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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-30
(45)【発行日】2023-06-07
(54)【発明の名称】移動体
(51)【国際特許分類】
   B62D 57/024 20060101AFI20230531BHJP
   B25J 18/06 20060101ALI20230531BHJP
   B25J 5/00 20060101ALI20230531BHJP
【FI】
B62D57/024 L
B25J18/06
B25J5/00 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019124459
(22)【出願日】2019-07-03
(65)【公開番号】P2021011118
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000142791
【氏名又は名称】株式会社アトックス
(73)【特許権者】
【識別番号】598163064
【氏名又は名称】学校法人千葉工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】弁理士法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米田 完
(72)【発明者】
【氏名】小林 達也
(72)【発明者】
【氏名】及川 智也
【審査官】伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-092788(JP,A)
【文献】国際公開第2020/240791(WO,A1)
【文献】特開2016-097787(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0103705(US,A1)
【文献】国際公開第2018/131329(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 57/024
B62D 57/02
B62D 57/028
B25J 18/06
B25J 5/00
B62D 55/075
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
並べて配置された対象物の表面を移動する移動体であって、
第1フレームと、
前記第1フレームの移動方向後側に設けられた第2フレームと、
前記第1フレームが前記対象物の表面に対して接近又は離間するように、前記第1フレームを、前記第2フレームに対してピッチ軸周りで回動自在に連結する能動関節と、
前記第1フレーム及び第2フレームの各々に設けられ、前記対象物の表面に着脱自在に付着する付着部を有している移動用部材と、
前記能動関節を駆動させるための第1駆動機構と、
前記第1駆動機構を駆動するための第1駆動源と、
前記第1駆動源から出力される駆動力を制御することによって、前記第1駆動機構を制御する制御部とを備え、
前記第1駆動機構は、前記能動関節を駆動して、前記第1フレームを、前記対象物の表面に対して離間するように、前記第2フレームに対して前記能動関節のピッチ軸周りで回動させ
前記第2フレームは、前記第1フレームに対して前記能動関節を介して連結されている前側第2フレーム部材と、前記前側第2フレーム部材の移動方向後側に位置している後側第2フレーム部材と、前記前側第2フレーム部材を前記後側第2フレーム部材に対してピッチ軸周りで回動自在に連結する半固定関節と、前記前側第2フレーム部材を、前記対象物の表面に接近させるように、前記後側第2フレーム部材に対して前記半固定関節のピッチ軸周りで回動するように付勢する付勢部材とを有していることを特徴とする移動体。
【請求項2】
並べて配置された対象物の表面を移動する移動体であって、
折曲関節を有している第1フレームと、
前記第1フレームの移動方向後側に設けられた第2フレームと、
前記第1フレームが前記対象物の表面に対して接近又は離間するように、前記第1フレームを、前記第2フレームに対してピッチ軸周りで回動自在に連結する能動関節と、
前記第1フレーム及び第2フレームの各々に設けられ、前記対象物の表面に着脱自在に付着する付着部を有している移動用部材と、
前記能動関節を駆動させるための第1駆動機構と、
前記第1駆動機構を駆動するための第1駆動源と、
前記折曲関節を駆動させるための第2駆動機構と、
前記第2駆動機構を駆動するための第2駆動源と、
前記第1駆動源から出力される駆動力を制御することによって、前記第1駆動機構を制御する制御部とを備え、
前記第1駆動機構は、前記能動関節を駆動して、前記第1フレームを、前記対象物の表面に対して離間するように、前記第2フレームに対して前記能動関節のピッチ軸周りで回動させ
前記第1フレームは、前側第1フレーム部材と、前記前側第1フレーム部材の移動方向後側に位置し、前記第2フレームに対して前記能動関節を介して連結されている後側第1フレーム部材と、前記折曲関節とを有し、
前記折曲関節は、前記前側第1フレーム部材を、前記後側第1フレーム部材に対してピッチ軸周りで回動自在に連結し、
前記制御部は、前記第2駆動源から出力される駆動力を制御することによって、前記第2駆動機構を制御し、
前記第2駆動機構は、前記後側第1フレーム部材が、前記対象物の表面から離間するように、前記第2フレームに対して前記能動関節のピッチ軸周りで回動した際に、前記前側第1フレーム部材を、前記対象物の表面に接近するように、前記後側第1フレーム部材に対して前記折曲関節のピッチ軸周りで回動させることを特徴とする移動体。
【請求項3】
請求項2に記載の移動体において、
前記第1駆動源は、前記第2駆動源として動作し、
前記第2駆動機構は、前記第1駆動機構を駆動する際に前記第1駆動源から出力される駆動力で折曲関節を駆動して、前記前側第1フレーム部材を前記後側第1フレーム部材に対して回動させるリンク機構であることを特徴とする移動体。
【請求項4】
並べて配置された対象物の表面を移動する移動体であって、
第1フレームと、
前記第1フレームの移動方向後側に設けられた第2フレームと、
前記第2フレームの移動方向後側に設けられた第3フレームと、
前記第1フレームが前記対象物の表面に対して接近又は離間するように、前記第1フレームを、前記第2フレームに対してピッチ軸周りで回動自在に連結する能動関節と、
前記第3フレームを、前記第2フレームに対してピッチ軸周りで回動自在に連結する受動関節と
前記第1フレーム及び第2フレームの各々に設けられ、前記対象物の表面に着脱自在に付着する付着部を有している移動用部材と、
前記能動関節を駆動させるための第1駆動機構と、
前記第1駆動機構を駆動するための第1駆動源と、
前記第1駆動源から出力される駆動力を制御することによって、前記第1駆動機構を制御する制御部とを備え、
前記第1駆動機構は、前記能動関節を駆動して、前記第1フレームを、前記対象物の表面に対して離間するように、前記第2フレームに対して前記能動関節のピッチ軸周りで回動させ、
