(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-30
(45)【発行日】2023-06-07
(54)【発明の名称】バガスの分解抽出物の製造方法、バガスの分解抽出物の脱色方法、及びバガスの分解抽出物
(51)【国際特許分類】
B01D 61/16 20060101AFI20230531BHJP
B01D 61/02 20060101ALI20230531BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20230531BHJP
B01D 61/14 20060101ALI20230531BHJP
B01D 61/04 20060101ALI20230531BHJP
A23L 5/40 20160101ALI20230531BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20230531BHJP
A61K 36/899 20060101ALI20230531BHJP
A61K 47/46 20060101ALI20230531BHJP
【FI】
B01D61/16
B01D61/02 500
B01D69/02
B01D61/14 500
B01D61/04
A23L5/40
A61P39/06
A61K36/899
A61K47/46
(21)【出願番号】P 2019046013
(22)【出願日】2019-03-13
【審査請求日】2021-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】321006774
【氏名又は名称】DM三井製糖株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】古田 到真
(72)【発明者】
【氏名】永井 幸枝
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/018694(WO,A1)
【文献】特開2005-313148(JP,A)
【文献】特開2011-032240(JP,A)
【文献】国際公開第2010/093014(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/230803(WO,A1)
【文献】古田到真 他,国内製糖工場廃棄物からの有価物製造におけるGHG削減技術実証,精糖技術研究会誌,2017年,Vol.63,pp.7-10
【文献】三井製糖株式会社,タイ国でサトウキビ搾りかすからエタノール原料などを製造する実証プラントが完成,エネルギー消費の効率化等に資する我が国技術の国際実証事業/余剰バガス原料からの省エネ型セルロース糖製造システム実証事業,日本,2018年07月06日,
図2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00-71/82
B01D 53/22
C02F 1/44
A23L 5/40
A61P 39/06
A61K 36/899
A61K 47/46
A61K 135/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ処理、水熱処理、酸処理、亜臨界水処理及び爆砕処理からなる群より選ばれる少なくとも1種の分解処理により分解されたバガスの分解処理液を分離膜に透過する工程を備え、
前記分離膜は、限外濾過膜又はナノ濾過膜であり、
前記分離膜の分画分子量は4000以下であり、
前記分離膜は、親水性材料を含
み、
前記分解処理液は、前記分解処理後の液を更に、固定担体を充填したカラムに通液して、吸着された成分を溶出させた画分である、バガスの分解抽出物の製造方法。
【請求項2】
アルカリ処理、水熱処理、酸処理、亜臨界水処理、微粉砕処理及び爆砕処理からなる群より選ばれる少なくとも1種の分解処理により得られるバガスの分解処理液を分離膜に透過する工程を備え、
前記分離膜は、限外濾過膜又はナノ濾過膜であり、
前記分離膜の分画分子量は4000以下であり、
前記分離膜は、親水性材料を含
み、
前記分解処理液は、前記分解処理後の液を更に、固定担体を充填したカラムに通液して、吸着された成分を溶出させた画分である、バガスの分解抽出物の脱色方法。
【請求項3】
前記バガスの分解抽出物は、乾燥固形分が1質量%である水溶液において測定される、L
*
a
*
b
*
表色系におけるL
*
値が50以上である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記バガスの分解抽出物は、乾燥固形分が1質量%である水溶液において測定される、L
*
a
*
b
*
表色系におけるa
*
値が25以下である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記バガスの分解抽出物は、ポリフェノール濃度が1質量%となる水溶液において測定される、L
*
a
*
b
*
表色系におけるL
*
値が120以上である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記バガスの分解抽出物は、ポリフェノール濃度が1質量%となる水溶液において測定される、L
*
a
*
b
*
表色系におけるa
*
値が20以下である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
アルカリ処理、水熱処理、酸処理、亜臨界水処理、微粉砕処理及び爆砕処理からなる群より選ばれる少なくとも1種の分解処理により分解されたバガスの分解処理液
を分離膜に透過する工程を経て得られるバガスの分解抽出物であって、
前記
分離膜は、限外濾過膜又はナノ濾過
膜であり、
前記分離膜の分画分子量は4000以下であり、
前記分離膜は、親水性材料を含
み、
