(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-30
(45)【発行日】2023-06-07
(54)【発明の名称】測位支援装置、測位支援システム、測位システムおよび測位支援方法
(51)【国際特許分類】
G01S 19/07 20100101AFI20230531BHJP
G01S 19/08 20100101ALI20230531BHJP
G01S 19/10 20100101ALI20230531BHJP
G01S 19/12 20100101ALI20230531BHJP
G01S 19/25 20100101ALI20230531BHJP
G01S 19/43 20100101ALI20230531BHJP
【FI】
G01S19/07
G01S19/08
G01S19/10
G01S19/12
G01S19/25
G01S19/43
(21)【出願番号】P 2019041054
(22)【出願日】2019-03-06
【審査請求日】2021-09-17
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513055610
【氏名又は名称】一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三神 泉
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 雅行
【合議体】
【審判長】中塚 直樹
【審判官】濱本 禎広
【審判官】濱野 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-318273(JP,A)
【文献】国際公開第2015/194527(WO,A1)
【文献】特許第5832050(JP,B1)
【文献】特開2016-102789(JP,A)
【文献】特表2018-537664(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/336512(US,A1)
【文献】特開2019-23574(JP,A)
【文献】特開2005-172738(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/192233(US,A1)
【文献】”ライトハウス、世界初となる準天頂衛星のセンチメータ級 測位補強サービス信号(L6DおよびL6E信号)の受信に成功”,@Press,2017年9月19日,<URL:https://www.atpress.ne.jp/news/137640>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 19/00-19/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
準天頂衛星システムから送信されるCLAS測位補強情報に基づいて、予め定めた
複数の地点において観測される人工的観測データを生成する観測データ生成部と、
前記人工的観測データに基づくデータを前記地点に対応する装置へ送信する通信部と、
を備えることを特徴とする測位支援装置。
【請求項2】
前記通信部は、前記人工的観測データとともに対応する前記地点の座標を前記装置へ送信することを特徴とする請求項
1に記載の測位支援装置。
【請求項3】
前記人工的観測データに基づくデータは、前記人工的観測データ自体であることを特徴とする請求項1
または2に記載の測位支援装置。
【請求項4】
前記人工的観測データに基づくデータは、前記人工的観測データから前記地点と測位衛星との間の幾何距離を引いた値であることを特徴とする請求項1
または2に記載の測位支援装置。
【請求項5】
前記通信部は、さらに、前記地点に対応する航法メッセージを前記地点に対応する装置へ送信することを特徴とする請求項1から
4のいずれか1つに記載の測位支援装置。
【請求項6】
前記
複数の地点は、携帯電話網の基地局の位置であり、
前記観測データ生成部は、予め定められた複数の基地局の座標を用いて前記基地局ごとに前記人工的観測データを生成し、
前記地点に対応する装置は、前記基地局であることを特徴とする請求項1から
5のいずれか1つに記載の測位支援装置。
【請求項7】
前記観測データ生成部は、前記人工的観測データをリアルタイムキネマティック測位における標準フォーマットに整形することを特徴とする請求項1から
6のいずれか1つに記載の測位支援装置。
【請求項8】
前記観測データ生成部は、前記人工的観測データに対して地殻変動補正演算を行い、
前記通信部は、地殻変動補正演算後の前記人工的観測データに基づくデータを前記地点に対応する装置へ送信することを特徴とする請求項1から
7のいずれか1つに記載の測位支援装置。
【請求項9】
予め定めた
複数の地点のうち1つ以上の地点に対応する観測地点に設置された受信機から測位信号の観測データである実観測データを取得し、
前記実観測データと該実観測データに対応する同時刻の前記人工的観測データとを用いて測位計算を行い、前記測位計算による測位結果を所定の期間分用いて平均化処理し、平均化処理により得られる座標値を、対応する前記地点の正確な座標値として前記地点に対応する装置へ送信することを特徴とする請求項1から
8のいずれか1つに記載の測位支援装置。
【請求項10】
前記観測データ生成部は、前記
CLAS測位補強情報のうちの一部
のサブタイプメッセージを用いて前記人工的観測データを生成することを特徴とする請求項1から
9のいずれか1つに記載の測位支援装置。
【請求項11】
準天頂衛星システムから送信されるCLAS測位補強情報を含む信号を受信するアンテナと、
前記信号をデコードすることにより前記
CLAS測位補強情報を出力するデコーダと、
前記デコーダから前記
CLAS測位補強情報が入力される請求項1から1
0のいずれか1つに記載の測位支援装置と、
を備えることを特徴する測位支援システム。
【請求項12】
請求項1から1
0のいずれか1つに記載の測位支援装置と、
前記測位支援装置から人工的観測データに基づくデータを受信し、前記人工的観測データに基づくデータと対応する地点の座標とを報知する基地局と、
前記基地局から受信した前記地点の座標および前記人工的観測データに基づくデータを用いてリアルタイムキネマティック演算を行って自己の位置を算出する端末と、
を備えることを特徴とする測位システム。
【請求項13】
測位支援装置が、
準天頂衛星システムから送信されるCLAS測位補強情報に基づいて、携帯電話網の複数の基地局の位置を仮想点として地点ごとに、前記地点で観測される人工的観測データを生成する観測データ生成ステップと、
前記測位支援装置が、前記人工的観測データに基づくデータを前記地点に対応する前記基地局へ送信する第1送信ステップと、
前記基地局が、前記人工的観測データに基づくデータと対応する地点の座標とを端末へ送信する第2送信ステップと、
を含むことを特徴とする測位支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測位支援装置、測位支援システム、測位システムおよび測位支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、GNSS(Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム)を用いた測位の利用が急速に拡大している。GNSSを用いた測位を、以下、GNSS測位と呼ぶ。スマートフォンでは、GNSS測位によって得られた位置情報を用いるアプリケーションも増えてきている。また、GNSS測位によって得られた位置情報は、車両の自動運転、ドローンの制御などにも用いられる。さらに、IoT(Internet of Things)社会の実現の機運が高まっており、IoT機器においてもGNSS測位によって得られた位置情報の利用が進むことが期待されている。