前記移動用部材は、前記第1フレーム、前記第2フレーム及び前記第3フレームの各々に設けられていることを特徴とする移動体。
【請求項5】
請求項4に記載の移動体において、
前記受動関節は、前記第2フレームと前記第3フレームとが所定の状態で回動不能となるように固定する固定機構を有していることを特徴とする移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラム缶等の対象物の表面を移動する移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁力を利用して、対象物の表面に付着した状態で、その対象物の表面上を移動可能な移動体がある。この種の移動体としては、対象物の外観検査を行うために利用されているものが知られている(例えば、特許文献1参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-159328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、原子力施設の管理区域内で発生した廃棄物の保管方法としては、ドラム缶等の収容体に収納した状態で保管する方法がある。そのような保管方法では、収容体の経年劣化等による内容物の漏洩を防止するために、定期的に収容体の外観検査が行われる。
【0005】
しかし、そのような廃棄物は保管可能なスペースが限られている。そのため、そのスペースにおいて、その廃棄物を収納した複数の収容体は、可能な限り互いに近接させて配置して保管される。そのスペースに収容体が保管されている状態では、収容体同士の間の間隔は、非常に狭く、人間が入り込むことは難しい。
【0006】
したがって、収容体が保管されている状態では、保管されている収容体の外観検査を、人間が直接行うことは難しい。そこで、そのような収容体の外観検査を行うために、人間に代わって、特許文献1に記載の移動体を用いる方法が考えられる。
【0007】
しかし、特許文献1に記載の移動体は、単一の対象物の表面上を移動することを想定して構成されたものである。すなわち、その移動体は、現在移動している収容体の表面から、離れて配置された他の収容体の表面に移動することはできないという問題があった。そのため、特許文献1に記載の移動体を用いて外観検査を行う場合、複数の収容体について連続的に移動しつつ外観検査を行うことはできないという問題があった。
【0008】
本発明は以上の点に鑑みてなされたものであり、複数の対象物を連続的に移動することができる移動体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の移動体は、いずれも、
並べて配置された対象物の表面を移動する移動体であって、
第1フレームと、
前記第1フレームの移動方向後側に設けられた第2フレームと、
前記第1フレームが前記対象物の表面に対して接近又は離間するように、前記第1フレームを、前記第2フレームに対してピッチ軸周りで回動自在に連結する能動関節と、
前記第1フレーム及び第2フレームの各々に設けられ、前記対象物の表面に着脱自在に付着する付着部を有している移動用部材と、
前記能動関節を駆動させるための第1駆動機構と、
前記第1駆動機構を駆動するための第1駆動源と、
前記第1駆動源から出力される駆動力を制御することによって、前記第1駆動機構を制御する制御部とを備え、
前記第1駆動機構は、前記能動関節を駆動して、前記第1フレームを、前記対象物の表面に対して離間するように、前記第2フレームに対して前記能動関節のピッチ軸周りで回動させるものである。
【0010】
このように、本発明の移動体では、能動関節を介して、第1フレームと前記第2フレームとを、互いにピッチ軸周りで回動自在に連結している。また、第1フレーム及び第2フレームの各々には、対象物の表面に着脱自在に付着する移動用部材(例えば、磁石、吸盤等の取り付けられた車輪、無限軌道等)が設けられている。
【0011】
これにより、この移動体は、能動関節が第1駆動機構によって駆動されていない状態では、移動用部材の付着力によって、対象物の表面(例えば、ドラム缶の周面等)に付着した状態になる。そのため、この移動体は、その対象物の表面を移動する際には、その対象物の表面に応じて折れ曲がり、その折れ曲がった状態のまま移動する。
【0012】
また、この移動体では、能動関節を駆動するための第1駆動機構を備えている。そして、その第1駆動機構は、制御部からの指令に応じて能動関節を駆動して、第1フレームを、対象物の表面に対して離間するように、第2フレームに対してピッチ軸周りで回動させることができるようになっている。すなわち、移動している対象物の表面に第2フレームを付着させたまま、第1フレームをその対象物の表面から離間させることができる。
【0013】
これにより、移動している対象物の表面に、第2フレームを付着させたまま、移動している対象物に隣接する位置にある他の対象物の表面に、第1フレームを付着させることができる。そして、そのまま移動を継続すると、第1フレームが他の対象物の表面を移動し始めて、その第1フレームにつられて、第2フレームも移動している対象物の表面から離間させられて、最終的には、移動体全体が他の対象物の表面へと乗り移るように移動する。
【0014】
したがって、この移動体は、移動している対象物からその対象物に隣接している他の対象物へと、連続的に移動することができる。ひいては、この移動体によれば、複数の対象物について連続的に移動しつつ、外観検査等の検査を行うことができる。
【0015】
そして、本第1の発明の移動体は
並べて配置された対象物の表面を移動する移動体であって、
第1フレームと、
前記第1フレームの移動方向後側に設けられた第2フレームと、
前記第1フレームが前記対象物の表面に対して接近又は離間するように、前記第1フレームを、前記第2フレームに対してピッチ軸周りで回動自在に連結する能動関節と、
前記第1フレーム及び第2フレームの各々に設けられ、前記対象物の表面に着脱自在に付着する付着部を有している移動用部材と、
前記能動関節を駆動させるための第1駆動機構と、
前記第1駆動機構を駆動するための第1駆動源と、
前記第1駆動源から出力される駆動力を制御することによって、前記第1駆動機構を制御する制御部とを備え、
前記第1駆動機構は、前記能動関節を駆動して、前記第1フレームを、前記対象物の表面に対して離間するように、前記第2フレームに対して前記能動関節のピッチ軸周りで回動させ、
前記第2フレームは、前記第1フレームに対して前記能動関節を介して連結されている前側第2フレーム部材と、前記前側第2フレーム部材の移動方向後側に位置している後側第2フレーム部材と、前記前側第2フレーム部材を前記後側第2フレーム部材に対してピッチ軸周りで回動自在に連結する半固定関節と、前記前側第2フレーム部材を、前記対象物の表面に接近させるように、前記後側第2フレーム部材に対して前記半固定関節のピッチ軸周りで回動するように付勢する付勢部材とを有していることを特徴とする
【0016】
