(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-30
(45)【発行日】2023-06-07
(54)【発明の名称】救命具
(51)【国際特許分類】
B63C 9/13 20060101AFI20230531BHJP
A62B 35/00 20060101ALI20230531BHJP
【FI】
B63C9/13
A62B35/00 A
(21)【出願番号】P 2019089609
(22)【出願日】2019-05-10
【審査請求日】2022-05-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000149930
【氏名又は名称】株式会社谷沢製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】390005393
【氏名又は名称】藤倉航装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】弁理士法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】生島 藍
(72)【発明者】
【氏名】大山 崇
【審査官】高瀬 智史
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2003/0153222(US,A1)
【文献】実開平5-16592(JP,U)
【文献】特開2017-128280(JP,A)
【文献】特開2004-203316(JP,A)
【文献】福永昭,”クルーザー読本「クルーザーに乗りたい方のために」その3・クルーザー運用術(Seamanship)-4”,舟艇技法,舟艇協会,2017年,第131号,p.39-46
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63C 9/00
A62B 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体に装着して用いる救命具であって、
着用者の少なくとも頸部周りから胸部にかけて設けられる浮力発生体と、該浮力発生体に一体に設けられて着用者に固定する第1装着帯と、命綱を連結する第2装着帯とを備え、
前記第1装着帯は、前記浮力発生体の背後側から垂下する背帯と、該背帯の下端から左右方向に延びて着用者の両脇下を経て両先端が胸前に至る胴帯とを備え、
前記第2装着帯は、着用者の左右の肩に掛ける一対の肩掛帯と、各肩掛帯の下端に連設されて着用者の内腿に掛ける一対の腿掛帯と、背後側の前記肩掛帯に設けられた命綱用連結環とを備え、
前記第1装着帯の前記胴帯の一方の先端部と前記第2装着帯の一方の肩掛帯とは、第1連結部を介して連結され、
前記第1装着帯の前記胴帯の他方の先端部と前記第2装着帯の他方の肩掛帯とは、第2連結部を介して連結され、
一方の前記肩掛帯と他方の前記肩掛帯との間に、両肩掛帯同士を締結する胸帯を設け、
前記胸帯は、一方の前記肩掛帯に基端部が連結された第1胸帯片と、他方の前記肩掛帯に基端部が連結された第2胸帯片と、第1胸帯片の先端部と第2胸帯片の先端部とを着脱自在に連結する第3連結部とを備え、
前記第1連結部は、前記第1装着帯の前記胴帯の一方の先端部を、前記第1胸帯片を介して前記第2装着帯の一方の肩掛帯と連結し、
前記第2連結部は、前記第1装着帯の前記胴帯の他方の先端部を、前記第2胸帯片を介して前記第2装着帯の他方の肩掛帯と連結することを特徴とする救命具。
【請求項2】
前記第1連結部は、前記第1装着帯の前記胴帯の一方の先端部と前記第2装着帯の一方の前記肩掛帯とを着脱自在に連結する第1着脱バックルによって構成され、
前記第2連結部は、前記第1装着帯の前記胴帯の他方の先端部と前記第2装着帯の他方の前記肩掛帯とを着脱自在に連結する第2着脱バックルによって構成されていることを特徴とする請求項1記載の救命具。
【請求項3】
前記第1着脱バックルは互いに係脱自在に連結される第1雄バックル部材と第1雌バックル部材とで構成され、
前記第2着脱バックルは互いに係脱自在に連結される第2雄バックル部材と第2雌バックル部材とで構成され、
前記第1雄バックル部材と前記第2雌バックル部材とは、互いに連結可能に形成され、
前記第1雄バックル部材は、前記第1装着帯の前記胴帯の一方の先端部に設けられ、
前記第1雌バックル部材は、前記第1装着帯の前記胴帯の一方の先端部を連結する一方の前記肩掛帯に設けられ、
