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特許7288342水素・酸素発生装置及び水素ガス製造方法
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  • 特許-水素・酸素発生装置及び水素ガス製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-30
(45)【発行日】2023-06-07
(54)【発明の名称】水素・酸素発生装置及び水素ガス製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 15/00 20060101AFI20230531BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20230531BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20230531BHJP
【FI】
C25B15/00 303
C25B1/04
C25B9/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019089669
(22)【出願日】2019-05-10
(65)【公開番号】P2020186418
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000192590
【氏名又は名称】株式会社神鋼環境ソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】中尾 末貴
(72)【発明者】
【氏名】石井 豊
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-144079(JP,A)
【文献】特開2011-006769(JP,A)
【文献】特開2013-199697(JP,A)
【文献】特開2003-293179(JP,A)
【文献】特開2010-111942(JP,A)
【文献】特開2017-206730(JP,A)
【文献】特開2010-189728(JP,A)
【文献】特開2013-023717(JP,A)
【文献】特開2010-121146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を電気分解して水素ガスと酸素ガスとを発生させる水電解モジュールを備え、
該水電解モジュールが水素ガスを発生させる陰極室と、酸素ガスを発生させる陽極室とを備えており、
前記陰極室で発生した前記水素ガスを移送するための水素ガス移送経路と、前記電気分解を停止した後に前記陰極室に水を供給して該陰極室内の水素ガスを排出させる水供給機構をさらに備え
前記水素ガス移送経路は、前記陰極室に連通されており、且つ、前記水供給機構によって前記水が供給される給水部が設けられており、
前記陰極室への前記水の供給が前記水素ガス移送経路を通じて行われる、水素・酸素発生装置。
【請求項2】
前記水供給機構によって供給された前記水の移動経路を遮断して前記陰極室から前記水が流出することを抑制する遮断弁が備えられている請求項1記載の水素・酸素発生装置。
【請求項3】
前記水電解モジュールが前記陰極室で発生した前記水素ガスを排出するガス排出口を有し、
前記ガス排出口からは水分を含んだ水素ガスが排出され、
該水素ガスから前記水分を分離するための気液分離器を有し、
前記水素ガス移送経路が前記陰極室と前記気液分離器とを連通させるように設けられており、
該水素ガス移送経路での水の移動を遮断する遮断弁が備えられ、
該遮断弁が前記給水部と前記気液分離器との間に設けられている請求項1又は2記載の水素・酸素発生装置。
【請求項4】
水を電気分解して水素ガスと酸素ガスとを発生させる水電解モジュールを備え、該水電解モジュールが前記水素ガスを発生させる陰極室と、前記酸素ガスを発生させる陽極室とを備えている水素・酸素発生装置を使って水素ガスを製造する水素ガス製造方法であって、
前記水素・酸素発生装置は、前記陰極室で発生した前記水素ガスを移送するための、前記陰極室に連通されている水素ガス移送経路をさらに備えており、
前記電気分解を停止した後に水を供給して該水によって前記陰極室から水素ガスを排出させ、前記陰極室への前記水の供給が前記水素ガス移送経路を通じて行われる水素ガス製造方法。
【請求項5】
前記陰極室で発生させた前記水素ガスを、前記電気分解の停止後且つ前記水の供給前に、系外に放出して前記陰極室の圧力を低下させる請求項記載の水素ガス製造方法。
