IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社DNPファインケミカルの特許一覧 ▶ 大日本印刷株式会社の特許一覧

特許7288357インクセット、積層体、積層体の製造方法及び記録方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-30
(45)【発行日】2023-06-07
(54)【発明の名称】インクセット、積層体、積層体の製造方法及び記録方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/40 20140101AFI20230531BHJP
   C09D 11/322 20140101ALI20230531BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20230531BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20230531BHJP
【FI】
C09D11/40
C09D11/322
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019122419
(22)【出願日】2019-06-28
(65)【公開番号】P2021008552
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000183923
【氏名又は名称】株式会社DNPファインケミカル
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】牧本 祐二
(72)【発明者】
【氏名】小谷 亮介
(72)【発明者】
【氏名】大熊 幸平
(72)【発明者】
【氏名】山崎 史絵
(72)【発明者】
【氏名】大柿 めぐ美
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-282811(JP,A)
【文献】特開2001-081370(JP,A)
【文献】国際公開第2015/050219(WO,A1)
【文献】特開平11-228888(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0170745(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00- 13/00
B41J 2/01- 2/215
B41M 5/00- 5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イエロー系顔料が含有されたイエローインクと、
マゼンダ系顔料が含有されたマゼンダインクと、
を含有し、
前記イエロー系顔料は、C.I.ピグメントイエロー110を含有し、
前記マゼンダ系顔料は、C.I.ピグメントバイオレット19を含有し、
前記イエローインクを基材に塗布することにより形成されたイエロー系塗膜におけるCIELAB空間において定義される知覚色度指数a及びbから算出される色相距離D=√(a^2+b^2)は、105以上、かつ知覚色度指数a及びbから算出される色相角H=tan-1(b/a)は、70°以上85°以下であり、
前記マゼンダインクを基材に塗布することにより形成されたマゼンダ系塗膜におけるCIELAB空間において定義される知覚色度指数a及びbから算出される色相距離D=√(a^2+b^2)は、73以上、かつ知覚色度指数a及びbから算出される色相角H=tan-1(b/a)は、-20°以上25°以下である、化粧板の製造に用いられるインクセット。
【請求項2】
前記イエローインクに含有される前記イエロー系顔料は、イソインドリノン系顔料である、請求項1に記載のインクセット。
【請求項3】
前記イエローインクに含有されるイエロー系顔料の含有量はイエローインク100質量部中2.0質量部以上15.0質量部以下であり
前記マゼンダインクに含有されるマゼンダ系顔料の含有量はマゼンダインク100質量部中2.0質量部以上15.0質量部以下である、請求項1又は2に記載のインクセット。
【請求項4】
インクジェット方式に用いられる請求項1から3のいずれかに記載のインクセット。
【請求項5】
基材上に、請求項1か4のいずれかに記載のインクセットに含有されイエローインクと、マゼンダインクと、少なくとも1つを含む塗膜である加飾層が形成された積層体。
【請求項6】
請求項1か4のいずれかに記載のインクセットに含有されるイエローインクとマゼンダインクとの少なくとも1つを基材の表面にインクジェット方式にて吐出する積層体の製造方法。
【請求項7】
請求項1か4のいずれかに記載のインクセットに含有されるイエローインクとマゼンダインクとの少なくとも1つを基材の表面にインクジェット方式にて吐出する記録方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクセット、積層体、積層体の製造方法及びインクジェット方式にて吐出する記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インク組成物として、各種の水溶性染料を水、又は水と有機溶剤との混合液に溶解させた水性型のインク組成物や水を含有せず、有機溶剤を主成分とする溶剤型のインク組成物や活性エネルギー線重合性化合物を含有する活性エネルギー線硬化型のインク組成物が広く用いられている。
【0003】
また、カラー記録用のインク組成物においては、通常3原色であるイエローインクと、マゼンダインクと、シアンインクと、を含むインクセットにブラックインクを加えたインクセットが用いられている。通常3原色である各色のインク組成物の転移量、特にインクジェット方式の場合に於いては吐出量を調整して種々の色相を表現することができる。
【0004】
しかしながら、異なる色のインク組成物を用いて形成された塗膜(加飾層)は、彩度が低下するため、表現できる色相が限定されることがある。そのため、彩度が低下せず、色表現性の広いインクセットが求められている。
【0005】
例えば、特許文献1には、C.I.ピグメントイエロー120を含むイエローインクと、C.I.ピグメントバイオレット19を含むマゼンダインクと、を含むインクセットが開示されている。特許文献1には、このようなインクセットは、画像の色彩度及び反射色濃度が高く、筋ムラが目立たず、光沢性及び柔軟性に優れた印刷物(積層体)を得ることができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-209668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、色表現性の広いインクセットであって、彩度の低下を抑制することができるインクセットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討をした結果、インク組成物を基材に塗布することにより形成された塗膜における知覚色度指数から算出される色相距離Dと、色相角Hと、が特定されたインクセットであれば上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0009】
(1)イエロー系顔料が含有されたイエローインクと、マゼンダ系顔料が含有されたマゼンダインクと、を含有し、前記イエローインクを基材に塗布することにより形成されたイエロー系塗膜におけるCIELAB空間において定義される知覚色度指数a及びbから算出される色相距離D=√(a^2+b^2)は、105以上、かつ知覚色度指数a及びbから算出される色相角H=tan-1(b/a)は、70°以上85°以下であり、前記マゼンダインクを基材に塗布することにより形成されたマゼンダ系塗膜におけるCIELAB空間において定義される知覚色度指数a及びbから算出される色相距離D=√(a^2+b^2)は、73以上、かつ知覚色度指数a及びbから算出される色相角H=tan-1(b/a)は、-20°以上25°以下である、インクセット。
【0010】
(2)前記イエローインクに含有される前記イエロー系顔料は、イソインドリノン系顔料である、(1)に記載のインクセット。
【0011】
(3)前記イエローインクに含有されるイエロー系顔料の含有量はイエローインク100質量部中2.0質量部以上15.0質量部以下であり前記マゼンダインクに含有されるマゼンダ系顔料の含有量はマゼンダインク100質量部中2.0質量部以上15.0質量部以下である、(1)又は(2)に記載のインクセット。
【0012】
(4)インクジェット方式に用いられる(1)から(3)のいずれかに記載のインクセット。
【0013】
(5)基材上に、(1)か(4)のいずれかに記載のインクセットに含有されイエローインクと、マゼンダインクと、少なくとも1つを含む塗膜である加飾層が形成された積層体。
【0014】
(6)(1)か(4)のいずれかに記載のインクセットに含有されるイエローインクとマゼンダインクとの少なくとも1つを基材の表面にインクジェット方式にて吐出する積層体の製造方法。
【0015】
(7)(1)か(4)のいずれかに記載のインクセットに含有されるイエローインクとマゼンダインクとの少なくとも1つを基材の表面にインクジェット方式にて吐出する記録方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、色表現性の広いインクセットであって、彩度の低下を抑制することができるインクセットである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0018】