【0003】
GNSS測位の利用の拡大に伴い、GNSS測位の高精度化の検討も進んでいる。高精度化なGNSS測位の一例として、衛星からの搬送波の位相を用いて測位演算を行うRTK(Real Time Kinematic)測位が知られている。RTK測位は、測量機器、車両の自動運転等で用いられている。RTK測位では、基準点と測定点の両方で衛星から送信される測位信号を受信する受信機を設ける必要があり、基準点の位置は高精度に計測されている必要がある。このため、基準点の設置、運用などにコストや工数を要する。
【0004】
基準点を設置する必要のない方式としては、仮想的に計算により人工的な観測データを生成してユーザ端末に送信するVRS(Virtual Reference Station)方式がある(非特許文献1参照)。VRS方式では、まず、ユーザ端末が衛星から送信された測位信号を用いたコード測位により自己の位置を求めて、サービスを提供するセンタへ送信する。そして、センタが国土地理院により設定されている電子基準点の観測データを用いて、ユーザ端末から受信した位置を仮想基準点として仮想基準点に対応する人工的な観測データを生成して、ユーザ端末へ送信する。ユーザ端末は、センタから受信した観測データを基準点の観測データと見做して、RTK測位を実施する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】都筑三千夫 他,「仮想基準点方式によるリアルタイム測位」,国土地理院時報 No.96 p39-p44,国土地理院 2001年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、VRS方式では、ユーザ端末はVRS方式の測位を行うためには、事前にセンタに登録し、認証の確認後にユーザの概略位置をセンタに送信する必要があり、また、センタ側ではユーザからの要求毎にユーザの概略位置に基づく人工的な観測データを送信する。通信は基本的に1:1であるため、利用のための費用も高額となることが多い。したがって、一般のユーザが、意識せずに容易に利用できるサービスではないという問題がある。上述したGNSS測位の利用の拡大に伴い、一般のユーザが登録などの手間をかけずに、容易に高精度な測位を実現できる技術が望まれている。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ユーザの手間をかけずに、容易に高精度な測位をユーザに提供できる測位支援装置、測位支援システム、測位システムおよび測位支援方法ことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、準天頂衛星システム(QZSS:Quasi-Zenith Satellite System)から送信されるセンチメータ級測位補強サービス(CLAS:Centimeter Level Augmentation Service)の測位補強情報に基づいて、予め定めた複数の地点において観測される人工的観測データを生成する観測データ生成部と、前記人工的観測データに基づくデータを前記地点に対応する装置へ送信する通信部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ユーザの手間をかけずに、容易に高精度な測位をユーザに提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明にかかる実施例の測位支援システムを含む全体システムの構成例を示す図である。
【
図4】情報処理装置のハードウェア例を示す図である。
【
図5】基地局および端末の機能構成例を示す図である。
【
図7】実施例の全体システムの動作例を示すチャート図である。
【
図8】情報処理装置により実行される測位支援処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図9】実施例の基地局の通信可能範囲と測位の精度保証範囲の関係の一例を示す模式図である。
【
図10】人工的な観測データとGNSS受信機の観測データとを併用する場合の構成例を示す図である。
【
図11】測位支援システムが直接端末へ人工的観測データを送信する場合の構成例を示す図である。
【
図12】
図11に示した全体システムにおける端末の機能構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施例にかかる測位支援装置、測位支援システム、測位システムおよび測位支援方法を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0012】
図1は、本発明にかかる実施例の測位支援システムを含む全体システム(測位システム)の構成例を示す図である。
図1に示すように、実施例の測定支援システム1は、準天頂衛星(QZSS:Quasi-Zenith Satellite System)2から送信される測位補強信号を受信可能である。また、測定支援システム1は、地上局7から送信される測位補強信号を受信可能である。
図1では、測定支援システム1が、QZSSから送信される測位補強信号と地上局7から送信される測位補強信号との両方を受信可能な例を示しているが、いずれか一方のみを受信可能であってもよい。
【0013】
測位補強信号は、センチメータ級測位補強サービス(CLAS:Centimeter Level Augmentation Service)における測位補強情報を含む信号である。測位補強情報は、測位の誤差を補正するための情報であり、地上局7によって、電子基準点の観測データ等に基づいて算出される。地上局7は、測位補強情報を含む測位補強信号を地上の回線により送信することができる。また、地上局7は、測位補強信号を準天頂衛星2に送信する。準天頂衛星2は、地上局7から受信した測位補強信号を地上に向けてL6信号として送信する。測位補強信号の詳細については後述する。
【0014】
準天頂衛星2は、測位補強信号および測位信号を地上に向けて送信する。測位信号はL1信号、L2信号およびL5信号のうちの少なくとも1つであり、C/Aコード、航法メッセージなどを含む信号である。
図1に示した測位衛星3-1~3-mは、GNSS衛星などであり、測位信号を地上へ送信する衛星である。mは、3以上の任意の整数である。また、
図1では、準天頂衛星2を1機図示しているが、準天頂衛星2は複数であってもよい。
【0015】
測位補強信号を用いることにより、センチメータ級の測位精度を実現することが可能であるが、準天頂衛星2から送信される測位補強信号を利用するには、L6信号を受信するためのアンテナやデコーダが必要になり、測位補強信号を用いた測位を単独で行う装置は大がかりで高価なものとなる。地上局7からの測位補強信号の配信先は限定されており、また、仮に受信したとしても、測位補強信号を用いた測位演算を行うことができる端末は普及していない。一方で、RTK演算を行うことが可能な測量機などは既に普及しており、スマートフォンなどの汎用端末においてもRTK演算を実施するためのアプリケーションソフトウェアは今後普及することが期待されている。
