(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-30
(45)【発行日】2023-06-07
(54)【発明の名称】特殊分岐器ふく進量計測システム
(51)【国際特許分類】
B61K 9/08 20060101AFI20230531BHJP
G01C 15/00 20060101ALI20230531BHJP
G01C 15/06 20060101ALI20230531BHJP
【FI】
B61K9/08
G01C15/00 103A
G01C15/06 T
(21)【出願番号】P 2019111828
(22)【出願日】2019-06-17
【審査請求日】2022-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503295448
【氏名又は名称】計測ネットサービス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093687
【氏名又は名称】富崎 元成
(74)【代理人】
【氏名又は名称】町田 光信
(74)【代理人】
【識別番号】100168468
【氏名又は名称】富崎 曜
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 拓海
(72)【発明者】
【氏名】安藤 洋介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】小川 和宏
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 宏典
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107815935(CN,A)
【文献】特開2000-272515(JP,A)
【文献】特開2012-102498(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101219671(CN,A)
【文献】特開2017-133981(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61K 9/08
E01B 35/00
G01B 21/00
G01C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分岐器を構成するレールの各計測点又はその近傍に設置される計測用ターゲット(104)と、
前記計測用ターゲット(104)に計測光を投射し前記計測用ターゲット(104)から反射した前記計測光を受光することで前記計測用ターゲット(104)の位置情報を計測する測量機(101)と、
前記測量機(101)を制御する制御装置(103)と、を備えた分岐器ふく進量計測システム(100)であって、
前記測量機(101)は前記計測用ターゲット(104)を自動的に探索し視準する自動追尾機能を有すると共に、
前記制御装置(103)は前記測量機(101)が計測した前記計測点に係る前記位置情報を無線通信を介して取り込み、
前記位置情報を基に所定の距離情報(L1、・・・、L10)を算出し、前記距離情報(L1、・・・、L10)を基に前記分岐器のふく進量を算出
し、
前記計測用ターゲット(104)は、前記計測点に設置される石突き(104a)と、前記計測光が入反射するプリズム本体部(104b)とを備え、
前記石突き(104a)と前記プリズム本体部(104b)との間に前記レールの表面形状と同一又は類似の表面形状を有する柱体(105)を接続可能に構成されている
ことを特徴とする分岐器ふく進量計測システム。
【請求項2】
請求項1に記載の分岐器ふく進量計測システムにおいて、
前記制御装置(103)は、人の音声を認識することが出来る音声認識機能を有する
ことを特徴とする分岐器ふく進量計測システム。
【請求項3】
請求項
1又は2に記載の分岐器ふく進量計測システムにおいて、
前記測量機(101)は自動整準機能を有し、
前記測量機(101)より取得した座標値から前記レールのふく進量を算出する
ことを特徴とする分岐器ふく進量計測システム。
【請求項4】
請求項
3に記載の分岐器ふく進量計測システムにおいて、
前記制御装置(103)は、前記柱体(105)が前記レールに横方向から当接されて計測が行われる場合、前記柱体(105)の側面(105a)を基準としたときの前記石突き(104a)の偏心量をオフセット値として、前記測量機(101)より取得した前記座標値を補正する
ことを特徴とする分岐器ふく進量計測システム。
【請求項5】
請求項
3に記載の分岐器ふく進量計測システムにおいて、
前記制御装置(103)は、前記柱体(105)が前記レールに縦方向から当接されて計測が行われる場合、前記石突き(104a)の円柱面を基準としたときの偏心量をオフセット値として、前記測量機(101)より取得した前記座標値を補正する
ことを特徴とする分岐器ふく進量計測システム。
【請求項6】
請求項1から
5の何れか1項に記載の分岐器ふく進量計測システムにおいて、
前記制御装置(103)は、検査対象の分岐器に応じて、該分岐器のふく進量の算出に必要な全ての計測点の一覧及び計測点に係る設計値を表示するように構成されている
ことを特徴とする分岐器ふく進量計測システム。
【請求項7】
請求項1から
6の何れか1項に記載の分岐器ふく進量計測システムにおいて、
前記制御装置(103)は、前記計測点の配置を図示するように構成されている
ことを特徴とする分岐器ふく進量計測システム。
【請求項8】
請求項1から
7の何れか1項に記載の分岐器ふく進量計測システムにおいて、
前記分岐器には少なくとも可動ダイヤモンドクロッシング、シングルスリップスイッチ、及びダブルスリップスイッチが含まれる
ことを特徴とする分岐器ふく進量計測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特殊分岐器ふく進量計測システムに関し、より詳細には分岐器のふく進量の計測作業に係る労力と時間を大幅に低減すると共に、計測値に含まれる人的誤差を大幅に低減することが可能な特殊分岐器ふく進量計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