前記分解処理液は、前記分解処理後の液を更に、固定担体を充填したカラムに通液して、吸着された成分を溶出させた画分である、バガスの分解抽出物。
【請求項8】
乾燥固形分が1質量%である水溶液において測定される、L
*a
*b
*表色系におけるL
*値が50以上である、
請求項7に記載のバガスの分解抽出物。
【請求項9】
乾燥固形分が1質量%である水溶液において測定される、L
*a
*b
*表色系におけるa
*値が25以下である、請求項
8に記載のバガスの分解抽出物。
【請求項10】
ポリフェノール濃度が1質量%となる水溶液において測定される、L
*a
*b
*表色系におけるL
*値が120以上である、
請求項7に記載のバガスの分解抽出物。
【請求項11】
ポリフェノール濃度が1質量%となる水溶液において測定される、L
*a
*b
*表色系におけるa
*値が20以下である、請求項
10に記載のバガスの分解抽出物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バガスの分解抽出物の製造方法、バガスの分解抽出物の脱色方法、及びバガスの分解抽出物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷軽減の観点から天然物由来のバイオマスの活用が検討されており、様々な分野において研究が進められている。例えば、特許文献1には、バガスのアルカリ熱水抽出物を有効成分とする、食品変色用防止剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されているように、バイオマスから得られる成分を食品等に添加する方法が検討されているが、バイオマス原料の抽出物は、素材由来の色を有している場合がある。例えば、バガス由来の抽出物は、バガス中の成分由来の色である褐色である場合が多い。そのため、バガスの抽出物を食品等の対象物に添加した際には、抽出物の色によって対象物の外観を損なうことがある。
【0005】
本発明の一側面は、着色の少ないバガスの分解抽出物の製造方法を提供すること、及び着色の少ないバガスの分解抽出物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の側面は、アルカリ処理、水熱処理、酸処理、亜臨界水処理、及び爆砕処理からなる群より選ばれる少なくとも1種の分解処理により分解されたバガスの分解処理液を分離膜に透過する工程を備え、分離膜は、限外濾過膜又はナノ濾過膜であり、分離膜の分画分子量は4000以下であり、分離膜は、親水性材料を含む、バガスの分解抽出物の製造方法である。
【0007】
本発明の第2の側面は、アルカリ処理、水熱処理、酸処理、亜臨界水処理、及び爆砕処理からなる群より選ばれる少なくとも1種の分解処理により得られるバガスの分解処理液を分離膜に透過する工程を備え、分離膜は、限外濾過膜又はナノ濾過膜であり、分離膜の分画分子量は4000以下であり、分離膜は、親水性材料を含む、バガスの分解抽出物の脱色方法である。
【0008】
本発明の第3の側面は、アルカリ処理、水熱処理、酸処理、亜臨界水処理、及び爆砕処理からなる群より選ばれる少なくとも1種の分解処理により分解されたバガスの分解処理液の膜透過液であって、膜透過液は、限外濾過膜又はナノ濾過膜である分離膜の透過液であり、分離膜の分画分子量は4000以下であり、分離膜は、親水性材料を含む、バガスの分解抽出物である。
【0009】
第1~第3の側面において、分解処理液は、分解処理後の液を更に、固定担体を充填したカラムに通液して、吸着された成分を溶出させた画分であってもよい。
【0010】
本発明の第3の側面は、乾燥固形分が1質量%である水溶液において、L*a*b*表色系におけるL*値が50以上である、バガスの分解抽出物である。この場合、L*a*b*表色系におけるa*値が25以下であってもよい。
【0011】
本発明の第4の側面は、ポリフェノール濃度が1質量%となる水溶液において測定される、L*a*b*表色系におけるL*値が120以上である、バガスの分解抽出物である。この場合、L*a*b*表色系におけるa*値が20以下であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、着色の少ないバガスの分解抽出物の製造方法、及び着色の少ないバガスの分解抽出物を提供することができる。また、得られたバガスの分解抽出物は、ポリフェノール類の含有量が多く、優れた抗酸化活性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1~4の、示差屈折検出器を用いた分子量分布を示すグラフである。
【
図2】実施例5~7及び比較例1の、示差屈折検出器を用いた分子量分布を示すグラフである。
【
図3】実施例1~4の、UV検出器を用いた分子量分布を示すグラフである。
【
図4】実施例5~7及び比較例1の、UV検出器を用いた分子量分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本明細書における「バガスの分解抽出物」は、少なくとも後述する分解処理を経て得られる抽出物である。すなわち、「バガスの分解抽出物」には、後述する分解処理のみを経て得られる抽出物の他、分解処理に加えて任意の他の処理がなされた抽出物も含まれる。バガスの分解抽出物は、これらの処理により得られた抽出物を濃縮した液、又は乾燥した粉末であってもよい。
【0016】
本明細書における「バガスの分解」とは、バガスに含まれるリグニン、セルロース及び/又はヘミセルロースの化学構造の一部又は全部が分解された状態を意味する。すなわち、本明細書におけるバガスの分解抽出物とは、バガスに含まれるリグニン、セルロース及び/又はヘミセルロースの化学構造の一部又は全部が分解された成分が含まれる、バガスの抽出物を意味する。
【0017】