<1.インクセットの概要>
本実施の形態に係るインクセットは、少なくともイエローインク及びマゼンダインクを含む。本明細書におけるインクセットとは、例えばイエローインク及びマゼンダインクを含むような色の異なるインク組成物を含むインクセットを意味するものであり、例えば、イエローインク、マゼンダインク、シアンインクからなるインクセットやそれにブラックインクやホワイトインク等を加えたインクセットを含む概念である。
【0019】
そして、このインクセットに含まれるイエローインクは、イエローインクを基材に塗布することにより形成されたイエロー系塗膜の色相距離Dは、105以上であり、色相角Hは、70°以上85°以下である。また、このインクセットに含まれるマゼンダインクは、マゼンダインクを基材に塗布することにより形成されたマゼンダ系塗膜の色相距離Dは、73以上であり、色相角Hは、-20°以上25°以下である。
【0020】
ここで、色相距離D及び色相角Hは、CIELAB空間において定義される知覚色度指数a及びbから算出される値であって、色相距離D=√(a^2+b^2)、色相角H=tan-1(b/a)の式で定義される。なお、「√」とはルート(1/2乗)を意味し、「^2」は2乗を意味し、「tan-1」とはタンジェントの逆数を意味し、色相角Hの度数法(単位は°)により表される値である。
【0021】
本発明者の見解によれば、上記の条件を満たすイエローインク及びマゼンダインクを含むインクセットであれば、異なる色のインク組成物を混色することによる彩度の低下が抑制されて、色表現性を効果的に広げることができる。
【0022】
本実施の形態に係るインクセットに含まれるイエローインク及びマゼンダインク以外のインク組成物(例えば、シアンインク、ブラックインク、ホワイトインク)は特に制限されずに使用することができる。
【0023】
本実施の形態に係るインクセットは、イエローインクと、マゼンダインクと、の2つのインク組成物を用いることにより、色表現性を効果的に高めることができることに特徴がある。例えば、従来の3つ以上のインク組成物を用いることにより、色表現性に広げることも可能ではあるが、より多くのインク組成物を用いて基材上に塗膜(加飾層)を形成すると、インクセット全体としてインク組成物の消費量が増加してしまい、積層体の製造のコストが増大する。また、異なる色のインク組成物をより多く用いると、塗膜(加飾層)の彩度が低下することとなる。本実施の形態に係るインクセットは、イエローインクと、マゼンダインクと、の2つのインク組成物のみを用いて、特に知覚色度指数が0≦a、0≦bの範囲で色表現性を高めることが可能である。知覚色度指数が0≦a、0≦bの範囲の色の塗膜(加飾層)を形成する場合にインク組成物の消費量を抑制し、更に塗膜(加飾層)の彩度が低下することを効果的に抑制することが可能となる。
【0024】
色相距離D及び色相角Hの算出の前提となる知覚色度指数a及びbを測定するための塗膜(加飾層)は、例えば、インクジェット方式にて吐出することにより形成することができる。例えば、600×600dpi、12pl、インク組成物100%の記録パターン(印刷パターン)で基材の表面に塗布する方法が挙げられる。知覚色度指数a及びbの測定は、D50光源、2°視野角の条件によって例えば、X-Rite eXact(エックスライト社製)を用いて測定することができる。
【0025】
次に、インクセットを構成するインク組成物ついて説明する。
【0026】
<2.インク組成物>
インク組成物は、少なくとも、色材と、樹脂と、溶媒(水及び/又は有機溶剤)を含有する。又は、インク組成物が活性エネルギー線硬化型のインク組成物である場合には、後述するように活性エネルギー線重合性化合物を含有する。以下、インク組成物に含有される色材、その他の添加剤について説明する。
【0027】
以下、水性型のインク組成物に含まれる各成分について各々説明する。
【0028】
(色材)
インクセットに含まれる水性型のインク組成物は色材を含有する。色材は、所定の色相距離D及び色相角Hを満たすような加飾層(塗膜)を形成することができれば特に制限はされない。色材は、インク組成物に一般的に用いられる、染料又は顔料を用いることができる。
【0029】
マゼンダインクに含有されるマゼンダ系色材は、キナクリドン系顔料であることが好ましく、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントバイオレット19等が好ましい。
【0030】
CIELAB空間における0≦a、0≦bの範囲での面積を広くする観点では、マゼンダインクに含有されるマゼンダ系色材としてはC.I.ピグメントバイオレット19を用いることが好ましい。0≦a、0≦bの範囲での色表現性を広くすることが可能となる。一方、CIELAB空間における0≦a、0≧bの範囲での面積を広くする観点では、マゼンダインクに含有されるマゼンダ系色材としてはC.I.ピグメントレッド122を用いることが好ましい。0≦a、0≧bの範囲での色表現性を広くすることが可能となる。
【0031】
イエローインクに含有されるイエロー系色材はC.I.ピグメントイエロー110、C.I.ピグメントイエロー83等が挙げられる。所定の色相距離D及び色相角Hを満たすような加飾層(塗膜)を形成することができることに加え、耐候性の高い加飾層(塗膜)を形成することができることからこのイエロー色材はイソインドリノン系顔料であることが好ましく、イソインドリノン系顔料の中でもC.I.ピグメントイエロー110が特に好ましい。
【0032】
特にマゼンダインクに含有されるマゼンダ系色材としてC.I.ピグメントバイオレット19を用いて、イエローインクに含有されるイエロー系色材としてC.I.ピグメントイエロー110を用いたインクセットであれば、耐候性の高い加飾層(塗膜)を形成することができるようになる。このようなインクセットは、特に長時間室内又は屋外に静置されることのある用途(例えば、化粧板用途)として特に有用なものである。
【0033】
なお、例えば、シアンインク、ブラックインクなどのマゼンタインク及びイエローインク以外のインク組成物については、従来公知の色材を用いればよい。色材は、従来のインク組成物に通常用いられている染料や無機顔料、有機顔料等どのようなものであってもよい。例えば、カーボンブラック、カドミウムレッド、モリブデンレッド、クロムイエロー、カドミウムイエロー、チタンイエロー、酸化チタン、酸化クロム、ビリジアン、チタンコバルトグリーン、ウルトラマリンブルー、プルシアンブルー、コバルトブルー、ジケトピロロピロール、アンスラキノン、ベンズイミダゾロン、アンスラピリミジン、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、ジオキサジン系顔料、スレン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、チオインジゴ系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料、アルミペースト、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、クレー、沈降性硫酸バリウム、パール顔料等が挙げられる。
【0034】
マゼンダインクの場合、マゼンダ系色材の含有量は、マゼンダインク100質量部中2.0質量部以上であることが好ましく、マゼンダインク100質量部中3.0質量部以上であることがより好ましく、マゼンダインク100質量部中4.0質量部以上であることが更に好ましい。これにより、基材の表面に形成された加飾層(塗膜)の発色性を向上させることができる。マゼンダ系色材の含有量は、マゼンダインク100質量部中20.0質量部以下であることが好ましく、15.0質量部以下であることがより好ましい。
【0035】
イエローインクの場合、イエロー系色材の含有量は、イエローインク100質量部中2.0質量部以上であることが好ましく、イエローインク100質量部中3.0質量部以上であることがより好ましく、イエローインク100質量部中4.0質量部以上であることが更に好ましい。これにより、基材の表面に形成された加飾層(塗膜)の発色性を向上させることができる。イエロー系色材の含有量は、イエローインク100質量部中20.0質量部以下であることが好ましく、15.0質量部以下であることがより好ましい。
【0036】
特に、インクセットがインクジェット方式に用いられるインクセットである場合に於いては、色材の分散性の観点からインク100質量部中2.0質量部以上15.0質量部以下であることが特に好ましい。
【0037】
マゼンダインク及びイエローインク以外のインク組成物については、色材の含有量は、特に限定されるものではないが、インク組成物100質量部中2.0質量部以上であることが好ましく、インク組成物100質量部中3.0質量部以上であることがより好ましく、インク組成物100質量部中4.0質量部以上であることが更に好ましい。色材の含有量は、インク組成物100質量部中20.0質量部以下であることが好ましく、15.0質量部以下であることがより好ましい。
【0038】
