(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-30
(45)【発行日】2023-06-07
(54)【発明の名称】アログリプチン安息香酸塩の製造中間体の新規結晶形
(51)【国際特許分類】
C07D 239/62 20060101AFI20230531BHJP
【FI】
C07D239/62
(21)【出願番号】P 2018183379
(22)【出願日】2018-09-28
【審査請求日】2021-09-17
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000207252
【氏名又は名称】ダイト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083301
【氏名又は名称】草間 攻
(72)【発明者】
【氏名】忠田 悠
(72)【発明者】
【氏名】住吉 孝志郎
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/178246(WO,A1)
【文献】Studia Universitatis “Vasile Goldis” Seria Stiintele Vietii,2011年,Vol. 21, No. 2,pp. 349-354,ISSN 1842-7863
【文献】平山令明,有機化合物結晶作製ハンドブック,2008年,p.17-23,37-40,45-51,57-65
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタノール溶媒中、ナトリウムメトキシドの存在下に、1-メチル尿素とマロン酸ジメチルを反応させることを特徴とする、
粉末X線回折において、8.8±0.2°、13.4±0.2°、14.6±0.2°の回折角(2θ)に特徴的ピークを有する1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンのナトリウム塩の結晶の製造方法。
【請求項2】
反応終了後に、得られた1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンのナトリウム塩を、メタノールを用いて晶出させることを特徴とする
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
晶出した1-メチル-2,4,6((1H,3H,5H)ピリミジントリオンのナトリウム塩を、アセトンおよび水、またはアセトニトリルおよび水により再結晶することを特徴とする
請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アログリプチン安息香酸塩の製造中間体のナトリウム塩の新規結晶形に関する。
【背景技術】
【0002】
次式(I):
【0003】
【0004】
で示される1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンは、選択的DPP-4阻害作用に基づく2型糖尿病治療剤であるネシーナ(登録商標)錠の有効成分であるアログリプチン安息香酸塩(JAN)の製造(例えば、特許文献1)における重要な合成中間体化合物である。
【0005】
従来の式(I)の中間体化合物を得る製法としては、例えば、酢酸にマロン酸および1-メチル尿素を加えた溶液に無水酢酸を添加した後、溶媒を減圧下で除去して、残渣をエタノールで処理して得る製造方法が知られている(特許文献2)。
しかしながら、式(I)の化合物は酢酸への溶解度が大きく、当該方法にあっては酢酸を溶媒として使用していることから、溶媒を完全に除去することができず、その結果、収率が低下するといった問題がある。
【0006】
また、ナトリウムエトキシドのエタノール溶液に、マロン酸ジエチルおよび1-メチル尿素を作用させた後、塩酸水溶液で処理して式(I)の中間体化合物を得る製法が知られている(特許文献3)。
しかしながら、式(I)の化合物は水への溶解度も大きいため、この方法にあっても、後処理で塩酸水溶液を使用していることから、塩酸水溶液に含まれる水に式(I)の化合物が溶解してしまい、収率が低くなる問題点がある。
【0007】
さらに別の製法として、ナトリウムエトキシドのエタノール溶液にマロン酸ジエチル及び1-メチル尿素を加えて反応させ、反応系中より析出した、次式(II):
【0008】
【0009】
で示される1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンのナトリウム塩を得る方法が知られている(非特許文献1)。
しかしながら、該製法では、式(II)のナトリウム塩化合物が反応溶液中でゲル化してしまい、反応溶液の撹拌性に支障をきたし、また濾過性も悪いため、工業的には実施できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開WO2016/178246号
【文献】特許第5453086掲載公報
【文献】国際公開WO2010/072807号
【非特許文献】
【0011】
【文献】Studia Universitatis “Vasile Goldis” Seria Stiintele Vietii Vol. 21, issue 2, 2011, pp. 349-354
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の問題点を解決した、アログリプチン安息香酸塩の製造における重要な合成中間体化合物を、工業的に製造し得る方法を提供することを課題とする。