本明細書における「バガスの分解抽出物」には、バガスに含まれるリグニン、セルロース及び/又はヘミセルロースの化学構造の一部又は全部が分解された結果得られるポリフェノール類が多く含まれることが望ましい。そのため、バガスの分解処理は、後述するとおりバガスからポリフェノール類を抽出することができる処理方法ということができる。本明細書におけるポリフェノール類は、フォーリン-チオカルト法で測定できるフェノール性化合物であり、その含有量はカテキン換算の値として算出できる。
【0018】
一実施形態に係るバガスの分解抽出物の製造方法は、まず、アルカリ処理、水熱処理、酸処理、亜臨界水処理、及び爆砕処理からなる群より選ばれる少なくとも1種の分解処理により分解されたバガスの分解処理液を分離膜に透過する工程を備える。
【0019】
本実施形態の製造方法では、バガスを分解処理により分解して、分解処理液を得る。分解処理は、アルカリ処理、水熱処理、酸処理、亜臨界水処理及び爆砕処理からなる群より選ばれる少なくとも1種の処理である。分解処理液は、脱色前のバガスの分解抽出物ということもできる。
【0020】
「バガス」とは、典型的には原料糖製造工程における製糖過程で排出されるバガスをいう。原料糖工場における製糖過程で排出されるバガスには、最終圧搾機を出た最終バガスだけではなく、第1圧搾機を含む以降の圧搾機に食い込まれた細裂甘蔗をも含む。好適なバガスは、原料糖工場において圧搾工程により糖汁を圧搾した後に排出されるバガスである。当該バガスは、甘蔗の種類、収穫時期等により、その含まれる水分、糖分及びそれらの組成比が異なるが、本発明においては、これらのバガスを任意に用いることができる。さらに、本実施形態では、原料のバガスとして、原料糖工場と同様に、例えば黒糖製造工場において排出される甘蔗圧搾後に残るバガス、又は実験室レベルの小規模な実施により甘蔗から糖液を圧搾した後のバガスも用いることができる。
【0021】
アルカリ処理は、バガスにアルカリ性溶液を接触させる処理であってよい。アルカリ性溶液を接触させる方法としては、例えば、アルカリ性溶液をバガスに振りかける方法、バガスをアルカリ性溶液に浸漬させる方法等が挙げられる。バガスをアルカリ性溶液に浸漬させる方法においては、バガス及びアルカリ性溶液の混合物を撹拌しながら浸漬させてもよい。
【0022】
アルカリ性溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液等が挙げられる。アルカリ性溶液は、これらの溶液を1種単独で又は2種以上を混合して用いられてよい。アルカリ性溶液は、安価であり、食品製造工程で容易に用いられる観点から、好ましくは水酸化ナトリウム水溶液である。
【0023】
アルカリ性溶液の温度(液温)は、分解処理の処理時間を短縮する観点から、好ましくは40℃以上であり、より好ましくは100℃以上であり、更に好ましくは130℃以上である。アルカリ性溶液の温度は、分解処理液に多糖類を残存させないようにする観点から、好ましくは250℃以下であり、より好ましくは200℃以下であり、更に好ましくは150℃以下である。
【0024】
アルカリ処理は、常圧下で行われてよく、加圧して行われてもよい。加圧する場合、圧力は、0.1MPa以上、0.2MPa以上であってよく、4.0MPa以下、1.6MPa以下、又は0.5MPa以下であってよい。
【0025】
水熱処理は、バガスに高温の水又は水蒸気を高圧下で接触させる処理であってよい。水熱処理は、より具体的には、例えば、バガスの固形物濃度が0.1~50%となるように水を加え、高温・高圧条件下で分解処理を行う方法であってもよい。水又は水蒸気の温度は130~250℃であることが好ましく、加える圧力は、各温度の水の飽和水蒸気圧に、更に0.1~0.5MPa高い圧力であることが好ましい。
【0026】
酸処理は、バガスに酸性溶液を接触させる処理であってよい。酸性溶液としては、希硫酸等が挙げられる。バガスに酸性溶液を接触させる方法、酸処理における酸溶液の温度、酸処理における圧力条件は、上述したアルカリ処理における方法又は条件と同様であってよい。
【0027】
亜臨界水処理は、バガスに亜臨界水を接触させる処理であってよい。バガスに亜臨界水を接触させる方法は、上述したアルカリ処理における方法と同様であってよい。亜臨界水処理の条件は特に制限されないが、亜臨界水の温度を160~240℃とし、処理時間を1~90分間とすることが好ましい。
【0028】
分解処理液においては、上述した分解処理の後、固形分及び液分を分離する処理がなされてもよい。この場合、分離後に得られた液分を分解処理液とすることができる。固形分及び液分を分離する方法は、ストレーナー、濾過、遠心分離、デカンテーション等による分離であってよい。
【0029】
本実施形態の製造方法では、次に、上述の方法により得られる分解処理液を、分離膜に透過させて、膜分離する。膜分離後の膜透過液を、一実施形態に係るバガスの分解抽出物として得ることができる。この分解抽出物は、バガス由来の色が脱色された分解抽出物である。
【0030】
分離膜は、バガスの分解抽出物の脱色率を高める観点から、限外濾過膜(UF膜)又はナノ濾過膜(NF膜)である。また、これらの膜は、同様の観点から、親水性材料を含む膜である。分離膜は、親水性材料で形成されている、親水性の膜ということもできる。本明細書における親水性材料とは、親水性の置換基及び/又は化学種を有し、水を保持する能力の高い性質を示す材料である。
【0031】
親水性材料としては、例えば、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、酢酸セルロース、及びポリエーテルサルフォン(PES)が挙げられる。親水性材料は、これらを1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられてよい。すなわち、分離膜は、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、酢酸セルロース、及びPESからなる群より選ばれる少なくとも一種で形成されてよい。分離膜は、好ましくは、ポリアミド及びPESからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。分離膜は、ポリアミド又はPESのいずれかを含む膜であってもよい。