【0016】
本実施例では、詳細は後述するが、測位支援システム1が、例えば、測位補強情報を用いて1つ以上の予め定められた固定の位置(座標)を仮想基準点として仮想基準点における人工的な観測データを生成する。そして、測位支援システム1は、人工的な観測データを通信装置へ送信し、通信装置が人工的な観測データと仮想基準点の座標とともに報知する。これにより、前述した通信装置と通信可能な任意の端末が、測位補強情報を用いて生成された高精度な人工的な観測データと仮想基準点の座標とを受信することができる。したがって、端末が、RTK測位を実施できる機能を有していれば、上述した高精度な人工的な観測データと仮想基準点の座標とを受信することにより、高精度な測位を実現できる。すなわち、端末は、準天頂衛星2から送信される測位補強信号を受信するためのアンテナを用意することなく、また、測位補強信号を用いた演算を行う機能を有することなく、高精度な測位を実現することができる。
【0017】
以下では、具体例としては、上述した通信装置が携帯電話網における基地局5-1~5-nであり、仮想基準点が基地局5-1~5-nの座標である例を説明する。nは1以上の任意の整数である。なお、本発明では、仮想基準点の座標は基地局5-1~5-nの厳密な位置でなくてよく、地図情報などから得られる概略の座標でよい。したがって、基地局5-1~5-nは、RTK測位における基準点のように自身の位置を精密に求めるための機能を有している必要はない。基地局5-1~5-nは、各々に対応する仮想基準点の座標と人工的な観測データとを報知しており、端末6-1,6-2は報知された仮想基準点の座標と人工的な観測データとを受信することができる。以下、基地局5-1~5-nを個別に区別せずに示すときには、基地局5と記載し、端末6-1,6-2を個別に区別せずに示すときには端末6と記載する。同様に、測位衛星3-1~3-mを個別に区別せずに示すときは測位衛星3と記載する。なお、
図1では、端末6を2台図示しているが、端末6の数は
図1に示した例に限定されない。
【0018】
基地局5と端末6とは、携帯電話網にて規定された通信方式で無線通信を行う。基地局5と端末6との間の通信は一般的な方法を用いることができ、特に制約はないため、説明を省略する。端末6は、例えば、スマートフォン、フィーチャーフォン、タブレット、パーソナルコンピュータである。端末6は、IoT機器、車両に搭載される自動運転のための装置などであってもよい。
【0019】
次に、測位補強信号について説明する。
図2は、測位補強信号を説明するための図である。日本全土には、電子基準点が多数設けられている。電子基準点は、測位衛星3-1~3-m,準天頂衛星2から測位信号を受信することにより観測データを生成する。電子基準点の座標は精密に決定されている。配信装置8は、各電子基準点から観測データを収集し、電子基準点の座標と観測データとを対応付けて配信する。すなわち、配信装置8から配信される観測データは、位置(座標)に依存する観測データである。
【0020】
地上局7は、配信装置8から、各電子基準点の座標と観測データとを受信し、これらのデータを用いて、測位演算における誤差を補正するための、位置に依存しないすなわち位置依存性の無いデータである測位補強情報を生成する。測位補強情報は、例えば、測位衛星から送信された測位信号を複数の観測点である電子基準点で観測することで得られる複数の観測データに基づいて生成された情報である。ここで、測位補強情報について説明する。測位補強方式には、大きく分けて、固定された位置の観測データそのものを用いたOSR(Observation Space Representation)方式と位置依存性の無い(位置が固定されていない)SSR(State Space Representation:状態空間表現)方式とに分類できる。OSR方式は、位置依存性のあるデータを用いる方式であり、SSR方式は位置依存性のないデータを用いる方式である。
【0021】
位置に依存するデータについて説明する。ユーザの受信機すなわち端末6を識別する変数をuとし、測位信号を送信する測位衛星3-1~3-mおよび準天頂衛星2の各衛星を識別する変数をpとする。このとき、衛星pとユーザの受信機uとの間の測位信号である信号sによる搬送波位相は、以下の式(1)で表すことができる。
【0022】
【0023】
また、衛星pとユーザの受信機uとの間の信号sによる疑似距離は以下の式(2)で表すことができる。
【0024】
【0025】
バイアス誤差Bs,u
pは以下の式(3)で表すことができる。
【0026】
【0027】
式(1)、式(2)に示した搬送波位相および疑似距離、すなわち観測データは、ユーザの受信機uの位置に依存するデータである。したがって、観測データは位置が決まらないと決まらないデータである。これに対して、位置依存性の無い測位補強情報は例えば状態空間表現(SSR)により表現されるデータである。位置依存性の無い測位補強情報の別の例としては、FKP(FlaechenKorrekturParameter:面補正パラメータ)方式が挙げられる。FKP方式は、OSR方式とSSR方式を複合した補正データを用いる方式である。以下では、SSR方式を例に挙げて説明するが、本発明はFKP方式のデータ、および他の類する位置依存性の無いデータを用いる場合にも適用可能である。
【0028】
SSR方式の測位補強情報の算出方法について説明する。まず、測位衛星から送信された測位信号を複数の観測点で観測することで得られる複数の観測データに基づいて、具体的には複数の電子基準点の観測データに基づいて、状態空間モデルによるカルマンフィルタによる測位処理で、状態空間ベクトルを求める。そして、状態空間ベクトルのうち、共通の誤差を、要因毎に、衛星時計誤差δts
p、衛星軌道誤差δop(ベクトル)、衛星信号バイアス(衛星回路内信号遅延)δds
p、対流圏伝搬誤差Tgrid
p、電離層伝搬誤差に分離する。これらの各誤差は、それぞれ性質が異なる。衛星時計誤差δts
pは、発振器の内部雑音が原因であるため、予想不可能で、また、変化が速い。一方、衛星軌道誤差δop(ベクトル)は、主に重力ポテンシャル、大気、太陽圧の全体的な変化によって決定されるため、変化は速くない。電離層伝搬誤差は最も複雑な部分であり、一般には、誤差要因をさらに細分化して表現することにより帯域幅を減らして表現する。具体的には、関数によって表現するグローバルな部分Is,polinominal
pと、衛星/場所に依存する確率的な部分Is,grid
pとに分離する。グローバル部分Is,polinominal
pは、電離層の一般的な、そして滑らかな性質を表現する。電離層伝搬誤差のうち、グローバル部分Is,polinominal
pにより表現した後に残るランダムな誤差は、衛星/場所に依存する確率的な部分Is,grid
pとして表現する。このように、物理的な性質に基づき、誤差要因を分離する。測位補強情報は、上記のように分離されたそれぞれの誤差を示す情報を含む。マルチパスに関しては端末6において補正することとし、ここでもモデル化に含めない。アンテナ位相中心についても、別途補正することとし、ここでもモデル化に含めない。
【0029】
電離層伝搬誤差のうち、衛星/場所に依存する確率的な部分Is,grid
pについては、グリッドと呼ばれる約60km間隔の点ごとに、誤差補正値を定めている。対流圏伝搬誤差Tgrid