駅の構内には、本線路からそれぞれの発着ホームへ、発着ホームから本線路への列車の誘導、通過列車を待つ間の待避、車両基地での車両の入れ替えなど様々な状況のところに分岐器が存在する。特に、多方面から線路が合流・分岐するターミナル駅には、限られた用地内で列車や車両を誘導するため、様々な分岐器が使われている。
【0003】
分岐器の種類としては、普通分岐器と、それよりも構造が複雑な特殊分岐器に大別することができる。普通分岐器は、直線の線路が右側または左側に分かれる線路構造を有する片開き分岐器、同じく直線の線路が左右対称の二方向に分かれる線路構造を有する両開き分岐器等が広く知られている。
【0004】
他方、特殊分岐器は、二つの線路が交差する線路構造を有するダイヤモンドクロッシング(DC)、或いはダイヤモンドクロッシング(DC)の片側に渡り線が設けられた線路構造を有するシングルスリップスイッチ(SSS)等が広く知られている。
【0005】
分岐器は、構造上、枕木に固定された基本レールと、基本レールに対し変位可能に構成された可動レール(例えばトングレール)と、可動レールに連結したリードレールと、リードレールに対向・離隔して配置されたV字状のクロッシング等から構成されている。
【0006】
列車の通過による荷重が分岐器を構成するレールに繰り返し負荷されると、レールの一部又は全部が変位(移動)するレールのふく進が発生する。レールのふく進により、分岐器の切換時において可動レールと固定レールとの間に隙間が生じ、最悪の場合、分岐器不転換等の不具合を引き起こす場合がある。そのため、分岐器を構成するレール(へ形レール、可動レール、スリップレール、基本レール、クロッシング)のふく進量(移動量)については、作業員が後述する水糸張り測定法によって基準線から各測点に至る距離を定期的に測定し、その測定した距離に基づいて、作業員が手計算により各測点についての移動量を算出している。そして、算出した移動量は、予め設定した管理値に基づいて作業員がその良否を判定している。移動量が管理値を超える場合は、移動量が管理値の範囲内に収まるように該当レールの修理・補修等が行われる。
【0007】
なお、上記水糸張り測定法とは、分岐器を跨ぐ形態で設けられた2つの基準杭の中心点を通るように作業員が糸(水糸)を張って、その水糸を計測の基準線として、別の作業員が測定定規(直角定規)をその基準線に接合させ且つ測定定規を地面に平行に設定した状態で、分岐器を構成するレールの各測点の基準線に至るまでの距離を目視にて測定する測定方法である(例えば、特許文献1の
図6を参照。)。
【0008】
また、分岐器ふく進量測定治具として、固定レール(へ形レール)の曲げ中央点近傍の形状と同一形状を一部に有する固定レール当接部と、固定レール当接部に取り付けられるとともに、固定レール当接部に対し直角(90°)の方向に延びる基準線を有する基準部と、その基準線からの距離を測定する測定部(測定定規)を備えた分岐器測定装置(分岐器測定治具)についても知られている(例えば、特許文献1の
図1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1に記載の2つの基準杭に水糸を張る水糸張り測定法では、計測の基準線となる水糸を張るために少なくとも2人の作業員が必要となる。それに加えて、測定定規で基準線から測点までの距離を測定する作業員が別途必要になる。結果、測定に際し少なくとも3人の作業員が必要となる。
【0011】
また、水糸張法による測定では、長い糸張り区間を基準線とした定規による測定のため、糸張り具合(弛み)や人の目測による人的誤差が測定値に含まれるという問題がある。さらに作業員は水糸に対し定規を直角に当てる必要があり、測定に際しある程度の技能・経験が要求されるという問題がある。また、測定に多くの時間が必要となり、さらにふく進量を算出するためにはその場で手計算が必要である等、作業性にも問題がある。
【0012】
一方、上記特許文献1に記載の上記分岐器測定治具を使用したふく進量の計測では、分岐器測定治具は測定の基準線を予め備えているため、分岐器測定治具を固定レール(へ形レール)に設定した後は、作業員一人でレールの各測点の移動量を測定することが可能である。
【0013】
しかし、上記分岐器測定治具は、左右のへ形レールに係合する大きな外形寸法を有するため、分岐器測定治具を作業員一人で持ち運び、へ形レールに設定することは容易ではない。すなわち、上記分岐器測定治具については取り扱いが難しいという問題がある。
【0014】
また、上記分岐器測定治具は、治具の基準部を計測の基準線とし、その基準線から左・右の起点方又は終点方の各可動レール(例えばトングレール)先端に至る距離を測定するための治具である。つまり、その基準線から離れた場所に設置された起点方又は終点方の各クロッシング交点については、上記分岐器測定治具によって直接測定することは出来ない。そのため、クロッシング交点の測定については、従来から使用されている水糸を使用しなければならない。その結果、上記分岐器測定治具を使用する場合であっても、分岐器を検査するためには少なくとも3人の作業員は必要となる。さらに、上記分岐測定治具の難取扱性と相まって、分岐器の検査に対し多くの労力と時間を要するという問題がある。
【0015】
また、測定は測定定規を使用して手動にて行われるため、水糸張り測定法と同様に測定値に人的誤差が含まれるという問題もある。
【0016】
