCh38/hg38)アッセンブリのRefSeqと比較した。
【0083】
<結果>
マーカー塩基を用いるアレル特異的単一ヌクレオチド置換
本実施例では、アレル特異的単一ヌクレオチド置換活性をヒトiPSCにおいて調べるために、FB4-14 MEN2B-iPSCにおいて野生型アレル中のRET_M918部位の野生型ヌクレオチドを変異ヌクレオチドに置換した(図2A)。まず、AsCpf1_RRとcrRNA1+、さらに、M918における変異塩基とI913にマーカー塩基の両方を有するssODN改変鋳型(ssODN_RET_M918T_I913_silentC (Mut))(図2A、第2行)を共にFB4-14細胞にエレクトロポレーションした(図2A、第1行)。一塩基ミスマッチ検出PCR分析により、384個のクローンのうち12個が陽性であることが認められた(図2A及びB、表1のGE1)。標的配列のダイレクトシークエンシングにより、12個のクローンのうち7個が、標的部位に野生型アレル特異的な変異ヌクレオチドの導入(Met918においてMetからThrへの置換をもたらすTからCへの置換、図2C、矢印)、及びマーカー塩基(Ile913におけるサイレント変異をもたらすTからCへの置換、図2C、矢頭)を有する意図された遺伝子編集クローンであることが明らかとなった。HDR効率は、1.8%であった(表1)。続いて、ウェブツールのCHOPCHOP v2を用いてオフターゲット標的について調べた。その結果、2つの予測されたオフターゲット部位において、indelは検出されなかった(表2)。さらに、意図しない遺伝子編集がなされたクローン間において標的部位周辺で配列が異なっていたことは、意図した遺伝子編集がなされたクローンのほとんどがクローン増殖していたことを示す(データ示さず)。これらの結果は、オフターゲット効果をもたらすことなく、MEN2B-iPSCにおいて野生型アレルについて示されたように、アレル特異的な方法で、単一の野生型ヌクレオチドを変異ヌクレオチドに置換することができることを示している。
【0084】
マーカー塩基を用いる病原性変異のアレル特異的単一ヌクレオチド修復
FB4-14細胞において、AsCpf1_RR とcrRNA1m、さらにMet918に修復ヌクレオチド及びIle913にマーカー塩基を含むssODN修復鋳型(ssODN_RET_M918_I913_silentC(WT))を用いて、DSB/HDRを行った(図3A、第2行)。これについて、一塩基ミスマッチ検出PCRを行ったところ、344個のうち、17個の陽性クローンが見出された(図3B、表1のGE2)。また、ダイレクトシークエンシングにより確認したところ、この17個のクローンのうち、11個のクローンが意図した遺伝子編集がなされたクローンであった。すなわち、これらのクローンは、(Met918におけるThrからMetへのアミノ酸置換をもたらす)標的部位における変異型ヌクレオチドから野生型ヌクレオチドへのCからTへの置換(図3C、矢印)を有し、かつ、(Ile913にサイレント変異をもたらす)マーカー塩基(図3C、矢頭)が導入されていた。
【0085】
全体としてのHDR効率は3.2 %(表1、GE2)であり、オフターゲット効果は観察されなかった(表2、GE2)。また、標的部位周辺の次世代シークエンサーによるターゲットリシークエンシングによる分析により、遺伝子編集されたクローンにおける意図しない親細胞に由来するゲノムDNAの混入は発生しなかったことが明らかとなり(データは示さず)、これは意図した遺伝子編集されたクローンが、クローン増殖したことを示している。
【0086】
次に、AsCpf1_RR とcrRNA1m、さらにMet918に修復ヌクレオチド及びIle920にマーカー塩基を含むssODN修復鋳型(ssODN_RET_M918_I920_silentC (WT))を用いて、DSB/HDRを行った(図4A、B、C及び表1のGE3)。ssODN_RET_M918_I920_silentC(WT)を用いた場合も、同様にHDRを行うことができ(表1)、オフターゲット効果は観察されなかった(表2、GE3)。
【0087】
これらの結果は、遺伝子編集されたクローンにおける単一ヌクレオチド置換が、一塩基ミスマッチ検出PCRによるポジティブスクリーニングによって効率的に検出され得ることを示している。
【0088】
マーカー塩基を用いない病原性変異のアレル特異的単一ヌクレオチド修復
続いて、マーカー塩基を用いずに、FB4-14細胞の変異アレル上のRET_M918部位における病原性SNPに対するネガティブスクリーニングを行った(図5A)。AsCpf1_RRとcrRNA1m及びMet918における正常なヌクレオチドのみを含むssODN修復鋳型(ssODN_RET_M918(WT))によるFB4-14細胞におけるDSB/HDRの後に、病原性SNPについて一塩基ミスマッチ検出PCRを行った。この実験系では、修復されたクローンでは変異アレルにおけるSNPが消失するため、修復されたクローンは病原性SNPに対する一塩基ミスマッチ検出PCRによってネガティブクローンとして検出される(図5A、5C)。結果、病原性SNPについて一塩基ミスマッチ検出PCRによって44のネガティブクローンが同定された。ダイレクトシークエンスにより確認したところ、この44個のクローンのうち、5個のクローンが意図した遺伝子編集がなされたクローン、すなわち、Met918における野生型ヌクレオチドのみを含むクローンであった(図5C、5D、及び表1におけるGE4)。全体のHDR効率は2%であり(表1)、また予測されたオフターゲット部位におけるindelは検出されなかった(表2、GE4)。また、標的部位周辺の次世代シークエンサーによるターゲットリシークエンシングによる分析により、遺伝子編集されたクローンにおける意図しない親細胞に由来するゲノムDNAの混入は発生しなかったことが明らかとなり(バックグラウンドレベル、データは示さず)、これは意図した遺伝子編集されたクローンが、クローン増殖したことを示している。
【0089】
続いて、他の疾患、すなわち栄養障害型表皮水疱症(DEB)を有する患者に由来するiPSCにおいて、病原性SNPの修復を行った。DEBは重篤な再発性皮膚潰瘍及び水疱によって特徴づけられる遺伝性疾患である。DEBは、上皮と真皮を結合する係留線維であるVII型コラーゲンをコードするヒトCOL7A1内の遺伝変異によって引き起こされる。
【0090】
DEBを有する患者からiPSCを作製し、常染色体劣性複合変異であるCOL7A1G2138X/+ ; 3591 del のエキソン78標的部位におけるアレル特異的ヌクレオチドを置換した。その結果、上記変異についても、同様にマーカー塩基を導入せずにHDRを行い、検出することができ(表1、GE5)、オフターゲット効果は観察されなかった(データ示さず)。
【0091】
これらの結果は、本発明の方法が、ゲノム編集の目印となるマーカー塩基を導入することなく、オフターゲット効果なしで、病原性SNPの単一ヌクレオチド修復を無傷で行うことができることを示している。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
本実施例で用いたプライマー等の配列を、以下の表3~5に示す。
【0095】
【表3】
【0096】
【表4】
【0097】
【0098】
【表5】

本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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