【0032】
ポリアミドとしては、例えば、テレフタル酸、m-アミノベンズアミド、m-フェニレンジアミド等の芳香族ポリアミド、イソフタル酸、m-アミノベンゾヒドラジド等のポリアミドヒドラジド、フマル酸、ジメチルピペラジン等のポリピペラジンアミド、m-フェニレンイソフタルアミド-テレフタルアミド共重合体などが挙げられる。
【0033】
分離膜(UF膜及びNF膜)の分画分子量は、バガスの分解処理液の脱色率を高める観点から、4000以下である。分画分子量は、バガスの分解処理液の脱色率をより高める観点から、好ましくは3500以下、より好ましくは3000以下、更に好ましくは2500以下であり、膜分離に要する時間(処理時間)を短縮する観点から、好ましくは300以上、より好ましくは1000以上である。分離膜の分画分子量は、分子量が規定されたポリエチレングリコールの透過の有無を評価することにより測定することができる。
【0034】
分離膜の膜形態としては、平膜型、スパイラル型、チューブラー型、中空糸型等、適宜の形態のものが使用できる。分離膜の濾過方式は、デッドエンド濾過、クロスフロー濾過のいずれであってもよい。
【0035】
UF膜及びNF膜は、市販品を用いることができる。UF膜としては、例えば、SUEZ社のGEシリーズ、GHシリーズ、GKシリーズ、Synder社のSPE1、SPE3、SPE5、SPV5、Alfa Laval社のGR95PP、旭化成株式会社製のマイクローザ(登録商標)UFシリーズの分画分子量3000から4000、且つ材質がポリアクリロニトリルに相当するもの等が挙げられる。NF膜としては、例えば、SUEZ社のHLシリーズ、DKシリーズ、DLシリーズ、KOCH社のSR3D、SR-400、DOW DUPONT社のNF90、NF200、NF270、NF245、Synder社のNFS、NFX、NFW、NFG、NDX、日東電工株式会社製のNANO-BW、NANO-SW、ESNA、HYDRACoRe等が挙げられる。
【0036】
本実施形態に係る製造方法においては、分解処理の後、上述した膜分離(第1の膜分離)とは異なる膜分離(第2の膜分離)を行ってもよい。第2の膜分離は、分解処理の後であり、且つ第1の膜分離の前に行ってよい。
【0037】
第2の膜分離に用いられる分離膜は、上述した第1の膜分離に用いられる分離膜と同一であってもよいし、異なっていてもよい。第2の膜分離に用いられる分離膜は、限外濾過膜(UF膜)、ナノ濾過膜(NF膜)であってよい。第2の膜分離に用いられる分離膜の素材としては、例えば、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン(PS)、ポリエーテルサルフォン(PES)ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリフッ化ビニルデン(PVDF)、再生セルロース、セルロース、セルロースエステル、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリエーテルスルホン、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、ポリ四フッ化エチレン等を使用することができる。
【0038】
第2の膜分離に用いられる分離膜の分画分子量は、好ましくは2500~50000であり、より好ましくは2500~5000である。第2の膜分離に用いられる分離膜の分画分子量は、4000以下であってもよい。濾過方式は、デッドエンド濾過、クロスフロー濾過であってよいが、膜ファウリング抑制の観点から、クロスフロー濾過であることが好ましい。
【0039】
第2の膜分離に用いられる分離膜は、市販品を用いることができる。UF膜としては、例えば、SUEZ社のGEシリーズ、GHシリーズ、GKシリーズ、PWタイプ、PEタイプ、HWSUFタイプ、KOCH社のHFM-180、HFM-183、HFM-251、HFM-300、HFK-131、HFK-328、MPT-U20、MPS-U20P、MPS-U20S、Synder社のSPE1、SPE3、SPE5、SPE10、SPE30、SPV5、SPV50、SOW30、旭化成株式会社製のマイクローザ(登録商標)UFシリーズの分画分子量3000から10000に相当するもの、日東電工株式会社製のNTR7410、NTR7450等を挙げることができる。NF膜としては、例えば、SUEZ社のHLシリーズ、DKシリーズ、DLシリーズ、KOCH社のSR3D、SR-400、DOW DUPONT社のNF90、NF200、NF270、NF245、Synder社のNFS、NFX、NFW、NFG、日東電工株式会社製のNANO-BW、NANO-SW、ESNA、HYDRACoRe等を挙げることができる。
【0040】
本実施形態の製造方法では、分解処理液として、分解処理後の液(あるいは、上述した第2の膜分離後の液)を、固定担体を充填したカラムに通液して、吸着された成分を溶出させた画分が用いられてもよい。分解処理液をカラムに通液することにより、分解処理後の液に含まれる糖類及び無機塩類の大部分を除去することができる。
【0041】
分解処理液をカラムへ通液する際には、分解処理液を直接、又は水で任意の濃度に調整して、カラムに通液することができる。分解処理液においては、カラムへの通液前にpHを調整してもよい。固定担体が合成吸着剤の場合は、その吸着率を向上させる観点から、分解処理液は、pH6以下に調整されていることが好ましい。分解処理液のpHは、4.5を超え6以下であってもよい。固定担体がイオン交換樹脂の場合は、その吸着率を向上させる観点から、分解処理液は、pH5以上に調整されていることが好ましい。