そこで、本発明は上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであり、その目的は分岐器のふく進量の測定作業に係る労力と時間を大幅に低減すると共に、測定値に含まれる誤差を大幅に低減することが可能な分岐器ふく進量計測システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するための本発明に係る分岐器ふく進量計測システムは、分岐器を構成するレールの各計測点又はその近傍に設置される計測用ターゲット(104)と、前記計測用ターゲット(104)に計測光を投射し前記計測用ターゲット(104)から反射した前記計測光を受光することで前記計測用ターゲット(104)の位置情報を計測する測量機(101)と、前記測量機(101)を制御する制御装置(103)とを備えた分岐器ふく進量計測システム(100)であって、前記測量機(101)は前記計測用ターゲット(104)を自動的に探索し視準する自動追尾機能を有すると共に、前記制御装置(103)は前記測量機(101)が計測した前記計測点に係る前記位置情報を無線通信を介して取り込み、前記位置情報を基に所定の距離情報(L1、・・・、L10)を算出し、前記距離情報(L1、・・・、L10)を基に前記分岐器のふく進量を算出することを特徴とする。
【0018】
上記構成では、測量機(101)は自動追尾機能を有するため、作業員一人によるワンマン計測が可能となる。また、各測点の位置情報の計測は測量機(101)によって行われるため、測定者の違いによる測定誤差(人的誤差)が排除されることになる。
【0019】
また、計測された各測点の位置情報は、無線通信を介して制御装置(103)に送信され、制御装置(103)がその位置情報に基づいて分岐器ふく進量を算出するように構成されている。つまり、本発明では各測点の位置情報に基づいて分岐器のふく進量が自動的に算出(計測)されるため、作業者による水糸張り作業および定規による測定作業が不要となる。これに加えて、作業者による手計算も不要になるため、ふく進量の測定作業に係る労力と時間が大幅に低減されることになる。
【0020】
本発明に係る分岐器ふく進量計測システムの第2の特徴は、前記制御装置(103)は、人の音声を認識することが出来る音声認識機能を有することである。
【0021】
上記構成では、作業員は自己の音声で測量機(101)を遠隔操作することが可能となる。その結果、作業員は自己の両手を計測用ターゲット(104)の据え付けに使用することが可能となる。これにより、計測用ターゲット(104)を各測点又はその近傍に静止状態で安定に据え付けることが可能となる。その結果、計測用ターゲット(104)の振れによる計測誤差(人的誤差)が排除されることになる。
【0022】
また、上記構成では、作業員は両手で計測用ターゲット(104)を持ちながら測量機(101)を遠隔操作することが可能となる。
【0023】
本発明に係る分岐器ふく進量計測システムの第3の特徴は、前記計測用ターゲット(104)は、前記計測点に設置される石突き(104a)と、前記計測光が入反射するプリズム本体部(104b)とを備え、前記石突き(104a)と前記プリズム本体部(104b)との間に前記レールの表面形状と同一又は類似の表面形状を有する柱体(105)を接続可能に構成されていることである。
【0024】
上記構成では、石突き(104a)を立てることが難しい測点(例えば、レールの縁)に対し、上記柱体(105)をレール側面に対し横方向から当てることにより、計測用ターゲット(104)を安定に静止させることができる。これにより、石突き(104a)を立てることが難しい測点を精度良く計測することが可能となる。
【0025】
本発明に係る分岐器ふく進量計測システムの第4の特徴は、前記測量機(101)は自動整準機能を有し、前記測量機(101)より取得した座標値から前記レールのふく進量を算出することである。
【0026】
上記構成では、測量機(101)の電源を投入すると、測量機(101)は計測可能状態になるため、従来行われていた作業員による測量機に対する整準作業が省略されることになる。
【0027】
本発明に係る分岐器ふく進量計測システムの第5の特徴は、前記制御装置(103)は、前記柱体(105)が前記レールに横方向から当接されて計測が行われる場合、前記柱体(105)の側面(105a)に対する前記石突き(104a)の偏心量をオフセット値として、前記測量機(101)より取得した前記座標値を補正することである。
【0028】
本発明に係る分岐器ふく進量計測システムの第6の特徴は、前記制御装置(103)は、前記柱体(105)が前記レールに縦方向から当接されて計測が行われる場合、前記石突き(104a)の円柱面に対する偏心量をオフセット値として、前記測量機(101)より取得した前記座標値を補正することである。
【0029】
上記構成では、柱体(105)により石突き(104a)をレールの計測箇所から離隔した位置に安定に据え付けた状態で、上記補正によりレールの計測箇所を精度良く測定することができる。
【0030】
本発明に係る分岐器ふく進量計測システムの第7の特徴は、前記制御装置(103)は、検査対象の分岐器に応じて、該分岐器のふく進量の算出に必要な全ての計測点の一覧及び計測点に係る設計値を表示するように構成されていることである。
【0031】
上記構成では、特に、作業員による計測漏れを防止することができる。
【0032】
本発明に係る分岐器ふく進量計測システムの第8の特徴は、前記制御装置(103)は、前記計測点の配置を図示するように構成されていることである。
【0033】
上記構成では、特に、作業員による計測箇所の誤認を防止することができる。
【0034】
本発明に係る分岐器ふく進量計測システムの第9の特徴は、前記分岐器には少なくとも可動ダイヤモンドクロッシング、シングルスリップスイッチ、及びダブルスリップスイッチが含まれることである。
【発明の効果】
【0035】
本発明の分岐器ふく進量計測システムによれば、特殊分岐器を含むあらゆる種類の分岐器のふく進量の計測作業に係る労力と時間を大幅に低減すると共に、計測値に含まれる人的誤差を大幅に低減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の一実施形態に係る特殊分岐器ふく進量計測システムを示す説明図である。
【
図2】本発明に係るコンピュータにインストールされている特殊分岐器ふく進量計測管理プログラムの概要を示す説明図である。
【
図3】検査対象の可動DC型特殊分岐器のふく進量計測に係る各測点を示す説明図である。
【
図4】本発明に係る特殊分岐器ふく進量計測システムのメイン画面を示す説明図である。
【
図5】本発明に係る特殊分岐器ふく進量計測システムの選択画面を示す説明図である。
【