【請求項6】
前記供給される前記水の量、及び、前記供給が行われる時間の少なくとも一方について予め規定値を設定し、前記水の前記供給が該規定値を満たしたときには前記水の供給停止が行われる請求項又は記載の水素ガス製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素・酸素発生装置に関し、より詳しくは、水を電気分解して水素ガスと酸素ガスとを発生させる水電解モジュールを備えた水素・酸素発生装置と、該水素・酸素発生装置を用いて水素ガスを製造する水素ガス製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固体高分子電解質膜などによって隔てられた陰極室と陽極室とを備えた水電解モジュールを用い、前記陽極室に連続的に水を供給して前記水電解モジュールで水の電気分解が行われる水素・酸素発生装置が知られている。
電気分解では陽極側や陰極側が加圧状態であっても水素ガスや酸素ガスが生成可能であるためこの種の水素・酸素発生装置では、加圧状態の水素ガスを製造することができる(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4347972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
固体高分子電解質膜などを用いる場合に限らず、水の電気分解においては、通常、水素ガスが酸素ガスの2倍の量で作製され、陰極側が陽極側に比べて高圧となり易い。
さらに、従来の水素・酸素発生装置では、商品価値の高い水素ガスの純度を保つ意味において陰極側から陽極側へガスが移動することがあっても陽極側から陰極側へのガスの移動は抑制されるように運転条件が設定されていることがある。
【0005】
このような水素・酸素発生装置では、電気分解が盛んに行われている状況下においては僅かな量の水素が陽極側に移動しても実質的な問題にはなり難いが、電気分解が停止すると新たな酸素ガスが発生しないことから陽極側での酸素ガス中の水素ガス濃度が電気分解の行われている状況下に比べて上昇し易いという問題を有する。
【0006】
このような問題に対し、従来、種々の対策が講じられているが、従来の対策についてはいまだ改善の余地が残されている。
そこで、本発明はこのような問題の解決を図ることを課題としており、水電解モジュールが運転を停止した後で酸素ガスに水素ガスが高濃度で混入してしまうことを抑制し得る水素・酸素発生装置と水素ガス製造方法との提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記のような課題を解決すべく本発明は、水を電気分解して水素ガスと酸素ガスとを発生させる水電解モジュールを備え、該水電解モジュールが水素ガスを発生させる陰極室と、酸素ガスを発生させる陽極室とを備えており、前記電気分解を停止した後に前記陰極室に水を供給して該陰極室内の水素ガスを排出させる水供給機構をさらに備えている水素・酸素発生装置を提供する。
【0008】
また、本発明は、水を電気分解して水素ガスと酸素ガスとを発生させる水電解モジュールを備え、該水電解モジュールが前記水素ガスを発生させる陰極室と、前記酸素ガスを発生させる陽極室とを備えている水素・酸素発生装置を使って水素ガスを製造する水素ガス製造方法であって、前記電気分解を停止した後に水を供給して前記陰極室から水素ガスを排出させる水素ガス製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電気分解を停止した後に、前記陰極室内の水素ガスが排出されるとともに該陰極室に水が供給される。
即ち、本発明では、電気分解が停止した際に陰極室の水素ガス量を減少させることができるとともに陰極室に供給された水によって陰極室から陽極室への水素ガスの移動を防ぐことができる。
従って、本発明によれば、電気分解が停止した後で酸素ガスに水素ガスが高濃度で混入されるおそれを抑制させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係る水素・酸素発生装置の概略図。
図2】水素・酸素発生装置の運転停止時のフローを示した図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に水素・酸素発生装置に係る本発明の実施の形態について説明する。
本実施形態の水素・酸素発生装置は、太陽光、風力、潮力、地熱などの再生可能エネルギーによって得られた電力を用いて水の電気分解を実施すべく構成されている。