pについても同様である。また、Is,grid
pおよびTgrid
pについては、日本全域を12の網に分割し、網ごとに各グリッドにおける誤差補正値が決定される。測位補強情報には、全網に関する情報が含まれており、測位補強情報を用いるユーザは測位を行う際には、対応する網およびグリッドの測位補強情報を用いて測位演算を行う。
【0030】
また、上記の各誤差の品質は、精度、アベイラビリティ、インテグリティ、コンティニュイティの指標で管理され、その結果は、SSR URA(User Range Accuracy)、SSR STEC、SSR Tropospheric delayとして、測位補強情報に含まれている。
【0031】
測位補強情報は、バイアス誤差Bs,u
pを、時刻をtとするとき、fssr(t,s,u,p)で表すときの関数の形式および係数を示すものと考えることができる。このため、ここでは、tは時刻を示し、sは信号を示し、pは衛星(衛星の位置)を示し、uはユーザ受信機(ユーザ受信機の位置)を示す。
【0032】
以上のように、状態空間表現で表された、測位の誤差を補正するための情報を含む測位補強情報は、上述した通り、測位補強信号として地上局7を介して準天頂衛星2から送信される。
【0033】
次に、本実施例の測位支援システム1について説明する。測定支援システム1は、
図1に示すように、アンテナ11、デコーダ12および情報処理装置13を備える。アンテナ11は、準天頂衛星2から測位補強信号を受信し、受信した信号をデコーダ12へ出力する。デコーダ12は、アンテナ11から入力された信号を復調し(デコードし)、復調により得られた測位補強情報を情報処理装置13へ出力する。情報処理装置13は、測位補強情報を用いて1つ以上の予め定められた仮想基準点における人工的な観測データを生成し、人工的な観測データを、該人工的な観測データを報知する通信装置へ送信する本発明にかかる測位支援装置である。
【0034】
図3は、情報処理装置13の機能構成例を示す図である。情報処理装置13は、通信部131、観測データ生成部132および位置データ記憶部133を備える。位置データ記憶部133には、仮想基準点である基地局5-1~5-nの位置を示す座標が基地局位置データとして記憶される。上述したとおり、基地局5-1~5-nの座標は厳密なものではなくてもよく、地図情報などから得られるものでよい。したがって、例えば、測位支援システム1の運用者は、基地局5-1~5-nの設置運用者から基地局5-1~5-nの座標を取得して、情報処理装置13へ入力しておいてもよいし、情報処理装置13が基地局5-1~5-nの設置運用者が有するサーバなどから通信回線を介して取得してもよい。また、新たな基地局5が追加された場合には、該基地局5の座標を基地局位置データに追加してもよい。
【0035】
通信部131は、デコーダ12、地上局7、ネットワーク4を介した基地局5-1~5-nなどとの間で通信を行う。なお、情報処理装置13と基地局5-1~5-nとの通信は一般には図示しない基地局制御装置を経由して行われるが、ここでは基地局制御装置などの装置もネットワーク4に含むとして説明する。また、地上局7と情報処理装置13との間の通信は専用線を用いて行われてもよく公衆ネットワークを介して行われてもよい。観測データ生成部132は、予め定めた1つ以上の固定の地点において観測される人工的観測データを生成する。予め定めた1つ以上の固定の地点の一例は、基地局5の位置であるが、後述するように、予め定めた1つ以上の固定の地点は、基地局5の位置以外の地点である場合もある。観測データ生成部132は、詳細は後述するが、位置データ記憶部133に記憶されている基地局位置データと測位補強情報と航法メッセージに含まれるエフェメリスとを用いて、基地局5-1~5-nに対応する人工的な観測データを生成する。エフェメリスの取得方法には特に制約はなく、情報処理装置13は、任意の場所に設定された受信機で受信された測位信号に含まれる航法メッセージを該受信機から取得するようにしてもよいし、IGS(International GNSS Service)等の機関からネットワークを介して航法メッセージを取得してもよい。観測データ生成部132は、観測データ生成部132により生成された人工的な観測データは、仮想基準点である基地局5-1~5-nの座標と対応付けられて、通信部131により、ネットワーク4を介して基地局5-1~5-nへ送信される。
【0036】
例えば、仮想基準点の座標と対応する人工的な観測データとで構成される1組のデータである個別データがn組格納されたデータが、通信部131から送信される。なお、基地局5-1~5-nの全てにn組の個別データが送信され、基地局5-1~5-nがn組の個別データのなかから自身に対応する個別データを選択して報知するようにしてもよい。または、通信部131が、基地局5-1~5-nのそれぞれの宛先を指定し、対応する個別データ1組を基地局5-1~5-nへ送信するようにしてもよい。または、図示しない基地局制御装置が、n組の個別データのうち対応する個別データをそれぞれ基地局5-1~5-nへ送信するようにしてもよい。なお、基地局5の間隔を、人工的な観測データの有効範囲より狭く設定することにより、端末6は自動的に最寄の基地局5からの有効な人工的な観測データを受信することが可能となる。また、人工的な観測データの有効範囲内に複数の基地局5がある場合、情報処理装置13は基地局5ごとに仮想基準点を設定するのではなく、これら複数の基地局5を代表する仮想基準点を定めて、複数の基地局5に、同一の人工的な観測データと仮想基準点の座標を送信するようにしてもよい。
【0037】
次に、情報処理装置13のハードウェア構成について説明する。
図4は、情報処理装置13のハードウェア例を示す図である。情報処理装置13は、
図4に示すようなコンピュータシステム(計算機システム)により実現される。
図4に示すように、このコンピュータシステムは、制御部101と入力部102と記憶部103と表示部104と通信部105と出力部106とを備え、これらはシステムバス107を介して接続されている。
【0038】
図4において、制御部101は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサであり、本実施例の測位支援プログラムを実行する。入力部102は、例えば、キーボードおよびマウスなどで構成され、計算機システムのユーザが、各種情報の入力を行うために使用する。記憶部103は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)などの各種メモリおよびハードディスクなどのストレージデバイスを含み、上記制御部101が実行すべきプログラム、処理の過程で得られた必要なデータ、などを記憶する。また、記憶部103は、プログラムの一時的な記憶領域としても使用される。表示部104は、ディスプレイ、LCD(液晶表示パネル)などで構成され、計算機システムのユーザに対して各種画面を表示する。通信部105は、通信処理を実施する送信機および受信機である。出力部106は、プリンタなどである。なお、
図4は、一例であり、コンピュータシステムの構成は
図4の例に限定されない。例えば、コンピュータシステムは、出力部106を備えていなくてもよい。
【0039】
