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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-30
(45)【発行日】2023-06-07
(54)【発明の名称】膜厚分布測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/06 20060101AFI20230531BHJP
【FI】
G01B11/06 G
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018223675
(22)【出願日】2018-11-29
(65)【公開番号】P2020085769
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-06-23
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年10月29日にトライポロジー会議2018秋 伊勢の予稿集にて公開 〔刊行物等〕 平成30年11月7日~9日にトライポロジー会議2018秋 伊勢にて公開
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】田所 千治
(72)【発明者】
【氏名】長嶺 拓夫
【審査官】續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-044587(JP,A)
【文献】特開平11-153416(JP,A)
【文献】特開2008-241383(JP,A)
【文献】特開2018-105646(JP,A)
【文献】特開2010-192065(JP,A)
【文献】特開2009-180716(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0018214(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105783744(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
EHL状態の物体同士の接触部分を潤滑する潤滑剤の膜厚分布を測定する膜厚分布測定装置であって、
光透過性を備えた基板と、
前記基板に前記潤滑剤を介して接触する接触個片と、
前記基板と前記接触個片の接触部分に向けて少なくとも3種類の波長を含む光を照射する光源部と、
前記基板と前記接触個片の接触部分から反射された光を、前記基板越しに画像を撮像し、カラーの干渉縞を干渉色画像として取得する干渉色撮像部と、
前記基板と前記接触個片を互いに衝突させ、前記基板と前記接触個片の接触部分に撃力を印加する撃力印加機構と、
コンピュータ部を備え、
前記干渉色撮像部が高速度カメラにより構成され、
前記コンピュータ部には、
前記干渉色撮像部で撮像された干渉色画像を記録する画像記録部と、
前記画像記録部に記録された前記干渉色画像のうち、選択された干渉色画像に含まれる各点の色情報から前記少なくとも3種類の波長の光毎に色分離して、当該波長毎の強度を取得し、当該強度に基づき前記基板と前記接触個片の接触部分の前記潤滑剤の膜厚分布を算出する膜厚分布推定部を備え、
前記膜厚分布推定部は、前記強度から算出される反射率と、前記接触部分の層構造により生じる多重反射に対応して算出される理論反射率との誤差を最小化することにより、前記膜厚分布を算出する、膜厚分布測定装置。
【請求項2】
EHL状態の物体同士の接触部分を潤滑する潤滑剤の膜厚分布を測定する膜厚分布測定装置であって、
光透過性を備えた基板と、
前記基板に前記潤滑剤を介して接触する接触個片と、
前記基板と前記接触個片の接触部分に向けて少なくとも3種類の波長を含む光を照射する光源部と、
前記基板と前記接触個片の接触部分から反射された光を、前記基板越しに画像を撮像し、カラーの干渉縞を干渉色画像として取得する干渉色撮像部と、
コンピュータ部を備え、
前記基板が、ガラス製の本体と、前記本体上に第1の金属薄膜と、前記第1の金属薄膜上に製膜された透明膜と、前記透明膜上に製膜された第2の金属薄膜と、を備え、
前記コンピュータ部には、
前記干渉色撮像部で撮像された干渉色画像を記録する画像記録部と、
前記画像記録部に記録された前記干渉色画像のうち、選択された干渉色画像に含まれる各点の色情報から前記少なくとも3種類の波長の光毎に色分離して、当該波長毎の強度を取得し、当該強度に基づき前記基板と前記接触個片の接触部分の前記潤滑剤の膜厚分布を算出する膜厚分布推定部を備え、
前記膜厚分布推定部は、前記強度から算出される反射率と、前記接触部分の層構造により生じる多重反射に対応して算出される理論反射率との誤差を最小化することにより、前記膜厚分布を算出する、膜厚分布測定装置。
【請求項3】
請求項に記載の膜厚分布測定装置であって、
前記第1の金属薄膜がCr膜であり、前記第2の金属薄膜がFe膜である、