この種の再生可能エネルギーに由来する電力は連続的に安定して得られないことが多く、外部系統電力を利用する場合に比べて水の電気分解を停止する機会が多いことから本発明の効果がより顕著に発揮され得る。
尚、本実施形態の水素・酸素発生装置は、水の電気分解のエネルギー源の一部、又は、全部が一般的な外部系統電力であってもよい。
【0012】
本実施形態の水素・酸素発生装置は、水を電気分解して陰極側に水素ガスを発生させるとともに陽極側に酸素ガスを発生させるように構成されている。
図1に示すように、本実施形態の水素・酸素発生装置1は、前記電気分解が行われる水電解モジュール2を備えている。
本実施形態の前記水電解モジュール2は、固体高分子電解質膜を介して隣接された陽極室と陰極室とを有し、それぞれに配された電極板と前記固体高分子電解質膜とが1ユニットとされた固体高分子電解質膜ユニットを複数備えている。
【0013】
本実施形態における水素・酸素発生装置1は、水電解モジュール2の陽極側に水を循環供給するよう構成されており、電気分解される量よりも過剰な水を前記水電解モジュール2の陽極側に供給し、電気分解がされずに残った水と酸素ガスとを含む気液混合状態の流体を水電解モジュール2から排出させるとともにこの気液混合状態の流体に含まれている水を再び前記水電解モジュール2の陽極側に供給するように構成されている。
【0014】
前記水電解モジュール2は、前記陽極室に水が供給されて電気分解を実施する際に水素イオンを含んだ少量の水が固体高分子電解質膜を通じて陰極室に移動し、該陰極室で前記水素イオンが水素ガスとなって発生するとともに陽極室から移動してきた水分も当該陰極室から排出されるように構成されている。
従って、本実施形態における水電解モジュール2は、陽極側に水の流入口と排出口とを備えており、陰極側に水分を含んだ水素ガスが排出されるガス排出口21が形成されている。
【0015】
本実施形態における前記水素・酸素発生装置1は、陽極側から排出される気液混合状態の流体を前記水と前記酸素ガスとに分離する気液分離器3を有している。
該気液分離器3は、分離した水を貯留するとともに酸素ガスを大気へ排出するよう構成されている。
該気液分離器3は、本実施形態においては、分離した水を前記水電解モジュール2へ給水するための給水タンクとしても機能している。
【0016】
本実施形態の水素・酸素発生装置1は、前記気液分離器3(給水タンク)から前記水電解モジュール2の前記陽極側に前記水を供給するための給水経路5と、前記水電解モジュール2の陽極側から排出された気液混合状態の流体を前記気液分離器3に返送する返送経路6とを備えている。
即ち、本実施形態における水素・酸素発生装置1は、前記気液分離器3と前記水電解モジュール2とを通って前記水が循環する循環経路100が備えられており、該循環経路100には、気液分離器3、給水経路5、水電解モジュール2、及び、返送経路6が水の移動方向に沿って順に備えられている。
【0017】
前記循環経路100の前記給水経路5には給水ポンプ51と、ポリッシャー53とフィルター54とがさらに備えられている。
尚、該ポリッシャー53やフィルター54は、その必要性が認められないような場合には、必ずしも本実施形態の水素・酸素発生装置1に設けなくてもよい。
【0018】
本実施形態における前記水素・酸素発生装置1には、陽極側の気液分離器3(以下「陽極側気液分離器3」ともいう)の他に陰極側にも気液分離器4(以下「陰極側気液分離器4」ともいう)が備えられている。
より詳しくは、前記水電解モジュール2は、前記ガス排出口21から排出された水素ガスに僅かに含まれている水分を分離するための気液分離器4を有している。
【0019】
前記陽極側気液分離器3が循環水を一時貯留するために大容量となっているのに対し、陰極側気液分離器4は容量が小さい。
本実施形態の前記陰極側気液分離器4は、前記水電解モジュール2が電気分解を行っている状況下では加圧状態の水素ガスを収容することになるため圧力容器で構成されている。
【0020】
本実施形態の水素・酸素発生装置1は、前記陰極側気液分離器4でおおまかに水分が除去された水素ガスと、吸湿剤(例えば、シリカゲル、ゼオライト等)とを接触させて、水素ガスにミストや水蒸気となって含まれている水分を水素ガスから取り除く除湿部10を備え、除湿部10で除湿された水素ガスを製品ガスとして供給し得るように構成されている。
本実施形態の水素・酸素発生装置1は、前記製品ガスを貯留する水素ガスタンク11を必要に応じて備えていてもよい。