【0013】
本発明者らは、かかる課題を達成するべく鋭意検討した結果、メタノール溶媒中で1-メチル尿素にマロン酸ジメチルおよびナトリウムメトキシドを作用させることにより、1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンのナトリウム塩を新規結晶形として得ることにより、上記の問題点が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0014】
しかして、本発明は、粉末X線回折において、8.8±0.2°、13.4±0.2°、14.6±0.2°の回折角(2θ)に特徴的ピークを有する1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンのナトリウム塩の結晶である。
【0015】
また本発明は、かかる1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンのナトリウム塩の結晶の製造方法であり、具体的には、メタノール溶媒中、ナトリウムメトキシドの存在下に、1-メチル尿素とマロン酸ジメチルを反応させることを特徴とする、1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンのナトリウム塩の結晶の製造方法である。
【0016】
より具体的には、本発明は、上記の製造方法において、反応終了後に、得られた1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンのナトリウム塩を、メタノールを用いて晶出させることを特徴とする製造方法であり、また、晶出した1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)ピリミジントリオンのナトリウム塩を、アセトンおよび水、またはアセトニトリルおよび水により再結晶する製造方法である。
【0017】
さらにまた本発明は、別の態様として、アログリプチン安息香酸塩の製造方法における出発原料としての1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)ピリミジントリオンのナトリウム塩の使用である。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)ピリミジントリオンのナトリウム塩の結晶を、工業的に高収率で製造し得る方法を提供することができる。
本発明により提供される、1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)ピリミジントリオンのナトリウム塩の結晶は、臨床的に使用されている選択的DPP-4阻害作用に基づく2型糖尿病治療薬であるアログリプチン安息香酸塩の製造方法における重要な合成中間体化合物として提供できる点で、その効果は多大なものである。
なお、より詳細は、後記する「実施例及び比較例に基づく従来技術との比較検討」を参照されたい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例1で得られた1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)ピリミジントリオンのナトリウム塩の粉末X線回折図である。
【
図2】実施例2で得られた1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)ピリミジントリオンのナトリウム塩の粉末X線回折図である。
【
図3】比較例1で得られた1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)ピリミジントリオンの粉末X線回折図である。
【
図4】比較例3で得られた1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)ピリミジントリオンのナトリウム塩の粉末X線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
上記したように、本発明は、粉末X線回折において、8.8±0.2°、13.4±0.2°、14.6±0.2°の回折角(2θ)に特徴的ピークを有する1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンのナトリウム塩の結晶であり、当該ナトリウム塩の結晶は、メタノール溶媒中、ナトリウムメトキシドの存在下に、1-メチル尿素とマロン酸ジメチルを反応させることにより製造することができる。
【0021】
本発明にあっては、特に反応溶媒としてメタノールを使用し、メタノール溶媒中、ナトリウムメトキシドの存在下に、1-メチル尿素とマロン酸ジメチルを反応させることに特徴がある。
すなわち、反応溶媒として、例えば、メタノールと同類の低級アルコールであるエタノール、イソプロパノール、或いは1-ブタノール等、さらにはアセトニトリル等を使用しても反応途中でゲル状物の固体が析出し、撹拌性が悪く、メタノールを反応溶媒として使用した場合にのみ良好に目的とする1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンのナトリウム塩の結晶が得られることが判明した。
【0022】