【0042】
固定担体は、好ましくは、合成吸着剤又はイオン交換樹脂のいずれかである。
【0043】
合成吸着剤は、好ましくは合成多孔質吸着剤である。合成吸着剤(合成多孔質吸着剤)としては、好ましくは有機系樹脂が用いられる。有機系樹脂は、好ましくは、芳香族系樹脂、アクリル酸系メタクリル樹脂、又はアクリロニトリル脂肪族系樹脂である。
【0044】
芳香族系樹脂としては、例えば、スチレン-ジビニルベンゼン系樹脂が挙げられる。芳香族系樹脂としては、疎水性置換基を有する芳香族系樹脂、無置換基型の芳香族系樹脂、無置換基型に特殊処理をした芳香族系樹脂等の多孔質性樹脂も挙げられ、このうち、無置換基型の芳香族系樹脂又は無置換基型に特殊処理をした芳香族系樹脂が好ましい。
【0045】
合成吸着剤で市販のものとしては、ダイヤイオン(商標)HP-10、HP-20、HP-21、HP-30、HP-40、HP-50(以上、無置換基型の芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱ケミカル株式会社製);SP-825、SP-800、SP-850、SP-875、SP-70、SP-700(以上、無置換基型に特殊処理を施した芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱ケミカル株式会社製);SP-900(芳香族系樹脂、商品名、三菱ケミカル株式会社製);アンバーライト(商標)XAD-2、XAD-4、XAD-16、XAD-2000(以上、芳香族系樹脂、いずれも商品名、株式会社オルガノ製);ダイヤイオン(商標)SP-205、SP-206、SP-207(以上、疎水性置換基を有する芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱ケミカル株式会社製);HP-2MG、EX-0021(以上、疎水性置換基を有する芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱ケミカル株式会社製);アンバーライト(商標)XAD-7、XAD-8(以上、アクリル酸エステル樹脂、いずれも商品名、株式会社オルガノ製);ダイヤイオン(商標)HP1MG、HP2MG(以上、アクリル酸メタクリル樹脂、いずれも商品名、三菱ケミカル株式会社製);セファデックス(商標)LH20、LH60(以上、架橋デキストランの誘導体、いずれも商品名、ファルマシア バイオテク株式会社製)等が挙げられる。中でも、無置換基型の芳香族系樹脂(例えば、HP-20)又は無置換基型に特殊処理を施した芳香族系樹脂(例えば、SP-850)が好ましい。
【0046】
カラムに充填する合成吸着剤の量は、カラムの大きさ、合成吸着剤の種類等によって適宜決定することができる。
【0047】
固定担体として合成吸着剤を用いる場合、分解処理液を通液するときの通液速度は、カラムの大きさ、溶出溶媒の種類、合成吸着剤の種類等によって適宜変更が可能であるが、好ましくは、SV=1~30時間-1である。なお、SV(Space Velocity、空間速度)は、1時間当たり樹脂容量の何倍量の液体を通液するかという単位である。
【0048】
合成吸着剤に吸着された吸着成分(有効成分)は、溶媒(溶出溶媒)により溶出させることができる。吸着成分をより効率よく回収する観点から、吸着成分を溶出させる前に、カラムに残留する糖類及び無機塩類を水洗により洗い流すことが好ましい。この場合、溶出させた画分を、分解処理液として膜分離に供することができる。
【0049】
固定担体として合成吸着剤を用いる場合、溶出溶媒は、水、メタノール、エタノール及びこれらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であってよい。溶出溶媒は、アルコール及び水の混合溶媒が好ましく、エタノール及び水の混合溶媒がより好ましく、吸着成分が室温においてより効率よく溶出可能となる観点から、体積比が50/50~60/40(エタノール/水)であるエタノール及び水の混合溶媒が更に好ましい。
【0050】
固定担体として合成吸着剤を用いる場合、溶出する際のカラムの温度(カラム温度)は室温であってよいが、室温よりもカラム温度を高温にすることにより、エタノール及び水の混合溶媒においてエタノールの混合割合を減らすことができ、吸着成分をより効率的に溶出させることができる。温度は、好ましくは20~60℃であり、より好ましくは40~60℃である。カラム内は常圧条件下であっても、加圧条件下であってもよい。
【0051】
固定担体として合成吸着剤を用いる場合、溶出速度は、カラムの大きさ、溶出溶媒の種類、合成吸着剤の種類等によって適宜設定することが可能であるが、好ましくは、SV=0.1~10時間-1である。
【0052】
イオン交換樹脂は、樹脂の形態に基づいて、ゲル型樹脂と、ポーラス型、マイクロポーラス型又はハイポーラス型等の多孔性樹脂とに分類されるが、特に制限はない。イオン交換樹脂は、好ましくは陰イオン交換樹脂である。陰イオン交換樹脂としては、強塩基性陰イオン交換樹脂又は弱塩基性陰イオン交換樹脂が用いられてよい。アルカリ処理液を原料として使用する場合、好ましくは、強塩基性陰イオン交換樹脂が用いられるが、その他の処理による分解処理液を原料とする場合は特に制限はない。
【0053】
市販の強塩基性陰イオン交換樹脂としては、ダイヤイオン(商標)PA306、PA308、PA312、PA316、PA318L、HPA25、SA10A、SA12A、SA11A、SA20A、UBA120(以上、三菱ケミカル株式会社製)、アンバーライト(商標)IRA400J、IRA402Bl、IRA404J、IRA900J、IRA904、IRA458RF、IRA958、IRA410J、IRA411、IRA910CT(以上、オルガノ株式会社製)、ダウエックス(商標)マラソンA、マラソンMSA、MONOSPHERE550A、マラソンA2(以上、ダウケミカル日本株式会社製)等が挙げられる。