【0021】
本実施形態における水素・酸素発生装置1は、前記陰極室で発生した前記水素ガスを移送する水素ガス移送経路を備えている。
本実施形態における水素・酸素発生装置1は、前記水素ガス移送経路として前記水電解モジュール2と前記陰極側気液分離器4との間に設けられた第1水素ガス移送経路7と前記陰極側気液分離器4よりも下流側(水素ガスの移送方向における下流側)に設けられた第2水素ガス移送経路12とを備えている。
【0022】
本実施形態における前記第1水素ガス移送経路7は、前記陰極室と、前記陰極側気液分離器4とを連通させる管によって構成され、前記第2水素ガス移送経路12は、前記陰極側気液分離器4と前記除湿部10とを連通させる管によって構成されている。
【0023】
本実施形態における水素・酸素発生装置1は、前記第2水素ガス移送経路12の途中で分岐する分岐経路13をさらに備えている。
前記分岐経路13は、水素ガスを系外に放出する経路となっており、水素ガスを系外へ放出する状態と放出しない状態とに切り替えるための水素ガス放出弁13aが設けられている。
前記第2水素ガス移送経路は、前記分岐経路13との分岐地点12aよりも下流側であって前記除湿部よりも上流側において水素ガスの流通を制御する水素ガス遮断弁12bを備えている。
【0024】
本実施形態における水素・酸素発生装置1は、前記給水経路5と前記第1水素ガス移送経路7とをバイパスするバイパス経路9を有している。
前記の通り本実施形態においては、水素・酸素発生装置1が運転されている間、陽極側には常に水が循環している状態になっているものの陰極側には陽極側に比べて少量の水しか存在していない。
前記バイパス経路9は、水素・酸素発生装置1が運転を停止して電気分解が行われなくなった後で陽極側から水を移送して陰極側に水を供給するための水供給経路として利用される。
尚、本実施形態での前記水供給経路は、陽極側とは別の場所から陰極側に水を供給する経路であってもよい。
【0025】
前記バイパス経路9には、前記給水経路5との接続地点(第1接続地点91)と前記第1水素ガス移送経路7との接続地点(第2接続地点92)との間に当該バイパス経路9を流れる水を制御するための給水制御弁93が設けられている。
一方で、前記給水経路5は、前記第1接続地点91と前記水電解モジュール2(陽極室)との間で循環水の流通を遮断するための循環水遮断弁52を備えている。
また、前記第1水素ガス移送経路7も前記第2接続地点92と前記陰極側気液分離器4との間に遮断弁71を備えている。
【0026】
該遮断弁71は、第1水素ガス移送経路7の流通を遮断するもので、水素ガスの流通を遮断できるとともに後述するように当該第1水素ガス移送経路7が水の流通経路となる場合にも水の流通を遮断できるように構成されている。
【0027】
本実施形態における水素・酸素発生装置1には、給水ポンプ51や各種の弁の開閉状態を制御して水電解モジュール2が電気分解を停止した後に前記陰極側に水を供給して水を前記陰極室に流入させるとともに当該陰極室から水素ガスを排出させる水供給機構200が形成されている。
【0028】
本実施形態における水素・酸素発生装置1では、前記のように太陽光発電などで得られるような再生可能エネルギー由来の電力を電気分解に利用することが好ましい。
その場合、エネルギー源である太陽光の日射量が一定量より少ない時や、日射量のない時(例えば、夜間、早朝、夕刻、雲天時、雨天時など)には、水素・酸素発生装置での電気分解を停止する操作が必要になり、停止操作を行うタイミングが不定期に訪れることがある。
【0029】
以下に、図2を参照しつつ水電解モジュール2が電気分解を停止した後の前記水供給機構200の動作について説明する。
【0030】
まず、予定外或いは予定通り水素・酸素発生装置1の運転を停止する必要が生じた時点で水素・酸素発生装置1の停止動作がスタートする(S10)。
水素・酸素発生装置1の運転を停止するには、まず初めに水電解モジュール2での電気分解を停止すること(S11)が行われる。
このとき、給水ポンプ51まで停止させる必要はなく、必要に応じて陽極側では水を循環させ続けていてもよい。
【0031】
次に、水素ガス遮断弁12bを閉じるとともに水素ガス放出弁13aを開状態とし、陰極側気液分離器4、第1水素ガス移送経路7、及び、陰極室での水素ガス圧を低下させること(S12)が行われ、これらの圧力が予め定めた第1の規定値(L1)以下になっているかどうかが判定される(S13)。
【0032】