膜厚分布測定装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の膜厚分布測定装置であって、
前記膜厚分布推定部は、前記接触部分の層構造に対応する光学モデルによる各層の屈折率に基づいて、前記理論反射率を算出する、
膜厚分布測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転や往復移動する基板に対して潤滑剤を介して回転している回転体又は摺動する物体の接触部分の潤滑剤の膜厚分布を計測する膜厚分布測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばベアリングにおいては、互いに潤滑油で潤滑されているボール(一方の物体)と、外輪リング、或いは内輪リング(他方の物体)が、線接触または点接触している。このとき、互いの物体の接触部分には荷重が集中するため、物体が弾性変形するとともに、潤滑油が高圧・高粘度となる弾性流体潤滑状態(EHL状態:Elasto-hydrodynamic Lubrication)になる。
【0003】
このようなベアリングのEHL状態を観察する従来の膜厚分布測定装置として、干渉色撮像部で撮像された干渉色画像を記録する画像記録部と、画像記録部に記録された干渉色画像のうち、選択された干渉色画像に含まれる各点の色情報から少なくとも3種類の波長の光毎に色分離して輝度値、波長毎の位相、複数の膜厚候補を算出し、当該算出された複数の膜厚候補から基板と接触個片の接触部分の潤滑剤の膜厚分布を推定する膜厚分布推定部とを備えたものがある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-44587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術は、専ら色相や輝度等の色の基本要素と潤滑剤の膜厚の関係から、膜厚分布を測定する方法である。このような方法は一定領域における膜厚分布を一度の観測により取得することができるものであり、速やかに結果を得ることができる方法であるが、得られる膜厚の精度が高いものとは必ずしも言えない。
【0006】
本発明は、高い効率で精度のよい膜厚分布を得ることのできる技術に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の膜厚分布測定装置は、EHL状態の物体同士の接触部分を潤滑する潤滑剤の膜厚分布を測定する膜厚分布測定装置であって、光透過性を備えた基板と、前記基板に前記潤滑剤を介して接触する接触個片と、前記基板と前記接触個片の接触部分に向けて少なくとも3種類の波長を含む光を照射する光源部と、前記基板と前記接触個片の接触部分から反射された光を、前記基板越しに画像を撮像し、カラーの干渉縞を干渉色画像として取得する干渉色撮像部と、コンピュータ部を備え、前記コンピュータ部には、前記干渉色撮像部で撮像された干渉色画像を記録する画像記録部と、前記画像記録部に記録された前記干渉色画像のうち、選択された干渉色画像に含まれる各点の色情報から前記少なくとも3種類の波長の光毎に色分離して、当該波長毎の強度を取得し、当該強度に基づき前記基板と前記接触個片の接触部分の前記潤滑剤の膜厚分布を算出する膜厚分布推定部を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、干渉光の強度に基づき高い効率で精度のよい膜厚分布を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る膜厚分布測定装置の全体構成を示す概略図。
図2】実施形態の膜厚分布測定装置の一部を拡大して示した部分拡大図であり、(a)基板及び接触個片の部分の拡大図、(b)(a)における測定対象領域Rの一例の拡大図。
図3】(a)は本発明の他の実施形態に係る膜厚分布測定装置の全体構成を示す概略図であり、(b)は(a)における測定対象領域Rの一例の拡大図。
図4】サンプル1についての時間経過に伴う各種物性の変化を示すグラフ。
図5】サンプル1についての径方向Xにおける膜厚分布を示すグラフである。
図6】各種方法により得られる観測画像であって、(a)分光法によるサンプル2の画像、(b)分光法によるサンプル3の画像、(c)SLIM法によるサンプル2の干渉画像、(d)SLIM法によるサンプル3の干渉画像、(e)図3(a)の膜厚分布測定装置を用いたサンプル2の干渉画像、(f)図3(a)の膜厚分布測定装置を用いたサンプル3の干渉画像。
図7】青色波長(470nm)の照射光の照射時における径方向Xについての反射率を示すグラフであり、(a)サンプル2、(b)サンプル3。
図8】緑色波長(560nm)の照射光の照射時における径方向Xについての反射率を示すグラフであり、(a)サンプル2、(b)サンプル3。
図9】赤色波長(645nm)の照射光の照射時における径方向Xについての反射率を示すグラフであり、(a)サンプル2、(b)サンプル3。
図10】照射光の波長に対する反射率を示すグラフであり、(a)サンプル2、(b)サンプル3。