図6】本発明に係る特殊分岐器ふく進量計測システムの検査画面を示す説明図である。
【
図7】本発明に係る特殊分岐器ふく進量計測システムの閲覧画面を示す説明図である。
【
図8】本発明に係る特殊分岐器ふく進量計測システムの座標確認画面を示す説明図である。
【
図9】本発明に係る特殊分岐器ふく進量計測システムの設定画面を示す説明図である。
【
図10】へ形レールのオフセットを示す説明図である。
【
図11】可動レールのオフセットを示す説明図である。
【
図12】本発明に係る特殊分岐器ふく進量計測システムによる計測値についての再現性結果を示す説明図である。
【
図13】本発明に係るプリズム治具を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0038】
図1は、本発明の一実施形態に係る特殊分岐器ふく進量計測システム100を示す説明図である。
【0039】
この特殊分岐器ふく進量計測システム100は、一人の作業員が特殊分岐器のふく進量を短時間かつ容易に精度良く測定することができる、いわゆるワンマン測定を可能にするシステムである。そのための構成として、プリズム104を自動的に追尾してターゲット(計測点)の座標を計測する測量機101と、測量機101を地面に安定に据え付ける精密三脚102と、測量機101によって計測された計測結果(座標値)を基に特殊分岐器のふく進量を自動的に算出するコンピュータ103と、測量機101が計測する計測箇所(測点)に立てられるプリズム104と、プリズム104の石突き104aを立てることが出来ない計測箇所を精度良く計測するためのプリズム治具105と、を具備してこの特殊分岐器ふく進量計測システム100は構成されている。以下、各構成についてさらに説明する。
【0040】
測量機101は、特殊分岐器内の全ての測点を捉えることができる任意の位置に精密三脚102によって据え付けられる。特殊分岐器ふく進量計測システム100は自動的に基準座標系の設定を行う機能を有している。加えて、作業員が測量機101の電源を投入すると、測量機101は自動整準を行い、計測可能状態になる。このように、従来のトータルステーションにおいて行われていた整準作業は、この特殊分岐器ふく進量計測システム100においては不要となる。
【0041】
また、測量機101はターゲット(プリズム104)を自動的に追尾して計測を行う自動追尾機能を有している。従って、従来のトータルステーションにおいて行われていた、作業員が測量機101からプリズム104(ターゲット)を捉える視準作業は、この特殊分岐器ふく進量計測システム100においては不要となる。その結果、従来のトータルステーションにおいては計測に際し、測量機101からプリズム104を視準する作業員と、プリズム104を支持する作業員の二人の作業員が必要であったが、この特殊分岐器ふく進量計測システム100においては一人の作業員のみで検査対象である分岐器の各測点の座標を計測することができる。
【0042】
また、測量機101はWi-Fi(登録商標)またはBluetooth(登録商標)等の無線通信規格(ワイヤレスネットワーク)を備えている。従って、測量機101によって計測された各測点の計測値(座標値)は、Bluetooth(登録商標)等のワイヤレスネットワークを介してコンピュータ103に送信されることになる。コンピュータ103に送信された計測値(座標値)は、特殊分岐器のふく進量(移動量)の算出に使用される。従って、従来の水糸張り測定方法で行われていた作業員による糸張り作業および手計算作業は、この特殊分岐器ふく進量計測システム100において不要となる。
【0043】
精密三脚102は、温度による膨張が少なく測量機101の振動も吸収する木材から作られている。また、脚部の先端は、スチールをインサートした強固な石突きによって構成されている。これにより、測量機101は地面に安定に据え付けられることになる。
【0044】
コンピュータ103は、測量機101に対する遠隔操作、ふく進量の算出、計測結果の管理等を行うための制御操作部103aと、作業員が手動入力するための手動入力部103bと、作業員がコンピュータ103を懸架するためのストラップ103cとを備えている。
【0045】
コンピュータ103には、測量機101に対する遠隔操作、ふく進量の算出、計測結果の管理等を行う計測管理プログラムがインストールされている。この計測管理プログラムについては
図2から
図9を参照しながら後述する。コンピュータ103は、測量機101又は他のコンピュータ機器と通信するための無線通信機能を備えている。コンピュータ103は、近距離無線通信の場合は、Wi-Fi(登録商標)またはBluetooth(登録商標)を使用する。
【0046】
プリズム104は、計測箇所に立てられる石突き104aと、測量機101から入射する計測光(測距光101a)を測量機101に向けて反射させるプリズム本体部104bと、作業員がプリズム104を支持するためポール104cとから構成される。石突き104aは、プリズム本体部104bにねじ込まれて取り付けられている。従って、石突き104aはプリズム本体部104bに対し着脱可能に構成されている。
【0047】
プリズム治具105は、プリズム104の石突き104aを安定に立てることが難しい計測箇所に、石突き104aを安定に立てるための治具である。プリズム治具105は四角柱体の形状を成し、プリズム本体部104bと石突き104aとの間に取り付けられる。広い側面105aが計測箇所に接合して、プリズム104を安定させる。これについては、
図10及び
図11を参照しながら後述する。頭部にはプリズム本体部104bにネジ結合する雄ネジ部105bが形成されている。また、頭部と反対側の底部には、石突き104aとネジ結合する雌ネジ部105cが形成されている。
【0048】
図2は、本発明に係るコンピュータ103にインストールされている特殊分岐器ふく進量計測管理プログラム(以下、「ふく進量計測管理プログラム」という。)の概要を示す説明図である。
このふく進量計測管理プログラムが起動すると、コンピュータ103のモニタ画面上にメイン画面103dが表示される。このメイン画面103dの詳細については
図4を参照しながら後述する。