陰極側での水素ガスの圧力が第1の規定値(L1)以下になっていることが確認されたら、循環水遮断弁52を閉じるとともに給水制御弁93を開けて前記給水ポンプ51からの水の供給先を陽極側から陰極側へと切り替えること(S14)が行われる。
【0033】
このとき、陰極側への水の供給に先立って陰極側の圧力が低下されているため給水ポンプ51の負荷が軽減される。
本実施形態においては、前記バイパス経路9を通って水が陰極側に供給され、水素ガス移送経路7に対して水が供給される。
そして、前記第2接続地点92が、水が供給される給水部となる。
本実施形態においては、水電解モジュール2に特別に給水のための孔を設けたりしなくてもすむように水素ガス移送経路7を通じて前記陰極室に水を供給するようにしているが、要すれば、前記水素ガス移送経路7を介さずに前記陰極室に対して直接的に水を供給するようにしてもよい。
【0034】
本実施形態における前記給水部は、水素ガス移送経路7の途中に設けられているため、陰極室へ水を供給するには、水素ガス移送経路7を逆行する形で水を移動させることになる。
この場合、陰極室の圧力が高く、水素ガスが第1水素ガス移送経路7を勢いよく流れていると陰極室に水が入り込みにくいが、上記のように本実施形態においては予め陰極室の圧力が低下されているため陰極室への水の移動がスムーズに行われ得る。
なお、前記給水部となる前記第2接続地点92を前記陰極室よりも鉛直方向での高位置に設け、陰極室への水の供給に給水ポンプ51による動力だけでなく重力の作用を利用するようにしてもよい。
【0035】
このようにして水の供給を開始した後は、陰極側の圧力(例えば、気液分離器において測定される圧力)が前記第1の規定値(L1)と同じ値、又は、前記第1の規定値(L1)とは異なる値に設定された第2の規定値(L2)に到達しているかどうかを判断すること(S15)が行われる。
尚、前記第1の規定値(L1)には、例えば、陰極室に水を流入させるのに適した圧力値を設定することができる。
前記第2の規定値(L2)には、例えば、水素・酸素発生装置1を停止させるのに適した圧力値を設定することができる。
水の供給を開始した後は、タイマーでのカウントをスタートさせ、陰極側の圧力が予め定めた前記第2の規定値(L2)に到達していなければ、予め定めた水の供給時間(T0)が満了するまで前記給水ポンプ51による給水を継続する(S16)。
【0036】
予め設定した規定の時間(T0)になっても水素ガスの圧力が第2の規定値(L2)を満たしていない場合は、給水を終了し(S17)、前記第2の規定値(L2)と同じ値、又は、前記第2の規定値(L2)とは異なる値を有する第3の規定値(L3)に圧力が低下するまで待つこと(S18)を行う。
陰極側に水を流入させると、流入前に比べて陰極側の圧力が上昇する場合がある。
そのため、前記第3の規定値(L3)は、水素・酸素発生装置1を停止させることが可能な状態にまで陰極側の圧力が低下しているかどうかを改めて判定するために設けられる。
そのため、前記第3の規定値(L3)は、前記第2の規定値(L2)と同じ値に設定されてもよい。
この第3の規定値(L3)が達成されたこと(S19)が確認出来たら、水素ガス放出弁13aを全て閉じ、遮断弁71、及び、給水制御弁93を閉じて水素・酸素発生装置1の運転を完全に終了する(S1f)。
【0037】
前記タイマーに関して設定された規定値(T0)に至る前に水素ガスの圧力が第2の規定値(L2)を満たした場合(S15)、水素ガス放出弁13aを閉じて降圧操作を一時中断する(S1a)。
そして、前記タイマーのカウントアップを継続するとともに給水を継続する。
タイマーの累積時間が設定時間(T0)に到達するのが確認(S1b)できたら、給水を止め(給水制御弁93を閉じる)、水素ガス放出弁13aを再び開けて降圧操作を再開する(S1c)。
降圧操作によって水素ガスの圧力が第3の規定値(L3)に到達すると(S1d)、遮断弁71、給水制御弁93、及び、水素ガス放出弁13aを全て閉じ(S1e)、水素・酸素発生装置1の運転を完全に終了する(S1f)。
【0038】
このとき、遮断弁71が閉状態となるので、前記陰極室では、その空間の一部又は全部が水で満たされた状態が保持される。
また、このとき、遮断弁71が閉状態となるので、遮断弁71よりも下流側の圧力とは縁が切れた状態になり、遮断弁71よりも下流側が第3の規定値(L3)よりも高い圧力に転じたとしてもそれが陰極室には伝達され難い。
このように、本実施形態においては陰極室に水素ガスが残存していても圧力が十分低く保たれるため陰極室から陽極室へと移行するのを抑制することができる。
【0039】