反応は、1-メチル尿素およびマロン酸ジメチルの両者をほぼ等モル量用い、アルカリとしてナトリウムメトキシドを存在させ、メタノール溶媒中、メタノールの還流温度近傍である60~70℃程度に加熱し、10~30時間、好ましくは24時間程度撹拌することで実施することができる。
【0023】
アルカリとして使用するナトリウムメトキシドとしては、一般的な工業試薬として使用される27~29%メタノール溶液のものを使用することができ、その添加量は、反応に用いた1-メチル尿素およびマロン酸ジメチルの両者のモル数の合計量程度である。
【0024】
当該反応においては、反応中に結晶が析出してくるので、室温まで冷却し、析出した結晶を濾取し、メタノールで洗浄後、乾燥することにより、目的とする1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンのナトリウム塩の結晶を得ることができる。
【0025】
なお、この段階で得られた1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンのナトリウム塩の結晶は、1/2メタノール溶媒和物としての結晶で得られ、その粉末X線回折を測定した結果、
図1に示した回折パターンを示し、8.8±0.2°、13.4±0.2°、14.6±0.2°の回折角(2θ)に特徴的ピークを有するものであった。
【0026】
本発明の1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンのナトリウム塩の結晶は、医薬品として臨床的に使用されているアログリプチン安息香酸塩の製造における重要な合成中間体化合物であることから、溶媒和物として存在するメタノールを除去した結晶としてアログリプチン安息香酸塩の製造に使用することが望ましい。
そこで、上記で得られた1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンのナトリウム塩の1/2メタノール溶媒和物としての結晶を、適宜他の溶媒から再結晶することにより、溶媒和物でない1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンのナトリウム塩の結晶へ変換することができる。
【0027】
そのような再結晶に使用できる溶媒としては、アセトン等のケトン系溶媒、或いはアセトニトリル等の溶媒と水との混合溶媒を挙げることができ、アセトン/水、アセトニトリル/水から再結晶するのが好ましく、なかでもアセトン/水から再結晶するのが特に好ましい。
再結晶により得られた1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンのナトリウム塩の結晶の粉末X線回折を測定した結果、
図2に示した回折パターンを示し、8.8±0.2°、13.4±0.2°、14.6±0.2°の回折角(2θ)に特徴的ピークを有するものであった。
この回折パターンは、
図1に示した1/2メタノール溶媒和物の結晶の回折パターンと一致するものであった。
【0028】
再結晶により得られたナトリウム塩の結晶における残留溶媒としてのメタノール含有量は、極めて低いものであり、その後のアログリプチン安息香酸塩の工業的規模での生産において、その安全性が極めて高いものといえる(後記する、本発明の特徴的効果としての「実施例及び比較例に基づく従来技術との比較検討」の項を参照)。
【0029】
かくして調製された、本発明の1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンのナトリウム塩の結晶は、従来の技術手段(例えば、特許文献1等)に従って、医薬品として臨床的に使用されているアログリプチン安息香酸塩まで誘導することができる。
【実施例】
【0030】
以下に、本発明を、実施例、比較例等を記載することにより詳細に説明する。
【0031】
実施例1:1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンのナトリウム塩の製法
メタノール(1,600mL)に1-メチル尿素(80.0g、1.08mol)、マロン酸ジメチル(157.0g、1.19mol)および28%ナトリウムメトキシドのメタノール溶液(416.8g、2.16mol)を加えて66℃まで加温した。その後、同温度にて24時間攪拌し、析出した結晶を、室温まで冷却した後、濾過した。濾過物をメタノール(80mL)で2回洗浄した後、40℃で減圧乾燥し、1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンのナトリウム塩を白色結晶性の粉末として190.9g得た。
当該結晶にはメタノールが86,741ppm(1/2メタノール溶媒和物相当)含まれていた。
収率は98.1%(ナトリウム塩の2分の1メタノール溶媒和物として算出)であり、純度は98.3%であった。
得られた結晶について粉末X線回折を測定した結果、その回折パターンは
図1に示すとおりであった。
【0032】
実施例2:1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンのナトリウム塩の製法
アセトン(180mL)および精製水(360mL)の混合溶媒に実施例1で得た1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンのナトリウム塩(180.0g、1.00mol)を加えて、57℃まで加温し、溶解させた。次に、55~57℃の温度範囲にてアセトン(2,520mL)を90分間かけて滴下した。その後、26℃まで4時間かけて徐冷却し、結晶を濾過した。濾過物をアセトン(180mL)で2回洗浄した後、40℃で減圧乾燥し、1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンのナトリウム塩を、白色結晶性の粉末として145.2g得た。