色材を顔料にした場合、その顔料の平均分散粒径は、所望の発色が可能なものであれば特に限定されるものではない。顔料の種類によっても異なるが、顔料の分散安定性が良好で、充分な着色力を得る点から、顔料の平均粒径は、70nm以上が好ましく、500nm以下が好ましい。平均分散粒径が500nm以下であれば、特にインクジェット方式でインク組成物を吐出する場合に於いては、インクジェットヘッドのノズル目詰まりを起こしにくく、再現性の高い均質な画像を得ることができる。平均分散粒径が70nm以上であれば、得られる積層体の耐候性を良好なものとすることができる。なお、顔料の平均分散粒径は、測定温度25℃にて濃厚系粒径アナライザー(大塚電子(株)製、型式:FPAR-1000)を用いて測定することができる。
【0039】
以下、水性型のインク組成物と溶剤型のインク組成物と活性エネルギー線硬化型のインク組成物について説明する。
【0040】
[2-1.水性型のインク組成物]
水性型のインク組成物とは、水を主成分とし、有機溶媒を含有してもよいインク組成物である。このインク組成物は基材の表面に転移し、特にインクジェット方式の場合に於いては吐出されて、そのインク組成物から水や有機溶剤を揮発させて加飾層となる。
【0041】
水性型のインク組成物は、低コストであり活性エネルギー線を照射せずに加飾層を形成することができる。また、水を主成分とする溶媒を使用した場合には、安全であり環境面でも優れるインク組成物である。
【0042】
[水]
水性型のインク組成物において、含有される水としては、種々のイオンを含有するものではなく、脱イオン水を使用することが好ましい。水の含有量としては、各成分を分散又は溶解可能な含有量であれば特に限定されるものではないが、インク組成物全量中に10質量%以上であることが好ましく、中でもインク組成物全量中に20質量%以上であることが好ましく、特にインク組成物全量中に30質量%以上であることが好ましい。インク組成物全量中に95質量%以下であることが好ましく、中でもインク組成物全量中に90質量%以下であることがより好ましい。
【0043】
[有機溶剤]
水性型のインク組成物に含有される有機溶剤は、インク組成物に含有される成分を分散又は溶解することができるものである。このような有機溶剤としては、水溶性を有する水溶性溶媒であっても非水溶性溶媒であってもよい。ここで、水溶性を有するとは、25℃の水100質量部中に、1気圧下で5質量部以上溶解することができるものをいう。
【0044】
水溶性溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n-ペンタノール等の炭素数1~5のアルキルアルコール類;3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、3-メトキシ-1-プロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール、3-メトキシ-n-ブタノール等の1価のアルコール類;1-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、3-メトキシプロパンアミド、3-ブトキシプロパンアミド、N,N-ジメチル-3-メトキシプロパンアミド、N,N-ジブチル-3-メトキシプロパンアミド、N,N-ジブチル-3-ブトキシプロパンアミド、N,N-ジメチル-3-ブトキシプロパンアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシエチレン又はオキシプロピレン共重合体;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、イソブチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール等のジオール類;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2,6-ヘキサントリオール等のトリオール類:メソエリスリトール、ペンタエリスリトール等の4価アルコール類;エチレングリコールモノメチル(又はエチル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル)エーテル、プロピレングリコールモノメチル(又はエチル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル)エーテル、ジプロピレングリコールモノメチル(又はエチル、イソプロピル、n-ブチル,イソブチル)エーテル等のモノアルキルエーテル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル等の多価アルコールのジアルキルエーテル類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、N-ブチルエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-ブチルジエタノールアミン等のアルカノールアミン類;N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等の含窒素複素環化合物;γ-ブチロラクトン、スルホラン等の環状化合物等が挙げられる。
【0045】
水溶性溶媒の含有量は、インク100質量部中20質量部以上であることが好ましい。水溶性溶媒の含有量は、インク100質量部中55質量部以下であることが好ましい。これにより、インク組成物に含まれる色材(顔料)や樹脂の分散性や溶解性を向上させることができる。
【0046】
また、沸点が250℃以上の水溶性溶媒を含有してもよいが、インクセットに含まれるそれぞれのインク組成物に含まれる沸点が250℃以上の水溶性有機溶媒の含有量は、インク組成物100質量部中15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましく、5質量部以下であることが更に好ましい。
【0047】
[顔料分散剤]
水性型のインク組成物には顔料分散剤が含有されていてもよい。ここで顔料分散剤とは、顔料表面の一部に付着することでインク内での顔料の分散性を向上させる機能を有する樹脂又は界面活性剤のことを意味する。
【0048】
水性型のインク組成物において、用いることのできる顔料分散剤は特に限定されない。例えば、カチオン系、アニオン系、ノニオン系、両性、シリコーン(シリコン)系、フッ素系等の界面活性剤を使用できる。界面活性剤の中でも、次に例示するような高分子界面活性剤(高分子分散剤)が好ましい。
【0049】
水性型のインク組成物おいて用いることのできる顔料分散剤としては、水溶性高分子分散剤を好ましく用いることができる。水溶性高分子分散剤としては、例えば、ポリエステル系、ポリアクリル系、ポリウレタン系、ポリアミン系、ポリカプトラクトン系の主鎖を有し、側鎖に、アミノ基、カルボキシ基、スルホ基、ヒドロキシ基等の極性基を有する分散剤等が挙げられる。例えば、ポリアクリル酸エステル等の不飽和カルボン酸エステルの(共)重合体類;スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物とアクリル酸エステル等の不飽和カルボン酸エステルの共重合体類;ポリアクリル酸等の不飽和カルボン酸の(共)重合体の(部分)アミン塩、(部分)アンモニウム塩や(部分)アルキルアミン塩類;水酸基含有ポリアクリル酸エステル等の水酸基含有不飽和カルボン酸エステルの(共)重合体やそれらの変性物;ポリウレタン類;不飽和ポリアミド類;ポリシロキサン類;長鎖ポリアミノアミドリン酸塩類;ポリエチレンイミン誘導体(ポリ(低級アルキレンイミン)と遊離カルボキシル基含有ポリエステルとの反応により得られるアミドやそれらの塩基);ポリアリルアミン誘導体(ポリアリルアミンと、遊離のカルボキシル基を有するポリエステル、ポリアミド又はエステルとアミドの共縮合物(ポリエステルアミド)の3種の化合物の中から選ばれる1種以上の化合物とを反応させて得られる反応生成物)等が挙げられる。中でも、(メタ)アクリル樹脂を含有する水溶性高分子分散剤が、インクの分散安定性と、加飾層の画像鮮明性の観点から好ましい。
【0050】
水溶性高分子分散剤の具体例としては、SARTOMER社製SMA1440、SMA2625、SMA17352、SMA3840、SMA1000、SMA2000、SMA3000、BASFジャパン社製JONCRYL67、JONCRYL678、JONCRYL586、JONCRYL611、JONCRYL680、JONCRYL682、JONCRYL690、JONCRYL819、JONCRYL-JDX5050、EFKA4550、EFKA4560、EFKA4585、EFKA5220、EFKA6230、ルーブリゾール社製SOLSPERSE20000、SOLSPERSE27000、SOLSPERSE41000、SOLSPERSE41090、SOLSPERSE43000、SOLSPERSE44000、SOLSPERSE46000、SOLSPERSE47000、SOLSPERSE54000、ビックケミー社製BYKJET-9150、BYKJET-9151、BYKJET-9170、DISPERBYK-168、DISPERBYK-190、DISPERBYK-198、DISPERBYK-2010、DISPERBYK-2012、DISPERBYK-2015、等が挙げられる。これらの顔料分散剤は、水性型のインク組成物において好適に用いることができる。