【0049】
メイン画面103d中の”検査開始”のアイコンが押されると、選択画面103eが表示される。作業員は、プルダウンメニューから駅名、分岐器番号、検査責任者を選択する。これにより、測量機101が計測する全て測点が後述する検査画面103fに表示される。この選択画面103eの詳細については
図5を参照しながら後述する。
【0050】
選択画面103e中の”OK”のアイコンが押されると、検査画面103fが表示される。検査画面103fにおいて、103f4のボックス内の”停止”のアイコンが押されると測量機101による計測が開始される。この検査画面103fの詳細については
図6を参照しながら後述する。
【0051】
検査画面103f中の下方の”表示切替”のアイコンが押されると、閲覧画面103gが表示される。閲覧画面103gにおいて、測量機101による特殊分岐器ふく進量についての検査結果の詳細が表示される。なお、メイン画面103d又は後述する座標確認画面103hからも閲覧画面103gを表示させることが可能である。この閲覧画面103gの詳細については
図7を参照しながら後述する。
【0052】
閲覧画面103g中の”座標確認”のアイコンが押されると、座標確認画面103hが表示される。座標確認画面103hは、測量機101が計測した各測点の座標を表示する。なお、検査画面103f又は閲覧画面103gからも座標確認画面103hを表示させることが可能である。この座標確認画面103hの詳細については
図8を参照しながら後述する。
【0053】
メイン画面103d中の”設定”のアイコンが押されると、設定画面103iが表示される。設定画面103iでは、測量機101との通信で使用する無線通信の種類を作業員が選択する。また、各分岐器の設計データについても作業員が入力する。この設定画面103iの詳細については
図9を参照しながら後述する。
【0054】
図3は、検査対象である可動DC型特殊分岐器ふく進量に係る各測点を示す説明図である。検査対象である可動DC型特殊分岐器は、可動レール6,7,8,9と共にX字状の線路を形成するクロッシング起点方3及びクロッシング終点方4と、地面に対し固定されたへ形レール左5及びへ形レール右8と、へ形レール左5に対し変位可能に構成された可動レール左起点方6及び可動レール左終点方7と、同様にへ形レール右8に対し変位可能に構成された可動レール右起点方9及び可動レール右終点方10とから構成される。
【0055】
測点については、基準線(基準杭中央)を形成する杭左1及び杭右2と、同じく基準線(クロッシング交点間弦)を形成するクロッシング交点起点方3T及びクロッシング交点終点方4Tと、へ形レール左5の折れ曲がった点を形成するへ形中央左5Tと、へ形レール右8の折れ曲がった点を形成するへ形中央右8Tと、可動レール左起点方6の杭左1側の先端部を形成する可動レール左先端起点方6Tと、可動レール左終点方7の杭左1側の先端部を形成する可動レール左先端終点方7Tと、可動レール右起点方9の杭右2側の先端部を形成する可動レール右先端起点方9Tと、可動レール右終点方10の杭右2側の先端部を形成する可動レール右先端終点方10Tが選定される。なお、クロッシング交点起点方3Tに代えてクロッシング又部中点起点方11Tを、クロッシング交点終点方4Tに代えてクロッシング又部中点終点方12Tを採用することも可能である。
【0056】
また、各測点に対するプリズム104の設置について、杭左1、杭右2、クロッシング交点起点方3T、クロッシング交点終点方4T、クロッシング又部中点起点方11T、及びクロッシング又部中点終点方12Tについては、石突き104aの先端部が当接されて据え付けられる。
【0057】
一方、へ形中央左5T及びへ形中央右8Tについては、プリズム治具105が縦方向(鉛直方向)から当接されて、且つ石突き104aの円柱面が円柱面が当接されて据え付けられる(
図10)。
【0058】
また、可動レール左先端起点方6T、可動レール左先端終点方7T、可動レール右先端起点方9T、及び可動レール右先端終点方10Tについては、プリズム治具105が横方向から当接されて据え付けられる(
図11)。以下、メイン画面103dについて説明する。
【0059】
図4は、本発明に係る特殊分岐器ふく進量計測システム100のメイン画面103dを示す説明図である。画面中央には検査履歴(検査結果の一覧)が表示される。画面左隅には、”検査開始”、”削除”、”閲覧”、”設定”の各アイコンが表示される。画面右隅には、”終了”のアイコンが表示される。”検査開始”のアイコンをタップすると、選択画面103e(
図5)がポップアップ表示される。”削除”のアイコンをタップすると、選択されている検査結果が削除される。”閲覧”のアイコンをタップすると、選択されている検査結果の内容の詳細を表示する閲覧画面(
図7)に遷移する。”設定”のアイコンをタップすると、無線通信等の設定を行う設定画面103iに遷移する。”終了”のアイコンをタップすると、ふく進量計測管理プログラムが終了する。
【0060】
図5は、本発明に係る特殊分岐器ふく進量計測システム100の選択画面103eを示す説明図である。メイン画面103dの画面左隅の”検査開始”のアイコンをタップすると、検査履歴中に選択画面103eがポップアップ表示される。ここでは、”駅名称”、”分岐器番号”、”検査責任者”をそれぞれ選択する。作業員は、セル右端のv印をタップしてプルダウンメニューを表示して、その中から検査に係る”駅名称”、”分岐器番号”、”検査責任者”をそれぞれ選択する。
【0061】
特に、”分岐器番号”を選択することより、測量機101が計測すべき全ての測点が設計データベースから読み込まれ、後述する検査画面103fに表示されると共にその配置が図示される。なお、図面番号、種別および番数については、分岐器番号の選択によって自動的に入力される。
【0062】
図6は、本発明に係る特殊分岐器ふく進量計測システム100の検査画面103fを示す説明図である。なお、ここで言う「検査」とは分岐器の各移動量(ふく進量)が予め設定された管理値の範囲内にあるか否かを判定することを意味している。また、ここでの検査対象の分岐器の種類は可動DCとしている。
【0063】