前記第2雌バックル部材は、前記第1装着帯の前記胴帯の他方の先端部に設けられ、
前記第2雄バックル部材は、前記第1装着帯の前記胴帯の他方の先端部を連結する他方の前記肩掛帯に設けられていることを特徴とする
請求項2記載の救命具。
【請求項4】
前記第1装着帯の前記背帯は、前記第2装着帯の背後側の前記肩掛帯に連結されていることを特徴とする
請求項1~3の何れか1項記載の救命具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落水時等に備える救命具に関する。
【背景技術】
【0002】
河川、湖沼、海等の水辺や水上での作業を行う場合に、その作業者は、落水に備えて救命胴衣等の救命具を装着することが行われる。救命具は、着用者に浮力を付与するための浮力発生体と、浮力発生体を着用者に固定するための装着帯とを備えるものが知られている(例えば、下記特許文献1参照)。
【0003】
浮力発生体は、発泡スチロール等の浮力材を用いたもののほか、近年では、装着時の嵩張りを防止するために、非常時に気体供給を受けて膨張することによって着用者に浮力を付与する所謂膨張式の浮力発生体が採用される。
【0004】
また、浮力発生体を着用者に固定するための装着帯は、浮力発生体の背後側から垂下する背帯と、背帯の下端から左右方向に延びて着用者の両脇下を経て両先端が胸前に至る胴帯とを備えている。装着時に着用者の胸前にある胴帯の両先端は、着脱バックルによって着脱自在に連結されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、架橋建設工事のように、水上であるだけでなく高所の作業となる場合には、命綱を用いて落下時の安全を確保することが行われる。しかし、上記従来の救命具は、命綱を連結することは考慮されていない。
【0007】
このため、命綱を連結するための安全帯を装着した上に、救命具を装着して作業を行わなければならず、安全帯と救命具との一体感が得られないために、作業時に安全帯と救命具とにずれが生じる等、高所作業の妨げになるおそれがある。
【0008】
上記の点に鑑み、本発明は、水上での高所作業に際して、円滑な作業を阻害することなく、確実に安全を確保することができる救命具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するために、本発明は、人体に装着して用いる救命具であって、着用者の少なくとも頸部周りから胸部にかけて設けられる浮力発生体と、該浮力発生体に一体に設けられて着用者に固定する第1装着帯と、命綱を連結する第2装着帯とを備え、前記第1装着帯は、前記浮力発生体の背後側から垂下する背帯と、該背帯の下端から左右方向に延びて着用者の両脇下を経て両先端が胸前に至る胴帯とを備え、前記第2装着帯は、着用者の左右の肩に掛ける一対の肩掛帯と、各肩掛帯の下端に連設されて着用者の内腿に掛ける一対の腿掛帯と、背後側の前記肩掛帯に設けられた命綱用連結環とを備え、前記第1装着帯の前記胴帯の一方の先端部と前記第2装着帯の一方の肩掛帯とは、第1連結部を介して連結され、前記第1装着帯の前記胴帯の他方の先端部と前記第2装着帯の他方の肩掛帯とは、第2連結部を介して連結されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の救命具は、浮力発生体を備える第1装着帯と、命綱用連結環により命綱に連結される第2装着帯とを備えることにより、万一の落下及び落水を防止して二重の安全を確保することができる。しかも、浮力発生体を備える第1装着帯と、命綱用連結環により命綱に連結される第2装着帯とが、第1連結部及び第2連結部によって連結されているので、一体感が得られ、水上での高所作業を安心感を持って円滑に行うことができる。
【0011】
更に、本発明においては、一方の前記肩掛帯と他方の前記肩掛帯との間に、両肩掛帯同士を締結する胸帯を設け、前記胸帯は、一方の前記肩掛帯に基端部が連結された第1胸帯片と、他方の前記肩掛帯に基端部が連結された第2胸帯片と、第1胸帯片の先端部と第2胸帯片の先端部とを着脱自在に連結する第3連結部とを備え、前記第1連結部は、前記第1装着帯の前記胴帯の一方の先端部を、前記第1胸帯片を介して前記第2装着帯の一方の肩掛帯と連結し、前記第2連結部は、前記第1装着帯の前記胴帯の他方の先端部を、前記第2胸帯片を介して前記第2装着帯の他方の肩掛帯と連結する。
【0012】