【0051】
水性型のインク組成物において、色材として顔料を用いる場合、用いることのできる顔料は、顔料を顔料分散剤によって水溶性溶媒中に分散させた顔料分散体、であっても、顔料の表面に直接に親水性基を修飾した自己分散型顔料とした顔料分散体であってもよい。本実施形態において、水性型のインク組成物に用いることのできる顔料は、複数の先述した有機顔料や無機顔料を併用してもよく、先述した顔料分散剤によって水溶性溶媒中に分散させた顔料分散体と自己分散型顔料を併用したものであってもよい。自己分散型顔料を用いる場合、従来公知の自己分散型顔料を用いることができる。
【0052】
[樹脂]
水性型のインク組成物には樹脂を含有してもよい。樹脂は本実施形態のインク組成物において必須ではないが、インク組成物に樹脂を含有することで、インク組成物により形成される加飾層の耐水性が向上する。また、水性型のインク組成物では、含有する樹脂の少なくとも一部は、樹脂エマルジョンとして含有することが好ましい。本実施形態の水性型のインク組成物において、樹脂エマルジョンとは、連続相が水溶性溶媒であり、分散粒子が樹脂微粒子である水性分散液を意味する。樹脂エマルジョンを形成することによって、樹脂が静電反発力によって樹脂微粒子として水性型のインク組成物中に分散することができる。上記樹脂エマルジョンは、一般に連続相である水溶性溶媒が蒸発や浸透等により減少すると、増粘・凝集する性質を持ち、色材(顔料)の基材への定着を促進する効果を有する。
【0053】
本実施形態の水性型のインク組成物に含有される樹脂は、所望の耐水性を示すことができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン(シリコン)樹脂、アクリルアミド樹脂、エポキシ樹脂、硝化綿等のセルロース系樹脂或いはこれらの共重合樹脂や混合物を用いることができる。これらのものは耐水性に加えて耐溶剤性も向上させることができる点で好ましい。中でも、耐水性及び耐溶剤性に優れたものとすることができ、特にインクジェット方式でインク組成物を吐出する場合に於いては吐出安定性に優れたものとすることができることからアクリル樹脂を含むものであることが好ましい。
【0054】
アクリル樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステルモノマーを構成するモノマーの主成分として含むものであれば特に限定されるものではない。(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、公知の化合物を使用することができ、単官能の(メタ)アクリル酸エステルを好ましく用いることができる。例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アラルキルエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル等を挙げることができる。具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸-n-プロピル、(メタ)アクリル酸-iso-プロピル、(メタ)アクリル酸-n-ブチル、(メタ)アクリル酸-sec-ブチル、(メタ)アクリル酸-iso-ブチル、(メタ)アクリル酸-tert-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸-iso-オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸-iso-ノニル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸-2-メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸プロパギル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ナフチル、(メタ)アクリル酸アントラセニル、(メタ)アクリル酸アントラニノニル、(メタ)アクリル酸ピペロニル、(メタ)アクリル酸サリチル、(メタ)アクリル酸フリル、(メタ)アクリル酸フルフリル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフリル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸ピラニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェネチル、(メタ)アクリル酸クレジル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸-3,4-エポキシシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸-3,4-エポキシシクロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸-1,1,1-トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオルエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロ-n-プロピル、(メタ)アクリル酸パーフルオロ-iso-プロピル、(メタ)アクリル酸ヘプタデカフルオロデシル、(メタ)アクリル酸トリフェニルメチル、(メタ)アクリル酸クミル、(メタ)アクリル酸-3-(N,N-ジメチルアミノ)プロピル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-シアノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸トリエトキシシリルプロピル、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等の(メタ)アクリル酸エステル類、等が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び「メタクリル」の両者を意味するものである。これらのモノマーは、三菱レイヨン(株)、日本油脂(株)、三菱化学(株)、日立化成工業(株)等から入手することができる。
【0055】
市販の樹脂エマルジョンとしては、例えば、アクリットWEM-031U、WEM-200U、WEM-321、WEM-3000、WEM-202U、WEM-3008、(大成ファインケミカル(株)製、アクリル-ウレタン樹脂エマルジョン)、アクリットUW-550CS、UW-223SX、AKW107、RKW-500(大成ファインケミカル(株)製、アクリル樹脂エマルジョン)、LUBRIJET N240(ルーブリゾール製、アクリル樹脂エマルジョン)、スーパーフレックス150、210、470、500M、620、650、E2000、E4800、R5002(第一工業製薬(株)製、ウレタン樹脂エマルジョン)、ビニブラン701FE35、701FE50、701FE65、700、701、711、737、747(日信化学(株)製、塩ビ-アクリル樹脂エマルジョン)、ビニブラン2706、2685(日信化学(株)製、アクリル樹脂エマルジョン)、モビニール743N、6600、7470、7720、(日本合成化学(株)製、アクリル樹脂エマルジョン)、PRIMAL AC-261P、 AC-818(ダウ・ケミカル社製 アクリル樹脂粒子エマルジョン)等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
樹脂エマルジョンの平均粒子径は、インク組成物中での分散安定性の観点、特にインクジェット方式でインク組成物を吐出する場合に於いては吐出安定性の観点から、下限は30nm以上が好ましく、50nm以上がより好ましい。上限は300nm以下が好ましく、250nm以下がより好ましい。なお、本実施形態において、樹脂エマルジョンの数平均粒子径は、測定温度25℃にて濃厚系粒径アナライザー(大塚電子(株)製、型式:FPAR-1000)を用いて測定することができる。
【0057】
樹脂エマルジョンの質量平均分子量は、インク組成物の安定性と、膜耐水性の観点から、10000以上が好ましく、100000以上がより好ましい。樹脂エマルジョンの質量平均分子量は、インク組成物の安定性と、膜耐水性の観点から、1000000以下が好ましく、500000以下がより好ましい。なお、本実施形態において樹脂の分子量は、質量平均分子量Mwを示すものであり、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定された値であり、東ソー(株)製の「HLC-8120GPC」にて、校正曲線用ポリスチレンスタンダードを標準にして測定することができる。
【0058】
樹脂エマルジョンのガラス転移点(Tg)は、低吸収性記録媒体や非吸収性記録媒体に記録(印刷)した場合でも、耐水性、耐溶剤性及び耐擦過性を有する装飾層を備える積層体を形成可能であることから、また、積層体を形成するために高い温度をかけることを回避でき、多くのエネルギーを不要とすることや、積層体が熱による損傷を受けにくいものとすることができることから、0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましく、20℃以上がより好ましい。また、同様の理由により、100℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましく、80℃以下がより好ましい。なお、ガラス転移温度(Tg)は、例えば島津製作所(株)製の示差走査熱量計「DSC-50」にて測定することができる。