当該結晶にはアセトンが4ppm含まれており、精製前に86,741ppm含まれていたメタノールは70ppmまで低減されていた。
収率は88.5%(ナトリウム塩の無溶媒和物として算出)であり、純度は99.0%であった。
得られた結晶について粉末X線回折を測定した結果、その回折パターンは
図2に示すとおりであった。
【0033】
上記の製法において、アセトンに代えてアセトニトリルを用いて同様処理して、目的とする1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンのナトリウム塩を、白色結晶性の粉末として、収率85.9%(ナトリウム塩の無溶媒和物として算出)で得た。
得られた結晶にはアセトニトリルが404ppm含まれており、精製前に139,603ppm含まれていたメタノールは320ppmまで低減されていた。
【0034】
比較例1:1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンの製法(特許文献2に記載の方法に準拠)
酢酸(36mL)に1-メチル尿素(10.0g、135mmol)およびマロン酸(16.0g、154mmol)を加えて73℃まで加温した。同温度にて無水酢酸(26mL、275mmol)を滴下した後、92℃まで加温した。92~105℃で3時間攪拌した後、室温まで冷却し、溶媒を減圧下50℃で除去した。残渣にエタノール(70mL)加えて67℃まで加温した後、2℃まで3時間かけて徐冷却し、濾過した。濾過物をエタノール(10mL)で2回洗浄した後、40℃で減圧乾燥し、1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンを黄色結晶性の粉末として11.9g得た。
収率は62.0%であり、純度は99.4%であった。
得られた結晶について粉末X線回折を測定した結果、その回折パターンは
図3に示すとおりであった。
【0035】
比較例2:1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンの結晶の製法(特許文献3に記載の方法に準拠)
エタノール(100mL)に1-メチル尿素(10.0g、135mmol)、マロン酸ジエチル(23.8g、149mmol)および20%ナトリウムエトキシドのエタノール溶液(50.5g、149mmol)を加えて79℃まで加温した後、30分間攪拌した。反応途中、ゲル状の固体が析出し攪拌性が著しく低下した。その後、室温まで冷却し、6N塩酸水溶液を加えて、pH3.5へ調整した。pH調整後は2℃まで冷却し、1時間攪拌した後、濾過した。濾過物をエタノール(10mL)で2回洗浄した後、40℃で減圧乾燥し、1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンを黄色結晶性の粉末として6.0g得た。
収率は31.3%であり、純度は96.2%であった。
【0036】
比較例3:1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンのナトリウム塩の製法(非特許文献1に記載の方法に準拠)
エタノール(200mL)に1-メチル尿素(10.0g、135mmol)、マロン酸ジエチル(23.8g、149mmol)および20%ナトリウムエトキシドのエタノール溶液(91.9g、270mmol)を加えて60℃まで加温した後、8時間攪拌した。反応途中、ゲル状の固体が析出し攪拌性が低下した。その後、室温まで冷却し、濾過した。濾過物をエタノール(10mL)で2回洗浄した後、40℃で減圧乾燥し、1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンのナトリウム塩を薄い桃色結晶性の粉末として23.2g得た。
収率は104.9%(ナトリウム塩の無溶媒和物として算出)であり、純度は91.0%であった。
得られた結晶について粉末X線回折を測定した結果、その回折パターンは
図4に示すとおりであった。
【0037】
なお、上記の各実施例及び比較例における、純度試験、粉末X線回折、残留溶媒試験の条件は、以下のとおりである。
【0038】
<純度試験条件>
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:200nm)
カラム:ZORBAX SB-CN(250mm×4.6mm、5μm Agilent社製)
カラム温度:30℃
移動相:緩衝液/アセトニトリル(9:1)
緩衝液:0.1%過塩素酸水溶液をトリエチルアミンでpH3.0に調整した液
流量:0.5mL/分
【0039】
<粉末X線回折>
粉末X線回折の測定は、RIGAKU社のUltimaIVを使用した。
X線:Cu/40kV/30mA
発散スリット:1/2°
発散縦制限スリット:10.00mm
散乱スリット:1/2°
受光スリット:0.15mm
モノクロ受光スリット:0.8mm
スキャンスピード:2.0000°/min
サンプリング幅:0.0200°
走査範囲:2.0000~40.0000°
【0040】
<残留溶媒試験条件>
ガスクロマトグラフ:Agilent Technologies 7890B