【0054】
市販の弱塩基性陰イオン交換樹脂としては、ダイヤイオン(商標)WA10、WA20、WA21J、WA30(以上、三菱ケミカル株式会社製)、アンバーライト(商標)IRA478RF、IRA67、IRA96SB、IRA98、XE583(以上、オルガノ株式会社製)、ダウエックス(商標)マラソンWBA、66、MONOSPHERE66、MONOSPHERE77(以上、ダウケミカル日本株式会社製)等が挙げられる。
【0055】
カラムに充填するイオン交換樹脂の量は、カラムの大きさ、イオン交換樹脂の種類などによって適宜決定できるが、分解処理液の固形分に対して2~10000倍湿潤体積量が好ましく、5~500倍湿潤体積量がより好ましい。
【0056】
通液条件は、分解処理液の種類、イオン交換樹脂の種類等により適宜設定することが可能である。好ましくは、流速はSV=0.3~30時間-1であり、通液する液量はイオン交換樹脂の100~300%であり、カラム温度は40~90℃である。カラム内は常圧又は加圧された状態であってもよい。
【0057】
固定担体としてイオン交換樹脂を用いる場合、画分は、イオン交換樹脂を充填したカラムに通液し、塩や酸、アルコール又はこれらの混合水溶液等の溶離液で溶出させることで画分を得る工程であってもよい。溶離液は脱気処理されていてもよい。
【0058】
以上説明したバガスの分解抽出物の製造方法は、例えば下記に示す方法であってよい。すなわち、バガスの分解抽出物の製造方法は、上述した分解処理により得られるバガスの分解処理液を、上述した第1の膜分離により分離し、透過液を得る方法であってよい。また、バガスの分解抽出物の製造方法は、上述した分解処理後の液を更に、固定担体を充填したカラムに通液して、吸着された成分を溶出させた画分である分解処理液を、上述した第1の膜分離により分離し、透過液を得る方法であってもよい。
【0059】
バガスの分解抽出物の製造方法は、上述した分解処理により得られるバガスの分解処理後の液を、上述した第2の膜分離により分離し、得られた透過液を分解処理液として、上述した第1の膜分離により分離し、透過液を得る方法であってもよい。また、バガスの分解抽出物の製造方法は、上述した分解処理により得られるバガスの分解処理後の液を、上述した第2の膜分離により分離し、得られた透過液を更に、固定担体を充填したカラムに通液して、吸着された成分を溶出させた画分である分解処理液を、上述した第1の膜分離により分離し、透過液を得る方法であってもよい。
【0060】
本発明は、バガスの分解抽出物の脱色方法を提供するということもできる。一実施形態に係るバガスの分解抽出物の脱色方法は、アルカリ処理、水熱処理、酸処理、亜臨界水処理、微粉砕処理及び爆砕処理からなる群より選ばれる少なくとも1種の分解処理により得られるバガスの分解処理液を分離膜に透過する工程を備え、分離膜は、限外濾過膜又はナノ濾過膜であり、分離膜の分画分子量は4000以下であり、分離膜は、親水性材料を含む、バガスの分解抽出物の脱色方法である。分解処理及び分解処理液の態様、並びに分離膜へ透過する方法の態様は、上述したバガスの分解抽出物の製造方法と同様の態様であってよい。
【0061】
本発明は、脱色されたバガスの分解抽出物を提供するということもできる。一実施形態に係る、脱色されたバガスの分解抽出物は、アルカリ処理、水熱処理、酸処理、亜臨界水処理、微粉砕処理及び爆砕処理からなる群より選ばれる少なくとも1種の分解処理により分解されたバガスの分解処理液の膜透過液であって、膜透過液は、限外濾過膜又はナノ濾過膜である分離膜の透過液であり、分離膜の分画分子量は4000以下であり、分離膜は、親水性材料を含む、バガスの分解抽出物である。バガスの分解抽出物が脱色されていることは、バガスの分解抽出物の色を評価することにより確認できる。脱色されたバガスの分解抽出物においては、多糖類、及びオリゴ糖類が除去されていてもよい。
【0062】
バガスの分解抽出物の色は、乾燥固形分濃度1%のバガスの分解抽出物の水溶液について、L*値、a*値、及びb*値を測定することにより確認することができる。L*値、a*値、及びb*値は、CIEに規定されるL*a*b*表色系における色座標であり、以下の条件により測定される。
サンプル:乾燥固形分濃度1%のバガスの分解抽出物
装置:分光色差計(例えば、Spectrophotometer SE6000(日本電色工業株式会社))
条件:反射試料台に30Φの見口・試料台、標準白板をセットする。標準液(精製水)で校正した後、サンプルの透過光を測定する。
【0063】
本実施形態に係る製造方法により得られるバガスの分解抽出物は、従来のバガスの分解処理液よりも、少なくともL*値(明度)が増加している。乾燥固形分が1質量%である水溶液において測定される、バガスの分解抽出物のL*値は、50以上であり、好ましくは60以上、より好ましくは70以上、更に好ましくは75以上である。
【0064】
バガスの分解抽出物は、従来のバガスの分解処理液よりもa*値(赤み)が減少していることが好ましい。乾燥固形分が1質量%である水溶液において測定される、バガスの分解抽出物のa*値は、好ましくは25以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは15以下、特に好ましくは10以下である。a*値は、0以下であってもよい。
【0065】
乾燥固形分が1質量%である水溶液において測定される、バガスの分解抽出物のb*値(黄み)は、特に限定されないが、例えば、30以上、35以上、又は40以上であってよく、95以下、90以下、又は85以下であってよい。
【0066】
バガス分解抽出物の色は、バガスの抽出物に含まれるポリフェノールの濃度を基準として、L*値、a*値、及びb*値を測定することにより確認することもできる。この場合、L*値、a*値、及びb*値は、下記の方法により測定される。