ここで、本実施例の測位支援プログラムが実行可能な状態になるまでのコンピュータシステムの動作例について説明する。上述した構成をとるコンピュータシステムには、たとえば、図示しないCD(Compact Disc)-ROMまたはDVD(Digital Versatile Disc)-ROMドライブにセットされたCD-ROMまたはDVD-ROMから、測位支援プログラムが記憶部103にインストールされる。そして、測位支援プログラムの実行時に、記憶部103から読み出された測位支援プログラムが記憶部103の所定の場所に格納される。この状態で、制御部101は、記憶部103に格納されたプログラムに従って、本実施例の測位支援処理を実行する。
【0040】
なお、本実施例においては、CD-ROMまたはDVD-ROMを記録媒体として、測位支援処理を記述したプログラムを提供しているが、これに限らず、コンピュータシステムの構成、提供するプログラムの容量などに応じて、たとえば、通信部105を経由してインターネットなどの伝送媒体により提供されたプログラムを用いることとしてもよい。
【0041】
図3に示した通信部131は、
図4の通信部105である。
図3に示した観測データ生成部132は、
図4の制御部101および記憶部103により実現され、
図3に示した位置データ記憶部133は、
図4の記憶部103により実現される。
【0042】
次に、基地局5および端末6の構成例について説明する。
図5は、基地局5および端末6の機能構成例を示す図である。基地局5は、無線通信部51、報知信号生成部52および通信部53を備える。無線通信部51は、端末6との間で無線通信を行う。通信部53は、ネットワーク4を介して通信を行う。報知信号生成部52は、通信部53がネットワーク4を介して情報処理装置13から受信した人工的に生成された観測データ(または座標と対応付けられた人工的に生成された観測データ)を用いて、測位支援データを生成し、測位支援データを、無線通信部51を介して報知する。測位支援データは、基地局5の座標と人工的な観測データとを含む。なお、基地局5は、
図5に示した構成部以外に、一般には端末6へ無線リソースを割当てるための機能、端末6との間の呼制御を実現する機能などを実現するための通信制御部を備えるが、ここでは、これらの基地局としての一般的な機能については説明を省略し、本発明にかかる部分を説明する。
【0043】
また、端末6は、
図5に示すように、無線通信部61、測位信号受信部62、RTK演算部63および表示部64を備える。無線通信部61は、基地局5との間で無線通信を行う。測位信号受信部62は、測位衛星3-1~3-mおよび準天頂衛星2から送信される測位信号を受信する。RTK演算部63は、無線通信部61によって受信された測位支援データと測位信号受信部62により受信された測位信号とを用いてRTK演算を行うことにより、端末6の位置を算出する。詳細には、RTK演算部63は、測位支援データである基地局5の座標と観測データをRTK演算における基準点の座標と観測データとして用いて、RTK演算を実施する。表示部64は、RTK演算部63により算出された位置を表示する。または、端末6が、RTK演算部63によって算出された端末6の位置を用いた処理を行う演算部を備え、この演算部が端末6の位置を用いて演算を行ってもよい。RTK演算部63は、例えば、アプリケーションソフトウェアが端末6にインストールされることによって実現される。
【0044】
図6は、端末6の別の構成例を示す図である。
図5に示した例では、端末6自身が、RTK演算を行う機能を有していたが、
図6に示した例では、端末6は、RTK演算を行う機能を有しておらず、測位支援データを、RTK演算機能を有するRTK機器9へ配信する機能を有する。
図5と同様の機能を有する構成要素は
図5と同一の符号を付して重複する説明を省略する。
図6に示した例では、端末6は、無線通信部61、機器制御部65、機器通信部66を備える。機器制御部65は、RTK機器9を制御する。機器通信部66は、例えば、Wi-Fi(登録商標)などの無線LAN(Local Area Network)や、Bluetooth(登録商標)、赤外線通信などの近距離無線方式によりRTK機器9と無線通信を行う。または、機器通信部66は、RTK機器9と有線通信を行ってもよい。機器制御部65は、無線通信部61によって受信された測位支援データを機器通信部66を介してRTK機器9へ送信する。
【0045】
RTK機器9は、通信部91、RTK演算部92、動作制御部93および測位信号受信部94を備える。通信部91は、端末6との間で、上述した無線LAN、近距離無線方式、有線通信などにより通信を行う。測位信号受信部94は、測位衛星3-1~3-mおよび準天頂衛星2から送信される測位信号を受信する。RTK演算部92は、通信部91によって受信された測位支援データと測位信号受信部94により受信された測位信号とを用いてRTK演算を行うことにより、RTK機器9の位置を算出する。動作制御部93は、RTK演算部92によって算出されたRTK機器9の位置に基づいてRTK機器9の動作を制御する。
図6に示した構成例では、端末6は例えばスマートフォンであり、RTK機器9は、自動運転を行う車両、測量機器などである。なお、RTK機器9は、測量機器である場合には、動作制御部93を備えなくてもよい。このように、端末6は、RTK演算を行う機能を有する機器に対して、仮想基準点の座標と観測データを配信する中継装置としてもよい。これにより、RTK演算機能を有する測量機器などの既存の機器は、基準点の設置および運用のためのコストや構成を要さずに、高精度な測位を実現することができる。
【0046】
ここで、基地局5、端末6およびRTK機器9のハードウェア構成について説明する。基地局5の無線通信部51は、アンテナおよび通信回路により実現される。通信部53は通信回路により実現される。報知信号生成部52は処理回路により実現される。処理回路はFPGAなどの専用回路であってもよいし、
図4の制御部101および記憶部103と同様のプロセッサおよびメモリにより実現されてもよい。端末6の無線通信部61は、アンテナおよび通信回路により実現される。測位信号受信部62は、アンテナおよびデコーダにより実現される。表示部64は、LCD等により実現される。RTK演算部63、機器制御部65、RTK演算部92および動作制御部93は、それぞれ、FPGAなどの専用回路であってもよいし、
図4の制御部101および記憶部103と同様のプロセッサおよびメモリにより実現されてもよい。機器通信部66および通信部91はアンテナおよび通信回路により実現されるが有線回線が用いられる場合にはアンテナは必要ない。
【0047】
次に、本実施例の動作について説明する。
図7は、本実施例の全体システムの動作例を示すチャート図である。
図7に示した例では、端末6-1が基地局5-1の通信可能範囲に存在し、端末6-2が基地局5-2の通信可能範囲に存在しているとする。
図7に示すように、まず、測位支援システム1は、測位補強信号を受信する(ステップS1)。なお、
図7では、簡略化のため、基地局5として基地局5-1,5-2を図示しているが、上述したとおり基地局5の数は任意であり、基地局5の数は
図7に示した数に限定されない。また、ここでは、準天頂衛星2から測位補強信号を受信する例を説明するが、前述したように、測位支援システム1は、地上局7から地上回線により測位補強情報を受信してもよい。
【0048】