図11】径方向Xについての膜厚分布を示すグラフであり、(a)サンプル2、(b)サンプル3。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明を実施するための形態について、図を用いながら説明する。なお各図では、水平方向をx方向、y方向と表現し、xy平面に垂直な方向(つまり、重力方向)をz方向と表現する。また、重力に逆らう方向を上、重力がはたらく方向を下と表現する。
【0011】
図1は、本発明を具現化する一の実施形態の全体構成を示す概略図である。図2は、本発明を具現化する形態の一例の一部を拡大して示した部分拡大図である。
【0012】
本発明に係る膜厚分布測定装置1は、EHL状態の基板2と接触個片3の接触部分SPを潤滑する潤滑剤LBの膜厚分布を測定するものである。具体的には、膜厚分布測定装置1は、干渉色画像を撮像し、この干渉色画像に基づいて、潤滑剤LBの膜厚分布を測定する。より具体的には、膜厚分布測定装置1は、基板2、接触個片3、移動機構4、回転体回転機構5、荷重付与機構6、光源部7、干渉色撮像部8、コンピュータ部9、表示部10等を備えて構成されている。
【0013】
基板2は、光透過性を備えた材料で構成されている。具体的には、基板2は、xy方向に平坦で、z方向に所定の厚みをもった、透明なガラス製の円板20を例示できる。より具体的には、円板20の下面には、クロム(Cr)などの金属薄膜(半反射膜)21が製膜されており、さらにその下面には、酸化シリコン(SiO)などの潤滑剤LBと同程度の屈折率の透明膜22が製膜されている。
【0014】
接触個片3は、基板2に潤滑剤LBを介して接触しながら回転するものである。具体的には、接触個片3として、回転体の一類型である鋼球30を例示する。鋼球30には、シャフト31が連結されている。シャフト31は、xy平面に平行な方向(図1ではx方向)に所定の長さを有し、後述する回転体回転機構5と連結されている。
【0015】
鋼球30は、潤滑剤LBを介して円板20の下面の透明膜22と接触している。また、鋼球30の下方には、潤滑剤LBを貯めておくオイルパンPが備えられている。そして、鋼球30が回転すると、オイルパンPに溜まっている潤滑剤LBがそれ自身の粘性により上方へ移動し、余剰となった潤滑剤は下方へ落ちる。そのため、円板20と鋼球30との接触部分SPに適量の潤滑剤LBが供給される。鋼球30は回転半径RBを有する。
【0016】
移動機構4は、基板2と接触個片3を相対移動させるものである。具体的には、移動機構4は、回転モータ40により構成することができる。回転モータ40は、円板20をxy方向と垂直な軸を回転中心として矢印2dに示す方向に所定の速さで回転させたり、静止させたり、矢印2dとは逆方向に所定の速さで回転させるものである。より具体的には、回転モータ40は、本体部と本体部の内側に組み込まれたロータ(不図示)を備えており、円板20とロータとが連結部材41にて連結されている。回転モータ40は、モータアンプユニット(不図示)を介して、詳細を後述するコンピュータ部9と接続され、円板20の回転方向および回転速度が適宜制御される。
【0017】
回転体回転機構5は、回転体である鋼球30を回転させるものである。具体的には、回転体回転機構5は、鋼球30とシャフト31を矢印3dの方向に所定の速さで回転させたり、静止させたり、矢印3dとは逆方向に所定の速さで回転させるものである。より具体的には、回転体回転機構5は、回転モータ50と、回転モータ50のロータに連結されたシャフト51を備えている。
【0018】
回転モータ50は、モータアンプユニット(不図示)を介して、詳細を後述するコンピュータ部9と接続され、シャフト51の回転方向および回転速度が適宜制御される。
【0019】
荷重付与機構6は、鋼球30を円板20に接触させる際に、荷重を付与するものである。具体的には、荷重付与機構6は、円板20の下方に配置された鋼球30を、上向きに押し上げるものである。より具体的には、荷重付与機構6は、アクチュエータ60と、ホルダ63を備えて構成されている。アクチュエータ60は、エアや油圧、電動で可動子61が上下動するものであり、アクチュエータ60の本体部は装置フレーム1fに取り付けられており、可動子61にホルダ63が取り付けられている。
【0020】
なお、円板20の回転速度や、鋼球30の回転速度、荷重付与機構6のアクチュエータ60による押付荷重等は、ベアリングが実際に使用される状態を再現するように設定したり、想定される使用状態に合わせて設定したりする。そうすることで、EHL状態で回転するベアリング内の接触部分の環境条件を設定することができる。
【0021】
光源部7は、基板2と接触個片3の接触部分SPに向けて少なくとも3種類の波長を含む光L1を照射するものである。具体的には、光源部7は、照明ユニット70と、照明用電源75を備えている。
【0022】