画面左上は、測点・計測距離二次元マップ103f1である。ここでは測量機101によって計測される各測点の配置、並びにこれら各測点の各座標に基づいて算出される所定の計測距離L1,・・・,L10をそれぞれ平面的に図示している。各測点の移動量は、上記計測距離L1,・・・,L10に基づいてコンピュータ103によって算出される。
【0064】
画面中央上は、計測すべき分岐器の各測点の一覧を表示する測点エリア103f2である。この測点エリア103f2は、測量機101が自動追尾した座標値がどこの測点の座標値であるかをコンピュータ103に認識させるためのものである。すなわち、測点エリア103f2内の測点を作業員がタップし、計測確定ボタン103f3をタップすることにより、測量機101によって計測される計測値が、タップされた測点(例えば、クロッシング交点起点方3T)の座標値としてコンピュータ103内のRAM又はROM等の記憶媒体に保存される。保存された座標値は上記計測距離L1,・・・,L10の算出において使用されることになる。
【0065】
計測確定ボタン103f3の左側にあるボックスは、作業員が測量機101の操作を遠隔で行うためのツールボックス103f4である。作業員が矢印ボタンをタップすることにより、測量機101を左旋回又は右旋回させることが出来る。或いは、作業員が停止ボタンをタップすることにより、測量機101の旋回を停止させることが出来る。また、作業者に侵入禁止灯と誤認させないため、本システムはガイドライトを停止させる機能を有している。例えば、作業員がガイドライトボタンをタップすることにより、測量機101のガイドライトを停止させることが出来る。
【0066】
また、ツールボックス103f4の上方にあるボックスは、検査年月日、前回検査日、駅名、分岐器番号、分岐器の図面番号、及び検査責任者を表示する分岐器関連情報ボックス103f5である。これらは選択画面103eの入力事項を基に自動的に表示される。
【0067】
ツールボックス103f4の下方にあるボックスは、クロッシング交点から各杭に至る各計測距離A,B,C,Dを示すクロッシング交点・杭間計測距離ボックス103f6である。各計測距離A,B,C,Dは、ふく進量の算出には使用されないが、基準点の相対位置を把握するために参考値として表示されている。
【0068】
計測距離Aはクロッシング交点起点方3Tから杭左1に至る距離である。計測距離Bはクロッシング交点起点方3Tから杭右2に至る距離である。計測距離Cはクロッシング交点終点方4Tからと杭左1に至る距離である。計測距離Dはクロッシング交点終点方4Tから杭右2に至る距離である。なお、計測開始前のため、測定値の各セルが空欄になっている。過去に計測した値の内で直近の計測値が前回値として表示されている。因みに各計測距離A,B,C,Dについては、参考値であるため判定に係る管理値は設けられていない。
【0069】
画面下中央は、各測定箇所についての移動量(ふく進量)を表示する移動量表示ウィンドウ103f7である。なお、移動量表示ウィンドウ103f7中のセルが空欄になっているのは、未計測のためである。計測距離L1は、クロッシング交点起点方3Tから杭間弦(杭左1の中心と杭右2の中心を結んだ仮想中心線)に下ろした垂線の長さに相当する距離である。計測距離L2は、クロッシング交点終点方4Tから杭間弦に下ろした垂線の長さに相当する距離である。この場合、クロッシング交点間距離の移動量は、(L1-設計値)+(L2-設計値)としてコンピュータ103によって算出される。算出されたクロッシング交点間距離の移動量が、管理値(-15mm~+15mm)の範囲内であれば問題無しとして、”今回判定”の欄に○印が記載される。一方、算出されたクロッシング交点間距離の移動量が管理値(-15mm~+15mm)の範囲外であれば問題有りとして、”今回判定”の欄に×印が記載される。
【0070】
また、計測距離L3は、へ形中央左5T(へ形レール左5の折れ曲がった点)からクロッシング交点間弦(2つのクロッシング交点を結んだ仮想中心線)に下ろした垂線の長さに相当する距離である。計測距離L4は、へ形中央右8T(へ形レール右8の折れ曲がった点)からクロッシング交点間弦に下ろした垂線の長さに相当する距離である。この場合、クロッシング交点間弦に対するへ形レールの移動量は、(L3-L4)としてコンピュータ103によって算出される。算出されたクロッシング交点間弦に対するへ形レールの変位量が、管理値(-19mm~+19mm)の範囲内であれば問題無しとして、”今回判定”の欄に○印が記載される。一方、算出されたクロッシング交点間弦に対するへ形レールの移動量が、管理値(-19mm~+19mm)の範囲外であれば問題有りとして、”今回判定”の欄に×印が記載される。
【0071】
また、計測距離L5は、へ形中央左5T(へ形レール左5の折れ曲がった点)から杭間弦(杭左1の中心と杭右2の中心を結んだ仮想中心線)に下ろした垂線の長さに相当する距離である。この場合、へ形レール左の移動量は、計測距離L5そのものとなる。計測距離L5が、管理値(-15mm~+15mm)の範囲内であれば問題無しとして、”今回判定”の欄に○印が記載される。一方、計測距離L5が、管理値(-15mm~+15mm)の範囲外であれば問題有りとして、”今回判定”の欄に×印が記載される。
【0072】
また、計測距離L6は、可動レール左先端起点方6Tから杭間弦(杭左1の中心と杭右2の中心を結んだ仮想中心線)に下ろした垂線の長さに相当する距離である。この場合、可動レール左先端起点方6Tの移動量は、(L5+L6)-60、としてコンピュータ103によって算出される。算出された可動レール左先端起点方6Tの移動量が、管理値(-15mm~+15mm)の範囲内であれば問題無しとして、”今回判定”の欄に○印が記載される。一方、算出された可動レール左先端起点方6Tの移動量が、管理値(-15mm~+15mm)の範囲外であれば問題有りとして、”今回判定”の欄に×印が記載される。
【0073】