(1)上述した方法により、乾燥固形分濃度1%のバガスの分解抽出物の水溶液における色度(L*値、a*値、及びb*値)を測定する。
(2)フォーリンチオカルト法により、乾燥固形分濃度あたりのポリフェノール濃度(質量%)を測定する。このとき、ポリフェノール濃度はカテキン換算の値とする。
(3)(1)で測定された色度×100の値を、(2)で求めたポリフェノール濃度(質量%)で除して得られる値を、ポリフェノール濃度が1質量%となる水溶液において測定される色度(L*値、a*値、及びb*値)とする。
【0067】
この場合においても、本実施形態に係る製造方法により得られるバガスの分解抽出物は、従来のバガスの分解処理液よりも、少なくともL*値(明度)が増加している。ポリフェノール濃度が1質量%となる水溶液において測定される、L*a*b*表色系における、L*値は、120以上であり、好ましくは130以上、より好ましくは135以上、更に好ましくは140以上である。
【0068】
ポリフェノール濃度が1質量%となる水溶液において測定される、バガスの分解抽出物のa*値は、好ましくは20以下、より好ましくは10以下である。a*値は、0以下であってもよい。
【0069】
本実施形態に係る製造方法により得られるバガスの分解抽出物の色は、糖類や塩類を多く含むために着色成分の濃度が相対的に低くなることで定義されるものではない。バガスの分解処理液に含まれる着色成分は、主としてリグニンであり、また、その他にも一部の低分子のポリフェノール類、フルフラール等がある。本実施形態に係る製造方法により得られるバガスの分解抽出物は、上述した膜分離により、バガスの分解処理液に含まれるこれらの着色成分の含有量が減少しているために、色が失われ、結果として脱色されていると考えられる。
【0070】
また、このバガスの分解抽出物は、リグニンの含有量が減少すると共に、フェルラ酸、クマル酸といった、バガスの分解抽出物への着色の寄与が小さい低分子のポリフェノールの含有量が増加している。これにより、本実施形態に係る製造方法により得られるバガスの分解抽出物は、抗酸化活性に優れた抽出物でもある。
【0071】
分解処理液(脱色前のバガスの分解抽出物)に含まれるポリフェノール類の含有量に対する、脱色されたバガスの分解抽出物に含まれるポリフェノール類の含有量(脱色されたバガスの分解抽出物のポリフェノール量/脱色前のバガスの分解抽出物のポリフェノール量)は、質量比で、1.0以上、1.1以上、又は1.2以上であってよい。
【0072】
分解処理液(脱色前のバガスの分解抽出物)に含まれるクマル酸の含有量に対する、脱色されたバガスの分解抽出物に含まれるクマル酸の含有量(脱色後のバガスの分解抽出物のクマル酸量/脱色前のバガスの分解抽出物中のクマル酸量)は、質量比で、1.0以上、1.2以上、又は1.5以上であってよい。
【0073】
本実施形態に係る製造方法により得られるバガスの分解抽出物は、例えば、食品、医薬部外品又は医薬品に添加することにより用いることができる。バガスの分解抽出物は、従来のバガスの分解処理液よりも色みが薄い(脱色されている)ため、対象物に添加した場合に、対象物への着色を抑制することができる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0075】
<バガスの分解抽出物の製造>
[製造例1](実施例1、3、5~7)
サトウキビの搾りかすであるバガス15kg(含水率50質量%)及び0.5%(w/w)水酸化ナトリウム水溶液100Lを混合し、150℃の条件でアルカリ処理を行った。アルカリ処理後の混合液を固形分と液分に分離して、液分を約100L得た。分画分子量2500のUF膜(SUEZ社、GH8040F30)を用いて限外濾過を行い、濾過液80Lを得た。合成吸着剤(三菱ケミカル株式会社製、HP-20)1Lを樹脂塔(内径80mm、高さ400mm)に充填し、これに上記の濾過液を、pHを6に調整してから流速10L/時間(SV=10.0(時間-1))で通液した。
【0076】
続いて、5Lの精製水を、流速10L/時間(SV=10.0(時間-1))で樹脂塔に通液して洗浄した。次に、溶出溶媒として60%エタノール水溶液(エタノール/水=60/40(体積/体積))2Lを、流速2L/時間(SV=2.0(時間-1))で樹脂塔に通液した。続けて、2Lの精製水を流速2L/時間(SV=2.0(時間-1))で樹脂塔に通液し、合成吸着剤に吸着した成分を溶出させた。樹脂塔から溶出した画分を、ロータリーエバポレーターにて約10倍の濃度に減圧濃縮したのち、一晩凍結乾燥して、茶褐色の粉末20gを得た。これをサンプルAとした。
【0077】
サンプルAを水に溶解して、固形分5質量%である試験液を調製した(試験液A)。撹拌型ウルトラホルダー(UHP-76K、アドバンテック東洋株式会社製)に、後述する分離膜をそれぞれ取付けた。150mLの試験液A(40℃)を原液として撹拌型ウルトラホルダーに供し、撹拌子を一定の速度で撹拌しながら、ヘリウムにより約0.55MPaの圧力をかけて膜分離を行い、膜濃縮液及び膜透過液を得た。濾過時には撹拌型ウルトラホルダーを40℃の水に浸漬し、分離時の液温を40℃に保った。膜分離時における処理時間、膜分離された液量(処理液量)、処理速度を測定したものについては、併せて表1に示す。なお、表1中、実施例6においては、膜分離を2回実施しており、1回目の膜分離後、得られた膜透過液100mLについて2回目の膜分離を実施した。
【0078】
[製造例2](実施例2、4)
サトウキビの搾りかすであるバガス30kg(含水率50質量%)を、200℃、1.8MPaの熱水100Lで水熱処理を行った。前処理後の混合液を固形分と液分とに分離して、液分を約88L得た。分画分子量2500のUF膜(GEウォーター&プロセス・テクノロジー社、GH8040F30)を用いて限外濾過を行い、濾過液70Lを得た。合成吸着剤(三菱ケミカル株式会社製、SP-850)1Lを樹脂塔(内径80mm、高さ400mm)に充填し、これに上記の濾過液のうち25Lを、流速20L/時間(SV=20.0(時間-1))で通液した。