【0059】
樹脂エマルジョンは、カチオン性、ノニオン性、アニオン性いずれかに限定されるものではないが、樹脂エマルジョンの酸価は、積層体における加飾層の耐水性、インク組成物の保存安定性等の観点から、25mgKOH/g以下であることが好ましい。
【0060】
水性型のインク組成物において、インク組成物100質量部中に含まれる樹脂(樹脂エマルジョン)の質量部は、所望の耐水性及び耐溶剤性を有する積層体が形成可能であれば特に限定されるものではないが、例えば、インク組成物100質量部に0.05質量部以上であることが好ましく、中でも、0.1質量部以上であることが好ましく、更に0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上より好ましい。インク組成物100質量部に20質量部以下であることが好ましく、中でも、15質量部以下であることが好ましい。
【0061】
[界面活性剤]
水性型のインク組成物において、その他の添加剤として界面活性剤が含有されていてもよい。本実施形態の水性型のインク組成物において用いることのできる界面活性剤は、特に限定されるものではないが、例えば、ポリシロキサン化合物、アニオン系界面活性剤、非イオン性界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アルキレンオキサイド変性アセチレングリコール系界面活性剤、アルキレンオキサイド非変性アセチレングリコール系界面活性剤等を挙げることができる。
【0062】
本実施形態の水性型のインク組成物においては、中でも、アルキレンオキサイド非変性アセチレングリコール系界面活性剤、アルキレンオキサイド変性アセチレングリコール系界面活性剤、及びポリシロキサン化合物のいずれかを、表面張力調整剤として含むことが、インク組成物の基材に対する濡れ広がり性をより優れたものとすることができるため、好ましい。
【0063】
<2-2.溶剤型のインク組成物>
溶剤型のインク組成物とは、水を含有せず、有機溶剤を主成分とするインク組成物である。本実施形態の溶剤型のインク組成物において「水を含有しない」とは、水を意図的に含有させずに製造されたインク組成物であることを意味し、例えば大気中等に含有される水蒸気等や添加剤に含有される水等に起因するような製造者が意図しないような原因により含有されてしまうような水は考慮しない。
【0064】
[有機溶剤]
溶剤型のインク組成物において、上述した水性型のインク組成物に含有される有機溶剤と同様の有機溶剤を使用することができる。
【0065】
[樹脂]
本実施形態の溶剤型のインク組成物には樹脂を含有する。インク組成物に樹脂を含有することで、インク組成物により形成される加飾層の耐水性が向上する。樹脂としては、特に限定はなく、例えば、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン樹脂、ウレタン樹脂、ロジン変性樹脂、フエノール樹脂、テルペン系樹脂、ポリアミド樹脂、ビニルトルエン-α-メチルスチレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル系共重合体、セルロースアセテートブチレート、シリコーン(シリコン)樹脂、アクリルアミド樹脂、エポキシ樹脂、或いはこれらの共重合樹脂や混合物を用いることができる。
【0066】
本実施形態の溶剤型のインク組成物においては、中でも、耐水性及び耐溶剤性を向上させることができ、特にインクジェット方式でインク組成物を吐出する場合に於いては、高速記録時(高速印刷時)の吐出応答性を向上する点、及び吐出安定性を向上させることができることから、アクリル樹脂を含むものであることが好ましい。
【0067】
アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸エステルモノマーを構成するモノマーの主成分として含むものであれば特に限定されるものではなく、上述の水性型のインク組成物と同様のものを例示することができる。アクリル樹脂は、1種のラジカル重合性モノマーの単独重合体であってもよいし、ラジカル重合性モノマーを2種以上選択して用いた共重合体のいずれであってもよく、特に、本実施形態の溶剤型のインク組成物として好ましいアクリル樹脂は、メタクリル酸メチル単独の重合体、或いは、メタクリル酸メチルと、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸エトキシエチル、及びメタクリル酸ベンジルよりなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の化合物との共重合体である。
【0068】
本実施形態の溶剤型のインク組成物において、インク組成物100質量部中に含まれる樹脂の質量部は、特に限定されるものではないが、例えば、インク組成物中に0.05質量部以上であることが好ましく、中でも、0.1質量部以上であることが好ましく、更に0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましい。インク組成物100質量部中に含まれる樹脂の質量部は、特に限定されるものではないが、例えば、インク組成物中に20質量部以下であることが好ましく、中でも、15質量部以下であることがより好ましい。
【0069】
[分散剤]
本実施形態の溶剤型のインク組成物において必要に応じて分散剤を用いてもよい。分散剤としては、溶剤型のインク組成物において用いられている任意の分散剤を用いることができる。分散剤としては、高分子分散剤を用いるとよい。こうした分散剤としては、主鎖がポリエステル系、ポリアクリル系、ポリウレタン系、ポリアミン系、ポリカプロラクトン系などからなり、側鎖としてアミノ基、カルボキシル基、スルホン基、ヒドロキシル基などの極性基を有するものである。ポリアクリル系分散剤では、例えば、Disperbyk-2000、2001、2008、2009、2010、2020、2020N、2022、2025、2050、2070、2095、2150、2151、2155、2163、2164、BYKJET-9130、9131,9132,9133,9151(ビック・ケミー社製)が用いられる。ポリカプロラクトン系分散剤では、例えば、アジスパーPB821、PB822、PB881(味の素ファインテクノ(株)製)が用いられる。好ましい分散剤としては、ポリエステル系分散剤であり、例えばヒノアクトKF-1000、T-6000、T-7000、T-8000、T-8000E、T-9050(川研ファインケミカル(株)製)、Solsperse20000、24000、32000、32500、32550、32600、33000、33500、34000、35200、36000、37500、39000、71000(ルーブリゾール社製)、フローレンDOPA-15BHFS、17HF、22、G-700、900、NC-500、GW-1500(共栄社化学(株)製)、Efka4310、4320、4330、4401、4402、4403N、4570、7411、7477、7700(BASF社製)の単独、又はそれらの混合物を用いることができる。
【0070】
[界面活性剤]
また、本実施形態の溶剤型のインク組成物においては、ノズル部やチューブ内等の機器内での溶剤型のインク組成物の揮発抑制、固化防止、又は、固化した際の再溶解性を目的として、室温、大気圧下で液状の非イオン性ポリオキシエチレン誘導体を添加してもよい。例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類であるノニオンP-208、P-210、P-213、E-202S、E-205S、E-215、K-204、K-220、S-207、S-215、A-10R、A-13P、NC-203、NC-207(日本油脂(株)製)、エマルゲン106、108、707、709、A-90、A-60(花王(株)製)、フローレンG-70、D-90(共栄社化学(株)製)、ポエムJ-0081HV(理研ビタミン(株)製)、アデカトールNP-620、NP-650、NP-660、NP-675、NP-683、NP-686、アデカコールCS-141E、TS-230E((株)アデカ製)等、ソルゲン30V、40、TW-20、TW-80、ノイゲンCX-100(第一工業製薬(株)製)等が例示される。
【0071】
界面活性剤としては、上記に限られずアニオン系、カチオン系、両性又は非イオン系のいずれの界面活性剤も用いることができ、添加目的に合わせて適宜選択されればよい。
【0072】
(インク組成物の製造方法)
本実施形態の水性型のインク組成物や溶剤型のインク組成物を製造する方法は、色材と、樹脂と、溶媒(水及び/又は有機溶剤)と、を混合することによりインク組成物を製造する製造方法を挙げることができる。
【0073】
例えば、有機溶剤、水、色材、樹脂、界面活性剤及び必要に応じてその他の成分を添加して作製する方法、水と有機溶剤とを含有する溶媒に、色材と分散剤を加えて分散した後、樹脂、界面活性剤及び必要に応じてその他の成分を添加して作製する方法、水と有機溶剤とを含有する溶媒に色材と樹脂と界面活性剤と必要に応じてその他の成分を添加した後、色材を分散して作製する方法等が挙げられる。