また、計測距離L7は、可動レール左先端終点方7Tから杭間弦(杭左1の中心と杭右2の中心を結んだ仮想中心線)に下ろした垂線の長さに相当する距離である。この場合、可動レール左先端終点方7Tの移動量は、(L7-L5)-60、としてコンピュータ103によって算出される。算出された可動レール左先端終点方7Tの移動量が、管理値(-15mm~+15mm)の範囲内であれば問題無しとして、”今回判定”の欄に○印が記載される。一方、算出された可動レール左先端終点方7Tの移動量が、管理値(-15mm~+15mm)の範囲外であれば問題有りとして、”今回判定”の欄に×印が記載される。
【0074】
画面下方には、”保存”、”音声無効”、”クロッシング交点”、”表示切換”、”座標確認”、”戻る”の各アイコンが配置されている。従って、作業員が”保存”アイコンをタップする場合、表示されている検査結果が保存される。
【0075】
また、作業員が"音声無効”アイコンをタップすることにより、音声認識について無効(OFF)となり、例えば”音声無効”が”音声有効”の表記に変わり、アイコンも”音声有効”に対応した別のものに変化する。この場合、"音声有効”アイコンをもう一度タップすることにより、音声認識について有効(ON)となり、”音声有効”アイコンが”音声無効”アイコンにアイコン・表記とも切り替わる。なお、音声認識は通常はデフォルト値として有効(ON)に設定されている。
【0076】
また、作業員が”クロッシング交点”をタップすることにより、「クロッシング交点間弦」または「クロッシング又部中点間弦」の何れか1つを選択することができる。なお、ここで言う「クロッシング又部中点間弦」とは、起点方のクロッシング又部中点と終点方のクロッシング又部中点を結ぶ仮想中心線を意味している。また、ここで言う「クロッシング又部中点」とは、クロッシング交点を頂点としその頂点を形成する所定の等長二辺を有する二等辺三角形において、その頂点と対向する辺の中点を意味している。
【0077】
また、作業員が”表示切替”アイコンをタップすることにより、画面の表示内容を変更することができる。例えば、”表示切替”アイコンをタップすることにより、後述する閲覧画面103gを表示させることができる。
【0078】
また、作業員は”座標確認”アイコンをタップすることにより、測量機101によって計測された各測点の座標値の一覧(後述する座標確認画面103h)を表示させることができる。
【0079】
また、作業員は”戻る”アイコンをタップすることにより、検査を終了させるのと同時に画面を終了させることができる。次に、閲覧画面103gについて説明する。
【0080】
図7は、本発明に係る特殊分岐器ふく進量計測システム100の閲覧画面103gを示す説明図である。各測点の座標に基づいて算出された各計測距離L1,・・・,L10は、入力値の各セルにそれぞれ表示される。その計測距離に基づいて算出された各移動量は、移動量算出式の各セルにそれぞれ表示される。各移動量は各管理値に基づいて判定される。算出された各移動量が各管理値の範囲内であれば問題無しとして、”今回判定”の各セルに○印が表示される。一方、算出された各移動量が管理値の範囲外であれば問題有りとして、”今回判定”の各セル×印が表示される。
【0081】
画面下方には、”表示切替”、”座標確認”及び”再計測”の各アイコンが配置されている。従って、”今回判定”において×印が付された移動量がある場合、作業員は”再計測”のアイコンをタップすることにより、検査画面103fに戻り各移動量について再計測をすることができる。
【0082】
また、作業員は”表示切替”のアイコンをタップすることにより、例えばメイン画面103dを表示させることができる。
【0083】
また、作業員は”座標確認”のアイコンをタップすることにより、後述する座標確認画面103hを表示させることができる。次に、座標確認画面103hについて説明する。
【0084】
図8は、本発明に係る特殊分岐器ふく進量計測システム100の座標確認画面103hを示す説明図である。この座標確認画面103hは、測量機101によって計測された各測点の座標値(X座標、Y座標、Z座標)を表示している。なお、計測の基準座標系は特殊分岐器ふく進量計測システム100が自動的に設定したものである。
【0085】
従って、上記
図7の閲覧画面103gに表示されている各計測距離L1,・・・,L10は、座標確認画面103hに表示されている各測点の座標値に基づいてコンピュータ103によって算出される。算出された各計測距離L1,・・・,L10は、各測点の移動量の算出において使用される。次に、設定画面103iについて説明する。
【0086】
図9は、本発明に係る特殊分岐器ふく進量計測システム100の設定画面103iを示す説明図である。ここでは、通信の設定として測量機101との間でデータの送受信を行うための無線通信規格を選択する。また、設計値の設定として、例えばクロッシング交点間距離(
図6の計測距離L1,L2)についての移動量を算出する際に必要となる分岐器についての起点方と終点方の各設計値を入力する。
【0087】
その他の設定として、オフセットを入力する。オフセットは、例えばへ形レール5,8と可動レール6,7,9,10について設定する。へ形レール左5又はへ形レール右8の場合、検査対象であるへ形中央左5T又はへ形中央右8Tは凸形状のため、プリズム104の石突き104aを安定に据え付けることが極めて難しい。従って、プリズム104は、へ形レール左5の場合、凹形状のレール外側に据え付けられることになる。従って、へ形中央左5T又はへ形中央右8Tの計測値については、以下に記すオフセットを考慮する必要がある。
【0088】
図10に示されるように、プリズム104の据え付け位置と検査対象のへ形中央左5Tとの間には、プリズム104の石突き104aの半径(=4.5mm)とレール幅(=65mm)とを足した値(=69.5mm)に相当するオフセットが存在する。従って、へ形中央左5T及びへ形中央右8Tの座標については、実計測値(プリズム104の座標値)をオフセット(=69.5mm)に基づいて補正する必要がある。ただし、レールの幅に合わせてオフセット値は変化する。
【0089】