移動体が移動している対象物から隣接する他の対象物へと移動するとき、移動体は、移動している対象物に対して、第2フレームのみで付着しなければならない。一方で、付着が磁力によって行われるような場合には、第2フレームの付着力を強くしすぎると、意図していない部分(例えば、移動先とはさらに異なる他の対象物)に、第2フレームが付着してしまうおそれなどが生じる。
【0017】
そこで、このように第2フレームを構成すると、第2フレームは、付勢部材によって、移動している対象物の表面に押し付けられるとともに、その対象物の表面形状に応じて折れ曲がる。その結果、第2フレームの付着力のうち、現在移動している対象物の表面に対する付着力のみを補強することができる。これにより、第2フレームに十分な付着力を持たせつつ、意図しない付着などを防止することができる。
【0018】
また、本第2の発明の移動体は
並べて配置された対象物の表面を移動する移動体であって、
折曲関節を有している第1フレームと、
前記第1フレームの移動方向後側に設けられた第2フレームと、
前記第1フレームが前記対象物の表面に対して接近又は離間するように、前記第1フレームを、前記第2フレームに対してピッチ軸周りで回動自在に連結する能動関節と、
前記第1フレーム及び第2フレームの各々に設けられ、前記対象物の表面に着脱自在に付着する付着部を有している移動用部材と、
前記能動関節を駆動させるための第1駆動機構と、
前記第1駆動機構を駆動するための第1駆動源と、
前記折曲関節を駆動させるための第2駆動機構と、
前記第2駆動機構を駆動するための第2駆動源と、
前記第1駆動源から出力される駆動力を制御することによって、前記第1駆動機構を制御する制御部とを備え、
前記第1駆動機構は、前記能動関節を駆動して、前記第1フレームを、前記対象物の表面に対して離間するように、前記第2フレームに対して前記能動関節のピッチ軸周りで回動させ
前記第1フレームは、前側第1フレーム部材と、前記前側第1フレーム部材の移動方向後側に位置し、前記第2フレームに対して前記能動関節を介して連結されている後側第1フレーム部材と、前記折曲関節とを有し、
前記折曲関節は、前記前側第1フレーム部材を、前記後側第1フレーム部材に対してピッチ軸周りで回動自在に連結し、
前記制御部は、前記第2駆動源から出力される駆動力を制御することによって、前記第2駆動機構を制御し、
前記第2駆動機構は、前記後側第1フレーム部材が、前記対象物の表面から離間するように、前記第2フレームに対して前記能動関節のピッチ軸周りで回動した際に、前記前側第1フレーム部材を、前記対象物の表面に接近するように、前記後側第1フレーム部材に対して前記折曲関節のピッチ軸周りで回動させることを特徴とする
【0019】
移動する対象物同士の間の間隔よりも対象物とその周囲の物体との間隔(例えば、ドラム缶とそれを設置するパレットのフレームとの間隔)が狭い場合がある。そのような場合、第1フレームの長さによっては、第1フレームを第2フレームに対して回動させたときに、第1フレームの先端部分が、移動体が移動している対象物の表面から大きく離れてしまって、その周囲の物体に衝突してしまうおそれがある。
【0020】
そこで、このように構成すると、後側第1フレーム部材(ひいては、第1フレーム全体)が対象物の表面から離間するように回動した際には、前側第1フレーム部材が対象物の表面に接近するように回動することになる。
【0021】
これにより、前側第1フレーム部材(すなわち、第1フレームの先端部分)の位置は、対象物同士の間の間隔を移動する際にも、対象物の表面に近い位置で維持される。その結果、第1フレームが対象物の周囲の物体に衝突してしまうことを防止することができる。
【0022】
これに加え、このような折曲関節を設けると、第1フレームを移動している対象物の表面から離間させる際に、その離間動作を、後側第1フレーム部材を離間させる動作と、前側第1フレーム部材を離間させる動作という2つの小さな動作に分割して行うことができる。
【0023】
これにより、折曲関節を設けず、その離間動作を第1フレーム全体を離間させるという1つの大きな動作として行う構成に比べて、第1フレームを対象物の表面から離間させる際に必要となる力(駆動トルク)を抑制することができる。その結果、その力を生成するための駆動源の小型化・軽量化を図ることができる。
【0024】
また、本第2の発明の移動体においては、
前記第1駆動源は、前記第1駆動源として動作し、
前記第2駆動機構は、前記第1駆動機構を駆動する際に前記第1駆動源から出力される駆動力で折曲関節を駆動して、前記前側第1フレーム部材を前記後側第1フレーム部材に対して回動させるリンク機構であることが好ましい。
【0025】
このように構成すると、駆動源の数を減らすことができるので、移動体を小型化及び軽量化することができる。また、能動関節の駆動に対する折曲関節の駆動を機械的に制御することができるので、制御部による制御を簡略化することができる。
【0026】
また、本第3の発明の移動体は
並べて配置された対象物の表面を移動する移動体であって、
第1フレームと、
前記第1フレームの移動方向後側に設けられた第2フレームと、
前記第2フレームの移動方向後側に設けられた第3フレームと、
前記第1フレームが前記対象物の表面に対して接近又は離間するように、前記第1フレームを、前記第2フレームに対してピッチ軸周りで回動自在に連結する能動関節と、
前記第3フレームを、前記第2フレームに対してピッチ軸周りで回動自在に連結する受動関節と
前記第1フレーム及び第2フレームの各々に設けられ、前記対象物の表面に着脱自在に付着する付着部を有している移動用部材と、
前記能動関節を駆動させるための第1駆動機構と、
前記第1駆動機構を駆動するための第1駆動源と、
前記第1駆動源から出力される駆動力を制御することによって、前記第1駆動機構を制御する制御部とを備え、
前記第1駆動機構は、前記能動関節を駆動して、前記第1フレームを、前記対象物の表面に対して離間するように、前記第2フレームに対して前記能動関節のピッチ軸周りで回動させ、
前記移動用部材は、前記第1フレーム、前記第2フレーム及び前記第3フレームの各々に設けられていることを特徴とする
【0027】
また、本第3の発明においては、
前記受動関節は、前記第2フレームと前記第3フレームとが所定の状態で回動不能となるように固定する固定機構を有していることが好ましい。
【0028】
移動体の移動する場所によっては、第3フレームが第2フレームに対して回動自在な状態であると、移動が困難になる場合がある。例えば、間隔の広い梁同士の間を移動する場合には、第2フレームと第3フレームとが回動自在であると、いずれか一方のフレームが、その間隔に落ちてしまうおそれがある。
【0029】
そこで、このような固定機構を設けると、使用者の要望に応じて、第2フレームと第3フレームとが回動しない状態にして、移動体の状態を移動する場所に応じて適切な状態にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の実施形態に係る移動体の全体構成を示す側方からの斜視図。
図2図1の移動体の第1フレームの構造を示す拡大図。
図3図1の移動体の第2フレームの構造を示す拡大図。
図4図1の移動体の第3フレームの構造を示す拡大図。