【0074】
[2-3.活性エネルギー線硬化型のインク組成物]
活性エネルギー線硬化型のインク組成物とは、活性エネルギー線重合性化合物を含有するインク組成物である。活性エネルギー線重合性化合物とは、遠紫外線、紫外線、近紫外線、可視光線、赤外線、X線、γ線等の電磁波のほか、電子線、プロトン線、中性子線の活性エネルギー線を照射することにより重合されるエチレン性不飽和二重結合を有する化合物である。
【0075】
なお、活性エネルギー線硬化型のインク組成物に含有される色材は、上述した水性型や溶剤型のインク組成物に含有される色材と同様のものを用いることができる。
【0076】
(活性エネルギー線重合性化合物)
活性エネルギー線重合性化合物の例として、単官能重合性化合物や多官能重合性化合物を挙げることができる。単官能重合性化合物としては、テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)、トリメチロールプロパンフォルマルアクリレート(CTFA)、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチルアクリレート、(2-メチル-2-イソブチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチル(メタ)アクリレート、(シクロヘキサンスピロ-2-(1,3-ジオキソラン-4-イル))メチル(メタ)アクリレート、アルキルシクロアルキルアクリレートである4-t-ブチルシクロヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、2-フェノキシエチルアクリレート、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、γ-ブチロラクトンアクリレート、クレゾールアクリレート、2-アクリロイロキシエチルフタレート、2-アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチルフタレート、2-アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタレート、2-アクリロイロキシプロピルフタレート、パラクミルフェノキシエチレングリコールアクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコールアクリレート、1-アダマンチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、3-3-5-トリメチルシクロヘキサンアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、アクリロイルモルフォリン、N-ビニルカプロラクタム、イミドアクリレート、イソオクチルアクリレート、トリデシルアクリレート、ラウリルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、ステアリルアクリレート、イソデシルアクリレート、カプロラクトンアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリプロピレングリコールアクリレート、2-メトキシエチルアクリレート、エチルカルビトールアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、及び、これらのアクリレートにアルコキシ変性、及びカプロラクトン変性等の各種変性を有するもの、を挙げることができるがこれに限定されるものではない。
【0077】
多官能重合性化合物としては、(メタ)アクリル酸2-ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1-メチル-2-ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸1-メチル-3-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1-ビニロキシメチルプロピル、(メタ)アクリル酸2-メチル-3-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1,1-ジメチル-2-ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸1-メチル-2-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸6-ビニロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸p-ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸m-ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸o-ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(イソプロペノキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(イソプロペノキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(イソプロペノキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(イソプロペノキシエトキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールモノビニルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリアルキレングリコールジアクリレート、アルコキシ化ビスフェノールAジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、グリセリントリアクリレート、及びこれらの変性数違い、変性種違い、構造違いの(メタ)アクリレートを挙げることができる。
【0078】
(活性エネルギー線重合開始剤)
活性エネルギー線硬化型のインク組成物は、必要に応じて活性エネルギー線重合開始剤を含有してもよい。活性エネルギー線は、ラジカル、カチオン、アニオン等の重合反応の契機となり得るエネルギー線であれば、遠紫外線、紫外線、近紫外線、赤外線等の光線、X線、γ線等の電磁波のほか、電子線、プロトン線、中性子線等のいずれであってもよいが、硬化速度、照射装置の入手容易さ、価格等の観点において、紫外線照射による硬化が好ましい。活性エネルギー線重合開始剤としては、活性エネルギー線の照射により活性エネルギー線硬化型インク組成物中のエチレン性不飽和二重結合を有する化合物の重合反応を促進するものであれば特に限定されず、従来公知の活性エネルギー線重合開始剤を用いることができる。活性エネルギー線重合開始剤の具体例として、例えば、チオキサントン等を含む芳香族ケトン類、α-アミノアルキルフェノン類、α-ヒドロキシケトン類、アシルフォスフィンオキサイド類、芳香族オニウム塩類、有機過酸化物、チオ化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、及びアルキルアミン化合物等が挙げられる。
【0079】
活性エネルギー線重合開始剤の量は、活性エネルギー線重合性化合物の重合反応を適切に開始できる量であればよく、インク組成物100質量部中1.0質量部以上であることが好ましく、3.0質量部以上であることがより好ましい。また、インク組成物100質量部中20.0質量部以下であることが好ましい。なお、本実施の形態に係るインク組成物においては、活性エネルギー線重合開始剤は必ずしも必須でなく、例えば活性エネルギー線として電子線を用いる場合には活性エネルギー線重合開始剤は用いなくてもよい。
【0080】
(分散剤)
活性エネルギー線硬化型のインク組成物は、必要に応じて分散剤を含有してもよい。分散剤としては例えば高分子分散剤が挙げられる。この高分子分散剤の主鎖はポリエステル系、ポリアクリル系、ポリウレタン系、ポリアミン系、ポリカプロラクトン系等からなり、高分子分散剤は、側鎖としてアミノ基、カルボキシル基、スルホン基、ヒドロキシル基等の極性基やこれらの塩を有するのが好ましい。
【0081】
好ましい高分子分散剤はポリエステル系分散剤であり、具体例として、日本ルーブリゾール社製「ソルスパース33000」、「ソルスパース32000」、「ソルスパース24000」;ビックケミー社製「Disperbyk168」、;味の素ファインテクノ社製「アジスパーPB821」、エボニック・ジャパン社製「TEGO Dispers685」等が挙げられる。
【0082】
(その他の添加剤)
活性エネルギー線硬化型のインク組成物は、その他の添加剤として、可塑剤、重合禁止剤、光安定化剤、酸化防止剤等、種々の添加剤を含有していてもよい。なお、活性エネルギー線硬化型のインク組成物であっても水や有機溶剤を含有していてもよいが、水や有機溶剤は含有していないことが好ましい。水や有機溶剤は含有していない活性エネルギー線硬化型のインク組成物であれば、基材の表面に転移された形状を変化させずに加飾層を形成することができる。