同様に、例えば可動レール左起点方6の場合、検査対象である可動レール左先端起点方6Tは平坦面であるため、プリズム104を横方向から当てる場合であっても、安定に据え付けることが極めて難しい。この場合、プリズム本体部104bと石突き104aとの間に四角柱体のプリズム治具105を取り付けることにより、プリズム治具105の側面105aが可動レール先端の平坦面に接合し、プリズム104が可動レール先端に安定に据え付けられることになる。従って、可動レール左先端起点方6T及び可動レール右先端終点方7T、ならびに可動レール右先端起点方9T及び可動レール右先端終点方10Tの各計測値については、以下に記すオフセットを考慮する必要がある。
【0090】
図11に示されるように、可動レール左起点方6において、プリズム104の据え付け位置と検査対象の可動レール左先端起点方6Tとの間には、プリズム治具105の側面105aの短辺長(=12mm)の1/2の値(=6mm)に相当するオフセットが存在する。従って、可動レール左先端起点方6T及び可動レール右先端終点方7T、ならびに可動レール右先端起点方9T及び可動レール右先端終点方10Tの各座標については、実計測値(プリズム104の座標値)をオフセット(=6mm)に基づいて補正する必要がある。次に、再現性結果について説明する。
【0091】
図12は、本発明に係る特殊分岐器ふく進量計測システム100による計測値についての再現性結果を示す説明図である。これは、同一計測箇所(
図12)を同日に異なる作業員が1回ずつ合計2回計測したときの計測距離L1,・・・,L10に係る計測差を示すものである。計測差は、1回目の計測値から2回目の計測値を差し引いたものとしている。また、参考値として、各測点の移動量の算出に対し直接関連していない、クロッシング交点起点方3Tから杭左1に至る計測距離A、クロッシング交点起点方3Tから杭右2に至る計測距離B、クロッシング交点終点方4Tから杭左1に至る計測距離C、クロッシング交点終点方4Tから杭右2に至る計測距離Dについても併せて示されている。
【0092】
図12から、計測距離L3及び計測距離L5以外の計測距離はどれも±2mm以内に収まっていることが分かる。なお、計測距離L5については、4mmの計測差が生じた。これは、実際の測点がへ形レール左5の外側であり、当接される石突き104aの曲率半径Rがへ形レール左5の外側にうまく合致していないためと考えられる。従って、へ形レール左5の外側にプリズム104の近似した形状を有するプリズム治具を、プリズム本体部104bと石突き104aとの間に別途接続することにより、±2mm以内に収まるものと考えられる。なお、計測距離L3については、測量機101単体の測距精度が±3mmであり、その範囲内であるため特に問題ないと考えられる。
【0093】
図12から、特殊分岐器ふく進量計測システム100による計測値は、作業員の技能・経験等に依存せず、作業員の違いによる計測誤差が少ないことが分かる。
【0094】
以上の通り、本発明の一実施形態に係る特殊分岐器ふく進量計測システム100によれば、特殊分岐器のふく進量の計測作業に係る労力と時間を大幅に低減すると共に、計測値に含まれる人的誤差を大幅に低減することが可能になる。
【0095】
測量機101はターゲットであるプリズム104を自動的に追尾する自動追尾機能を有している。測量機101によって計測された座標(計測値)は、Wi-Fi(登録商標)等の無線通信を介してコンピュータ103に送信され、各測点の移動量が瞬時に自動的に算出され、その良否が瞬時に自動的に判定される。これにより、特殊分岐器のふく進量に係る各測点の計測並びにふく進量の検査を作業員一人で極めて短時間に簡易的に行うことが可能となる。
【0096】
また、コンピュータ103は音声認識機能を有している。これにより音声による測量機101に対する遠隔操作が可能となる。その結果、作業員は両手をプリズム104の支えに使用することができ、これによりプリズム104の振れを好適に防止することができる。
【0097】
また、プリズム104は、プリズム本体部104bと石突き104aとの間に四角柱体のプリズム治具105を同軸に接続することが出来るように構成されている。プリズム治具105は、測点近傍に対し側面105aで接合する。これにより、石突き104aを安定に据え付けることが難しい測点に対しては、プリズム治具105を介して、プリズム104を据え付けることが可能になる。その結果、石突き104aを安定に据え付けることが難しい測点についても、測量機101によって精度良く計測することが可能になる。
【0098】
また、コンピュータ103はストラップ103cを備える。これにより、作業員はプリズム104を持ちながら測量機101を遠隔操作することが可能となる。
【0099】
また、コンピュータ103は、検査画面103fにおいて検査対象の分岐器に応じた、ふく進量の算出に必要な全ての測点及び設計値を表示するように構成されている。これにより、作業員による計測漏れを防止することができる。
【0100】
また、コンピュータ103は、検査画面103fにおいてふく進量の算出に必要な全ての測点の配置を図示するように構成されている。これにより、作業員による計測箇所の誤認を防止することができる。
【0101】
なお、本発明の一実施形態に係る特殊分岐器ふく進量計測システム100は、ダイヤモンドクロッシング(DC)だけでなく、シングルスリップスイッチ(SSS)、ダブルスリップスイッチ(DSS)或いはその他の特殊分岐器に対して適用可能である。
【0102】
また、プリズム治具105の形状としては、測点の形状に応じて、四角柱体の他に円柱体または楕円柱体を使用することも可能である。
【符号の説明】
【0103】
1 杭左
2 杭右
3 クロッシング交点起点方
4 クロッシング交点終点方
5 へ形レール左
6 可動レール左起点方
7 可動レール左終点方
8 へ形レール右
9 可動レール右起点方
10 可動レール右終点方
11T クロッシング又部中点起点方
12T クロッシング又部中点終点方
101 トータルステーション(測量機)
102 精密三脚
103 コンピュータ(制御装置)
103a 制御操作部
103b 手動入力部
103c ストラップ(帯紐)
104 プリズム
104a 石突き
104b プリズム本体部
104c ポール
105 プリズム治具(柱体)
100 特殊分岐器ふく進量計測システム(分岐器ふく進量計測システム)