上記に例示の態様では、水素ガス移送経路7の途中に遮断弁71を設けることで上記のような効果が奏されているが、遮断弁に代えて水素ガス移送経路7を構成する管で水封を形成させるようにしてもよい。
水素ガス移送経路7で水封を行うには、従来公知の排水トラップと同様の形状を備えさせればよく、例えば、椀型トラップ、S字トラップ、P字トラップ、U字トラップ、ドラム型トラップなどと同様の形状を備えさせるようにすればよい。
【0040】
本実施形態においては、水の供給がタイマーで制御されているため、水が過剰に供給されてしまうことを抑制することができる。
なお、このような効果は、タイマーでの制御ではなく、単なる水量によって制御しても得られる。
尚、陰極への水の供給量は、前記タイマーなどにより、所定量に調整されることが好ましい。
水の前記供給量は、前記水電解モジュール2と前記遮断弁71との間の経路、及び、前記陰極室を満たす量であることが好ましい。
前記供給量は、前記水電解モジュール2と前記陰極側気液分離器4との間の経路、及び、前記陰極室を満たす量であることがより好ましい。
【0041】
装置の停止が前記のような状態でなされることで、電気分解が再開された場合には、水素ガスの圧力の立ち上がりを早期化できる。
前記のように本実施形態においては、太陽光などの再生可能エネルギーを電気分解のエネルギー源として用いることが好ましい。
太陽光は、曇天あるいは雨天時、また、早朝あるいは夕刻時において、日射量が低い状態が長時間続くことが多い。日射量が不十分な状態では、電気分解により得られる水素ガスの発生量も少なくなる。
しかし、本実施形態においては、陰極室に水が収容されている分、発生した水素ガスが占有できるスペースが少なくなっているので当該水素ガスの圧力が速やかに向上することになる。
従って、本実施形態の水素・酸素発生装置では従来の水素・酸素発生装置に比べ、日射量が低く得られる電力が少ない状態においても電気分解が再開可能となるため、より多くの再生可能エネルギーを有効活用することができる。風力発電あるいは潮力発電でも低電力の状態があるが、同様に再生可能エネルギーの有効活用が可能となる。
【0042】
上記のようなことから本実施形態の水素・酸素発生装置を使った水素ガス製造方法では、再生可能エネルギーをより多く活用することができ、製造する水素ガスをより環境負荷の低いものとすることができる。
【0043】
本実施形態に係る水素・酸素発生装置1は、固体高分子電解質膜にピンホールが形成された場合などといった緊急停止時の安全対策として、水素・酸素発生装置1内(具体的には、水素ガスを含む酸素ガス、或いは、水素ガスを含みうる酸素ガスを移送する移送経路内)を窒素ガスでパージする窒素ガスパージ機構(図示せず)を備えてもよい。
【0044】
本実施形態に係る水素・酸素発生装置1は、上記のように構成されているので、以下の利点を有するものである。
【0045】
本実施形態の水素・酸素発生装置は、水を電気分解して水素ガスと酸素ガスとを発生させる水電解モジュールを備え、該水電解モジュールが水素ガスを発生させる陰極室と、酸素ガスを発生させる陽極室とを備えており、前記電気分解を停止した後に前記陰極室に水を供給して該陰極室内の水素ガスを排出させる水供給機構をさらに備えている。
【0046】
斯かる水素・酸素発生装置によれば、前記電気分解を停止する際に、陰極室内の水素ガスが排出されることにより、水素ガスが陽極側に移行して酸素ガス中の水素ガス濃度が上昇してしまうことを抑制し得る。
【0047】
本実施形態において水の電気分解が停止した後の前記水供給機構による陰極室への水の供給は、電気分解の停止直後に開始してもよく、タイマー制御などによって電気分解の停止後に一定の時間(例えば、0.5分~30分)が経過した後に開始するようにしてもよい。
例えば、デイタイムに太陽光発電によって得た電気エネルギーで水の電気分解を行っている最中に突然の日照不足が生じて電気分解を停止しなければならなくなったような場合、比較的、短時間に日射が回復して電気分解が再開可能な状態になることがある。
本実施形態においては、そのような場合においてまで前記水供給機構を稼働させるには及ばない。
そのため、電気分解を停止させた後、直ぐに前記水供給機構による給水を行うのではなく、予め定めた設定時間(例えば、0.5分~30分)が経過するまで待っても電気分解が再開可能な状態にならない場合に前記水供給機構を稼働させるようにしてもよい。
この点に関しては他の再生可能エネルギーに由来する電力で電気分解を行う場合も同じである。
【0048】