次に、測位支援システム1は、基地局5-1,5-2のそれぞれに対応するn個の観測データ(人工的観測データ)を生成する(ステップS2)。測位支援システム1は、基地局5-1の座標および人工的観測データを基地局5-1に送信し、基地局5-2の座標および人工的観測データを基地局5-2に送信する(ステップS3)。ステップS3では上述した通り、測位支援システム1から基地局5-1,5-2へ個別に対応するデータが送信されてもよいし、全基地局5のデータが基地局5へ送信されて、基地局5が対応するデータを選択してもよい。
【0049】
基地局5-1は、基地局5-1の座標および人工的観測データを報知し、基地局5-2は、基地局5-2の座標および人工的観測データを報知する(ステップS4)。端末6-1は、ステップS4で送信された、基地局5-1から基地局5-1の座標および人工的観測データを受信するとともに、測位信号を受信する(ステップS5)。端末6-1は、基地局5-1の座標および人工的観測データと測位信号を用いてRTK演算を実施する(ステップS6)。同様に、端末6-2は、基地局5-2の座標および人工的観測データを受信するとともに、測位信号を受信する(ステップS7)。端末6-2は、基地局5-2の座標および人工的観測データと測位信号を用いてRTK演算を実施する(ステップS8)。
【0050】
以上の
図7に示した例では、予め定めた1つ以上の固定の地点が基地局5の位置である例を説明したが、予め定めた1つ以上の固定の地点が基地局5の位置に限定されない。
【0051】
なお、
図7に示した例では、端末6が
図5に示した構成例のように、RTK演算を実施している。
図6に示した構成例の場合には、
図7のステップS5~S8の替わりに、各端末6が基地局5の座標と人工的観測データとをRTK機器9へ転送し、RTK機器9がRTK演算を実施する。
【0052】
次に、本実施例の情報処理装置13により実行される測位支援処理の詳細について説明する。
図8は、情報処理装置13により実行される測位支援処理手順の一例を示すフローチャートである。
図8に示すように、まず、観測データ生成部132は、通信部131から測位補強情報を取得する(ステップS11)。なお、通信部131は、上述したように、デコーダ12または地上局7から測位補強情報を受信することにより、測位補強情報を取得する。
【0053】
観測データ生成部132は、処理対象の基地局5の番号を示す変数であるiを、i=1として初期化する(ステップS12)。観測データ生成部132は、位置データ記憶部133に記憶されている基地局位置データからi番目の基地局5の座標を読み出すことにより、i番目の基地局5の座標を取得する(ステップS13)。観測データ生成部132は、測位補強情報を用いて、i番目の基地局5の座標の人工的観測データを生成する(ステップS14)。
【0054】
ここで、ステップS14の人工的観測データの生成方法の一例を説明する。人工的観測データは、RTK演算において、基準点の実際の観測データの代わりに用いられる仮想的な基準点の観測データである。仮想的な基準点とは、実際に観測、つまり測定信号の受信を行っていない仮想的な観測点を意味する。
【0055】
仮想的な基準点であるi番目の基地局5の座標bにおける観測方程式は、以下の式(4)で表すことができる。
【0056】
【0057】
測位補強情報は、上述したとおり、状態空間モデルにより例えばfssr(t,s,b,p)により表現されている。ここで、tは算出時点の時刻とし、sを信号とし、pとして使用可能な全測位衛星を考慮するとき、受信機ユーザの位置uとして、i番目の基地局5の座標bを用いることとすると、i番目の基地局5の座標bのバイアス誤差の推定値は、以下の式(5)で表すことができる。
【0058】
【0059】
εs,b
pを与えて、式(5)を式(4)に代入することにより、観測データ生成部132は、衛星ごとに、i番目の基地局5の座標bの人工的観測データρ´s,b
pを算出することができる。搬送波位相についても同様である。
【0060】
また、観測データ生成部132は、i番目の基地局5の人工的観測データに対して地殻変動補正演算を実施し、i番目の基地局5の人工的観測データを元期座標に変換する。これは、一般には、GNSS測位ではWGS84等の世界測地系の現在の座標が求められるが、地図においては元期座標で表現されているからである。地球の表面は十数枚のプレートでおおわれており、プレートは地球内部で対流しているマントルの上に乗って、1年あたり数cmの速度で動いている。そのため地図はある年を元期として、元期における地上の位置をもとに作成されている。GNSS測位で求めた現在座標を地図の元期座標上に正確にプロットする場合は現在座標から元期座標に変換する地殻変動補正が必要となる。しかしながら、特殊な場合で地図が現在座標で表現されている場合やアプリケーションで現在座標が求められるような場合は、地殻変動補正は必要ない。また、端末が既に地殻変動補正を施す処理を実施している場合はセンタにおいて地殻変動補正は必要ない。情報処理装置13は、地殻変動補正演算を行った座標と行わない座標の両方をi番目の基地局5の座標として基地局5-1~5-nへ送信してもよい。観測データ生成部132は、i番目の基地局5の座標と人工的な観測データとを保持しておく。
【0061】
図8の説明に戻り、観測データ生成部132は、i=nであるかを判断し(ステップS15)、i=nでない場合(ステップS15 No)、i=i+1とし(ステップS16)、ステップS13からの処理を繰り返す。i=nである場合(ステップS15 Yes)、観測データ生成部132は、保持している基地局5-1~5-nの座標とそれぞれに対応する人工的な観測データとを通信部131を介して基地局5-1~5-nへ送信する(ステップS17)。情報処理装置13は、
図8に示した処理を例えば、測位補強情報を取得するたびに実施する。
【0062】
図8に示した処理手順は一例であり、同等の結果が得られればよく具体的な処理手順は
図8に示した例に限定されない。
【0063】
また、情報処理装置13が、図示しない測位信号を受信する基地局5に設置されたまたは基地局5の近傍の受信機から測位信号を取得し、観測データ生成部132または図示しない機能部が、測位信号に含まれる航法メッセージを上述した観測データに付加して、通信部131が基地局5-1~5-nへ送信するようにしてもよい。または、情報処理装置13を介さずに、基地局5が、上記受信機から取得した航法メッセージを端末6へ送信するようにしてもよい。なお、情報処理装置13は、上述したように、IGS等の機関からネットワークを介して航法メッセージを取得してもよい。
【0064】
基地局5から、基地局5の座標と人工的な観測データを受信した端末6は、基地局5の座標と人工的な観測データと端末6が受信した測位信号により得られる観測データとに基づいて測位演算を行うことができる。端末6の観測方程式は以下の式(6)で示すことができる。
【0065】
【0066】
端末6が、基地局5から受信した人工的な観測データと端末6が観測した観測データとの差は以下の式(7)で表すことができる。
【0067】
【0068】
ここで、近接する2点の電離層伝搬誤差、対流圏伝搬誤差はほぼ等しくなる。また、衛星軌道誤差、衛星時計誤差、衛星信号バイアスは位置によらず、衛星毎に決まる誤差である。したがって、式(7)は以下の式(8)で表すことができる。εs,u
bはランダム誤差であるため、平均化により除去することができる。測位衛星の位置は測位信号に基づいて既知となり基地局5の座標は基地局5から得られるため、残りの未知数は、端末6の座標値と受信機すなわち端末6の時計の誤差cs,uの合計4つとなる。したがって、端末6が測位衛星3-1~3-m,準天頂衛星2のうちの4機以上から受信した測位信号に基づく観測データの連立観測方程式から、算出することができる。