照明ユニット70は、干渉色画像の撮像に必要な、少なくとも3種類の波長を含む光を発するものである。具体的には、照明ユニット70は、白色ランプ72と、反射板71と、3波長帯域フィルタ73を備えている。白色ランプ72は、青色:470nm、緑色:560nm、赤色:600nmを含む広い帯域(いわゆる、ブロードな波長帯域)の光を放出するものであり、具体的にはハロゲンランプが例示できる。反射板71は、白色ランプ72から放出された可視光を反射し、外部に照射する光L1の量を増やすものである。3波長帯域フィルタ73は、白色ランプ72から放出された光のうち、少なくとも3種類の波長成分(ここでは、赤色・緑色・青色を例示する)を通過させ、それ以外の波長成分を減衰させるものである。より具体的には、3波長帯域フィルタ73は、ガラスや石英基板の表面に複数の薄膜が形成された、いわゆる3波長バンドパスフィルタで構成されている。尚、3波長帯域フィルタ73は白色ランプ72から放出された光から少なくとも3種類の波長成分を取り出す役割を果たせばよく、光源部7に必ずしも配置する必要はない。すなわち3波長帯域フィルタ73は、光源部7から干渉色撮像部8に至る光路上の任意の位置に配置すればよく、この配置位置は特に限定されない。
【0023】
また、少なくとも3種類の波長成分の光を適用することが可能であれば、3波長帯域フィルタ73は必ずしも必要ではない。例えば、光源部7、特にその白色ランプ72の代わりに3種類の波長の異なるレーザ源を適用すれば、フィルタリングは不要、すなわち3波長帯域フィルタ73は不要となる。すなわち、上述した「光源部7(または照明ユニット70)が少なくとも3種類の波長を含む光を照射する」とは、白色ランプ72の如き単体光源からの光が3種類の波長を含む場合のみならず、3種のレーザ源の如き3つの光源から照射される3つの波長の光が存在する場合にも適用されることを意味する。
【0024】
照明用電源75は、照明ユニット70の白色ランプ72に対して、発光に必要な電力を供給するものである。
【0025】
干渉色撮像部8は、基板2と接触個片3の接触部分SPから反射された光L3を、基板2越しに撮像カメラ80にて干渉色画像として撮像するものである。具体的には、干渉色撮像部8は、撮像カメラ80と、レンズユニット81を備えている。なお、ここで言う、基板2と接触個片3の接触部分SPから反射された光L3とは、円板20と金属薄膜21の界面で反射した光(いわゆる、表面反射光)と、潤滑剤LBと鋼球30との界面で反射した光(いわゆる、裏面反射光)とが合成されたものである。
【0026】
撮像カメラ80は、撮像されたカラー画像に対応した映像信号(アナログ信号)や映像データ(デジタル信号)を外部に出力するものであり、カラーフィルタ85と、撮像素子86を備えている。
【0027】
レンズユニット81は、基板2と接触個片3の接触部分SPの像を、撮像カメラ80の撮像素子86に結像させるものである。また、本実施例におけるレンズユニット81は、光源部7から照射された光を、撮像対象に向けて照射する役割も併せ持ち、照明光を撮像光軸と同じ(つまり、同軸落斜方式)にすることができる。具体的には、レンズユニット81は、ハーフミラー82、対物レンズ83、結像レンズ84を備えている。そのため、レンズユニット81は、光源部7から照射された光L1を、ハーフミラー82で反射させて照明光L2として膜厚の測定対象領域Rに照射し、基板2と接触個片3の接触部分SPから反射された光L3のうち、対物レンズ83とハーフミラー82を通過した光L4を結像レンズ84にて撮像カメラ80の撮像素子86に結像させることができる。
【0028】
コンピュータ部9は、信号やデータの入力や出力、データの記憶、入力または記憶されたデータに対する演算処理のほか、画像の入力や記憶、これら画像に対する画像処理、画像処理に基づく判定処理や画像変換処理、判定結果や画像処理後の画像の出力などを行うものである。具体的には、コンピュータ部9は、入力部、情報記録部、数値演算処理部、画像処理部、出力部を備えている。より具体的には、コンピュータ部9は、画像処理機能を備えたコンピュータ(ハードウェア)とその実行プログラム(ソフトウェア)により構成されている。また、コンピュータ部9は、キーボードやマウス、トラックパッドなどの情報入力デバイスを備え、後述する表示部10と接続されている。
【0029】
コンピュータ部9は、画像記録部11、膜厚分布推定部12を備えている。画像記録部11は、干渉色撮像部8で撮像された干渉色画像を記録するものである。具体的には、画像記録部11は、コンピュータ部9の情報記録部(例えば、ハードディスクなどの磁気記録媒体や、半導体メモリーなど)で構成されている。
【0030】
膜厚分布推定部12は、画像記録部11に記録された干渉色画像のうち、選択された干渉色画像に含まれる各点の色情報から少なくとも3種類の波長の光毎に色分離して、波長毎の強度、さらに例えば強度に対応した反射率(reflectance)を取得し、当該反射率から基板2と接触個片3の接触部分SPの潤滑剤LBの膜厚分布を推定するものである。具体的には、膜厚分布推定部12は、コンピュータ部9の画像処理部や数値演算処理部(ハードウェア)と、その実行プログラム(ソフトウェア)で構成されている。
【0031】