本実施形態の水素・酸素発生装置は、前記水供給機構によって供給された前記水の移動経路を遮断して前記陰極室から前記水が流出することを抑制する遮断弁71が備えられている
しかも、前記遮断弁71は、気液分離器よりも上流側での前記水素ガス移送経路に設けられている。
斯かる水素・酸素発生装置1によれば、前記遮断弁71により、陰極室に水をより確実に留めておくことが出来る。
しかも、陰極室に気液分離器などからの圧力が加わることが抑制される。
従って、水素ガスが陽極側に移行するのをより一層抑制できる。
【0049】
本実施形態の水素・酸素発生装置は、前記陰極室に連通された水素ガス移送経路に設けた給水部に対して水が供給されるようになっており、水電解モジュールが電気分解を停止した後は、水素ガス移送経路を通じて陰極室への水の供給が行われるようになっている。
斯かる水素・酸素発生装置1では、陰極室から水素ガスを排出させるための水の流入口を特別に設けたりする必要性がないため、装置構成がシンプルなものとなり得る。
【0050】
本実施形態の水素・酸素発生装置は、上記のように構成されていることで上記のような効果を奏するが、本発明の水素・酸素発生装置は、上記のように構成されている必要性はなく、種々の態様を採用し得る。
【0051】
上記例示においては詳述していないが、本実施形態の水素・酸素発生装置は、例えば、陰極室で発生した水素の一部が陽極室で発生した酸素ガスに混入したことを検知するための水素ガス濃度計を備えていてもよい。
酸素ガスに含まれる水素ガスの濃度を水素ガス濃度計で測定する場合、陽極室で発生した直後の酸素ガスを検査用ガスにしてもよく、前記給水タンクに収容されている酸素ガスを検査用ガスとしてもよい。
そして、本実施形態における前記水供給機構は、この水素ガス濃度計での計測結果に基づいて動作するものであってもよい。
具体的には、水の電気分解が停止した後の前記水供給機構による陰極室への給水は、前記電気分解を停止する前、又は、前記電気分解を停止した後の少なくとも一方において前記水素ガス濃度計で計測される水素濃度が予め定めた規定値未満の場合に実施せず、該水素濃度が前記規定値以上の場合に実施するようにしてもよい。
即ち、酸素ガスにおける水素濃度が十分低濃度である場合は、水供給機構を稼働させないようにしてもよい。
【0052】
また、本実施形態の水素ガス製造方法では、水素・酸素発生装置を使って水素ガスが製造される。
そして、本実施形態の水素ガス製造方法で用いる水素・酸素発生装置は、水を電気分解して水素ガスと酸素ガスとを発生させる水電解モジュールを備え、該水電解モジュールが前記水素ガスを発生させる陰極室と、前記酸素ガスを発生させる陽極室とを備えている。
しかも、本実施形態の水素ガス製造方法では、前記電気分解を停止した後に水が供給され前記陰極室から水素ガスが排出される。
【0053】
斯かる水素製造方法では、前記電気分解を停止する際に、陰極室内の水素ガスが排出されることにより、水素ガスが陽極側に移行して酸素ガス中の水素ガス濃度が上昇してしまうことが抑制され得る。
【0054】
本実施形態の水素ガス製造方法では、前記陰極室で発生させた前記水素ガスを、前記電気分解の停止後且つ前記水の供給前に、系外に放出して前記陰極室の圧力を低下させるようにしている。
そのため、本実施形態では、陰極室への水の供給をスムーズに行うことができる。
【0055】
また、本実施形態の水素ガス製造方法では、前記供給される前記水の量、及び、前記供給が行われる時間の少なくとも一方について予め規定値を設定し、前記水の前記供給が該規定値を満たしたときには前記水の供給停止が行われるようになっている。
従って、本実施形態では、必要以上に水が供給されて却って不具合が生じてしまうおそれを抑制させることができる。
【0056】
本実施形態の水素ガス製造方法では、上記のような利点を得ることができるが、本発明の水素製造方法では、このような態様に限定されることなく、種々の態様を採用し得る。
即ち、本発明は上記例示に何等限定されるものではない。
【符号の説明】
【0057】
1:水素・酸素発生装置、2:水電解モジュール、3:気液分離器(給水タンク)(陽極側気液分離器)、4:気液分離器(陰極側気液分離器)、5:給水経路、6:返送経路、7:第1水素ガス移送経路、9:バイパス経路、10:除湿部、11:水素ガスタンク、12:第2水素ガス移送経路、12a:分岐地点、13:分岐経路、13a:水素ガス放出弁、21:ガス排出口、51:給水ポンプ、52:循環水遮断弁、71:遮断弁、91:第1接続地点、92:第2接続地点、93:給水制御弁、100:循環経路、200:水供給機構
図1
図2