図5図1の移動体を用いて外観検査の行われるドラム缶が載置されるパレットの斜視図。
図6図5のパレットにドラム缶を載置した状態を示す斜視図。
図7図1の移動体の関節を固定していない状態における側面図。
図8図1の移動体の関節を固定している状態における側面図。
図9図1の移動体が隣接するドラム缶の周面を移動している状態を示す側面図。
図10図1の移動体が隣接するドラム缶に乗り移るときの動作における第1段階を示す側面図。
図11図1の移動体が隣接するドラム缶に乗り移るときの動作における第2段階を示す側面図。
図12図1の移動体が隣接するドラム缶に乗り移るときの動作における第3段階を示す側面図。
図13図1の移動体が隣接するドラム缶に乗り移るときの動作における第4段階を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して、実施形態に係る移動体Mについて説明する。この移動体Mは、パレットP上に等間隔に並べて配置されている対象物である複数の第1ドラム缶D1、第2ドラム缶D2、第3ドラム缶D3、及び、第4ドラム缶D4(以下、これらを単に「ドラム缶」という場合がある。)の周面を乗り移るように移動しつつ、そのドラム缶の外観検査を行うためのものである(図6参照)。
【0032】
また、この移動体Mは、ドラム缶の周面に付着した状態で、前方及び後方(図1における左右方向)に移動自在に構成されている。以下においては、移動体Mが、特別の操作を行わずに通常の操作によって移動する方向を移動方向前方とし、その反対方向を移動方向後方とする(図1参照)。また、移動方向前方を「前方」、移動方向後方を「後方」と省略することがある。
【0033】
まず、図1図4を参照して、移動体Mの構成について詳細に説明する。
【0034】
図1に示すように、移動体Mは、移動方向前側(図1において右側)から順に、1つ目の第1フレーム1と、第1フレーム1に連設されている1つ目の第2フレーム2と、1つ目の第2フレーム2に連設されている第3フレーム3と、第3フレーム3に連設されている2つ目の第2フレーム2と、2つ目の第2フレーム2に連設されている2つ目の第1フレーム1とを備えている。
【0035】
第1フレーム1、第2フレーム2、及び、第3フレーム3は、いずれも、平面視略矩形となっている。第1フレーム1、第2フレーム2、及び、第3フレーム3の各々には、移動状態において上側(図1において手前側)となる側に、カバー4が着脱自在に取り付けられている。なお、各フレームの形状は、移動する対象物の表面の形状等に応じて、適宜変更してよい。
【0036】
第1フレーム1と第2フレーム2とは、能動関節5を介して、ピッチ軸である第1軸線a1(図2参照)周りに、互いに回動自在に連結されている。また、第2フレーム2と第3フレーム3とは、受動関節6を介して、ピッチ軸である第2軸線a2(図3参照)周りに、互いに回動自在に連結されている。
【0037】
第1フレーム1、第2フレーム2及び第3フレーム3の各々には、左右一対のクローラ7a(移動用部材)が2つずつ設けられている。図2図4に示すように、クローラ7aの表面には、ドラム缶の周面に付着するための磁石7b(付着部材)が複数取り付けられている。
【0038】
図2及び図4に記載のように、第1フレーム1及び第3フレーム3には、左右一対のクローラ用モータ7c及びクローラ用リンク機構7dが搭載されている。クローラ用モータ7cからの駆動力は、クローラ用リンク機構7dを介して、第1フレーム1、第2フレーム2、及び、第3フレーム3の各々に設けられたクローラ7aに伝達される。クローラ7aは、その伝達力によって駆動する。
【0039】
なお、クローラ用モータ7c及びクローラ用リンク機構7dの搭載位置は、移動体Mの大きさ、形状等に応じて、適宜変更してよい。例えば、移動体Mにおいて、第2フレーム2にもクローラ用モータ7c及びそれに対応するクローラ用リンク機構7dを搭載してもよい。
【0040】
図2に示すように、移動方向前側に位置している第1フレーム1は、前側第1フレーム部材10と、前側第1フレーム部材10の移動方向後側に位置している後側第1フレーム部材11とを有している。前側第1フレーム部材10と後側第1フレーム部材11とは、折曲関節12を介して、ピッチ軸である第3軸線a3周りに、互いに回動自在に連結されている。
【0041】
後側第1フレーム部材11と、第2フレーム2とは、能動関節5を介して、第1軸線a1周りに、互いに回動自在に連結されている。
【0042】
折曲関節12には、第1バネ13が取り付けられている。第1バネ13は、前側第1フレーム部材10の移動方向前側の端部、及び、後側第1フレーム部材11の第2フレーム2側の端部が底面側(図2においては、奥側)に移動するように(すなわち、ドラム缶の表面に接近するように)、前側第1フレーム部材10、及び、後側第1フレーム部材11を付勢している。
【0043】
第1バネ13の付勢力は、移動体Mが移動する対象物の形状等に応じて設定されている。例えば、対象物となるドラム缶がJIS Z1600 200Lであった場合には、第1バネ13の付勢力は、前側第1フレーム部材10と後側第1フレーム部材11とのなす角度がそのドラム缶の周面に対応する角度(約160度)になるように設定される。
【0044】
また、折曲関節12には、左右一対の第1固定ピン14が設けられている。折曲関節12は、第1固定ピン14を所定の方向(図2では、上下方向)に押し込まれた際には、回動不能となる。これにより、移動体Mでは、折曲関節12の角度を、使用者の任意の角度で固定することができるようになっている。
【0045】
前側第1フレーム部材10には、移動方向前側の中央部に、移動体Mの進行方向前側を観察するための第1カメラ8aが設けられている。
【0046】
移動方向前側に位置している第1フレーム1に対し、移動方向後側に位置している第1フレーム1は、図2に示した第1フレーム1とは、前後方向で逆転した構成となっている(図1参照)。
【0047】
図3に示すように、移動方向前側に位置している第2フレーム2は、前側第2フレーム部材20と、前側第2フレーム部材20の移動方向後側に位置している後側第2フレーム部材21とを有している。前側第2フレーム部材20と後側第2フレーム部材21とは、半固定関節22を介して、ピッチ軸である第4軸線a4周りに回動自在に連結されている。
【0048】
前側第2フレーム部材20と、第1フレーム1の後側第1フレーム部材11とは、能動関節5を介して、第1軸線a1周りに、互いに回動自在に連結されている。また、後側第2フレーム部材21と、第3フレーム3とは、受動関節6を介して、第2軸線a2周りに、互いに回動自在に連結されている。
【0049】
半固定関節22には、第2バネ23が取り付けられている。第2バネ23は、前側第2フレーム部材20の第1フレーム1側の端部、及び、後側第2フレーム部材21の第3フレーム3側の端部が底面側(図3においては、奥側)に移動するように(すなわち、ドラム缶の表面に接近するように)、前側第2フレーム部材20、及び、後側第2フレーム部材21を付勢している。
【0050】
第2バネ23の付勢力は、第1バネ13の付勢力と同様に、移動体Mが移動する対象物の形状等に応じて設定されている。