【0069】
【0070】
以上の処理により、端末6は、基地局5から受信した人工的な観測データに基づいて、端末6の位置を求めることができる。
【0071】
なお、仮想的な基準点の観測データを生成する方法としてはVRS方式が知られている。VRS方式では、まず、端末が測位信号を用いて単独測位を行っておおよその自己位置を算出し、自己位置を、サービス提供機関へ送信する。サービス提供機関は、電子基準点の観測データを用いて、端末から受信した位置を仮想的な基準点として仮想的な基準点の観測データを生成して、端末へ送信する。これにより、端末は、仮想的な基準点の座標および観測データと、受信した測位信号を用いてRTK演算を行うことにより高精度な測位を実現できる。しかしながら、この場合、端末はサービス提供機関に登録し、認証の確認後にユーザの概略位置をセンタに送信する必要がある。また、センタ側ではユーザからの要求毎にユーザの概略位置に基づく人工的な観測データを送信する必要がある。通信は基本的に1:1であるため、利用のための費用も高額となることが多い。また、測位補強情報自体を端末へ配信するサービスもあるが、この場合、端末は測位補強情報を用いた処理を行う機能を有する必要がある。
【0072】
本実施例では、個別の端末6の位置ではなく、定められた位置に設置される基地局5-1~5-nの座標を仮想的な基準点とすることで、一度の計算で多くの端末6へ、高精度な測位に必要な情報を伝達することができる。また、本実施例の端末6は、RTK演算を行う機能を有していればよく、測位補強情報を用いた処理を行う機能を有する必要がない。
【0073】
図9は、本実施例の基地局5-1,5-2の通信可能範囲と測位の精度保証範囲の関係の一例を示す模式図である。
図9に示した通信可能範囲100-1,100-2は、それぞれ基地局5-1,5-2に対応する通信可能範囲である。精度保証範囲101-1は、基地局5-1から報知される基地局5-1の座標と観測データとを用いて一定以上の測位の精度を補償する範囲を示す。精度保証範囲101-2は、基地局5-2から報知される基地局5-2の座標と観測データとを用いて一定以上の測位の精度を保証する範囲を示す。基地局5-1,5-2の通信の形態や種別と保証する精度にもよるが、測位の精度が保証される範囲は一般には基準点から10km程度までであり、通信可能範囲は基地局から5km程度である。このように、一般に精度保証範囲は通信可能範囲より広い。このため、例えば、端末6は、基地局5-1と通信可能であれば、基地局5-1から報知された基地局5-1の座標と観測データと用いて測位を行えば、自動的に測位の精度が保証されることになる。
【0074】
図9の例では、端末6-1,6-2が、基地局5-1の通信可能範囲100-1内に存在し、基地局5-1の座標と観測データとを受信可能である。端末6-1,6-2の存在する位置は、精度保証範囲101-1内でもある。したがって、端末6-1,6-2は、基地局5-1から送信された情報を用いて測位を行うことで、自動的に測位の精度が保証されることになる。同様に、端末6-3は、基地局5-2の通信可能範囲100-2内に存在し、基地局5-2の座標と観測データとを受信可能である。端末6-3の存在する位置は、精度保証範囲101-2内でもあるため、端末6-3の測位の精度が保証される。一方、端末6-4は、基地局5-1と基地局5-2のいずれとも通信ができない。また、端末6-4は、精度保証範囲101-1,101-2のいずれの範囲内でもない。このような場合には、端末6-4は、基地局5-1,5-2から受信する情報に基づいた測位では精度が保証されないが、基地局5-1,5-2と通信することもできないので、測位の精度に問題は生じない。図示はしていないが、端末6-4の近くに、端末6-4と通信可能な別の基地局5があれば、この基地局5から受信した情報に基づいて端末6-4は高精度な測位を実現することができる。一般に移動する端末6に対しても継続して通信が可能なように、多数の基地局5が配置される。また、端末6が通信可能な基地局5は、一般には該端末6に最も近い基地局5である。一方、RTK演算における測位の精度は、基準点との距離が長くなるほど劣化する。本実施例は、このような基地局5の特性と測位の特性を有効に利用して、高精度な測位を容易に端末6に提供することができる。基地局5の間隔は、人工的な観測データの有効範囲より通常は狭く設定されているため、ユーザ端末は自動的に最寄の基地局5からの有効な人工的な観測データを受信することが可能となる。なお、
図9に示した例とは逆に、基地局5の間隔が人工的な観測データの有効範囲より大きい場合には、1つの基地局5と隣り合う基地局5の間にそれぞれ1つ以上の仮想基準点(基地局間仮想基準点とよぶ)を設けても良い。この場合、情報処理装置13は、これらの基地局間仮想基準点に対応する人工的な観測データを生成して、前述の1つの基地局5が基地局間仮想基準点の座標と対応する人工的な観測データとを配信すればよい。端末6は、基地局5から配信される仮想基準点および1つ以上の基地局間仮想基準点のなかから最寄の人工的な観測データを選択する。このように、人工的な観測データの生成の対象となる予め定めた1つ以上の固定の地点は、複数の基地局5間の任意の仮想基準点であってもよい。
【0075】
図9の例では、人工的な観測データの有効範囲と基地局5の有効範囲が1:1の場合を示したが、人工的な観測データの有効範囲内に複数の基地局5の有効エリアが含まれる場合は、情報処理装置13は、上述したように、代表する仮想基準点を定めてこの仮想基準点に対応する人工的な観測データを生成し、複数の基地局5に同一の人工的な観測データと仮想基準点の座標を送信してもよい。これにより、人工的な観測データの生成負荷が軽減される。すなわち、人工的な観測データの生成の対象となる予め定めた1つ以上の固定の地点は、複数の基地局5を代表する仮想基準点であってもよい。
【0076】
図10は、人工的な観測データとGNSS受信機の観測データとを併用する場合の構成例を示す図である。
図10に示した例では、全体システムは、
図1の測位支援システム1の替わりに測位支援システム1aを備え、基地局5-1に、アンテナ201およびGNSS受信機202が接続されているが、これら以外は
図1に示した構成例と同様である。
図10に示した例では、受信機であるGNSS受信機202がアンテナ201を介して受信した観測データである実観測データは、基地局5-1によって情報処理装置13aへ送られる。
【0077】
情報処理装置13aは、
図3に示した情報処理装置13に、観測データ記憶部134、測位計算部135および平滑化部1136が追加されている。通信部131は、基地局5-1から受信した実観測データを観測データ記憶部134に格納する。なお、実観測データには観測日時を示す情報が付加されている。観測データ生成部132は、上述したように各仮想基準点に対応する人工的な観測データを生成し、対応する時刻ともに観測データ記憶部134に人工的観測データとして格納する。このようにして、観測データ記憶部134には、実観測データと人工的観測データが蓄積される。なお、観測データ記憶部134は、
図4に示した記憶部103により実現され、測位計算部135および平滑化部136は制御部101および記憶部103により実現される。