【0083】
(活性エネルギー線硬化型のインク組成物の製造方法)
活性エネルギー線硬化型のインク組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。活性エネルギー線硬化型のインク組成物には、分散機を用いて、活性エネルギー線重合性化合物、分散剤等で分散し、その後、必要に応じて活性エネルギー線重合開始剤、レベリング剤等を添加して均一に撹拌することにより、混合物を得て、その後有機樹脂フィラーを添加して更にフィルターで濾過することによってインク組成物が得られる。
【0084】
<3.積層体>
上記の実施形態に係るインクセットの塗膜である加飾層が形成された積層体について説明する。この積層体は、少なくとも、基材と、加飾層と、が、積層された積層体である。
【0085】
このような積層体としては、例えば室内又は屋外に静置される各種基材の表面に意匠外観や表面の耐久性を付与する(化粧する)ためにインクセットの塗膜を積層する化粧板が挙げられる。各種基材の表面としては、建築物の室内の壁面、床面、天井面、或いは建築物の外壁、屋根の等の表面や、机、箪笥、食器棚等の家具の表面や扉、窓、扉枠、窓枠、敷居、鴨居、手摺、廻縁等の建具乃至造作部材の表面や、テレビジョン受像機、冷蔵庫、空調機等の家電製品、複写機等の事務用機器の表面や、自動車車両、鉄道車両、船舶、航空機等の乗物内装又は外装の表面などが挙げられる。
【0086】
また、積層体は、上記の化粧板の他にも、主に、文字、数字、図面や写真の画像を含む加飾層を各種基材上に備えるような雑誌、単行本、出版物等の書籍や、瓶、缶、包装材料等の各種容器や、広告、看板、チラシ、カタログ、見本帳、取扱説明書、ポスター等の商業用の印刷物や、帳票、通帳、伝票、事務用記入書式等のいわゆるビジネスフォームや、メニュー、献立、値札、商品ラベル等であってもよい。
【0087】
[基材]
基材は特に限定されず、吸収性基材、非吸収性基材のいずれでも使用することができる。具体的には、紙、樹脂、織布又は不織布(布帛)、金属、木材、皮革、非金属無機材等を材料として含有するフィルム、シート、又は板等の平坦物、或いは各種形状の立体物等の形態のものを使用することできる。
【0088】
紙としては、公知の各種用途に用いられる上質紙、中質紙、薄葉紙、チタン紙、クラフト紙、リンター紙、パーチメント紙、グラシン紙、硫酸紙等の紙、或いはコート紙、アート紙、キャスト紙、軽量コート紙、微塗工紙等の各種塗膜で被覆した塗工紙、或いはこれらの紙に硝子纖維や樹脂纖維を混抄した混抄紙、これらの紙にゴムラテックス、アクリル樹脂等の樹脂を含侵した樹脂含侵紙等を用いることができる。紙の坪量は、通常、20g/m以上200g/m以下程度のものを用いることができる。
【0089】
織布又は不織布(布帛)としては、例えば、綿、麻、絹等の天然纖維、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂等の合成樹脂、又は硝子、炭素等の無機材を含有する纖維を用いたものを用いることができる。
【0090】
樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体、オレフィン系熱可塑性エラストマー等のオレフィン系樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、メチルメタクリレート-ブチルメタクリレート共重合体等のアクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、エチレン-塩化ビニル共重合体、ポリ塩化ビニリデン等の塩化ビニル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、エチレングリコール-テレフタル酸-イソフタル酸共重合体、テレフタル酸-エチレングリコール-1,4シクロヘキサンジメタノール共重合体、各種ポリエステル系熱可塑性エラストマー等のポリエステル系樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)等のスチレン系樹脂、ポリイソプレン、天然ゴム、或いはエチレンプロピレンゴム(EPR)、クロロプレンゴム等の合成ゴム、ウレタン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂等を用いることができる。
【0091】
金属としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、錫、チタニウム又はこれら金属を含有する合金(例えば、真鍮、青銅、ジュラルミン、炭素鋼、ステンレス鋼)等を用いることができる。
【0092】
木材としては、例えば、杉、松、檜、樫、楢、欅、チーク、ラワン等の木材の単板、合板、集成材、パーティクルボード、中密度纖維板(MDF)等の纖維板等を用いることができる。
【0093】
非金属無機材料としては、花崗岩、石灰岩等の天然石材、セメント、珪酸カルシウム、石膏、硝子、陶磁器等のセラミックス等を用いることができる。
【0094】
以上列記した各種材料の基材は、平坦物、立体物のいずれの場合においても、必要に応じて、1種類の材料のみからなる単層体として構成することも、或いは2種以上の異なる材料同士の積層体として構成することもいずれでもよく、用途、要求性能、製品価格等の諸観点を勘案の上、適宜選択すればよい。積層体の例を挙げると、例えば、ポリ塩化ビニルシートとアクリル系樹脂シートとの積層体、アルミニウム板とアクリル系樹脂シートとの積層体、、鉄若しくはは鉄合金の板表面に塩化ビニル系樹脂、メラミン樹脂、又はポリエステル系樹脂の層を備える積層体、木材の立体物表面をウレタン系樹脂シートで被覆した積層体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体の立体物表面をポリカーボネート系樹脂シートで被覆した積層体、紙の表面を塩化ビニル系樹脂又はオレフィン系樹脂で被覆した積層体等である。
【0095】
平坦物基材の場合、厚さは、通常、20μm以上10000μm(1cm)以下程度のものを用いることができる。立体物の場合は、用途に応じて、各種立体形状のものを選択、適用できる。
【0096】
尚、本明細書において、平坦物としてフィルム、シート、板等の言葉を使用しているが、これらは、一般的な使い方として、平坦表面を有する物体のうち、厚さの厚い順に、板、シート、フィルムの順で使用されており、本明細書中でもそれに倣って使用している。但し、本明細書では、斯かる使い分けには、技術的な意味は無い為、これらの文言は、適宜置き換えて使用することができるし、適宜置き換えても各請求項及び本願明細書の文言は同様に解釈することができるものとする。
【0097】
また、上記で列挙した各種基材は、表現する意匠に合わせて適宜着色してもよい。着色としては、基材の少なくとも、加飾層形成側の表面に所望の色を着けることを指している。基材を着色する場合は、公知の手法により、基材自体に顔料、染料等の着色剤を添加及び/若しくは染色し、又は、基材表面に塗裝、全面ベタ印刷、蒸着、メッキ等の手法により着色層を積層する等の手法により行うことができる。
【0098】
積層体として、化粧板を得る場合においては、基材として、代表的な例としては、熱硬化性樹脂化粧板用記録基材として使用されているチタン紙を用いることができる。化粧板とは、建築物、家具、建具、造作部材等の各種被着体の表面、即ち使用時に外部に露出し人目に触れる側の面上に接着することにより、所望の意匠外観を付与する積層体である。所望の意匠外観としては、例えば、天然の木材板表面と同じ木目調の図柄の意匠性等である。
【0099】
基材としてチタン紙を用いる場合には、溶媒として水を主成分とする水性型のインク組成物を使用することが好ましい。水を主成分とするインク組成物であれば、液状の熱硬化性樹脂の未硬化組成物を加飾層が積層されたチタン紙に含侵する工程で、この基材中の紙纖維間に存在している空気が液状組成物により多く置換されることとなる。これにより、熱硬化性樹脂化粧板の成型時や成型後の加熱する工程において、纖維間における残留空気の熱膨張に起因して発生するスポット状の微小な膨れやへこみ(ブリスター)を効果的に抑制することができる。特に、この未硬化組成物が水を溶媒又は分散媒に含む場合には、ブリスターの発生をより効果的に抑制することができる。
【0100】
更に、水を主成分とするインク組成物は、化粧板用記録基材(化粧板用印刷基材)に対する浸透性が低いことから、インク組成物が基材裏面(基材の加飾層形成側とは反対側の面)側へ浸透することが抑制され、より効果的に裏抜けを抑制することができる。
【0101】
尚、ここで、熱硬化性樹脂化粧板に用いられる熱硬化性樹脂としては、メラミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタンン樹脂等を挙げることができる。
【0102】
なお、積層体の一例として化粧板を説明したが、上記の実施形態に係るインクセットは化粧板の加飾層を形成する用途に限定されるものではない。
【0103】
[加飾層]
加飾層とは、上記のインクセットに含有されるマゼンタ又はイエローインク含まれる少なくとも1つのインク組成物から水や有機溶剤を揮発させるか又は活性エネルギー線重合性化合物が重合することにより形成されたインクセットの塗膜からなる層である。