そのため、コンピュータ部9は、干渉色撮像部8から出力された映像信号(アナログ信号)や映像データ(デジタル信号)が入力されると、実行プログラムに基づいて、所定の画像処理を行ったり、画像記録部11に画像を保存したり、画像記録部11から画像を読み出したり、膜厚分布推定部12にて所定の画像処理や数値演算処理をしたりして、膜厚分布を推定することができる。
【0032】
さらに、本実施形態では、押付荷重測定部65と、トルク測定部14を備えた構成を例示する。
【0033】
押付荷重測定部65は、円板20に鋼球30を押し付けたときの荷重を測定するものである。具体的には、押付荷重測定部65は、ロードセルとアンプ部(不図示)を備えている。ロードセルは、荷重付与機構6の可動子61とホルダ63との間に配置され、鋼球30を円板20に押し付けたときの荷重により生じるロードセル内のひずみ量を計測し、このひずみ量に対応した信号をアンプ部に出力するものである。アンプ部は、ロードセルから出力された信号が入力されると、ひずみ量を荷重値(または応力値)に変換し、荷重値を表示したり、荷重値に応じた信号やデータをコンピュータ部9や後述する押付荷重制御部17などの外部機器に出力するものである。
【0034】
トルク測定部14は、回転体である鋼球30の回転中の伝達トルクTを測定するものである。具体的には、トルク測定部14は、鋼球30に連結されたシャフト31と、回転体回転機構5のシャフト51との間に配置された、トルクメータ55を備えた構成を例示する。トルクメータ55は、本体部56とシャフト57を備えて構成されており、シャフト57に作用する伝達トルクTを測定するものである。具体的には、シャフト57が回転する際にねじれるため、トルクメータ55は、このねじれにより生じるシャフト57のひずみ量を測定し、シャフト57を伝達する伝達トルクTに変換して出力するものである。シャフト57は、一端がカップリング52を介してシャフト51と、他端がカップリング53を介してシャフト31と連結されており、すべりは生じない。そのため、トルクメータ55は、シャフト57の伝達トルクTを測定することで、回転体である鋼球30の回転中の伝達トルクをT測定することができる。また、トルクメータ55は、測定した伝達トルクTに対応した信号やデータを直接又は他の機器を介してコンピュータ部9に出力することができる。
【0035】
表示部10は、インフォメーションディスプレイ、表示モニタとも呼ばれ、コンピュータ部9から出力された映像信号が入力されると、映像信号に対応して文字や図形情報などが表示されるものである。具体的には、表示部10は、画像記録部11に記録された干渉色画像のうち、選択された干渉色画像や、膜厚分布推定部12で推定された潤滑剤LBの膜厚分布を二次元分布やグラフの形式で表した画像等を表示するものである。
【0036】
また、図2(b)は、図2(a)における膜厚の測定対象領域Rの拡大図を示し、接触面の光学モデルの一例を示すものである。照明光L2が膜厚の測定対象領域Rに照射し、接触部分SPから反射された光(反射光)L3が得られる。ここで反射光L3は、円板20と金属薄膜21のCr膜の界面での反射光L31と、潤滑剤LBと鋼球30の界面での反射光L32に分かれ、干渉縞を形成させる。光L31、L32のうち、対物レンズ83とハーフミラー82を通過した光L4を結像レンズ84にて撮像カメラ80の撮像素子86に結像させることができる。このとき、光L4を媒介として得られる干渉縞像を撮像カメラ80にて撮影することで、膜厚解析対象画像における各画素のRGB強度、すなわち光強度I(λ)を得ることができる。光強度I(λ)は、例えば反射率に変換することができる。
【0037】
上述した実施形態の膜厚分布測定装置1は、荷重付与機構6により鋼球30および円板20に静荷重を付与する。一方、図3(a)に示した他の実施形態による膜厚分布測定装置1は、静荷重ではなく、瞬間的な撃力を円板20および鋼球30に印加し、高速度カメラを用いて接触面の画像を撮影する。
【0038】
図3(a)の実施形態では、鋼球30は容器101に収められた状態で、円板20の下方に位置しており、潤滑剤LBをと鋼球30の間には、潤滑剤LBが存在する。円板20は、支点123を有するレバー120の腕に収められており、レバー120の他の腕には加速度計121が設けられている。
【0039】
レバー120の支点123を中心として、円板20、鋼球30が存在する側と反対側には、小鋼球112、コイルスプリング110が配置されている。コイルスプリング110の復元力により小鋼球112を発射して腕に衝突させ(矢印A方向)、その作用力を撃力として、円板20と鋼球30の接触部分に印加することができる(矢印B方向)。このとき、加速度計121が撃力印加のタイミングを検知し、高速度カメラから構成される撮像カメラ80(干渉色撮像部8)により接触面画像を取得する。すなわち、コイルスプリング110、小鋼球112、レバー120は、基板2(円板20)と接触個片である鋼球30を互いに衝突させ、基板2(円板20)と鋼球30の接触部分に撃力を印加する撃力印加機構として機能する。
【0040】