【0078】
測位計算部135は、観測データ記憶部134に記憶されている実観測データと人工的観測データを用いてGNSS受信機202の位置(アンテナ201の位相中心)を算出する。詳細には、測位計算部135は、実観測データと該実観測データに対応する同時刻の人工的観測データとを用いて測位計算を行う。平滑化部136は、上記測位計算部135による測位結果すなわち計算された位置を所定の期間分用いて平均化処理し、平均化処理により得られる座標値を通信部131へ出力する。例えば、平滑化部136は、上記測位計算部135により計算された位置の、1時間から1日程度分のデータの平均化処理を行うことにより平滑化する。この平滑化により、ランダムノイズ、バイアス成分が除去され精度が高まる。平滑化部136により算出された高精度な位置である正確な座標値と最新の実観測データは、通信部131を介して基地局5-1へ送信される。これにより、測量等のコストをかけずにGNSS受信機202の正確な座標を求めることができるとともに、GNSS受信機202の位置の座標系を測位補強情報が生成された観測データを得た複数の観測点の座標系に合致することが容易に可能になる。なお、
図10では、基地局5-1にアンテナ201およびGNSS受信機202が接続される例を示したが、基地局5-1~基地局5-nの全てにアンテナ201およびGNSS受信機202が接続されて同様に高精度な位置と実観測データの配信が行われてもよいし、基地局5-1~基地局5-nのうちの一部にアンテナ201およびGNSS受信機202が接続されて同様に高精度な位置と実観測データの配信が行われてもよい。また、実観測データの情報処理装置13aへの送信は基地局5経由ではなく別の経路で行われてもよい。また、観測データ記憶部134は、情報処理装置13aとは別の装置に設けられてもよいし、測位計算部135および平滑化部136が情報処理装置13aとは別の装置に設けられてもよい。
【0079】
また、以上述べた例では、情報処理装置13は、人工的観測データを生成して、人工的観測データから仮想的な基準点と衛星と間の幾何距離を引いたデータを基地局5-1~5-nへ送信するようにしてもよい。すなわち、人工的観測データに対して何等かの加工を加えたデータを情報処理装置13が基地局5-1~5-nへ送信するようにしてもよい。人工的観測データ自体、および人工的観測データを用いて生成されるデータを、まとめて人工的観測データに基づくデータと称す。
【0080】
また、以上述べた例では、情報処理装置13は、基地局5-1~5-nの座標と人工的観測データとを対応付けて基地局5-1~5-nへ送信したが、座標については予め基地局5-1~5-nと情報処理装置13との間で既知としておき、情報処理装置13は人工的観測データだけを基地局5-1~5-nへ送信してもよい。
【0081】
また、端末6において、容易にRTK演算が実施できるように、観測データ生成部132が、RTK演算において規格化された標準フォーマット、RTK基準局における標準フォーマットなどに整形して、人工的観測データを通信部131へ出力してもよい。RTK演算において規格化された標準フォーマット、RTK基準局における標準フォーマットなどをまとめてRTKにおける標準フォーマットと呼ぶ。
【0082】
また、端末6が、測位信号を受信するために高性能なアンテナを備えると、本実施例により基地局5から受信する基地局5の座標と人工的観測データとを用いてミリメートル級の高精度な測位を実現可能である。すなわち、本実施例によればミリメートル級からメートル級までの範囲で、端末6が備える機器に依存した測位の精度が実現可能である。ユーザは、実現したい測位の精度に応じて高精度な測位を実現したい場合には高価な機器を選択し、精度はある程度劣っても低コストを優先する場合にはそれに応じた機器を選択することができる。これにより、基地局5から送信された同じ情報を用いても端末6の測位の精度は異なることもある。
【0083】
また、以上の説明では、測位補強情報の全てを用いて人工的観測データを生成することとしたが、測位補強情報の一部を用いて人工的観測データを生成してもよい。その場合、測位の精度がある程度劣る可能性はあるが処理を高速化することができる。
【0084】
なお、以上述べた例では、測位支援システム1が基地局5-1~5-nを仮想基準点として用いたが、これに限らず、複数設置されている無線LAN基地局など、別の無線通信装置を基地局5-1~5-nの替わりに用いてもよい。
【0085】
以上説明した例では、予め定めた1つ以上の地点が基地局5の位置であり、通信部131が、この地点に対応する装置として基地局5へ人工的観測データを送信する例を説明した。本発明は、この例に限らず、予め定めた1つ以上の地点が端末などの装置の位置である場合にも適用可能である。すなわち、予め定めた1つ以上の地点が端末または端末の近傍の位置であり、この端末へ人工的観測データを送信してもよい。
図11は、測位支援システムが直接端末へ人工的観測データを送信する場合の構成例を示す図である。
図11に示した測位支援システム1bは、情報処理装置13の替わりに情報処理装置13bを備える以外は
図1に示した測位支援システム1と同様である。情報処理装置13bは、
図3に示した情報処理装置13の構成から位置データ記憶部133を除いた構成となる。情報処理装置13bでは、端末6aから端末6aの概略の位置、または端末6aがなんらかの手段で取得した端末6aの近傍の位置を通信部131が受信する。情報処理装置13bの観測データ生成部132は、通信部131が受信した位置を仮想的な基準点として上述した基地局5の場合と同様に、人工的な観測データを生成し、生成した人工的な観測データを端末6aに送信する。
【0086】
図12は、
図11に示した全体システムにおける端末6aの機能構成例を示す図である。端末6aは、
図5に示した端末6に測位演算部68が追加され、無線通信部61の替わりに通信部67を備えている。測位演算部68は、測位信号受信部62によって受信された測位信号を用いて単独測位演算を行い、単独測位演算により得られた位置を、通信部67を介して情報処理装置13bへ送信する。以上述べた以外の端末6aの動作は、
図5に示した端末6と同様である。
【0087】
以上のように、本実施例では、典型的には測位支援システム1が、一度に算出する人工的な観測データの数は複数であるが、
図11,12に示した測位支援システム1bのように、一度に算出する人工的な観測データの数が1つであってもよい。
【0088】
以上述べた実施例は一例であり、上述した例に限らず、上述した構成および動作を組み合わせてもよく、上述した実施例と主旨が同様の範囲であれば、上述した構成および動作の一部の変更を行ってもよい。
【符号の説明】
【0089】
1,1a,1b 測位支援システム、2 準天頂衛星、3-1~3-m 測位衛星、4 ネットワーク、5,5-1~5-n 基地局、6,6-1~6-m 端末、7 地上局、8 配信装置、9 RTK機器、11,201 アンテナ、12 デコーダ、13,13a,13b 情報処理装置、51 無線通信部、52 報知信号生成部、53,67,91,131 通信部、61 無線通信部、62,94 測位信号受信部、63,92 RTK演算部、64 表示部、65 機器制御部、66 機器通信部、68 測位演算部、93 動作制御部、100-1,100-2 通信可能範囲、101-1,101-2 精度保証範囲、132 観測データ生成部、133 位置データ記憶部、202 GNSS受信機。