【0051】
また、半固定関節22には、左右一対の第2固定ピン24が設けられている。半固定関節22は、第2固定ピン24を所定の方向(図3では、上下方向)に押し込まれた際には、回動不能となる。これにより、移動体Mでは、半固定関節22の角度を、使用者の任意の角度で固定することができるようになっている。
【0052】
後側第2フレーム部材21には、移動中に移動体Mの下方側又は上方側(すなわち、ドラム缶の外観)を観察するための第2カメラ8bが設けられている。また、後側第2フレーム部材21には、第2カメラ用モータ8c及び第2カメラ用駆動機構8dが搭載されている。
【0053】
第2カメラ8bは、後側第2フレーム部材21に対して、左右方向で進退自在となっている。第2カメラ8bの進退動作は、第2カメラ用モータ8cの駆動力によって、第2カメラ用駆動機構8dが駆動することによって行われる。
【0054】
移動方向前側に位置している第2フレーム2に対し、移動方向後側に位置している第2フレーム2は、図3に示した第2フレーム2とは、前後方向で逆転した構成となっている(図1参照)。
【0055】
図4に示すように、第3フレーム3は、前側第3フレーム部材30と、前側第3フレーム部材30の移動方向後側に位置している後側第3フレーム部材31とを有している。前側第3フレーム部材30と後側第3フレーム部材31とは、自由関節32を介して、ピッチ軸である第5軸線a5周りに回動自在に連結されている。
【0056】
前側第3フレーム部材30と、移動方向前側に位置している第2フレーム2の後側第2フレーム部材21とは、受動関節6を介して、第2軸線a2周りに、互いに回動自在に連結されている。また、後側第3フレーム部材31と、移動方向後側に位置している第2フレーム2の後側第2フレーム部材21とは、受動関節6を介して、第2軸線a2周りに、互いに回動自在に連結されている。
【0057】
自由関節32には、左右一対の第3固定ピン33(固定機構)が設けられている。自由関節32は、第3固定ピン33を所定の方向(図4では、上下方向)に押し込まれた際には、回動不能となる。これにより、移動体Mでは、自由関節32の角度を、使用者の任意の角度で固定することができるようになっている。
【0058】
また、第3フレーム3には、受動関節6に対応する位置に、左右一対の第4固定ピン34が設けられている。受動関節6は、第4固定ピン34を所定の方向(図4では、上下方向)に押し込まれた際には、回動不能となる。これにより、移動体Mでは、受動関節6の角度を、使用者の任意の角度で固定することができるようになっている。
【0059】
前側第3フレーム部材30には、移動体Mの移動動作(すなわち、各関節の動作)、並びに、第1カメラ8a及び第2カメラ8bの動作(すなわち、撮影及び第2カメラ8bの移動)を制御するためのコントロールユニットC(制御部)が搭載されている。なお、コントロールユニットCは、移動体Mと別体に設けてもよい。
【0060】
図2及び図3に示すように、移動体Mでは、第2フレーム2の前側第2フレーム部材20には、関節用モータ9a(第1駆動源、第2駆動源)、及び、第1関節用リンク機構9b(第1駆動機構)が搭載されている。関節用モータ9aから出力される駆動力は、コントロールユニットCによって制御される。
【0061】
関節用モータ9aから出力された駆動力の一部は、第1関節用リンク機構9bを介して、能動関節5に伝達される。能動関節5は、その駆動力によって駆動される。すなわち、移動体Mでは、コントロールユニットCが、関節用モータ9aから出力される駆動力を制御することによって、第1関節用リンク機構9b(ひいては、能動関節5の動作)を制御している。
【0062】
また、移動体Mでは、前側第2フレーム部材20及び第1フレーム1の後側第1フレーム部材11に亘って、第2関節用リンク機構9c(第2駆動機構)が搭載されている。
【0063】
関節用モータ9aから出力された駆動力の他の一部は、第2関節用リンク機構9cを介して、折曲関節12に伝達される。折曲関節12は、その駆動力によって駆動される。すなわち、移動体Mでは、コントロールユニットCが、関節用モータ9aから出力される駆動力を制御することによって、第2関節用リンク機構9c(ひいては、折曲関節12の動作)を制御している。
【0064】
このように、移動体Mでは、能動関節5及び折曲関節12を、1つの関節用モータ9aによって駆動している。そして、第2関節用リンク機構9cは、第1関節用リンク機構9bを駆動する際に(すなわち、能動関節5を駆動する際に)関節用モータ9aから出力される駆動力で折曲関節12を駆動している。
【0065】
これにより、移動体Mでは、駆動源となるモータの数を減らして、移動体Mの小型化及び軽量化を図っている。さらには、能動関節5の駆動に対する折曲関節12の駆動の度合いを機械的に制御することによって、コントロールユニットCにおける制御を簡略化している。
【0066】
ただし、必ずしも、このように能動関節5を駆動するためのモータを折曲関節12を駆動するためのモータとして駆動させたり、折曲関節12を駆動するための駆動機構を第2関節用リンク機構9cのように構成させたりする必要はない。
【0067】
例えば、能動関節5を駆動するためのモータと、折曲関節12を駆動するためのモータとを独立したものとするとともに、第2関節用リンク機構9cを、その独立しているモータから折曲関節12に駆動力を伝達するように構成してもよい。また、本実施形態とは逆に、折曲関節12を駆動させるためのモータの駆動力によって、能動関節5を駆動させてもよい。
【0068】
次に、図5図14を参照して、移動体Mの姿勢、及び、移動の際の動作について説明する。
【0069】
まず、移動体Mの姿勢、及び、移動の際の動作の説明に先立ち、移動体Mによって観察される対象物である第1ドラム缶D1、第2ドラム缶D2、第3ドラム缶D3、及び、第4ドラム缶D4、及び第1ドラム缶D1、第2ドラム缶D2、第3ドラム缶D3、及び、第4ドラム缶D4が載置されるパレットの形状について説明する。
【0070】
図5に示すように、パレットPは、対向するように配置されている一対の枠体P1と、それらの枠体P1の間で、上下方向に重ねて、且つ、交差するように配置されている複数の梁P2とによって構成されている。そのため、パレットPは、上下の梁P2間に、隙間が形成されている。この隙間には、搬送時に、フォークリフトのフォークが挿入される。
【0071】
図6に示すように、パレットPには、円筒形状の第1ドラム缶D1、第2ドラム缶D2、第3ドラム缶D3、及び、第4ドラム缶D4が、互いにわずかに間隔を存するようにして、前後左右に2つずつ並べて配置される。
【0072】
そして、その状態で、第1ドラム缶D1、第2ドラム缶D2、第3ドラム缶D3、及び、第4ドラム缶D4は、パレットPに固定されて、1つのユニットとされる。そして、保管スペース内では、そのようにして構成された複数のユニットが、さらに隣接するようにして並べられ、且つ、重ねられて配置される。
【0073】
そのように保管された状態の第1ドラム缶D1、第2ドラム缶D2、第3ドラム缶D3、及び、第4ドラム缶D4の上面及び下面について外観検査を行うためには、移動体Mは、パレットPの上下に重ねて配置されている梁P2の隙間に進入する必要がある。