次に、図3(a)に示した膜厚分布測定装置1を用いて行った実験1について説明する。鋼球30(材質:SUJ2、直径:19.1mm)に、円板20としてのガラス製の本体である平板(材質:BK-7、直径:25mm、厚さ:2mm)を接触させ、接触部に潤滑剤LBを注入してメニスカスにより保持させた。小鋼球112(直径:19.1mm、質量:3.0g)をコイルスプリング110の復元力により発射してレバー120の腕に衝突させ、その作用力を撃力として接触面に印加させた。加速度計121により撃力印加のタイミングを検知し、高速度カメラより構成される撮像カメラ80により接触面画像を取得した。そして、次に述べる膜厚解析により同定した膜厚の時間変化から緩衝特性を評価した。
【0041】
発明者は、潤滑剤LBの膜厚を高速度で、かつその分布状態も計測するため、3波長(RGB)光による独自の光干渉膜厚計測法を用いた本実験では、明瞭な干渉縞を得るために半反射膜である金属薄膜21をCr膜にて製膜した。また、潤滑膜厚が小さい場合でも高精度に計測するために光路を嵩増するスペーサレイヤー層を設けた。後述するサンプル1では、図1(b)に示した様に、スペーサレイヤー層として透明膜22をSiO膜にて製膜した。
【0042】
図3(a)の実施形態でも、図2(b)に示す様な測定対象領域Rが存在する。反射光L3は、円板20と金属薄膜21の界面での反射光L31と、潤滑剤LBと鋼球30の界面での反射光L32に分かれ、干渉縞を形成させる。光L4を媒介として得られる干渉縞像を撮像カメラ80にて撮影することで、膜厚解析対象画像における各画素のRGB強度、すなわち光強度I(λ)を得た。光強度I(λ)は、例えば反射率の形式で得られる。
【0043】
ここで、到来する照射光L2は、3波長帯域フィルタ73によって3種類の3波長成分(λ=420nm、515nm、650nm)を含んでおり、それぞれ上述した二つの界面において反射光L31、反射光L32に分かれ、干渉縞を形成させる。高速度カメラからなる撮像カメラ80(最高撮影速度:540kHz)が、光L4を媒介として得られる干渉縞像を撮影し、膜厚解析対象画像における各画素のRGB強度を得た。このRGB強度を光強度I(λ)とした。また、参照用に同撮影条件にて撮影したSiウェハの観察画像からIref(λ)を得た。さらにカメラの受光感度特性の影響を考慮して、I(λ)とIref(λ)に対してクロストーク補正を行い、I’(λ)とI’ref(λ)を得た。
【0044】
既知のSiウェハの反射率Rref(λ)を用いて、解析対象の反射率R(λ)=Rref(λ)/I’ref(λ)×I’(λ)を算出した。各画素において、図2(b)の多層の光学モデルを仮定して各層の屈折率n(λ)より各界面のフレネル係数ρ(λ)、τ(λ)について多重反射を考慮して計算して反射率Rnum(λ)を理論的に算出し、R(λ)との誤差を最小化することにより、膜厚分布推定部12は、膜厚hを算出した。本膜厚計測法では、光学モデルを修正することで様々な多層膜の膜厚分布計測に適用可能である。
【0045】
本実験に使用したサンプル1は、金属薄膜21としてCr膜(膜厚:5nm)、透明膜22としてSiO膜(膜厚:580nm)を製膜した基板2(円板20)と、未処理の鋼球30の組合せである。このSiO膜が、スペーサレイヤー層の役割を果たす。
【0046】
このサンプルについて、静荷重10Nにて円板20を鋼球30に接触させ、潤滑剤LBをメニスカスにて保持した状態で撃力を印加し、加速度aと膜厚hの時間変化を計測した。加速度計121のサンプリング周波数は1MHz、撮像カメラ80の撮影速度は10kHzとした。実験は室温25℃、湿度40%の環境で実施した。
【0047】
図4は、サンプル1の実験結果として加速度a、接触円直径φ、膜厚hのプロファイルの時間変化を示す。加速度計121にて撃力の印加が検知された時刻をt=0msとした。また、膜厚hは、測定対象領域Rの中心を0とした径方向Xについての値の形式で示している。尚、図4における最下段のグラフにおいて、径方向Xにおいて、中心の0μmから上下の±110μm付近までは膜厚hの値は小さく、570nmに近い値が分布している。径方向Xの±110μm付近で膜厚hの値が揺らぎ、径方向Xにおいてさらに外側では膜厚hの値は700nm付近まで大きくなる。
【0048】
図5は、t=0msにおける膜厚hのプロファイルを示す。ここでの膜厚hとは、潤滑剤LBの膜厚と、スペーサレイヤー層(透明膜22であるSiO膜または鋼球30の表面のCPB膜)の合計膜厚である。接触円直径φは、最小膜厚の膜厚hminの最外周円の直径であり、図5の矢印にて示した範囲とした。
【0049】
接触円直径φについて、t=0msにおいてサンプル1ではφ=214μmであった。撃力を印加する以前(t<0ms)では、接触円直径φに変化は見られなかった。
【0050】
撃力を印加した直後、サンプル1ではt=1.7msにおいてφ=223μmに増大し、t=4.2msにおいてφ=133μmに減少し、接触円直径が増減を繰り返しながら変化してt=40ms時点でも収束しなかった。φに現れた減衰振動の周波数は、266Hzであった。
【0051】