検出器:水素炎イオン化検出器
カラム:内径0.32mm、長さ30mのフェーズドシリカ管の内面にガスクロマトグラフィー用6%シアノプロピルフェニル-94%ジメチルポリシロキサンを厚さ1.8μmで被覆する(Agilent製:DB-624を使用)。
カラム温度:40℃付近の一定温度で注入し、5分間保った後、120℃になるまで毎分10℃の割合で昇温する。その後、200℃になるまで毎分80℃で昇温し、5分間保つ。
注入口温度:250℃付近の一定温度
検出器温度:250℃付近の一定温度
キャリヤーガス:ヘリウム
流量:35cm/秒
スプリット比: 1:50
面積測定範囲:約15分間
ヘッドスペースサンプラー:Agilent Technologies 7697A
バイアル内平衡温度:80℃付近の一定温度
バイアル内平衡時間:40分間
ループ温度:95℃付近の一定温度
トランスファーライン温度:105℃付近の一定温度
キャリヤーガス:ヘリウム
加圧時間:30秒間
試料注入量:1.0mL
【0041】
実施例及び比較例に基づく従来技術との比較検討:
本発明により得られる1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンのナトリウム塩の新規結晶形は、
図1に示した粉末X線回折パターンにおいて、8.8±0.2°、13.4±0.2°、14.6±0.2°の回折角(2θ)に特徴的ピークを有する。
本発明により、1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンのナトリウム塩を新規結晶形として得ることで、従来の技術と比較して高い収率(収率:98.1%)を確保することが可能となる。
従来の技術(比較例)と、本発明(実施例1)における収率を比較した結果を、下記表1に示した。
【0042】
【0043】
上記の表中の対比からも明らかなように、本発明の方法は、目的とする1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンのナトリウム塩を高収率で製造することができる。
【0044】
その上、本発明は、特許文献2に記載の方法のように、酢酸溶媒中、高温下において無水酢酸を滴下することを回避できるため、工業的な製造時の作業安全性が向上する。
さらに、本発明により得られる1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンのナトリウム塩は結晶性の粉末であり、良好なスラリー状態を形成するため、特許文献3および非特許文献1に記載の方法のように、ゲル状の固体が析出し、攪拌性が低下することを回避できる。
この点は、遠心分離が格段に容易となる点でも極めて工業的であり、作業効率が向上する利点を有している。
【0045】
なお、本発明により得られた1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンのナトリウム塩は、1/2メタノール溶媒和物相当のメタノールを含有しているが、実施例2に記載のように、必要に応じて、アセトンおよび水、またはアセトニトリルおよび水で再結晶することにより、メタノール含量を低減することができる。
特に、本発明の1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンのナトリウム塩を用いてアログリプチン安息香酸塩を製造する場合には、次工程でオキシ塩化リンなどのクロル化剤を使用する。このクロル化剤は、メタノールの存在により遺伝毒性物質を生起する可能性があるため、メタノールの低減は、工業生産時の安全性向上および該遺伝毒性物質の管理の面で多大な効果がある。
【0046】
上記の場合、アログリプチン安息香酸塩における遺伝毒性物質を制御するためには、当該ナトリウム塩のメタノール含量を132ppm以下に制御することが好ましい。
本発明によれば、必要であれば再結晶を繰り返すことにより、メタノール含量を132ppm以下に制御できることはもとより、100ppm以下に制御することも可能である。
【0047】
かくして製造された1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)-ピリミジントリオンのナトリウム塩の結晶は、再結晶の有無(メタノール含量の低減の有無)に関わらず、従来の技術で得られるナトリウム塩でないフリー体と同様に、下式化学式で示す従来の技術の方法(例えば、特許文献1等):
【0048】
【0049】
に従って、アログリプチン安息香酸塩まで誘導することができる。
以上から、本発明は、また、臨床的に使用されている選択的DPP-4阻害作用に基づく2型糖尿病治療薬であるアログリプチン安息香酸塩の製造方法における重要な合成中間体として使用する1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)ピリミジントリオンのナトリウム塩の結晶として、特に有用なものである。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明により、1-メチル-2,4,6(1H,3H,5H)ピリミジントリオンのナトリウム塩の結晶を、工業的に高収率で製造し得る方法を提供することができ、かかるナトリウム塩の結晶は、臨床的に使用されている選択的DPP-4阻害作用に基づく2型糖尿病治療薬であるアログリプチン安息香酸塩の製造方法における重要な合成中間体化合物として提供できる点で、産業上の利用性は多大なものである。