これによれば、胴帯の一方の先端部と第1胸帯片とが第1連結部により連結され、胴帯の他方の先端部と第2胸帯片とが第2連結部により連結される。第2装着帯の肩掛帯は上下方向に延びる帯であるが、胸帯は肩掛帯に交差する横方向に延びており、第1装着帯の胴帯も横方向に延びている。このため、胸帯と胴帯との両連結部は連結方向が同じとなる。よって、肩掛帯に連結されている胸帯に、胸帯と同方向に延びる胴帯を連結することにより、肩掛帯と胴帯との連結状態が形成できるので、連結操作が容易となると共に、その構造も簡単となる。
【0013】
また、本発明において、前記第1連結部は、前記第1装着帯の前記胴帯の一方の先端部と前記第2装着帯の一方の前記肩掛帯とを着脱自在に連結する第1着脱バックルによって構成され、前記第2連結部は、前記第1装着帯の前記胴帯の他方の先端部と前記第2装着帯の他方の前記肩掛帯とを着脱自在に連結する第2着脱バックルによって構成されていることが好ましい。これによれば、第1連結部や第2連結部における連結操作が容易となる。
【0014】
更に、このとき、前記第1着脱バックルは互いに係脱自在に連結される第1雄バックル部材と第1雌バックル部材とで構成され、前記第2着脱バックルは互いに係脱自在に連結される第2雄バックル部材と第2雌バックル部材とで構成され、前記第1雄バックル部材と前記第2雌バックル部材とは、互いに連結可能に形成され、前記第1雄バックル部材は、前記第1装着帯の前記胴帯の一方の先端部に設けられ、前記第1雌バックル部材は、前記第1装着帯の前記胴帯の一方の先端部を連結する一方の前記肩掛帯に設けられ、前記第2雌バックル部材は、前記第1装着帯の前記胴帯の他方の先端部に設けられ、前記第2雄バックル部材は、前記第1装着帯の前記胴帯の他方の先端部を連結する他方の前記肩掛帯に設けられていることが好ましい。
【0015】
第1連結部及び第2連結部による連結を解除すれば、浮力発生体を備える第1装着帯を第2装着帯から分離させることができる。そして、浮力発生体を備える第1装着帯のみを装着する時には、胴帯の一方の先端部に設けた第1雄バックル部材と、胴帯の他方の先端部に設けた第2雌バックル部材とを連結すればよい。このように、本発明によれば、浮力発生体を備える第1装着帯のみを装着することが可能となり、使い勝手が向上する。
【0016】
また、本発明において、前記第1装着帯の前記背帯は、前記第2装着帯の背後側の前記肩掛帯に連結されていることが好ましい。これによれば、第1装着帯と第2装着帯とが前後の両方で連結されるので、一層強固な連結状態が得られ、第1装着帯と第2装着帯とを確実に一体化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態である救命具の説明的正面図。
【
図3】第1着脱バックル及び第2着脱バックルの連結状態を示す説明図。
【
図4】第1着脱バックル及び第2着脱バックルの連結を解除した状態を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1及び
図2に示すように、本実施形態の救命具1は、浮力発生体2と、第1装着帯3と、第2装着帯4とを備えている。
【0019】
浮力発生体2は、柔軟なシートで形成された外カバー5と、外カバー5の内側に畳んだ状態で収容された中空の浮袋(図示せず)とを備え、落水等の緊急時に浮袋を膨張させることで浮力を発生させる。浮力発生体2は、着用者の頸部の後方から両側に延びて胸部に至る形状に形成されている。
【0020】
第1装着帯3は、
図2に示すように、浮力発生体2の背後側(頸部の後ろ側)から垂下する背帯6と、
図1及び
図2に示すように、背帯6の下端から着用者の両脇下を経て両先端が胸前に至る胴帯7と、
図1に示すように、外カバー5の胸前側から垂下して下端が胴帯7に連結された一対の連結帯8とを備えている。
【0021】
第2装着帯4は、
図1及び
図2に示すように、所謂ハーネス型安全帯として命綱(図示しない)を連結して使用可能に構成されたものであり、着用者の両肩に掛けた状態で胸側と背中側とで下方に延びる一対の肩掛帯9と、着用者の胸前側の両肩掛帯9の間に横方向に延設された胸帯10と、環状に形成されて左右の腿の夫々に掛けまわされる一対の腿掛帯11と、腹部周りに巻回する腰帯12とを備えている。
【0022】
左右の腿掛帯11は、夫々、左右の肩掛帯9の下端に連結されている。また、