ヘルツの接触理論を用いて静荷重10Nの接触面直径φを算出すると、φ=216mmとなり、この値は、t=0msの接触円直径と一致している。また、実験系の固有振動数fnは、鋼球30と基板2(円板20)の接触剛性(バネ定数)2.1×10Nm/radとガラス平板の剛性(ばね定数)2.0×10Nm/radの直列接続を仮定(合成ばね定数1.0×10Nm/rad)し、てこ機構の慣性モーメント3.6×10-3kgmよりfn=270Hzと算出される。固有振動数fnの値が、実験にて現れた接触面直径φの振動周波数とほぼ一致しているため、膜厚変化は鋼球30と基板2(円板20)の接触剛性と基板2(円板20)の剛性により発生していると考えられる。
【0052】
上述したように、実施形態の膜厚分布測定装置1を利用して少なくとも3種の波長の光の強度(反射率)を得ることにより、多くの種類の情報を得ることができる。特に図3(a)の膜厚分布測定装置1が生成する撃力を用いた実験によれば、静荷重を与える実験に比べ、短時間で多くの種類の情報を得ることができる。また、鋼球30を回転させた状態で実験をおこなうことも可能であり、その場合には流体膜の効果が含まれた情報を得ることができる。
【0053】
続いて図3(a)に示した膜厚分布測定装置1を用いて行った実験2について説明する。本実験に使用したサンプルは次の2種、サンプル2及びサンプル3である。サンプル2は、図2(b)のモデル図に対応し、金属薄膜21としてCr膜(膜厚:7nm)、透明膜22としてSiO膜(膜厚:500nm)を製膜した基板2(円板20)を用いた。
【0054】
一方、サンプル3は、図3(b)のモデル図に対応している。図3(b)では、円板20であるガラス製の本体の上にある金属薄膜21が第1の金属薄膜21であり、さらに透明膜22上に設けられた別の金属薄膜である第2の金属薄膜23が用いられる。例えば第1の金属薄膜21がCr膜であり、第2の金属薄膜23がFe膜である。
【0055】
ここで、第2の金属薄膜23は、実際の鋼球30が利用される環境下において、鋼球30が接触する物体に相当する。第2の金属薄膜23をFe膜により構成することにより、鋼球30が接触する相手方のFe製の部材が存在するという実際の利用環境下により近い状況にて実験を行うことができ、実験の有用性が向上する。サンプル3では、第1の金属薄膜21としてCr膜を製膜し(膜厚:7nm)、透明膜22としてSiO膜(膜厚:500nm)、第2の金属薄膜23としてFe膜(膜厚:10nm)を製膜した基板2(円板20)を用いた。ただし、実験2における照射光の波長は、470nm(青色)、560nm(緑色)、645nm(赤色)の3種類である。他の条件は実験1と共通している。
【0056】
図6は、サンプル2及びサンプル3の測定対象領域Rの観測画像であって、(a)分光法によるサンプル2の画像、(b)分光法によるサンプル3の画像、(c)SLIM(Spacer Layer Imaging Method)法に用いたサンプル2の干渉画像、(d)SLIM法に用いたサンプル3の干渉画像、(e)本実施形態の膜厚分布測定装置1を用いたサンプル2の干渉画像、(f)本実施形態の膜厚分布測定装置1を用いたサンプル3の干渉画像をそれぞれ示す。
【0057】
図6(a)、(b)は分光法によるサンプル2、3の画像を示している。分光法は従来から実施されている方法であり、測定対象領域Rにおける所定の幅を持つ一列、例えば図2(a)の測定対象領域Rの真ん中の部分において紙面に垂直な方向の一列から出てくる光を、波長λ毎にプリズム等を用いて分光する方法であって、精度のよい測定方法である。図6(a)、(b)において横軸は波長λ(左から右に向かって波長が大きくなる)に対応する。一方、縦軸は空間情報、すなわち一列の方向であり、画像の縦軸方向の中央部分が測定対象領域Rにおいて、基板2(円板20)と鋼球30が最接近し、潤滑剤LBの膜厚が最も薄くなっている部分である。本画像では、横軸の右に進むほど中央の帯の様な部分が縦方向に拡がっており、このことは、波長が長い領域が画像の上下、すなわち潤滑剤LBの膜厚が最も薄くなっている部分から外側の方向(図2(a)の測定対象領域Rの真ん中の部分において紙面から表と裏の方向)に向かって分布している。波長が長いことは膜厚が厚いことを意味するため、外側ほど膜厚が厚くなっていることを意味する。
【0058】
図6(c)、(d)はSLIM法に用いたサンプル2、3の画像を示している。SLIM法も従来から実施されている方法であり、得られた画像の色合い(RGBの色相)と膜厚の関連性に基づき、膜厚を算出することができる方法であり、特許文献1に開示の方法も類似の方法である。本画像では、中央の円状の部分が潤滑剤LBの膜厚が最も薄くなっている部分に相当し、その部分から外側に進むほど膜厚が厚くなっていることを示している。
【0059】
図6(e)、(f)は、本実施形態の膜厚分布測定装置1を用いたサンプル2、3の画像を示しており、撮影方法は上述したものである。本画像も図6(c)、(d)と同様に、中央の円状の部分が潤滑剤LBの膜厚が最も薄くなっている部分に相当し、その部分から外側に進むほど膜厚が厚くなっていることを示している。
【0060】