【0074】
そこで、移動体Mは、そのような隙間に進入しつつ梁P2の上を移動することが容易となるように構成されている。
【0075】
具体的には、移動体Mは、折曲関節12及び半固定関節22には、それらの関節が所定の姿勢となるように付勢する第1バネ13及び第2バネ23が取り付けられている。これにより、図7に示すように、折曲関節12及び半固定関節22は、ドラム缶の周面に付着していない状態(例えば、床面に載置した状態)では、所定の角度となるように折れ曲がる。
【0076】
また、受動関節6及び自由関節32には、特段姿勢を固定するような力が加えられていない。これにより、受動関節6及び自由関節32は、ドラム缶の周面に付着していない状態では、床面の形状に応じて折れ曲がる。
【0077】
そのため、移動体Mを、そのままの状態で上下に重ねて配置されている梁P2の隙間に進入させると、上側にある梁P2に衝突したり、下側にある梁P2の間の間隔に落ちてしまったりするおそれがある。
【0078】
しかし、前述のように、移動体Mでは、折曲関節12、半固定関節22、自由関節32、受動関節6の各々に設けられている固定する第1固定ピン14、第2固定ピン24、第3固定ピン33、第4固定ピン34を操作することによって、それらの関節を使用者の任意で回動不能にすることができるように構成されている。
【0079】
それらのピンによって、例えば、各関節によって連結されているフレームが一列になるように固定すると、移動体Mは、図8に示すように、高さが抑えられ、且つ、各関節が床面の形状等に影響されずに固定された状態になる。
【0080】
このような状態になると、移動体Mは、各関節を固定していない状態(図7に示す状態)に比べて、パレットPの上下に重ねて配置されている梁P2の隙間に進入した際に、上側にある梁P2に衝突しにくくなり、下側にある梁P2の間の間隔に落ちにくくなる。
【0081】
また、第1ドラム缶D1、第2ドラム缶D2、第3ドラム缶D3、及び、第4ドラム缶D4の周面について外観検査を行うためには、移動体Mは、いずれかのドラム缶の周面に付着した状態で、それらのドラム缶の間に形成されたわずかな隙間の間を移動する必要がある。さらに、外観検査を連続的に行うためには、隣接するドラム缶を乗り移りつつ移動する必要がある。
【0082】
そこで、移動体Mは、そのような隙間の間を、隣接するドラム缶を乗り移りつつ移動することができるように構成されている。
【0083】
例えば、図9図13に示すように、前後左右に2つずつ配置されている4つのドラム缶(第1ドラム缶D1、第2ドラム缶D2、第3ドラム缶D3、及び、第4ドラム缶D4)のうち(図6参照)、第1ドラム缶D1の、第4ドラム缶D4側の周面を移動している移動体Mが、第2ドラム缶D2の第3ドラム缶D3側の周面へ移動するとする。
【0084】
この場合、まず、図9に、乗り移るための動作を開始する前の状態(すなわち、第1ドラム缶D1の周面を移動している状態)を示す。この状態では、移動体Mは、第1フレーム1、第2フレーム2、及び、第3フレーム3の各々に設けられているクローラ7a(図2図4参照)の付着力によって、第1ドラム缶D1の周面に付着する。
【0085】
この状態では、移動体Mの備える各関節において、その関節に接続されている各フレーム部材が、第1ドラム缶D1の周面に接近するように回動された状態になる。すなわち、移動体Mは、第1ドラム缶D1の周面に応じて折れ曲がった状態となり、その折れ曲がった状態のまま移動する。
【0086】
次に、図10に、乗り移るための動作の第1段階の状態を示す。この第1段階では、第1関節用リンク機構9b(図2参照)が、能動関節5を駆動させることによって、第1フレーム1の後側第1フレーム部材11を、第1ドラム缶D1の周面に対して離間するように、第2フレーム2の前側第2フレーム部材20に対して回動させる。
【0087】
このとき、第2関節用リンク機構9c(図2参照)が、折曲関節12を駆動させることによって、第1フレームの前側第1フレーム部材10を、第1ドラム缶D1の周面に対して接近するように、後側第1フレーム部材11に対して、所定の回動角度まで回動させる。
【0088】
その結果、第1段階では、後側第1フレーム部材11につられて前側第1フレーム部材10が若干後退するとともに、前側第1フレーム部材10の先端部分(移動体Mの移動方向前側の先端部分)に先立って、折曲関節12が第1ドラム缶D1の周面から離間する。
【0089】
次に、図11に、乗り移るための動作の第2段階の状態を示す。この第2段階では、第1関節用リンク機構9b(図2参照)が、能動関節5を第2状態よりもさらに駆動させることによって、第1フレーム1の後側第1フレーム部材11を、第1ドラム缶D1の周面に対して離間するように、第2フレーム2の前側第2フレーム部材20に対して回動させる。
【0090】
その結果、第2段階では、第1フレーム1全体が、第1ドラム缶D1の周面から離間する。
【0091】
次に、図12に、乗り移るための動作の第3段階の状態を示す。この第3段階では、第1関節用リンク機構9b及び第2関節用リンク機構9c(図2参照)が、能動関節5及び折曲関節12を駆動させずに、移動体M全体が前方に向かって移動する。
【0092】
これにより、移動体Mの先端部分が、第1ドラム缶D1に隣接する第2ドラム缶D2の周面に当接するとともに、第1フレーム1に設けられているクローラ7aの付着力によって、その周面に付着し始める。
【0093】
このとき、第1フレーム1の前側第1フレーム部材10は、当接した第2ドラム缶D2の周面に押されることによって、折曲関節12に加えられている第1バネ13の付勢力に抗して、後側第1フレーム部材11とのなす角度が大きくなるように(すなわち、第1ドラム缶D1の周面に対して離間するように)回動する。
【0094】
また、このとき、第1フレーム1の後側第1フレーム部材11は、前側第1フレーム部材10につられて、第1ドラム缶D1の周面に対してさらに離間するように、第2フレーム2の前側第2フレーム部材20に対して回動する。
【0095】
また、このとき、第2フレーム2の前側第2フレーム部材20は、後側第1フレーム部材11につられて、半固定関節22に加えられている第2バネ23の付勢力に抗して、第1ドラム缶D1の周面に対して離間するように、第2フレーム2の後側第2フレーム部材21に対して回動し始める。
【0096】
その結果、第3段階では、第1フレーム1が、第2ドラム缶D2の周面に付着し始めるとともに、第2フレーム2が、第1ドラム缶D1の周面から離間し始める。
【0097】
次に、図13に、乗り移るための動作の第4段階の状態を示す。この第4段階では、第1関節用リンク機構9b及び第2関節用リンク機構9c(図2参照)が、能動関節5及び折曲関節12を駆動させずに、移動体M全体が第3段階よりもさらに前方に向かって移動する。
【0098】
これにより、第1フレーム1全体が、第2ドラム缶D2の周面に付着するとともに、第2フレーム2も、第2ドラム缶D2の周面に付着し始める。
【0099】