図2に示すように、着用者の背中側の両肩掛帯9は、上端と下端の結束具13a,13b間において重合状態で上下方向に延びる重合部14を形成しており、この重合部14の上端の結束具13aには、命綱を連結するための命綱用連結環15(アンカーリング)が取り付けられている。また、重合部14には、第1装着帯3の背帯6がクリップ部材16によって解除自在に連結されている。
【0023】
図3及び
図4に示すように、第2装着帯4の胸帯10は、第1胸帯片17と第2胸帯片18とで構成されている。第1胸帯片17は基端部が一方の肩掛帯9に連結され、第2胸帯片18は基端部が他方の肩掛帯9に連結されている。第1胸帯片17の先端部と第2胸帯片18の先端部とは後述する第3着脱バックル22(第3連結部)により連結されている。
【0024】
第1胸帯片17は、第1着脱バックル19(第1連結部)によって第1装着帯3の胴帯7の一方の先端部に連結される。第1胸帯片17は、第2装着帯4の一方の肩掛帯9に連結されることにより、第1装着帯3の胴帯7の一方の先端部と第2装着帯4の一方の肩掛帯9とが連結された状態となる。
【0025】
同じように、第2胸帯片18は、第2着脱バックル20(第2連結部)によって第1装着帯3の胴帯7の他方の先端部に連結される。第1胸帯片17は、第2装着帯4の他方の肩掛帯9に連結されることにより、第1装着帯3の胴帯7の他方の先端部と第2装着帯4の他方の肩掛帯9とが連結された状態となる。
【0026】
図1、
図3、及び
図4に示すように、第1着脱バックル19は、第1装着帯3の胴帯7の一方の先端部に設けられた第1雄バックル部材19aと、第2装着帯4の一方の肩掛帯9に連結されている第1胸帯片17の基端部に設けられた第1雌バックル部材19bとで構成されている。即ち、第1雄バックル部材19aと第1雌バックル部材19bとは、第1装着帯3の胴帯7の一方の先端部と第2装着帯4の一方の肩掛帯9とを係脱自在に連結している。
【0027】
同様に、第2着脱バックル20は、第1装着帯3の胴帯7の他方の先端部に設けられた第2雌バックル部材20bと、第2装着帯4の他方の肩掛帯9に連結されている第2胸帯片18の基端部に設けられた第2雄バックル部材20aとで構成されている。即ち、第2雌バックル部材20bと第2雄バックル部材20aとは、第1装着帯3の胴帯7の他方の先端部と第2装着帯4の他方の肩掛帯9とを係脱自在に連結している。
【0028】
そして、第1雄バックル部材19aと第2雄バックル部材20aとは同一形状であり、第1雌バックル部材19bと第2雌バックル部材20bとは同一形状である。これにより、第1装着帯3の胴帯7の両端部が第1雄バックル部材19aと第2雌バックル部材20bとで連結可能となっている。
【0029】
更に、
図1に示すように、第1装着帯3の胴帯7は、一方の先端部側と他方の先端部側との夫々に長さを調節するための環部材21を備えている。
【0030】
また、
図1、
図3、及び
図4に示すように、第1胸帯片17の先端部と第2胸帯片18の先端部とを連結する第3着脱バックル22は、第1胸帯片17の先端部に設けられた第3雄バックル部材22aと、第2胸帯片18の先端部に設けられた第3雌バックル部材22bとで構成されている。第1胸帯片17と第2胸帯片18とは第3着脱バックル22により係脱自在に連結されている。
【0031】
以上のように構成された本実施形態の救命具1は、浮力発生体2によって落水に備えることができるだけでなく、命綱に連結される第2装着帯4によって高所作業における落下を防止することができるので、水上の高所作業において二重の安全を確保することができる。
【0032】
更に、第1装着帯3と第2装着帯4とは、第1着脱バックル19、第2着脱バックル20及びクリップ部材16により確実に一体化することができるので、一体感が得られ、作業を円滑に行うことができる。
【0033】
また、第1装着帯3と第2装着帯4とを分離させたときには、胴帯7の一方の先端部に設けた第1雄バックル部材19aと、胴帯7の他方の先端部に設けた第2雌バックル部材20bとを連結し、浮力発生体2を備える第1装着帯3のみを装着することができるので、使い勝手がよい。
【符号の説明】
【0034】
1…救命具、2…浮力発生体、3…第1装着帯、4…第2装着帯、6…背帯、7…胴帯、9…肩掛帯、10…胸帯、11…腿掛帯、15…命綱用連結環、17…第1胸帯片、18…第2胸帯片、19…第1着脱バックル(第1連結部)、19a…第1雄バックル部材、19b…第1雌バックル部材、20…第2着脱バックル(第2連結部)、20a…第2雄バックル部材、20b…第2雌バックル部材、22…第3着脱バックル(第3連結部)。