【0104】
加飾層は、その平面視形状、即ち該積層体をその厚み方向(加飾層の法線方向でもある)から観察した形状が所望の意匠外観を与える。斯かる意匠外観としては、例えば、杉、松、欅等の天然の木材板表面の図柄、即ち木目模様、花崗岩、大理石等の天然の石材面の図柄、即ち、石目模樣、各種纖維の糸からと織られ或いは編まれ、必要に応じて、各種の色や模樣上に染色したり、刺繍された織布の表面の図柄、即ち、布目模樣、天然皮革の表面の図柄、即ち、革シボ(革絞)模樣、花柄模様、水玉模様、市松模樣、縞模樣、雷紋模樣、唐草模様、各種幾何学模様のような所謂抽象模樣柄を挙げることができる。
【0105】
上記の色相距離Dと、色相角Hと、が特定されたインクセットを用いることにより、加飾層の色表現性が広いものとなる。また、マゼンダインク又はイエローインクの2種類のインク組成物により色表現性が広くなることから、彩度の低下を抑制することができる。
【0106】
また、この積層体が化粧板である場合、長時間室内又は屋外に静置されることがあることから加飾層に耐候性が要求されることがある。この積層体が化粧板である場合には、加飾層に耐候性を付与する観点から加飾層を形成するインクセットのマゼンダインク、イエローインクは、マゼンダ系色材としてC.I.ピグメントバイオレット19を用いて、イエローインクに含有されるイエロー系色材としてC.I.ピグメントイエロー110を用いることが特に好ましい。
【0107】
加飾層の層厚(乾燥状態)は、特に限定されるものではないが、例えば0.5μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましい。尚、加飾層の層厚の上限は特に制限はないが、生産性の観点から、例えば100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましい。
【0108】
加飾層には、着色顔料、着色染料、光安定化剤、紫外線吸収剤、ラジカル捕捉剤等が含有されていてもよい。着色顔料は、有機顔料又は無機顔料を挙げることができるが、加飾層における耐候性の観点から無機顔料を含有してもよい。
【0109】
[表面保護層]
この積層体においては、必要に応じて加飾層の表面上に、更に、透明な表面保護層を積層してもよい。表面保護層は、樹脂層の積層、塗膜の塗工、又は樹脂層の積層と塗膜の塗工の併用により形成することができる。いずれの場合に於いても、表面保護層は、該層を透視して加飾層を視認可能な程度の透明性を有するものであればよく、無色透明、着色透明のいずれであってもよい。
【0110】
表面保護層に用いる樹脂層としては、基材の例示に於いて、先に例示した樹脂の中から適宜選択することができる。
【0111】
塗膜の塗工の場合には、例えば、熱硬化型ウレタン樹脂、熱硬化型ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂等の公知の熱硬化型樹脂(1液硬化型又は2液硬化型のもの)、紫外線、電子線等の電離放射線の照射により架橋乃至重合するアクリル酸エステル系、エポキシ系、不飽和ポリエステル系等の公知の電離放射線硬化型樹脂等の中から適宜選択することができる。塗膜の厚さは、通常、1μm以上100μm以下程度(硬化後の膜厚)とすることができる。
【0112】
また、上記の基材や加飾層と組み合わせて必要に応じて更に、加飾層上への塗工、他の基材との積層、エンボス加工等による賦形、樹脂含侵、加熱処理、加圧処理、所望の形状及び寸法への裁断乃至切り抜き、粘着剤乃至接着剤層の形成等の加工や処理を施した上で、各種用途に用いることもできる。用途としては、上述した化粧板等の各種積層体を挙げることができる。
【0113】
<4.記録方法>
【0114】
上記のインクセットに含有されるインク組成物を基材の表面に転移する記録方法は、インクジェット方式、オフセット方式、グラビア方式、スプレー方式、又は刷毛塗り方式等を挙げることができる。小ロット多品種に対応できる点でインクジェット方式にて転移(吐出)する記録方法であることが好ましい。なお、本明細書中の「基材上」とは、基材の表面に直接形成する態様及び基材の表面にプライマー層等の他の層を介して形成する態様の双方を含む。
【0115】
インクジェット方式にて吐出する記録方法は、特に限定されるものではないが、ピエゾ方式、サーマル方式、静電方式等の従来公知の方式を挙げることができる。記録装置が備えるインクジェットヘッドは特に限定されず、シリアルヘッドであってもラインヘッド型であってもよい。
【0116】
<5.積層体(印刷物)の製造方法>
本実施形態のインク組成物を用いて積層体(印刷物)を製造することができる。例えば上記に記載したインクジェット方式にて基材の表面に吐出する工程を含む積層体(印刷物)の製造方法を挙げることができる。
【実施例
【0117】
以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【0118】
<インク組成物の作製>
各材料(顔料(3質量部又は8質量部)、樹脂(分散剤(0.5質量部又は1.5質量部)、バインダー樹脂(5質量部))、1,3-ペンタンジオール(35質量部)、Dynol 604(0.5質量部)、水(インク組成物合計で100質量部となるように56質量部又は50質量部))を混合し、室温(20~25℃)にて1時間撹拌した。その後、溶け残りがないことを確認した。その後、メンブレンフィルターを用いて濾過を行い、イエローインク、及びマゼンダインクを作製した。
【0119】
<単独の知覚色度指数の測定>
上記により作製したイエローインク、及びマゼンダインクについて、知覚色度指数を測定した。具体的には、イエローインク、及びマゼンダインクをインクジェット方式(600×600dpi、12pl、インク組成物100%の記録パターン(印刷パターン))により基材(写真仕上光沢プレミアム FUJIFILM社製)に吐出することにより塗膜(装飾層)を形成し、その塗膜(装飾層)についてD50光源、2°視野角の条件でX-Rite eXact(エックスライト社製)を用いて測定した。測定結果を表1に示す。
【0120】
<耐候性試験>
上記により作製した印刷物(積層体)について耐候性試験を行った。具体的には、JIS K 7350-2に準拠した試験を行い、キセノンアークウェザオメーターに500h暴露後の外観変化によって評価した。評価結果を表1に示す。
【0121】
具体的には、耐候性試験前と耐候験後の硬化膜を、上記の知覚色度指数の測定と同様の方法でL値を測定した。試験前後のLの差をΔL、試験前後のaの差をΔa、試験前後のbの差をΔb、とした時、ΔE=〔(ΔL)2+(Δa)2+(Δb)2〕1/2により算出されるΔEにより評価をした。
【0122】
(評価基準)
○:500h暴露後のΔEが5未満
△:500h暴露後のΔEが5以上10未満
×:500h暴露後のΔEが10以上
【0123】
【表1】
【0124】
表1中、「PY110」とは、C.I.ピグメントイエロー 110を意味する。
【0125】
表1中、「PY83」とは、C.I.ピグメントイエロー 83を意味する。
【0126】
表1中、「PY155」とは、C.I.ピグメントイエロー 155を意味する。
【0127】
表1中、「PY138」とは、C.I.ピグメントイエロー 138を意味する。
【0128】
表1中、「PV19」とは、C.I.ピグメントバイオレット 19を意味する。
【0129】
表1中、「PR122」とは、C.I.ピグメントレッド 122を意味する。
【0130】
表1中、「PR177」とは、C.I.ピグメントレッド 177を意味する。
【0131】
表1から、イエローインク1-1、1-2、2-1、2-2により作製された塗膜の色相距離Dが105以上、色相角Hが70°以上85°以下であって、マゼンダインク1-1、1-2、2-1、2-2により作製された塗膜の色相距離Dが73以上、色相角Hが-20°以上25°以下であることが分かる。
【0132】
<混合の知覚色度指数の測定>
上記で作製した各イエローインク及びマゼンダインク及びシアンインク(C.I.ピグメントブルー15:3 顔料濃度4.5%のシアンインク)を用いて混色の塗膜を作製し、同様に知覚色度指数を測定した。
【0133】
具体的には、基材上に、(1)イエローインク:マゼンダインク=1:1、(2)イエローインク:シアンインク=1:1、(3)マゼンダインク:シアンインク=1:1の3種の塗膜を作成し、知覚色度指数a及びbを求めた。そして、イエロー、マゼンタ、シアンと上記混色3点の計6点のa及びbをCIELAB空間上で結び、0≦a、0≦bの範囲での面積を求めた。測定結果を表2に示す。なお、この面積が広いほど0≦a、0≦bの範囲での色表現性の広いインクセットであることを意味する。
【0134】
更に、上記により作製した印刷物(積層体)について上記同様に、耐候性試験を行った。評価結果を表2に示す。
【0135】
【表2】
【0136】
表2より、塗膜の色相距離D及び色相角Hが所定範囲のイエローインク1-1、1-2、2-1、2-2、マゼンダインク1-1、1-2、2-1、2-2を含有する実施例1~8のインクセットを用いて作製された3種の塗膜から求めた0≦a、0≦bの範囲での面積は、比較例1~10のインクセットと比べて広くなっていることが分かる。これにより、本発明のインクセットは、特に0≦a、0≦bの範囲で色表現性が広いことが確認された。