そして、コンピュータ部9の膜厚分布推定部12が、画像記録部11に記録された図6の各画像に基づき、3種の波長の照射光について画素ごとに強度、さらには反射率を取得し、当該反射率から基板2と接触個片3の接触部分SPの潤滑剤LBの膜厚分布を算出した。表示部10がこれらの値をグラフの形式で表示することができる。図7図11は表示部10が表示するグラフである。
【0061】
図7は、青色波長(470nm)の照射光の照射時における径方向Xについての反射率を示すグラフであり、(a)はサンプル2のグラフ、(b)はサンプル3のグラフである。図8は、緑色波長(560nm)の照射光の照射時における径方向Xについての反射率を示すグラフであり、(a)はサンプル2のグラフ、(b)はサンプル3のグラフである。図9は、赤色波長(645nm)の照射光の照射時における径方向Xについての反射率を示すグラフであり、(a)はサンプル2のグラフ、(b)はサンプル3のグラフである。本実施形態の膜厚分布測定装置1により得られた反射率と、分光法により得られた反射率はよく一致していることが理解される。
【0062】
図10は、測定対象領域Rの中央位置における干渉光の波長に対する反射率を示すグラフであり、(a)はサンプル2のグラフ、(b)はサンプル3のグラフである。本実施形態の膜厚分布測定装置1により得られた反射率と、分光法により得られた反射率のスペクトル(波長λに依存した周波数特性)はよく一致していることが理解される。今回の実験で本実施形態では、3点(青色波長470nm、緑色波長560nm、赤色波長645nm)の波長での反射率のみを得ているが、この3点の反射率は分光法により得られた反射率のスペクトルとよく一致しており、3点の情報だけでも膜厚を得ることが可能である。
【0063】
図11は、径方向Xについての膜厚分布を示すグラフであり、(a)はサンプル2のグラフ、(b)はサンプル3のグラフである。膜厚hは、図7図9の反射率に基づき算出することができる。図11(a)は、本実施形態の膜厚分布測定装置1により得られた膜厚と、分光法により得られた膜厚と、SLIM法により得られた膜厚はよく一致していることを示している。
【0064】
一方、図11(b)は、本実施形態の膜厚分布測定装置1により得られた膜厚と分光法により得られた膜厚は比較的一致しているのに対し、SLIM法により得られた膜厚は一致しておらず、SLIM法の精度が低いことを示している。すなわち、図3(b)のように、第1の金属薄膜21(Cr)膜、第2の金属薄膜23(Fe膜)が存在する場合、本実施形態の膜厚分布測定装置1によれば精度よく膜厚を得られるのに対し、SLIM法によれば得られる膜厚の精度はよくない。
【0065】
すなわち、SLIM法は色相と膜厚の関係を利用しており、色があまり変化しないような微小な膜厚変化に対しては有効とは言い難い。例えば第1の金属薄膜21(Cr)膜、第2の金属薄膜23(Fe膜)の場合は、第1の金属薄膜21と第2の金属薄膜23の間で生じる光干渉が潤滑剤LBの膜厚によらず常に強調されるので、色合いの変化があまりない状況となり、SLIM法は有効ではない。
【0066】
一方、本実施形態の膜厚分布測定装置1によれば、第1の金属薄膜21(Cr)膜、第2の金属薄膜23(Fe膜)の場合であっても、照射した光の反射率を利用するため精度のよい膜厚の測定を行うことが可能である。
【0067】
本実施形態では、3種類の波長により生じた光干渉像を撮像し、その3種類の波長に対応する画像、すなわちRGB画像から3波長の強度(例えば反射率)を求め、光干渉多層構造の多光束モデルを用いて膜厚の同定解析をおこなうことで、潤滑剤の膜厚の空間分布を測定することができる。
【0068】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【符号の説明】
【0069】
1 膜厚分布測定装置
2 基板
3 接触個片
4 移動機構
5 回転体回転機構
6 荷重付与機構
7 光源部
8 干渉色撮像部
9 コンピュータ部
10 表示部
11 画像記録部
12 膜厚分布推定部
14 トルク測定部
20 円板(基板の一類型)
21 金属薄膜
22 透明膜
30 鋼球(接触個片/回転体の一類型)
31 シャフト
40 回転モータ
41 連結部材
50 回転モータ
51 シャフト
55 トルクメータ
56 本体部
57 シャフト
60 アクチュエータ
61 可動子
63 ホルダ
65 押付荷重測定部(ロードセル)
70 照明ユニット
72 白色ランプ
75 照明用電源
80 撮像カメラ
81 レンズユニット
82 ハーフミラー
83 対物レンズ
84 結像レンズ
85 カラーフィルタ
86 撮像素子
LB 潤滑剤
SP 基板と鋼球の接触部分
RB 鋼球の回転半径
R 膜厚の測定対象領域
L1 光源部から照射された光
L2 膜厚の測定対象領域に照射された光
L3 膜厚の測定対象領域から反射された光(干渉光)
L4 ハーフミラーを通過した光(撮像される干渉光)
T 伝達トルク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11