【0079】
続いて、3.3Lの精製水を、流速20L/時間(SV=20.0(時間-1))で樹脂塔に通液して洗浄した。次に、溶出溶媒として60%エタノール水溶液(エタノール/水=60/40(体積/体積))2Lを、流速2L/時間(SV=2.0(時間-1))で樹脂塔に通液した。続けて、2Lの精製水を流速2L/時間(SV=2.0(時間-1))で樹脂塔に通液し、合成吸着剤に吸着した成分を溶出させた。樹脂塔から溶出した画分を、ロータリーエバポレーターにて約10倍の濃度に減圧濃縮したのち、一晩凍結乾燥して、茶褐色の粉末40gを得た。これをサンプルWとした。
【0080】
サンプルWを水に溶解して、固形分5質量%である試験液を調製した(試験液W)。表1に示す分離膜を用いて、製造例1と同様の方法により膜分離を行い、膜濃縮液及び膜透過液を得た。
【0081】
(分離膜の種類)
UF1000-A:ポリアミド系UF膜(SUEZ社 GE Flat Sheet Membrane膜)、分画分子量1000
UF1000-E:ポリエーテルサルフォン系UF膜(Synder社 SPE1(XT))、分画分子量1000
UF2500-A:ポリアミド系UF膜(SUEZ社 GH膜 Flat Sheet Membrane膜)、分画分子量2500
NF300-A:ポリアミド系NF膜(SUEZ社 GH膜 Flat Sheet Membrane膜)、分画分子量1000
UF1000-F:フッ素樹脂系UF膜(DSS社Alfa Laval-ETNA01PP)、分画分子量1000
【0082】
<脱色率の評価>
膜分離前の試験液A又は試験液W(原液)、及び得られた膜透過液を適宜希釈して、分光光度計を用いて460nmの吸光度を測定した。下記式(1)により、原液に対する膜透過液の「固形分濃度あたりの吸光度の減少率」を脱色率として算出した。結果を表1に示す。
脱色率(%)={(原液の吸光度×原液の希釈倍率/原液の固形分濃度)-(膜透過液の吸光度×膜透過液の希釈倍率/膜透過液の固形分濃度)}/(原液の吸光度×原液の希釈倍率/原液の固形分濃度)×100・・・(1)
【0083】
【0084】
<色差計による評価>
膜分離前の試験液(原液)、並びに実施例1~6及び比較例1における膜分離後の膜濃縮液及び膜透過液について、固形分濃度を1質量%に調整し、色差計(Spectrophotometer SE6000(日本電色工業株式会社))を用いて、透過光のL*a*b*表色系による色度(明度L*、赤みa*、黄みb*)及び色差(ΔE)を求めた。結果を表2に示す。表2に示すように、原液(試験液A又はW)と比較して、実施例1~6の膜透過液は、明度(L*)が増加し、赤み(a*)が減少した。
【0085】
後述のポリフェノール類の分析結果から、下記式(2)により、バガスの分解抽出物に含まれるポリフェノール濃度を基準とした(ポリフェノール1質量%あたりの)L*a*b*表色系による色度(明度L*、赤みa*、黄みb*)を求めた。また、求めた色度から色差(ΔE)を計算した。結果を表2に示す。表2に示すように、原液(試験液A又はW)と比較して、実施例1~6の膜透過液は、明度(L*)が増加し、赤み(a*)が減少した。
ポリフェノール濃度1質量%あたりの色度=固形分濃度1質量%あたりの色度×100/フォーリン-チオカルト法によるポリフェノール量(カテキン換算量)・・・(2)
【0086】
【0087】
<膜透過液の成分分析>
[分子量分布]
下記の条件でゲル濾過クロマトグラフィーを行い、実施例及び比較例における原液及び膜透過液の分子量分布を評価した。標準サンプルとして、一般試薬であるポリエチレングリコール(PEG)を用いた。検出には、示差屈折検出器(RID)に加え、UV254nmの波長のUV検出器も用いた。RIDによる検出結果を
図1及び
図2に、UV254nmにおける検出結果を
図3及び
図4に示す。比較のために、原液の結果は全てのスペクトルにおいて示す。
(条件)
装置:Agilent 1100シリーズ
溶離液:アンモニア緩衝液(pH11)/メタノール(1/1=v/v)
流速:0.5mL/分
カラム:TSKgelGMPWXL+G2500PWXL
カラム温度:23℃
注入量:30μL
検出器:示差屈折検出器(RID)又はUV検出器(254nm)
分析時間:50分間
【0088】
分子量分布の結果、実施例1~7においては、分子量10000~100000Da(PEG換算)である成分の割合が原液よりも減少した。これは、リグニンが減少したことを示す。特に、25000Da以上のリグニンが除去されたことが分かった。また、相対的に低分子量(4000~10000Da付近)である成分の分布が増加した。これは、p-クマル酸又はフェルラ酸が増加したことを示す。
【0089】
<抗酸化活性の評価>
実施例1、3、6、及び7について、H-ORAC法を用いて、原液及び膜透過液の抗酸化活性を測定した。結果はトロロックス等量により評価した。結果を
図5に示す。実施例6については、1回目の膜分離後及び2回目の膜分離後の膜透過液それぞれについて抗酸化活性を測定した。
図5に示すように、原液と比較して、各試験における膜透過液の抗酸化活性が増加した。
【0090】
<ポリフェノール類の分析>
実施例及び比較例について、抗酸化活性の主成分と考えられるポリフェノール類の分析を行った。フォーリン-チオカルト法にてポリフェノール濃度をカテキン換算量として分析した。バガスの分解抽出物における乾燥固形分当たりのポリフェノール濃度を、表3に示す。また、HPLCにて、乾燥固形分におけるp-クマル酸(分子量164)、フェルラ酸(分子量194)の割合を測定した。結果を表3に示す。
【0091】