このとき、第1フレーム1の前側第1フレーム部材10は、前側第1フレーム部材10のクローラ7aの付着力、及び、折曲関節12に加えられている第1バネ13の付勢力によって、後側第1フレーム部材11とのなす角度が小さくなるように(すなわち、第2ドラム缶D2の周面に対して接近するように)回動する。
【0100】
また、このとき、第1フレーム1の後側第1フレーム部材11は、後側第1フレーム部材11のクローラ7aの付着力によって、第2ドラム缶D2の周面に対して接近するように、第2フレーム2の前側第2フレーム部材20に対して回動する。この段階では、後側第1フレーム部材11と前側第2フレーム部材20とを連結している能動関節5に対しては、関節用モータ9a(図2参照)からの駆動力は伝達されない。
【0101】
また、このとき、第2フレーム2の前側第2フレーム部材20は、後側第1フレーム部材11につられて、また、当接した第2ドラム缶D2の周面に押されることによって、半固定関節22に加えられている第2バネ23の付勢力に抗して、第1ドラム缶D1の周面に対してさらに離間するように、第2フレーム2の後側第2フレーム部材21に対して回動する。
【0102】
また、このとき、第2フレーム2の後側第2フレーム部材21は、前側第2フレーム部材20につられて、第1ドラム缶D1の周面に対して離間するように、第3フレーム3の前側第3フレーム部材30に対して回動し始める。
【0103】
その結果、第4段階では、第1フレーム1が、第2ドラム缶D2の周面を移動し始め、第2フレーム2が、第2ドラム缶D2の周面に付着し始める。
【0104】
そして、この後の段階においては、移動体Mがさらに移動方向前方に移動するだけで、第1関節用リンク機構9b及び第2関節用リンク機構9cを介して折曲関節12及び能動関節5を特段駆動させなくても、第3フレーム3、移動方向後側の2つ目の第2フレーム2、及び、移動方向後側の2つ目の第1フレーム1も、前述の移動方向前側の1つ目の第1フレーム1、及び、移動方向前側の1つ目の第2フレーム2と同様に、順次、第1ドラム缶D1の周面から離間した後、第2ドラム缶D2の周面に付着して、移動を始める。
【0105】
以上説明したように、移動体Mでは、能動関節5を駆動するための第1関節用リンク機構9bを備えている。そして、第1関節用リンク機構9bは、コントロールユニットCからの指令に応じて能動関節5を駆動して、第1フレーム1を、第1ドラム缶D1の表面に対して離間するように、第2フレーム2に対して第1軸線a1周りで回動させることができるようになっている。
【0106】
すなわち、移動している第1ドラム缶D1の周面に第2フレーム2を付着させたまま、第1フレーム1をその第1ドラム缶D1の周面から離間させることができる。
【0107】
これにより、移動している第1ドラム缶D1の表面に、第2フレームを付着させたまま、移動している第1ドラム缶D1に隣接する位置にある第2ドラム缶D2の周面に、第1フレーム1を付着させることができる。
【0108】
そして、そのまま移動を継続すると、第1フレーム1が第2ドラム缶D2の周面を移動し始めて、その第1フレーム1につられて、第2フレーム2も第1ドラム缶D1の周面から離間させられて、最終的には、移動体M全体が第2ドラム缶D2の周面へと乗り移るように移動する。
【0109】
したがって、移動体Mは、移動している第1ドラム缶D1からその第1ドラム缶D1に隣接している第2ドラム缶D2へと、連続的に移動することができる。ひいては、移動体Mによれば、複数の対象物について連続的に移動しつつ、外観検査等の検査を行うことができる。
【0110】
ところで、乗り移るための動作の第1段階及び第2段階(図10及び図11参照)においては、仮に、移動体Mが折曲関節12を設けていなければ、第1フレーム1全体が能動関節5を介して、第1ドラム缶D1から離間することになる。
【0111】
そうすると、その第1フレーム1の先端部分は、移動体Mのように折曲関節12を設けた構成に比べ、第1ドラム缶D1から大きく離れた位置まで移動する。その結果、その先端部分が、隣接する第3ドラム缶D3の周面に衝突したり、意図せず付着してしまったりするおそれが生じる。
【0112】
しかし、移動体Mでは、前述のように折曲関節12を設けることによって、第1段階及び第2段階においても、前側第1フレーム部材10(すなわち、第1フレーム1の先端部分)の位置を、移動している第1ドラム缶D1、又は、移動先となる第2ドラム缶D2の周面に近い位置で維持している。これにより、移動体Mでは、第1フレーム1の先端部分の他のドラム缶等への衝突、意図しない付着等が抑制されている。
【0113】
これに加え、このような折曲関節12を設けると、第1フレーム1を第1ドラム缶D1の周面から離間させる際に、その離間動作を、後側第1フレーム部材11を離間させる動作と、前側第1フレーム部材10を離間させる動作という2つの小さな動作に分割して行うことができる。
【0114】
これにより、折曲関節12を設けず、その離間動作を第1フレーム1全体を離間させるという1つの大きな動作として行う構成に比べて、第1フレーム1を第1ドラム缶D1の周面から離間させる際に必要となる力(駆動トルク)を抑制することができる。その結果、その力を生成するための駆動源(具体的には、関節用モータ9a)の小型化・軽量化が図られている。
【0115】
また、乗り移るための動作の第1段階及び第2段階(図10及び図11参照)においては、それまで第1ドラム缶D1の周面に付着していた第1フレーム1が、その周面から離間させられる。これにより、第1フレーム1に設けられているクローラ7aによる付着力を、移動体Mを第1ドラム缶D1に付着させるために利用することができなくなる。すなわち、移動体M全体としての付着力が弱まる。
【0116】
その付着力を補填する方法としては、第1フレーム1以外のフレーム、特に第1フレーム1に連設されている第2フレーム2に設けられているクローラ7aの付着力を強くする方法が考えられる。
【0117】
しかし、移動体Mでは、付着がクローラ7aの有している磁石7bの磁力によって行われているので、第2フレーム2のクローラ7aの付着力を強くしすぎると、意図していない部分に、第2フレーム2が付着してしまうおそれが生じる。具体的には、例えば、乗り移るための動作中に、乗り移り先である第2ドラム缶D2の周面ではなく、第3ドラム缶D4の周面に付着してしまうおそれが生じる。
【0118】
そこで、移動体Mでは、第2フレーム2を、前側第2フレーム部材20と後側第2フレーム部材21とで構成するともに、それらを連結する半固定関節22に第2バネ23を取り付けて、前側第2フレーム部材20と後側第2フレーム部材21との回動角度が第1ドラム缶D1の周面に対応する角度となるように付勢している。
【0119】
そのため、第2フレーム2は、第2バネ23によって、移動している第1ドラム缶D1の周面に押し付けられるとともに、第1ドラム缶D1の周面の形状に応じて折れ曲がる。その結果、第2フレーム2の付着力のうち、現在移動している第1ドラム缶D1の周面に対する付着力のみが補強されている。これにより、移動体Mでは、第2フレーム2に十分な付着力を持たせつつ、意図しない付着などを防止することができるようになっている。
【0120】
以上、図示の実施形態について説明したが、本発明はこのような形態に限定されるものではない。
【0121】
例えば、上記実施形態においては、この移動体Mは、パレットP上に等間隔に並べて配置されているドラム缶(対象物)の周面を乗り移るように移動しつつ、そのドラム缶の外観検査を行うためのものである。
【0122】
しかし、本発明の移動体は、そのような構成に限定されるものではなく、対象物の表面を移動するものであればよい。例えば、移動する面は、ドラム缶の周面に限定されない。また、移動体の使用の目的は、必ずしも対象物の外観検査である必要はない。例えば、対象物から放出される放射線の線量測定を行うために用いてもよい。
【0123】
また、例えば、上記実施形態においては、図1図2及び図3に示すように、移動体Mの前方の状況を、第1フレーム1に搭載されている第1カメラ8aで観察し、対象物であるドラム缶の周面を、第2フレーム2に搭載されている第2カメラ8bで観察している。
【0124】
しかし、本発明の移動体は、そのような構成に限定されるものではない。例えば、カメラの搭載位置、種類は、移動体の使用目的に応じて適宜変更してよい。例えば、光学的なカメラに代わり、超音波探傷器を採用してもよい。また、移動体を線量測定に使用する場合には、カメラに代わり、線量計を搭載してもよい。また、カメラのような観察機器自体を省略してもよい。
【0125】
また、例えば、上記実施形態においては、図1に示すように、移動体Mは、移動体Mは、移動方向前方側(図1において右側)から順に、1つ目の第1フレーム1と、第1フレーム1に連設されている1つ目の第2フレーム2と、1つ目の第2フレーム2に連設されている第3フレーム3と、第3フレーム3に連設されている2つ目の第2フレーム2と、2つ目の第2フレーム2に連設されている2つ目の第1フレーム1とを備えている。
【0126】
しかし、本発明の移動体は、そのような構成に限定されるものではなく、第1フレームと、第1フレームの移動方向後方側に設けられた第2フレームとを備えたものであればよい。例えば、上記実施例において、1つの第1フレームと、1つの第2フレームとで移動体Mを構成してもよいし、2つの第1フレームと、それらの第1フレームの間に設けた1つの第2フレームとで、移動体Mを構成してもよい。
【0127】
また、例えば、上記実施形態においては、図2図4に示すように、移動用部材であるクローラ7aの表面に、対象物であるドラム缶の周面に付着するための部材として、付着部材として磁石7bが取り付けられている。
【0128】
しかし、本発明の移動体は、そのような構成に限定されるものではなく、移動用部材は、対象物の表面に着脱自在に付着して移動できるものであればよい。そのため、クローラに代わり、車輪を用いてもよい。また、付着のための構成は磁石に限定されるものではなく、対象物の種類等に応じて適宜変更してもよい。例えば、吸盤等であってもよい。
【0129】
また、例えば、上記実施形態においては、図2図4に示すように、平面視で略矩形の第1フレーム1、第2フレーム2、及び、第3フレーム3の各々に、左右一対のクローラ7a(移動用部材)が設けられている。
【0130】
しかし、本発明の移動体の移動用部材は、そのような構成に限定されるものではなく、第1フレーム及び第2フレームの各々に設けられていればよく、移動用部材の数及び大きさは、移動する対象物の表面の形状等に応じて、適宜設定してよい。
【0131】
具体的には、例えば、上記実施形態の移動体Mにおいて、第1フレーム1又は第2フレーム2に設けられているクローラ7aを、そのフレームの左右方向中央部に1つだけ設けてもよいし、3つ以上設けてもよい。また、フレームごとに、クローラの数を異ならせてもよい。
【0132】
また、移動体Mでは、各フレームに左右一対のクローラ7aを2つずつ設けているが、各フレームに左右一対のものを1つずつ設けてもよい。また、必ずしも全てのフレームに設ける必要はなく、例えば、第3フレーム3のクローラを省略してもよい。
【0133】
また、上記実施形態においては、図2に示すように、第1フレーム1は、前側第1フレーム部材10と、後側第1フレーム部材11とを有しており、前側第1フレーム部材10と後側第1フレーム部材11とは、折曲関節12を介して、互いに回動自在に連結されている。
【0134】
しかし、本発明の移動体は、そのような構成に限定されるものではない。例えば、第1フレームを1つのフレーム部材で構成してもよいし、3つ以上のフレーム部材で構成してもよい。同様に、第2フレーム2及び第3フレーム3も、1つのフレーム部材で構成してもよいし、3つ以上のフレーム部材で構成してもよい。
【0135】
また、上記実施形態においては、図2及び図3に示すように、折曲関節12及び半固定関節22には、それらの関節が所定の姿勢となるように付勢する第1バネ13及び第2バネ23が取り付けられている。一方、受動関節6及び自由関節32には、特段姿勢を固定するような力が加えられていない。
【0136】
また、図2図4に示すように、折曲関節12、半固定関節22、自由関節32、受動関節6を、それらの関節に対応する第1固定ピン14、第2固定ピン24、第3固定ピン33、第4固定ピン34を操作することによって、回動可能な状態と回動不能な状態に切り換え可能に構成されている。
【0137】
しかし、本発明の移動体は、そのような構成に限定されるものではなく、各関節を付勢する付勢部材、及び、各関節の回動を規制するための固定ピン等の固定機構は、移動体が移動する対象物の形状等に応じて、適宜設けて良い。例えば、移動体をドラム缶の周面のみを移動させる場合には、固定機構を省略してよい。また、固定機構として、固定ピンの他に、ロック機構等を採用してもよい。
【符号の説明】
【0138】
1…第1フレーム、2…第2フレーム、3…第3フレーム、4…カバー、5…能動関節、6…受動関節、7a…クローラ(移動用部材)、7b…磁石(付着部材)、7c…クローラ用モータ、7d…クローラ用リンク機構、8a…第1カメラ、8b…第2カメラ、8c…第2カメラ用モータ、8d…第2カメラ用駆動機構、9a…関節用モータ(第1駆動源、第2駆動源)、9b…第1関節用リンク機構(第1駆動機構)、9c…第2関節用リンク機構(第2駆動機構)、10…前側第1フレーム部材、11…後側第1フレーム部材、12…折曲関節、13…第1バネ、14…第1固定ピン、20…前側第2フレーム部材、21…後側第2フレーム部材、22…半固定関節、23…第2バネ(付勢部材)、24…第2固定ピン、30…前側第3フレーム部材、31…後側第3フレーム部材、32…自由関節、33…第3固定ピン(固定機構)、34…第4固定ピン、a1…第1軸線(ピッチ軸)、a2…第2軸線(ピッチ軸)、a3…第3軸線(ピッチ軸)、a4…第4軸線(ピッチ軸)、a5…第5軸線(ピッチ軸)、C…コントロールユニット(制御部)、D1…第1ドラム缶(対象物)、D2…第2ドラム缶(対象物)、D3…第3ドラム缶(対象物)、D4…第4ドラム缶(対象物)、M…移動体、P…パレット、P1…枠体、P2…梁。
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